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特許7412347注入システム、シリンジ、及びガスケット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】注入システム、シリンジ、及びガスケット
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/315 20060101AFI20240104BHJP
   A61M 5/28 20060101ALI20240104BHJP
【FI】
A61M5/315 516
A61M5/28 520
A61M5/315 514
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020553401
(86)(22)【出願日】2019-10-21
(86)【国際出願番号】 JP2019041352
(87)【国際公開番号】W WO2020085318
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2018200114
(32)【優先日】2018-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】518234173
【氏名又は名称】株式会社サーキュラス
(74)【代理人】
【識別番号】100099645
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 晃司
(74)【代理人】
【識別番号】100154162
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 浩輔
(72)【発明者】
【氏名】植木 潤
(72)【発明者】
【氏名】吹越 由美子
【審査官】星名 真幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/068957(WO,A1)
【文献】英国特許出願公開第02108852(GB,A)
【文献】特表平10-504483(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0056579(US,A1)
【文献】特表2001-507963(JP,A)
【文献】米国特許第05928202(US,A)
【文献】特開平02-011164(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0328407(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/315
A61M 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の係合爪と、高さ方向の長さが前記高さ方向に直交する幅方向の長さよりも長い楕円状の断面形状を有する先端部とを備えるガスケットと、
前記ガスケットと係合するラムと、
前記ガスケットが挿入されるシリンダと、
前記ラムを前進させるように構成され、前記シリンダ内の薬液を注入する注入装置とを備え、
前記複数の係合爪は、広がった位置と窄まった位置との間で変位すると共に、前記ラムを挿入する部分を画定し且つ当該部分の中心を通る垂線から離れる方向に傾斜する内面を含み、
前記ガスケットには、前記係合爪の変形の起点となる溝が形成されており
前記ガスケットの半径方向において、前記挿入する部分と前記溝の底との間に前記係合爪の一部が位置する、注入システム。
【請求項2】
前記複数の係合爪において、前記高さ方向に並ぶ二つの係合爪が同じ形状及び大きさを有しており、且つ前記幅方向に並ぶ二つの係合爪が同じ形状及び大きさを有している、請求項1に記載の注入システム。
【請求項3】
前記複数の係合爪のそれぞれは、前記垂線から離れる方向に突出する突条を含んでおり、
前記シリンダの後端部には、前記突条を受け入れる拡径部が形成されている、請求項1又は2に記載の注入システム。
【請求項4】
複数の係合爪と、高さ方向の長さが前記高さ方向に直交する幅方向の長さよりも長い楕円状の断面形状を有する先端部とを備えるガスケットと、
前記ガスケットが挿入されるシリンダとを備え、
前記複数の係合爪は、広がった位置と窄まった位置との間で変位すると共に、ラムを挿入する部分を画定し且つ当該部分の中心を通る垂線から離れる方向に傾斜する内面を含み、
前記ガスケットには、前記係合爪の変形の起点となる溝が形成されており
前記ガスケットの半径方向において、前記挿入する部分と前記溝の底との間に前記係合爪の一部が位置する、シリンジ。
【請求項5】
複数の係合爪と、高さ方向の長さが前記高さ方向に直交する幅方向の長さよりも長い楕円状の断面形状を有する先端部とを備えるガスケットであって
前記複数の係合爪は、広がった位置と窄まった位置との間で変位すると共に、ラムを挿入する部分を画定し且つ当該部分の中心を通る垂線から離れる方向に傾斜する内面を含み、
前記係合爪の変形の起点となる溝が形成されており
前記ガスケットの半径方向において、前記挿入する部分と前記溝の底との間に前記係合爪の一部が位置する、ガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液が充填されるシリンジが搭載される注入システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、薬液注入用のシリンジに用いられるラム及びガスケットとして、例えば、特許文献1には、拡張及び収縮可能な部分を有するプランジャと、第1の内径及び第1の内径より小さい第2の内径を有するシリンジとが記載されている。このプランジャの空間の中には、プランジャシャフトの終端部分が挿入される。そして、プランジャが、第2の内径に至るまでシリンジ内を前進すると、拡張及び収縮可能な部分が収縮する。これにより、プランジャ(ガスケット)のタブがプランジャシャフト(ラム)の溝と係合する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-111185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1においては、注入装置の小型化が十分に図られていない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明の一例としての注入システムは、複数の係合爪と、高さ方向の長さが前記高さ方向に直交する幅方向の長さよりも長い楕円状の断面形状を有する先端部とを備えるガスケットと、前記ガスケットと係合するラムと、前記ガスケットが挿入されるシリンダと、前記ラムを前進させるように構成され、前記シリンダ内の薬液を注入する注入装置とを備え、前記複数の係合爪は、広がった位置と窄まった位置との間で変位すると共に、入口が拡径された穴を画定し且つ前記穴の中心を通る垂線から離れる方向に傾斜する内面を含み、前記複数の係合爪において、前記高さ方向に並ぶ二つの係合爪が同じ形状及び大きさを有しており、且つ前記幅方向に並ぶ二つの係合爪が同じ形状及び大きさを有している。
