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特許7412221冷媒漏洩状態判定方法、冷媒漏洩状態判定装置及び冷媒漏洩状態監視システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】冷媒漏洩状態判定方法、冷媒漏洩状態判定装置及び冷媒漏洩状態監視システム
(51)【国際特許分類】
   F25B 49/02 20060101AFI20240104BHJP
【FI】
F25B49/02 520A
F25B49/02 520D
F25B49/02 520E
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020034159
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021135035
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】若林 努
(72)【発明者】
【氏名】池本 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】橋本 昌彦
【審査官】安島 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-208469(JP,A)
【文献】特開2006-292211(JP,A)
【文献】特開2016-065660(JP,A)
【文献】特開2017-026308(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0316820(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 49/02
F24F 11/00 - 11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮する圧縮機と、前記圧縮機にて圧縮した冷媒を凝縮する凝縮器と、前記凝縮器にて凝縮した冷媒を膨張させる膨張弁と、前記膨張弁にて膨張した冷媒を蒸発させる蒸発器と、前記圧縮機と前記凝縮器と前記膨張弁と前記蒸発器とに記載の順に冷媒を循環する冷媒循環路とを備えるヒートポンプ装置における冷媒漏洩状態判定方法であって、
前記圧縮機入口での冷媒吸込温度から蒸発温度を減算して過熱度を算出する過熱度算出工程と、
凝縮温度から前記凝縮器出口での冷媒温度を減算して過冷却度を算出する過冷却度算出工程と、
少なくとも1つ以上の前記蒸発器を有する場合において、運転している前記蒸発器及び当該蒸発器に対応する前記膨張弁に関し、膨張弁開度を前記蒸発器の能力比率に基づいて換算した値を平均した値としての運転蒸発器平均開度を導出する運転蒸発器平均開度導出工程と、
通常運転時において過熱度を基準過熱度に維持する過熱度維持工程と、
前記過熱度維持工程が実行された状態で、前記過冷却度算出工程にて算出された過冷却度が零であり、且つ前記運転蒸発器平均開度導出工程にて導出された前記運転蒸発器平均開度が、前記通常運転時での定格条件における前記運転蒸発器平均開度である平均開度を所定値だけ超える基準平均開度を超えると共に前記運転蒸発器平均開度の最大値である最大平均開度未満であり、前記過熱度算出工程にて算出される過熱度が基準過熱度に維持されている場合に、冷媒の漏洩程度が中程度漏洩状態であると判定する冷媒漏洩程度判定工程とを含む冷媒漏洩状態判定方法。
【請求項2】
前記冷媒漏洩程度判定工程は、
前記過熱度維持工程が実行された状態で、前記過冷却度算出工程にて算出された過冷却度が零より大きい値であり、且つ前記運転蒸発器平均開度導出工程にて導出された前記運転蒸発器平均開度が、前記最大平均開度未満であり、前記過熱度算出工程にて算出される過熱度が前記基準過熱度に維持されている場合に、冷媒の漏洩程度が中程度漏洩状態よりも少ない漏洩程度であって漏洩無しも含む少程度漏洩状態であると判定する請求項1に記載の冷媒漏洩状態判定方法。
【請求項3】
前記冷媒漏洩程度判定工程は、
前記過熱度維持工程が実行された状態で、前記過冷却度算出工程にて算出された過冷却度が零であり、且つ前記運転蒸発器平均開度導出工程にて導出された前記運転蒸発器平均開度が、前記最大平均開度であり、前記過熱度算出工程にて算出される過熱度が前記基準過熱度より大きい場合に、冷媒の漏洩程度が中程度漏洩状態よりも多い漏洩程度である多程度漏洩状態であると判定する請求項1に記載の冷媒漏洩状態判定方法。
【請求項4】
前記冷媒漏洩程度判定工程は、
前記過熱度維持工程が実行された状態で、前記過冷却度算出工程にて算出された過冷却度が零であり、且つ前記運転蒸発器平均開度導出工程にて導出された前記運転蒸発器平均開度が、前記最大平均開度であり、前記過熱度算出工程にて算出される過熱度が前記基準過熱度より大きい場合に、冷媒の漏洩程度が中程度漏洩状態よりも多い漏洩程度である多程度漏洩状態であると判定する請求項2に記載の冷媒漏洩状態判定方法。
【請求項5】
前記冷媒漏洩程度判定工程は、
前記過冷却度と前記運転蒸発器平均開度と前記過熱度の値の組み合わせが、前記中程度漏洩状態と前記少程度漏洩状態と前記多程度漏洩状態にて規定される値の組み合わせ以外である場合、前記ヒートポンプ装置の運転状態が前記通常運転とは異なる運転状態にあるとして漏洩程度の判定から除外する請求項4に記載の冷媒漏洩状態判定方法。
