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特許7412336疑似皮膚フィルム、その製造方法及び使用方法、並びに該疑似皮膚フィルムを有する化粧キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】疑似皮膚フィルム、その製造方法及び使用方法、並びに該疑似皮膚フィルムを有する化粧キット
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/81 20060101AFI20240104BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20240104BHJP
   A61K 8/87 20060101ALI20240104BHJP
   A61K 8/89 20060101ALI20240104BHJP
   A61Q 1/00 20060101ALI20240104BHJP
   A61Q 1/04 20060101ALI20240104BHJP
   A61Q 3/00 20060101ALI20240104BHJP
【FI】
A61K8/81
A61K8/02
A61K8/87
A61K8/89
A61Q1/00
A61Q1/04
A61Q3/00
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020534057
(86)(22)【出願日】2019-04-08
(86)【国際出願番号】 JP2019015359
(87)【国際公開番号】W WO2020026529
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2018143664
(32)【優先日】2018-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】冨田 希子
(72)【発明者】
【氏名】尾花 敬和
【審査官】阪▲崎▼ 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-168626(JP,A)
【文献】特開2015-131004(JP,A)
【文献】特開2015-110294(JP,A)
【文献】特開2015-066408(JP,A)
【文献】特開2011-173851(JP,A)
【文献】特開2006-230930(JP,A)
【文献】特開2018-115314(JP,A)
【文献】特開2015-074687(JP,A)
【文献】国際公開第2016/179610(WO,A1)
【文献】特開平10-023923(JP,A)
【文献】特開2011-136971(JP,A)
【文献】特開2016-164140(JP,A)
【文献】特開2016-056173(JP,A)
【文献】特開2017-164930(JP,A)
【文献】特開2014-234353(JP,A)
【文献】特開2007-284370(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
A61F13/00-13/15
A61F15/00-15/64
A45D31/00、44/22
C09J 7/00-7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS K6253に準拠したデュロメータータイプA硬度計によるゴム硬度が、20以下であり、
膜厚が、600μm以下であり、
貫通孔が、1000~500000個/cmの割合で配置されており、かつ、
前記貫通孔の面積が、150~283000μm/個であり、
粘着剤層を備えない非粘着性のフィルムであ
前記フィルムを構成する材料が、ウレタンゴム、オレフィンゴム、シリコーンゴム、アクリルゴム、天然ゴム、及びα-ゲルからなる群から選択される少なくとも一種である、
透明な疑似皮膚フィルム。
【請求項2】
前記膜厚が、50~200μmである、請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
体表への貼り付け用である、請求項1又は2に記載のフィルム。
【請求項4】
前記体表が、顔表面上の皮膚、耳表面上の皮膚、又は爪である、請求項に記載のフィルム。
【請求項5】
