(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】半割スラスト軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 17/04 20060101AFI20240104BHJP
F16C 33/06 20060101ALI20240104BHJP
【FI】
F16C17/04 Z
F16C33/06
(21)【出願番号】P 2022021839
(22)【出願日】2022-02-16
【審査請求日】2022-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐野 誠治
【審査官】中野 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-207167(JP,A)
【文献】特開2017-172607(JP,A)
【文献】特開2017-180589(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 17/04
F16C 33/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランク軸の軸線方向力を受けるための半円環形状の半割スラスト軸受であって、前記半割スラスト軸受は、前記軸線方向力を受ける摺動面と、その反対側の背面とを有し、且つ軸線方向、周方向および径方向を規定しており、また前記摺動面は、
それぞれが前記摺動面の径方向内側端部から径方向外側端部まで径方向に延びる少なくとも2つの油溝と、
各油溝の周方向両側に位置する複数のパッド面であって、前記背面から前記パッド面までの軸線方向厚さが一定である、複数のパッド面と、
少なくとも2つの第1傾斜面であって、各第1傾斜面が、前記油溝に関して前記クランク軸の回転方向前方側に位置するように前記油溝と前記パッド面の間に形成され、前記背面から前記第1傾斜面までの軸線方向厚さが、パッド面側から油溝側へ向かって周方向に漸次薄くなっている、少なくとも2つの第1傾斜面と
を有する、半割スラスト軸受において、
前記第1傾斜面には、周方向に延びる複数の周方向溝が径方向に連なって形成されており、また
前記パッド面には、周方向および径方向と交差するように並んで延びる複数の排油溝が形成され、前記複数の排油溝の間には、前記背面と平行な複数の平坦部が形成され、各排油溝は、前記パッド面の径方向外側端部および径方向内側端部のうちの少なくとも一方で開口していることを特徴とする、半割スラスト軸受。
【請求項2】
前記第1傾斜面に形成された前記周方向溝の溝深さ(D2)が1~10μmであり、また前記第1傾斜面に形成された前記周方向溝の溝幅(W2)が0.05~0.3mmである、請求項1に記載の半割スラスト軸受。
【請求項3】
前記摺動面は、少なくとも2つの第2傾斜面であって、各第2傾斜面が、前記油溝に関して前記クランク軸の回転方向後方側に位置するように前記油溝と前記パッド面の間に形成され、前記背面から前記第2傾斜面までの軸線方向厚さが、パッド面側から油溝側へ向かって周方向に漸次薄くなっている、少なくとも2つの第2傾斜面をさらに有し、前記第2傾斜面には、周方向に延びる複数の周方向溝が径方向に連なって形成されている、請求項1または2に記載の半割スラスト軸受。
【請求項4】
前記第2傾斜面に形成された前記周方向溝の溝深さ(D2)が1~10μmであり、また前記第2傾斜面に形成された前記周方向溝の溝幅(W2)が0.05~0.3mmである、請求項3に記載の半割スラスト軸受。
【請求項5】
前記排油溝の溝深さ(D3)が2~20μmであり、また前記排油溝の溝幅(W3)が0.1~0.5mmである、請求項1から4までのいずれか一項に記載の半割スラスト軸受。
【請求項6】
前記複数の排油溝が、0.2~1mmのピッチ(P1)で並んでいる、請求項5に記載の半割スラスト軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のクランク軸の軸線方向力を受ける摺動面を有する半円環形状の半割スラスト軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のクランク軸は、そのジャーナル部において、一対の半割軸受を円筒形状に組み合わせて構成される主軸受を介して、内燃機関のシリンダブロック下部に回転自在に支持される。一対の半割軸受のうちの一方または両方が、クランク軸の軸線方向力を受ける半割スラスト軸受と組み合わせて用いられる。判割スラスト軸受は、半割軸受の軸線方向に向いた両端面のうちの一方または両方に配設される。
