(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池スタック
(51)【国際特許分類】
H01M 50/204 20210101AFI20240104BHJP
H01M 50/211 20210101ALI20240104BHJP
H01M 50/293 20210101ALI20240104BHJP
H01M 50/105 20210101ALI20240104BHJP
H01M 50/143 20210101ALI20240104BHJP
H01M 50/117 20210101ALN20240104BHJP
H01M 50/121 20210101ALN20240104BHJP
【FI】
H01M50/204 401F
H01M50/211
H01M50/293
H01M50/105
H01M50/143
H01M50/117
H01M50/121
(21)【出願番号】P 2021511944
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2020013794
(87)【国際公開番号】W WO2020203684
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-08-13
(31)【優先権主張番号】P 2019066266
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 伸司
(72)【発明者】
【氏名】杉原 裕理
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-206605(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107425222(CN,A)
【文献】特開2000-067825(JP,A)
【文献】特開2009-004362(JP,A)
【文献】特表2014-504785(JP,A)
【文献】国際公開第2017/213132(WO,A1)
【文献】特表2012-507131(JP,A)
【文献】特表2016-519010(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/20-50/298
H01M 50/10-50/198
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直接又は他の層を介して積層されている複数のリチウムイオン電池と、単数又は複数の自己消火層と、を含む積層体であり、
前記単数又は複数の自己消火層は、ラジカルトラップ消火剤、燃料、及び酸化剤を含有する自己消火層Bを含み、
前記単数又は複数の自己消火層が、更に、ポリフェニレンサルファイド樹脂を含有する自己消火層Aを含
み、
前記ラジカルトラップ消火剤が、リン化合物を含む、リチウムイオン電池スタック。
【請求項2】
前記ラジカルトラップ消火剤が、リン酸ナトリウム、亜リン酸トリメチル、
及びホスファゼ
ンからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1に記載のリチウムイオン電池スタック。
【請求項3】
前記ラジカルトラップ消火剤がクエン酸三カリウムを含み、前記燃料がカルボキシメチルセルロースを含み、前記酸化剤が塩素酸カリウムを含む、請求項1
又は請求項2に記載のリチウムイオン電池スタック。
【請求項4】
前記単数又は複数の自己消火層のうちの少なくとも1つが、前記複数のリチウムイオン電池のうちの隣り合う2つのリチウムイオン電池間に配置されている請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池スタック。
【請求項5】
前記単数又は複数の自己消火層のうちの少なくとも1つが、形状維持性を有する請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池スタック。
【請求項6】
前記単数又は複数の自己消火層のうちの少なくとも1つが、接着性を有する請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池スタック。
【請求項7】
前記単数又は複数の自己消火層のうちの少なくとも1つが、前記複数のリチウムイオン電池のうちの隣り合う2つのリチウムイオン電池間に配置されており、
前記積層体が、更に、前記隣り合う2つのリチウムイオン電池の少なくとも一方と、前記隣り合う2つのリチウムイオン電池間に配置されている前記自己消火層と、の間に、接着層を含む請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池スタック。
【請求項8】
前記単数又は複数の自己消火層のうちの少なくとも1つが、前記複数のリチウムイオン電池のうちの隣り合う2つのリチウムイオン電池間に配置されており、
前記積層体が、更に、前記隣り合う2つのリチウムイオン電池の少なくとも一方と、前記隣り合う2つのリチウムイオン電池間に配置されている前記自己消火層と、の間に、吸振層を含む請求項1~請求項7のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池スタック。
【請求項9】
前記複数のリチウムイオン電池のうちの少なくとも1つが、内部消火層を含む請求項1~請求項8のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池スタック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リチウムイオン電池スタックに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高エネルギー密度及び高出力特性を有することからリチウムイオン電池が注目されている。特に、電気自動車の電源や大型蓄電池等では、複数のリチウムイオン電池が直接又は他の層を介して積層されたスタック構造を有するリチウムイオン電池スタックが採用されている。
【0003】
リチウムイオン電池では、高エネルギー密度や高出力特性を有するがゆえに、内部短絡が生じた際には大きな電流が流れて急激な発熱が生じ、最悪の場合、リチウムが発火することがある。このような不具合を防止すべく、発熱抑制のため電池の外部に冷却システムを取り付けたりしていたが、電池全体の大型化や重量増を招いていた。
【0004】
これに対し、近時では、リチウムイオン電池における電極積層体(電池素子)の主としてセパレータの片面又は両面に所定の消火薬剤シートを設け、電池全体の小型化及び軽量化を確保しつつ、リチウムの発火による火災を初期消火で抑制し得る電気化学デバイスが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また、特許文献2~4には、外装フィルムの内部に電池素子を収容した電池を複数積層した電池スタックをさらに電池容器(電池パック)内に納め、上記電池スタックと電池容器との間や上記電池容器自体に消火剤を配置したリチウムイオン電池が開示されている。
【0006】
特許文献1:特許第6431147号公報
特許文献2:特開2009-99301号公報
特許文献3:特開2009-99305号公報
特許文献4:特開2009-99322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に記載の技術は、リチウムイオン電池の小型軽量化と初期消火を可能にする点において優れた技術であるが、未だ改良の余地がある。
すなわち、所定の消火薬剤シートは、電極積層体の内部、具体的には積層されているセパレータ毎に配置されているので、電極積層体ひいては得られるリチウムイオン電池の製造効率が低くなってしまうことがある。このような製造効率の低下は、特に、複数のリチウムイオン電池を用いるスタック構造の製造(即ち、リチウムイオン電池スタックの製造)にも大きく影響する。
【0008】
