(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】ポリフェノール類の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 311/62 20060101AFI20240104BHJP
C07C 37/70 20060101ALI20240104BHJP
C07C 37/88 20060101ALI20240104BHJP
B01D 61/14 20060101ALI20240104BHJP
B01D 61/16 20060101ALI20240104BHJP
A23L 29/00 20160101ALN20240104BHJP
【FI】
C07D311/62
C07C37/70
C07C37/88
B01D61/14 500
B01D61/16
A23L29/00
(21)【出願番号】P 2019222192
(22)【出願日】2019-12-09
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(73)【特許権者】
【識別番号】594152620
【氏名又は名称】ダイセン・メンブレン・システムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】矢ヶ崎秀雄
(72)【発明者】
【氏名】横田秀輔
【審査官】柳本 航佑
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-015358(JP,A)
【文献】特開昭62-087541(JP,A)
【文献】特開2002-335911(JP,A)
【文献】特開2008-249764(JP,A)
【文献】特開2012-196590(JP,A)
【文献】特開2014-140351(JP,A)
【文献】特表2017-538668(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 311/00-311/96
C07C 37/00- 37/88
B01D 61/14
B01D 61/16
A23L 29/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前処理工程と限外ろ過工程を有する、分子量の異なるポリフェール類を含むポリフェノール類含有水溶液からなる原液を高分子量成分と低分子量成分に分離するポリフェノール類の製造方法であって、
前記原液中のポリフェノール類が分子量の異なるタンニンを含むものであり、
前記前処理工程に供給するポリフェノール類含有水溶液の粘度が10mPa・s未満であり、
前記前処理工程が、前記原液に塩化ナトリウムを添
加するか、または前記原液のpHを調整することで前記ポリフェノール類の会合を阻止する工程であり、
前記限外ろ過工程が、クロスフローろ過を実施して、前記ポリフェノール類の高分子量成分を含む濃縮液と前記ポリフェノール類の低分子量成分を含む透過液に分離する工程である、ポリフェノール類の製造方法。
【請求項2】
前記前処理工程が、前記前処理工程を実施した後の前処理液を前処理液タンクに貯める工程
を含み、
前記限外ろ過工程が、前処理液タンク内の前処理液を
限外ろ過膜モジュールに送って限外ろ過した後、透過液を透過液タンク内に貯留し、濃縮液を前記前処理液タンクに戻し、これを繰り返す循環ろ過を実施する工程
を含み、
さらに必要に応じて別途希釈水タンクを設けて、前記前処理液タンク内に前記希釈水タンクから希釈水を供給して前記前処理水を希釈する工程を含む、請求項1記載のポリフェノール類の製造方法。
【請求項3】
前記前処理工程が、前記原液中の前記ポリフェノール類濃度を0.3~5.0質量%の範囲に調整し、かつ前記原液中の塩化ナトリウム濃度を0.001~0.05mol/Lの範囲に調整するか、または
前記ポリフェノール類濃度を0.3~5.0質量%の範囲に調整し、かつ前記原液のpHを5.0~7.0の範囲に調整する工程である、請求項1または2記載のポリフェノール類の製造方法。
【請求項4】
前記前処理工程と前記限外ろ過工程に加えてさらに塩析工程を有しており、
前記塩析工程が、前記限外ろ過工程で得た濃縮液または透過液に対して塩化ナトリウムを添加して、前記濃縮液または前記透過液の塩化ナトリウム濃度が0.1mol/L以上になるように調整することで、ポリフェノール類の高分子量成分または低分子量成分を沈殿させて回収する工程である、請求項1
~3のいずれか1項記載のポリフェノール類の製造方法。