【請求項6】
前記冷媒漏洩程度判定工程は、
前記運転蒸発器平均開度導出工程にて導出された前記運転蒸発器平均開度を前記圧縮機の入口圧力である蒸発圧力が高くなるほど高い側へ補正する請求項1~5の何れか一項に記載の冷媒漏洩状態判定方法。
【請求項7】
前記冷媒漏洩程度判定工程は、
前記運転蒸発器平均開度導出工程にて導出された前記運転蒸発器平均開度と蒸発圧力とから、冷媒の漏洩のない正規の充填量にて冷媒の漏洩量を除算した漏洩率を導出する請求項1~6の何れか一項に記載の冷媒漏洩状態判定方法。
【請求項8】
前記冷媒漏洩程度判定工程は、
前記運転蒸発器平均開度導出工程にて導出された前記運転蒸発器平均開度を前記過熱度が高くなるほど高い側へ補正する請求項1~7の何れか一項に記載の冷媒漏洩状態判定方法。
【請求項9】
冷媒を圧縮する圧縮機と、前記圧縮機にて圧縮した冷媒を凝縮する凝縮器と、前記凝縮器にて凝縮した冷媒を膨張させる膨張弁と、前記膨張弁にて膨張した冷媒を蒸発させる蒸発器と、前記圧縮機と前記凝縮器と前記膨張弁と前記蒸発器とに記載の順に冷媒を循環する冷媒循環路とを備えるヒートポンプ装置における冷媒漏洩状態判定装置であって、
前記圧縮機入口での冷媒吸込温度から蒸発温度を減算して過熱度を算出する過熱度算出部と、
凝縮温度から前記凝縮器出口での冷媒温度を減算して過冷却度を算出する過冷却度算出部と、
少なくとも1つ以上の前記蒸発器を有する場合において、運転している前記蒸発器及び当該蒸発器に対応する前記膨張弁に関し、膨張弁開度を前記蒸発器の能力比率に基づいて換算した値を平均した値としての運転蒸発器平均開度を導出する運転蒸発器平均開度導出部と、
通常運転時において過熱度を基準過熱度に維持する過熱度維持部と、
前記過熱度維持部が実行された状態で、前記過冷却度算出部にて算出された過冷却度が零であり、且つ前記運転蒸発器平均開度導出部にて導出された前記運転蒸発器平均開度が、前記通常運転時での定格条件における前記運転蒸発器平均開度である平均開度を所定値だけ超える基準平均開度を超えると共に前記運転蒸発器平均開度の最大値である最大平均開度未満であり、前記過熱度算出部にて算出される過熱度が基準過熱度に維持されている場合に、冷媒の漏洩程度が中程度漏洩状態であると判定する冷媒漏洩程度判定部とを有する冷媒漏洩状態判定装置。
【請求項10】
請求項9の冷媒漏洩状態判定装置を備えると共に、
前記ヒートポンプ装置とネットワーク回線にて電気的に接続される監視装置を備え、
前記監視装置が、前記冷媒の漏洩程度を監視するように構成されている冷媒漏洩状態監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒を圧縮する圧縮機と、前記圧縮機にて圧縮した冷媒を凝縮する凝縮器と、前記凝縮器にて凝縮した冷媒を膨張させる膨張弁と、前記膨張弁にて膨張した冷媒を蒸発させる蒸発器と、前記圧縮機と前記凝縮器と前記膨張弁と前記蒸発器とに記載の順に冷媒を循環する冷媒循環路とを備えるヒートポンプ装置における冷媒漏洩状態判定方法、それを用いた冷媒漏洩状態判定装置及び冷媒漏洩状態監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、冷媒を圧縮する圧縮機と、圧縮機にて圧縮した冷媒を凝縮する凝縮器と、凝縮器にて凝縮した冷媒を膨張させる膨張弁と、膨張弁にて膨張した冷媒を蒸発させる蒸発器と、圧縮機と凝縮器と膨張弁と蒸発器とに記載の順に冷媒を循環する冷媒循環路とを備えるヒートポンプ装置における冷媒の漏洩の有無を判定する空気調和装置が知られている(特許文献1を参照)。
当該空気調和装置は、所定の冷媒漏洩判定条件で運転を行う運転モードにおいて、熱源側熱交換器(冷房運転においては凝縮器)の出口における冷媒過冷却度の変動に応じて、変化する運転状態量に基づいて冷媒の漏洩の有無の判定が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4270197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示の技術では、冷媒の漏洩の有無の判定は行えるものの、所定の冷媒漏洩判定条件にて運転を行う必要があるため、当該判定を行うときには、ヒートポンプ装置を空調の用に供することができず、使用者の利用に制限がかかるため改善の余地があった。
また、上記特許文献1に開示の技術では、冷媒がどの程度漏洩しているか等の漏洩程度を適切に知ることもできないという課題もあった。
【0005】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、冷媒を循環する冷媒循環路を有するヒートポンプ装置において、運転状態に制約をつけることなく通常運転を継続しながらも、漏洩程度を含む漏洩状態を判定可能な冷媒漏洩状態判定方法、当該判定方法を実行可能な冷媒漏洩状態判定装置、冷媒漏洩状態監視システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための冷媒漏洩状態判定方法は、
冷媒を圧縮する圧縮機と、前記圧縮機にて圧縮した冷媒を凝縮する凝縮器と、前記凝縮器にて凝縮した冷媒を膨張させる膨張弁と、前記膨張弁にて膨張した冷媒を蒸発させる蒸発器と、前記圧縮機と前記凝縮器と前記膨張弁と前記蒸発器とに記載の順に冷媒を循環する冷媒循環路とを備えるヒートポンプ装置における冷媒漏洩状態判定方法であって、その特徴構成は、
