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  • 特許-積層構造体および半導体製造装置部材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】積層構造体および半導体製造装置部材
(51)【国際特許分類】
   C04B 37/00 20060101AFI20240104BHJP
   C04B 35/582 20060101ALI20240104BHJP
   C04B 35/597 20060101ALI20240104BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20240104BHJP
【FI】
C04B37/00 Z
C04B35/582
C04B35/597
H01L21/68 N
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020058647
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021155293
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】永井 明日美
(72)【発明者】
【氏名】西村 昇
(72)【発明者】
【氏名】山口 浩文
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-248054(JP,A)
【文献】特開2019-167288(JP,A)
【文献】特開2017-085087(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 37/00
C04B 35/582
C04B 35/597
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層構造体であって、
AlNおよびMgAlを主相として含む複合焼結体により形成される第1構造体と、
セラミックス焼結体により形成され、前記第1構造体に積層されて接合される第2構造体と、
を備え、
前記複合焼結体における前記主相の含有率は95質量%以上かつ100質量%以下であり、
前記セラミックス焼結体は、合計含有率が95質量%以上かつ99.5質量%以下のAlNおよびMgAl 、または、合計含有率が95質量%以上かつ99質量%以下のAlNおよびAl 12 、または、含有率が70質量%以上かつ90質量%以下のAlON、または、合計含有率が95質量%以上かつ99.5質量%以下のAlONおよびSiAlON、を構成相として含み、
前記第1構造体と前記第2構造体との線熱膨張係数の差は0.3ppm/K以下であることを特徴とする積層構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の積層構造体であって、
前記第1構造体における前記複合焼結体のMgAlの含有率は、15質量%以上かつ70質量%以下であることを特徴とする積層構造体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の積層構造体であって、
前記第2構造体における前記セラミックス焼結体は、AlNおよびMgAl を構成相として含み、
前記セラミックス焼結体におけるMgAl の含有率は35質量%以上かつ55質量%以下であり、AlNの含有率は45質量%以上かつ65質量%以下であることを特徴とする積層構造体。
【請求項4】
請求項1または2に記載の積層構造体であって、
前記第2構造体における前記セラミックス焼結体は、AlNおよびAl 12 を構成相として含み、
前記セラミックス焼結体におけるAl 12 の含有率は50質量%以上かつ80質量%以下であり、AlNの含有率は20質量%以上かつ50質量%以下であることを特徴とする積層構造体。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1つに記載の積層構造体であって、
前記第1構造体における前記複合焼結体の700℃における体積抵抗率は7.0x10Ω・cm以上であることを特徴とする積層構造体。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1つに記載の積層構造体であって、
前記第1構造体における前記複合焼結体の室温における熱伝導率は15W/(m・K)以上であることを特徴とする積層構造体。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1つに記載の積層構造体であって、
前記第2構造体における前記セラミックス焼結体の室温における熱伝導率は、前記第1構造体における前記複合焼結体の室温における熱伝導率よりも、10W/(m・K)以上低いことを特徴とする積層構造体。
【請求項8】
半導体製造装置において使用される半導体製造装置部材であって、
請求項1ないし7のいずれか1つに記載の積層構造体を備えることを特徴とする半導体製造装置部材。
【請求項9】
請求項8に記載の半導体製造装置部材であって、
前記積層構造体の前記第1構造体を含み、基板を支持して加熱する基板加熱部と、
前記積層構造体の前記第2構造体を含み、前記基板加熱部に接合されて前記基板加熱部を支持する支持部と、
を備えることを特徴とする半導体製造装置部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層構造体および当該積層構造体を備える半導体製造装置部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体基板の製造装置において、半導体基板を保持して加熱するセラミックス製のヒーターが使用されている。例えば、特許文献1では、円板状の窒化アルミニウム(AlN)製のウエハ保持部と、ウエハ保持部の下面に接合されるAlN製またはムライト製の円筒支持体と、を備えるシャフト付きヒーターが開示されている。特許文献2では、AlN質セラミックスであるサセプターおよび支持体を接合する方法として、固液接合を採用している。特許文献3では、高温環境においてAlNよりも高いプラズマ耐食性および体積抵抗率を有するサセプター材料として、AlNおよびマグネシウム-アルミニウムスピネル(MgAl)の複合焼結体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4311910号公報
