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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】マスクされた抗体の医薬製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/64 20170101AFI20240104BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240104BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20240104BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240104BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20240104BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240104BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20240104BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20240104BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20240104BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240104BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240104BHJP
   A61K 47/40 20060101ALI20240104BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20240104BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20240104BHJP
   C07K 19/00 20060101ALN20240104BHJP
   C07K 16/18 20060101ALN20240104BHJP
【FI】
A61K47/64
A61K39/395 L ZNA
A61K39/395 C
A61K38/02
A61P35/00
A61K9/19
A61K9/08
A61K47/12
A61K47/18
A61K47/20
A61K47/26
A61K47/36
A61K47/40
A61K47/10
A61K47/02
C07K19/00
C07K16/18
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021504838
(86)(22)【出願日】2019-07-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-25
(86)【国際出願番号】 US2019044197
(87)【国際公開番号】W WO2020028401
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-06-27
(31)【優先権主張番号】62/712,906
(32)【優先日】2018-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500203709
【氏名又は名称】アムジェン インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】トゥルーハイト, マイケル ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ガティヴェンカタクリシュナ, パヴァン
(72)【発明者】
【氏名】ジャガナサン, バラドワジ
【審査官】井上 政志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/141910(WO,A1)
【文献】特表2010-536370(JP,A)
【文献】特表2016-525551(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00-47/69
A61K 9/00- 9/72
A61P 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)(i)抗原に結合する、抗体又はその抗原結合性断片(AB1);及び
(ii)AB1に結合したマスキングドメイン(MD1);を含むマスクされた抗原結合タンパク質であって、前記マスキングドメインが、
a.前記抗原へのAB1の結合を阻害若しくは低減するマスキングペプチド又はマスキングポリペプチド(MP1);及び
b.タンパク質又はプロテアーゼによるPR1への結合又はPR1の切断が、前記抗原へのAB1結合を増加する、タンパク質認識部位(PR1);を含む、マスクされた抗原結合タンパク質;
(b)グルタミン酸塩、酢酸塩及びリン酸塩から選択される少なくとも1種類の緩衝剤;並びに
(c)ショ糖
を含む医薬組成物であって、
前記医薬組成物のpHが、約3.6~約7.0である、医薬組成物。
【請求項2】
前記マスクされた抗原結合タンパク質がさらに、
(iii)第2抗原に結合する第2抗体又はその抗原結合性断片(AB2);並びに
(iv)AB2に結合された第2マスキングドメイン(MD2)であって、前記第2マスキングドメインが、
a.前記抗原へのAB2の結合を阻害又は低減するマスキングペプチド又はマスキングポリペプチド(MP2);及び
b.タンパク質又はプロテアーゼによるPR2への結合又はPR2の切断が、前記第2抗原へのAB2結合を増加する、タンパク質認識部位(PR2)を含む、第2マスキングドメイン(MD2)
を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記マスクされた抗原結合タンパク質が、Probody又はProTIAプロドラッグである、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
AB1及び/又はAB2がscFv又はFabである、請求項1から3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
AB1及び/又はAB2が、細胞の表面に発現された抗原に結合する、請求項1から4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記少なくとも1種の緩衝剤が、約5~約200mMまたは約10~約50mMの濃度範囲で存在する、請求項1から5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
ショ糖が、約9~約12%(w/V)の範囲の濃度で存在する、請求項1からのいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
少なくとも1種類の界面活性剤をさらに含む、請求項1からのいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記界面活性剤が、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート80、ポロクサマー188、プルロニック(登録商標)F68、トリトンX-100、ポリオキシエチレン3、及びPEG3350、PEG4000、及びPEG8000又はその組合せからなる群から選択され、前記少なくとも1種の界面活性剤が、約0.001~約0.5%(w/V)又は約0.001~約0.01%(w/V)の範囲の濃度で存在する、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記組成物のpHが、約3.6、4.2、5.2、6.3、または7.0である、請求項1から9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
150~500mOsmの範囲のモル浸透圧濃度を有する、請求項1から10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
アミノ酸賦形剤をさらに含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記アミノ酸賦形剤が、約0.1~約20mMの濃度範囲で存在する、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記組成物が、10mMグルタミン酸塩、9%(w/V)スクロース及び0.01%(w/V)ポリソルベート80を含み、且つ前記医薬組成物のpHが4.2又は3.6である、請求項1から13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
(i)前記マスクされた抗原結合タンパク質が、約0.1~約30mg/mlの濃度範囲で存在する、
(ii)前記マスクされた抗原結合タンパク質が、約50μg~約200mgの範囲の量で存在する、
(iii)前記医薬組成物が凍結乾燥組成物である、
(iv)前記医薬組成物が液体組成物、または、再構成凍結乾燥組成物である、
(v)前記組成物が液体組成物であり、且つ2~8℃、4℃及び/又は25℃にて0週間、1週間、2週間、4週間、2か月間、6か月間、1年間及び/又は2年間貯蔵した後に安定である;或いは、前記組成物が凍結乾燥組成物であり、且つ2~8℃、4℃及び/又は25℃にて0週間、1週間、2週間、4週間、2か月間、6か月間、1年間、2年間、3年間、4年間及び/又は5年間貯蔵した後に安定である、
(vi)抗体凝集の量が低減される、
(vii)超高速液体クロマトグラフィー(SE-UHPLC)によって測定される、高分子量抗体種の量が低減される、並びに/あるいは、
(viii)抗体凝集及び/又は高分子量抗体種の量が、参照医薬組成物と比較して、前記医薬組成物よりも高いpHにて約1分の1、約2分の1、約3分の1、約4分の1、約5分の1、約6分の1、約7分の1、約8分の1、約9分の1又は約10分の1に低減される
求項1から14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
対象における癌の治療において使用するための、請求項1から15のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、参照により本明細書に組み込まれる2018年7月31日出願の米国仮特許出願第62/712,906号明細書の利益を主張するものである。
【0002】
本開示は、マスク抗体結合タンパク質を含む、低pH医薬組成物及び/又は製剤に関する。
【0003】
参照により組み込まれる材料の相互参照
本明細書と同時に提出されたコンピュータで読み取り可能なヌクレオチド/アミノ酸配列リストは、その全体が参照によって援用され、当該リストは、以下のとおりである:ASCII(テキスト)ファイル名「52811_Seqlisting.txt」、サイズ:12,007バイト;2018年7月30日作製。
【背景技術】
【0004】
タンパク質性医薬品は、(前)臨床開発において及び市販製品として最も成長著しい治療薬に含まれる。低分子化学薬剤と比較して、タンパク質医薬品は、比較的低い濃度で高い特異性及び活性を有し、通常、種々の癌、自己免疫疾患及び代謝障害などの大きな影響のある疾患の療法を提供する(Roberts,Trends Biotechnol.2014 Jul;32(7):372-80、Wang,Int J Pharm.1999 Aug 20;185(2):129-88)。
【0005】
工業規模精製プロセスの進歩により、現在、組換えタンパク及び抗体などのタンパク質性医薬品は、製造時に高い純度で得ることができる。しかしながら、抗体などの組換えタンパク質の安定性はわずかであり、化学的及び物理的劣化の両方を非常に受けやすい。化学的劣化は、脱アミド、酸化、新たなジスルフィド架橋の切断若しくは形成、加水分解、異性化又は脱グリコシルなどの共有結合を伴う修飾を指す。物理的劣化には、タンパク質のアンフォールディング、表面への望ましくない吸着及び凝集が含まれる。これらの物理的及び化学的な不安定性への対処は、タンパク質医薬品の開発において最も難しい課題の1つである(Chi et al.,Pharm Res,Vol.20,No.9,Sept 2003,pp.1325-1336、Roberts,Trends Biotechnol.2014 Jul;32(7):372-80)。
【0006】
タンパク質凝集は、タンパク質の物理的不安定性の主要な現象であり、溶媒と疎水性タンパク質残基との間の熱力学的に不利な相互作用を最小限に抑える固有の傾向に起因して生じる。タンパク質凝集は、製造、リフォールディング、精製、滅菌、輸送及び保管プロセス中に日常的に起こるため、特に問題がある。凝集は、タンパク質又は抗体の天然状態が熱力学的に極めて有利な(例えば、中性pH及び37℃)溶液条件下であっても、ストレスの非在下であっても生じる場合がある(Chi et al.,Pharm Res,Vol.20,No.9,Sept 2003,pp.1325-1336、Roberts,Trends Biotechnol.2014 Jul;32(7):372-80、Wang,Int J Pharm.1999 Aug 20;185(2):129-88、Mahler J Pharm Sci.2009 Sep;98(9):2909-34)。
【0007】
抗体凝集は、生物学的活性を損なうことから、問題がある。さらに、抗体の凝集は、薬物製品の望ましくない外観をもたらし、また最終産物から凝集体を除去するために必要とされる綿密な精製工程のために、産物収率が低下する。より最近では、凝集したタンパク質の存在により(ヒト化タンパク質又は完全なヒトタンパク質であっても)、患者は、活性タンパク質/タンパク質単量体に対する免疫反応を起こすことになり、その結果、中和抗体及び薬物耐性の形成又は他の有害な副作用がもたらされるというリスクが顕著に増大する可能性があるといった懸念も増加している(Mahler J Pharm Sci.2009 Sep;98(9):2909-34)。
【0008】
概して、様々なメカニズムによってタンパク質凝集を最小限に抑えるいくつかの試みが報告されている。抗体などのタンパク質を、それらの一次構造を改変して、それにより内部の疎水性を増大させ、且つ外部の疎水性を低減することによって安定化し、こうして凝集体形成及び他の化学的変化から保護することができる。しかしながら、タンパク質又は抗体の遺伝子操作は、機能性を損ない、且つ/又は免疫原性を増大し得る。別の手法では、凝集体の解離(「脱凝集」と呼ばれる)に着目し、温度、圧力、pH及び塩などの様々なメカニズムを使用することによって機能性天然単量体を回収する。現時点では、タンパク質及び抗体凝集体は、主に下流処理の研磨(polishing)工程において不純物として除去される。しかしながら、高分子量(HMW)抗体種のレベルが高い場合には、顕著な量のHMW除去により、かなりの収率損失が生じるだけでなく、堅牢な下流プロセスの設計が困難なものとなる(Chi et al.,Pharm Res,Vol.20,No.9,Sept 2003,pp.1325-1336)。
【0009】
生物学及びバイオテクノロジー用途におけるタンパク質の安定性及び活性の維持は、深刻な課題を提起する。抗体又は治療用タンパク質の安定化を増強し、配合、充填、輸送、保管及び投与中の凝集並びに変性又は劣化を低減することにより、機能欠損及び有害な免疫原性反応を防止する最適化された医薬組成物が当技術分野において必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、マスクされた抗原結合タンパク質の凝集及び/又は高分子量種を最小限にする、又は低減するのに有用な、医薬組成物並びに/或いは医薬製剤を提供する。一部の実施形態において、本開示内容は、(A)(i)抗原に結合する、抗体又はその抗原結合性断片(AB1);及び(ii)AB1に結合したマスキングドメイン(MD1);を含むマスクされた抗原結合タンパク質(例えば、Probody又はProTIAプロドラッグなど)であって、マスキングドメインが、(a)抗原へのAB1の結合を阻害若しくは低減するマスキングペプチド又はマスキングポリペプチド(MP1);(b)タンパク質認識部位(PR1);を含み、タンパク質又はプロテアーゼによるPR1への結合又はPR1の切断が、抗原へのAB1結合性を増加する、マスクされた抗原結合タンパク質と、(B)少なくとも1種類の緩衝剤と、(C)少なくとも1種類のポリオールと、を含む医薬組成物又は製剤を提供し、その医薬組成物又は製剤のpHは、マスクされた抗原結合タンパク質のAB1及びMD1領域の等電点(pI)未満である。