剥離シートをさらに備えている、請求項1~のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載のフィルムを有している、化粧キット。
【請求項7】
密着剤をさらに有している、請求項に記載の化粧キット。
【請求項8】
前記密着剤が、ポリブテン及びポリイソブテンから選ばれる少なくとも一種である、請求項に記載の化粧キット。
【請求項9】
前記密着剤が、保湿成分をさらに含む、請求項又はに記載の化粧キット。
【請求項10】
射出成型法、カレンダー成型法、又はコンプレッション成形法によってフィルムを形成し、そして
前記フィルムにレーザーを照射して貫通孔を形成する、
請求項1~のいずれか一項に記載の疑似皮膚フィルムの製造方法。
【請求項11】
請求項1~のいずれか一項に記載の疑似皮膚フィルムを体表に貼り付ける、疑似皮膚フィルムの使用方法。
【請求項12】
体表に密着剤を適用した後に、前記疑似皮膚フィルムを体表に貼り付ける、請求項11に記載の使用方法。
【請求項13】
前記体表に貼り付けた後に、前記疑似皮膚フィルムにグロス、口紅、マニキュア又はリキッドファンデーションを適用する、請求項11又は12に記載の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疑似皮膚フィルム、その製造方法及び使用方法、並びに該疑似皮膚フィルムを有する化粧キットに関する。
【背景技術】
【0002】
年をとるにつれて皮膚老化の1つの現象として皺が増加するが、美容等の観点から、特に、女性において皺の防止及び改善に対する関心が非常に高まっている。とりわけ、加齢を含めた肌の悩みの中で形状変化が顕著に表れる部位として唇が挙げられる。唇に関する悩みには、唇の荒れ又はくすみなどとともに、加齢に伴う唇の皺の多さ又はふっくら感の低下なども挙げられる。
【0003】
特許文献1及び2には、支持体層、粘着剤層及びセパレータ層をこの順に積層して備える、口唇用貼付材が開示されている。
【0004】
特許文献3には、皮膚に貼る基材であって、ポリウレタン、ポリオレフィン、又はポリアクリレートを含む可撓性材料製である基材と、基材上に形成されると共にスチレン樹脂、エポキシ樹脂又はアクリル樹脂を含み、着色材料をその上に担持する画像形成層であって、皮膚の修整カラー画像がその上に印刷されている画像形成層と、画像形成層に接触して形成されたホットメルト接着剤層と、ホットメルト接着剤層上に形成された透水保護層とを備える、皮膚の欠陥を隠蔽する化粧用積層構造体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-168626号公報
【文献】国際公開第2015/072021号
【文献】特許第5677303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~3に記載される口唇用貼付材及び構造体は、皮膚へ適用した場合、貼り付け不良又は皮膚呼吸に起因するエア溜まりが、これらの部材と皮膚との間で発生するという問題があった。
【0007】
したがって、本発明の主題は、貼り付け時及び貼り付け後のエア溜まりの不具合を改善し、かつ、自然な仕上がりを呈し得る、疑似皮膚フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
〈態様1〉
JIS K6253に準拠したデュロメータータイプA硬度計によるゴム硬度が、20以下であり、
膜厚が、600μm以下であり、
貫通孔が、3~500000個/cmの割合で配置されており、かつ、
前記貫通孔の面積が、70~283000μm/個である、
疑似皮膚フィルム。
〈態様2〉
前記膜厚が、50~200μmである、態様1に記載のフィルム。
〈態様3〉
前記疑似フィルムを構成する材料が、ウレタンゴム、オレフィンゴム、シリコーンゴム、アクリルゴム、天然ゴム、又はα-ゲルである、態様1又は2に記載のフィルム。
〈態様4〉
体表への貼り付け用である、態様1~3のいずれか一項に記載のフィルム。
〈態様5〉
前記体表が、顔表面上の皮膚、耳表面上の皮膚、又は爪である、態様4に記載のフィルム。
〈態様6〉
剥離シートをさらに備えている、態様1~5のいずれか一項に記載のフィルム。
〈態様7〉
非粘着性である、態様1~6のいずれか一項に記載のフィルム。
〈態様8〉
