(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】撮像装置および撮像方法
(51)【国際特許分類】
H04N 23/60 20230101AFI20240104BHJP
G02F 1/01 20060101ALI20240104BHJP
G02B 21/06 20060101ALI20240104BHJP
G02B 21/36 20060101ALI20240104BHJP
H04N 23/55 20230101ALI20240104BHJP
【FI】
H04N23/60
G02F1/01 B
G02B21/06
G02B21/36
H04N23/55
H04N23/60 500
(21)【出願番号】P 2019234720
(22)【出願日】2019-12-25
【審査請求日】2022-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100110582
【氏名又は名称】柴田 昌聰
(72)【発明者】
【氏名】中本 勝大
【審査官】吉田 千裕
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105467806(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110231292(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0198236(US,A1)
【文献】国際公開第2014/064636(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0276050(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 23/60
G02F 1/01
G02B 21/06
G02B 21/36
H04N 23/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コヒーレントな光を出力する光源と、
前記光源からの出力光が照射された対象物の像が形成される変調面を有し、設定された光位相変調パターンに基づいて前記変調面における複数の画素領域それぞれにおいて入力光に対して光位相変調を行って当該変調後の光を出力する空間光変調器と、
前記空間光変調器からの出力光のフーリエ変換像を形成するフーリエ変換光学系と、
前記フーリエ変換像のうち0次光を選択的に受光し、その光強度を検出して光強度値を出力する光検出器と、
前記空間光変調器の前記変調面における光位相変調パターンの設定を制御し、前記光位相変調パターンおよび前記光強度値に基づいて前記対象物の位相画像を求める制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記空間光変調器の前記変調面に第1領域および第2領域を設定し、
第1領域位相画像取得ステップにおいて、前記第1領域に複数の光位相変調パターンを順次に設定し、前記第1領域における各々の光位相変調パターンの設定時に前記第1領域以外の領域において複数の一様な位相シフトを順次に設定して前記光強度値を取得し、位相シフト法を用いて前記第1領域に対応する前記対象物の領域の位相画像を求め、
第2領域位相画像取得ステップにおいて、前記第2領域に複数の光位相変調パターンを順次に設定し、前記第2領域における各々の光位相変調パターンの設定時に前記第2領域以外の領域において複数の一様な位相シフトを順次に設定して前記光強度値を取得し、位相シフト法を用いて前記第2領域に対応する前記対象物の領域の位相画像を求める、
撮像装置。
【請求項2】
コヒーレントな光を出力する光源と、
前記光源からの出力光が入力される変調面を有し、設定された光位相変調パターンに基づいて前記変調面における複数の画素領域それぞれにおいて入力光に対して光位相変調を行って当該変調後の光を出力する空間光変調器と、
前記空間光変調器からの出力光が照射された対象物のフーリエ変換像を形成するフーリエ変換光学系と、
前記フーリエ変換像のうち0次光を選択的に受光し、その光強度を検出して光強度値を出力する光検出器と、
前記空間光変調器の前記変調面における光位相変調パターンの設定を制御し、前記光位相変調パターンおよび前記光強度値に基づいて前記対象物の位相画像を求める制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記空間光変調器の前記変調面に第1領域および第2領域を設定し、
第1領域位相画像取得ステップにおいて、前記第1領域に複数の光位相変調パターンを順次に設定し、前記第1領域における各々の光位相変調パターンの設定時に前記第1領域以外の領域において複数の一様な位相シフトを順次に設定して前記光強度値を取得し、位相シフト法を用いて前記第1領域に対応する前記対象物の領域の位相画像を求め、
