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  • 特許-ドアインパクトビーム構造 図1
  • 特許-ドアインパクトビーム構造 図2
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  • 特許-ドアインパクトビーム構造 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】ドアインパクトビーム構造
(51)【国際特許分類】
   B60J 5/00 20060101AFI20240104BHJP
【FI】
B60J5/00 Q
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020068816
(22)【出願日】2020-04-07
(65)【公開番号】P2021165084
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】390001579
【氏名又は名称】プレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156867
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 欣浩
(74)【代理人】
【識別番号】100143786
【弁理士】
【氏名又は名称】根岸 宏子
(72)【発明者】
【氏名】飛田 尚寿
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-230458(JP,A)
【文献】特開平11-048780(JP,A)
【文献】特開平10-071985(JP,A)
【文献】特開平10-118767(JP,A)
【文献】特開2016-198796(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用ドアの内部に設けられるブラケットと当該ブラケットに溶接されるパイプとを含んで構成されるドアインパクトビーム構造であって、
前記ブラケットは、表面にメッキが施されていて、前記パイプが取り付けられる窪み部を有し、
前記ブラケット及び前記パイプの少なくとも一方に、前記窪み部に取り付けられる当該パイプと当該窪み部との間に隙間を確保する凸部が設けられ、
前記ブラケット及び前記パイプの少なくとも一方に、前記隙間に通じる通気穴が設けられ
前記凸部は、前記窪み部の底を前記パイプの長手方向に沿って延びる底側凸部を備え、
前記隙間は、前記底側凸部に対し一側方に位置する一方側の隙間と、前記底側凸部に対し他方側に位置する他方側の隙間とが形成され、
前記ブラケットと前記パイプとを溶接する溶接ビードが、前記底側凸部の両側方にそれぞれ形成され、
前記底側凸部をなぞるように前記ブラケットの一端部から他端部まで連続して延びる仮想線を引いた場合に、前記通気穴は、前記仮想線に重なる位置に配置され、前記一方側の隙間と前記他方側の隙間とを連通させる、ことを特徴とするドアインパクトビーム構造。
【請求項2】
前記凸部は、前記窪み部に取り付けられる前記パイプの長手方向に沿って延在するとともに当該窪み部の開口縁近傍に位置し、当該パイプと溶接されることで前記溶接ビードとなる縁側凸部を含む、ことを特徴とする請求項1に記載のドアインパクトビーム構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用ドアにおけるドアインパクトビーム構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用ドアには、側面衝突時におけるキャビンへのドアの侵入を抑制することを目的として、ドアインパクトビーム構造が設けられている。このようなドアインパクトビーム構造においては、ドアの内部に設けられるブラケットと、このブラケットに溶接されるパイプとを含んで構成されるものが知られている。
【0003】
ところで一般的なブラケットには、耐食性を考慮して表面にメッキ(例えば亜鉛メッキ、スズメッキ、銅メッキ)が施されている。このようなメッキが施されたブラケットとパイプを溶接する際は、溶接時の温度上昇に伴ってメッキに含まれる成分(亜鉛等)が蒸発してガスが発生し、そのガスが溶接ビードに入り込んでブローホールが形成され、溶接強度の低下を引き起こすことがある。
【0004】
このような問題に対して下記の特許文献1には、金属板(亜鉛メッキ鋼板)同士をレーザー溶接するにあたり、所定の厚みの仮止め部材を介在させてこれらの金属板の間に隙間を生じさせ、溶接時に発生する蒸発ガスをこの隙間から逃がすことによって、ブローホールの発生を防止して良好な溶接ビードが得られるとする技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-346741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし特許文献1の技術は、仮止め部材を別途用意しなければならず、その分コストが嵩むことになる。またこの技術では、金属板が平板状であれば蒸発ガスの流路が確保されるものの、ドアインパクトビーム構造ではブラケットの形状が複雑であることから、この技術を適用したとしても、蒸発ガスが良好に流動できる流路が確保できずにガスが十分に排出されないことが想定される。特に、蒸発ガスが発生する部位からガスが排気される部位までの流路が長くなると、管路抵抗が大きくなって蒸発ガスの流動が滞るため、ガスの排気が阻害される懸念がある。
