(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】血液浄化装置
(51)【国際特許分類】
A61M 1/36 20060101AFI20240104BHJP
A61M 1/16 20060101ALI20240104BHJP
【FI】
A61M1/36 123
A61M1/16 115
A61M1/16 117
A61M1/36 127
A61M1/36 129
A61M1/36 131
(21)【出願番号】P 2020118793
(22)【出願日】2020-07-09
【審査請求日】2023-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】千秋 輝
(72)【発明者】
【氏名】毛受 佑哉
(72)【発明者】
【氏名】辻 和也
(72)【発明者】
【氏名】秋田 邦彦
【審査官】細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-188219(JP,A)
【文献】特開2013-106976(JP,A)
【文献】特許第5914106(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/36
A61M 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液浄化器の血液浄化膜を介して液体が相互に流通可能である血液回路および透析液回路と、制御装置とを備えた血液浄化装置であって、
前記血液回路および前記透析液回路は、透析液が、前記透析液回路から、前記血液浄化器を迂回して前記透析液回路と前記血液回路とを連結する連結流路を介して前記血液回路に流入する第1の流路、および前記透析液が、前記透析液回路から前記血液浄化膜を介して前記血液回路に流入する第2の流路を含み、
前記制御装置は、
前記透析液を前記第1の流路および前記第2の流路の一方に流すことによって、前記血液回路内の血液を体内に戻すよう制御し、
前記透析液の流量が予め定められた流量に到達したか否かを判定し、
前記透析液の前記流量が前記予め定められた流量に到達したと判定したことに応答して、前記透析液を前記第1の流路および前記第2の流路の他方に流すことによって、前記血液回路内の血液を体内に戻すよう制御する、
ことを特徴とする血液浄化装置。
【請求項2】
前記透析液回路に前記透析液を供給する透析液供給部と、
前記透析液供給部から供給される前記透析液を貯留する透析液フィルタと、さらに備え、
前記制御装置は、前記透析液供給部が前記透析液回路に透析液を供給していない状態で、前記透析液フィルタ内に貯留した前記透析液を前記第1の流路および前記第2の流路の一方に流すことによって、前記透析液が前記血液回路内の血液を体内に戻すよう制御する、
ことを特徴とする請求項1に記載の血液浄化装置。
【請求項3】
前記第1の流路は、前記透析液が、前記透析液回路から、前記連結流路を介して脱血側回路および返血側回路に流入する流路をさらに含み、
前記第2の流路は、前記透析液が、前記透析液回路から前記返血側回路に流入する流路をさらに含む、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の血液浄化装置。
【請求項4】
前記第1の流路は、前記透析液が、前記透析液回路から、前記連結流路を介して返血側回路および脱血側回路に流入する流路をさらに含み、
前記第2の流路は、前記透析液が、前記透析液回路から前記脱血側回路に流入する流路をさらに含む、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の血液浄化装置。
【請求項5】
前記第1の流路は、前記透析液が、前記透析液回路から、前記連結流路を介して脱血側回路および返血側回路に流入する流路をさらに含み、
前記血液回路および前記透析液回路は、前記透析液が、前記透析液回路から、前記血液浄化器を迂回して、前記連結流路を介して前記返血側回路および前記脱血側回路に流入する第3の流路をさらに含み、
前記制御装置は、
前記透析液を前記第1の流路および前記第3の流路の一方に流すことによって、前記血液回路内の血液を体内に戻すよう制御し、
前記透析液の前記流量が予め定められた第2の流量に到達したか否かを判定し、
前記透析液の前記流量が前記予め定められた第2の流量に到達したと判定したことに応答して、前記透析液を前記第1の流路および前記第3の流路の他方に流すことによって、前記血液回路内の血液を体内に戻すよう制御する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の血液浄化装置。
【請求項6】
前記第2の流路は、前記透析液が、前記透析液回路から返血側回路に流入する流路をさらに含み、
前記血液回路および前記透析液回路は、前記透析液が、前記透析液回路から、前記血液浄化膜を介して脱血側回路に流入する第4の流路をさらに含み、
前記制御装置は、
前記透析液を前記第2の流路および前記第4の流路の一方に流すことによって、前記血液回路内の血液を体内に戻すよう制御し、
前記透析液の前記流量が予め定められた第3の流量に到達したか否かを判定し、
前記透析液の前記流量が前記予め定められた第3の流量に到達したと判定したことに応答して、前記透析液を前記第2の流路および前記第4の流路の他方に流すことによって、前記血液回路内の血液を体内に戻すよう制御する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の血液浄化装置。
【請求項7】
前記制御装置は、所定の治療モードによる血液浄化治療の後に、前記血液回路内の血液を体内に戻すために、前記治療モードに基づいて、前記透析液の流路として、前記第1の流路および前記第2の流路の一方を選択する、ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の血液浄化装置。
【請求項8】
前記制御装置は、
前記治療モードが血液濾過治療または血液透析濾過治療を示す場合、
前記透析液の流路として前記第2の流路を選択し、前記透析液を前記第2の流路に流すことによって、前記血液回路内の血液を体内に戻すよう制御し、
前記透析液の前記流量が前記予め定められた流量に到達したと判定したことに応答して、前記透析液を前記第1の流路に流すことによって、前記血液回路内の血液を体内に戻すよう制御する、
ことを特徴とする請求項7に記載の血液浄化装置。
【請求項9】
血液浄化器の血液浄化膜を介して液体が相互に流通可能である血液回路および透析液回路と、制御装置とを備えた血液浄化装置であって、
前記血液回路および前記透析液回路は、透析液が、前記透析液回路から、前記血液浄化器を迂回して前記透析液回路と前記血液回路とを連結する連結流路を介して前記血液回路に流入する第1の流路、および前記透析液が、前記透析液回路から前記血液浄化膜を介して前記血液回路に流入する第2の流路を含み、
前記制御装置は、
前記透析液を前記第1の流路および前記第2の流路の一方に流すことによって、前記血液回路内の血液を体内に戻すよう制御し、
前記血液の返流量が予め定められた返血量に到達したか否かを判定し、
前記血液の前記返血量が前記予め定められた返血量に到達したと判定したことに応答して、前記透析液を前記第1の流路および前記第2の流路の他方に流すことによって、前記血液回路内の血液を体内に戻すよう制御する、
ことを特徴とする血液浄化装置。
【請求項10】
血液浄化器の血液浄化膜を介して液体が相互に流通可能である血液回路および透析液回路と、制御装置とを備えた血液浄化装置
の制御方法であって、
前記血液回路および前記透析液回路は、透析液が、前記透析液回路から、前記血液浄化器を迂回して前記透析液回路と前記血液回路とを連結する連結流路を介して前記血液回路に流入する第1の流路、および前記透析液が、前記透析液回路から前記血液浄化膜を介して前記血液回路に流入する第2の流路を含み、
前記制御装置
が、
前記透析液を前記第1の流路および前記第2の流路の一方に流すことによって、前記血液回路内の血液を体内に戻すよう制御するステップと、
前記透析液の流量が予め定められた流量に到達したか否かを判定するステップと、
前記透析液の前記流量が前記予め定められた流量に到達したと判定したことに応答して、前記透析液を前記第1の流路および前記第2の流路の他方に流すことによって、前記血液回路内の血液を体内に戻すよう制御するステップと
を備えたことを特徴とする方法。
【請求項11】
血液浄化器の血液浄化膜を介して液体が相互に流通可能である血液回路および透析液回路と、制御装置とを備えた血液浄化装置
の制御方法であって、
前記血液回路および前記透析液回路は、透析液が、前記透析液回路から、前記血液浄化器を迂回して前記透析液回路と前記血液回路とを連結する連結流路を介して前記血液回路に流入する第1の流路、および前記透析液が、前記透析液回路から前記血液浄化膜を介して前記血液回路に流入する第2の流路を含み、
前記制御装置
が、
前記透析液を前記第1の流路および前記第2の流路の一方に流すことによって、前記血液回路内の血液を体内に戻すよう制御するステップと、
前記血液の返流量が予め定められた返血量に到達したか否かを判定するステップと、