また、本発明の他の例としてのシリンジは、複数の係合爪と、高さ方向の長さが前記高さ方向に直交する幅方向の長さよりも長い楕円状の断面形状を有する先端部とを備えるガスケットと、前記ガスケットが挿入されるシリンダとを備え、前記複数の係合爪は、広がった位置と窄まった位置との間で変位すると共に、入口が拡径された穴を画定し且つ前記穴の中心を通る垂線から離れる方向に傾斜する内面を含み、前記複数の係合爪において、前記高さ方向に並ぶ二つの係合爪が同じ形状及び大きさを有しており且つ前記幅方向に並ぶ二つの係合爪が同じ形状及び大きさを有している。
さらに、本発明の他の例としてのガスケットは、複数の係合爪と、高さ方向の長さが前記高さ方向に直交する幅方向の長さよりも長い楕円状の断面形状を有する先端部とを備え、前記複数の係合爪は、広がった位置と窄まった位置との間で変位すると共に、入口が拡径された穴を画定し且つ前記穴の中心を通る垂線から離れる方向に傾斜する内面を含み、前記複数の係合爪において、前記高さ方向に並ぶ二つの係合爪が同じ形状及び大きさを有しており、且つ前記幅方向に並ぶ二つの係合爪が同じ形状及び大きさを有している。
【0006】
本発明のさらなる特徴は、添付図面を参照して例示的に示した以下の実施形態の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】注入ヘッドの概略斜視図である。
図2】注入ヘッドの概略斜視図である。
図3】アダプタの概略斜視図である。
図4】シリンジの概略分解斜視図である。
図5】シリンジの概略後面図である。
図6】第1実施形態に係るガスケットの概略断面図である。
図7】後方から見たガスケットの概略斜視図である。
図8】ラム及びガスケットの連結を説明する概略断面図である。
図9】ラム及びガスケットの連結を説明する概略断面図である。
図10】第2実施形態に係るガスケットの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための例示的な実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。ただし、以下の実施形態で説明する寸法、材料、形状、及び構成要素の相対的な位置は任意であり、本発明が適用される装置の構成又は様々な条件に応じて変更できる。また、特別な記載がない限り、本発明の範囲は、以下に具体的に記載された実施形態に限定されるものではない。なお、以下の説明において、前側(「前」)は、シリンジの先端側に対応し、その反対側が後側(「後」)に対応する。
【0009】
[第1実施形態]
図1及び図2は薬液を注入するための注入システム1の概略斜視図であり、図1はシリンジ90を搭載する前の注入システム1を示し、図2はシリンジ90を搭載した後の注入システム1を示している。図1に示すように、注入システム1は、注入装置の一例である注入ヘッド2を備えている。この注入ヘッド2は、ラム110を前進させるように構成され、シリンジ90のシリンダ91内の薬液を注入する。
【0010】
注入システム1は、撮像装置(不図示)に有線又は無線接続されている。そして、薬液の注入時及び画像の撮影時には、撮像装置と注入システム1との間で各種データが送受信される。このような撮像装置としては、例えば、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置、CT(Computed Tomography)装置、アンギオ撮像装置、PET(Positron Emission Tomography)装置、SPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)装置、CTアンギオ装置、MRアンギオ装置、超音波診断装置、及び血管撮像装置がある。
【0011】
注入システム1の注入ヘッド2は、シリンジ90に挿入されるガスケット100(図4)を押す押圧部4を備えている。押圧部4は、シリンジ90内の薬液を送り出すために、制御部(不図示)によってシリンジ90内のガスケット100を押圧して前進するように制御される。また、押圧部4は、不図示の駆動機構と、当該駆動機構に接続されたラム110とを備えている。具体的に、制御部は、モーターが正転するときにラム110が前進しかつモーターが逆転するときにラム110が後進するように、注入ヘッド2内のモーターを制御する。さらに、注入ヘッド2は、シリンジ90に設けられたRFID又はバーコード等のデーターキャリアを読み取る読取部を備えていてもよい。
【0012】
押圧部4の駆動機構は、モーターのシャフトに接続された伝達機構と、伝達機構に接続されたボールネジ軸と、ボールネジ軸に取り付けられたボールネジナットと、ボールネジナットに接続されたアクチュエーターとを備える。また、伝達機構は、シャフトに接続されたピニオンギアと、ボールネジ軸に接続されたスクリューギアとを有している。そして、伝達機構は、モーターからの回転をボールネジ軸に伝達する。そのため、モーターのシャフトの回転は、ピニオンギア及びスクリューギアを介してボールネジ軸に伝達される。これにより、ボールネジ軸は、伝達された回転に従って回転する。そして、ボールネジナットは、ボールネジ軸の回転に伴い前進方向又は後進方向に摺動する。このボールネジナットの摺動に伴い、押圧部4のラム110が前進又は後進する。
【0013】
