(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】取付部材及びこの取付部材を備える運動案内装置
(51)【国際特許分類】
F16H 25/24 20060101AFI20240104BHJP
F16H 25/22 20060101ALI20240104BHJP
【FI】
F16H25/24 B
F16H25/22 Z
(21)【出願番号】P 2019222071
(22)【出願日】2019-12-09
【審査請求日】2022-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】浅野 祐介
(72)【発明者】
【氏名】辻澤 優太
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-127951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/24
F16H 25/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に伸びる軸部材と、前記軸部材に対して前記長手方向に沿って移動可能に取り付けられた移動部材とを有する運動案内装置にセンサを取り付ける取付部材であって、
締結手段によって前記移動部材に形成された締結孔に固定可能な固定部と、
前記センサを取り付けるセンサ取付部とを備え
、
前記センサ取付部の前記移動部材と対向する面には、前記締結孔に締結された締結手段との接触を防止する逃げ部が形成されることを特徴とする取付部材。
【請求項2】
請求項1に記載の取付部材において、
前記固定部は、少なくとも2以上形成されることを特徴とする取付部材。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の取付部材において、
前記締結孔は、前記移動部材の径方向に伸びるフランジに所定の間隔で複数形成され、
前記固定部は、複数の前記締結孔のうち、互いに隣り合わない2以上の締結孔に対応して形成されることを特徴とする取付部材。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれか1項に記載の取付部材において、
前記センサ取付部の厚さは、前記センサの厚さの1.2倍以上であることを特徴とする取付部材。
【請求項5】
請求項1から
4のいずれか1項に記載の取付部材において、
前記固定部は、前記締結孔及び前記移動部材を取り付ける相手部材と共締めして取り付けられることを特徴とする取付部材。
【請求項6】
請求項1から
5のいずれか1項に記載の取付部材を備えた移動部材を有することを特徴とする運動案内装置。
【請求項7】
長手方向に伸びる軸部材と、前記軸部材に対して前記長手方向に沿って移動可能に取り付けられた移動部材とを有する運動案内装置にセンサを取り付ける取付部材であって、 締結手段によって前記移動部材に形成された締結孔に固定可能な固定部と、
前記センサを取り付けるセンサ取付部とを備え、
前記締結孔は、前記移動部材の径方向に伸びるフランジに所定の間隔で複数形成され、
前記固定部は、複数の前記締結孔のうち、互いに隣り合わない2以上の締結孔に対応して形成されることを特徴とする取付部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじなどの運動案内装置へセンサを取り付けるための取付部材及びこの取付部材を備える運動案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボールねじなどの運動案内装置の状態を監視等すること、又は、移動部材の位置を検知することを目的として、ボールねじのナットなどの移動部材に振動センサや磁気センサなどのセンサを取り付けることが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載されたボールねじは、ボールねじ軸及びボールねじナットを備えたボールねじにおいて、前記ボールねじナットに取付けられ振動を検出する振動センサと、前記振動センサで検出された振動データからボールねじ異常検出周波数帯の振動データを濾波する濾波部と、前記濾波部で濾波されたボールねじ異常検出周波数帯の振動データに基づいてボールねじの異常を検出する異常検出部とを備えている。
【0004】
このようなボールねじによれば、正常時のボールねじ異常検出周波数帯の振動データを記憶し、記憶されている正常時のボールねじ異常検出周波数帯の振動データを濾波されたボールねじ異常検出周波数帯の振動データと比較し、比較された振動データの比較データに基づいてボールねじの異常を判定する。そのため、ボールねじの異常をより一層正確に検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来のセンサ取付方法は、ナットの振動データを正確に検出するために、ナットの軸方向端面やナットに形成されたフランジ部分に直接取り付けられており、その取付方法によれば、ナットの軸方向端面やフランジ部分にタップ加工を施したうえで、ねじなどの締結手段によって締結されている。
【0007】