態様1~7のいずれか一項に記載のフィルムを有している、化粧キット。
〈態様9〉
密着剤をさらに有している、態様8に記載の化粧キット。
〈態様10〉
前記密着剤が、ポリブテン及びポリイソブテンから選ばれる少なくとも一種である、態様9に記載の化粧キット。
〈態様11〉
前記密着剤が、保湿成分をさらに含む、態様9又は10に記載の化粧キット。
〈態様12〉
射出成型法、カレンダー成型法、又はコンプレッション成形法によってフィルムを形成し、そして
前記フィルムにレーザーを照射して貫通孔を形成する、
態様1~7のいずれか一項に記載の疑似皮膚フィルムの製造方法。
〈態様13〉
態様1~7のいずれか一項に記載の疑似皮膚フィルムを体表に貼り付ける、疑似皮膚フィルムの使用方法。
〈態様14〉
体表に密着剤を適用した後に、前記疑似皮膚フィルムを体表に貼り付ける、態様13に記載の使用方法。
〈態様15〉
前記体表に貼り付けた後に、前記疑似皮膚フィルムにグロス、口紅、マニキュア又はリキッドファンデーションを適用する、態様13又は14に記載の使用方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、貼り付け時及び貼り付け後のエア溜まりの不具合を改善し、かつ、自然な仕上がりを呈し得る、疑似皮膚フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳述する。本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、発明の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0011】
本発明の疑似皮膚フィルムは、JIS K6253に準拠したデュロメータータイプA硬度計によるゴム硬度が、20以下であり、膜厚が、600μm以下であり、貫通孔が、3~500000個/cmの割合で配置されており、かつ、該貫通孔の面積が、70~283000μm/個である。
【0012】
本発明の疑似皮膚フィルムによれば、貼り付け時及び貼り付け後のエア溜まりの不具合を改善し、かつ、自然な仕上がりを呈することができる。
【0013】
原理によって限定されるものではないが、本発明の疑似皮膚フィルムが、貼り付け時及び貼り付け後のエア溜まりの不具合を改善し、かつ、自然な仕上がりを呈し得る作用原理は、以下のとおりであると考えている。
【0014】
本発明の疑似皮膚フィルムは、特定の硬度を有しているため、皮膚における皺等の凹凸部位又は皮膚の動き等に対して追従させやすく、また、特定の厚さを有しているため、ふっくら感等の見栄えを自然と違和感なく提供することができるものと考えている。
【0015】
本発明の疑似皮膚フィルムは、特定の大きさの貫通孔が特定の割合で形成されているため、見た目の自然さに対して悪影響を及ぼすことなく、通気性を呈することができ、その結果、貼り付け時又は貼り付け後の皮膚呼吸等に伴うエア(気泡)溜まりの発生を低減させることができ、自然な仕上がりを持続させることができるものと考えている。また、エア溜まりの改善は、フィルムと皮膚との接触面積の増大にもつながるため、フィルムの皮膚に対する密着性を改善させることもできると考えている。
【0016】
この他、特定の大きさの貫通孔を有する本発明の疑似皮膚フィルムは、通気性とオクルージョン効果(肌から水分が抜けることを防ぐ効果)とのバランスに優れることから、係るフィルムを皮膚に適用した場合に、肌のかさつき又は荒れ等も改善し得るものと考えている。
【0017】
疑似皮膚フィルムに形成される特定の貫通孔は、疑似皮膚フィルムの付着性を改良する。これは、例えば、唇に適用した密着剤が、貫通孔内に侵入してフィルムに付着しやすくなることによると考えている。また、例えば、フィルムがシリコーンゴムのような材料から形成された場合でも、フィルムへの付着性が増すため、グロス、口紅、マニキュア、リキッドファンデーション等の塗布剤の付着性も改良される。
【0018】
さらに、本発明の疑似皮膚フィルムは、特定の貫通孔を有しているため、係る貫通孔を有さないフィルムに比べ、柔軟性を向上させることができるとともに、硬度を低減させることができるものと考えている。その結果、唇のような比較的動きの多い部位に対しても伸び縮みしやすくなるため、ヨレ又は剥がれ等の不具合を低減することができる。また、特定の貫通孔を形成することで、比較的硬くて従来は疑似皮膚フィルムに適していなかった材料であっても、係るフィルムの材料として使用することが可能となった。
