(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】マトリックスを備えたフィルムをベースとする耐弾性物品
(51)【国際特許分類】
F41H 1/02 20060101AFI20240104BHJP
B32B 7/035 20190101ALI20240104BHJP
B32B 27/32 20060101ALN20240104BHJP
【FI】
F41H1/02
B32B7/035
B32B27/32 E
(21)【出願番号】P 2021542461
(86)(22)【出願日】2020-01-24
(86)【国際出願番号】 EP2020051711
(87)【国際公開番号】W WO2020152309
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2022-11-04
(32)【優先日】2019-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501469803
【氏名又は名称】テイジン・アラミド・ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】Teijin Aramid B.V.
【住所又は居所原語表記】Tivolilaan 50, 6824 BW Arnhem, the Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ルーベン カリス
(72)【発明者】
【氏名】デニス ウィルバース
【審査官】長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-515643(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01627719(EP,A1)
【文献】国際公開第1998/043812(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0375203(US,A1)
【文献】特表2009-534232(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F41H 1/02
B32B 7/035
B32B 27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐弾性物品の製造方法であって、
a)延伸可能な超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)薄膜を、有機マトリックス材料としてのポリマーの延伸可能な連続フィルムと積層して、薄膜-フィルムスタックを形成するステップであって、有機マトリックス材料としての前記ポリマーの連続フィルムは、UHMWPEフィルムではないものとするステップと、
b)ステップa)で形成された前記薄膜-フィルムスタックを、前記延伸可能なUHMWPE薄膜の融点よりも低い温度で、伸長比が少なくとも2となるまで伸長させ、それにより、有機マトリックス材料を備えたUHMWPEフィルムであって、前記UHMWPEフィルムが有機マトリックス材料としての前記ポリマーのフィルムと共延伸されたフィルムを提供するステップと、
c)ステップb)により提供された複数のフィルムを整列させて、フィルムの層を形成するステップと、
d)ステップc)により形成されたフィルムの少なくとも2つの層を積層して、シートを形成するステップと、
e)ステップd)により形成された複数のシートを積層して、シートのスタックを形成するステップと、
f)ステップe)による積層の前および/または後に、圧力および任意に熱を加えることによって前記シートを固化させるステップと
を含む、方法。
【請求項2】
前記延伸可能なUHMWPE薄膜が、50~3000ミクロンの厚さを有し、前記延伸可能な連続有機マトリックスポリマーフィルムが、4~25ミクロンの厚さを有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記延伸可能な有機マトリックスポリマーフィルムの融点が、前記延伸可能なUHMWPE薄膜の融点よりも低く、前記ステップb)における延伸を、前記延伸可能な有機マトリックスポリマーフィルムの融点よりも高い温度で行う、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記ステップb)における伸長比が、少なくとも6、または少なくとも10、または少なくとも20、または少なくとも28、またはさらに少なくとも100、または少なくとも150である、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記ステップb)における伸長を、少なくとも2回の伸長ステップ、または少なくとも3回の伸長ステップで行う、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
ステップd)により形成されたシートに圧力および任意に熱を加えることによって、前記シートを積層前に個別に固化させるステップを含む、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
ステップe)で形成された前記シートのスタックに圧力および任意に熱を加えることによって、前記シートのスタックを積層後に全体として固化させるステップを含む、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
シートのスタックを含む耐弾性物品であって、前記シートは、有機マトリックス材料を備えた超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)フィルムの少なくとも2つの層を含み、前記UHMWPEフィルムは、その少なくとも一方の表面の少なくとも95%に
わたって有機マトリックス材料としてのポリマーの連続フィルムを備え、前記有機マトリックス材料としての前記ポリマーの連続フィルムは、UHMWPEフィルムではなく、前記UHMWPEフィルムは、10~100ミクロンの厚さを有し、前記有機マトリックスポリマーフィルムは、0.1~3ミクロンの厚さを有し、前記有機マトリックスポリマーと前記超高分子量ポリエチレンとの総重量に対する前記有機マトリックスポリマーの重量パーセンテージは、0.1~3重量%であり、前記スタック内の前記シートは、固化されており、有機マトリックス材料としての前記ポリマーの連続フィルム内のポリマー分子の、前記フィルムの第1の方向への配向は、前記ポリマーの連続フィルム内の前記ポリマー分子の、前記フィルムの第2の方向への配向と異なり、前記フィルムの第1の方向と前記フィルムの第2の方向とは、90度の角度をなしている、耐弾性物品。
【請求項9】
前記UHMWPEフィルムが、その少なくとも一方の表面の少なくとも97%、または少なくとも99%、または少なくとも99.5%にわたって前記ポリマーの連続フィルムを備えている、請求項8記載の耐弾性物品。
【請求項10】
前記有機マトリックスポリマーと前記超高分子量ポリエチレンとの総重量に対する前記有機マトリックスポリマーの重量パーセンテージが、0.15~2.5重量%、または0.2~2重量%、または0.5~1.5重量%である、請求項8または9記載の耐弾性物品。
【請求項11】
前記有機マトリックスポリマーフィルムが、
超高分子量ポリエチレンフィルムではないポリエチレンフィル
ムである、請求項8から10までのいずれか1項記載の耐弾性物品。
【請求項12】
前記超高分子量ポリエチレンフィルムが、20~80ミクロ
ンの厚さを有し、前記有機マトリックスポリマーフィルムが、0.15~2.5ミクロ
ンの厚さを有する、請求項8から11までのいずれか1項記載の耐弾性物品。
【請求項13】
前記有機マトリックス材料を備えたUHMWPEフィルムの、前記フィルムの層内での配向が一方向であり、任意に、ある1つの層の前記フィルムの配向が、隣接する層の前記フィルムの配向と角度をなし
ている、請求項8から12までのいずれか1項記載の耐弾性物品。
【請求項14】
前記シートが、個別に固化されている、請求項8から13までのいずれか1項記載の耐弾性物品。
【請求項15】
前記シートのスタックが、全体として固化されている、請求項8から14までのいずれか1項記載の耐弾性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機マトリックス材料を備えたフィルムを含む耐弾性物品およびその製造方法に関する。
【0002】
フィルムを含む耐弾性物品は、当技術分野で知られている。
【0003】
欧州特許出願公開第1627719号明細書には、主に超高分子量ポリエチレンからなる耐弾性物品が記載されており、この耐弾性物品は、一方向に配向された複数のポリエチレンシートを含んでおり、これらのシートは、互いに角度をなして交差して合わせられ、樹脂やボンディングマトリックスなどを使用せずに互いに結合している。
【0004】
国際公開第2009/109632号には、テープを含むシートと有機マトリックス材料との圧縮スタックを含む耐弾性成形品が記載されており、圧縮スタック内のテープの方向は一方向ではなく、スタックには0.2~8重量%の有機マトリックス材料が含まれている。マトリックス材料は、液状で提供されてもよいし、フィルムの形態で提供されてもよい。しかし、マトリックス材料の使用量が少ないため、フィルムの使用はさほど好ましくない。
【0005】
上述の参考文献には、十分な特性を有する耐弾性物品が記載されているが、なおも改善の余地がある。
【0006】
