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特許7412389非水電解液二次電池、および非水電解液二次電池の製造方法
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  • 特許-非水電解液二次電池、および非水電解液二次電池の製造方法 図1
  • 特許-非水電解液二次電池、および非水電解液二次電池の製造方法 図2
  • 特許-非水電解液二次電池、および非水電解液二次電池の製造方法 図3
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  • 特許-非水電解液二次電池、および非水電解液二次電池の製造方法 図7
  • 特許-非水電解液二次電池、および非水電解液二次電池の製造方法 図8
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池、および非水電解液二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0587 20100101AFI20240104BHJP
   H01G 11/26 20130101ALI20240104BHJP
   H01G 11/50 20130101ALI20240104BHJP
   H01G 11/70 20130101ALI20240104BHJP
   H01G 11/84 20130101ALI20240104BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20240104BHJP
   H01M 50/538 20210101ALI20240104BHJP
【FI】
H01M10/0587
H01G11/26
H01G11/50
H01G11/70
H01G11/84
H01M10/0568
H01M50/538
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021090498
(22)【出願日】2021-05-28
(65)【公開番号】P2022182773
(43)【公開日】2022-12-08
【審査請求日】2022-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 直利
(72)【発明者】
【氏名】佐野 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】西出 太祐
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-005069(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0587
H01M 10/0568
H01G 11/84
H01G 11/50
H01G 11/70
H01G 11/26
H01M 50/538
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の正極板および帯状の負極板が、帯状のセパレータを介在させつつ捲回された扁平形状の捲回電極体と、
リチウムとフッ素とを含む支持塩を含有する非水電解液と、
前記捲回電極体および前記非水電解液を収容する電池ケースと、
を備える非水電解液二次電池であって、
前記負極板は、負極芯体と、該負極芯体上に形成された負極活物質層とを有しており、
前記捲回電極体の捲回軸方向における前記負極活物質層の長さLは少なくとも20cmであり、
ここで、前記負極板は、前記捲回軸方向の一の端部に突出した複数の負極タブを備えており、
前記負極板における巻き始め端部に最も近い前記負極タブにおいて、
前記捲回軸に直交する方向における該負極タブの根元の一の端部を端部Bとし、
前記根元の前記端部Bと異なる他方の端部を端部Cとし、
前記端部Bと前記端部Cとを結ぶ線分BCの中点を中点Eとし、
前記中点Eを通過し、かつ、前記捲回軸に沿う直線を直線Aとしたとき、
前記負極活物質層の以下の領域:
(1)前記負極活物質層の前記捲回軸方向の中心を含む中央領域、ここで、該中央領域の同方向における長さは1/3Lである;および、
(2)前記負極タブ側、または前記負極タブと反対側で前記中央領域と隣接する端部領域、ここで、該端部領域の前記捲回軸方向における長さは1/3Lである、
における、前記直線A上の前記負極活物質層から採取した試料のLiF強度をX線光電子分光法(XPS)による分析で検出したとき、前記(1)におけるLiF強度I中央と、前記(2)におけるLiF強度I端部との比(I中央/I端部)が0.5以上である、非水電解液二次電池。
【請求項2】
前記電池ケースは、開口および該開口に対向する底部を含む外装体と、前記開口を封口する封口板と、を備えており、
前記捲回電極体は、前記捲回軸が前記底部と平行になる向きで前記外装体内に配置されている、請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項3】
前記外装体は、一対の対向する大面積側壁と、該大面積側壁の面積よりも小さい面積を有する、一対の対向する小面積側壁とを有しており、
前記一対の大面積側壁の間の距離は少なくとも3cmであり、
前記外装体内には、複数個の前記捲回電極体が収容されている、請求項2に記載の非水電解液二次電池。
【請求項4】
前記捲回電極体に電気的に接続された正極集電体および負極集電体を備えており、
前記正極板は、前記捲回軸方向における一の端部に突出した複数の正極タブを備えており、
前記捲回電極体は、前記捲回軸方向の一方の端部に前記複数の負極タブを含む負極タブ群と、同方向の他方の端部に前記複数の正極タブを含む正極タブ群と、を備えており、
前記正極集電体と前記正極タブ群とが接続され、前記負極集電体と前記負極タブ群とが接続されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の非水電解液二次電池。
【請求項5】
帯状の正極板および帯状の負極板が、帯状のセパレータを介在させつつ捲回された扁平形状の捲回電極体と、
リチウムとフッ素とを含む支持塩を含有する非水電解液と、
前記捲回電極体および前記非水電解液を収容する電池ケースと、
を備える非水電解液二次電池の製造方法であって、
前記捲回電極体と前記非水電解液とを前記電池ケースに収容して二次電池組立体を構築する組立工程;および
前記二次電池組立体に対して初期充電を行う初期充電工程、
を有しており、
前記負極板は、負極芯体と、該負極芯体上に形成された負極活物質層とを有しており、
前記捲回電極体の捲回軸方向における前記負極活物質層の長さLは少なくとも20cmであり、
ここで、前記初期充電工程では、
前記二次電池組立体のリチウム金属基準(vs.Li/Li+)に対する負極電位が少なくとも0.5Vに到達するまで、該二次電池組立体を第1充電レートで充電し、
当該工程完了時における前記捲回電極体のガス残り量は、58cc以下を満たす、製造方法。
【請求項6】
前記第1充電レートは0.3It以下である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記第1充電レートは0.05It以上である、請求項5または6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記負極電位が0.5Vに達した後、前記二次電池組立体を0.3It超過1.0It以下の第2充電レートで充電する、請求項5~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記組立工程では、前記二次電池組立体の水分量が300ppm以下となるように、該二次電池組立体を組み立てる、請求項5~8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記電池ケースは、開口および該開口に対向する底部を含む外装体と、前記開口を封口する封口板と、を備えており、
前記捲回電極体は、前記捲回軸が前記底部と平行になる向きで前記外装体内に配置されている、請求項5~9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記外装体は、一対の対向する大面積側壁と、該大面積側壁の面積よりも小さい面積を有する、一対の対向する小面積側壁とを有しており、
