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特許7412353微生物感染の治療における使用のためのジルチアゼム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】微生物感染の治療における使用のためのジルチアゼム
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/554 20060101AFI20240104BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20240104BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240104BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240104BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20240104BHJP
   A61K 38/21 20060101ALN20240104BHJP
【FI】
A61K31/554
A61P31/14
A61P31/04
A61K45/00
A61K9/72
A61K38/21
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020565368
(86)(22)【出願日】2019-05-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-24
(86)【国際出願番号】 FR2019051186
(87)【国際公開番号】W WO2019224489
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2022-05-09
(31)【優先権主張番号】1854307
(32)【優先日】2018-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】503161615
【氏名又は名称】ウニベルシテ クロード ベルナール リヨン 1
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(73)【特許権者】
【識別番号】514077888
【氏名又は名称】エコール ノルマル シュペリウール ドゥ リヨン
(73)【特許権者】
【識別番号】507241492
【氏名又は名称】アンスティトゥート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシャルシュ・メディカル・(インセルム)
(73)【特許権者】
【識別番号】517325825
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ラヴァル
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マニュエル・ローザ-カラトラヴァ
(72)【発明者】
【氏名】オリヴィエ・テリエ
(72)【発明者】
【氏名】クレール・ニコラ・ドゥ・ランバルリー
(72)【発明者】
【氏名】ギイ・ボワヴァン
(72)【発明者】
【氏名】マリオ・アンドレ・ピゾルノ
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/126071(WO,A1)
【文献】特表2018-508587(JP,A)
【文献】国際公開第2011/066657(WO,A1)
【文献】特表2007-533667(JP,A)
【文献】Cell Host Microbe,2018年05月17日,Vol.23,pp.809-818,e1-e5,https://doi.org/10.1016/j.chom.2018.04.015
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/33-33/44
A61P 1/00-43/00
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61K 38/21
A61K 45/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気道及び/又は腸管の上皮の少なくとも1つの病原性微生物による感染の予防及び/又は治療に使用するための、III型インターフェロンをコードする少なくとも1つの遺伝子の発現を活性化するための薬剤であって、
前記薬剤はジルチアゼムを含み、
前記病原性微生物は、以下の微生物:
― ヒト呼吸器合胞体ウイルス(hRSV)、パラインフルエンザウイルス(hPIV)、及び、ヒトメタニューモウイルス(hMPV)から選択される、ウイルス;並びに、
― 細菌Pseudomonas aeruginosa
から選択される、薬剤
【請求項2】
前記少なくとも1つの遺伝子が、インターロイキン29をコードする遺伝子、インターロイキン28Aをコードする遺伝子、及びインターロイキン28Bをコードする遺伝子から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の薬剤
【請求項3】
病原性微生物が、ヒト呼吸器合胞体ウイルス(hRSV)であることを特徴とする、請求項1に記載の薬剤
【請求項4】
病原性微生物が、パラインフルエンザウイルス(hPIV)であることを特徴とする、請求項1に記載の薬剤
【請求項5】
病原性微生物が、メタニューモウイルス(hMPV)であることを特徴とする、請求項1に記載の薬剤
【請求項6】
病原性微生物が、細菌Pseudomonas aeruginosaであることを特徴とする、請求項1に記載の薬剤
【請求項7】
感染が、少なくとも1つのウイルス、及び少なくとも1つの細菌による同時感染であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の薬剤
【請求項8】
少なくとも1つの他の活性剤と組み合わせて使用されることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の薬剤
【請求項9】
前記他の活性剤が、抗ウイルス化合物、抗菌化合物、抗寄生虫化合物、抗真菌化合物、及び予防的又は治療的ワクチンから選択されることを特徴とする、請求項8に記載の薬剤
【請求項10】
気道及び/又は腸管の上皮の少なくとも1つの病原性微生物による感染の予防及び/又は治療に使用するための、III型インターフェロンをコードする少なくとも1つの遺伝子の発現を活性化するための薬剤としてのジルチアゼムを含む医薬組成物又は動物用組成物であって、
前記病原性微生物は、以下の微生物:
― ヒト呼吸器合胞体ウイルス(hRSV)、パラインフルエンザウイルス(hPIV)、及び、ヒトメタニューモウイルス(hMPV)から選択される、ウイルス;並びに、
― 細菌Pseudomonas aeruginosa
から選択される、医薬組成物又は動物用組成物
【請求項11】
吸入による投与に適したガレヌス形態であることを特徴とする、請求項10に記載の使用のための医薬組成物又は動物用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病原性微生物による感染の予防及び/又は治療における使用のための化合物に関する。
【0002】
より特に、本発明は、気道及び/又は腸管の上皮の病原性微生物による感染の予防及び/又は治療における使用のための化合物に関する。
【背景技術】
【0003】
気道及び/又は腸管の上皮の病原性微生物による感染
急性呼吸器感染症(ARI)は、世界的に、診察、入院、及び死亡の主な原因の1つであり、特に年間200万人近くの幼児が死亡する結果をもたらしている。毎年、これらの様々な呼吸器感染の治療を試みるために、社会に対する費用は15~20億ユーロと見積もられている。
【0004】
ARIの原因となる病原因子のうち、ウイルスが大半を占めている。ウイルスは小児肺炎のほとんどの場合に検出され、成人における細菌性肺炎の素因である。頻度及び罹患率の観点から最も代表的なウイルスには、再発性パンデミックリスク因子でもあるインフルエンザA及びインフルエンザBのウイルス、並びに呼吸器合胞体ウイルス(hRSV又はhVRS)、パラインフルエンザウイルス(hPIV)、及びヒトメタニューモウイルス(hMPV)が挙げられる。更に、SARS及び最近報告されたMERS-CoVウイルス等、Coronaviridae科の新規ウイルスの出現は、新たに出現した深刻な健康問題である可能性が非常に高い。
【0005】
ARIの原因となる他の因子は細菌である。最も代表的な病原菌には、S.pneumonia、P.aeruginosa、S.aureus、及びH.Influenzaが挙げられる。これらの病原菌は、呼吸器の同時感染における同時罹患率及び同時死亡率の増加に寄与する病原因子であり、かつヒトと動物の両方において従来の抗生物質治療の有効性に根本的に挑戦する抗生物質耐性菌株の出現及び蔓延の増加の原因となる。
【0006】
インフルエンザウイルスを除いて、現在、これらの様々な呼吸器病原性ウイルスによる感染を予防又は治療することにおいて効果的なワクチン又は抗ウイルス分子は存在していない。更に、インフルエンザウイルスの場合、ワクチン接種の送達スケジュール、及び変化しやすい効能、並びに抗ウイルス剤に耐性のあるウイルスの出現の増加が、今日非常に懸念されている。
【0007】
現在、呼吸器合胞体ウイルス(hRSV)及びヒトメタニューモウイルス(hMPV)に対する特定のワクチン又は治療は存在していない。Pneumoviridae科のこれらのウイルスは、エンベロープウイルス(150~600nm)であり、セグメント化されていない一本鎖マイナス鎖RNAゲノムを持つ。Fタンパク質及びGタンパク質をコードする遺伝子の系統発生分析により、hRSVのようなhMPVをそれぞれ2つの主要な群A及びBに分割し、これらの各群を2つの亜群A1、A2、B1、又はB2に更に分割することができる。これらのニューモウイルスに関連する病理は、主に小児細気管支炎、成人における風邪及びインフルエンザ様症状、又は高齢者若しくは免疫抑制性患者における重度の肺炎である。
【0008】
同様に、現在、ヒトパラインフルエンザウイルス(hPIV)に対する特定のワクチン又は治療は存在していない。1950年代後半に発見されたこれらのウイルスは、Paramyxoviridae科に属する、一本鎖マイナス鎖RNAゲノムを持つエンベロープウイルス(150~250nm)である。それらは遺伝的及び抗原的に4つの型(1~4)に分割される。hPIV-4の他の主要な亜型(A及びB)、及びhPIV-1及びhPIV-3の亜群/遺伝子型の他の主要な亜型が記載されてきた。hPIV-1からhPIV-3のウイルスは、乳幼児、幼児、免疫抑制性者、慢性疾患者、及び高齢者における下気道感染の主な原因である。それらは特に肺炎を引き起こすことが可能である。
【0009】
重複感染の原因となる病原菌の抗生物質耐性に関して、欧州疾病予防管理センターは、欧州において年間25,000人の死亡が抗生物質耐性に起因すると推定している。米国では、アトランタにあるCDCによって同程度の超過死亡率が観察されている。2050年までの抗生物質耐性の影響に関するLord J.O'Neilによる報告にモデル化されているとおり、耐性の増加は、その数の劇的な増加が原因であると考えられている。
【0010】
2017年2月にWHOは、世界的な脅威を示す耐性菌の一覧を公開した。とりわけ、P.aeruginosaは、多数の抗生物質に対して耐性であるため、重大な緊急性がある。メチシリン(MRSA)に耐性であるS.pneumoniae及びS.Aureusは、特に最も感受性のある患者において、様々な肺及び骨の感染、並びに敗血症の原因となる。
【0011】
これらの細菌の中で、Pseudomonas aeruginosaは、環境中に見られる、かつ50%を超える入院患者の気道に見られるグラム陰性桿菌である。P.aeruginosaは、複数の環境条件において生存する能力を持つ遍在性微生物である。この微生物は、植物や動物だけでなく、ヒトにも疾患を引き起こし、免疫抑制性の癌患者、及び重度の火傷又は嚢胞性線維症に罹患する患者に深刻な感染を引き起こす。
【0012】
Pseudomonas aeruginosaの感染の標準的な抗生物質療法は、ベータラクタム(セフタジジム、イミペネム又はメロペネム、ピペラシリン/タゾバクタム)と、アミノグリコシド(トブラマイシン、アミカシン)及び/又はフルオロキノロンとを組み合わせたものである。Pseudomonas aeruginosaの多耐性株の出現は(ベータラクタム、アミノグリコシド、フルオロキノロンの3つの主要なクラスのうち少なくとも2つのうちの全ての抗生物質に対する耐性)、治療手段(therapeutic arsenal)が非常に限定されているため、抗生物質の選択の問題を突きつけている。