第2領域位相画像取得ステップにおいて、前記第2領域に複数の光位相変調パターンを順次に設定し、前記第2領域における各々の光位相変調パターンの設定時に前記第2領域以外の領域において複数の一様な位相シフトを順次に設定して前記光強度値を取得し、位相シフト法を用いて前記第2領域に対応する前記対象物の領域の位相画像を求める、
撮像装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記第1領域位相画像取得ステップにおいて、前記第1領域に含まれる画素領域の個数と同数の光位相変調パターンを前記第1領域に順次に設定する、
請求項1または2に記載の撮像装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記第2領域位相画像取得ステップにおいて、前記第2領域に含まれる画素領域の個数と同数の光位相変調パターンを前記第2領域に順次に設定する、
請求項1~3の何れか1項に記載の撮像装置。
【請求項5】
前記制御部は、位相シフト法を用いて、前記第1領域に対応する前記対象物の領域の振幅画像を求めるとともに、前記第2領域に対応する前記対象物の領域の振幅画像を求め、これら二つの振幅画像の間で振幅比を調整することで、前記第1領域および前記第2領域の双方に対応する前記対象物の振幅画像を求める、
請求項1~4の何れか1項に記載の撮像装置。
【請求項6】
前記フーリエ変換光学系により形成される前記フーリエ変換像のうちの前記0次光を選択的に通過させるアパーチャを更に備え、
前記光検出器が、前記アパーチャを通過した光を受光する、
請求項1~5の何れか1項に記載の撮像装置。
【請求項7】
前記フーリエ変換光学系により形成される前記フーリエ変換像のうちの前記0次光の位置に入力端が配置され、その入力端に入力された光を導光して出力端から出力する光導波路を更に備え、
前記光検出器が、前記光導波路の前記出力端から出力された光を受光する、
請求項1~5の何れか1項に記載の撮像装置。
【請求項8】
コヒーレントな光を出力する光源と、
前記光源からの出力光が照射された対象物の像が形成される変調面を有し、設定された光位相変調パターンに基づいて前記変調面における複数の画素領域それぞれにおいて入力光に対して光位相変調を行って当該変調後の光を出力する空間光変調器と、
前記空間光変調器からの出力光のフーリエ変換像を形成するフーリエ変換光学系と、
前記フーリエ変換像のうち0次光を選択的に受光し、その光強度を検出して光強度値を出力する光検出器と、
を用いて、前記対象物を撮像する方法であって、
前記空間光変調器の前記変調面に第1領域および第2領域を設定する領域設定ステップと、
前記第1領域に複数の光位相変調パターンを順次に設定し、前記第1領域における各々の光位相変調パターンの設定時に前記第1領域以外の領域において複数の一様な位相シフトを順次に設定して前記光強度値を取得し、位相シフト法を用いて前記第1領域に対応する前記対象物の領域の位相画像を求める第1領域位相画像取得ステップと、
前記第2領域に複数の光位相変調パターンを順次に設定し、前記第2領域における各々の光位相変調パターンの設定時に前記第2領域以外の領域において複数の一様な位相シフトを順次に設定して前記光強度値を取得し、位相シフト法を用いて前記第2領域に対応する前記対象物の領域の位相画像を求める第2領域位相画像取得ステップと、
を備える撮像方法。
【請求項9】
コヒーレントな光を出力する光源と、
前記光源からの出力光が入力される変調面を有し、設定された光位相変調パターンに基づいて前記変調面における複数の画素領域それぞれにおいて入力光に対して光位相変調を行って当該変調後の光を出力する空間光変調器と、
前記空間光変調器からの出力光が照射された対象物のフーリエ変換像を形成するフーリエ変換光学系と、
前記フーリエ変換像のうち0次光を選択的に受光し、その光強度を検出して光強度値を出力する光検出器と、
を用いて、前記対象物を撮像する方法であって、
前記空間光変調器の前記変調面に第1領域および第2領域を設定する領域設定ステップと、
前記第1領域に複数の光位相変調パターンを順次に設定し、前記第1領域における各々の光位相変調パターンの設定時に前記第1領域以外の領域において複数の一様な位相シフトを順次に設定して前記光強度値を取得し、位相シフト法を用いて前記第1領域に対応する前記対象物の領域の位相画像を求める第1領域位相画像取得ステップと、