前記一対の大面積側壁の間の距離は少なくとも3cmであり、
前記外装体内には、複数個の前記捲回電極体が収容されている、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記捲回電極体に電気的に接続された正極集電体および負極集電体を備えており、
前記正極板は、前記捲回軸方向における一の端部に突出した複数の正極タブを備えており、
前記負極板は、前記捲回軸方向における一の端部に突出した複数の負極タブを備えており、
前記捲回電極体は、前記捲回軸方向の一方の端部に前記複数の負極タブを含む負極タブ群と、同方向の他方の端部に前記複数の正極タブを含む正極タブ群と、を備えており、
前記正極集電体と前記正極タブ群とが接続され、前記負極集電体と前記負極タブ群とが接続されている、請求項5~11のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池、および非水電解液二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、リチウムイオン二次電池等の二次電池は、車両や携帯端末等の様々な分野において広く使用されている。この種の二次電池の典型例として、正極板および負極板を有する電極体と、非水電解液と、該電極体および該非水電解液を収容する電池ケースと、を備える非水電解液二次電池が挙げられる。
【0003】
非水電解液二次電池の製造において、一般的に、電極体と非水電解液とが電池ケースに収容された状態の二次電池組立体を初期充電する。初期充電を行うことによって、負極板の表面に、いわゆるSEI被膜を形成することができる。一方で、初期充電時には、二次電池組立体に含まれる成分に由来するガスが、電極体内で発生し得る。これに関して、特許文献1に開示されるリチウムイオン二次電池(非水電解液二次電池)の製造方法では、リチウムイオン二次電池を満充電状態まで充電する初期充電工程の前に、プレ充電工程と、該プレ充電工程で発生したガスを抜くガス抜き工程と、を実施する。これによって、初期充電工程において負極の表面にリチウム金属が析出するのを防止することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/132444
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、非水電解液二次電池が備える電極体として、帯状の正極板および帯状の負極板が、帯状のセパレータを介在させつつ捲回された扁平形状の捲回電極体が採用されることがある。また、近年の二次電池の普及にともない、非水電解液二次電池のさらなる高エネルギー化が求められている。このような要求を満たすため、本発明者らは、例えば正極板や負極板における電極活物質層の形成幅(即ち捲回電極体の捲回軸方向の長さ)を大きくすることを考えた。しかし、本発明者らは、電極活物質層の形成幅が大きい捲回電極体を備える非水電解液二次電池を製造する過程で、該捲回電極体の一部の領域において、該一部の領域を除く他の領域よりも黒い黒色領域が形成され得ることを新たに知得した。また、本発明者らは、黒色領域は他の領域よりも抵抗が高いため、黒色領域が形成された捲回電極体を備える非水電解液二次電池では、その電池特性(例えば、容量維持率等)が低くなり得ることを見出した。
【0006】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、捲回電極体を備える非水電解液二次電池において、該捲回電極体における黒色領域の形成を抑制する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここで開示される非水電解液二次電池は、帯状の正極板および帯状の負極板が、帯状のセパレータを介在させつつ捲回された扁平形状の捲回電極体と、リチウムとフッ素とを含む支持塩を含有する非水電解液と、上記捲回電極体および上記非水電解液を収容する電池ケースと、を備える。上記負極板は、負極芯体と、該負極芯体上に形成された負極活物質層とを有している。上記捲回電極体の捲回軸方向における上記負極活物質層の長さLは少なくとも20cmである。ここで、上記負極板は、上記捲回軸方向の一の端部に突出した複数の負極タブを備えている。
上記負極板における巻き始め端部に最も近い上記負極タブにおいて、
上記捲回軸に直交する方向における該負極タブの根元の一の端部を端部Bとし、
上記根元の上記端部Bと異なる他方の端部を端部Cとし、
上記端部Bと上記端部Cとを結ぶ線分BCの中点を中点Eとし、
上記中点Eを通過し、かつ、上記捲回軸に沿う直線を直線Aとしたとき、
上記負極活物質層の以下の領域:
(1)上記負極活物質層の上記捲回軸方向の中心を含む中央領域、ここで、該中央領域の同方向における長さは1/3Lである;および、
(2)上記負極タブ側、または上記負極タブと反対側で上記中央領域と隣接する端部領域、ここで、該端部領域の上記捲回軸方向における長さは1/3Lである、
における、上記直線A上の上記負極活物質層から採取した試料のLiF強度をX線光電子分光法(XPS)による分析で検出したとき、上記(1)におけるLiF強度I中央と、上記(2)におけるLiF強度I端部との比(I中央/I端部)が0.5以上である。
【0008】
かかる構成の非水電解液二次電池は、負極板の中央領域における黒色領域の形成が抑制されている。そのため、電池性能の低下が抑制されている。
【0009】
ここで開示される非水電解液二次電池の好適な一態様では、上記電池ケースは、開口および該開口に対向する底部を含む外装体と、上記開口を封口する封口板と、を備えている。上記捲回電極体は、上記捲回軸が上記底部と平行になる向きで上記外装体内に配置されている。ここで開示される技術の効果は、上記構成の非水電解液二次電池において適切に発揮され得る。
【0010】
ここで開示される非水電解液二次電池の他の好適な一態様では、上記外装体は、一対の対向する大面積側壁と、該大面積側壁の面積よりも小さい面積を有する、一対の対向する小面積側壁とを有している。上記一対の大面積側壁の間の距離は少なくとも3cmである。上記外装体内には、複数個の上記捲回電極体が収容されている。上記のとおり、ここで開示される非水電解液二次電池では、電池性能の低下が抑制されている。そのため、複数個の捲回電極体を備えることによって、非水電解液二次電池からより効率よくエネルギーを得ることができる。
【0011】
ここで開示される非水電解液二次電池の他の好適な一態様では、上記捲回電極体に電気的に接続された正極集電体および負極集電体を備えている。上記正極板は、上記捲回軸方向における一の端部に突出した複数の正極タブを備えている。上記捲回電極体は、上記捲回軸方向の一方の端部に上記複数の負極タブを含む負極タブ群と、同方向の他方の端部に上記複数の正極タブを含む正極タブ群と、を備えている。上記正極集電体と上記正極タブ群とが接続され、上記負極集電体と上記負極タブ群とが接続されている。ここで開示される技術の効果は、上記構成の非水電解液二次電池において適切に発揮され得る。
【0012】
ここで開示される製造方法は、帯状の正極板および帯状の負極板が、帯状のセパレータを介在させつつ捲回された扁平形状の捲回電極体と、リチウムとフッ素とを含む支持塩を含有する非水電解液と、上記捲回電極体および上記非水電解液を収容する電池ケースと、を備える非水電解液二次電池の製造方法である。当該方法は、上記捲回電極体と上記非水電解液とを上記電池ケースに収容して二次電池組立体を構築する組立工程;および、上記二次電池組立体に対して初期充電を行う初期充電工程、を有している。ここで、上記初期充電工程では、上記二次電池組立体のリチウム金属基準(vs.Li/Li+)に対する負極電位が少なくとも0.5Vに到達するまで、該二次電池組立体を第1充電レートで充電し、当該工程完了時における上記捲回電極体のガス残り量は、58cc以下を満たす。
【0013】
本発明者らの検討によって、初期充電開始から上記負極電位に達するまでの期間に、ガスが発生しやすいことがわかった。上記構成の製造方法では、初期充電開始から所定の負極電位に達するまでの期間を第1充電レートという特定の充電レートで充電する。これによって、初期充電工程における捲回電極体内でのガス発生を抑制することができる。また、本発明者らの検討によって、初期充電後の捲回電極体におけるガス残り量が58cc以下になるように充電すると、該捲回電極体で黒色領域の形成を抑制できることがわかった。このため、上記製造方法を実施することによって、非水電解液二次電池の黒色領域の形成を抑制し、電池性能の低下を抑制することができる。
