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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】ロール体
(51)【国際特許分類】
   B65H 18/28 20060101AFI20240104BHJP
   B65H 75/10 20060101ALI20240104BHJP
【FI】
B65H18/28
B65H75/10
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022504979
(86)(22)【出願日】2020-12-21
(86)【国際出願番号】 JP2020047635
(87)【国際公開番号】W WO2021176804
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2023-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2020037442
(32)【優先日】2020-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】鳥越 翔斗
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-178521(JP,A)
【文献】特開2006-073047(JP,A)
【文献】特開2017-100850(JP,A)
【文献】特開2005-022766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 18/28
B65H 75/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周辺環境の影響により熱膨張または熱収縮する巻芯に帯状のウェブを巻回して構成されるロール体において、
ウェブの厚み方向の線膨張係数が、長手方向の線膨張係数の60倍~150倍の範囲であり、
巻芯が、20×10-6/K~100×10-6/Kの範囲の線膨張係数で且つ0.2GPa~0.5GPaの範囲のヤング率を持つもので構成されることを特徴とするロール体。
【請求項2】
前記ウェブが、5mm~100mmの幅を有するポリイミドフィルムであることを特徴とする請求項1記載のロール体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周辺環境の影響により熱膨張または熱収縮する巻芯(コア)に帯状のウェブを巻回して構成されるロール体に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のロール体を輸送や保管する場合、周辺環境の影響を受けて巻芯に巻回されたウェブが軸方向にずれて椀状または皿状に変形する所謂テレスコープ現象が発生することが一般に知られている。このようなテレスコープ現象は、巻芯を構成するプラスチックや樹脂の吸水性や吸湿性に起因すると考えられ、巻取体を包装して防湿性の包装フィルムで輸送や保管することが提案されている(例えば特許文献1参照)。然し、巻取体を防湿性の包装フィルムで包装するだけでは、テレスコープ現象の発生を効果的に抑制できない場合があることが判明した。
【0003】
そこで、本発明者は、鋭意研究を重ね、次のことを知見するのに至った。即ち、ロール体の製造時、一定の張力を加えながら樹脂製の巻芯にウェブが巻回されるが、例えば、ロール体の輸送や保管時の周辺環境温度がロール体の製造時より高くなることで(+20℃~+25℃)、ロール体が熱膨張した場合、巻芯の熱膨張とウェブの厚み方向の熱膨張との差によりウェブの巻圧が増加し、この増加した巻圧の分散に起因して上記テレスコープ現象が生じることを知見するのに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-58602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記知見に基づきなされたものであり、ロール体の輸送や保管時の周辺環境温度がロール体の製造時より高くなったとしても、テレスコープ現象の発生を効果的に抑制することができるロール体を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、周辺環境の影響により熱膨張または熱収縮する巻芯に帯状のウェブを巻回して構成される本発明のロール体は、ウェブの厚み方向の線膨張係数が、長手方向の線膨張係数の60倍~150倍の範囲であり、巻芯が、20×10-6/K~100×10-6/Kの範囲の線膨張係数で且つ0.2GPa~0.5GPaの範囲のヤング率を持つもので構成されることを特徴とする。