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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】半導体レーザおよび電子機器
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/22 20060101AFI20240104BHJP
   H01S 5/343 20060101ALI20240104BHJP
【FI】
H01S5/22
H01S5/343 610
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019567021
(86)(22)【出願日】2019-01-17
(86)【国際出願番号】 JP2019001192
(87)【国際公開番号】W WO2019146478
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2022-01-07
(31)【優先権主張番号】P 2018008955
(32)【優先日】2018-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】316005926
【氏名又は名称】ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】徳田 耕太
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】河角 孝行
【審査官】佐竹 政彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/017928(WO,A1)
【文献】特開2005-150568(JP,A)
【文献】国際公開第2013/157176(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0077677(US,A1)
【文献】A. Pourhashemi et al.,"High-power blue laser diodes with indium tin oxide cladding on semipolar (20-2-1) GaN substrates",APPLIED PHYSICS LETTERS,2015年,Vol.106,pp.111105-1 - 111105-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1クラッド層、活性層、複数の低濃度不純物層、コンタクト層、および、透明導電材料で形成された第2クラッド層をこの順に含み、前記コンタクト層を含む部分に積層面内の一の方向に延在するリッジ部を有する半導体積層部を備え、
前記複数の低濃度不純物層において、不純物濃度が5.0×1017cm-3以下となっており、前記複数の低濃度不純物層の総膜厚が250nm以上1000nm以下となっており、
前記複数の低濃度不純物層のうち前記第2クラッド層に最も近い低濃度不純物層と前記第2クラッド層との距離が150nm以下となっており、
前記複数の低濃度不純物層の間に挿入されたキャリアブロック層をさらに備え、
前記リッジ部は、前記複数の低濃度不純物層の一部および前記キャリアブロック層を含む部分に形成され、
前記複数の低濃度不純物層において、前記リッジ部の直下の部分の膜厚が、前記リッジ部の脇の部分の膜厚よりも厚くなっている
半導体レーザ。
【請求項2】
前記第1クラッド層、前記活性層、前記複数の低濃度不純物層、前記コンタクト層および前記キャリアブロック層は、ともに、窒化物半導体で形成されている
請求項1に記載の半導体レーザ。
【請求項3】
前記透明導電材料は、ITO(Indium Tin Oxide)、または、ITiO(Indium Titanium Oxide)である
請求項2に記載の半導体レーザ。
【請求項4】
前記複数の低濃度不純物層に含まれる不純物は、Mg,C,Si,Oのうち少なくとも1つ以上の元素で構成されている
請求項1に記載の半導体レーザ。
【請求項5】
前記キャリアブロック層は,当該キャリアブロック層のエネルギーバンドギャップが前記コンタクト層側に向って減少するように組成傾斜されたグレーデッド層を有する
請求項1に記載の半導体レーザ。
【請求項6】
半導体レーザを光源として備え、
前記半導体レーザは、
第1クラッド層、活性層、複数の低濃度不純物層、コンタクト層、および、透明導電材料で形成された第2クラッド層をこの順に含み、前記コンタクト層を含む部分に積層面内の一の方向に延在するリッジを有する半導体積層部を備え、
前記複数の低濃度不純物層において、不純物濃度が5.0×1017cm-3以下となっており、前記複数の低濃度不純物層の総膜厚が250nm以上1000nm以下となっており、
記複数の低濃度不純物層のうち前記第2クラッド層に最も近い低濃度不純物層と前記第2クラッド層との距離が150nm以下となっており、
前記複数の低濃度不純物層の間に挿入されたキャリアブロック層をさらに備え、
前記リッジ部は、前記複数の低濃度不純物層の一部および前記キャリアブロック層を含む部分に形成され、
前記複数の低濃度不純物層において、前記リッジ部の直下の部分の膜厚が、前記リッジ部の脇の部分の膜厚よりも厚くなっている
電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体レーザおよびそれを備えた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体レーザについての様々な技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-94360号公報
【文献】特開2013-42107号公報
【文献】特開2004-289157号公報
【文献】特開2007-129246号公報
【文献】特開2016-66670号公報
【文献】特開2001-77463号公報
【文献】特開2009-117695号公報
【文献】特開2006-41491号公報
【発明の概要】
【0004】
半導体レーザでは、輝度を高める観点から、高出力化が求められている。高出力化に伴い、発熱が問題となる。発熱量は電力変換効率により決まる。そのため、発熱量を抑えるためには、光出力特性だけでなく、駆動電圧の低減が重要となる。従って、駆動電圧を抑えることの可能な半導体レーザおよびそれを備えた電子機器を提供することが望ましい。
【0005】
