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特許7412227固体酸化物形燃料電池の製造方法およびインクセット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】固体酸化物形燃料電池の製造方法およびインクセット
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/88 20060101AFI20240104BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20240104BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20240104BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20240104BHJP
【FI】
H01M4/88 T
H01M4/86 T
H01M4/90 X
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
H01M8/12 102B
H01M8/12 102C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020039884
(22)【出願日】2020-03-09
(65)【公開番号】P2021141019
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】竹田 昌平
(72)【発明者】
【氏名】住田 健一
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-088490(JP,A)
【文献】特表2006-508501(JP,A)
【文献】特表2006-517329(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86- 4/98
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類の無機粉体が混合したアノードを有する固体酸化物形燃料電池を製造する方法であって、
第1の無機粉体を含有する第1のインクを印刷対象の表面にインクジェット印刷する第1印刷工程と、
前記印刷対象の表面に付着した前記第1のインクの上に、第2の無機粉体を含有する第2のインクをインクジェット印刷する第2印刷工程と、
前記印刷対象の表面に印刷されたインクの混合物を乾燥・焼成することによって前記アノードを形成する乾燥焼成工程と
を少なくとも備え、
前記第1の無機粉体の沈降速度Vg1と、前記第2の無機粉体の沈降速度Vg2とをストークスの式によって算出したとき、下記の式(1)および(2)を満たし、
前記第1印刷工程と前記第2印刷工程とを30秒以上1分間以下の時間差で連続して実施し、かつ、
前記第2印刷工程と前記乾燥焼成工程との間に、0.1秒間~30秒間の保持工程を設けることを特徴とする、固体酸化物形燃料電池の製造方法。
g1<Vg2 (1)
300nm/s≦Vg2-Vg1≦2200nm/s (2)
【請求項2】
前記第1の無機粉体の主構成粒子の平均粒子径が、前記第2の無機粉体の主構成粒子の平均粒子径よりも小さい、請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池の製造方法。
【請求項3】
前記第1の無機粉体の主構成粒子の密度が、前記第2の無機粉体の主構成粒子の密度よりも小さい、請求項1または2に記載の固体酸化物形燃料電池の製造方法。
【請求項4】
前記第1のインクと前記第2のインクの粘度が1mPa・s以上20mPa・s以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池の製造方法。
【請求項5】
前記アノードの膜厚が1μm以上100μm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池の製造方法。
【請求項6】
前記第1の無機粉体の主構成粒子が酸化ニッケルであり、前記第2の無機粉体の主構成粒子がイットリウム安定化ジルコニアである、請求項1~5のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池の製造方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池の製造方法に使用されるインクセットであって、
第1の無機粉体を含有する第1のインクと、
第2の無機粉体を含有する第2のインクと
を少なくとも備え、
前記第1の無機粉体の沈降速度Vg1と、前記第2の無機粉体の沈降速度Vg2とをストークスの式によって算出したとき、下記の式(1)および(2)を満たすことを特徴とする、インクセット。
g1<Vg2 (1)
300nm/s≦Vg2-Vg1≦2200nm/s (2)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池の製造方法に関する。具体的には、インクジェット印刷を用いた固体酸化物形燃料電池の製造方法および当該製造方法に用いられるインクセットに関する。