本発明は、ウェブとして、5mm~100mmの幅を持つポリイミドフィルムを用いる場合に好適に適用することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ウェブとして、厚み方向の線膨張係数が長手方向の線膨張係数の60倍~150倍であるものを用い、巻芯として、20×10-6/K~100×10-6/Kの範囲の線膨張係数で且つ0.2GPa~0.5GPaの範囲のヤング率を持つものを用いることで、ロール体の輸送や保管時の周辺環境温度がロール体の製造時より高くなったとしても、巻芯の熱膨張とウェブの厚み方向の熱膨張との差を可及的に少なくすることで、ウェブの巻圧の増加を抑制でき、その結果として、テレスコープ現象の発生を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明のロール体の実施形態を示す斜視図。
図2】本発明の実施例におけるテレスコープ現象の判定方法を説明する図。
図3】本発明の実施例及び比較例におけるテレスコープ現象の有無を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明のロール体の実施形態について説明する。図1を参照して、RBは、ロール体である。ロール体RBは、筒状の巻芯(コア)1と、巻芯1に巻回された帯状のウェブ2とを備える。
【0010】
ウェブ2としては、厚み方向の線膨張係数が長手方向の線膨張係数の60~150倍であればよく、プラスチックフィルム、プラスチックフィルムの一方の面に粘着剤層が形成されたもの、その粘着剤層の表面に剥離フィルムが更に設けられたものを用いることができる。このようなプラスチックフィルムとしては、例えば、ポリイミドフィルムがある。尚、ウェブ2の厚みは、例えば30μm~200μmの範囲に設定され、ウェブ2の長手方向の長さは、例えば100m~1000mの範囲に設定される。また、ウェブ2の幅が例えば5mm~100mmの範囲である場合に、テレスコープ現象が顕著に現れるため、本発明を好適に適用することができる。尚、ウェブ2の厚み方向の線膨張係数及び長手方向の線膨張係数は、後述する実施例に記載された方法で測定する。
【0011】
巻芯1は、例えば、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)樹脂やHDPE(高密度ポリエチレン)等の樹脂で構成することができる。巻芯1の寸法は、ウェブ2の幅、長さや厚さ、巻き取り時の張力等により適宜設定され、例えば、ウェブ2の幅に相当する巻芯1の長さは0.005m~5mの範囲、外径は0.5cm~50cmの範囲、肉厚は1mm~50mmの範囲に設定することができる。
【0012】
ところで、ロール体RBの製造時、一定の張力を加えながら巻芯1にウェブ2が巻回されるが、例えば、ロール体RBの輸送や保管時の周辺環境温度がロール体RBの製造時より高くなることで(+20℃~+25℃)、ロール体RBが熱膨張した場合、巻芯1の熱膨張とウェブ2の厚み方向の熱膨張との差によりウェブ2の巻圧が増加し、この増加した巻圧の分散に起因して上記テレスコープ現象が生じる。
【0013】
本実施形態では、ウェブ2として、厚み方向の線膨張係数が長手方向の線膨張係数の60倍~150倍であるものを用い、巻芯1として、20×10-6/K~100×10-6/Kの範囲の線膨張係数で且つ0.2GPa~0.5GPaの範囲のヤング率を持つものを用いることで、ロール体RBの輸送や保管時の周辺環境温度がロール体RBの製造時より高くなったとしても、巻芯1の熱膨張とウェブ2の厚み方向の熱膨張との差を可及的に少なくすることで、ウェブ2の巻圧の増加を抑制でき、その結果として、テレスコープ現象の発生を効果的に抑制することができる。巻芯1の線膨張係数は40×10-6/K~90×10-6/Kの範囲がより好ましく、巻芯1のヤング率は0.2GPa~0.4GPaの範囲がより好ましい。尚、ロール体RBの製造時(ウェブ2巻取時)におけるウェブ2の巻取り速度は特に限定されないが、通常1m/min~100m/minの範囲に設定され、また、ウェブ2の巻取り張力は特に限定されないが、通常1N/m~300N/mの範囲に設定される。