前記血液の前記返血量が前記予め定められた返血量に到達したと判定したことに応答して、前記透析液を前記第1の流路および前記第2の流路の他方に流すことによって、前記血液回路内の血液を体内に戻すよう制御するステップと
を備えたことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、血液浄化装置に関し、特に、血液回路内の血液を体内に戻す血液浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人間の臓器の一部である腎臓が正常に機能しなくなると(腎不全)、体内の余分な水分を尿にし、体内の不要な老廃物を排出するなどの機能が働かなくなる。腎不全に対応するために、患者からの血液を体外循環させて、血液浄化器により血液中の老廃物および水分を漉す治療(血液透析治療。以下、透析治療と称する。)を行うための透析装置が使用される。
【0003】
透析装置は、患者から血液を抜き取り、血液回路を通じて血液浄化器(血液流路)に血液を導入すると共に、透析液の供給源から透析液回路を通じて血液浄化器(透析液流路)に透析液を導入し、血液浄化器を介して血液と透析液との間で老廃物や電解質等の成分を交換して血液を浄化し、浄化した血液を患者に戻す。透析治療により、血液が血液回路に導入された後、血液が血液回路に残存するため、残存した血液を患者の体内に戻す(返血)ことが一般に行われている。
【0004】
上述した返血方法として、血液浄化器を迂回して透析液回路と血液回路が連結する連結ライン(補液ライン)を介して、透析液(または、生理食塩液)を血液回路に導入し、透析液が血液回路内の血液を押し出すことによって、血液を体内に戻す方法が知られている。この方法を、第1の返血工程(補液方式)と称する。一方、血液浄化器の濾過膜を介して透析液回路から血液回路に透析液を導入し、透析液が血液回路内の血液を押し出すことによって、血液を体内に戻す方法も知られている。この方法を第2の返血工程(逆濾過方式)と称する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、逆濾過による補液を行いつつ、血液浄化器の濾過膜の透過性の状態に応じて、補液ラインを用いて補液を実施する技術を開示している。しかしながら、特許文献1に開示された補液動作は、逆濾過による補液を前提として補液ラインを用いた補液を補完的に併用するものである。このため、逆濾過による補液および補液ラインを用いた補液それぞれの利点を有効に発揮できない場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態に係る透析装置は、血液浄化器の血液浄化膜を介して液体が相互に流通可能である血液回路および透析液回路と、制御装置とを備えた血液浄化装置であって、前記血液回路および前記透析液回路は、透析液が、前記透析液回路から、前記血液浄化器を迂回して前記透析液回路と前記血液回路とを連結する連結流路を介して前記血液回路に流入する第1の流路、および前記透析液が、前記透析液回路から前記血液浄化膜を介して前記血液回路に流入する第2の流路を含み、前記制御装置は、前記透析液を前記第1の流路および前記第2の流路の一方に流すことによって、前記血液回路内の血液を体内に戻すよう制御し、前記透析液の流量が予め定められた流量に到達したか否かを判定し、前記透析液の前記流量が前記予め定められた流量に到達したと判定したことに応答して、前記透析液を前記第1の流路および前記第2の流路の他方に流すことによって、前記血液回路内の血液を体内に戻すよう制御する。
【0008】
別の実施形態に係る透析装置は、血液浄化器の血液浄化膜を介して液体が相互に流通可能である血液回路および透析液回路と、制御装置とを備えた血液浄化装置であって、前記血液回路および前記透析液回路は、透析液が、前記透析液回路から、前記血液浄化器を迂回して前記透析液回路と前記血液回路とを連結する連結流路を介して前記血液回路に流入する第1の流路、および前記透析液が、前記透析液回路から前記血液浄化膜を介して前記血液回路に流入する第2の流路を含み、前記制御装置は、前記透析液を前記第1の流路および前記第2の流路の一方に流すことによって、前記血液回路内の血液を体内に戻すよう制御し、前記血液の返流量が予め定められた返血量に到達したか否かを判定し、前記血液の前記返血量が前記予め定められた返血量に到達したと判定したことに応答して、前記透析液を前記第1の流路および前記第2の流路の他方に流すことによって、前記血液回路内の血液を体内に戻すよう制御する。
【発明の効果】
【0009】
実施形態に係る血液浄化装置によれば、第1の返血工程および第2の返血工程それぞれの利点を有効に発揮することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施形態に係る透析装置の全体構成図である。
【
図2】第1の返血工程(送液正方向)における透析液の流れを示す図である。
【
図3】第2の返血工程(送液正方向)における透析液の流れを示す図である。
【
図4】第1の実施形態に係る処理を示すフローチャートである。
【
図5】第2の返血工程(送液逆方向)における透析液の流れを示す図である。
【
図6】第2の実施形態に係る処理を示すフローチャートである。
【
図7】第3の実施形態に係る透析装置の全体構成図である。
【
図8】第1の返血工程(送液逆方向)における透析液の流れを示す図である。
【
図9】第3の実施形態に係る処理を示すフローチャートである。
【
図10】第4の実施形態に係る透析装置の全体構成図である。
【
図11】第2の返血工程(送液逆方向)における透析液の流れを示す図である。
【
図12】第1の返血工程(送液正方向)における透析液の流れを示す図である。
【
図13】第4の実施形態に係る処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して実施形態に係る透析装置(血液浄化装置)を説明する。実施形態に係る透析装置は、血液回路に残存した血液を体内に戻すために、第1の返血工程(補液方式)および第2の返血工程(逆濾過方式)を切り替えて行う。上述した返血を体内に戻す工程は、返血工程と称され、主に、透析治療の後に行われる。
【0012】
第1の返血工程では、透析液が透析液回路を流れ、透析液回路から血液回路を通る。この透析液の流れによって、透析液が血液浄化器内に設けられた血液流路(血液浄化膜の内側)を流れ、血液回路および血液浄化器に残存した血液を押し出し、血液を体内に戻す。一方、第2の返血工程では、透析液が透析液回路を流れ、透析液回路から血液浄化器を通る。この透析液の流れによって、透析液が血液浄化器内の透析液流路(血液浄化膜の外側)を通り、血液浄化膜の孔を通じて透析液が血液を押し出し、血液が体内に戻される。なお、第1の返血工程および第2の返血工程において、透析液が血液を押し出す過程で、両液体が一部混合される。
【0013】
透析治療中は、血液が血液浄化器の血液流路を流れる。この血液の流れによって、血液中のアルブミンなどの蛋白質により血液浄化膜の孔や血液流路の一部が閉塞していることがある。第1の返血工程では、透析液は、透析治療における血液と同様に、血液流路を流れる。よって、血液浄化器内の血液流路が閉塞している場合、第1の返血工程では、透析液が血液回路を流れにくくなり、結果として、十分な返血を行うことができない。一方で、第2の返血工程では、透析液が血液浄化器内の透析液流路を通るので、第1の返血工程と比較して、より十分な返血を行うことができる。
【0014】
第2の返血工程では、透析液は、透析液流路から血液浄化膜の内側に流れる。第2の返血工程では、第1の返血工程と比較して、透析液と血液との接触面積が大きいことにより、より多くの透析液が血液と混合することになる。よって、第2の返血工程では、より多くの透析液が体内に取り込まれることになり好ましくないこともある。このことは、第1の返血工程が、第2の返血工程と比較して、少ない量の透析液を使用して返血を行うことができることを意味する。実施形態に係る透析装置は、第1の返血工程および第2の返血工程における上述した欠点に対処する。
【0015】
<第1の実施形態>
図1は、第1の実施形態に係る透析装置100の構成を示すブロック図である。透析装置100は、主要構成要素として、血液浄化器1、血液回路2、透析液回路3、補液回路4、血液ポンプ5、透析液供給部6、一次空気導入部7、二次空気導入部8、複式ポンプ9、透析液フィルタ10a、透析液フィルタ10b、および制御装置11を含む。
図1に示す構成要素は、本実施形態を実装するための構成要素の例を示しているにすぎず、実際には、血液回路2を流れる血液の気泡を捕捉するためのチャンバなども配置される。
【0016】
血液浄化器1は、ダイアライザとも称され、患者の血液を浄化する。血液浄化器1は、血液回路2から血液を導入する血液導入口1a、および浄化された血液を導出する血液導出口1bを含む。血液浄化器1はまた、透析液回路3から透析液を導入する透析液導入口1c、および透析液(排液)を排出する透析液排出口1dを含む。血液浄化器1は、内部に血液浄化膜が設けられる。血液浄化膜は、側壁に孔を有する中空糸(中空糸膜)が束になって構成される。血液浄化膜(中空糸)の内側が血液流路であり、血液浄化膜(中空糸)の外側が透析液流路である。血液浄化器1を流れる血液は、血液流路を流れ、拡散、限外濾過、またはこれらの両方により、尿毒素物質などの不要な物質が血液浄化膜の孔を通ることによって除去される。血液浄化器1を流れる透析液は、透析液流路を通り、透析液が有する電解質など人体に必要な物質のみが孔を通ることによって血液に補われる。なお、中空糸の内側を透析液流路として用い、中空糸の外側を血液流路として用いることも可能である。