前記圧縮機入口での冷媒吸込温度から蒸発温度を減算して過熱度を算出する過熱度算出工程と、
凝縮温度から前記凝縮器出口での冷媒温度を減算して過冷却度を算出する過冷却度算出工程と、
少なくとも1つ以上の前記蒸発器を有する場合において、運転している前記蒸発器及び当該蒸発器に対応する前記膨張弁に関し、膨張弁開度を前記蒸発器の能力比率に基づいて換算した値を平均した値としての運転蒸発器平均開度を導出する運転蒸発器平均開度導出工程と、
通常運転時において過熱度を基準過熱度に維持する過熱度維持工程と、
前記過熱度維持工程が実行された状態で、前記過冷却度算出工程にて算出された過冷却度が零であり、且つ前記運転蒸発器平均開度導出工程にて導出された前記運転蒸発器平均開度が、前記通常運転時での定格条件における前記運転蒸発器平均開度である平均開度を所定値だけ超える基準平均開度を超えると共に前記運転蒸発器平均開度の最大値である最大平均開度未満であり、前記過熱度算出工程にて算出される過熱度が基準過熱度に維持されている場合に、冷媒の漏洩程度が中程度漏洩状態であると判定する冷媒漏洩程度判定工程とを含む点にある。
【0007】
上記目的を達成するための冷媒漏洩状態判定装置は、
冷媒を圧縮する圧縮機と、前記圧縮機にて圧縮した冷媒を凝縮する凝縮器と、前記凝縮器にて凝縮した冷媒を膨張させる膨張弁と、前記膨張弁にて膨張した冷媒を蒸発させる蒸発器と、前記圧縮機と前記凝縮器と前記膨張弁と前記蒸発器とに記載の順に冷媒を循環する冷媒循環路とを備えるヒートポンプ装置における冷媒漏洩状態判定装置であって、その特徴構成は、
前記圧縮機入口での冷媒吸込温度から蒸発温度を減算して過熱度を算出する過熱度算出部と、
凝縮温度から前記凝縮器出口での冷媒温度を減算して過冷却度を算出する過冷却度算出部と、
少なくとも1つ以上の前記蒸発器を有する場合において、運転している前記蒸発器及び当該蒸発器に対応する前記膨張弁に関し、膨張弁開度を前記蒸発器の能力比率に基づいて換算した値を平均した値としての運転蒸発器平均開度を導出する運転蒸発器平均開度導出部と、
通常運転時において過熱度を基準過熱度に維持する過熱度維持部と、
前記過熱度維持部が実行された状態で、前記過冷却度算出部にて算出された過冷却度が零であり、且つ前記運転蒸発器平均開度導出部にて導出された前記運転蒸発器平均開度が、前記通常運転時での定格条件における前記運転蒸発器平均開度である平均開度を所定値だけ超える基準平均開度を超えると共に前記運転蒸発器平均開度の最大値である最大平均開度未満であり、前記過熱度算出部にて算出される過熱度が基準過熱度に維持されている場合に、冷媒の漏洩程度が中程度漏洩状態であると判定する冷媒漏洩程度判定部とを有する点にある。
【0008】
発明者らは、ヒートポンプ装置に係るパラメータの組み合わせが、冷媒の漏洩状態に応じて特異な変化をするという知見を新たに見出した。
上記特徴構成は、当該知見に基づくものであり、図2、3、4に示すように、過熱度維持工程が実行された状態で、過冷却度算出工程にて算出された過冷却度が零であり、且つ運転蒸発器平均開度導出工程にて導出された運転蒸発器平均開度が、基準平均開度を超えると共に最大平均開度未満であり、過熱度算出工程にて算出される過熱度が基準過熱度に維持されている場合は、冷媒の漏洩程度が中程度漏洩状態であると言えることを新たに見出した。
これにより、例えば、ヒートポンプ装置の管理者としては、実際に装置の点検を行う際に、中程度漏洩状態よりも少ない漏洩程度であって漏洩無しも含む少程度漏洩状態よりも装置のどの場所から漏洩が発生しているかを検知し易い中程度漏洩状態を、漏洩状態として積極的に検知できる。
また、当該漏洩状態の判定は、例えばヒートポンプ装置が定格負荷で運転しているか中程度の負荷で運転しているかに関わらず用いることができるため、ヒートポンプ装置の使用者側に何ら運転の制約をかけることなく実行できるため、従来の漏洩判定に比べ、運転の自由度を向上できる。
以上より、冷媒を循環する冷媒循環路を有するヒートポンプ装置において、運転状態に制約をつけることなく通常運転を継続しながらも、漏洩程度を含む漏洩状態を判定可能な冷媒漏洩状態判定方法、及び冷媒漏洩状態判定装置を実現できる。
【0009】
また、膨張弁開度は、実機での膨張弁の開度を示す「ステップ数」の他、「膨張弁面積」とすることができる。以下、膨張弁開度に対応するパラメータとして「膨張弁面積」を用いた場合の運転蒸発器平均開度の数値の一例を示す。
例えば、4台の蒸発器が接続されている場合の定格条件の運転状態の例を〔表1〕に示す。#1と#2は能力が比較的大きい蒸発器で、#3と#4は能力が比較的小さい蒸発器の例である。
下線部分の単純平均=10mmとなり、この定格条件での値を100%とする。
【0010】
〔表1〕
【0011】
次に、他条件での運転状態の例を〔表2〕に示す。下線部分の単純平均=10mmとなり、面積比は100%となる。
【0012】
〔表2〕
【0013】
尚、ここで、運転蒸発器平均開度は、通常運転時における定格運転時の値を100%とした値であり、単純平均のみならず、室内熱交換器の容量(暖房運転時の凝縮器又は冷房運転時の蒸発器の容量(能力))で重み付けした平均としても構わない。
【0014】
冷媒漏洩状態判定方法の更なる特徴構成は、
前記冷媒漏洩程度判定工程は、