【0011】
一部の他の実施形態において、本開示内容は、(A)(i)抗原に結合する、第1抗体又はその抗原結合性断片(AB1);及び(ii)(a)抗原へのAB1の結合を阻害若しくは低減するマスキングペプチド又はマスキングポリペプチド(MP1);(b)タンパク質認識部位(PR1);を含む、AB1に結合した第1マスキングドメイン(MD1)であって、タンパク質又はプロテアーゼによるPR1への結合又はPR1の切断が、抗原へのAB1結合性を増加する、第1マスキングドメイン(MD1);(iii)第2抗原に結合する、第2抗体又はその抗原結合性断片(AB2);並びに(vi)AB2に結合した第2マスキングドメイン(MD2)であって、(a)抗原へのAB2の結合を阻害若しくは低減するマスキングペプチド又はマスキングポリペプチド(MP2);(b)第2タンパク質認識部位(PR2);を含み、タンパク質又はプロテアーゼによるPR2への結合又はPR1の切断が、第2抗原へのAB12合性を増加する、第2マスキングドメイン(MD2);を含む、マスクされた抗原結合タンパク質(例えば、Probody又はProTIAプロドラッグなど)と、(B)少なくとも1種類の緩衝剤と、(C)少なくとも1種類のポリオールと、を含む医薬組成物又は製剤も提供し、その医薬組成物又は製剤のpHは、マスクされた抗原結合タンパク質のAB1、AB2、MD1及びMD2領域の等電点(pI)未満である。
【0012】
一部の態様において、マスクされた抗原結合タンパク質(例えば、Probody又はProTIAプロドラッグなど)のAB1及び/又はAB2領域は、scFv若しくはFabであり、且つ/又は細胞表面に発現する抗原に結合する(例えば、CD3など)。
【0013】
本開示の医薬組成物又は製剤は、少なくとも1種の緩衝剤を含む。一部の実施形態では、緩衝剤は、酢酸塩、グルタミン酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、ヒスチジン、リン酸塩、及び2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸塩又はその組合せからなる群から選択される。一部の実施形態において、その少なくとも1種類の緩衝剤は、約5mM~約200mM(例えば、5mM~200mM)又は約10mM~約50mM(例えば、10mM~50mM)の範囲の濃度で組成物又は製剤中に存在する。
【0014】
本開示の医薬組成物又は製剤は、少なくとも1種類のポリオールも含む。一部の実施形態において、ポリオールは糖類である。一部の実施形態では、糖類は、単糖、二糖、環状多糖、糖アルコール、線状分岐デキストラン、及び線状非分岐デキストラン又はその組合せからなる群から選択される。一部の実施形態では、ポリオールは、糖アルコール(例えば、ソルビトール)である。一部の実施形態において、ポリオールはショ糖、トレハロース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、エリトリトール、イソマルト、グリセロール、シクロデキストリン又はカプチゾール(captisol)である。一部の実施形態において、少なくとも1種類のポリオールは、約1~約20%(w/V)(又は約9~約12%(w/V))の範囲の濃度で組成物又は製剤中に存在する。
【0015】
一部の場合では、開示の医薬組成物又は製剤はさらに任意選択的に、少なくとも1種類の界面活性剤を含み得る。一部の実施形態では、界面活性剤は、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート80、ポロクサマー188、プルロニック(登録商標)F68、トリトンX-100、ポリオキシエチレン3、及びPEG3350、PEG4000、又はPEG8000又はその組合せからなる群から選択される。一部の実施形態において、その少なくとも1種類の界面活性剤は、0.004~約0.5%(w/V)(又は約0.001~約0.01%(w/V))の範囲の濃度で組成物中に存在する。
【0016】
一部の実施形態において、組成物又は製剤のpHは3.5を超え、且つ/又はそのpHは、マスクされた抗原結合タンパク質(例えば、Probody又はProTIAプロドラッグなど)のAB1、AB2、MD1、及び/又はMD2領域のpI(以下にさらに記述される)よりも約2pH単位低い。一部の実施形態において、組成物又は製剤のpHは7.0~3.6である。一部の実施形態において、組成物又は製剤のpHは、約3.5~約5.5の範囲又は4.0~5.0の範囲である。一部の実施形態において、組成物又は製剤のpHは約4.2又は約3.6である。一部の実施形態において、組成物又は製剤のpHは4.2又は3.6である。
【0017】
開示の医薬組成物又は製剤は任意にさらに、アミノ酸賦形剤を含み得る。一部の実施形態では、アミノ酸賦形剤は、約0.1~約20%(mM)の範囲の濃度で存在する。
【0018】
一部の実施形態における開示の医薬組成物又は製剤は、10mMグルタミン酸塩、9%(w/V)スクロース及び0.01%(w/V)ポリソルベート80を含み、且つ液体医薬組成物のpHは、4.2又は3.6である。一部の実施形態において、マスクされた抗原結合タンパク質は、約0.1mg/mL~約17mg/mL又は約0.1mg/mL~約30mg/mLの範囲の濃度で組成物中に存在する。一部の実施形態では、マスクされた抗原結合タンパク質は、約50μg~約200mgの範囲の量で組成物中に存在する。
【0019】
本開示の医薬組成物は、凍結乾燥組成物又は液体組成物であり得る。一部の実施形態において、医薬組成物は、再構成された凍結乾燥組成物である。
【0020】
一部の実施形態において、医薬組成物は、2~8℃、4℃及び/又は25℃で0、1、2及び/又は4週間貯蔵した後に安定である液体組成物である。一部の実施形態において、医薬組成物又は製剤では、マスクされた抗原結合タンパク質1mg/ml、100mMグリシン(pH4.9)からなる参照医薬組成物と比較して、超高速液体クロマトグラフィー(SE-UHPLC)により測定される、抗体凝集及び/又は高分子量抗体種が、約1分の1、約2分の1、約3分の1、約4分の1、約5分の1、約6分の1、約7分の1、約8分の1、約9分の1又は約10分の1に低減される。
【0021】
別の態様では、本明細書において、本開示の組成物又は製剤を、必要とする対象に投与することを含む、対象において癌を治療する方法が記載される。
【0022】
用語「含む(comprising)」、「有する(having)」、「包含する(including)」、及び「含有する(containing)」は、特に指定がない限り、開放型用語として解釈されるべきである(すなわち、「包含するが、これに限定されない」を意味し、1つ以上の特徴又は構成要素の存在を許容する)。本明細書中の様々な実施形態は、様々な状況下で「含む」という語を使用して提示される一方、関連する実施形態はまた、「~からなる」又は「本質的に~からなる」という語を使用して記載され得ると理解されるべきである。用語「a」又は「an」は、1つ又は複数を指し、例えば、「免疫グロブリン分子」は、別段の指定がない限り、1つ又は複数の免疫グロブリン分子を表すと理解されることに留意されたい。そのため、用語「a」(又は「an」)、「1つ又は複数」、及び「少なくとも1つ」は、本明細書で区別なく使用され得る。さらに、「及び/又は」は、本明細書で使用される場合、2つの特定の特徴又は構成要素のそれぞれの特定の開示として(他の特徴又は構成要素の有無にかかわらず)解釈されるべきである。したがって、本明細書で「A及び/又はB」などの句で使用される「及び/又は」という用語は、「A及びB」、「A又はB」、「A」(単独)、及び「B」(単独)を包含するものとする。同様に、「A、B、及び/又はC」などの句で使用される「及び/又は」という用語は、以下の態様のそれぞれを包含するものとする:A、B及びC;A、B又はC;A又はC;A又はB;B又はC;A及びC;A及びB;B及びC;A(単独);B(単独);並びにC(単独)。
【0023】
値の範囲を記載するとき、記載されている特徴は、その範囲内に見出される個々の値であり得ることもまた理解されるべきである。例えば、「約pH4~約pH6のpH」は、限定されないが、pH4、4.2、4.6、5.1、5.5など、及びかかる値の間にある任意の値であり得る。さらに、「約pH4~約pH6のpH」は、目的の製剤のpHが、保管中にpH4~pH6の範囲において2pH単位で変動するという意味で解釈されるべきではなく、むしろ、溶液のpHについてその範囲内で値を選んでもよく、pHはそのpH付近で緩衝されたままであることを意味する。一部の実施形態では、用語「約」が使用される場合、その列挙された数の±10%の数を意味する。
【0024】
本明細書に記載される範囲のいずれかにおいて、範囲の端点は、その範囲に含まれる。しかしながら、この説明はまた、小さい方の端点及び/又は大きい方の端点が除外された同じ範囲も意図する。本発明の追加の特徴及び変形形態は、図面及び詳細な説明を含む本出願の全体から当業者には明らかであろうが、そのような特徴は全て本発明の態様として意図される。同様に、本明細書に記載される本発明の特徴を組み換えて、特徴の組合せが本発明の態様又は実施形態として上記に具体的に記載されているかどうかにかかわらず、本発明の態様としても意図される追加の実施形態にすることができる。また、本発明にとって不可欠なものとして本明細書に記載されるそのような限定のみが、そのように見なされるべきであり;本明細書に不可欠なものとして記載されていない限定を欠く本発明の変形形態は、本発明の態様として意図される。
【0025】
他に定義されていない限り、本明細書で使用する全ての技術用語及び科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。例えば、Concise Dictionary of Biomedicine and Molecular Biology,Juo,Pei-Show,2nd ed.,2002,CRC Press、The Dictionary of Cell and Molecular Biology,3rd ed.,1999,Academic Press、及びOxford Dictionary Of Biochemistry And Molecular Biology,Revised,2000,Oxford University Pressは、本開示で使用される用語の多くの一般辞書を当業者に提供する。
【0026】
単位、接頭辞及び記号は、国際単位系(SI)で認められた形式で示される。数値範囲は、範囲を規定する数値を含む。別段の指示がない限り、アミノ酸配列は、左から右に、アミノからカルボキシへの向きで書かれている。本明細書で示される見出しは、本開示の様々な1つ又は複数の態様を限定するものではなく、それは本明細書全体を参照することによって有することができる。
【0027】
本明細書に記載の全ての参考文献はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
(a)(i)抗原に結合する、抗体又はその抗原結合性断片(AB1);及び
(ii)AB1に結合したマスキングドメイン(MD1);を含むマスクされた抗原結合タンパク質であって、前記マスキングドメインが、
a.前記抗原へのAB1の結合を阻害若しくは低減するマスキングペプチド又はマスキングポリペプチド(MP1);
b.タンパク質又はプロテアーゼによるPR1への結合又はPR1の切断が、前記抗原へのAB1結合を増加する、タンパク質認識部位(PR1);を含む、マスクされた抗原結合タンパク質;
(b)少なくとも1種類の緩衝剤;並びに
(c)少なくとも1種類のポリオール;
を含む医薬組成物であって、
前記医薬組成物のpHが、前記マスクされた抗原結合タンパク質のAB1及びMD1領域の等電点(pI)未満である、医薬組成物。
(項目2)
前記マスクされた抗原結合タンパク質がさらに;
(iii)第2抗原に結合する第2抗体又はその抗原結合性断片(AB2);並びに
(iv)AB2に結合された第2マスキングドメイン(MD2)であって、前記第2マスキングドメインが、
a.前記抗原へのAB2の結合を阻害又は低減するマスキングペプチド又はマスキングポリペプチド(MP2);及び
b.タンパク質又はプロテアーゼによるPR2への結合又はPR2の切断が、前記第2抗原へのAB2結合を増加する、タンパク質認識部位(PR2):を含む、第2マスキングドメイン(MD2);を含み、
前記医薬組成物のpHが、前記マスクされた抗原結合タンパク質のAB1、AB2、MD1及びMD2領域の等電点(pI)未満である、項目1に記載の医薬組成物。
(項目3)
前記マスクされた抗原結合タンパク質が、Probody又はProTIAプロドラッグである、項目1又は2に記載の医薬組成物。
(項目4)
AB1及び/又はAB2がscFv又はFabである、項目1から3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目5)
AB1及び/又はAB2が、細胞の表面に発現された抗原に結合する、項目1から4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目6)
前記少なくとも1種の緩衝剤が、酢酸塩、グルタミン酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、ヒスチジン、リン酸塩、及び2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸塩又はその組合せからなる群から選択される、項目1から5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目7)
前記少なくとも1種の緩衝剤が、約5~約200mMの濃度範囲で存在する、項目6に記載の医薬組成物。
(項目8)
前記少なくとも1種の緩衝剤が、約10~約50mMの濃度範囲で存在する、項目7に記載の医薬組成物。
(項目9)
前記少なくとも1種のポリオールが、サッカリド、環状多糖、糖アルコール、線状分岐デキストラン、及び線状非分岐デキストラン、又はその組合せからなる群から選択される、項目1から8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目10)
前記サッカリドが単糖又は二糖である、項目9に記載の医薬組成物。
(項目11)
前記ポリオールが、ショ糖、トレハロース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、エリトリトール、イソマルト、グリセロール、シクロデキストリン、カプチゾール又はその組合せからなる群から選択される、項目1から10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目12)
前記少なくとも1種のポリオールが、約1~約20%(w/V)の範囲の濃度で存在する、項目1から11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目13)
前記少なくとも1種のポリオールが、約9~約12%(w/V)の範囲の濃度で存在する、項目12に記載の医薬組成物。
(項目14)
少なくとも1種類の界面活性剤をさらに含む、項目1から13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目15)
前記少なくとも1種の界面活性剤が、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート80、ポロクサマー188、プルロニック(登録商標)F68、トリトンX-100、ポリオキシエチレン3、及びPEG3350、PEG4000、及びPEG8000又はその組合せからなる群から選択される、項目14に記載の医薬組成物。
16を参照されたい。
(項目16)
前記少なくとも1種の界面活性剤が、約0.001~約0.5%(w/V)の範囲の濃度で存在する、請求14又は15に記載の医薬組成物。
(項目17)
前記少なくとも1種の界面活性剤が、約0.001~約0.01%(w/V)の範囲の濃度で存在する、項目16に記載の医薬組成物。
(項目18)
前記組成物のpHが、AB1、AB2、MD1、及び/又はMD2のpIよりも約2pH単位低い、項目1から17のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目19)
前記組成物のpHが、約3.5を超える、項目1から17のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目20)
