(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】原子炉用燃料棒のためのクラッド管
(51)【国際特許分類】
G21C 3/06 20060101AFI20240104BHJP
【FI】
G21C3/06 210
(21)【出願番号】P 2021540050
(86)(22)【出願日】2019-12-18
(86)【国際出願番号】 EP2019085990
(87)【国際公開番号】W WO2020148061
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2022-11-09
(32)【優先日】2019-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504446548
【氏名又は名称】ウェスティングハウス エレクトリック スウェーデン アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】ビエルケ ラース-エリック
(72)【発明者】
【氏名】エンブリング ゴラン
(72)【発明者】
【氏名】ランパ コニー
(72)【発明者】
【氏名】アンダーソン テル
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-540882(JP,A)
【文献】Dongliang JIN et al.,“Investigation on the oxidation and corrosion behaviors of FeCrZr alloy as a protective material for Zr cladding”,Journal of Alloys and Compounds,2018年07月,Vol. 753,p.532-542,DOI: 10.1016/j.jallcom.2018.04.250
【文献】Hyun-Gil KIM et al.,“Out-of-pile performance of surface-modified Zr cladding for accident tolerant fuel in LWRs”,Journal of Nuclear Materials,2018年11月,Vol. 510,p.93-99,DOI: 10.1016/j.jnucmat.2018.07.061
【文献】W. ZHANG et al.,“Preparation, structure, and properties of an AlCrMoNbZr high-entropy alloy coating for accident-tolerant fuel cladding”,Surface and Coatings Technology,2018年08月,Vol. 347,p.13-19,DOI: 10.1016/j.surfcoat.2018.04.037
【文献】B.A. PINT et al.,“High temperature oxidation of fuel cladding candidate materials in steam-hydrogen environments”,Journal of Nuclear Materials,2013年09月,Vol. 440, No. 1-3,p.420-427,DOI: 10.1016/j.jnucmat.2013.05.047
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉用燃料棒(4)のためのクラッド管(11)であって、前記クラッド管(11)は、核燃料を収容するための内部空間(14)を画定する管状基材(20)と、前記管状基材(20)上に設けられた表面層(21)とを含み、
前記管状基材(20)は、ジルコニウム基合金から作製されており、第1の熱膨張係数を有し、
前記表面層(21)は合金からなり、
前記合金は、
Cr並びにNb及びFeのうちの少なくとも1つを含む大部分の主要元素、
少量部分のジルコニウム、並びに
残余部分の間充元素
からなり、
前記大部分の主要元素は、前記表面層の合金の少なくとも94重量%を構成し、
前記表面層(21)の前記合金が第2の熱膨張係数を有し、前記第2の熱膨張係数が20℃から少なくとも1300℃までの間で前記第1の熱膨張係数よりも
少なくとも1%大きいことを特徴とするクラッド管(11)。
【請求項2】
前記第2の熱膨張係数が、20℃から少なくとも1300℃までの間で前記第1の熱膨張係数よりも少なくとも2%大きい請求項
1に記載のクラッド管(11)。