【0014】
次に、本発明の実施例について、ウェブ2として、厚さ25μmのポリイミドフィルムの一方の面にアクリル酸エステル共重合体を含む粘着剤層が厚さ8μmで形成された粘着テープを用いる場合を例に説明する。このウェブ2の長手方向及び厚み方向の線膨張係数を熱機械分析装置(NETZSCH Japan株式会社製の「TMA 4000S」)を用いて夫々測定した。即ち、日本工業規格(JIS K 7197 2012)「プラスチックの熱機械分析による線膨張率試験方法」に準じて、温度に対する熱ひずみを得て、その傾きから線膨張係数を求めた。長手方向測定用の試験片は、長さ20mm、幅5mmとし、昇温速度5℃/minで測定した。厚み方向測定用の試験片は、長さ8mm、幅8mm、厚み1mmとし、昇温読度1℃/minで測定した。このように測定した厚み方向の線膨張係数は長手方向の線膨張係数の約100倍であった。
【0015】
(実施例1)
本実施例1では、巻芯1として、外径が3インチ、肉厚が6mm、幅が10mmであるABS樹脂製のもの(日本プラスチック工業株式会社製)を用いた。この巻芯1の線膨張係数αを、下式(1)から求めたところ、67.8×10-6/Kであった。下式(1)中のr20℃は、環境温度が20℃であるときの巻芯1の半径(外径の半分)であり、dr/dtは、環境温度を0℃,10℃,20℃,30℃,40℃に変化させたときの巻芯1の半径を夫々計測し、それらの計測値から得られる直線の傾きである。
【0016】
また、巻芯1のヤング率Eを、下式(2)から求めたところ、0.4GPaであった。下式(2)中のEmは巻芯材料(ABS樹脂)のヤング率であり、νはポアソン比(ν=0.3)であり、rは巻芯1の半径(外径)であり、tは巻芯1の厚みである。巻芯材料のヤング率Emは、日本工業規格(JIS K 7181 2011)「プラスチック-圧縮特性の求め方」に準じて、圧縮ひずみに対する圧縮応力の傾きから求めた。尚、試験片は、巻芯1から採取した長さ50mm、幅10mm、厚さ4mmの板状材料とし、試験速度は1mm/minとした。
【0017】
この巻芯1に上記ウェブ2たる粘着テープを幅10mmに裁断加工しながら、温度が25℃、巻取り張力が100N/m、巻取り速度が20m/minの条件で、巻長500mで巻き取ることで、ロール体RBを得た。このロール体RBを温度(周辺環境温度)45℃の部屋に保管し、所定時間経過後(2日後)、テレスコープ現象の発生が抑制された。ここで、図2に示すように、ロール体RBをその側面RBaが水平面Hpに接するように載置し、巻芯1からのウェブ2の幅方向最端面(図2中の上面)2aのずれ量dを求め、このずれ量dが5mm未満の場合にはテレスコープ現象の発生が抑制されたと判定し、ずれ量dが5mm以上の場合にテレスコープ現象が発生したと判定した。
【0018】
(実施例2)
本実施例2では、巻芯1として、外径が3インチ、肉厚が6mm、幅が10mmであるABS樹脂製のもの(東洋紙管株式会社製)を用いる点以外は、上記実施例1と同様にしてロール体RBを得た。巻芯1の線膨張係数とヤング率とを、上記実施例1と同様にして求めたところ、41.1×10-6/K、0.4GPaであった。本実施例2で得たロール体RBを上記実施例1と同様に2日間保管したところ、テレスコープ現象の発生が抑制された。
【0019】
(実施例3)
本実施例3では、巻芯1として、外径が3インチ、肉厚が6mm、幅が10mmであるABS樹脂製のもの(昭和丸筒製)を用いる点以外は、上記実施例1と同様にしてロール体RBを得た。巻芯1の線膨張係数とヤング率とを、上記実施例1と同様にして求めたところ、73.4×10-6/K、0.4GPaであった。本実施例3で得たロール体RBを上記実施例1と同様に2日間保管したところ、テレスコープ現象の発生が抑制されたことを確認した。
【0020】
(実施例4)