特にUHMWPEフィルムを使用する場合には、取扱いや使用の際にフィルムが互いに密着し得るようにするために、マトリックスの存在が非常に重要となる。しかし、マトリックスの量が多すぎると、耐弾性物品の防弾性能に悪影響を及ぼすおそれがある。したがって、マトリックスの量を最小限にすることが重要である。マトリックス材料を最小限にする1つの方法として、フィルムの表面の離散的な領域にのみマトリックス材料を不連続的に施与することが記載されている。例えば、国際公開第2009/109632号には、マトリックス材料をウェブの形態で施与することが記載されており、このウェブは不連続的なポリマーフィルム、すなわち穿孔されたポリマーフィルムであり、なぜならば、それにより低重量のマトリックス材料を提供できるためである。
【0007】
しかし、マトリックス材料を不連続的に施与すると、異なる接着特性を有するフィルム領域が生じる。さらに、フィルムの表面に不均一なマトリックス分布が存在することで、UHMWPEフィルムが、取扱い時や使用中に、マトリックス材料のない領域に、美観や性能の観点から好ましくないフィブリルを形成する傾向があるため、耐摩耗性が低くなるおそれがある。
【0008】
したがって、良好な接着特性と耐摩耗特性とを有する少量のマトリックスを備えたフィルムを含み、かつ高い防弾性能と低い目付と良好な安定性とを兼ね備えた耐弾性物品が必要とされている。本発明は、そのような物品を提供するものである。
【0009】
一実施形態では、本発明は、シートのスタックを含む耐弾性物品であって、シートは、有機マトリックス材料を備えた超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)フィルムの少なくとも2つの層を含み、有機マトリックス材料としてのポリマーの連続フィルムは、UHMWPEフィルムではなく、UHMWPEフィルムは、その少なくとも一方の表面の少なくとも95%に有機マトリックス材料としてのポリマーの連続フィルムを備え、UHMWPEフィルムは、10~100ミクロンの厚さを有し、有機マトリックスポリマーフィルムは、0.1~3ミクロンの厚さを有し、有機マトリックスポリマーと超高分子量ポリエチレンとの総重量に対する有機マトリックスポリマーの重量パーセンテージは、0.1~3重量%であり、スタック内のシートは、固化されており、有機マトリックス材料としてのポリマーの連続フィルム内のポリマー分子の、フィルムの第1の方向への配向は、ポリマーの連続フィルム内のポリマー分子の、フィルムの第2の方向への配向と異なり、フィルムの第1の方向とフィルムの第2の方向とは、90度の角度をなしている、耐弾性物品に係る。
【0010】
したがって、本発明は、シートのスタックを含む耐弾性物品、例えば硬質防弾物品または軟質防弾物品であって、シートは、有機マトリックス材料を備えた超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)フィルムの少なくとも2つの層を含み、スタック内のシートは、固化されている、耐弾性物品に係る。
【0011】
UHMWPEフィルムは、その少なくとも一方の表面の少なくとも95%に有機マトリックス材料としてのポリマーの連続フィルムが設けられている。マトリックスポリマーは、UHMWPEではない。
【0012】
さらに、UHMWPEフィルムは、10~100ミクロンの厚さを有し、有機マトリックスポリマーフィルムは、0.1~3ミクロンの厚さを有する。さらに、有機マトリックスポリマーと超高分子量ポリエチレンとの総重量に対する有機マトリックスポリマーの重量パーセンテージは、0.1~3重量%である。
【0013】
本発明の耐弾性物品では、UHMWPEフィルムの少なくとも一方の表面の大部分が、有機マトリックス材料の連続した薄層で覆われている。これにより、有機マトリックス材料を非常に少ない量だけ使用すれば済むとともに、なおもUHMWPEフィルムの良好な密着性が提供され、かつUHMWPEフィルムがフィブリル化から保護されて、例えば、その準備、取扱い、または使用時の耐弾性物品の耐摩耗性が向上する。
【0014】
有機マトリックス材料としてのポリマーの連続フィルム内のポリマー分子の、フィルムの第1の方向への配向は、ポリマーの連続フィルム内のポリマー分子の、フィルムの第2の方向への配向と異なり、フィルムの第1の方向とフィルムの第2の方向とは、90度の角度をなしている。有機マトリックス材料内のポリマーの配向は、例えば、偏光FT-IRを用いて、二色性比によって決定することができる。二色性比とは、第1の方向(例えば、フィルムの引き出し方向)に偏光した放射線で測定した吸光度と、第1の方向に直交する第2の方向に偏光した放射線で測定した吸光度との比である。この比を求める波長は、ポリマーによって異なる。ポリエチレンのマトリックス材料の場合、例えば、720nmおよび730nmを使用することができる。ポリエチレンマトリックスを使用する場合には、ポリエチレンマトリックスのみを測定し、UHMWPEフィルムを測定しないように測定を構成することが望ましい。これは、当業者に知られている技術、例えば、Ge結晶を用いてATRモードで測定することによって達成することができる。ポリマーの配向の違いは、総じてフィルムの製造方法に起因しており、第1の方向はフィルムの延伸方向であり、第2の方向は延伸方向に直交する方向である。この効果は、本発明による方法であって、マトリックスフィルムを、該フィルムとUHMWPEフィルムとを共延伸させるプロセスで得る方法により耐弾性物品を製造した場合に特に顕著である。
【0015】
さらに、本明細書に記載の耐弾性物品は、良好な防弾性能を有する。その防弾性能は、より多くの量のマトリックスを有するUHMWPEフィルムをベースとする同様の耐弾性物品よりも向上することさえある。また、本発明による物品は、より多くの量のマトリックスを有する物品に比べて、同じ防弾性能を達成するために必要とする重量が少なく、有利には、より軽量の耐弾性物品を製造することができる。
【0016】
本発明は、耐弾性物品の製造方法にも係る。特に、耐弾性物品の製造方法は、
a)延伸可能な超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)薄膜を、有機マトリックス材料としてのポリマーの延伸可能な連続フィルムと積層して、薄膜-フィルムスタックを形成するステップであって、有機マトリックス材料としてのポリマーの連続フィルムは、UHMWPEフィルムではないものとするステップと、
b)ステップa)で形成された薄膜-フィルムスタックを、延伸可能なUHMWPE薄膜の融点よりも低い温度で、伸長比が少なくとも2となるまで伸長させ、それにより、有機マトリックス材料を備えたUHMWPEフィルムであって、UHMWPEフィルムが有機マトリックス材料としてのポリマーのフィルムと共延伸されたフィルムを提供するステップと、
c)ステップb)により提供された複数のフィルムを整列させて、フィルムの層を形成するステップと、
d)ステップc)により形成されたフィルムの少なくとも2つの層を積層して、シートを形成するステップと、
e)ステップd)により形成された複数のシートを積層して、シートのスタックを形成するステップと、
f)ステップe)による積層の前および/または後に、圧力および任意に熱を加えることによってシートを固化させるステップと
を含む。
【0017】
したがって、本明細書に記載の耐弾性物品および方法では、UHMWPEフィルムは、有機マトリックス材料としてのポリマーのフィルムと共延伸される。
【0018】
薄膜-フィルムスタックを伸長させる処理ステップにより、有機マトリックスポリマーフィルムと共延伸されたUHMWPEフィルムを提供することで、有機マトリックス材料の低量および低厚さを、有機マトリックス材料によるUHMWPEフィルムの高度でかつ連続的な被覆と組み合わせて得ることが可能となる。
【0019】
欧州特許出願公開第0721021号明細書には、ポリエチレン材料に機能性を付加する方法が記載されている。具体的には、該文献には、超高分子量ポリエチレンフィルムまたはフィルム状材料を圧延した後、圧延された材料を延伸することによってポリエチレン材料を連続的に製造する方法であって、着色剤、耐候性安定剤、帯電防止剤、親水性付与剤、接着性促進剤および染色性付与剤から選択される少なくとも1つの添加剤をその中に組み込んだ熱可塑性樹脂フィルムを、圧延ステップにおいてフィルム材料に積層する方法が記載されている。この方法によれば、高強度、高弾性係数のポリエチレン材料を容易に着色し、かつこれに耐候性や他の望ましい特性を付与することができる。しかし、該文献には、このような材料を耐弾性物品に使用することについては記載も示唆もされていない。また該文献には、有機マトリックスの含有量が少なく、かつ良好な接着特性および耐摩耗特性を有する物品についても記載されていない。
【0020】
発明の詳細な説明
本明細書に記載の耐弾性物品は、シートのスタックを含み、シートは、有機マトリックス材料を備えたUHMWPEフィルムの少なくとも2つの層を含む。
【0021】
本明細書の文脈において、フィルムという用語は、物体であって、長さ、すなわち物体の最大の寸法が、幅、すなわち物体の2番目に小さい寸法、および厚さ、すなわち物体の最小の寸法よりも大きく、一方で、幅が厚さよりも大きいものを意味する。本明細書では、UHMWPEフィルムは、2つのフィルム表面、すなわちフィルムの長さおよび幅の寸法によって画定される上面および下面を有するとみなされる。
【0022】
フィルムの長さと幅との比は、総じて少なくとも10:1である。フィルムの幅に応じて、この比はより大きくなる場合があり、例えば少なくとも100:1、または少なくとも1000:1であり得る。最大の比は、本発明にとって重要ではない。一般的な値として、最大の長さと幅との比1000000:1を挙げることができる。
【0023】
幅と厚さとの比は、総じて10:1超、特に50:1超、さらに特に100:1超である。幅と厚さとの最大の比は、本発明にとって重要ではない。これは総じて、最大で10000:1である。
