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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】光ファイバ母材の製造装置及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 37/014 20060101AFI20240104BHJP
【FI】
C03B37/014 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020084776
(22)【出願日】2020-05-13
(65)【公開番号】P2021178753
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2022-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100143764
【弁理士】
【氏名又は名称】森村 靖男
(72)【発明者】
【氏名】高橋 純一
(72)【発明者】
【氏名】森 貴宏
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-149442(JP,A)
【文献】特開2002-047014(JP,A)
【文献】特開2013-147379(JP,A)
【文献】特開平07-223833(JP,A)
【文献】特開2003-183042(JP,A)
【文献】特開2009-046386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 37/00-37/16,8/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉心管内に収容されたガラス微粒子堆積体を加熱し、脱水又は焼結させて光ファイバ母材を製造する光ファイバ母材の製造装置であって、
前記炉心管の外側に設けられ、前記ガラス微粒子堆積体を加熱するヒータと、
前記ガラス微粒子堆積体を支持する支持部材と、
前記支持部材に設けられ、前記ヒータからの熱を遮断する遮熱体と、
前記炉心管内に脱水用ガス又は焼結用ガスを供給するガス給気部と、
前記炉心管内のガスを排気するガス排気部とを備え、
前記遮熱体が、前記遮熱体を前記炉心管の長手方向に見た場合に前記遮熱体を貫通する隙間を有さず且つガスを通過させる立体的な隙間を有し、
鉛直方向において前記遮熱体の全体が前記ガラス微粒子堆積体より上方に位置する、光ファイバ母材の製造装置。
【請求項2】
炉心管内に収容されたガラス微粒子堆積体を加熱し、脱水又は焼結させて光ファイバ母材を製造する光ファイバ母材の製造装置であって、
前記炉心管の外側に設けられ、前記ガラス微粒子堆積体を加熱するヒータと、
前記ガラス微粒子堆積体を支持する支持部材と、
前記支持部材に設けられ、前記ヒータからの熱を遮断する遮熱体と、
前記炉心管内に脱水用ガス又は焼結用ガスを供給するガス給気部と、
前記炉心管内のガスを排気するガス排気部とを備え、
前記遮熱体が、前記遮熱体を前記炉心管の長手方向に見た場合に前記遮熱体を貫通する隙間を有さず且つガスを通過させる立体的な隙間を有し、
前記遮熱体が、前記支持部材の回転により、ガスを前記遮熱体の前記ガラス微粒子堆積体側から前記ガラス微粒子堆積体と反対側に輸送することが可能となるように構成されている、光ファイバ母材の製造装置。
【請求項3】
炉心管内に収容されたガラス微粒子堆積体を加熱し、脱水又は焼結させて光ファイバ母材を製造する光ファイバ母材の製造装置であって、
前記炉心管の外側に設けられ、前記ガラス微粒子堆積体を加熱するヒータと、
前記ガラス微粒子堆積体を支持する支持部材と、
前記支持部材に設けられ、前記ヒータからの熱を遮断する遮熱体と、
前記炉心管内に脱水用ガス又は焼結用ガスを供給するガス給気部と、
前記炉心管内のガスを排気するガス排気部とを備え、
前記遮熱体が、前記遮熱体を前記炉心管の長手方向に見た場合に前記遮熱体を貫通する隙間を有さず且つガスを通過させる立体的な隙間を有し、
前記遮熱体が、
前記支持部材に固定される固定部と、
前記固定部から放射状に延びる複数の羽根部材とを有する、光ファイバ母材の製造装置。
【請求項4】
前記遮熱体が、不透明石英部材、多孔質石英部材、表面が砂ずり加工された石英部材、カーボン又はシリコンカーバイドで構成される、請求項1~3のいずれか一項に記載の光ファイバ母材の製造装置。
【請求項5】
前記遮熱体が、前記支持部材の回転により、ガスを前記遮熱体の前記ガラス微粒子堆積体側から前記ガラス微粒子堆積体と反対側に輸送することが可能となるように構成されている、請求項1、3、及び4のいずれか一項に記載の光ファイバ母材の製造装置。
【請求項6】
前記遮熱体が、
前記支持部材に固定される固定部と、
前記固定部から放射状に延びる複数の羽根部材とを有する、請求項1、2、4、及び5のいずれか一項に記載の光ファイバ母材の製造装置。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の光ファイバ母材の製造装置を用いて光ファイバ母
材を製造する光ファイバ母材の製造方法であって、
前記光ファイバ母材の製造装置を用い、前記ガラス微粒子堆積体を、前記支持部材で支持した状態で前記炉心管内に収容し、前記ヒータで加熱して脱水させる脱水工程と、
前記光ファイバ母材の製造装置を用い、前記ガラス微粒子堆積体を、前記ヒータで加熱して焼結させ、前記光ファイバ母材を得る焼結工程とを含み、
前記脱水工程において、前記ガス給気部を通して前記脱水用ガスを前記炉心管内に供給しながら、前記遮熱体を通過した排ガスを、前記ガス排気部を通して排気し、
前記焼結工程において、前記ガス給気部を通して前記焼結用ガスを前記炉心管内に供給しながら、前記遮熱体を通過した排ガスを、前記ガス排気部を通して排気する、光ファイバ母材の製造方法。
