(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】車体用構造体
(51)【国際特許分類】
B23K 11/11 20060101AFI20240104BHJP
B23K 11/00 20060101ALI20240104BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240104BHJP
C22C 38/14 20060101ALI20240104BHJP
【FI】
B23K11/11 540
B23K11/00 570
C22C38/00 302A
C22C38/00 301U
C22C38/14
(21)【出願番号】P 2020096805
(22)【出願日】2020-06-03
【審査請求日】2022-11-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 書面1:一般社団法人溶接学会2020年度春季全国大会中止に伴う一般講演についての方針の説明書 書面2:「一般社団法人溶接学会2020年度春季全国大会講演概要集」販売の案内状 書面3:「一般社団法人溶接学会2020年度春季全国大会講演概要集」における「ウェルドボンドの接合強度に及ぼす接着面積の影響に関する研究」の掲載頁のコピー
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的新構造材料等研究開発」の「革新鋼板開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100206140
【氏名又は名称】大釜 典子
(72)【発明者】
【氏名】藤田 貢輔
(72)【発明者】
【氏名】村上 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】高橋 佑輔
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/125446(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/159770(WO,A1)
【文献】特開2019-038364(JP,A)
【文献】特開平07-164172(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/11
B23K 11/00
C22C 38/00
C22C 38/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スポット溶接部
および接着剤部
からなる接合部により互いに接合された2枚の鋼板を有
し、前記接合部の長手方向にせん断力が作用する車体用構造体であって、
前記2枚の鋼板の接合面において、前記接着剤部は、前記スポット溶接部の周囲を取り囲むようにして前記スポット溶接部と隣接しており、
前記2枚の鋼板の引張強度が980MPa超であり、
下記式(1)の関係を満たす車体用構造体。
Y×A×T
2≧70[GPa
3] ・・・(1)
Yは、前記
接合部のヤング率[GPa]であり、Aは、下記式(2)で表される前記接合部のアスペクト比であり、Tは、前記2枚の鋼板の引張強度[GPa]の平均値である。
A=L/W ・・・(2)
Lは、前記2枚の鋼板の接合面における、前記接合部の長手方向の長さ[mm]であり、Wは、前記2枚の鋼板の接合面における、前記接合部の短手方向の長さ[mm]である。
【請求項2】
前記2枚の鋼板の引張強度が1470MPa以上である、請求項1に記載の車体用構造体。
【請求項3】
前記2枚の鋼板のうち少なくとも1枚の鋼板の化学組成が、
C :0.1~0.5質量%、
Si:1.0~5.0質量%、
Mn:0.5~10.0質量%、
Ti:0質量%超1.0質量%以下、および
残部:鉄および不可避不純物
からなる、請求項1または2に記載の車体用構造体。
【請求項4】
前記接着剤部の厚さが50~500μmである請求項1~3のいずれか一項に記載の車体用構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は車体用構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
車体用構造体の接合部は、主にスポット溶接で接合されている。近年、安全性の観点から、車体用構造体の接合部の強度を向上させて、接合部の剥離を抑制する試みがなされている。
【0003】
特許文献1は、スポット溶接と接着剤を併用して接合され、耐衝突特性に優れた車体用構造体を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の車体用構造体では、接合部のせん断強度を向上させるために接着剤を併用しているものの、その効果を十分に発揮させることができていないことがわかった。
【0006】
本発明はこのような状況を鑑みてなされたものであり、その目的の1つは、スポット溶接および接着剤で接合された2枚の鋼板を含み、且つスポット溶接のみで接合された場合と比較して、せん断強度が十分に向上した車体用構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様1は、