【0014】
ここで開示される製造方法の好適な一態様では、上記第1充電レートは0.3It以下である。かかる構成によると、ここで開示される技術の効果を適切に発揮することができる。
【0015】
ここで開示される製造方法の他の好適な一態様では、上記第1充電レートは0.05It以上である。かかる構成によると、ここで開示される技術の効果を適切に発揮することができる。
【0016】
ここで開示される製造方法の他の好適な一態様では、上記負極電位が0.5Vに達した後、上記二次電池組立体を0.3It超過1.0It以下の第2充電レートで充電する。上記のとおり、負極電位が0.5Vに達するまでの期間(即ち、ガスが発生しやすい期間)は特定の充電レートによる充電が行われ、ガス発生が抑制されている。そのため、この期間を過ぎた後は、それまでの充電レートから変更しても、ここで開示される技術の効果が好適に実現される。
【0017】
ここで開示される製造方法の他の好適な一態様では、上記組立工程では、上記二次電池組立体の水分量が300ppm以下となるように、該二次電池組立体を組み立てる。かかる構成によると、上記効果に加えて、二次電池組立体に含まれる水分に由来するガスの発生量を低減することができる。
【0018】
ここで開示される製造方法の他の好適な一態様では、上記電池ケースは、開口および該開口に対向する底部を含む外装体と、上記開口を封口する封口板と、を備えている。上記捲回電極体は、上記捲回軸が上記底部と平行になる向きで上記外装体内に配置されている。ここで開示される技術の効果は、上記構成の非水電解液二次電池において適切に発揮され得る。
【0019】
ここで開示される製造方法の他の好適な一態様では、上記外装体は、一対の対向する大面積側壁と、該大面積側壁の面積よりも小さい面積を有する、一対の対向する小面積側壁とを有している。上記一対の大面積側壁の間の距離は少なくとも3cmである。上記外装体内には、複数個の上記捲回電極体が収容されている。上記のとおり、ここで開示される非水電解液二次電池では、電池性能の低下が抑制されている。そのため、複数個の捲回電極体を備えることによって、非水電解液二次電池からより効率よくエネルギーを得ることができる。また、効率よくエネルギーを得ることを目的に捲回電極体のサイズを大きくするよりも、複数個の捲回電極体を備える方が、ガス抜きの観点から好ましい。
【0020】
ここで開示される製造方法の他の好適な一態様では、上記捲回電極体に電気的に接続された正極集電体および負極集電体を備えている。上記正極板は、上記捲回軸方向における一の端部に突出した複数の正極タブを備えている。上記捲回電極体は、上記捲回軸方向の一方の端部に上記複数の負極タブを含む負極タブ群と、同方向の他方の端部に上記複数の正極タブを含む正極タブ群と、を備えている。上記正極集電体と上記正極タブ群とが接続され、上記負極集電体と上記負極タブ群とが接続されている。ここで開示される技術の効果は、上記構成の非水電解液二次電池において適切に発揮され得る。また、帯状の電極芯体露出部が捲回されて束ねられた構成よりも、電極芯体露出部がタブ状にカットされて積層されて構成されたタブ群を有する方が、ガス抜きの観点から好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】一実施形態に係る製造方法で製造される非水電解液二次電池を模式的に示す斜視図である。
図2図1のII-II線に沿う模式的な横断面図である。
図3】一実施形態に係る製造方法で用いられる捲回電極体を模式的に示す斜視図である。
図4】一実施形態に係る製造方法で用いられる捲回電極体の構成を示す模式図である。
図5】一実施形態に係る製造方法の工程図である。
図6】一実施形態に係る製造方法における充放電制御を説明するブロック図である。
図7】一実施形態に係る製造方法における初期充電工程の制御フロー図である。
図8】一実施形態に係る製造方法で製造される非水電解液二次電池の負極板を示す部分平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、ここで開示される技術の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であってここで開示される技術の実施に必要な事柄(例えば、ここで開示される技術を特徴付けない非水電解液二次電池の一般的な構成および製造プロセス)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。ここで開示される技術は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0023】
本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充放電が可能な蓄電デバイス全般を指す用語であって、リチウムイオン二次電池等のいわゆる蓄電池(化学電池)と、電気二重層キャパシタ等のキャパシタ(物理電池)と、を包含する概念である。本明細書において「活物質」とは、電荷担体(例えばリチウムイオン)を可逆的に吸蔵・放出できる材料をいう。本明細書において「充電深度」とは、二次電池組立体(非水電解液二次電池)の満充電の状態を100%とした充電率(初期状態からの充電量/二次電池組立体の電池容量×100)をいい、SOC(state of charge)とも称する。
【0024】
本明細書において参照する各図における符号Xは「奥行方向」を示し、符号Yは「幅方向」を示し、符号Zは「高さ方向」を示す。また、奥行方向XにおけるFは「前」を示し、Rrは「後」を示す。幅方向YにおけるLは「左」を示し、Rは「右」を示す。そして、高さ方向ZにおけるUは「上」を示し、Dは「下」を示す。ただし、これらは説明の便宜上の方向に過ぎず、二次電池の設置形態を何ら限定するものではない。また、本明細書において数値範囲を示す「A~B」の表記は、「A以上B以下」という意味とともに、「Aを上回り、かつ、Bを下回る」という意味も包含する。また、図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明している。
【0025】
ここで開示される製造方法において製造される非水電解液二次電池の一例を、図1,2に示す。非水電解液二次電池100は、捲回電極体20、および図示されない非水電解液と、該捲回電極体、および該非水電解液を収容する電池ケース10と、を備えている。非水電解液二次電池100は、ここではリチウムイオン二次電池である。
【0026】
非水電解液は、非水溶媒と支持塩とを含有し得る。非水溶媒としては、一般的なリチウムイオン二次電池に用いられる各種のカーボネート類等の有機溶媒を、特に制限なく用いることができる。具体例として、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)等の鎖状カーボネート;エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、メチルエチレンカーボネート、エチルエチレンカーボネート等の環状カーボネート;メチル2,2,2-トリフルオロエチルカーボネート(MTFEC)等のフッ素化鎖状カーボネート;モノフルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)等のフッ素化環状カーボネート;が挙げられる。このような非水溶媒は、1種を単独あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。非水溶媒は、環状カーボネートであることが好ましい。なかでも、エチレンカーボネート(EC)を好ましく用いることができる。
【0027】
支持塩としては、リチウムとフッ素とを含む支持塩を含有する。このような支持塩としては、例えばLiPF、LiBF、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド(LiTFSI)等のリチウム塩等が挙げられる。なかでも、LiPFを好ましく用いることができる。非水電解液中の支持塩の濃度は、0.7mol/L~1.3mol/Lの範囲で設定するとよい。
【0028】