【0017】
血液回路2および透析液回路3は、血液浄化器1の血液浄化膜を介して液体(血液および透析液)を相互に流通させる。血液回路2は、患者から脱血した血液が血液浄化器1に導入されると共に、血液浄化器1から導出された血液(浄化された血液)が患者に返血される流路である(
図1の血液回路2における矢印が示す方向に血液が流れる)。血液回路2は、血液を通すことが可能なチューブが主体として構成される。血液回路2は、脱血側回路2aおよび返血側回路2bを含む。
【0018】
脱血側回路2aは、患者から脱血した血液が血液浄化器1に導入される流路である。脱血側回路2aの一端は、患者の血管に穿刺された脱血側穿刺針(図示せず)に取り付けられ、他端は、血液導入口1aに結合される。脱血側回路2aには、開閉弁(電磁弁)V1が配置される。開閉弁V1の開閉によって、脱血側回路2aの血流が制御される。返血側回路2bは、血液浄化器1から導出された血液が患者に返血される流路である。返血側回路2bの一端は、患者の血管に穿刺された返血側穿刺針(図示せず)に取り付けられ、他端は、血液導出口1bに結合される。返血側回路2bには、開閉弁(電磁弁)V2が配置される。開閉弁V2の開閉によって、返血側回路の血流が制御される。
【0019】
血液ポンプ5は、脱血側回路2aに配置され、脱血側回路2aから返血側回路2bに進行する方向(以下、送液正方向と称する)、または、返血側回路2bから脱血側回路2aに進行する方向(以下、送液逆方向と称する)に血液回路2の液体を送液する。また、血液ポンプ5は、固定子および回転子を有するしごき型ポンプから構成される。回転子が正回転することによって、固定子および回転子に挟持される脱血側回路2aをしごき、送液正方向の流れを生じさせる。また、回転子が逆回転することによって、脱血側回路2aをしごき、送液逆方向の流れを生じさせる。血液ポンプ5には、ロータリエンコーダ(図示せず)が設けられる。ロータリエンコーダは、回転子の回転数を検出する。
【0020】
透析液回路3は、透析液を血液浄化器1および/または血液回路2に供給すると共に、血液浄化器1からの透析液の排液を排出する流路である。透析液回路3は、透析液を通すことが可能なチューブが主体として構成される。透析液回路3は、透析液導入回路3aおよび透析液排出回路3bを含む。
【0021】
透析液導入回路3aは、透析液供給部6から透析液導入口1cまでの流路である。透析液導入回路3aによって、透析液が血液浄化器1を流れる。透析液導入回路3aには、開閉弁(電磁弁)V3、開閉弁(電磁弁)V4、および透析液ポートPが配置される。開閉弁V3および開閉弁V4の開閉によって、血液浄化器1への透析液の流れが制御される。透析液ポートPは、透析液を取り出す。
【0022】
透析液排出回路3bは、透析液排出口1dから透析液排出部(図示せず)までの流路である。透析液排出回路3bによって、血液浄化器1からの排液が透析液排出部に排出される。透析液排出回路3bには、開閉弁(電磁弁)V6が配置される。開閉弁V6の開閉によって、透析液排出部への排液の流れが制御される。
【0023】
補液回路4は、血液回路2と透析液回路3とを連結する連結流路である。具体的には、補液回路4は、透析液回路3から、血液浄化器1を迂回して血液回路2に透析液を供給する流路であり、透析液ポートPから脱血側回路2aまでの流路である。補液回路4は、第1の返血工程により血液回路内の血液を患者に返血するために用いられる。補液回路4には、開閉弁(電磁弁)V5が配置される。開閉弁V5の開閉によって、脱血側回路2aへの透析液の流れが制御される。
【0024】
透析液供給部6は、純水(RO水など)と原液とを混合して透析液を生成および貯留するためのチャンバを有し、透析液を透析液導入回路3aに導入する。なお、透析液供給部6は、透析装置100の外部に配置される不図示の純水製造装置(RO水製造装置)より純水の供給を受け、透析装置100に外付けで搭載される不図示の原液タンクより原液の供給を受ける(吸入する)。透析液供給部6は、通常時は透析液を生成し、透析液導入回路3aに導入するが、停電時などに新たに透析液を生成することが制限されることがある。この場合、透析液供給部6から透析液導入回路3aへの透析液の導入が停止し、代わりに、透析液フィルタ10aおよび/または透析液フィルタ10bに貯留した透析液を透析液導入回路3aに導入する。詳細は後述する。
【0025】
一次空気導入部7は、透析液回路3、具体的には、後述する(一次)透析液フィルタ10aに空気を導入する。一次空気導入部7によって、透析液フィルタ10aが開放されて大気圧になり、フィルタ内部に貯留した透析液を透析液ポートPに流す。一次空気導入部7は、開閉弁(電磁弁)7a、空気流路7b、および空気フィルタ7cを含む。開閉弁7aは、開放することによって、空気流路7bを通じて空気を透析液フィルタ10aに導入する。空気フィルタ7cは、空気中のごみを除去する。
【0026】
二次空気導入部8は、透析液回路3、具体的には、後述する(二次)透析液フィルタ10bに空気を導入する。二次空気導入部8によって、透析液フィルタ10bが開放されて陽圧になり、フィルタ内部に貯留した透析液を透析液ポートPに流す。二次空気導入部8は、移送ポンプ8a、空気流路8b、開閉弁(電磁弁)8c、開閉弁(電磁弁)8d、空気フィルタ8e、および空気フィルタ8fを含む。移送ポンプ8aは、内部に回転子を有し、回転子が回転することによって、空気流路8bを通じて空気を透析液フィルタ10bに導入する。移送ポンプ8aと透析液フィルタ10bとの間に配置された開閉弁8cおよび開閉弁8dの開閉によって、透析液フィルタ10bへの空気の流れが制御される。空気フィルタ8eおよび空気フィルタ8fは、空気中のごみを除去する。
【0027】
なお、上述した一次空気導入部7は、二次空気導入部8と同様に、移送ポンプ、空気流路、および開閉弁を含む構成であってもよい。
【0028】
複式ポンプ9は、透析液導入回路3aおよび透析液排出回路3bにわたって配置される。複式ポンプ9は、透析液導入回路3aの送液方向下流側に透析液を導入させる一方で、透析液排出回路3bの送液方向下流側に透析液の排液を排出させる。なお、複式ポンプ9の筐体内には、プランジャ(図示せず)が設けられる。プランジャを挟んで、透析液導入回路3a側の容積と、透析液排出回路3b側の容積に区画されており、プランジャの往復動によって、透析液の導入と排液の排出が連動している。
【0029】
透析液フィルタ10aおよび/または透析液フィルタ10bは、透析液に含まれるエンドトキシンなどの物質を捕捉することによって、透析液を清浄化する。また、透析液フィルタ10aおよび透析液フィルタ10bは、側壁に孔が形成される中空糸(中空糸膜)が束になって筐体内に収納されている。透析液フィルタ10aおよび/または透析液フィルタ10bは、中空糸膜の1次側(内側)から2次側(外側)に透析液が流動するように構成されている。透析液フィルタ10aおよび透析液フィルタ10bは、通水することで、水分子の表面張力によって空気を通過させない特性を有する。なお、透析液フィルタ10aおよび透析液フィルタ10bは、筐体内部において透析液を貯留可能である。また、透析液フィルタ10aおよび透析液フィルタ10bの2つのフィルタで構成せず、1つのフィルタで構成してもよい。また、中空糸膜の外側を1次側とし、中空糸膜の内側を2次側として構成してもよい。
【0030】
制御装置11は、上述した血液ポンプ5および開閉弁V1~V6など、透析装置100の全体を制御する処理装置である。制御装置11は、演算装置と記憶装置(RAMおよびROMなどの記憶装置)とを含む。演算装置は、CPUやマイクロコントローラなどのプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、またはFPGA(Field Programmable Gate Array)などで実装されてもよいが、その形式は限定されない。
【0031】
次に、
図2乃至
図4を参照して、第1の実施形態に係る処理を説明する。第1の実施形態では、透析治療の後の返血工程において、第1の返血工程を行った後に第2の返血工程を行うことによって、血液浄化器1および血液回路2内の血液を効率的に体内に戻す例を説明する。また、第1の実施形態では、透析液供給部6から新たな透析液を導入する代わりに、透析液フィルタ10aおよび透析液フィルタ10bに貯留した透析液を使用して返血を行う例を説明する。透析液フィルタ10aおよび透析液フィルタ10b内の透析液は、透析治療においてそれらのフィルタを流れ、貯留した透析液である。換言すれば、透析液フィルタ10aおよび透析液フィルタ10b内の透析液は、透析治療では使用されなかった清浄な透析液である。
【0032】
図2は、返血工程の最初に行われる第1の返血工程における透析液の流れを示す。以下の図において、開閉弁(V1~6、7a、8c、および8d)が開放している場合、図に示す開閉弁は、網掛けで表示され、開閉弁が閉鎖している場合、図に示す開閉弁は、白抜きで表示される。
【0033】