【請求項8】
前記光ファイバ母材の製造装置が請求項2又は5に記載の光ファイバ母材の製造装置で構成され、
前記脱水工程及び前記焼結工程において、前記支持部材を回転させることにより、ガスを前記遮熱体の前記ガラス微粒子堆積体側から前記ガラス微粒子堆積体と反対側に輸送させる、請求項に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項9】
少なくとも前記脱水工程と前記焼結工程との間に前記炉心管内のガスを置換させるガス置換工程をさらに含み、
前記ガス置換工程において、前記遮熱体を通過するガスの通過量を、前記脱水工程及び前記焼結工程において前記遮熱体を通過するガスの通過量よりも多くする、請求項に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ母材の製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ母材は一般に、VAD法(Vapor-phase Axial Deposition Method)やOVD法(Outside Vapor Deposition Method)等のスート法によってガラス微粒子堆積体を形成し、次いでこのガラス微粒子堆積体を、光ファイバ母材の製造装置で脱水及び焼結して透明化させて製造される。
【0003】
このような光ファイバ母材の製造装置として、例えば下記特許文献1に記載の焼結装置が知られている。下記特許文献1には、多孔質ガラス母材を収容する炉心管と、多孔質ガラス母材を支持する支持棒と、炉心管の外側に設けられるヒータと、炉心管に不活性ガスを導入する不活性ガス導入管と、炉心管内のガスを排気する排気装置とを備える焼結装置が開示されている。また、同文献には、多孔質ガラス母材の上端部に、輻射熱の逃散を防止するための遮熱板を設けることも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-219519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に記載の光ファイバ母材の製造装置は、以下に示す課題を有していた。
【0006】
すなわち、上記特許文献1に記載の光ファイバ母材の製造装置では、遮熱板による遮熱性を優先するために遮熱板と炉心管の内壁面との間の隙間を狭くすると、不活性ガス導入管から炉心管内に導入された不活性ガス、脱水処理のために導入された脱水ガス、さらに、焼結・脱水処理後に発生するガス(HOやHCl)を含む排ガスが遮熱板付近に滞留し、多孔質ガラス母材上端に吸着したり、脱水処理ができなくなったりする場合があった。一方、排ガスの滞留を抑制するために、遮熱板と炉心管の内壁面との間の隙間を広くすると、遮熱板による遮熱性が低下し、ヒータの熱効率が低下することで、得られる光ファイバ母材の上端の焼結(透明化)が不十分となる場合があった。すなわち、遮熱板と炉心管の内壁面との間の隙間を狭くしても広くしても高品質の光ファイバ母材が得られない場合があった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高品質の光ファイバ母材を製造することができる光ファイバ母材の製造装置及び製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、炉心管内に収容されたガラス微粒子堆積体を加熱し、脱水又は焼結させて光ファイバ母材を製造する光ファイバ母材の製造装置であって、前記炉心管の外側に設けられ、前記ガラス微粒子堆積体を加熱するヒータと、前記ガラス微粒子堆積体を支持する支持部材と、前記支持部材に設けられ、前記ヒータからの熱を遮断する遮熱体と、前記炉心管内に脱水用ガス又は焼結用ガスを供給するためのガス給気部と、前記炉心管内のガスを排気するガス排気部とを備え、前記遮熱体が、前記遮熱体を前記炉心管の長手方向に見た場合に前記遮熱体を貫通する隙間を有さず且つガスを通過させる立体的な隙間を有する、光ファイバ母材の製造装置である。
【0009】
本発明の光ファイバ母材の製造装置によれば、ガラス微粒子堆積体の脱水又は焼結に際して、ガラス微粒子堆積体が支持部材で支持されて炉心管内に収容され、ヒータで加熱される。このとき、遮熱体は、遮熱体を炉心管の長手方向に見た場合に遮熱体を貫通する隙間を有していないため、ヒータからの輻射熱が、遮熱体によって十分に遮断され、遮熱体を通過して拡散されることが抑制される。その結果、ガラス微粒子堆積体が効果的に加熱され、脱水又は焼結が効果的に行われる。また、ガラス微粒子堆積体の脱水又は焼結に際しては、ガス給気部から炉心管内に脱水用ガス又は焼結用ガスがそれぞれ供給され、排ガスがガス排気部を通して排気された状態でガラス微粒子堆積体が脱水又は焼結される。このとき、遮熱体が、ガスを通過させる立体的な隙間を有するため、排ガスは、炉心管と遮熱体との間の隙間だけでなく、その立体的な隙間を通って遮熱体を通過することも可能となり、排ガスが遮熱体付近に滞留することが抑制される。その結果、ガラス微粒子堆積体又はその焼結体中に排ガス中の不純物が混入することが抑制される。以上のことから、本発明の光ファイバ母材の製造装置によれば、高品質の光ファイバ母材を製造することができる。
【0010】
上記光ファイバ母材の製造装置においては、前記遮熱体が、不透明石英部材、多孔質石英部材、表面が砂ずり加工された石英部材、カーボン、又は、シリコンカーバイドで構成されることが好ましい。
【0011】
この場合、遮熱体が、耐熱性、耐久性及び耐酸性を有するため、長期間にわたって交換が不要となる。さらに、遮熱体が上記の材料で構成されることで、光ファイバ母材中に不純物が生じにくくなる。また、ヒータからの輻射熱が遮熱体によって効果的に遮熱され、遮熱体を通過して拡散されることが効果的に抑制される。その結果、ガラス微粒子堆積体がより効果的に加熱される。