【0024】
本明細書に記載のフィルムの超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)は、少なくとも300000g/mol、特に少なくとも500000g/mol、さらに特に1×106g/mol~1×108g/molの重量平均分子量(Mw)を有する。
【0025】
重量平均分子量(Mw)は、ASTM D 6474-99に準拠して、溶媒として1,2,4-トリクロロベンゼン(TCB)を用いて160℃の温度で決定することができる。高温試料調製装置(例:PL-SP260)を含む適切なクロマトグラフィー装置(例えば、Polymer Laboratories社製PL-GPC220)を使用することができる。このシステムは、分子量範囲5×103~8×106g/molの16種類のポリスチレン標準物質(Mw/Mn<1.1)を用いて較正される。
【0026】
分子量分布は、メルトレオメトリーを用いて測定することもできる。測定に先立ち、熱酸化劣化を防ぐためにIRGANOX 1010などの酸化防止剤を0.5重量%添加したポリエチレン試料を、まず50℃、200バールで焼結する。焼結したポリエチレンから得られた直径8mm、厚さ1mmのディスクを、窒素雰囲気下のレオメーター内で、平衡溶融温度をはるかに超える温度まで高速(約30℃/分)で加熱する。例えば、ディスクを180℃で2時間以上保持してもよい。試料とレオメーターディスクとの間の滑りは、オシロスコープを使って確認することができる。動的な実験の際には、レオメーターからの2つの出力信号、すなわち正弦波のひずみに対応する一方の信号と、結果として生じる応力応答に対応する他方の信号とをオシロスコープで連続的にモニターする。低いひずみ値で得られる完全な正弦波の応力応答は、試料とディスクとの間に滑りがないことを示している。
【0027】
レオメトリーは、TA Instruments社製Rheometrics RMS 800などのプレート・プレート型レオメーターを使用して行うことができる。TA Instruments社が提供するOrchestrator Softwareは、Meadアルゴリズムを利用しており、ポリマー溶融物について測定された弾性係数対周波数データから分子量および分子量分布を決定するのに使用することができる。このデータは、160~220℃の等温条件下で得られる。良好なフィッティングを得るためには、0.001~100rad/sの角周波数領域、および0.5~2%の線形粘弾性領域の一定のひずみを選択することが望ましい。時間-温度換算則は、基準温度190℃で適用される。周波数0.001(rad/s)未満の弾性係数を決定するために、応力緩和実験を行うことができる。応力緩和実験では、固定温度のポリマー溶融物に1回の過渡的な変形(ステップひずみ)を加えて試料上で維持し、応力の時間依存的な減衰を記録する。
【0028】
本明細書に記載のUHMWPEフィルムは、以下に詳述するように、その製造方法に起因して、総じてポリマー溶媒を含まないことがある。さらに特に、UHMWPEフィルムは、総じて、0.05重量%未満、特に0.025重量%未満、さらに特に0.01重量%未満のポリマー溶媒含有量を有することができる。
【0029】
UHMWPEフィルムは、連続ポリマーフィルムを備えている。
【0030】
ポリマーフィルムの全般的な目的は、UHMWPEフィルムに少なくとも1つの密着面を与える有機マトリックス材料として機能することである。例えば、本明細書に記載の耐弾性物品では、UHMWPEフィルムは、少なくとも有機マトリックスポリマーフィルムにより互いに結合される。さらに、ポリマーフィルムは、UHMWPEフィルムが取扱いや使用中にフィブリル化を起こさないようにし、UHMWPEフィルムやそれを含む耐弾性物品の耐摩耗性を向上させる。なお、本明細書では、ポリマー(フィルム)を有機マトリックスポリマー(フィルム)とも呼ぶ。
【0031】
連続ポリマーフィルムは、UHMWPEフィルムの表面上に均一な有機マトリックス材料の分布があることを保証し、言い換えれば、UHMWPEフィルムは、有機マトリックス材料による被覆に隙間がない。それにより、UHMWPEフィルムの接着特性および耐摩耗特性がその表面全体で均一になる。
【0032】
有機マトリックスポリマーフィルムは、好ましくはUHMWPEフィルムの融点よりも低い融点を有する。
【0033】
有機マトリックスポリマーフィルムは、UHMWPEフィルムと同じ化学構造を有していてもよい。あるいは異なる化学構造を有するポリマーを有機マトリックス材料として使用してもよい。
【0034】
適切な有機マトリックス材料の例としては、熱可塑性エラストマーなどのポリマーが挙げられる。適切な熱可塑性エラストマーには、ポリウレタン、ポリビニル、ポリアクリレート、ブロックコポリマー、およびそれらの混合物が含まれる。一実施形態では、熱可塑性エラストマーは、スチレンとα-オレフィンコモノマーとのブロック共重合体である。適切なコモノマーとしては、エチレン、プロピレン、ブタジエンなどのC4-C12α-オレフィンが挙げられる。具体例としては、ポリスチレン-ポリブタジエン-ポリスチレン(SBS)ポリマーやポリスチレン-ポリイソプレン-ポリスチレン(SIS)が挙げられる。このようなポリマーは、例えば、KratonまたはStyroflexという商品名で市販されている。
【0035】
有機マトリックス材料としては、ポリオレフィン系フィルムが好ましい場合がある。このようなポリオレフィンとしては、ポリプロピレン;ポリエチレン、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE);エチレンα-オレフィン共重合体、例えば、エチレン-プロピレン共重合体、およびエチレン-酢酸ビニル共重合体;またはこれらの組み合わせが挙げられる。
【0036】
有機マトリックスポリマーフィルムは、ポリエチレンフィルム、好ましくはLDPEフィルムまたはHDPEフィルムであることが好ましい。このようなフィルムは、UHMWPEフィルムと同じ化学構造を有しており、有利には、有機マトリックス材料を備えたUHMWPEフィルムおよびそれから製造された耐弾性物品の再循環を容易にすることができる。さらに、ポリエチレンは良好な接着特性を有し、UHMWPEと完全に相容性を示す。
【0037】
有機マトリックスポリマーフィルム(本明細書ではマトリックスフィルムともいう)は、UHMWPEフィルムの少なくとも一方の表面の少なくとも95%に設けられている。特に、マトリックスフィルムは、UHMWPEフィルムの少なくとも一方の表面の少なくとも97%、さらに特に少なくとも99%、さらに特に少なくとも99.5%を覆っていてもよい。一実施形態では、UHMWPEフィルムの少なくとも一方の表面の100%がマトリックスフィルムで覆われていてもよい。
【0038】
上述したように、有機マトリックスポリマーのフィルムは連続している。したがって、有機マトリックスポリマーフィルムがUHMWPEフィルムの表面全体を覆っていない場合、すなわち被覆率が100%未満の場合、有機マトリックスフィルムで覆われていないUHMWPEフィルムの表面領域は、典型的にはUHMWPEフィルムの長さに沿った端部に見られる。
【0039】
総じて、連続的な有機マトリックスポリマーフィルムによるUHMWPEフィルムの被覆率は、以下に詳述するように、有機マトリックス材料を備えたUHMWPEフィルムの製造に使用される延伸可能なUHMWPE薄膜および延伸可能な有機マトリックスポリマーフィルムの幅によって決定される。したがって、有機マトリックスポリマーフィルムによるUHMWPEフィルムの表面の被覆率は、簡単な方法で決定することができる。さらに、もし存在する場合には、有機マトリックスポリマーフィルムで覆われていないUHMWPEフィルムの領域は、覆われた領域と比較したときに、外観の明確な違いによって区別され、線を画定することができる。したがって、全被覆率は、例えば、全幅に対する覆われた幅の比として容易に決定することができる。
【0040】
UHMWPEフィルムの少なくとも一方の表面が有機マトリックスポリマーフィルムで覆われていることを条件として、UHMWPEフィルムの第2の表面は、有機マトリックス材料を含まなくてもよく、また有機マトリックスポリマーフィルムで覆われていてもよい。有機マトリックスポリマーフィルムで覆われている場合、有機マトリックスポリマーフィルムは、UHMWPEフィルムの第2の表面の少なくとも95%、または少なくとも97%、99%、99.5%、またはさらには100%にわたって設けられていることが好ましい。しかし、UHMWPEフィルムの第2の表面が有機マトリックス材料を含まないことが好ましい場合もある。このようなフィルムによって、例えば、両面が有機マトリックス材料で覆われたフィルムよりも少ない量の有機マトリックス材料で耐弾性物品を提供することができる。
【0041】
本明細書に記載の耐弾性物品では、UHMWPEフィルムは、10~100ミクロン、特に20~80ミクロン、さらに特に30~70ミクロン、さらに特に40~65ミクロンの厚さを有する。有機マトリックスポリマーフィルムは、0.1~3ミクロン、特に0.15~2.5ミクロン、さらに特に0.2~2ミクロン、さらに特に0.4~1.5ミクロンの厚さを有する。
【0042】
このような薄い有機マトリックス材料の層を設けることで、UHMWPEフィルムの性能の乱れが最小限に抑えられる。特に、本明細書に記載のフィルムを含む耐弾性物品は、有機マトリックスポリマーフィルム(総じて防弾性能の低い材料である)が、UHMWPEフィルム(防弾性能の高い材料である)の大きな表面を覆っているにもかかわらず、優れた防弾性能を有する。
【0043】