【文献】特許第3604888号公報
【文献】特開2019-167288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献3のようなAlNおよびMgAlの複合焼結体は、特許文献1の支持体の材料であるAlN焼結体に比べて、熱膨張率が大きい。当該複合焼結体とAlN焼結体との熱膨張率の差は1.0ppm/K~2.5ppm/Kと比較的大きいため、当該複合焼結体製のサセプターにAlN焼結体製の支持体を接合した積層構造体に対して加熱および冷却が繰り返されると、熱膨張収縮量の違いから接合部に熱応力が発生し、接合部にクラック等の損傷が発生するおそれがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、積層構造体において熱応力に起因する接合部の損傷を抑制することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の好ましい一の形態に係る積層構造体は、AlNおよびMgAlを主相として含む複合焼結体により形成される第1構造体と、セラミックス焼結体により形成され、前記第1構造体に積層されて接合される第2構造体と、を備える。前記複合焼結体における前記主相の含有率は95質量%以上かつ100質量%以下である。前記セラミックス焼結体は、合計含有率が95質量%以上かつ99.5質量%以下のAlNおよびMgAl 、または、合計含有率が95質量%以上かつ99質量%以下のAlNおよびAl 12 、または、含有率が70質量%以上かつ90質量%以下のAlON、または、合計含有率が95質量%以上かつ99.5質量%以下のAlONおよびSiAlON、を構成相として含む。前記第1構造体と前記第2構造体との線熱膨張係数の差は0.3ppm/K以下である。
【0007】
好ましくは、前記第1構造体における前記複合焼結体のMgAlの含有率は、15質量%以上かつ70質量%以下である。
【0008】
好ましくは、前記第2構造体における前記セラミックス焼結体は、AlNおよびMgAl を構成相として含む。前記セラミックス焼結体におけるMgAl の含有率は35質量%以上かつ55質量%以下であり、AlNの含有率は45質量%以上かつ65質量%以下である。
【0009】
好ましくは、前記第2構造体における前記セラミックス焼結体は、AlNおよびAl 12 を構成相として含む。前記セラミックス焼結体におけるAl 12 の含有率は50質量%以上かつ80質量%以下であり、AlNの含有率は20質量%以上かつ50質量%以下である。
【0010】
好ましくは、前記第1構造体における前記複合焼結体の700℃における体積抵抗率は7.0x10Ω・cm以上である。
【0011】
好ましくは、前記第1構造体における前記複合焼結体の室温における熱伝導率は15W/(m・K)以上である。
【0012】
好ましくは、前記第2構造体における前記セラミックス焼結体の室温における熱伝導率は、前記第1構造体における前記複合焼結体の室温における熱伝導率よりも、10W/(m・K)以上低い。
【0013】
本発明は、半導体製造装置において使用される半導体製造装置部材にも向けられている。本発明の好ましい一の形態に係る半導体製造装置部材は、上述の積層構造体を備える。
【0014】
好ましくは、前記半導体製造装置部材は、前記積層構造体の前記第1構造体を含み、基板を支持して加熱する基板加熱部と、前記積層構造体の前記第2構造体を含み、前記基板加熱部に接合されて前記基板加熱部を支持する支持部と、を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、熱応力に起因する接合部の損傷を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】一の実施の形態に係るヒーターの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の一の実施の形態に係るヒーター1の断面図である。ヒーター1は、半導体製造装置において使用される半導体製造装置部材の1つであり、シャフト付きヒーターとも呼ばれる。ヒーター1は、略円板状の半導体基板9(以下、単に「基板9」と呼ぶ。)を、図1中の下側から保持して加熱する。以下の説明では、図1中の上側および下側を、単に「上側」および「下側」と呼ぶ。また、図1中の上下方向を、単に「上下方向」と呼ぶ。図1中の上下方向は、ヒーター1が半導体製造装置に設置される際の実際の上下方向と必ずしも一致する必要はない。
【0018】
ヒーター1は、基板加熱部2と、支持部3とを備える。基板加熱部2は、上下方向に延びる中心軸J1を中心とする略円板状の部材であり、ヒータープレートとも呼ばれる。基板加熱部2は、基板9を下側から支持して加熱する。支持部3は、中心軸J1を中心とする略円筒状または略円柱状の部材であり、シャフトとも呼ばれる。図1に示す例では、平面視における支持部3の直径は基板加熱部2の直径よりも小さい。支持部3は、基板加熱部2の下面中央部に接合されて、基板加熱部2を下側から支持する。
【0019】
