(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用正極活物質及びこれを含むリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20240104BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240104BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240104BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
(21)【出願番号】P 2020070536
(22)【出願日】2020-04-09
(62)【分割の表示】P 2017538151の分割
【原出願日】2015-01-21
【審査請求日】2020-05-08
(31)【優先権主張番号】10-2014-0132750
(32)【優先日】2014-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517113750
【氏名又は名称】エコプロ ビーエム カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ECOPRO BM CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】キム ジクス
(72)【発明者】
【氏名】チョエ ムンホ
(72)【発明者】
【氏名】ユン ジンギョン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ジェヨン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ソクヨン
(72)【発明者】
【氏名】シン ジョンスン
【審査官】儀同 孝信
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-517599(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0158932(US,A1)
【文献】国際公開第2014/104759(WO,A1)
【文献】特表2014-515171(JP,A)
【文献】特表2009-525578(JP,A)
【文献】特表2008-521196(JP,A)
【文献】特開2002-279985(JP,A)
【文献】特表2017-536686(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル、マンガン、及びコバルトを含む層状構造のリチウム二次電池用正極活物質であって、一次粒子が凝集された二次粒子であり、
中心層であって、前記正極活物質に含まれる前記ニッケル、マンガン、及びコバルトの中で前記中心層に含まれる元素の濃度が一定である中心層と、
前記中心層の外殻に形成され、前記ニッケル、マンガン、及びコバルト
の濃度が勾配を示す濃度勾配層と、
表面層であって、前記濃度勾配層の外殻に形成され、前記正極活物質に含まれる前記ニッケル、マンガン、及びコバルトの中で前記表面層に含まれる元素の濃度が一定である表面層と、を含み、
前記濃度勾配層の厚さが10nm乃至500nmであり、
前記表面層の厚さが10nm乃至200nmであり、
リチウムイオン拡散経路が前記二次粒子の中心方向に向かう前記一次粒子が占める面積が、前記二次粒子の中心を通る断面積の40%以上であり、
前記二次粒子の中心方向に向かうリチウムイオン拡散経路が、前記一次粒子の内部に形成されたリチウムイオン拡散経路が前記二次粒子の中心方向から±45°以内に傾斜しているものであ
り、
<化学式1>
Li
x
Ni
1-a-b-c
Co
a
Mn
b
Me
c
O
2-y
X
y
(前記化学式1で0.9≦x≦1.15、0≦a≦0.10、0≦b≦0.1、0≦c≦0.1、0≦y≦0.1、MeはAl、Mg、B、P、Ti、Si、Zr、Ba及びこれらの組合からなる群より選択される少なくとも1つ以上の元素であり、XはF、BO
3
、PO
4
の陰イオンからなる群より選択される少なくとも1つ以上の元素又は分子である。)
<化学式2>
Li
x
Ni
1-a-b-c
Co
a
Mn
b
Me
c
O
2-y
X
y