本明細書に記載の耐弾性物品において、有機マトリックスポリマーと超高分子量ポリエチレンとの総重量に対する有機マトリックスポリマーの重量パーセンテージは、0.1~3重量%、特に0.15~2.5重量%であり、好ましくは0.2~2重量%、さらには0.5~1.5重量%であってもよい。本発明者らは驚くべきことに、UHMWPEフィルムに対する有機マトリックス材料の被覆率が高ければ、このような少量の有機マトリックス材料を耐弾性物品に有利に使用できることを見出した。また、驚くべきことに、そのような少量の有機マトリックス材料は、UHMWPEフィルムを有機マトリックス材料としてのポリマーフィルムと共延伸させる本明細書に記載の方法を用いて得ることができる。
【0044】
有利なことに、有機マトリックスポリマーの量が少ないため、本明細書に開示されているフィルムを含む耐弾性物品の低性能の材料の量が減り、これが有機マトリックスポリマーの薄く均一な分布と相まって、耐弾性物品の性能に寄与する。
【0045】
本明細書に記載の有機マトリックス材料を備えたUHMWPEフィルムは、少なくとも2mm、特に少なくとも10mm、さらに特に少なくとも20mmの幅を有することができる。フィルムの幅は重要ではなく、総じて最大で500mmであることができる。
【0046】
本明細書に記載の有機マトリックス材料を備えたUHMWPEフィルムの物理的特性は、有機マトリックスポリマーフィルムを備えていないUHMWPEフィルムの物理的特性と非常に似ているか、あるいは同じである。特に、そのようなUHMWPEフィルムは、総じて、高い引張強度、高い引張弾性係数、および高いエネルギー吸収性を有し、これは高い破断エネルギーに反映される。
【0047】
一実施形態では、有機マトリックス材料を備えたUHMWPEフィルムの引張強度は、少なくとも1.2GPa、より特に少なくとも1.5GPa、さらに特に少なくとも1.8GPa、さらに特に少なくとも2.0GPaである。一実施形態では、これらのフィルムの引張強度は、少なくとも2.0GPa、特に少なくとも2.5GPa、さらに特に少なくとも3.0GPa、さらに特に少なくとも4GPaである。引張強度は、ASTM D7744-11に準拠して決定することができる。
【0048】
一実施形態では、有機マトリックス材料を備えたUHMWPEフィルムは、少なくとも50GPaの引張弾性係数を有する。さらに特に、これらのフィルムは、少なくとも80GPa、さらに特に少なくとも100GPa、さらに特に少なくとも120GPa、さらに特に少なくとも140GPa、または少なくとも150GPaの引張弾性係数を有することができる。この弾性係数は、ASTM D7744-11に準拠して決定することができる。
【0049】
一実施形態では、有機マトリックス材料を備えたUHMWPEフィルムは、少なくとも20J/g、特に少なくとも25J/gの破断時の引張エネルギーを有する。別の実施形態では、テープは、少なくとも30J/g、特に少なくとも35J/g、さらに特に少なくとも40J/g、さらに特に少なくとも50J/gの破断時の引張エネルギーを有する。破断時の引張エネルギーは、ASTM D7744-11に準拠して決定することができる(応力-ひずみ曲線下で単位質量当たりのエネルギーの積分により算出)。
【0050】
本発明で用いられる有機マトリックス材料を備えたUHMWPEフィルムは、高い強度と高い線密度とを併せ持つことができる。本願では、線密度はdtexで表される。これは、10000mのフィルムの重量をgで表したものである。一実施形態では、本発明によるフィルムは、少なくとも3000dtex、特に少なくとも5000dtex、さらに特に少なくとも10000dtex、さらに特に少なくとも15000dtex、またはさらに少なくとも20000dtexのデニールと、上記で規定されているように、少なくとも2.0GPa、特に少なくとも2.5GPa、さらに特に少なくとも3.0GPa、さらに特に少なくとも3.5GPa、さらに特に少なくとも4GPaの強度とを併せ持つ。
【0051】
本明細書に記載の耐弾性物品において、シートは、有機マトリックス材料を備えた超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)フィルムの少なくとも2つの層を含む。特に、シートは、フィルムの少なくとも3つ、少なくとも4つ、または少なくとも6つでかつ最大で20個、最大で15個、または最大で10個の層を含むことができる。フィルムの2つの層を含むシートが好ましい場合もある。
【0052】
有機マトリックス材料を備えたUHMWPEフィルムの、フィルムの層内での配向は、好ましくは一方向であってもよい。例えば、フィルムが平行に整列して層を形成していてもよい。
【0053】
有機マトリックス材料を備えたUHMWPEフィルムは、層内で部分的に重なり合っていてもよいし、隣り合うフィルムの間に重なり合う領域がないように整列していてもよく、例えば、フィルムは接していてもよいし、隣り合うフィルムの間に小さな隙間があってもよい。小さな隙間とは、層の面積の5%未満が隙間に相当することと理解される。隣り合うフィルムの間に大きな隙間がなく、例えば、層の面積の0.5%未満が隙間に相当するように、フィルムが接して整列していることが好ましい場合がある。
【0054】
任意に、ある1つの層のフィルムの配向は、隣接する層のフィルムの配向に対して角度をなしていてよい。ある1つの層のフィルムの配向と隣接する層のフィルムの配向との間の角度は、45~135度、もしくは60~120度、もしくは85~95度の範囲、または約90度であってもよい。特定の実施形態では、ある1つの層のフィルムの配向は、1つおきの層のフィルムの配向に対して平行であってもよい。別の実施形態では、ある1つの層のフィルムの配向は、1つおきの層のフィルムの配向に対して角度をなしていてもよい。隣接する層の間の角度に関して上記で述べたことが、1つおきの層の間の角度にも該当する。
【0055】
互いに角度をなす一方向に配向されたフィルムの層は、同じシート内にあることも、隣り合うシート内にあることもできる。例えば、シートは、互いに角度をなす一方向に配向されたフィルムの少なくとも2つの層を含むことができる(例えば、0-90構造)。また、シートは、互いに平行な一方向に配向されたフィルムの少なくとも2つの層を含むこともできる(0-0構造)。このようなシートは、特に、一方の層のフィルムが他方の層のフィルムに対して平行であるが、それとずらして配置されているブリック構造を有していてもよい。0-0構造のシートは、同じく0-0構造の隣り合うシートに対して角度をなしていてもよい。また、シートは、一方向に配向されたフィルムの少なくとも4つの層を含んでもよい。これらの層は、2つの群に分かれて互いに平行に配置され、これら2つの群が互いに角度をなしていてもよく(例えば、0-0-90-90構造)、また層は、隣り合う層に対して角度をなしていてもよい(例えば、0-90-0-90構造)。0-90構造の2つの層を含むシートや、0-90-0-90構造の4つの層を含むシートが好ましい場合がある。
【0056】
本明細書に記載の耐弾性物品のシートのスタックは、少なくとも2枚、特に少なくとも4枚、少なくとも10枚、または少なくとも20枚でかつ最大で1000枚、好ましくは最大で500枚、または最大で250枚のシートを含むことができる。シートの枚数は、1枚のシート内のフィルム層の量と、要求される耐弾性の脅威レベルとに依存する。層およびシートの適切な数は、当業者が決定することができる。
【0057】
本明細書に記載の耐弾性物品は、スタック内で固化されたシートを有する。
【0058】
シート自体を(個別に、例えば以下に詳述するように積層する前に)固化させてもよいし、シートのスタック全体を(一緒に、すなわち以下にも詳述するように積層した後に)固化させてもよい。シート自体を固化させる場合には、スタック全体を固化させる必要はないが、固化させてもよい。このように、シートを、積層の前後に、つまり個別におよびスタックにおいて全体として固化させることができる。
【0059】
本明細書で使用する固化という用語は、シート層またはシートのスタック内のUHMWPEフィルムが、有機マトリックス材料によって互いにしっかりと結合されていることを意味する。したがって、一実施形態では、耐弾性物品は、個別に固化させたシートを含み、すなわち、シート内に存在する有機マトリックス材料を備えたUHMWPEフィルムの少なくとも2つの層が互いにしっかりと結合されている。別の実施形態では、耐弾性物品のシートのスタックは、全体として固化されており、すなわち、シート内の有機マトリックス材料を備えたUHMWPEフィルムの層と、隣接するシートの層とが互いにしっかりと結合されている。
【0060】
シートまたはシートのスタックは、当技術分野で知られているように、また以下に詳述するように、圧力および任意に熱を加えることによって固化させることができる。
【0061】
本明細書に記載のシートのスタックは、耐弾性物品としてそのまま使用してもよいし、耐弾性物品を形成するためにさらに加工してもよい。例えば、本明細書に記載の個別に固化させたシートのスタックは、例えば、軟質の防弾用途の耐弾性物品として使用することができる。本明細書に記載の全体として固化させたシートのスタックは、例えば、硬質の防弾用途の耐弾性物品として使用することができる。
【0062】
さらに、シートのスタックを周縁部で縫い合わせるかまたは保持袋に入れて、耐弾性物品に適合させてもよい。
【0063】
代替的または追加的に、シートのスタックを、例えば、UHMWPE繊維、アラミド繊維、またはアラミド共重合体繊維の不織布一方向層(UD)または織布などの他の耐弾性材料のスタックまたはシートと組み合わせてもよい。
【0064】
代替的または追加的に、シートのスタックを成形して、例えばヘルメット、単一に湾曲したパネル、二重に湾曲したパネル、または多重に湾曲したパネルなどの特定の形状を有する耐弾性物品を提供することができる。