前記第2領域に複数の光位相変調パターンを順次に設定し、前記第2領域における各々の光位相変調パターンの設定時に前記第2領域以外の領域において複数の一様な位相シフトを順次に設定して前記光強度値を取得し、位相シフト法を用いて前記第2領域に対応する前記対象物の領域の位相画像を求める第2領域位相画像取得ステップと、
を備える撮像方法。
【請求項10】
前記第1領域位相画像取得ステップにおいて、前記第1領域に含まれる画素領域の個数と同数の光位相変調パターンを前記第1領域に順次に設定する、
請求項8または9に記載の撮像方法。
【請求項11】
前記第2領域位相画像取得ステップにおいて、前記第2領域に含まれる画素領域の個数と同数の光位相変調パターンを前記第2領域に順次に設定する、
請求項8~10の何れか1項に記載の撮像方法。
【請求項12】
位相シフト法を用いて、前記第1領域に対応する前記対象物の領域の振幅画像を求めるとともに、前記第2領域に対応する前記対象物の領域の振幅画像を求め、これら二つの振幅画像の間で振幅比を調整することで、前記第1領域および前記第2領域の双方に対応する前記対象物の振幅画像を求める振幅画像取得ステップを更に備える、
請求項8~11の何れか1項に記載の撮像方法。
【請求項13】
前記フーリエ変換光学系により形成される前記フーリエ変換像のうちの前記0次光を選択的に通過させるアパーチャを用いて、
前記アパーチャを通過した光を前記光検出器により受光する、
請求項8~12の何れか1項に記載の撮像方法。
【請求項14】
前記フーリエ変換光学系により形成される前記フーリエ変換像のうちの前記0次光の位置に入力端が配置され、その入力端に入力された光を導光して出力端から出力する光導波路を用いて、
前記光導波路の前記出力端から出力された光を前記光検出器により受光する、
請求項8~12の何れか1項に記載の撮像方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像装置および撮像方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1および非特許文献1に記載された撮像装置は、入力光に対する出力光の強度比を画素毎に変調することができる空間光変調器としてデジタル・マイクロミラー・デバイス(DMD: Digital Micromirror Device)を用いるとともに、入力光の強度を検出する光検出器を用いて、対象物の像を得ることができる。これらの文献に記載された撮像装置では、対象物の像をDMDの変調面に形成し、設定された光振幅変調パターンに基づいてDMDにより画素毎に光振幅変調を行って、その変調後の光の強度を光検出器により検出する。複数種類の光振幅変調パターンを順次にDMDに設定し、各々の光振幅変調パターンの設定時に光検出器により光強度値を取得して、各光振幅変調パターンおよび対応する光強度値を記憶部により記憶する。そして、記憶部に記憶された複数組の光振幅変調パターンおよび光強度値を解析することにより、対象物の像を取得することができる。
【0003】
また、非特許文献2に記載された撮像装置は、光の位相を画素毎に変調することができる空間光変調器を用いるとともに、入力光の強度を検出する光検出器を用いて、対象物の位相画像を得ることができる。この文献に記載された撮像装置では、対象物の像を空間光変調器の変調面に形成し、設定された光位相変調パターンに基づいて空間光変調器により画素毎に光位相変調を行って、その変調後の光の強度を光検出器により検出する。複数種類の光位相変調パターンを順次に空間光変調器に設定し、各々の光位相変調パターンの設定時に光検出器により光強度値を取得して、各光位相変調パターンおよび対応する光強度値を記憶部により記憶する。そして、記憶部に記憶された複数組の光位相変調パターンおよび光強度値を解析することにより、対象物の位相画像を取得することができる。
【0004】
これらの撮像装置で用いられる光検出器は、入力光のビーム断面の強度分布を検出するために複数の画素が配列されたイメージセンサである必要はなく、単一の画素からなるポイントセンサであってよい。したがって、イメージセンサの使用が適切でない波長域で対象物を撮像することが要求される場合、または、イメージセンサより低ノイズもしくは高性能で対象物を撮像することが要求される場合等に、ポイントセンサを用いた撮像装置による撮像が有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開第2006/0239336号明細書
【非特許文献】
【0006】
【文献】Dharmpal Takhar, et al. "ANew Compressive Imaging Camera Architecture using Optical-Domain Compression,"Proc. IS&T/SPIE Computational Imaging IV, January 2006.