【請求項3】
前記表面層(21)の前記少量部分のジルコニウムが、前記表面層の前記合金の0.1~5重量%を占める請求項1
または請求項
2に記載のクラッド管(11)。
【請求項4】
前記表面層(21)の前記合金中の前記ジルコニウムの濃度が前記管状基材(20)に向かって増加し、前記表面層(21)の前記合金中の主要元素の濃度が前記管状基材(20)に向かって減少する請求項
3に記載のクラッド管(11)。
【請求項5】
前記表面層(21)の前記大部分の主要元素がCr及びNbからなる請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載のクラッド管(11)。
【請求項6】
前記表面層(21)の前記大部分の主要元素がCr、Mo及びNbからなる請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載のクラッド管(11)。
【請求項7】
前記表面層(21)の前記大部分の主要元素がCr、Mo及びFeからなる請求項1から請求項
6のいずれか1項に記載のクラッド管(11)。
【請求項8】
前記表面層(21)が、最大で0.1mmの厚さを有する請求項1から請求項
7のいずれか1項に記載のクラッド管(11)。
【請求項9】
前記表面層(21)が、少なくとも0.003mmの厚さを有する請求項1から請求項
8のいずれか1項に記載のクラッド管(11)。
【請求項10】
前記表面層(21)の前記残余部分の間充元素が、As Low As Reasonably Achievable(ALARAの原則)のレベルの濃度で、前記合金中に存在する請求項1から請求項
9のいずれか1項に記載のクラッド管(11)。
【請求項11】
請求項1から請求項
10のいずれか1項に記載のクラッド管(11)と、前記クラッド管(11)に封入された核燃料とを含む燃料棒(4)。
【請求項12】
複数の請求項
11に記載の燃料棒(4)を含む燃料集合体(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉用、例えば沸騰水型原子炉(BWR)及び加圧水型原子炉(PWR)等の軽水炉を含む水冷式原子炉用の燃料棒のためのクラッド管に関する。
【0002】
特に、本発明は、原子炉用燃料棒のためのクラッド管(被覆管)であって、核燃料を収容するための内部空間を画定する管状基材と、この管状基材上に設けられた表面層とを含むクラッド管に関する。この管状基材は、ジルコニウム基合金から作製され、第1の熱膨張係数を有する。表面層は合金からなる。この合金は
Cr並びにNb及びFeのうちの少なくとも1つを含む大部分の主要元素、
少量部分のジルコニウム、並びに
場合によっては残余部分の間充元素
からなる。
【0003】
本発明は、クラッド管を含む燃料棒、及び燃料棒を含む燃料集合体にも関する。
【背景技術】
【0004】
水冷式原子炉用の燃料棒は、典型的には、長さが数メートルであってもよいクラッド管に封入された、酸化物、窒化物若しくはケイ化物のペレットの形のウラン、プルトニウム及び/又はトリウムの核燃料を含む。クラッド管の直径は約1cmであり、ジルカロイ(Zircaloy)-2、ジルカロイ-4、ZIRLO、ZrSn、M5、E110等のジルコニウム基合金から作製されていることが多い。
【0005】
ジルコニウム基合金は、典型的には、少なくとも98重量%のジルコニウム濃度を有し、良好な機械的特性及び中性子経済特性を有する。しかしながら、ジルコニウム基合金は非常に高い温度に弱く、蒸気又は空気と接触すると発熱的に酸化する可能性があり、例えば深刻な原子力事故が発生した場合には、その可能性がある。ジルコニウム基合金に水素が拡散すると、水和が生じ、クラッド管の強度が低下する可能性がある。既存の燃料棒では、通常運転時と事故時の両方において、二酸化ジルコニウムの表面層を介した水素の拡散により、有害な水素化物が形成される可能性がある。
【0006】
ジルコニウム基合金のこれらの問題を改善又は軽減するために、燃料棒のクラッド管にそのクラッド管の外側表面に設けられる表面層を備えることが提案されている。
【0007】