【0065】
代替的または追加的に、シートのスタックを、例えばセラミックまたは鋼製の防弾プレートなどの他の防弾材料と組み合わせて使用することもできる。特定の実施形態では、以下に詳述するように、シートのスタックを、そのような防弾材料と一緒に成形してもよい。
【0066】
本発明はさらに、本明細書に記載の耐弾性物品の製造方法であって、
a)延伸可能な超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)薄膜を、有機マトリックス材料としてのポリマーの延伸可能な連続フィルムと積層して、薄膜-フィルムスタックを形成するステップと、
b)ステップa)で形成された薄膜-フィルムスタックを、延伸可能なUHMWPE薄膜の融点よりも低い温度で、伸長比が少なくとも2となるまで伸長させ、それにより、有機マトリックス材料を備えたUHMWPEフィルムであって、UHMWPEフィルムが有機マトリックス材料としてのポリマーのフィルムと共延伸されたフィルムを提供するステップと、
c)ステップb)により提供された複数のフィルムを整列させて、フィルムの層を形成するステップと、
d)ステップc)により形成された、フィルムの少なくとも2つの層を積層して、シートを形成するステップと、
e)ステップにより形成された複数のシートを積層して、シートのスタックを形成するステップと、
f)ステップe)による積層の前および/または後に、圧力および任意に熱を加えることによってシートを固化させるステップと
を含む方法に関する。
【0067】
本明細書に記載の方法により得られたシートのスタックは、そのまま耐弾性物品に適合することも、さらに加工して耐弾性物品を得ることもできる。
【0068】
本発明は、そのような方法によって得られる耐弾性物品に関する。
【0069】
本明細書に記載の方法において、有機マトリックス材料を備えたUHMWPEフィルムは、延伸可能なUHMWPE薄膜を有機マトリックス材料としてのポリマーの延伸可能な連続フィルムと積層し(ステップa)、そのようにして得られた薄膜-フィルムスタックを延伸ステップ(ステップb)に供することによって得られる。
【0070】
「延伸可能」という用語は、薄膜またはフィルムを伸長ステップに供することができることを意味する。伸長は、圧延もしくは延伸のいずれか、またはそれらの任意の組み合わせによって達成することができる。圧延は、単一または複数のステップで行うことができる。延伸は、単一または複数のステップで行うことができる。薄膜-フィルムスタックは、例えばフィルムの長さ方向に破断または引裂きが生じてフィルムの完全性に大きな影響を与えることなく、例えば、少なくとも2の伸長比とすることができる。伸長中に形成されたフィルム内の微小なボイドの存在は、フィルムの完全性に影響を与えないと考えられる。
【0071】
延伸可能な連続ポリマーフィルムの積層は、以下に詳述するように、好ましくは固体処理によって得られる延伸可能なUHMWPE薄膜に対して行うことができる。特に、本発明で使用することができる延伸可能なUHMWPE薄膜は、UHMWPEの固体処理によって製造することができ、この処理は、UHMWPE粉末を圧縮してプレートとし、得られた圧縮されたプレートを任意に圧延し、さらに任意に延伸させることを含み、好ましくは、ポリマーの処理中にいかなる時点でもその温度がその融点を超える値に上昇しないような条件下で行われる。UHMWPEの固体処理に適した方法は当技術分野で知られており、ここではこれ以上説明する必要はない。例えば、国際公開第2009/109632号、国際公開第2009/153318号および国際公開第2010/079172号が参照される。
【0072】
そのようなUHMWPEフィルムを製造するための出発材料は、高度にほぐされたUHMWPEであってもよい。160℃で溶融した直後のせん断弾性係数G°Nは、ポリマーの絡み合いの度合いを示す指標である。特に、出発ポリマーは、160℃で溶融した直後に測定されたせん断弾性係数G°Nが、最大で1.4MPa、特に最大で1.0MPa、さらに特に最大で0.9MPa、さらに特に最大で0.8MPa、さらに特に最大で0.7MPaであってよい。「溶融した直後」という表現は、ポリマーが溶融したらすぐに、特にポリマーが溶融してから15秒以内に弾性係数を測定することを意味する。このポリマー溶融物の場合、弾性係数は典型的には数時間で0.6MPaから2.0MPaまで上昇する。G°Nは、ゴム状のプラトー領域におけるせん断弾性係数である。これは、絡み合いの間の平均分子量(Me)に関連しており、この平均分子量(Me)は、絡み合い密度に反比例する。絡み合いが均一に分布している熱力学的に安定した溶融物では、G°Nから、式G°N=gN ρ R T/MeによりMeを算出することができる。ここで、gNは1に設定された数値係数であり、ρは密度(g/cm3)であり、Rは気体定数であり、Tは絶対温度(K)である。したがって、弾性係数が低いということは、絡み合いの間にポリマーが長く延伸していること、つまり絡み合いの度合いが低いことを意味する。この方法は、Rastogi, S., Lippits, D., Peters, G., Graf, R., Yefeng, Y. and Spiess, H.による刊行物、題名“Heterogeneity in Polymer Melts from Melting of Polymer Crystals”, Nature Materials, 4(8), 2005年8月1日, 635-641;およびLippits, D. R.による博士論文、題名“Controlling the melting kinetics of polymers; a route to a new melt state”, Eindhoven University of Technology, 2007年3月6日, ISBN 978-90-386- 0895-2に記載されている、絡み合いの形成に伴う変化の調査から採用したものである。
【0073】
このようなほぐされたポリエチレンは、ポリマーの結晶化温度よりも低い温度でシングルサイト重合触媒の存在下でエチレンを重合して、ポリマーが形成時に直ちに結晶化するような重合法によって製造することができる。本発明で使用するポリエチレンの適切な製造方法は、当技術分野で知られている。例えば、国際公開第01/21668号および米国特許出願公開第2006/0142521号明細書が参照される。
【0074】
一実施形態では、本発明で使用される有機マトリックス材料を備えたUHMWPEフィルムは、そのXRD回折パターンによって証明されるように、高い分子配向を有する。本発明の一実施形態では、UHMWPEフィルムは、少なくとも3の200/110一平面配向パラメータΦを有する。200/110一平面配向パラメータΦは、反射幾何学的に決定されたフィルム試料のX線回折(XRD)パターンにおける200のピーク面積と110のピーク面積との比として定義される。200/110一平面配向パラメータは、フィルム表面に対する200結晶面および110結晶面の配向の程度に関する情報を与える。200/110一平面配向が高いフィルム試料では、200結晶面がフィルム表面に対して高度に平行に配向している。一平面配向性が高いと、総じて弾性係数が高く、引張強度が高く、かつ破断時の引張エネルギーが高くなることが判明した。ランダムに配向した晶子を有する試料の200のピーク面積と110のピーク面積との比は、約0.4である。しかし、好ましく使用することができるUHMWPEフィルムは、優先的にフィルム表面に対して平行に配向した指数200の晶子を有することができ、その結果、200/110ピーク面積比の値が高くなり、したがって、一平面配向パラメータの値が高くなる。このパラメータは、国際公開第2009/109632号に記載のとおりに決定することができる。
【0075】
UHMWPEフィルムは、好ましくは、少なくとも4、さらに特に少なくとも5、または少なくとも7の200/110一平面配向パラメータを有する。より高い値、例えば少なくとも10、またはさらには少なくとも15の値が特に好ましい場合がある。このパラメータの理論的な最大値は、ピーク面積110がゼロに等しい場合、無限大である。
【0076】
延伸可能な連続ポリマーフィルムは、圧縮直後に得られた延伸可能なUHMWPE薄膜に、圧縮されたプレートを圧延に供した後に得られた延伸可能なUHMWPE薄膜に、または圧縮されたプレートを圧延および延伸に供した後に得られた延伸可能なUHMWPE薄膜に積層することができる。したがって、積層する前に、延伸可能なUHMWPE薄膜は、圧延および任意にさらには延伸によって部分的に伸長されていてもよい。
【0077】
圧延ステップで得られる伸長比は、少なくとも2、特に少なくとも4、少なくとも5、または少なくとも6でかつ最大で12、最大で10、または最大で8であってよい。部分延伸ステップで得られる伸長比は、少なくとも2、特に少なくとも4、少なくとも5、または少なくとも6でかつ最大で12、最大で10、または最大で8であってよい。伸長比は、圧延ステップまたは延伸ステップに入るときの延伸可能なUHMWPE薄膜の断面積を、圧延ステップまたは延伸ステップを出るときの延伸可能なUHMWPE薄膜の断面積で除したものと定義される。
【0078】
本明細書で使用される延伸可能なUHMWPE薄膜は、好ましくは50~3000ミクロン、特に75~2500ミクロン、さらに特に100~2250ミクロンの厚さを有することができる。
【0079】
本発明の一実施形態では、薄膜-フィルムスタックは、圧縮されたUHMWPEプレートを圧延ステップに供する前に得られた延伸可能なUHMWPE薄膜に延伸可能な連続ポリマーフィルムを積層することによって形成される。本実施形態では、延伸可能なUHMWPE薄膜は、好ましくは500~3000ミクロン、特に1000~2500ミクロン、さらに特に1250~2250ミクロンの厚さを有することができる。