【0003】
半割スラスト軸受は、クランク軸の軸方向に生じる軸線方向力を受ける。すなわち、クラッチによってクランク軸と変速機とが接続される際等に、クランク軸に対して入力される軸線方向力を支承することを目的として配置される。
【0004】
上述の通り、内燃機関のクランク軸は、そのジャーナル部において、一対の半割軸受からなる主軸受を介して内燃機関のシリンダブロック下部に支承される。潤滑油は、シリンダブロック壁内のオイルギャラリーから主軸受の壁内の貫通口を通じて、主軸受の内周面に沿って形成された潤滑油溝内に送り込まれる。このようにして、潤滑油は、主軸受の潤滑油溝内に供給され、その後半割スラスト軸受に供給される。
【0005】
ところで、近年、内燃機関の軽量化のためにクランク軸の軸径が小径化され、従来のクランク軸よりも剛性が小さくなってきている。このため、内燃機関の運転時にクランク軸に撓みが発生し易く、クランク軸の振動が大きくなる傾向にある。したがって、半割スラスト軸受の摺動面とクランク軸のスラストカラー面とが直接に接触し、焼付などの損傷が起き易くなっている。この対策として、半割スラスト軸受の摺動面に複数のパッド部を設け、且つパッド部とパッド部の間に油溝と傾斜面とを設けることにより、内燃機関の運転時に傾斜面とスラストカラー面との間の隙間に高圧の油膜を形成して、半割スラスト軸受の摺動面とクランク軸のスラストカラー面とが直接に接触し難くする技術も提案されている(例えば特許文献1参照)。
また、半割スラスト軸受の摺動面に周方向に延びる細溝を径方向に連なるように形成することにより、摺動面全体に油を供給して摺動面の焼付を防ぐ技術も提案されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-172607号公報
【文献】特開2001-323928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1や特許文献2の技術を採用しても、上述のクランク軸の振動時間(振動継続時間)が長いと、半割スラスト軸受の摺動面とクランク軸のスラストカラー面との間の隙間を流れる油が高温になり、この熱が伝熱して摺動面(パッド部)が高温になるので、半割スラスト軸受の焼付の発生を防止することが困難であった。
【0008】
したがって本発明の目的は、内燃機関の運転時の焼付の発生を抑制することのできる内燃機関のクランク軸用の半割スラスト軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、内燃機関のクランク軸の軸線方向力を受けるための半円環形状の半割スラスト軸受であって、半割スラスト軸受は、軸線方向力を受ける摺動面と、その反対側の背面とを有し、且つ軸線方向、周方向および径方向を規定しており、また摺動面は、
それぞれが摺動面の径方向内側端部から径方向外側端部まで径方向に延びる少なくとも2つの油溝と、
各油溝の周方向両側に位置する複数のパッド面であって、背面からパッド面までの軸線方向厚さが一定である、複数のパッド面と、
少なくとも2つの第1傾斜面であって、各第1傾斜面が、油溝に関してクランク軸の回転方向前方側に位置するように油溝とパッド面の間に形成され、背面から第1傾斜面までの軸線方向厚さが、パッド面側から油溝側へ向かって周方向に漸次薄くなっている、少なくとも2つの第1傾斜面と
を有する、半割スラスト軸受において、
第1傾斜面には、周方向に延びる複数の周方向溝が径方向に連なって形成されており、また
パッド面には、周方向および径方向と交差するように並んで延びる複数の排油溝が形成され、複数の排油溝の間には、背面と平行な複数の平坦部が形成され、各排油溝は、パッド面の径方向外側端部および径方向内側端部のうちの少なくとも一方で開口している、半割スラスト軸受が提供される。
【0010】
本発明によれば、第1傾斜面に形成された周方向溝の溝深さ(D2)が1~10μmであり、また第1傾斜面に形成された周方向溝の溝幅(W2)が0.05~0.3mmであってもよい。
【0011】