【背景技術】
【0002】
印刷対象の表面に画像を描画する印刷方法の一つとして、インクジェット印刷が挙げられる。インクジェット印刷は、高精度の画像を低コストかつオンデマンドで印刷でき、印刷対象へのダメージが少ないため、様々な分野で利用されている。例えば、近年では、電子部品の製造にインクジェット印刷が使用されている。具体的には、通常の電子部品の製造では、金属粒子やセラミック粒子等の無機粉体を含むスラリーを基材表面に塗布して焼成することで電極を形成する。インクジェット印刷では、このスラリーの塗布に代えて、無機粉体を含むインクを基材表面に吐出して印刷する。
【0003】
ところで、固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)は、種々の燃料電池の中でも発電効率が高く、多様な燃料を使用できるなどの利点を有することから、次世代の発電装置として開発が進められている。このSOFCは、酸素イオン伝導体からなる緻密層である固体電解質と、当該固体電解質の一方の面に形成された多孔質構造のカソード(空気極)と、固体電解質の他方の面に形成された多孔質構造のアノード(燃料極)とを備えている。特許文献1、2には、上記構造のSOFCの電極(例えば、アノード)の形成にインクジェット印刷を利用する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-071537号公報
【文献】特開2010-077463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記構成のSOFCのアノードには、燃料ガス(Hなど)が供給され、固体電解質を介してカソードから供給された酸素イオン(O2-)と燃料ガスとを反応させることによって電子が生じる。かかる発電反応が効率的に行われるように、SOFCのアノードには、酸素イオン伝導性を有する無機粉体(イオン伝導粉体)と、燃料ガスの酸化を促進する無機粉体(触媒粉体)とが混合した混合膜が用いられる。かかる混合膜は、発電性能向上の観点から、イオン伝導粉体と触媒粉体とが均一に分散していることが求められる。
【0006】
しかしながら、インクジェット印刷を用いた場合、イオン伝導粉体と触媒粉体とが均一に分散したアノードを形成することが困難である。具体的には、インクジェット印刷用のインクは、印刷時の吐出性確保の観点から低粘度であることが求められる。従来のスラリーとは異なり、低粘度のインクの液中ではイオン伝導粉体と触媒粉体とが分離しやすいため、これらの無機粉体が均一に分散したアノードを形成することが難しくなる。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、インクジェット印刷を用いて、複数種類の無機粉体が均一に分散したアノードを有するSOFCを製造する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここに開示されるSOFCの製造方法は、複数種類の無機粉体が混合したアノードを有する固体酸化物形燃料電池を製造する方法である。かかる製造方法は、第1の無機粉体を含有する第1のインクを印刷対象の表面にインクジェット印刷する第1印刷工程と、印刷対象の表面に付着した第1のインクの上に、第2の無機粉体を含有する第2のインクをインクジェット印刷する第2印刷工程と、印刷対象の表面に印刷されたインクの混合物を乾燥・焼成することによってアノードを形成する乾燥焼成工程とを少なくとも備えている。そして、ここに開示される製造方法は、第1の無機粉体の沈降速度Vg1と、第2の無機粉体の沈降速度Vg2とをストークスの式によって算出したとき、下記の式(1)および(2)を満たすことを特徴とする。
g1<Vg2 (1)
300nm/s≦Vg2-Vg1≦2200nm/s (2)
【0009】
先ず、ここに開示される製造方法では、複数種類の無機粉体を一つのインクに混合せずに、無機粉体の種類毎に異なるインクを使用している。これによって、印刷前のインク内で複数種類の無機粉体が分離することを防止できる。次に、ここに開示される製造方法では、無機紛体の沈降速度Vg1が相対的に遅い第1のインクを先に印刷し、その第1のインクの上に、無機紛体の沈降速度Vg2が相対的に早い第2のインクを印刷している。これによって、印刷後のインクの液滴内において、先に印刷された第1のインクの無機粉体が上昇し、後に印刷された第2のインクの無機粉体が下降するような対流が発生する。そして、本発明者らが行った実験・検討によると、上記式(2)に示すように、第1のインクと第2のインクの無機粉体の沈降速度差(Vg2-Vg1)を300~2000nm/sの範囲内に制御した場合、第1の無機粉体の上昇と第2の無機粉体の下降とのバランスが取れ、複数種類の無機粉体が均一に分散したアノードが形成されることが確認されている。したがって、ここに開示される技術によると、インクジェット印刷を用いて、複数種類の無機粉体が均一に分散したアノードを有するSOFCを製造できる。
【0010】