(前記化学式2で0.9≦x≦1.15、0.15≦a≦0.35、0≦b≦0.70、0≦c≦0.20、0≦y≦0.1、MeはAl、Mg、B、P、Ti、Si、Zr、Ba及びこれらの組合からなる群より選択される少なくとも1つ以上の元素であり、XはF、BO
3
、PO
4
の陰イオンからなる群より選択される少なくとも1つ以上の元素又は分子である。)
前記中心層は、上記化学式1で表示され、前記表面層は、上記化学式2で表示されることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記一次粒子の内部にはその長軸方向にリチウムイオン拡散経路が形成され、該リチウムイオン拡散経路が前記二次粒子の中心を通る断面積の20%以上であることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記一次粒子が前記二次粒子全体の中心方向への方向性を有して形成され、前記一次粒子の内部に形成されたリチウムイオン拡散経路が前記二次粒子全体の中心方向に形成され、前記二次粒子の表面から中心までリチウムイオン拡散経路が一次元又は二次元のトンネル構造を有することを特徴とする、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項4】
前記濃度勾配層の前記一次粒子の内部に形成されたリチウムイオン拡散経路が、前記二次粒子の中心方向に向かうことを特徴とする、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項5】
前記一次粒子は、針状、板状、直方体、傾いた直方体又は円柱状であることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項6】
請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質を含むリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用正極活物質及びこれを含むリチウム二次電池に関し、より詳細には層状構造(Layered structure)を有する正極活物質の中心層の外殻に、厚さが調節された濃度勾配層及び表面層を含み、一次粒子内及び二次粒子内のリチウムイオン拡散経路(lithium ion diffusion path)が特定方向への方向性を有して形成されることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質及びこれを含むリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、エネルギー貯蔵技術に対する関心がますます高くなっている。携帯電話、カムコーダー、及びノート型コンピューター、さらには電気自動車のエネルギーまで適用分野が拡大され、電気化学素子の研究と開発に対する努力が段々具体化している。電気化学素子は、このような側面で最も注目を浴びている分野であり、中でも充放電が可能である二次電池の開発は関心の焦点となっている。
【0003】
現在適用されている二次電池の中で、1990年代初めに開発されたリチウムイオン電池は、小型、軽量、大容量電池として1991年に登場した以来、携帯機器の電源として広く使われている。リチウム二次電池は、水系電解液を使用するNi-MH、Ni-Cd、硫酸-鉛電池等の従来の電池に比べて作動電圧が高く、エネルギー密度が遥かに高いという長所から脚光を浴びている。特に電気自動車及びエネルギー貯蔵用として使用されるkWh級以上の中大型電池で主に採択されており、そのために高容量でありながらも、且つ長時間使用できる正極活物質が要求されている。
【0004】
熱安定性が優れたスピネルマンガン(LMO)及びオリビン系正極素材(LFP)の大容量二次電池の適用は、低いエネルギー密度によって本格的な商用化に限界を示し、電池特性を向上させるための高容量の層状系正極素材を適用しようとする必要性が高まっている。リチウム二次電池用正極素材の中で層状系正極素材が、現在商用化された素材の中では最も高い容量を具現することができる。スマートフォン等の小型IT機器において多く使用されるLiCoO2は中大型の電池に使用するには安全性および低い容量、そして主材料であるコバルト金属は他の遷移金属と比較すると、高費用による経済性や埋蔵量による資源の制限性、そして環境汚染による環境規制の問題等を有している。LiCoO2と同一構造を有するLiNiO2は、価額が比較的に低価であり、理論容量が200mAh/gの高い容量を示すという利点によってこれまで多く研究が行われて来た。しかし、脆弱な安全性と製造上で発生される構造的な不安定性による急激な寿命性能低下の問題によって商用化されなかった。