本開示の一実施形態に係る半導体レーザは、半導体積層部を備えている。半導体積層部は、第1クラッド層、活性層、複数の低濃度不純物層、コンタクト層、および、透明導電材料で形成された第2クラッド層をこの順に含んでいる。半導体積層部は、さらに、コンタクト層を含む部分に積層面内の一の方向に延在するリッジを有している。複数の低濃度不純物層において、不純物濃度が5.0×1017cm-3以下となっており、複数の低濃度不純物層の総膜厚が250nm以上1000nm以下となっている。複数の低濃度不純物層のうち第2クラッド層に最も近い低濃度不純物層と第2クラッド層との距離が150nm以下となっている。この半導体レーザは、複数の低濃度不純物層の間に挿入されたキャリアブロック層をさらに備えている。リッジ部は、複数の低濃度不純物層の一部およびキャリアブロック層を含む部分に形成されている。複数の低濃度不純物層においてリッジ部の直下の部分の膜厚が、リッジ部の脇の部分の膜厚よりも厚くなっている。
【0007】
本開示の一実施形態に係る電子機器は、上記の半導体レーザを光源として備えている。
【0009】
本開示の一実施形態に係る半導体レーザおよび電子機器では、第2クラッド層が透明導電材料で形成されている。さらに、活性層とコンタクト層との間に設けられた複数の低濃度不純物層において、不純物濃度が5.0×1017cm-3以下となっており、複数の低濃度不純物層の総膜厚が250nm以上1000nm以下となっている。さらに、第2クラッド層に最も近い低濃度不純物層と第2クラッド層との距離が150nm以下となっている。これにより、透明導電材料による光吸収が抑えられ、さらに、例えばMgドープのAlGaNからなる厚膜のクラッド層を設けなくても、透明導電材料で形成された第2クラッド層によって光が積層方向において閉じ込められる。本開示の一実施形態に係る半導体レーザおよび電子機器では、さらに、帯状のリッジが形成されている。これにより、横方向においても光が閉じ込められる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の一実施の形態に係る半導体レーザの断面構成例を表す図である。
図2】上部クラッド層界面における光強度と光吸収損失との関係の一例を表す図である。
図3】比較例Aに係る半導体レーザの断面構成の一例を表す図である。
図4】比較例Bに係る半導体レーザの断面構成の一例を表す図である。
図5】比較例Cに係る半導体レーザの断面構成の一例を表す図である。
図6】実施例および比較例A,BのI-V特性の一例を表す図である。
図7】実施例および比較例A,BのI-L特性の一例を表す図である。
図8】実施例および比較例A,BのI-WPE特性の一例を表す図である。
図9図1の半導体レーザの断面構成の一変形例を表す図である。
図10図1の半導体レーザの断面構成の一変形例を表す図である。
図11図1の半導体レーザの断面構成の一変形例を表す図である。
図12】キャリアブロック層に組成傾斜を設けたときの屈折率分布の一例を表す図である。
図13図12のグレーデッド層の厚さと界面におけるホール濃度との関係の一例を表す図である
図14図1の半導体レーザの断面構成の一変形例を表す図である。
図15図1の半導体レーザの断面構成の一変形例を表す図である。
図16図1の半導体レーザの断面構成の一変形例を表す図である。
図17】上記半導体レーザが適用されるプロジェクタの概略構成の一例を表す図である。
図18】上記半導体レーザが適用される表示装置の概略構成の一例を表す図である。
図19】上記半導体レーザが適用される電子機器の斜視構成の一例を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。以下の説明は本開示の一具体例であって、本開示は以下の態様に限定されるものではない。また、本開示は、各図に示す各構成要素の配置や寸法、寸法比などについても、それらに限定されるものではない。なお、説明は、以下の順序で行う。

1.第1の実施の形態(半導体レーザ)
2.変形例(半導体レーザ)
3.第2の実施の形態(プロジェクタ)
4.第3の実施の形態(表示装置)
5.第4の実施の形態(電子機器)
【0013】
<1.第1の実施の形態>
[構成]
本開示の第1の実施の形態に係る半導体レーザ1について説明する。図1は、本実施の形態に係る半導体レーザ1の断面構成例を表したものである。半導体レーザ1は、後述の半導体積層部20を共振器方向(リッジ部20Aの延在方向)から一対の共振器端面によって挟み込んだ構造となっている。従って、半導体レーザ1は、いわゆる端面発光型の半導体レーザの一種である。
【0014】
半導体レーザ1は、基板10上に半導体積層部20を備えたものである。半導体積層部20は、例えば、下部クラッド層21、下部ガイド層22、活性層23、低濃度不純物層24およびコンタクト層25を基板10側からこの順に有している。下部クラッド層21が、本開示の「第1クラッド層」の一具体例に対応する。なお、半導体積層部20には、上記した層以外の層(例えばバッファ層など)がさらに設けられていてもよい。また、半導体積層部20において、下部ガイド層22が省略されていてもよい。
【0015】
基板10および半導体積層部20は、例えば、GaNなどのIII-V族窒化物半導体で形成されている。ここで、「III-V族窒化物半導体」とは、短周期型周期表における3B族元素群のうちの少なくとも1種(Ga,Al,InおよびBのうち少なくとも1つの元素)と、短周期型周期表における5B族元素のうちの少なくともN元素とを含むものを指している。III-V族窒化物半導体としては、例えば、GaとNとを含んだ窒化ガリウム系化合物が挙げられる。窒化ガリウム系化合物には、例えば、GaN、AlGaN、AlGaInNなどが含まれる。III-V族窒化物半導体には、必要に応じてSi、Ge、O、SeなどのIV族またはVI族元素のn型不純物、または、Mg、Zn、CなどのII族またはIV族元素のp型不純物がドープされている。基板10は、例えば、AlN、Al23(サファイア)、SiC、Si、Zrであってもよい。
【0016】
基板10は、GaN基板などのIII-V族窒化物半導体基板であってもよい。この場合、GaN基板の主面の結晶面は、極性面、半極性面、非極性面のいずれでもよい。極性面は、例えば、面指数を用いて、{0,0,0,1}、または{0,0,0,-1}と表される。半極性面は、例えば、面指数を用いて、{2,0,-2,1}、{1,0,-1,1}、{2,0,-2,-1}、または{1,0,-1,-1}と表される。非極性面は、例えば、面指数を用いて、{1,1,-2,0}または{1,-1,0,0}と表される。
【0017】
下部クラッド層21は、例えば、基板10の主面上に形成されており、例えば、n型導電性を有する半導体層(n型半導体層)によって構成されている。下部クラッド層21は、例えば、GaN層、AlGaN層およびAlGaInN層のうちのいずれか、またはこれらのうち少なくとも2つの層によって構成されている。下部クラッド層21において、n型導電性が得られるためのドーパントとして例えばSiが用いられている。下部クラッド層21の膜厚は、例えば、500nm~3000nmである。
【0018】
下部ガイド層22は、例えば、下部クラッド層21上に形成されており、例えば、n型半導体層によって構成されている。下部ガイド層22は、例えば、GaN層、AlGaN層、InGaN層およびAlGaInN層のうちのいずれか、またはこれらのうち少なくとも2つの層によって構成されている。下部ガイド層22において、n型導電性が得られるためのドーパントとして例えばSiが用いられている。下部ガイド層22の膜厚は、例えば、10nm~500nmである。下部ガイド層22は、ノンドープの半導体層によって構成されていてもよい。