【0013】
したがって、新しい予防的及び治療的な治療を開発することは、主要な公衆衛生の目的である。これらの病原体による感染を治療する新しい戦略の達成は、病原体の細胞生物学、並びに病原体の分子的及び宿主との機能的な相互作用をより良く特徴づけることに主に基づく。
【0014】
腸管感染もまた入院の主な原因であり、場合によっては死に至る。先進国では、免疫応答性の成人における急性胃腸炎の最も一般的な原因は、ノロウイルス及びロタウイルス、並びに以下の種及び属の細菌:Campylobacter属種、Salmonella属種、Escherichia coli、Staphylococcus aureus、Bacillus cereus、及びClostridium difficileである。
【0015】
III型インターフェロン
ラムダ(λ)インターフェロンとしても知られるIII型インターフェロンは、炎症応答を引き起こすことなく、病原体の播種の初期阻害に寄与することにより、気道及び腸管の上皮における第一線の抗菌性防御を構成する(Andreakosら、2017)。これらのIII型インターフェロンは、Toll様受容体又は細胞質エフェクター等の宿主の細胞センサーの病原体活性化に応答して非常に早期に効果的に産生される。これらのIII型インターフェロンは、(JAK/STAT経路の活性化を介して)多数のいわゆるインターフェロン刺激遺伝子(ISG)の発現を活性化し、これにより、例えばウイルスの細胞侵入(IFITM遺伝子)、又はウイルスの複製(OAS、OASL、IFIT1、IFIT2、IFIT13、ISG15の遺伝子)を不活性化することにより、呼吸器病原体に対する阻害活性がもたらされる。
【0016】
「III型インターフェロン」応答として知られるこの初期の抗病原性応答は、インフルエンザウイルスによる感染に対する気道上皮の初期の先天性応答において著しく優勢である(Galaniら、2017)。
【0017】
III型インターフェロンは、B型及びC型肝炎感染の治療に関する臨床試験において、すでに評価されており、I型インターフェロンによる治療と比較して、重大な副作用が少ないことが実証されている(Chanら、2016)。近年、インフルエンザウイルス感染の非炎症性抗ウイルス治療としてのIII型インターフェロンの使用が提示されている(Davidsonら、2016)。
【0018】
気道及び/又は腸管の上皮の感染、特にこれらの上皮のウイルス感染と戦うために、1つ又は複数のIII型インターフェロンの内因性産生を刺激することは有利であろう。
【0019】
しかしながら、現在、この刺激活性を有する治療的化合物は未知である。したがって、これまでのところ、外因性のIII型インターフェロンの投与のみが試験されてきた。
【0020】
カルシウムチャネル遮断薬であるジルチアゼム
ジルチアゼムは、CAS番号42399-41-7の下に一覧されるベンゾチアゼピンファミリーの分子である。この分子は、2つの鏡像異性体であるL-cis及びD-cis、又はラセミ混合物の形態で存在することができる。
【0021】
ジルチアゼムは30年より前から知られており、欧州及び米国において医薬品規制当局によって承認されている。ジルチアゼムはジルチアゼム塩酸塩の形態で投与することができる。Cardizem(登録商標)、Cartia(登録商標)、Taztia(登録商標)、及びDilacor(登録商標)が最も一般的な商品名である。
【0022】
多くの製剤、特に徐放性製剤が入手可能である。ジルチアゼムは、局所適用のためのクリーム形態、経口投与のための錠剤又はカプセル形態、注射可能な溶液の調製のための粉末形態、又は吸入のための医薬調製物の形態等、様々なガレヌス形態(galenic form)で入手可能である(WO2002/094238、米国特許第4,605,552号)。
【0023】
ジルチアゼムの既知の生理学的作用は、カルシウムチャネルの阻害であり、したがって細胞内カルシウムの流れの阻害である。特に、ジルチアゼムは、膜貫通型カルシウムが血管の心筋線維及び平滑筋線維に入るのを阻害する。これにより、収縮性タンパク質に到達する細胞内カルシウム濃度が低下する。
【0024】
ヒトにおけるジルチアゼムの投与は、心臓の働きを減少させることを目的とした血管拡張作用に適応される。したがって、これは狭心症、高血圧、心筋虚血、及び頻脈等の心臓障害及び循環器障害の管理に使用される。
【0025】
ジルチアゼムの他の治療的用途はまた、該文献で提示されているが、これらの新しい治療的適用について規制当局によって承認された医薬品は存在していない。
【0026】
国際特許出願WO1987/07508は、サイトメガロウイルス又はヘルペスに関連するウイルス感染の治療のための、ジルチアゼム等の細胞へのカルシウム流入を阻害する治療的化合物の使用を記載している。
【0027】
国際特許出願WO2011/066657は、ウイルス及び/又は細菌感染、又は自己免疫疾患の治療又は予防のための、ベラパミル又はジルチアゼム等のカルシウムチャネル遮断薬の使用を記載している。関係するウイルスは、特に口唇ヘルペス、性器ヘルペス、及び帯状疱疹である。
【0028】
国際特許出願WO2011/126071は、ウイルス感染、特にインフルエンザウイルスに関連する感染の治療のための、ジルチアゼム等の細胞へのカルシウム流入を阻害する化合物の使用を記載している。ジルチアゼムはウイルスとカルシウムチャネルとの間の相互作用を阻害し、それによってウイルスの細胞への侵入を遮断することが特に説明されている。
【0029】
国際特許出願WO2016/146836は、インフルエンザウイルス感染の予防及び/又は治療における使用のためのジルチアゼムを含有する医薬組成物又は動物用組成物を開示している。
【0030】
欧州特許第1117408号は、網膜光受容体の変性に関連する病理を治療するためのカルシウムチャネル遮断薬化合物としてのジルチアゼムの使用を記載している。
【0031】
しかしながら、ジルチアゼムの全ての有益な作用は、おそらく未だ調査されておらず、医薬品としてのジルチアゼムに関連する技術的効果は、現時点ではおそらく全て知られてはいない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0032】
【文献】WO2002/094238
【文献】米国特許第4,605,552号
【文献】WO1987/07508
【文献】WO2011/066657
【文献】WO2011/126071
【文献】WO2016/146836
【文献】欧州特許第1117408号
【非特許文献】
【0033】
【文献】Andreakos E, Salagianni M, Galani IE, Koltsida O. Interferon-λs: Front-Line Guardians of Immunity and Homeostasis in the Respiratory Tract. Front Immunol. 2017 Sep 29;8:1232.
【文献】Galani IE, Triantafyllia V, Eleminiadou EE, Koltsida O, Stavropoulos A, Manioudaki M, Thanos D, Doyle SE, Kotenko SV, Thanopoulou K, Andreakos E. Interferon-λ Mediates Non-redundant Front-Line Antiviral Protection against Influenza Virus Infection without Compromising Host Fitness. Immunity. 2017 May 16;46(5):875-890.e6.
【文献】Chan HLY, Ahn SH, Chang TT, Peng CY, Wong D, Coffin CS, Lim SG, Chen PJ, Janssen HLA, Marcellin P, Serfaty L, Zeuzem S, Cohen D, Critelli L, Xu D, Wind-Rotolo M, Cooney E; LIRA-B Study Team. Peginterferon lambda for the treatment of HBeAg-positive chronic hepatitis B: A randomized phase 2b study (LIRA-B). J Hepatol. 2016 May;64(5):1011-1019.
【文献】Davidson S, McCabe TM, Crotta S, Gad HH, Hessel EM, Beinke S, Hartmann R, Wack A. IFNλ is a potent anti-influenza therapeutic without the inflammatory side effects of IFNα treatment. EMBO Mol Med. 2016 Sep 1;8(9):1099-112.
【文献】Donnelly RP, Kotenko SV. Interferon-lambda: a new addition to an old family. J Interferon Cytokine Res. 2010 Aug;30(8):555-64.
【文献】Kotenko SV, Gallagher G, Baurin VV, Lewis-Antes A, Shen M, Shah NK, Langer JA, Sheikh F, Dickensheets H, Donnelly RP. IFN-lambdas mediate antiviral protection through a distinct class II cytokine receptor complex. Nat Immunol. 2003 Jan;4(1):69-77.
【文献】O'Brien TR, Prokunina-Olsson L, Donnelly RP. IFN-λ4: the paradoxical new member of the interferon lambda family. J Interferon Cytokine Res. 2014 Nov;34(11):829-38. doi: 10.1089/jir.2013.0136.
【文献】Galani IE(1), Triantafyllia V, Eleminiadou EE, Koltsida O, Stavropoulos A, Manioudaki M, Thanos D, Doyle SE, Kotenko SV, Thanopoulou K, Andreakos E. Interferon-λ Mediates Non-redundant Front-Line Antiviral Protection against Influenza Virus Infection without Compromising Host Fitness. Immunity. 2017 May 16;46(5):875-890.e6. doi: 10.1016/j.immuni.2017.04.025.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0034】
本発明の開示
本発明の根底にある技術的な問題は、気道及び/又は腸管の上皮の病原性微生物による感染を予防及び/又は治療することを目的として、III型インターフェロンタンパク質をコードする遺伝子の発現を刺激する分子の同定に関する。
【0035】
実際に、気道及び/又は腸管の微生物による感染の場合、炎症応答を誘導することなく、よって免疫系の過剰刺激を回避して、これらの病原体に対する身体的応答を刺激することが有利である。
【0036】
しかしながら、現在、この活性を有する治療的化合物は未知である。
【0037】
それ故、インターロイキン29、インターロイキン28A及び/又はインターロイキン28B等のタンパク質をコードする遺伝子の発現を刺激する能力を有する治療的化合物が積極的に求められている。
【課題を解決するための手段】
【0038】
驚くべきことに、本発明者らは、カルシウムチャネル遮断薬であるジルチアゼムはまた、インビトロ及びインビボの両方で、III型インターフェロンタンパク質をコードするこれらの遺伝子の発現に対して刺激作用を有するという事実を実証した。
【0039】
更に、本発明者らは、ジルチアゼムが、I型及びIII型インターフェロンによって活性化されることが知られている、いわゆるインターフェロン刺激遺伝子(ISG)の群の発現を活性化するという事実を実証した。ISGによってコードされるタンパク質は、抗菌作用に関与し、及び/又は「インターフェロン」シグナル伝達に関わる。
【0040】
