(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】PC鋼材の緊張力調整治具およびPC鋼材の緊張力調整方法
(51)【国際特許分類】
E04G 21/12 20060101AFI20240104BHJP
E01D 19/16 20060101ALI20240104BHJP
E01D 21/00 20060101ALI20240104BHJP
E01D 1/00 20060101ALI20240104BHJP
E01D 22/00 20060101ALN20240104BHJP
【FI】
E04G21/12 104F
E04G21/12 104B
E01D19/16
E01D21/00 Z
E01D1/00 G
E01D1/00 D
E01D22/00 B
(21)【出願番号】P 2019203967
(22)【出願日】2019-11-11
【審査請求日】2022-07-26
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000192626
【氏名又は名称】神鋼鋼線工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】514250078
【氏名又は名称】中日本高速技術マーケティング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】安田岡本弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小林 亮介
(72)【発明者】
【氏名】細居 清剛
(72)【発明者】
【氏名】荒木 茂
(72)【発明者】
【氏名】野田 一成
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 実
(72)【発明者】
【氏名】堀井 智紀
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 紳一郎
(72)【発明者】
【氏名】稲熊 唯史
【審査官】菅原 奈津子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-290167(JP,A)
【文献】特開2014-148870(JP,A)
【文献】特開2001-152608(JP,A)
【文献】特開2004-044228(JP,A)
【文献】特開2010-203132(JP,A)
【文献】特開昭62-117940(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/12
E01D 1/00
E01D 19/16
E01D 21/00
E01D 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレストレストPC構造物に圧縮力を付与しているPC鋼材の緊張力調整治具であって、
前記PC鋼材は、前記プレストレストPC構造物を貫通するように埋設された鋼管内に挿通され、コンクリートで埋設されていない、外ケーブル方式として採用され、
前記PC鋼材の長手方向に垂直な面から見て2以上のウェッジ片に分割されたウェッジと、
略中空円筒形状であって、内周面に前記ウェッジに組み合わせられるテーパー孔を備え、外周面に雄ねじが設けられたスリーブと、
略円環形状であって、内周面に前記スリーブが備える雄ねじと螺合する雌ねじが設けられたリングナットと、
前記テーパー孔が広がる方向の端部において前記スリーブに接合されるとともに、前記長手方向における前記スリーブとは反対側で油圧ジャッキに接続される接続用緊張材と接される接続用カプラと、を含み、
前記緊張力調整治具は、前記プレストレストPC構造物の端面において、前記PC鋼材が歯合された前記ウェッジの外周面のテーパー面が前記スリーブのテーパー孔に摩擦嵌合され、前記端面のアンカープレートに前記リングナット端面が当接されてセット量が補正された前記PC鋼材の緊張力を調整する治具であって、前記端面から前記プレストレストPC構造物の外部へ露出した前記スリーブに前記接続用カプラを接続して、前記PC鋼材の緊張力を調整し、
前記スリーブの外径、前記接続用カプラの外径および前記接続用緊張材の外径は前記スリーブの外径が最も大きく、かつ、前記スリーブの外径は前記鋼管の内径よりも小さく、前記スリーブを含む前記緊張力調整治具が前記鋼管の中で移動することができる、緊張力調整治具。
【請求項2】
プレストレストPC構造物に圧縮力を付与しているPC鋼材についてリングナットおよび支圧板を用いて緊張力を調整する緊張力調整方法であって、
請求項
1に記載の緊張力調整治具を介して
油圧ジャッキに前記PC鋼材の端部
が連結することができるよう
に準備する準備ステップと、
前記支圧板に反力架台を当接させて前記反力架台に油圧ジャッキをセットし
て、前記PC鋼材の端部を前記緊張力調整治具を介して前記反力架台を経由して前記油圧ジャッキに連結するセットステップと、
前記油圧ジャッキを用いて、前記緊張力調整治具が前記鋼管の中で移動することを許容して、前記支圧板から前記リングナットが予め定められた距離だけ離隔するまで、前記PC鋼材の緊張力を増加させる緊張力増加ステップと、
前記支圧板から離隔した前記リングナットを緩めるリング緩めステップと、
前記油圧ジャッキを用いて、前記緊張力調整治具が前記鋼管の中で移動することを許容して、予め定められた緊張力まで、前記PC鋼材の緊張力を減少させる緊張力低下ステップと、
予め定められた緊張力まで前記PC鋼材の緊張力が減少すると、前記リングナットが前記支圧板に当接するまで前記リングナットを締め付けるリング締め付けステップと、
前記油圧ジャッキによる緊張力を開放して、前記反力架台と前記油圧ジャッキとを取り外す取り外しステップと、を含む、緊張力調整方法。
【請求項3】
プレストレストPC構造物に圧縮力を付与しているPC鋼材についてリングナットおよび支圧板を用いて緊張力を調整する緊張力調整方法であって、
請求項
1に記載の緊張力調整治具を介して油圧ジャッキに前記PC鋼材の端部が連結することができるように準備する準備ステップと、
前記支圧板に反力架台を当接させて前記反力架台に油圧ジャッキをセットして、前記PC鋼材の端部を前記緊張力調整治具を介して前記反力架台を経由して前記油圧ジャッキに連結するセットステップと、
前記油圧ジャッキを用いて、前記緊張力調整治具が前記鋼管の中で移動することを許容して、予め定められた緊張力まで前記PC鋼材の緊張力を増加させる緊張力増加ステップと、
予め定められた緊張力まで前記PC鋼材の緊張力が増加して前記支圧板から前記リングナットが離隔すると、前記リングナットが前記支圧板に当接するまで前記リングナットを締め付けるリング締め付けステップと、