また、上記特許文献2~4に記載の技術は、消火剤が電池スタックの外部に配置されており、電池スタックを収容した電池容器が破損した後でないと消火剤が作用しないため、電池容器内での延焼防止が困難である。従って、上記特許文献2~4に記載の技術に対し、電池容器内での初期消火(即ち、リチウムイオン電池の初期消火)を実現できる技術が求められる。
【0009】
本開示は、上記従来の状況に鑑みてなされたものであり、複数のリチウムイオン電池が直接又は他の層を介して積層されているリチウムイオン電池スタックにおいて、リチウムイオン電池の初期消火を実現することができると共に、製造効率に優れたリチウムイオン電池スタックを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 直接又は他の層を介して積層されている複数のリチウムイオン電池と、単数又は複数の自己消火層と、を含む積層体であるリチウムイオン電池スタック。
<2> 前記単数又は複数の自己消火層のうちの少なくとも1つが、前記複数のリチウムイオン電池のうちの隣り合う2つのリチウムイオン電池間に配置されている<1>に記載のリチウムイオン電池スタック。
<3> 前記単数又は複数の自己消火層のうちの少なくとも1つが、燃焼に関与するラジカルをトラップする機能、支燃物を遮断する機能、及び、吸熱・支燃物希釈する機能のうちの少なくとも1つの機能を有する<1>又は<2>に記載のリチウムイオン電池スタック。
<4> 前記単数又は複数の自己消火層のうちの少なくとも1つが、形状維持性を有する<1>~<3>のいずれか1つに記載のリチウムイオン電池スタック。
<5> 前記単数又は複数の自己消火層のうちの少なくとも1つが、接着性を有する<1>~<4>のいずれか1つに記載のリチウムイオン電池スタック。
<6> 前記単数又は複数の自己消火層のうちの少なくとも1つが、前記複数のリチウムイオン電池のうちの隣り合う2つのリチウムイオン電池間に配置されており、
前記積層体が、更に、前記隣り合う2つのリチウムイオン電池の少なくとも一方と、前記隣り合う2つのリチウムイオン電池間に配置されている前記自己消火層と、の間に、接着層を含む<1>~<5>のいずれか1つに記載のリチウムイオン電池スタック。
<7> 前記単数又は複数の自己消火層のうちの少なくとも1つが、前記複数のリチウムイオン電池のうちの隣り合う2つのリチウムイオン電池間に配置されており、
前記積層体が、更に、前記隣り合う2つのリチウムイオン電池の少なくとも一方と、前記隣り合う2つのリチウムイオン電池間に配置されている前記自己消火層と、の間に、吸振層を含む<1>~<6>のいずれか1つに記載のリチウムイオン電池スタック。
<8> 前記複数のリチウムイオン電池のうちの少なくとも1つが、内部消火層を含む<1>~<7>のいずれか1つに記載のリチウムイオン電池スタック。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、複数のリチウムイオン電池が直接又は他の層を介して積層されているリチウムイオン電池スタックにおいて、リチウムイオン電池の初期消火を実現することができると共に、製造効率に優れたリチウムイオン電池スタックが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示のリチウムイオン電池スタックの第1実施形態を示す断面図である。
【
図2】本開示のリチウムイオン電池スタックの第2実施形態を示す断面図である。
【
図3】リチウムイオン電池の一部を破断状態にして示す斜視図である。
【
図4】
図3に示すリチウムイオン電池の外装体における収容部の部分断面図である。
【
図5】実施例1における釘刺し試験の結果を示すグラフである。
【
図6】比較例1における釘刺し試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0014】
本開示のリチウムイオン電池スタックは、直接又は他の層を介して積層されている複数のリチウムイオン電池と、単数又は複数の自己消火層と、を含む積層体である。
【0015】
本開示のリチウムイオン電池スタックは、リチウムイオン電池の初期消火を実現することができると共に、製造効率に優れる。
詳細には、本開示のリチウムイオン電池スタックでは、本開示のリチウムイオン電池スタック自体である積層体中に、自己消火層が含まれているので、消火剤がリチウムイオン電池スタックの外部(例えば、リチウムイオン電池スタックを収容している電池容器、上記電池容器とリチウムイオン電池スタックの間、等)に配置されている場合(例えば、特許文献2~4参照)と比較して、リチウムイオン電池の初期消火を実現できる。例えば、リチウムイオン電池中のリチウムが発火する事態が生じた場合においても、リチウムイオン電池スタック自体である積層体中に配置されている自己消火層により、リチウムイオン電池の初期消火を実現できる。
更に、本開示のリチウムイオン電池スタックは、本開示のリチウムイオン電池スタック自体である積層体中に、自己消火層を介在させた簡易な構造を有するので、電極積層体の内部、具体的には積層されているセパレータ毎に消火薬剤シートを配置させる技術(例えば、特許文献1参照)と比較して、電極積層体及びリチウムイオン電池の製造効率の低下を抑制でき、ひいてはリチウムイオン電池スタックの製造効率の低下を抑制できる(即ち、リチウムイオン電池スタックの製造効率に優れる)。
【0016】
本開示のリチウムイオン電池スタックによれば、リチウムイオン電池の初期消火を実現できるだけでなく、リチウムイオン電池の発火自体を抑制する効果も得られる。
【0017】
本開示のリチウムイオン電池スタック(積層体)中において、自己消火層は、1つのみ含まれていてもよいし、2つ以上含まれていてもよい。
また、本開示のリチウムイオン電池スタック(積層体)中において、自己消火層は、積層体中のどこに配置されていてもよい。
具体的には、自己消火層は、
複数のリチウムイオン電池のうちの隣り合う2つのリチウムイオン電池間に配置されていてもよいし、
複数のリチウムイオン電池のうちの最外層である2つのリチウムイオン電池の更に外側の少なくとも一方に配置されていてもよいし、
上記隣り合う2つのリチウムイオン電池間と、最外層である2つのリチウムイオン電池の更に外側の少なくとも一方と、の両方に配置されていてもよい。
【0018】
ここで、複数のリチウムイオン電池のうちの隣り合う2つのリチウムイオン電池間とは、リチウムイオン電池スタックにおけるリチウムイオン電池の数が2つである場合には、この2つのリチウムイオン電池の間を意味し、リチウムイオン電池スタックにおけるリチウムイオン電池の数がn個(nは3以上の整数とする)である場合には、n-1箇所存在する「隣り合う2つのリチウムイオン電池間」のうちの少なくとも1箇所を意味する。
【0019】
また、自己消火層が、最外層である2つのリチウムイオン電池の更に外側に配置される場合、上記外側(2箇所)のうち、いずれか一方のみに配置されていてもよいし、両方に配置されていてもよい。
【0020】
本開示のリチウムイオン電池スタックの好ましい態様は、
上記単数又は複数の自己消火層のうちの少なくとも1つが、複数のリチウムイオン電池のうちの隣り合う2つのリチウムイオン電池間に配置されている態様である。
この態様によれば、リチウムイオン電池の初期消火をより効果的に実現でき、また、隣り合う2つのリチウムイオン電池間での燃焼の伝播をより効果的に抑制できる。
この態様では、隣り合う2つのリチウムイオン電池間に、単数の自己消火層が配置されていてもよいし、複数の自己消火層(例えば、後述の実施例における自己消火層A及び自己消火層B)が配置されていてもよい。上記複数の自己消火層は、隣接していてもよいし(即ち、積層されていてもよいし)、隣接していなくてもよい。
【0021】
単数又は複数の自己消火層のうちの少なくとも1つは、好ましくは、燃焼に関与するラジカルをトラップする機能(以下、「ラジカルトラップ機能」ともいう)、支燃物を遮断する機能(以下、「支燃物遮断機能」ともいう)、及び、吸熱・支燃物希釈する機能(以下、「吸熱・希釈機能」ともいう)のうちの少なくとも1つの機能を有する。