基板加熱部2は、加熱部本体21と、抵抗発熱体22と、内部電極23とを備える。加熱部本体21は、後述する複合焼結体により形成された略円板状の部材である。加熱部本体21の上面211上には基板9が載置される。抵抗発熱体22および内部電極23は、加熱部本体21の内部に配置(すなわち、埋設)される。加熱部本体21の内部において、抵抗発熱体22は、内部電極23と加熱部本体21の下面212との間に配置される。換言すれば、内部電極23は、抵抗発熱体22と加熱部本体21の上面211との間に配置される。
【0020】
抵抗発熱体22は、例えば、コイル状に巻回された金属線により形成される。抵抗発熱体22は、平面視において、加熱部本体21の略全面に亘る略同心円状のパターンにて配線された連続する部材である。半導体製造装置では、図示省略の電力供給源から抵抗発熱体22に電力が供給されることにより、抵抗発熱体22が発熱し、加熱部本体21の温度が上昇する。これにより、加熱部本体21の上面211上に載置された基板9が所定の温度に加熱される。抵抗発熱体22は、基板9を加熱するためのヒーター電極である。
【0021】
内部電極23は、例えば、金属製の略円板状の部材である。内部電極23は、例えば、プラズマ処理用のRF電極(すなわち、高周波電極)である。半導体製造装置では、図示省略の高周波電力供給源から内部電極23に高周波電力が供給される。これにより、ヒーター1と、ヒーター1の上方に配置された上部電極との間の処理空間において、処理ガスが励起されてプラズマが生成される。そして、当該プラズマにより基板9上に成膜やエッチング等のプラズマ処理が施される。
【0022】
抵抗発熱体22および内部電極23は、比較的高い融点を有する金属、および、金属の炭化物または窒化物により形成されることが好ましい。当該金属として、例えば、タンタル(Ta)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、白金(Pt)、レニウム(Re)、ハフニウム(Hf)、または、これらの合金が用いられる。加えて、抵抗発熱体22および内部電極23は、フィラー成分としてAl、ZrO等の酸化物セラミックスを含有していてもよい。
【0023】
支持部3は、支持部本体31を備える。支持部本体31は、後述するセラミックス焼結体により形成された略円筒状または略円柱状の部材である。図1に示す例では、支持部3は略円筒状であり、支持部3の内部には、基板加熱部2の抵抗発熱体22および内部電極23に電力を供給するための電線等が配置される。支持部本体31は、基板加熱部2の加熱部本体21の下側において加熱部本体21と上下方向に積層され、加熱部本体21に接合される。具体的には、支持部本体31の上端部が、加熱部本体21の下面212の中央部に接合される。以下の説明では、加熱部本体21および支持部本体31をそれぞれ、「第1構造体」および「第2構造体」とも呼ぶ。また、積層および接合された加熱部本体21および支持部本体31をまとめて「積層構造体10」とも呼ぶ。
【0024】
基板加熱部2の加熱部本体21は、窒化アルミニウム(AlN)、および、マグネシウム-アルミニウムスピネル(MgAl)を主相(主構成相ともいう。)として含む複合焼結体により形成される。当該複合焼結体における上記主相の含有率(すなわち、AlNおよびMgAlの合計含有率)は、95質量%以上かつ100質量%以下であり、好ましくは98質量%以上かつ100質量%以下である。また、複合焼結体におけるMgAlの含有率は、15質量%以上かつ70質量%以下であり、好ましくは20質量%以上かつ65質量%以下であり、より好ましくは25質量%以上かつ60質量%以下である。複合焼結体におけるAlNの含有率は、30質量%以上かつ85質量%以下であり、好ましくは35質量%以上かつ80質量%以下であり、より好ましくは45質量%以上かつ75質量%以下である。これにより、高いプラズマ耐食性、高い体積抵抗率、および、高い熱伝導率を有する高密度の複合焼結体が実現される。
【0025】
当該複合焼結体に含まれるMgAlの格子定数は、8.075オングストローム以上であることが好ましい。複合焼結体では、好ましくは、AlNにマグネシウム(Mg)が固溶している。複合焼結体は、好ましくは、酸化マグネシウム(MgO)結晶相を実質的に含まない。換言すれば、複合焼結体におけるMgO結晶相の含有率は、実質的に0質量%であることが好ましい。
【0026】
当該複合焼結体の開気孔率は、好ましくは0.1%未満であり、より好ましくは0.05%未満である。当該開気孔率の下限は特に限定されず、低ければ低いほど好ましい。室温(すなわち、25℃)における複合焼結体の体積抵抗率は、好ましくは2.0x1014Ω・cm以上であり、より好ましくは2.0x1015Ω・cm以上である。また、700℃における複合焼結体の体積抵抗率は、好ましくは7.0x10Ω・cm以上であり、より好ましくは7.0x10Ω・cm以上である。これらの体積抵抗率の上限は特には限定されず、高ければ高いほど好ましい。
【0027】
室温~1000℃の範囲における当該複合焼結体の線熱膨張係数は、好ましくは、6.8ppm/K(すなわち、6.8ppm/℃)以上かつ7.4ppm/K以下である。以下の説明では、「線熱膨張係数」は、特に説明がない限り、室温~1000℃の範囲における線熱膨張係数を意味する。また、「熱伝導率」は、特に説明がない限り、室温(すなわち、25℃)における熱伝導率を意味する。
【0028】
次に、上述の第1構造体である加熱部本体21を構成する上記複合焼結体の製造方法について説明する。複合焼結体を製造する際には、まず、AlNと添加物とを混合して混合粉末を得る。当該添加物は、マグネシウム(Mg)およびアルミニウム(Al)を含む。そして、当該混合粉末を所定形状の成形体に成形する。例えば、AlNおよび添加物の粉末が、有機溶媒中で湿式混合されることによりスラリーとされる。続いて、当該スラリーが乾燥されて混合粉末(すなわち、調合粉末)とされ、当該混合粉末が上記成形体に成形される。また、AlNおよび添加物の粉末は、湿式混合ではなく、乾式混合により混合されてもよい。
【0029】