【0019】
《疑似皮膚フィルム》
〈ゴム硬度〉
本発明の疑似皮膚フィルムにおけるJIS K6253に準拠したデュロメータータイプA硬度計によるゴム硬度は、20以下である。係る硬度としては、皮膚への追従性等の観点から、15以下又は10以下であることが好ましく、また、強度等の観点から、1以上、2以上、又は3以上であることが好ましい。ここで、係るゴム硬度とは、疑似皮膚フィルムを構成する材料を用いて調製した厚さ6.0mm以上の試験片、又は、疑似フィルムを積層して調製した厚さ6.0mm以上の試験片におけるゴム硬度を意図することができる。
【0020】
〈膜厚〉
本発明の疑似皮膚フィルムの膜厚は、600μm以下である。係るフィルムの膜厚は、フィルムを貼り付ける部位又は使用目的等に応じて適宜調整することができ、次のものに限定されないが、例えば、500μm以下、400μm以下、300μm以下、又は200μm以下とすることもでき、また、50μm以上、70μm以上、又は100μm以上とすることもできる。
【0021】
特に、唇のように頻繁に動くような部位に対し、唇をふっくらと見せることを目的にしてフィルムを使用する場合には、膜厚は、300μm以下、又は200μm以下とすることができ、また、50μm以上、70μm以上、又は100μm以上とすることができる。
【0022】
ここで、膜厚とは、精密厚み測定機(株式会社尾崎製作所製のPEACOCKダイヤルシックネスゲージ0.01mmタイプ)を使用し、疑似皮膚フィルムの任意の部分の膜厚を5回測定して算出した平均値であり、また、疑似皮膚フィルムが剥離シートを備える場合には、係る剥離シートの厚さを除いた状態の膜厚を意図している。
【0023】
本発明の疑似皮膚フィルムは、その適用部位又は使用目的に応じて、膜厚をフィルム面内において変動させてもよい。例えば、フィルムを唇に適用する場合には、係るフィルムの中央部を厚くし、周縁部分を薄くしてもよい。係る構成にすることによって、皮膚とフィルムとの境目を目立ちにくくすることができることに加え、唇のふっくら感をより向上させることができる。なお、この場合の、上記膜厚は、疑似皮膚フィルムの一番厚い部分(最厚部分)において上記と同様に測定した平均値である。
【0024】
疑似皮膚フィルムは、その適用部位に応じ、皺又は皮膚の動きに追従しやすくするために、例えば、唇又は目元等の皮膚に貼り付ける面に対し、スリット状の切込み線等を入れてもよい。
【0025】
〈貫通孔〉
本発明の疑似皮膚フィルムは、貫通孔が、3~500000個/cmの割合で配置されており、かつ、係る貫通孔は、70~283000μm/個の面積を有している。
【0026】
(貫通孔の割合)
貫通孔の割合としては、エア溜まりの改善性、侵入性、柔軟性等の観点から、3個/cm以上、5個/cm以上、10個/cm以上、30個/cm以上、50個/cm以上、100個/cm以上、又は1000個/cm以上とすることができ、また、500000個/cm以下、450000個/cm以下、400000個/cm以下、200000個/cm以下、100000個/cm以下、又は50000個/cm以下とすることができる。
【0027】
貫通孔は、上記の割合で形成されている限り、疑似皮膚フィルムの全面に均一に若しくは不均一に分布していてもよく、又は、疑似皮膚フィルムの一部に均一に若しくは不均一に分布していてもよい。ここで、疑似皮膚フィルムの一部に貫通孔が形成されている場合には、1箇所以上、2箇所以上、又は3箇所以上で、上記の割合を満足していればよい。
【0028】
(貫通孔の面積)
貫通孔の面積としては、エア溜まりの改善性、侵入性、柔軟性等の観点から、70μm/個以上、80μm/個、100μm/個、又は150μm/個以上とすることができ、また、283000μm/個以下、233000μm/個以下、183000μm/個以下、又は133000μm/個以下とすることができる。ここで、貫通孔の面積とは、疑似皮膚フィルムの上面及び底面における貫通孔の面積のうち最小の面積を意図する。例えば、貫通孔が、円錐の上部を底面に対して平行に切断した円錐台のような形状の場合には、係る円錐台の上面の面積を指し、また、上面及び底面の面積が等しい円柱形状の場合には、上面又は底面のいずれかの面積を指す。