前記油圧ジャッキによる緊張力を開放して、前記反力架台と前記油圧ジャッキとを取り外す取り外しステップと、を含む、緊張力調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレストレスをコンクリート躯体に導入する新設PC構造物またはプレストレスがコンクリート躯体に既に導入された既設PC構造物において、PC鋼材に付与されている緊張力を調整(以下においては緊張力を0に調整することにより緊張力を開放することを含む)することのできる技術に関し、特に、余長がなくても好ましくPC鋼材に付与される緊張力を調整することのできる技術に関する。なお、本発明において、PC鋼材には、PC鋼線およびPC鋼より線を含む。また、本発明は、プレストレストコンクリート構造物のうち、特にコンクリートに埋設されない(補強用)外ケーブルを用いた外ケーブル方式に適用されることが好ましいためにそのような実施の形態について説明するが、本発明がこのような外ケーブルに限定されて適用されるものではない。
【背景技術】
【0002】
PC鋼線またはPC鋼より線から構成されるPC鋼材(PCケーブル)を定着する最も一般的なPC定着システムは、コンクリート内に埋め込まれたキャスティングブロックとアンカーヘッドとから構成されている。PC鋼線またはPC鋼より線は、緊張後、それぞれくさびによりアンカーヘッドに固定され、キャスティングブロックに設けられたグラウト孔より、キャスティングブロックおよびシース内にグラウトを充填して定着を完了する。
【0003】
このような定着作業におけるくさび定着(ウェッジ(くさび)とテーパー孔を備えたスリーブとからなる定着具(定着グリップ)を用いてウェッジ内周でPC鋼線を噛み込ませ、ウェッジ外周とスリーブのテーパー孔とで固定して定着)では、ウェッジは緊張時にはスリーブの外側に突出しているが、定着時にジャッキの引張荷重を解放(除荷)すると、PC鋼より線の戻り(緩み)によりウェッジがスリーブ内にめり込んでセット量が発生し、その分だけプレストレスの減少(セットロス)が発生する。このセットロスは、PC鋼より線の長さ(部材長)が短ければ短いほど影響が大きく、設計プレストレスに対する割合も大きく、設計プレストレスの導入が困難となる場合もある。このため、このセット量を補正する作業が必要となる。この補正作業の方式として、本願出願人を含み特許出願されて特許第6131292号公報(特許文献1)として登録公報が発行された以下の技術が公知である。
【0004】
この特許文献1に開示されたセット量補正治具は、緊張・定着作業においてセット量が発生したPC構造物において、重量の大きい油圧ジャッキを繰返し脱着する労力を軽減しつつ、狭小位置において容易な作業で作業工数を削減してセット量を補正することのできることを目的として、以下の構成を備える。このセット量補正治具は、PC鋼材を1次緊張してPC構造物に圧縮力を付与するために使用されるとともに前記PC鋼材のセット量をリングナットにより補正する2次緊張のために使用される油圧ジャッキの先端に取り付けられる、本体部と固定リングと可動リングとを含むPC鋼材のセット量補正治具であって、前記本体部は、前記PC鋼材を通す中心穴を備えた略中空円筒形状であって、支圧板側にリングナットを備えた定着具と前記PC鋼材の軸芯を対称中心とした形状の固定リングおよび可動リングとを収納して、反支圧板側に前記油圧ジャッキが取り付けられ、前記固定リングは、前記本体部の中空円筒内面に前記軸芯周りに回転不可能に設けられ、前記軸芯を中心とした所定の中心角の部分に軸心方向に同じ厚みの複数の固定支圧部を備え、前記可動リングは、前記本体部の中空円筒内面に前記軸芯周りに回転可能に設けられ、前記軸芯を中心とした所定の中心角の部分に軸心方向に同じ厚みの複数の可動支圧部を備え、前記可動リングは、前記固定支圧部と前記可動支圧部とが重なり合う1次緊張状態から前記可動リングを前記軸芯周りに回転させることにより前記固定支圧部と前記可動支圧部とが重なり合わない2次緊張状態へ遷移させるための回転棒を装着する穴部をリング外周面に備え、前記本体部は、前記穴部に装着した回転棒を前記軸芯周りに回転させる部分の外周面が切り欠かれていることを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この特許文献1に開示されたセット量補正治具は、重量の大きい油圧ジャッキを繰返し脱着する労力を軽減しつつ、狭小位置において容易な作業で作業工数を削減してセット量を補正することのできる点で非常に効果が高く好評を得ている。
ところで、PC構造物に圧縮力を付与するためのPC鋼材の緊張力には、PC構造物の種類およびPC鋼材の種類等により様々な大きさ(緊張荷重値)が存在することはいうまでもない。特に、小さな緊張力をPC鋼材に付与する場合、正確に緊張力をPC鋼材に付与する場合には、以下の課題が発生する。
【0007】
<課題1>低緊張力では十分な定着性能が発揮できない
くさび式定着具において、施工時に導入する緊張力が小さい場合にはくさび歯形の食い込みが浅いため、衝撃的な力に対して十分な定着性能を発揮できない可能性がある。
これに対して、低緊張力におけるくさび歯型の食い込みを深くするために、通常の張力(>低緊張力)で緊張した後に低緊張力にするために緊張材の伸び量を戻すためにくさびを外して伸び量を戻してしまうと、新たな位置において低張力で定着するために、結局はくさび歯型の食い込みが浅くなる。
【0008】
<課題2>張力の微調整が困難である
緊張材を緊張機器により所定の引張力で引き込んでも,その緊張力をくさび式定着具に移行する過程で発生するくさびの食い込み量(セットロス)により緊張力が低減し、かつ、その食い込み量は緊張力、緊張材・定着具個体でもわずかに異なるために所定の引張力に調整することが難しい。
【0009】
<課題3>供用時でも緊張材の余長を残す必要がある
緊張材に導入された緊張力を開放(開放とは緊張力を0に調整することであるため緊張力の開放とは緊張力の調整に含まれるものである)するためには緊張材の余長を残す必要があり、供用時に定着部分が長くなる。また、くさび式定着具で緊張力を開放するためにはくさびを外すためにさらに緊張して伸ばす必要があるが、導入済みの緊張力が大きい場合はくさびを動かすだけの伸び量を確保できないために緊張力の開放ができない。
【0010】