また本発明によれば、摺動面は、少なくとも2つの第2傾斜面であって、各第2傾斜面が、油溝に関して前記クランク軸の回転方向後方側に位置するように油溝とパッド面の間に形成され、背面から第2傾斜面までの軸線方向厚さが、パッド面側から油溝側へ向かって周方向に漸次薄くなっている、少なくとも2つの第2傾斜面をさらに有していてもよく、第2傾斜面には、周方向に延びる複数の周方向溝が径方向に連なって形成されていてもよい。
【0012】
本発明によれば、第2傾斜面に形成された周方向溝の溝深さ(D2)が1~10μmであり、また第2傾斜面に形成された周方向溝の溝幅(W2)が0.05~0.3mmであってもよい。
【0013】
本発明によれば、排油溝の溝深さ(D3)が2~20μmであり、また排油溝の溝幅(W3)が0.1~0.5mmであってもよい。また複数の排油溝は、0.2~1mmのピッチ(P1)で並んでいてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】本発明の一実施形態による半割スラスト軸受の正面図である。
【
図3】
図2の半割スラスト軸受の線A-Aに沿った断面図である。
【
図4】
図2の半割スラスト軸受の線B-Bに沿った断面図である。
【
図5】
図2の半割スラスト軸受の破線円A1内のパッド面を示す拡大図である。
【
図6】
図5のパッド面の線C-Cに沿った断面図である。
【
図7】半割軸受およびスラスト軸受を含む軸受装置の正面図である。
【
図10A】従来技術の作用を説明するための図である。
【
図10B】従来技術の作用を説明するための図である。
【
図11】本発明の他の実施形態による半割スラスト軸受の正面図である。
【
図12】
図11半割スラスト軸受の線D-Dに沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態およびその利点を、添付の概略図面を参照して詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態は例示に過ぎず、本発明を限定するものではない。
【0016】
(軸受装置の全体構成)
まず、
図1、
図7および
図8を用いて本発明の半割スラスト軸受8を備える軸受装置1の全体構成を説明する。
図1、
図7および
図8に示すように、シリンダブロック2の下部に軸受キャップ3を取り付けて構成された軸受ハウジング4には、両側面間を貫通する円形孔である軸受孔(保持孔)5が形成されており、側面における軸受孔5の周縁には円環状凹部である受座6、6が形成されている。軸受孔5には、クランク軸のジャーナル部11を回転自在に支承する半割軸受7、7が円筒状に組み合わされて嵌合される。受座6、6には、クランク軸のスラストカラー12を介して軸線方向力f(
図8参照)を受ける半割スラスト軸受8、8が円環状に組み合わされて嵌合される。
【0017】
図7に示すように、主軸受を構成する半割軸受7のうち、シリンダブロック2側(上側)の半割軸受7の内周面には潤滑油溝71が形成され、また潤滑油溝71から外周面に貫通する貫通孔72が形成されている。なお、潤滑油溝71は、上下両方の半割軸受に形成することもできる。また、半割軸受7には、半割軸受7同士の当接面に隣接して、周方向両端にクラッシュリリーフ73が形成されている。
【0018】
軸受装置1では、オイルポンプ(図示せず)から加圧されて吐出された油が、シリンダブロック2の内部油路から半割軸受7の壁を貫通する貫通孔72を通り、半割軸受7の内周面の潤滑油溝71に供給される。潤滑油溝71内に供給された油は、一部は半割軸受7の内周面に供給され、一部はジャーナル部11の表面の図示しないクランク軸の内部油路の開口に侵入してクランクピン側へ送られ、一部は主軸受を構成する一対の半割軸受7、7のクラッシュリリーフ73の表面とクランク軸のジャーナル部11の表面との間の隙間を通じて、半割軸受7、7の幅方向両端から外部へ流出する。半割軸受7の幅方向両端から外部へ流出した油は、主にクランク軸のスラストカラー12の表面、ハウジングの受座6、半割スラスト軸受8の内径面、およびクランク軸のジャーナル部11の表面によって囲まれる隙間に流入し、その後、半割スラスト軸受8の摺動面81の油溝81aに流入する。油溝81aに流入した油は、回転するスラストカラー12の表面に付随して、半割スラスト軸受8の摺動面81の第1傾斜面85F、パッド面84へ順に流れる。
【0019】
一般にスラスト軸受は、その摺動面81とクランク軸のスラストカラー12の表面との間の油に圧力が発生することで、クランク軸からの軸線方向力fを支承する。
【0020】