【0019】
活性層23は、例えば、下部ガイド層22上に形成されている。活性層23は、下部ガイド層22と低濃度不純物層24との間に設けられている。活性層23は、例えば、障壁層および井戸層を交互に積層して構成されたものであり、多重井戸構造となっている。活性層23は、多重量子井戸構造となっていてもよい。
【0020】
各井戸層は、Ga,III-V族窒化物半導体で構成されている。各井戸層は、例えば、n型半導体層によって構成されている。各井戸層において、n型導電性が得られるためのドーパントとして例えばSiが用いられている。各井戸層の膜厚は、例えば、1nm~100nmである。各井戸層は、ノンドープの半導体層によって構成されていてもよい。各井戸層から生成される光子波長は、例えば、430nm~550nmである。
【0021】
各障壁層は、III-V族窒化物半導体で構成されている。各障壁層は、例えば、n型半導体層によって構成されている。各障壁層において、n型導電性が得られるためのドーパントとして例えばSiが用いられている。各障壁層の膜厚は、例えば、1nm~100nmである。各障壁層は、ノンドープの半導体層によって構成されていてもよい。障壁層のバンドギャップは、例えば、各井戸層において最大となるバンドギャップ以上の値となっている。
【0022】
低濃度不純物層24は、例えば、活性層23上に形成されており、例えば、n型半導体層によって構成されている。低濃度不純物層24は、例えば、GaN層、AlGaN層、InGaN層およびAlGaInN層のうちのいずれか、またはこれらのうち少なくとも2つの層によって構成されている。低濃度不純物層24には、不純物が含まれている。ここで、不純物とは、III-V族窒化物半導体を構成する元素(具体的には、Ga,Al,InおよびBのうち少なくとも1つの元素と、N元素)以外の元素を指している。不純物は、例えば、Mg,C,Si,Oのうち少なくとも1つ以上の元素で構成されている。低濃度不純物層24に含まれる不純物の濃度は、5.0×1017cm-3以下となっており、例えば、5.0×1016cm-3となっている。低濃度不純物層24の膜厚は、リッジ部20Aと対向する部分において、250nm以上1000nm以下となっており、好ましくは500nm以上1000nm以下となっている。なお、本実施の形態では、低濃度不純物層24は、リッジ部20Aの底部に設けられているだけでなく、リッジ部20Aの脇の部分にも設けられている。そのため、後述のリッジ部20Aの直下の部分の膜厚が、リッジ部20Aの脇の部分の膜厚よりも厚くなっている。
【0023】
低濃度不純物層24に含まれる不純物の濃度は、5.0×1017cm-3以下となっていることにより、不純物に起因する光吸収による光出力特性の劣化を低減、回避することができる。また、低濃度不純物層24の膜厚が、リッジ部20Aと対向する部分において、250nm以上となっていることにより、コンタクト層25や上部クラッド層31の光吸収による光出力特性劣化を低減、回避することができる。また、低濃度不純物層24の膜厚が、リッジ部20Aと対向する部分において、1000nm以下となっていることにより、半導体層の抵抗成分増大による電気特性の劣化を低減、回避することができる。
【0024】
低濃度不純物層24において、不純物濃度や構成材料の組成比が層内で均一となっている必要はなく、低濃度不純物層24が、不純物濃度や構成材料の組成比が互いに異なる複数の層によって構成されていてもよい。その際、その合計の膜厚(総膜厚)が、250nm以上1000nm以下となっており、好ましくは500nm以上1000nm以下となっている。低濃度不純物層24に対して、低濃度不純物層24とは異なる、低濃度不純物層24の膜厚よりも薄い層(例えば、キャリアブロック層やクラッド層)が挿入されていてもよい。
【0025】
コンタクト層25は、例えば、低濃度不純物層24上に形成されており、例えば、p型導電性を有する半導体層(p型半導体層)によって構成されている。コンタクト層25は、例えば、GaN層、AlGaN層およびAlGaInN層のうちのいずれか、またはこれらのうち少なくとも2つの層によって構成されている。コンタクト層25において、p型導電性が得られるためのドーパントとして例えばMgが用いられている。コンタクト層25の膜厚は、例えば、1nm以上150nm以下である。このとき、低濃度不純物層24と上部クラッド層31との距離は、コンタクト層25の膜厚と等しくなっており、例えば、1nm以上150nm以下となっている。
【0026】
半導体積層部20の上部、具体的には、低濃度不純物層24の一部およびコンタクト層25において、凸状のリッジ部20Aが形成されている。コンタクト層25は、リッジ部20Aの上面に形成されている。リッジ部20Aは、コンタクト層25を含む部分に、半導体積層部20の積層面内の一の方向(共振器方向)に延在するリッジ形状を有している。リッジ部20Aは、半導体積層部20における一対の共振器端面によって挟み込まれている。リッジ部20Aの長さは、例えば、50μm~3000μmである。リッジ部20Aの幅(共振器方向と直交する方向の長さ)は、例えば、0.5μm~100μmである。リッジ部20Aは、例えば、コンタクト層25の表面から低濃度不純物層24の中途にかけてエッチング除去がなされることにより形成される。
【0027】
半導体積層部20の上面のうちリッジ部20Aの側面および裾野部分は、絶縁層32によって覆われている。絶縁層32は、例えば、SiO2によって構成されている。絶縁層32の膜厚は、例えば、10nm~500nmである。
【0028】
半導体レーザ1は、さらに、半導体積層部20上に、上部クラッド層31、絶縁層32および上部電極層33を備えており、半導体積層部20の裏面側に、下部電極層34を備えている。上部クラッド層31が、本開示の「第2クラッド層」の一具体例に対応する。
【0029】
上部クラッド層31は、半導体積層部20上であって、かつ、リッジ部20Aの上面に接して形成されている。上部クラッド層31は、コンタクト層25上に形成されている。上部クラッド層31は、透明導電材料で形成されている。上部クラッド層31を構成する透明導電材料としては、ITO(Indium Tin Oxide)、または、ITiO(Indium Titanium Oxide)などが挙げられる。上部クラッド層31の膜厚は10nm以上500nm以下である。上部クラッド層31は、コンタクト層25と電気的に接続されていればよく、その層構成は上記の構成に限らない。また、上部クラッド層31は、コンタクト層25の上面全体と接触していてもよいし、コンタクト層25の上面の一部とだけ接していてもよい。
【0030】