米国特許出願公開第2015/0050521号明細書は、多層コーティングで覆ったジルコニウムベースの基材を含む多層材料を開示しており、この多層コーティングは、クロム、クロム合金、又はNb-Cr-Ti系の三元合金から選ばれた同一又は異なる物質で構成された金属層を含む。このような材料は、原子炉の事故条件における耐酸化性が向上している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許出願公開第2015/0050521号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、核燃料棒の高温特性を改善することである。より正確には、本発明は、少なくとも1300℃までの特性を改善することを目的としており、特に、いわゆる事故耐性燃料(Accident Tolerant Fuel、ATF)を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、最初に規定したクラッド管によって達成され、このクラッド管は、上記合金が第2の熱膨張係数を有し、この第2の熱膨張係数が20℃から少なくとも1300℃まで第1の熱膨張係数よりも大きいように主要元素の濃度が選択されることを特徴とする。
【0011】
例えば事故の場合にクラッド管が高温に加熱されると、熱膨張率の差によって表面層に圧縮応力が発生し、この圧縮応力によって管状基材に対する表面層の接合性や密着性が向上し、クラッド管の応力や耐食性も改善される。
【0012】
表面層は、管状基材のジルコニウム基合金を酸素及び水蒸気との接触から保護し、従って腐食及び水和を防ぐのに効率的に寄与する。表面層は、機械的な摩耗やフレッティング(fretting)からもクラッド管を保護する可能性がある。
【0013】
このようにして、当該クラッド管は事故耐性燃料(ATF)の候補となりうる。
【0014】
大部分の主要元素は、Cr、並びにNb及びFeのうちの1つを含むか、又はCr、並びにNb及びFeのうちの1つからなる。この合金は、体心立方格子(BCC)構造を有していてもよい。BCC構造は、管状基材のジルコニウム基合金への水素の拡散を最小限に抑えることに寄与する。
【0015】
大部分の主要元素は、典型的には表面層の合金の少なくとも94重量%、好ましくは表面層の合金の少なくとも95重量%、より好ましくは表面層の合金の少なくとも96重量%、さらにより好ましくは表面層の合金の少なくとも97重量%、さらに好ましくは、表面層の合金の少なくとも98重量%、最も好ましくは表面層の合金の少なくとも99重量%を構成していてもよい。
【0016】
Crは、耐食性や耐水和性が高いため、上記合金の大部分の主要元素として有利である。Nb及びFeも、良好な保護特性を有し、それぞれ、管状基材のジルコニウム基合金の第1の熱膨張係数よりも有意に大きい7.31×10-6/℃及び11.76×10-6/℃という比較的高い熱膨張係数を有するという利点がある。
【0017】
本発明の一実施形態によれば、ジルコニウム基合金は、少なくとも98重量%のZrの濃度を有していてもよい。従って、ジルコニウム基合金は、例えば、ジルカロイ-2、ジルカロイ-4、ZIRLO、ZrSn、M5及びE110のうちの1つを含んでもよい。
【0018】
表面層におけるジルコニウムの存在により、管状基材のジルコニウム基合金への表面層の接合性及び密着性が改善されうる。
【0019】
上記少量部分のジルコニウムは、基材層への表面層の付与(設置)に関連して、表面層へのジルコニウムの添加によって、特に主要元素の粉末へのジルコニウムの粉末の添加によって得られてもよい。あるいは、少量部分のジルコニウムは、特に管状基材への表面層の付与に関連して、管状基材のジルコニウム基合金から表面層へジルコニウムが移行することを許容することによって得られてもよい。
【0020】
本発明の一実施形態によれば、第2の熱膨張係数は、20℃から少なくとも1300℃までの間で第1の熱膨張係数よりも少なくとも1%大きい。
【0021】
本発明の一実施形態によれば、第2の熱膨張係数は、20℃から少なくとも1300℃までの間で第1の熱膨張係数よりも少なくとも2%大きい。
【0022】
本発明の一実施形態によれば、表面層の合金の熱膨張率は、1300℃において第1の熱膨張率よりも最大で20%、好ましくは最大で10%大きい。
【0023】
本発明の一実施形態によれば、表面層の少量部分のジルコニウムは、表面層の合金の0.1~5重量%を占める。
【0024】
本発明の一実施形態によれば、表面層の合金中のジルコニウムの濃度は、管状基材に向かって増加し、表面層の合金中の主要元素の濃度は、管状基材に向かって減少する。このようにして、合金の主要元素及びZrの両方からなる融合部が形成されることになる。このような融合部は、管状基材への表面層の接合性及び密着性を改善する可能性がある。
【0025】
本発明の一実施形態によれば、表面層の大部分の主要元素は、Cr及びNbからなる。
【0026】