前記過熱度維持工程が実行された状態で、前記過冷却度算出工程にて算出された過冷却度が零より大きい値であり、且つ前記運転蒸発器平均開度導出工程にて導出された前記運転蒸発器平均開度が、前記最大平均開度未満であり、前記過熱度算出工程にて算出される過熱度が前記基準過熱度に維持されている場合に、冷媒の漏洩程度が中程度漏洩状態よりも少ない漏洩程度であって漏洩無しも含む少程度漏洩状態であると判定する点にある。
【0015】
上記特徴構成によれば、冷媒の漏洩状態が、漏洩量の比較的少ない少程度漏洩状態であることがわかるから、例えば、冷媒の漏洩の有無だけがわかる技術に比べ、対応の緊急性が低い漏洩である等の判断ができる。結果、判定結果を知った後の管理者側での対応の選択肢を増やすことができ、管理者側の負担を軽減できると共に現場では漏洩状態に応じた適切な対応ができる。
【0016】
冷媒漏洩状態判定方法の更なる特徴構成は、
前記冷媒漏洩程度判定工程は、
前記過熱度維持工程が実行された状態で、前記過冷却度算出工程にて算出された過冷却度が零であり、且つ前記運転蒸発器平均開度導出工程にて導出された前記運転蒸発器平均開度が、前記最大平均開度であり、前記過熱度算出工程にて算出される過熱度が前記基準過熱度より大きい場合に、冷媒の漏洩程度が中程度漏洩状態よりも多い漏洩程度である多程度漏洩状態であると判定する点にある。
【0017】
上記特徴構成によれば、冷媒の漏洩状態が、漏洩量の比較的多い多程度漏洩状態であることがわかるから、例えば、冷媒の漏洩の有無だけがわかる技術に比べ、対応の緊急性が高い漏洩である等の判断ができ、判定の後の迅速な対応につなげることができる。
【0018】
冷媒漏洩状態判定方法の更なる特徴構成は、
前記冷媒漏洩程度判定工程は、
前記過冷却度と前記運転蒸発器平均開度と前記過熱度の値の組み合わせが、前記中程度漏洩状態と前記少程度漏洩状態と前記多程度漏洩状態にて規定される値の組み合わせ以外である場合、前記ヒートポンプ装置の運転状態が前記通常運転とは異なる運転状態にあるとして漏洩程度の判定から除外する点にある。
【0019】
例えば、ヒートポンプ装置が運転開始直後等で、通常運転状態にない場合には、運転蒸発器平均開度が、基準平均開度程度であるにも関わらず、過熱度が基準過熱度よりも高い状態になる場合がある。
上記特徴構成によれば、このような場合を、漏洩状態の判定から除外することで、漏洩状態の判定精度を向上できる。
【0020】
冷媒漏洩状態判定方法の更なる特徴構成は、
前記冷媒漏洩程度判定工程は、
前記運転蒸発器平均開度導出工程にて導出された前記運転蒸発器平均開度を前記圧縮機の入口圧力である蒸発圧力が高くなるほど高い側へ補正する点にある。
【0021】
図7に示すように、発明者らは、漏洩がある場合(図7では漏洩率が40%)において、圧縮機の入口圧力である蒸発圧力が高くなるほど、運転蒸発器平均開度が高くなる傾向にあるという知見を得た。
上記特徴構成によれば、運転蒸発器平均開度導出工程にて導出された運転蒸発器平均開度を圧縮機の入口圧力である蒸発圧力が高くなるほど高い側へ補正するから、蒸発圧力が高い場合であっても、冷媒の漏洩程度を効果的に判定することができる。
尚、図7から判明するように、発明者らは、このような傾向は、定格負荷であっても中間負荷でもあっても、略同様であることを確認している。
【0022】
冷媒漏洩状態判定方法の更なる特徴構成は、
前記冷媒漏洩程度判定工程は、
前記運転蒸発器平均開度導出工程にて導出された前記運転蒸発器平均開度と蒸発圧力とから、冷媒の漏洩のない正規の充填量にて冷媒の漏洩量を除算した漏洩率を導出する点にある。
【0023】
上記特徴構成によれば、運転蒸発器平均開度導出工程にて導出された運転蒸発器平均開度と蒸発圧力とから、冷媒の漏洩のない正規の充填量にて冷媒の漏洩量を除算した漏洩率をも導出できるから、数値にてより定量的な漏洩状態の判定を行うことができ、当該値に基づいてより適切な事後処理を実行することができる。
【0024】
冷媒漏洩状態判定方法の更なる特徴構成は、
前記冷媒漏洩程度判定工程は、
前記運転蒸発器平均開度導出工程にて導出された前記運転蒸発器平均開度を前記過熱度が高くなるほど高い側へ補正する点にある。
【0025】
図6に示すように、発明者らは、漏洩がある場合(図6では漏洩率が40%)において過熱度が高くなるほど運転蒸発器平均開度が高くなる傾向にあるという知見を得た。
上記特徴構成によれば、運転蒸発器平均開度工程にて導出された運転蒸発器平均開度を過熱度が高くなるほど高い側へ補正するから、過熱度(基準過熱度)の値に関わらず、冷媒の漏洩程度をより精度良く判定できる。
尚、図6から判明するように、発明者らは、このような傾向は、定格負荷であっても中間負荷でもあっても、略同様であることを確認している。
【0026】
更に、冷媒漏洩状態判定システムとしては、
上述の冷媒漏洩状態判定装置を備えると共に、
前記ヒートポンプ装置とネットワーク回線にて電気的に接続される監視装置を備え、
前記監視装置が、前記冷媒の漏洩程度を監視するように構成されていることが好ましい。
【0027】
上記特徴構成によれば、遠隔監視による漏洩判定を実行できるから、漏洩の判定を管理者が夫々の現場に赴いて実行する場合にくらべ、判定に係る作業負荷を十分に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】第1実施形態に係る冷媒漏洩状態判定装置及び冷媒漏洩状態監視システムの概略構成図である。
図2】漏洩率と過冷却度との関係を計算により導出した結果を示すグラフ図である。