【0012】
上記光ファイバ母材の製造装置においては、前記遮熱体が、前記支持部材の回転により、ガスを前記遮熱体の前記ガラス微粒子堆積体側から前記ガラス微粒子堆積体と反対側に輸送することが可能となるように構成されていることが好ましい。
【0013】
この場合、脱水又は焼結に際して、ガス給気部を通して脱水用ガス又は焼結用ガスを炉心管内に供給し、遮熱体を通過した排ガスを、ガス排気部を通して排気する際に、支持部材を回転させると、排ガスが、遮熱体のガラス微粒子堆積体側からガラス微粒子堆積体と反対側に輸送される。このため、遮熱体を通過する排ガスの量をより増加させることができる。従って、排ガスが遮熱体付近に滞留することがより抑制され、ガラス微粒子堆積体又はその焼結体中に排ガス中の不純物が混入することがより抑制される。
【0014】
上記光ファイバ母材の製造装置においては、前記遮熱体が、前記支持部材に固定される固定部と、前記固定部から放射状に延びる複数の羽根部材とを有することが好ましい。
【0015】
この場合、ガラス微粒子堆積体の脱水又は焼結に際して排ガスが遮熱体を通過しやすくなる。このため、排ガスが遮熱体に対してガラス微粒子堆積体側の空間に滞留することがより抑制される。その結果、ガラス微粒子堆積体又はその焼結体中に排ガス中の不純物が混入することがより抑制される。
【0016】
また、本発明は、上述した光ファイバ母材の製造装置を用いて光ファイバ母材を製造する光ファイバ母材の製造方法であって、前記光ファイバ母材の製造装置を用い、前記ガラス微粒子堆積体を、前記支持部材で支持した状態で前記炉心管内に収容し、前記ヒータで加熱して脱水させる脱水工程と、前記光ファイバ母材の製造装置を用い、前記ガラス微粒子堆積体を、前記ヒータで加熱して焼結させ、前記光ファイバ母材を得る焼結工程とを含み、前記脱水工程において、前記ガス給気部を通して前記脱水用ガスを前記炉心管内に供給しながら、前記遮熱体を通過した排ガスを、前記ガス排気部を通して排気し、前記焼結工程において、前記ガス給気部を通して前記焼結用ガスを前記炉心管内に供給しながら、前記遮熱体を通過した排ガスを、前記ガス排気部を通して排気する、光ファイバ母材の製造方法である。
【0017】
本発明の光ファイバ母材の製造方法によれば、脱水工程において、ガラス微粒子堆積体が支持部材で支持されて炉心管内に収容され、ヒータで加熱される。このとき、遮熱体は、遮熱体を炉心管の長手方向に見た場合に遮熱体を貫通する隙間を有していないため、ヒータからの輻射熱が遮熱体によって十分に遮熱され、遮熱体を通過して拡散されることが抑制される。その結果、ガラス微粒子堆積体が効果的に加熱され、ガラス微粒子堆積体の脱水が効果的に行われる。また、脱水工程においては、ガス給気部を通して炉心管内に脱水用ガスが供給されながら、排ガスがガス排気部を通して排気された状態で、ガラス微粒子堆積体が脱水される。このとき、遮熱体が、ガスを通過させる立体的な隙間を有するため、排ガスは、炉心管と遮熱体との間の隙間だけでなく、立体的な隙間を通って遮熱体を通過することも可能となり、排ガスが遮熱体付近に滞留することが抑制される。その結果、ガラス微粒子堆積体中に排ガス中の不純物が混入することが抑制される。また、焼結工程においては、ガラス微粒子堆積体が炉心管内においてヒータで加熱される。このとき、遮熱体は、遮熱体を炉心管の長手方向に見た場合に遮熱体を貫通する隙間を有していないため、ヒータからの輻射熱が遮熱体によって十分に遮熱され、遮熱体を通過して拡散されることが抑制される。その結果、ガラス微粒子堆積体が効果的に加熱され、ガラス微粒子堆積体の焼結が効果的に行われるため、ガラス微粒子堆積体の透明化が十分に行われる。また、焼結工程においては、ガス給気部を通して炉心管内に焼結用ガスが供給されながら、排ガスがガス排気部を通して排気された状態で、ガラス微粒子堆積体が焼結される。このとき、遮熱体が、ガスを通過させる立体的な隙間を有するため、排ガスは、炉心管と遮熱体との間の隙間だけでなく、立体的な隙間を通って遮熱体を通過することも可能となり、排ガスが遮熱体付近に滞留することが抑制される。その結果、ガラス微粒子堆積体の焼結体中に排ガス中の不純物が混入することが抑制される。以上のことから、本発明の光ファイバ母材の製造方法によれば、高品質の光ファイバ母材を製造することができる。
【0018】
上記光ファイバ母材の製造方法においては、前記光ファイバ母材の製造装置が、上述した光ファイバ母材の製造装置で構成され、遮熱体が、前記支持部材に固定される固定部と、前記固定部から放射状に延びる複数の羽根部材とを有し、前記複数の羽根部材が、前記支持部材の回転により、前記遮熱体を通過するガスの通過量を増加させることが可能となるように前記固定部に設けられ、前記脱水工程及び前記焼結工程において、前記支持部材を回転させることにより、ガスを前記遮熱体の前記ガラス微粒子堆積体側から前記ガラス微粒子堆積体と反対側に輸送させることが好ましい。
【0019】
この場合、脱水工程及び焼結工程において、ガス給気部を通して脱水用ガス及び焼結用ガスを炉心管内に供給し、遮熱体を通過した排ガスを、ガス排気部を通して排気する際に、支持部材を回転させると、ガスが、遮熱体のガラス微粒子堆積体側からガラス微粒子堆積体と反対側に輸送される。このため、遮熱体を通過する排ガスの量をより増加させることができる。従って、排ガスが遮熱体付近に滞留することがより抑制され、ガラス微粒子堆積体又はその焼結体中に排ガス中の不純物が混入することがより抑制される。
【0020】
上記光ファイバ母材の製造方法が、少なくとも前記脱水工程と前記焼結工程との間に前記炉心管内のガスを置換するガス置換工程をさらに含み、前記ガス置換工程において前記遮熱体を通過するガスの通過量を、前記脱水工程及び前記焼結工程において前記遮熱体を通過するガスの通過量よりも多くすることが好ましい。