非水電解液は、特に限定するものではないが、被膜形成剤を含むことが好ましい。非水電解液は、被膜形成剤として、ホウ素(B)原子および/またはリン(P)原子を含むオキサラト錯体化合物(例えば、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB))、ビニレンカーボネート(VC)、およびジフルオロリン酸リチウムからなる群から選択される1種または2種以上の化合物を含み得る。
【0029】
非水電解液は、上述した成分以外の成分として、例えば、ビフェニル(BP)、シクロヘキシルベンゼン(CHB)等のガス発生剤を含み得る。また、ここで開示される技術の効果を著しく損なわない限り、増粘剤;分散剤;等の従来公知の添加剤を含み得る。
【0030】
電池ケース10は、開口を有する外装体12と、該開口を封口する封口板(蓋体)14と、を備えている。電池ケース10は、外装体12の開口の周縁に封口板14が接合されることによって、一体化されて気密に封止(密閉)されている。外装体12は、上記開口と、該開口に対向する矩形状の底部12aと、底部12aの長辺から立ち上がった一対の大面積側壁12bと、底部12aの短辺から立ち上がった一対の小面積側壁12cとを含む、有底角筒状の角形外装体である。小面積側壁12cは、大面積側壁12bの面積よりも小さい面積を有する。封口板14には、非水電解液の注液孔15と、ガス排出弁17と、正極端子30と、負極端子40と、が設けられている。注液孔15は、封止部材16で封止されている。正極端子30および負極端子40は、電池ケース10内に収容された捲回電極体20と電気的に接続されている。電池ケース10は、例えば金属製である。電池ケース10を構成する金属材料としては、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、鉄、鉄合金等が挙げられる。
【0031】
電池ケース10のサイズは、特に限定されない。後述のように、いくつかの態様において外装体12内に複数の捲回電極体20が収容される場合、一対の大面積側壁12bの間の距離は、収容される捲回電極体20の数やサイズ等に応じて適宜設定され得る。上記距離は、例えば、少なくとも3cmあるとよく、3cm以上であってよく、4cm以上であってよく、また、5cm以上であってよい。また、上記距離は、例えば、10cm以下であってよく、8cm以下であってよく、また、6cm以下であってよい。
【0032】
捲回電極体20は、非水電解液二次電池100の発電要素であり、正極板、負極板、およびセパレータを備えている。本実施形態では、図2に示すように、電池ケース10(外装体12)内に、複数個(例えば、2個以上、3個以上、あるいは4個以上。図2では3個)の捲回電極体20が奥行方向Xに配列された状態で収容されている。図1~4に示すように、捲回電極体20は、捲回軸WLが底部12aと平行になる向きで、外装体12の内部に配置されている。特に限定するものではないが、捲回電極体20は、電極体ホルダ70内に収容された状態で、電池ケース10に収容されている。なお、捲回電極体20を構成する各部材(正極板、負極板およびセパレータ等)の構成材料は、一般的な非水電解液二次電池で使用され得る材料を特に制限なく使用できる。上記構成材料は、ここで開示される技術を限定するものではないため、ここでの詳細な説明を省略する。
【0033】
捲回電極体20の捲回軸WL方向の長さL1は、少なくとも20cmであり、例えば20cm以上、25cm以上、あるいは30cm以上に設定され得る。上記長さL1は、50cm以下が好ましく、40cm以下がより好ましく、35cm以下がさらに好ましい。なお、上記長さL1には、後述の正極タブ22tの長さおよび負極タブ24tの長さのいずれも含まれない。
【0034】
特に限定するものではないが、捲回電極体の高さ方向Zの長さHは、例えば70mm~150mmである。上記長さL1と上記長さHとの比(L1/H)は、概ね2.0以上であり、5.0以下が好ましく、4.0以下がより好ましい。特に限定するものではないが、捲回電極体20の厚みWは、30mm以下(例えば20mm以下)であることが好ましい。
【0035】
捲回電極体20の厚み方向(奥行方向X)の両端は、一対の幅広な平坦面20aで構成されている。捲回電極体20の平坦面20aは、捲回電極体20の捲回軸方向における平坦面20aの中央線CLを含む中央部201と、同方向において中央部201を挟みこむ2つの端部202および端部203と、を有する。捲回軸方向における平坦面20aの長さL1と中央部201の長さL2との比(L2/L1)は、例えば、1/6以上、1/4以上、また、1/2以下、1/3以下であり得る。「中央線CLを含む」とは、中央部201の中に中央線CLを含んでいればよく、例えば、中央部201の中央線(図示なし)と中央線CLとの距離が1/4L2以下である。端部202、203の捲回軸方向の長さは、上記長さL2に応じて適宜設定され得る。
【0036】
図4に示すように、捲回電極体20は、正極板22および負極板24を有する。捲回電極体20は、ここでは、長尺な帯状の正極板22と長尺な帯状の負極板24とが長尺な帯状のセパレータ26を介在させつつ長手方向に直交する捲回軸WLを中心として捲回された、扁平形状の捲回電極体である。図3に示すように、捲回電極体20の幅方向Yの両端は、正極板22、負極板24、およびセパレータ26の積層面20bで構成されている。積層面20bは、捲回電極体20外に開放されている。
【0037】
正極板22は、長尺な帯状の正極芯体22cと、正極芯体22c(例えば、アルミニウム箔やアルミニウム合金箔等)の少なくとも一方の表面上(好ましくは両面)に固着された、正極活物質(例えばリチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物(NCM)等)を含む正極活物質層22aとを有する。特に限定するものではないが、正極板22の幅方向Yにおける一方の側縁部には、必要に応じて、正極保護層22pが設けられてもよい。正極芯体22cの幅方向Yの一方の端部(図4の左端部)には、複数の正極タブ22tが設けられている。複数の正極タブ22tは、それぞれ幅方向Yの一方側(図4の左側)に向かって突出している。複数の正極タブ22tは、正極板22の長手方向に沿って間隔を置いて(間欠的に)設けられている。正極タブ22tは、正極芯体22cの一部であり、正極芯体22cの正極活物質層22aおよび正極保護層22pが形成されていない部分(芯体露出部)である。複数の正極タブ22tは幅方向Yの一方の端部(図4の左端部)で積層され、複数の正極タブ22tを含む正極タブ群23を構成している。正極タブ群23に、正極集電体50が接合されている(図2~4参照)。
【0038】
正極板22のサイズは、捲回電極体20の上記長さL1を実現するように設定され得る。捲回軸WL方向における正極板22の長さは、例えば20cm以上、25cm以上、あるいは30cm以上に設定され得る。また、当該長さは、例えば50cm以下、40cm以下、あるいは35cm以下であり得る。なお、上記長さには、正極タブ22tの長さは含まれない。
【0039】
負極板24は、長尺な帯状の負極芯体24c(例えば、銅箔や銅合金箔等)と、負極芯体24cの少なくとも一方の表面上(好ましくは両面)に固着された、負極活物質(例えば黒鉛等)を含む負極活物質層24aと、を有する。負極芯体24cの幅方向Yの一方の端部(図4の右端部)には、複数の負極タブ24tが設けられている。複数の負極タブ24tは、幅方向Yの一方側(図4の右側)に向かって突出している。複数の負極タブ24tは、負極板24の長手方向に沿って間隔を置いて(間欠的に)設けられている。負極タブ24tは、ここでは負極芯体24cの一部であり、負極芯体24cの負極活物質層24aが形成されていない部分(芯体露出部)である。複数の負極タブ24tは幅方向Yの一方の端部(図4の右端部)で積層され、複数の負極タブ24tを含む負極タブ群25を構成している。負極タブ群25に、負極集電体60が接合されている(図2~4参照)。
【0040】
負極板24のサイズは、捲回電極体20の上記長さL1を実現するように設定され得る。捲回軸WL方向における負極板24の長さ(例えば図8に示す負極活物質層24aの同方向における長さL)は、少なくとも20cmであり、例えば20cm以上、25cm以上、あるいは30cm以上に設定され得る。また、当該長さは、例えば50cm以下、40cm以下、あるいは35cm以下であり得る。なお、上記長さには、負極タブ24tの長さは含まれない。
【0041】