図3】漏洩率と運転蒸発器平均開度との関係を計算により導出した結果を示すグラフ図である。
図4】漏洩率と過熱度との関係を計算により導出した結果を示すグラフ図である。
図5】凝縮圧力等のパラメータを変化させた場合における漏洩率と過冷却度との関係を計算により導出した結果を示すグラフ図である。
図6】過熱度が運転蒸発器平均開度に与える影響を示すグラフ図である。
図7】圧縮機入口圧力(蒸発圧力)が運転蒸発器平均開度に与える影響を示すグラフ図である。
図8】蒸発圧力と運転蒸発器平均開度から小・中程度漏洩状態における漏洩率を導出するためのグラフ図である。
図9】別実施形態に係る冷媒漏洩状態判定装置及び冷媒漏洩状態監視システムの概略構成図である。
図10】過冷却器出口の過冷却度と冷媒充填量(漏洩量)との関係を計算により導出した結果を示すグラフ図である。
図11】凝縮器出口の過冷却度と冷媒充填量(漏洩量)との関係を計算により導出した結果を示すグラフ図である。
図12】運転蒸発器平均開度と冷媒充填量(漏洩量)との関係を計算により導出した結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施形態に係る冷媒漏洩状態判定方法、当該判定方法を実行可能な冷媒漏洩状態判定装置100、冷媒漏洩状態監視システム200は、冷媒を循環する冷媒循環路を有するヒートポンプ装置において、運転状態に制約をつけることなく通常運転を継続しながらも、漏洩程度を含む漏洩状態を判定可能なものに関する。
以下、図1図8に基づいて、その実施形態を説明する。
【0030】
実施形態に係る冷媒漏洩状態判定装置100に係るヒートポンプ装置Hは、図1に示すように、エンジン14にて回転駆動され冷媒を圧縮する圧縮機11と、圧縮機11にて圧縮した冷媒を凝縮する凝縮器と、凝縮器にて凝縮した冷媒を膨張させる膨張弁Vと、膨張弁Vにて膨張した冷媒を蒸発させる蒸発器と、圧縮機11と凝縮器と膨張弁Vと蒸発器とに記載の順に冷媒を循環する冷媒循環路C1とを備える。即ち、当該実施形態にあっては、冷媒循環路C1を、冷媒を貯留するレシーバを介さない状態で備えている。
尚、当該冷媒循環路C1には、冷房運転(蒸発器にて冷却能力を発揮する運転)と暖房運転(凝縮器で加熱の能力を発揮する運転)とで冷媒の循環状態を切り替える四方弁20が設けられている。
また、圧縮機11の入口には冷媒を貯留するアキュムレータ15が設けられ、液相状態の冷媒が圧縮機11へ導かれることを防止している。
更に、圧縮機11の出口には圧縮機11から冷媒配管内へ混入したオイルを冷媒から分離するオイルセパレータ16が設けられると共に、当該オイルセパレータ16と圧縮機11の入口とを連通接続するオイル流路Lo及びオイル流路Loを開閉するオイル弁V3が設けられており、オイルセパレータ16に貯留されたオイルは、定期的に、オイル弁V3を閉止状態から開放状態へ移行する形態で、圧縮機11の入口へ導かれる。
【0031】
冷房運転時には、図1に示すように、冷媒循環路C1を通流する冷媒は、圧縮機11、オイルセパレータ16、ファン(図示せず)により送風される室外空気と冷媒とを熱交換する室外熱交換器12(凝縮器に相当)、膨張弁V、ファン(図示せず)により送風される室内空気と冷媒とを熱交換する室内熱交換器13(蒸発器に相当)とに記載の順に循環するように、四方弁20が切り換えられる。
一方、暖房運転時には、図示は省略するが、冷媒循環路C1を通流する冷媒は、圧縮機11、オイルセパレータ16、ファン(図示せず)により送風される室内空気と冷媒とを熱交換する室内熱交換器13(凝縮器に相当)、膨張弁V、ファン(図示せず)により送風される室外空気と冷媒とを熱交換する室外熱交換器12(蒸発器に相当)とに記載の順に循環するように、四方弁20が切り換えられる。なお、エンジン14の排熱を用いて冷媒の一部を蒸発させる熱交換器も設置されている場合が多いが、図示は省略する。
【0032】
更に、当該実施形態に係る冷媒漏洩状態判定装置100は、ヒートポンプ装置Hの各種パラメータを計測するべく、以下の構成を有する。
冷媒漏洩状態判定装置100は、ハードウェアとソフトウェアとが協働して実現される制御装置Sとして、圧縮機11入口での冷媒吸込温度から蒸発温度を減算して過熱度を算出する過熱度算出部S1と、凝縮温度から凝縮器出口での冷媒温度を減算して過冷却度を算出する過冷却度算出部S2と、少なくとも1つ以上の蒸発器を有する場合において、運転している蒸発器(室内熱交換器13)に対応する膨張弁Vに関し、膨張弁開度を蒸発器の能力比率に基づいて換算した値(当該実施形態では除算した値)を平均した値としての運転蒸発器平均開度を導出する運転蒸発器平均開度導出部S3とを有する。
尚、本明細書では、冷房運転の場合を例として説明するため、蒸発器を室内熱交換器13として説明する箇所があるが、暖房運転であっても好適に本発明の冷媒漏洩状態判定方法を適用することができ、暖房運転の場合には蒸発器は室外熱交換器12となる。
更に、制御装置Sは、ヒートポンプ装置Hを通常運転状態で運転するときに、過熱度を所定の基準過熱度(後述する計算結果では5K)に維持する過熱度維持部(図示せず)として機能する。
【0033】
さて、当該実施形態に係る冷媒漏洩状態判定装置100は、運転状態に制約をつけることなく通常運転を継続しながらも、漏洩程度を含む漏洩状態を判定するべく、以下のように構成されている。
【0034】