したがって、ジルチアゼムは、様々な治療的適用に使用することができ、特に気道及び/又は腸管の上皮の少なくとも1つの病原性微生物による感染を予防及び/又は治療するために使用することができる。
【0041】
ジルチアゼムは、1つ又は複数のIII型インターフェロンをコードする遺伝子の発現を活性化する薬剤としての能力において、ウイルス感染又は細菌感染の治療に特に適しているだけでなく、少なくとも1つのウイルス及び少なくとも1つの細菌、又は少なくとも2つのウイルス、又は少なくとも2つの細菌の存在に関する同時感染の治療にも適しており、一次ウイルス感染と同時の細菌の重複感染の治療に特に適している。
【0042】
本発明は、III型インターフェロンをコードする少なくとも1つの遺伝子の発現を活性化する薬剤としての使用のためのジルチアゼムに関する。
【0043】
本主題に関する豊富な科学文献の観点から、当業者が知るとおり、「インターフェロンIII経路」の活性化は、多くの生理学的障害、特に病原体による感染に関連する生理学的障害を治療することを可能にする。
【0044】
特に、本発明は、気道及び/又は腸管の上皮の少なくとも1つの病原性微生物による感染の予防及び/又は治療における、III型インターフェロンをコードする少なくとも1つの遺伝子の発現を活性化する薬剤としての使用のためのジルチアゼムに関する。
【0045】
本発明はまた、気道及び/又は腸管の上皮の少なくとも1つの病原性微生物による感染の予防及び/又は治療における、少なくとも1つのいわゆるISGの発現を活性化する薬剤としての使用のためのジルチアゼムに関する。
【0046】
本発明はまた、気道及び/又は腸管の上皮の病原性微生物による感染の予防及び/又は治療に使用するための、III型インターフェロンをコードする少なくとも1つの遺伝子の発現を活性化する薬剤としてジルチアゼムを含む医薬組成物又は動物用組成物に関する。
【0047】
特定の態様によれば、医薬組成物又は動物用組成物は、吸入による投与に適するガレヌス形態であることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1A】鼻由来の再構成ヒト気道上皮(MucilAir(登録商標)HAE、Epithelix社)の3Dモデルの基底外側ジルチアゼム治療によるIII型インターフェロン遺伝子発現の誘導の特徴づけ図1Aは、- 基底外側極での培養培地を介してジルチアゼム(90μM、合計3回投与)で3日間治療した再構成ヒト気道上皮(MucilAir(登録商標)HAE、Epithelix社)、及び- 未治療の再構成ヒト気道上皮(基礎発現レベル1)、との間のRNA配列によって測定されるIII型インターフェロンであるIFN-λ1、IFN-λ2、及びIFN-λ3(それぞれIFNL1、IFNL2、及びIFNL3と表示)をコードする遺伝子の発現比を示す図である。
図1B】鼻由来の再構成ヒト気道上皮(MucilAir(登録商標)HAE、Epithelix社)の3Dモデルの基底外側ジルチアゼム治療によるIII型インターフェロン遺伝子発現の誘導の特徴づけ図1Bは、- 基底外側極での培養培地を介してジルチアゼム(90μM、合計3回投与)で3日間治療した再構成ヒト気道上皮、及び- 未治療の再構成ヒト気道上皮(基礎発現レベル1)、との間のRNA配列によって測定されるIFI44L、IFIT1、IFIT2、IFIT3、IFITM1、ISG15、MX1、MX2、OAS1、OAS2、OAS3、OASL、RSAD2、及びSTAT1をコードする遺伝子の発現比を示す図である。該分析の残りの部分では、発現差が2以上、及び補正されたp値が0.05未満を示す遺伝子のみを考慮した。
図1C】鼻由来の再構成ヒト気道上皮(MucilAir(登録商標)HAE、Epithelix社)の3Dモデルの基底外側ジルチアゼム治療によるIII型インターフェロン遺伝子発現の誘導の特徴づけ図1Cは、鼻由来の再構成ヒト気道上皮の3Dモデルの頂端ジルチアゼム治療によって誘導されるIFNL1遺伝子の発現を示す図である。再構成ヒト気道上皮(MucilAir(登録商標)HAE、Epithelix社)を、0日にて頂端極によって投与される90μMのジルチアゼムの単回投与で治療した、又は治療しなかった(模擬)。治療後24時間にて、細胞を溶解し、全てのRNAを抽出した。逆転写後、IFNL1遺伝子の発現をRT-qPCR(TaqMan、Thermo Fisher Scientific社)にて測定した。データは、ハウスキーピング遺伝子GAPDHを使用して正規化した。発現率は、2ΔΔCt法(Livak及びSchmittgen、2001)に基づく計算を使用して計算した。
図2】ジルチアゼムによるIII型インターフェロン応答に関連する8つの遺伝子の誘導のRt-qPCRによる確認図2は、- 基底外側極を介してジルチアゼムで3日間治療した(90μM)、再構成ヒト気道上皮(図の右の列)、及び- 未治療の再構成ヒト気道上皮(図の右の列)、との間の、IFIT1、IFIT2、IFIT3、IFI27、IFN-λ1(IFNL1)、IFN-λ2(IFNL2)、IFI44L及びIFITM1の遺伝子の発現比を示す図である。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、及び****p<0.0001(未治療の上皮と比較)。
図3】インターフェロンラムダ1(IL-29)分泌のELISA測定図3は、基底外側極を介してジルチアゼムで治療した(90μM、合計3日間連続の3回投与)、及び治療しなかった再構成ヒト気道上皮の頂端極及び基底外側極でのインターフェロンラムダ1(IL-29)の分泌レベル(pg/mL)を、治療の72時間後にELISAによって測定した図である。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、及び****p<0.0001(未治療の上皮と比較)。
図4A】ジルチアゼム治療は、感染した再構成ヒト気道上皮(MucilAir(登録商標)HAE、Epithelix社)内の、及びチャレンジ感染後のBALB/cマウスモデル(インビボ)での呼吸器合胞体ウイルス(RSV)の複製を減少させる。図4Aは、ヒト気道上皮の基底外側極を介した治療の時系列の概略図である。RSV感染後(0日)、再構成された上皮を、感染後5時間(感染後5h)、及びその後の3日間は毎日(感染後1、2、3日)ジルチアゼムで治療する、又は治療しない(未治療)。ウイルスの定量は、感染後6日に実施される。
図4B】ジルチアゼム治療は、感染した再構成ヒト気道上皮(MucilAir(登録商標)HAE、Epithelix社)内の、及びチャレンジ感染後のBALB/cマウスモデル(インビボ)での呼吸器合胞体ウイルス(RSV)の複製を減少させる。図4Bは、治療又は未治療の上皮の頂端極、すなわち、上皮の培養上清における、RNAの全量に関連するRSVウイルスゲノムのコピー数のRT-qPCRによる(F遺伝子のコピーを定量することによる)定量を示す図である。
図4C】ジルチアゼム治療は、感染した再構成ヒト気道上皮(MucilAir(登録商標)HAE、Epithelix社)内の、及びチャレンジ感染後のBALB/cマウスモデル(インビボ)での呼吸器合胞体ウイルス(RSV)の複製を減少させる。図4Cは、治療又は未治療の上皮内のRNAの全量に関連するRSVウイルスゲノムのコピー数のRT-qPCRによる(F遺伝子のコピーを定量することによる)定量を示す図である。
図4D】ジルチアゼム治療は、感染した再構成ヒト気道上皮(MucilAir(登録商標)HAE、Epithelix社)内の、及びチャレンジ感染後のBALB/cマウスモデル(インビボ)での呼吸器合胞体ウイルス(RSV)の複製を減少させる。図4Dは、感染の時系列及びマウスの経口投与(経口)での治療の概略図である。RSV感染後(5×105PFU/マウス、0日)、マウスを、感染後5時間(感染後5h)、及びその後の2日間は毎日(感染後1日及び2日)、リバビリン(40mg/kgの腹腔内/マウス)を使用して、又はその後の4日間は毎日(感染後1、2、3、及び4日)、ジルチアゼム(50mg/kgの経口投与/マウス)を使用して、治療した、又は治療しなかった(PBS対照群)。肺のウイルスの定量を、感染後5日に実施する。
図4E】ジルチアゼム治療は、感染した再構成ヒト気道上皮(MucilAir(登録商標)HAE、Epithelix社)内の、及びチャレンジ感染後のBALB/cマウスモデル(インビボ)での呼吸器合胞体ウイルス(RSV)の複製を減少させる。図4Eは、感染後5日(感染後日数)にて、リバビリン(RSV RIB)又はジルチアゼム(RSV DIL)で治療、及び未治療(RSV PBS)のマウスの肺から抽出されたRNAの全量に関連するRSVウイルスゲノムのコピー数のRT-qPCRによる(F遺伝子のコピーを定量することによる)定量を示す図である。
図5A】ジルチアゼム治療は、再構成ヒト気道上皮モデル(MucilAir(登録商標)HAE、Epithelix社)におけるヒトパラインフルエンザウイルス(hPIV)の複製を減少させる。図5Aは、ヒト気道上皮の基底外側極を介した治療の時系列の概略図である。感染多重度(MOI)が0.1にて(0日)、hPIV-3ウイルスに感染した後、再構成された上皮を、感染後5時間(感染後5h)、及びその後の4日間は毎日(感染後24、48、72、96時間)ジルチアゼムで治療する、又は治療しない(未治療)。ウイルスの定量は、感染性滴定(TCID50/mL)によって感染後120時間にて実施する。
図5B】ジルチアゼム治療は、再構成ヒト気道上皮モデル(MucilAir(登録商標)HAE、Epithelix社)におけるヒトパラインフルエンザウイルス(hPIV)の複製を減少させる。図5Bは、感染後96時間(上)及び120時間(下)でのhPIV-3ウイルスによって誘導される細胞変性効果が、未治療の再構成ヒト気道上皮(左の画像)では顕微鏡下でより大きくかつ簡単に確認でき、ジルチアゼムで治療した再構成ヒト気道上皮(右の画像)とは異なることを示す図である。
図5C】ジルチアゼム治療は、再構成ヒト気道上皮モデル(MucilAir(登録商標)HAE、Epithelix社)におけるヒトパラインフルエンザウイルス(hPIV)の複製を減少させる。図5Cは、上皮の完全性を反映する経上皮電気抵抗(TEER)を、感染後48時間から感染後120時間まで1日に1回測定した図である。治療を行わなかった場合、感染した再構成ヒト気道上皮のTEER値は、感染後24時間から有意に減少し、ジルチアゼムで治療されたものとは異なる。
図5D】ジルチアゼム治療は、再構成ヒト気道上皮モデル(MucilAir(登録商標)HAE、Epithelix社)におけるヒトパラインフルエンザウイルス(hPIV)の複製を減少させる。図5Dは、上皮の頂端極で取得した試料のウイルス力価(TCID50/mL)を、感染後48時間から感染後120時間まで取得した洗浄液からのLLC-MK2細胞において測定した図である。治療を行わなかった場合、再構成ヒト気道上皮の頂端表面にて測定したウイルス力価は、感染後72時間で約108TCID50/mLの値で、及び感染後96時間で107TCID50/mLの値でピークに達した。ジルチアゼムで治療した再構成ヒト気道上皮は異なり、感染後72時間(約106TCID50/mL)及び感染後96時間(105TCID50/mL)で有意により低い値を示した。
図6A】ジルチアゼム治療は、再構成ヒト気道上皮モデル(MucilAir(登録商標)HAE、Epithelix社)におけるPseudomonas aeruginosaによる細菌感染を減少させる。図6Aは、ヒト気道上皮の治療の時系列の概略図である。再構成ヒト気道上皮は、感染の24時間前に、基底外側培地を介して90μMのジルチアゼムで治療、或いは頂端表面で10μLのジルチアゼム(90μM)で治療し、MOIが1にてPseudomonas aeruginosa(PAK株)で感染させ、感染後2時間に同じ条件下で、それぞれジルチアゼムで再度治療した。
図6B】ジルチアゼム治療は、再構成ヒト気道上皮モデル(MucilAir(登録商標)HAE、Epithelix社)におけるPseudomonas aeruginosaによる細菌感染を減少させる。図6Bは、これらの実験条件下(n=2)で、感染後24時間でヒト気道上皮の頂端表面から回収された細菌の数は、基底外側培地においてジルチアゼムで治療したヒト気道上皮の頂端表面から回収された細菌の数よりも有意に少なかったことを示す図である(それぞれ、115CFU及び106CFU対76CFU及び106CFU、*p<0.05)。
図6C】ジルチアゼム治療は、再構成ヒト気道上皮モデル(MucilAir(登録商標)HAE、Epithelix社)におけるPseudomonas aeruginosaによる細菌感染を減少させる。図6Cは、ジルチアゼムでの頂端治療の観点では、Pseudomonas aeruginosaに対する同様の効果が感染後24時間にて観察され(n=2)、未治療のものと比較して、ジルチアゼムで治療したヒト気道上皮の頂端表面から採取された細菌が減少したことを示す図である(それぞれ、87CFU及び106CFU対63.5CFU及び106CFU)。