【文献】Kazuki Ota, Yoshio Hayasaki, "Complex-amplitudesingle-pixel imaging," Opt. Lett., Vol.43, No.15, pp.3682-3685 (2018).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献2に記載された撮像装置は、空間光変調器の変調面の一部領域をリファレンス領域として用いて、位相シフト法により対象物の位相画像を取得する。このことから、取得される位相画像の画素数は少なくなり、位相画像の解像度は低くなる。
【0008】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、空間光変調器および光検出器を用いて対象物の高解像度の位相画像を取得することができる撮像装置および撮像方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1態様の撮像装置は、(1) コヒーレントな光を出力する光源と、(2) 光源からの出力光が照射された対象物の像が形成される変調面を有し、設定された光位相変調パターンに基づいて変調面における複数の画素領域それぞれにおいて入力光に対して光位相変調を行って当該変調後の光を出力する空間光変調器と、(3) 空間光変調器からの出力光のフーリエ変換像を形成するフーリエ変換光学系と、(4) フーリエ変換像のうち0次光を選択的に受光し、その光強度を検出して光強度値を出力する光検出器と、(5) 空間光変調器の変調面における光位相変調パターンの設定を制御し、光位相変調パターンおよび光強度値に基づいて対象物の位相画像を求める制御部と、を備える。
【0010】
本発明の第2態様の撮像装置は、(1) コヒーレントな光を出力する光源と、(2) 光源からの出力光が入力される変調面を有し、設定された光位相変調パターンに基づいて変調面における複数の画素領域それぞれにおいて入力光に対して光位相変調を行って当該変調後の光を出力する空間光変調器と、(3) 空間光変調器からの出力光が照射された対象物のフーリエ変換像を形成するフーリエ変換光学系と、(4) フーリエ変換像のうち0次光を選択的に受光し、その光強度を検出して光強度値を出力する光検出器と、(5) 空間光変調器の変調面における光位相変調パターンの設定を制御し、光位相変調パターンおよび光強度値に基づいて対象物の位相画像を求める制御部と、を備える。
【0011】
本発明の第1態様および第2態様の撮像装置において、制御部は、(a) 空間光変調器の変調面に第1領域および第2領域を設定し、(b) 第1領域位相画像取得ステップにおいて、第1領域に複数の光位相変調パターンを順次に設定し、第1領域における各々の光位相変調パターンの設定時に第1領域以外の領域において複数の一様な位相シフトを順次に設定して光強度値を取得し、位相シフト法を用いて第1領域に対応する対象物の領域の位相画像を求め、(c) 第2領域位相画像取得ステップにおいて、第2領域に複数の光位相変調パターンを順次に設定し、第2領域における各々の光位相変調パターンの設定時に第2領域以外の領域において複数の一様な位相シフトを順次に設定して光強度値を取得し、位相シフト法を用いて第2領域に対応する対象物の領域の位相画像を求める。
【0012】
本発明の第1態様および第2態様の撮像装置において、制御部は、第1領域位相画像取得ステップにおいて、第1領域に含まれる画素領域の個数と同数の光位相変調パターンを第1領域に順次に設定するのが好適である。制御部は、第2領域位相画像取得ステップにおいて、第2領域に含まれる画素領域の個数と同数の光位相変調パターンを第2領域に順次に設定するのが好適である。また、制御部は、位相シフト法を用いて、第1領域に対応する対象物の領域の振幅画像を求めるとともに、第2領域に対応する対象物の領域の振幅画像を求め、これら二つの振幅画像の間で振幅比を調整することで、第1領域および第2領域の双方に対応する対象物の振幅画像を求めるのが好適である。
【0013】
本発明の第1態様および第2態様の撮像装置は、フーリエ変換光学系により形成されるフーリエ変換像のうちの0次光を選択的に通過させるアパーチャを更に備え、光検出器が、アパーチャを通過した光を受光するのが好適である。また、本発明の第1態様および第2態様の撮像装置は、フーリエ変換光学系により形成されるフーリエ変換像のうちの0次光の位置に入力端が配置され、その入力端に入力された光を導光して出力端から出力する光導波路を更に備え、光検出器が、光導波路の出力端から出力された光を受光するのも好適である。
【0014】