【0005】
LiNiO2の短所を改善するためにニッケルの一部を遷移金属元素に置換して発熱開始温度を若干高温側に移動させるか、或いは急激な発熱を防止する等が試されている。ニッケルの一部をコバルトに置換したLiNi1-xCoxO2(x=0.1~0.3)物質の場合、LiNiO2に比べて比較的に優れた充・放電特性と寿命特性を示すが、十分な寿命性能を有していない。また、Ni位値に熱的安全性が優れるMnを一部置換したLi-Ni-Mn系複合酸化物又はMn及びCoに置換したLi-Ni-Mn-Co系複合酸化物の組成とその製造に関連する技術も広く公知されており、最近では、特許文献1において、LiNiO2やLiMnO2に遷移金属を部分置換する概念ではなく、MnとNiとの化合物を原子レベルで均一に分散させて固溶体を作る、新しい概念の正極活物質が開示された。
【0006】
NiをMn及びCoに置換したLi-Ni-Mn-Co系複合酸化物の組成に対する特許文献2及び特許文献3によれば、LiNi1-xCoxMnyO2(0<y≦0.3)は、既存のNiとCoのみで構成された材料に比べて向上された寿命性能及び熱的安定性を有するが、依然としてNi系の熱的安定性及び寿命性能の低下を解決することができていない。
【0007】
このような短所を解消するために特許文献4には、金属組成の濃度勾配を有するリチウム遷移金属酸化物に対する特許が提案されている。
【0008】
しかし、この方法は合成の時、内部層と外部層の金属組成を異なりに合成して高い容量を具現することはできるが、生成された正極活物質において金属組成が連続的かつ漸進的に変わらない。また、長期間使用の際に内部層と外部層との界面が抵抗成分として作用して出力及び寿命性能を低下させることもあり、850℃以上の高い熱処理温度では、金属イオンの熱拡散によって濃度勾配差がほとんど生じないので、性能向上の効果は僅かである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】公開特許公報第2000-227858号
【文献】米国特許第6,040,090号
【文献】ヨーロッパ登録特許第0918041号
【文献】韓国特許公開第10-2005-0083869号
【文献】米国特許出願公開第2014/0158932号明細書
【文献】特開2002-279985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前述のような課題を解決するために、層状構造を有する正極活物質の遷移金属の濃度が一定である中心層の外殻に、厚さが調節された濃度勾配層を含む新しい構造のリチウム二次電池用正極活物質を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、本発明によるリチウム二次電池用正極活物質を含むリチウム二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、前述のような課題を解決するために、
ニッケルと、マンガンと、コバルトとを含む層状構造であり、一次粒子が凝集された二次粒子であって、
前記ニッケル、マンガン、及びコバルトの濃度が一定である中心層と、
前記中心層の外殻に形成され、前記ニッケル、マンガン、及びコバルトのうち少なくとも1つの濃度が勾配を示す濃度勾配層と、
前記濃度勾配層の外殻に形成され、前記ニッケル、マンガン、及びコバルトの濃度が一定である表面層と、を含み、
前記濃度勾配層の厚さが10nm乃至500nmであることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質を提供する。
【0013】
図1に本発明によるリチウム二次電池用正極活物質の構造を模式的に示した。
【0014】
本発明によるリチウム二次電池用正極活物質において、前記表面層の厚さが10nm乃至200nmであることを特徴とする。
【0015】
本発明によるリチウム二次電池用正極活物質は、前記一次粒子内のリチウムイオン拡散経路(lithium ion diffusion path)が二次粒子の中心方向に形成されることを特徴とする。
【0016】
図2a及び
図2bに、本発明によるリチウム二次電池用正極活物質の一次粒子及び二次粒子の構造を模式図として示した。