ところで、二次電池組立体の初期充電を行うと、負極活物質は、所定の電位以上で接触する有機物(例えば非水電解液成分、被膜形成剤等の添加剤等)を分解する。このような分解産物は、SEI被膜として負極活物質層の表面に堆積する。SEI被膜には電子伝導性はないが、完全な連続膜ではないため、イオンの通過を許容する。そのため、SEI被膜は、活物質表面を安定化および/または不活化させて、非水電解液成分等の過剰な分解を抑制することができる。一方、初期充電によって、二次電池組立体に含まれる成分(例えば水分、非水電解液の構成成分等)に由来するガスが、電極体の内部で発生し得る。電極体内で発生したガスは、該電極体の開放面から電極体外に放出される。ここで、電極体が例えば捲回電極体20のような構成であると、上記ガスの放出が捲回電極体20の開放面である積層面20bからに限られるため、発生したガスの一部が電極体内(特に中央部201)に残りやすい。
【0042】
上記のとおり、初期充電後の負極活物質層24aの表面には、SEI被膜が形成されるところ、ガスが存在する部分では充電反応が生じにくいため、SEI被膜の形成が妨げられる。ガスは、その後のエージング等によって、捲回電極体20外に放出される。ガスが抜けた部分ではSEI被膜の形成が不十分であるため、その後の工程によって、非水電解液成分と負極活物質とが急速に反応する。そうすると、SEI被膜とは性質の異なる非良質な被膜(黒色領域)が形成される。黒色領域は他の領域よりも抵抗が高いため、黒色領域の形成によって、捲回電極体20に充電ムラが発生し、非水電解液二次電池の電池性能を低下させる要因になり得る。
【0043】
本発明者らは、まず、初期充電で発生するガスの総量と、黒色領域形成の有無との関係に着目した。本発明者らの検討によれば、初期充電において発生するガスについて、ガスの総量を低減させるだけでは黒色領域の形成を十分に抑制できず、捲回電極体内のガス残り量が所定範囲となるように制御することが重要であると分かった。また、初期充電開始後の負極電位が所定の範囲内(具体的には、0.6V~0.3V(特に0.5V以上))にあるときに、ガスが発生しやすいこともわかった。そして、本発明者らの鋭意検討の結果、初期充電後の捲回電極体内のガス残り量と、負極電位と、充電レートとの好ましい関係を知得し、本発明を完成させるに至った。
【0044】
ここで開示される製造方法は、図5に示すように、組立工程S1と、初期充電工程S2と、エージング工程S3と、を有する。組立工程S1では、捲回電極体と非水電解液とを電池ケースに収容して二次電池組立体を構築する。まず、捲回電極体20を、上記の材料を用いて従来公知の方法で作製する。次いで、捲回電極体20の正極タブ群23に正極集電体50を取り付け、さらに負極タブ群25に負極集電体60を取り付けて、捲回電極体と電極集電体との合体物(第1合体物)を用意する(図3参照)。本実施形態では、3個の第1合体物を用意する。
【0045】
次いで、3個の第1合体物と封口板14とを一体化して、第2合体物を用意する。具体的には、例えば、封口板14に予め取り付けられた正極端子30と、第1合体物の正極集電体50とを接合する。同様に、封口板14に予め取り付けられた負極端子40と、第1合体物の負極集電体60とを接合する。接合手段としては、例えば、超音波接合、抵抗溶接、レーザ溶接等を用いることができる。
【0046】
次いで、第2合体物を、外装体12に収容する。具体的には、例えば、絶縁性の樹脂シート(例えばポリエチレン(PE)等のポリオレフィン製)を、袋状または箱状に折り曲げて作製した電極体ホルダ70に3個の捲回電極体20を収容する。そして、電極体ホルダ70で覆われた捲回電極体20を、外装体12に挿入する。この状態で、外装体12の開口部に封口板14を重ね合わせて、外装体12と封口板14とを溶接し、外装体12を封口する。そして、従来公知の方法にて注液孔15を介して、電池ケース10に非水電解液を注液する。注液した非水電解液を捲回電極体20に含浸させる。このようにして、捲回電極体20と非水電解液とが電池ケース10に収容された二次電池組立体を構築する。
【0047】
特に限定するものではないが、組立工程S1では、二次電池組立体の水分量が300ppm以下となるように、該二次電池組立体を組み立てることが好ましい。この水分量は、250ppm以下であることが好ましく、200ppm以下であることがより好ましく、値が小さいほどよい。このような二次電池組立体を組み立てる方法としては、一例として、上記のように捲回電極体20を収容した外装体12を封口した後であって非水電解液を注液する前に、電池ケース10の内部を乾燥する乾燥工程を実施することが挙げられる。乾燥方法としては、例えば、乾燥チャンバを使用することが挙げられる。具体的には、まず、乾燥チャンバ内に捲回電極体20が収容された状態の電池ケース10と発熱体(プレートヒータ、電熱ヒータ等)とを収容し、発熱体のスイッチをオンにして、乾燥チャンバ内を加熱する。乾燥チャンバ内の温度が予め定められた温度になるまで加熱し、当該温度に達してから所定の時間(例えば、10分~4時間)維持するとよい。当該温度は、電池ケース10(捲回電極体20)の内部から水分を十分に除去し得る温度であれば特に限定されないが、例えば、100℃以上150℃以下となるように設定するとよい。この時、乾燥チャンバ内を減圧するとよい。例えば、乾燥チャンバに真空ポンプを接続し、該真空ポンプのスイッチをオンにして、乾燥チャンバ内を減圧する。乾燥チャンバ内の圧力が予め定められた圧力まで低下するまで減圧し、当該圧力に達してから所定の時間(例えば、1時間~3時間)維持するとよい。当該圧力は、特に限定されないが、大気圧(0.1MPa)に対して、例えば、-0.05MPa以下、-0.08MPa以下、-0.09MPa以下とすることができ、より低い圧力であるほどよい。
【0048】
二次電池組立体の水分量の測定方法は、特に限定するものではないが、一例として、カールフィッシャー水分測定装置を用いた方法が挙げられる。例えば、上記乾燥工程前後の捲回電極体の正極板または負極板から所定の大きさの試験片を用意する。次いで、市販のカールフィッシャー水分測定装置を用いて、上記試験片における水分量を測定する。上記乾燥工程前後の水分量を比較して、乾燥工程による水分量の減少を確認する。
そして、下記式(A):
水分量(ppm)=(乾燥工程後の水分量)/(捲回電極体の重量)×10 (A)
に基づいて、捲回電極体の水分量(即ち、二次電池組立体の水分量)を算出する。
【0049】
初期充電工程S2では、二次電池組立体に対して初期充電を行う。本工程は、二次電池組立体の負極電位に応じて充電レートを所定の態様に制御することを含む。図6に示すように、充放電手段800による二次電池組立体101の充放電は、制御装置500によって制御される。充放電手段800は、ここで開示される製造方法において二次電池組立体101の一連の充放電を行う、従来公知の充放電手段である。充放電手段800は、後述のように二次電池組立体101の負極電位が0.5Vに到達した時に、その情報を取得できるように構成されている。
【0050】
制御装置500は、二次電池組立体101の充電状態を評価し、かつ、これに基づいて充放電手段800による二次電池組立体101の充放電を制御するように構成されている。制御装置500は、処理プログラムを実行するCPUと、該処理プログラムを記憶するROMと、データを一時的に記憶するRAMと、入出力ポートおよび通信ポートと、各種センサとを備えている。制御装置500の各構成および処理は、コンピュータによって具現化されるデータを予め定められた形式で記憶するデータベース、データ構造、予め定められたプログラムに従って所定の演算処理を行う処理モジュール等として、または、それらの一部として具現化され得る。制御装置500の処理は、このような外部のコンピュータと協働で行われてもよい。例えば、制御装置500に記憶される情報または一部の情報を、外部のコンピュータが記憶してもよいし、制御装置500が実行する処理または処理の一部を、外部のコンピュータが実行してもよい。
【0051】
制御装置500は、二次電池組立体101の充電状態を評価し、かつ、これに基づいて充放電手段800による二次電池組立体101の充放電を制御するための機能ブロックとして、例えば検知部、マップ情報記憶部、記憶部、電池情報取得部、負極電位推定部、SOC取得部、および制御部を備える。
【0052】