本発明の第1態様の撮像方法は、(1) コヒーレントな光を出力する光源と、(2) 光源からの出力光が照射された対象物の像が形成される変調面を有し、設定された光位相変調パターンに基づいて変調面における複数の画素領域それぞれにおいて入力光に対して光位相変調を行って当該変調後の光を出力する空間光変調器と、(3) 空間光変調器からの出力光のフーリエ変換像を形成するフーリエ変換光学系と、(4) フーリエ変換像のうち0次光を選択的に受光し、その光強度を検出して光強度値を出力する光検出器とを用いて、対象物を撮像する方法である。
【0015】
本発明の第2態様の撮像方法は、(1) コヒーレントな光を出力する光源と、(2) 光源からの出力光が入力される変調面を有し、設定された光位相変調パターンに基づいて変調面における複数の画素領域それぞれにおいて入力光に対して光位相変調を行って当該変調後の光を出力する空間光変調器と、(3) 空間光変調器からの出力光が照射された対象物のフーリエ変換像を形成するフーリエ変換光学系と、(4) フーリエ変換像のうち0次光を選択的に受光し、その光強度を検出して光強度値を出力する光検出器とを用いて、対象物を撮像する方法である。
【0016】
本発明の第1態様および第2態様の撮像方法は、(a) 空間光変調器の変調面に第1領域および第2領域を設定する領域設定ステップと、(b) 第1領域に複数の光位相変調パターンを順次に設定し、第1領域における各々の光位相変調パターンの設定時に第1領域以外の領域において複数の一様な位相シフトを順次に設定して光強度値を取得し、位相シフト法を用いて第1領域に対応する対象物の領域の位相画像を求める第1領域位相画像取得ステップと、(c) 第2領域に複数の光位相変調パターンを順次に設定し、第2領域における各々の光位相変調パターンの設定時に第2領域以外の領域において複数の一様な位相シフトを順次に設定して光強度値を取得し、位相シフト法を用いて第2領域に対応する対象物の領域の位相画像を求める第2領域位相画像取得ステップと、を備える。
【0017】
本発明の第1態様および第2態様の撮像方法は、第1領域位相画像取得ステップにおいて、第1領域に含まれる画素領域の個数と同数の光位相変調パターンを第1領域に順次に設定するのが好適である。第2領域位相画像取得ステップにおいて、第2領域に含まれる画素領域の個数と同数の光位相変調パターンを第2領域に順次に設定するのが好適である。位相シフト法を用いて、第1領域に対応する対象物の領域の振幅画像を求めるとともに、第2領域に対応する対象物の領域の振幅画像を求め、これら二つの振幅画像の間で振幅比を調整することで、第1領域および第2領域の双方に対応する対象物の振幅画像を求める振幅画像取得ステップを更に備えるのが好適である。
【0018】
本発明の第1態様および第2態様の撮像方法は、フーリエ変換光学系により形成されるフーリエ変換像のうちの0次光を選択的に通過させるアパーチャを用いて、アパーチャを通過した光を光検出器により受光するのが好適である。また、本発明の第1態様および第2態様の撮像方法は、フーリエ変換光学系により形成されるフーリエ変換像のうちの0次光の位置に入力端が配置され、その入力端に入力された光を導光して出力端から出力する光導波路を用いて、光導波路の出力端から出力された光を光検出器により受光するのも好適である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、空間光変調器および光検出器を用いて対象物の高解像度の位相画像を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図4】
図4は、空間光変調器の変調面の第1領域S1および第2領域S2の設定例について説明する図である。
【
図5】
図5は、空間光変調器の変調面の第1領域S1および第2領域S2の他の設定例について説明する図である。
【
図6】
図6は、空間光変調器の変調面の第1領域S1における第k光位相変調パターンg
k,iについて説明する図である。
【
図7】
図7(a)は、シミュレーションで用いた元画像である。
図7(b)は、シミュレーションで得られた位相画像である。
【
図8】
図8(a)は、シミュレーションで得られた振幅画像(補正前)である。
図8(b)は、シミュレーションで得られた振幅画像(補正後)である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0022】
図1は、撮像装置1の構成を示す図である。撮像装置1は、光源10、空間光変調器21、フーリエ変換光学系30、光検出器40、制御部50、ビームスプリッタ60およびアパーチャ70を備える。撮像装置1は、対象物Sの位相画像を取得することができ、更に対象物Sの振幅画像を取得することができる。すなわち、撮像装置1は、複素振幅画像を取得することができる。
【0023】