図2a及び
図2bに示すように、本発明によるリチウム二次電池用正極活物質の一次粒子内におけるリチウムイオン拡散経路、即ち、層状構造におけるa軸又はb軸が平行に形成され、二次粒子の中心方向に方向性を示すことを特徴とする。
【0017】
本発明によるリチウム二次電池用正極活物質は、前記一次粒子のアスペクト比が1以上であり、前記一次粒子内のリチウムイオン拡散経路が長軸方向に形成されることを特徴とする。即ち、本発明によるリチウム二次電池用正極活物質において、リチウムイオン拡散経路が長軸方向に形成され、充放電の際に、正極活物質の一次粒子内にリチウムイオンが移動する時、相対的に面積が狭い横軸方向に、一次粒子内に移動するようになるので、充放電が持続されることによる結晶構造が崩れる面積が相対的に小さくなり、結果的に構造安定性を示すことになる。したがって、二次粒子内における濃度勾配層の厚さが10nm乃至500nmの場合にも構造安定性及び安定した寿命特性を示すようになる。
【0018】
本発明によるリチウム二次電池用正極活物質は、前記アスペクト比が1以上であり、前記粒子内のリチウムイオン拡散経路が粒子の長軸方向に形成される一次粒子が占める面積が、全体面積の20%以上であることを特徴とする。本発明によるリチウム二次電池用正極活物質において、アスペクト比は
図2bで示すように、粒子が長方形状である場合、L/W(L長軸、W短軸)に定義され、横軸の長さがW1、W2である場合、L/(W1+W2)/2に定義される。
【0019】
本発明によるリチウム二次電池用正極活物質は、リチウムイオン拡散経路が二次粒子の中心方向に向かう一次粒子が占める面積が、全体粒子面積の40%以上であることを特徴とする。本発明によるリチウム二次電池用正極活物質は、前記一次粒子内のリチウムイオン拡散経路が二次粒子の中心方向から±45°以内に傾斜することを特徴とする。即ち、本発明によるリチウム二次電池用正極活物質において、一次粒子内のリチウムイオン拡散経路は二次粒子の中心に向かうが、二次粒子の正中心方向に機械的に配列されることではなく、二次粒子の中心方向から±45°以内で配列の自由度を示すことを特徴とする。
【0020】
本発明によるリチウム二次電池用正極活物質は、前記一次粒子が粒子全体の中心方向に方向性を有して形成され、前記一次粒子内のリチウムイオン拡散経路が粒子全体の中心方向に形成されて、前記二次粒子の表面から中心までリチウムイオン拡散経路が、一次元又は二次元のトンネル構造を有することを特徴とする。
【0021】
このようなアスペクト比が異なる一次針状、板状、直方体、傾いた直方体又は円柱状を有することができる。このようなリチウムイオン拡散経路によってリチウムイオンの伝導速度が速く、高いリチウムイオン伝導率を示すだけでなく、充放電を繰り返しても結晶構造が容易に崩壊されなくなり、サイクル特性が向上される。
【0022】
また、本発明によるリチウム二次電池用正極活物質は、線型経路の一次元又は面経路の二次元のトンネル構造で形成されたリチウムイオン拡散経路によって、活物質粒子とリチウムイオン又は電解質との間の電子伝達抵抗(chargetransfer resistance)、拡散(diffusion)、移動(migration)及び伝達(convection)が低いので、電池内部のインピーダンスを大きく下げることができる。
【0023】
本発明によるリチウム二次電池用正極活物質において、
前記二次粒子は、
下記化学式1で表示され、遷移金属の濃度が一定であるコア層と、
前記コア層の外殻に形成され、1つ以上の遷移金属の濃度が連続的に変わって濃度勾配を示す濃度勾配層と、
下記化学式2で表示され、前記濃度勾配層の外殻に形成され、遷移金属の濃度が一定である表面層と、を含むことを特徴とする。
【0024】
<化学式1>
LixNi1-a-b-cCoaMnbMecO2-yXy
(前記化学式1において、0.9≦x≦1.15、0≦a≦0.10、0≦b≦0.10、0≦c≦0.10、0≦y≦0.1、Meは、Al、Mg、B、P、Ti、Si、Zr、Ba及びこれらの組合からなる群より選択される少なくとも1つ以上の元素であり、Xは、F、BO3、PO4等の陰イオンから選択される少なくとも1つ以上の元素又は乃至分子である。)
<化学式2>
LixNi1-a-b-cCoaMnbMecO2-yXy