【0080】
別の実施形態では、薄膜-フィルムスタックは、圧縮されたUHMWPEプレートを圧延ステップに供した後でかつこれを延伸ステップに供する前に得られた延伸可能なUHMWPE薄膜に、延伸可能な連続ポリマーフィルムを積層することによって形成される。本実施形態では、延伸可能なUHMWPE薄膜は、好ましくは200~1200ミクロン、特に300~1000ミクロン、さらに特に400~800ミクロンの厚さを有することができる。
【0081】
さらに別の実施形態では、薄膜-フィルムスタックは、圧延されたプレートを少なくとも1つの延伸ステップに供した後に得られた延伸可能なUHMWPE薄膜に、延伸可能な連続ポリマーフィルムを積層することによって形成される。本実施形態では、延伸可能なUHMWPE薄膜は、好ましくは50~500ミクロン、特に75~300ミクロン、さらに特に100~200ミクロンの厚さを有することができる。
【0082】
本明細書で使用される有機マトリックス材料としての延伸可能なポリマーフィルムは、好ましくは4~25ミクロン、特に5~15ミクロン、さらに特に6~10ミクロンの厚さを有することができる。
【0083】
薄膜-フィルムスタックを伸長ステップに供することで、いくつかの利点が得られる。例えば、有機マトリックス材料の量が少なくなるにもかかわらず、方法の最初に比較的厚いフィルムを使用して、有機マトリックス材料を、延伸可能なポリマーフィルムとして、延伸可能なUHMWPE薄膜に適用することができる。このような方法は、開始時の延伸可能なマトリックスフィルムが、より薄いフィルムよりも扱いやすい(例えば、UHMWPEフィルムの上への積層が容易である)という点で改善を表している。さらに、本明細書に記載の方法で得られる非常に薄いフィルムは、製造および取扱いが困難であるため、市販されていない。さらに、伸長プロセスの際に、UHMWPEフィルムに対する有機マトリックスポリマーフィルムの良好な結合が得られる。
【0084】
圧延に供されていない延伸可能なUHMWPE薄膜に延伸可能なポリマーフィルムを適用することの特に有利な点は、(薄膜-フィルムスタックに圧延と延伸との双方のステップを適用することによって)薄膜-フィルムスタックにより高い伸長比に供することができ、有機マトリックスポリマーフィルムの究極の厚さ減少を達成することができることである。
【0085】
本発明による方法に入る際の、延伸可能なUHMWPE薄膜の幅は重要ではない。例えば、少なくとも1cm、特に少なくとも5cm、さらに特に少なくとも10cmであってよい。総じて、最大幅は最大で150cmであってよい。
【0086】
連続的な有機マトリックスポリマーフィルムを使用することで、総じて、有機マトリックス材料によるUHMWPEフィルムの連続的な被覆を提供することができる。
【0087】
有機マトリックス材料によるUHMWPEフィルムの被覆率を最大化するために、延伸可能な有機マトリックスポリマーフィルムを、延伸可能なUHMWPE薄膜の上に並行して積層することができる。
【0088】
過剰な量の有機マトリックス材料の存在を避けるために、スタックに使用される延伸可能な連続的な有機マトリックスポリマーフィルムは、総じて、延伸可能なUHMWPE薄膜よりも幅広にはならない。有機マトリックスポリマーフィルムによるUHMWPEフィルムの高い被覆率を保証するために、延伸可能な有機マトリックスポリマーフィルムの幅が、延伸可能なUHMWPE薄膜の幅の少なくとも90%であることが好ましい場合がある。さらに特に、延伸可能な有機マトリックスポリマーフィルムの幅は、延伸可能なUHMWPE薄膜の幅の少なくとも95%、または少なくとも99%、またはさらには少なくとも99.5%であってよい。一実施形態では、延伸可能な有機マトリックスポリマーフィルムの幅は、延伸可能なUHMWPEの薄膜の幅と同じである。
【0089】
延伸可能な有機マトリックスポリマーフィルムは、市販されているか、または既知の方法によって提供され得る。例えば、これらのフィルムは、当技術分野で周知の方法である、フィルムブローイングまたはフィルム押出によって製造することができる。
【0090】
薄膜-フィルムスタックの伸長ステップは、延伸可能なUHMWPE薄膜の融点よりも低い温度で行われる。総じて、伸長ステップは、プロセス条件下で、延伸可能なUHMWPE薄膜の融点よりも少なくとも1℃低い温度で行われる。UHMWPEポリマーの性質に応じて、温度はより低くてもよく、例えば、プロセス条件下で、延伸可能なUHMWPE薄膜の融点よりも少なくとも3℃、またはさらには少なくとも5℃低くてもよい。したがって、伸長ステップの温度は、総じて、延伸可能なUHMWPE薄膜の融点によって支配される。
【0091】
延伸可能な有機マトリックスポリマーフィルムの融点(または、融点を有しない有機マトリックス材料、例えばSISのようなブロック共重合体の場合には軟化点)は、総じて延伸可能なUHMWPE薄膜の融点よりも低い。特に、有機マトリックスポリマーフィルムの融点または軟化点は、総じて、UHMWPEフィルムの融点よりも5~50℃、特に10~45℃、さらに特に15~30℃低いことができる。
【0092】
伸長ステップは、延伸可能な有機マトリックスポリマーフィルムの融点よりも低い温度で行ってもよいし、延伸可能なUHMWPE薄膜の融点よりも低い温度を維持することを条件に、延伸可能な有機マトリックスポリマーフィルムの融点よりも高い温度で行ってもよい。延伸時のマトリックスポリマーフィルムの引裂きを防止し、それによってUHMWPEフィルム上のマトリックスポリマーの均一な分布を保証するために、延伸ステップを延伸可能な有機マトリックスポリマーフィルムの融点よりも高い温度で行うことが好ましい場合がある。
【0093】
当業者に知られているように、ポリマーの融点は、そのポリマーに課されている制約に依存し得る。これは、プロセス条件下での溶融温度がケースごとに異なり得ることを意味する。それにもかかわらず、融点は、プロセスにおける引張応力が急激に低下する温度として容易に決定することができる。延伸可能なUHMWPE薄膜および延伸可能な有機マトリックスポリマーフィルムの制約を受けない融点は、例えば、DSC(differential scanning calorimetry、示差走査熱量測定)により当業者が決定することができる。特に、DSCは、窒素中で、+30~+180℃の温度範囲にわたって、10℃/分の昇温速度で行うことができる。ここでは、80℃~170℃の最大の吸熱ピークの最大値を融点として評価する。
【0094】
総じて、伸長ステップは、プロセス条件下で、延伸可能なUHMWPE薄膜の融点よりも最大で30℃低い温度、特に、プロセス条件下で、フィルムの融点よりも最大で20℃低い温度、さらに特に最大で15℃低い温度で行われる。
【0095】
本発明による方法で薄膜-フィルムスタックに適用される伸長比は、少なくとも2、特に少なくとも6、または少なくとも10、または少なくとも20、または少なくとも28、またはさらに少なくとも100、または少なくとも150である。
【0096】
伸長比は、伸長ステップに入るときの薄膜-フィルムスタックの断面積を、伸長ステップを出るときの有機マトリックス材料を備えたUHMWPEフィルムの断面積で除したものと定義される。
【0097】
最大伸長比とは、総じて、薄膜-フィルムスタックの完全性を損なわずに達成できる最高の伸長比であり、出発点となる延伸可能な材料の特性とプロセス条件とに依存する。総じて、薄膜-フィルムスタックの伸長は、その最大値まで、またはその最大値に可能な限り近い値まで行われる。当業者は、所与の系についてそのような最大値を容易に決定することができる。例の一態様として、延伸比は、最大で400、最大で300、または最大で200であることができる。
【0098】
総じて、伸長ステップにおける薄膜-フィルムスタックの伸長比は、出発点となる延伸可能なUHMWPE薄膜がその製造に用いられた圧延および延伸ステップで伸長されている場合には、その程度に依存し得る。
【0099】
総じて、出発点となる延伸可能なUHWMPE薄膜の(その製造時に得られた)伸長比が低いほど、薄膜-フィルムスタックの延伸時に高い伸長比を適用することができる。
【0100】
伸長比は、伸長ステップ、例えば圧延ステップおよび延伸ステップの数にも影響を受け得る。総じて、伸長ステップの数が多いほど、達成できる延伸比は高くなる。総じて、ステップb)での伸長は、少なくとも2つの伸長ステップ、または少なくとも3つの伸長ステップで行うことができる。
【0101】
伸長は、圧延および/または延伸ステップの組み合わせで行われてもよい。圧延を行う場合、薄膜-フィルムスタックの圧延を、少なくとも2つのステップ、またはさらには少なくとも3つのステップで行ってもよい。延伸を行う場合は、薄膜-フィルムスタックの延伸を、少なくとも2つのステップ、またはさらには少なくとも3つのステップで行ってもよい。
【0102】