図2に示すように、第1の返血工程では、開閉弁7a、開閉弁V3、開閉弁V5、および開閉弁V2が開放する。また、血液ポンプ5が正回転する。開閉弁7aの開放により、透析液フィルタ10aに空気が導入され、透析液フィルタ10aが大気圧になる。これにより、透析液フィルタ10aに貯留した透析液が透析液導入回路3aを流れる。開閉弁V3、開閉弁V5、および開閉弁V2の開放、ならびに血液ポンプ5の正回転により、透析液は、透析液導入回路3a、補液回路4、脱血側回路2a、血液浄化器1(血液流路)、および返血側回路2bを通る。
図2では、この透析液の流れを、一点鎖線矢印で示している。この透析液の流れにより、血液浄化器1および血液回路2に残存した血液が押し出され、患者に返血される。なお、第1の返血工程において、透析液が血液を押し出す過程で、両液体が一部混合される。
【0034】
透析液フィルタ10aから所定の量の透析液が流れると、第1の返血工程から第2の返血工程に切り替わる。この切り替えは、制御装置11によって行われるが、その詳細は後述する。
図3は、第2の返血工程における透析液の流れを示す。
【0035】
図3に示すように、第1の返血工程から第2の返血工程に切り替わると、開閉弁7a、開閉弁V3、および開閉弁V5が閉鎖する。また、血液ポンプ5が回転を停止する。一方、移送ポンプ8aが回転する。また、開閉弁8c、開閉弁8d、および開閉弁V4が開放する。移送ポンプ8aの回転、ならびに開閉弁8cおよび開閉弁8dの開放により、透析液フィルタ10bに空気が導入され、透析液フィルタ10bが陽圧になる。これにより、透析液フィルタ10bに貯留した透析液が透析液導入回路3aを流れる。開閉弁V4の開放および移送ポンプ8aの回転により、透析液は、透析液導入回路3a、血液浄化器1(血液浄化膜)、および返血側回路2bを通る。なお、透析液は、血液浄化器1の内部においては、透析液流路、血液浄化膜、および血液流路の順に流れる。
図3では、この透析液の流れを、一点鎖線矢印で示している。この透析液の流れにより、透析液が血液浄化器1に残存した血液を押し出し、患者に返血される。なお、第2の返血工程において、透析液が血液を押し出す過程で、両液体が一部混合される。ここで、第2の返血工程における透析液と血液の混合量が、第1の返血工程における透析液と血液の混合量よりも多くなるため、透析液使用量の観点では、第1の返血工程の方が望ましい。
【0036】
上述したように、第1の返血工程では、第2の返血工程と比較して、より少ない量の透析液を使用して返血を行うことができる。一方で、第2の返血工程では、血液浄化器1(血液流路)が閉塞している場合、十分な返血を行うことができない(血液流路の閉塞により単位時間当たりの送液量が減少する)。第2の返血工程では、透析液が透析液流路に流入し、血液浄化器1に残存した血液を患者に戻す。第1の実施形態では、最初に第1の返血工程を行い、一定量の透析液を血液回路2に流すことによって、血液回路2および血液浄化器1に残存した血液を体内に戻す。その後、第2の返血工程を行い、血液浄化器1に残存した血液を体内に戻す。この処理によって、より少ない量の透析液を使用して血液回路2に残存した血液を患者に戻し、その後、閉塞した血液浄化器1(血液流路)に残存した血液を患者に戻すことができる。
【0037】
次に、
図4を参照して、第1の実施形態に係る処理を説明する。
図4に示す処理は、制御装置11の指示によって実行される。本実施形態では、第1の返血工程を行った後、第2の返血工程を行う。第1の返血工程を行うために必要な透析液の量、および第2の返血工程を行うために必要な透析液の量が所定の割合で予め定められているものとする。以下、第1の返血工程を行うために必要な透析液の量を「第1の透析液量」とし、第2の返血工程を行うために必要な透析液の量を「第2の透析液量」とする。第1の透析液量は、実験的に得られた値であり、例えば、透析液フィルタ10aの容積に基づき設定されてもよい。同様に、第2の透析液量は、実験的に得られた値であり、例えば、透析液フィルタ10bの容積に基づき設定されてもよい。
【0038】
また、例えば、血液浄化器1および血液回路2のプライミングボリュームに基づいて、第1の返血工程において体内に戻される返血量、および第2の返血工程において体内に戻される返血量が所定の割合で予め定められていてもよい。以下、第1の返血工程において体内に戻される返血量を「第1の返血量」とし、第2の返血工程において体内に戻される返血量を「第2の返血量」とする。プライミングボリュームは、血液浄化器1および血液回路2ごとに予め定められてもよい。また、プライミングボリュームは、透析治療時において、患者から脱血してから血液浄化器1および血液回路2を介して患者に返血されるまでの時間と、その時間内の血液ポンプ5の回転量(エンコーダにより検出)に基づいて測定されてもよい。代わりに、プライミングボリュームは、血液回路2に配置される血液判別器または血液濃度センサ(図示せず)による血液の検出をトリガーとして、脱血から返血までの時間を計測することによって測定されてもよい。なお、血液判別器は、血液回路2を流動する液体が血液であるか否かを判別する検出器であり、血液濃度センサは、血液回路2を流動する血液の濃度を測定するセンサである。
【0039】
まず、制御装置11は、一次空気導入部7に対し、透析液フィルタ10aに空気を導入するよう指示する(ステップS401)。この指示によって、一次空気導入部7の開閉弁7aが開放し、透析液フィルタ10aが大気圧になる。これにより、透析液フィルタ10aに貯留した透析液が透析液導入回路3aを流動可能となる(より詳細には、血液ポンプ5が回転することで透析液が流動する)。
【0040】
次に、制御装置11は、第1の返血工程を行うための開閉弁(開閉弁V3、開閉弁V5、および開閉弁V2)に対し、開放するよう指示する(ステップS402)。この指示によって、開閉弁V3、開閉弁V5、および開閉弁V2が開放する。
【0041】
次に、制御装置11は、血液ポンプ5に対し、正回転するよう指示する(ステップS403)。この指示によって、血液ポンプ5が正回転する。ステップS401乃至S403の処理によって、透析液が透析液導入回路3a、補液回路4、および血液浄化器1(血液流路)を通り、血液浄化器1(血液流路)および血液回路2に残存した血液を押し出し、血液を体内に戻す(第1の返血工程)。
【0042】
次に、制御装置11は、透析液回路3を流れる透析液の流量が第1の透析液量に到達したか否かを判定する(ステップS404)。ステップS404の処理は、透析液の流量が第1の透析液量に到達するまで繰り返される。
【0043】
なお、第1の透析液量が透析液フィルタ10aの容積を上回る場合、透析液フィルタ10bに貯留した透析液も第1の返血工程を行うために使用する必要がある。この場合、透析液フィルタ10aから透析液フィルタ10bに切り替えて、透析液フィルタ10bから透析液を流す必要がある。なお、本実施形態では、最初に透析液フィルタ10aから透析液を流す例を説明するが、最初に透析液フィルタ10bから透析液を流してもよい。この場合、透析液フィルタ10aに貯留した透析液も使用することがあり、透析液フィルタ10bから透析液フィルタ10aに切り替えて、透析液フィルタ10aから透析液を流す必要がある。
【0044】
透析液フィルタ10aから透析液フィルタ10bへの切り替えを行うために、制御装置11は、まず、透析液回路3を流れる透析液が所定の量(例えば、透析液フィルタの容積)に到達したことを判定する。その後、制御装置11は、開閉弁7aに対し、閉鎖するよう指示し、移送ポンプ8a、開閉弁8c、および開閉弁8dのそれぞれに対し、回転および開放するように指示する。
【0045】
一方、透析液フィルタ10bから透析液フィルタ10aへの切り替えを行うために、制御装置11は、まず、透析液回路3を流れる透析液が所定の量(例えば、透析液フィルタの容積)に到達したことを判定する。その後、制御装置11は、移送ポンプ8aに対し、回転を停止するよう指示し、開閉弁8cおよび開閉弁8dに対し、閉鎖するように指示し、開閉弁7aに対し、開放するよう指示する。
【0046】
透析液回路3を流れる透析液の流量が第1の透析液量に到達したか否かを判定する処理は、例えば、透析液フィルタ10bと透析液ポートPの間、または血液回路2内の圧力が陰圧になったことを検出することを含んでもよい。透析液フィルタ10aが通水後に空気を通さない特性から、一次空気導入部7から透析液フィルタ10aに空気を導入しても、第一の透析液量に到達すると血液ポンプ5を回転(吸引)しても透析液が流動せず、密閉回路内が陰圧になるからである。この場合、例えば、透析液フィルタ10bと透析液ポートPの間、または血液回路2に圧力計が設けられ、圧力計が空気の圧力を検出する。検出された圧力値は、制御装置11に送信される。
【0047】
また、透析液回路3を流れる透析液の流量が第1の透析液量に到達したか否かを判定する処理は、例えば、一次空気導入部7から導入される空気の温度、および透析液導入回路3aの流路(一次空気導入部7から透析液フィルタ10aまでの)の温度を測定し、導入される空気の温度を基準に、透析液導入回路3aの温度が所定の範囲内にあるか否かを判定することを含んでもよい。透析液フィルタ10aに所定の量の空気が導入されると、流路の温度が導入される空気の温度に近き、それに従って透析液回路3に所定の量の透析液が流れることになるからである。この場合、例えば、一次空気導入部7の入口に温度計が設けられ、温度計が一次空気導入部7に導入される空気の温度を検出する。また、透析液導入回路3aの一次空気導入部7と透析液フィルタ10aとの間の流路にも温度計が設けられ、温度計が流路の温度を検出する。検出された温度値はいずれも、制御装置11に送信される。