なお、本明細書における「無機粉体の沈降速度」は、無機粉体の主要部分を占める粒子(主構成粒子)の沈降速度であり、原料や製造工程等に由来して不可避的かつ微量に混入した無機粒子の沈降速度を考慮しない。具体的には、無機粉体の総量を100wt%としたとき、当該無機粉体の総量の60wt%以上(好ましくは70wt%以上、より好ましくは80wt%以上、さらに好ましくは90wt%以上、特に好ましくは95wt%以上)を占める無機粒子を主構成粒子とみなす。そして、かかる主構成粒子の沈降速度をストークスの式に基づいて算出することによって、「無機粉体の沈降速度」を求めることができる。
【0011】
ここに開示される製造方法の好適な一態様では、第1の無機粉体の主構成粒子の平均粒子径が、第2の無機粉体の主構成粒子の平均粒子径よりも小さい。ストークスの式に基づく沈降速度は、粉体の平均粒子径によって変動し得る。このため、第1の無機粉体と第2の無機粉体との間で主構成粒子の平均粒子径を異ならせることによって、各々の無機粉体の沈降速度を容易に制御できる。
【0012】
ここに開示される製造方法の好適な一態様では、第1の無機粉体の主構成粒子の密度が、第2の無機粉体の主構成粒子の密度よりも小さい。ストークスの式に基づく沈降速度が変動する要素の他の例として、粉体の密度が挙げられる。このため、第1の無機粉体と第2の無機粉体との間で主構成粒子の密度を異ならせることによって、各々の沈降速度を容易に制御できる。
【0013】
ここに開示される製造方法の好適な一態様では、第1のインクと第2のインクの粘度が1mPa・s以上20mPa・s以下である。ストークスの式に基づく沈降速度が変動する他の要素としてインクの粘度が挙げられる。しかし、インクジェット印刷の吐出性を考慮すると、各々のインクの粘度は1mPa・s~20mPa・sの範囲内に固定し、上述した無機粉体の主構成粒子の平均粒子径や密度などを調節した方が好ましい。
【0014】
ここに開示される製造方法の好適な一態様では、アノードの膜厚が1μm以上100μm以下である。ここに開示される製造方法は、1μm~100μmという一般的な膜厚を有するアノードを有したSOFCの製造に特に好適に使用できる。
【0015】
ここに開示される製造方法の好適な一態様では、第1の無機粉体の主構成粒子が酸化ニッケル(NiO)であり、第2の無機粉体の主構成粒子がイットリウム安定化ジルコニア(YSZ)である。NiOは、燃料ガスの酸化を促進する触媒粉体として好適に機能し、YSZは、高いイオン伝導性を有するイオン伝導粉体として好適に機能する。このため、NiOとYSZとを均一に分散させたアノードを形成することによって、高い発電性能を発揮するSOFCを構築できる。
【0016】
また、ここに開示される技術の他の側面としてインクセットが提供される。かかるインクセットは、複数種類の無機粉体が混合したアノードを有する固体酸化物形燃料電池の製造に使用される。このインクセットは、第1の無機粉体を含有する第1のインクと、第2の無機粉体を含有する第2のインクとを少なくとも備えている。そして、ここに開示されるインクセットは、第1の無機粉体の主構成粒子の沈降速度Vg1と、第2の無機粉体の主構成粒子の沈降速度Vg2とをストークスの式によって算出したとき、下記の式(1)および(2)を満たすことを特徴とする。
g1<Vg2 (1)
300nm/s≦Vg2-Vg1≦2200nm/s (2)
【0017】
かかる構成のインクセットを使用することによって、複数種類の無機粉体が均一に分散したアノードを形成できるため、好適な発電性能を発揮するSOFCを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】SOFCの単セルを模式的に示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係るSOFCの製造方法を示すフローチャートである。
図3】インクジェット装置の一例を模式的に示す全体図である。
図4】サンプル2で形成した混合膜の断面SEM画像(5000倍)である。
図5】サンプル13で形成した混合膜の断面SEM画像(5000倍)である。
図6】サンプル26で形成した混合膜の断面SEM画像(5000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0020】
1.固体酸化物形燃料電池(SOFC)
先ず、本実施形態に係る製造方法の結果物である固体酸化物形燃料電池(SOFC)について説明する。図1はSOFCの単セルを模式的に示す断面図である。
【0021】
図1に示すように、SOFC10は、カソード20と、固体電解質30と、アノード40とを備えている。具体的には、SOFC10は、固体電解質30を介して、カソード20とアノード40とを積層することによって構築される。なお、SOFCの具体的な構造は、図1に示す構造に限定されない。例えば、SOFCは、縦縞円筒型(Tubular)、扁平円筒型(Flat tubular)等の形状を採用することもできる。また、カソード20と固体電解質30との間や、固体電解質30とアノード40との間に所定の中間層が設けられていてもよい。かかる中間層の一例として、カソード20と固体電解質30との間に設けられる反応防止層などが挙げられる。