【0029】
(貫通孔の形状)
貫通孔の形状としては、エア溜まりの改善性等の性能が発揮されている限り、特に限定されるものではないが、例えば、略円柱状、略楕円柱状、底面が多角形である略角柱状、略円錐台状、略楕円錐台状、底面が多角形である略角錐台状などを挙げることができる。中でも、生産性、エア溜まりの改善性等の観点から、略円柱状及び略円錐台状であることが好ましい。ここで、「略」とは、製造誤差などによって生じるバラつきを含むことを意味し、±約20%程度の変動が許容されることを意図する。
【0030】
貫通孔の形状が、略円柱状及び略円錐台状の場合には、エア溜まりの改善性等の観点から、フィルム上面及び底面における係る貫通孔の略円形状部のうちの最小の直径は、0.01mm以上、0.02mm以上、又は0.03mm以上であることが好ましく、また、0.60mm以下、0.50mm以下、又は0.40mm以下であることが好ましい。
【0031】
〈材料〉
本発明の疑似皮膚フィルムの材料としては、ゴム硬度が20以下となるような材料であればいかなるものでもよく、次のものに限定されないが、例えば、オレフィンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、アクリルゴム等の合成ゴム、α-ゲルのような弾性を呈し得るゲル状物、天然ゴムなどを挙げることができる。中でも、肌への安全性、耐久性、透明性等の観点から、シリコーンゴムが好ましい。これらの材料は、単独で又は複数組み合わせて使用することができる。また、疑似皮膚フィルムは、これらの材料の単一層又は積層構造であってもよい。
【0032】
好ましい材料であるシリコーンゴムとしては、次のものに限定されないが、例えば、加熱によって短時間で成形できる等の観点から、付加(ヒドロシリル化)反応硬化型のシリコーンゴム組成物又は有機過酸化物硬化型のシリコーンゴム組成物を硬化して得られたものが好ましい。
【0033】
付加反応硬化型のシリコーンゴム組成物としては、公知の組成のものを使用することができ、例えば、ビニル基に代表されるアルケニル基を1分子中に2個以上有するアルケニル基含有オルガノポリシロキサンと、SiH基を2個以上、好ましくは3個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン(通常、アルケニル基に対するSiH基のモル比が0.5~4となる量)と、白金又は白金化合物に代表される白金族金属系付加反応触媒(通常、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンに対し1~1000ppm)とを含有するものが用いられる。
【0034】
また、有機過酸化物硬化型のシリコーンゴム組成物としても、公知の組成のものを使用することができ、例えば、好ましくはアルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサンに硬化剤として有機過酸化物を硬化有効量(通常、上記オルガノポリシロキサン100質量部に対し1~10質量部)配合したものが用いられる。
【0035】
上記シリコーンゴム組成物としては、市販品を使用することができる。例えば、付加反応硬化型のシリコーンゴム組成物である、信越化学工業株式会社製のLIMS(商標)(液状シリコーンゴム射出成形システム)、中でも、KE-1950-10A/B、KE-1950-20A/B、KE-2004-3A/B、KE-2004-5A/Bなどを挙げることができる。
【0036】
(任意の成分)
本発明の疑似皮膚フィルムは、本発明の効果に影響を及ぼさない範囲で、顔料、染料等の着色剤、充填剤、安定化剤、保湿剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、滑剤等の各種添加剤を適宜配合することができる。なお、透明な疑似皮膚フィルムは、皮膚に適用した後に目立ちにくくなるため、着色剤は含まれないことが好ましい。
【0037】
〈任意の構成層〉
本発明の疑似皮膚フィルムは、任意に、粘着剤層、接着剤層、剥離シート等の構成層を適宜有していてもよい。特に、本発明の疑似皮膚フィルムは、厚さが600μm以下と薄いため、保護又は取り扱い性等の観点から、フィルムの片面又は両面に剥離シートを備えることが好ましい。
【0038】