(前記化学式2において、0.9≦x≦1.15、0≦a≦0.35、0≦b≦0.70、0≦c≦0.20、0≦y≦0.1、Meは、Al、Mg、B、P、Ti、Si、Zr、Ba及びこれらの組合からなる群より選択される少なくとも1つ以上の元素であり、XはF、BO3、PO4等の陰イオンから選択される少なくとも1つ以上の元素又は分子である。)
本発明によるリチウム二次電池用正極活物質において、前記濃度勾配層の一次粒子は、リチウムイオン拡散経路が二次粒子の中心方向に向かうことを特徴とする。
【0025】
また、本発明は、本発明によるリチウム二次電池用正極活物質を含むリチウム二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0026】
本発明によるリチウム二次電池用正極活物質は、中心層の外殻に形成される濃度勾配層の厚さを調節し、一次粒子内におけるリチウムイオン拡散経路が粒子の中心方向に向かうように方向性を有して形成されるので、一次粒子内へのリチウムイオンの吸蔵放出が容易になり、本発明によるリチウム二次電池用正極活物質を含む電池の容量、出力、及び寿命特性が大きく改善される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、本発明によるリチウム二次電池用正極活物質の構造を模式的に示す。
【
図2】
図2a及び
図2bは、本発明によるリチウム二次電池用正極活物質が層状構造(a)を示すことと、粒子断面の模様、及び一次粒子のリチウムイオン拡散経路(Lithium diffus ion path)を模式図に示す。
【
図3】
図3は、本発明の実施例1乃至5及び比較例1で製造された正極活物質粒子のSEM写真を示す。
【
図4】
図4は、本発明の実施例1乃至5及び比較例1で製造された正極活物質粒子のSEM写真を示す。
【
図5】
図5は、本発明の実施例で製造された粒子の粒子内部の内部構造及び内部組成をTEM及びEDXを利用して測定した結果を示す。
【
図6】
図6は、本発明の実施例で製造された粒子の粒子内部の内部構造及び内部組成をTEM及びEDXを利用して測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。しかし、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0029】
<実施例1>
第1段階として、内容積100L容量の共沈反応器(co-precipitationreactor、回転モーターの出力80W以上)に蒸留水20Lと、キレート剤としてアンモニア1000gとを加えた後、反応器内の温度を40℃~50℃に維持しながら、300rpm~1000rpmで反応器内部のインペラを攪拌した。
【0030】
第2段階として、硫酸ニッケルと、硫酸コバルトと、硫酸マンガンとのモル比が97:3:0で混合された2.5M濃度の第1前駆体水溶液を2.2L/hrで、28%濃度のアンモニア水溶液を0.15L/hrで、反応器に連続的に投入して中心層を形成した。また、pH調整のために25%濃度の水酸化ナトリウム水溶液を供給してpHが11.3~11.4で維持されるようにした。インペラ速度は300rpm~1000rpmで調節した。第1前駆体水溶液と、アンモニアと、水酸化ナトリウム溶液とを反応器内に連続して27L投入した。
【0031】
第3段階として、硫酸ニッケルと、硫酸コバルトと、硫酸マンガンとのモル比が14:41:45で混合された2.5M濃度の濃度勾配層形成用水溶液を作って、前記反応器(reactor)の他に、別の攪拌器で前記第2段階にて調製された硫酸ニッケルと、硫酸コバルトと、硫酸マンガンとのモル比が97:3:0に混合された2.5M濃度の第1前駆体水溶液の容量を10Lに固定した後、2.2L/hrの速度で投入しながら攪拌して、濃度勾配層を形成するための第2前駆体水溶液を作ると同時に前記反応器へ導入した。前記第2前駆体水溶液の中の硫酸ニッケルと、硫酸コバルトと、硫酸マンガンとのモル比がシェル層の濃度である60:20:20でなるまで前記濃度勾配層形成用水溶液を混合しながら、回分式反応器(batchreactor)へ導入し、28%濃度のアンモニア水溶液は0.08L/hrの速度で投入し、水酸化ナトリウム溶液はpHが11.3~11.4になるように維持した。この時、投入された第2前駆体水溶液と、アンモニアと、水酸化ナトリウム溶液とは17Lである。
【0032】
次に第4段階として、硫酸ニッケルと、硫酸コバルトと、硫酸マンガンとのモル比が60:20:20で混合された表面層を形成するための第3前駆体水溶液を回分式反応器(batchreactor)へ5L体積になるまで投入し、反応が終了した後、反応器から球形のニッケルマンガンコバルト複合水酸化物の沈殿物を得た。