【0022】
(1)カソード
カソード20は、酸素(O)を含む気体(典型的には空気)が供給される空気極である。かかるカソード20は、膜の内部まで空気が適切に供給されるように、多孔質構造を有していることが好ましい。また、カソード20は、酸化物イオン伝導性のペロブスカイト型酸化物を主体に構成される。かかるペロブスカイト型酸化物の一例として、ランタンコバルトネート(LaCoO)系やランタンマンガネート(LaMnO)系のペロブスカイト型酸化物などが挙げられる。なお、カソード20の具体的な構成(厚み、気孔率、詳細な材料など)は、一般的なSOFCのカソードの構成を特に制限なく採用でき、ここに開示される技術を限定するものでないため詳細な説明を省略する。
【0023】
(2)固体電解質
固体電解質30は、カソード20とアノード40との間に介在する酸化物イオン伝導体である。かかる固体電解質30は、カソード20とアノード40との間でガスが混合しないように形成された緻密層である。この固体電解質30には、酸化物イオン伝導性を有する無機粉体(イオン伝導粉体)が用いられる。かかるイオン伝導粉体としては、例えば、ジルコニウム(Zr)、セリウム(Ce)、ランタン(La)、ガリウム(Ga)等を含む金属酸化物が使用できる。かかる金属酸化物の中でも、ジルコニウムの酸化物であるジルコニア(ZrO)が好適である。そして、イオン伝導粉体の更に好適な例として、ジルコニアに希土類の酸化物を固溶させた安定化ジルコニアが挙げられる。かかる安定化ジルコニアとして、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、カルシア安定化ジルコニア(CSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)などが挙げられる。
【0024】
(3)アノード
アノード40は、水素を含む燃料ガスが供給される燃料極である。かかる燃料ガスとしては、水素ガス(H)や、メタン(CH)等の炭化水素ガスが挙げられる。上述したカソード20と同様に、アノード40は、膜の内部まで燃料ガスが適切に供給されるように、多孔質構造を有していることが好ましい。
【0025】
そして、SOFC10のアノード40では、固体電解質30を介してカソード20から供給された酸素イオン(O2-)と燃料ガスとを反応させることによって電子を生じさせる。かかる発電反応が効率的に行われるように、アノード40には、酸素イオン伝導性を有する無機粉体(イオン伝導粉体)と、燃料ガスの酸化を促進する無機粉体(触媒粉体)とが混合した混合膜が用いられる。イオン伝導粉体には、上述した固体電解質30と同種の材料を使用できる。すなわち、アノード40は、イオン伝導粉体としてZr、Ce、La、Ga等を含む金属酸化物を含有している。かかるアノード40中のイオン伝導粉体の更に好適な例として、YSZ、CSZ、ScSZ等の安定化ジルコニアが挙げられる。一方、触媒粉体は、燃料ガスの酸化を促進する触媒金属を含む粉体である。かかる触媒粉体としては、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、コバルト(Co)、ランタン(La)、ストロンチウム(Sr)、チタン(Ti)等からなる金属や、これらの金属元素を含む金属酸化物などが挙げられる。また、高い触媒性能を発揮させるという観点からは、遷移金属元素(Ni等)や白金族元素(Ru等)からなる金属や金属酸化物が好適である。これらの中でも、酸化ニッケル(NiO)は、安価であり、かつ、高い触媒性能を発揮するため特に好適である。
【0026】
また、アノード40を構成する無機粉体の総量を100wt%とした場合、イオン伝導粉体の含有量は、10wt%以上が好ましい。これによって、十分な酸素イオン伝導性を有するアノード40を構築できる。また、より好適な酸素イオン伝導性を確保するという観点から、イオン伝導粉体の含有量は、15wt%以上がより好ましく、20wt%以上がさらに好ましく、25wt%以上が特に好ましい。一方、触媒粉体の含有量を確保し、十分な触媒活性を生じさせるという観点から、イオン伝導粉体の含有量の上限値は、60wt%以下が好ましく、55wt%以下がより好ましく、50wt%以下がさらに好ましく、40wt%以下が特に好ましい。
【0027】
2.インクセット
次に、本実施形態に係るSOFCの製造方法に用いられるインクセットを説明する。このインクセットは、含有する無機粉体が異なる複数のインク(典型的には、2種類以上のインク)によって構成されている。本実施形態に係る製造方法では、かかる複数のインクを印刷対象(典型的には、固体電解質30)の表面で混合し、かかる混合インクを乾燥・焼成することによってアノード40を形成する。以下、第1のインクと第2のインクを備えたインクセットを例に挙げて説明する。
【0028】
(1)各インクの無機粉体