光源10は、対象物Sへ照射すべきコヒーレントな光を出力する光源であり、好適にはレーザ光源である。光源10が出力する光の波長は、空間光変調器21により光位相変調が可能であって、光検出器40が感度を有するものであればよい。光源10からの出力光は対象物Sに照射される。光源10と対象物Sとの間に、光源10からの出力光のビーム径を拡大するビームエキスパンダが設けられてもよい。対象物Sを透過した光は、ビームスプリッタ60を透過して、空間光変調器21の受光面に到達する。
【0024】
対象物Sと空間光変調器21の変調面との間に、対象物Sの像を空間光変調器21の変調面に形成するための結像光学系が設けられてもよい。対象物Sから空間光変調器21の変調面に到達する光が像を維持したまま伝搬するのであれば結像光学系は不要である。
【0025】
空間光変調器21は、光源10からの出力光が照射された対象物Sの像が形成される変調面を有する。この変調面には複数の画素領域が配列されており、画素領域毎に入力光に対して光位相変調を行って光を出力することができる。空間光変調器21は、設定された光位相変調パターンに基づいて変調面における複数の画素領域それぞれにおいて入力光に対して光位相変調を行って当該変調後の光を出力する。この図に示される空間光変調器21は反射型のものである。
【0026】
空間光変調器21からの出力光は、ビームスプリッタ60で反射されて、フーリエ変換光学系30に到達する。フーリエ変換光学系30は、空間光変調器21からの出力光のフーリエ変換像を形成する。光検出器40は、そのフーリエ変換像のうち0次光を選択的に受光し、その光強度を検出して光強度値を出力する。光検出器40は、イメージセンサである必要はなく、ポイントセンサであってよい。光検出器40の受光領域の大きさは、フーリエ変換像のうち0次光を選択的に受光することができる程度であってもよいし、それより大きくてもよい。後者の場合には、フーリエ変換光学系30によりフーリエ変換像が形成される位置にアパーチャ70を設け、このアパーチャ70によりフーリエ変換像のうち0次光を選択的に通過させて、アパーチャ70を通過した光を光検出器40が受光すればよい。
【0027】
制御部50は、空間光変調器21の変調面における光位相変調パターンの設定を制御し、光位相変調パターンおよび光強度値に基づいて対象物Sの位相画像を求め、更に対象物Sの振幅画像を求める。制御部50の処理の詳細については後述する。
【0028】
図2は、撮像装置2の構成を示す図である。
図1に示された撮像装置1の構成と比較すると、
図2に示される撮像装置2は、アパーチャ70に替えて光ファイバ80を備える点で相違する。光導波路である光ファイバ80の入力端80aは、フーリエ変換光学系30により形成されるフーリエ変換像のうちの0次光の位置に配置されており、その0次光を選択的に入力する。光ファイバ80は、入力端80aに入力した光を導光して出力端80bから出力する。光検出器40は、光ファイバ80の出力端80bから出力された光を受光する。この場合も、光検出器40の受光領域は大きくてもよい。
【0029】
図3は、撮像装置3の構成を示す図である。
図1に示された撮像装置1の構成と比較すると、
図3に示される撮像装置3は、反射型の空間光変調器21に替えて透過型の空間光変調器22を備える点で相違し、これによりビームスプリッタ60を不要としている点で相違している。また、
図1に示された撮像装置1の構成と比較すると、
図3に示される撮像装置3は、空間光変調器22より後段に対象物Sが配置されている点でも相違している。
【0030】
この構成では、空間光変調器22は、光源10からの出力光が入力される変調面を有し、設定された光位相変調パターンに基づいて変調面における複数の画素領域それぞれにおいて入力光に対して光位相変調を行って当該変調後の光を対象物Sへ出力する。フーリエ変換光学系30は、空間光変調器22からの出力光が照射された対象物Sのフーリエ変換像を形成する。
【0031】
なお、撮像装置の光学系は様々な態様が可能である。例えば、
図3の構成においてアパーチャ70に替えて光ファイバ80を備えてもよい。対象物Sを一方側から他方側へ透過した光に基づいて位相画像等を取得することに替えて、対象物Sの背後に配置したミラーで反射した光(すなわち、対象物Sの内部を往復した光)に基づいて位相画像等を取得してもよい。
【0032】
次に、光検出器40が出力する光強度値について説明する。空間光変調器の変調面上の二次元直交座標系上の位置を表す変数をξ,ηとし、フーリエ変換像が形成される面上の二次元直交座標系上の位置を表す変数をx,yとする。変調面に設定される光位相変調分布をφ(ξ,η)とする。
図1において、空間光変調器の変調面に到達する光の複素振幅分布は下記(1)式で表され、空間光変調器により変調されて出力される光の複素振幅分布は下記(2)式で表される。フーリエ変換光学系30により形成されるフーリエ変換像の複素振幅分布は下記(3)式で表される。ここで、スケール因子を無視した。jは虚数単位である。