単数又は複数の自己消火層のうちの少なくとも1つが、上記少なくとも1つの機能を有する場合には、リチウムイオン電池に炎上が発生しても極めて短時間に消火され、類焼や延焼が有効に抑制されるので、リチウムイオン電池の初期消火をより効果的に達成できる。
また、上記少なくとも1つの機能の発現により、リチウムイオン電池において、炎上に至る前の発火自体を抑制する効果も得られる。
【0022】
上記ラジカルトラップ機能は、好ましくは、燃焼の連鎖反応における連鎖担体である、Oラジカル、Hラジカル及びOHラジカルをトラップする機能である。
上記支燃物遮断機能は、好ましくは、燃焼場への支燃物の供給を遮断する機能である。
上記吸熱・希釈機能は、好ましくは、吸熱反応(例えば、融解、昇華、分解等)により燃焼場を冷却し、かつ、ガス(例えば、不燃性ガス、難燃性ガス等)及び/又はエアロゾルを発生させることにより、支燃物(例えば、酸素又は酸素供給源)及び/又は可燃物(例えば可燃性ガス)を希釈する機能である。
【0023】
自己消火層の厚さは、リチウムイオン電池の大きさ、リチウムイオン電池の積層数等にもよるが、20μm~1000μmであることが好ましい。自己消火層の厚さが20μm~1000μmである場合には、より優れた消火性能が発揮され得る。
ここでいう自己消火層の厚さは、複数の自己消火層が積層されている場合には、複数の自己消火層のうちの1層の自己消火層の厚さを意味する(以下、同様である)。
【0024】
単数又は複数の自己消火層のうちの少なくとも1つは、好ましくは、形状維持性を有する。
単数又は複数の自己消火層のうちの少なくとも1つが、形状維持性を有する場合には、リチウムイオン電池の取り扱い性が良好になり、積層や位置決めの作業がより容易となる。
自己消火層の形状維持性をより向上させる観点から、自己消火層の厚さは、好ましくは500μm以上であり、より好ましくは500μm~1000μmである。
【0025】
単数又は複数の自己消火層のうちの少なくとも1つは、好ましくは、接着性を有する。
単数又は複数の自己消火層のうちの少なくとも1つが接着性を有する場合には、リチウムイオン電池スタックの製造がより容易となる。
【0026】
本開示のリチウムイオン電池スタック(積層体)は、更に、上記隣り合う2つのリチウムイオン電池の少なくとも一方と、上記隣り合う2つのリチウムイオン電池間に配置されている自己消火層と、の間に、接着層を含むことが好ましい。
接着層を含む態様のリチウムイオン電池スタックは、部材として、リチウムイオン電池と自己消火層とが接着層を介して接着されている一体物を用いて製造できる。このため、リチウムイオン電池スタックが接着層を含む場合、リチウムイオン電池スタックの製造に用いる部材の取り扱い性がより良好になり、リチウムイオン電池スタックの製造効率がより向上する。
更に、リチウムイオン電池スタックが接着層を含む場合、リチウムイオン電池スタックが振動を受けた際のリチウムイオン電池の位置ずれ又は崩壊をより効果的に抑制できる。
【0027】
本開示のリチウムイオン電池スタック(積層体)は、更に、上記隣り合う2つのリチウムイオン電池の少なくとも一方と、上記隣り合う2つのリチウムイオン電池間に配置されている自己消火層と、の間に、吸振層(即ち、振動を吸収する層)を含むことが好ましい。
本開示のリチウムイオン電池スタックが吸振層を含む場合には、リチウムイオン電池スタックが振動を受けた際のリチウムイオン電池の位置ずれ又は崩壊をより効果的に抑制できる。
【0028】
本開示のリチウムイオン電池スタックにおいて、複数のリチウムイオン電池のうちの少なくとも1つのリチウムイオン電池が、内部消火層を含むことが好ましい。
これにより、リチウムイオン電池の初期消火をより効果的に実現することができる。
【0029】
ここで、内部消火層とは、リチウムイオン電池の内部に設けられる自己消火層を意味する。
内部消火層は、好ましくは、外装体中にリチウムイオン電池素子が収容された構造を有するリチウムイオン電池における、外装体中に設けられる。
外装体が積層構造を有する場合、内部消火層は、好ましくは、上記積層構造を形成するための層の一つとして設けられる。
内部消火層を含む態様のリチウムイオン電池では、単数の内部消火層が配置されていてもよいし、複数の内部消火層が配置されていてもよい。上記複数の内部消火層は、隣接していてもよいし(即ち、積層されていてもよいし)、隣接していなくてもよい。
【0030】
内部消火層の厚さは、電池素子の大きさ、電池素子における積層数等にもよるが、20~1000μmであることが好ましい。内部消火層の厚さが20~1000μmである場合には、より優れた消火性能が発揮され得る。
ここでいう内部消火層の厚さは、複数の内部消火層が積層されている場合には、複数の内部消火層のうちの1層の内部消火層の厚さを意味する。
【0031】
以下、本開示のリチウムイオン電池スタックの実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下、原則として、実質的に同一の機能を発揮する要素・部材には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0032】
図1及び
図2は、本開示のリチウムイオン電池スタックの第1及び第2の実施形態を示す図である。各図では、理解し易くする都合上、各層の厚さを誇張していると共に、上下方向に積層した状態を示しているが、実際の各層の厚さの大小関係、積層数や積層方向は図示例とは異なることがある。
【0033】
図1に示す第1実施形態のリチウムイオン電池スタックS1は、複数のリチウムイオン電池1を積層した構造を有し、互いに隣接するリチウムイオン電池1同士の間に、自己消火層2を備えている。自己消火層2は、前述したラジカルトラップ機能、前述した支燃物遮断機能、及び、前述した吸熱・希釈機能のうちの少なくとも1つの機能を有する。
【0034】
この自己消火層2は、上記機能の発現により、リチウムイオン電池1に炎上が発生しても極めて短時間に消火し、類焼や延焼が有効に抑制され得る。
また、自己消火層2の上記機能の発現により、リチウムイオン電池1の発火自体を抑制する効果も得られる。
自己消火層2の具体的な材料については後に詳述する。
リチウムイオン電池スタックS1は、互いに隣接するリチウムイオン電池1同士の間に、複数の自己消火層2(例えば、複数の自己消火層2が積層された積層体)を備えていてもよい。
【0035】
図示例のリチウムイオン電池スタックS1は、自己消火層2が、隣接する2つのリチウムイオン電池1との間に介在する接着層3を有し、これにより接着性を確保している。
但し、自己消火層2が接着成分を含む場合(即ち、自己消火層2自体が接着性を有する場合)、接着層3は、省略されていてもよい。
【0036】
接着層3は、例えば、イソシアネート系接着剤、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤等の接着剤によって形成される。
接着層3により、振動によるリチウムイオン電池1同士の位置ずれや、振動によるリチウムイオン電池1同士の衝突が、より効果的に抑制される。
【0037】
第1実施形態のリチウムイオン電池スタックS1の変形例として、第1実施形態のリチウムイオン電池スタックS1に対し、最外層である2つのリチウムイオン電池1の更に外側(2箇所)のうちの少なくとも一方に、自己消火層2(及び必要に応じ接着性3)を追加した態様が挙げられる。
【0038】
図2に示す第2実施形態のリチウムイオン電池スタックS2は、第1実施形態と同様に、複数のリチウムイオン電池1を積層した構造を有し、互いに隣接するリチウムイオン電池1同士の間に、自己消火層2を備えている。
さらに、リチウムイオン電池スタックS2は、振動を吸収するための吸振層4を備えている。
リチウムイオン電池スタックS2において、吸振層4は、自己消火層2の片側に設けられている。吸振層4は、自己消火層2の両側に設けられていてもよい。
【0039】
図示例のリチウムイオン電池スタックS2は、自己消火層2と、自己消火層2の下側に隣接するリチウムイオン電池1と、の間に、吸振層4及び接着層3を備えている。吸振層4は、自己消火層2と接着層3の間に配置されている。