上部電極層33は、上部クラッド層31上に形成されている。上部電極層33は、例えば、Ti層、Pt層、Au層が上部クラッド層31に近い側からこの順に積層された構成となっている。Ti層の膜厚は、例えば、2nm~100nmである。Pt層の膜厚は、例えば、10nm~300nmである。Au層の膜厚は、例えば、10nm~300nmである。上部電極層33は、上部クラッド層31と電気的に接続されていればよく、その層構成は上記の構成に限らない。また、上部電極層33は、上部クラッド層31の上面全体と接触していてもよいし、上部クラッド層31の上面の一部とだけ接していてもよい。
【0031】
下部電極層34は、例えば、基板10の裏面に接して形成されている。下部電極層34は、例えば、Ti層、Al層が基板10に近い側からこの順に積層された構成となっている。Ti層の膜厚は、例えば、5nm~50nmである。Al層の膜厚は、例えば、10nm~300nmである。下部電極層34は、基板10と電気的に接続されていればよく、その層構成は上記の構成に限らない。また、下部電極層34は、基板10の裏面全体と接触していてもよいし、基板10の裏面の一部とだけ接していてもよい。
【0032】
[製造方法]
次に、半導体レーザ1の製造方法について説明する。
【0033】
まず、例えばGaNよりなる基板10を用意する。次に、この基板10の表面に、例えば、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition ;有機金属化学気相成長)法により、下部クラッド層21および下部ガイド層22を、例えば成長温度1050℃にてエピタキシャル成長させる。次に、例えばMOCVD法により、活性層23を、例えば成長温度700℃にてエピタキシャル成長させる。次に、MOCVD法により、低濃度不純物層24およびコンタクト層25を、例えば成長温度1050℃にてエピタキシャル成長させる。
【0034】
なお、MOCVDを行う際、ガリウムの原料ガスとしては、例えばトリメチルガリウム((CH33Ga)、アルミニウムの原料ガスとしては、例えばトリメチルアルミニウム((CH33Al)、インジウムの原料ガスとしては、例えばトリメチルインジウム((CH33In)をそれぞれ用いる。また、窒素の原料ガスとしては、アンモニア(NH3)を用いる。また、ケイ素の原料ガスとしては、例えばモノシラン(SiH4)を用い、マグネシウムの原料ガスとしては、例えばビス=シクロペンタジエニルマグネシウム((C552Mg)を用いる。
【0035】
次に、半導体積層部20上に、上部クラッド層31を形成する領域を開口部としたレジストコート膜を形成し、上部クラッド層31を例えば、真空蒸着法やスパッタ法により形成する。続いて、例えばRIE法により、少なくとも上部クラッド層31、コンタクト層25および低濃度不純物層24の一部をエッチングにより除去する。これにより、リッジ部20Aを形成するとともに、リッジ部20A上に上部クラッド層31を形成する。
【0036】
次に、上記エッチングにより露出した半導体積層部20の表面上に、例えば真空蒸着法やスパッタ法を用い、絶縁層32を形成し、上部クラッド層31および絶縁層32の表面上に、例えばリフトオフ法により、上部電極層33を形成する。次に、基板10の裏面上に、例えばリフトオフ法により、下部電極層34を形成する。次に、基板10をバー状に切出し、露出した端面部に反射率を制御するためのコーティング膜を形成する。さらに、バー状に切断された基板10から素子を切出し、チップ化することで、半導体レーザ1が作製される。
【0037】
[動作]
このような構成の半導体レーザ1では、上部電極層33と下部電極層34との間に所定の電圧が印加されると、リッジ部20Aを通して活性層23に電流が注入され、これにより電子と正孔の再結合による発光が生じる。この光は、一対の共振器端面により反射されるとともに、下部クラッド層21および上部クラッド層31によって閉じ込められることにより、所定の発振波長でレーザ発振が生じる。このとき、半導体積層部20内には、発振したレーザ光が導波する光導波領域20Bが形成される。そして、一方の共振器端面から発振波長のレーザ光が外部に出射される。光導波領域20Bは、活性層23を中心としたリッジ部20Aの直下の領域に生成される。光導波領域20Bの境界(図1で破線で示した箇所)は、光導波領域20B内における光強度の最大値に対し、光強度比が0.007となる領域である。
【0038】
光導波領域20Bの境界を、上記のような定義で規定したのは、上部クラッド層31界面における光強度比と光吸収損失とが、図2に示したような関係となっていることに由来する。図2では、上部クラッド層31界面における光強度比が0.007よりも大きくなると、光吸収損失が急激に増大し、レーザ特性が劣化することが示されている。つまり、上部クラッド層31が光導波領域20Bに接する位置にある場合、光吸収損失が非常に大きく、レーザ特性が劣化する。一方、上部クラッド層31が光導波領域20Bから離れた位置にある場合、光吸収損失は少なく、レーザ特性の劣化が抑えられる。
【0039】
[効果]
次に、半導体レーザ1の効果について、比較例と対比して説明する。
【0040】
半導体レーザの電力変換効率を高めるには、駆動電流値および駆動電圧値の低減が求められる。特に窒化物系の半導体レーザにおいては、駆動電圧値の低減が課題となる。図3は、一般的な窒化物系の半導体レーザ100(比較例Aに係る半導体レーザ100)の断面構成例を表したものである。半導体レーザ100では、積層方向の光閉じ込めを実現するために必要となる屈折率段差を得るため、クラッド層として一般にAlGaN層が用いられる。なお、半導体レーザ100では、基板10上に半導体積層部120が設けられており、本実施の形態に係る低濃度不純物層24の代わりに、上部ガイド層121および上部クラッド層122が設けられている。また、半導体レーザ100では、上部クラッド層31の代わりに、ITOからなる上部電極層131がリッジ部120A上に設けられている。
【0041】
AlGaNクラッド層は、低い屈折率を求められると同時に、キャリア輸送を行う必要がある。そのため、活性層23を挟んで一方にn型導電性を有するAlGaNクラッド層(下部クラッド層21)と、他方にp型導電性を有するAlGaNクラッド層(上部クラッド層122)が形成される。このとき、p型導電性を実現するためにアクセプターとしてMgが上部クラッド層122にドーピングされることが多い。しかし、AlGaN中のMgはイオン化するための活性化エネルギーが大きく、高濃度の正孔キャリアを生成することが難しい。そのため上部クラッド層122の抵抗が高くなり、半導体レーザ100の駆動電圧を上昇させる原因となり、半導体レーザ100の電力変換効率は低下する。
【0042】
図4は、比較例Bに係る半導体レーザ200の断面構成を模式的に表したものである。半導体レーザ200では、上部クラッド層122およびリッジ部120Aが設けられておらず、コンタクト層123が上部ガイド層121に接触し、さらに、上部電極層131の代わりに、ITOからなる上部クラッド層132が設けられている。また、上部クラッド層132の周囲には絶縁層124が設けられている。