【0048】
さらに、透析液導入回路3aに流量計を設け、透析液回路3を流れる透析液の量を判定してもよい。この場合、流量計は、透析液フィルタ10aの出口または透析液フィルタ10bの出口に設けられる。流量計が透析液フィルタ10bの出口に設けられる場合、透析液フィルタ10aおよび透析液フィルタ10bから流れる透析液の流量を、1つの流量計で測定することができる。
【0049】
上述したことの代わりに、ステップS404では、制御装置11は、血液回路2を流れる血液の流量、つまり返血量が第1の返血量に到達したか否かを判定してもよい。返血量が第1の返血量に到達したか否かを判定する処理は、例えば、血液ポンプ5の回転量を測定し、回転量に基づいて血液回路2に流れた血液の量が所定の量に到達したか否かを判定することを含んでもよい。なお、血液ポンプ5の回転量を測定する場合、透析液回路3を流れた透析液の流量も測定することができる。
【0050】
また、返血量が第1の返血量に到達したか否かを判定する処理は、例えば、血液回路2内の血液濃度を測定し、血液濃度が所定の値を下回ったか否かを判定することを含んでもよい。血液回路2に残存した血液が返血されると、回路内の血液濃度が下がるからである。この場合、血液回路2に濃度計(または、色度計)が設けられ、濃度計が血液濃度を検出する。検出された濃度値は、制御装置11に送信される。
【0051】
図4の説明に戻ると、ステップS404において、透析液回路3を流れる透析液の流量が第1の透析液量に到達したと判定されると、第1の返血工程から第2の返血工程に切り替わる。ステップS405では、制御装置11は、一次空気導入部7に対し、透析液フィルタ10aへの空気の導入を停止するよう指示する。この指示によって、開閉弁7aが閉鎖する。次に、制御装置11は、第1の返血工程のための透析液の流れを停止するよう指示する(ステップS406)。この指示によって、血液ポンプ5が回転を停止し、開閉弁V3および開閉弁V5が閉鎖する。
【0052】
次に、制御装置11は、二次空気導入部8に対し、透析液フィルタ10bに空気を導入するよう指示する(ステップS407)。この指示によって、二次空気導入部8の移送ポンプ8aが回転し、開閉弁8cおよび開閉弁8dが開放し、透析液フィルタ10bが陽圧になる。次に、制御装置11は、第2の返血工程を行うための開閉弁(開閉弁V4)に対し、開放するよう指示する(ステップS408)。この指示によって、開閉弁V4が開放する。これにより、透析液フィルタ10bに貯留した透析液が透析液導入回路3aを流れる。
【0053】
ステップS405乃至S408の処理によって、透析液が透析液導入回路3aから血液浄化器1(血液浄化膜)に流入し、透析液が血液浄化器1(血液浄化膜)に残存した血液を返血側回路2b側に押し出し、血液を体内に戻す(第2の返血工程)。なお、血液浄化器1の内部において、透析液流路、血液浄化膜、および血液流路の順に透析液が流れる。ステップS408の後は、制御装置11は、透析液回路3を流れる透析液の流量が第2の透析液量に到達(または、血液回路2における返血量が第2の返血量に到達)したと判定すると(ステップS409)、移送ポンプ8aの回転を停止させるなどを指示し、透析装置100の動作を終了させる。ステップS409における透析液の流量または返血量の判定は、ステップS404で説明した判定方法と同様であるので説明を省略する。
【0054】
以上のように、第1の実施形態を説明した。第1の実施形態では、最初に第1の返血工程により、血液回路2および血液浄化器1(閉塞していない血液流路)に残存した血液を体内に戻し、その後、第2の返血工程により、血液浄化器1に残存した血液を体内に戻す。第1の実施形態によれば、第1の返血工程を行わず第2の返血工程のみで返血する場合と比較して、より少ない透析液を使用して血液回路2に残存した血液を回収できる。また、第2の返血工程を行わず第1の返血工程のみで返血する場合と比較して、閉塞した血液浄化器1に残存した血液を回収することができる。
【0055】
第1の実施形態では、透析液フィルタ10aおよび透析液フィルタ10bに貯留した透析液を使用して返血を行う例を説明した。例えば、透析装置100が設置された環境において停電が発生した場合、透析装置100は、内蔵されたバッテリ(図示せず)によって最低限の機能を継続する。しかし、外部装置(純水製造装置等)と連携して動作するシステム構成において、外部装置にバッテリが搭載されていない場合や、透析装置100の内蔵バッテリでも十分な電力がまかなえない場合には、新たな透析液の生成が制限されることがある(透析液供給部6が正常に透析液を生成できないことがある)。本実施形態では、透析治療中に停電になった場合、透析液供給部6からの透析液に代えて、一次空気導入部7および二次空気導入部8からの空気を透析液回路3に導入することによって、透析液フィルタ10aおよび透析液フィルタ10bに貯留した透析液を使用して返血することができる。
【0056】
また、第1の実施形態では、透析液フィルタ10aに貯留した透析液が第1の返血工程に使用され、透析液フィルタ10bに貯留した透析液が第2の返血工程に使用されるが、いずれのフィルタからいずれの量の透析液がそれぞれの返血に使用されてもよい。必要に応じて、上述した透析液フィルタ10aから透析液フィルタ10bへの切り替えが行われてもよい。
【0057】
<第2の実施形態>
次に、
図5および
図6を参照して、第2の実施形態を説明する。第1の実施形態では、第1の返血工程の後に行われる第2の返血工程では、透析液回路3から血液浄化器1を通る透析液が血液を押し出し、血液が患者の体内に戻される。つまり、脱血側回路2aから返血側回路2bへの方向(送液正方向)での第2の返血工程が行われる。第2の実施形態では、第1の実施形態で説明した処理に加え、送液正方向の第2の返血工程が行われた後、返血側回路2bから脱血側回路2aへの方向(送液逆方向)での第2の返血工程が行われる。
【0058】
図5は、送液正方向の第2の返血工程の後に行われる送液逆方向の第2の返血工程における透析液の流れを示す。
【0059】
図5に示すように、送液正方向の第2の返血工程から送液逆方向の第2の返血工程に切り替わると、開閉弁8c、開閉弁8d、および開閉弁V2が閉鎖する。また、移送ポンプ8aが回転を停止する。一方、開閉弁7a、開閉弁V3、および開閉弁V1が開放する。また、血液ポンプ5が逆回転する。開閉弁7aの開放により、透析液フィルタ10aに空気が導入され、透析液フィルタ10aが大気圧になる。これにより、透析液フィルタ10aに貯留した透析液が透析液導入回路3aを流れる。開閉弁V3および開閉弁V1の開放、ならびに血液ポンプ5の逆回転により、透析液は、透析液導入回路3a、血液浄化器1(血液浄化膜)、および脱血側回路2aを通る。なお、血液浄化器1の内部においては、透析液流路、血液浄化膜、および血液流路の順で透析液が流れる。
図5では、この透析液の流れを、一点鎖線矢印で示している。この透析液の流れにより、透析液回路3から血液浄化器1を通る透析液が血液を送液方向の下流側に押し出し、血液が患者の体内に戻される。
【0060】
第1の返血工程および送液正方向の第2の返血工程では、脱血側回路2a(詳しくは、補液回路4の接続位置から脱血側回路2aの先端までの領域)に透析液が流れない。よって、脱血側回路2aに残存した血液を体内に十分に戻すことができない。第2の実施形態では、送液正方向の第2の返血工程を行った後、送液逆方向の第2の返血工程を行うので、脱血側回路2aに残存した血液を体内に戻すことができる。
【0061】
次に、
図6を参照して、第2の実施形態に係る処理を説明する。本実施形態では、第1の返血工程および送液正方向の第2の返血工程を行った後、送液逆方向の第2の返血工程を行う。第1の返血工程を行うために必要な透析液の量(第1の透析液量)、送液正方向の第2の返血工程を行うために必要な透析液の量(第2の透析液量)、および送液逆方向の第2の返血工程を行うために必要な透析液の量が所定の割合で予め定められているものとする。以下、送液逆方向の第2の返血工程を行うために必要な透析液の量を「第3の透析液量」とする。
【0062】
また、例えば、血液浄化器1および血液回路2のプライミングボリュームに基づいて、第1の返血工程において体内に戻される返血量(第1の返血量)、送液正方向の第2の返血工程において体内に戻される返血量(第2の返血量)、および送液逆方向の第2の返血工程において体内に戻される返血量が所定の割合で予め定められていてもよい。以下、送液逆方向の第2の返血工程において体内に戻される返血量を「第3の返血量」とする。
【0063】
図6に示す処理は、
図4に示した処理に加え新たな処理が追加されるものである。よって、
図6に示すステップS601乃至S609の処理は、
図4に示したステップS401乃至S409の処理と同一であるので説明を省略する。ステップS609において、透析液回路3を流れる透析液の流量が第2の透析液量に到達したと判定されると、送液正方向の第2の返血工程から送液逆方向の第2の返血工程に切り替わる。
【0064】