本実施形態に係るインクセットを構成する第1のインクと第2のインクは、それぞれ無機粉体を含んだインクである。本明細書では、第1のインクに含まれる無機粉体を「第1の無機粉体」と称し、第2のインクに含まれる無機粉末を「第2の無機粉体」と称する。各々の無機粉体は、アノード40の主成分であるイオン伝導粉体と触媒粉体の何れかを主構成粒子として含む。すなわち、第1の無機粉体および第2の無機粉体は、主構成粒子として、Zr、Ce、La、Ga等を含む金属酸化物(好適には、YSZ、CSZ、ScSZ等の安定化ジルコニア)等のイオン伝導粉体、および、Ni、Cu、Au、Pt、Pd、Ru、Co、La、Sr、Ti等を含む金属や金属酸化物等の触媒粉体からなる群から選択された少なくとも一種を含有する。上記したように、本実施形態では、第1のインクと第2のインクとを混合した混合インクを焼成することによってアノード40を形成する。すなわち、混合した際に目的とするアノード40の構成成分が得られるように、各々のインクの無機粉体の主構成粒子が選択される。一例として、第1の無機粉体の主構成粒子としてイオン伝導粉体を選択した場合には、第2の無機粉体の主構成粒子として触媒粉体を選択すると好ましい。なお、上記した通り、本明細書における「無機紛体の主構成粒子」は、無機粉体の総量を100wt%としたとき、当該無機粉体の総量の60wt%以上(好ましくは70wt%以上、より好ましくは80wt%以上、さらに好ましくは90wt%以上、特に好ましくは95wt%以上)を占める無機粒子をいう。
【0029】
(2)各インクの溶媒
本実施形態に係るインクセットを構成する各インクは、上述の無機粉体を非水溶媒に分散させることで調製される。非水溶媒は、無機粉末を分散できれば特に限定されず、一般的なインクジェットインクに使用され得る溶媒を制限なく使用できる。なお、インクの吐出性や経日安定性を考慮すると、低粘度かつ高沸点の非水溶媒が好ましい。このような非水溶媒の好適例として、グリコールアセテートや脂肪族モノアルコールなどが挙げられる。グリコールアセテートとしては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ブチルグリコールアセテート、ブチルジグリコールアセテート等が挙げられる。また、脂肪族モノアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、n-アミルアルコール、ヘキサノール、ヘプタノール、n-オクタノール、2-エチルヘキサノール、イソオクタノール、ノナノール、デカノール、イソウンデカノール、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール等の直鎖又は分岐脂肪族アルコールなどが挙げられる。
【0030】
(3)他の添加剤
また、各々のインクには、無機粉末以外の添加剤が添加されていてもよい。かかる添加剤は、ここに開示される技術の効果を損なわない限りにおいて、インクジェットインクに使用され得る添加剤を特に制限なく使用できる。かかる添加剤の一例として、ポリビニルブチラール樹脂やポリビニルホルマール樹脂(ビニロン)等のポリビニルアセタール樹脂が挙げられる。かかるポリビニルアセタール樹脂を添加することによって、非水溶媒における無機粉末の分散性を向上させることができる。また、無機粉末の分散性を向上させる添加剤の他の例として、カチオン系分散剤などが挙げられる。
【0031】
(4)沈降速度
そして、本実施形態に係るインクセットは、第1のインクに含まれる第1の無機粉体の沈降速度Vg1(以下、「第1の沈降速度Vg1」ともいう)と、第2のインクに含まれる第2の無機粉体の沈降速度Vg2(以下、「第2の沈降速度Vg2」ともいう)とが異なることによって特徴付けられる。
【0032】
既に説明しているため詳細な説明は省略するが、「無機粉体の沈降速度V」は、無機粉体の主要部分を占める主構成粒子の沈降速度をいい、原料や製造工程等に由来して不可避的かつ微量に混入した無機粒子の沈降速度を考慮しない。そして、「無機粉体の沈降速度V」は、下記式(3)に示すストークスの式によって算出される。なお、式(3)中のdは「主構成粒子の平均粒子径(m)」であり、Ρは「主構成粒子の密度(g/cm)」であり、Ρは「インクの密度(g/cm)」である。また、gは「重力加速度(m/s)=980cm/s」であり、μは「インクの粘度(kg/m・s)」である。
【0033】
【数1】
【0034】
本実施形態に係るインクセットは、ストークスの式に基づいて算出した第2の沈降速度Vg2が第1の沈降速度Vg1よりも速くなるように構成されている(Vg1<Vg2)。さらに、第2の沈降速度Vg2と第1の沈降速度Vg1との差(Vg2-Vg1)が300nm/s~2200nm/sの範囲内に制御されている。これによって、複数種類の無機粉体(典型的には、イオン伝導粉体と触媒粉体)が均一に分散したアノードを有するSOFCを製造できる。以下、このような効果が得られる理由について、SOFCの製造方法を参照しながら説明する。
【0035】
3.SOFCの製造方法
図2は、本実施形態に係るSOFCの製造方法を示すフローチャートである。図3はインクジェット装置の一例を模式的に示す全体図である。図4図3中のインクジェット装置のインクジェットヘッドを模式的に示す断面図である。図2に示すように、本実施形態に係るSOFCの製造方法は、第1のインクを印刷する第1印刷工程S10と、第2のインクを印刷する第2印刷工程S20と、乾燥焼成工程S30とを備えている。