【請求項5】
前記原液中のポリフェノール類が異なる分子量の柿タンニンを含むものであり、
最終的に絶対分子量が3万~60万の範囲の高分子量成分である柿タンニンの含有割合が50質量%以上の液を濃縮液として回収するものである、請求項1~4のいずれか1項記載のポリフェノール類の製造方法。
【請求項6】
前記原液中のポリフェノール類が異なる分子量の柿タンニンを含むものであり、
最終的に絶対分子量が3万~60万の範囲の高分子量成分である柿タンニンの含有割合が80質量%以上の液を濃縮液として回収するものである、請求項1~4のいずれか1項記載のポリフェノール類の製造方法。
【請求項7】
最終的に絶対分子量が3万~60万の範囲の高分子量成分である柿タンニンの含有割合が80質量%以上の液を濃縮液として回収するものであり、
さらに透過液に含まれている低分子量成分を加水分解することでより低分子量の柿タンニンを得る、請求項1~4のいずれか1項記載のポリフェノール類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェノール類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
柿渋に含まれている柿タンニンは、古くから染料、塗料、食品添加物、民間薬などに使用され、最近では石けん、シャンプー、防臭スプレーなどにも使用されており、さらにはノロウィルスなどのウィルスに対する抗ウィルス作用も確認されている(非特許文献1)。
【0003】
また特許文献1には、分子量1万以上のタンニンの組成比率を高めたタンニン(以下「精製タンニン」と称す。)を含む水処理凝集剤の発明が記載されている(請求項1)。
精製タンニンの精製方法としては、分画分子量1万の限外ろ過膜を用いた精製処理(透析)、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる精製、超遠心機を用いた高分子量成分の沈降分離などにより、低分子量のタンニンを取り除いたり、高分子量のタンニンのみを採取したりする方法が挙げられている(段落番号0030)。
実施例では、原タンニンをそれぞれ分画分子量10,000の再生セルロース製透析チューブに入れ、純水中で3日間、純水を新しいものに入れ替えながら撹拌し、低分子量のタンニンを除去したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】「日本文化に根付いた柿渋の化学」島本整,化学と教育64巻7号(2016)p348-p349
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ポリフェノール類を高分子量成分と低分子量成分に分離することができるポリフェノール類の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前処理工程と限外ろ過工程を有する、分子量の異なるポリフェール類を含むポリフェノール類含有水溶液からなる原液を高分子量成分と低分子量成分に分離するポリフェノール類の製造方法であって、
前記前処理工程に供給するポリフェノール類含有水溶液の粘度が10mPa・s未満であり、
前記前処理工程が、前記原液に塩化ナトリウムを添加して、その濃度を調整するか、または前記原液のpHを調整することで前記ポリフェノール類の会合を阻止する工程であり、
前記限外ろ過工程が、クロスフローろ過を実施して、前記ポリフェノール類の高分子量成分を含む濃縮液と前記ポリフェノール類の低分子量成分を含む透過液に分離する工程である、ポリフェノール類の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリフェノール類の製造方法によれば、分子量の異なるポリフェール類を含むポリフェノール類含有水溶液からなる原液を高分子量のポリフェノール類と低分子量のポリフェノール類に分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の製造方法を実施するための一実施形態の製造フロー図。
【
図2】実施例1で得られた第1回透過液のGPC(RI)-MALS測定により得られたチャート図。
【
図3】実施例1で使用した柿タンニンの分子量分布を示すGPCチャート図。
【
図4】比較例1で使用した柿タンニンの分子量分布を示すGPCチャート図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<ポリフェノール類の製造方法>