また、注入システム1は、薬液の注入状況が表示される表示部としてのタッチパネルを有するコンソール(不図示)と、制御部及び電源を有する制御装置(不図示)とを備えている。このコンソールと注入ヘッド2とは、互いに有線又は無線接続することができる。さらに、ハンドスイッチ等の遠隔操作装置が、コンソールに有線又は無線接続されてもよい。この遠隔操作装置により、薬液注入をスタート又はストップさせることもできる。なお、注入ヘッド2と制御装置は、キャスタースタンド(不図示)と一体的に構成できる。代替的に、注入ヘッド2と制御装置を別体とし、それぞれをキャスタースタンドに搭載してもよい。
【0014】
制御装置には、動作パターン(注入プロトコル)のデータ、及び薬液のデータが予め記憶されている。患者に薬液を注入する場合、オペレーターは、コンソールのタッチパネルを操作して、注入速度、注入量、注入時間、体重、身長、体表面積、心拍数、及び心拍出量などの患者の身体的データと、薬液の種類のデータとを入力する。そして、制御装置は、入力されたデータと予め記憶されているデータに応じて、最適な注入条件を算出する。その後、制御装置は、算出された注入条件に基づいて、患者に注入する薬液の量及び注入プロトコルを決定する。
【0015】
また、制御装置は、薬液の量及び注入プロトコルを決定すると、所定のデータ又はグラフをコンソールのタッチパネルに表示させる。これにより、オペレーターは、表示されたデータ又はグラフを確認することができる。動作パターン(注入プロトコル)のデータ及び薬液のデータは、外部の記憶媒体から入力することもできる。代替的に、注入ヘッド2にヘッドディスプレイを設けて、制御装置が当該ヘッドディスプレイに所定のデータ又はグラフを表示させてもよい。このヘッドディスプレイがタッチパネルである場合、オペレーターは、ヘッドディスプレイから注入条件等を設定できる。また、ヘッドディスプレイは、注入ヘッド2に内蔵させてもよく、注入ヘッド2の側方に取り付けてもよい。
【0016】
薬液を注入する場合、オペレーターは注入ヘッド2の電源をオンにし、図2に示すようにシリンジ90を注入ヘッド2に搭載する。その後、オペレーターは、タッチパネルに表示された注入ボタンを押す。注入ボタンが押されると、制御部はモーターに駆動電圧として正転信号を送る。この正転信号に応じて、モーターのシャフトが正転し、押圧部4のラム110が前進する。その後、注入が終了しシリンジ90を取り外す場合、ラム110を後進させるために、制御部はモーターに駆動電圧として逆転信号を送る。この逆転信号に応じてモーターのシャフトが逆転し、ラム110が後進する。
【0017】
注入ヘッド2に操作パネルが設けられている場合には、オペレーターはこの操作パネルの注入ボタンを押すこともできる。さらに、オペレーターは、ハンドスイッチのボタンを押して注入を開始することもできる。代替的に、オペレーターは、シリンジ90を搭載した後に、注入ヘッド2の電源をオンしてもよい。
【0018】
図3は、シリンジ90を注入ヘッド2に搭載するためのアダプタ8を示す概略斜視図である。図3に示すように、アダプタ8は、略U字状の断面形状を有する二つの溝部を備え、注入ヘッド2のホルダー7に取り外し可能に取り付けることができる。一例として、ホルダー7はアダプタ8の外形と相補的な形状を有する受け入れ部71を有している。そして、オペレーターは受け入れ部71内に挿入されるように、アダプタ8をホルダー7に取り付ける。なお、アダプタ8は、ホルダー7と一体的に構成されていてもよい。
【0019】
また、ホルダー7には内側に向かって突出する段差部72が形成されている。これにより、アダプタ8とホルダー7との間にはシリンジ90のフランジ92(図4)を受け入れる隙間を構成する溝が画定される。また、ホルダー7は、シリンジ90の後端部を保持するように略U字状の断面形状を有する保持部73を二つ有している。すなわち、シリンジ90は略楕円状の断面形状を有しており、ホルダー7の保持部73はシリンジ90の外形と相補的な形状を有している。これにより、シリンジ90の上下方向に直行する水平方向におけるシリンジ90の幅が減少する分、水平方向における保持部73の幅も減少する。その結果、水平方向における注入ヘッド2の幅を減少して、注入ヘッド2のサイズを小さくすることができる。すなわち、シリンジ90が円状の断面形状を有する場合と比較して、シリンジ90の幅が減少するため、注入ヘッド2を小型化できる。この小型の注入ヘッド2によれば、より小スペースなCT検査室に注入システム1を設置できる。特に、二つのシリンジ90を搭載可能な注入ヘッド2においては、小型化の効果が大きい。代替的に、1つ又は3つ以上のシリンジ90を搭載できるように、ホルダー7を構成してもよい。この場合、保持部73は、搭載可能なシリンジ90の数に応じた数だけ形成される。
【0020】
また、アダプタ8の前面には、保持部73を挟んで位置するように、一対の係合部83が形成されている。これらの係合部83は、一例として下方に延びる直線部分と、直線部分の下端に形成された突出部分とを有している。そして、係合部83は、弾性を有しており、シリンダ91の後面に形成された突起95(図4)によって押されることによって変形する。具体的に、係合部83は、突起95によって押されると後方に変位する。その後、係合部83は、自身の弾性によって前方に変位して、元の位置に戻る。これにより、係合部83の突出部分が、突起95を乗り越えてその上方に位置する。その結果、係合部83と突起95とが当接するため、シリンジ90の上方移動は係合部83によって規制される。
【0021】
さらに、突起95が係合部83を乗り越える際に、オペレーターはクリック感を得ることができる。これにより、オペレーターは、正しい位置にシリンジ90を搭載したことを知覚することができる。代替的に、係合部83は、保持部73に対して片側に一つのみ形成してもよく、又は保持部73に対して両側に合計三つ以上の係合部83を形成してもよい。なお、係合部83は、進退可能に構成された突出部分を有していれば、他の構成であってもよい。例えば、係合部83は、前方に突出する弾性体と、弾性体を覆うカバー部材とから構成してもよい。
【0022】