【0033】
前記沈殿された複合金属水酸化物を濾過し、純水で洗浄した後に100℃の温風乾燥機で12時間乾燥させ、中心層が(Ni0.97Co0.03)(OH)2から表面層(Ni0.6Co0.2Mn0.2)(OH)2まで連続的な濃度勾配を有する金属複合水酸化物形態の前駆体粉末を得た。
【0034】
前記前駆体である金属複合水酸化物と水酸化リチウム(LiOH.H2O)とを1:1.00~1.10モル比で混合した後に、2℃/minの乗温速度で加熱し、550℃で10時間熱処理を行った後、750℃で20時間焼成させ、中心層がLi(Ni0.97Co0.03)O2に表面層はLi(Ni0.97Co0.03)O2からLi(Ni0.6Co0.2Mn0.2)O2まで連続的な濃度勾配を有する正極活物質粉末を得た。
【0035】
<実施例2>
中心層の組成をLi(Ni0.97Co0.03)O2、表面層の組成をLi(Ni0.5Co0.2Mn0.3)O2、濃度勾配層がLi(Ni0.97Co0.03)O2からLi(Ni0.5Co0.2Mn0.3)O2まで連続的、且つ一定な濃度勾配を有することを除いては、実施例1と同一の方法によって正極を製造した。
【0036】
<実施例3>
中心層の組成をLi(Ni0.97Co0.03)O2、表面層の組成をLi(Ni0.4Co0.2Mn0.2)O2、濃度勾配層がLi(Ni0.97Co0.03)O2からLi(Ni0.4Co0.2Mn0.2)O2まで連続的、且つ一定な濃度勾配を有することを除いては、実施例1と同一の方法によって正極を製造した。
【0037】
<実施例4>
中心層の組成をLi(Ni0.90Co0.10)O2、表面層の組成をLi(Ni0.5Mn0.5)O2、濃度勾配層がLi(Ni0.90Co0.10)O2からLi(Ni0.5Mn0.5)O2まで連続的な、且つ一定な濃度勾配を有することを除いては、実施例1と同一の方法によって正極を製造した。
【0038】
<実施例5>
中心層の組成をLi(Ni0.90Co0.10)O2、表面層の組成をLi(Ni0.35Co0.15Mn0.50)O2、濃度勾配層がLi(Ni0.90Co0.10)O2からLi(Ni0.35Co0.15Mn0.50)O2まで連続的、且つ一定な濃度勾配を有することを除いては、実施例1と同一の方法によって正極を製造した。
【0039】
<実施例6>
中心層の組成をLi(Ni0.90Co0.10)O2、表面層の組成をLi(Ni0.30Co0.10Mn0.50)O2、濃度勾配層がLi(Ni0.90Co0.10)O2からLi(Ni0.30Co0.10Mn0.50)O2まで連続的、且つ一定な濃度勾配を有することを除いては、実施例1と同一の方法によって正極を製造した。
【0040】
<比較例1>
連続式反応器(100L、CSTR反応器)に蒸留水60Lとキレート剤としてアンモニアを1000gとを加えた後、反応器内の温度を40℃~50℃に維持しながら、インペラを300rpm乃至1000rpmで攪拌した。また、反応器に窒素ガスを3L/min流量に連続的に供給した。次に硫酸ニッケルと、硫酸コバルトと、硫酸マンガンモルとの比が8:1:1で混合された1M濃度の前駆体水溶液を3.25L/hrで、28%濃度のアンモニア水溶液を0.15L/hrで、反応器に連続して投入した。また、pH調整のために25%濃度の水酸化ナトリウム水溶液を0.8L/minの速度に供給してpHが11~12になるように反応槽内に連続的に供給した。反応溶液温度は50±2℃に維持した。
【0041】
反応器内が正常状態になって13時間の後に、オーバーフローパイプから排出された水酸化物粒子を連続的に採取して水で洗浄した後、100℃の温風乾燥機で12時間乾燥して、Li(Ni0.8Co0.1Mn0.1)O2の組成を有する金属複合水酸化物形態の前駆体粉末を得た。
【0042】
前記金属複合水酸化物と水酸化リチウム(LiOH.H2O)とを1:1.00~1.10モル比で混合した後に2℃/minの乗温速度に加熱した後、550℃で10時間熱処理を進行した後、750℃で20時間焼成させて陽極活物質粉末を得た。
【0043】
<実験例:SEM写真測定>
実施例1乃至6及び比較例1にて製造された正極活物質粒子及び破断面のSEM写真を測定し、その結果を
図3及び
図4に示した。
【0044】