本発明のポリフェノール類の製造方法は、分子量の異なるポリフェール類を含むポリフェノール類含有水溶液からなる原液を高分子量成分(高分子量のポリフェール類)と低分子量成分(低分子量のポリフェール類)に分離する製造方法である。
「ポリフェノール類」は、分子量の異なるポリフェノールが混在しているものであることを意味しており、ポリフェノールとしてはタンニン、アントシアニン、ルチン、イソフラボン、クロロゲン酸などを挙げることができ、本発明の好ましい一態様は柿タンニン、ミモザタンニン、ケプラチョタンニンなどのタンニンである。
【0011】
本発明のポリフェノール類の製造方法の一実施形態を
図1の製造フローにより説明する。
前処理工程を実施するための前処理工程タンク1には、ポリフェノール類含有水溶液からなる原液が入っている。
原液の粘度は10mPa・s未満であり、本発明の好ましい一態様は0.1~8mPa・s、本発明の別の好ましい一態様は0.5~5mPa・sである。
【0012】
前処理工程では、前処理工程タンク1内の原液に塩化ナトリウムを添加して、その濃度を調整するか、または前記原液のpHを調整することで前記ポリフェノール類の会合を阻止する。
原液中のポリフェノール類は会合して巨大分子量に変化しやすく、そのままでは後工程の限外ろ過工程による限外ろ過で透過されるべき低分子量成分が透過されなくなり、分子量分画が困難になる。このため、前処理工程における前処理を実施することで、前記会合を阻止して、限外ろ過による分子量分画が容易に実施できるようにする。
なお、前処理工程において塩化ナトリウムを添加するときは、粉末状のポリフェノール類と塩化ナトリウムを混合した後、加水して水溶液にすることもできる。
【0013】
前処理工程では、次の二つの処理方法のいずれかの処理方法を実施することができる。
第1の方法は、本発明の好ましい一態様は、原液中および限外ろ過工程における処理液中のポリフェノール類濃度を0.3~5.0質量%の範囲に調整し、かつ前記原液中の塩化ナトリウム濃度を0.001~0.05mol/Lの範囲に調整する方法である。
第2の方法は、本発明の好ましい一態様は、原液中および限外ろ過工程における処理液中のポリフェノール類濃度を0.3~5.0質量%の範囲に調整し、かつ前記原液のpHを5.0~7.0の範囲に調整する方法である。
【0014】
第1の方法と第2の方法における原液中のポリフェノール類濃度は、本発明の別の好ましい一態様は0.4~4.0質量%の範囲であり、本発明のさらに別の好ましい一態様は0.5~3.0質量%の範囲である。
第1の方法における原液中の塩化ナトリウム濃度の調整は、本発明の別の好ましい一態様は0.002~0.04mol/Lの範囲であり、本発明のさらに別の好ましい一態様は0.003~0.03mol/Lの範囲である。
【0015】
前処理工程タンク1内にて前処理工程を実施した後の前処理液は、開閉弁(電磁弁など)21を開けた状態で第1前処理液ライン10から前処理液タンク2に送る。
前処理液タンク2は、図示していない攪拌機、温度計、水量計などを備えることができる。
なお、前処理液タンク2において前処理(第1の方法または第2の方法)を実施することもできる。
前処理液タンク2内の前処理液は、ポンプ30を作動させ、第2前処理液ライン11から限外ろ過膜モジュール3に送って限外ろ過する。
【0016】
限外ろ過膜モジュール3で使用できる限外ろ過膜としては特に限定はされないが、クロスフローろ過を実施する観点からは中空糸膜を使用することができる。
本発明における限外ろ過膜の分画分子量としては、100~1,000万であり、ナノフィルター膜や精密ろ過膜の領域も含まれる。
限外ろ過膜の材質は、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、セルロース、酢酸セルロース、セルロースエステル、キトサン、カゼイン、コラーゲンなどの生体高分子、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド、スルホン化ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアクリルアミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、ポリウレタン、スルホン化ポリスルホン、パーフルオロスルホン酸樹脂、パーフルオロカルボン酸樹脂、ポリビニルアルコールなどが使用できる。