前記組成物のpHが、7.0~3.6の範囲である、項目1から19のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目21)
前記組成物のpHが、4.0~5.0の範囲である、項目1から20のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目22)
前記組成物のpHが、3.5~5.5の範囲である、項目1から21のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目23)
前記組成物のpHが、約4.2又は3.6である、項目1から22のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目24)
150~500mOsmの範囲のモル浸透圧濃度を有する、項目1から23のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目25)
アミノ酸賦形剤をさらに含む、項目1から24のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目26)
前記アミノ酸賦形剤が、約0.1~約20mMの濃度範囲で存在する、項目25に記載の医薬組成物。
(項目27)
前記組成物が、10mMグルタミン酸塩、9%(w/V)スクロース及び0.01%(w/V)ポリソルベート80を含み、且つ前記医薬組成物のpHが4.2又は3.6である、項目1から26のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目28)
前記マスクされた抗原結合タンパク質が、約0.1~約30mg/mlの濃度範囲で存在する、項目1から27のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目29)
前記マスクされた抗原結合タンパク質が、約50μg~約200mgの範囲の量で存在する、項目1から28のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目30)
凍結乾燥組成物である、項目1から29のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目31)
液体組成物である、項目1から30のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目32)
再構成凍結乾燥組成物である、項目31に記載の医薬組成物。
(項目33)
前記組成物が液体組成物であり、且つ2~8℃、4℃及び/又は25℃にて0週間、1週間、2週間、4週間、2か月間、6か月間、1年間及び/又は2年間貯蔵した後に安定である;或いは、前記組成物が凍結乾燥組成物であり、且つ2~8℃、4℃及び/又は25℃にて0週間、1週間、2週間、4週間、2か月間、6か月間、1年間、2年間、3年間、4年間及び/又は5年間貯蔵した後に安定である、項目1から32のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目34)
抗体凝集の量が低減される、項目1から33のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目35)
超高速液体クロマトグラフィー(SE-UHPLC)によって測定される、高分子量抗体種の量が低減される、項目1から34のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目36)
抗体凝集及び/又は高分子量抗体種の量が、参照医薬組成物と比較して、前記医薬組成物よりも高いpHにて約1分の1、約2分の1、約3分の1、約4分の1、約5分の1、約6分の1、約7分の1、約8分の1、約9分の1又は約10分の1に低減される、項目1から35のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目37)
前記pIが、Bjellqvistアルゴリズムを用いて測定又は決定される、項目1から36のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目38)
その必要がある対象において癌を治療する方法であって、項目1から37のいずれか一項に記載の組成物を前記対象に投与することを含む、方法。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】サイズ排除超高速液体クロマトグラフィー(SE-UHPLC)分析の結果を示す棒グラフであり、2~8℃又は25℃で0、2週間及び4週間貯蔵した場合の、製剤B中のマスクされた二重特異性抗原結合タンパク質のメインピーク%(左パネル)及び高分子量種%(右パネル)を示す。
図2】SE-UHPLC分析の結果を示す棒グラフであり、2~8℃又は25℃で0、1、2週間及び4週間貯蔵した場合の、製剤C中のマスクされた二重特異性抗原結合タンパク質のメインピーク%(左パネル)及び高分子量種%(右パネル)を示す。
図3】SE-UHPLC分析の結果を示す棒グラフであり、2~8℃又は25℃で0、2週間及び4週間貯蔵した場合の、製剤D中のマスクされた二重特異性抗原結合タンパク質のメインピーク%(左パネル)及び高分子量種%(右パネル)を示す。
図4】SE-UHPLC分析の結果を示す棒グラフであり、2~8℃又は25℃で0、2週間及び4週間貯蔵した場合の、製剤E中のマスクされた二重特異性抗原結合タンパク質のメインピーク%(左パネル)及び高分子量種%(右パネル)を示す。
図5】SE-UHPLC分析の結果を示す棒グラフであり、2~8℃又は25℃で0、2週間及び4週間貯蔵した場合の、製剤F中のマスクされた二重特異性抗原結合タンパク質のメインピーク%(左パネル)及び高分子量種%(右パネル)を示す。
図6】SE-UHPLC分析の結果を示す棒グラフであり、2~8℃で0週(下のパネル)及び4週間(上のパネル)貯蔵した場合に、製剤A(「出発原料」)、製剤F(「pH7.0」)、製剤E(「pH6.3」)、製剤D(「pH5.2」)、製剤C(「pH4.2」)又は製剤B(「pH3.6」)中のマスクされた二重特異性抗原結合タンパク質の高分子量種%を示す。
図7】出発原料(製剤A)と比べられた、低pH製剤(製剤C)中に透析した後の凝集の減少を示すグラフである。
図8】サイズ排除分析によって決定される、4℃又は25℃にて0、1週間又は2週間貯蔵した場合の、低pH製剤(製剤C)中のマスクされた二重特異性抗原結合タンパク質(1mg/mL)の安定性を示すグラフである。図8Aにおいて、クロマトグラムはオフセットされる。
図9】サイズ排除(SEC)分析によって決定される、高濃度(例えば、17mg/mL)での低pH製剤中のマスクされた二重特異性の抗原結合タンパク質の安定性を示すグラフである。タンパク質濃度17mg/mLでの製剤Cは、タンパク質11mg/mLの製剤A(「出発原料」)と比較して著しく低い凝集/高分子量種%を有した(左パネル)。タンパク質濃度17mg/mLの製剤Cもまた、4℃で0、2又は4週間貯蔵した後に安定であった(右パネル)。
図10】サイズ排除超高速液体クロマトグラフィー(SE-UHPLC)の結果を示す棒グラフであり、2~8℃又は25℃にて0、2及び4週間貯蔵した場合の、製剤A中のマスクされた二重特異性抗体のメインピーク%(左パネル)及び高分子量種%(右パネル)を示す。
図11】「Probody」としても知られる、例示的なマスクされた抗原結合タンパク質の説明図である。
図12】「ProTIAプロドラッグ」としても知られる、例示的なマスクされた抗原結合タンパク質の説明図である。「ECBM」は抗原結合性ドメイン(つまり、抗原結合性ドメイン(AB1))であり;「TABM」は第2抗原結合性ドメイン(つまり、第2抗原結合性ドメイン(AB2))であり;「RS」は、プロテアーゼ(つまり、タンパク質認識ドメイン(PR))によって切断することができるペプチド又はポリペチド配列であり;「バルキング(Bulking)部位」は、抗原に結合するECMB及び/又はTABMの能力を阻害又は低減するペプチド又はポリペプチドである(例えば、マスキングドメイン(MD))。Pro形態のProTIAがRS部位で切断されると、抗原へのECBM及び/又はTABM結合性が増加する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
抗体などの特異的なタンパク質性医薬品は一般に、長期間にわたって液体製剤中で安定ではなく、特に促進温度、例えば25℃以上の温度で安定ではない。本開示には、1つ、2つ以上の抗原に結合するマスクされた抗原結合タンパク質を含む低pH製剤が記述される。一部の実施形態において、マスクされた二重特異性又は多重特異性原結合タンパク質は、活性化T細胞の近傍に悪性細胞を一過的に運ぶように、CD3(例えば、CD3のε鎖など)及び細胞表面抗原(例えば、EGFRなど)に特異的に結合し、その結果、抗体が結合した悪性細胞のT細胞仲介致死が誘発される。
【0030】
本発明の根底にある一般的な概念は、マスクされた抗原結合タンパク質(例えば、マスクされた二重特異性又は多重特異性抗原結合タンパク質など)を含む液体医薬組成物のコロイド安定性が、(1)マスクされた抗原結合タンパク質の抗体又は抗原結合性ドメイン(例えば、VH/VL領域又はその抗原結合性断片又は以下に記載のAB1及び/又はAB2領域)の等電点(pI)よりも低い、且つ(2)マスクされた抗原結合タンパク質のマスキングドメイン(以下にさらに記載のMD1及びMD2領域)のpIよりも低いpHの両方で有意に向上するという発見である。マスクされた抗原結合タンパク質の重鎖及び軽鎖は通常、異なる等電点(pI)を有し、完全な重鎖は一般に、完全な軽鎖よりも高いpIを有する。マスクされた抗原結合タンパク質(例えば、マスクされた二重特異性若しくは多重特異性抗原結合タンパク質など)及び/又はマスクされた抗原結合タンパク質内の領域若しくはドメインのpIは、多くの手段のいずれかによって決定することができる(例えば、参照により本明細書に組み込まれる、Perez-Riverol,Y.et al.,Isoelectric point optimization using peptide descriptors and support vector machines.Journal of proteomics75,2269-2274(2012)に記載のBjellqvistアルゴリズムを用いて)。http://isoelectric.ovh.orgにてオンラインで入手可能なIsoelectric Point Calculator(IPC)の詳細が記述されている、参照により本明細書に組み込まれる、Kozlowski LP,IPC - Isoelectric Calculator.Biology Direct.2016;11:55も参照されたい。
【0031】
マスクされた抗原結合タンパク質の領域(以下にさらに記載されるMD1及び/又はMD2領域)のpIは、マスクされた抗原結合タンパク質の抗原結合性部分(例えば、以下に記載の重鎖/軽鎖若しくはその抗原結合性、又はAB1及び/又はAB2領域など)のpIと異なる場合が多い。
【0032】
理論上のマスクされた抗原結合タンパク質の他の代表的な理論上のAB及びMD領域を表1に示す。これらの代表的な理論上のマスクされた抗原結合タンパク質、マスクされた二重特異性抗原結合タンパク質及びマスクされた多重特異性抗原結合タンパク質に関して凝集を低減し、且つ安定性を高める推奨されるpHも表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
したがって、本明細書において本発明者らは、マスクされた抗原結合タンパク質組成物のpHが、(1)マスクされた抗原結合タンパク質のマスキングドメイン(例えば、以下にさらに記述される、VH/VL領域若しくはその抗原結合性断片又はAB1及び/又はAB2領域)の等電点(pI)よりも低い、且つ/又は(2)マスクされた抗原結合タンパク質のマスキングドメイン(以下にさらに記述されるMD1及びMD2領域)のpIよりも低い、医薬組成物について記述する。特定の理論に束縛されないが、医薬組成物の低pHによって、マスクされた抗原結合タンパク質のサブ領域(例えば、以下にさらに記述される、抗原結合性領域及びマスキング領域又はAB1及び/若しくはAB2領域など)が正味の正電荷を有し、その結果、抗体凝集が減少し、安定性を高める内部及び外部ドメイン相反が生じることが確保される。ドメイン(例えば、マスキングドメイン)が酸性pIを有し、もう1つのドメイン(例えば、抗体又は抗原結合性ドメイン)が塩基性pIを有する場合には、医薬組成物のpHがドメインそれぞれのpIの間にある(例えば、pH7)ならば、双極子が生じ得て、抗体凝集を増加し、安定性を低下させる、分子内及び分子間静電引力が引き起こされる。特定の理論に束縛されないが、静電引力が凝集を引き起こす可能性があり、したがって、望ましくない高分子量種が形成する可能性がある。HMW種は、溶液の安定性又は分散体のコロイド安定性に重大な影響を及ぼす。これは、多数の抗原結合性ドメイン及び/又は多数のマスキングポリペプチドを有し得る、マスクされた抗原結合タンパク質(マスクされた二重特異性又は多重特異性抗原結合タンパク質など)の特別な問題点であり、それぞれのマスキングポリペプチドが周囲のアミノ酸と局所的に相互作用し、その結果として更なる厄介な問題が起こる。本開示の組成物の低pHによって、種々のドメインのプロトン付加及び静電反発力が可能となり、それによって、意外なことにマスクされた抗原結合タンパク質(例えば、二重特異性又は多重特異性抗原結合タンパク質を含む)のHMW種の発生率が減少する。一部の実施形態では、医薬組成物のpHは、3.5~5.5の範囲である。pH値4.0~5.5、例えばpH値4.2~4.8が好ましい。一部の実施形態において、好ましいpH値は、pH値3.6~4.2である。一部の実施形態において、組成物のpHは、マスクされた抗原結合タンパク質のAB1、AB2、MD1、及び/又はMD2領域(以下にさらに記述される)のpIよりも約2pH単位低い。一部の実施形態では、組成物のpHは、約7.0~約3.6である。一部の実施形態において、組成物のpHは約3.5を超える。
【0035】
製剤の様々な態様は、以下に記載される。節見出しの使用は単に読み物の便宜のためであり、それ自体を限定することは意図されない。本明細書全体は、統一された開示として見なされることが意図されており、本明細書に記載される特徴の全ての組合せが企図されることを理解すべきである。
【0036】
緩衝剤
本開示の医薬組成物は緩衝剤を含み、酢酸塩、グルタミン酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、ヒスチジン、リン酸塩、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸塩、リン酸カリウム、カリウム塩、二価カチオン、カルシウム、マグネシウム、マンガン、亜鉛、酢酸/酢酸ナトリウム、クエン酸/クエン酸ナトリウム、コハク酸/コハク酸ナトリウム、酒石酸/酒石酸ナトリウム、ヒスチジン/ヒスチジンHCl、グリシン、トリス、グルタミン酸塩、アミノ酸、リジン、アルギニン、プロリン、及びその組合せからなる群から任意に選択され得る。一部の実施形態では、医薬組成物は、酢酸塩、グルタミン酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、ヒスチジン、リン酸塩、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸塩及びこれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1種の緩衝剤を含む。
【0037】
緩衝剤は、製剤においてpHを制御するために利用される場合が多い。一部の実施形態において、緩衝剤は、約3.5~約5又は約4.0~約5.5、又は約4.0~約5.0、又は約4.2~約4.8、又は4.2、又は3.6、又は3.5を超える値で製剤のpHを維持する濃度で添加される。製剤のpHの作用は、促進された安定性の研究など、いくつかのアプローチの1つ又は複数を用いて特徴付けられ得る。
【0038】
有機酸、リン酸塩及びトリスは、タンパク質製剤中の好適な緩衝剤である(表2)。緩衝種の緩衝能はpKaと等しいpHで最大になり、pHがこの値から増加又減少すると、緩衝能は低下する。緩衝能の90パーセントはそのpKaの1pH単位内に存在する。緩衝能はまた、緩衝剤濃度の増加とともに比例して増加する。
【0039】