当該混合粉末は、例えば、ホットプレスダイスに充填されることにより、所定形状(例えば、略円板状)の成形体に成形される。あるいは、混合粉末が一軸加圧成形されることにより、所定形状の成形体に成形されてもよい。当該成形体の成形は、形状を保持できるのであれば、他の様々な方法により行われてもよい。また、前述のスラリーのように、流動性のある状態のままモールドに流し込んだ後に、溶媒成分を除去して所定形状の成形体としてもよい。
【0030】
上記混合粉末におけるAlNおよび添加物の合計含有率は、95質量%~100質量%である。当該添加物は、例えば、MgOおよびAlを含んでいてもよい。添加物は、MgAl、MgOおよびAlを含んでいてもよい。
【0031】
上述のように成形体が得られると、当該成形体に対してホットプレス焼成が行われ、AlNおよびMgAlを含む略円板状の上記複合焼結体が生成される。具体的には、ホットプレスダイス(例えば、カーボン治具)に成形体が配置されて加熱および加圧されることにより、複合焼結体が得られる。成形体の焼成は、例えば真空雰囲気下または非酸化性雰囲気下で行われる。ホットプレス焼成時の加熱温度、プレス圧力および焼成時間は、適宜決定されてよい。ホットプレス焼成時の加熱温度の最高温度は、好ましくは1650℃~1800℃である。
【0032】
上記ホットプレス焼成では、ホットプレスダイスの密閉性が高いため、MgAl中のMgOが還元されてMgが生成されることが抑制される。これにより、還元されたMg(沸点1091℃)が揮発して複合焼結体に気孔が生成されることが抑制される。その結果、高密度の複合焼結体(すなわち、緻密な複合焼結体)を得ることができる。
【0033】
上述の添加物がMgAlおよびMgOを含んでおり、Alを含んでいない場合、上記ホットプレス焼成において、添加物中のMgOと、AlNの粉末に不可避的に不純物として含まれているAl(すなわち、AlNの粉末表面に生じる酸化膜等であり、以下、「不純物Al」とも呼ぶ。)とが反応し、MgAlが生成される。したがって、添加物中のMgOの物質量は、AlNの粉末に不純物として含まれるAlの物質量と略同じであることが好ましい。添加物中のMgOの物質量が不純物Alの物質量よりも大きい場合、不純物Alと反応しなかったMgOが、ホットプレス焼成により生成される複合焼結体内に残存する。
【0034】
添加物がMgOおよびAlを含んでおり、MgAlを含んでいない場合、上記ホットプレス焼成において、添加物中のMgOと、添加物中のAl、および、AlN中の不純物Alとが反応し、MgAlが生成される。したがって、添加物中のMgOの物質量は、添加物中のAlの物質量および不純物Alの物質量の合計と、略同じであることが好ましい。添加物中のMgOの物質量が、添加物中のAlおよび不純物Alの合計物質量よりも大きい場合、Alと反応しなかったMgOが、ホットプレス焼成により生成される複合焼結体内に残存する。添加物がMgAl、MgOおよびAlを含んでいる場合においても同様である。
【0035】
基板加熱部2は、例えば、上記製造方法により製造された2枚の略円板状の複合焼結体を、抵抗発熱体22および内部電極23を間に挟んで積層および接合することにより形成される。この場合、加熱部本体21は、当該2枚の複合焼結体である。あるいは、抵抗発熱体22および内部電極23は、上記成形体の成形時に成形体の内部に金属材料が埋設され、当該金属材料が成形体と共に焼成されることにより、加熱部本体21の内部に生成されてもよい。なお、基板加熱部2の製造において、抵抗発熱体22および内部電極23の生成および配置は、様々な方法により行われてよい。また、上記成形体の焼成は、ホットプレス焼成以外の方法により行われてもよい。
【0036】
支持部3の支持部本体31は、上述のように、セラミックス焼結体により形成される。当該セラミックス焼結体は、様々に選択された材料により形成されてよい。当該セラミックス焼結体の開気孔率は、好ましくは0.1%未満であり、より好ましくは0.05%未満である。当該開気孔率の下限は特に限定されず、低ければ低いほど好ましい。セラミックス焼結体の線熱膨張係数(すなわち、室温~1000℃の範囲における線熱膨張係数)は、6.8ppm/K以上かつ7.4ppm/K以下である。室温~1000℃の範囲において、当該セラミックス焼結体の線熱膨張係数と当該複合焼結体の線熱膨張係数との差は、0.3ppm/K以下である。当該セラミックス焼結体の線熱膨張係数と、加熱部本体21を構成する上記複合焼結体の線熱膨張係数は同じであってもよく、どちらか一方が大きくてもよい。
【0037】
以下では、支持部本体31を構成するセラミックス焼結体の組成の4つの例について説明する。第1の例では、セラミックス焼結体は、AlNおよびMgAlを構成相として含む。第1の例のセラミックス焼結体におけるAlNおよびMgAlの合計含有率は、例えば、95質量%以上かつ99.5質量%以下である。また、当該セラミックス焼結体におけるMgAlの含有率は、35質量%以上かつ55質量%以下であり、AlNの含有率は、45質量%以上かつ65質量%以下である。当該セラミックス焼結体の熱伝導率(すなわち、室温における熱伝導率)は、35W/(m・K)以上かつ45W/(m・K)以下である。また、当該セラミックス焼結体の線熱膨張係数は、6.8ppm/K以上かつ7.4ppm/K以下であり、加熱部本体21における複合焼結体の線熱膨張係数との差は0.3ppm/K以下である。
【0038】
第2の例では、セラミックス焼結体は、AlNおよび酸化イットリウムアルミニウム(Al12)を構成相として含む。第2の例のセラミックス焼結体におけるAlNおよびAl12の合計含有率は、例えば、95質量%以上かつ99質量%以下である。また、当該セラミックス焼結体におけるAl12の含有率は、50質量%以上かつ80質量%以下であり、AlNの含有率は、20質量%以上かつ50質量%以下である。当該セラミックス焼結体の熱伝導率は、25W/(m・K)以上かつ50W/(m・K)以下である。また、当該セラミックス焼結体の線熱膨張係数は、6.5ppm/K以上かつ7.5ppm/K以下であり、加熱部本体21における複合焼結体の線熱膨張係数との差は0.3ppm/K以下である。