【0007】
本発明は、このような問題を解決することを課題とするものであって、仮止め部材のような別異の部材を用いる必要がなく、また形状が複雑であっても蒸発ガスの流路が確保されてガスを良好に排出することが可能であって、これによりブローホールの発生を防止して十分な溶接強度を確保することができるドアインパクトビーム構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、自動車用ドアの内部に設けられるブラケットと当該ブラケットに溶接されるパイプとを含んで構成されるドアインパクトビーム構造であって、前記ブラケットは、表面にメッキが施されていて、前記パイプが取り付けられる窪み部を有し、前記ブラケット及び前記パイプの少なくとも一方に、前記窪み部に取り付けられる当該パイプと当該窪み部との間に隙間を確保する凸部が設けられ、前記ブラケット及び前記パイプの少なくとも一方に、前記隙間に通じる通気穴が設けられ、前記凸部は、前記窪み部の底を前記パイプの長手方向に沿って延びる底側凸部を備え、前記隙間は、前記底側凸部に対し一側方に位置する一方側の隙間と、前記底側凸部に対し他方側に位置する他方側の隙間とが形成され、前記ブラケットと前記パイプとを溶接する溶接ビードが、前記底側凸部の両側方にそれぞれ形成され、前記底側凸部をなぞるように前記ブラケットの一端部から他端部まで連続して延びる仮想線を引いた場合に、前記通気穴は、前記仮想線に重なる位置に配置され、前記一方側の隙間と前記他方側の隙間とを連通させる、ことを特徴とする。
【0009】
このようなドアインパクトビーム構造において、前記凸部は、前記窪み部に取り付けられる前記パイプの長手方向に沿って延在するとともに当該窪み部の開口縁近傍に位置し、当該パイプと溶接されることで前記溶接ビードとなる縁側凸部を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のドアインパクトビーム構造によれば、別異の部材を用いずともブラケットの窪み部とパイプとの間に隙間が確保され、またこの隙間は通気穴に通じているため、溶接時に発生する蒸発ガスを良好に排出することが可能となる。従って本発明によって、ブローホールの発生を防止して十分な溶接強度を確保することができるドアインパクトビーム構造が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係るドアインパクトビーム構造の一実施形態を模式的に示した図である。
図2】ブラケットとパイプが溶接される部位を拡大して示した図であって、(a)は斜視図であり、(b)は側面図である。
図3】蒸発ガスの流れについて示した図であって、(a)は本実施形態の斜視図であり、(b)は通気穴を設けていない比較例の斜視図である。
図4】本発明に係るドアインパクトビーム構造の変形例について示した図であって、(a)は凸部が放射状に設けられている例であり、(b)は凸部が間欠状に設けられている例である。
図5】本発明に係るドアインパクトビーム構造の更なる変形例について示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明に係るドアインパクトビーム構造の一実施形態について説明する。
【0013】
図1は、自動車用ドア200に対して本実施形態のドアインパクトビーム構造100が設けられている状態を模式的に示した図である。なお図1は、自動車用ドア200における車外側の外板を省略して、その内部に設けられるドアインパクトビーム構造100が視認される状態で示している。本実施形態のドアインパクトビーム構造100は、概略、パイプ1と、パイプ1の両端部に設けられる2つのブラケット2、3で構成されていて、ブラケット2、3が自動車用ドア200に取り付けられている。
【0014】
パイプ1は、本実施形態では自動車用ドア200の前方端から後方端まで延在する長さで形成されていて、図2に示すように円筒状をなすものである。なおパイプ1の長さや形状は、自動車用ドア200に応じて適宜変更される。本実施形態のパイプ1は、引張強さや疲労強度の向上等を目的として、所定の熱処理(焼き入れ等)が施されている。
【0015】
ブラケット2、3は、耐食性(錆止め等)を考慮して表面にメッキが施された素材で形成されている。ブラケット2、3に用いられるメッキの種類を例示すると、例えば亜鉛メッキ、スズメッキ、銅メッキが挙げられる。本実施形態のブラケット2、3は、表面に亜鉛メッキが施された亜鉛メッキ鋼板を使用し、所定の形状となるようにこれをプレス加工して形成されている。なお本実施形態のブラケット2、3は、自動車用ドア200の形状に応じて異なる形で形成されているが、パイプ1と結合される部位の構造は基本的に共通している。このため以下の説明では、ブラケット2について詳細に説明することとし、ブラケット3についての説明は省略する。
【0016】
図2に示すようにブラケット2は、パイプ1の外形に合わせた窪み部4を備えている。本実施形態の窪み部4は、円筒状のパイプ1に合わせて円弧状に形成されている。窪み部4の底には、本実施形態では円形状になる貫通穴(通気穴)5が設けられている。通気穴5は、円形状以外(例えば楕円形状や四角形状)の形であってもよい。また通気穴5の内径は、一例として4~7mm程度であるが、それより大きくても小さくてもよい。