また、アダプタ8には、注入ヘッド2の外部へと薬液等の液体を逃がす穴部82が形成されている。具体的に、アダプタ8上に液体がこぼれた場合、この穴部82を介して外部へと液体を逃がすことができる。そのため、ホルダー7にも穴部82に対応する開口(不図示)が形成されている。なお、アダプタ8は、シリンジ90が搭載されるように構成してもよい。この場合、アダプタ8に、フランジ92を受け入れる溝と、シリンジ90を保持する保持部とを形成する。さらに、アダプタ8を省略して、フランジ92を受け入れる溝をホルダー7に形成してもよい。
【0023】
図4は、シリンジ90の概略分解斜視図であり、前側上方から見たシリンジ90を示している。図4に示すように、シリンジ90は、先端部93と、アダプタ8とホルダー7との間に挿入されるフランジ92とを有しているシリンダ91を備えている。また、シリンジ90は、シリンダ91内において摺動可能であるガスケット100を有している。このガスケット100は、シリンダ91に挿入され、挿入されたガスケット100の外面がシリンダ91の内面と当接する。また、ガスケット100は、ラム110の前端部111と係合し、ラム110によってシリンダ91内を摺動する。
【0024】
ガスケット100は、楕円状の断面形状を有する先端部としてシール部材140を備える。このシール部材140の断面においては、高さ方向の長さが、当該高さ方向に直交する幅方向の長さよりも長い。また、ガスケット100は、分割された複数の係合爪122を有する吸子120を備え、吸子120の先端はシール部材140に挿入されている。吸子120は、例えばPOM(ポリアセタール樹脂)等の弾性樹脂製であり、成型によって製造することができる。また、シール部材140は、例えばブチルゴム製であり、成型によって製造することができる。
【0025】
ガスケット100は、係合爪122がラム110の前端部111と係合することにより、ラム110と係合される。そして、係合爪122がラム110と連結した状態でモーターが正転すると、押圧部4がラム110を前進方向に押す。そして、ラム110及びガスケット100が前進すると、シリンダ91内の薬液が先端部93を通って押し出される。その結果、先端部93に接続される延長チューブ等を介して、患者の体内に薬液が注入される。薬液の注入後、モーターが逆転すると、押圧部4がラム110を後退方向に引いて、ガスケット100が後退する。なお、係合爪122は、Oリングが嵌め込まれる溝を備えていてもよい。この場合、Oリングを嵌め込むことによって、係合爪122の広がりを規制することができる。また、先端部93は、ロックコネクタ、ルアーロック又は押し込み式のコネクタ等を介して延長チューブに接続できる。
【0026】
ガスケット100が挿入されるシリンダ91は、ガスケット100と相補的な断面形状を有している。すなわち、シリンダ91は、略楕円状の断面形状を有しており、当該断面における高さ方向の長さが、当該高さ方向に直交する幅方向の長さよりも長い。そのため、シリンジ90の後端部がホルダー7の保持部73に保持されると、後端部の両側面が保持部73の内面に当接する。これにより、シリンジ90が、ホルダー7に対して回転することが防止される。例えば、薬液注入時には、回転しながら前進するラム110によって、ガスケット100がシリンダ91内に押し込まれる。このときシリンジ90にも、ガスケット100を介して回転力が伝達される。しかし、後端部の両側面が保持部73の内面に当接するため、シリンジ90の回転は防止される。
【0027】
ラム110は、例えばステンレス又はアルミ製であり、中空のパイプに中実の略円柱状の前端部111を溶接して製造できる。代替的に、中空のパイプに中実の前端部111をねじ込むことによってラム110を製造してもよい。さらに、前端部111は、ステンレス又はアルミ以外の材料、例えばガスケット100よりも高硬度の材料を用いて製造してもよい。この前端部111には、周方向に延びる環状の係合溝112が形成されている。そして、係合溝112に係合爪122の突起124(図6)が挿入されることによって、ガスケット100とラム110とが係合する。
【0028】
図5は、ガスケット100が挿入された状態のシリンジ90の概略後面図である。図5に示すように、シリンジ90は突起95を有しており、当該突起95はシリンダ91に対して片側に二つずつ、合計4つ形成されている。そして、突起95は、フランジ92から後方に突出する環状部96から側方に突出している。すなわち、フランジ92には略リング状の環状部96が形成されており、突起95は当該環状部96から突出するように形成されている。この突起95は、シリンジ90を搭載する際に、アダプタ8の係合部83を乗り越える。そして、シリンジ90の搭載後は、係合部83が突起95と当接するため、シリンジ90の上方移動が規制される。代替的に、突起95は、ガスケット100の中央に形成された穴Hに対して片側に一つのみ、又は穴Hに対して両側に合計三つ以上形成されていてもよい。
【0029】
フランジ92は、略楕円状の外形を有している。ただし、図5において下側に位置する第1部分97の高さ方向(図5中上下方向)の長さL1は、上側に位置する第2部分98の高さ方向の長さL2よりも長い。すなわち、高さ方向においてシリンダ91から上方に延びる第1部分97の長さL1は、下方に延びる第2部分98の長さL2よりも長い。これにより、オペレーターは、シリンジ90の正しい向き及び上下方向を視覚によって認識することができる。また、第1部分97を長くすることにより、ホルダー7又はアダプタ8とフランジ92との接触面積が増大する。これにより、シリンジ90を安定して保持できるため、より高い注入圧力に耐えることができる。さらに、フランジ92の第1部分97には、挿入方向を示す矢印99が付されている。
【0030】
代替的に、下方に延びる第1部分97よりも、上方に延びる第2部分98を長くしてもよい。この場合でも、オペレーターは、シリンジ90の正しい向き及び挿入方向を視覚によって認識することができる。さらに、上方に延びる第2部分98が長い場合には、フランジ92をホルダー7とアダプタ8との間の溝に挿入する際に、誤って第2部分98を下側に向けて挿入することを防止できる。すなわち、当該溝の深さが、より短い第1部分97の長さに対応しているため、向きを誤って挿入すると、突起95が係合部83を乗り超える前に第2部分98が溝の底に当たってしまう。そのため、オペレーターは、クリック感を得ることができず、誤った向きであることを認識できる。これにより、オペレーターは、シリンジ90を正しい向きに修正して搭載できる。