緩衝剤を選択する際、通常、いくつかの要因が検討される。例えば、緩衝剤種及びその濃度は、そのpKa及び所望の製剤pHに基づいて定義されるべきである。緩衝剤が、タンパク質薬物、他の製剤賦形剤と相溶性であり、且ついずれかの分解反応を触媒しないことを保証することもまた重要である。近年、クエン酸塩及びコハク酸塩などのポリアニオンのカルボン酸塩緩衝剤が、タンパク質の側鎖残基と共有結合性の付加体を形成することが示されている。検討されることになる第3の態様は、緩衝剤が誘導し得る刺痛及び刺激の感覚である。
【0040】
【表2】
【0041】
製剤中に存在する緩衝系は、生理的に適合性であり且つ所望のpHを維持するものから選択される。
【0042】
緩衝剤は、既定のレベルで製剤のpHを維持するのに好適な任意の量で存在し得る。緩衝剤は、約0.1mM~約1000mM(1M)、又は約5mM~約200mM、又は約5mM~約100mM、又は約10mM~約50mMの濃度で存在し得る。好適な緩衝剤濃度は、約200mM以下の濃度を包含する。一部の実施形態では、製剤中の緩衝剤は、約190mM、約180mM、約170mM、約160mM、約150mM、約140mM、約130mM、約120mM、約110mM、約100mM、約80mM、約70mM、約60mM、約50mM、約40mM、約30mM、約20mM、約10mM又は約5mMの濃度で存在する。一部の実施形態では、緩衝剤の濃度は、少なくとも約0.1、0.5、0.7、0.8、0.9、1.0、1.2、1.5、1.7、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、30、40、50、60、70、80、90、100、200、500、700、又は900mMである。一部の実施形態では、緩衝剤の濃度は、約1、1.2、1.5、1.7、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、30、40、50、60、70、80、又は90mM~100mMである。一部の実施形態では、緩衝剤の濃度は、約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、30、又は40mM~50mMである。一部の実施形態では、緩衝剤の濃度は、約10mMである。
【0043】
本明細書で述べられるとおりの製剤を緩衝するために使用される他の例示的なpH緩衝剤としては、グリシン、グルタミン酸塩、コハク酸塩、リン酸塩、酢酸塩、及びアスパラギン酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。ヒスチジン、アルギニン、プロリン及びグルタミン酸などのアミノ酸もまた、緩衝剤として使用され得る。
【0044】
ポリオール
本明細書に記載される医薬組成物は、少なくとも1種のポリオールも含む。ポリオールは、糖(例えば、マンニトール、スクロース、又はソルビトール)、及び他の多価アルコール(例えば、グリセロール及びプロピレングリコール)を含む賦形剤の一部類を包含する。ポリエチレングリコール(PEG)ポリマーはこのカテゴリに含まれる。ポリオールは、液状及び凍結乾燥非経口タンパク質製剤の両方において、安定化賦形剤及び/又は等張化剤として一般的に使用される。ポリオールは、タンパク質を物理的分解経路及び化学的分解経路の両方から保護することができる。
【0045】
本明細書に開示される医薬組成物に適した例示的なポリオールとしては、スクロース、トレハロース、マンノース、マルトース、ラクトース、グルコース、ラフィノース、セロビオース、ゲンチオビオース、イソマルトース、アラビノース、グルコサミン、フルクトース、マンニトール、ソルビトール、グリシン、アルギニンHCL、ポリヒドロキシ化合物(例えば、デキストラン、デンプン、ヒドロキシエチルデンプン、シクロデキストリン、カプチゾール、N-メチルピロリデン、セルロース及びヒアルロン酸などの多糖類を含む)、並びに塩化ナトリウムが挙げられるがこれらに限定されない(Carpenter et al.,Develop.Biol.Standard 74:225,(1991))。
【0046】
本明細書に開示される医薬組成物に適した、その他のポリオールとしては、プロピレングリコール、グリセロール(グリセロール)、トレオース、トレイトール、エリトロース、エリトリトール、リボース、アラビノース、アラビトール、リキソース、マルチトール、ソルビトール、ソルボース、グルコース、マンノース、マンニトール、レブロース、デキストロース、マルトース、トレハロース、フルクトース、キシリトール、イノシトール、ガラクトース、キシロース、フルクトース、スクロース、1,2,6-ヘキサントリオールなどが挙げられるが、これらに限定されない。高次糖としては、デキストラン、プロピレングリコール、又はポリエチレングリコールが挙げられる。フルクトース、マルトース又はガラクトースなどの還元糖は、非還元糖より容易に酸化する。糖アルコールのさらなる例は、グルシトール、マルチトール、ラクチトール又はイソ-マルツロースである。還元糖の例としては、グルコース、マルトース、ラクトース、マルツロース、イソ-マルツロース及びラクツロースが挙げられる。非還元糖の例としては、糖アルコール及び他の直鎖ポリアルコールから選択されるポリヒドロキシ化合物の非還元グリコシドが挙げられる。モノグリコシドとしては、ラクトース、マルトース、ラクツロース及びマルツロースなどの二糖類の還元によって得られる化合物が挙げられる。
【0047】
一部の実施形態では、その少なくとも1種のポリオールは、単糖、二糖、環状多糖、糖アルコール、線状分岐デキストラン、及び線状非分岐デキストラン、又はその組合せからなる群から選択される。一部の実施形態では、その少なくとも1種のポリオールは、スクロース、トレハロース、マンニトール、及びソルビトール又はその組合せからなる群から選択される二糖である。
【0048】
一部の実施形態では、医薬組成物は、約0%~約40%(w/v)、又は約0%~約20%(w/v)、又は約1%~約15%(w/v)の濃度で少なくとも1種のポリオール(例えば、糖類)を含む。一部の実施形態では、医薬組成物は、少なくとも0.5、少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも11、少なくとも12、少なくとも13、少なくとも14、少なくとも15、少なくとも16、少なくとも17、少なくとも18、少なくとも19、少なくとも20、少なくとも30、又は少なくとも40%(w/v)の濃度で少なくとも1種のポリオール(例えば、糖類)を含む。一部の実施形態では、医薬組成物は、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、約12、約13、約14%~約15%(w/v)の濃度で少なくとも1種のポリオール(例えば、糖類)を含む。一部の実施形態では、医薬組成物は、約1%~約15%(w/v)の濃度で少なくとも1種のポリオール(例えば、糖類)を含む。さらなる実施形態では、医薬組成物は、約9%、約9.5%、約10%、約10.5%、約11%、約11.5%、又は約12%(w/v)の濃度で少なくとも1種のポリオール(例えば、糖類)を含む。一部の実施形態では、医薬組成物は、約9%~約12%(w/v)の濃度で少なくとも1種のポリオール(例えば、糖類)を含む。一部の実施形態では、その少なくとも1種のポリオール(例えば、糖類)は、約9%(w/v)の濃度で組成物中にある。一部の実施形態では、その少なくとも1種のポリオールは、スクロース、トレハロース、マンニトール、及びソルビトール又はその組合せからなる群から選択される。一部の実施形態では、そのポリオールはスクロースであり、且つ約9%~約12%(w/v)の範囲の濃度で組成物中に存在する。
【0049】
必要があれば、製剤はまた、凍結乾燥「ケーキ」を形成するのに好適な糖類などの、適切な量の充填剤及びモル浸透圧濃度調節剤を含み得る。
【0050】
好ましい実施形態において、マスクされた抗原結合タンパク質医薬組成物又は製剤は、10mMグルタミン酸塩又は10mM酢酸塩、9%(w/V)ショ糖及び0.01%(w/V)ポリソルベート80を含み、医薬組成物又は製剤のpHは4.2又は3.6である。
【0051】
界面活性剤
本明細書に開示される医薬組成物はさらに任意に、少なくとも1種類の界面活性剤を含み得る。界面活性剤は、表面誘発分解を防ぐために、タンパク質製剤中で一般的に使用される。界面活性剤は、界面位置に関してタンパク質に打ち勝つ能力を有する両親媒性の分子である。界面活性剤分子の疎水性部分は界面位置(例えば、空気/液体)を占めるのに対し、分子の親水性部分はバルク溶媒の方向に配向された状態を保つ。十分な濃度(典型的には、洗剤の臨界ミセル濃度付近)において、界面活性剤分子の表面層は、タンパク質分子が界面において吸着するのを防ぐ役割を果たす。それによって、表面誘発分解が最小限に抑えられる。界面活性剤としては、例えば、ソルビタンポリエトキシレートの脂肪酸エステル、例えばポリソルベート20及びポリソルベート80(例えば、Avonex(登録商標)、Neupogen(登録商標)、Neulasta(登録商標)を参照のこと)などが挙げられる。2つは、分子C-12及びC-18にそれぞれ疎水性特性を付与する脂肪族鎖の長さのみが異なる。したがって、ポリソルベート80は、ポリソルベート20よりも界面活性が高く、且つより低い臨界ミセル濃度を有する。界面活性剤ポロクサマー188も、Gonal-F(登録商標)、Norditropin(登録商標)、及びOvidrel(登録商標)などのいくつかの市販液体製品中に使用されてきた。
【0052】
洗剤はまた、タンパク質の熱力学的配座安定性にも影響を及ぼし得る。洗剤のタンパク質不安定化は、部分的又は全体的にアンフォールドしたタンパク質状態との特異的な結合に関与し得る洗剤分子の疎水性尾部の点で理にかなっている。これらの種類の相互作用は、より拡張したタンパク質状態への配座平衡の移行を引き起こし得る(すなわち、結合するポリソルベートを補完してタンパク質分子の疎水性部分の露出を増加させる)。或いは、タンパク質の天然状態がいくつかの疎水性表面を示す場合、天然状態に結合する洗剤はその立体配座を安定化させ得る。
【0053】
ポリソルベートの別の態様は、これらが本質的に酸化分解を起こしやすい点である。これらは、タンパク質残基側鎖、特にメチオニンの酸化を引き起こすのに十分な量の過酸化物を原材料として含有する場合が多い。安定剤の添加から酸化的損傷が生じる可能性があるため、最低有効濃度の賦形剤が製剤中に使用されるべきであるという点が強調される。界面活性剤の場合、所定のタンパク質の有効濃度は、安定化機構によって決まる。界面活性剤の安定化機構が表面変性の防止に関連する場合、有効濃度は洗剤の臨界ミセル濃度付近になることが想定されている。反対に、安定化機構が特定のタンパク質-洗剤相互作用と関連する場合、有効な界面活性剤濃度は、タンパク質濃度及び相互作用の化学量論に関連付けられることになる(Randolph T.W.,et al.,Pharm Biotechnol.,13:159-75(2002))。
【0054】
また、凍結及び乾燥中の表面関連凝集現象を防止するために、界面活性剤を適量で添加してもよい(Chang,B,J.Pharm.Sci.85:1325,(1996))。例示的な界面活性剤としては、天然に存在するアミノ酸に由来する界面活性剤を含む、アニオン性、カチオン性、非イオン性、双性イオン性、及び両性界面活性剤が挙げられるが、これらに限定されない。アニオン性界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム及びスルホン酸ジオクチルナトリウム、ケノデオキシコール酸、N-ラウロイルサルコシンナトリウム塩、ドデシル硫酸リチウム、1-オクタンスルホン酸ナトリウム塩、コール酸ナトリウム水和物、デオキシコール酸ナトリウム、並びにグリコデオキシコール酸ナトリウム塩が挙げられるが、これらに限定されない。カチオン性界面活性剤としては、塩化ベンザルコニウム又は塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム一水和物、及び臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウムが挙げられるがこれらに限定されない。双性イオン性界面活性剤としては、CHAPS、CHAPSO、SB3-10、及びSB3-12が挙げられるが、これらに限定されない。非イオン性界面活性剤としては、ジギトニン、Triton X-100、Triton X-114、TWEEN(登録商標)-20、及びTWEEN(登録商標)-80が挙げられるが、これらに限定されない。別の実施形態では、界面活性剤としては、ラウロマクロゴール400;ステアリン酸ポリオキシル40;ポリオキシエチレン水素化ヒマシ油10、40、50、及び60;モノステアリン酸グリセロール;ポリソルベート40、60、65、及び80;大豆レシチン及び他のリン脂質、例えば、DOPC、DMPG、DMPC、及びDOPG;スクロース脂肪酸エステル;メチルセルロース、並びにカルボキシメチルセルロースが挙げられる。
【0055】
本明細書に記載される医薬組成物はさらに任意に、様々な比率で個別に又は混合物のいずれかとして、少なくとも1種の界面活性剤を含み得る。一部の実施形態では、組成物は、約0.001%~約5%(w/v)の濃度で界面活性剤を含む。一部の実施形態では、組成物は、少なくとも0.001、少なくとも0.002、少なくとも0.003、少なくとも0.004、少なくとも0.005、少なくとも0.007、少なくとも0.01、少なくとも0.05、少なくとも0.1、少なくとも0.2、少なくとも0.3、少なくとも0.4、少なくとも0.5、少なくとも0.6、少なくとも0.7、少なくとも0.8、少なくとも0.9、少なくとも1.0、少なくとも1.5、少なくとも2.0、少なくとも2.5、少なくとも3.0、少なくとも3.5、少なくとも4.0、又は少なくとも4.5%(w/v)の濃度で界面活性剤を含む。一部の実施形態では、組成物は、約0.004%~約0.5%(w/v)の濃度で界面活性剤を含む。一部の実施形態では、組成物は、約0.004、約0.005、約0.007、約0.01、約0.05、約0.1、約0.2、約0.3、又は約0.4%~約0.5%(w/v)の濃度で界面活性剤を含む。一部の実施形態では、組成物は、約0.001%~約0.01%(w/v)の濃度で組み入れられた界面活性剤を含む。一部の実施形態では、界面活性剤はポリソルベート80であり、且つポリソルベート80は濃度約0.01%(w/v)で存在する。
【0056】
他の考慮事項
本明細書で使用する場合、用語「医薬組成物」は、それを必要とする対象への投与に好適な組成物に関する。用語「対象」、又は「個体」、又は「動物」、又は「患者」は、本明細書では区別なく使用され、本発明の医薬組成物の投与が望ましい任意の対象、特に哺乳動物対象を指す。哺乳動物対象には、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、ウマ、ウシ、乳牛などが含まれ、ヒトが好ましい。本発明の医薬組成物は、安定であり、且つ薬学的に許容されるものであり、すなわち医薬組成物が投与される対象においていかなる望ましくない局所的又は全身的な作用も引き起こすことなく所望の治療効果を発揮することができる。本発明の薬学的に許容される組成物は、特に無菌であり、且つ/又は薬学的に不活性であり得る。具体的には、用語「薬学的に許容される」は、動物における使用及びより特定するとヒトにおける使用のための、規制当局又は他の一般に認識されている薬局方によって承認されていることを意味し得る。
【0057】
本開示によって提供される医薬組成物は、マスクされた抗原結合タンパク質(例えば、マスクされた二重特異性又は多重特異性抗原結合タンパク質)を含む。一部の実施形態において、マスクされた抗原結合タンパク質は、治療有効量で提供される。「治療有効量」とは、目的の治療効果を発揮する前記マスクされた抗原結合タンパク質(例えば、マスクされた二重特異性又は多重特異性抗原結合タンパク質など)の量を意味する。治療効果及び毒性は、細胞培養又は実験動物における標準的な医薬的手順、例えばED50(集団の50%において治療上有効な用量)及びLD50(集団の50%において致死的な用量)によって決定することができる。治療効果と毒性作用との間の用量比は、治療指数であり、ED50/LD50の比として表現することができる。大きい治療指数を示す医薬組成物が一般に好ましい。
【0058】
本明細書に開示される医薬組成物を含む、タンパク質及び抗体製剤は非経口的に投与され得る。非経口で与えられる場合、それらは無菌でなければならない。無菌希釈剤は、薬学的に許容され(ヒトへの投与に安全且つ非毒性)、且つ凍結乾燥後に再構成される医薬組成物などの液体製剤の調製に有用である液体を含む。例示的な希釈剤としては、滅菌水、注射用静菌水(BWFI)、pH緩衝溶液(例えば、リン酸緩衝生理食塩水)、滅菌生理食塩水溶液、リンゲル液又はデキストロース溶液が挙げられる。希釈剤は、塩及び/又は緩衝剤の水溶液を含み得る。