図3で本発明の実施例1乃至6及び比較例1にて製造された正極活物質粒子は、一次粒子が凝集された球形の二次粒子であることが分かる。
【0045】
粒子の破断面に対するSEM写真である
図4において、本発明の実施例1乃至6にて製造された粒子の場合、一次粒子のアスペクト比が1以上であり、一次粒子の長軸、即ち、長い方向へと粒子の中心方向に方向性を有して成長され、粒子表面から粒子中心までのリチウム伝導経路が一次元又は二次元のトンネル構造に形成されるのに比べて、比較例の場合、一次粒子のアスペクト比がこれら実施例より非常に短く、不規則な(random)形態で、二次粒子内部において一次粒子の方向性が観察されないことが分かる。
【0046】
<実験例:TEM写真測定>
前記実施例2及び3の粒子内の一次粒子の模様及び構造と遷移金属の濃度をTEM及びEDXを利用して測定し、その結果を
図5乃至
図6に示した。
【0047】
図5において、本発明の実施例1にて製造された粒子の中心層表面に濃度勾配層、及び表面層が形成され、一次粒子が二次粒子の中心への方向性を有して形成されており、一次粒子内のリチウムイオン伝導経路が二次粒子の中心方向へ平行に形成されることが確認できる。
【0048】
一方、本発明の比較例1にて製造された粒子の場合、
図4から分かるように、一次粒子内のリチウムイオン伝導経路が、方向性無く不規則に形成されることが確認できる。
【0049】
<実験例:粒子特性の測定>
前記実施例1乃至6及び比較例1にて製造されたリチウム金属複合酸化物の組成及び粒度分布を粒度分析器により測定して下記の表1に示した。
【0050】
組成分析のために、前記製造されたリチウム金属複合酸化物の一定量(約2g)を正確に(0.1mg単位)秤量した後、ガラスビーカーに移して王水(HCl:HNO3=3:1)を添加してホットプレートで完全分解した。
【0051】
誘導プラズマ発光分析分光器(ICP-AES、 PerkinElmer(登録商標) 7300)を使用、Li/Ni/Co/Mn元素別の固有波長において、標準溶液(Inorganic Venture社、1000mg/kg)を利用して調製された標準液(3種)の強度(Intensity)を測定して基準検量線(CalibrationCurve)を作成した後、前処理された試料溶液及び空試料(blank sample)を機器に導入、各々の強度を測定して実際強度を算出し、前記作成された検量線対比各成分の濃度を計算し、全体の合計が理論値になるように換算(Normalization)して調製されたリチウム金属複合酸化物の組成を分析した。
【0052】
【0053】
<製造例:電池製造>
前記実施例1乃至6及び比較例1の製造された正極活物質と、導電剤としてsuper-P(登録商標)と、結合剤としてポリビニリデンフロランド(PVdF)とを92:5:3の重量比で混合してスラリーを製造した。前記スラリーを15μm厚さのアルミニウム薄に均一に塗布し、135℃で真空乾燥してリチウム二次電池用正極を製造した。
【0054】
前記正極とリチウムホイルとを相対電極とし、多孔性ポリエチレン膜(Celgard、LLC.製、Celgard(登録商標)2300、厚さ:25μm)をセパレータとし、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとが体積比として3:7で混合された溶媒に、LiPF6が1.15M濃度で溶解されている液体電解液を使用して、公知の製造工程によってコイン型電池を製造した。
【0055】
<実験例:電池特性測定>
前記実施例1乃至6及び比較例1で製造された活物質により製造された電池の初期容量、初期効率、率特性、及び寿命特性を測定し、その結果を下の表2に示した。
【0056】
下の表2において、本発明の実施例で製造された活物質を含む電池の場合、電池特性が比較例より大きく向上されることが確認できる。
【0057】
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上のように、本発明によるリチウム二次電池用正極活物質は中心層の外殻に形成される濃度勾配層の厚さを調節し、一次粒子内でのリチウムイオン拡散経路が粒子の中心方向に向かうように方向性を有して形成されるので、一次粒子内へのリチウムイオンの吸蔵、放出が容易になって本発明によるリチウム二次電池用正極活物質を含む電池の容量、出力、及び寿命特性が大きく改善されたという点で非常に有用である。
以下に、本発明の実施形態を記載する。
条項1.