【0039】
第3の例では、セラミックス焼結体は、アロン(AlON)を構成相として含む。AlONは、例えば、AlNまたはAlである。第3の例のセラミックス焼結体は、2種類以上のAlONを含んでいてもよい。第3の例のセラミックス焼結体におけるAlONの含有率は、例えば、70質量%以上かつ90質量%以下である。当該セラミックス焼結体の熱伝導率は、20W/(m・K)以上かつ45W/(m・K)以下である。また、当該セラミックス焼結体の線熱膨張係数は、7.0ppm/K以上かつ7.7ppm/K以下であり、加熱部本体21の複合焼結体の線熱膨張係数との差は0.3ppm/K以下である。
【0040】
第4の例では、セラミックス焼結体は、AlONおよびサイアロン(SiAlON)を構成相として含む。SiAlONは、例えば、SiAlまたはSiAlである。第4の例のセラミックス焼結体は、2種類以上のAlON、および/または、2種類以上のSiAlONを含んでいてもよい。第4の例のセラミックス焼結体におけるAlONおよびSiAlONの合計含有率は、例えば、95質量%以上かつ99.5質量%以下である。また、当該セラミックス焼結体におけるAlONの含有率は、80質量%以上かつ95質量%以下であり、SiAlONの含有率は、5質量%以上かつ20質量%以下である。当該セラミックス焼結体の熱伝導率は、10W/(m・K)以上かつ20W/(m・K)以下である。また、当該セラミックス焼結体の線熱膨張係数は、6.5ppm/K以上かつ7.2ppm/K以下であり、加熱部本体21の複合焼結体の線熱膨張係数との差は0.3ppm/K以下である。
【0041】
次に、上述の第2構造体である支持部本体31を構成するセラミックス焼結体の製造方法について説明する。セラミックス焼結体を製造する際には、まず、原料粉末を混合することにより、混合粉末が調製される。続いて、混合粉末が成形されることにより、成形体が成形される。そして、成形体が焼成されることにより、上記セラミックス焼結体が生成される。
【0042】
混合粉末の調製、成形体の成形、および、成形体の焼成は、加熱部本体21を構成する複合焼結体の製造時と略同様の方法で行われる。例えば、混合粉末が一軸加圧成形された後に、ホットプレス焼成されることにより、セラミックス焼結体が生成される。あるいは、混合粉末が一軸加圧成形された後に冷間等方圧加圧(CIP:Cold Isostatic Pressing)されることにより成形体が成形され、当該成形体が窒素(N)ガスフロー環境において常圧焼成されることにより、セラミックス焼結体が生成されてもよい。
【0043】
第1構造体と第2構造体との接合は、例えば、特許第3604888号公報に記載の固液接合により行われる。この場合、第1構造体と第2構造体との間に、AlN質セラミックスおよび融材を含有する接合剤が付与された後、第1構造体および第2構造体の加熱接合が行われてもよい。
【0044】
次に、表1を参照しつつ本発明に係る積層構造体10(すなわち、第1構造体である加熱部本体21と第2構造体である支持部本体31とが積層および接合された構造体)の実施例1~7、および、当該積層構造体10と比較するための比較例1~7の積層構造体について説明する。実施例1~7、および、比較例1~7では、第1構造体(すなわち、加熱部本体21)は同じものを使用し、第1構造体に接合される第2構造体(すなわち、支持部本体31)の構成相を変更した。そして、積層構造体10に対して加熱冷却試験を行い、第1構造体と第2構造体との接合部におけるクラックの有無を、肉眼による目視または顕微鏡観察により観察した。当該加熱冷却試験では、窒素雰囲気または大気下において、積層構造体10に対して室温から800℃までの昇降温を5回繰り返した後、積層構造体10を800℃にて500時間保持した。その後、積層構造体10を室温に戻して上記観察を行った。
【0045】
【表1】
【0046】
第1構造体は、上述の複合焼結体の製造方法により作製した。まず、AlN、MgAlおよび二酸化ジルコニウム(ZrO)の粉末を原料粉末として準備した。そして、当該原料粉末を混合した混合粉末を、ホットプレス焼成することにより第1構造体を得た。
【0047】
原料として利用したAlN粉末は、平均粒径1.3μm、酸素含有量0.8質量%の市販のAlN粉末である。原料として利用したMgAl粉末は、後述する方法により作製した。原料として利用したZrO粉末は、比表面積15m/g、純度99.9%以上の市販のZrO粉末である。原料組成は、AlNが54.5質量%、MgAlが44.5質量%、ZrOが1.0質量%である。
【0048】
上記MgAl粉末は、平均粒径1.2μm、純度99.9%以上の市販のMgO粉末と、平均粒径0.2μm、純度99.9%以上の市販のAl粉末とを利用して作製した。まず、MgO粉末とAl粉末とを等物質量(すなわち、等mol量)で秤量し、ボールミルにて4時間、湿式混合した。当該湿式混合で利用した溶媒は、イソプロピルアルコール(IPA)である。また、ボールミルのボールは、ZrO製である。続いて、湿式混合により得られたスラリーをN雰囲気下で乾燥させ、100メッシュ篩により整粒した。
【0049】
次に、整粒後の粉末を大気中において1300℃にて熱処理してMgAl合成粉末を生成し、当該合成粉末をボールミルにて6時間、湿式粉砕した。当該湿式粉砕で利用した溶媒はIPAである。また、ボールミルのボールは、ZrO製である。そして、湿式粉砕により得られたスラリーをN雰囲気下で乾燥させ、100メッシュ篩により整粒して、原料となるMgAl粉末を得た。当該MgAl粉末の平均粒径は0.2μmであった。なお、第1構造体の作製では、当該MgAl粉末に代えて、市販のMgAl粉末(例えば、平均粒径0.2μm、比表面積26m/g、純度99%以上のMgAl粉末)が用いられてもよい。