冷媒漏洩状態判定装置100は、制御装置Sとして、過熱度維持部が過熱度を維持する過熱度維持工程を実行している状態で、過冷却度算出部S2にて算出された過冷却度が零であり、且つ運転蒸発器平均開度導出部S3にて導出された運転蒸発器平均開度が、通常運転時での定格条件における運転蒸発器平均開度である平均開度(図3で100%)を所定値(図3の例では25%程度)だけ増える基準平均開度(図3で125%、L1)を超えると共に運転蒸発器平均開度の最大値である最大平均開度未満であり、過熱度算出部S1にて算出される過熱度が基準過熱度に維持されている場合に、冷媒の漏洩程度が中程度漏洩状態であると判定する冷媒漏洩程度判定工程を実行する冷媒漏洩程度判定部S5を有する。
【0035】
冷媒漏洩程度判定部S5は、冷媒漏洩状態判定方法として、上述の中程度漏洩状態の判定に加えて、少程度の漏洩状態の判定及び多程度の漏洩状態の判定を実行可能に構成されている。
説明を追加すると、冷媒漏洩程度判定部S5は、過熱度維持工程が実行されている状態で、過冷却度算出工程にて算出された過冷却度が零より大きい値であり、且つ運転蒸発器平均開度導出工程にて導出された運転蒸発器平均開度が、最大平均開度未満であり、過熱度算出工程にて算出される過熱度が基準過熱度に維持されている場合に、冷媒の漏洩程度が中程度漏洩状態よりも少ない漏洩程度であって漏洩無しも含む少程度漏洩状態であると判定する。
また、冷媒漏洩程度判定部S5は、過熱度維持工程が実行された状態で、過冷却度算出工程にて算出された過冷却度が零であり、且つ運転蒸発器平均開度導出工程にて導出された運転蒸発器平均開度が最大平均開度であり、過熱度算出工程にて算出される過熱度が基準過熱度より大きい場合に、冷媒の漏洩程度が中程度漏洩状態よりも多い漏洩程度である多程度漏洩状態であると判定する。
【0036】
更に、図2、3、4のシミュレーション結果に基づいて、冷媒漏洩程度判定工程について詳述する。尚、グラフ図において、□は、冷房定格運転における基準値を示すものである。
発明者らは、ヒートポンプ装置Hに関し、シンプルフローの場合の20HPの直膨GHPを模擬したシミュレーションを実行した。当該シミュレーションでは、圧縮冷凍サイクルでの冷房モードを対象としている。
ヒートポンプ装置Hを構成する構成要素としては、圧縮機11は、体積効率=90%で固定とし、オイルセパレータ16は約4Lの体積の空間に設定し、凝縮器(室外熱交換器12)は、段数54・列数3・個数2を模擬し、内径6.8mm・長さ1600mmのフィンチューブタイプで簡易的なパス割を設定し、冷媒循環路C1としての液管は、内径13.9mm、長さ50mで設定し、膨張弁Vは、配管上のオリフィスの面積を変化できるものを用い、蒸発器(室内熱交換器13)は、段数18・列数3・個数4を模擬し、内径4.6mm・長さ2200mmのフィンチューブタイプで、簡易的なパス割で設定し、冷媒循環路C1としてのガス管は、内径26.6mm・長さ50mで設定し、アキュムレータ15は、約8Lの体積の空間に設定した。
尚、上記記載において、凝縮器(室外熱交換器12)は個数2としているが、これは室外熱交換器12の正面と背面に1個ずつ熱交換器が配置されることを示すものである。
一方、上記記載において、蒸発器(室内熱交換器13)は個数4としているが、これは接続する室内熱交換器13の数に相当する。定格条件では、すべての室内熱交換器13に冷媒が流れるが、部分負荷等では一部の室内熱交換器13にのみ冷媒が流れる。本明細書では、蒸発器運転台数比率で表現しており、定格条件は100%、後述の中間負荷では50%と設定している。
次に、計算条件としては、凝縮圧力が2.9MPaA、蒸発器運転台数比率が100%、外気温度が35℃、過熱度が5K、蒸発圧力が0.75MPaA、標準充填量時の過冷却度が5K(17.5kg時)、運転蒸発器平均開度の上限が過冷却度(5K)時のときを100%として300%、圧縮機11の断熱効率が80%、冷媒はR410A、冷媒充填量が110%~30%(冷媒漏洩率が-10%~70%)とした。
尚、当該明細書においては、特に記載がない限り、運転蒸発器平均開度は、通常運転時で定格運転を実行している場合を100%として示している。
【0037】
図2は冷媒の漏洩率と過冷却度との関係、図3は冷媒の漏洩率と運転蒸発器平均開度との関係、図4は冷媒の漏洩率と過熱度との関係を示すグラフ図である。
当該シミュレーション結果から、少程度漏洩状態(図2、3、4では漏洩率が0%以上第1閾値R1(15%程度の値)未満)では、過熱度維持工程が実行されている状態において、過冷却度が、図2に示されるように零より大きい値であり、且つ運転蒸発器平均開度が、図3に示されるように基準平均開度(図3でL1)未満であり、過熱度が、図4に示されるように基準過熱度(図4では5K)に維持されていることがわかる。
中程度漏洩状態(図2、3、4では漏洩率が第1閾値R1%以上第2閾値R2(50%程度の値)未満)では、過熱度維持工程が実行されている状態において、過冷却度が、図2に示されるように零であり、且つ運転蒸発器平均開度が、図3に示されるように基準平均開度(図3でL1)を超えると共に最大平均開度未満であり、過熱度が、図4に示されるように基準過熱度(図4では5K)に維持されていることがわかる。
多程度漏洩状態(図2、3、4では漏洩率が第2閾値R2%以上)では、過熱度維持工程が実行されている状態において、過冷却度が、図2に示されるように零であり、且つ運転蒸発器平均開度が、図3に示されるように基準平均開度(図3でL1)を超える最大平均開度(300%)であり、過熱度が、図4に示されるように基準過熱度(図4では5K)より大きい値となっていることがわかる。