【0043】
ITOの屈折率は、例えば波長450nmに対し2.0程度であり、上部ガイド層121の屈折率2.5に対し十分小さい値を有する。そのため、上部クラッド層132は、積層方向の光閉じ込めを実現するための屈折率段差を実現するクラッド層として機能する。半導体レーザ200では、抵抗の高いp型導電性AlGaNクラッド層を用いなくよいので、駆動電圧を低減する効果が得られる。
【0044】
さらに、半導体レーザ100では、リッジ部120Aが形成され、リッジ部120Aの周囲に絶縁層32が形成されている。絶縁層32は例えばSiO2によって形成されており、その屈折率は、例えば波長450nm対し1.46と窒化物半導体に対し十分小さい。そのため、リッジ部120Aの幅方向の光閉じ込めを実現するために必要となる屈折率段差を得ることができ、安定したレーザ動作が実現できる。
【0045】
これに対し、半導体レーザ200では、コンタクト層123上に上部クラッド層132が形成され、上部クラッド層132の形成されていない領域では絶縁層124が形成されている。絶縁層124の屈折率は、例えば波長450nmに対し、1.46と上部クラッド層132の同波長に対する屈折率2.0に対し十分に大きい。そのため、リッジ部を形成しなくても、積層面内方向の光閉じ込めを実現でき、安定したレーザ動作が得られ、コストの低減や良好な歩留りが得られる。
【0046】
さて、上部クラッド層132は、例えば波長430nm~550nmの光に対し、有限の光吸収を有している。そのため、半導体レーザ200では、共振器内に形成される光横モードにおいて、上部クラッド層132内に染み出す光強度が大きい(図4中の光導波領域220B参照)。その結果、上部クラッド層132の光吸収による損失を受けるので、半導体レーザ200としての特性改善が十分に得られない。また、半導体積層部220の構造では、積層面内方向の光閉じ込めが不十分になり、半導体レーザ200の動作が不安定化するおそれがある。
【0047】
図5は、比較例Cに係る半導体レーザ300の断面構成を模式的に表したものである。半導体レーザ300では、膜厚の薄い上部ガイド層121の代わりに、膜厚の厚い上部ガイド層321が設けられている。このようにすることで、共振器内に形成される光横モードにおいて、上部クラッド層132内に染み出す光強度を低減することができる(図5の光導波領域320B参照)。しかし、上部クラッド層132が活性層23から遠く離れてしまうので、積層面内方向の光閉じ込めが不十分となり、安定したレーザ動作が得られないおそれがある。
【0048】
一方、本実施の形態では、上部クラッド層31が透明導電材料で形成されている。さらに、活性層23とコンタクト層25との間に設けられた低濃度不純物層24において、不純物濃度が5.0×1017cm-3以下となっており、低濃度不純物層24の総膜厚が250nm以上1000nm以下となっている。さらに、低濃度不純物層24と上部クラッド層31との距離が150nm以下となっている。これにより、透明導電材料による光吸収が抑えられ、さらに、例えばMgドープのAlGaNからなる厚膜のクラッド層を設けなくても、透明導電材料で形成された上部クラッド層31によって光が積層方向において閉じ込められる。本実施の形態では、さらに、帯状のリッジ部20Aが形成されている。これにより、横方向においても光が閉じ込められる。その結果、駆動電圧を抑えることができる。
【0049】
また、本実施の形態では、上部クラッド層31が透明導電材料で形成されている。さらに、活性層23とコンタクト層25との間に設けられた低濃度不純物層24において、不純物濃度が5.0×1017cm-3以下となっている。さらに、上部クラッド層31は、当該半導体レーザ1が駆動されたときに半導体積層部20内に生じる光導波領域20Bから離れた位置に設けられている。つまり、上部クラッド層31の、活性層23に近い側の境界位置における、光強度の最大値に対する光強度比が0.007よりも小さくなっている。
【0050】
これにより、透明導電材料による光吸収が抑えられ、さらに、例えばMgドープのAlGaNからなる厚膜のクラッド層を設けなくても、透明導電材料で形成された上部クラッド層31によって光が積層方向において閉じ込められる。本実施の形態では、さらに、帯状のリッジ部20Aが形成されている。これにより、横方向においても光が閉じ込められる。その結果、駆動電圧を抑えることができる。
【0051】
図6は、比較例Aに係る半導体レーザ100、比較例Bに係る半導体レーザ200および実施例に係る半導体レーザ1のI-V特性の一例を表したものである。図6の結果は、半導体シミュレータによって導出されたものである。半導体シミュレータにおいて、実施例では、低濃度不純物層24の不純物濃度を2.0×1016cm-3とし、低濃度不純物層24の膜厚を500nmとした。半導体シミュレータにおいて、比較例A,Bでは、上部ガイド層121の不純物濃度を2.0×1016cm-3とし、上部ガイド層121の膜厚を200nmとした。図6から、実施例では、比較例A,Bと比べて、駆動電圧が低くなっていることがわかる。
【0052】
図7は、比較例Aに係る半導体レーザ100、比較例Bに係る半導体レーザ200および実施例に係る半導体レーザ1のI-L特性の一例を表したものである。図7から、実施例では、比較例A,Bと比べて、高い光出力が得られていることがわかる。
【0053】
図8は、比較例Aに係る半導体レーザ100、比較例Bに係る半導体レーザ200および実施例に係る半導体レーザ1の-WPE(電力変換効率)特性の一例を表したものである。図8から、実施例では、比較例A,Bと比べて、高い電力変換効率が得られていることがわかる。
【0054】
また、本実施の形態では、半導体積層部20(下部クラッド層21、活性層23、低濃度不純物層24およびコンタクト層25)が窒化物半導体で形成されており、さらに、半導体積層部20上の上部クラッド層31がITO、または、ITiOによって形成されている。これにより、MgドープのAlGaNからなる厚膜のクラッド層を設けなくても、上部クラッド層31によって光が積層方向において閉じ込められる。これにより、MgドープのAlGaNからなる厚膜のクラッド層を設けた場合と比べて、駆動電圧を抑えることができる。
【0055】
<2.変形例>
次に、上記実施の形態に係る半導体レーザ1の変形例ついて説明する。図9図14は、半導体レーザ1の断面構成の一変形例を表したものである。
【0056】
[変形例A]
上記実施の形態において、コンタクト層25は、例えば、図9に示したように、厚膜で形成されていてもよい。このとき、リッジ部20Aは、例えば、コンタクト層25の一部をエッチングすることにより形成されていてもよい。また、コンタクト層25において、リッジ部20Aの直下の部分の膜厚が、リッジ部20Aの脇の部分の膜厚よりも厚くなっていてもよい。このようにした場合であっても、透明導電材料による光吸収が抑えられ、さらに、例えばMgドープのAlGaNからなる厚膜のクラッド層を設けなくても、透明導電材料で形成された上部クラッド層31によって光が積層方向において閉じ込められる。さらに、リッジ部20Aにより横方向においても光が閉じ込められる。その結果、駆動電圧を抑えることができる。