【0017】
また窪み部4には、取り付けられるパイプ1に向かって突出する凸部6が設けられている。本実施形態の凸部6は、縁側凸部7と底側凸部8によって構成されている。縁側凸部7は、窪み部4の左右の開口縁の近傍に設けられていて、取り付けられるパイプ1の長手方向に沿ってブラケット2の一端部9から他端部10まで延在している。また底側凸部8は、窪み部4の底に設けられていて、1つはブラケット2の一端部9から通気穴5まで延在し、もう1つは通気穴5からブラケット2の他端部10まで延在している。なお凸部6を設ける位置や本数は、後述するように適宜変更可能である。また本実施形態の縁側凸部7と底側凸部8は、ともに横断面形状が円弧状になるものであって、突出量(窪み部4からの高さ)は、1.5~2.0mm程度である。
【0018】
このようなパイプ1とブラケット2、3でドアインパクトビーム構造100を形成するにあたっては、まず、ブラケット2、3の窪み部4にパイプ1を載置する。この状態においては、パイプ1は縁側凸部7と底側凸部8に当接していて、パイプ1と窪み部4との間には隙間11が形成されている。なお隙間11は、通気穴5に通じている。
【0019】
次いでパイプ1と縁側凸部7とを溶接(本実施形態ではアーク溶接)する。アーク溶接を行う場合、溶接ワイヤと溶接対象物との距離(突き出し長さ)や溶接対象物同士の距離がばらつくと安定した溶接を行うことが難しくなるが、本実施形態の縁側凸部7は、その全長に亘ってほぼ隙間なくパイプ1に当接している。このため、安定した溶接を行うことができ、スパッタ等の発生を抑制することができる。また縁側凸部7は、窪み部4の開口縁の近傍に設けられていて溶接ワイヤを近づける際に邪魔になるものがないため、溶接が行い易いという点でも優れている。溶接によって縁側凸部7はパイプ1に溶け込み、図3に示すように溶接ビード12が形成される。なお本実施形態において、溶接ビード12の長さは20~25mm程度である。
【0020】
ところで溶接時においては、加えられる熱によってメッキに含まれる亜鉛が蒸発してガスになる。蒸発ガスは、主に窪み部4における開口縁の外側から生じるものはそのまま外界へ放出される一方、主に窪み部4における開口縁の内側(パイプ1と窪み部4との間)で生じるものは隙間11へ放出される。隙間11へ放出された蒸発ガスのうち、一端部9や他端部10に近いものは、それ程長い距離を流動せずに外界に排出される。しかし、図3(b)のように通気穴5が設けられていない場合、一端部9や他端部10から遠い蒸発ガスは、外界に排出されるまで長い距離を流動することになるため、管路抵抗等の影響を受けて外界に排出されずに隙間11に溜まってしまい、溶接部位にブローホールを発生させることがある。一方、本実施形態では図3(a)に示すように通気穴5が設けられていて、隙間11は通気穴5に通じている。従って、一端部9や他端部10から遠い蒸発ガスも、長い距離を流動せずに通気穴5から排出されるため、ブローホールの発生を防止して十分な溶接強度を確保することができる。
【0021】
凸部6は、上述した縁側凸部7と底側凸部8に限られず、例えば図4に示すものでもよい。ここで図4(a)は、縁側凸部7は省略する一方、通気穴5を中心として放射状になるように設けられる放射状凸部13を備えるものである。このような放射状凸部13によれば、隙間11に放出された蒸発ガスを通気穴5に向けて流動させることができるため、蒸発ガスを効率的に排出することができる。
【0022】
凸部6は、図4(b)に示すように、縁側凸部7と底側凸部8の長さを短くして間欠状に配置した、間欠状縁側凸部14や間欠状底側凸部15でもよい。このような間欠状縁側凸部14や間欠状底側凸部15によれば、縁側凸部7や底側凸部8に比して、隙間11における流路が増えて管路抵抗を更に下げる効果が得られるため、蒸発ガスをより効率よく排出することができる。
【0023】
上述した通気穴5は、図5に示すようにパイプ1を貫通させて形成してもよい。この場合、隙間11に放出された蒸発ガスは、一部は隙間11を流動する一方、一部は通気穴5からパイプ1の内側を流動する。パイプ1の内側は隙間11よりも広く管路抵抗は低いため、この場合も蒸発ガスを効率よく排出することができる。
【0024】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、上記の説明で特に限定しない限り、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。また、上記の実施形態における効果は、本発明から生じる効果を例示したに過ぎず、本発明による効果が上記の効果に限定されることを意味するものではない。
【0025】
例えば凸部6は、上述した実施形態ではブラケット2に設けたが、パイプ1に設けてもよいし、両方に設けても(例えば縁側凸部7はブラケット2に設け、底側凸部8はパイプ1に設けても)よい。また通気穴5は1つに限られず、複数設けてもよい。
【符号の説明】
【0026】
1:パイプ
2、3:ブラケット
4:窪み部
5:通気穴
6:凸部
7:縁側凸部
11:隙間
12:溶接ビード
100:ドアインパクトビーム構造
200:自動車用ドア
図1
図2
図3
図4
図5