【0036】
(1)第1印刷工程
第1印刷工程S10では、第1の無機粉体を含有する第1のインクを印刷対象の表面にインクジェット印刷する。例えば、本工程では、図3に示すようなインクジェット装置100を用いられる。このインクジェット装置100は、第1のインクと第2のインクを貯蔵するインクジェットヘッド110を備えている。このインクジェットヘッド110は、第1のインクを貯蔵する第1貯蔵部112と、第2のインクを貯蔵する第2貯蔵部114とを備えている。そして、このインクジェットヘッド110は、印刷カートリッジ140の内部に収容されている。印刷カートリッジ140は、ガイド軸120に挿通されており、当該ガイド軸120の軸方向Xに沿って往復動するように構成されている。また、図示は省略するが、このインクジェット装置100は、ガイド軸120を垂直方向Yに移動させる移動手段を備えている。本実施形態に係るインクジェット装置100は、軸方向Xおよび垂直方向Yの所望の位置にインクジェットヘッド110を移動させ、第1貯蔵部112から第1のインクを吐出することによって、印刷対象Wの所望の位置に第1のインクを付着させる。なお、本実施形態における印刷対象Wは、焼成前の固体電解質30(図1参照)である。但し、固体電解質30とアノード40との間に何らかの中間層を介在させる場合には、当該中間層を印刷対象Wとしてもよい。
【0037】
(2)第2印刷工程
第2印刷工程S20では、印刷対象Wの表面に印刷された第1のインクの上に、第2の無機粉体を含有する第2のインクを印刷する。具体的には、本工程では、上記第1印刷工程において印刷した第1のインクの液滴の上方に、インクジェットヘッド110を再び配置し、第2貯蔵部114から第2のインクを吐出する。これによって、印刷対象W(典型的には固体電解質30)の表面において、第1のインクと第2のインクとが混合される。このように、本実施形態に係る製造方法では、アノード40の構成材料である複数種類の無機粉体(典型的には、イオン伝導粉体と触媒粉体)を一つのインクに混合せず、複数のインクに分けて印刷対象Wの表面に供給する。これによって、印刷前のインク内で複数種類の無機粉体が分離することを防止できる。なお、印刷対象Wの表面において、第1のインクと第2のインクとを適切に混合するという観点から、第1のインクが乾燥しない程度の時間差(例えば、30秒~1分間)で第1印刷工程と第2印刷工程を連続して実施することが好ましい。
【0038】
そして、上述したように、本実施形態では、第2の沈降速度Vg2が第1の沈降速度Vg1よりも速くなる(Vg1<Vg2)ように構成されたインクセットが用いられている。このため、印刷後の混合インクの液滴内において、相対的に沈降速度Vg2が速い第2の無機粉体が下降し、かつ、相対的に沈降速度Vg1が遅い第1の無機粉末が上昇するような対流が発生する。そして、本実施形態では、この対流が適切に発生して各々の粉体が混合インクの液滴内で均一に分散するように各々の無機粉末の沈降速度が調節されている。
【0039】
具体的には、第2の沈降速度Vg2と第1の沈降速度Vg1との差(Vg2-Vg1)が小さすぎると、第2の無機粉体が沈降し、第1の無機粉体が上昇するような対流が生じなくなる。このため、本実施形態では、Vg2-Vg1の下限値が300nm/s以上に定められている。なお、かかる対流を効果的に発生させるという観点から、Vg2-Vg1の下限値は、350nm/s以上が好ましく、400nm/s以上がより好ましく、450nm/s以上がさらに好ましく、500nm/s以上が特に好ましい。一方、第2の沈降速度Vg2と第1の沈降速度Vg1との差(Vg2-Vg1)が大きくなり過ぎると、第2の無機粉体が下層側に凝集し、第1の無機粉体が上層側に凝集した二層構造のアノードが形成される。このため、本実施形態では、Vg2-Vg1の上限値が2200nm/s以下に定められている。また、このような二層構造のアノードの形成を確実に防止するという観点から、Vg2-Vg1の上限値は、2150nm/s以下が好ましく、2100nm/s以下以下がより好ましく、2050nm/s以下がさらに好ましく、2000nm/s以下が特に好ましい。
【0040】
(3)乾燥焼成工程
そして、本実施形態に係る製造方法は、印刷対象Wの表面に印刷されたインクの混合物を乾燥・焼成することによってアノードを形成する乾燥焼成工程S30を備えている。かかる乾燥焼成工程S30の条件は、従来公知のSOFCの製造において採用される条件を特に制限なく適用するこができ、ここに開示される技術を限定するものではない。例えば、インクの混合物を乾燥する際には、インクが付着した印刷対象Wを80℃~120℃の環境で5分間~30分間保持することが好ましい。そして、乾燥後の焼成処理は、1200℃~1500℃の加熱温度で1時間~8時間実施すると好ましい。これによって、非水溶媒や樹脂材料などが焼失すると共に、各々の無機粉体が焼結し、多孔質のアノード40が形成される。上述したように、本実施形態では、第1のインクと第2のインクとの混合インク内で複数の無機粉体が均一に分散されているため、乾燥焼成工程S30後に形成されたアノード40においてイオン伝導粉体と触媒粉体とを均一に分散できる。