【0050】
上述の原料粉末の混合では、ボールミルによる湿式混合を20時間行った。当該湿式混合で利用した溶媒は、IPAである。また、ボールミルのボールは、ZrO製である。当該ボールとして、鉄芯入りナイロンボールが使用されてもよい。そして、湿式混合により得られたスラリーをN雰囲気下で乾燥させ、100メッシュ篩により整粒して、上述の混合粉末を得た。当該混合粉末において、ZrO製ボールに起因する不純物であるZrOおよび原料として利用したZrOの含有率の合計は、1.0質量%~2.0質量%であった。
【0051】
上述の混合粉末の成形では、100kgf/cm~150kgf/cmの圧力で一軸加圧成形を行って略円板状の成形体を作製し、ホットプレスダイスに収納した。成形圧力は特に制限はなく、形状が保持できるのであれば様々に変更されてよい。混合粉末は、未成形の粉の状態で、ホットプレスダイスに充填されてもよい。
【0052】
上述の成形体の焼成では、ホットプレス焼成を行った。プレス圧力は、200kgf/cmとした。加熱時の最高温度は1720℃であり、最高温度での保持時間は8時間とした。最高温度で8時間保持した後、1200℃まで300℃/hにて冷却して焼成を完了した。焼成雰囲気は、室温~1000℃の間は真空雰囲気とし、1000℃到達後にNガスを1.5気圧(0.152MPa)分導入した。
【0053】
作製された第1構造体では、開気孔率は0.01%、嵩密度は3.45g/cm、熱伝導率は39W/(m・K)、線熱膨張係数は7.1ppm/K、室温における体積抵抗率は1.9x1015Ω・cm、700℃における体積抵抗率は2.4x1010Ω・cmであった。
【0054】
第2構造体は、上述のセラミックス焼結体の製造方法により作製した。まず、各実施例および各比較例にそれぞれ対応する原料粉末を準備した。そして、当該原料粉末を混合した混合粉末を、一軸加圧成形の後にホットプレス焼成することにより、あるいは、一軸加圧成形および冷間等方圧加圧の後に常圧焼成することにより、第2構造体を得た。冷間等方圧加圧時の圧力は、1.5ton/cmである。焼成時の加熱温度の最高温度は、第2構造体の開気孔率が0.1%未満となるように、1600℃~1850℃の範囲内で適宜調節した。以下の実施例1~7および比較例1~7のうち、比較例3,4,6では上述のホットプレス焼成を行った。また、実施例1~7および比較例1,2,5,7では、上述の常圧焼成を行った。
【0055】
実施例1,6,7の第2構造体は、上述の第1の例(AlN、MgAlを含有)に対応する。実施例1,6の第2構造体の構成相は、AlN、MgAlおよび窒化ジルコニウム(ZrN)である。実施例7の第2構造体の構成相は、AlNおよびMgAlである。第2構造体の構成相は、複合焼結体の粉末をX線回折装置により測定したX線回折パターンの解析によって同定した。当該測定では、材料である複合焼結体を乳鉢で粉砕し、X線回折装置により結晶相を同定した。測定条件はCuKα,40kV,40mA,2θ=5-70°とし、封入管式X線回折装置(ブルカー・エイエックスエス株式会社製 D8 ADVANCE)を使用した。測定のステップ幅は0.02°とした。他の実施例および比較例においても同様である。
【0056】
実施例1,6,7の第2構造体の作製に用いられた原料粉末は、平均粒径1.3μmのAlN粉末、平均粒径0.4μmのMgAl粉末、平均粒径0.5μmのAl粉末、および、比表面積16m/gのZrO粉末である。いずれの粉末も、純度99.9%以上の市販の粉末である。実施例6の原料組成は、AlNが45.1質量%、MgAlが47.9質量%、Alが6.1質量%、ZrOが0.9質量%である。
【0057】
実施例6の第2構造体の線熱膨張係数は、第1構造体の線熱膨張係数と同じく、7.1ppm/Kである。実施例1の第2構造体の線熱膨張係数は6.8ppm/Kであり、第1構造体の線熱膨張係数との差は0.3ppm/Kである。実施例7の第2構造体の線熱膨張係数は、7.0ppm/Kである。第1構造体および第2構造体の線熱膨張係数は、株式会社リガク製の熱機械分析装置TP2により、窒素雰囲気中、昇温速度10℃/分の条件で室温から1000℃までの熱膨張曲線を測定し、測定結果から算出した室温~1000℃の平均線熱膨張係数(CTE)である。標準試料にはアルミナを使用した。他の実施例および比較例においても同様である。実施例1,6,7の第2構造体の熱伝導率は、36W/(m・K)~40W/(m・K)である。当該熱伝導率は、比熱を示差走査熱量法(DSC)、熱拡散率をレーザーフラッシュ法により測定し、熱伝導率=比熱x熱拡散率x嵩密度の計算式により算出した。他の実施例および比較例においても同様である。実施例1,6,7では、第1構造体と第2構造体との接合部には、クラックは発生しなかった。
【0058】
一方、比較例6の第2構造体の構成相は、AlNのみである。比較例4の第2構造体の構成相は、MgAlのみである。比較例3の第2構造体の構成相は、Alのみである。比較例3,4,6の第2構造体は、上述の実施例1,6,7の第2構造体の作製に用いられたものと同じ原料粉末を用いて、ホットプレス焼成により作製された。
【0059】
比較例3の第2構造体の線熱膨張係数は8.0ppm/Kであり、第1構造体の線熱膨張係数との差は0.9ppm/Kである。比較例3の第2構造体の熱伝導率は、40W/(m・K)である。比較例3では、第1構造体と第2構造体との接合部にクラックが発生した。
【0060】
比較例4の第2構造体の線熱膨張係数は8.0ppm/Kであり、第1構造体の線熱膨張係数との差は0.9ppm/Kである。比較例4の第2構造体の熱伝導率は、25W/(m・K)である。比較例4では、第1構造体と第2構造体との接合部にクラックが発生した。
【0061】
比較例6の第2構造体の線熱膨張係数は5.5ppm/Kであり、第1構造体の線熱膨張係数との差は1.6ppm/Kである。比較例6の第2構造体の熱伝導率は、80W/(m・K)である。比較例6では、第1構造体と第2構造体との接合部にクラックが発生した。