このような取付方法によると、すでにボールねじが装置に取り付けられている場合に、装置にボールねじが取り付けられた状態でタップ加工等を行うことはできず、一度ボールねじを装置から取り外して後加工を行う必要があることから、非常に手間のかかる作業が必要となっていた。また、センサの取り付けにマグネットや接着剤を用いて固定することも考えられるが、このような取付方法によると長期的な使用では、振動などによりセンサが外れてしまう可能性があるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために成されたものであって、すでに装置にボールねじなどの運動案内装置が取り付けられている場合であっても、装置から運動案内装置を取り外す必要も後加工も必要とせずに振動センサなどのセンサを運動案内装置のナットなどの移動部材に確実かつ簡便に取り付けることができる取付部材及びこの取付部材を備える運動案内装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明に係る取付部材は、長手方向に伸びる軸部材と、前記軸部材に対して前記長手方向に沿って移動可能に取り付けられた移動部材とを有する運動案内装置にセンサを取り付ける取付部材であって、締結手段によって前記移動部材に形成された締結孔に固定可能な固定部と、前記センサを取り付けるセンサ取付部とを備え、前記センサ取付部の前記移動部材と対向する面には、前記締結孔に締結された締結手段との接触を防止する逃げ部が形成されることを特徴とする。
また、本発明に係る他の取付部材は、長手方向に伸びる軸部材と、前記軸部材に対して前記長手方向に沿って移動可能に取り付けられた移動部材とを有する運動案内装置にセンサを取り付ける取付部材であって、締結手段によって前記移動部材に形成された締結孔に固定可能な固定部と、前記センサを取り付けるセンサ取付部とを備え、前記締結孔は、前記移動部材の径方向に伸びるフランジに所定の間隔で複数形成され、前記固定部は、複数の前記締結孔のうち、互いに隣り合わない2以上の締結孔に対応して形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る取付部材によれば、移動部材に形成された締結孔に固定可能な固定部と、センサを取り付けるセンサ取付部とを備えているので、運動案内装置を該運動案内装置が取り付けられている装置から取り外すことなく、また、後加工を施すことなくセンサを確実かつ簡便に取り付けることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る取付部材を取り付けた装置及び運動案内装置の斜視図。
【
図2】本発明の実施形態に係る取付部材を取り付ける運動案内装置の一部断面斜視図。
【
図6】本発明の実施形態に係る取付部材の取付手順を示す分解図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る取付部材の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る取付部材を取り付けた装置及び運動案内装置の斜視図であり、
図2は、本発明の実施形態に係る取付部材を取り付ける運動案内装置の一部断面斜視図であり、
図3は、本発明の実施形態に係る取付部材の斜視図であり、
図4は、本発明の実施形態に係る取付部材の側面図であり、
図5は、本発明の実施形態に係る取付部材の背面図であり、
図6は、本発明の実施形態に係る取付部材の取付手順を示す分解図である。
【0014】
図1に示すように、本実施形態に係る取付部材30は、装置1に取り付けられた運動案内装置としてのボールねじ10にセンサ20を取り付けるために用いられる部材である。取付部材30は、ボールねじ10を装置1に取り付ける締結手段2によって共締めして取り付けられており、センサ20は、センサ取付手段21によって取付部材30に取り付けられている。
【0015】
センサ20は、センサ基板を収容する筐体と、センサ基板に接続されるシールドケーブルと、該シールドケーブルの一端に取り付けられて筐体にシールドケーブルを保持固定するケーブルブッシュとを備えている。
【0016】
筐体は、上側ケース及び下側ケースとからなる分割体によって分割して構成されていると好適であり、上側ケース及び下側ケースは、アルミニウム合金などの金属で形成されると好適である。上側ケール及び下側ケースは、センサ基板を収容するセンサ基板収容部が形成されている。
【0017】
図2に示すように、本実施形態に係る取付部材30を取り付けるボールねじ10は、螺旋状のボール転走溝13が形成された長手方向に延びる軸部材としてのねじ軸11と、ボール転走溝13に対応する負荷転走溝14が形成された移動部材としてのナット部材12と、ナット部材12に固定されたリターンパイプ15を有している。
【0018】
ナット部材12は、ボール転走溝13と負荷転走溝14の間を転走するボール16を介してねじ軸11に対して軸方向に移動可能に取り付けられている。なお、ナット部材12は、軸方向端面に径方向に延設されたフランジ17が形成され、該フランジ17に締結孔18が所定の間隔で形成されている。なお、本実施形態に係る取付部材30が取り付けられるボールねじ10のナット部材12は、フランジ17の両側にねじ軸11の中心軸対称に互いに3つずつ締結孔18が形成されている。
【0019】
リターンパイプ15はねじ軸11のボール転走溝13を数巻分だけ飛び越えるようにナット部材12に固定されており、かかるリターンパイプ15の端部によってねじ軸11のボール転走溝13から掬い上げられたボール16が該リターンパイプ15内を転走して数巻分前のボール転走溝13に送りこまれ、これによってボール16がナット部材12内を無限循環するように構成されている。
【0020】