接着層3及び吸振層4は、それらの材料を適宜選択することにより、接着性と吸振性とを具備した1つの層として設けられてもよい。
【0040】
吸振層4は、ポリウレタン、スチレン系熱可塑層樹脂等に代表される材料で形成される。
吸振層4により、振動によるリチウムイオン電池1同士の位置ずれ、電池内部の電極の位置ずれ等による、内部短絡及び/又は電極の剥がれが、より効果的に抑制される。
かかる吸振層4を備えるリチウムイオン電池スタックS2は、車載用電源等の用途に極めて有用である。
【0041】
第2実施形態のリチウムイオン電池スタックS2の変形例として、第2実施形態のリチウムイオン電池スタックS2に対し、最外層である2つのリチウムイオン電池1の更に外側(2箇所)のうちの少なくとも一方に、自己消火層2(及び、必要に応じ、接着層3及び吸振層4の少なくとも一方)を追加した態様が挙げられる。
【0042】
上述した第1実施形態及び第2実施形態におけるリチウムイオン電池1は、
図1~
図3に示すように、外装体10、電池素子50、及び電解液60を含む。
外装体10は、絞り加工によって形成された収容部10aと、ヒートシールによって形成された封止部10sと、を含む。
封止部10sは、詳細には、外装体10の収容部10a内に電池素子50及び電解液60を収容した状態で、外装体10における縁部をヒートシールすることによって形成されている。
リチウムイオン電池1は、平面視で概略矩形状を有する、扁平なリチウムイオン電池である。これにより、リチウムイオン電池1同士を積層しやすい。
電池素子50は、正極20とセパレータ40と負極30とが順次積層され、これらが必要に応じて巻回されて形成されている。
正極20には正極端子21が接続され、負極30には負極端子31が接続されている。これらの正極端子21及び負極端子31は、外装体10における封止部10sの一部から引き出されている。
【0043】
図4は、リチウムイオン電池1の外装体10における収容部10aの部分断面図である。
図4には、収容部10aに収容された電解液60も示されている。
外装体10における収容部10aは、電解液60側からみて、熱接着層11、内部消火層14、金属層12、ガスバリア層13及び靱性層15がこの順に配置され、かつ、各層間に内部接着層が介在している積層構造を有している。
【0044】
熱接着層11は、ヒートシールによる封止部10sの形成に寄与する層である。
熱接着層11は、クッション性を有していることが好ましい。
また、熱接着層11は、電解液60と直接接触するので電解液に対して耐性を有することが好ましい。
【0045】
内部消火層14は、前述した自己消火層2と同様に、ラジカルトラップ機能、支燃物遮断機能、及び、吸熱・希釈機能のうちの少なくとも1つの機能を有する。
リチウムイオン電池スタックS1及びS2の各々は、外装体10中に内部消火層14を備えるので、自己消火層2と内部消火層14とによる2段階の消火機能を備える。これにより、消火効果及び発火抑制効果により優れる。
また、内部消火層14は、熱接着層11上に積層されているので、電解液60と直接接触することがない。このため、内部消火層14の成分の溶出等による、電池特性への影響が抑制される。
外装体10における収容部10aは、複数の内部消火層14(例えば、複数の内部消火層14が積層された積層体)を備えていてもよい。
【0046】
金属層12は、主としてガスバリア性及び形状維持性を担っている。
【0047】
ガスバリア層13は、ガスバリア機能を有する。
ガスバリア層13は、ガスバリア機能の他にも、釘等による突き刺しに対する耐性(即ち、耐突き刺し性)を有することが好ましい。
【0048】
靱性層15は、高靱性の樹脂で形成される層である。
靱性層15は、外装フィルムの耐突き刺し性や耐衝撃性等を向上させ、外部応力による破損をより抑制する。
【0049】
上記構成を備えたリチウムイオン電池スタックS1及びS2の各々は、好ましくは、予め個々のリチウムイオン電池1の上面に、接着層3(又は接着層3及び吸振層4)を介して自己消火層2を接着しておき、自己消火層2が接着されたリチウムイオン電池1を、接着層3を介して順次積層することにより、製造される。
この際、自己消火層2が形状維持性を有する場合には、自己消火層2が接着されたリチウムイオン電池1の取り扱い性により優れ、積層や位置決めの作業がより容易である。このようにして、リチウムイオン電池スタックの製造効率の向上がより効果的に実現される。
自己消火層2の厚さを500μm以上とした場合には、上記効果が一層効果的に奏される。
【0050】
次に、本開示のリチウムイオン電池スタックに含まれ得る各要素の好ましい態様について詳細に説明する。
【0051】
<自己消火層>
自己消火層(例えば、前述した自己消火層2)は、消火剤を少なくとも1種含むことが好ましい。
消火剤として、好ましくは、上述のラジカルトラップ機能、上述の支燃物遮断機能、及び、上述の吸熱・希釈機能のうちの少なくとも1つを有する薬剤である。
好ましい消火剤として、より具体的には;
上述のラジカルトラップ機能を有するラジカルトラップ消火剤;
上述の支燃物遮断機能を有する支燃物遮断消火剤;
上述の吸熱・希釈機能を有する吸熱・希釈消火剤;
等が挙げられる。
上記支燃物遮断消火剤として、より具体的には;
難燃性樹脂からなり、この難燃性樹脂によって燃焼場を覆う機能を有する難燃性樹脂消火剤;
燃焼された場合に薄膜(チャー)を形成し、形成されたチャーによって燃焼場を覆う機能を有するチャー形成消火剤;
等が挙げられる。
上述した各消火剤は混合して用いてもよい。
【0052】
ラジカルトラップ消火剤としては、例えば;
リン酸二水素アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸エステル、亜リン酸トリメチル、赤リン、ホスファゼン等のリン化合物;
炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、酸化カリウム、クエン酸三カリウム、炭酸ナトリウムの水和物、炭酸カリウムの水和物等のアルカリ金属化合物;
硫酸アンモニウム;
臭素化合物、ハロゲン化物修飾ポリマー、ペルハロゲン化アルキルスルホン酸等のハロゲン化合物;
ヒンダートアミン、フェノール付加ヒンダートアミン等のヒンダートアミン化合物;
ブチルハイドロキノン等のアルキルハイドロキノン化合物;
等が挙げられる。
臭素化合物としては、ブロム化トリアジン、ブロム化エポキシ樹脂等が挙げられる。
ペルハロゲン化アルキルスルホン酸としては、ペルフルオロアルキルスルホン酸(例えば、完全フッ素化された直鎖アルキル基を含むペルフルオロアルキルスルホン酸)等が挙げられる。
【0053】
ラジカルトラップ消火剤は、燃料及び酸化剤と組み合わせて使用することが好ましい。これにより、燃料の着火温度に応じて消火開始温度(カリウムラジカル等の発生温度)を調節することができ、より早期の消火が実現され易い。
ラジカルトラップ消火剤と、燃料及び酸化剤と、の配合割合は、ラジカルトラップ消火剤や燃料の種類にもよるが、ラジカルトラップ消火剤100質量部に対し、燃料及び酸化剤の合計量が1~10質量部となる配合割合が好ましい。この配合割合が、消化性及び安全性を両立できる範囲として特に好ましい。
ラジカルトラップ消火剤の消火開始温度は、リチウム金属による火災の初期消火等との関係から150~180℃であることが好ましい。
【0054】
上記燃料としては、例えば、ジシアンジアミド、ニトログアニジン、硝酸グアニジン、尿素、メラミン、メラミンシアヌレート、アビセル、グアガム、カルボキシルメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、カルボキシルメチルセルロースカリウム、カルボキシルメチルセルロースアンモニウム、ニトロセルロース、アルミニウム、ホウ素、マグネシウム、マグナリウム、ジルコニウム、チタン、水素化チタン、タングステン及びケイ素等が挙げられる。
中でも、カルボキシメチルセルロース系の燃料(即ち、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカリウム、又は、カルボキシメチルセルロースアンモニウム)を好ましく使用できる。