検知部は、二次電池組立体101の電流値(Ib)および電圧値(Vb)を検知できるように構成されており、電流検知部501および電圧検知部502を備え得る。電流検知部501は、二次電池組立体101と直列に接続される電流計(図示なし)と接続されており、電流値(Ib)を検知する。電圧検知部502は、二次電池組立体101と並列に接続される電圧計(図示なし)と接続されており、電圧値(Vb)を検知する。
【0053】
マップ情報記憶部503は、二次電池組立体101の電圧値(Vb)に基づいて、負極電位を推定できるように構成された負極電位推定マップを記憶している。負極電位推定マップには、二次電池組立体101の電池電圧と負極電位との相関関係が記録されている。本明細書において「負極電位」とは、リチウム金属基準(vs.Li/Li+)の負極電位をいう。マップ情報記憶部503は、複数の負極電位推定マップを備えているとよい。複数の負極電位推定マップは、二次電池組立体101の種類(例えば該二次電池組立体に含まれる正負極活物質の種類)に応じて用意されるとよい。負極電位推定マップは、予め定められた試験に基づいて作成することができる。例えば、まず、異なる電池電圧値に調整した、複数個の試験用二次電池を用意する。次いで、各電池電圧値に調整した各々の試験用二次電池を解体して、負極板を取り出す。各々の負極板とリチウム金属からなる対向極とを用いて、各々の負極電位を測定する。この測定結果より、電池電圧と負極電位との相関関係を取得し、負極電位推定マップを作成することができる。
【0054】
記憶部は、例えば、二次電池組立体101の基本情報を記憶する基本情報記憶部504と、初期充電中の二次電池組立体101の電圧(Vb)を一時的に記憶する電圧記憶部505と、を含み得る。上記基本情報としては、例えば、二次電池組立体101に含まれる正負極活物質の種類や捲回電極体のサイズ等が挙げられる。
【0055】
負極電位推定部506は、マップ情報記憶部503に記憶された負極電位推定マップを参照し、初期充電中の二次電池組立体101における負極電位を推定するように構成されている。この際、負極電位推定部506は、電圧検知部502で検知された二次電池組立体101の電圧(Vb)を参照する。
【0056】
SOC取得部507は、二次電池組立体101のSOCを取得するように構成されている。例えば、二次電池組立体101の、初期状態からの充電電気量、放電電気量を監視することによって、現状のSOCを把握する。SOC取得部507は、電流検知部501で検知された電流値(Ib)を常時記録して、初期状態からの充電電気量と放電電気量を算出できるように構成されている。
【0057】
制御部508は、電流検知部501、電圧検知部502、マップ情報記憶部503、基本情報記憶部504、電圧記憶部505、負極電位推定部506、およびSOC取得部507と連携して、充放電手段800による二次電池組立体101の充放電を制御するように構成されている。制御部508は、充放電手段800と接続されている。制御部508は、初期充電工程S2およびその他の工程における二次電池組立体101の一連の充放電を制御するように構成されている。
【0058】
以下に、制御部508による充放電制御(ここでは、充電)を説明する。二次電池組立体101の初期充電の開始に際して、制御装置500に、二次電池組立体101の上記基本情報を入力し、参照する負極電位推定マップを選択して初期充電(初期充電工程S2)を開始する(START)。ここで開示される製造方法の初期充電工程S2は、二次電池組立体101のリチウム金属基準(vs.Li/Li+)に対する負極電位が少なくとも0.5Vに達するまで、二次電池組立体101を第1充電レートで充電すること(第1充電)、を含む。
【0059】
図7に示すように、初期充電では、まず、充放電手段800を用いて、二次電池組立体101を第1充電レートで充電する(第1充電)(ステップS11)。第1充電レートは、充電の対象となる二次電池組立体の所定のSOCまで充電を行ったときに、当該充電完了時における捲回電極体のガス残り量が58ccを満たすように設定される。例えば、第1充電レートは、試験用二次電池組立体を用いた、予め定められた試験を用いて決定することができる。当該試験では、例えば、まず、試験用二次電池組立体として、製造の対象となる非水電解液二次電池と同じ構成の試験用二次電池組立体を複数用意する(手順の詳細については、組立工程S1参照)。次いで、さらに非水電解液を各々の電池ケースに注液して、電池ケースを非水電解液で満たす。この状態で、各々の電池ケースの注液孔に漏斗を挿入し、充電を開始する。この充電における充電レートは、用意した複数の試験用二次電池組立体のそれぞれで異ならせておくとよい。そして、上記所定のSOCに到達するまで充電を行い、この間の漏斗内の液面を観察する。そして、液面が上昇した容積を測定し、捲回電極体内のガス残り量として算出する。このようにして得られたガス残り量が58cc以下となるときの充電レートを、第1充電レートとする。なお、第1充電レートを決定するためのガス残り量は、55cc以下でもよく、53cc以下であってもよい。また、上記所定のSOCは、初期充電工程S2を完了した時のSOCと同じであってよい(詳しくは後述)。
【0060】
第1充電レートは、二次電池組立体の種類によって異なるため、特に限定されないが、一例として、0.3It以下とすることが好ましい。第1充電レートをこのような範囲とすることによって、初期充電時のガス発生量を低減させることができるとともに、捲回電極体内でのガス噛みを抑制し、黒色領域の形成を抑制することができる。同様の観点から、第1充電レートは、0.2It以下としてもよく、0.1It以下であってもよい。第1充電レートの下限値は、特に限定されないが、例えば0.05It以上とすることができる。
【0061】
次いで、電圧検知部502は、電圧(Vb)を検知する(ステップS12)。このとき、電圧記憶部505がこれを記憶する。次いで、負極電位推定部506は、マップ情報記憶部503の負極電位推定マップと、上記のように電圧記憶部505に記憶された電圧(Vb)とを参照して、二次電池組立体101の負極電位を推定する(ステップS13)。ここで、制御部508は、負極電位が0.5Vに到達しているかを判定する(ステップS14)。到達していないと判定した場合(No)、ステップS11に戻る。
【0062】
到達したと判定した場合(Yes)、充放電手段800は、第1充電レートから第2充電レートに切り替えて、二次電池組立体101を第2充電レートで充電する(第2充電)(ステップS15)。第2充電レートは第1充電レートよりも大きく、例えば、0.3It超過1.0It以下に設定することができる。負極電位が0.5Vに到達した後に充電レートを上記のとおり切り替えることによって、初期充電時間を短縮することができる。また、第2充電レートへの切り替えは、捲回電極体内でガスが特に発生しやすい負極電位範囲の外であるため、より大きな充電レートで二次電池組立体101を充電しても、黒色領域の形成抑制効果を得ることができる。
【0063】
次いで、電流検知部501は、電流(Ib)を検知する(ステップS16)。この電流(Ib)に基づいて、SOC取得部507は二次電池組立体101のSOCを取得する。そして、二次電池組立体101が所定のSOCに充電されているかを判定する(ステップ17)。到達していないと判定した場合(No)、ステップS16に戻る。到達したと判定した場合(Yes)、初期充電工程S2を終了する(END)。
【0064】
なお、第1充電レートでの充電は、負極電位が0.5Vに到達した後、負極電位が0.4Vに到達するまで行うことが好ましく、負極電位が0.3Vに到達するまで行うことがより好ましい。初期充電工程S2の温度条件は、45℃以下であることが好ましく、15℃~35℃であることがより好ましく、20℃~30℃であることがさらに好ましい。また、初期充電後の二次電池組立体101のSOCは、5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましく、15%以上であることがさらに好ましい。上記SOCは、50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましく、30%以下であることがさらに好ましい。なお、特に限定するものではないが、初期充電によって発生したガスを放出するため、初期充電工程S2は、注液孔15を開放した状態(即ち、電池ケース10を開放した状態)で行うことが好ましい。また、初期充電工程S2では、二次電池組立体101を捲回電極体20の厚み方向に拘束していてもよく、拘束していなくてもよい。