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
フーリエ変換像のうちの0次光の複素振幅は、(3)式においてx=y=0として得られ、下記(4)式で表される。光検出器40が出力する光強度値は、(4)式の絶対値として下記(5)式で表される。実際には空間光変調器の変調面では離散的に複数の画素領域が配列されているので、積分形式の(5)式に替えて総和形式の下記(6)式で表される。ここでもスケール因子を無視した。添え字iは、複数の画素領域のうちの第i画素領域を表す。
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
次に、制御部50の処理について説明する。制御部50は、空間光変調器の変調面に第1領域S1および第2領域S2を設定する(領域設定ステップ)。
図4および
図5は、空間光変調器の変調面の第1領域S1および第2領域S2の設定例について説明する図である。これらの図では、空間光変調器の変調面が64(=8×8)個の画素領域を含むとして、これら64個の画素領域のうちの第i画素領域に到達する光の複素振幅をx
iとして示している。第i画素領域に到達する光の複素振幅x
iは下記(7)式で表される。
【0041】
【0042】
第1領域S1および第2領域S2の設定は任意である。例えば、
図4に示されるように、32(=8×4)個の画素領域を含む矩形領域を第1領域S1とし、残りの32(=8×4)個の画素領域を含む矩形領域を第2領域S2としてもよい。また、
図5に示されるように、40(=8×5)個の画素領域を含む矩形領域を第1領域S1とし、40(=8×5)個の画素領域を含む矩形領域を第2領域S2としてもよく、この場合は、16個の画素領域は第1領域S1および第2領域S2の双方に含まれる。また、第1領域S1および第2領域S2それぞれは、矩形領域でなくてもよく、単一の領域ではなく複数の部分領域を含んでいてもよい。以下では、
図4に示されるように、各画素領域が第1領域S1および第2領域S2の何れか一方に含まれる場合について説明する。
【0043】
制御部50は、第1領域S1に対応する対象物Sの領域の位相画像を求め(第1領域位相画像取得ステップ)、第2領域S2に対応する対象物Sの領域の位相画像を求める(第2領域位相画像取得ステップ)。また、制御部50は、第1領域および第2領域の双方に対応する対象物Sの振幅画像を求める(振幅画像取得ステップ)。
【0044】
第1領域位相画像取得ステップの処理は次のとおりである。第1領域S1に複数の光位相変調パターンを順次に設定する。設定する光位相変調パターンの個数は、第1領域S1に含まれる画素領域の個数と同数の32であるのが好適である。第1領域S1に設定する複数の光位相変調パターンのうちの第k光位相変調パターンg
k,iは下記(8)式で表される。
図6は、空間光変調器の変調面の第1領域S1における第k光位相変調パターンg
k,iについて説明する図である。第1領域S1の第i画素領域から出力される変調後の光の複素振幅は下記(9)式で表される。第1領域S1の全ての画素領域から出力される変調後の光の複素振幅の総和は下記(10)式で表される。
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
第1領域S1における各々の光位相変調パターンgk,iの設定時に、第1領域S1以外の領域(すなわち、第2領域S2)において複数の一様な位相シフトを順次に設定する。一様な位相シフトφを設定したときに、第2領域S2の第i画素領域から出力される変調後の光の複素振幅は下記(11)式で表される。第2領域S2の全ての画素領域から出力される変調後の光の複素振幅の総和は下記(12)式で表される。この(12)式の右辺にあるbは、下記(13)式で表され、位相シフトの基準となる位相変調を与えたときの値であって、実数とすることができる。
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
光検出器40が出力する光強度値Iφは、(10)式と(12)式との和の絶対値の二乗として、下記(14)式で表される。
【0053】
【0054】
第1領域S1における各々の光位相変調パターンgk,iの設定時に、第2領域S2において複数(好適には3以上)の一様な位相シフトφを順次に設定することで取得された光強度値に基づいて、位相シフト法を用いて、第1領域S1に対応する対象物の領域の位相画像を求めることができる。例えば4点位相シフト法を用いる場合、第1領域S1における各々の光位相変調パターンgk,iの設定時に、第2領域S2において一様な位相シフトφとして0,π/2,π,3π/2 を順次に設定して、光強度値I0,Iπ/2,Iπ,I3π/2を取得する。このとき、(10)式の右辺にあるΘkは下記(15)式で得られ、(10)式の右辺にあるAkと(12)式の右辺にあるbとの積Akbは下記(16)式で得られる。