【0059】
賦形剤は、それらが薬物製品の安定性、送達及び製造性を与える、又は高めるために、医薬組成物又は製剤中に含まれる添加剤である。それが包含される理由に関わらず、賦形剤は安全であり、患者によって許容されなければならない。タンパク質薬物及び抗体に関して、賦形剤の選択は、それらが薬物の有効性及び免疫原性に影響を及ぼす可能性があるため特に重要である。したがって、タンパク質製剤は、好適な安定性、安全性、及び市場性を与える賦形剤の適切な選択とともに開発される必要がある。
【0060】
本明細書に記載される賦形剤は、医薬組成物/製剤におけるその化学種又はその機能的役割のいずれかによって構築される。本明細書で提供される教示及び手引きがあれば、当業者は、粘度を望ましくないレベルまで増大させることなく、賦形剤の量又は範囲を容易に変動させることができるであろう。賦形剤は、最終溶液の所望の重量オスモル濃度(すなわち、等張性、低張性又は高張性)、pH、所望の安定性、凝集若しくは分解若しくは沈殿に対する耐性、凍結、凍結乾燥若しくは高温条件下での保護、又は他の特性を実現するために選択され得る。様々な種類の賦形剤が当技術分野で知られている。例示的な賦形剤としては、塩、アミノ酸、他の等張化剤、界面活性剤、安定剤、充填剤、凍結保護剤、凍結乾燥保護剤、抗酸化剤、金属イオン、キレート剤及び/又は保存剤が挙げられる。
【0061】
さらに、医薬組成物又は製剤中に特定の賦形剤が、例えばパーセント(%)w/vで報告される場合、当業者は、その賦形剤の等モル濃度も意図されることを認識するであろう。
【0062】
他の安定剤及び充填剤
本明細書に記載の医薬組成物はさらに任意選択的に、少なくとも1種類の安定剤(糖、ポリマー及び/又はポリオールなど)を含み得る。安定剤としては、凍結保護剤、凍結乾燥保護剤、及びガラス形成剤としての役割を果たし得る化合物の一部類が挙げられる。凍結保護剤は、低温での凍結中又は凍結状態においてタンパク質を安定化するために作用する。凍結乾燥保護剤は、凍結乾燥の脱水段階中にタンパク質の天然様コンフォメーション性を保つことによって、タンパク質又は抗体を凍結乾燥された固形剤形で安定化させる。ガラス状態特性は、温度の関数としてのその緩和特性に応じて、「頑丈」又は「脆弱」に分類されている。安定性を与えるためには、凍結保護剤、凍結乾燥保護剤、及びガラス形成剤が、タンパク質又は抗体と同じ相に留まることが重要である。例示的な凍結乾燥保護剤としては、限定されないが、グリセリン及びゼラチン、及び糖類、メリビオース、メレチトース、ラフィノース、マンノトリオース及びスタキオースが挙げられる。
【0063】
アミノ酸
一部の実施形態では、本明細書に記載される医薬組成物はさらに、1種又は複数種のアミノ酸を含む。アミノ酸は、緩衝剤、充填剤、安定剤及び酸化防止剤として、タンパク質及び抗体製剤又は医薬組成物における多目的な用途が見出されている。ヒスチジン及びグルタミン酸は、5.5~6.5及び4.0~5.5のpH範囲それぞれにおいてタンパク質又は抗体製剤を緩衝するために利用される。ヒスチジンのイミダゾール基は、pKa=6.0を有し、グルタミン酸側鎖のカルボキシル基は、4.3のpKaを有し、そのため、そのそれぞれのpH範囲で緩衝するのに好適である。グルタミン酸は、一部の製剤(例えば、Stemgen(登録商標))において見出される。ヒスチジンは一般に、市販タンパク質/抗体製剤(例えば、Xolair(登録商標)、Herceptin(登録商標)、Recombinate(登録商標))において見出される。それは、注射時に痛むことで知られる緩衝剤であるクエン酸塩に代わる良好な選択肢を提供する。興味深いことに、ヒスチジンはまた、液体及び凍結乾燥された体裁の両方において高濃度で使用されるとき、安定化効果を有することが報告されている(Chen B,et al.,Pharm Res.,20(12):1952-60(2003))。ヒスチジン(60mMまで)はまた、抗体の高濃度製剤の粘度を低減することが観察された。しかしながら、同じ試験において、ステンレス鋼容器中での抗体の凍結融解試験の間、ヒスチジンを含有する製剤において凝集の増加及び変色が著者によって確認された。その著者らは、これを鋼容器の腐蝕から浸出した鉄イオンの影響が原因であるとした。ヒスチジンを用いる際のもう1つの注意事項は、金属イオンの存在下で光酸化を受けることである(Tomita M,et al.,Biochemistry,8(12):5149-60(1969))。製剤中の抗酸化剤としてのメチオニンの使用は、有望であると思われ;いくつかの酸化ストレスに対して有効であることが確認されている(Lam XM,et al.,J Pharm Sci.,86(11):1250-5(1997))。
【0064】
アミノ酸のグリシン、プロリン、セリン及びアラニンは、タンパク質又は抗体を安定化する。グリシンはまた、凍結乾燥製剤(例えば、Neumega(登録商標)、Genotropin(登録商標)、Humatrope(登録商標))における充填剤でもある。アルギニンは、凝集を阻害する際に有効な薬剤であることが示されており、液体及び凍結乾燥製剤(例えば、Activase(登録商標)、Avonex(登録商標)、Enbrel(登録商標)液体))の両方で使用されてきた。本明細書に記載の医薬組成物はさらに任意に、上記のアミノ酸の1種又は複数種のいずれかを含み得る。
【0065】
抗酸化剤
一部の実施形態では、本明細書に記載される医薬組成物はさらに、1種又は複数種の抗酸化剤を含む。タンパク質残基の酸化は、いくつかの異なる原因から生じる。特定の抗酸化剤の添加の他に、酸化的なタンパク質の損傷の防止には、大気中の酸素、温度、光への曝露、及び化学的汚染などの製品の製造工程及び保管中のいくつかの要因を慎重に制御する必要がある。最も一般的に使用される医薬用抗酸化剤は、還元剤、酸素/フリーラジカルスカベンジャー、又はキレート剤である。治療用タンパク質又は抗体製剤中の抗酸化剤は水溶性でなければならず、且つ生成物の貯蔵寿命全体を通して活性を維持しなければならない。還元剤及び酸素/フリーラジカルスカベンジャーは、溶液中の活性酸素種を切断することによって機能する。EDTAなどのキレート剤は、フリーラジカル形成を促進する微量金属夾雑物を結合することによって効果を発揮し得る。例えば、EDTAを、酸性線維芽細胞増殖因子の液体製剤中で利用して、金属イオンに触媒されるシステイン残基の酸化を阻害した。EDTAは、Kineret(登録商標)及びOntak(登録商標)などの市販製品に使用されている。したがって、本明細書に記載の医薬組成物はさらに任意に、これらの還元剤、酸化/フリーラジカルスカベンジャー、及び/又はキレート剤のうちのいずれか1つ又は複数を含み得る。
【0066】
しかしながら、抗酸化剤それら自体は、タンパク質に対して他の共有結合性変化又は物理的変化を誘導する場合がある。いくつかのこのような事例が、文献において報告されている。還元剤(グルタチオンのような)は、ジスルフィドシャッフリングを引き起こす可能性がある分子内ジスルフィド結合の破壊をもたらし得る。遷移金属イオンの存在下で、アスコルビン酸及びEDTAは、いくつかのタンパク質及びペプチドにおいてメチオニン酸化を促進することが示されている(Akers MJ,and Defelippis MR.Peptides and Proteins as Parenteral Solutions.In:Pharmaceutical Formulation Development of Peptides and Proteins.Sven Frokjaer,Lars Hovgaard,editors.Pharmaceutical Science.Taylor and Francis,UK(1999));Fransson J.R.,J.Pharm.Sci.86(9):4046-1050(1997);Yin J,et al.,Pharm Res.,21(12):2377-83(2004))。チオ硫酸ナトリウムは、rhuMab HER2において光と温度によって誘導されるメチオニン酸化のレベルを低下させることが報告されているが;チオ硫酸塩-タンパク質付加体の形成もまた、この研究において報告された(Lam XM,Yang JY,et al.,J Pharm Sci.86(11):1250-5(1997))。適切な抗酸化剤の選択は、マスクされた抗原結合タンパク質の特定のストレス及び感受性に応じてなされる。
【0067】
金属イオン
一部の実施形態では、医薬組成物はさらに、1種又は複数種の金属イオンを含む。一般に、遷移金属イオンは、タンパク質中で物理的及び化学的分解反応を触媒し得るため、タンパク質若しくは抗体医薬組成物又は製剤中の遷移金属イオンは望ましくない。しかしながら、特定の金属イオンは、それがタンパク質に対する補因子である場合には製剤中に含まれ、錯化合物(例えば、インスリンの亜鉛懸濁液)が形成される。近年、マグネシウムイオン(10~120mM)の使用によって、アスパラギン酸のイソアスパラギン酸への異性化が阻害されることが提案されている(例えば、国際公開第2004/039337号パンフレット参照)。例示的な金属イオンとしては、限定されないが、Ca+2イオン、Mg+2、Mn+2、Zn+2、Cu+2及びFe+2が挙げられる。
【0068】
保存剤
一部の実施形態では、医薬組成物はさらに、1種又は複数種の保存剤を含む。保存剤は、同じ容器からの2回以上の取り出しを伴う複数回使用非経口製剤を開発する際に必要となる。その主な機能は、薬物製品の貯蔵寿命又は使用期間にわたって微生物の増殖を阻害し、製品の無菌性を確保することである。一般的に使用される保存剤としては、フェノール、ベンジルアルコール、メタ-クレゾール、メチルパラベン又はプロピルパラベンなどのアルキルパラベン、塩化ベンザルコニウム、及び塩化ベンゼトニウムが挙げられる。抗菌保存剤活性を有する化合物の他の例としては、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、及びヘキサメトニウムクロリドが挙げられる。他の種類の保存剤としては、ブチルアルコール、フェノール、ベンジルアルコール、アテコール(atechol)、レゾルシノール、シクロヘキサノール、及び3-ペンタノールなどの芳香族アルコールが挙げられる。
【0069】
複数回使用の注射ペンの体裁は任意に、保存製剤を含む。例えば、hGHの保存製剤は現在、市場で入手可能である。Norditropin(登録商標)(液体、Novo Nordisk)、Nutropin AQ(登録商標)(液体、Genentech)及びGenotropin(凍結乾燥-デュアルチャンバーカートリッジ、Pharmacia&Upjohn)は、フェノールを含有する一方、Somatrope(登録商標)(Eli Lilly)は、m-クレゾールにより製剤化される。
【0070】
保存処理された剤形の製剤開発中に、いくつかの態様が検討される。保存剤濃度の最適化は、タンパク質安定性を損なうことなく抗微生物有効性を付与する濃度範囲を有する剤形において所与の保存剤を試験することを含む。例えば、3つの保存剤が、インターロイキン-1受容体(I型)に対する液体製剤の開発において、示差走査熱量測定(DSC)を用いて成功裏にスクリーニングされた。保存剤は、市販されている製品中で一般に使用されている濃度での安定性に対する影響に基づいて、順位付けされた(Remmele RL Jr.,et al.,Pharm Res.,15(2):200-8(1998))。
【0071】
一部の保存剤は、注射部位反応を引き起こす場合があり、これは、保存剤を選択する際の考慮事項についての別の要素である。Norditropin中の保存剤及び緩衝剤の評価に焦点を当てた臨床試験において、m-クレゾールを含有する製剤と比べて、フェノール及びベンジルアルコールを含有する製剤中では、疼痛の知覚がより低いことが観察された(Kappelgaard A.M.,Horm Res.62 Suppl 3:98-103(2004))。興味深いことに、一般的に使用される保存剤のうち、ベンジルアルコールは麻酔特性を有する(Minogue SC,and Sun DA.,Anesth Analg.,100(3):683-6(2005))。
【0072】
本開示はまた、いずれの保存剤も含まない医薬組成物を企図する。
【0073】
マスクされた抗体結合タンパク質
本明細書に記載の医薬組成物又は製剤は、マスクされた抗原結合タンパク質を含む。「マスクされた抗原結合タンパク質」とは、MDの結合が、その抗原に対するABの結合を阻害又は低減するように、抗原結合性ドメイン(AB)に結合されたマスキングドメイン(MD)(例えば、共有結合又はリンカーを介して)を含むタンパク質である。MDはさらに、タンパク質又はプロテアーゼがタンパク質認識部位に結合し、且つ/又はタンパク質認識部位を切断する場合に、ABドメインが抗原に結合するか、或いはABドメインによる抗原への結合が増加又は誘発されるような、タンパク質若しくはプロテアーゼに対する基質又は結合部位を含むタンパク質認識部位(PR)を含む。マスクされた抗原結合タンパク質は、以前に例えば、国際公開第2017/040344号パンフレット、米国特許第9540440号明細書、米国特許出願公開第20150118254号明細書、米国特許第9127053号明細書、米国特許第9517276号明細書、及び米国特許第8563269号明細書に記述されており、それぞれの全体が参照により本明細に組み込まれる。一部の実施形態において、マスクされた抗原結合タンパク質はProbody(例えば、図11;又はPolu KR and Lowman HB.Expert Opin Biol Ther.2014 Aug;14(8):1049-53;又はDesnoyers LR et.al.,Sci Transl Med.2013 Oct 16;5(207)に記載されている)又はProTIAプロドラッグ(例えば、図12;又はSchellenberger V.Amunix unveils next-generation immuno-oncologic cancer therapy platform.https://biopharmadealmakers.nature.com.September 2016 edition,B20に記載されており;http://www.amunix.com/technology/pro-tia/も参照)である。一部の実施形態において、マスクされた抗原結合タンパク質は、以下の:MD-AB又はAB-MDのようなN末端からC末端までの構造配置を有する。一部の実施形態において、マスクされた抗原結合タンパク質は、リンキングペプチド(LP)を含み、且つマスクされた抗原結合タンパク質は、以下の:MD-LP-AB又はAB-LP-MDのようなN末端からC末端までの構造配置を有する。
【0074】
上述のように、「マスクされた抗原結合タンパク質」という用語は、その未処理状態と、タンパク質又はプロテアーゼが、マスクされた抗原結合タンパク質のタンパク質認識部位(PR)内の結合性部位若しくは基質に結合し、その結果、PRの切断又は構造的コンフォメーションの変化が誘発され得る場合の状態(つまり、活性状態)と、の両方のマスクされた抗原結合タンパク質を意味する。したがって、一部の実施形態において、プロテアーゼによりPRが切断し、その結果、少なくともMDが放出されるため(例えば、MDが共有結合(例えば、システイン残基間のジスルフィド結合)によってマスクされた抗原結合タンパク質に結合しない場合)、マスクされた抗原結合タンパク質がMDを欠き得ることは当業者には明らかであるだろう。
【0075】
マスクされた抗原結合タンパク質が未処理状態で抗原の存在下にある場合、抗原へのABの結合は、マスクされた抗原結合タンパク質が活性状態にある場合(つまり、タンパク質若しくはプロテアーゼがPRに結合し、且つ/又はMDを除去若しくは移行させる場合)の抗原へのABの結合と比較して、低減又は抑制される。MDと会合していないABの結合(つまり、マスクされた抗原結合タンパク質が活性状態にある場合)と比較した場合、天然状態でのマスクされた抗原結合タンパク質が抗原に結合する能力は、生体外(in vitro)及び/又は生体内(in vivo)結合アッセイで測定した場合に、例えば、少なくとも約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、又は約100%低下する。
【0076】