第2の実施形態では、透析液フィルタ10aに貯留した透析液が第1の返血工程および送液正方向の第2の返血工程に使用され、透析液フィルタ10bに貯留した透析液が送液逆方向の第2の返血工程に使用されるが、第1の返血工程、送液正方向の第2の返血工程、および送液逆方向の返血工程の各工程で用いる透析液量の配分を透析液フィルタ10aおよび透析液フィルタ10bに貯留した透析液量から任意に設定してよい。必要に応じて、上述した透析液フィルタ10aから透析液フィルタ10bへの(または、透析液フィルタ10bから透析液フィルタ10aへの)切り替えが行われてもよい。
【0065】
ステップS610では、制御装置11は、二次空気導入部8に対し、透析液フィルタ10bへの空気の導入を停止するよう指示する。この指示によって、二次空気導入部8の移送ポンプ8aが回転を停止し、開閉弁8cおよび開閉弁8dが閉鎖する。次に、制御装置11は、送液正方向の第2の返血工程のための透析液の流れを停止するよう指示する(ステップS611)。この指示によって、開閉弁V2が閉鎖する。
【0066】
次に、制御装置11は、一次空気導入部7に対し、透析液フィルタ10aに空気を導入するよう指示する(ステップS612)。この指示によって、一次空気導入部7の開閉弁7aが開放し、透析液フィルタ10aが大気圧になる。
【0067】
次に、制御装置11は、送液逆方向の第2の返血工程を行うための開閉弁(開閉弁V3および開閉弁V1)に対し、開放するよう指示する(ステップS613)。この指示によって、開閉弁V3および開閉弁V1が開放する。次に、制御装置11は、血液ポンプ5に対し、逆回転するよう指示する(ステップS614)。この指示によって、血液ポンプ5が逆回転する。これにより、透析液フィルタ10aに貯留した透析液が透析液導入回路3aを流れる。
【0068】
ステップS609乃至S614の処理によって、透析液が透析液導入回路3aから血液浄化器1(血液浄化膜)を流れ、透析液が血液浄化器1(血液浄化膜)に残存した血液を送液方向下流側に押し出し、血液が患者の体内に戻される(送液逆方向の第2の返血工程)。なお、血液浄化器1の内部においては、透析液流路、血液浄化膜、および血液流路の順で透析液が流れる。ステップS614の後は、制御装置11は、透析液回路3を流れる透析液の流量が第3の透析液量に到達(または、血液回路2における返血量が第3の返血量に到達)したと判定すると(ステップS615)、血液ポンプ5の回転を停止させるなどを指示し、透析装置100の動作を終了させる。ステップS615における透析液の流量または返血量の判定は、第1の実施形態におけるステップS404で説明した判定方法と同様であるので説明を省略する。
【0069】
以上のように、第2の実施形態を説明した。第2の実施形態では、最初に第1の返血工程により、血液回路2に残存した血液を体内に戻し、送液正方向の第2の返血工程により、血液浄化器1および血液回路2に残存した血液を返血側回路2bの先端から患者の体内に戻し、送液逆方向の第2の返血工程により、血液浄化器1および血液回路2に残存した血液を脱血側回路2aから患者の体内に戻す。第2の実施形態によれば、脱血側回路2aに残存した血液をも十分に回収することができる。
【0070】
なお、第2の実施形態では、送液正方向の第2の返血工程が行われた後に送液逆方向の第2の返血工程が行われるが、その順序が逆であってもよい。つまり、第1の返血工程および送液逆方向の第2の返血工程が行われた後、送液正方向の第2の返血工程が行われてもよい。
【0071】
<第3の実施形態>
次に、
図7乃至
図9を参照して、第3の実施形態を説明する。第1の実施形態では、最初に行われる第1の返血工程では、透析液が透析液回路3から脱血側補液回路4aおよび脱血側回路2aを通り、血液が返血側回路2bから体内に戻される。つまり、脱血側回路2aから返血側回路2bへの方向(送液正方向)での第1の返血工程が行われる。第3の実施形態では、第1の実施形態で説明した処理に加え、送液正方向の第1の返血工程が行われた後、返血側回路2bから脱血側回路2aへの方向での第1の返血工程が行われる(送液逆方向の第1の返血工程)。また、送液逆方向の第1の返血工程が行われた後、第2の返血工程(送液正方向の第2の返血工程)が行われる。
【0072】
図7は、第3の実施形態に係る透析装置200の構成を示す全体構成図である。透析装置200では、第1の実施形態および第2の実施形態に係る透析装置100と比較して、補液回路4が異なる。透析装置100の補液回路4は、透析液ポートPから脱血側回路2aまでの流路であるが、透析装置200の補液回路4は、脱血側補液回路4aおよび返血側補液回路4bを含む。脱血側補液回路4aは、透析装置100の補液回路4に相当する。
【0073】
返血側補液回路4bは、送液逆方向の第1の返血工程により血液回路内の血液を患者に返血するための、透析液ポートPから返血側回路2bまでの流路である。返血側補液回路4bには、開閉弁(電磁弁)V7が配置される。開閉弁V7の開閉によって、返血側回路2bへの透析液の流れが制御される。
【0074】
図8は、送液正方向の第1の返血工程の後に行われる送液逆方向の第1の返血工程における透析液の流れを示す。
【0075】
図8に示すように、送液正方向の第1の返血工程から送液逆方向の第1の返血工程に切り替わると、開閉弁V5が閉鎖する。一方、血液ポンプ5が逆回転し、開閉弁V7が開放する。開閉弁V7の開放および血液ポンプ5の逆回転により、透析液は、透析液導入回路3a、返血側補液回路4b、返血側回路2b、血液浄化器1(血液流路)、および脱血側回路2aを通る。
図8では、この透析液の流れを、一点鎖線矢印で示している。この透析液の流れにより、血液浄化器1(血液流路)および血液回路2に残存した血液が押し出され、血液が動脈から体内に戻される。
【0076】
送液正方向の第1の返血工程では、脱血側回路2aに透析液が流れない。よって、脱血側回路2aに残存した血液を体内に十分に戻すことができない。第3の実施形態では、送液正方向の第1の返血工程を行った後、送液逆方向の第1の返血工程を行うので、脱血側回路2aに残存した血液を体内に戻すことができる。
【0077】
次に、
図9を参照して、第3の実施形態に係る処理を説明する。本実施形態では、送液正方向の第1の返血工程を行った後、送液逆方向の第1の返血工程、および送液正方向の第2の返血工程を行う。送液正方向の第1の返血工程を行うために必要な透析液の量(第1の透析液量)、第2の返血工程(送液正方向)を行うために必要な透析液の量(第2の透析液量)、および送液逆方向の第1の返血工程を行うために必要な透析液の量が所定の割合で予め定められているものとする。以下、送液逆方向の第1の返血工程を行うために必要な透析液の量を「第4の透析液量」とする。
【0078】
また、例えば、血液浄化器1および血液回路2のプライミングボリュームに基づいて、送液正方向の第1の返血工程において体内に戻される返血量(第1の返血量)、第2の返血工程(送液正方向)において体内に戻される返血量(第2の返血量)、および送液逆方向の第1の返血工程において体内に戻される返血量が所定の割合で予め定められていてもよい。以下、送液逆方向の第1の返血工程において体内に戻される返血量を「第4の返血量」とする。
【0079】
図9に示す処理は、
図4に示した処理に加え新たな処理が追加されるものである。よって、
図9に示すステップS901乃至S904の処理は、
図4に示したステップS401乃至S404の処理と同一であるので説明を省略する。また、ステップS909乃至S913は、
図4に示したステップS405乃至S409の処理と同一であるので説明を省略する。ステップS904において、透析液回路3を流れる透析液の流量が第1の透析液量に到達したと判定されると、送液正方向の第1の返血工程から送液逆方向の第1の返血工程に切り替わる。
【0080】
第3の実施形態では、透析液フィルタ10aに貯留した透析液が送液正方向の第1の返血工程および送液逆方向の第1の返血工程に使用され、透析液フィルタ10bに貯留した透析液が第2の返血工程に使用されるが、送液正方向の第1の返血工程、送液逆方向の第1の返血工程、および送液正方向の第2の返血工程の各工程で用いる透析液量の配分を透析液フィルタ10aおよび透析液フィルタ10bに貯留した透析液量から任意に設定してよい。必要に応じて、上述した透析液フィルタ10aから透析液フィルタ10bへの(または、透析液フィルタ10bから透析液フィルタ10aへの)切り替えが行われてもよい。
【0081】
ステップS905では、制御装置11は、送液正方向の第1の返血工程のための透析液の流れを停止するよう指示する。この指示によって、開閉弁V5が閉鎖する。
【0082】
次に、制御装置11は、送液逆方向の第1の返血工程を行うための開閉弁(開閉弁V1およびV7)に対し、開放するよう指示する(ステップS906)。この指示によって、開閉弁V1およびV7が開放する。次に、制御装置11は、血液ポンプ5に対し、逆回転するよう指示する(ステップS907)。この指示によって、血液ポンプ5が逆回転する。
【0083】