ニッケル、マンガン、及びコバルトを含む層状構造であり、一次粒子が凝集された二次粒子であり、
前記ニッケル、マンガン、及びコバルトの濃度が一定である中心層と、
前記中心層の外殻に形成され、前記ニッケル、マンガン、及びコバルトの中で少なくとも1つの濃度が勾配を示す濃度勾配層と、
前記濃度勾配層の外殻に形成され、前記ニッケル、マンガン、及びコバルトの濃度が一定である表面層と、を含み、
前記濃度勾配層の厚さが10nm乃至500nmであり、
前記一次粒子の内部に形成されたリチウムイオン拡散経路(lithiumion diffusion path)が前記二次粒子の中心方向に形成され、
前記一次粒子のアスペクト比が1以上であり、前記一次粒子の内部に形成されたリチウムイオン拡散経路が粒子の長軸方向に形成されることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質。
条項2.
前記表面層の厚さが10nm乃至200nmであることを特徴とする、条項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
条項3.
前記アスペクト比が1以上であり、前記一次粒子の内部に形成されたリチウムイオン拡散経路が粒子の長軸方向に形成される一次粒子が占める面積が前記二次粒子の表面の全体面積の20%以上であることを特徴とする、条項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
条項4.
前記一次粒子の内部に形成されたリチウムイオン拡散経路が、前記二次粒子の中心方向で±45°以内に傾斜していることを特徴とする、条項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
条項5.
前記リチウムイオン拡散経路が前記二次粒子の中心方向に向かう前記一次粒子が占める面積が、前記二次粒子の表面の全体面積の40%以上であることを特徴とする、条項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
条項6.
前記一次粒子が前記二次粒子全体の中心方向への方向性を有して形成され、前記一次粒子の内部に形成されたリチウムイオン拡散経路が前記二次粒子全体の中心方向に形成され、前記二次粒子の表面から中心までリチウムイオン拡散経路が一次元又は二次元のトンネル構造を有することを特徴とする、条項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
条項7.
<化学式1>
LixNi1-a-b-cCoaMnbMecO2-yXy
(前記化学式1で0.9≦x≦1.15、0≦a≦0.35、0≦b≦0.70、0≦c≦0.20、0≦y≦0.1、MeはAl、Mg、B、P、Ti、Si、Zr、Ba及びこれらの組合からなる群より選択される少なくとも1つ以上の元素であり、XはF、BO3、PO4の陰イオンからなる群より選択される少なくとも1つ以上の元素又は分子である。)
<化学式2>
LixNi1-a-b-cCoaMnbMecO2-yXy
(前記化学式2で0.9≦x≦1.15、0≦a≦0.10、0≦b≦0.1、0≦c≦0.1、0≦y≦0.1、MeはAl、Mg、B、P、Ti、Si、Zr、Ba及びこれらの組合からなる群より選択される少なくとも1つ以上の元素であり、XはF、BO3、PO4の陰イオンからなされたグループから選択される少なくとも1つ以上の元素又は分子である。)
前記ニッケル、マンガン、及びコバルトの濃度が一定である中心層は上記化学式1で表示され、
前記表面層は、上記化学式2で表示されることを特徴とする、条項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
条項8.
前記濃度勾配層の前記一次粒子の内部に形成されたリチウムイオン拡散経路が、前記二次粒子の中心方向に向かうことを特徴とする、条項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
条項9.
前記一次粒子は、針状、板状、直方体、傾いた直方体又は円柱状であることを特徴とする、条項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
条項10.
条項1~9のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質を含むリチウム二次電池。