図7A】ジルチアゼム治療は、再構成ヒト気道上皮モデル(MucilAir(登録商標)HAE、Epithelix社)におけるヒトメタニューモウイルス(hMPV)の複製を減少させる。図7Aは、ヒト気道上皮の治療の時系列の概略図である。MOIが0.1にて、組換えhMPV-GFPウイルス(C-85473株)による感染後、該上皮を、感染後の0日(感染後5h)、1日及び3日にて90μMのジルチアゼムを3回連続投薬することにより、治療した(基底外側培地を介して)、又は治療しなかった(1つの条件あたり3つの上皮)。ウイルスの定量は、感染後3日(上清)及び感染後5日(全上皮)にて実施される。
図7B】ジルチアゼム治療は、再構成ヒト気道上皮モデル(MucilAir(登録商標)HAE、Epithelix社)におけるヒトメタニューモウイルス(hMPV)の複製を減少させる。図7Bは、ウイルス複製に対するジルチアゼム治療の影響を観察するために、感染後4日にて落射蛍光顕微鏡観察を実施した図である。治療を行わなかった場合、GFPのウイルス発現に対応する蛍光がほぼ全ての上皮で感染後4日にて観察されるが(左の画像)、感染後同じ時間にて、ジルチアゼムで治療された感染した上皮では、蛍光細胞はごくわずかである(右の画像)。
図7C】ジルチアゼム治療は、再構成ヒト気道上皮モデル(MucilAir(登録商標)HAE、Epithelix社)におけるヒトメタニューモウイルス(hMPV)の複製を減少させる。感染後3日に、産生された子孫ウイルスを採取するために、ジルチアゼムで治療した、又は治療しなかった感染した上皮の頂端極での洗浄を実施した。図7Cは、ゲノムウイルスRNAを、HMPVのN遺伝子を含有するプラスミドを使用して、RT-qPCR(Biosystems(商標)PowerUp(商標)SYBR(商標)Green、Thermo Fisher Scientific社)によって抽出及び定量した図である。結果は、ウイルスのN遺伝子のコピー数/μg全抽出RNAで表される。
図7D】ジルチアゼム治療は、再構成ヒト気道上皮モデル(MucilAir(登録商標)HAE、Epithelix社)におけるヒトメタニューモウイルス(hMPV)の複製を減少させる。全RNAを抽出するために、感染後5日に、上皮細胞を採取して溶解した。図7Dは、hMPVのNウイルス遺伝子に相当する全RNAを、HMPVのN遺伝子を含有するプラスミドアレイを使用して、RT-qPCR(Biosystems(商標)PowerUp(商標)SYBR(商標)Green、Thermo Fisher Scientific社)によって定量した図である。結果は、ウイルスのN遺伝子のコピー数/μg全抽出RNAで表される。
図8A】BALB/cマウスにおける鼻腔滴下注入後のインビボでのIFN-12(IFNL2)遺伝子発現のジルチアゼム誘導図8Aは、BALB/cマウスの鼻腔内(i.n.)滴下注入による治療の時系列の概略図である。マウスを0日(D0)に治療する(20mg/kg)、又は治療せず(「模擬治療」PBS対照群)、その後の2日間は毎日(D0、D1、及びD2)、又は4日まで48時間ごと(D0、D2、及びD4)のいずれかで治療する、又は治療しない。D5にて、動物の安楽死後に鼻腔を取り出した。
図8B】BALB/cマウスにおける鼻腔滴下注入後のインビボでのIFN-12(IFNL2)遺伝子発現のジルチアゼム誘導図8Bは、IFN-λ2(IFNL2)遺伝子の発現を、RT-qPCRによって測定し、未治療のマウス(模擬治療)において測定された遺伝子発現の基礎レベル(1に等しい)に対する発現の比率として表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
発明の詳細な説明
本発明は、式(1)のCAS番号42399-41-7の下に一覧される、ベンゾチアゼピンファミリーの分子である既知の医薬品であるジルチアゼムの新しい治療的な使用に関する。
【0050】
【化1】
【0051】
本発明の文脈において、「ジルチアゼム」という用語は、その全ての形態、特に塩の形態、及び特に塩酸ジルチアゼムの形態のジルチアゼムを意味する。この用語には、ラセミ混合物、並びに単離された場合、各鏡像異性体を含む。この用語はまた、III型インターフェロンタンパク質の発現を刺激することと同じ生物学的活性を有するジルチアゼム誘導体、すなわち式(1)から誘導される分子を含む。
【0052】
本発明は、III型インターフェロンをコードする少なくとも1つの遺伝子の発現を活性化する薬剤としての使用のためのジルチアゼムに関する。
【0053】
これまで、ジルチアゼムは、カルシウムチャネル阻害作用に使用されてきた。ジルチアゼムの投与は、細胞内カルシウム輸送を阻害することにより、ヒト及び動物の生物に多くの生理学的効果をもたらす。
【0054】
本発明者らは、ジルチアゼムの新しい技術的効果、すなわち、III型インターフェロンをコードする1つ又は複数の遺伝子の発現の活性化を実証した。
【0055】
本発明の好ましい態様によれば、発現が活性化される遺伝子とは、内因性遺伝子、すなわち、いずれの遺伝子改変を受けていない、対象としている生物に固有の遺伝子である。
【0056】
当業者は、様々な生理学的状況におけるIII型インターフェロンの関与に精通しており、科学文献から、III型インターフェロンの発現を活性化するこのような化合物の治療可能性を結論付けることができる。特に、III型インターフェロンの効果に感受性のある細胞、すなわち、その受容体を発現する細胞は、文献において同定されてきた。したがって、ジルチアゼムの使用から利益を得ることができるヒト及び動物の病理は、当業者によって容易に決定されるであろう。
【0057】
より正確には、本発明は、インターロイキン29、インターロイキン28A、及びインターロイキン28Bをコードする遺伝子の発現を活性化する薬剤としての使用のためのジルチアゼムに関する。
【0058】
したがって、初めて、「インターフェロンIII経路」を活性化する治療的化合物、すなわち、III型インターフェロンをコードする1つ又は複数の遺伝子の発現を活性化する薬剤が同定された。これは、この活性を有する同定される最初の化合物である。
【0059】
III型インターフェロン
ラムダ(λ)インターフェロンとしても知られるIII型インターフェロンは、病原性微生物による感染に対するヒト又は動物の生物の防御の第一線を構成する。
【0060】
2003年に初めて示されたこの新しいインターフェロンファミリーには、ヒトにおいて以下の4つのタンパク質:
- インターフェロンラムダ-1(IFN-λ1)又はインターロイキン29(IL-29)、
- インターフェロンラムダ-2(IFN-λ2)又はインターロイキン28A(IL-28A)、
- インターフェロンラムダ-3(IFN-λ3)又はインターロイキン28B(IL-28B)、
- インターフェロンラムダ-4(IFN-λ4)、
を含む。
【0061】
マウスでは、これまでに、このインターフェロンIIIファミリーに属する2つのタンパク質(IFN-λ2/IL-28A及びIFN-λ3/IL-28B)のみが同定されている。
【0062】
これらのIII型インターフェロンは、IL-28RAとしても知られるその一般的なIFN-λR1受容体を介してその効果を媒介する。IFN-λモノマーに結合するために、この受容体とIL-10R2受容体の間にヘテロ複合体が形成される(報告については、Donnelly及びKotenko、2010を参照)。
【0063】
本発明の文脈において、「III型インターフェロンをコードする遺伝子」とは、Kotenkoら、2003年及びO'Brienら、2014年の公開に記載されるとおり、以下の遺伝子の1つ:
- IFN-λ1をコードする遺伝子
- IFN-λ2をコードする遺伝子、
- IFN-λ3をコードする遺伝子、及び
- IFN-λ4をコードする遺伝子、
又はそれらのホモログを意味する。
【0064】
上記の遺伝子はヒト遺伝子であるが、ジルチアゼムが異なる動物種で使用される場合、発現がジルチアゼムによって活性化されるIII型インターフェロンをコードする遺伝子は、問題となっている種の少なくとも1つのホモログ遺伝子であるであろうことが理解される。
【0065】
主要なISGの発現の誘導
本出願の実施例1は、ジルチアゼムが頂端又は基底外側の治療後に、いくつかのいわゆる「インターフェロン刺激」遺伝子(ISG)、特に「免疫」遺伝子の発現を誘導することを実証している。
【0066】
とりわけ、ジルチアゼムは、IFI44L、IFIT2、OAS1、IRF7、MX1、又はIFITM1等の文献に詳しく記載されているISGの発現を誘導する。
【0067】
気道及び/又は腸管の上皮の病原性微生物による感染
IFN-λR1受容体は、上皮型細胞によって独占的に発現され、したがって、上皮へのIII型インターフェロンの作用を限定する。
【0068】
外部病原体による感染では、気道及び腸管の上皮は、吸引された空気、並びに摂取された水及び食物とそれぞれ直接接触するために、最初に影響を受ける臓器である。
【0069】
したがって、本発明は、特に、気道及び/又は腸管の上皮の少なくとも1つの病原性微生物による感染の予防及び/又は治療における、III型インターフェロンをコードする少なくとも1つの遺伝子の発現を活性化する薬剤としての使用のためのジルチアゼムに関する。
【0070】
「気道及び/又は腸管の上皮の少なくとも1つの病原性微生物による感染」という表現は、少なくとも1つの病原性微生物の存在によってもたらされる感染であると理解されるべきであり、この微生物は、人又は動物に感染している、或いは人又は動物に感染する可能性がある。
【0071】
本発明は、ヒト(「人」とも呼ばれる)に影響を与える感染、並びに動物、特に家畜に影響を与える感染の予防及び/又は治療の両方に関することが実際に理解される。
【0072】
「予防」という用語は、少なくとも1つの病原性微生物によるヒト又は動物の生物における感染を予防する、又は少なくともその可能性を低下させることを指す。産生されるIII型インターフェロンの作用下で、生物の組織、特に上皮は、より耐性が高くなり、前記微生物による感染をより良く回避及び/又は限定することができる。
【0073】
本発明の特定の実施形態によれば、ジルチアゼムは、気道及び/又は腸管の上皮の少なくとも1つの病原性微生物による感染の予防において、III型インターフェロンをコードする少なくとも1つの遺伝子の発現を活性化する薬剤として使用される。
【0074】
「治療」という用語は、ヒト又は動物の生物における少なくとも1つの病原性微生物による感染と戦うことを指す。ジルチアゼムの投与を通して、体内のウイルス、細菌、真菌、又は寄生虫の感染の比率は徐々に低下する、又は完全に消失することさえある。「治療」という用語はまた、感染に伴う症状(発熱、倦怠感等)を減少すること、及び/又は合併症、特に重複感染のリスクを予防/減少することを指す。
【0075】
本発明の特定の実施形態によれば、ジルチアゼムは、気道及び/又は腸管の上皮の少なくとも1つの病原性微生物による感染の治療において、III型インターフェロンをコードする少なくとも1つの遺伝子の発現を活性化する薬剤として使用される。
【0076】
好ましい態様によれば、本発明は、気道及び/又は腸管の上皮の少なくとも1つの病原性微生物による感染の予防及び/又は治療における、III型インターフェロンをコードする少なくとも1つの遺伝子の発現を活性化する薬剤としての使用のためのジルチアゼムに関し、前記少なくとも1つの遺伝子が、インターロイキン29をコードする遺伝子、インターロイキン28Aをコードする遺伝子、及びインターロイキン28Bをコードする遺伝子から選択されることを特徴とする。
【0077】
特定の実施形態によれば、ジルチアゼムは、インターロイキン29、インターロイキン28A、及びインターロイキン28Bをコードする3つの遺伝子の発現を活性化する薬剤として使用される。
【0078】
病原性微生物
本発明の文脈において、「病原性微生物」という表現は、ヒト又は動物等の他の生物に疾患を引き起こすことができる任意の微生物を意味する。この表現には、特にウイルス、細菌、真菌、原生動物、蠕虫、及び他の病原性単細胞微生物を含む。
【0079】
好ましくは、「病原性微生物」は、「インターフェロンIII」型の細胞応答に感受性のある微生物、すなわち、III型インターフェロンタンパク質の発現及び分泌によって細胞感染が全体的又は部分的に予防又は阻害される微生物である。
【0080】
本発明の一態様によれば、病原性微生物は、気道の上皮に特異的に感染する微生物である。
【0081】
本発明の別の態様によれば、病原性微生物は、腸管の上皮に特異的に感染する微生物である。
【0082】