中空糸膜の長さ、外径、膜厚、および集束体を構成する本数なども特に限定されない。
【0017】
限外ろ過膜モジュール3を使用する限外ろ過工程では、クロスフローろ過を実施して、前処理液から高分子量成分(高分子量のポリフェノール類)を含む濃縮液と低分子量成分(低分子量のポリフェノール類)を含む透過液に分離する。
濃縮液は、開閉弁を開けた状態で濃縮液ライン12から前処理液タンク2に戻し、透過液は、透過ライン13から透過液タンク4に送って貯留する。
なお、限外ろ過膜モジュール3は、図示していない逆圧洗浄水ラインと逆圧洗浄水排水ラインを備えている。逆圧洗浄水は、精製水(脱イオン水、蒸留水)、水道水、地下水などを使用することができる。
【0018】
その後、前処理タンク2の前処理液を第2前処理液ライン11から限外ろ過膜モジュール3に前処理液を送って限外ろ過した後、濃縮水を前処理タンク2に戻す循環ろ過工程を実施することができる。
循環ろ過工程の実施中は、第1前処理液ライン10の開閉弁21は閉じられており、前処理工程タンク1内の前処理液の前処理液タンク2内への供給は停止される。
循環ろ過工程を実施するときは、前処理液タンク2内の前処理液濃度が過度に高くなることを防止するため、希釈水ライン16の開閉弁24を開けた状態で、希釈水タンク6内の希釈水を前処理タンク2に送って希釈することができる。
希釈水を使用するときは、限外ろ過工程における処理液中のポリフェノール類濃度を0.3~5.0質量%の範囲、かつ前記原液中の塩化ナトリウム濃度を0.001~0.05mol/Lの範囲内に維持できるように希釈水量と塩化ナトリウム添加量を調整する。
希釈液の供給量は、前処理液タンク2内の前処理液量を1.5~2.5倍程度に希釈できる量にすることができる。
循環ろ過工程の実施により得られた透過液は、透過液ライン13から透過液タンク4に送られて貯留される。
透過液タンク4内の透過液は、必要に応じて採水ライン14から採水することで、ろ過工程ごとの透過液(第1回ろ過後の透過液、第2回ろ過後の透過液・・・第n回ろ過後の透過液)に分けて、それぞれの透過液を適当な回収タンクに分けて貯留することもできる。
【0019】
循環ろ過工程を継続後、循環ろ過を停止して、前処理液タンク2内の濃縮液または透過液に対して、塩析処理工程を実施することができる。
塩析処理工程は、目的の分子量分割が達成した時点で実施することができる。
塩析処理工程を実施するときは、第2前処理液ライン11と濃縮液ライン12に残留している濃縮液の全量も前処理液タンク2に回収して、塩析処理工程を実施することができる。
【0020】
塩析処理工程は、循環ろ過工程で濃縮された前処理液タンク2中の濃縮液に対して、塩化ナトリウム添加ライン15の開閉弁23を開けた状態で塩析用タンク5内の塩化ナトリウムを添加する。
濃縮液中の塩化ナトリウム濃度は、本発明の好ましい一態様は0.1mol/L以上であり、本発明の別の好ましい一態様は0.5mol/L以上であり、本発明のさらに別の好ましい一態様は1.0mol/L以上である。
塩析処理工程を実施することで、前処理タンク2内の濃縮液中のポリフェノール類の高分子量成分を沈殿させて回収することができる。
前処理タンク2内の沈殿した高分子量のポリフェノール類は、例えば、前処理タンク2の上部開口部分から吸引して抜き取る方法、前処理液タンク2の底部に接続された抜き取りライン17から開閉弁24を開けた状態で抜き取る方法により回収することができる。
塩析処理工程は、透過液タンク4内の透過液、または場合により他の回収タンクに貯留された透過液に対しても実施して、低分子量のポリフェノール類を沈殿させて回収することができる。
【0021】
本発明の製造方法を実施することで、原液中のポリフェノール類が異なる分子量の柿タンニンを含むものであるとき、本発明の好ましい一態様は、最終的に絶対分子量が3万~60万の範囲の高分子量成分である柿タンニンの含有割合が50質量%以上の液を濃縮液として回収することができ、本発明の別の好ましい一態様は、最終的に絶対分子量が3万~60万の範囲の高分子量成分である柿タンニンの含有割合が80質量%以上の液を濃縮液として回収することができる。
【0022】
上記のようにして、高分子量のポリフェノール類(柿タンニン)を濃縮液として回収したとき、透過液タンク4内の透過液に含まれている低分子量成分を加水分解することでより低分子量のポリフェノール類(柿タンニン)を得ることもできる。
前記加水分解処理は、塩析工程処理で得た沈殿(低分子量ポリフェノール類を含む沈殿)に対しても実施することができる。