さらに、限定されるものではないが、上記<課題1>に関連して、プレストレストコンクリート構造の中でコンクリートに埋設されない(後付けの)外ケーブルを用いた外ケーブル方式と呼ばれる技術がある。この外ケーブル方式とは、防錆処理を施した緊張材(PC鋼材)をPC構造物の外部に配置して、定着部(スリーブ、ウェッジ、アンカープレートからなる定着具により外ケーブルを緊張・固定する)および偏向部(PC構造物に取り付けられた偏向具により外ケーブルの位置の保持するとともに偏向させる)によりプレストレス力を付与する構造の総称である。このような、PC構造物であるPC橋梁(所定のプレストレス力が付与)にこの外ケーブル方式を採用して外ケーブルに低緊張力を付与しておいて、PC構造物自体が変形したときに、この外ケーブルの緊張力が自然に高まり、PC構造物にプレストレス力を付与してPC構造物を補強するためのケーブルとして機能する。このような外ケーブルはPC構造物の施工時には低緊張力で定着するために、上述した<課題1>が発生する。
【0011】
本発明は、従来技術の上述の問題点(課題)に鑑みて開発されたものであり、その目的とするところは、プレストレスをコンクリート躯体に導入する新設PC構造物またはプレストレスがコンクリート躯体に既に導入された既設PC構造物において、PC鋼材に付与されている緊張力を(0に開放することを含めて増加させることも減少させることも含めて)調整することのできる調整方法、および、この調整方法を実行するにあたり供用時にはPC鋼材の余長が(油圧ジャッキに連結するほどに長さが残ってい)ない場合であっても好ましくPC鋼材に付与される緊張力を調整することの調整治具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明に係るPC鋼材の緊張力調整治具およびPC鋼材の緊張力調整方法は以下の技術的手段を講じている。
すなわち、本発明に係るPC鋼材の緊張力調整治具は、プレストレストPC構造物に圧縮力を付与しているPC鋼材の緊張力調整治具であって、前記PC鋼材の長手方向に垂直な面から見て2以上のウェッジ片に分割されたウェッジと、略中空円筒形状であって、内周面に前記ウェッジに組み合わせられるテーパー孔を備え、外周面に雄ねじが設けられたスリーブと、略円環形状であって、内周面に前記スリーブが備える雄ねじと螺合する雌ねじが設けられたリングナットと、前記テーパー孔が広がる方向の端部において前記スリーブに接合されるとともに、前記長手方向における前記スリーブとは反対側で油圧ジャッキに接続される接続用緊張材と接合される接続用カプラと、を含む。
【0013】
好ましくは、前記スリーブは、前記テーパー孔が広がる方向の端部の内周面に雌ねじを備え、前記接続用カプラは、略中空円筒形状を備え、前記外周面に前記スリーブが備える雌ねじと螺合する雄ねじを備え、前記スリーブが備える雌ねじと前記接続用カプラが備える雄ねじとが螺合することにより前記スリーブと前記接続用カプラとが接合されるように構成することができる。
【0014】
さらに好ましくは、前記接続用緊張材は、前記長手方向における前記油圧ジャッキとは反対側の端部に雄ねじを備え、前記接続用カプラは、略中空円筒形状を備え、前記内周面に前記接続用緊張材が備える雄ねじと螺合する雌ねじを備え、前記接続用緊張材が備える雄ねじと前記接続用カプラが備える雌ねじとが螺合することにより前記接続用緊張材と前記接続用カプラとが接合されるように構成することができる。
【0015】
さらに好ましくは、前記接続用カプラは、前記接続用緊張材と一体化されているように構成することができる。
また、本発明に係るPC鋼材の緊張力調整方法(緊張力減少)は、PC鋼材の余長の有無に応じて(施工時には余長部を切断するまでは余長があるがその後の施工時および供用時は余長がない)上述したPC鋼材の緊張力調整治具を用いた緊張力調整方法である。より詳しくは、本発明に係るPC鋼材の緊張力調整方法(緊張力減少)は、プレストレストPC構造物に圧縮力を付与しているPC鋼材についてリングナットおよび支圧板を用いて緊張力を調整する緊張力調整方法であって、前記PC鋼材の余長が存在する場合には油圧ジャッキに前記PC鋼材の端部が連結することができるように、前記PC鋼材の余長が存在しない場合には上述したいずれかの緊張力調整治具を介して前記PC鋼材の端部が油圧ジャッキに連結することができるように、準備する準備ステップと、前記支圧板に反力架台を当接させて前記反力架台に油圧ジャッキをセットして、前記PC鋼材の余長が存在する場合には前記PC鋼材の端部を前記反力架台を経由して前記油圧ジャッキに連結して、前記PC鋼材の余長が存在しない場合には前記PC鋼材の端部を前記緊張力調整治具を介して前記反力架台を経由して前記油圧ジャッキに連結するセットステップと、前記油圧ジャッキを用いて、前記支圧板から前記リングナットが予め定められた距離だけ離隔するまで、前記PC鋼材の緊張力を増加させる緊張力増加ステップと、前記支圧板から離隔した前記リングナットを緩めるリング緩めステップと、前記油圧ジャッキを用いて、予め定められた緊張力まで、前記PC鋼材の緊張力を減少させる緊張力低下ステップと、予め定められた緊張力まで前記PC鋼材の緊張力が減少すると、前記リングナットが前記支圧板に当接するまで前記リングナットを締め付けるリング締め付けステップと、前記油圧ジャッキによる緊張力を開放して、前記反力架台と前記油圧ジャッキとを取り外す取り外しステップと、を含む。
【0016】
また、本発明に係るPC鋼材の緊張力調整方法(緊張力増加)は、PC鋼材の余長がない場合に上述したPC鋼材の緊張力調整治具を用いた緊張力調整方法である。より詳しくは、本発明に係るPC鋼材の緊張力調整方法(緊張力増加)は、プレストレストPC構造物に圧縮力を付与しているPC鋼材についてリングナットおよび支圧板を用いて緊張力を調整する緊張力調整方法であって、上述したいずれかの緊張力調整治具を介して油圧ジャッキに前記PC鋼材の端部が連結することができるように準備する準備ステップと、前記支圧板に反力架台を当接させて前記反力架台に油圧ジャッキをセットして、前記PC鋼材の端部を前記緊張力調整治具を介して前記反力架台を経由して前記油圧ジャッキに連結するセットステップと、前記油圧ジャッキを用いて、予め定められた緊張力まで前記PC鋼材の緊張力を増加させる緊張力増加ステップと、予め定められた緊張力まで前記PC鋼材の緊張力が増加して前記支圧板から前記リングナットが離隔すると、前記リングナットが前記支圧板に当接するまで前記リングナットを締め付けるリング締め付けステップと、前記油圧ジャッキによる緊張力を開放して、前記反力架台と前記油圧ジャッキとを取り外す取り外しステップと、を含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るPC鋼材の緊張力調整治具およびPC鋼材の緊張力調整方法によれば、プレストレスをコンクリート躯体に導入する新設PC構造物またはプレストレスがコンクリート躯体に既に導入された既設PC構造物において、PC鋼材に付与されている緊張力を(0に開放することを含めて増加させることも減少させることも含めて)調整することのできる調整方法、および、この調整方法を実行するにあたり供用時にはPC鋼材の余長が(油圧ジャッキに連結するほどに長さが残ってい)ない場合であっても好ましくPC鋼材に付与される緊張力を調整することの調整治具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施の形態に係るPC鋼材の緊張力調整治具1000を用いた緊張量調整方法が好ましく適用されるプレストレストPC橋100の補強例を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係るPC鋼材の緊張力調整治具1000についての(A)全体側面図(組立図)、(B)全体側面図(分解図)である。