【0055】
また、上記酸化剤としては、例えば、塩素酸カリウム、塩素酸ナトリウム、塩素酸ストロンチウム、塩素酸アンモニウム及び塩素酸マグネシウム等が挙げられる。
【0056】
上記燃料と上記酸化剤との混合割合は、その種類や電池の構成等にもよるが、質量比で20:80~50:50であることが好ましい。
消火開始温度は、上記燃料、酸化剤、及びラジカルトラップ消火剤を、上記の割合で混合することで調整できる。
また、自己消火層は、消火開始温度以下に温度を管理しながらシート状に成形し乾燥することにより形成できる。
【0057】
支燃物遮断消火剤のうち、難燃性樹脂消火剤としては、例えば、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリイミド(PI)樹脂、ゴム系の樹脂(例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR))、等が挙げられる。
自己消火層が難燃性樹脂消火剤を含有する場合、自己消火層は、更に、ラジカルトラップ消火剤を含有することが好ましい。この場合、難燃性樹脂消火剤が支燃物の供給を遮断するとともに、ラジカルトラップ消火剤が燃焼の連鎖担体をトラップして燃焼を停止させることができる。
【0058】
支燃物遮断消火剤のうち、チャー形成消火剤としては、縮合リン酸エステル、シリコーンパウダー、ホウ酸亜鉛、有機ベントナイト、メラミン樹脂(MF)、膨張黒鉛、ポリカーボネート(PC)及びポリスチレンカーボネート等を挙げられる。
【0059】
吸熱・希釈消火剤としては、例えば;
水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウム等の水酸化物;
炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、酸化カリウム、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウム等のアルカリ金属化合物;
リン酸二水素アンモニウム;
尿素;
等が挙げられる。
【0060】
<接着層>
接着層(例えば、前述した接着層3)としては、例えば、イソシアネート系接着剤、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤等の接着剤によって形成される。
【0061】
・イソシアネート系接着剤
イソシアネート系接着剤は、ポリイソシアネート成分を含む接着剤である。
イソシアネート系接着剤におけるポリイソシアネート成分としては、例えば、ポリイソシアネート単量体、ポリイソシアネート誘導体、及びイソシアネート基末端プレポリマー等が挙げられる。
【0062】
ポリイソシアネート単量体としては、例えば、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、及び脂肪族ポリイソシアネート等のポリイソシアネートが挙げられる。
【0063】
芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート(例えば、2,4-又は2,6-トリレンジイソシアネートもしくはその混合物(TDI))、フェニレンジイソシアネート(例えば、m-、p-フェニレンジイソシアネートもしくはその混合物)、4,4’-ジフェニルジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート(NDI)、ジフェニルメタンジイソシネート(例えば、4,4’-、2,4’-又は2,2’-ジフェニルメタンジイソシネートもしくはその混合物(MDI))、4,4’-トルイジンジイソシアネート(TODI)、及び4,4’-ジフェニルエーテルジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートが挙げられる。
【0064】
芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、キシリレンジイソシアネート(例えば、1,3-又は1,4-キシリレンジイソシアネートもしくはその混合物(XDI))、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(例えば、1,3-又は1,4-テトラメチルキシリレンジイソシアネートもしくはその混合物(TMXDI))、及びω,ω’-ジイソシアネート-1,4-ジエチルベンゼン等の芳香脂肪族ジイソシアネートが挙げられる。
【0065】
脂環族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3-シクロペンタンジイソシアネート、1,3-シクロペンテンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート(例えば、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート)、3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(別名イソホロジイソシアネート(IPDI))、メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)(例えば、4,4’-、2,4’-又は2,2’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート、これらのTrans,Trans-体、Trans,Cis-体、Cis,Cis-体、もしくはその混合物(H12MDI))、メチルシクロヘキサンジイソシアネート(例えば、メチル-2,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチル-2,6-シクロヘキサンジイソシアネート)、ノルボルナンジイソシアネート(例えば、各種異性体もしくはその混合物(NBDI))、及びビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(例えば、1,3-又は1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンもしくはその混合物(H6XDI))等の脂環族ジイソシアネートが挙げられる。
【0066】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、1,2-プロピレンジイソシアネート、ブチレンジイソシアネート(例えば、テトラメチレンジイソシアネート、1,2-ブチレンジイソシアネート、2,3-ブチレンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネート)、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート(PDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,4,4-又は2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、及び2,6-ジイソシアネートメチルカプエート等の脂肪族ジイソシアネートが挙げられる。
【0067】
・アクリル系接着剤
アクリル系接着剤は、(メタ)アクリル系重合体を含む接着剤である。
ここで、(メタ)アクリル系重合体とは、アクリル酸に由来する構造単位、アクリル酸エステルに由来する構造単位、メタクリル酸に由来する構造単位、及びメタクリル酸エステルに由来する構造単位からなる群から選択される少なくとも1種を含む重合体を意味する。
(メタ)アクリル系重合体は、好ましくは、カルボニル基とカルボニル基に隣接する炭化水素基とを含む基を有する。
カルボニル基とカルボニル基に隣接する炭化水素基とを含む基は、接着性及び耐ブロッキング性を向上させる観点から、(メタ)アクリル系重合体の側鎖に存在することが好ましい。
【0068】