【0021】
この場合、ガス置換工程において、脱水工程及び焼結工程よりも排ガスを遮熱体付近に滞留させることなく短時間で排気させることが可能となり、光ファイバ母材を効率よく製造できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高品質の光ファイバ母材を製造することができる光ファイバ母材の製造装置及び製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の光ファイバ母材の製造装置の一実施形態を示す概略図である。
図2図1の遮熱体を斜め上から見た図である。
図3図2の遮熱体を示す側面図である。
図4図2の遮熱体を示す底面図である。
図5図1の遮熱体の第1変形例を斜め上から見た図である。
図6図5の遮熱体を斜め下から見た図である。
図7図5の遮熱体を示す底面図である。
図8図1の遮熱体の第2変形例を斜め上から見た図である。
図9図8の遮熱体を示す側面図である。
図10図8の遮熱体を示す底面図である。
図11図1の遮熱体の第3変形例を示す底面図である。
図12図11のXII-XII線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の光ファイバ母材の製造方法の実施形態について詳細に説明する。
【0025】
まず、本発明の光ファイバ母材の製造装置の実施形態について図面を用いて説明する。図1は、本発明の光ファイバ母材の製造装置の一実施形態を示す概略図である。
【0026】
図1に示すように、光ファイバ母材の製造装置100は、ガラス微粒子堆積体Gを収容することが可能な炉心管1と、炉心管1内に脱水用ガス又は焼結用ガスを供給するガス給気部6と、炉心管1内のガスを排気するガス排気部7と、炉心管1の外側に設けられ、炉心管1内のガラス微粒子堆積体Gを加熱するヒータ4と、ガラス微粒子堆積体Gを支持する支持部材3と、支持部材3を回転させる回転機構2と、支持部材3に設けられ、ガラス微粒子堆積体Gからの熱を遮断する遮熱体8とを備えている。
【0027】
ガス給気部6は炉心管1の下部に設けられ、ガス排気部7は炉心管1の上部に設けられている。ガス排気部7は、排ガス処理装置(図示せず)に接続されている。また、ヒータ4は、ガス給気部6とガス排気部7との間に配置されている。
【0028】
図2は、図1の遮熱体を斜め上から見た図、図3は、図2の遮熱体を示す側面図、図4は、図2の遮熱体を示す底面図である。
【0029】
図2図4に示すように、遮熱体8は、遮熱体8を炉心管1の長手方向に見た場合に遮熱体8を貫通する隙間を有さず、且つ、ガスを通過させる立体的な隙間S1を有する。ここで、「遮熱体8を炉心管1の長手方向に見た場合に遮熱体8を貫通する隙間を有さず」とは、別言すれば、「遮熱体8を、炉心管1の長手方向に直交する平面に投影させたときの投影面において隙間(影とならない部分)を有さず」ということになる。
【0030】
具体的には、遮熱体8は、支持部材3が貫通する貫通孔8cを有し、支持部材3に固定される固定部8aと、固定部8aから放射状に延びる複数の羽根部材8bとを有する。ここで、複数の羽根部材8bは、炉心管1の長手方向に見た場合に遮熱体8を貫通する隙間が形成されないように配置されている。
【0031】
より具体的には、固定部8aのうちガラス微粒子堆積体Gと反対側の端部(上端)には、3つの羽根部材(上側羽根部材)8bが互いに離間して設けられている一方で、固定部8aのうちガラス微粒子堆積体G側の端部(下端)には、炉心管1の長手方向に見た場合に上記3つの上側羽根部材8bの間の空間を埋めるように3つの羽根部材(下側羽根部材)8bが設けられている。ここで、上側羽根部材8bと下側羽根部材8bとは互いに離間しており、それによりガスを流通する立体的な隙間S1を形成している(図3参照)。
【0032】
上述した光ファイバ母材の製造装置100によれば、ガラス微粒子堆積体Gの脱水又は焼結に際して、ガラス微粒子堆積体Gが支持部材3で支持されて炉心管1内に収容され、ヒータ4で加熱される。このとき、遮熱体8は、遮熱体8を炉心管1の長手方向に見た場合に遮熱体8を貫通する隙間を有していないため、ヒータ4からの輻射熱が、遮熱体8によって十分に遮熱され、遮熱体8を通過して拡散されることが抑制される。その結果、ガラス微粒子堆積体Gが効果的に加熱される。また、ガラス微粒子堆積体Gの脱水又は焼結に際しては、ガス給気部6を通して炉心管1内に脱水用ガス又は焼結用ガスがそれぞれ供給され、排ガスがガス排気部7を通して排気された状態でガラス微粒子堆積体Gが脱水又は焼結される。このとき、遮熱体8が、ガスを通過させる立体的な隙間S1を有するため、排ガスは、炉心管1と遮熱体8との間の隙間だけでなく、立体的な隙間S1を通して遮熱体8を通過することも可能となり、排ガスが遮熱体8付近に滞留することが抑制される。その結果、ガラス微粒子堆積体G又はその焼結体中に排ガス中の不純物が混入することが抑制される。以上のことから、光ファイバ母材の製造装置100によれば、高品質の光ファイバ母材を製造することができる。
【0033】
また、光ファイバ母材の製造装置100においては、遮熱体8が、支持部材3に固定される固定部8aと、固定部8aから放射状に延びる複数の羽根部材8bとを有している。このため、ガラス微粒子堆積体Gの脱水又は焼結に際して排ガスが遮熱体8を通過しやすくなる。このため、排ガスが遮熱体8に対してガラス微粒子堆積体G側の空間に滞留することがより抑制される。その結果、ガラス微粒子堆積体G及びその焼結体中に排ガス中の不純物が混入することがより抑制される。
【0034】
次に、上述した光ファイバ母材の製造装置100について詳細に説明する。
【0035】
(炉心管)