【
図3】本発明の実施の形態に係るPC鋼材の緊張力調整治具1000を構成するスリーブ1100の六面図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係るPC鋼材の緊張力調整治具1000を構成するウェッジ(くさび)1200の六面図である。
【
図5】本発明の実施の形態に係るPC鋼材の緊張力調整治具1000を構成するリングナット1300の六面図である。
【
図6】本発明の実施の形態に係るPC鋼材の緊張力調整治具1000を構成するウェッジ押さえ1400の六面図である。
【
図7】本発明の実施の形態に係るPC鋼材の緊張力調整治具1000を構成する接続用カプラ1500の六面図である。
【
図8】本発明の実施の形態に係るPC鋼材の緊張力調整治具1000を構成する接続用緊張材1600の二面図である。
【
図9】本発明の第1の実施の形態に係るPC鋼材の緊張量調整方法の手順11および手順12を説明するための側面図である。
【
図10】本発明の第1の実施の形態に係るPC鋼材の緊張量調整方法の手順13および手順14を説明するための側面図である。
【
図11】本発明の第1の実施の形態に係るPC鋼材の緊張量調整方法の手順15および手順16を説明するための側面図である。
【
図12】本発明の第1の実施の形態に係るPC鋼材の緊張量調整方法の手順17および手順18を説明するための側面図である。
【
図13】本発明の第2の実施の形態に係るPC鋼材の緊張量調整方法の手順21および手順22を説明するための側面図である。
【
図14】本発明の第2の実施の形態に係るPC鋼材の緊張量調整方法の手順23および手順24を説明するための側面図である。
【
図15】本発明の第2の実施の形態に係るPC鋼材の緊張量調整方法の手順25および手順26を説明するための側面図である。
【
図16】本発明の第2の実施の形態に係るPC鋼材の緊張量調整方法の手順27および手順28を説明するための側面図である。
【
図17】本発明の第3の実施の形態に係るPC鋼材の緊張量調整方法の手順31および手順32を説明するための側面図である。
【
図18】本発明の第3の実施の形態に係るPC鋼材の緊張量調整方法の手順33および手順34を説明するための側面図である。
【
図19】本発明の第3の実施の形態に係るPC鋼材の緊張量調整方法の手順35および手順36を説明するための側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態に係るPC鋼材の緊張量調整治具(以下、単に緊張量調整治具または調整治具と記載する場合がある)およびこの調整治具を用いた本発明の実施の形態に係るPC鋼材の緊張量調整方法(以下、単に緊張量調整方法または調整方法と記載する場合がある)を、図面に基づき詳しく説明する。ここで、全ての図面について、断面図でない部位に断面が示されている場合、断面図である部位に外観が示されている場合、断面図を示す部位が図面間で一致していない場合、手前の部材が描かれておらず透視しているように奥側の部材が示されている場合等を含むことがあるが、これらは本発明の実施の形態に係る調整治具および調整方法を容易に理解して本発明の十分な理解に繋げるためであって、基本的にはハッチングを伴わない断面図または透視図で本発明に係る部材を示している。また、本発明とは特段に関係しない、防錆のためのキャップ、パッキン、シーリング、被覆材等については図示していないものがある。
【0020】
なお、本発明に係るPC鋼材の緊張力調整方法は、プレストレスをコンクリート躯体に導入する施工時の新設PC構造物のPC鋼材の緊張力を調整する場合にも、プレストレスをコンクリート躯体に導入して供用時の既設PC構造物のPC鋼材の緊張力を調整する場合にも、好適に適用することができる。ただし、緊張力調整対象は、PC鋼材を1次緊張した後のセット量の補正のためのリングナット(セット量補正はリングナット方式)を備えることが必要である。すなわち、特許文献1(特許第6131292号公報)に開示されたセット量補正治具を必ずしも用いる必要はないもののリングナットは必要不可欠である。通常は、特許文献1(特許第6131292号公報)に開示されたセット量補正治具を用いて、緊張力調整対象のPC鋼材は、1次緊張した後にリングナットを支圧板に当接させて2次緊張してPC鋼材のセット量が補正されている。ここで、後述する緊張力調整方法によりセット量の補正も可能であるために、リングナット(および支圧板)は必要不可欠であるが、2次緊張は必要不可欠ではない。
【0021】
また、本発明におけるPC鋼材は、複数の鋼線から構成されるPC鋼線またはPC鋼より線であればよく、複数の鋼線の1本は、さらに細い複数の鋼線から構成されるより線であっても単一の鋼線であっても構わない。
さらに、以下においては、おねじ、オネジ、雄ねじ、雄ネジ、外ねじ、外ネジを区別しないで記載するとともに、めねじ、メネジ、雌ねじ、雌ネジ、内ねじ、内ネジを区別しないで記載することがある。
【0022】
[適用事例の一例]
発明が解決しようとする課題でも説明したように、本発明の適用が限定されるものではないが、本発明に係る緊張力調整治具および緊張力調整方法は、プレストレストコンクリート構造の中でコンクリートに埋設されない(後付けの)外ケーブルを用いた外ケーブル方式に好ましく適用される。このため、
図1を参照して、プレストレストPC橋100の補強例をこの外ケーブル方式により施工する事例について説明する。
図1(A)は補強対象のプレストレストPC橋100および外ケーブルである緊張材(PC鋼材300)を含む外ケーブル方式による補強方式を示す側面図、
図1(B)はその正面図、
図1(C)は
図1(A)における1C部分の拡大側面図である。
【0023】