内燃機関の運転時、クランク軸の撓みによる振動が大きくなると、クランク軸のスラストカラー12の表面は、半割スラスト軸受の摺動面81に対して傾斜角度を変化させながら、またはうねりながら、近接する動作と離間する動作を繰り返す。
ここで、
図10Aおよび
図10Bを用いて、摺動面に複数の傾斜面とパッド面とを有する従来技術の半割スラスト軸受18の構成およびその作用を説明する。
図10Aは、半割スラスト軸受18の摺動面側を見た正面図であり、
図10Bは、
図10AのY2矢視図であり、X矢印はスラストカラー12の回転方向、白矢印は、油の流れを示す。
従来技術の半割スラスト軸受18の摺動面は、複数のパッド面184と複数の傾斜面185と複数の油溝81aとを有する。各パッド面184は、パッド面184と半割スラスト軸受18の背面との間の軸線方向厚さが一定であるように形成され、また各油溝81aは、半割スラスト軸受18の中心から放射状に延びるように、パッド面184とパッド面184との間に形成される。複数の傾斜面185は、パッド面184の、クランク軸の回転方向Xの後方側の周方向端部から油溝81aへ向かって軸線方向厚さが薄くなるように形成された第1傾斜面185Fと、パッド面184の、クランク軸の回転方向Xの前方側の周方向端部から油溝81aへ向かって軸線方向厚さが薄くなるように形成された第2傾斜面185Rとを含む。パッド面184、第1傾斜面185Fおよび第2傾斜面185Rはそれぞれ、平坦になされている。第1傾斜面185Fとスラストカラー12の表面との間には、スラストカラー12の回転方向Xの前方側に向かって次第に隙間が狭くなるくさび状隙間が形成される(
図10B参照)。
従来技術の半割スラスト軸受18では、内燃機関の運転時にクランク軸の撓みによる振動が大きくなって、クランク軸のスラストカラー12の表面が摺動面に近接した時、油溝81a、第1傾斜面185Fおよび第2傾斜面185Rと、スラストカラー12の表面との間の油は、回転するスラストカラー12の表面に付随して第1傾斜面185Fとスラストカラー12の表面との間のくさび状隙間の回転方向Xの前方側の周方向端部側へ向かって流れる。この油は、くさび状隙間を流れる際、流体力学的な作用を受けて圧力が高くなり、くさび隙間の周方向端部付近(
図10Aの破線楕円A2および
図10Bの破線円A2の付近)で最大圧となる高圧な油膜が形成されるため、摺動面とクランク軸のスラストカラー12の表面との接触が起き難い。
【0021】
しかし、内燃機関の運転時にクランク軸の振動が大きい時間が長くなると、従来技術の半割スラスト軸受18では、半割スラスト軸受18の摺動面とクランク軸のスラストカラー12の表面との間の隙間を流れる油がより高温になる。この熱が伝わって摺動面(パッド面184)が高温になり、また油の粘性が低下してくさび隙間に形成される油膜の圧力が不十分になるため、半割スラスト軸受18の摺動面(パッド面184)とクランク軸のスラストカラー12の表面が直接接触し易く、半割スラスト軸受18に焼付が発生し易くなる。
【0022】
この理由について、以下に詳細に説明する。
油が第1傾斜面185Fとのスラストカラー12の表面との間のくさび状隙間を流れる際、流体力学的な作用を受け圧力が高くなるのと同時に温度が上昇する。温度が上昇した油は、回転するスラストカラー12の表面に付随してパッド面184とスラストカラー12の表面との間の隙間を周方向に流れた後、スラストカラー12の回転方向の後方側に位置する第2傾斜面185R、油溝81a、そして第1傾斜面185Fとスラストカラー12の表面との間の隙間に流れる。ここで第1傾斜面185Fとのスラストカラー12の表面との間のくさび状隙間を流れる際に再度、流体力学的な作用を受け温度が上昇する。油は、繰り返し流体力学的作用を受けて温度上昇を繰り返すことにより、より高温となる。油の熱はパッド面の軸受材料に伝わってパッド面も高温となり、また、油の粘性が低くなることで、第1傾斜面185Fとスラストカラー12の表面との間のくさび状隙間に形成される油膜の圧力が低くなるため、パッド面184とクランク軸のスラストカラー12の表面との接触が起き易くなる。このため、半割スラスト軸受18のパッド面184に損傷(焼付)が起き易くなる。
【0023】
本発明は、このような従来技術の問題に対処したものであり、以下、本発明に係る半割スラス軸受の構成の一例を説明する。
【0024】
(半割スラスト軸受の構成)
図2~