【0057】
[変形例B]
上記実施の形態およびその変形例において、半導体レーザ1は、例えば、図10に示したように、低濃度不純物層24に対して、低濃度不純物層24とは異なる層であるキャリアブロック層26が挿入されていてもよい。このとき、キャリアブロック層26は、活性層23とコンタクト層25との間に挿入されている。このとき、低濃度不純物層24において、リッジ部20Aの直下の部分の膜厚が、リッジ部20Aの脇の部分の膜厚よりも厚くなっている。キャリアブロック層26は、基板10側から注入されたキャリアが活性層23を越えてリッジ部20Aに侵入することを妨げる。キャリアブロック層26を設けることにより、キャリアの利用効率が向上し、半導体レーザ1の電力変換効率を改善することができる。
【0058】
キャリアブロック層26は、例えば、p型半導体層によって構成されている。キャリアブロック層26は、例えば、GaN層、AlGaN層、InGaN層およびAlGaInN層のうちのいずれか、またはこれらのうち少なくとも2つの層によって構成されている。キャリアブロック層26において、p型導電性が得られるためのドーパントとして例えばMgが用いられている。キャリアブロック層26の膜厚は、例えば、3nm~50nmである。
【0059】
本変形例では、低濃度不純物層24に対して、低濃度不純物層24とは異なる層であるキャリアブロック層26が挿入されている。このようにした場合であっても、透明導電材料による光吸収が抑えられ、さらに、例えばMgドープのAlGaNからなる厚膜のクラッド層を設けなくても、透明導電材料で形成された上部クラッド層31によって光が積層方向において閉じ込められる。さらに、リッジ部20Aにより横方向においても光が閉じ込められる。その結果、駆動電圧を抑えることができる。
【0060】
[変形例C]
上記変形例Bにおいて、リッジ部20Aは、例えば、図11に示したように、コンタクト層25、キャリアブロック層26、および低濃度不純物層24の一部をエッチングすることにより形成されていてもよい。このとき、キャリアブロック層26と活性層23の間に位置する低濃度不純物層24において、リッジ部20Aの直下の部分の膜厚が、リッジ部20Aの脇の部分の膜厚よりも厚くなっている。このような構成にすることで、リッジ部20Aによる横方向における光閉じ込めがより強まり、良好な光出力特性が得られる。また透明導電材料による光吸収が抑えられ、さらに、例えばMgドープのAlGaNからなる厚膜のクラッド層を設けなくても、透明導電材料で形成された上部クラッド層31によって光が積層方向において閉じ込められる。その結果、駆動電圧を抑えることができる。
【0061】
[変形例D]
上記変形例Cにおいて、キャリアブロック層26のバンドギャップエネルギーがコンタクト層25側に向って減少するように、キャリアブロック層26の組成を傾斜させてもよい。このとき、キャリアブロック層26は、例えば,図12に示したように、バンドギャップエネルギーがコンタクト層25側に向って減少するように、キャリアブロック層26の組成を傾斜させたグレーデッド層26Aを有している。例えば,Al組成10%のAlGaNをキャリアブロック層26とし、その上にGaNのコンタクト層25を積層した場合、キャリアブロック層26の組成傾斜(グレーデッド層26A)によってエレクトロンのオーバーフローを抑制することができる。加えて、キャリアブロック層26とコンタクト層25との界面にたまるホールの濃度も、キャリアブロック層26の組成傾斜(グレーデッド層26A)によって低減することができる。例えば、図13に示したシミュレーション結果からは、グレーデッド層26Aを設けることで、キャリアブロック層26とコンタクト層25との界面におけるホール濃度が減少することがわかる。また、グレーデッド層26Aを厚くするにつれて、キャリアブロック層26とコンタクト層25との界面におけるホール濃度の減少量が増えることがわかる。
【0062】
上記変形例Cにおいて、リッジ部20Aは、キャリアブロック層26をエッチングすることで形成される。このとき、キャリアブロック層26とコンタクト層25との界面にたまったホールは、エッチングされたリッジ部20Aの表面で起きる非発光再結合によって消失してしまう。キャリアブロック層26とコンタクト層25との界面にたまったホールは、2次元電子ガスとしてリッジ部20A内を容易に移動することができる。そのため、キャリアブロック層26とコンタクト層25との界面にたまるホールの濃度が高いほど,非発光再結合過程で消失するホールが増え、発光効率が低くなってしまう。
【0063】
しかし、本変形例では、キャリアブロック層26のバンドギャップエネルギーがコンタクト層25側に向って減少するように、キャリアブロック層26の組成を傾斜させることで、キャリアブロック層26とコンタクト層25との界面にたまるホールの濃度が減少する。このように、本変形例では、キャリアブロック層26の組成を傾斜させることで、エレクトロンのオーバーフローを抑制できることに加え,リッジ部20Aの表面で起きる非発光再結合を抑制できる。その結果、発光効率を大幅に向上させることができる。
【0064】
[変形例E]
上記変形例Bにおいて、例えば、図14に示したように、キャリアブロック層26が活性層23と低濃度不純物層24との間に挿入されていてもよい。このようにした場合であっても、透明導電材料による光吸収が抑えられ、さらに、例えばMgドープのAlGaNからなる厚膜のクラッド層を設けなくても、透明導電材料で形成された上部クラッド層31によって光が積層方向において閉じ込められる。さらに、リッジ部20Aにより横方向においても光が閉じ込められる。その結果、駆動電圧を抑えることができる。
【0065】
[変形例F]
上記変形例Aにおいて、例えば、図15に示したように、キャリアブロック層26が低濃度不純物層24とコンタクト層25との間に挿入されていてもよい。このとき、コンタクト層25が厚膜で構成され、コンタクト層25の一部がエッチングされることにより、リッジ部20Aが形成され、キャリアブロック層26がコンタクト層25に接して形成されていてもよい。このようにした場合であっても、透明導電材料による光吸収が抑えられ、さらに、例えばMgドープのAlGaNからなる厚膜のクラッド層を設けなくても、透明導電材料で形成された上部クラッド層31によって光が積層方向において閉じ込められる。さらに、リッジ部20Aにより横方向においても光が閉じ込められる。その結果、駆動電圧を抑えることができる。
【0066】
[変形例G]