カルボニル基とカルボニル基に隣接する炭化水素基とを含む基としては、例えば、下記式(I)で表される基、下記式(II)で表される基、等が挙げられる。中でも、下記式(II)で表される基が好ましい。
【0069】
【0070】
(式(I)中、R1は、炭素数1~18のアルキル基又は水酸基を表し、R2は、炭素数1~4のアルキレン基又は炭素数1~4のアミノアルキレン基を示す)
【0071】
【0072】
(式(II)中、R1は、炭素数1~18のアルキル基又は水酸基を表し、R2は、炭素数1~4のアルキレン基又は炭素数1~4のアミノアルキレン基を示す)
【0073】
式(I)および式(II)において、R1は、炭素数1~18のアルキル基又は水酸基であるが、接着性および耐ブロッキング性を向上させる観点から、好ましくは炭素数1~12のアルキル基又は水酸基、より好ましくは炭素数1~6のアルキル基又は水酸基、さらに好ましくは炭素数1~4のアルキル基又は水酸基である。好適なアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる
【0074】
<吸振層>
吸振層としては、例えば;
ポリウレタン樹脂と粒径1.0mm以下のゴムの粉末とを含有する弾性体フィルム;
スチレン系熱可塑性樹脂(例えば、SEBS、SEEPS等)からなる弾性体フィルム;
等が挙げられる。
ポリウレタン樹脂と粒径1.0mm以下のゴムの粉末とを含有する弾性体フィルムは、例えば、イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを主成分とする主剤と、活性水素化合物、無機充填剤、触媒及びその他の助剤よりなる硬化剤と、を混合し、硬化させることによって形成される。
【0075】
イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーは、例えば、有機ポリイソシアネートと、活性水素化合物としてのポリオールと、を反応させて得られる。
イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーの原料としての有機ポリイソシアネートとしては、例えば;
2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、又はこれらの混合物(以下、TDIと略称する。)(例えば、質量比〔2,4-リレンジイソシアネート/2,6-リレンジイソシアネート〕が80/20である混合物であるTDI-80、上記質量比が65/35である混合物であるTDI-65、等);
粗トリレンジイソシアネート;
メタフェニレンジイソシアネート;
ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI);
ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(粗MDI);
ヘキサメチレンジイソシアネート;
4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート;
イソホロンジイソシアネート;
等が挙げられる。
有機ポリイソシアネートは、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0076】
イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーの原料としてのポリオールとしては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリブタジエンポリオール、ひまし油、低分子のグリコール等が挙げられる。
ポリエーテルポリオールとしては、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレントリオール等が挙げられる。
ポリオキシアルキレングリコールとしては、例えば;
エチレンオキシ基及びプロピレンオキシ基の少なくとも一方を含むポリオキシアルキレングリコール;
ポリテトラメチレンエーテルグリコール;
等が挙げられる。
低分子グリコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、2,3-ブチレングリコール等が挙げられる。
ポリオールは、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
ポリオールの重量平均分子量としては、75~10000が好ましい。
【0077】
イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーは、例えば、有機ポリイソシアネートとポリオールとを、常法に従って、窒素気流中、80~100℃で数時間加熱する方法により製造することができる。
イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを製造する際の、有機ポリイソシアネート中のイソシアネート基とポリオール中のヒドロキシ基との当量比(NCO/OH)は、好ましくは2~20である。
イソシアネート基を有するウレタンプレポリマー中に含まれるイソシアネート基は、例えば、ポリマー全量に対し、1~15質量%である。
【0078】
イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーの製造は、好ましくは、触媒の存在下で行う。
触媒としては、例えば、公知のアミン類、公知の有機金属化合物(例えば、有機錫化合物、有機鉛化合物、等)が挙げられる。
有機金属化合物としては、例えば、錫オクトエート、ジブチル錫ジラウレート、鉛オクトエート、鉛ナフテネート等が挙げられる。
触媒は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
触媒の使用量は、硬化剤の総量に対し、好ましくは0.1~5質量%である。
【0079】
<外装体>
外装体(例えば、前述の外装体10)は、好ましくは、熱接着層(例えば、前述の熱接着層11)、金属層(例えば、前述の金属層12)、及びガスバリア層(例えば、前述のガスバリア層13)を含み、熱接着層、金属層、及びガスバリア層がこの順に配置されている積層構造を有する。
外装体の積層構造は、更に、内部消火層(例えば、前述の内部消火層14)を含んでもよい。内部消火層は、好ましくは、熱接着層と金属層との間に配置される。
外装体の積層構造は、更に、靱性層(例えば、前述の靱性層15)を含んでもよい。靱性層は、好ましくは、金属層に対し、熱接着層が配置されている側とは反対側に配置される。靱性層は、好ましくは、最外層として及び/又はガスバリア層と金属層との間の層として配置され、より好ましくは最外層として配置される。
外装体は、好ましくは、上記積層構造を有するリチウムイオン電池用外装フィルム(以下、単に「外装フィルム」ともいう)を成形加工することによって製造される。
【0080】
(熱接着層)
熱接着層は、好ましくは、少なくとも1種の熱可塑性樹脂によって形成される層である。
上記積層構造を有する外装フィルムを用いて外装体を製造する場合、ヒートシールにより外装フィルム同士又は外装フィルムと電極端子とを接着して封止部を形成することにより、外装体を製造する。熱接着層は、かかるヒートシールによる封止部の形成に寄与する。
熱接着層は、好ましくは、電池素子に対して最も近い側に配置される。これにより、内部消火層及び/又は金属層と、電解液と、の接触が、より効果的に抑制され得る。
【0081】
熱可塑性樹脂としては、従来公知のポリオレフィン系樹脂が挙げられる。
ポリオレフィン系樹脂の原料としてのオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン及び3-メチル-1-ペンテン等が挙げられる。これらの中でも、形成される樹脂のシール強度及び柔軟性の観点から、ポリプロピレンが好ましい。
【0082】
上記ポリオレフィン系樹脂は、直鎖状の樹脂であっても分岐構造を有する樹脂であってもよい。