これらの図に示すように、プレストレストPC橋100の補強する外ケーブル方式は、防錆処理を施した外ケーブルである緊張材(PC鋼材300)をPC構造物(プレストレストPC橋100)の外部に配置して、定着部200(スリーブ1100、ウェッジ1200、アンカープレート520からなり外ケーブル(PC鋼材300)を緊張・固定する)および偏向部400(プレストレストPC橋100に取り付けられ外ケーブルの位置を保持するとともに偏向させる)によりプレストレス力を付与する。このような、PC構造物であるプレストレストPC橋100(所定のプレストレス力が付与)にこの外ケーブル方式を採用して外ケーブルに低緊張力を付与しておいて、PC構造物であるプレストレストPC橋100自体が変形したときに(たとえば下側に撓んだときに)、この外ケーブルの緊張力が自然に高まり、PC構造物であるプレストレストPC橋100にプレストレス力を付与して補強する。このような外ケーブルはPC構造物であるプレストレストPC橋100の施工時には低緊張力で定着しておいて、供用開始後にプレストレストPC橋100自体が変形したときに(たとえば下側に撓んだときに)緊張材(PC鋼材300)が(施工時には低緊張力で定着されているために緊張力に余裕があるために)破断することなく、引張強度等の規格内の所定の緊張力が付与されることによりプレストレストPC橋100を補強する。
【0024】
なお、
図1(C)においては、外ケーブルである緊張材(PC鋼材300)の端部には様々な防錆処理部材が実際には取付けられているが、本発明に係るPC鋼材の緊張力調整方法として後述する第1の実施を説明するための
図9~
図12、第2の実施を説明するための
図13~
図16、および、第3の実施を説明するための
図17~
図19においては、このような防錆処理部材が取り付けられる前の状態からの緊張力調整方法、または、取り外されている状態からの緊張力調整方法を説明する。
【0025】
[緊張力調整治具(専用品)]
本実施の形態に係る緊張力調整方法を説明する前に、この緊張力調整方法に使用される緊張力調整治具1000であって、この緊張力調整方法に合致させた特殊な構造を備えた緊張力調整治具1000について説明する。
図2(A)にこの緊張力調整治具1000についての全体側面図(組立図)を
図2(B)に全体側面図(分解図)をそれぞれ示す。さらに、
図3にこの緊張力調整治具1000を構成するスリーブ1100の六面図を、
図4にこの緊張力調整治具1000を構成するウェッジ(くさび)1200の六面図を、
図5にこの緊張力調整治具1000を構成するリングナット1300の六面図を、
図6にこの緊張力調整治具1000を構成するウェッジ押さえ1400の六面図を、
図7にこの緊張力調整治具1000を構成する接続用カプラ1500の六面図を、
図8にこの緊張力調整治具1000を構成する接続用緊張材1600の二面図を、それぞれ示す。
【0026】
これらの
図2~
図8に示すように、この緊張力調整治具1000は、プレストレストPC構造物に圧縮力を付与しているPC鋼材の緊張力を調整する治具である。調整には緊張力を完全に0にして開放することを含む。この緊張力調整治具1000は、PC鋼材300の長手方向に垂直な面から見て2以上(ここでは2)のウェッジ片1210に分割されたウェッジ1200と、略中空円筒形状であって、内周面にウェッジ1200に組み合わせられるテーパー孔1120を備え、外周面に雄ねじ1130が設けられたスリーブ1100と、略円環形状であって、内周面にスリーブ1100が備える雄ねじ1130と螺合する雌ねじ1320が設けられたリングナット1300と、テーパー孔1120が広がる方向の端部においてスリーブ1100に接合されるとともに、長手方向におけるスリーブ1100とは反対側で油圧ジャッキ700(
図9参照)に接続される接続用緊張材1600と接合される接続用カプラ1500とを含む。
【0027】
さらに詳しくは、スリーブ1100は、テーパー孔1120が広がる方向の端部の内周面に雌ねじ1140を備え、接続用カプラ1500は、略中空円筒形状を備え、外周面にスリーブ1100が備える雌ねじ1140と螺合する雄ねじ1520を備え、スリーブ1100が備える雌ねじ1140と接続用カプラ1500が備える雄ねじ1520とが螺合することによりスリーブ1100と接続用カプラ1500とが接合されている。なお、これ以外の接合方法により、スリーブ1100と接続用カプラ1500とが接合されていても構わない。
【0028】
さらに詳しくは、接続用緊張材1600は、長手方向における油圧ジャッキ700とは反対側の端部に雄ねじ1620を備え、接続用カプラ1500は、略中空円筒形状を備え、内周面に接続用緊張材1600が備える雄ねじ1620と螺合する雌ねじ1530を備え、接続用緊張材1600が備える雄ねじ1620と接続用カプラ1500が備える雌ねじ1530とが螺合することにより接続用緊張材1600と接続用カプラ1500とが接合されている。なお、これ以外の接合方法により接続用緊張材1600と接続用カプラ1500とが接合されていても構わない。たとえば、接続用カプラ1500と接続用緊張材1600との接合方法としては、このような雄ねじと雌ねじとの螺合であっても、緊張材によってウェッジ、圧着グリップ、BH(ボタンヘッド)を利用して接続して接合することも、接続用カプラ1500と接続用緊張材1600とを一体化して接合することも可能である。
【0029】
さらに詳しくこの緊張力調整治具1000について説明する。
・スリーブ1100
スリーブ1100は、略中空円筒形状であって(円筒直径の異なる)段付きの本体部1110を金属加工して、その内周面にウェッジ1200に組み合わせられるテーパー孔1120を備え、その外周面に雄ねじ1130が設けられ、テーパー孔1120が広がる方向の端部の内周面に雌ねじ1140が設けられている。
【0030】
・ウェッジ1200
ウェッジ1200は、2分割されたウェッジ片1210から構成され、テーパーの向きを合わせた2つのウェッジ片1210の間にPC鋼材300をウェッジ1200の内周面に設けられた歯型1230に食い込ませるようにして、PC鋼材300が歯合されたウェッジ1200の外周面のテーパー面1220をスリーブ1100のテーパー孔1120に摩擦嵌合することにより、くさび効果によりPC鋼材300を保持する。
【0031】
・リングナット1300