この実施形態では、Crは、合金中に48~54重量%、例えば51重量%の濃度で存在してもよく、Nbは、合金中に44~50重量%、例えば47重量%の濃度で存在してもよい。この実施形態の合金は、中性子断面積2.1バーン(2.1×10-28m2)、及び線熱膨張率6.7×10-6/℃を有していてもよい。
【0027】
本発明の一実施形態によれば、表面層の大部分の主要元素は、Cr、Mo及びNbからなる。
【0028】
この実施形態では、Crは、合金中に20~26重量%、例えば23重量%の濃度で存在してもよく、Nbは、合金中に52~58重量%、例えば55重量%の濃度で存在してもよく、Moは、合金中に16~22重量%、例えば19重量%の濃度で存在してもよい。この実施形態の合金は、1.9バーン(1.9×10-28m2)の中性子断面積、及び6.6×10-6/℃の線熱膨張率を有していてもよい。
【0029】
Moは、管状基材の特定のジルコニウム合金に合わせて、合金の熱膨張率のバランスをとるのに有利である。Moは、4.9×10-6/℃の熱膨張率を有する。
【0030】
本発明の一実施形態によれば、表面層の大部分の主要元素は、Cr、Mo及びFeからなる。
【0031】
この実施形態では、Crは、合金中に26~32重量%、例えば29重量%の濃度で存在していてもよく、Moは、合金中に45~51重量%、例えば48重量%の濃度で存在していてもよく、Feは、合金中に17~23重量%、例えば20重量%の濃度で存在していてもよい。この実施形態の合金は、2.7バーン(2.7×10-28m2)の中性子断面積、及び6.7×10-6/℃の線熱膨張率を有していてもよい。
【0032】
本発明の一実施形態によれば、表面層は、最大で0.1mmの厚さを有する。熱中性子の吸収を許容可能なレベルに保ち、燃料棒の中性子経済の表面層の影響を最小限に抑えるためには、表面層の厚さを低く、すなわち0.1mm未満に保つことが重要である。
【0033】
本発明の一実施形態によれば、表面層は、少なくとも0.003mm、少なくとも0.005mm、又は少なくとも0.01mmの厚さを有する。表面層のこの最小の厚さは、基材への確実な接合と満足できる保護特性を得るために選択されている。
【0034】
本発明の一実施形態によれば、表面層はレーザー堆積(蒸着)され、融着によって管状基材に結合される。レーザー堆積により、表面層は管状基材のジルコニウム基合金に融着接合され、原子炉の通常運転時に、周囲の冷却水への燃料棒の熱対流を改善する表面テクスチャを作成することができる。
【0035】
冷間圧延により、レーザー堆積前の管状基材のテクスチャに対応する、又は実質的に対応する管状基材のテクスチャが達成されてもよい。冷間圧延は、表面層の所望の薄い厚さを達成することにも寄与してもよい。
【0036】
本発明の一実施形態によれば、表面層の残余部分の間充元素は、ALARA(アララ)の原則(As Low As Reasonably Achievable、合理的に達成可能な限り被ばく量を減らして放射線を利用するという原則)のレベルの濃度で、合金中に存在する。間充元素の合計濃度は、0.5重量%未満、好ましくは0.4重量%未満、より好ましくは0.3重量%未満、さらに好ましくは0.2重量%未満、最も好ましくは0.1重量%未満であってもよい。
【0037】
上記目的は、上述のようなクラッド管と、このクラッド管に封入された核燃料、とりわけ核燃料ペレットの形態の核燃料とを含む燃料棒によっても達成される。
【0038】
さらには、上記目的は、複数の上述のような燃料棒を含む燃料集合体によって達成される。この燃料集合体は、軽水炉、とりわけ沸騰水型原子炉、加圧水型原子炉、又はロシア型加圧水型原子炉に挿入されるように構成されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
次に、本発明が、様々な実施形態の説明を通して、及び添付の図面を参照して、より詳しく説明される。
【0040】
【
図1】
図1は、原子炉用燃料集合体の縦断面図を模式的に開示する。
【
図2】
図2は、
図1の燃料集合体の燃料棒の縦断面図を模式的に開示する。
【
図3】
図3は、
図2の燃料棒のうち、管状基材と表面層とを含む部分の拡大縦断面図を模式的に開示する。
【
図4】
図4は、管状基材及び表面層の熱膨張係数を模式的に示す図を開示する。
【
図5A】
図5Aは、表面層の外側表面からの距離に応じた表面層の元素の濃度を模式的に示す図を開示する。
【
図5B】
図5Bは、表面層の外側表面からの距離に応じた表面層の元素の濃度を模式的に示す図を開示する。
【
図5C】