【0031】
ガスケット100において、一の方向である高さ方向に並ぶ二つの係合爪122は、同じ形状及び大きさを有している。また、高さ方向と直交する他の方向である幅方向に並ぶ二つの係合爪122は、同じ形状及び大きさを有している。これにより、高さ方向とそれに直交する幅方向とで、係合爪122の変位量を略一致させることができる。つまり、ガスケット100が略楕円状の外形を有しているため、複数の係合爪122の形状及び大きさを一致させると、高さ方向と幅方向とでは係合爪122の変位開始からの変位量が異なってしまう。そのため、全ての係合爪122の変位量が略一致するように、高さ方向に並ぶ係合爪122と、幅方向に並ぶ係合爪122との形状及び大きさを異ならせている。
ずなわち、略楕円状の外形を有しているガスケット100において、高さ方向に並ぶ二つの係合爪122は、いずれも同じ大きさに形成されている。また、ガスケット100において、幅方向に並ぶ二つの係合爪122は、いずれも同じ大きさに形成されている。そして、4つの係合爪122に囲まれた中央部分には、ラム110の前端部111が挿入される略円状の穴Hが形成されている。そのため、高さ方向に並ぶ係合爪122の高さは、幅方向に並ぶ係合爪122の高さよりも長くなっている。また、それぞれの係合爪122には、略扇形の凹部129が形成されている。さらに、穴Hの周縁には、ラム110の係合溝112と係合する突起124が形成されている。そして、前端部111の端面が穴Hの底に当接するまでラム110が挿入されると、係合溝112と突起124とが対向する。
【0032】
図6は、前後方向及び高さ方向に沿ったガスケット100の概略断面図である。吸子120は、略円盤状の挿入部121を有しており、挿入部121には複数の交差するリブ(不図示)が形成されている。また、挿入部121と係合爪122との間には環状溝125が形成されている。また、シール部材140は、その外周に形成された環状突起141を有している。そして、この環状突起141がシリンダ91の内面と当接することにより、シリンダ91がシールされる。なお、図2においては、3つの環状突起141が形成されているが、2つ又は1つ、若しくは4つ以上の環状突起が形成されていてもよい。また、シール部材140には、挿入部121を収容する空間が形成されており、シール部材140の後端部は当該空間に向かって突出している。
【0033】
吸子120の係合爪122には、略扇形の凹部129が形成されている。当該凹部129によって、係合爪122の肉厚を薄くすることができる。そのため、係合爪122は、挿入部121よりも変形しやい。また、環状溝125が形成された部分は、係合爪122が形成された部分及び挿入部121よりも薄い。これにより、環状溝125は、係合爪122の変形の起点となる。この環状溝125の底は、断面略半円状の形状を有している。代替的に、環状溝125の底は、内側に向かって窄まるように、略台形状又は略三角形状の断面形状を有していてもよい。
【0034】
吸子120の穴Hは底に向かって窄まっており、ラム110が穴Hに挿入されると、前端部111の端面は穴Hの底に当接する。そして、前端部111の端面が穴Hの底に当接した状態において、前端部111の外面と穴Hの内面Sとの間には隙間が生じている。すなわち、穴Hの内面Sは、底の中心に向かって傾斜している。そのため、穴H内に挿入された前端部111は、底の中心に向かって傾斜した内面S上を摺動するように案内される。これにより、前端部111を穴Hの中央に位置合わせすることができる。
【0035】
図7は、後方から見たガスケット100の概略斜視図である。図7に示すように、ガスケット100の吸子120は、略扇形の形状を有する複数の係合爪122、一例として四つの係合爪122を備えている。代替的に、吸子120は、二つ又は三つ、若しくは五つ以上の係合爪122を備えていてもよい。また、隣り合う係合爪122同士の間には隙間が形成されており、ガスケット100がシリンダ91内を前進すると、隣り合う係合爪122が近づくように各係合爪122が変位する。当該隙間はいずれも同じ長さ及び幅を有するため、変位時に、それぞれの係合爪122のラム110に対する位置が変動することを抑制できる。すなわち、ガスケット100が前進するにつれて、それぞれの係合爪122が同じ距離だけ互いに近づくように変位する。
【0036】
各係合爪122は、ラム110の係合溝112と係合する突起124を備えている。この突起124は、吸子120の中心に向かって突出している。また、突起124の先端は、係合溝112に挿入しやすいように丸みを帯びている。なお、図7においては、1つの突起124にのみ参照符号を付している。しかし、突起124は、4つの係合爪122の全てに形成されている。
【0037】
また、挿入部121と係合爪122との間には、環状溝125が形成されている。この環状溝125が形成された部分において、係合爪122は挿入部121と接続されている。係合爪122の変位(変形)を容易にするために、環状溝125が形成された部分は、突起124が形成された部分と比較して薄肉である。また、吸子120には、突起124に囲まれた穴Hが形成されており、ラム110は係合爪122と係合するように当該穴Hに挿入される。
【0038】
[ラム110とガスケット100の連結]
図8及び図9を参照して、ラム110とガスケット100の連結について説明する。図8は、ラム110を吸子120の穴Hに挿入する前のシリンジ90の概略断面図である。図9は、ラム110がガスケット100を前進させた状態のシリンジ90の概略断面図である。また、図8及び図9は、シリンダ91の中心軸を通り長手方向に沿った断面を示している。なお、説明の便宜上、図8及び図9においては、吸子120とシール部材140とを一体的に示している。また、図8及び図9においては、ラム110とガスケット100の高さ方向における上半分のみを示している。ラム110とガスケット100の高さ方向における下部分は、フランジ92を除いて、上部分と略同じ形状を有している。
【0039】