炉心管1は通常、石英で構成される。炉心管1は、筒状の本体部と、本体部の一端に設けられる底部と、本体部の他端に設けられる蓋部とで構成されており、蓋部は本体部から取り外し可能となっている。また、蓋部には、支持部材3を貫通させる開口が形成されている。
【0036】
(支持部材)
支持部材3は通常、石英で構成される。支持部材3は棒状であり、支持部材3の断面形状は通常は円形である。但し、支持部材3の断面形状は円形に限られるものではなく、四角形などの多角形でもよい。
【0037】
(回転機構)
回転機構2は、支持部材3を炉心管1の長手方向に沿った中心軸線回りに回転させることが可能なものであればよく、通常はモータと、モータの回転を支持部材3の回転に変換する機構とを有する。
【0038】
(ヒータ)
ヒータ4は、炉心管1の外側に設けられていればよい。ヒータ4は通常、炉心管1を包囲するように設けられる。ここで、ヒータ4は、炉心管1が円筒状である場合には、円筒状であることが好ましい。但し、ヒータ4は、複数の加熱部に分割されて構成され、これら複数の加熱部が炉心管1を包囲するように不連続に配置されるようにしてもよい。
【0039】
(遮熱体)
遮熱体8は、熱を遮断する部材であればよいが、耐熱性、耐久性及び耐酸性を有することから、不透明石英部材であることが好ましい。ここで、「不透明」とは、輻射熱の波長(赤外線及び可視光の波長)に対して不透明(透過率が50%以下)であることをいう。
【0040】
但し、遮熱体8は、不透明石英部材の代わりに、多孔質石英部材、表面が砂ずり加工された石英部材、カーボン、シリコンカーバイド(SiC)を用いることもできる。これらも、不透明石英部材と同様、耐熱性、耐久性及び耐酸性を有するため、長期間にわたって交換が不要となる。さらに、遮熱体が上記の材料で構成されることで、光ファイバ母材中に不純物が生じにくくなる。また、ヒータ4からの輻射熱が遮熱体8によって効果的に遮熱され、遮熱体8を通過して拡散されることが効果的に抑制される。その結果、ガラス微粒子堆積体Gがより効果的に加熱される。
【0041】
上側羽根部材8bはそれぞれ、炉心管1の長手方向に沿って見た場合に、下側羽根部材8bと部分的に重なり合っていても重なり合っていなくてもよいが、重なり合っていることが好ましい。この場合、ヒータ4からの輻射熱を遮断しやすくなり、ガラス微粒子堆積体Gをより効果的に加熱できる。
【0042】
遮熱体8の羽根部材8bの形状は、炉心管1が円筒状である場合には扇形状であることが好ましい。この場合、炉心管1の内壁面と羽根部材8bとの間の隙間を狭めることが可能となり、遮熱体8による遮熱性が向上し、ヒータ4の熱効率が向上する。このため、ガラス微粒子堆積体Gの焼結により、ガラス微粒子堆積体Gの上端を十分に透明化させることができる。
【0043】
次に、光ファイバ母材の製造装置100を用いた光ファイバ母材の製造方法について説明する。
【0044】
まず、光ファイバ母材の製造装置100を用い、ガラス微粒子堆積体Gを脱水させる(脱水工程)。具体的には、光ファイバ母材の製造装置100においてヒータ4を作動させるとともに、ガス給気部6から脱水用ガスを供給しながら、排ガスをガス排気部7から排出させた状態で、支持部材3の先端から吊り下げたガラス微粒子堆積体Gを炉心管1内に密閉した状態で収容し、ガラス微粒子堆積体Gを下降させてヒータ4の内側に配置し、ヒータ4で加熱して脱水させる。
【0045】
このとき、遮熱体8は、遮熱体8を炉心管1の長手方向に見た場合に遮熱体8を貫通する隙間を有しておらず、遮熱体8の貫通孔8cは、支持部材3が貫通することで塞がれている。このため、ヒータ4からの輻射熱が、遮熱体8によって十分に遮熱され、遮熱体8を通過して拡散されることが抑制される。その結果、ガラス微粒子堆積体Gが効果的に加熱され、ガラス微粒子堆積体Gの脱水が効果的に行われる。また、脱水工程においては、ガス給気部6を通して炉心管1内に脱水用ガスが供給されながら、排ガスがガス排気部7を通して排気された状態で、ガラス微粒子堆積体Gが脱水される。このとき、遮熱体8が、ガスを通過させる立体的な隙間S1を有するため、排ガスは、炉心管1と遮熱体8との間の隙間だけでなく、立体的な隙間S1を通して遮熱体8を通過することも可能となり、排ガスが遮熱体8付近に滞留することが抑制される。その結果、ガラス微粒子堆積体G中に排ガス中の不純物が混入することが抑制される。
【0046】
次に、炉心管1内に残留しているガスを焼結用ガスで置換するガス置換を行う(ガス置換工程)。
【0047】
次に、光ファイバ母材の製造装置100を用い、ガラス微粒子堆積体Gを焼結させ、光ファイバ母材を得る(焼結工程)。具体的には、光ファイバ母材の製造装置100においてガス給気部6から焼結用ガスを供給しながら、排ガスをガス排気部7から排出させた状態で、ガラス微粒子堆積体Gをヒータ4の内側に配置し、ヒータ4で加熱して焼結させる。
【0048】
このとき、遮熱体8は、遮熱体8を炉心管1の長手方向に見た場合に遮熱体8を貫通する隙間を有していないため、ヒータ4からの輻射熱が遮熱体8によって十分に遮熱され、遮熱体8を通過して拡散されることが抑制される。その結果、ガラス微粒子堆積体Gが効果的に加熱され、ガラス微粒子堆積体Gの焼結が効果的に行われるため、ガラス微粒子堆積体Gの透明化が十分に行われる。また、焼結工程においては、ガス給気部6を通して炉心管1内に焼結用ガスが供給されながら、排ガスがガス排気部7を通して排気された状態で、ガラス微粒子堆積体Gが焼結される。このとき、遮熱体8が、ガスを通過させる立体的な隙間S1を有するため、排ガスは、炉心管1と遮熱体8との間の隙間だけでなく、立体的な隙間S1を通して遮熱体8を通過することも可能となり、排ガスが遮熱体8付近に滞留することが抑制される。その結果、ガラス微粒子堆積体G中に排ガス中の不純物が混入することが抑制される。
【0049】
以上のようにして光ファイバ母材が製造されることで、高品質の光ファイバ母材を製造することができる。
【0050】