リングナット1300は、略円環形状の本体部1310を金属加工して、内周面にスリーブ1100が備える雄ねじ1130と螺合する雌ねじ1320が設けられている。さらに、てこの原理を利用して、このリングナット1300をPC鋼材300の軸心周りに容易に回転させるための棒体を螺合させるために、外周面に複数箇所(ここでは6箇所)の雌ねじ穴1330が設けられている。この雌ねじ穴1330に設けられた雌ねじに螺合する雄ねじをその一端部に備える棒体を螺合させて、その棒体の他端部を手で把持してリングナットを締めたり緩めたりする方向へリングナット1300を回転させることが容易になる。
【0032】
・ウェッジ押さえ1400
このウェッジ押さえ1400は
図2に示されていないように、この緊張力調整治具1000の必須構成ではない。後述する緊張力調整方法において緊張力の調整が完了した後に、調整後の緊張力が変化しないようにウェッジ1200の移動を制限するためにスリーブ1100に設けられる。不測の事態に備えて設けることが好ましいが、上述したように、この緊張力調整治具1000の必須構成ではない。
【0033】
このウェッジ押さえ1400は、略中空円筒形状であって(円筒直径の異なる)段付きの本体部1410を金属加工して、その円筒直径の大きな方の外周面にスリーブ1100が備える雌ねじ1140と螺合する雄ねじ1430を備え、スリーブ1100が備える雌ねじ1140とウェッジ押さえ1400が備える雄ねじ1430とが螺合することによりスリーブ1100とウェッジ押さえ1400とが接合される。上述したように、スリーブ1100が備える雌ねじ1140には接続用カプラ1500が備える雄ねじ1520も螺合するために、接続用カプラ1500が備える雄ねじ1520とウェッジ押さえ1400が備える雄ねじ1430とは同じねじ規格である。そして、このように、スリーブ1100が備える雌ねじ1140とウェッジ押さえ1400が備える雄ねじ1430とが螺合することによりスリーブ1100とウェッジ押さえ1400とが接合されると、ウェッジ1200におけるテーパー孔1120が広がる方向のウェッジ1200の端面1240がウェッジ押さえ1400のウェッジ側端面1420に当接されてウェッジ1200の移動が制限されることにより、緊張力調整方法において緊張力の調整が完了した後において、このウェッジ押さえ1400により緊張力が変化しない状態を維持することができる。
【0034】
ここで、このウェッジ押さえ1400がこの緊張力調整治具1000の必須構成ではない場合であって、後述する第1の実施の形態のようにPC鋼材300の余長がある場合には緊張力調整治具1000の接続用カプラ1500を使用する必要もないために、すなわ
ち、スリーブ1100が備える雌ねじ1140にはウェッジ押さえ1400も接続用カプラ1500も螺合される必要がないために、スリーブ1100が備える雌ねじ1140は不要であって専用品ではない通常の定着具として販売されているスリーブであって構わないことになる。
【0035】
・接続用カプラ1500
接続用カプラ1500は、ほぼ同じ円筒直径の略中空円筒形状の本体部1510を金属加工して、その外周面にスリーブ1100が備える雌ねじ1140と螺合する雄ねじ1520を備え、内周面に接続用緊張材1600が備える雄ねじ1620と螺合する雌ねじ1530を備える。
【0036】
上述したように接続用カプラ1500と接続用緊張材1600とを一体化等して接合しても構わないために限定されるものではないが、接続用カプラ1500が備える雄ねじ1520とスリーブ1100が備える雌ねじ1140とが螺合することによりスリーブ1100と接続用カプラ1500とが接合され、接続用カプラ1500が備える雌ねじ1530と接続用緊張材1600が備える雄ねじ1620とが螺合することにより接続用緊張材1600と接続用カプラ1500とが接合されている。
【0037】
・接続用緊張材1600
接続用緊張材1600は、端部が処理されたPC鋼材であって、その端部には接続用カプラ1500が備える雌ねじ1530と螺合する雄ねじ1620を備える。上述したように接続用カプラ1500と接続用緊張材1600とを一体化等して接合しても構わないために限定されるものではないが、接続用緊張材1600が備える雄ねじ1620と接続用カプラ1500が備える雌ねじ1530とが螺合することにより接続用緊張材1600と接続用カプラ1500とが接合されている。
【0038】
[緊張力調整方法]
以上のような、本実施の形態に係る緊張力調整治具1000を用いる場合がある(PC鋼材300に余長がある場合の緊張力減少時には用いないでも構わない)PC鋼材の緊張力調整方法について、上述した
図1~
図8に、
図9~
図19を加えて説明する。なお、以下においては、第1の実施の形態に係る張力調整方法を
図9~
図12に示す手順11~手順18で説明して、第2の実施の形態に係る張力調整方法を
図13~
図16に示す手順21~手順28で説明して、第3の実施の形態に係る張力調整方法を
図17~
図19に示す手順31~手順36で説明する。ここで、第1の実施の形態に係る張力調整方法は、PC構造物の施工時であってPC鋼材300に余長がある(緊張力調整治具1000を用いない)場合の緊張力調整方法(緊張力減少)であって、第2の実施の形態に係る張力調整方法は、PC構造物の供用時であってPC鋼材300に余長がない(緊張力調整治具1000を用いる)場合の緊張力調整方法(緊張力減少)であって、第3の実施の形態に係る張力調整方法は、PC構造物の供用時であってPC鋼材300に余長がない(緊張力調整治具1000を用いる)場合の緊張力調整方法(緊張力増加)である。
【0039】
・第1の実施の形態:余長ありで緊張力減少調整
<
図9:手順11>
本実施の形態における
図10に示す手順11の時点は、たとえば、特許文献1(特許第6131292号公報)の第0044段落の(6)後処理ステップにおける「次に、2次緊張ステップにおける緊張荷重を解放して、セット量補正治具100(本体部300、固定リング400および可動リング500)が取り付けられた油圧ジャッキ700を取り外す。」が完了した時点である。
【0040】
ここで、鋼管付きアンカープレート500は、鋼管510の端部に支圧板として機能するアンカープレート520を備えるものである。
なお、第1の実施の形態においては、スリーブとしてテーパー孔1120が広がる方向の端部の内周面に雌ねじ1140を備えるスリーブ1100を採用しているが、PC鋼材300の余長があるために接続用カプラ1500も螺合される必要がなく(準備ステップにおいて緊張力調整治具1000を準備する必要なく)、さらにウェッジ押さえ1400が不要な場合には雌ねじ1140にはウェッジ押さえ1400も接続用カプラ1500も
螺合される必要がないために、雌ねじ1140を備える専用品ではない通常の定着具として販売されているスリーブであって構わない(ただし、
図13に示す手順28でウェッジ押さえ1400を使用しているので雌ねじ1140を備えるスリーブ1100を使用)。