【0055】
【0056】
【0057】
第1領域S1に複数の光位相変調パターンgk,iを順次に設定し、第1領域S1における各々の光位相変調パターンの設定時に第2領域S2において複数の一様な位相シフトを順次に設定することで、下記(17)式で表される連立方程式が得られる。設定する光位相変調パターンの個数が、第1領域S1に含まれる画素領域の個数と同数であれば、(17)式は線形連立方程式であるので、行列{gk,i}の逆行列を用いて解{Xi}が得られる。ただし、本来解きたいのは下記(18)式であり、{Xi}と{xi}との間には下記(19)式の関係がある。つまり、第1領域位相画像取得ステップにおいて、第1領域S1に対応する対象物Sの領域の位相画像{θi}を得ることができ、また、第1領域S1に対応する対象物Sの領域の振幅画像{ai}をb倍した画像{aib}を得ることができる。
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
第1領域位相画像取得ステップに続く第2領域位相画像取得ステップの処理は次のとおりである。第2領域S2に複数の光位相変調パターンを順次に設定する。設定する光位相変調パターンの個数は、第2領域S2に含まれる画素領域の個数と同数の32であるのが好適である。第2領域S2の全ての画素領域から出力される変調後の光の複素振幅の総和は下記(20)式で表される。
【0062】
【0063】
第2領域S2における各々の光位相変調パターンの設定時に、第2領域S2以外の領域(すなわち、第1領域S1)において複数の一様な位相シフトを順次に設定する。一様な位相シフトφを設定したときに第1領域S1の全ての画素領域から出力される変調後の光の複素振幅の総和は下記(21)式で表される。この(21)式の右辺にあるΦは、下記(22)式で表され、第1領域位相画像取得ステップの処理結果に基づいて得られる。
【0064】
【0065】
【0066】
光検出器40が出力する光強度値Iφは、(20)式と(21)式との和の絶対値の二乗として、下記(23)式で表される。
【0067】
【0068】
第1領域S1における各々の光位相変調パターンgk,iの設定時に、第2領域S2において複数(好適には3以上)の一様な位相シフトφを順次に設定することで取得された光強度値に基づいて、第1領域位相画像取得ステップと同様に位相シフト法を用いて、第2領域S2に対応する対象物Sの領域の位相画像{θi}を得ることができ、また、第2領域S2に対応する対象物Sの領域の振幅画像{ai}をc倍した画像{aic}を得ることができる。
【0069】
ここまでの処理により、第1領域および第2領域の双方に対応する対象物Sの位相画像{θi}を得ることができる。一方、振幅画像については、第1領域S1に対応する対象物Sの領域の振幅画像{ai}をb倍した画像{aib}、および、第2領域S2に対応する対象物Sの領域の振幅画像{ai}をc倍した画像{aic}が得られ、第1領域S1と第2領域S2との間で振幅が定数倍だけ異なっている。そこで、第1領域S1と第2領域S2との間で振幅画像が滑らかに接続されるように、双方または何れか一方の振幅画像を定数倍して補正すればよい。このようにすることで、第1領域および第2領域の双方に対応する対象物Sの振幅画像{ai}を得ることができる。
【0070】
なお、
図5に示されるように、一部の画素領域が第1領域S1および第2領域S2の双方に含まれる場合には、第1領域S1および第2領域S2の双方に含まれる画素領域の振幅が一致するように(または、振幅の差が小さくなるように)、双方または何れか一方の振幅画像を定数倍して補正すればよい。
【0071】
次に、シミュレーション結果について説明する。ここでは、
図4に示されるように、空間光変調器の変調面において各画素領域が第1領域S1および第2領域S2の何れか一方に含まれるとした。
図7(a)は、シミュレーションで用いた元画像である。
図7(b)は、シミュレーションで得られた位相画像である。
図8(a)は、シミュレーションで得られた振幅画像(補正前)である。
図8(b)は、シミュレーションで得られた振幅画像(補正後)である。
【0072】
このように、本実施形態によれば、空間光変調器の変調面にある全ての画素領域を用いて対象物の位相画像を取得することができるので、対象物の高解像度の位相画像を取得することができ、また、高解像度の振幅画像を取得することができる。
【符号の説明】
【0073】
1~3…撮像装置、10…光源、21,22…空間光変調器、30…フーリエ変換光学系、40…光検出器、50…制御部、60…ビームスプリッタ、70…アパーチャ、80…光ファイバ、S…対象物。