図8に示すように、ガスケット100は、入口が拡径された穴Hを有している。すなわち、穴Hにおいて、ラム110が挿入される入口は、ラム110の前端部111の端面が押圧する底と比較してより長い内径を有している。また、ガスケット100は、広がった位置(図8)と窄まった位置(図9)との間で変位する係合爪122を有している。この係合爪122は、穴Hを画定しかつ穴H(底)の中心を通る垂線Pから離れる方向に傾斜する内面Sを含んでいる。
【0040】
係合爪122は、穴Hの中心を通る垂線Pから離れる方向に突出する突条128を有している。また、シリンダ91の後端部には、突条128を受け入れる拡径部94が形成されている。すなわち、シリンダ91の後端部の内径は、他の部分の内径と比較して大きくなっている。そして、ガスケット100がシリンダ91に組み付けられると、突条128が拡径部94に受け入れられ、ガスケット100の全体がシリンダ91内に収容される。代替的に、係合爪122の後部がシリンダ91から外方にはみ出していてもよい。また、係合爪122は、穴Hの内方に突出する突起124を有している。そして、ラム110は、突起124と係合する環状の係合溝112を有している。なお、拡径部94は、階段状の段差の他、シリンダ91の中心に向かって窄むような傾斜面又は湾曲面であってもよい。
【0041】
図9に示すように、ラム110が穴Hに挿入されると、前端部111の端面は穴Hの底に当接する。そして、ラム110がガスケット100を押すと、ガスケット100はシリンダ91内を前進する。ガスケット100が前進すると、係合爪122の突条128はシリンダ91の拡径部94と当接する。そして、前進して突条128が拡径部94を通り過ぎると、係合爪122は垂線Pに向かって変位する。このとき、係合爪122は、環状溝125の底の中央を起点として変形する。
【0042】
これにより、穴H内において前端部111が垂線Pに対して偏った位置に挿入されても、前端部111の中心軸が垂線Pと合わされるように、前端部111が変位する。すなわち、前端部111は、環状溝125の底に対応する部分に押されて穴Hの中心に向かって変位する。そのため、ラム110の中心軸がガスケット100に対して傾くことを抑制できる。図9に示すように、突条128が拡径部94を通り過ぎると、係合爪122が窄まる。そして、窄まった位置にある係合爪122の突起124が係合溝112内に侵入し、突起124が係合溝112と係合する。これにより、ガスケット100は、ラム110に連結される。また、係合爪122の変位に伴い、環状溝125は広がるように変形する。
【0043】
その後、ガスケット100がシリンダ91内を前進すると、シール部材140はシリンダ91内の薬液を押圧する。これにより、薬液が先端部93から押し出され、延長チューブ等を介して患者の体内に注入される。薬液の注入後は、ラム110が後退し、ラム110と連結しているガスケット100も後退する。そして、突条128が拡径部94に受け入れられる位置まで、ラム110及びガスケット100が後退すると、係合爪122が外方に広がって突起124が係合溝112から離脱する。
【0044】
これにより、突起124が係合溝112と係脱する。すなわち、係合爪122が広がった位置に変位するまでラム110及びガスケット100が後退すると、突起124が係合溝112とから抜け出る。また、係合爪122の変位に伴い、環状溝125は元の形状に戻るように狭まる。ラム110がさらに後退すると、ガスケット100は、シール部材140とシリンダ91との間の摩擦力によって図8に示す位置に留まる。その結果、ラム110は、ガスケット100から離脱し、図8に示す挿入前の位置まで後退する。
【0045】
このような第1実施形態に係るラム110及びガスケット100によれば、環状溝125の底の中央を起点として係合爪122が変形する。そのため、複数の係合爪122が吸子120の垂線Pに向かって均等に変位する。これにより、ラム110がガスケット100から離脱する際に、前端部111が垂線Pに対して偏った位置に位置することを抑制できる。そのため、前端部111の係合溝112が突起124に引っ掛ってしまうことを防止できる。
【0046】
また、第1実施形態に係るラム110及びガスケット100によれば、ガスケット100とラム110とを連結する際に、ガスケット100に対してラム110がガタつくことを抑制できる。さらに、ガスケット100とラム110とが直接連結されるため、シリンジ90と押圧部4との間の距離を短くすることができる。そのため、注入システム1内の注入ヘッド2のサイズを小さくすることができる。
【0047】
さらに、第1実施形態に係るシリンジ90によれば、略円状の断面形状を有する場合と比較して、幅方向のサイズを小さくできる。すなわち、シリンジ90の幅を狭くでき、又はシリンジ90のサイズを小さくできる。そして、略楕円状の断面形状を有するようにシリンジ90の高さ方向のサイズを大きくすることによって、同容量かつ小さいシリンジ90を形成できる。その結果、注入ヘッド2を小型化かつ軽量化できる。特に、注入ヘッド2のフレーム内に、ケースに収容された回転伝達機構を備えるアクチュエーターを内蔵する場合には、相乗的に注入ヘッド2を小型化できる。さらに、高さ方向のサイズを大きくすることにより、保持部73との接触面積が増加する。これにより、シリンジ90を安定して固定できる。
【0048】
また、第1実施形態に係るシリンジ90によれば、単にシリンジ90を保持部73に挿入する操作によって、シリンジ90を保持部73に保持させることができる。これにより、シリンジ90を回転させて注入ヘッド2に装着させる操作を省略して、より容易にシリンジ90を装着できる。さらに、シリンジ90の幅が小さくなるため、手が小さいオペレーターであっても容易にシリンジ90を掴むことができる。さらに、幅方向における両側面が平面となるため、テーブル等の平面上に置いた場合に、シリンジ90の転がりを抑制できる。
【0049】
さらに、高さ方向(深さ方向)において、保持部73との距離及び接触面積が増加するため、薬液を安定して注入することができる。すなわち、シリンジ90の幅方向における両側面(内面)がガスケット100を案内する固定ガイドとして機能する。そのため、ガスケット100の摺動時に、注入時の摺動抵抗に起因してガスケット100又は吸子120がシリンダ91に対して回転することを抑制できる。これにより、バックフローの原因となるガスケット100の歪みを抑え、ラム110による前進及び後退を安定して行うことができる。さらに、フランジ92を小さくできるため、シリンダ91製造時に材料を削減してコストダウンすることができる。