スポット溶接部および接着剤部からなる接合部により互いに接合された2枚の鋼板を有する車体用構造体であって、
前記2枚の鋼板の接合面において、前記接着剤部は、前記スポット溶接部の周囲を取り囲むようにして前記スポット溶接部と隣接しており、
前記2枚の鋼板の引張強度が980MPa超であり、
下記式(1)の関係を満たす車体用構造体である。
Y×A×T2≧70[GPa3] ・・・(1)
Yは、前記接合部のヤング率[GPa]であり、Aは、下記式(2)で表される前記接合部のアスペクト比であり、Tは、前記2枚の鋼板の引張強度[GPa]の平均値である。
A=L/W ・・・(2)
Lは、前記2枚の鋼板の接合面における、前記接合部の長手方向の長さ[mm]であり、Wは、前記2枚の鋼板の接合面における、前記接合部の短手方向の長さ[mm]である。
【0008】
本発明の態様2は、
前記2枚の鋼板の引張強度が1470MPa以上である、態様1に記載の車体用構造体である。
【0009】
本発明の態様3は、
前記2枚の鋼板のうち少なくとも一方の化学組成が、
C :0.1~0.5質量%、
Si:1.0~5.0質量%、
Mn:0.5~10.0質量%、
Ti:0質量%超1.0質量%以下、および
残部:鉄および不可避不純物
からなる、態様1または2に記載の車体用構造体である。
【0010】
本発明の態様4は、
前記接着剤部の厚さが50~500μmである態様1~3のいずれか1つに記載の車体用構造体である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態によれば、スポット溶接および接着剤で接合された2枚の鋼板を含み、且つスポット溶接のみで接合された場合と比較して、せん断強度が十分に向上した車体用構造体を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る車体用構造体の一例の斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1の車体用構造体1の接合面2aにおける断面図である。
【
図3A】
図3Aは、実施例1における接着剤塗布後の鋼板の上面図である。
【
図3B】
図3Bは、実施例1におけるテフロン(登録商標)テープで覆った後の鋼板の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本願発明者らは、スポット溶接および接着剤で接合された2枚の鋼板を含み、且つスポット溶接のみで接合された場合と比較して、せん断強度が十分に向上した車体用構造体を実現するべく、様々な角度から検討した。
【0014】
従来では、接合部のせん断強度が、鋼板の強度および接合部の形状に強く依存することは知られておらず、十分に接着剤の効果を発揮させることができていなかったところ、本発明者らは、引張強度が980MPa超の2枚の鋼板をスポット溶接および接着剤により接合し、スポット溶接により接合された部分(以下「スポット溶接部」と称する)および接着剤により接合された部分(以下「接着剤部」と称する)からなる接合部のヤング率と、接合面における接合部の長手方向の長さと短手方向の長さとの比(以下単に「アスペクト比」と称することがある)と、2枚の鋼板の引張強度とを適切に制御することにより、スポット溶接のみで接合された場合と比較して、せん断強度が十分に向上した車体用構造体を見出した。
【0015】
以下に、本発明の実施形態が規定する各要件の詳細を示す。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係る車体用構造体の一例の斜視図である。
図1に示すように、車体用構造体1は、接合面2aで接合された2枚の鋼板2を含む。
【0017】
図2は、
図1の車体用構造体1の接合面2aにおける断面図である。
図2に示す実施形態では、接合面2aにおいて、接合部3が含まれ、接合部3はスポット溶接部3aと、スポット溶接部3aの周囲を取り囲むようにしてスポット溶接部3aと隣接した接着剤部3bとからなる。接合面2aにおいて、スポット溶接部3aの周囲を取り囲むように隣接して接着剤部3bを配置することで、接合部3のせん断強度を効果的に向上させることができる。例えば、接合面2aにおけるスポット溶接部3aの周囲において、接着剤部3bと隣接していない部分があると、接合部3のせん断強度を向上させることが難しくなる。
【0018】
2枚の鋼板2の引張強度は、それぞれ980MPa超である。これにより、車体用構造体1の接合部3にかかるせん断方向の負荷に対して、鋼板2の変形を抑制することができる。980MPa未満であると、鋼板2が変形してしまい、容易に接合部3の剥離を引き起こす恐れがある。好ましくは、2枚の鋼板2それぞれの引張強度が1100MPa以上であり、より好ましくは1180MPa以上であり、更に好ましくは1470MPa以上である。
【0019】