即ち、本発明に係る冷媒漏洩状態判定方法では、上述のシミュレーションの結果に基づいて、冷媒漏洩状態の判定を実行しているのである。
【0038】
尚、当該実施形態に係る冷媒漏洩状態判定装置100は、ヒートポンプ装置Hの運転状態に制限がなく通常運転状態であれば冷媒漏洩状態の判定を行えるものである。
しかしながら、例えば、ヒートポンプ装置Hの始動状態(定常運転に達するまでの状態)では、上述の各種パラメータの組み合わせが例外的な値を示す。例えば、始動状態では、運転蒸発器平均開度の開度が最大になっていないにも関わらず、過熱度が基準過熱度を超える高い値を示す場合がある。
そこで、冷媒漏洩程度判定部S5は、冷媒漏洩程度判定工程において、過冷却度と運転蒸発器平均開度と過熱度の値の組み合わせが、中程度漏洩状態と少程度漏洩状態と多程度漏洩状態にて規定される値の組み合わせ以外である場合、ヒートポンプ装置の運転状態が通常運転とは異なる運転状態にあるとして漏洩程度の判定から除外する。
【0039】
さて、次に、種々の環境指標やパラメータの変化が、過冷却度及び運転蒸発器平均開度に及ぼす影響について行ったシミュレーション結果を、図5、6、7に基づいて説明する。
まず、過冷却度と漏洩率との関係を示す図5は、凝縮圧力:2.6~3.2MPaA、蒸発器運転台数比率:25%~100%、外気温度:25~35℃に変化させた場合の結果である。図5から判明するように、過冷却度がハッチングで示される部分で大きく変化することとなった。即ち、少程度の漏れ(過冷却度が正)の場合、凝縮圧力、運転台数比率、外気温度による過冷却度自体の変化が大きいことが判明した。しかしながら、第1閾値R1未満において過冷却度が零より大きい値をとり、第1閾値R1以上において過冷却度が零となる傾向は概ね維持される。これにより、本発明に係る過冷却度と漏洩率との関係において、凝縮圧力、蒸発器運転台数比率及び外気温度による補正は必要ないものとした。
【0040】
次に、運転蒸発器平均開度と過熱度との関係を図6に示す。漏洩率が40%において、定格負荷(外気温度35℃、蒸発器運転台数比率100%、凝縮圧力2.9MPaA)と中間負荷(外気温度30℃、蒸発器運転台数比率50%、凝縮圧力2.6MPaA)との何れにおいても、過熱度が高くなるほど、運転蒸発器平均開度が低下する傾向にあることがわかる。
そこで、冷媒漏洩程度判定部S5は、冷媒漏洩程度判定工程において、運転蒸発器平均開度を過熱度が高くなるほど高い側へ補正する。
尚、定格負荷や中間負荷では、概ね同じ特性となっているため、凝縮圧力、運転台数比率、外気温度の影響は大きくないことがわかる。
【0041】
次に、運転蒸発器平均開度と圧縮機11の入口圧力(蒸発圧力)との関係を図7に示す。漏洩率が40%において、定格負荷(外気温度35℃、蒸発器運転台数比率100%、凝縮圧力2.9MPaA)と中間負荷(外気温度30℃、蒸発器運転台数比率50%、凝縮圧力2.6MPaA)との何れにおいても、蒸発圧力が高くなるほど、運転蒸発器平均開度が低下する傾向にあることがわかる。
そこで、冷媒漏洩程度判定部S5は、冷媒漏洩程度判定工程において、運転蒸発器平均開度を圧縮機11の入口圧力である蒸発圧力が高くなるほど高い側へ補正する。
尚、定格負荷や中間負荷では、概ね同じ特性となっているため、凝縮圧力、運転台数比率、外気温度の影響は大きくないことがわかる。
【0042】
更に、発明者らは、例えば、運転蒸発器平均開度が変化する少程度漏洩状態及び中程度漏洩状態において、即ち多程度漏洩状態を除く漏洩状態において、運転蒸発器平均開度と蒸発圧力(圧縮機11の入口圧力)とから、冷媒の漏洩のない正規の充填量にて冷媒の漏洩を除算した漏洩率(又は、100%から当該漏洩率を減算した充填率)を導出できることを、新たに見出した。
具体的には、図8に示すように、縦軸に充填率(100%-漏洩率)をとり、横軸に運転蒸発器平均開度をとったグラフ図において、蒸発圧力毎に、運転蒸発器平均開度の増加に従って充填率が減少する特性を有するグラフ図、換言すると充填率が運転蒸発器平均開度に対して累乗近似の特性を有するグラフ図を得るに至った。
因みに、当該図8に示すグラフのデータは、概ね同じような特性であった前述の定格負荷条件と中間負荷条件の結果から算出した値である。また、当該図8に示すグラフは、上述した構成及び条件において、以下の〔式1〕にて算出できる。
【0043】
〔式1〕
【0044】
ここで、R:漏洩率、Pe:圧縮機入口圧力(MPaA)、Ev:運転蒸発器平均開度(%)、a=-0.98、 b=1.75、c=-0.06、d=0.06、e=-0.72
尚、当該値は、上述した具体的なヒートポンプ装置Hの構成を採用した場合の値であり、システム構成を変更すれば変化するものである。
【0045】
即ち、冷媒漏洩程度判定部S5は、冷媒漏洩程度判定工程において、冷媒の漏洩率(又は、充填率)までをも含めて判定できるから、管理者は当該値に基づいて、漏洩状況をより的確に把握しながら復旧作業に取り組むことができる。尚、図8では、運転蒸発器平均開度が120%である場合で、圧縮機入口圧力が1.05MPaAである場合と、圧縮機入口圧力が0.75MPaAである場合とにおける漏洩率(充填率)を導出する場合を例示している。
【0046】