次に、上記脱水工程及び焼結工程について詳細に説明する。
【0051】
(脱水工程)
脱水工程は、ガラス微粒子堆積体Gを炉心菅1内で脱水させる工程である。
【0052】
ガラス微粒子堆積体Gは、VAD法や外付け法などのスート法によって得ることができる。スート法では以下のようにしてガラス微粒子堆積体Gが得られる。すなわち、例えば外付け法では、まず予め、支持部材3の下端部と接続可能な形状を持つダミーロッドと、ガラス微粒子を堆積させるガラスロッドとを溶着させておく。そして、バーナーを設置し、このバーナーに酸素ガス、水素ガス、不活性ガスを流して反応させた火炎中に、SiClなどのガラス原料ガスを供給し、回転するガラスロッドにガラス微粒子を堆積させる。こうしてガラス微粒子堆積体Gが得られる。
【0053】
脱水用ガスは、OH基を除去することが可能な脱水反応ガスと、不活性ガスとを含む。脱水反応ガスとしては、塩素系ガス及び一酸化炭素(CO)などが挙げられる。塩素系ガスとしては、例えば塩素、塩化チオニル(SOCl)、SiCl、四塩化炭素(CCl)などを用いることができる。不活性ガスとしては、例えばHe、Ar、Nなどを用いることができる。なお、脱水用ガスは、酸素などの脱水補助ガスをさらに含んでもよい。
【0054】
炉心管1内に導入される脱水用ガスの流量は例えば0.5slm~50slmである。
【0055】
ヒータ4の温度はガラス微粒子堆積体Gの焼結温度よりも低い温度で且つガラス微粒子堆積体GのOH基や付着した水分を脱水可能な温度であれば特に制限されるものではないが、ガラス微粒子堆積体Gへの脱水用ガスの拡散を促進する観点からは、1100℃以上であることが好ましい。但し、ヒータ4の温度はガラス微粒子堆積体Gへの脱水用ガスの拡散を促進するとともにガラス微粒子堆積体Gの軟化を十分に抑制する観点からは、1400℃以下であることが好ましい。
【0056】
支持部材3は、ヒータ4による加熱の不均一性を軽減する観点から、炉心管1の長手方向に沿った中心軸線回りに回転させることが好ましい。このとき、支持部材3の回転速度は例えば1rpm~50rpmであればよい。
【0057】
(焼結工程)
焼結工程は、ガラス微粒子堆積体Gを焼結させて光ファイバ母材を得る工程である。焼結工程においては、ガス給気部6から炉心管1内に焼結用ガスを供給しながら、炉心管1内のガスを、炉心菅1内の排ガスを、ガス排気部7を通して排気させる。
【0058】
焼結用ガスは不活性ガスを含む。不活性ガスとしては、例えばHe、Arなどを用いることができる。不活性ガスは脱水工程で使用される不活性ガスと同一でも異なるものでもよい。
【0059】
炉心管1内に導入される焼結用ガスの流量は、例えば0.5slm~50slmである。
【0060】
焼結工程においては、ヒータ4の温度をガラス微粒子堆積体Gの焼結温度以上とする。ここで、ガラス微粒子堆積体Gの焼結温度は、ガラス微粒子堆積体Gを透明ガラス化させることが可能なヒータ4の温度範囲の最低値である。但し、ヒータ4の温度は1650℃以下であることが好ましい。
【0061】
支持部材3は、ヒータ4による加熱の不均一性を軽減する観点から、炉心管1の長手方向に沿った中心軸線回りに回転させることが好ましい。このとき、支持部材3の回転速度は例えば1rpm~50rpmであればよい。
【0062】
なお、光ファイバ母材の製造方法は、焼結工程の前に、ガラス微粒子堆積体G中にドーパントを拡散させて添加する拡散添加工程をさらに含んでいてもよい。このとき、拡散添加工程においては、ガス給気部6を通して炉心管1内に添加ガスが供給されながら、排ガスがガス排気部7を通して排気された状態で、ガラス微粒子堆積体G中にドーパントが拡散されて添加される。この拡散添加工程においては、遮熱体8は、遮熱体8を炉心管1の長手方向に見た場合に遮熱体8を貫通する隙間を有しておらず、遮熱体8の貫通孔8cは、支持部材3が貫通することで塞がれている。このため、ヒータ4からの輻射熱が、遮熱体8によって十分に遮熱され、遮熱体8を通過して拡散されることが抑制される。その結果、ガラス微粒子堆積体Gが効果的に加熱され、ガラス微粒子堆積体G中へのドーパントの拡散及び添加が効果的に行われる。また、拡散添加工程においては、遮熱体8が、ガスを通過させる立体的な隙間S1を有するため、排ガスは、炉心管1と遮熱体8との間の隙間だけでなく、立体的な隙間S1を通して遮熱体8を通過することも可能となり、排ガスが遮熱体8付近に滞留することが抑制される。その結果、ガラス微粒子堆積体G中に排ガス中の不純物が混入することが抑制される。
【0063】
拡散添加工程においては、ヒータ4の温度は通常、1100~1400℃とすればよい。
【0064】
添加ガスとしては、塩素系ガス及びフッ素系ガスなどが挙げられる。塩素系ガスとしては、例えばCl、SiF及びSOClが挙げられる。フッ素系ガスとしては、CF及びSiFが挙げられる。
【0065】
拡散添加工程において、炉心管1内に導入されるガスの流量は、例えば0.5slm~50slmである。このとき、炉心管1内に導入されるガスは、添加ガス及び不活性ガスを含む。
【0066】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、遮熱体として遮熱体8が用いられているが、遮熱体8の代わりに、図5図7に示す遮熱体18を用いることもできる。図5は、図1の遮熱体の第1変形例を斜め上から見た図、図6は、図5の遮熱体を斜め下から見た図、図7は、図5の遮熱体を示す底面図である。
【0067】