【0041】
なお、本実施形態に係る製造方法では、混合インクの液滴内で第1の無機粉体と第2の無機粉体とが十分に混合した後にインクが乾燥されるように、乾燥焼成工程S30の開始タイミングを調節することが好ましい。例えば、第2印刷工程S20が終了した後、0.1秒間~30秒間(好ましくは0.1秒間~15秒間、より好ましくは0.1秒間~10秒間、さらに好ましくは0.1秒間~5秒間)の保持工程を設けることが好ましい。これによって、イオン伝導粉体と触媒粉体とが均一に分散した高性能のアノード40を形成できる。
【0042】
4.他の実施形態
以上、ここに開示される技術の一実施形態について説明した。なお、上述の実施形態は、ここに開示される技術の一例を示したものであり、ここに開示される技術は、上述の実施形態に限定されない。
【0043】
例えば、上述の実施形態では、第1のインクと第2のインクの2種類のインクからなるインクセットおよび当該インクセットを用いた製造方法について説明した。しかし、インクセットを構成するインクの数は、2種類に限定されない。例えば、3種類のインクからなるインクセットを用いる場合には、上述した第1のインクと第2のインクの他に、第3の無機粉体を含有する第3のインクを準備する。そして、第3の無機粉体の沈降速度Vg3が、第1の沈降速度Vg1と第2の沈降速度Vg2との間の速度になるように各々の沈降速度を調節する(Vg1<Vg3<Vg2)。そして、第2の沈降速度Vg2と第1の沈降速度Vg1との差(Vg2-Vg1)を300nm/s~2200nm/sの範囲内に制御した上で、上記第1印刷工程S10と第2印刷工程S20との間に、第3のインクを印刷する第3印刷工程を実施する。このように、ここに開示される技術では、最大沈降速度(第2の沈降速度Vg2)と最小沈降速度(第1の沈降速度Vg1)との差を300nm/s~2200nm/sの範囲内に制御し、沈降速度が遅いインクから順に印刷を行うことが好ましい。これによって、3種類以上のインクを使用した場合でも、無機粉体が均一に分散したアノードを形成できる。
【0044】
また、各々の無機粉体の沈降速度Vは、様々な方法で制御でき、当該沈降速度Vの制御手段は特に限定されない。例えば、上述の式(3)に示すように、「無機粉末の主構成粒子の平均粒子径d」は、沈降速度Vに影響する要素の一つである。具体的には、主構成粒子の平均粒子径dが小さくなるにつれて沈殿速度Vが遅くなる傾向がある。このため、相対的に遅い沈殿速度Vg1が求められる第1の無機粉体の主構成粒子の平均粒子径を、第2の無機粉体の主構成粒子の平均粒子径よりも小さくすることが好ましい。なお、無機紛体の平均粒子径が大きくなりすぎると、インクジェットヘッド110が詰まって吐出性が低下する虞がある。このため、第1の無機粉体および第2の無機粉体の平均粒子径の上限値は、500nm以下が好ましく、475nm以下がより好ましく、450nm以下がさらに好ましく、425nm以下が特に好ましい。なお、本明細書における「平均粒子径」は、SEM(Scanning Electron Microscope)観察画像に基づいて測定された値である。具体的には、インクのSEM画像から、無機粉末の粒子をランダムに100個選択し、選択した粒子の粒子径を平均粒子径としている。
【0045】
また、上記式(3)に示すように、「主構成粒子の密度Ρ」も沈降速度Vに影響する要素の一つである。具体的には、主構成粒子の密度Ρが小さくなるにつれて沈降速度Vが遅くなる傾向がある。このため、相対的に遅い沈降速度Vg1が求められる第1の無機粉体の主構成粒子の密度は、第2の無機粉体は主構成粒子の密度Ρよりも小さいことが好ましい。但し、無機粉体の沈降速度Vは、「主構成粒子の密度Ρ」以外の要素によっても変動し得る。
【0046】
また、式(3)に示すように、インクの粘度μやインクの密度Ρも沈降速度Vに影響する。しかし、これらは、印刷時の吐出性やアノードの品質等に大きく影響するため、沈降速度Vを制御する手段として採用しない方が好ましい。例えば、インクの粘度μが1mPa・s~20mPa・sの範囲から外れると、通常のインクジェット装置では適切なインクの吐出が難しくなる。また、インクの密度Ρが0.8g/cm~1.6g/cmの範囲から外れると、多孔質構造のアノード40を形成することが難しくなる。このため、ここに開示される技術では、インクの粘度μとインクの密度Ρを上述の範囲内に固定した上で、無機粉末の平均粒子径dや密度Ρを調節して各々のインクの沈降速度Vを制御した方が好ましい。
【0047】
また、ここに開示される製造方法において形成されるアノード40の厚みの下限値は、特に限定されず、1μm以上であってもよく、5μm以上であってもよい。一方、複数の無機粉末が混合される対流を混合インクの液滴全体に生じさせるという観点から、製造後のアノード40の厚みtは100μm以下が適当である。また、より均一に無機粉末が分散したアノード40を形成するという観点から、当該アノード40の厚みは、75μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、20μm以下がさらに好ましい。
【0048】
[試験例]