【0041】
<
図9:手順12:セットステップ>
支圧板(アンカープレート520と記載する場合がある)に反力架台600を当接させて反力架台600に油圧ジャッキ700をセットする。PC鋼材の余長が存在するために、PC鋼材300の端部を反力架台600を経由して油圧ジャッキ700に連結する。
このとき、油圧ジャッキ700は、緊張力の減少(開放を含む)時に戻るPC鋼材300の伸び量分だけピストンを出しておくことになる。
【0042】
<
図10:手順13:緊張力増加ステップ>
油圧ジャッキ700を用いて、支圧板(アンカープレート520)からリングナット1300が予め定められた距離だけ離隔するまで(すなわち、リングナット1300が支圧板(アンカープレート520)から浮くまで)、PC鋼材300の緊張力を増加させる。
このようにリングナット1300が支圧板(アンカープレート520)から浮いている状態のときには、油圧ジャッキ700がPC鋼材300の引張力を負担していることになる。
<
図10:手順14:リング緩めステップ>
支圧板(アンカープレート520)から離隔した(浮いた)リングナット1300を緩める。なお、リングナット1300を緩める量(リングナット1300の回転量またはリングナット1300の移動量)は緊張力調整に必要な量に対応するものであって、緊張力を0にして完全に開放する場合にはリングナット1300をスリーブ1100から外してしまっても構わない(もはやリングナット1300を機能させる必要がない)。
【0043】
<
図11:手順15:緊張力低下ステップ>
油圧ジャッキ700を用いて(手順12で出しておいたピストンを戻して)、予め定められた緊張力まで、PC鋼材300の緊張力を減少させていく。このとき、緊張力減少に伴うPC鋼材300の伸びが図示したように戻り、スリーブ1100の一部が鋼管510の中に侵入している。なお、スリーブ1100の外径は鋼管510の内径よりも小さいので、鋼管510の中に侵入することができる。
<
図11:手順16:リング締め付けステップ>
予め定められた緊張力までPC鋼材300の緊張力が減少すると、リングナット1300が支圧板(アンカープレート520)に当接するまでリングナット1300を回転させて締め付ける。
【0044】
<
図12:手順17:取り外しステップ>
油圧ジャッキ700による緊張力を開放して、反力架台600と油圧ジャッキ700とを取り外す。リングナット1300が支圧板(アンカープレート520)に当接している状態で油圧ジャッキ700による緊張力を開放すると、リングナット1300がPC鋼材300の引張力を負担していることになる。さらに、ここで、PC鋼材300の余長を切断することもある。
<
図12:手順18:後処理ステップ>
ウェッジ押さえ1400をスリーブ1100に取り付ける。このとき、スリーブ1100が備える雌ねじ1140とウェッジ押さえ1400が備える雄ねじ1430とを螺合させるようにねじ込む。ウェッジ1200におけるテーパー孔1120が広がる方向のウェッジ1200の端面1240がウェッジ押さえ1400のウェッジ側端面1420に当接されてウェッジ1200の移動が制限されることにより、手順11~手順17の緊張力調整(ここでは減少)方法において緊張力の調整(ここでは減少)が完了した後において、このウェッジ押さえ1400により減少された緊張力が変化しない状態を維持することができる。
・第2の実施の形態:余長なしで緊張力減少調整
【0045】
<
図13:手順21>
本実施の形態における
図13に示す手順21の時点は、第1の実施の形態における
図1
2に示す手順18の時点である。
ウェッジ押さえ1400をスリーブ1100から外す。このとき、上述した手順18と逆手順であって、スリーブ1100が備える雌ねじ1140にウェッジ押さえ1400が備える雄ねじ1430が螺合している状態からウェッジ押さえ1400を回転させてスリーブ1100が備える雌ねじ1140にその雄ねじ1430がねじ込まれているウェッジ押さえ1400を取り外す。
<
図13:手順22:準備ステップ>
ここでは、PC鋼材300の余長が存在しないために上述した緊張力調整治具1000を介してPC鋼材300の端部が油圧ジャッキ700に連結することができるように準備する。より具体的には、スリーブ1100が備える雌ねじ1140に接続用カプラ1500の雄ねじ1520を螺合させてスリーブ1100に接続用カプラ1500を接合して、接続用カプラ1500が備える雌ねじ1530に接続用緊張材1600が備える雄ねじ1620を螺合させて接続用カプラ1500に接続用緊張材1600を接合する。このとき、スリーブ1100、接続用カプラ1500および接続用緊張材1600の中で、外径はスリーブ1100が最も大きい。
【0046】
<
図14:手順23:セットステップ>
支圧板(アンカープレート520)に反力架台600を当接させて反力架台600に油圧ジャッキ700をセットする。ここでは、PC鋼材300の余長が存在しないためにPC鋼材300の端部を緊張力調整治具1000を介して反力架台600を経由して油圧ジャッキ700に連結する。
このとき、油圧ジャッキ700は、緊張力の減少(開放を含む)時に戻るPC鋼材300の伸び量分だけピストンを出しておくことになる。
<
図14:手順24:緊張力増加ステップ>
ここでは、上述した手順13と同じく、油圧ジャッキ700を用いて、支圧板(アンカープレート520)からリングナット1300が予め定められた距離だけ離隔するまで(すなわち、リングナット1300が支圧板(アンカープレート520)から浮くまで)、PC鋼材300の緊張力を増加させる。
このようにリングナット1300が支圧板(アンカープレート520)から浮いている状態のときには、油圧ジャッキ700がPC鋼材300の引張力を負担していることになる。
【0047】
<
図15:手順25:リング緩めステップ>
ここでは、上述した手順14と同じく、支圧板(アンカープレート520)から離隔した(浮いた)リングナット1300を緩める。なお、リングナット1300を緩める量(リングナット1300の回転量またはリングナット1300の移動量)は緊張力調整に必要な量に対応するものであって、緊張力を0にして完全に開放する場合にはリングナット1300をスリーブ1100から外してしまっても構わない(もはやリングナット1300を機能させる必要がない)。
<
図15:手順26:緊張力低下ステップ>