UHMWPEフィルムを覆う有機マトリックスポリマーフィルムの量および厚さを最小限にするために、薄膜-フィルムスタックの延伸比を最大にすることが好ましい場合がある。これは、例えば、圧縮されたUHMWPEプレートを圧延した後に(部分的な延伸ステップを行わずに)得られた延伸可能なUHMWPE薄膜に、延伸可能な有機マトリックスポリマーフィルムを積層して得られた薄膜-フィルムスタックを伸長させ、その際、前述の圧延ステップの伸長比を、例えば2~6とすることによって達成され得る。例えば、そのような延伸可能なUHMWPE薄膜から出発する伸長ステップにおいて、薄膜-フィルムスタックに対して達成される伸長比は、20~50であってもよい。有機マトリックス材料を備えた最終的なUHMWPEフィルムの総伸長比は、80~300である。薄膜-フィルムスタックのより高い伸長比は、例えば、固体プロセスでUHMWPE粉末を圧縮してUHMWPEプレートとした直後に得られた、予め伸長されていない延伸可能なUHMWPE薄膜に、延伸可能な有機マトリックスポリマーフィルムを積層して得られた薄膜-フィルムスタックを伸長することによって達成することができる。例えば、そのような延伸可能なUHMWPE薄膜から出発する延伸ステップにおいて、薄膜-フィルムスタックに対して達成される伸長比は、80~300であってもよく、これは、有機マトリックス材料を備えた最終的なUHMWPEフィルムの総伸長比と一致することになる。
【0103】
延伸可能なUHMWPE薄膜に延伸可能な有機マトリックスポリマーフィルムを積層し、この薄膜-フィルムスタックを伸長に供することで、有利にもUHMWPEフィルムの防弾特性が、影響を受けずにそのままである、すなわち有機マトリックスポリマーフィルムが存在しない同じ圧延/延伸ステップで得られたフィルムの防弾特性と同等である、共延伸フィルムが得られることが判明した。さらに、本明細書に記載の方法は、UHMWPEフィルム上の有機マトリックスポリマーフィルムの分布を大きく制御することができる。
【0104】
さらに、有機マトリックス材料を備えたUHMWPEフィルムを使用することで、耐弾性物品の製造が大幅に簡略化される。特に、UHMWPEフィルムは、有機マトリックスポリマーフィルムの存在ゆえに互いに密着するため、有機マトリックス材料を独立して提供する必要はなく、また有機マトリックス材料の施与を耐弾性物品の製造方法に統合する必要もない。
【0105】
本明細書に記載の方法のステップb)により有機マトリックス材料を備えたUHMWPEフィルムは、共延伸フィルムと呼ばれることがある。
【0106】
本明細書に記載の方法は、ステップb)により提供された複数のフィルムを整列させて、フィルムの層を形成するステップ(ステップc)をさらに含む。
【0107】
共延伸フィルムは、好ましくは平行に整列されてもよく、それによって、一方向に配向された共延伸フィルムの層が形成されるか、換言すれば、それによって、フィルムの層内の有機マトリックス材料を備えたUHMWPEフィルムの配向が一方向になる。
【0108】
フィルムは、重なり合うように平行に整列されてもよい。それによって、フィルムの重なり合う領域に存在する有機マトリックス材料は、フィルムを互いに密着させるのに役立ち得る。
【0109】
代替的に、およびいくつかの実施形態では、好ましくは、フィルムは重なり合わないように平行に整列されており、例えば、フィルムは接していてもよいし、隣り合うフィルムの間に小さな隙間があってもよく、好ましくは、耐弾性物品について上述したように、隣り合うフィルムの間に大きな隙間がなく、接している。それにより、均一な厚さを有する、すなわち重なり合う領域がない層が得られる。
【0110】
本明細書に記載の方法は、ステップc)により形成されたフィルムの少なくとも2つの層を積層して、シートを形成するステップ(ステップd)をさらに含む。
【0111】
シートは、複数の共延伸フィルムを整列させてフィルムの第1の層を形成し、この第1の層の直上に複数の共延伸フィルムを整列させて第1の層の上にフィルムの第2の層を積層することでフィルムの2つの層のシートを形成することによって形成することができる。
【0112】
フィルムの追加の層を同様に積層して、耐弾性物品について上述したように、例えば、少なくとも3、4、6またはそれを上回る層のシートを形成してもよい。上記で詳述したように、ある1つの層のフィルムの、隣接する層のフィルムの配向に対する所望の配向が提供されるように積層を行うことができる。
【0113】
例えば、共延伸フィルムを共延伸フィルムの第1の層の上に整列させて、共延伸フィルムの第2の層を形成することができ、その際、第1の層のフィルムの配向は、第2の層のフィルムの配向と同じであり、すなわち、第1および第2の層のフィルムは、互いに平行であり、0-0構造である。特定の実施形態では、第2の層のフィルムは、第1の層のフィルムに対してずらされており、いわゆるブリック構造である。
【0114】
また、共延伸フィルムを共延伸フィルムの第1の層の上に整列させて、共延伸フィルムの第2の層を形成することができ、その際、第1の層のフィルムの配向は、第2の層のフィルムの配向に対して角度をなしている。配向の好ましい角度については、耐弾性物品について上述した説明が参照される。例えば、シートは、0-90構造の少なくとも2つの層を備えていてもよい。
【0115】
所望の数の層を有するシートが得られるまで共延伸フィルムの追加の層を積層して、このような構造を永続させることができる。
【0116】
本明細書に記載の方法は、ステップd)により形成された複数のシートを積層して、シートのスタックを形成するステップをさらに含む。シートは、共延伸フィルムの層の積層について上述したのと同様に積層することができ、それにより積層時にシートが形成される。あるいは、シートを個別に予備成形した後、互いに上に積層してもよい。スタック内で所望のフィルム配向を達成することができるようにシートの積層を行うことができる。例えば、0-90構造の2枚のシートを積層して、0-90-0-90のスタック構造としてもよい。あるいは、0-0構造の2枚のシートを直交するように積み重ねて、0-0-90-90のスタック構造を提供することもできる。所望の数のシートを有するスタックが得られるまで追加のシートを積層して、スタック内でこのような構造を永続させることができる。
【0117】
本明細書に記載の方法は、ステップe)による積層の前および/または後に、圧力および任意に熱を加えることによってシートを固化させるステップをさらに含む。したがって、積層前にシートを個別に固化させてもよいし、かつ/または積層後にシートのスタックを全体として固化させてもよい。
【0118】
当技術分野で知られているように、シートまたはシートのスタックは、圧力および任意に熱を加えることによって固化させることができる。例えば、シートまたはシートのスタックをプレス機に入れて圧縮に供することができる。
【0119】
シートまたはシートのスタックは、例えば、少なくとも0.1MPaの圧力を加えることによって圧縮させてもよい。最大で50MPaの最大圧力を挙げることができる。加えられる圧力は、適切な特性を有する耐弾性物品の形成を保証することを目的としている。
【0120】
圧力の使用は、シート内またはシートのスタック内のUHMWPEフィルムを、有機マトリックス材料により互いに密着させるのに十分であり得る。しかし、必要に応じて、マトリックスがフィルムおよび/またはシートを互いに密着させる助けとなるのに必要であれば、圧縮時の温度を、有機マトリックス材料がその軟化点または融点よりも高くなるように選択してもよい。
【0121】
必要な圧縮時間および圧縮温度は、UHMWPEフィルムおよび有機マトリックス材料の性質、ならびに固化させるシートまたはシートのスタックの厚さに依存することがあり、当業者が容易に決定することができる。
【0122】
固化は、有機マトリックス材料(すなわち、有機マトリックスポリマーフィルム)の軟化点または融点よりも高く、かつUHMWPEフィルムの融点よりも低い圧縮温度で行うことができる。圧縮がこのような温度で行われる場合、圧縮された材料(すなわち、シートまたはシートのスタック)の冷却も圧力下で行われることが好ましい場合があり、その際、少なくとも、シートまたはシートのスタックの構造が大気圧下でそれ以上緩和できなくなる温度に達するまで、冷却中に所与の最低圧力が維持される。この温度をケースバイケースで決定することは、当業者の範囲内である。場合によっては、有機マトリックス材料が大部分または完全に硬化または結晶化し、UHMWPEフィルムの緩和温度よりも低い温度に達するように、所定の最低圧力で冷却を行うことが好ましい。冷却時の圧力は、固化に用いた圧力と同じである必要はない。冷却時に圧力をモニタリングして適切な圧力値を維持し、プレス機内でのシートまたはシートのスタックの収縮によって生じる圧力の低下を補償することができる。
【0123】
上記のような固化は、静的なプレス機で行うことも、連続プロセスで行うこともできる。適切な連続プロセスには、ラミネーション、カレンダリング、およびダブルベルトプレスが含まれるが、これらに限定されない。
【0124】
本明細書に記載の方法は、そのまま耐弾性物品に適合することも、さらに加工して耐弾性物品を得ることもできるシートのスタックを提供する。
【0125】
例えば、シート自体が固化されているか、またはシートのスタックが全体として固化されているかに関わらず、本明細書に記載の方法におけるさらなるステップは、シートのスタックを保持袋に入れるステップ、またはシートのスタックの周縁部を縫い合わせるステップを含んでもよい。
【0126】
他のさらなるステップには、例えば、シートのスタックを、例えば、UHMWPE繊維、アラミド繊維、またはアラミド共重合体繊維の不織布一方向層(UD)または織布などの他の耐弾性材料のスタックまたはシートと組み合わせることが含まれ得る。
【0127】
代替的または追加的に、さらなるステップには、シートのスタックを成形して、例えばヘルメット、単一に湾曲したパネル、二重に湾曲したパネル、または多重に湾曲したパネルなどの特定の形状を有する耐弾性物品を提供するステップが含まれ得る。
【0128】
代替的または追加的に、さらなるステップには、シートのスタックを、例えばセラミックまたは鋼製の防弾プレートなどの他の防弾材料と組み合わせるステップが含まれ得る。特定の実施形態では、本方法は、シートのスタックが追加の防弾材料、例えば予備成形されたセラミックまたは鋼製の防弾プレートの形状に適合するように、例えば真空固化を用いて、そのような防弾材料と一緒にシートのスタックを成形するステップを含むことができる。