遮熱体18は、固定部8aの上端に、少なくとも1つの開口部18dが形成されたリング状部材(上側リング状部材)18bを有し、固定部8aの下端には、少なくとも1つの開口部18dが形成されたリング状部材(下側リング状部材)18bを有している。遮熱体18においては、炉心管1の長手方向に沿って遮熱体18を見た場合に上側リング状部材18bの開口部18dと下側リング状部材18bの開口部18dとが互いに重なり合わないように形成されている(図7参照)。すなわち、遮熱体18は、遮熱体18を炉心管1の長手方向に見た場合に遮熱体18を貫通する隙間を有しないように構成されている。ここで、上側リング状部材18bと下側リング状部材18bとは、互いに離間して配置されており、ガスを通過させる立体的な隙間S2を形成している。なお、図5図7に示す遮熱体18においては、遮熱体が2つのリング状部材18bを有しているが、遮熱体は3つ以上のリング状部材18bを有していてもよい。この場合、リング状部材18b同士は互いに離間して配置されていてもよいし、離間せずに配置されていてもよい。ここで、3つ以上のリング状部材の開口部の位置が、炉心管1の長手方向に沿って上側から下側に少しずつずれ、3つの開口部が連続し、遮熱体を炉心管1の長手方向に見た場合に遮熱体を貫通する隙間を有しない場合には、3つ以上のリング状部材18b同士は互いに離間せずに配置されていてもよい。
【0068】
また、上記実施形態では、遮熱体として遮熱体8が用いられているが、遮熱体8の代わりに、図8図10に示す遮熱体28を用いることもできる。図8は、図1の遮熱体の第2変形例を斜め上から見た斜視図、図9は、図8の遮熱体を示す側面図、図10は、図8の遮熱体を示す底面図である。
【0069】
遮熱体28は、固定部8aと、固定部8aから放射状に延びる複数の羽根部材28bとを有している。複数の羽根部材28bは、固定部8aの延び方向に直交する面に対して傾斜するように固定部8aに設けられている。このため、遮熱体28のガラス微粒子堆積体G側のガスが、支持部材3の回転により、複数の羽根部材28bによって、遮熱体28のガラス微粒子堆積体G側からガラス微粒子堆積体Gと反対側に輸送される。このため、遮熱体28を通過するガスの通過量を増加させることが可能となる。従って、排ガスが遮熱体付近に滞留することがより抑制され、ガラス微粒子堆積体G又はその焼結体中に排ガス中の不純物が混入することがより抑制される。ここで、隣り合う羽根部材28b間には、ガスを流通する立体的な隙間S3が形成されている(図9参照)。
【0070】
この遮熱体28を用いると、脱水工程及び焼結工程において、ガス給気部6を通して脱水用ガス及び焼結用ガスを炉心管1内に供給しながら、遮熱体28を通過した排ガスを、ガス排気部7を通して排気する際に、支持部材3を回転させることにより、遮熱体28のガラス微粒子堆積体G側のガスが、複数の羽根部材28bによって、遮熱体28のガラス微粒子堆積体G側からガラス微粒子堆積体Gと反対側に輸送される。このため、遮熱体28を通過するガスの通過量を増加させることが可能となる。従って、排ガスが遮熱体28付近に滞留することがより抑制され、ガラス微粒子堆積体G又はその焼結体中に排ガス中の不純物が混入することがより抑制される。
【0071】
また、この遮熱体28を用いる場合、ガス置換工程において、支持部材3を回転させ、遮熱体28を通過するガスの通過量を、脱水工程及び焼結工程において遮熱体28を通過するガスの通過量よりも多くすることが好ましい。この場合、ガス置換工程において、脱水工程及び焼結工程よりも排ガスを遮熱体付近に滞留させることなく短時間で排気させることが可能となり、光ファイバ母材を効率よく製造することができる。
【0072】
ここで、ガス置換工程において遮熱体28を通過するガスの通過量を、脱水工程及び焼結工程におけるガスの通過量よりも多くするには、ガス置換工程における支持部材3の回転速度を、脱水工程及び焼結工程における支持部材3の回転速度よりも大きくすればよい。具体的には、ガス置換工程における支持部材3の回転速度を、脱水工程及び焼結工程における支持部材3の回転速度の2~20倍とすればよい。
【0073】
さらに、上記実施形態では、ガス置換工程が脱水工程と焼結工程との間のみで行われているが、焼結工程の後、脱水工程の前、又はその両方でさらにガス置換工程が行われてもよい。
【0074】
さらにまた、支持部材3の回転によってガスを遮熱体のガラス微粒子堆積体G側からガラス微粒子堆積体Gと反対側に輸送することが可能な遮熱体としては、上述した遮熱体28の代わりに、図11図12に示す遮熱体38を用いることもできる。図11は、図1の遮熱体の第3変形例を示す底面図、図12は、図11のXII-XII線に沿った断面図である。
【0075】
図11及び図12に示すように、遮熱体38は円板状部材で構成され、遮熱体38は、支持部材3が貫通する貫通孔8cと、貫通孔8cの周囲に形成される立体的な隙間としての少なくとも1つ(図11及び図12では4つ)の貫通孔38dとを有している。貫通孔38dのうち遮熱体38の底面側(ガラス微粒子堆積体G側)の開口(図11において実線で示される開口)は、炉心管1の長手方向に沿って遮熱体18をその底面側から見た場合に、貫通孔38dのうち遮熱体38の上面側の開口(図11において破線で示される開口)に対して、重ならないように且つ貫通孔8cを中心として時計回りの方向にずれて配置されている。このため、支持部材3の回転により、遮熱体38が貫通孔8cを中心として時計回りに回転すると、ガラス微粒子堆積体G側のガスが、貫通孔38dを通って、ガラス微粒子堆積体Gと反対側に輸送される。このため、遮熱体38を通過するガスの通過量を増加させることが可能となる。従って、排ガスが遮熱体38付近に滞留することがより抑制され、ガラス微粒子堆積体G又はその焼結体中に排ガス中の不純物が混入することがより抑制される。
【実施例
【0076】
以下、実施例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0077】
(実施例1)