鋼板2の厚さは、1.0mm以上とすることが好ましい。これにより、車体用構造体1の接合部3にかかるせん断方向の負荷に対して、鋼板2の変形を効果的に抑制することが可能となる。一方、鋼板2の厚さは2.0mm以下とすることが好ましい。これにより鋼板2の溶接がしやすくなる。
【0020】
車体用構造体1は、下記式(1)の関係を満たす。
Y×A×T2≧70[GPa3] ・・・(1)
Yは、接合部3のヤング率[GPa]であり、Aは、下記式(2)で表される接合部3のアスペクト比であり、Tは、前記2枚の鋼板の引張強度[GPa]の平均値である。
A=L/W ・・・(2)
Lは、2枚の鋼板2の接合面2aにおける、接合部3の長手方向の長さ[mm]であり、Wは、2枚の鋼板2の接合面2aにおける、接合部3の短手方向の長さ[mm]である。なお、接合面2aにおいて接合部3が長方形ではない場合、接合部3の長手方向の長さは、接合部3においてある端部から別の端部まで引いた直線のうち、最も長い直線の長さを指し、短手方向の長さは、その最も長い直線とは垂直方向においてある端部から別の端部まで引いた直線のうち、最も長い直線の長さを指す。
【0021】
上記式(1)を満たすことで、接合面2aにおける接合部3の長手方向にかかるせん断力に対する接合部3のせん断強度を、接合面がスポット溶接のみで接合された場合と比較して、十分に向上させることができる。
【0022】
接合部3のヤング率Y[GPa]は、下記式(3)で計算により求めることができる。
Y=Y3a×S3a/S3+Y3b×S3b/S3 ・・・(3)
Y3aは、スポット溶接部3aのヤング率[GPa]であり、Y3bは、接着剤部3bのヤング率[GPa]であり、S3は接合部3の面積[mm2]であり、S3aはスポット溶接部3aの面積[mm2]であり、S3bは接着剤部3bの面積[mm2]である。
【0023】
ここで、Y3aとしては、鋼板2のヤング率を用いることができる。鋼板2のヤング率は、鋼板2の金属組織が主に(具体的には80体積%以上が)マルテンサイト、ベイナイト、フェライトのいずれか1種以上からなる場合は、フェライトのヤング率(208GPa)と同じとしてよい。Y3bとしては、接着剤部3bを構成する接着剤の硬化後のヤング率を用いることができる。
【0024】
接合面2aにおいて、スポット溶接部3aの形状は通常円形(略円形)であるが、他の形状であってもよい。接合面2aにおいて、接合部3の形状は長方形または楕円形であることが好ましく、さらに、接合部3の長方形の長手方向および短手方向の中心線(または楕円の長軸および短軸)は、スポット溶接部3aの円の中心を通ることが好ましい。以上のようにすることで、接合部3のせん断強度を効果的に向上させることができる。
【0025】
接着剤部3bの厚さ(すなわち、接着剤部3bの、接合面2aと垂直方向の長さ)は、50~500μmとすることが好ましい。この範囲にすることで、接合部3のせん断強度を効果的に向上させることができる。
【0026】
2枚の鋼板2のうち少なくとも一方の化学組成は、C:0.1~0.5質量%、Si:1.0~5.0質量%、Mn:0.5~10.0質量%、Ti:0質量%超1.0質量%以下を含むことが好ましく、さらに、残部が鉄および不可避不純物であることがより好ましい。さらに好ましくは、2枚の鋼板2の鋼板の化学組成が、C:0.1~0.5質量%、Si:1.0~5.0質量%、Mn:0.5~10.0質量%、Ti:0質量%超1.0質量%以下を含むことであり、さらにより好ましくは、残部が鉄および不可避不純物である。
以下、各元素について詳述する。
【0027】
(C:0.1~0.5質量%)
C含有量は、高い引張強度を得るために有効な成分である。十分な引張強度を得るために、C含有量は0.1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.3質量%超以である。一方で溶接性を確保するために、0.5質量%以下であることが好ましい。
【0028】
(Si:1.0~5.0質量%)
Siは、鋼板を高強度化する元素であり、フェライトを強化し、組織を均質化し、加工性を改善するのに有効な成分である。そのため、Si含有量を1.0質量%以上とすることが好ましい。一方で、鋼板の靭性および溶接性を確保するために、Si含有量を5.0質量%以下とすることが好ましい。
【0029】
(Mn:0.5~10.0質量%)
Mnは、鋼板の焼入れ性を向上させるため、および鋼板の強度を確保するために有効な元素である。そのため、Mn含有量を0.5質量%以上とすることが好ましい。一方で、鋼板の靭性および溶接性を確保するために、Mn含有量を10.0質量%以下とすることが好ましい。
【0030】
(Ti:0質量%超1.0質量%以下)
Tiは析出物となって結晶粒を微細化させ、鋼板の強度および靭性の向上に寄与する。そのため、Ti含有量を0質量%超とすることが好ましい。なお、Ti含有量が1.0質量%を超えると、鋼板の強度および靭性を向上させる効果が飽和し得るため、Ti含有量を1.0質量%以下とすることが好ましい。
【0031】