本発明の更に別の態様によれば、病原性微生物は、全ての種類の上皮、特に気道及び腸管の上皮に感染することができる微生物である。
【0083】
本発明の第1の態様によれば、感染はウイルス感染であり、すなわち、気道及び/又は腸管の上皮の病原性微生物はウイルスである。
【0084】
III型インターフェロンファミリーに属するタンパク質は、ウイルスの標的上皮の抗ウイルス応答において不可欠な役割を果たす。したがって、前記III型インターフェロンタンパク質をコードする遺伝子の発現を活性化する薬剤は、感染した上皮の抗ウイルス応答を刺激及び最適化する。
【0085】
この態様によれば、本発明は、気道及び/又は腸管の上皮に感染する少なくとも1つのウイルスによる感染の予防及び/又は治療における、III型インターフェロンをコードする少なくとも1つの遺伝子の発現を活性化する薬剤としての使用のためのジルチアゼムに関する。
【0086】
本発明の文脈において、「ウイルス」という用語は、いずれの種類のウイルスを含むが、より特に、脊椎真核生物に感染するウイルスを含む。これらは、DNAウイルス又はRNAウイルスであり得る。本発明の文脈において、「ウイルス」という用語は、より特に、本明細書では、気道及び/又は腸管の上皮を介して生物に感染するウイルスを指す。
【0087】
本発明の特定の態様によれば、感染は、インフルエンザウイルス感染ではない。
【0088】
インフルエンザウイルス感染を治療するためのジルチアゼムの治療的使用は、文書WO2011/126071及びWO2016/146836に既に提示されている。しかしながら、先行技術では、ジルチアゼムはカルシウムチャネルに対する作用について使用されており、III型インターフェロンをコードする遺伝子の発現を活性化することにおける作用については使用されていない。
【0089】
本発明の特定の態様によれば、病原性微生物は、二本鎖DNAゲノムを有する第I群ウイルスである。この群のウイルスには、特に、Herpes目のウイルス、Papillomaviridae科のウイルス、並びにPolyomaviridae及びPoxviridaeを含む。
【0090】
本発明の特定の態様によれば、病原性微生物は、特にParvoviridae科のウイルスを含む、一本鎖DNAゲノムを有する第II群ウイルスである。
【0091】
本発明の一態様によれば、病原性微生物は、特にロタウイルス等のReoviridae科のウイルスを含む、二本鎖RNAゲノムを有する第III群ウイルスである。
【0092】
本発明の一態様によれば、病原性微生物は、プラス極性一本鎖RNAゲノムを有する第IV群ウイルスである。この群には、特に以下のウイルス:
- Coronaviridae科のウイルス等、Nidovirales目のウイルス、
- Norwalkウイルスを含む、Caliciviridae科のウイルス、
- 特に黄熱病ウイルス、ウエストナイルウイルス、C型肝炎ウイルス及びデングウイルスを含む、Flaviviridae科のウイルス、
- ポリオウイルス、ライノウイルス、及びA型肝炎ウイルスを含む、Picornaviridae科のウイルス、
- 風疹ウイルス、ロスリバーウイルス、シンドビスウイルス、及びチクングニアウイルスを含む、Togaviridae科のウイルス、
を含む。
【0093】
本発明の一態様によれば、病原性微生物は、一本鎖マイナス極性RNA(ssRNA)ゲノムを有する第V群ウイルスである。この群には、Mononegavirales目のウイルスを含み、例えば:
- Bornaviridaeを含む、Bornaviridae科のウイルス、
- エボラウイルス及びマールブルグウイルスを含む、Filoviridae科のウイルス、
- はしかウイルス、おたふく風邪ウイルス、Henipavirusを含む、Paramyxoviridae科のウイルス、
- 狂犬病ウイルスを含む、Rhabdoviridae科のウイルス、
- ラッサ熱ウイルスを含む、Arenaviridae科のウイルス、
- Hantaviruses及びコンゴクリミア熱ウイルスを含む、Bunyaviridae科のウイルス、
- Orthomyxoviridae科のウイルス、
である。
【0094】
本発明の特定の態様によれば、病原性微生物は、ヒト呼吸器合胞体ウイルス(hRSV)、パラインフルエンザウイルス(hPIV)、ヒトメタニューモウイルス(hMPV)、ニパウイルス、ノロウイルス、ブタ熱ウイルス、アデノウイルス、コロナウイルス、ジカウイルス、黄熱病ウイルス、レオウイルス、ロタウイルス、デングウイルス、及びウエストナイルウイルスから選択されるウイルスである。
【0095】
より特に、病原性微生物は、ヒト呼吸器合胞体ウイルス(hRSV)、パラインフルエンザウイルス(hPIV)、及びヒトメタニューモウイルス(hMPV)から選択されるウイルスである。
【0096】
特定の実施形態によれば、本発明は、ヒト呼吸器合胞体ウイルス(hRSV)感染の予防及び/又は治療における、III型インターフェロンをコードする少なくとも1つの遺伝子の発現を活性化する薬剤としての使用のためのジルチアゼムに関する。
【0097】
より特に、本発明は、ヒト呼吸器合胞体ウイルス(hRSV)感染の予防及び/又は治療における使用のためのジルチアゼムに関する。
【0098】
別の実施形態によれば、本発明は、ヒトパラインフルエンザウイルス(hPIV)感染の予防及び/又は治療における、III型インターフェロンをコードする少なくとも1つの遺伝子の発現を活性化する薬剤としての使用のためのジルチアゼムに関する。
【0099】
より特に、本発明は、ヒトパラインフルエンザウイルス(hPIV)感染の予防及び/又は治療における使用のためのジルチアゼムに関する。
【0100】
特定の実施形態によれば、本発明は、ヒトメタニューモウイルス(hMPV)感染の予防及び/又は治療における、III型インターフェロンをコードする少なくとも1つの遺伝子の発現を活性化する薬剤としての使用のためのジルチアゼムに関する。
【0101】
より特に、本発明は、ヒトメタニューモウイルス(hMPV)感染の予防及び/又は治療における使用のためのジルチアゼムに関する。
【0102】
本発明の第2の態様によれば、感染は非ウイルス感染である。特に、病原性微生物は、細菌、真菌、及び寄生虫から選択され得る。
【0103】
本発明の特定の態様によれば、病原性微生物は細菌である。
【0104】
病原性細菌の中で、特に言及されるのは、以下の種:Enterococcus faecalis、Borrelia burgdorferi、Listeria monocytogenes、Mycobacterium tuberculosis、Pseudomonas aeruginosa、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Salmonella typhimurium、Streptococcus pneumoniae、及びHaemophilus influenzaeの細菌であり得る。
【0105】
言及されるのはまた、Campylobacter属種、Salmonella属種、Yersinia enterocolitica、Vibrio cholerae、Escherichia coli、Staphylococcus aureus、Bacillus cereus、及びClostridium difficile等、腸感染に特異的な細菌であり得る。
【0106】
本発明の特定の態様によれば、病原性微生物は、Chlamydiae属の細菌ではない。
【0107】
本発明の特定の態様によれば、病原性微生物は、以下の細菌種:Enterococcus faecalis、Borrelia burgdorferi、Listeria monocytogenes、Mycobacterium tuberculosis、Pseudomonas aeruginosa、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Salmonella Typhimurium、Streptococcus pneumoniae、Haemophilus influenzae、Campylobacter属種、Salmonella属種、Shigella属種、Yersinia enterocolitica、Vibrio cholerae、Escherichia coli、Staphylococcus aureus、Bacillus cereus、及びClostridium difficileから選択される細菌である。
【0108】
特定の実施形態によれば、病原性微生物は、Pseudomonas aeruginosa種の細菌である。
【0109】
特定の実施形態によれば、本発明は、Pseudomonas aeruginosa感染の予防及び/又は治療における、III型インターフェロンをコードする少なくとも1つの遺伝子の発現を活性化する薬剤としての使用のためのジルチアゼムに関する。
【0110】
より特に、本発明は、Pseudomonas aeruginosa感染の予防及び/又は治療における使用のためのジルチアゼムに関する。
【0111】
本発明の特定の態様によれば、病原性微生物は真菌である。
【0112】
病原性真菌の中で、特に言及されるのは、Aspergillus fumigatus、Candida albicans、Pneumocystis jiroveci、Fusarium solariであり得る。
【0113】
別の実施形態によれば、本発明は、以下の群:Pseudomonas aeruginosa、ヒト呼吸器合胞体ウイルス(hRSV)、パラインフルエンザウイルス(hPIV)、及びヒトメタニューモウイルス(hMPV)から選択される病原性微生物による感染の予防及び/又は治療における、III型インターフェロンをコードする少なくとも1つの遺伝子の発現を活性化する薬剤としての使用のためのジルチアゼムに関する。
【0114】
より特に、本発明は、以下の群:Pseudomonas aeruginosa、ヒト呼吸器合胞体ウイルス(hRSV)、パラインフルエンザウイルス(hPIV)、及びヒトメタニューモウイルス(hMPV)から選択される病原性微生物による感染の予防及び/又は治療における使用のためのジルチアゼムに関する。
【0115】
「少なくとも1つの病原性微生物」という表現は、1つ又は複数の病原性微生物が、感染した生物に存在し、したがって該生物から免疫応答がもたらされることを意味する。
【0116】
特に、生物はウイルスと細菌の両方に感染していることがあり得、これは生物の同時感染と呼ばれる。
【0117】
特定の態様によれば、本発明は、感染が、少なくとも1つのウイルス及び少なくとも1つの細菌による同時感染であることを特徴とする、上記のとおり使用のためのジルチアゼムに関する。
【0118】
したがって有利なことに、この同時感染に罹患する人又は動物に投与する活性化合物の数を限定するウイルス感染と細菌感染との同時治療に、ジルチアゼムは使用される。
【0119】
より特に、この同時感染は、以下から選択される病原性微生物の組み合わせの、感染した上皮における存在に結び付けられ得る。
- ヒト呼吸器合胞体ウイルス(hRSV)と、Enterococcus faecalis、Borrelia burgdorferi、Listeria monocytogenes、Mycobacterium tuberculosis、Pseudomonas aeruginosa、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Salmonella typhimurium、Streptococcus pneumoniae、及びHaemophilus influenzaeから選択される種の少なくとも1つの細菌、
- パラインフルエンザウイルス(hPIV)と、Enterococcus faecalis、Borrelia burgdorferi、Listeria monocytogenes、Mycobacterium tuberculosis、Pseudomonas aeruginosa、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Salmonella typhimurium、Streptococcus pneumoniae、及びHaemophilus influenzaeから選択される種の少なくとも1つの細菌、
- ヒトメタニューモウイルス(hMPV)と、Enterococcus faecalis、Borrelia burgdorferi、Listeria monocytogenes、Mycobacterium tuberculosis、Pseudomonas aeruginosa、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Salmonella typhimurium、Streptococcus pneumoniae、及びHaemophilus influenzaeから選択される種の少なくとも1つの細菌、