リターンパイプ15は断面略半円形状に形成された一対のパイプ半体を組み合わせることによって構成されていると好適であり、各パイプ半体は合成樹脂の射出成形によって製作されているとさらに好適である。また、各パイプ半体にはボール戻し通路となる凹条溝が形成される一方、この凹条溝には複数のボール16を保持する保持器を案内する案内溝が形成されていると好適である。なお、無限循環の方式として、リターンパイプを用いる方式について説明を行ったが、無限循環の方式はリターンパイプに限らず、種々の循環方式を採用することが可能であり、例えば、ナット部材12の軸方向端部に取り付けるエンドプレートに循環構造を持たせても構わないし、デフレクタを用いて、ボール16を所定の巻き数分戻す方式を採用しても構わない。
【0021】
次に
図3から5を参照して、本実施形態に係る取付部材30について説明を行う。本実施形態に係る取付部材30は、ナット部材12のフランジ17の片側に対応するように形成され、締結孔18と対応するように固定部31と、センサ20を取り付けるセンサ取付孔33が形成されたセンサ取付部32とが形成されている。
【0022】
固定部31は、
図1に示すようにナット部材12の3つの締結孔18のうち、上下の締結孔18と対応するように形成されており、センサ取付部32のナット部材12と対向する面には、中央の締結孔18に締結される締結手段2との接触を防止する逃げ部34が形成されている。
【0023】
このように、互いに隣り合わない2以上の締結孔18に対応して固定部31を形成することで、締結手段2を装置1から取り外した場合でも、その他の締結手段2を取り外すことなく、センサ20を取り付けることができるので、ナット部材12の位置ずれが発生しにくく、取付精度を維持することが可能となる。また、このように固定部31及び逃げ部34を形成することで、センサ20の取付面を確保してセンサ感度を維持することが可能となる。
【0024】
センサ取付部32は、取り付けるセンサ20の感度を維持するためにセンサ20の取付面が平坦となるように形成されている。また、
図4に示すように、センサ取付部32の厚さTは、センサ感度を確保するために、厚く形成されると好適である。しかし、センサ取付部32を厚くしすぎると、ナット部材12のストローク量が減少してしまうため、センサ感度とストローク量の確保を両立するために、センサ取付部32の厚さTは、取り付けるセンサ20の厚さの略1.2倍程度に構成されると好適であり、より好適にはセンサ20の厚さの略1.5倍程度に構成される。
【0025】
また、
図4及び
図5に示すように、ナット部材12の軸方向端面にキャップ部材19などが突出して取り付けられている場合に、当該キャップ部材19との干渉を防止する干渉防止溝35が形成されていると好適である。このような干渉防止溝35の形状は、キャップ部材19の形状に応じて適宜変更することが可能である。
【0026】
次に、
図6を参照して本実施形態に係る取付部材30の取付手順について説明を行う。まず、センサ取付部32に形成されたセンサ取付孔33にセンサ取付手段21を締結することでセンサ20を取付部材30へ取り付ける。その後、装置1に締結手段2を介して取り付けられているボールねじ10から、取付部材30を取り付けるために共締めする締結手段2を取り外す。このとき、
図6に示すように、片側に3つ形成された締結孔18のうち、互いに隣り合わない上下の2つの締結孔18から締結手段2を取り外すと好適である。
【0027】
次に、取付部材30をナット部材12のフランジ17に取り付け、固定部31に締結手段2を挿通してナット部材12と共締めする。このとき、締結手段2は、取り外した締結手段2をそのまま用いても構わないし、取り外した締結手段2よりも固定部31の厚さ分だけ長い締結手段を用いても構わない。
【0028】
また、このとき、固定部31に対応する締結孔18の間の締結孔18に締結された締結手段2は、取付部材30の逃げ部34によって跨ぐように取り付けられ、締結手段2と取付部材30との干渉を防止している。
【0029】
このように、取付部材30へセンサ20を取り付けた後にナット部材12に取付部材30とともにセンサ20を取り付けることができるので、作業性を損なうことなく、センサ20を取り付けることができる。
【0030】
このように、固定部31を2カ所形成し、固定部31の間の締結手段2を逃げ部34によって跨ぐように形成しているので、センサ20の取り付けに伴う締結手段2の取り外しは、固定部31に対応した締結手段2の2つのみで行うことができ、その他の締結手段2は、装置1へ締結したままとすることができるので、締結手段2の取り外しに伴ってナット部材12に位置ずれが発生することなくナット部材12にセンサ20を取り付けることが可能となる。
【0031】
また、共締めに用いる締結孔18は、装置1へナット部材12を締結する締結孔18を共用することができるので、タップ加工などの後加工を行うことなく装置1に取り付けた状態でボールねじ10にセンサ20を取り付けることが可能となる。
【0032】
なお、上述した実施形態においては、運動案内装置として、ボールねじを用いた場合について説明を行ったが、運動案内装置は、ボールねじに限らず、例えば、軸部材にスプライン軸を適用し、該スプライン軸に沿って移動可能な移動部材を有するボールスプラインを適用しても構わない。また、上述した実施形態において、ナット部材12に形成した締結孔18は、両側に3つずつ、合計6つ形成した場合について説明を行ったが、締結孔の数は、これに限らず、例えば4、8など、適宜変更することが可能である。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0033】
10 ボールねじ(運動案内装置), 11 ねじ軸(軸部材), 12 ナット部材(移動部材), 17 フランジ, 18 締結孔, 20 センサ, 30 取付部材, 31 固定部, 32 センサ取付部, 34 逃げ部。