【0062】
実施例2,3および比較例1の第2構造体は、上述の第2の例(AlN、Al12を含有)に対応する。実施例2,3の第2構造体の構成相は、AlNおよびAl12である。また、比較例1の第2構造体の構成相も、AlNおよびAl12である。
【0063】
実施例2,3および比較例1の第2構造体の作製に用いられた原料粉末は、平均粒径1.3μmのAlN粉末、平均粒径1.0μmのY粉末、および、平均粒径0.5μmのAl粉末である。いずれの粉末も、純度99.9%以上の市販の粉末である。実施例3の原料組成は、AlNが57.2質量%、Yが24.4質量%、Alが18.4質量%である。
【0064】
実施例3の第2構造体の線熱膨張係数は、第1構造体の線熱膨張係数と同じく、7.1ppm/Kである。実施例2の第2構造体の線熱膨張係数は7.4ppm/Kであり、第1構造体の線熱膨張係数との差は0.3ppm/Kである。実施例2の第2構造体の熱伝導率は、26W/(m・K)であり、第1構造体の熱伝導率(39W/(m・K))との差は、13W/(m・K)である。実施例3の第2構造体の熱伝導率は、34W/(m・K)である。実施例2,3では、第1構造体と第2構造体との接合部には、クラックは発生しなかった。
【0065】
一方、比較例1の第2構造体の線熱膨張係数は6.5ppm/Kであり、第1構造体の線熱膨張係数との差は0.6ppm/Kである。比較例1の第2構造体の熱伝導率は、50W/(m・K)である。比較例1では、第1構造体と第2構造体との接合部にクラックが発生した。
【0066】
実施例4および比較例2,5の第2構造体は、上述の第3の例(AlONを含有)に対応する。実施例4の第2構造体の構成相は、AlN、AlNおよびZrNである。比較例2の第2構造体の構成相は、AlNおよびAlである。比較例5の第2構造体の構成相は、AlNおよびAlNである。
【0067】
実施例4および比較例2,5の第2構造体の作製に用いられた原料粉末は、平均粒径1.3μmのAlN粉末、平均粒径0.5μmのAl粉末、および、比表面積16m/gのZrO粉末である。いずれの粉末も、純度99.9%以上の市販の粉末である。実施例4の原料組成は、AlNが9.5質量%、Alが89.5質量%、ZrOが1.0質量%である。
【0068】
実施例4の第2構造体の線熱膨張係数は、第1構造体の線熱膨張係数と同じく、7.1ppm/Kである。実施例4の第2構造体の熱伝導率は、20W/(m・K)であり、第1構造体の熱伝導率(39W/(m・K))との差は、19W/(m・K)である。実施例4では、第1構造体と第2構造体との接合部には、クラックは発生しなかった。
【0069】
一方、比較例2の第2構造体の線熱膨張係数は7.6ppm/Kであり、第1構造体の線熱膨張係数との差は0.5ppm/Kである。比較例5の第2構造体の線熱膨張係数は7.5ppm/Kであり、第1構造体の線熱膨張係数との差は0.4ppm/Kである。比較例2,5の第2構造体の熱伝導率は、13W/(m・K)~15W/(m・K)である。比較例2,5では、第1構造体と第2構造体との接合部にクラックが発生した。
【0070】
実施例5の第2構造体は、上述の第4の例(AlON、SiAlONを含有)に対応する。実施例5の第2構造体の構成相は、AlNおよびSiAlである。実施例5の第2構造体の作製に用いられた原料粉末は、平均粒径1.3μmのAlN粉末、平均粒径0.5μmのAl粉末、平均粒径0.7μmかつα化率95質量%以上のSi粉末、および、平均粒径0.3μmの二酸化ケイ素(SiO)粉末である。いずれの粉末も、純度99.9%以上の市販の粉末である。実施例5の原料組成は、AlNが10.2質量%、Alが83.7質量%、Siが6.0質量%である。
【0071】
実施例5の第2構造体の線熱膨張係数は、第1構造体の線熱膨張係数と同じく、7.1ppm/Kである。実施例5の第2構造体の熱伝導率は、11W/(m・K)であり、第1構造体の熱伝導率(39W/(m・K))との差は、28W/(m・K)である。実施例5では、第1構造体と第2構造体との接合部には、クラックは発生しなかった。
【0072】
一方、比較例7の第2構造体の構成相は、SiAl、SiAl、AlおよびAl13Siであり、主相はSiAlである。比較例7の第2構造体は、上述の実施例5の第2構造体の作製に用いられたものと同じ原料粉末を用いて作製された。比較例7の第2構造体の線熱膨張係数は3.1ppm/Kであり、第1構造体の線熱膨張係数との差は4.0ppm/Kである。比較例7の第2構造体の熱伝導率は、15W/(m・K)である。比較例7では、第1構造体と第2構造体との接合部にクラックが発生した。
【0073】
以上に説明したように、積層構造体10は、AlNおよびMgAlを主相として含む複合焼結体により形成される第1構造体(上述の例では、加熱部本体21)と、セラミックス焼結体により形成され、当該第1構造体に積層されて接合される第2構造体(上述の例では、支持部本体31)と、を備える。そして、当該第1構造体と当該第2構造体との線熱膨張係数の差は、0.3ppm/K以下である。このように、第1構造体と第2構造体との線熱膨張係数の差を小さくすることにより、加熱および冷却が繰り返される環境で積層構造体10が使用される場合であっても、第1構造体と第2構造体との熱膨張収縮量の差により、第1構造体と第2構造体との接合部に熱応力が発生することを抑制することができる。その結果、実施例1~7に示すように、熱応力に起因する第1構造体と第2構造体との接合部の損傷を抑制することができる。
【0074】
上述のように、第1構造体における複合焼結体のMgAlの含有率は、15質量%以上かつ70質量%以下であることが好ましい。これにより、高いプラズマ耐食性、高い体積抵抗率、および、高い熱伝導率を有する高密度の第1構造体を備えた積層構造体10を提供することができる。