【0050】
また、シリンジ90の高さ方向と幅方向とで径が異なるため、オペレーターが視覚的にシリンジ90の向き及び脱着方向を認識できる。また、目盛りをシリンダ91の上面に付すことによって、目盛りを付した部分がホルダー7又はアダプタ8よりも上方に位置する。そのため、オペレーターがより目盛りを見やすくなる。さらに、シリンダ91にエアーが混入した場合に、エアーがシリンダ91内の上部空間に溜まるため、先端部93からより離れた位置にエアーが留まり、患者側に流れ出ることが抑制される。
【0051】
[第2実施形態]
第1実施形態においては、ガスケット100が、シール部材140と吸子120とを備えている。一方、第2実施形態では、ガスケット200が、吸子220とOリング230とを備えている点で、第1実施形態と異なる。以下、図10を参照して第2実施形態について説明するが、第2実施形態の説明においては、第1実施形態との相違点について説明し、第1実施形態で説明した構成要素については同じ参照番号を付し、その説明を省略する。特に説明した場合を除き、同じ参照符号を付した構成要素は略同一の動作及び機能を奏し、その作用効果も略同一である。
【0052】
図10は、前後方向及び高さ方向に沿ったガスケット200の概略断面図である。ガスケット200は、楕円状の断面形状を有する先端部を備える吸子220と、吸子220に嵌められたOリング230とを有している。このOリング230は、吸子220の周面に形成された環状のOリング溝223内に収容されている。そして、このOリング230がシリンダ91の内面と当接することにより、シリンダ91がシールされる。代替的に、Oリング230は、二つ以上であってもよく、この場合には二つ以上のOリング溝223が形成される。
【0053】
また、吸子220は、複数の係合爪222と、係合爪222とOリング溝223との間に形成された環状溝225とを有している。係合爪222の変位を容易にするために、環状溝225が形成された部分は、他の部分と比較して薄肉である。それぞれの係合爪222には、略扇形の凹部229が形成されている。当該凹部229によって、係合爪222の肉厚を薄くすることができる。そのため、係合爪222がより変形しやすくなる。
【0054】
係合爪222に囲まれた中央部分には、底に向かって窄まった形状を有する穴Hが形成されている。この穴Hにラム110が挿入されると、ラム110の前端部111の端面が穴Hの底に当接する。そして、前端部111の端面が穴Hの底に当接した状態において、前端部111の外面と穴Hの内面Sとの間には隙間が生じる。そのため、穴H内に挿入された前端部111は、底の中心に向かって傾斜した内面S上を摺動するように案内される。これにより、前端部111を穴Hの中央に位置合わせすることができる。隣り合う係合爪222同士の間には隙間が形成されており、ガスケット200がシリンダ91を前進すると、隣り合う係合爪222が近づくように各係合爪222が変位する。係合爪222同士の間の隙間は、いずれも同じ長さを有する。これにより、変位時に、それぞれの係合爪222のラム110に対する位置が変動することを抑制できる。
【0055】
各係合爪222は、ラム110の係合溝112と係合する突起224を備えている。この突起224の先端は、ラム110の係合溝112に挿入しやすいように丸みを帯びている。第2実施形態のガスケット200は、第1実施形態と同様に、入口が拡径された穴Hを画定する内面Sと、変形の起点となる環状溝225とを有している。さらに、係合爪222は、外方に向かって突出する突条228を有している。そして、ガスケット200がシリンダ91に組み付けられると、突条228がシリンダ91の拡径部94に受け入れられ、ガスケット200の全体がシリンダ91内に収容される。
【0056】
ラム110とガスケット200とを連結する際には、ラム110が穴Hに挿入され、ラム110の前端部111の端面が穴Hの底に当接する。そして、ラム110がガスケット200を押すと、ガスケット200はシリンダ91内を前進する。ガスケット200が前進すると、係合爪222の突条228は拡径部94と当接する。そして、前進するにつれて、突条228が拡径部94を通り過ぎ、係合爪222は垂線Pに向かって変位する。このとき、係合爪222は、環状溝225の底の中央を起点として変形する。
【0057】
これにより、穴H内において前端部111が垂線Pに対して偏った位置に挿入されていても、前端部111の中心軸が垂線Pと合わされるように、前端部111が変位する。そのため、前端部111の中心軸がガスケット200に対して傾くことを抑制できる。突条228が拡径部94を通り過ぎると、係合爪222が窄まる。そして、窄まった位置にある係合爪222の突起224がラム110の係合溝112内に侵入し、突起224が係合溝112と係合する。これにより、ガスケット200は、ラム110に連結される。また、係合爪222の変位に伴い、環状溝225は広がるように変形する。
【0058】
その後、ガスケット200がシリンダ91内を前進すると、吸子220はシリンダ91内の薬液を押圧する。これにより、薬液が先端部93から押し出される。薬液の注入後は、ラム110が後退し、ラム110と連結しているガスケット200も後退する。そして、突条228が拡径部94に受け入れられる位置まで、ラム110及びガスケット200が後退すると、係合爪222が外方に広がり、変位した係合爪222の突起224が係合溝112から離脱する。
【0059】
また、係合爪222の変位に伴い、環状溝225は元の形状に戻るように狭まる。ラム110がさらに後退すると、ガスケット200は、Oリング230とシリンダ91との間の摩擦力によってシリンダ91内に留まる。その結果、ラム110は、ガスケット200から離脱し、挿入前の位置に後退する。
【0060】
このような第2実施形態に係るラム110及びガスケット200によっても、環状溝225の底の中央を起点として係合爪222が変形する。そのため、複数の係合爪222が吸子220の垂線Pに向かって均等に変位する。これにより、ラム110がガスケット200から離脱する際に、前端部111が垂線Pに対して偏った位置に位置することを抑制できる。そのため、前端部111の係合溝112が突起224に引っ掛ってしまうことを防止できる。