図8に本発明の第1の実施形態による半割スラスト軸受8の構成を示す。この半割スラスト軸受8は、鋼製の裏金層に薄い軸受合金層を接着させたバイメタルによって、半円環形状の平板に形成されている。半割スラスト軸受8は、軸受合金層の表面でありスラストカラー12を支承する摺動面81と、裏金層の、軸受合金層を接着させた側と反対側の表面である背面82とを有する。摺動面81は、複数のパッド面84と複数の傾斜面部85と複数の油溝81aを有する。なお、油溝81aの表面は、軸受合金層によって覆われていなくてもよい。
【0025】
図2は、本発明の第1の実施形態による半割スラスト軸受8の正面図であり、
図3は、
図2の線C-Cに沿った断面を示す。
複数のパッド面84では、パッド面84と背面82との間の軸線方向厚さTが一定になされている(すなわちパッド面84は背面82と平行になされている)。パッド面84は、部分円環形状になされている。本実施形態では、半割スラスト軸受8の摺動面81に3つのパッド面84が周方向に離間して配置されるが、パッド面84の数は3つより多くてもよく、一般的には3~5のパッド面が形成される。
【0026】
複数の油溝81aはそれぞれ、半割スラスト軸受8の径方向内側端部から径方向外側端部まで放射状に(すなわち径方向に)延びるように、パッド面84とパッド面84の間に配置される。なお、本実施形態では、パッド面84に挟まれた2つの油溝81aに加えて、2つの半割スラスト軸受18を組み合わせたときに各突合せ部に油溝81aが形成されるように、半割スラスト軸受8の周方向両端面83、83に隣接して部分的な油溝81aが形成されている。
【0027】
油溝81aの具体的な寸法として、乗用車用等の小型内燃機関のクランク軸(ジャーナル部の直径が30~100mm程度)に使用する場合の油溝81aの溝幅W1は2~7mmであり、油溝81aの深さD1は0.2~1mmであってもよく、本実施形態では、その周方向断面は略円弧形状である(
図3参照)。ここで、油溝81aの深さD1は、パッド面84から油溝81aの最深部までの、半割スラスト軸受8の軸線方向の長さとして定義される。なお、上述の寸法は一例に過ぎず、それぞれの寸法はこれらの範囲に限定されない。
【0028】
パッド面84と油溝81aとの間に傾斜面部85が配置される。この傾斜面部85は、パッド面84の、クランク軸の回転方向Xの後方側の周方向端部から油溝81aへ向かって軸線方向厚さが薄くなり、且つ油溝81aと隣接する位置で最小の厚さT1となるように形成された第1傾斜面85Fと、パッド面84の、クランク軸の回転方向Xの前方側の周方向端部から油溝81aへ向かって軸線方向厚さが薄くなり、且つ油溝81aと隣接する位置で最小の厚さT1となるように形成された第2傾斜面85Rとを有する。本実施形態において、第1傾斜面85Fおよび第2傾斜面85Rはいずれも平面として形成されている。
図2において、X矢印は、クランク軸(スラストカラー12の表面)の回転方向を示す。
なお、
図8に示す紙面の左側の受座6に配置される半割スラスト軸受8、8に対するスラストカラー面の回転方向Xと、紙面の右側の受座6に配置される半割スラスト軸受8、8に対するスラストカラー面の回転方向Xとは逆になる。
図2および
図7に示されるスラストカラー12の回転方向とは逆方向(左回転)である側に配置される半割スラスト軸受8では、
図2および
図7における第1傾斜面85Fが第2傾斜面85Rの構成となり、
図2および
図7における第2傾斜面85Rが第1傾斜面85Fの構成となる。
【0029】
第1傾斜面85Fおよび第2傾斜面85Rの表面には、半割スラスト軸受8の周方向に延びる複数の周方向溝85Gが形成される。これらの周方向溝85Gは、第1傾斜面85Fおよび第2傾斜面85R上で径方向に連なって形成され、したがって周方向溝85Gの間に平坦部分は形成されない(
図4参照)。第1傾斜面85Fおよび第2傾斜面85Rの表面85Sとは、複数の周方向溝85Gの頂部85Pを含む仮想平面として定義される(
図4参照)。
【0030】
複数の周方向溝85Gは、同じ溝幅W2および同じ溝深さD2を有し、また各周方向溝85は、その長手方向にわたって溝幅W2および溝深さD2が一定に形成されている。
パッド面84の表面から、油溝81aと隣接する位置における第1傾斜面85Fおよび第2傾斜面85Rの表面85Sまでの半割スラスト軸受8の軸線方向の長さとして定義される第1傾斜面85Fおよび第2傾斜面85Rの深さD0は5~30μmとすることができる。第1傾斜面85Fおよび第2傾斜面85Rのそれぞれの、半割スラスト軸受8の周方向長さは、円周角度5°~25°に相当する長さすることができる。