ステップS905乃至S907の処理によって、透析液が透析液導入回路3aから返血側補液回路4bおよび返血側回路2bを流れ、血液浄化器1および脱血側回路2aに残存した血液を押し出し、血液を動脈から体内に戻す(送液逆方向の第1の返血工程)。その後は、制御装置11は、透析液回路3を流れる透析液の流量が第4の透析液量に到達(または、血液回路2における返血量が第4の返血量に到達)したと判定すると(ステップS908)、送液逆方向の第1の返血工程から第2の返血工程に切り替わる。ステップS908における透析液の流量または返血量の判定は、第1の実施形態におけるステップS404で説明した判定方法と同様であるので説明を省略する。
【0084】
以上のように、第3の実施形態を説明した。第3の実施形態では、最初に送液正方向の第1の返血工程により、血液回路2に残存した血液を返血側回路2bの先端から患者の体内に戻し、その後、送液逆方向の第1の返血工程により、血液回路2に残存した血液を脱血側回路2aの先端から体内に戻す。第3の実施形態によれば、脱血側回路2aに残存した血液をも十分に回収することができる。
【0085】
なお、第3の実施形態では、送液正方向の第1の返血工程が行われた後に送液逆方向の第1の返血工程が行われるが、その順序が逆であってもよい。つまり、送液逆方向の第1の返血工程が行われた後、送液正方向の第1の返血工程、および第2の返血工程が行われてもよい。
【0086】
<第4の実施形態>
次に、
図10乃至
図13を参照して、第4の実施形態を説明する。第1の実施形態乃至第3の実施形態では、返血工程の前に行われる治療が血液透析治療のみを対象として例示している。第4の実施形態では、返血工程の前に行われる治療が、血液透析治療に加え、血液濾過治療および血液透析濾過治療なども対象とする。具体的には、第4の実施形態では、患者に対して行っている治療の種別(治療モード)に基づいて、その治療後に第1の返血工程および第2の返血工程のいずれかを選択することによって返血工程が行われる。なお、本実施形態では、血液透析治療、血液濾過治療、および血液透析濾過治療を、簡略化して、HD治療、HF治療、およびHDF治療とそれぞれ称する。
【0087】
HF治療は、HD治療とは異なり、上記説明した血液浄化器から、血液中の水分、老廃物、および電解質を濾過して濾液として除去する。除去した濾液の代わりに、透析液を補充液として透析液回路に導入し、血液回路を通じて体内に注入する。HF治療は、HD治療と比較して、体内の不要な物質を除去する性能に優れている。
【0088】
HDF治療は、HF治療で行われる血液濾過および補充液の注入と共に、HD治療で行われる透析液の導入を行う。HDF治療は、HD治療と比較して、分子量が大きな血液中の物質を除去する性能に優れ、HF治療と比較して、分子量が小さな血液中の物質を除去する性能に優れている。HDF治療およびHF治療は、補充液を血液浄化器の上流で注入する前希釈方式、および補充液を血液浄化器の下流で注入する後希釈方式が存在する。
【0089】
後希釈方式におけるHF治療およびHDF治療では、補充液を注入することによって血液を希釈するが、血液が血液浄化器を通った後に希釈を行うので、血液浄化器内の血液が濃縮状態になる。
図10乃至
図12に示す例では、濃縮状態にある血液を希釈するために、第2の返血工程(送液逆方向)が行われ、その後、第1の返血工程(送液正方向)が行われる。これらの工程は、例えば、HF治療またはHDF治療中に停電になった場合に行われる。
【0090】
図10は、第4の実施形態に係る透析装置300の構成を示す全体構成図である。透析装置300では、第3の実施形態に係る透析装置200と同様に、補液回路4が脱血側補液回路4aおよび返血側補液回路4bを含む。脱血側補液回路4aは、透析装置200の脱血側補液回路4aに相当する。返血側補液回路4bには、補液ポンプ12が配置される。補液ポンプ12は、返血側補液回路4bから返血側回路2bに進行する方向に液体を送液する。補液ポンプ12は、固定子および回転子を有するしごき型ポンプから構成され、回転子が正回転することによって、固定子および回転子に挟持される返血側補液回路4bをしごき、返血側回路2bへの流れを生じさせる。補液ポンプ12の駆動によって、返血側回路2bへの透析液の流れが制御される。
【0091】
図示しないが、後希釈方式におけるHF治療およびHDF治療では、透析液供給部6からの透析液は、透析液導入回路3aに導入され、透析液ポートPから返血側補液回路4bを通り、補充液として返血側回路2bに注入される。注入された補充液によって、血液浄化器1によって濾過された血液が希釈される。
【0092】
図11は、HF治療またはHDF治療の後に最初に行われる送液逆方向の第2の返血工程における透析液の流れを示す。
【0093】
図11に示すように、第2の返血工程では、開閉弁7a、開閉弁V3、開閉弁V4、および開閉弁V1が開放する。また、血液ポンプ5が逆回転する。開閉弁7aの開放により、透析液フィルタ10aに空気が導入され、透析液フィルタ10aが大気圧になる。これにより、透析液フィルタ10aに貯留した透析液が透析液導入回路3aを流れる。開閉弁V3、開閉弁V4、および開閉弁V1の開放、ならびに血液ポンプ5の逆回転により、透析液は、透析液導入回路3a、血液浄化器1(血液浄化膜)、および脱血側回路2aを通る。なお、血液浄化器1の内部においては、透析液流路、血液浄化膜、および血液流路の順で透析液が流れる。
図11では、この透析液の流れを、一点鎖線矢印で示している。この透析液の流れにより、透析液回路3から血液浄化器1を通る透析液が血液を送液方向の上流側に押し出し、血液が患者の体内に戻される。
【0094】
透析液フィルタ10aから所定の量の透析液が流れると、第2の返血工程から第1の返血工程に切り替わる。
図12は、第2の返血工程の後に行われる送液正方向の第1の返血工程における透析液の流れを示す。
【0095】
図12に示すように、第2の返血工程から送液正方向の第1の返血工程に切り替わると、開閉弁7a、開閉弁V3、開閉弁V4、および開閉弁V1が閉鎖する。一方、移送ポンプ8aが回転し、血液ポンプ5が正回転する。また、開閉弁8c、開閉弁8d、開閉弁V5、および開閉弁V2が開放する。移送ポンプ8aの回転、ならびに開閉弁8cおよび開閉弁8dの開放により、透析液フィルタ10bに空気が導入され、透析液フィルタ10bが陽圧になる。これにより、透析液フィルタ10bに貯留した透析液が透析液導入回路3aを流れる。開閉弁V5および開閉弁V2の開放、ならびに血液ポンプ5の正回転により、透析液は、透析液導入回路3a、脱血側補液回路4a、脱血側回路2a、血液浄化器1、および返血側回路2bを通る。
図12では、この透析液の流れを、一点鎖線矢印で示している。この透析液の流れにより、血液浄化器1(血液流路)および血液回路2に残存した血液が押し出され、血液が動脈から体内に戻される。
【0096】
上述したように、HF治療およびHDF治療(後希釈方式)では、血液浄化器1内の血液が濃縮状態になる。よって、HF治療およびHDF治療の後に、送液逆方向の第2の返血工程を最初に行うことによって、血液浄化器1の血液浄化膜に透析液が流れることになり、血液浄化器1内の血液を希釈し、血液が濃縮状態になることを解消することができる。また、送液逆方向の第2の返血工程により、透析液が血液ポンプ5を通ることになるので、血液ポンプの回転を制御することによって、希釈に使用される透析液の流量を制御しやすくなる。
【0097】
次に、
図13を参照して、第4の実施形態に係る処理を説明する。本実施形態では、患者に対して行っている治療の種別(治療モード)に基づいて、第1の返血工程および第2の返血工程のいずれか一方を行い、その後、第1の返血工程および第2の返血工程のもう一方を行う。なお、
図13に示す例では、患者に対して行っている治療を行っているときに透析装置300が設置された環境において停電が発生し、透析液フィルタ10aおよび透析液フィルタ10bに貯留した透析液を使用して返血工程を行う。最初に行われる返血工程に必要な透析液の量(第1の透析液量)およびその後に行われる返血工程に必要な透析液の量(第2の透析液量)が所定の割合で予め定められているものとする。
【0098】
制御装置は、図示しない記憶装置に、治療モードと、治療後に行われる返血工程とを示す値を対応付けたマッピングテーブルを記憶しているものとする。マッピングテーブルは、例えば、以下のような対応関係を示すデータを含む。
【0099】
【0100】
表1に示すマッピングテーブルは、予め記憶装置に記憶されてもよく、この場合、治療を開始するときに治療モードが手動で選択され、対応する値が記憶装置に記憶される。代わりに、治療を開始するときに、治療モードと返血工程とが手動で選択され、対応する値が記憶装置に記憶されてもよい。
【0101】
ステップS1301では、透析装置300が設置された環境において停電が発生したことに応答して、制御装置11は、そのときに患者に対して行っていた治療に対応する治療モードを判定する。本実施形態では、HF治療またはHDF治療が行われているものとする。
【0102】
次に、制御装置11は、表1に示すマッピングテーブルを参照し、ステップS1301において判定された治療モードに基づいて、第1の返血工程および第2の返血工程のいずれか一方を最初に行う返血工程(先工程)として選択する(ステップS1302)。本実施形態では、HF治療またはHDF治療に対応して、第2の返血工程(送液逆方向)が最初に行われるものとする。なお、第2の返血工程は、送液正方向での返血工程であってもよい。
【0103】