【0075】
上述のように、第1構造体における複合焼結体の700℃における体積抵抗率は、7.0x10Ω・cm以上であることが好ましい。これにより、第1構造体を介した電流のリーク(例えば、抵抗発熱体22と内部電極23との間における電流のリーク)を防止または抑制することができる。その結果、抵抗発熱体22による基板9の加熱処理や、内部電極23を利用した基板9のプラズマ処理等において、リーク電流に起因する制御の乱れを抑制することができる。
【0076】
上述のように、第1構造体における複合焼結体の室温における熱伝導率は、15W/(m・K)以上であることが好ましい。これにより、第1構造体を介した基板9の加熱を効率良く、かつ、部位毎の温度ばらつきを小さく抑制して(すなわち、均熱性を高めて)行うことができる。
【0077】
例えば、基板9の均熱性を向上させたい場合、上述のように、第2構造体におけるセラミックス焼結体の室温における熱伝導率は、第1構造体における複合焼結体の室温における熱伝導率よりも、10W/(m・K)以上低いことが好ましい(実施例2,4,5)。このように、第2構造体の熱伝導率を第1構造体の熱伝導率よりも小さくし、第1構造体と第2構造体との熱伝導率の差を大きくすることにより、第1構造体が加熱されている状態において、第1構造体から第2構造体を介して積層構造体10の外部に熱が逃げることが抑制され、第1構造体の均熱性(すなわち、温度均一性)を向上することができる。その結果、基板9を加熱する際に、基板9の均熱性を向上することができる。
【0078】
上記積層構造体10では、第2構造体におけるセラミックス焼結体は、AlONを含むことが好ましい。これにより、実施例4,5に示すように、第2構造体の熱伝導率を第1構造体の熱伝導率よりも小さくし、第1構造体と第2構造体との熱伝導率の差を大きくすることができる。その結果、第1構造体の均熱性を向上することができる。
【0079】
上記積層構造体10では、第2構造体におけるセラミックス焼結体は、SiAlONをさらに含むことが好ましい。これにより、実施例5に示すように、第2構造体の熱伝導率を第1構造体の熱伝導率よりも小さくし、第1構造体と第2構造体との熱伝導率の差をさらに大きくすることができる。その結果、第1構造体の均熱性をさらに向上することができる。
【0080】
上述のように、積層構造体10では、熱応力に起因する第1構造体と第2構造体との接合部の損傷を抑制することができる。半導体製造装置では、基板9の処理において加熱および冷却が繰り返されることが多いため、積層構造体10は、半導体製造装置において使用される半導体製造装置部材に適している。当該積層構造体10は、特に、加熱処理の処理温度が高いハイパワーエッチング装置等の高出力半導体製造装置において使用される半導体製造装置部材に適している。積層構造体10を用いて作成される半導体製造装置部材の好適な一例として、基板9の加熱に利用される上述のヒーター1が挙げられる。ヒーター1は、上述のように、基板9を支持して加熱する基板加熱部2と、基板加熱部2に接合されて基板加熱部2を支持する支持部3と、を備える。また、基板加熱部2は、積層構造体10の第1構造体(すなわち、加熱部本体21)を含み、支持部3は、積層構造体10の第2構造体(すなわち、支持部本体31)を含む。
【0081】
上述の積層構造体10では、様々な変更が可能である。
【0082】
例えば、第2構造体におけるセラミックス焼結体の熱伝導率は、実施例1のように、第1構造体における複合焼結体の熱伝導率以上であってもよい。また、これらの熱伝導率の差は、実施例1,3,6,7のように、10W/(m・K)未満であってもよい。
【0083】
例えば、基板9の抜熱性を向上させたい場合、実施例1、3,6,7のように、第2構造体におけるセラミックス焼結体の室温における熱伝導率は、第1構造体における複合焼結体の室温における熱伝導率よりも高い、または、両熱伝導率の差が小さいことが好ましい。これにより、第1構造体が加熱されている状態において、第1構造体から第2構造体を介して積層構造体10の外部に熱が逃げることが促進され、第1構造体の抜熱性を向上することができる。その結果、基板9の温度を制御する際に、基板9の抜熱性を向上することができる。
【0084】
第1構造体における複合焼結体のMgAlの含有率は、15質量%未満であってもよく、70質量%よりも高くてもよい。また、当該複合焼結体は、AlNおよびMgAl以外の物質を構成相として含んでいてもよい。当該複合焼結体の熱伝導率は、15W/(m・K)未満であってもよい。また、当該複合焼結体の体積抵抗率は、7.0x10Ω・cm未満であってもよい。
【0085】
第2構造体におけるセラミックス焼結体の構成相は、上記例には限定されず、第1構造体と第2構造体との線熱膨張係数の差が0.3ppm/K以下となる範囲で、様々に変更されてよい。
【0086】
ヒーター1では、基板加熱部2および支持部3の形状は様々に変更されてよい。例えば、支持部3は、必ずしも基板加熱部2よりも直径が小さいシャフトである必要はなく、基板加熱部2の直径以上の直径を有する略円板状の基台であってもよい。
【0087】
上述の積層構造体10は、ヒーター1以外の様々な半導体製造装置部材に利用されてもよい。例えば、積層構造体10は、内部に抵抗発熱体を有しないサセプターに利用されてもよい。あるいは、積層構造体10は、半導体製造装置部材以外の用途に利用されてもよい。例えば、積層構造体10は、半導体基板以外の基板や基板以外の対象物を加熱するセラミックヒーターに利用されてもよい。
【0088】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、半導体製造装置に関する分野、例えば、半導体基板を支持して加熱するヒーターに利用可能である。
【符号の説明】
【0090】
1 ヒーター
2 基板加熱部
3 支持部
9 基板
10 積層構造体
21 加熱部本体
31 支持部本体
図1