一部の実施形態において、タンパク質認識部位(PR)は、プロテアーゼ、好ましくは細胞外プロテアーゼの基質として機能する。PRは、抗原を発現する細胞付近の細胞(例えば、腫瘍細胞など)によって産生され、且つ/又はマスクされた抗原結合タンパク質のABの目的の抗原と組織において共存する細胞(例えば、腫瘍細胞など)によって産生される、タンパク質又はプロテアーゼをベースに選択され得る。一部の実施形態において、プロテアーゼはu型プラスミノゲン活性化因子(uPA、ウロキナーゼとも呼ばれる)、レグマイン、及び/又はマトリプターゼ(MT-SP1又はMTSP1とも呼ばれる)である。一部の実施形態において、プロテアーゼはマトリックス金属プロテアーゼ(MMP)である。一部の実施形態において、プロテアーゼは、全ての目的のために参照により本明細書に組み込まれる、Rawlings,N.and Salvesen,G.Handbook of Proteolytic Enzymes(Third Edition).Elsevier,2013.ISBN:978-0-12-382219-2に記載のプロテアーゼの1つである。
【0077】
本明細書に記載の医薬組成物は、酸性(pH7.0未満)、中性(約pH7.0)又は塩基性(pH7.0を超える)であるpIを有するAB又はMDを有するマスクされた抗原結合タンパク質を含有し得る。一部の実施形態において、二重特異性若しくは多重特異性抗原結合タンパク質におけるABドメインは酸性、中性及び/又は塩基性pIを有し得るが、MDも酸性、中性及び/又は塩基性pIを有し得る。一部の実施形態において、本明細書に記載の医薬組成物は、酸性、中性又は塩基性であるpIを有するAB又はMDを有するマスクされた抗原結合タンパク質を含有するか、或いは酸性pIを有するAB及び中性若しくは塩基性pIを有するMDを有する。他の実施形態において、ABは中性若しくは塩基性pIを有し、MDは酸性pIを有する。
【0078】
一部の実施形態において、マスクされた抗原結合タンパク質は、抗原に特異的に結合する抗体又はその抗原結合性断片(AB)を含む。一部の実施形態において、抗原に結合する抗体又はその抗原結合性断片は、モノクローナル抗体、メイン抗体、単鎖抗体、Fab断片、F(ab’)2断片、scFv、scAb、dAb、単一ドメイン重鎖抗体、又は単一ドメイン軽鎖抗体である。一部の実施形態において、抗体又はその抗原結合性断片は、マウス、キメラ、ヒト化又は完全ヒトモノクローナル抗体である。一部の好ましい実施形態において、抗原結合性断片はFab断片、F(ab’)2断片、scFv、又はscAbである。
【0079】
一部の実施形態において、抗体又はその抗原結合性断片は、EGFR、メソテリン、CDH3、CD3又はその組合せからなる群から選択される抗原に結合する。一部の実施形態において、抗体又はその抗原結合性断片は、ホルモン、成長因子、サイトカイン、細胞表面受容体、又はそのいずれかのリガンドからなる群から選択される抗原に結合する。一部の実施形態において、抗体又はその抗原結合性断片は、かかるサイトカイン、リンホカイン、成長因子からなる群から選択される抗原に結合し、或いは造血因子としては、限定されないが:M-CSF、GM-CSF、TNF、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、IL-16、IL-17、IL-18、IFN、TNFα、TNF1、TNF2、G-CSF、Meg-CSF、GM-CSF、トロンボポエチン、幹細胞因子、及びエリスロポエチンが挙げられる。本明細書において使用される、さらなる増殖因子としては、アンジオゲニン、骨形態形成タンパク質-1、骨形態形成タンパク質-2、骨形態形成タンパク質-3、骨形態形成タンパク質-4、骨形態形成タンパク質-5、骨形態形成タンパク質-6、骨形態形成タンパク質-7、骨形態形成タンパク質-8、骨形態形成タンパク質-9、骨形態形成タンパク質-10、骨形態形成タンパク質-11、骨形態形成タンパク質-12、骨形態形成タンパク質-13、骨形態形成タンパク質-14、骨形態形成タンパク質-15、骨形態形成タンパク質受容体IA、骨形態形成タンパク質受容体IB、脳由来神経栄養因子、毛様体ニュートロフィック(neutrophic)因子、毛様体ニュートロフィック(neutrophic)因子受容体α、サイトカイン誘導性好中球走化性因子1、サイトカイン誘導性好中球走化性因子2α、サイトカイン誘導性好中球走化性因子2β、β内皮細胞増殖因子、エンドセリン1、上皮由来好中球誘因物質、グリア細胞由来ニュートロフィック(neutrophic)因子受容体α1、グリア細胞由来ニュートロフィック(neutrophic)因子受容体α2、増殖関連タンパク質、増殖関連タンパク質α、増殖関連タンパク質β、増殖関連タンパク質γ、ヘパリン結合性上皮増殖因子、肝細胞増殖因子、肝細胞増殖因子受容体、インスリン様増殖因子I、インスリン様増殖因子受容体、インスリン様増殖因子II、インスリン様増殖因子結合タンパク質、ケラチノサイト増殖因子、白血病抑制因子、白血病抑制因子受容体α、神経成長因子、神経成長因子受容体、ニューロトロフィン-3、ニューロトロフィン-4、プレB細胞増殖刺激因子、幹細胞因子、幹細胞因子受容体、トランスフォーミング増殖因子α、トランスフォーミング増殖因子β、トランスフォーミング増殖因子β1、トランスフォーミング増殖因子β1.2、トランスフォーミング増殖因子β2、トランスフォーミング増殖因子β3、トランスフォーミング増殖因子β5、潜在型トランスフォーミング増殖因子β1、トランスフォーミング増殖因子β結合タンパク質I、トランスフォーミング増殖因子β結合タンパク質II、トランスフォーミング増殖因子β結合タンパク質III、腫瘍壊死因子受容体I型、腫瘍壊死因子受容体II型、ウロキナーゼ型プラスミノゲン活性化因子受容体、並びにキメラタンパク質及びその生物学的若しくは免疫学的に活性な断片が挙げられる。
【0080】
一部の実施形態において、抗体又はその抗原結合性断片は、p53、KRAS、NRAS、MAGEA、MAGEB、MAGEC、BAGE、GAGE、LAGE/NY-ESO1、SSX、チロシナーゼ、gp100/pmel17、Melan-A/MART-1、gp75/TRP1、TRP2、CEA、RAGE-1、HER2/NEU、WT1からなる群から選択される抗原に結合する。
【0081】
例示的な態様において、抗体又はその抗原結合性断片は、免疫細胞の表面に発現する抗原に結合する。一部の実施形態において、マスクされた抗原結合タンパク質は、以下の:CD1a、CD1b、CD1c、CD1d、CD2、CD3、CD4、CD5、CD6、CD7、CD8、CD9、CD10、CD11A、CD11B、CD11C、CDw12、CD13、CD14、CD15、CD15s、CD16、CDw17、CD18、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD24、CD25、CD26、CD27、CD28、CD29、CD30、CD31,CD32、CD33、CD34、CD35、CD36、CD37、CD38、CD39、CD40、CD41、CD42a、CD42b、CD42c、CD42d、CD43、CD44、CD45、CD45RO、CD45RA、CD45RB、CD46、CD47、CD48、CD49a、CD49b、CD49c、CD49d、CD49e、CD49f、CD50、CD51、CD52、CD53、CD54、CD55、CD56、CD57、CD58、CD59、CDw60、CD61、CD62E、CD62L、CD62P、CD63、CD64、CD65、CD66a、CD66b、CD66c、CD66d、CD66e、CD66f、CD68、CD69、CD70、CD71、CD72、CD73、CD74、CD75、CD76、CD79α、CD79β、CD80、CD81、CD82、CD83、CDw84、CD85、CD86、CD87、CD88、CD89、CD90、CD91、CDw92、CD93、CD94、CD95、CD96、CD97、CD98、CD99、CD100、CD101、CD102、CD103、CD104、CD105、CD106、CD107a、CD107b、CDw108、CD109、CD114、CD115、CD116、CD117、CD118、CD119、CD120a、CD120b、CD121a、CDw121b、CD122、CD123、CD124、CD125、CD126、CD127、CDw128、CD129、CD130、CDw131、CD132、CD134、CD135、CDw136、CDw137、CD138、CD139、CD140a、CD140b、CD141、CD142、CD143、CD144、CD145、CD146、CD147、CD148、CD150、CD151、CD152、CD153、CD154、CD155、CD156、CD157、CD158a、CD158b、CD161、CD162、CD163、CD164、CD165、CD166、及びCD182からなる群から選択される分化分子のクラスターに結合する。
【0082】
一部の実施形態において、抗体又は抗原結合性断片は、ムロモナブ-CD3(商品名Orthoclone Okt3(登録商標)で市販される製品)、アブシキシマブ(商品名Reopro(登録商標)で市販される製品)、リツキシマブ(商品名MabThera(登録商標)、Rituxan(登録商標)で市販される製品)(米国特許第5,843,439号明細書)、バシリキシマブ(商品名Simulect(登録商標)で市販される製品)、ダクリズマブ(商品名Zenapax(登録商標)で市販される製品)、パリビズマブ(商品名Synagis(登録商標)で市販される製品)、インフリキシマブ(商品名Remicade(登録商標)で市販される製品)、トラスツズマブ(商品名Herceptin(登録商標)で市販される製品)、アレムツズマブ(商品名MabCampath(登録商標)、Campath-1H(登録商標)で市販される製品)、アダリムマブ(商品名Humira(登録商標)で市販される製品)、トシツモマブ-I131(商品名Bexxar(登録商標)で市販される製品)、エファリズマブ(商品名Raptiva(登録商標)で市販される製品)、セツキシマブ(商品名Erbitux(登録商標)で市販される製品)、イブリツモマブ・チウキセタン(商品名Zevalin(登録商標)で市販される製品)、オマリズマブ(商品名Xolair(登録商標)で市販される製品)、ベバシズマブ(商品名Avastin(登録商標)で市販される製品)、ナタリズマブ(商品名Tysabri(登録商標)で市販される製品)、ラニビズマブ(商品名Lucentis(登録商標)で市販される製品)、パニツムマブ(商品名Vectibix(登録商標)で市販される製品)、エクリズマブ(商品名Soliris(登録商標)で市販される製品)、セルトリズマブ・ペゴル(商品名Cimzia(登録商標)で市販される製品)、ゴリムマブ(商品名Simponi(登録商標)で市販される製品)、カナキヌマブ(商品名Ilaris(登録商標)で市販される製品)、カツマキソマブ(商品名Removab(登録商標)で市販される製品)、ウステキヌマブ(商品名Stelara(登録商標)で市販される製品)、トシリズマブ(商品名RoActemra(登録商標)、Actemra(登録商標)で市販される製品)、オファツムマブ(商品名Arzerra(登録商標)で市販される製品)、デノスマブ(商品名Prolia(登録商標)で市販される製品)、ベリムマブ(商品名Benlysta(登録商標)で市販される製品)、ラキシバクマブ、イピリムマブ(商品名Yervoy(登録商標)で市販される製品)及びペルツズマブ(商品名Perjeta(登録商標)で市販される製品)からなる群から選択される。例示的な実施形態において、抗体は、アダリムマブ、インフリキシマブ、エタネルセプト、ゴリムマブ、及びセルトリズマブ・ペゴルなどの抗TNFアルファ抗体;カナキヌマブなどの抗IL1β抗体;ウステキヌマブ及びブリアキヌマブなどの抗IL12/23(p40)抗体;並びにダクリズマブなどの抗IL2R抗体のうちの1つである。適切な抗癌抗体の例としては、ベリムマブなどの抗BAFF抗体;リツキシマブなどの抗CD20抗体;エプラツズマブなどの抗CD22抗体;ダクリズマブなどの抗CD25抗体;イラツムマブなどの抗CD30抗体、ゲムツズマブなどの抗CD33抗体、アレムツズマブなどの抗CD52抗体;イピリムマブなどの抗CD152抗体;セツキシマブなどの抗EGFR抗体;トラスツズマブ及びペルツズマブなどの抗HER2抗体;シルツキシマブなどの抗IL6抗体;ベバシズマブなどの抗VEGF抗体;並びにトシリズマブなどの抗IL6受容体抗体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0083】
一部の実施形態において、医薬組成物は、マスクされた二重特異性又は多重特異性抗原結合タンパク質を含む。マスクされた二重特異性又は多重特異性抗原結合タンパク質は以前に記述されている。例えば、国際公開第2017/040344号パンフレット;米国特許出願公開第2015/0079088号明細書(参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。「マスクされた二重特異性抗原結合タンパク質」は、2つの異なる抗原又はエピトープに結合するマスクされた抗原結合タンパク質であり、「マスクされた多重特異性抗原結合タンパク質」は、3つ以上の異なる抗原又はエピトープを認識するマスクされた抗原結合タンパク質である。
【0084】
一部の実施形態において、二重特異性若しくは多重特異性抗原結合タンパク質の1つの抗体又はその抗原結合性断片(AB1)ドメインは、標的抗原に対する特異性を有し、且つもう1つの抗体又はその抗原結合性断片(AB2)ドメインはもう1つの標的抗原に対する特異性を有する。一部の実施形態において、二重特異性若しくは多重特異性抗原結合タンパク質の1つの抗体又はその抗原結合性断片(AB1)ドメインは、標的抗原のエピトープに対する特異性を有し、且つもう1つの抗体又はその抗原結合性断片(AB2)ドメインは、同じ標的抗原のもう1つのエピトープに対する特異性を有する。
【0085】
マスクされた二重特異性又は多重特異性抗原結合タンパク質は、タンパク質認識部位(PR)を含む少なくとも1種類のマスキングドメイン(MD)を含み、MDは抗原に対するABの結合を阻害又は抑制する。その少なくとも1種類のMDは、タンパク質又はプロテアーゼに対する基質又は結合部位を含むタンパク質認識部位(PR)を含み、そのためタンパク質又はプロテアーゼがプロテアーゼ認識部位に結合し、且つ/又はプロテアーゼ認識部位を切断した場合に、ABドメインが抗原に結合するか、又は結合が増加する。マスクされた二重特異性抗原結合タンパク質に関して、マスクされた抗原結合タンパク質は好ましくは、そのそれぞれの抗原若しくはエピトープに各抗原結合性ドメイン(AB1及びAB2)が結合する能力を低減する、2つのMD(例えば、MD1及びMD2)を含む。
【0086】
本明細書において提供されるマスクされた抗原結合タンパク質及び/又はマスクされた二重特異性若しくは多重特異性抗原結合タンパク質は、循環において安定であり、治療及び/又は診断の意図する部位にて活性化されるが、正常な(つまり、健康な)組織においてはそうではない。活性状態にある場合、マスクされた抗原結合タンパク質及び/又はマスクされた二重特異性若しくは多重特異性抗原結合タンパク質は、相当する未修飾の抗体又は二重特異性若しくは多重特異性抗原結合タンパク質(つまり、マスキングドメインを含まない抗体相当物)と少なくとも同等である抗原への結合を示す。
【0087】
「抗体」という用語は、重及び軽鎖を含み、且つ可変及び定常領域を含む、従来の免疫グロブリン構成を有するタンパク質を指す。例えば、抗体は、2つの同一ペアのポリペプチド鎖の「Y字形」構造であり、各ペアは1本の「軽」鎖(通常、分子量約25kDaを有する)及び1本の「重」鎖(通常、分子量約50~70kDaを有する)を有する、IgGであり得る。抗体は、可変領域及び定常領域を有する。IgG形式において、可変領域は一般に、約100~110以上のアミノ酸であり、3つの相補性決定領域(CDR)を含み、抗原認識に主に関与し、且つ異なる抗原に結合する他の抗体間で実質的に変動する。例えば、Janeway et al.,“Structure of the Antibody Molecule and the Immunoglobulin Genes”,Immunobiology:The Immune System in Health and Disease,4thed.Elsevier Science Ltd./Garland Publishing,(1999)を参照されたい。抗体はさらに任意に、その抗体がIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4のうちのいずれか1つなど、IgA、IgD、IgE、IgG、又はIgM抗体であり得るような正常ドメインを含み得る。可変領域は通常、少なくとも3つの重鎖又は軽鎖CDRを含み(Kabat et al.,1991,Sequences of Proteins of Immunological Interest,Public Health Service N.I.H.,Bethesda,Md.;Chothia and Lesk,1987,J.Mol.Biol. 196:901-917;Chothia et al.,1989,Nature 342:877-883)、それらはフレームワーク領域(Kabat et al.,1991によってフレームワーク領域1~4、FR1、FR2、FR3、及びFR4と呼ばれている;Chothia and Lesk,1987、前掲も参照のこと)の中にある。定常領域は、抗体が免疫系の細胞及び分子を動員することを可能にする。