【0061】
また、第2実施形態に係るラム110及びガスケット200によれば、ガスケット200とラム110とを連結する際に、ガスケット200に対してラム110がガタつくことを抑制できる。さらに、ガスケット200とラム110とが直接連結されるため、シリンジ90と押圧部4との間の距離を短くすることができる。そのため、注入システム1内の注入ヘッド2のサイズを小さくすることができる。さらに、幅方向のサイズを小さくできるため、同容量かつ小さいシリンジ90を形成することができる。その結果、注入ヘッド2を小型化かつ軽量化することができる。
【0062】
以上、各実施形態を参照して本発明について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明に反しない範囲で変更された発明、及び本発明と均等な発明も本発明に含まれる。また、上述の各実施形態及び変形例は、本発明に反しない範囲で適宜組み合わせることができる。
【0063】
例えば、係合爪122,222に、切欠き又は穴を形成してもよい。これにより、切欠き又は穴が形成された部分が変形するため、係合爪122,222が変位しやすくなる。また、ガスケット100,200の内面Sは、傾きが異なる2つの面に分割されていてもよい。また、内面Sは、連続する傾斜面又は湾曲面を構成していてもよい。さらに、上記ガスケット100,200は、高さ方向の長さが、当該高さ方向に直行する幅方向の長さよりも長い卵型の外形を有していてもよい。この場合、シリンダ91は、当該卵型の外形と相補的な形状を有している。
【0064】
また、薬液が充填されたシリンジ90は、プレフィルシリンジであってもよい。また、薬液は、手動でシリンジ90に充填されてもよく、注入ヘッド2又は充填器によってシリンジ90に充填されてもよい。さらに、シリンジ90には、RFID又はバーコード等のデーターキャリアを設けることができる。このデーターキャリアには、充填された薬液の情報が記録されている。そして、注入システム1は、注入ヘッド2を介してデーターキャリアから記録された情報を読み取り、薬液の注入量を制御することができる。例えば、制御装置は、読み取った薬液の情報(ヨード量)に基づいて、体重当たりの最適な注入量を計算してコンソールのタッチパネルに表示させることができる。なお、空のシリンジ90に薬液を充填する場合、データーキャリアが設けられた大容量ボトルから薬液を吸引してもよい。これにより、大容量ボトル内の薬液量を監視して、薬液を複数回注入することができる。また、大容量ボトルのデーターキャリアに記録された薬液の情報を読み取って、空のシリンジ90のRFIDタグ等に書き込んでもよい。さらに、読み取った情報を、注入ヘッド2における設定に用いてもよい。
【0065】
さらに、フランジ92の外周の一部に切り欠きを形成してもよい。具体的には、フランジ92は、シリンジ90の中心軸に対して円弧形状となる2つの円弧部と、当該円弧部の間に形成されかつ互いに対向する2つの平坦部を有していてもよい。この場合、アダプタ8には、切り欠きと係合する係合部として、例えばロック爪、凸部、又はラッチを設けることができる。
【0066】
さらに、シリンダ91に拡径部94を形成することに代えて、フランジ92よりも後方に延びるスカート部を形成してもよい。このスカート部の内面は傾斜しており、係合爪122が広がった位置に位置するように、係合爪122の突条128を受け入れる。そのため、スカート部の内寸は、広がった状態の係合爪122の外寸と一致するように設定されている。すなわち、スカート部は、先端部93に向かって窄まる形状を有している。その結果、スカート部の内側に挿入されたガスケット100の係合爪122は窄まった位置に変位しない。または、係合爪122がわずかに変位する場合であっても、対向する突起124同士の間隔はラム110を挿入可能な状態を維持できる。
【0067】
この場合、ラム110の前端部111の挿入後、ラム110がガスケット100を押すと、ガスケット100はシリンダ91内を前進する。ガスケット100が前進すると、係合爪122の突条128はスカート部を通過して、シリンダ91の内面と当接する。そして、前進するにつれて、シリンダ91の内面からの反力によって、係合爪122は、吸子120の穴Hの中心に向かって変位する。
【0068】
さらに、シリンダ91に拡径部94を形成することに代えて、ガスケット100の後部を、シリンダ91から外方に突出させてもよい。この場合、ラム110がガスケット100を押すと、ガスケット100はシリンダ91内を前進する。ガスケット100が前進すると、係合爪122の突条128がシリンダ91の後端を乗り越えてシリンダ91の内面と当接する。そして、突条128がシリンダ91の後端を乗り越える際に、シリンダ91の内面からの反力によって、係合爪122は、吸子120の垂線Pに向かって変位する。
【0069】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
【0070】
[付記1]
入口が拡径された穴を画定する内面と、前記穴の中心を通る垂線から離れる方向に突出する突条とを含む複数の係合爪であって、広がった位置と窄まった位置との間で変位する係合爪を有するガスケットと、
前記係合爪と係合するように、前記穴に挿入されるラムと、
前記ガスケットが挿入されるシリンダであって、挿入後の前記ガスケットの前記係合爪の前記突条と当接するシリンダと、
前記ラムを前進させるように構成され、前記シリンダ内の薬液を注入する注入装置とを備え、
前記ガスケットには、前記係合爪の変形の起点となる環状溝が形成されている、注入システム。
【0071】
[付記2]
前記シリンダの後端部には、前記突条を受け入れる拡径部が形成されている、付記1に記載の注入システム。
【0072】
この出願は2018年10月24日に出願された日本国特許出願第2018-200114号からの優先権を主張し、その全内容を引用してこの出願の一部とする。
【符号の説明】
【0073】
1:注入システム、2:注入装置、91:シリンダ、100:ガスケット、110:ラム、200:ガスケット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10