上記実施の形態および変形例A~Fにおいて、半導体レーザ1は、例えば、図16に示したように、コンタクト層25と低濃度不純物層24との間に上部クラッド層27を備えていてもよい。上部クラッド層27は、例えば、MgドープのAlGaN層であり、リッジ部20Aと対向する部分における低濃度不純物層24の膜厚よりも薄い膜厚となっている。コンタクト層25および上部クラッド層31の合計膜厚は、例えば、150nm以下となっている。このようにした場合であっても、透明導電材料による光吸収が抑えられ、さらに、例えばMgドープのAlGaNからなる厚膜のクラッド層を設けなくても、透明導電材料で形成された上部クラッド層31によって光が積層方向において閉じ込められる。さらに、リッジ部20Aにより横方向においても光が閉じ込められる。その結果、駆動電圧を抑えることができる。
【0067】
[変形例H]
上記実施の形態および変形例A~Gにおいて、半導体積層部20は、As,B,Sb,Pのうちのいずれか、またはこれらのうち少なくとも2つ以上を含む、III-V族半導体によって構成されていてもよい。このようにした場合であっても、上部クラッド層31によって光が積層方向において閉じ込められ、リッジ部20Aによって光が横方向において閉じ込められる。その結果、駆動電圧を抑えることができる。
【0068】
[変形例I]
上記実施の形態および変形例A~Hにおいて、絶縁層32の代わりに、金属層または樹脂層が設けられていてもよい。また、上記実施の形態および変形例A~Gにおいて、絶縁層32が省略され、さらに、半導体積層部20のうち、リッジ部20Aの周囲および裾野の部分(つまり、絶縁層32が接していた部分)が、大気に露出していてもよい。このようにした場合であっても、上部クラッド層31によって光が積層方向において閉じ込められ、リッジ部20Aによって光が横方向において閉じ込められる。その結果、駆動電圧を抑えることができる。
【0069】
<3.第2の実施の形態>
次に、本開示の第2の実施の形態に係るプロジェクタ2について説明する。図17は、プロジェクタ2の概略構成の一例を表したものである。プロジェクタ2は、外部から入力された映像信号Dinに基づく映像をスクリーンなどに投影する装置である。プロジェクタ2は、ビデオ信号処理回路41、レーザ駆動回路42、光源部43、スキャナ部44およびスキャナ駆動回路45を備えている。
【0070】
ビデオ信号処理回路41は、映像信号Dinに基づいて色ごとに投影映像信号を生成する。レーザ駆動回路42は、色ごとの投影映像信号に基づいて、後述の光源43R,43G,43Bに印加する電流パルスの波高値を制御する。
【0071】
光源部43は、複数の光源、例えば3つの光源43R,43G,43Bを有する。3つの光源43R,43G,43Bは、例えば、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の波長のレーザ光を出射するレーザ光源として用いられる。光源43B,43Gのうち、少なくとも一方が、上記実施の形態およびその変形例に係る半導体レーザ1を含んで構成されている。3つの光源43R,43G,43Bから出射された各レーザ光は、例えば、コリメートレンズによってほぼ平行光にされた後、ビームスプリッタ43sR,43sG,43sBなどによって1本のレーザ光に束ねられる。ビームスプリッタ43sRは、例えば、赤色光を反射する。ビームスプリッタ43sGは、例えば、緑色光を反射するとともに、赤色光を透過する。ビームスプリッタ43sBは、例えば、青色光を反射するとともに、赤色光および緑色光を透過する。
【0072】
ビームスプリッタ43sR,43sG,43sBで透過・反射されたレーザ光は、スキャナ部44に入射する。スキャナ部44は、例えば、1つの2軸スキャナを用いて構成されている。入射したレーザ光は、2軸スキャナによって水平及び垂直方向に照射角度に変調が加えられてからスクリーンに投影される。なお、スキャナ部44は、1軸スキャナを2つ用いて水平方向及び垂直方向に走査する構成となっていてもよい。
【0073】
通常、スキャナ部44は、2軸スキャナなどの照射角度を検出するセンサを有しており、当該センサは、水平・垂直それぞれの角度信号を出力する。これらの角度信号は、スキャナ駆動回路45に入力される。スキャナ駆動回路45は、例えば、スキャナ部44から入力される水平角度信号および垂直角度信号に基づいて、所望の照射角度になるようにスキャナ部44を駆動する。
【0074】
本実施の形態では、光源43Bにおいて、上記実施の形態およびその変形例に係る半導体レーザ1が用いられている。これにより、低消費電力で、高い発光強度を得ることができる。
【0075】
<4.第3の実施の形態>
次に、本開示の第3の実施の形態に係る表示装置3について説明する。図18は、表示装置3の概略構成例を表したものである。表示装置3は、例えば、画素アレイ部40、コントローラ50およびドライバ60を備えている。画素アレイ部40は、行列状に配置された複数の表示画素40Aを含む。コントローラ50およびドライバ60は、外部から入力された映像信号Dinおよび同期信号Tinに基づいて、各表示画素40Aを駆動する。
【0076】
画素アレイ部40は、コントローラ50およびドライバ60によって各表示画素40Aがアクティブマトリクス駆動されることにより、外部から入力された映像信号Dinおよび同期信号Tinに基づく画像を表示する。画素アレイ部40は、行方向に延在する複数の走査線と、列方向に延在する複数の信号線と、走査線と信号線とが互いに交差する箇所ごとに1つずつ設けられた複数の表示画素40Aとを有している。
【0077】
走査線は、各表示画素40Aの選択に用いられるものであり、各表示画素40Aを所定の単位(例えば画素行)ごとに選択する選択パルスを各表示画素40Aに供給する。信号線は、映像信号Dinに応じた信号電圧の、各表示画素40Aへの供給に用いられ、信号電圧を含むデータパルスを各表示画素40Aに供給する。
【0078】
各表示画素40Aは、各々が半導体レーザを含む複数のサブ画素を有している。各表示画素40Aにおいて、複数のサブ画素のうち、青色光および緑色光を発する半導体レーザのうち、少なくとも一方が、上記実施の形態およびその変形例に係る半導体レーザ1である。
【0079】
ドライバ60は、例えば、水平セレクタ61およびライトスキャナ62を有している。水平セレクタ61は、例えば、コントローラ50からの制御信号の入力に応じて(同期して)、映像信号処理回路51から入力されたアナログの信号電圧を、各信号線に印加する。ライトスキャナ62は、複数の表示画素40Aを所定の単位ごとに走査する。具体的には、ライトスキャナ62は、1フレーム期間において、各走査線に選択パルスを順次、出力する。ライトスキャナ62は、例えば、コントローラ50からの制御信号の入力に応じて(同期して)、複数の走査線を所定のシーケンスで選択することにより、信号電圧の書き込みを所望の順番で実行させる。
【0080】