- ニパウイルスと、Enterococcus faecalis、Borrelia burgdorferi、Listeria monocytogenes、Mycobacterium tuberculosis、Pseudomonas aeruginosa、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Salmonella typhimurium、Streptococcus pneumoniae、及びHaemophilus influenzaeから選択される種の少なくとも1つの細菌、
- ノロウイルスと、Campylobacter属種、Salmonella属種、Escherichia coli、Staphylococcus aureus、Bacillus cereus、及びClostridium difficileから選択される種の少なくとも1つの細菌、
- コロナウイルスと、Enterococcus faecalis、Borrelia burgdorferi、Listeria monocytogenes、Mycobacterium tuberculosis、Pseudomonas aeruginosa、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Salmonella typhimurium、Streptococcus pneumoniae、及びHaemophilus influenzaeから選択される種の少なくとも1つの細菌、
- ブタ熱ウイルスと、Enterococcus faecalis、Borrelia burgdorferi、Listeria monocytogenes、Mycobacterium tuberculosis、Pseudomonas aeruginosa、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Salmonella typhimurium、Streptococcus pneumoniae、及びHaemophilus influenzaeから選択される種の少なくとも1つの細菌、
- アデノウイルスと、Enterococcus faecalis、Borrelia burgdorferi、Listeria monocytogenes、Mycobacterium tuberculosis、Pseudomonas aeruginosa、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Salmonella typhimurium、Streptococcus pneumoniae、及びHaemophilus influenzaeから選択される種の少なくとも1つの細菌、
- ジカウイルスと、Enterococcus faecalis、Borrelia burgdorferi、Listeria monocytogenes、Mycobacterium tuberculosis、Pseudomonas aeruginosa、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Salmonella typhimurium、Streptococcus pneumoniae、及びHaemophilus influenzaeから選択される種の少なくとも1つの細菌、
- 黄熱病ウイルスと、Enterococcus faecalis、Borrelia burgdorferi、Listeria monocytogenes、Mycobacterium tuberculosis、Pseudomonas aeruginosa、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Salmonella typhimurium、Streptococcus pneumoniae、及びHaemophilus influenzaeから選択される種の少なくとも1つの細菌、
- レオウイルスと、Enterococcus faecalis、Borrelia burgdorferi、Listeria monocytogenes、Mycobacterium tuberculosis、Pseudomonas aeruginosa、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Salmonella typhimurium、Streptococcus pneumoniae、及びHaemophilus influenzaeから選択される種の少なくとも1つの細菌、
- ロタウイルスと、Campylobacter属種、Salmonella属種、Escherichia coli、Staphylococcus aureus、Bacillus cereus、及びClostridium difficileから選択される種の少なくとも1つの細菌、
- デングウイルスと、Enterococcus faecalis、Borrelia burgdorferi、Listeria monocytogenes、Mycobacterium tuberculosis、Pseudomonas aeruginosa、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Salmonella typhimurium、Streptococcus pneumoniae、及びHaemophilus influenzaeから選択される種の少なくとも1つの細菌、
- ウエストナイルウイルスと、Enterococcus faecalis、Borrelia burgdorferi、Listeria monocytogenes、Mycobacterium tuberculosis、Pseudomonas aeruginosa、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Salmonella typhimurium、Streptococcus pneumoniae、及びHaemophilus influenzaeから選択される種の少なくとも1つの細菌、及び
- インフルエンザウイルスと、Enterococcus faecalis、Borrelia burgdorferi、Listeria monocytogenes、Mycobacterium tuberculosis、Pseudomonas aeruginosa、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Salmonella typhimurium、Streptococcus pneumoniae、及びHaemophilus influenzaeから選択される種の少なくとも1つの細菌。
【0120】
本発明の特定の実施形態によれば、III型インターフェロンをコードする少なくとも1つの遺伝子の発現を活性化する薬剤としてジルチアゼムが以下の両方に使用される。
i)気道及び/又は腸管の上皮のウイルス感染を治療すること、及び
ii)細菌の重複感染等、気道及び/又は腸管の上皮の少なくとも1つの他の病原性微生物による同時感染を予防すること。
【0121】
本発明の別の特定の実施形態によれば、III型インターフェロンをコードする少なくとも1つの遺伝子の発現を活性化する薬剤としてジルチアゼムが以下の両方に使用される。
i)気道及び/又は腸管の上皮の細菌感染を治療すること、及び
ii)ウイルスの重複感染等、気道及び/又は腸管の上皮の少なくとも1つの他の病原性微生物による同時感染を予防すること。
【0122】
本発明の別の特定の実施形態によれば、III型インターフェロンをコードする少なくとも1つの遺伝子の発現を活性化する薬剤としてジルチアゼムが以下の両方に使用される。
i)気道及び/又は腸管の上皮のウイルス感染を治療すること、及び
ii)細菌の重複感染等、気道及び/又は腸管の上皮の少なくとも1つの他の病原性微生物との同時感染を治療すること。
【0123】
治療的組み合わせ
本発明はまた、ジルチアゼムが少なくとも1つの他の活性剤と組み合わせて、すなわち、1つ又は複数の活性剤と組み合わせて使用されることを特徴とする、以前に提示されたとおりの治療的使用のためのジルチアゼムに関する。
【0124】
好ましくは、この他の活性剤は、病理を予防又は治療することを目的として、ヒト又は動物の生物に対して有益な作用を有する治療的化合物である。
【0125】
特に、この他の活性剤は、抗ウイルス化合物、抗菌化合物、抗寄生虫化合物、抗真菌化合物、及び予防的又は治療的ワクチンから選択される。
【0126】
好ましくは、この他の活性剤は、抗ウイルス化合物及び抗菌化合物から選択される。
【0127】
本発明の文脈において、「抗ウイルス化合物」とは、少なくとも1つのウイルスに対する直接の阻害作用(例えば、複製の阻害)又はウイルスの標的細胞に対する作用(例えば、ウイルス感染に不利な細胞状態を誘導し、それによってウイルス感染を防ぐ)のいずれかを有する化合物を意味する。
【0128】
抗ウイルス剤は、その作用機序に応じて様々なカテゴリーに分類される。特に、言及されるのは:
- DNA又はRNAの合成を干渉又は停止するヌクレオチド類似体、並びにDNA又はRNAの合成に関与する酵素の阻害剤(ヘリカーゼ、レプリカーゼ)、
- 複製サイクル中にウイルスの成熟段階を阻害する化合物、
- 細胞膜への結合、又はウイルスの宿主細胞への侵入を干渉する化合物(融合阻害剤又は侵入阻害剤)、
- ウイルスが侵入した後、宿主細胞内での分解を阻止することにより、ウイルスが宿主細胞内でウイルスを発現するのを防ぐ薬剤、
- 他の細胞へのウイルスの拡散を制限する薬剤、
であり得る。
【0129】
特に、抗ウイルス剤は以下から選択される。
i)例えば、リバビリン及びファビピラビル等のウイルスに対する直接の阻害作用を有するウイルス剤、
ii)ウイルス感染に全体的に不利な細胞状態を誘導する活性剤、及び
iii)以下の化合物から選択される化合物:
・ 置換2-デオキシウリジン類似体、
・ ヌクレオシド類似体、
・ ピロリン酸類似体、
・ プロテアーゼ阻害剤、
・ アルビドール等の細胞へのウイルス浸透の阻害剤、
・ 呼吸器合胞体ウイルス(RSV)融合タンパク質の抗原部位Aのエピトープに対するパリビズマブ等のモノクローナル抗体、及び
・ ウイルス阻害作用を有するアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【0130】
本発明の文脈において、「抗菌化合物」とは、抗菌活性を有する化合物、すなわち、細菌の複製を阻害する(静菌性化合物)、又は細菌を破壊する(殺菌性化合物)、又は細菌の生合成及び/又は毒性産物の分泌を阻害する化合物を意味する。これらは特に抗生物質である。
【0131】
特に、抗菌剤は以下から選択される。
i)抗生物質、特にマクロライド科の抗生物質、特にロキシスロマイシン、
ii)細菌の自然捕食者であるバクテリオファージ。
【0132】
このような抗ウイルス剤及び抗菌剤は市販されており、それらの使用条件は、Le Dictionnaire Vidal等の参照文献に記載されている。
【0133】
本発明の別の態様によれば、ジルチアゼムと組み合わせて使用される他の活性剤は、抗真菌化合物又は抗寄生虫化合物であり、特に全身性抗真菌化合物(アンホテリシンB、アゾール、エキノカンジン)及び全身性抗寄生虫化合物(例えば、抗マラリア薬、抗アメーバ薬、トキソプラズマ薬、リーシュマニア薬、ニューモシスチス薬、駆虫薬)から選択される。
【0134】
本発明の特定の実施形態によれば、少なくとも1つの他の活性剤はワクチンである。
【0135】
本発明の文脈において、「ワクチン」は、ヒト又は動物の生物の免疫系を特異的に刺激する化合物又は化合物の組み合わせを意味する。特に、ワクチンは、抗原、すなわち、生物において特異的な免疫応答を誘導する化合物を含み、該生物はその応答の記憶を保持するようになる。
【0136】
このようなワクチンは、予防的ワクチン、すなわち、生物が病原性微生物によって感染する前に特異的な免疫応答を刺激することを目的としたワクチンであり得る。
【0137】
例としては、これらに限定されないが、調製される抗原の性質に従って分類される様々な種類のワクチンを含む。従来使用されている抗原は、不活化感染因子、弱毒化生因子、感染因子のサブユニット、トキソイド、病原体から誘導される抗原を発現するウイルスベクター、核酸(DNA又はRNA)を運ぶベクター、及び抗体である。
【0138】
このようなワクチンはまた、治療的ワクチン、すなわち、病原性微生物による生物の感染と同時に特異的な免疫応答を刺激することを目的としたワクチンであり得る。
【0139】