【0065】
なお、上記第2充電の実施は必須ではなく、ステップS15を適宜省略することができる。このような場合、ステップS14において「Yes」と判定した後、充電レートを切り替えず、第1充電レートを維持して二次電池組立体101の充電(即ち、第1充電)を行い、ステップS16およびステップS17を実施してよい。
【0066】
図5に示すように、初期充電工程S2の後、エージング工程S3を実施する。まず、充放電手段800を用いて、二次電池組立体のSOCが例えば5%以上50%以下(好ましくは、15%以上40%以下)となるように充電する。この時の温度条件は、例えば45℃以下(好ましくは20℃以上30℃以下)に設定するとよい。この時の充電レートは特に限定されず、適宜設定し得るが、例えば1It以下とすることができる。なお、初期充電工程S2で二次電池組立体101を拘束している場合は、本工程の充電開始時に解除しておくとよい。
【0067】
次いで、二次電池組立体を、そのSOCのまま所定の温度条件下に置いて、エージング処理を開始する。この時の温度条件は、特に限定されず、例えば50℃以上70℃以下(例えば60℃程度)とするとよい。また、エージング処理の時間は、例えば5時間以上20時間以下とするとよい。上述のとおり、ここで開示される製造方法を実施することによって、使用可能状態の非水電解液二次電池を製造することができる。
【0068】
上記製造方法では、初期充電制御によってガス発生およびガス残り(ガス滞留)を抑制できるため、非良質被膜の過形成(黒色領域の形成)を抑制することができる。そのため、ここで開示される製造方法を実施することによって製造される非水電解液二次電池では、捲回電極体における黒色領域の形成が抑制されている。この効果は、エージング処理後の負極板のXPS分析を行うことによって評価することができる。XPS分析に供する試料の調製方法は、下記試験例に記載のとおりであるため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0069】
乾燥後の負極板について、図8に示す直線A上をXPSにてフッ化リチウム(LiF)のライン分析を行う。図8に示すように、負極板24における巻き始め端部24sに最も近い負極タブ24tにおいて、捲回軸(図4参照)に直交する方向における該負極タブの根元の一の端部を端部Bとする。端部Bと異なる他方の端部を端部Cとする。端部Bと端部Cとを結ぶ線分BCの中点を中点Eとする。中点Eを通過し、かつ、捲回軸に沿う直線を直線Aとする。なお、XPS装置としては、市販の装置を特に制限なく使用することができる。
【0070】
そして、負極活物質層24aの以下の領域:
(1)負極活物質層24aの捲回軸方向の中心Pを含む中央領域241、ここで、中央領域241の同方向における長さは1/3Lである;および、
(2)負極タブ24t側、または負極タブ24tと反対側で中央領域241と隣接する端部領域243(または端部領域245)、ここで、端部領域243(または端部領域245)の捲回軸方向における長さは1/3Lである、
における、直線A上の負極活物質層24aから採取した試料のLiF強度をX線光電子分光法(XPS)による分析で検出する。(1)由来の試料は、当該領域における任意の点(例えば中心P等)から採取してよい。(2)由来の試料は、当該領域における任意の点(例えば同方向における負極活物質層24aの端部から中心Pに向かって1/30L~1/5Lに位置する点等)から採取してよい。なお、図8における長さLは、負極活物質層24aの形成幅を表している。
【0071】
黒色領域形成部位では、SEI被膜の形成が不十分であり、LiFの形成量が少なくなる。そのため、LiF強度が低下する。ここで開示される非水電解液二次電池では、黒色領域の形成が抑制されており、上記(1)におけるLiF強度I中央と、上記(2)におけるLiF強度I端部との比(I中央/I端部)が0.5以上を満たす。上記比(I中央/I端部)は、0.6以上であることが好ましく、0.7以上であることがより好ましく、大きな値であるほどよい。特に限定するものではないが、上記比(I中央/I端部)の上限値は概ね1.0であり、当該比は1.0以下であり得る。なお、中心Pは、直線Aと、捲回軸方向における負極活物質層24aの中央線CL(図3においては捲回電極体20の中央線CL)との交点である。
【0072】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明を下記実施例に限定することを意図したものではない。
【0073】
<1.二次電池組立体の構築>
正極活物質としてのリチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物(NCM)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)とを、質量比がNCM:PVdF:AB=98:1:1となるように秤量し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)中で混合して、正極スラリーを調製した。この正極スラリーを、長尺な帯状の正極芯体(アルミニウム箔、厚み18μm)の両面に塗布し、乾燥させた。これを所定のサイズに切り取り、ロールプレスで圧延することにより、正極芯体の両面に正極活物質層を備えた正極板を得た。なお、正極活物質層の密度は3.4g/cmであり、厚みは片面110μmであった。また、正極板の長手方向の長さは72mであり、幅方向の長さは242mmであった。
【0074】
負極活物質としての黒鉛粉末(C)と、バインダとしてのスチレンブタジエンラバー(SBR)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、質量比がC:SBR:CMC=98:1:1となるように秤量し、水中で混合して、負極スラリーを調製した。この負極スラリーを長尺な帯状の負極芯体(銅箔、12μm)の両面に塗布し、乾燥させた。これを所定のサイズに切り取り、ロールプレスで圧延することにより、負極芯体の両面に負極活物質層を備えた負極板を得た。なお、負極活物質層の密度は1.4g/cmであり、厚みは片面200μmであった。また、負極板の長手方向の長さは80mであり、幅方向の長さは252mmであった。
【0075】
次に、上記作製した正極板と負極板とを、セパレータ(セパレータシート)を介して対向させて積層した。これをシート長手方向に捲回することにより、図4に示すような捲回電極体を作製した。なお、上記セパレータは、ポリオレフィン製の多孔質層からなる基材と、アルミナおよび樹脂バインダを含む耐熱層を備えていた。上記基材の厚みは16μmであり、上記耐熱層の厚みは4μmであった。また、耐熱層は、上記正極板側の面に形成されていた。また、セパレータの長手方向の長さは82mであり、幅方向の長さは260mmであった。
【0076】
上記のとおり作製した捲回電極体の寸法関係については、以下のとおり:
W:15mm;
L1:280mm;および、
H:90mm、
であった。なお、各符号は、図3に記載のとおりである。具体的には、Wは、捲回電極体20の厚みである。L1は、捲回電極体20の幅である。Hは、捲回電極体20の高さである。
【0077】
次いで、正極集電体および負極集電体を介して、捲回電極体と電池ケースの蓋体とを接続した。これをケース本体に挿入し、該ケース本体と蓋体とを溶接した。次いで、電池ケース(封口板)の注液孔から非水電解液を注入した。非水電解液には、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジメチルカーボネート(DMC)とをEC:EMC:DMC=30:40:30の体積比(25℃、1atm)で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPFを1mol/L、および添加剤(被膜形成剤)としてのビニレンカーボネート(VC)を0.3重量%の濃度で溶解させたものを用いた。このようにして、試験用二次電池組立体を構築した。
【0078】
<2.捲回電極体内のガス残り量の測定>
(実施例1)