図5Cは、表面層の外側表面からの距離に応じた表面層の元素の濃度を模式的に示す図を開示する。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図1は、核分裂炉、特に沸騰水型原子炉(BWR)や加圧水型原子炉(PWR)等の軽水炉(LWR)で使用されるように構成された燃料集合体1を開示する。
【0042】
燃料集合体1は、ボトム部材2と、トップ部材3と、ボトム部材2とトップ部材3との間に延びる複数の細長い燃料棒4とを含む。燃料棒4は、複数のスペーサー5によって、その位置が維持されている。
【0043】
さらには、燃料集合体1は、例えばBWRで使用される場合には、破線6で示され、燃料棒4を取り囲む流路又は燃料ボックスを含んでいてもよい。
【0044】
図2は、
図1の燃料集合体1の燃料棒4の1つを開示する。燃料棒4は、例えば複数の焼結核燃料ペレット10の形をした核燃料と、この核燃料(この場合は核燃料ペレット10)を封入するクラッド管11とを含む。燃料棒4は、クラッド管11の下端を封止する底部プラグ12と、クラッド管11の上端を封止する上部プラグ13とを含む。核燃料ペレット10は、クラッド管11の内部空間14にパイル状に(重ねて)配置されている。クラッド管11は、内部空間14に燃料ペレット10及びガスを封入している。
【0045】
ばね15は、パイル状の核燃料ペレット10と上部プラグ13との間の内部空間14の上部プレナム16に配置されている。ばね15は、パイル状の核燃料ペレット10を底部プラグ12に押し付ける。
【0046】
図3に見られるように、クラッド管11は、管状基材20と、管状基材20上に付与(設置)された表面層21とを含む。好ましくは、表面層21は、燃料棒4の周囲に円周方向に延在する燃料棒4の外側表面層4’を形成する。
【0047】
管状基材20は、核燃料ペレット10を収容する内部空間14を画定する。管状基材20は、Zrを少なくとも98重量%含んでいてもよいジルコニウム基合金、例えば、ジルカロイ-2、ジルカロイ-4、ZIRLO、ZrSn、E110、及びM5から作製されている。
【0048】
管状基材20は、
図4に模式的に示された第1の熱膨張係数C1を有する。見てわかるように、第1の熱膨張係数C
1は完全な線形ではない。これは、α相からβ相への相変態に起因する。相変態が起こる温度範囲は、様々なジルコニウム基合金によって異なってもよい。
【0049】
表面層21は、大部分の主要元素と、少量部分のジルコニウムと、場合によっては残余部分の間充元素とからなる合金で構成されている。表面層21の合金は、第2の熱膨張係数C2を有する。
【0050】
表面層21の合金の大部分の主要元素は、Cr、並びにNb及びFeのうちの少なくとも1つを含むか、又はCr、Mo、並びにNb及びFeのうちの少なくとも1つからなる。
【0051】
表面層21の少量部分のジルコニウムは、表面層21の合金の0.1~5重量%を占めていてもよい。この濃度は、表面層21の合金中のZrの平均濃度であってもよい。好ましくは、表面層21の合金中のジルコニウムの濃度は、管状基材20に向かって増加してもよく、従って、表面層21の合金中の主要元素の濃度は、管状基材20に向かって減少してもよい。これは、
図5A~5Cに模式的に示されている。
【0052】
場合によっては表面層21の残余部分となる間充元素は、表面層21の合金中に、ALARA(アララ)の原則(As Low As Reasonably Achievable、合理的に達成可能な限り被ばく量を減らして放射線を利用するという原則)のレベルの濃度で存在する。このため、間充元素の合計濃度は、0.5重量%未満、好ましくは0.4重量%未満、より好ましくは0.3重量%未満、さらに好ましくは0.2重量%未満、最も好ましくは0.1重量%未満であってもよい。
【0053】
このように、間充元素は、上記で定義された元素及び物質、すなわちCr、Fe、Nb、Mo及びZr以外のさらなる元素及び物質の不純物及び痕跡を、少量又は非常に少量含んでいてもよい。例えば、Zr以外の元素、例えば、Sn、C、N、Si、O等が、基材20のジルコニウム基合金から表面層21に移行してもよい。
【0054】
表面層21の合金の主要元素の濃度は、20℃から少なくとも1300℃までの間で、第2の熱膨張係数C2が第1の熱膨張係数C1よりも大きいように選択される。
【0055】
好ましくは、第2の熱膨張係数C2は、20℃から少なくとも1300℃までの間で、第1の熱膨張係数C1よりも少なくとも1%大きくてもよい。
【0056】
より好ましくは、第2の熱膨張係数C2は、20℃から少なくとも1300℃までの間で第1の熱膨張係数C1よりも少なくとも2%大きい。
【0057】
図4に示されているように、第2の熱膨張係数C