係る剥離シートの材料としては、特に限定されるものではないが、取扱い性の観点から、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、紙等を挙げることができ、また、剥離シートの表面にはシリコーン等の離型処理が施されていてもよい。このような剥離シートは、疑似皮膚フィルムに対し、静電的作用により密着させることができる。
【0039】
また、粘着剤層及び接着剤層は、皮膚への負担又は違和感を生じさせやすく、また、皺等への追従性を低下させるとともに、貼り付け時の取り扱い性を悪化させるおそれがあるため、疑似皮膚フィルムは、これらの層を備えない、非粘着性のフィルムであることが好ましい。
【0040】
〈疑似皮膚フィルムの適用部位〉
本発明の疑似皮膚フィルムは、体のあらゆる部分における皮膚の表面上、即ち、体表上であれば、いかなる箇所に貼り付けることができ、次のものに限定されないが、例えば、顔(唇、目元、鼻など)、耳、手、腕、脚、足、胸、下腹、背中等の皮膚表面に対して適宜貼り付けることができる。傷のある皮膚表面に対して疑似皮膚フィルム貼り付けた場合には、該フィルムが傷の凹凸に追従するため傷を目立たなくさせることができる。ここで、皮膚には、皮膚の表皮の角質が変化して硬化した爪なども含まれる。
【0041】
本発明の疑似皮膚フィルムは、貼り付けた後のエア溜まりが改善されて目立ちにくく、密着性にも優れ、また、皺等の皮膚表面の凹凸などに対して追従しやすいため、係るフィルムは、上記適用部位の中でも、顔(特に、唇、目元、鼻)、耳、又は爪に対して貼り付けることが好ましい。
【0042】
《化粧キット》
本発明の疑似皮膚フィルムは、係るフィルムを有する化粧キットとして提供することができる。係る化粧キットには、疑似皮膚フィルム以外に、例えば、フィルムを皮膚へ貼り付けやすくしたり、化粧をさらに施すための任意の部材を有していてもよい。
【0043】
このような任意の部材としては、例えば、密着剤、カッター、ハサミ、グロス、口紅、マニキュア、リキッドファンデーション、鏡等を挙げることができる。中でも、皮膚表面に塗布して使用する密着剤は、疑似皮膚フィルムの皮膚への密着性を向上させることができるため、粘着剤層又は接着剤層を有さない非粘着性の疑似皮膚フィルムを使用する場合には特に好ましい。
【0044】
〈密着剤〉
このような密着剤としては、皮膚への負担が少なく、疑似皮膚フィルムの皮膚への密着性を向上させ得る剤であればいかなるものでもよく、次のものに限定されないが、例えば、ポリブテン及びポリイソブテンから選ばれる少なくとも一種を使用することができる。密着性、耐久性等の観点から、ポリブテンの数平均分子量としては、1000以上又は1500以上とすることができ、また、5000以下又は4000以下とすることができ、ポリイソブテンの数平均分子量としては、8000以上、9000以上、又は10000以上とすることができ、また、30000以下、25000以下、又は22000以下とすることができる。ここで、数平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフ測定における、ポリスチレン換算の数平均分子量を意図する。
【0045】
本発明における密着剤としては、市販品を用いることができる。例えば、ポリブテンとしては、脱臭ポリブテン-P200SH(日興リカ株式会社製)などを用いることができ、ポリイソブテンとしては、Oppanol(商標)B12SFN/12N、Oppanol(商標)B13SFN、Oppanol(商標)B14SFN/14N、Oppanol(商標)B15SFN/15N(以上、BASF社製)などを用いることができる。
【0046】
密着剤には、保湿成分が含まれていてもよい。係る保湿成分としては、通常化粧料に用いられているものを一種以上使用することができ、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,3-ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、ムコイチン硫酸、カロニン酸、アテロコラーゲン、乳酸ナトリウム、ピロリドンカルボン酸、短鎖可溶性コラーゲン等が挙げられる。
【0047】
保湿成分の配合割合は、密着剤全量に対し、0.01質量%以上、0.05質量%以上、又は0.1質量%以上であることが好ましく、また、10質量%以下、9質量%以下、又は8質量%以下であることが好ましい。