また、隣接する周方向溝85Gの頂部85Pの間の、半割スラスト軸受8の径方向の長さとして定義される周方向溝85Gの溝幅W2は、0.05~0.3mmとすることができる。周方向溝85Gの頂部85Pから周方向溝85Gの最深部までの、半割スラスト軸受8の軸線方向の長さとして定義される周方向溝85Gの溝深さD2は、1~10μmとすることができる。なお、上述の寸法は一例に過ぎず、それぞれの寸法はこれらの範囲に限定されない。
【0031】
各パッド面84には、半割スラスト軸受8の周方向および径方向と交差するように(すなわち周方向および径方向とは異なる方向に)並んで延びる複数の排油溝84Gが形成され、またこれらの複数の排油溝84Gの間には、背面82と平行な複数の平坦部84Sが形成されている。すなわち、各排油溝84Gは、複数の平坦部84S(またはパッド面84)から背面82側へ向かって窪んだ溝であり、パッド面84の径方向外側端部84oまたは径方向内側端部84iのうちの少なくとも一方で開口するように延びている(
図2参照)。
図5は、
図2の破線円A1内のパッド面84の拡大図であり、
図6は、
図5の線C-Cに沿った断面図である。このC-C断面は、排油溝84Gの長手方向に直交し、且つ半割スラスト軸受8の軸線方向に平行な面内にある。パッド面84上において、平坦部84Sと排油溝84Gとは、排油溝84Gの長手方向に直交する方向に交互に配置され、排油溝84G同士が交差しない(接触しない)ようになされている。
なお、本実施形態では、パッド面84上において排油溝85Gは直線的に延びているが、僅かに彎曲しながら延びるように形成されてもよい。
【0032】
複数の排油溝84Gは、同じ溝幅W3および同じ溝深さD3を有し、また各排油溝85Gは、その長手方向にわたって溝幅W3および溝深さD3が一定に形成されている。
パッド面84における、排油溝84Gの長手方向と直交する方向の溝幅W3は、0.1~0.5mmとすることができる。また、パッド面84(または平坦部84S)から排油溝84Gの最深部までの半割スラスト軸受8の軸線方向の長さとして定義される排油溝84Gの溝深さD3は、2~20μmとすることができる。
隣接する排油溝84Gの最深部の間の、排油溝84Gの長手方向と直交する方向の長さとして定義される排油溝84GのピッチP1は、0.2~1mmとすることができる。なお、上述の寸法は一例に過ぎず、それぞれの寸法はこれらの範囲に限定されない。
【0033】
以下、
図9Aおよび
図9Bを用いて、本発明の半割スラスト軸受8において焼付が起き難い理由を説明する。
図9Aは、半割スラスト軸受8の摺動面側を見た正面図であり、
図9Bは、
図9AのY2矢視図であり、X矢印はスラストカラー12の回転方向を示し、白矢印は油の流れを示す。
上述の通り、内燃機関の運転時にクランク軸の撓みによる振動が大きくなり、クランク軸のスラストカラー12の表面が摺動面に近接すると、油溝81a、第1傾斜面85Fおよび第2傾斜面85Rと、スラストカラー12の表面との間の油は、回転するスラストカラー12の表面に付随して第1傾斜面85Fとスラストカラー12の表面との間のくさび状隙間の回転方向の前方側の周方向端部側へ向かって流れる。第1傾斜面85Fには、半割スラスト軸受8の周方向と平行に延びる複数の周方向溝85Gが形成されているため、油は周方向溝85Gにガイドされ、くさび状隙間の回転方向の前方側の周方向端部側に向かって流れる量が多くなる。このため多量の油がくさび状隙間の周方向端部付近(破線円A2)で流体力学的な作用を受け、くさび状隙間の周方向端部付近で形成される油膜の圧力が従来よりも高くなるので、パッド面84とクランク軸のスラストカラー12の表面との接触が起き難い。
【0034】
油は、第1傾斜面85Fとのスラストカラー12の表面との間のくさび状隙間を流れる際、流体力学的な作用を受けて圧力が高くなるのと同時に温度が上昇する。本実施形態において、パッド面84には、半割スラスト軸受8の周方向および径方向と交差するように延びる複数の排油溝84Gであって、それによりパッド面84の径方向外側端部8oまたは径方向内側端部8iのうちの少なくとも一方で開口する複数の排油溝84Gが形成されている。このため、第1傾斜面85Fとスラストカラー12の表面との間のくさび状隙間からパッド面84とスラストカラー12の表面との間に流入する高温の油の大部分が、排油溝85Gにガイドされてパッド面84の径方向外側端部8oまたは径方向内側端部8iから外部に排出され(