2は、選択された主要元素の濃度に応じて、破線で画定された範囲内で変化してもよい。第2の熱膨張係数C
2は、線形又はほぼ線形である。
【0058】
表面層10は、最大で0.1mm、少なくとも0.003mm、少なくとも0.005mm、又は少なくとも0.01mmの厚さを有していてもよい。
【0059】
表面層21は、レーザー堆積され、融着によって管状基材20に結合されてもよい。表面層21によって含まれるべき主要元素、及び場合によってはZrは、粉末状で提供されてもよい。主要元素、及び場合によってはZrの粉末の混合物が管状基材20に塗工(付着)され、レーザーによって表面層21を形成してもよい。
【0060】
主要元素、及び場合によってはZrのこのレーザー堆積によって、上述した管状基材20に向けたジルコニウムの濃度の増加、及び管状基材20に向けた主要元素の濃度の減少が達成されてもよい。
【0061】
表面層21の融着は、主要元素の濃度が減少し、Zrの濃度が増加する融合部22によって規定される。融合部22は、
図5A~
図5Cにほぼ図示されており、
図5A~
図5Cの破線の間に位置している。
【0062】
表面層21及び融合部22におけるZrの濃度の増加は、Zrがどのように添加されたかに関係なく、すなわち、レーザー堆積される粉末の成分としての場合であっても、又はZr原子が管状基材20から外部表面4’に向かって移行した場合であっても、主として
図5A~
図5Cの線に従う。
【0063】
以下では、合金の大部分の主要元素の適切な組み合わせの3つの異なる例が提示される。これらの3つの例は、適切な主要元素の組み合わせの他の例を排除するものと解釈してはならない。
【実施例】
【0064】
例1
例1では、表面層21の大部分の主要元素は、CrとNbとからなる。Crは、合金中に51重量%の濃度で存在していてもよく、Nbは、合金中に47重量%の濃度で存在していてもよい。Zrは、合金中に2重量%の濃度で存在してもよい。
【0065】
本例の合金は、中性子断面積が2.1バーン(2.1×10-28m2)、又は実質的に2.1バーン(2.1×10-28m2)であり、線熱膨張率が6.7×10-6/℃、又は実質的に6.7×10-6/℃である。
【0066】
図5Aの図は、外側表面4’から管状基材20までの表面層21におけるCr、Nb及びZrの濃度の変化を模式的に開示する。
【0067】
例1から実質的に逸脱することなく、Crの濃度は48~54重量%の範囲にあってもよく、Nbの濃度は44~50重量%の範囲にあってもよい。
【0068】
例2
例2では、表面層の大部分の主要元素は、Cr、Mo及びNbからなる。この場合、Crは、合金中に23重量%の濃度で存在してもよく、Moは、合金中に19重量%の濃度で存在してもよく、Nbは、合金中に55重量%の濃度で存在してもよい。
【0069】
例2の合金は、中性子断面積が1.9バーン(1.9×10-28m2)、又は実質的に1.9バーン(1.9×10-28m2)であってもよく、線熱膨張率が6.6×10-6/℃、又は実質的に6.6×10-6/℃であってもよい。
【0070】
図5Bの図は、外部表面4’から管状基材20までの表面層21におけるCr、Mo、Nb及びZrの濃度の変化を模式的に開示する。
【0071】
例2から実質的に逸脱することなく、Crの濃度は20~26重量%の範囲にあってもよく、Moの濃度は16~22重量%の範囲にあってもよく、Nbの濃度は52~58重量%の範囲にあってもよい。
【0072】
例3
例3では、表面層の大部分の主要元素が、Cr、Mo及びFeからなる。この場合、Crは、合金中に29重量%の濃度で存在していてもよく、Moは、合金中に48重量%の濃度で存在していてもよく、Feは、合金中に20重量%の濃度で存在していてもよい。
【0073】
例2の合金は、中性子断面積が2.7バーン(2.7×10-28m2)、又は実質的に2.7バーン(2.7×10-28m2)であってもよく、線熱膨張率が6.7×10-6/℃、又は実質的に6.7×10-6/℃であってもよい。
【0074】
図5Cの図は、外側表面4’から管状基材20までの表面層21におけるCr、Mo、Fe及びZrの濃度の変化を模式的に開示する。
【0075】
例2から実質的に逸脱することなく、Crの濃度は26~32重量%の範囲にあってもよく、Moの濃度は45~51重量%の範囲にあってもよく、Feの濃度は17~23重量%の範囲にあってもよい。
【0076】
本発明は、開示された実施形態に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲の範囲内で変形及び変更されてもよい。