【0048】
《疑似皮膚フィルムの製造方法》
本発明の疑似皮膚フィルムは、公知の方法により製造することができる。具体的には、例えば、圧縮成型法、注入成型法、射出成型法、カレンダー成型法、コンプレッション成型法などによりフィルムを形成した後、係るフィルムに対し、レーザー照射又は打ち抜き加工等を適用して貫通孔を形成し、疑似皮膚フィルムを得ることができる。中でも、生産性、精度等の観点から、射出成型法、カレンダー成型法又はコンプレッション成型法、特には、カレンダー成型法によってフィルムを形成することが好ましく、レーザー照射によって貫通孔を形成することが好ましい。
【0049】
また、得られた疑似皮膚フィルムは、使用者が任意の形状及び大きさに適宜カットして使用することができ、或いは、レーザー加工、打ち抜き加工等によって、任意の形状及び大きさに事前に加工してもよい。
【0050】
貫通孔の形成及び任意形状の加工に関しては、疑似皮膚フィルム単体に対して実施してもよく、或いは、剥離シートを片面又は両面に備えた状態の疑似皮膚フィルムに対して実施してもよい。
【0051】
《疑似皮膚フィルムの使用方法》
本発明の疑似皮膚フィルムは、剥離シートが存在する場合には該シートを適宜除去した後に、上述した体の皮膚表面(体表)に貼り付けて使用することができる。
【0052】
例えば、唇に貼り付ける場合には、唇の形状及び大きさに調製した疑似皮膚フィルムを唇に貼り付けて使用する。この場合、係るフィルムが粘着剤層又は接着剤層を有さない場合には、唇に対して、上述した密着剤を指又は筆等によって唇に塗布した後、特に、塗布した直後に疑似皮膚フィルムを唇に貼り付けると、係る密着剤がフィルムの貫通孔に侵入するため密着性をより向上させることができる。その結果、他の部位よりも比較的動きの多い唇であっても、ヨレ、剥がれ等の不具合を防止することができる。
【0053】
本発明の疑似皮膚フィルムに対し、グロス、口紅、マニュキュア、リキッドファンデーション等の塗布剤を別途適用してもよい。このような塗布剤は、疑似皮膚フィルムに対し、事前に適用してもよく、或いは、皮膚表面にフィルムを貼り付けた後に適用してもよい。
【0054】
本発明の疑似皮膚フィルムは、特定の貫通孔を有しているため、上記のような塗布剤が、貫通孔に侵入しやすくなる。その結果、係る塗布剤を適用しにくい素材であったとしても、疑似皮膚フィルムの材料として使用することが可能となった。
【実施例
【0055】
以下に実施例を挙げて、本発明についてさらに詳しく説明を行うが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0056】
《実施例1~3、比較例1及び2》
実施例1~3、比較例1及び2に記載される処方及び製造方法により得た疑似皮膚フィルムについて、以下に示す各種性能について目視によって評価した。その結果を表1にまとめる。
【0057】
なお、疑似皮膚フィルムを唇に貼り付ける場合には、ポリブテン(数平均分子量2650)及びポリイソブテン(数平均分子量16000)を含む密着剤を唇に塗布した直後に、係るフィルムを貼り付けた。また、疑似皮膚フィルムをウレタン製の評価用皮膚モデルに貼り付ける場合には、係る皮膚モデルには密着剤を塗布せずに、そのまま疑似皮膚フィルムを貼り付けた。
【0058】
〈疑似皮膚フィルムの評価〉
(エア溜まりの改善持続性)
40~50代のパネラーの唇に疑似皮膚フィルムを貼り付け、3時間後のフィルムの状態を目視観察した。評価項目は以下のとおりである。この結果から、疑似皮膚フィルムのエア溜まりの改善持続性を評価することができる。ここで、エア溜まりの改善持続性とは、貼り付け時及び貼り付け後(3時間後)のエア溜まりの改善性を意図している。
【0059】
A 貼付箇所に気泡が存在しない。
B 貼付箇所に気泡が1~3個存在している。
C 貼付箇所に気泡が4個以上存在している。
【0060】
(自然な仕上がり性)
40~50代のパネラーの唇に疑似皮膚フィルムを貼り付け、飲食をしながら3時間経過直後のフィルムの状態を目視観察した。評価項目は以下のとおりである。この結果から、疑似皮膚フィルムの自然な仕上がり性を評価することができる。
【0061】
A 貼付箇所が目立たず自然さを感じる。
B 貼付箇所がやや目立つが遠目には自然さを感じる。