以下、本発明に関する試験例を説明するが、かかる試験例は本発明を限定することを意図したものではない。
【0049】
1.インクの調製
(1)インクA
先ず、ブチルカルビトールアセテートとポリビニルブチラールとを質量比で99:1の割合で混合したビヒクルをホットスタラー(回転数:300rpm、温度:90℃、撹拌時間:1時間)で撹拌した。そして、無機粉体であるYSZ(平均粒子径:200nm、密度:6)と上述のビヒクルとを重量比で60:40の割合で混合した後、外添加で分散剤(KD-1)を1.6wt%添加した。そして、当該混合物を、ビーズミルを使用して混練することによって、インクAを調製した。そして、上述の式(3)に示すストークスの式に基づいて、無機粉体の沈降速度Vを測定した。測定結果を表1に示す。
【0050】
(2)インクB~H
無機粉体の主構成粒子やその平均粒子径を異ならせたことを除いて、インクAと同じ条件で7種類のインク(インクB~インクH)を調製した。各インクに含まれる無機粉体(主構成粒子)および無機粉体の沈降速度Vを表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
2.評価用サンプルの作製
(1)サンプル1
先ず、印刷対象として、多孔質支持体を準備した。具体的には、43.2wt%のNiOと、35.3wt%のYSZと、7.9wt%の気孔形成剤(テクポリマー)と、8.2wt%の結合剤(ジャパンコーティングレジン株式会社製、型番:ESZ-4366-02)と、2.4wt%の可塑剤(阪本薬品工業株式会社製、型番:SC-E350)と、2.7wt%の離型剤(中京油脂株式会社製、型番:セロゾール920)と、0.4wt%の消泡剤(ビックケミー・ジャパン株式会社製、型番:BYK-011)とを混合し、スプレードライ法によって造粒体を作製した。そして、かかる造粒体をロールコンパクションによって平板状に成形することによって印刷対象である多孔質支持体のグリーンシートを準備した。
【0053】
そして、サンプル1では、インクジェット装置(富士フイルム社製、型式:DMP-2831)を使用し、上述の印刷対象の表面にインクAを10μmの厚みで印刷した。そして、インクAを乾燥せずに、当該インクAの上にインクCを10μmの厚みで印刷することによって、印刷対象の表面にインクAとインクCの混合インクを付着させた。その後、80℃-15分間の乾燥処理と、1300℃-7時間の焼成処理を行うことによって、多孔質支持体の表面にYSZとNiOを含む混合膜を形成した。
【0054】
(2)サンプル2~25
使用したインクを異ならせたことを除いて、サンプル1と同じ条件で、2種類の無機粉末を含む混合膜を支持体の表面に形成した。各サンプルで使用したインクを表2に示す。
【0055】
(3)サンプル26
インクジェット印刷を行う前にインクAとインクCとを混合し、無機粉体としてYSZとNiOを含有する混合インクを調製した。この混合インクAを印刷対象の表面に5μmの厚みで印刷し、サンプル1と同じ条件で乾燥と焼成を行った。
【0056】
<評価試験>
(1)沈降速度差
先ず、各サンプルにおける第1のインクの無機粉体の沈降速度Vg1と第2のインクの無機粉体の沈降速度Vg2との差(Vg2-Vg1)を算出した。算出結果を表2に示す。
【0057】
(2)分散状態の評価
そして、乾燥・焼成後の混合膜の断面SEM写真(倍率5000倍)を撮影し、2種類の無機粉末が混合膜内で均一に分散しているか否かを評価した。サンプル2の断面SEM写真を図4に示し、サンプル13の断面SEM写真を図5に示し、サンプル26の断面SEM写真を図6に示す。図4に示すように、サンプル2では、2種類の無機粉体(NiOとYSZ)が均一に分散した混合膜が形成された。このようなサンプルを「○」と評価した。一方、図5および図6に示すように、サンプル13、26では、各々の無機粉末が分離した2層構造の膜が形成された。このようなサンプルを「×」と評価した。そして、図示は省略するが、他のサンプルについてもSEM観察による評価を行った。各サンプルの評価結果を表2に示す。
【0058】
【表2】
【0059】
表2に示すように、サンプル2、7、8、12、15、17、18、21、23、25においては、2種類の無機粉体が好適に分散した混合膜が形成されていた。かかる結果から第1のインクの無機粉体の沈降速度Vg1と、第2のインクの無機粉体の沈降速度Vg2との関係が、(1)Vg1<Vg2であり、かつ、(2)300nm/s≦Vg2-Vg1≦2200nm/sである場合に、複数種類の無機粉体が十分に分散したアノードをインクジェット印刷で製造できることが分かった。
【0060】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0061】
10 固体酸化物形燃料電池(SOFC)
20 カソード
30 固体電解質
40 アノード
100 インクジェット装置
110 インクジェットヘッド
112 第1貯蔵部
114 第2貯蔵部
120 ガイド軸
140 印刷カートリッジ
S10 第1印刷工程
S20 第2印刷工程
S30 乾燥焼成工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6