【0088】
「抗体断片」、「その抗体断片」、又は「抗原結合性抗体断片」という用語は、インタクトな抗体の一部を意味する。「抗原結合性断片」又は「その抗原結合性断片」は、抗原に結合するインタクトな抗体の一部を指す。抗原結合性断片は、インタクトな抗体の抗原決定可変領域を含み得る。抗体断片の抗原結合性断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、及びFv断片、線形抗体、scFv、並びに一本鎖抗体が含まれるが、これらに限定されない。
【0089】
様々な態様において、抗体は、モノクローナル抗体である。ある種の態様では、抗体はヒト抗体である。特定の態様において、抗体はキメラ又はヒト化抗体である。用語「キメラ」は、2つ以上の異なる抗体に由来するドメインを含有する抗体を指す。キメラ抗体は、例えば、1つの種に由来する定常ドメイン及び第2の種に由来する可変ドメインを含有することができるか、又はより一般的には、少なくとも2つの種に由来する一続きのアミノ酸配列を含有することができる。「キメラ」及び「ヒト化」の両方が、2つ以上の種に由来する領域を組み合わせる抗原結合タンパク質を指す場合が多い。キメラ抗体は、同じ種内の2つ以上の異なる抗体のドメインも含有し得る。一実施形態では、キメラ抗体は、CDR移植抗体である。
【0090】
「ヒト化」という用語は、抗原結合タンパク質に関して使用される場合、元の供給源の抗体よりも真のヒト抗体に類似した構造及び免疫機能を有するように操作された、非ヒト供給源に由来するCDR領域を少なくとも有する抗原結合タンパク質(例えば、抗体)を指す。例えば、ヒト化は、マウス抗体などの非ヒト抗体に由来するCDRをヒトフレームワーク領域に移植することを伴い得る。一般的に、ヒト化抗体において、CDRを除く抗体の全体は、ヒト起源のポリヌクレオチドによってコードされるか、又はそのCDRの範囲内を除いてそのような抗体と同一である。一部又は全てが非ヒト生物に起源をもつ核酸によってコードされるCDRがヒト抗体可変領域のベータシートフレームワークに移植されて抗体を生成し、その特異性は、移植されたCDRによって決定される。そのような抗体の作製は、例えば、国際公開第92/11018号パンフレット;Jones,1986,Nature 321:522-525;及びVerhoeyen et al.,1988,Science 239:1534-1536において記載されており、これらは全て、全体として参照により援用される。対応するドナー残基に対して選択されたアクセプターフレームワーク残基の「復帰変異」が、初期移植コンストラクトにおいて失われる親和性を回復するために利用されることが多い(例えば、全てが全体として参照により援用される、米国特許第5530101号明細書;同第5585089号明細書;同第5693761号明細書;同第5693762号明細書;同第6180370号明細書;同第5859205号明細書;同第5821337号明細書;同第6054297号明細書;及び同第6407213号明細書を参照のこと)。ヒト化抗体は、免疫グロブリンの定常領域の少なくとも一部も最適に含み、これは通常、ヒト免疫グロブリンのものであり、したがって、通常ヒトFc領域を含むことになる。
【0091】
多重特異性抗体の非制限的な例としては、三重特異性抗体、四重特異性抗体等が挙げられる。マスクされた二重特異性又は多重特異性抗原結合タンパク質などのマスクされた抗原結合タンパク質は任意に多価であり;多価とは、結合部位が同一若しくは異なる抗原又はエピトープを認識するか否かに関わらず、抗体上の結合部位の総数を意味する。
【0092】
種々の実施形態における本明細書に記載のマスクされた二重特異性又は多重特異性抗原結合タンパク質は、ヒトCD3(配列番号3)に結合する。例えば、種々の態様において、マスクされた二重特異性又は多重特異性抗原結合タンパク質は、T細胞上でCD3εの会合によってT細胞を活性化する。つまり、抗体は、CD3仲介T細胞活性化をアゴナイズし、刺激し、活性化し、且つ/又は増強する。CD3の生物活性としては、例えば、T細胞活性化、並びにCD3とT細胞受容体(TCR)の抗原結合性サブユニットとの相互作用を介した他のシグナル伝達が挙げられる。
【0093】
本明細書に開示されるマスクされた二重特異性又は多重特異性抗原結合タンパク質は任意に、結合定数(Kd)≦1μM、例えば、一部の実施形態において、≦100nM、≦10nM、又は≦1nMを有するCD3εに結合する。
【0094】
種々の態様において、マスクされた抗原結合タンパク質(例えば、マスクされた二重特異性又は多重特異性抗原結合タンパク質)は、上皮成長因子受容体(EGFR)に結合する。ヒトEGFRの配列が配列番号4として提供される。本明細書に開示されるマスクされた多重特異性抗原結合タンパク質は任意に、結合定数(Kd)≦1μM、例えば、一部の実施形態において、≦100nM、≦10nM、又は≦1nMを有するヒトEGFRに結合する。
【0095】
好ましい実施形態において、マスクされた二重特異性又は多重特異性抗原結合タンパク質は、CD3とEGFRの両方に結合する。
【0096】
一部の実施形態において、マスクされた抗原結合タンパク質は、Fab(例えば、IgG Fab)である抗原結合性ドメイン及びscFvである抗原結合性ドメインを含むようなヘテロ二量体である。例えば、例示的な実施形態において、マスクされた抗原結合タンパク質は、1つの標的(例えば、EGFR)に結合する重鎖及び軽鎖(例えば、IgG重鎖及び軽鎖)と、第2の標的(例えば、CD3などのT細胞表面抗原)に結合するscFvドメインと、を含む。一本鎖抗体(scFv)は、VL及びVH領域がリンカーによって結合されて(例えば、長さが通常約15~約20アミノ酸のアミノ酸残基の合成配列)、連続したタンパク質鎖が形成される抗原結合タンパク質であり、そのリンカーは、タンパク質鎖がそれ自体で折り畳み、且つ一価抗原結合部位を形成するのに十分に長い(例えば、Birdet al.,1988,Science 242:423-26及びHuston et al.,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-83参照)。scFvにおいて使用するのに適したリンカーの一例はGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号1)である。他の例示的なリンカーは、残基約4個~約20個の範囲の少なくとも4個~5個のアミノ酸を含有する。
【0097】
マスクされた抗原結合タンパク質の例示的なフォーマットは、(i)1つ若しくは両方の重鎖のN末端付近で作動可能に連結されたscFvを含む2本の重鎖と、(ii)重鎖と会合して抗原結合性ドメインを形成する2本の軽鎖と、を含み、scFvがCD3に結合し、Fab部分がEGFRに結合する。この実施例において、2つ以上の異なる抗原(又はエピトープ)に通常結合する、抗原結合タンパク質は3つ(又は4つの)抗原結合性ドメインを含む。重鎖可変領域へのscFvの連鎖に適したリンカーの一例はGGGGS(配列番号2)である。例示的なリンカーは、4個~5個のアミノ酸を有する少なくとも1つの適切なリンカーを含有する。
【0098】
マスクされた抗原結合タンパク質は、抗体(AB)に結合された(例えば、共有結合又は他の形態の結合によって)マスキングドメイン(MD)を含む。マスキングドメイン(MD)は、マスキングペプチド(又はマスキングポリペプチド)(MP)及びタンパク質認識部位(PR)を含む。マスキングペプチド(又はマスキングポリペプチド)は、その抗原への抗原結合性ドメインの結合を妨害するアミノ酸のストレッチであり得る。一般に、マスキングペプチド、長さ5~15アミノ酸の短い配列が用いられるが、それより短い配列、及び長い配列(つまり、マスキングポリペプチド)も企図される。マスキングドメインはさらに、例えば国際公開第2017/040344号パンフレット;米国特許出願公開第2015/0079088号明細書(その全体が、特に、EGFRに結合する抗体と共に使用されるマスキングドメインの開示に関して、参照により本明細書に組み込まれる)及び米国特許出願公開第2016/0194399号明細書(その全体が、特に、CD3に結合する抗体と共に使用されるマスキングドメインの開示に関して、参照により本明細書に組み込まれる)に記述されている。
【0099】
一部の実施形態において、マスキングペプチド(又はマスキングポリペプチド)(MP)は、任意に、より大きなリンカー配列の一部(つまり、抗原結合タンパク質にMPを連結するアミノ酸のストレッチ)である、タンパク質認識部位(PR)を介して抗原結合性ドメイン(AB)に結合される。PRは、タンパク質又はプロテアーゼ、好ましくは細胞外プロテアーゼに対する基質(又は結合部位)として機能する。PRは、標的を発現する細胞付近の細胞(例えば、腫瘍細胞など)によって産生され、且つ/又はマスクされた抗原結合タンパク質の少なくとも1つのABの目的の標的と組織において共存する細胞(例えば、腫瘍細胞など)によって産生される、タンパク質又はプロテアーゼに基づいて選択され得る。一部の実施形態において、プロテアーゼはu型プラスミノゲン活性化因子(uPA、ウロキナーゼとも呼ばれる)、レグマイン、及び/又はマトリプターゼ(MT-SP1又はMTSP1とも呼ばれる)である。一部の実施形態において、プロテアーゼはマトリックス金属プロテアーゼ(MMP)である。一部の実施形態において、プロテアーゼは、Rawlings,N.and Salvesen,G.Handbook of Proteolytic Enzymes(Third Edition).Elsevier,2013.ISBN:978-0-12-382219-2に記載のプロテアーゼの1つである。 その代わりとして、MPは、非切断型タンパク質結合性ドメインを介して抗原結合性タンパク質に結合される。これに関して、PRは任意に、例えばタンパク質又はプロテアーゼと相互作用すると、MPの位置が調節され、ABが標的に自由に結合するようにコンフォメーション変化するアミノ酸配列である。
【0100】
本開示の種々の態様において、マスクされた二重特異性又は多重特異性抗原結合タンパク質は、構築物のそれぞれの抗原結合部分(例えば、AB1、AB2、AB3等)に対するMDを含む。例えば、2つのFab部分及び2つのscFvを含む、マスクされた二重特異性又は多重特異性抗原結合タンパク質は、独立して同一又は異なり得る、2セットのMDを含み得る。例証するために、マスクされた二重特異性又は多重特異性抗原結合タンパク質は、(i)それぞれのscFvに結合されたCD3及びMD1に結合する2つのscFv(任意に、各scFvに同じMD)と、(ii)それぞれのFabに結合されたEGFR及びMD2に結合する2つのFab部分(任意に、各Fabに同じMD)と、を含む。種々の態様において、MD1及びMD2のPRは、同じタンパク質認識配列を含み、プロテアーゼと会合した後に同じ環境においてそれぞれの結合領域に対してMDが放出されることが可能となる。MDが標的への抗原結合性ドメインの結合を妨害することができ、且つMDが放出された後にリンカーが結合を妨げない限り、MDは、抗原結合性ドメインのN末端又はC末端にて結合され得る。抗原結合性ドメインがFabである場合、MDは、重鎖可変領域又は軽鎖可変領域に作動可能に連結され得る。マスクされた二重特異性又は多重特異性抗原結合タンパク質が、Fab抗原結合性ドメインと重鎖に融合されたscFvの両方(つまり、「スタック」コンフォメーション)を有するインタクトな抗体を含む場合に、Fab抗原結合性ドメインと会合したMDは好ましくは、軽鎖可変領域に融合される。
【0101】
一部の実施形態において、マスクされた二重特異性又は多重特異性抗原結合タンパク質における1つのABドメイン(例えば、AB1)は、CD3などのT細胞表面リガンドに会合し、任意にscFvの形態をとる。CD3に会合する例示的なマスクされた抗原結合タンパク質としては、限定されないが、国際公開第2017/040344号パンフレット、米国特許出願公開第20160194399号明細書(その全体が参照により組み込まれる)に開示のタンパク質が挙げられる。
【0102】
一部の実施形態において、抗原結合タンパク質における1つのABドメイン(例えば、AB2)は、EGFRなどの腫瘍抗原に会合する。EGFRに会合する例示的なマスクされた抗原結合タンパク質は、限定されないが、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許出願公開第20150079088号明細書に開示の抗体が挙げられる。
【0103】
一部の実施形態において、マスクされた抗原結合タンパク質(例えば、マスクされた二重特異性又は多重特異性抗原結合タンパク質など)は、抗体の等電点を変化させるために修飾される。例えば、一部の実施形態において、1つ又は両方のマスキングドメインにおける、1つ又は複数の負に荷電した、pH感受性アミノ酸(例えば、アスパラギン酸又はグルタミン酸)が、正に荷電したアミノ酸(例えば、リジン又はアルギニン)で置換される。一部の実施形態において、抗体の1つ又は複数のマスキング部位におけるアスパラギン酸の置換によってpIが増加し得る。一部の実施形態において、1つ又は両方のマスキングドメインにおける、その1つ又は複数の負に荷電した、pH感受性アミノ酸(例えば、アスパラギン酸又はグルタミン酸)は、除去されるか、又は天然アミノ酸で置換される。
【0104】
本開示のマスクされた抗原結合タンパク質(例えば、マスクされた二重特異性又は多重特異性抗原結合タンパク質など)は、インタクトな抗体構造を含むと本明細書に記載される場合が多いが、本開示内容は、従来の重鎖2本/軽鎖2本の構造の少なくとも一部を欠く抗原結合性抗体断片の使用も企図する。マスクされた抗原結合タンパク質として用いられる断片は、上述の、マスキングドメイン(MD)に作動可能に連結されている抗原結合性ドメイン(AB)を含む。例えば、一部の実施形態において、抗原結合タンパク質は、適切なリンカー(例えば、その標的にそれぞれのscFvが結合することを可能にするのに十分な長さのアミノ酸のストレッチ)によって連結された2つのscFvを含む。1つ又は両方のscFvがMDに結合され;両方のscFvがMDに結合される場合、MDは同一又は異なり得る(つまり、種々の態様において、MP及び/又はPRは異なるが、PRは同一であることが好ましい)。
【0105】
一部の実施形態では、医薬組成物又は製剤は、約50μg~約200mg(又は約500μg~約150mg、又は約50mg~約200mg、又は約50mg~約150mg、又は約50mg~約100mg、又は約50mg~約75mg)の範囲の量で、マスクされた抗原結合タンパク質(例えば、マスクされた二重特異性又は多重特異性抗原結合タンパク質)を含む。一部の実施形態では、医薬組成物は、約50μg、約100μg、約150μg、約200μg、約250μg、約300μg、約350μg、約400μg、約450μg、約500μg、約550μg、約600μg、約650μg、約700μg、約750μg、約800μg、約850μg、約900μg、約950μg、約1mg、約5mg、約10mg、約15mg、約20mg、約25mg、約30mg、約35mg、約40mg、約45mg、約50mg、約55mg、約60mg、約65mg、約70mg、約75mg、約80mg、約85mg、約90mg、約95、mg、約100mg、約105mg、約110mg、約115mg、約120mg、約125mg、約130mg、約135mg、約140mg、約145mg、約150mg、約155mg、約160mg、約165mg、約170mg、約175mg、約180mg、約185mg、約190mg、約195mg又は約200mgの量で、マスクされた抗原結合タンパク質(マスクされた二重特異性又は多重特異性抗原結合タンパク質など)を含む。
【0106】