まず以下のようにしてガラス微粒子堆積体Gを作製した。すなわち、まず予め、ダミーロッドと、ガラス微粒子を堆積させるガラスロッドの端部にダミーロッドを溶着させてなる溶着ロッドを用意した。そして、バーナーを設置し、このバーナーに酸素ガス、水素ガス、不活性ガスであるArを流して反応させた火炎中に、ガラス原料としてのSiClを供給し、回転する溶着ロッドにガラス微粒子からなるスート部を形成した。このとき、ガラスロッドは、GeがドープされたSiOで構成した。こうしてガラス微粒子堆積体Gを得た。得られたガラス微粒子堆積体Gは、スート部と、そのスート部の端部から延びるダミーロッドとで構成されていた。
【0078】
得られたガラス微粒子堆積体Gにおいては、スート部の全長が1200mm、直径は260mmであった。一方、光ファイバ母材の製造装置100において、炉心管1は石英で構成し、円筒状とした。炉心管1の内径は300mmとした。また、遮熱体としては、図2図4に示す遮熱体8を用いた。遮熱体8は、発泡石英ガラスからなる不透明石英部材で構成した。固定部8aは長さ40mm、貫通孔8cの内径は50mmとした。羽根部材8bは扇形の板状部材とし、厚さは15mmとした。また、羽根部材8bは、炉心管1の内壁面との間の隙間が10mmとなる大きさとした。上側羽根部材8bと下側羽根部材8bとの間の間隔は10mmとした。
【0079】
そして、用意したガラス微粒子堆積体Gを、直径50mm、長さ2000mmの石英からなる支持部材3の下端部に吊り下げた。そして、ガラス微粒子堆積体Gを炉心管1内に挿入し、下方へと下降させて、炉心管1内に収容した。
【0080】
次に、このガラス微粒子堆積体Gに対し、光ファイバ母材の製造装置100を用いて脱水工程、ガス置換工程及び焼結工程を順次行った。
【0081】
脱水工程においては、まず、支持部材3を2rpmの回転速度で回転させながら下降させて、ガラス微粒子堆積体Gを、1300℃に設定したヒータ4の内側に配置し、ヒータ4で加熱して脱水させた。このとき、塩素とHeとからなる脱水用ガスを炉心管1内にガス給気部6を通して、20slmの流量で供給しながら、炉心管1内のガスを、ガス排気部7を通して排ガス処理装置へ排気させた。こうしてガラス微粒子堆積体Gを脱水させた。
【0082】
10時間経過して脱水工程が完了した後、ガス置換工程を行った。ガス置換工程では、ガラス微粒子堆積体Gを移動させずにそのままとし、ヒータ4の温度は1300℃に設定した。そして、ガス給気部6を通して炉心管1内に焼結用ガスとしてのHeを供給する一方、ガス排気部7を通して炉心管1から排気させた。こうして、炉心管1内の脱水用ガスを焼結用ガスに置換させた。
【0083】
次に、焼結工程を行った。具体的には、支持部材3を2rpmの回転速度で回転させながら、ガラス微粒子堆積体Gを、1500℃まで昇温させたヒータ4の内側に配置し、ヒータ4で加熱して焼結させた。このとき、Heからなる焼結用ガスを、ガス給気部6を通して炉心管1内に20slmの流量で供給しながら、炉心管1内のガスを、ガス排気部7を通して排ガス処理装置へ排気させた。
【0084】
こうして、全長が1200mmの光ファイバ母材を20本作製した。
【0085】
(実施例2)
遮熱体として、図8図10に示す遮熱体28を用い、ガス置換工程において、支持部材3の回転速度を5倍にして10rpmに変更したこと以外は実施例1と同様にして光ファイバ母材を20本作製した。
【0086】
遮熱体28において、羽根部材18bは扇形状の板状部材とし、厚さは15mmとした。また、羽根部材18bは、炉心管1の内壁面との間の隙間が10mmとなる大きさとした。さらに、羽根部材8bは、固定部8aの延び方向に直交する面に対して8°傾斜させるようにした。
【0087】
(比較例1)
遮熱体として、6つの羽根部材8bを、外径280mm、内径50mm、厚さ15mmcmのリング状部材に変更した遮熱体を用いたこと以外は実施例1と同様にして光ファイバ母材を20本作製した。
【0088】
<評価>
(1)外観評価
実施例1~2及び比較例1のそれぞれにおいて得られた20本の光ファイバ母材について外観を評価した。そして、光ファイバ母材において、気泡又は異物が見られた場合には、外観が不良であると評価した。
(2)光ファイバ特性の評価
実施例1~2及び比較例1のそれぞれにおける20本の光ファイバ母材を線引して直径125μmの光ファイバを作製した。この光ファイバについて、OTDR(Optical Time Domain Reflectmeter)を用いて1383nmの波長における伝送損失を測定した。そして、伝送損失が0.32dB/km以上である場合には、光ファイバ特性が不良であると評価した。
【0089】
そして、不純物による外観不良が見られるか又は光ファイバ特性が不良であった光ファイバ母材(不良光ファイバ母材)の発生本数を算出した。結果を表1に示す。
【表1】
【0090】
表1に示すように、比較例1では、不良光ファイバ母材の発生本数は4本(不良光ファイバ母材の発生率20%)であった。
【0091】
これに対し、実施例1では不良光ファイバ母材の発生本数は1本(不良光ファイバ母材の発生率5%)であり、実施例2では、不良光ファイバ母材の発生本数は0本(不良光ファイバ母材の発生率0%)であった。なお、実施例2では、実施例2において、ガス置換工程における支持部材3の回転速度を変更しなかった場合に比べて合計のプロセス時間を5%短縮させることができた。
【0092】
以上より、本発明の光ファイバ母材の製造装置及び製造方法によれば、高品質の光ファイバ母材を製造できることが確認された。
【符号の説明】
【0093】
1…炉心管
3…支持部材
4…ヒータ
6…ガス給気部
7…ガス排気部
8,18,28,38…遮熱体
8a…固定部
8b、28b…羽根部材
8c…貫通孔
18b…リング状部材
18d…開口部
38d…貫通孔
G…ガラス微粒子堆積体
S1,S2,S3…立体的な隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12