図9Aの実線白矢印)、一方、パッド面84よりもスラストカラー12の回転方向前方側に位置する第2傾斜面85R、油溝81aおよび第1傾斜面85Fと、スラストカラー12の表面との間の隙間まで流れる油(
図9Aの破線白矢印)は少なくなる。それゆえ本発明では、油の熱が伝わってパッド面84が高温になることが抑制され、また油の粘性が低下してくさび状隙間に形成される油膜の圧力が不十分となることにより、半割スラスト軸受8の摺動面81(またはパッド面84)とクランク軸のスラストカラー12の表面とが直接接触し易くなることが防がれるので、半割スラスト軸受8に焼付が発生し難くなる。
なお、上述の通り、第2傾斜面85R、油溝81aおよび第1傾斜面85Fと、スラストカラー12の表面との間の隙間には、主軸受を構成する一対の半割軸受7、7の幅方向両端から外部へ流出し、クランク軸のスラストカラー12の表面、軸受ハウジング4の受座6、半割スラスト軸受8の内径面、およびクランク軸のジャーナル部11の表面によって囲まれる隙間に流入した(温度が低い)油が順次供給される。
【0035】
以下、本発明の他の観点による非限定的な第2の実施形態を説明する。
図11は、本発明の第2の実施形態による半割スラスト軸受8’の正面図であり、
図12は、
図11における線D-Dに沿った断面図である。
図11および
図12に示す実施形態では、半割スラスト軸受8の複数の傾斜面部85は、パッド面84の、クランク軸の回転方向後方側の周方向端部から油溝81aへ向かって軸線方向厚さが薄くなるように形成された第1傾斜面85Fのみを有し、したがって第1の実施形態で設けられていた、パッド面84の、クランク軸の回転方向前方側の周方向端部から油溝81aへ向かって軸線方向厚さが薄くなっている第2傾斜面85Rは形成されていない。その他の構成は、第1の実施形態の半割スラスト軸受の構成と同じである。
【0036】
以上、本発明の半割スラスト軸受について具体例に説明してきた。上記説明では、一対の半割スラスト軸受を組み合わせて円環形状として内燃機関のクランク軸の軸線方向力を受けるように構成された例が用いられているが、本発明の半割スラスト軸受は、単独で内燃機関のクランク軸の軸線方向力を受けるように使用されてもよい。
【0037】
また、上述の通り、本発明の半割スラスト軸受は、裏金層と軸受合金とからなるバイメタルから形成されていてもよいが、裏金層のない軸受合金のみで構成されてもよい。この場合、スラストカラー12の表面と接触する表面が摺動面、その反対側の表面が背面となることが理解されよう。
【0038】
また本発明の半割スラスト軸受は、周方向長さが円周角度180°である半円環形状に限定されず、周方向長さが円周角度で180°よりも若干小さい略半円環形状であってもよい。また、本発明の半割スラスト軸受では、周方向両端面83に隣接する油溝が、傾斜面状のスラストリリーフの構成に変更されてもよく、あるいは、周方向両端面83に隣接する油溝の構成は有していなくしてもよい。さらに、半割スラスト軸受の誤組付け防止や回転止めのための、半割スラスト軸受の外周面から径方向外側に突出する突起の構成を有していてもよい。また、パッド面84には、パッド面84の径方向内側端部84iおよび径方向外側端部84oの何れにも開口しない溝が少数形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0039】
1 軸受装置
2 シリンダブロック
3 軸受キャップ
4 軸受ハウジング
5 軸受孔
6 受座
7 半割軸受
11 ジャーナル部
12 スラストカラー
71 潤滑油溝
72 貫通孔
73 クラッシュリリーフ
8 半割スラスト軸受
81 摺動面
81a 油溝
82 背面
83 周方向端面
84 パッド面
84i 径方向内側端部
84o 径方向外側端部
84G 排油溝
84S 平坦部
85 傾斜面部
85F 第1傾斜面
85R 第2傾斜面
85G 周方向溝
85S 第1傾斜面および第2傾斜面の表面
85P 周方向溝の頂部
D0 第1傾斜面および第2傾斜面の深さ
D1 油溝の溝深さ
D2 周方向溝の溝深さ
D3 排油溝の溝深さ
P1 排油溝のピッチ
T パッド面における軸線方向厚さ
T1 第1傾斜面および第2傾斜面における最小の軸線方向厚さ
W1 油溝の溝幅
W2 周方向溝の溝幅
W3 排油溝の溝幅
X クランク軸の回転方向