油圧ジャッキ700を用いて(手順23で出しておいたピストンを戻して)、予め定められた緊張力まで、PC鋼材300の緊張力を減少させていく。このとき、緊張力減少に伴うPC鋼材300の伸びが図示したように戻り、スリーブ1100の一部が鋼管510の中に侵入している。なお、スリーブ1100、接続用カプラ1500および接続用緊張材1600の中で、外径はスリーブ1100が最も大きく、かつ、スリーブ1100の外径は鋼管510の内径よりも小さいので、スリーブ1100を含む緊張力調整治具1000が鋼管510の中に侵入することができる。
【0048】
<
図16:手順27:リング締め付けステップ>
ここでは、上述した手順16と同じく、予め定められた緊張力までPC鋼材300の緊張力が減少すると、リングナット1300が支圧板(アンカープレート520)に当接するまでリングナット1300を回転させて締め付ける。
<
図16:手順28:取り外しステップ>
油圧ジャッキ700による緊張力を開放して、反力架台600と油圧ジャッキ700と緊張力調整治具1000(接続用カプラ1500および接続用緊張材1600)とを取り外す。より具体的には、上述した手順22と逆に、接続用カプラ1500が備える雌ねじ1530と接続用緊張材1600が備える雄ねじ1620との螺合を開放させて接続用カプラ1500から接続用緊張材1600を取り外して、スリーブ1100が備える雌ねじ1140と接続用カプラ1500の雄ねじ1520との螺合を開放させてスリーブ1100から接続用カプラ1500を取り外す。リングナット1300が支圧板(アンカープレート520)に当接している状態で油圧ジャッキ700による緊張力を開放すると、リングナット1300がPC鋼材300の引張力を負担していることになる。さらに、ウェッジ押さえ1400をスリーブ1100の取り付ける。この手順28におけるウェッジ押さえ1400を取り付ける手順は上述した手順18と同じである。なお、緊張力を0にして完全に開放してPC鋼材300を撤去する場合にはウェッジ押さえ1400を取り付ける必要はない。
【0049】
・第3の実施の形態:余長なしで緊張力増加調整
<
図17:手順31>
本実施の形態における
図17に示す手順31の時点は、第1の実施の形態における
図12に示す手順18の時点である。
ウェッジ押さえ1400をスリーブ1100から外す。このとき、この手順31におけるウェッジ押さえ1400をスリーブ1100から外す手順は上述した手順21と同じである。
<
図17:手順32:準備ステップ>
ここでは、上述した手順22と同じく、PC鋼材300の余長が存在しないために上述した緊張力調整治具1000を介してPC鋼材300の端部が油圧ジャッキ700に連結することができるように準備する。より具体的には、スリーブ1100が備える雌ねじ1140に接続用カプラ1500の雄ねじ1520を螺合させてスリーブ1100に接続用カプラ1500を接合して、接続用カプラ1500が備える雌ねじ1530に接続用緊張材1600が備える雄ねじ1620を螺合させて接続用カプラ1500に接続用緊張材1600を接合する。このとき、スリーブ1100、接続用カプラ1500および接続用緊張材1600の中で、外径はスリーブ1100が最も大きい。
【0050】
<
図18:手順33:セットステップ>
上述した手順23と同じく、支圧板(アンカープレート520)に反力架台600を当接させて反力架台600に油圧ジャッキ700をセットする。ここでは、PC鋼材300の余長が存在しないためにPC鋼材300の端部を緊張力調整治具1000を介して反力架台600を経由して油圧ジャッキ700に連結する。
<
図18:手順34:緊張力増加ステップ>
油圧ジャッキ700を用いて、予め定められた緊張力まで、PC鋼材300の緊張力を増加させる。このとき、リングナット1300が支圧板(アンカープレート520)から浮いている状態となり、油圧ジャッキ700がPC鋼材300の引張力を負担していることになる。
【0051】
<
図19:手順35:リング締め付けステップ>
予め定められた緊張力までPC鋼材300の緊張力が増加して支圧板(アンカープレート520)からリングナット1300が離隔すると、リングナット1300が支圧板(アンカープレート520)に当接するまでリングナット1300を回転させて締め付ける。<
図19:手順36:取り外しステップ>
油圧ジャッキ700による緊張力を開放して、反力架台600と油圧ジャッキ700と緊張力調整治具1000(接続用カプラ1500および接続用緊張材1600)とを取り外す。この手順36における反力架台600と油圧ジャッキ700と緊張力調整治具1000(接続用カプラ1500および接続用緊張材1600)とを取り外す手順は上述した手順28と同じである。。リングナット1300が支圧板(アンカープレート520)に当接している状態で油圧ジャッキ700による緊張力を開放すると、リングナット1300がPC鋼材300の引張力を負担していることになる。さらに、ウェッジ押さえ1400をスリーブ1100の取り付ける。この手順36におけるウェッジ押さえ1400を取り付ける手順は上述した手順18と同じである。
【0052】
[緊張力調整治具および緊張力調整方法の作用効果]
このようにして、本実施の形態に係る緊張力調整治具および/または緊張力調整方法によると、プレストレスをコンクリート躯体に導入する新設PC構造物またはプレストレスがコンクリート躯体に既に導入された既設PC構造物において、PC鋼材に付与されている緊張力を(0に開放することを含めて増加させることも減少させることも含めて)調整することのできる調整方法、および、この調整方法を実行するにあたり供用時にはPC鋼材の余長が(油圧ジャッキに連結するほどに長さが残ってい)ない場合であっても好ましくPC鋼材に付与される緊張力を調整することの調整治具を提供することができる。
【0053】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、PC鋼材によりプレストレスを付与する場合に発生する緊張力の調整治具および調整方法に好ましく、PC鋼材に付与されている緊張力を(0に開放することを含めて増加させることも減少させることも含めて)調整することのできる調整方法に好ましく、この調整方法を実行するにあたり供用時にはPC鋼材の余長が(油圧ジャッキに連結するほどに長さが残ってい)ない場合であっても好ましくPC鋼材に付与される緊張力を調整することのできる点で特に好ましい。
【符号の説明】
【0055】
100 プレストレストPC橋(プレストレストPC構造物)
200 定着部
300 PC鋼材(緊張材、外ケーブル)
400 偏向部
500 鋼管付きアンカープレート
600 反力架台(チェア)
700 油圧ジャッキ
1000 緊張力調整治具
1100 スリーブ
1200 ウェッジ
1300 リングナット
1400 ウェッジ押さえ
1500 接続用カプラ
1600 接続用緊張材