全ての場合において、このワクチンは、ジルチアゼムでの治療の前、治療の中、又は治療の後に投与され得ることが理解される。
【0140】
最後に、本発明の特定の態様によれば、上記の全ての活性剤は、互いに組み合わせて使用され得、例えば、以下の種類の組み合わせ:
- ジルチアゼム、抗ウイルス化合物、及び抗菌化合物、
- ジルチアゼム、抗ウイルス化合物、及び抗寄生虫化合物、
- ジルチアゼム、抗菌化合物、及び抗真菌化合物、
- ジルチアゼム及び予防的ワクチン、又は
- ジルチアゼム及び治療的ワクチン、
は気道及び/又は腸管の上皮の1つ又は複数の病原性微生物による感染を有する人又は動物に同時に、又は連続して投与され得る。
【0141】
医薬組成物又は動物用組成物
本発明はまた、III型インターフェロンをコードする少なくとも1つの遺伝子の発現を活性化する薬剤としてジルチアゼムを含む医薬組成物又は動物用組成物に関する。
【0142】
本発明はまた、気道及び/又は腸管の上皮の病原性微生物による感染の予防及び/又は治療に使用するための、III型インターフェロンをコードする少なくとも1つの遺伝子の発現を活性化する薬剤としてジルチアゼムを含む医薬組成物又は動物用組成物に関する。
【0143】
より正確には、本発明によるこの組成物は、ジルチアゼム、並びに適切な医薬ビヒクル、及び任意に別の活性剤を含む。
【0144】
「適切な医薬ビヒクル」という用語は、薬学的に許容されるビヒクル又は賦形剤、すなわち、人又は動物へのそれらの投与が重大な有害作用を伴わない、当業者によく知られているビヒクル又は賦形剤を指す。
【0145】
本発明によるこの組成物は、いずれの種類の投与、特に経口、舌下、吸入による経鼻及び/又は経口投与、皮下、筋肉内、静脈内、経皮、眼又は直腸の投与に適合され得る。
【0146】
適切なガレヌス投与形態は、例えば、錠剤、カプセル、粉末、顆粒、溶液又は懸濁液であり得る。
【0147】
特定の態様によれば、医薬組成物又は動物用組成物は、吸入による投与、すなわち、経鼻及び/又は経口経路による投与に適したガレヌス形態であることを特徴とする。
【0148】
吸入とは、気道からの吸収を指す。これは、治療的化合物を、ガス、微小液滴、又は粉末懸濁液の形態で吸収する方法である。
【0149】
吸入による投与には2つの種類に区別される。
・ 組成物が粉末形態である場合の吹送による投与、及び
・ 組成物が加圧下で水溶液等の溶液の形態、又はエアロゾル(懸濁液)の形態である場合の噴霧による投与。よって、ネブライザー又は噴霧器の使用が、この医薬組成物又は動物用組成物を投与するために推奨される。
【0150】
吸入によるジルチアゼムの投与に適したガレヌス形態は、加圧下の溶液、粉末、又は液滴の水性懸濁液から選択される。
【0151】
本発明の一態様によれば、医薬組成物又は動物用組成物は、気道及び/又は腸管の上皮の少なくとも1つの病原性微生物による感染の予防及び/又は治療における、III型インターフェロンをコードする少なくとも1つの遺伝子の発現を活性化する薬剤としての使用のための有効量のジルチアゼムを含む。
【0152】
当業者は、一般的な知識を通じて、III型インターフェロンをコードする少なくとも1つの遺伝子の発現に対する作用を得るために投与される必要のあるジルチアゼムの有効量を容易に同定することができる。
【0153】
本発明はまた、気道及び/又は腸管の上皮の病原性微生物による感染を予防及び/又は治療するために、同時、個別、又は連続の使用のための:
- III型インターフェロンをコードする少なくとも1つの遺伝子の発現を活性化する薬剤としてのジルチアゼム、及び
- 抗ウイルス化合物、抗菌化合物、及び病原性微生物による感染を予防する薬剤から選択される少なくとも1つの他の活性剤、
を含む、組み合わせ製品に関する。
【0154】
本発明はまた、気道及び/又は腸管の上皮の少なくとも1つの病原性微生物によって感染した人、又は感染を起こしやすい人において感染を予防及び/又は治療する方法に関し、該方法は、III型インターフェロンをコードする少なくとも1つの遺伝子の発現を活性化するために、この人へのジルチアゼムの投与を含む。
【0155】
本発明はまた、気道及び/又は腸管の上皮の少なくとも1つの病原性微生物によって感染した人、又は感染を起こしやすい人において感染を予防及び/又は治療する方法に関し、該方法は、前記人へのジルチアゼムの投与を含み、該ジルチアゼムは、III型インターフェロンをコードする少なくとも1つの遺伝子の発現を活性化する薬剤として使用される。
【0156】
本発明はまた、気道及び/又は腸管の上皮の少なくとも1つの病原性微生物によって感染した動物、又は感染を起こしやすい動物において感染を予防及び/又は治療する方法に関し、該方法は、III型インターフェロンをコードする少なくとも1つの遺伝子の発現を活性化するために、この動物へのジルチアゼムの投与を含む。
【0157】
ジルチアゼムのこの投与は、好ましくは吸入によって実施される。
【実施例
【0158】
この項目に提示される実施例は決して限定的なものではなく、それらは上記のとおり本発明を解説するのみであることが理解される。
【0159】
(実施例1)
III型インターフェロン遺伝子の発現のジルチアゼムによる導入のRNA配列及びRT-qPCRによる特性評価。
A- 再構成ヒト気道上皮(MucilAir(登録商標)HAE、Epithelix社)の基底外側極に適用されるジルチアゼム
供給業者Epithelix社の指示に従って、気液界面にて培養で維持する再構成ヒト気道上皮(MucilAir(登録商標)HAE、Epithelix社)を、基底外側極にて培養培地を介してジルチアゼム(90μM)で治療した、又は治療しなかった。ジルチアゼム治療は、3日間連続して繰り返した(合計3回投与)。
【0160】
次いで、治療及び未治療の上皮を、150μLのRLT緩衝液(Qiagen社)で溶解した。全RNAは、RNeasy Kit(Qiagen社)を使用して、供給業者の指示に従って抽出した。
【0161】
ScriptSeq(商標)CompleteGold Kit-Low Input(SCL6EP、Epicentre社)を使用して、供給業者の指示に従って、200ngの全RNAからcDNAライブラリーを調製した。各ライブラリーは、ScriptSeq(商標)Index PCR Primers Kit(RSBC10948、Epicentre社)で提供されるプライマーを使用して増幅、定量、及びインデックス付けを行い、そして配列決定を行った。配列決定は、試料ごとに最小要件が4,000万「リード」で配列決定されるIllumina HiSeq2500システムで実行した。
【0162】
データの逆多重化と、配列決定から得られたBCLファイルのFASTQファイルへの変換は、バージョン1.8.4のIlluminaのbcl2fastqツールを使用して実行した。FastQCソフトウェア(http://www.bioinformatics.babraham.ac.uk/projects/fastqc)を使用して、生データに必要な品質管理を実施した。「トリミング」は、Trimmomaticツールを使用して、Q30に等しい最小品質しきい値で実施した。ヒトゲノム(ホモサピエンス:GRCh38.p11)上でトリミングされるリードの疑似アライメントは、Kallistoソフトウェアを使用して実施し、その後、R3.3.1ソフトウェア及びEdgeR3.14.0パッケージを使用して統計分析を実施した。
【0163】
ジルチアゼムで治療した上皮細胞と対照上皮細胞との間の遺伝子発現差は、Benjamini-Hochberg法によるp値補正を用いた線形モデルを使用して計算した。
【0164】
残りの分析では、2以上の発現差、及び0.05未満の補正されたp値を示す遺伝子のみを考慮した。
【0165】
これらの遺伝子を、DAVID6.8ツールを使用する機能エンリッチメント解析、並びにSTRINGツールを使用する関係及び相互作用の調査に供した。
【0166】
図1Aは、ジルチアゼムで治療したヒト気道上皮と、未治療の対照ヒト気道上皮との間で観察されたIII型インターフェロンであるIFN-λ1、IFN-λ2、及びIFN-λ3の遺伝子の発現比を示す。
【0167】
図1Bは、ジルチアゼムで治療したヒト気道上皮と、未治療の対照ヒト気道上皮との間で観察された、IFI44L、IFIT1、IFIT2、IFIT3、IFITM1、ISG15、MX1、MX2、OAS1、OAS2、OAS3、OASL、RSAD2、及びSTAT1等のIII型インターフェロン応答遺伝子の発現比を示す。
【0168】
再構成ヒト気道上皮のジルチアゼムによる3日間の治療は、III型インターフェロンであるIFN-λ1、IFN-λ2、及びIFN-λ3をコードする遺伝子の発現レベルを有意に変化させて、有意に増加させることは明らかである(未治療の対照上皮と比較して100~200倍以上)。更に、この治療はまた、IFI44L、IFIT1、IFIT2、IFIT3、IFITM1、ISG15、MX1、MX2、OAS1、OAS2、OAS3、OASL、RSAD2、及びSTAT1等のIII型インターフェロン応答遺伝子の発現を有意に刺激する。
【0169】
B- 再構成ヒト気道上皮(MucilAir(登録商標)HAE、Epithelix社)の頂端極に適用されるジルチアゼム
本発明者らは、基底外側培地を介した上皮のジルチアゼム治療(マウスモデル及びヒトにおける経口送達を模倣する)がIFNIII経路の発現を誘導することを上記で示した。
【0170】
この実験の目的は、ジルチアゼムによるこの誘導はまた、該分子が上皮の頂端極を介して投与される場合(インビボでの鼻腔内経路を介した送達様式を模倣する)にも有効であることを確認することであった。
【0171】
図1Cは、ジルチアゼムによる再構成ヒト上皮モデル(MucilAir(登録商標)HAE、Epithelix社)の頂端極治療の24時間後に、内因性IFNL1(インターフェロンラムダI)遺伝子の発現について、未治療の上皮(対照)の内因性発現と比較して得られた結果を示す。測定はRT-qPCRによって実施した。
【0172】
得られた結果は、ジルチアゼムによる頂端極を介する再構成ヒト気道上皮の治療が、対照(未治療)上皮と比較して6:1を超える発現比で、IFNL1遺伝子の有意な過剰発現を誘導することを示している。
【0173】
これらの結果により、再構成ヒト気道上皮の頂端極を介して投与された(この投与経路は、鼻腔インビボ投与をインビトロで模倣する)ジルチアゼムもまた、基底外側極を介した治療(経口インビボ投与を模倣する)と同様に、IFNIII経路を活性化することが確認できる。
【0174】
(実施例2)
「III型インターフェロン」応答に関連する8つの遺伝子の発現のジルチアゼムによる誘導のRt-qPCRによる確認。
再構成ヒト気道上皮(MucilAir(登録商標)HAE、Epithelix社)を、供給業者Epithelix社の指示に従って気液界面にて培養で維持し、基底外側極にてこの培養培地を介してジルチアゼム(90μM)で治療した、又は治療しなかった。ジルチアゼム治療は、3日間連続して繰り返した(合計3回投与)。
【0175】
次いで、治療及び未治療の上皮を150μLのRLT緩衝液(Qiagen社)で溶解した。全RNAは、RNeasy Kit(Qiagen社)を使用して、供給業者の指示に従って抽出した。逆転写ステップの後、96ウェルプレートにおいてStepOnePlus(商標)Real-Time PCR System(Biosystems社製)を使用して、リアルタイム定量PCR反応を実施した。
【0176】
定量PCRプライマー(GAPDH:Hs02758991_g1、IFNL1:Hs00601677_g1、IFNL2:Hs00820125_g1、IFIT1:Hs01675197_m1、IFIT2:Hs00533665_m1、IFIT3:Hs00382744_m1、IFI27:Hs01086373_g1、IFI44L:Hs00915292_m1、IFITM1:Hs01652522_g1)及びプローブ(TaqMan遺伝子発現アッセイ)は、Thermo Fisher Scientific社により提供された。
【0177】
各試料を3重で分析し、サイクルしきい値(Ct)をGAPDH参照に対して正規化した。
【0178】
ジルチアゼムで治療した細胞と未治療の細胞との間のIFIT1、IFIT2、IFIT3、IFI27、IFN-1、IFN-2、IFI44L及びIFITM1の遺伝子の発現比を2ΔΔCt法によって測定した(Livak及びSchmittgen、2001)。
【0179】
図2は、得られた結果を示し、ジルチアゼムによる治療後、再構成上皮は、未治療の上皮と比較して、IFIT1、IFIT2、IFIT3、IFI27、IFN-λ1、IFN-λ2、IFI44L、及びIFITM1の遺伝子の発現において有意な増加を示す。
【0180】
(実施例3)
III型インターフェロンラムダ1(IL-29)のジルチアゼム刺激分泌物のELISA測定。