次に、制御装置11は、一次空気導入部7に対し、透析液フィルタ10aに空気を導入するよう指示する(ステップS1303)。この指示によって、一次空気導入部7の開閉弁7aが開放し、透析液フィルタ10aが大気圧になる。
【0104】
次に、制御装置11は、先工程を行うよう、開閉弁V3および血液ポンプ5などに指示する(ステップS1304)。本実施形態では、送液逆方向の第2の返血工程が最初に行われるので、制御装置11は、第2の返血工程を行うための開閉弁(開閉弁V3、開閉弁V4、および開閉弁V1)に対し、開放するよう指示する。この指示によって、開閉弁V3、開閉弁V4、および開閉弁V1が開放する。また、制御装置11は、血液ポンプ5に対し、逆回転するよう指示する。この指示によって、血液ポンプ5が逆回転する。これにより、透析液フィルタ10aに貯留した透析液が透析液導入回路3aを流れる。
【0105】
ステップS1303およびS1304の処理によって、透析液が透析液導入回路3aから血液浄化器1(血液浄化膜)に流入し、透析液が血液浄化器1(血液浄化膜)に残存した血液を脱血側回路2a側に押し出し、血液を体内に戻す(第2の返血工程)。
【0106】
次に、制御装置11は、透析液回路3を流れる透析液の流量が第1の透析液量に到達(または、血液回路2における返血量が第1の返血量に到達)したと判定する(ステップS1305)。ステップS1305における透析液の流量または返血量の判定は、第1の実施形態で説明した判定方法と同様であるので説明を省略する。透析液の流量が第1の透析液量に到達したと判定すると、制御装置11は、一次空気導入部7に対し、透析液フィルタ10aへの空気の導入を停止するよう指示する(ステップS1306)。この指示によって、開閉弁7aが閉鎖する。次に、制御装置11は、先工程のための透析液の流れを停止するよう指示する(ステップS1307)。この指示によって、血液ポンプ5が回転を停止し、開閉弁V3、開閉弁V4、および開閉弁V1が閉鎖する。
【0107】
次に、制御装置11は、表1に示すマッピングテーブルを参照し、ステップS1301において判定された治療モードに基づいて、第1の返血工程および第2の返血工程のもう一方を先工程の後に行う返血工程(後工程)として選択する(ステップS1308)。本実施形態では、HF治療またはHDF治療に対応して、第1の返血工程(送液正方向)が後工程として行われるものとする。なお、第1の返血工程は、送液逆方向での返血工程であってもよい。
【0108】
次に、制御装置11は、二次空気導入部8に対し、透析液フィルタ10bに空気を導入するよう指示する(ステップS1309)。この指示によって、二次空気導入部8の移送ポンプ8aが回転し、開閉弁8cおよび開閉弁8dが開放し、透析液フィルタ10bが陽圧になる。
【0109】
次に、制御装置11は、後工程を行うよう、開閉弁V5および血液ポンプ5などに指示する(ステップS1310)。本実施形態では、送液正方向の第1の返血工程が後工程として行われるので、制御装置11は、第1の返血工程を行うための開閉弁(開閉弁V5および開閉弁V2)に対し、開放するよう指示する。この指示によって、開閉弁V5および開閉弁V2が開放する。また、制御装置11は、血液ポンプ5に対し、正回転するよう指示する。この指示によって、血液ポンプ5が正回転する。これにより、透析液フィルタ10bに貯留した透析液が透析液導入回路3aを流れる。
【0110】
ステップS1309およびS1310の処理によって、透析液が透析液導入回路3aから脱血側補液回路4aおよび脱血側回路2aを流れ、血液浄化器1および返血側回路2bに残存した血液を押し出し、血液を静脈から体内に戻す(送液正方向の第1の返血工程)。ステップS1310の後は、制御装置11は、透析液回路3を流れる透析液の流量が第2の透析液量に到達(または、血液回路2における返血量が第2の返血量に到達)したと判定すると(ステップS1311)、移送ポンプ8aの回転を停止させるなどを指示し、透析装置300の動作を終了させる。ステップS1311における透析液の流量または返血量の判定は、第1の実施形態で説明した判定方法と同様であるので説明を省略する。
【0111】
以上のように、第4の実施形態を説明した。第4の実施形態では、患者に対して行っている治療に対応する治療モードに基づいて、第1の返血工程および第2の工程のいずれか一方を先工程として選択する。上述したように、HF治療およびHDF治療では、血液浄化器1内の血液が濃縮状態になる。よって、患者に対して行っている治療がHF治療またはHDF治療の場合、第2の返血工程を最初に行うことによって、血液浄化器1内の血液を希釈し、希釈した血液を体内に戻すことができる。
【0112】
また、上述したように、最初に第1の返血工程を行い、その後、第2の返血工程を行うことによって、より少ない透析液を使用して血液回路2に残存した血液を回収することができる。HD治療では、上述したような血液濃縮の問題が発生しない。よって、患者に対して行っている治療がHD治療の場合、第1の返血工程および第2の返血工程の順序で返血を行うことによって上記利点を得ることができる。
【0113】
なお、表1に示した返血工程は例示にすぎず、患者に対して行っている治療に対応する治療モードに基づいて、最適な順序で第1の返血工程および第2の返血工程が行われてもよい。また、第1の実施形態乃至第3の実施形態で説明したように、第1の返血工程および第2の返血工程の各々において、送液正方向または送液逆方向のいずれかの方式を使用した返血工程が治療モードと対応付けられてもよい。また、HDF治療は、前希釈方式および後希釈方式のそれぞれにおいて返血工程が対応付けられてもよい。
【0114】
<その他の実施形態>
上述した第1の実施形態乃至第4の実施形態に加え、例えば、以下の表に示すような順序で返血が行われてもよい。第4の実施形態では、表2に示す順序の返血工程と、治療モードとが対応付けられる。いずれの方式においても、それぞれの返血を行うために必要な透析液の量が所定の割合で予め定められる(または、それぞれの返血において体内に戻される返血量が所定の割合で予め定められる)。なお、表に示した返血方向の組み合わせは例示にすぎず、発明の概念から逸脱することなく、任意の順序で任意の返血方法の組み合わせが行われてもよいことに留意されたい。
【0115】
【0116】
上述した第1の実施形態乃至第4の実施形態では、透析液フィルタ10aおよび10bに貯留した透析液を透析液導入回路3aに導入しているが、このような形態に限定されず、透析液供給部6が生成した透析液を透析液導入回路3aに導入してもよい。この場合、制御装置11は、複式ポンプ9の駆動を制御することによって、透析液の流れを制御する。上述した透析液が第1の透析液量などに到達したかを判定する処理では、複式ポンプ9の駆動量(駆動源であるモータの回転量)に基づいて、透析液回路3を流れる透析液の流量が所定の量に到達したかを判定してもよい。
【0117】
さらに、上述した第1の実施形態乃至第4の実施形態は、主に返血工程において適用されるが、そのような例に限定されない。上述した処理は、血液から余分な水分を除去する除水工程により患者の血液が減少することによって生じる血圧低下を防止するための補液工程などにも適用されてもよい。補液工程では、血液回路に透析液を注入し、体内の血液を補う。
【0118】
上記説明した実施形態は例示にすぎず、本実施形態の範囲は、説明した例に限定されない。説明した処理および構成要素に加え、追加の処理および/または構成要素が追加されてもよい。また、発明の概念から逸脱することなく、説明した処理および/もしくは構成要素に変更が加えられてもよく、または特定の処理および/もしくは構成要素が省略されてもよい。さらに、説明した処理の順序は変更されてもよい。また、第1の返血工程と第2の返血工程とを排他的に切り替えず、一部の期間、第1の返血工程と第2の返血工程とを併存(オーバーラップ)させた状態で返血しても良い。
【0119】
また、実施形態に係る透析装置は、制御装置11によって実行されるコンピュータプログラムによって実装されるが、当該コンピュータプログラムは、非一時的記憶媒体に記憶されてもよい。非一時的記憶媒体の例は、リードオンリメモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、レジスタ、キャッシュメモリ、半導体メモリ装置、内蔵ハードディスクおよび取外可能ディスク装置などの磁気媒体、光磁気媒体、ならびにCD-ROMディスクおよびデジタル多用途ディスク(DVD)などの光学媒体などを含む。
【0120】
上記説明した実施形態は、少なくとも血液回路、透析液回路、および制御装置を含む、血液回路に残存した血液を体内に戻す血液浄化装置に適用される。
【符号の説明】
【0121】
1 血液浄化器
1a 血液導入口
1b 血液導出口
1c 透析液導入口
1d 透析液排出口
2 血液回路
2a 脱血側回路
2b 返血側回路
3 透析液回路
3a 透析液導入回路
3b 透析液排出回路
4 補液回路
4a 脱血側補液回路
4b 返血側補液回路
5 血液ポンプ
6 透析液供給部
7 一次空気導入部
7a 開閉弁
7b 空気流路
8 二次空気導入部
8a 移送ポンプ
8b 空気流路
8c 開閉弁
8d 開閉弁
8e 空気フィルタ
8f 空気フィルタ
9 複式ポンプ
10a 透析液フィルタ
10b 透析液フィルタ
11 制御装置
12 補液ポンプ
P 透析液ポート
V1~V7 開閉弁