一部の実施形態において、医薬組成物は、約0.1~約50mg/mL(或いは、約1~約10mg/mL又は約10~約20mg/mL、又は20mg/mL~約50mg/mL、又は約1~約17mg/mL、又は約0.5~約5mg/mL又は約1~約5mg/mL、又は約3~約6mg/mL)の範囲の濃度で、マスクされた抗原結合タンパク質(例えば、マスクされた二重特異性又は多重特異性抗原結合タンパク質)を含む。一部の実施形態において、医薬組成物は、約0.1mg/mL、約0.5mg/mL、約1mg/mL、約2mg/mL、約3mg/mL、約4mg/mL、約5mg/mL、約6mg/mL、約7mg/mL、約8mg/mL、約9mg/mL、約10mg/mL、約11mg/mL、約12mg/mL、約13mg/mL、約14mg/mL、約15mg/mL、約16mg/mL、約17mg/mL、約18mg/mL、約19mg/mL、約20mg/mL、約21mg/mL、約22mg/mL、約23mg/mL、約24mg/mL、約25mg/mL、約26mg/mL、約27mg/mL、約28mg/mL、約29mg/mL、約30mg/mL、約31mg/mL、約32mg/mL、約33mg/mL、約34mg/mL、約35mg/mL、約36mg/mL、約37mg/mL、約38mg/mL、約39mg/mL、約40mg/mL、約41mg/mL、約42mg/mL、約43mg/mL、約44mg/mL、約45mg/mL、約46mg/mL、約47mg/mL、約48mg/mL、約49mg/mL又は約50mg/mLの濃度で、マスクされた抗原結合タンパク質を含む。
【0107】
製剤の投薬及び治療的使用
用語「有効用量」又は「有効投与量」は、所望の効果を達成するか又は少なくとも部分的に達成するのに十分な量と定義される。用語「治療有効用量」は、疾患にすでに罹患している患者の疾患及びその合併症を治癒するか又は少なくとも部分的に抑止するのに十分な量と定義される。この用途に効果的な量又は用量は、治療される病態(適応症)、送達される抗体コンストラクト、治療の内容及び目的、疾患の重症度、前治療、患者の病歴及び治療薬に対する反応性、投与経路、体格(体重、体表面積又は臓器サイズ)及び/又は患者の状態(年齢及び全身健康状態)並びに患者自身の免疫系の全身状態に依存することになる。適当な用量は、1回の投与又は複数回にわたる投与で患者に投与できるように、また最適な治療効果を得るために主治医の判断に従って調整することができる。
【0108】
治療有効量のマスクされた抗原結合タンパク質(例えば、マスクされた二重特異性又は多重特異性抗原結合タンパク質)は好ましくは、疾患症状の重症度を低下させるか、疾患症状がない期間の頻度若しくは期間を増加させるか、又は疾患の苦痛に起因する機能障害若しくは能力障害の予防をもたらす。本明細書に記載のマスクされた抗原結合タンパク質(マスクされた二重特異性又は多重特異性抗原結合タンパク質など)によって認識される抗原を発現する、癌、腫瘍、又は悪性細胞の治療では、治療有効量のマスクされた抗原結合タンパク質、例えば、抗腫瘍細胞抗原(例えば、EGFR)/抗CD3マスク二重特異性又は多重特異性抗原結合タンパク質が好ましくは、未治療患者と比べて、その細胞分裂又は腫瘍成長を少なくとも約20%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、又は少なくとも約90%抑制する。腫瘍増殖を阻害する分子の能力は、例えば、有効性を予測する動物モデルにおいて評価され得る。
【0109】
本明細書に記載の医薬組成物及び製剤は、その必要がある患者における、本明細書に記載の病理学的な病状の治療、改善及び/又は予防に有用である。用語「治療」は、治療的処置及び予防的又は防御的手段の両方を指す。治療は、疾患、疾患の症状又は疾患の素因を治癒する、治す、軽減する、緩和する、変化させる、矯正する、改善する、好転させる又は影響を与えることを目的とした、疾患/障害、疾患/障害の症状又は疾患/障害の素因を有する患者の身体、単離された組織又は細胞に対する製剤の適用又は投与を含む。用語「疾患」は、本明細書に記載される医薬組成物による治療から利益を得ることになる任意の状態を指す。これには、哺乳類において問題の疾患の素因になる病理学的状態を含めた慢性及び急性障害又は疾患が含まれる。本明細書で使用される、「改善」という用語は、その必要がある対象に、マスクされた抗原結合タンパク質を投与することによる疾患状態の(例えば、腫瘍又は癌又は転移性の癌を有する患者の)いずれかの改善を意味する。癌の文脈において、かかる改善は、例えば、患者の腫瘍又は癌又は転移性癌の進行遅らせること、又は止めることと見なされ得る。本明細書で使用される用語「予防」とは、その疾患又は障害又は症状の発生又は再発の回避を意味する。例えば、癌の文脈において、「予防」とは、対象における腫瘍又は癌又は転移性癌の発生又は再発の回避を包含する。
【0110】
一部の実施形態において、本開示は、本明細書に記載のマスクされた抗原結合タンパク質によって認識される抗原(1つ又は複数)と関連する障害又は疾患を治療する方法を提供する。
【0111】
一実施形態において、本開示は、本明細書に記載の医薬組成物を、その必要がある対象に投与する工程を含む、増殖性疾患、例えば癌又は腫瘍性疾患を治療する方法を提供する。悪性新生物(一般に癌と呼ばれる)は通常、周囲組織に浸潤してそれを破壊し、且つ転移を形成することもあり、すなわち体の他の部分、組織又は臓器に広がる。したがって、用語「転移性癌」は、原発腫瘍のもの以外の他の組織又は臓器への転移を包含する。「必要とする対象」又は「治療を必要とする」対象という用語は、すでにその障害を有する対象及びその障害を予防しようとする対象を含む。必要とする対象又は「患者」は、予防的治療又は治療的処置のいずれかを受けるヒト及び他の哺乳動物対象を含む。
【0112】
投与経路
例示的な投与経路としては、局所経路(例えば、皮膚上、吸入、鼻、点眼、耳介/耳、膣、粘膜);経腸経路(例えば、経口、胃腸、舌下、唇下、頬側、直腸);及び非経口経路(例えば、静脈内、動脈内、骨内、筋肉内、脳内、脳室内、硬膜外、髄腔内、皮下、腹腔内、羊膜外、関節内、心臓内、皮内、病巣内、子宮内、膀胱内、硝子体内、経皮、鼻腔内、経粘膜、滑液嚢内、管腔内)が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、医薬組成物は、非経口的に、例えば、静脈内、皮下、又は筋肉内投与される。非経口投与は、ボーラス注射などの注射、又は持続注入などの注入によって実現され得る。投与は、長期間放出のためのデポーを介して実現され得る。一部の実施形態では、医薬組成物は、初回のボーラス後に持続注入によって静脈内投与されて、薬物製品の治療上の循環レベルを維持する。一部の実施形態では、医薬組成物は、1回用量として投与される。医薬組成物は、医療装置を使用して投与され得る。医薬組成物の投与用医療装置の例については、米国特許第4,475,196号明細書;同第4,439,196号明細書;同第4,447,224号明細書;同第4,447,233号明細書;同第4,486,194号明細書;同第4,487,603号明細書;同第4,596,556号明細書;同第4,790,824号明細書;同第4,941,880号明細書;同第5,064,413号明細書;同第5,312,335号明細書;同第5,312,335号明細書;同第5,383,851号明細書;及び同第5,399,163号明細書に記載されている。
【0113】
本開示は、本明細書に記載の特徴を有する凍結乾燥組成物を企図する。医薬組成物が凍結乾燥されている場合、凍結乾燥された材料は最初に、投与前に適切な液体で再構成される。凍結乾燥された材料は、例えば、注射用静菌水(BWFI)、生理食塩水、リン酸緩衝食塩水(PBS)又はタンパク質が凍結乾燥前にあったのと同じ製剤で再構成され得る。本開示は、本明細書に記載の特徴を有する、予め凍結乾燥された組成物の再構成組成物を企図する。医薬組成物は、単独療法で投与するか、又は必要に応じて抗癌療法などの追加の療法、例えば他のタンパク質性及び非タンパク質性薬物と併用して投与することができる。これらの薬物は、本明細書で定義される本開示の組成物と同時に投与され得るか、又は前記製剤の投与前若しくは投与後に既定の時間間隔及び用量で別々に投与され得る。
【0114】
キット
さらなる態様として、対象への投与のためのそれらの使用を容易にする様式でパッケージされた本明細書に記載される1つ又は複数の医薬組成物を含むキットが提供される。一実施形態では、かかるキットは、任意選択により容器に貼付されたラベルを伴って密封ボトル、容器、単回使用若しくは複数回使用用バイアル、プレフィルドシリンジ、又はプレフィルド注射デバイスなどの容器にパッケージされるか、又は方法を実践する際の化合物若しくは組成物の使用を記載するパッケージに含まれる、本明細書に記載される医薬組成物(例えば、マスクされた抗原結合タンパク質(例えば、マスクされた二重特異性又は多重特異性抗原結合タンパク質)を含む組成物)を含む。一態様では、組成物は、単位剤形にパッケージされる。キットはさらに、特定の投与経路に従って、組成物を投与するのに好適なデバイスを含んでもよい。好ましくは、そのキットは、本明細書に記載のマスクされた抗原結合タンパク質又は本明細書に記載の医薬組成物の使用について述べたラベルを含有する。
【0115】
一般に、本発明の医薬組成物に関して、様々な保管形態及び/又は剤形が、すなわち、意図される投与経路、送達形式及び所望の投与量に応じて考えられる(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,22nd edition,Oslo,A.,Ed.,(2012)を参照されたい)。当業者であれば、このような特定の剤形の選択は、例えば、抗体の物理的状態、安定性、インビボでの放出速度及びインビボでのクリアランス速度に影響を及ぼし得ることを認識するであろう。
【実施例
【0116】
実施例1
マスクされた抗原結合タンパク質組成物の凝集に対するサッカリド安定剤(例えば、ショ糖)及び低pHの影響
100mMグリシン(pH4.9)中にマスクされた二重特異性抗原結合タンパク質(1mg/mL)を含む組成物が生成された(製剤A)。高分子量(HMW)種を約27~28%有する、この液体組成物は、2~8℃で貯蔵した直後、又は2~8℃で4週間貯蔵した後に、著しい凝集を示した(図6、7及び10参照)。
【0117】
安定性を向上させ、且つ凝集及びHMW種の量を低減することによって、組成物の臨床的有用性を向上させるために、pH3.6~pH7.0の範囲のいくつかの製剤(製剤B~F)中に以下の:
製剤B:10mMグルタミン酸塩、9%ショ糖、pH3.6;
製剤C:10mMグルタミン酸塩、9%ショ糖、pH4.2;
製剤D:10mM酢酸塩、9%ショ糖、pH5.2;
製剤E:10mMリン酸塩、9%ショ糖、pH6.3;及び
製剤F:10mMリン酸塩、9%ショ糖、pH7.0;の通りに、組成物をバッファー交換した。
【0118】
3回のバッファー交換を用いて、カットオフ7000kDaカセット中で出発組成物を4℃にて一晩透析することによって、バッファー交換は行われた。0.01%ポリソルベート80を添加した後に、透析物質をバイアルに入れ、試料の安定性を2~8℃及び25℃にて1か月間モニターした。バイアルに入れられた、各製剤中のマスクされた抗原結合タンパク質の最終濃度は1mg/mLであった。それぞれ2~8℃及び25℃にて2週間及び4週間で、サイズ排除超高速液体クロマトグラフィー(SE-UHPLC)によって、全ての試料を分析した。製剤B~FのSE-UHPLC分析の結果をそれぞれ、図1~6に示す。製剤AのSE-UHPLC分析の結果を図10に示す。
【0119】
図6Aに示すように、高分子量(HMW)種%は、出発組成物(つまり、製剤A)と比較して、2~8℃で4週間貯蔵した後に、低pHの製剤において有意に減少した。例えば、確認された凝集が最も多い量から最も少ない量でランク付けされた、本明細書に記載のマスクされた抗原結合タンパク質製剤は、製剤A>製剤F>製剤E>製剤D>製剤C>製剤Bである。
【0120】
このデータから、マスクされた抗原結合タンパク質を含有する医薬組成物の安定性、凝集性及び臨床的有用性が:(1)サッカリド又は安定剤(例えば、ショ糖)の包含によって、凝集/HMW種%が約3分の1に低減される、サッカリド又は安定剤(例えば、ショ糖)の添加;及び(2)低pHでの医薬組成物の製剤化であって、そのpHが、マスクされた抗原結合タンパク質のAB1、AB2、MD1及びMD2領域の等電点(pI)未満であり、それによって、凝集/HMW種%がさらに約3分の1に低減される、製剤化;によって有意に向上することが強く示唆されている。マスクされた二重特異性抗原結合タンパク質のAB1、AB2、MD1及びMD2領域のpIが、Bjellqvistアルゴリズムを用いて決定され、表1に示すマスクされた二重特異性抗原結合タンパク質2と同等なパターンを有した。4.54を超えるpHで製剤化した場合には、負に荷電したMD1が、別の正に荷電したタンパク質をキャップし、その結果、溶液不安定性となる可能性がある。それより低いpH4では、全ての成分(例えば、AB1、AB2、MD1及びMD2)が様々な程度で正に荷電し、それによって斥力が生じる。サッカリド又は安定剤(例えば、ショ糖)と低pH(pHが、マスクされた抗原結合タンパク質のAB1、AB2、MD1及び/又はMD2領域の等電点(pI)未満である)との組合せが相乗的又は劇的に、マスクされた抗原結合タンパク質(例えば、マスクされた二重特異性又は多重特異性抗原結合タンパク質など)を含む医薬組成物の凝集/HMW種%を低減することが、このデータによって強く裏付けられている。
【0121】
実施例2
マスクされた二重特異性抗原結合タンパク質組成物の凝集が、サッカリド又は安定剤(例えば、ショ糖)の添加と低pHによってリバースされる
凝集の開始レベルが高い、マスクされた二重特異性抗原結合タンパク質の試料を、実施例1に記載のように低pH製剤バッファー(製剤C)中にバッファー交換した。簡潔には、カットオフ7000kDaカセット中で出発原料を4℃にて一晩透析することによって、3回バッファーを交換して、バッファー交換を行った。透析プロセスによって、凝集レベルが有意に低減し、このことから、低pH製剤は初期の凝集をリバースすることができることが示唆されている。製剤AのHMW種28.49%を報告する図10Bに対して、製剤CにおけるHMW種3.91%を報告する図2Bのゼロ時点を比較する。この比較は、図7Bにも示されている。その流体力学的体積に基づいて、溶解状態のタンパク質を分離する技術、サイズ排除超高速液体クロマトグラフィー(SE-UHPLC)によって、サイズ排除超高性能分析カラムを用いて、試料を分析した。
【0122】
図8A~Bに示すように、1mg/mLで透析された物質は、4℃及び25℃で0、1及び2週間貯蔵した後に安定であった。貯蔵後の凝集レベルの増加は確認されなかった。25℃で貯蔵された試料は、SECによる高分子量種のわずかな低減を示し、このことから、凝集が疎水性相互作用によって誘導され得たことが示唆されている。
【0123】
低pH製剤(製剤C)は、より高い濃度のマスク二重特異性抗原結合タンパク質の安定化にも有効であった。低pH製剤バッファー(製剤C)中で17mg/mLのタンパク質は、11mg/mLの出発原料(製剤A)と比較して、凝集が有意に低かった(図9)。物質17mg/mLは、4℃で0、2及び4週間貯蔵した後に安定であった(図9)。製剤Cは、製剤A(図10)と比較して、2~8℃又は25℃で0、2及び4週間にて凝集/HMW種%の有意な減少を示し、安定性が向上したが(図2)、pH3.6の製剤Bは、製剤Cと比較して凝集/HMW種%の更なる減少を示した(例えば、図6参照;図1も参照し、図2と比較されたい)。このデータから、既にマスクされた抗原結合タンパク質のAB1、AB2、MD1及びMD2領域の等電点(pI)未満である、医薬組成物のpHをさらに低減することによって、マスクされた抗原結合タンパク質の凝集がさらに低減されることが分かる。
【0124】
実施例3
マスクされた抗原結合タンパク質組成物の凝集に対するポリオール(例えば、ショ糖)及び低pHの影響
国際公開第2017/040344号パンフレットの表5、10及び/又は12且つ/又は図36若しくは37に記載のアミノ酸配列を含むProTIAプロドラッグの抗体ドメイン(AB1及び/又はAB2)及び充填剤/マスキングドメイン(MD1及び/又はMD2)のpIが決定される。次に、ProTIAプロドラッグが、適切なポリオール(9%ショ糖など)と共に、任意に界面活性剤(0.01%ポリソルベート80など)と共に、適切な緩衝液(10mMグルタミン酸塩又は10mM酢酸塩など)中で製剤化され、組成物のpHが、抗体ドメイン(AB1及び/又はAB2)及び充填剤/マスキングドメイン(MD1及び/又はMD2)のpI未満となるように、約7.0~3.5に下げられる。ProTIAプロドラッグ低pHの凝集に対するポリオール及び低pHの影響は、実施例1及び2に記載のように評価される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【配列表】
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