また、上記ポリオレフィン系樹脂は、1種のオレフィンを単独重合させて得られた樹脂であってもよいし、2種以上のオレフィンを共重合(例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、又はグラフト共重合)させて得られた樹脂であってもよい。
【0083】
上記熱可塑性樹脂の融点は、100~170℃であることが好ましく、100~135℃であることがより好ましく、100~120℃であることが更に好ましい。
熱可塑性樹脂の融点が100℃以上である場合には、リチウムイオン電池の充電時の発熱による熱接着部(例えば、後述の封止部)の剥れがより抑制される。
熱可塑性樹脂の融点が170℃以下である場合には、自己消火層の消火開始温度以下での熱接着をより行いやすい。
熱可塑性樹脂の融点としては、試料10mg程度をアルミパンに入れ、下記(i)~下記(iii)の過程の示差走査熱量測定(DSC)を行った場合において、2回目の昇温過程(iii)で測定されるDSC曲線の吸熱ピーク温度を採用することができる。
(i)100℃/分で200℃まで昇温して200℃で5分間保持した後、
(ii)10℃/分で-50℃まで降温し、次いで
(iii)10℃/分で200℃まで昇温する。
【0084】
熱接着層の厚さは、20~50μmであることが好ましい。
熱接着層の厚さが20μm以上である場合には、より優れた接着性が得られる。
熱接着層の厚さが50μm以下である場合には、より優れた接着維持性が得られる。
【0085】
(金属層)
金属層は、好ましくは、外部からリチウムイオン電池の内部に水蒸気が浸入することを防止する機能を有する。
金属層としては、例えば、アルミニウム箔、ステンレス箔、ニッケル箔等を使用できる。
上記機能の観点から、金属層として、好ましくはアルミニウム箔又はステンレス箔であり、より好ましくはステンレス箔である。
金属層の厚さは、15~100μmであることが好ましい。
金属層の厚さが15μm以上である場合には、耐ピンホール性により優れる。
金属層の厚さが100μm以下である場合には、曲げ加工性により優れる。
【0086】
(ガスバリア層)
ガスバリア層は、好ましくは、金属層にピンホール等の欠陥が発生することを防止する機能を有する。
ガスバリア層の材質としては、例えば、耐薬品性があり、強靱性、耐衝撃性、柔軟性を有する樹脂を使用できる。
ガスバリア層を形成する樹脂としては、例えば、ナイロン6やナイロン66等の脂肪族ポリアミドが挙げられる。
【0087】
ガスバリア層の厚さは、20~30μmとすることが好ましい。
ガスバリア層の厚さが20μm以上である場合には、ガスバリア性により優れる。
ガスバリア層の厚さが30μm以下である場合には、耐防食性により優れる。
【0088】
(内部消火層)
内部消火層(例えば、前述した内部消火層14)は、消火剤を少なくとも1種含むことが好ましい。
内部消火層に含まれ得る消火剤の好ましい態様は、自己消火層に含まれ得る消火剤の好ましい態様と同様である。
但し、内部消火層中の消火剤と、自己消火層中の消火剤と、は同一であっても異なっていてもよい。
内部消火層の厚さの好ましい範囲は前述したとおりである。
外装体の積層構造が内部消火層を含む場合、積層構造は、内部消火層を、1層のみ含んでいてもよいし、2層以上含んでいてもよい。
積層構造が内部消火層を2層以上含む場合、2層以上の自己消火層は、隣接していてもよいし(即ち、積層されていてもよいし)、隣接していなくてもよい。
【0089】
(靱性層)
靱性層は、好ましくは高靱性樹脂で形成され、外装フィルムの耐突き刺し性や耐衝撃性等を向上させ、外部応力によるリチウムイオン電池の破損をより効果的に防止する。
また、外装フィルムが靱性層を含む場合には、ヒートシールによって封止部を形成した場合に、ヒートシール後の応力に起因する封止部の剥離をより抑制できる。
上記高靱性樹脂としては、重量平均分子量が50万~600万の超高分子量の樹脂が挙げられ、より具体的には、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリエチレンナフタレート系樹脂及びポリカーボネート系樹脂等が挙げられる。
【0090】
靱性層の厚さは、要求される強度にもよるが、10~100μmであることが好ましく、30~100μmであることがより好ましい。
靱性層の厚さが10μm以上である場合には、耐破断性により優れる。
靱性層の厚さが100μm以下である場合には、曲げ加工性及び形状保持性により優れる。
【0091】
(外装フィルム及び外装体の作製)
外装体の製造に用いる外装フィルムは、接着剤を用いて各層を積層するドライラミネーション法や、溶融した接着剤を各層間に挟みこんで積層するサーマルラミネーション法等、従来公知の方法で作製できるが、ドライラミネーション法は常温で実施できるので好ましい。
外装体(例えば上記外装体10)は、例えば、外装フィルムを絞り加工して収容部(例えば上記収容部10a)を形成し、絞り加工された外装フィルムを2つ重ね、縁部同士をヒートシールして封止部(例えば上記封止部10s)を形成することによって作製される。
【0092】
<リチウムイオン電池>
リチウムイオン電池は、正極、負極、及び両極を絶縁するセパレータを含む電池素子と、電解液(質)と、を含む。
正極及び負極には、それぞれ通電性を有する正極端子及び負極端子が接続されており、これらの端子の先端は外装フィルムの外部に突出している。
ここで、「電解液(質)」とは、電解液又は電解質を意味する。
【0093】
<正極>
正極は、好ましくは、正極活物質及び正極集電体を含み、必要に応じて、更に、導電助剤、バインダー及び固体電解質等を含み得る。
正極活物質としては、特に限定されず公知のものを用いることができ、例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、スピネル型リチウム複合酸化物、チタン酸リチウム等のリチウム含有複合酸化物が挙げられる。
【0094】
<負極>
負極は、好ましくは、負極活物質及び負極集電体を含み、必要に応じて、更に、導電助剤、バインダー及び固体電解質等を含み得る。
負極活物質としては、特に限定されず公知のものを用いることができ、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン等の炭素材料、ケイ素(Si)及びケイ素合金等を挙げることができる。
【0095】
<セパレータ>
セパレータとしては、公知のセパレータを特に制限なく使用できる。
セパレータとしては、例えば;高分子不織布;多孔質高分子フィルム;ポリイミド、ガラス、及びセラミックスのうちの少なくとも1つを含む耐熱性繊維からなるシート状部材;等を用いることができる。セパレータとしては、これらの部材を複合した複合体(例えば、これらの部材を積層させた積層体)を用いることもできる。
セパレータは、多孔質ポリオレフィンフィルムを含むことが好ましい。
【0096】
<電解液(質)>
電解液(質)としては、リチウムイオン伝導性を有するものであれば特に限定されず公知のものを用いることができ、非水電解液のみならず、ゲル状電解質、ポリマー状電解質、無機固体状電解質、等も使用できる。
【0097】
非水電解液としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等のカーボネート類の混合溶媒に、LiPF6、LiBF4、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2CF2CF3)2等のLi電解質を溶解した非水電解液が挙げられる。
【0098】
無機固体電解質としては、例えば;
(Li,La)TiO3等のペロブスカイト型酸化物固体電解質、Li(Al,Ti)(PO4)3等のナシコン型酸化物固体電解質等の酸化物固体電解質;
Li2S-P2S5、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Si2S-P2S5、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5等の硫化物固体電解質;
等が挙げられる。
【実施例】
【0099】
以下、本開示の実施例を示すが、本開示は以下の実施例には限定されない。
【0100】