再構成ヒト気道上皮(MucilAir(登録商標)HAE、Epithelix社)を、供給業者Epithelix社の指示に従って気液界面にて培養で維持し、基底外側極にて培養培地を介してジルチアゼム(90μM)で治療した、又は治療しなかった。ジルチアゼム治療は、3日間連続して繰り返した(合計3回投与)。
【0181】
ジルチアゼムで治療、及び未治療のヒト気道上皮の頂端極及び基底外側極でのインターフェロンラムダ1(IL-29)の分泌レベル(pg/mL)を、治療の72時間後にELISAによって、供給業者(#3570-1H、Mabtech社、ストックホルム、スウェーデン)の指示に従って測定した。
【0182】
図3は、得られた結果を示し、IFN-λ1(IL-29)分泌は、上皮培養培地を介したジルチアゼムでの治療後、頂端極で非常に急激に増加した。治療した上皮の基底外側極でも、有意であるがそれほど顕著ではないが、増加が観察される。
【0183】
(実施例4)
ジルチアゼム治療は、呼吸器合胞体ウイルスの複製を有意に減少させる。
A- インビトロの結果
再構成ヒト気道上皮(MucilAir(登録商標)HAE、Epithelix社)を、供給業者Epithelix社の指示に従って気液界面で培養を維持し、感染多重度(MOI)1にて呼吸器合胞体ウイルス(Long株、ATCC VR-26)で感染させて、次いで基底外側極にて培養培地を介してジルチアゼム(90μM)で治療した、又は治療しなかった。ジルチアゼム治療は、感染後5時間にて実施し、その後3日間連続して繰り返した(合計4回の投与)。
【0184】
感染後6日に、治療、及び未治療の感染した上皮の頂端極の試料、並びに上皮自体の試料を150μLのRLT緩衝液(Qiagen社)で溶解した。実験のプロセスを図4Aに概略的に示す。
【0185】
RNeasy Kit(Qiagen社)を使用して、供給業者の指示に従って全RNAを抽出し、頂端極、すなわち上清(図4B)での、並びに上皮(図4C)におけるRT-qPCRによるウイルスゲノムのコピー数(F遺伝子)の定量を行った。
【0186】
図4B及び4Cは、再構成ヒト気道上皮を感染後に基底外側極を介してジルチアゼム(90μM)で治療した場合、ウイルスゲノムの量が、未治療の上皮と比較して、培養上清(図4B)と上皮(図4C)の両方ではるかに少ないことを示す。したがって、ジルチアゼムは、再構成ヒト気道上皮モデルにおいて、呼吸器合胞体ウイルスに対して有意な抗ウイルス効果を有する。
【0187】
B- インビボの結果
ジルチアゼム(経口)治療は、チャレンジ感染後のBALB/cマウスモデルにおける呼吸器合胞体ウイルス(RSV)の複製を減少させる。
【0188】
図4Dは、マウスの感染及び治療の時系列を概略的に示す。
- BALB/cマウスを無作為に5匹の3つの群に分け、5×105PFUのRSVを含有する50μLのウイルス懸濁液で鼻腔内に感染させた(0日)。感染の6時間前に、マウスを40mg/kgの腹腔内リバビリン(RSV RIB)、又は50mg/kgの経口ジルチアゼム(RSV DIL)、又は陰性対照としてのPBS(RSV PBS)のいずれかで治療した。
- 同じ治療を24時間ごとに繰り返し、合計、リバビリンでは3回の治療、ジルチアゼム又はPBSでは5回の治療を行った。
- 感染後5日(D5、ウイルス複製のピークに相当)に、各群のマウスを安楽死させ、RTqPCRによって肺ウイルス力価(F遺伝子)を測定するために肺を無菌的に回収した。
【0189】
感染後5日にて肺から抽出された全量のRNAに対するRSVウイルスゲノムのコピー数のRT-qPCR定量(F遺伝子のコピーを定量)を実施し、結果を図4Eに示す。
【0190】
ジルチアゼムで治療した動物(RSV DIL)では、対照群の動物(RSV PBS)、及びリバビリン治療群の動物(RSV RIB)と比較して、肺ウイルス力価を有意に減少させた。
【0191】
以下の統計的検定を使用した。各ウイルスを模擬状態(PBS処理)と比較するためのボンフェローニ事後検定による一元配置分散分析。*p<0.05。
【0192】
したがって、ジルチアゼムは、インビボでのマウスモデルにおいて呼吸器合胞体ウイルスに対して有意な抗ウイルス効果を有する。
【0193】
(実施例5)
ジルチアゼム治療は、パラインフルエンザウイルス3型の複製を有意に減少させる。
実験計画を図5Aに示す。
【0194】
再構成ヒト気道上皮を、MOIが0.1にてヒトパラインフルエンザウイルス3型(C243株 ATCC VR-93)で感染させ、90μMのジルチアゼムによる基底外側培地の治療を、感染の2時間後に開始し、連続して4日間、毎日継続した。上皮の完全性を反映する経上皮電気抵抗(TEER)を、感染後48時間から感染後120時間まで毎日1回測定した。
【0195】
図5Aに示すとおり、感染後48時間に開始し、感染後、最大120時間まで収集した洗浄液からのLLC-MK2細胞において、頂端感染性ウイルス力価(TCID50/mL)を測定した。
【0196】
図5Bは、以下の実験後に得られた結果を示す。感染後96時間及び120時間で、未治療の再構成ヒト気道上皮(左の画像)、及びジルチアゼム治療のヒト気道上皮(右の画像)を顕微鏡下で観察した。hPIV-3によって誘導される細胞変性効果は、ジルチアゼムで治療したものとは異なり、未治療の再構成ヒト気道上皮においてより大きく、かつ顕微鏡で容易に見ることが可能であった。
【0197】
図5Cは、再構成ヒト気道上皮で測定された、感染後の時間の関数としてのTEER値を示す。
- 未治療、未感染、
- 未治療、hPIV-3で感染、及び
- ジルチアゼム治療、hPIV-3で感染。
【0198】
これらの結果は、治療を行わなかった場合、TEER値は、感染後24時間から有意に減少し、完全性がより維持されているように見えるジルチアゼムで治療した再構成ヒト気道上皮で測定される値とは異なることを示している。
【0199】
図5Dは、ジルチアゼムで治療及び未治療の再構成ヒト気道上皮の頂端表面にて経時的(感染後48時間~感染後120時間)に測定されたウイルス力価(LLC-MK2(TCID50/mL))を示す。
【0200】
治療を行わなかった場合、再構成ヒト気道上皮の頂端表面にて測定された感染性ウイルス力価は、感染後72時間で108TCID50/mLの値で、及び感染後96時間で107TCID50/mLの値でピークに達し、ジルチアゼムで治療した再構成ヒト気道上皮は異なり、感染後72時間(106TCID50/mL)、及び感染後96時間(105TCID50/mL)で有意により低い値を示した。
【0201】
全体として、これらの結果は、ジルチアゼム治療が、感染した再構成ヒト気道上皮モデルにおけるhPIV-3のウイルスの複製を減少させることを示している。
【0202】
(実施例6)
ジルチアゼム治療は、細菌Pseudomonas aeruginosaの増殖を有意に減少させる。
実験計画を図6Aに示す。
【0203】
再構成ヒト気道上皮を、感染の24時間前に、基底外側培地において90μMのジルチアゼム、或いは頂端表面にて10μLの90μMのジルチアゼムで前治療し、次いでMOIが1にてPseudomonas aeruginosa(PAK株)で感染させ、感染後2時間にてジルチアゼムで再治療した。
【0204】
結果を図6B(基底外側治療)及び図6C(頂端表面治療)に示す。
【0205】
基底外側の観点では(n=2)、感染後24時間にてヒト気道上皮の頂端表面から回収された細菌の数は、基底外側培地においてジルチアゼムで治療したヒト気道上皮の頂端表面から回収された細菌の数よりも有意に少なかった(それぞれ、115CFU及び106CFU対76CFU及び106CFU、*p<0.05)。
【0206】
ジルチアゼムでの頂端治療の観点では、Pseudomonas aeruginosaに対する同様の効果が感染後24時間にて観察され(n=2)、未治療のものと比較して、ジルチアゼムで治療したヒト気道上皮の頂端表面から採取された細菌が有意に減少した(それぞれ、87CFU及び106CFU対63.5CFU及び106CFU)。
【0207】
全体として、これらの結果は、ジルチアゼム治療がヒト気道上皮におけるPseudomonas aeruginosaの複製を限定することを示している。
【0208】
(実施例7)
ジルチアゼムでの治療は、ヒトメタニューモウイルス(hMPV)の増殖を有意に減少させる。
鼻由来の再構成ヒト上皮モデル(MucilAir(登録商標)HAE、Epithelix社)におけるウイルスの複製を、ジルチアゼムで治療した上皮、又は治療していない上皮で調査した。そのためには、(i)蛍光顕微鏡写真を使用して感染の有効性及び進行を評価し、(ii)RTqPCRによるウイルスゲノムの定量を実施し、一方で該上皮の頂端極で(表面採取)、子孫ウイルスの排出を定量し、そして一方で終点(感染後5日)での上皮細胞の全溶解物において、該上皮内の細胞内ウイルス複製を定量する。
【0209】
実験の時系列図を図7Aに示す。
【0210】
ヒト気道上皮(Mucilair、Epithelix社)を、MOIが0.1にて組換えhMPV-GFPウイルス(C-85473株)で感染させ、次いで感染後0日、1日、及び3日にて90μMのジルチアゼムの3回連続投薬で(該上皮の基底外側培地を介して)治療した、又は治療しなかった(条件ごとに3つの上皮)。
【0211】
ウイルス複製に対するジルチアゼム治療の影響を観察するために、感染後4日で落射蛍光顕微鏡観察を実施した(図7B)。治療を行わなかった場合、GFPのウイルス発現に相当する蛍光がほぼ全ての上皮において感染後4日で観察されるが、一方、感染後同じ時間にて、ジルチアゼムでの治療の感染した上皮において蛍光細胞がほとんど存在しなかった。
【0212】
感染後3日に、産生された子孫ウイルスを採取するために、治療したかどうかにかかわらず、感染した上皮の頂端極の洗浄を実施した。ゲノムウイルスRNAを、HMPVのN遺伝子を含有するプラスミドを使用して、RT-qPCR(Biosystems(商標)PowerUp(商標)SYBR(商標)Green、Thermo Fisher Scientific社)によって抽出及び定量した。結果は、N遺伝子のコピー数/μg抽出RNAで表される(図7C)。
【0213】
qPCRの結果は、未治療の上皮から採取した頂端極上清に非常に大量のウイルスゲノムが存在することを示している。このウイルスゲノムの定量は、上皮の感染後の子孫ウイルス産生のレベルを反映している。比較すると、ジルチアゼムで治療した上皮から回収された頂端上清では、測定されたウイルスゲノムの量は有意に少ない(2log10)(図7C)。
【0214】
感染後5日に、上皮細胞を採取し溶解して全RNAを抽出した。hMPVのNウイルス遺伝子に相当する全RNAを、HMPVのN遺伝子を含有するプラスミドから作成された範囲を使用して、Rt-qPCR(Biosystems(商標)PowerUp(商標)SYBR(商標)Green、Thermo Fisher Scientific社)により定量した。結果は、N遺伝子のコピー数/μg抽出RNAで表される(図7D)。
【0215】
qPCRの結果は、未治療の上皮では、非常に大量のウイルスゲノムが存在することを示している。一方、ジルチアゼムで治療した上皮では、ウイルスゲノムの量は4log10と低下する。
【0216】
全体として、これらの結果は、ジルチアゼム治療がhMPVウイルス複製を有意に減少させることを示している。
【0217】
(実施例8)
RT-qPCRによって測定されるIFN-λ2(IFNL2)遺伝子発現のインビボでのジルチアゼム誘導
図8Aは、BALB/cマウスの鼻腔内(i.n.)滴下注入による治療の時系列の概略図である。マウスを0日(D0)に治療した(20mg/kg)、又は治療せず(「模擬治療」PBS対照群)、次いでその後の2日間は毎日(D0、D1、及びD2)、又は4日まで48時間ごと(D0、D2、及びD4)のいずれかで治療した、又は治療しなかった。D5にて、動物の安楽死後に鼻腔を取り出した。
【0218】
全RNAは、RNeasy Kit(Qiagen社)を使用して、供給業者の指示に従って試料から抽出した。逆転写ステップの後、StepOnePlus(商標) Real-Time PCR System(Biosystems社製)を使用して、公開(Galaniら、Immunity2017)に記載される手順に従って、リアルタイム定量PCR反応を実施した。
【0219】
IFN-λ2遺伝子(IFNL2)の発現を、RT-qPCRによって測定し、未治療(模擬治療)マウスで測定された基礎レベル(1に等しい)と比較して図8Bに示す。
【0220】
これらの結果により、マウスモデルに鼻腔内投与したジルチアゼムはまた、経口治療と同様に、IFNIII経路を活性化することが確認できる。
【0221】
[参考文献]
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B