上記のように構築した試験用二次電池組立体に対して、さらに非水電解液を注液して電池ケース内を非水電解液で満たした。この状態で、電池ケースの注液孔に漏斗を挿入した。次いで、初期充電を行った。具体的には、まず、0.1Itの充電レートで、試験用二次電池組立体の負極電位が0.5Vに達するまで充電を行った(第1充電)。このとき、試験用二次電池組立体の規定容量(200Ah)に対して充電深度(SOC)は2.5%であった。上記負極電位に達した時点から、充電レートを0.5Itに切り替えて、SOCが12%になるまで充電を行った(第2充電)。SOCが12%となるまで、上記漏斗内の液面を観察した。
【0079】
次いで、エージング処理を行った。具体的には、上記初期充電後の試験用二次電池組立体の封口板の注液孔を封止部材により封止し、電池ケースを密閉した。そして、0.5Itの電流で、試験用二次電池組立体の規定容量に対してSOCが35%となるまで充電を行った。次いで、試験用二次電池組立体を60℃の環境下に置いて、15時間放置した。そして、液面が上昇した容積を測定し、捲回電極体内のガス残り量とした。結果を表1の「初期充電後のガス残り量」欄に示す。
【0080】
(実施例2)
初期充電において、第1充電を負極電位が0.3Vに達するまで行った。このとき、SOCは5%であった。この負極電位に達した時点から、第2充電を行い、SOCを12%とした。それ以外は実施例1と同じ手順で初期充電およびエージング処理を実施し、実施例2におけるガス残り量を測定した。
(実施例3)
初期充電において、第1充電を負極電位が0.16Vに達するまで行った。このとき、SOCは12%であった。本例では、第2充電を行わなかった。それ以外は実施例1と同じ手順で初期充電およびエージング処理を実施し、実施例3におけるガス残り量を測定した。なお、表1の「第1充電後のSOC(%)」欄および「第2充電」の「充電レート」欄の「-」の記載は、第2充電の不実施を示している。
【0081】
(実施例4)
初期充電において、第1充電を0.2Itの電流で行った。それ以外は実施例1と同じ手順で初期充電およびエージング処理を実施し、実施例4におけるガス残り量を測定した。
(実施例5)
初期充電において、第1充電を0.2Itの電流で行った。それ以外は実施例2と同じ手順で初期充電およびエージング処理を実施し、実施例5におけるガス残り量を測定した。
(実施例6)
初期充電において、第1充電を0.2Itの電流で行った。それ以外は実施例3と同じ手順で初期充電およびエージング処理を実施し、実施例6におけるガス残り量を測定した。
【0082】
(実施例7)
初期充電において、第1充電を0.3Itの電流で行った。それ以外は実施例1と同じ手順で初期充電およびエージング処理を実施し、実施例7におけるガス残り量を測定した。
【0083】
(比較例1)
初期充電において、第1充電を負極電位が0.6Vに達するまで行った。このとき、SOCは1.5%であった。この負極電位に達した時点から、第2充電を行い、SOCを12%とした。それ以外は実施例4と同じ手順で初期充電およびエージング処理を実施し、比較例1におけるガス残り量を測定した。
(比較例2)
初期充電において、第1充電を0.4Itの電流で行った。それ以外は実施例1と同じ手順で初期充電およびエージング処理を実施し、比較例2におけるガス残り量を測定した。
(比較例3)
初期充電工程において、第1充電を0.5Itの電流で行った。それ以外は実施例3と同じ手順で初期充電およびエージング処理を実施し、比較例3におけるガス残り量を測定した。
【0084】
<3.XPSによるLiF強度測定>
上記のとおりエージング処理を実施した後の各例における試験用二次電池組立体を、0.5Cの電流で、該試験用二次電池の規定容量に対して充電深度が0%となるまで放電を行った。次いで、各例の試験用二次電池を解体して、負極板を洗浄液(ジメチルカーボネート(DMC)、100vol%)で洗浄し、乾燥させた。乾燥後の負極板について、図8に示す直線A上をXPSにてLiFのライン分析を行った。なお、XPS装置としては、Univac-PHI社のQuantera SXMを使用した。測定時の励起X線はmonochromatic Al Kα線(1486.6eV)であり、X線径は200μmであり、光電子検出角度は45°であった。
【0085】
そして、直線A上の中央領域における以下の点:
負極活物質層24aの捲回軸方向の中心P
と、同線上の端部領域における以下の点Q~点T:
点Q 負極活物質層24aの捲回軸方向の負極タブ24t側の端部から中心Pに向かって10mmの点;
点R 負極活物質層24aの捲回軸方向の負極タブ24tと反対側の端部から中心Pに向かって10mmの点;
点S 中心Pと点Qとの中点;および
点T 中心Pと点Rとの中点;
の負極活物質層から採取した試料から得られたLiF強度に関して、中心PにおけるLiF強度I中央と、点Q~点Tのいずれかの点におけるLiF強度I端部との比(I中央/I端部)を算出した。結果を表1の「LiF強度比」欄に示す。なお、各例における端部領域からの資料の採取に関して、表1の「端部領域」欄に、試料を採取した点Q~点Tのいずれかの試料採取部位を示す。
【0086】
<4.容量維持率の評価>
上記1.で構築した試験用二次電池組立体に対して、注液孔を封止せず、開放した状態で初期充電およびエージング処理を行い、各例に係る試験用二次電池を作製した。各例における初期充電およびエージング処理の条件は、上記2.に記載のとおりである。試験用二次電池を0.5Itの電流で3.0Vまで放電した。次いで、試験用二次電池を0.5Itの電流で4.1Vまで充電した。次いで、試験用二次電池を再度0.5Itの電流で3.0Vまで放電した。このときの電池の容量を初期容量として規定した。このように初期容量を測定した後の試験用二次電池について、3.0V-4.1V間の充放電を0.4Itの電流で500サイクル行い、このときの電池容量を耐久後容量として取得した。
そして、下記式(B):
容量維持率(%)=(耐久後容量)/(初期容量)×100 (B)
に基づいて容量維持率(%)を算出した。結果を表1の「容量維持率(%)」欄に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
<5.結果と考察>
表1に示すように、初期充電工程において、試験用二次電池組立体のリチウム金属基準(vs.Li/Li+)に対する負極電位が少なくとも0.5Vに達するまで、第1充電レートで試験用二次電池組立体を充電し、かつ、当該工程完了時におけるガス残り量が58ccを満たす実施例1~7の製造方法にて製造された二次電池によると、LiF強度比がいずれも0.5以上であることが確認された。即ち、実施例1~7に係る二次電池では、黒色領域の形成が抑制されていることが確認された。また、これらの二次電池の容量維持率はいずれも80%以上を満たしており電池特性の低下抑制が確認された。一方で、初期充電工程完了時におけるガス残り量が58cc以下を満たさない比較例1~3では、LiF強度比がいずれも0.5より小さいことから、黒色領域の形成抑制効果は認められなかった。また、サイクル試験後の容量維持率(%)が70%より低く、電池性能の低下抑制効果は認められなかった。
【0089】
ここで開示される技術によって、二次電池組立体の初期充電において、負極電位が少なくとも0.5Vに達するまで、第1充電レートで試験用二次電池組立体を充電し、かつ、当該工程完了時におけるガス残り量が58ccを満たすことによって、黒色領域の形成を抑制できることがわかった。また、黒色領域の形成が抑制された二次電池(即ち、負極活物質層におけるLiF強度比が所定の範囲を満たす二次電池)では、電池性能(例えば充放電サイクル後の容量維持率)の低下を抑制できることがわかった。
【0090】
以上、ここで開示される技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。ここで開示される技術には上記の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0091】
10 電池ケース
12 外装体
14 封口板(蓋体)
15 注液孔
16 封止部材
17 ガス排出弁
20 捲回電極体
22 正極板
23 正極タブ群
24 負極板
25 負極タブ群
26 セパレータ
30 正極端子
40 負極端子
50 正極集電体
60 負極集電体
70 電極体ホルダ
500 制御装置
800 充放電手段
100 非水電解液二次電池
101 二次電池組立体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8