鋼板2の化学組成は上記を含むことが好ましく、本発明の1つの実施形態では、残部は鉄および不可避不純物であることがより好ましい。不可避不純物とは、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる元素であり、例えばP、S、N、OおよびH等である。本発明の別の実施形態では、他の特性を改善するために、例えばAl、Cu、Ni、Ca、Nb、B、Cr、Mo、V、Mg、Zr、SbおよびZn等の微量成分(例えば合計で3質量%以下)を含んでもよい。
【0032】
本発明の目的が達成される範囲内で、本発明の実施形態に係る車体用構造体1には他の部材が含まれていてもよい。
【0033】
本発明の実施形態に係る車体用構造体1は、公知の方法で用意した980MPa超の2枚の鋼板2を、スポット溶接および接着剤により互いに接合することにより製造される。接合方法としては、まず1枚の鋼板2の片面に接着剤を塗布する。このときの塗布部分が、後の接合部3となるため、上記式(1)を満たすように、塗布部分の面積を、例えばテフロン(登録商標)テープで覆うなどで調整しておく。また、接着剤部3の厚さを調整するために、接着剤塗布後にガラスビーズなどを塗布部分に散布させてもよい。その後、もう1枚の鋼板2を接着剤塗布面に重ね合わせて、スポット溶接部分が塗布部分の内側に収まるように、公知の条件でスポット溶接を行うことで、2枚の鋼板2を接合することができる。その後、適切な熱処理を施して接着剤を硬化させることで、車体用構造体1が得られる。
【0034】
本発明の実施形態によれば、スポット溶接および接着剤で接合された2枚の鋼板を含み、且つスポット溶接のみで接合された場合と比較して、接合面における接合部の長手方向にかかるせん断力に対する、単位面積当たりのせん断強度が十分に(具体的には、1.10倍以上に)向上した車体用構造体を提供することが可能である。好ましくは、スポット溶接のみで接合された場合と比較して、接合面における接合部の長手方向にかかるせん断力に対する、単位面積当たりのせん断強度を1.20倍以上に向上させることであり、より好ましくは、1.30倍以上に向上させることである。
【0035】
本発明の実施形態に係る車体用構造体の使用方法としては、接合面における接合部の長手方向を、車体用構造体の接合を剥離しようとするせん断力方向と平行にしておくことで、本発明の実施形態に係る車体用構造体の効果を十分に発揮させることができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明の実施形態をより具体的に説明する。本発明の実施形態は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前述および後述する趣旨に合致し得る範囲で、適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の実施形態の技術的範囲に包含される。
【実施例1】
【0037】
表1に示される化学組成の鋼を用いて、2枚の高強度鋼板(板厚1.4mm、幅40mm、長さ125mm)を用意し、そのうち1枚の鋼板の片面にエポキシ系接着剤(硬化後のヤング率1.5GPa)を塗布した。
図3Aは実施例1における接着剤塗布後の鋼板の上面図を示す。
図3Aに示すように、塗布後の塗布部分4(ドットパターンで示す)の面積を幅40mm、長さ40mmとした。
塗布部分の厚さ(すなわち、後の接着剤部の厚さ)を調整するために粒径300μmのガラスビーズを塗布面に散布した。
その後、塗布部分4について、幅方向の両端をテフロン(登録商標)テープで覆うことにより、塗布部分4の面積(すなわち、後の接合部の面積)を調整した。
図3Bは実施例1におけるテフロン(登録商標)テープで覆った後の鋼板の上面図を示す。
図3Bに示すように、テフロン(登録商標)テープ5で覆うことにより、塗布部分4を幅15mm、長さ40mmの長方形とした。
その後、もう1枚の鋼板を接着剤塗布面に重ね合わせて、上面から見たとき塗布部分4の中心に対して、電極加圧力9kN、電流値7kAおよび16サイクルという通電条件でスポット溶接を行った。
その後、170℃20分の熱処理により接着剤を硬化させて、実施例1の車体用構造体を得た。
図3Cに実施例1の接合面おける断面図を示す。
図3Cに示すように、接合部3は幅15mm×長さ40mmの長方形であり、スポット溶接部3aは直径6mmの円であった。なお、接着剤部3bの厚さは約300μmであった。
【0038】
【0039】
実施例1の車体用構造体で用いた鋼板の引張強度をJIS Z 2241に従って引張試験を行い、最大応力を引張強度(TS)とした。実施例1の車体用構造体で用いた鋼板の引張強度は1571MPaであり、降伏応力は1348MPaであった。
【0040】
実施例1の車体用構造体から表2に示すように製造条件を変更して比較例1~5および参考例1~2を作製した。なお、比較例1および3は、接着剤は塗布しておらず、スポット溶接のみで接合を行った。また比較例3~5および参考例2では、2枚の鋼板を軟鋼板(引張強度270MPa)とした。
【0041】
【0042】