加水分解処理は、1.2N塩酸(50%メタノール)溶液における低分子量のポリフェノール類(柿タンニン)の濃度(固形分濃度)が1~5質量%であるとき、液温85~95℃の状態で90~180分間加熱することができる。
以上のとおりの本願発明の製造方法を実施することによって、原液を高分子量のポリフェノール類(例えば、柿タンニン)と低分子量のポリフェノール類(例えば、柿タンニン)に分離することができる。
【0023】
<限外ろ過膜の分画性能評価方法>
本発明の限外ろ過膜の分画性能評価方法を説明する。
限外ろ過膜の分画性能(分画分子量)は、同じ分画分子量と表示されている膜であっても、分画分子量を決定するために使用する標準物質が異なる場合には、実際の分画物の分画分子量が異なることが知られている。
例えば、分画分子量が1万と表示されている2種類の限外ろ過膜であっても、標準物質の違いにより実際に分画できる分子量は異なっている。
本発明は、限外ろ過膜ごとにばらばらな分画性能を標準化することができる分画性能評価方法を提供するものである。
以下、複数の手順に分けて説明する。
【0024】
手順1において、標準物質水溶液を限外ろ過して、前記標準物質を含む透過液を得る。
標準物質となるのは、水溶性または水分散性の微生物(酵母・大腸菌)、微粒子、タンパク質、ウィルス、マイコプラズマ、ポリエチレングリコール、ポリフェノール類などの水溶性ポリマー、フミン質、バイオポリマー(Guar gum)、およびアルギン酸、ヒアルロン酸、コンドロイチン、ペクチンなどの多糖類、アミノ酸、塩から選ばれる1種以上からなるものであり、さらに分離膜孔径の回転半径計測に適した回転半径の分布(想定孔径を中心域に有し、それよりも大粒径と小粒径の両方を含んで連続する粒径分布)を有しているものである。
【0025】
手順2において、透過液中の標準物質をGPC(RI)-MALSを使用して分析して、時間に応じた電圧変化(横軸が時間[min])、縦軸が電圧[mV])のチャートを作成する。
GPC(RI)-MALSは、検出器としてRI(示差屈折率検出器)を備えたGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)にMALS(多角度光散乱検出器)を接続した分析装置である。
GPC(RI)-MALSは、例えば、昭光サイエンス(株)から販売されており、同社より、動的光散乱DLSモジュール(Wyatt QELS)をGPC-MALSに内蔵させることにより、MALS(DAWNシリーズ)単体では測定できない、回転半径10nm以下の資料のサイズ情報を得ることができることが公表されており、実際に3nm程度の測定結果も公開されている。
【0026】
手順3において、手順2で作成したチャートがベースライン(横軸)に沿った状態から離れた点(A点)(透過限界点)と、チャートが急激に立ち上がり(即ち、電圧が急上昇しており、標準物質濃度が急上昇したことを示している)、前記急激に立ち上がったチャートとの接線となる直線の延長部分が横軸と接する点(B点)(分画点)を求める(
図2参照)。
【0027】
手順4において、A点とB点のそれぞれの回転半径と絶対分子量をGPC-MALSで測定する。
A点とB点のそれぞれの回転半径を求めることにより、限外ろ過に使用した限外ろ過膜の分画性能を明確にすることができる。
A点からB点の回転半径の差が大きければ限外ろ過膜の孔径のバラツキが大きいことを示し、逆にA点からB点の回転半径の差が小さければ限外ろ過膜の孔径のバラツキが小さいことを示すことになる。
【0028】
各実施形態における各構成およびそれらの組み合わせなどは一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲で、適宜構成の付加、省略、置換およびその他の変更が可能である。本発明は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0029】
実施例1
図1に示す製造フローに沿って、高分子量の柿タンニンと低分子量の柿タンニンを分離した。
奈良県農業研究開発センターで冷凍保存されていた不純物の無い柿タンニン4.5g、食塩0.4gを脱イオン水1Lに溶解した前処理液を、前処理液タンク2に入れた。
前記柿タンニンは、平成28年8月に収穫した渋柿品種の「平核無」を用い、特許4500078号公報に記載の方法で精製したものであり、
図3のGPSチャートから、不純物を含んでいないものであることが確認された。
【0030】