コントローラ50は、例えば、映像信号処理回路51、タイミング生成回路52および電源回路53を有している。映像信号処理回路51は、例えば、外部から入力されたデジタルの映像信号Dinに対して所定の補正を行い、それにより得られた映像信号に基づいて、信号電圧を生成する。映像信号処理回路51は、例えば、生成した信号電圧を水平セレクタ61に出力する。タイミング生成回路52は、ドライバ60内の各回路が連動して動作するように制御するものである。タイミング生成回路52は、例えば、外部から入力された同期信号Tinに応じて(同期して)、ドライバ60内の各回路に対して制御信号を出力する。電源回路53は、水平セレクタ61、ライトスキャナ62、映像信号処理回路51、タイミング生成回路52、電源回路53等の種々の回路で必要となる種々の固定電圧を生成し、供給する。
【0081】
本実施の形態では、各表示画素40Aにおいて、上記実施の形態またはその変形例に係る半導体レーザ1が用いられている。これにより、低消費電力で、高い発光強度を得ることができる。
【0082】
<5.第4の実施の形態>
次に、本開示の第4の実施の形態に係る電子機器4について説明する。図19は、電子機器4の斜視構成の一例を表したものである。電子機器4は、例えば、板状の筐体の主面に表示面を備えた携帯端末である。電子機器4は、例えば、表示面の位置に、上記第3の実施の形態に係る表示装置3を備えている。表示装置3の画素アレイ部40が、電子機器4の表示面に配置されている。
【0083】
本実施の形態では、各表示画素40Aにおいて、上記実施の形態またはその変形例に係る半導体レーザ1が用いられている。これにより、低消費電力で、高い発光強度を得ることができる。
【0084】
なお、上記第3の実施の形態に係る表示装置3は、テレビジョン装置、デジタルカメラ、ノート型パーソナルコンピュータ、携帯電話等の携帯端末装置あるいはビデオカメラなど、外部から入力された映像信号あるいは内部で生成した映像信号を、画像あるいは映像として表示するあらゆる分野の電子機器の表示装置に適用することが可能である。
【0085】
以上、複数の実施の形態を挙げて本開示を説明したが、本開示は上記各実施の形態に限定されるものではなく、種々変形が可能である。なお、本明細書中に記載された効果は、あくまで例示である。本開示の効果は、本明細書中に記載された効果に限定されるものではない。本開示が、本明細書中に記載された効果以外の効果を持っていてもよい。
【0086】
また、例えば、本開示は以下のような構成を取ることができる。
(1)
第1クラッド層、活性層、1または複数の低濃度不純物層、コンタクト層、および、透明導電材料で形成された第2クラッド層をこの順に含み、前記コンタクト層を含む部分に積層面内の一の方向に延在するリッジ形状を有する半導体積層部を備え、
前記1または複数の低濃度不純物層において、不純物濃度が5.0×1017cm-3以下となっており、前記低濃度不純物層の総膜厚が250nm以上1000nm以下となっており、
前記第2クラッド層に最も近い前記低濃度不純物層と前記第2クラッド層との距離が150nm以下となっている
半導体レーザ。
(2)
前記第1クラッド層、前記活性層、前記低濃度不純物層および前記コンタクト層は、ともに、窒化物系の半導体材料で形成されている
(1)に記載の半導体レーザ。
(3)
前記透明導電材料は、ITO、または、ITiOである
(1)または(2)に記載の半導体レーザ。
(4)
前記低濃度不純物層に含まれる不純物は、Mg,C,Si,Oのうち少なくとも1つ以上の元素で構成されている
(1)ないし(3)のいずれか1つに記載の半導体レーザ。
(5)
前記活性層と前記コンタクト層との間に挿入されたキャリアブロック層をさらに備え、
前記低濃度不純物層において、前記リッジ形状の直下の部分の膜厚が、前記リッジ形状の脇の部分の膜厚よりも厚くなっている
(1)ないし(4)のいずれか1つに記載の半導体レーザ。
(6)
前記キャリアブロック層は,当該キャリアブロック層のエネルギーバンドギャップが前記コンタクト層側に向って減少するように組成傾斜されたグレーデッド層を有する
(5)に記載の半導体レーザ。
(7)
第1クラッド層、活性層、不純物濃度が5.0×1017cm-3以下の1または複数の低濃度不純物層、コンタクト層、および、透明導電材料で形成された第2クラッド層をこの順に含み、前記コンタクト層を含む部分に積層面内の一の方向に延在するリッジ形状を有する半導体積層部を備えた半導体レーザであって、
前記第2クラッド層は、当該半導体レーザが駆動されたときに前記半導体積層部内に生じる光導波領域から離れた位置に設けられており、
前記第2クラッド層の、前記活性層に近い側の境界位置における、光強度の最大値に対する光強度比が0.007よりも小さくなっている
半導体レーザ。
(8)
半導体レーザを光源として備え、
前記半導体レーザは、
第1クラッド層、活性層、1または複数の低濃度不純物層、コンタクト層、および、透明導電材料で形成された第2クラッド層をこの順に含み、前記コンタクト層を含む部分に積層面内の一の方向に延在するリッジ形状を有する半導体積層部を備え、
前記1または複数の低濃度不純物層において、不純物濃度が5.0×1017cm-3以下となっており、前記低濃度不純物層の総膜厚が250nm以上1000nm以下となっており、
前記第2クラッド層に最も近い前記低濃度不純物層と前記第2クラッド層との距離が150nm以下となっている
電子機器。
(9)
半導体レーザを光源として備え、
前記半導体レーザは、
第1クラッド層、活性層、不純物濃度が5.0×1017cm-3以下の1または複数の低濃度不純物層、コンタクト層、および、透明導電材料で形成された第2クラッド層をこの順に含み、前記コンタクト層を含む部分に積層面内の一の方向に延在するリッジ形状を有する半導体積層部を備えた半導体レーザであって、
前記第2クラッド層は、当該半導体レーザが駆動されたときに前記半導体積層部内に生じる光導波領域から離れた位置に設けられており、
前記第2クラッド層の、前記活性層に近い側の境界位置における、光強度の最大値に対する光強度比が0.007よりも小さくなっている
電子機器。
【0087】
本開示の一実施形態に係る第1の半導体レーザ、第2の半導体レーザ、第1の電子機器および第2の電子機器によれば、透明導電材料による光吸収を抑え、さらに、例えばMgドープのAlGaNからなる厚膜のクラッド層を設けなくても、透明導電材料で形成された第2クラッド層によって光を積層方向において閉じ込め、帯状のリッジによって横方向においても光を閉じ込めることができるようにしたので、駆動電圧を抑えることができる。なお、本開示の効果は、ここに記載された効果に必ずしも限定されず、本明細書中に記載されたいずれの効果であってもよい。
【0088】
本出願は、日本国特許庁において2018年1月23に出願された日本特許出願番号第2018-008955号を基礎として優先権を主張するものであり、この出願のすべての内容を参照によって本出願に援用する。
【0089】
当業者であれば、設計上の要件や他の要因に応じて、種々の修正、コンビネーション、サブコンビネーション、および変更を想到し得るが、それらは添付の請求の範囲やその均等物の範囲に含まれるものであることが理解される。
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