実施例1、比較例1~5および参考例1~2の車体用構造体に対して、せん断試験を行った。せん断試験はJIS Z 3136に従い、試験速度は10mm/min、チャック間距離は100mmとし、破壊に至る最大荷重をせん断強度とした。また、そのせん断強度を接合部の面積で除したものを単位面積当たりのせん断強度とした。
せん断力方向は、鋼板の長さ方向(すなわち
図3Cに示される鋼板2の長手方向)とした。すなわち、せん断力方向は、実施例1および比較例5においては接合面における接合部の長手方向であり、参考例1および参考例2においては接合面における接合部の短手方向であった。比較例1~4においては、接合面における接合部は正方形のため長手方向および短手方向の区別はないが、以下の記載では便宜上、比較例1~4のせん断力方向は、接合面における接合部の長手方向であったものとして記載している。
【0043】
表3にせん断強度試験結果を示す。なお、表3に記載のヤング率は上記式(3)により算出した。その際、実施例1、比較例1~5および参考例1~2の高強度鋼板および軟鋼板の金属組織について、主にマルテンサイト、ベイナイトおよびフェライトのいずれか一種以上を含み、且つマルテンサイト、ベイナイトおよびフェライトの合計体積が80体積%以上であることを確認したため、スポット溶接部のヤング率を208GPaとした。また、接着剤部のヤング率を、使用した接着剤の硬化後のヤング率である1.5GPaとした。また、表3に記載の「単位面積当たりのせん断強度比」はスポット溶接部のみの場合(比較例1および3)の単位面積当たりのせん断強度に対するせん断強度比を記載した。ここで、高強度鋼板を用いた実施例1、比較例1~2および参考例1では、比較例1の単位面積当たりのせん断強度に対するせん断強度比を記載し、軟鋼板を用いた比較例3~5および参考例2では、比較例3の単位面積当たりのせん断強度に対するせん断強度比を記載した。「単位面積当たりのせん断強度比」の判定としては、1.10倍以上であるものは〇、1.10倍未満であるものは×とした。
【0044】
【0045】
表3の結果より、次のように考察できる。表3の実施例1は、いずれも本発明の実施形態で規定する全ての要件を満足する例であり、スポット溶接のみで接合された場合(すなわち比較例1)と比較して、接合面における接合部の長手方向にかかるせん断力に対する、単位面積あたりのせん断強度を十分に向上させることができた。
一方で、比較例1~5は、本発明の実施形態で規定する要件を満たしていない例であり、接合面における接合部の長手方向にかかるせん断力に対する、単位面積あたりのせん断強度を十分に向上させることができなかった。
【0046】
比較例1は、高強度鋼板を用いたときの、スポット溶接のみで接合された、比較対象となる例である。接着剤部を有していないため、単位面積あたりのせん断強度が低いものであった。
【0047】
比較例2は、接着剤部を有するが、上記式(1)を満たしていないため、スポット溶接のみで接合された場合(すなわち比較例1)と比較して、単位面積あたりのせん断強度を十分に向上させることができなかった。
【0048】
比較例3は、軟鋼板を用いたときの、スポット溶接のみで接合された、比較対象となる例である。接着剤部を有していないため、単位面積あたりのせん断強度が低いものであった。
【0049】
比較例4は、接着剤部を有するが、上記式(1)を満たしておらず、引張強度980MPa以下の鋼板を用いているため、単位面積あたりのせん断強度を十分に向上させることができなかった。
【0050】
比較例5は、接着剤部を有し、上記式(1)を満たしておらず、引張強度980MPa以下の鋼板を用いているため、単位面積あたりのせん断強度を十分に向上させることができなかった。
【0051】
参考例1は、本発明の実施形態で規定する要件を満たしている例ではあるが、接合面における接合部の短手方向にせん断力を付与した例である。この場合、単位面積あたりのせん断強度を十分に向上させる効果は得られなかった。なお、参考例1において、接合面における接合部の長手方向(すなわち鋼板の幅方向)にせん断力を付与していれば、実施例1と同様に単位面積あたりのせん断強度を十分に向上させる効果が得られると考えられる。
参考例2についても、接合面における接合部の短手方向にせん断力を付与した例である。この場合、単位面積あたりのせん断強度を十分に向上させる効果は得られなかった。ただし、接合面における接合部の長手方向(すなわち鋼板の幅方向)にせん断力を付与していたとしても、参考例2は、上記式(1)を満たしておらず、引張強度980MPa以下の鋼板を用いているため、比較例5と同様に単位面積あたりのせん断強度を十分に向上させる効果が得られないと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の実施形態に係る車体用構造体は、スポット溶接および接着剤で接合された2枚の鋼板を含み、且つスポット溶接のみで接合された場合と比較して、せん断強度が十分に向上しているため、例えば自動車の車体の部品に好適である。
【符号の説明】
【0053】
1 車体用構造体
2 鋼板
2a 接合面
3 接合部
3a スポット溶接部
3b 接着剤部
4 接着剤塗布部分
5 テフロン(登録商標)テープ