前処理液タンク2内の前処理液を限外ろ過膜モジュール3(ダイセン・メンブレン・システムズ製ポリエーテルサルホン中空糸膜[FUS0181、膜面積0.013m2]のペンシル膜を使用している)に送って、常温、ポンプ入口圧を0.06~0.1MPaでクロスフロー運転を実施した。
透過液タンク4内の透過液量が500mLになった時点で、運転を一時停止した。第1回目の透過液の膜透過水量はおよそ26L/m2・Hr.であった。第1回目透過液は、透過液タンク4から全量抜き取り、回収タンク内に回収した。
【0031】
次に前処理タンク2に希釈水として脱イオン水500mLを添加し、同様条件でろ過運転を継続し、透過液タンク4の水量が500mLになった時点で、運転を停止した。第2回目の透過液の膜透過水量はおよそ22L/m2・Hr.であった。
第2回目の透過液を、透過液タンク4から全量抜き取り、その後、前処理タンク2内とフロー内部の液を全量回収したものを合わせて濃縮液とした。
【0032】
濃縮液(前処理タンク2)、第1回目透過液(回収タンク)および第2回目透過液(透過液タンク4)のそれぞれに対して、食塩を1.5g添加溶解して塩析処理工程を実施した。
それぞれのタンク内にて沈殿した柿タンニンは、吸引ロートを用いて回収した。
濃縮液から回収された柿タンニンの質量は1.2g、第1回目透過液から回収された柿タンニンの質量は1.6g、第2回目透過液から回収された柿タンニンの質量は1.2gであった。
GPC分析によりそれぞれの柿タンニンの分子量分布を確認したのち、GPC-MALSにて濃縮液と第1回目透過液から回収された柿タンニンの絶対分子量と回転半径の最大値を求めた。結果を表1に示す。
【0033】
【0034】
参考例1
比較用の柿タンニン(有機酸を不純物として含む)精製水溶液と、比較用の柿タンニン(有機酸を不純物として含む)精製水溶液と0.1M食塩水の混合溶液(本発明の前処理液に相当)のGPC(UV)チャートを
図4に示す。
0.1M食塩水との混合溶液(
図4中の太い実線)では、35分より早く検知されるピークはなかった。
柿タンニン(有機酸を不純物として含む)精製水溶液(
図4中の細い実線)は、15分付近や30分付近にピークが発現していた。これらのピーク(高分子量成分)は、柿タンニンの会合によって高分子量化したものであると考えられる。
(GPCの測定条件)
カラム:TSK guardcolumn PWXL(ガードカラム) +TSK-gel GMPWXL×2本(東ソー)
カラム温度:35℃
溶離液:0.01M NaCl aq.
流速:0.6mL/min
注入量:50μL
サンプル濃度:約5mg/mL
検出器:UV(SPD-10AV:株式会社島津製作所),230nm
(HPLC装置:SCL-10AVP(HPLC)、SIL-10ADVP(オートサンプラー),LC-10ADVP(ポンプ), CTO-10AVP(カラムオーブン):いずれも島津製作所製)
【0035】
実施例2
上記した手順1~3を実施して、
図2のチャートからA点とB点を求めた。
(GPC-MALSの測定条件)
カラム:TSK guardcolumn PWXL(ガードカラム) +TSK-gel GMPWXL×2本(東ソー)
カラム温度:35℃
溶離液:0.01M NaCl 水溶液
流速:0.8mL/min
注入量:100μL
サンプル濃度:約5mg/mL
検出器:MALS(DAWN HELEOS II:Wyatt Technology社)、粘度計(Visco Star III :Wyatt Technology社)
【0036】
次に上記した手順4を実施して、A点とB点の絶対分子量と回転半径を求めた。結果を表2に示す。
【0037】
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のポリフェノール類の製造方法により得られた高分子量柿タンニンは、金属の防錆剤、貴金属の排水からの吸着回収、日本酒の澱下げ剤、排水凝集剤、ボイラー水クリーニング剤、RO膜阻止率向上剤、ポリマー添加剤、積層体材料、粘接着剤、皮革の鞣し剤、毛髪の染色剤、パーマ剤に、低分子量柿タンニンは、石けんや防臭スプレーなどの製造原料、ノロウィルス抗菌剤、お茶、コーヒー飲料、菓子、食肉、魚肉加工品などの食品添加剤、悪酔い防止剤、健康食品、ビタミン剤の製造原料として利用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 前処理工程タンク
2 前処理液タンク
3 限外ろ過膜モジュール
4 透過液タンク
5 塩析用タンク