C 貼付箇所が目立ち自然さを感じない。
【0062】
(グロスの塗布性)
40~50代のパネラーの唇に疑似皮膚フィルムを貼り付け、グロスを塗布した後のフィルムの状態を目視観察した。評価項目は以下のとおりである。この結果から、疑似皮膚フィルムにおけるグロスの塗布性を評価することができる。
【0063】
A 塗布ムラが全く認められず自然さを感じる。
B フィルムの一部において塗布ムラが認められるが、遠目には自然さを感じる。
C 塗布ムラが認められ不自然さを感じる。
【0064】
(リキッドファンデーションの塗布性)
ウレタン製の皮膚評価モデル(Beulax社製の頬部肌模型)に疑似皮膚フィルムを貼り付け、リキッドファンデーションを塗布した後のフィルムの状態を目視観察した。評価項目は以下のとおりである。この結果から、疑似皮膚フィルムにおけるリキッドファンデーションの塗布性を評価することができる。
【0065】
A 毛穴が全く認められず、均一で自然な仕上がり感が得られる。
B フィルムの一部において塗布ムラ及び又は毛穴が認められるが、遠目には自然な仕上がり感が得られる。
C 塗布ムラ及び又は毛穴が認められ、仕上がりに不自然さを感じる。
【0066】
(リキッドファンデーションの剥がれ落ち性)
ウレタン製の皮膚評価モデル(Beulax社製の頬部肌模型)に疑似皮膚フィルムを貼り付け、リキッドファンデーションを塗布し、約1分間経過した後、ティッシュオフを10回繰り返したフィルムの状態を目視観察した。評価項目は以下のとおりである。この結果から、疑似皮膚フィルムにおけるリキッドファンデーションの剥がれ落ち性、即ち、ファンデーションの密着性を評価することができる。
【0067】
A リキッドファンデーションの剥がれ落ちが全く認められず、自然な仕上がり感が得られる。
B フィルムの一部においてリキッドファンデーションの剥がれ落ちが認められるが、遠目には自然な仕上がり感が得られる。
C リキッドファンデーションの剥がれ落ちが認められ、仕上がりに不自然さを感じる。
【0068】
〈実施例1〉
信越化学工業株式会社製のLIMS(商標)KE-2004-3A/Bを、カレンダー装置に投入し、加熱して硬化させながら、複数の金属ロールで圧延して、2枚の剥離シートに挟まれた状態の厚さ100μmのシリコーンゴムフィルムを調製した。
【0069】
ここで、剥離シートを除去したシリコーンゴムフィルムを積層して厚さ6.0mmの試験片を調製した。係る試験片のJIS K6253に準拠したデュロメータータイプA硬度計によるゴム硬度は3であった。
【0070】
次いで、ビデオジェット社製のレーザー照射機を用い、得られたシリコーンゴムフィルムに対してCOレーザー光を照射し、1250個/cmの割合で貫通孔をフィルム全面に形成し、疑似皮膚フィルムを作製した。ここで、貫通孔は、略円錐台の形状を呈しており、フィルム表面における貫通孔の最小面積及びその略円形状部の直径は、約1300μm及び40μmであった。
【0071】
〈実施例2〉
疑似皮膚フィルムの厚さを200μmに変更したことを除いて、実施例1と同様にして、実施例2の疑似皮膚フィルムを作製した。
【0072】
〈実施例3〉
疑似皮膚フィルムの厚さを300μmに変更したことを除いて、実施例1と同様にして、実施例3の疑似皮膚フィルムを作製した。
【0073】
〈比較例1〉
疑似皮膚フィルムに貫通孔を形成しなかったことを除いて、実施例1と同様にして、比較例1の疑似皮膚フィルムを作製した。
【0074】
〈比較例2〉
疑似皮膚フィルムの厚さを700μmに変更したことを除いて、実施例1と同様にして、比較例2の疑似皮膚フィルムを作製した。
【0075】
【表1】
【0076】
〈結果〉
表1の結果から分かるように、実施例1~3の疑似皮膚フィルムは、比較例1及び2の疑似皮膚フィルムに比べて、エア溜まりの改善持続性及び自然な仕上がり性が向上していることが確認できた。
【0077】
また、貫通孔を有していない比較例1及び貫通孔を有している実施例1の疑似皮膚フィルムを比べると、グロス及びリキッドファンデーションの塗布性、並びにリキッドファンデーションの剥がれ落ち性において、実施例1の疑似皮膚フィルムの方が優れていることが確認できた。これは、所定の大きさの貫通孔が、所定の割合で疑似皮膚フィルムに配置されているため、グロス及びリキッドファンデーションが、係る貫通孔に侵入したためであると考えられる。