【0129】
本発明はまた、本明細書に記載の製造方法によって得られる耐弾性物品に関する。
【0130】
本発明を以下の実施例によりさらに説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0131】
実施例
全般的方法
UHMWPEフィルムおよびUMWPE共延伸フィルムの弾性係数は、高性能ポリエチレンテープの引張試験に関する標準試験法であるASTM D7744/D7744M-11に準拠し、テキスタイル用引張試験機に関するASTM D76標準仕様書、ならびにテキスタイルのコンディショニングおよび試験に関する標準プラクティスASTM D1776を考慮して測定することができる。
【0132】
UHMWPEフィルムおよびUHMWPE共延伸フィルムの厚さは、ミツトヨ社より販売されているデジタルマイクロメーターで測定することができる。厚さをフィルムの幅全体にわたって少なくとも3つの位置で測定し、平均をとる。
【0133】
プレス機でスタックを固化させる際に、スタックの中央に熱電対を挿入する。測定された温度を、コア温度と定める。
【0134】
実施例1
厚さ6ミクロン、融点128℃のHDPEフィルムを、UHMWPE粉末を圧縮してUHMWPEプレートとし、このUHMWPEプレートを伸長比が5となるまで圧延して得られた厚さ320ミクロンの延伸可能なUHMWPE薄膜に積層した。HDPEの溶融温度よりも高くかつUHMWPEの溶融温度よりも低い温度で延伸することで、この薄膜-フィルムスタックを伸長させた。この薄膜-フィルムスタックの伸長比は、36であった。これにより、平均厚さ約1ミクロンのHDPE層を含む、総伸長比5×36=180、総平均厚さ約43ミクロンの有機マトリックス材料を備えたUHMWPEフィルムが得られた。有機マトリックス材料によるUHMWPEフィルムの表面被覆率は、96%であった。有機マトリックスポリマーとUHMWPEとの総重量に対する有機マトリックスポリマーの重量パーセンテージは、1.5重量%であった。有機マトリックス材料を備えたUHMWPEフィルムの弾性係数は、186.3N/texであった。
【0135】
実施例2
厚さ6ミクロン、融点128℃のHDPEフィルムを、UHMWPE粉末を圧縮してUHMWPEプレートとし、このUHMWPEプレートを伸長比が5となるまで圧延し、この圧延したシートを総伸長比が20となるまで延伸させて得られた厚さ170ミクロンのUHMWPE薄膜に積層した。HDPEの溶融温度よりも高くかつUHMWPEの溶融温度よりも低い温度で延伸することで、この薄膜-フィルムスタックを伸長させた。この薄膜-フィルムスタックの伸長比は、6であった。これにより、平均厚さ約2ミクロンのHDPE層を含む、総伸長比20×6=120、総平均厚さ約58ミクロンのフィルムが得られた。有機マトリックス材料によるUHMWPEフィルムの表面被覆率は、95%であった。有機マトリックスポリマーとUHMWPEとの総重量に対する有機マトリックスポリマーの重量パーセンテージは、3重量%であった。有機マトリックス材料を備えたUHMWPEフィルムの弾性係数は、166.9N/texであった。
【0136】
実施例3
厚さ10ミクロン、融点115℃のLDPEフィルムを、UHMWPE粉末を圧縮してUHMWPEプレートとし、このUHMWPEプレートを伸長比が5となるまで圧延して得られた厚さ320ミクロンのUHMWPE薄膜に積層した。LDPEの溶融温度よりも高くかつUHMWPEの溶融温度よりも低い温度で延伸することで、この薄膜-フィルムスタックを伸長させた。この薄膜-フィルムスタックの伸長比は、36であった。これにより、平均厚さ約1ミクロンのLDPE層を含む、総伸長比5×36=180、総平均厚さ約44ミクロンのフィルムが得られた。有機マトリックス材料によるUHMWPEフィルムの表面被覆率は、95%であった。有機マトリックスポリマーとUHMWPEとの総重量に対する有機マトリックスポリマーの重量パーセンテージは、2重量%であった。有機マトリックス材料を備えたUHMWPEフィルムの弾性係数は、183N/texであった。
【0137】
実施例4
第1の0-90クロスプライ(シートA)を、Meyerラボラミネーターで製造した。実施例1に上述したとおりに得られた133mm幅のフィルムの3本のロールを巻出ステーションに配置した。これらのフィルムを、フィルムの間に最小限の隙間を設け、3枚のフィルムを重なり合わずに平行に接するように整列させてラミネーターに導いて、底部の0度のフィルム層を形成した。この0度層の上に、実施例1と同様にして得られた同じ幅で長さ40cmの3枚のフィルムを、ラミネーターの入口直前で0度層に直交するように配置して、90度のフィルム層を形成した。90度層のフィルムは、重なり合いが最小限になるように手作業で配置した。積層後に、固化された0-90クロスプライが得られ、これを巻取ステーションで巻き取った。
【0138】
第2のステップでは、第2の0-90クロスプライ(シートB)を、シートAについて上述したのと同じラミネーターで製造したが、ただし、幅133mmの3枚のフィルムに代えて4枚のフィルムをラミネーターに供給し、そのうち2枚は幅が66.5mmであり、2枚は幅が133mmであった。
【0139】
第3のステップでは、クロスプライシートAおよびクロスプライシートBを巻き出し、同時にラミネーターに導いて、0-90-0-90のシートクロスプライを形成して固化させた。固化されたシートクロスプライを、巻取ステーションで巻き取った。
【0140】
比較例1
比較例では、実施例1と同様の条件で製造され、同様の機械的特性を有するUHMWPEを使用したが、ただし、フィルム表面にHDPEまたはLDPEを積層しなかったため、マトリックスをUHMWPEフィルムと共延伸させなかった。このUHMWPEフィルムは、厚さ45ミクロン、幅133mm、総伸長比180、および弾性係数184N/texであった。これらのフィルムも、実施例4のシートCについて上述したのと同様にして0-90-0-90のクロスプライシートを製造するのに用いたが、ただし、厚さ6ミクロン、融点128℃のHDPEフィルムを各フィルム層の間に配置して、隣接するすべての層の間の接着を保証した。有機マトリックスポリマーとUHMWPEとの総重量に対する有機マトリックスポリマーの重量パーセンテージは、15重量%であった。
【0141】
実施例5
実施例4と同じラミネーターのセットアップを使用して、0-0 UDシートのロールを製造した。幅133mmの実施例1に記載の3枚のフィルムを巻き出して、第1の0度のフィルム層を形成した。このフィルム層の上に、4枚のフィルムをラミネーターに供給したが、そのうちの層の側方にある2枚のフィルムの幅は、133mmではなく66.5mmであり、第1の0度のフィルム層と平行ではあるがずらされた第2の0度のフィルム層を形成し、ブリック状の構造を有する固化シート(0-0 UD)を形成した。この0-0 UDシートを巻取ステーションで巻き取った。この0-0 UDシートの一部を切断して、長さ40cmのシートとした。
【0142】
第2の積層ステップでは、この0-0 UDロールを巻き出してラミネーターに供給した。切断した長さ40cmのシートを、ラミネーターに入る直前に0-0 UDロールの上に直交するように置いて、0-0-90-90のブリッククロスプライシートを形成し、固化させた。この固化された0-0-90-90ブリッククロスプライシートを、巻取ステーションで巻き取った。
【0143】
比較例2
比較例では、実施例1と同様の条件で製造され、同様の機械的特性を有するUHMWPEを使用したが、ただし、フィルム表面にHDPEまたはLDPEが存在していなかったため、マトリックスをUHMWPEフィルムと共延伸させなかった。このUHMWPEフィルムは、厚さ45ミクロン、幅133mm、総伸長比180、および弾性係数184N/texであった。これらのフィルムを用いて、実施例5に記載したとおりに0-0-90-90のブリッククロスプライシートを製造し、その際、厚さ6ミクロン、融点128℃のHDPEフィルムを各フィルム層の間に配置して、隣接するすべての層の間の接着を保証した。有機マトリックスポリマーとUHMWPEとの総重量に対する有機マトリックスポリマーの重量パーセンテージは、15重量%であった。
【0144】
試験結果 - 個別に固化させたシートのスタック
実施例4、比較例1、実施例5および比較例2で上述したクロスプライを切断して、40×40cmのシートとした。目付が3.1kg/m2となるように何枚かのシートを積み重ねた。これらのスタックを、角で縫い合わせた。各試料のうち、5つのスタックを準備した。各スタックを9mmのレミントン(Remington)で8回撃ち、全40回の射撃からロジスティックカーブフィッティングによりv50を求めた。その結果を表1に示す。
【0145】
【0146】
UHMWPEフィルムをマトリックス材料と共延伸させた本発明による試料(実施例4および5)は、同じシート構造を有するが、マトリックス材料がUHMWPEフィルムとの共延伸ではなくUHMWPEフィルムのシートの間に追加された比較例(1および2)よりも改善された性能を示す。
【0147】
試験結果 - 全体として固化させたスタック
実施例4および比較例1で上述したクロスプライを切断して、40×40cmのシートとした。必要な目付に達するまでシートを積層した(表2に示すとおり)。スタックを、55バール、コア温度135℃でプレスした。平坦なプレートをNATO標準化協定Stanag 2920に準拠して1.1gの破片模擬弾で評価し、v50を求めた。結果を表2に示す。
【0148】
【0149】
本発明による試料(実施例4)は、明らかに最も高いv50で最高の防弾性能を示している。