本発明に係る冷媒漏洩状態判定装置100は、図1に示すように、ネットワーク回線Nを介した監視装置Kを備えた冷媒漏洩状態監視システムとして構成可能である。当該構成では、制御装置Sの冷媒漏洩程度判定部S5にて判定された判定結果を監視装置Kにて常時監視することができ、ヒートポンプ装置Hが設けられる現場に管理者が赴くことなく、冷媒漏洩程度を把握することができる。
因みに、制御装置Sは、ヒートポンプ装置Hを一体的に設けても構わないし、監視装置Kの一部として設けても構わない。
【0047】
〔別実施形態〕
(1)本発明に係る冷媒漏洩状態判定装置100、冷媒漏洩状態判定方法及び冷媒漏洩状態判定システムは、図9に示すように、冷媒循環路C1を循環する冷媒の一部を分流する分配流路C2、分流した冷媒を膨張させ降温させる膨張弁V4、膨張弁V4を通過して降温した冷媒にて冷媒循環路C1を循環する冷媒を冷却する過冷却器17とを備える構成であっても良好にその機能を発揮する。
図9には、冷房運転時における分配流路C2の回路構成の一例を示す。
尚、以下では、上記実施形態と異なる構成である分配流路C2に関連する構成についてのみ説明し、説明のない構成については、上記実施形態と同一であるとする。
図9に示すように、分配流路C2の上流端は、過冷却器17と膨張弁Vとの間の冷媒循環路C1に接続されると共に、下流端は、アキュムレータ15と圧縮機11との間の冷媒循環路C1(より詳細には、オイル流路Loの下流端とアキュムレータ15との間の冷媒循環路C1)に接続されている。
当該分配流路C2は、膨張弁V4にて膨張された冷媒が通流する流路部位が、過冷却器17の内部を通過する形態で配設され、これにより、過冷却器17にて冷媒循環路C1を循環する冷媒を冷却するものである。
ここで、分配流路C2へ導かれる冷媒の流量を室外熱交換器12を通流する冷媒の流量で除算した値(図10~12でSCで示される値)を、8%(図10~12で△印)、4%(図10~12で□印)、0%(図10~12で〇印)とした場合における過冷却器17の出口の過冷却度と冷媒充填量の関係を図10に、凝縮器の出口での過冷却度と冷媒充填量との関係を図11に、膨張弁開度と冷媒充填量との関係を図12に示す。
当該結果により、過冷却器17の出口での過冷却度(図10で示す値)では、分配流路C2への冷媒の充填量の変化に伴って過冷却度と冷媒充填量との関係が変化しているのに対し、凝縮器の出口での過冷却度(図11で示す値)では、分配流路C2への冷媒の充填量の変化に関わらず過冷却度と冷媒充填量との関係が変化してない。このことから、過冷却器17を備える構成においては、凝縮器の出口にて過冷却度を導出する構成を採用することで、分配流路C2への冷媒の分配量に関わらず、冷媒の漏洩状態を適切に判定できることがわかる。
また、図12から、分配流路C2への分配量は、膨張弁開度と冷媒充填量との関係には、ほとんど影響を及ぼさないことがわかる。
【0048】
(2)上記で記載した基準平均開度L1、閾値R1、閾値R2の値は、運転条件やシステム構成により変化する値であり、上記実施形態に示した値は例示であって、本発明の実施形態はこの値に限定されるものではない。
【0049】
(3)上記実施形態では、中程度漏洩状態に加え、少程度漏洩状態及び多程度漏洩状態をも判定する構成を示したが、中程度漏洩状態のみを検出する構成を採用しても構わない。
【0050】
(4)上記実施形態では、過熱度による運転蒸発器平均開度の補正や、圧縮機の入口圧力による運転蒸発器平均開度の補正を行う例を示したが、これらの補正は実行しなくても構わない。
【0051】
(5)上記実施形態では、本発明に係るエンジン駆動式のヒートポンプ装置を例にとって説明したが、本発明に係る冷媒漏洩状態判定方法、冷媒漏洩状態判定装置及び冷媒漏洩状態監視システムは、モータ駆動式のヒートポンプ装置であっても、有効に利用可能である。
【0052】
(6)少程度漏洩状態の判定は、過熱度維持工程が実行されている状態で、過冷却度算出工程にて算出された過冷却度が零より大きい値であり、且つ運転蒸発器平均開度導出工程にて導出された運転蒸発器平均開度が、基準平均開度未満であり、過熱度算出工程にて算出される過熱度が基準過熱度に維持されている場合に、冷媒の漏洩程度が中程度漏洩状態よりも少ない漏洩程度である少程度漏洩状態であると判定する構成であっても構わない。
【0053】
尚、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の冷媒漏洩状態判定装置、冷媒漏洩状態監視システムは、冷媒を循環する冷媒循環路を有するヒートポンプ装置において、運転状態に制約をつけることなく通常運転を継続しながらも、漏洩程度を含む漏洩状態を判定可能な冷媒漏洩状態判定方法、当該判定方法を実行可能な冷媒漏洩状態判定装置、冷媒漏洩状態監視システムとして、有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0055】
11 :圧縮機
12 :室外熱交換器
13 :室内熱交換器
100 :冷媒漏洩状態判定装置
200 :冷媒漏洩状態監視システム
C1 :冷媒循環路
H :ヒートポンプ装置
K :監視装置
N :ネットワーク回線
S :制御装置
S1 :過熱度算出部
S2 :過冷却度算出部
S3 :運転蒸発器平均開度導出部
S5 :冷媒漏洩程度判定部
V :膨張弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12