〔実施例1〕
<自己消火層A及び自己消火層Bの準備>
下記自己消火層A(厚さ50μm)及び下記自己消火層B(厚さ50μm)を準備した。
自己消火層A … ポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム。
自己消火層B … 燃料としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)(3質量部)、酸化剤としての塩素酸カリウム(7質量部)、消火剤としてのクエン酸三カリウム(150質量部)、及び、バインダー(スチレンブタジエンゴム(SBR))(3質量部)からなる層。
【0101】
自己消火層Bは、自己消火層A上に形成した。
詳細には、自己消火層Bは、自己消火層A上に、自己消火層B中の成分と水(溶媒)とからなるスラリーを塗布し、乾燥させることにより、形成した。
【0102】
<リチウムイオン電池の作製>
リチウムイオン電池として、下記セルX1及び下記セルX2をそれぞれ作製した。
【0103】
(セルX1)
・長さ59mm、幅38mm、厚さ7mmの電池サイズのラミネート型リチウムイオン電池。
・電池容量2035mAh。
・平均電圧3.78V。
・セルX1の構造は、外装体10に内部消火層14が設けられていないことを除けば本実施形態のリチウムイオン電池1と同様の構造である。
・電池素子50における、正極、セパレータ、及び負極は、巻回型とした。巻回数は、上記電池容量及び上記電池サイズに応じて調整した。
・電解液60としては、エチレンカーボネート(EC)(35体積%)、ジメチルカーボネート(DMC)(35体積%)及びエチルメチルカーボネート(EMC)(30体積%)の混合溶媒に、LiPF
6を1mol/L添加した非水電解液を用いた。
・外装体10を形成するための外装フィルムは、以下のようにして作製した。
厚さ40μmのアルミニウム箔(
図4でいう金属層12に相当)の両面に化成処理を施し、一方の化成処理面に、ドライラミネート法により、2液硬化型ポリウレタン系接着剤を用いて、厚さ25μmの延伸ナイロンフィルム(
図4でいうガスバリア層13に相当)を貼り合せ、このナイロンフィルム上に、さらに、厚さ50μmのポリプロピレンフィルム(重量平均分子量:500万)(
図4でいう靱性層15に相当)を同様にして貼り合せた。
次に、アルミニウム箔の他方の化成処理面に、2液硬化型ポリウレタン系接着剤を用いて、厚さ30μmのポリプロピレンフィルム(融点:110℃)(
図4でいう熱接着層11に相当)を貼り付け、外装フィルムを得た。
【0104】
(セルX2)
・長さ60mm、幅38mm、厚さ5mmの電池サイズのラミネート型リチウムイオン電池。
・電池容量1034mAh。
・平均電圧3.78V。
・セルX2の構造は、電池容量及び電池サイズに応じて巻回数を変更したこと以外はセルX1と同様とした。
【0105】
<リチウムイオン電池スタックの作製>
上記セルX1、上記2層の自己消火層(即ち、自己消火層A及び自己消火層B)、及び上記セルX2を、イソシアネート系接着剤を介して貼り合わせ、「セルX1/接着層(厚さ1μm)/自己消火層A/自己消火層B/接着層(厚さ1μm)/セルX2」で表される積層構造を有するリチウムイオン電池スタックを作製した。
【0106】
<釘刺し試験>
上記リチウムイオン電池スタックに対し、以下のようにして、釘刺し試験を実施した。
上記リチウムイオン電池スタックのセルX1に対し、直径3mmの鉄製の釘を、セルX1の厚さ方向(即ち、リチウムイオン電池スタックの厚さ方向)に突き刺すことによりセルX1における正極及び負極を短絡させ、突き刺し開始時点からの各セルの電圧及び温度の推移を観測した。
釘の突き刺し条件は、突き刺し速度3.0mm/sec及び突き刺し深度50%とした。
ここで、突き刺し深度50%とは、上記突き刺し速度にて、セルX1の厚さ全体に対して50%の深さとなるまで釘を突き刺す条件を意味する。
各セルの温度としては、各セルの裏面温度(即ち、釘が突き刺される側に対して反対側の面の温度)を測定した。
各セルの電圧は、各セルにおける正極-負極間の電圧である。
結果を
図5に示す。
【0107】
〔比較例1〕
自己消火層A及び自己消火層Bを用いず、「セルX1/接着層(厚さ1μm)/セルX2」で表される積層構造を有するリチウムイオン電池スタックを作製し、作製したリチウムイオン電池スタックに対して釘刺し試験を実施したこと以外は実施例1と同様の操作を行った。
結果を
図6に示す。
【0108】
図5は、実施例1における釘刺し試験の結果を示すグラフであり、
図6は、比較例1における釘刺し試験の結果を示すグラフである。
図5及び
図6において、横軸は、セルX1に対する釘の突き刺し開始時点を0sec(秒)とした場合の釘の突き刺し開始からの経過時間(sec(秒))を示し、2つの縦軸は、それぞれ、各セルのセル温度及びセル電圧を示す。
図6に示すように、自己消火層を設けなかった比較例1では、20sec付近から、セルX1の急激な温度上昇(即ち、熱暴走)が観測された。この比較例1では、25sec付近から、セル2の急激な温度上昇(即ち、熱暴走)も観測された。
これに対し、
図5に示すように、自己消火層(即ち、自己消火層A及び自己消火層B)を設けた実施例1では、セル1については、比較例1と同様に熱暴走が観測されたが、セル2については、熱暴走が顕著に抑制されていた。
【0109】
以上の結果から、実施例1のリチウムイオン電池スタックでは、リチウムイオン電池の初期消火を実現できるという効果が期待される。
更に、実施例1のリチウムイオン電池スタックでは、リチウムイオン電池の類焼を抑制する効果、リチウムイオン電池の発火自体を抑制する効果等も期待される。
【0110】
〔実施例101〕
<リチウムイオン電池スタックの作製>
自己消火層Bの厚さを200μmに変更したこと以外は実施例1と同様にして、「セルX1/接着層(厚さ1μm)/自己消火層A/自己消火層B/接接着層(厚さ1μm)/セルX2」で表される積層構造を有するリチウムイオン電池スタックを作製した。
【0111】
<釘刺し試験>
上記リチウムイオン電池スタックを用い、実施例1における釘刺し試験と同様の条件の釘刺し試験を実施した。
実施例101では、セルX1に対する釘の突き刺し開始時点からの経過時間が15分となるまで釘刺し試験を継続し、下記評価基準による評価を行った。
結果を表1に示す。
【0112】
-評価基準-
A: セルX2において、発火も180℃以上の温度に達する温度上昇も確認されなかった。
B: セルX2において、180℃以上の温度に達する温度上昇が確認されたが、発火は確認されなかった。
C: セルX2において、発火が確認された。
【0113】
〔比較例101〕
前述の比較例1におけるリチウムイオン電池スタックについて、実施例101と同様の評価基準による評価を実施した。
結果を表1に示す。
【0114】
〔実施例102~110〕
自己消火層Bの成分及び/又は厚さを、表1に示すように変更したこと以外は実施例101と同様の評価を行った。
結果を表1に示す。
【0115】
【0116】
-表1の説明-
・空欄は、該当する成分を含有しないことを意味する。
・PPS、CMC、及びSBRは、それぞれ、ポリフェニレンサルファイド、カルボキシメチルセルロース、及びスチレンブタジエンゴムを意味する。
【0117】
表1に示すように、自己消火層を設けた実施例101~110では、釘刺し試験において発火が確認されなかった。
これに対し、自己消火層を設けなかった比較例101では、釘刺し試験において発火が確認された。
【0118】
以上の結果から、実施例101~110のリチウムイオン電池スタックでは、リチウムイオン電池の初期消火を実現できるという効果が期待される。
更に、実施例101~110のリチウムイオン電池スタックでは、リチウムイオン電池の類焼を抑制する効果、リチウムイオン電池の発火自体を抑制する効果等も期待される。
【0119】
2019年3月29日に出願された日本国特許出願2019-066266号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。