本実施例3では、巻芯1として、外径が3インチ、肉厚が7mm、幅が10mmである高密度ポリエチレン(HDPE)製のもの(ダイカポリマー製)を用いる点以外は、上記実施例1と同様にしてロール体RBを得た。巻芯1の線膨張係数とヤング率とを、上記実施例1と同様にして求めたところ、82.7×10-6/K、0.2GPaであった。本実施例4で得たロール体RBを上記実施例1と同様に2日間保管したところ、テレスコープ現象の発生が抑制された。
【0021】
次に、上記実施例1~4に対する比較例について説明する。
【0022】
(比較例1)
本比較例1では、巻芯1として、外径が3インチ、肉厚が12mm、幅が10mmであるABS樹脂製のもの(日本プラスチック工業株式会社製)を用いる点以外は、上記実施例1と同様にしてロール体RBを得た。巻芯1の線膨張係数とヤング率とを、上記実施例1と同様にして求めたところ、74.7×10-6/K、0.7GPaであった。本比較例1で得たロール体RBを上記実施例1と同様に2日間保管したところ、テレスコープ現象が発生した。
【0023】
(比較例2)
本比較例2では、巻芯1として、外径が3インチ、肉厚が8mm、幅が10mmであるABS樹脂製のもの(東都積水製)を用いる点以外は、上記実施例1と同様にしてロール体RBを得た。巻芯1の線膨張係数とヤング率とを、上記実施例1と同様にして求めたところ、76.9×10-6/K、0.6GPaであった。本比較例2で得たロール体RBを上記実施例1と同様に2日間保管したところ、テレスコープ現象が発生した。
【0024】
(比較例3)
本比較例3では、巻芯1として、外径が3インチ、肉厚が12mm、幅が10mmであるABS樹脂製のもの(昭和丸筒製)を用いる点以外は、上記実施例1と同様にしてロール体RBを得た。巻芯1の線膨張係数とヤング率とを、上記実施例1と同様にして求めたところ、82.7×10-6/K、0.6GPaであった。本比較例3で得たロール体RBを上記実施例1と同様に2日間保管したところ、テレスコープ現象が発生した。
【0025】
(比較例4)
本比較例4では、巻芯1として、外径が3インチ、肉厚が8mm、幅が10mmであるPPT製のもの(四国積水製)を用いる点以外は、上記実施例1と同様にしてロール体RBを得た。巻芯1の線膨張係数とヤング率とを、上記実施例1と同様にして求めたところ、49.9×10-6/K、0.8GPaであった。本比較例4で得たロール体RBを上記実施例1と同様に2日間保管したところ、テレスコープ現象が発生した。
【0026】
(比較例5)
本比較例5では、巻芯1として、外径が3インチ、肉厚が6mm、幅が10mmであるABS樹脂製のものであって、その線膨張係数が30.0×10-6/Kであり、ヤング率が0.8GPaであるものを用いる点以外は、上記実施例1と同様にしてロール体RBを得た。このロール体RBを上記実施例1と同様に2日間保管したところ、テレスコープ現象が発生した。
【0027】
(比較例6)
本比較例6では、巻芯1として、外径が3インチ、肉厚が6mm、幅が10mmであるABS樹脂製のものであって、その線膨張係数が20.0×10-6/Kであり、ヤング率が0.8GPaであるものを用いる点以外は、上記実施例1と同様にしてロールRB体を得た。このロール体RBを上記実施例1と同様に2日間保管したところ、テレスコープ現象が発生した。
【0028】
(比較例7)
本比較例7では、巻芯1として、外径が3インチ、肉厚が6mm、幅が10mmであるABS樹脂製のものであって、その線膨張係数が40.0×10-6/Kであり、ヤング率が0.6GPaであるものを用いる点以外は、上記実施例1と同様にしてロール体RBを得た。このロール体RBを上記実施例1と同様に2日間保管したところ、テレスコープ現象が発生した。
【0029】
(比較例8)
本比較例8では、巻芯1として、外径が3インチ、肉厚が6mm、幅が10mmであるABS樹脂製のものであって、その線膨張係数が120.0×10-6/Kであり、ヤング率が0.4GPaであるものを用いる点以外は、上記実施例1と同様にしてロール体RBを得た。このロール体RBを上記実施例1と同様に2日間保管したところ、テレスコープ現象が発生した。
【0030】
以上の実施例1~4及び比較例1~8によれば、図3に示すように、巻芯1として、20×10-6/K~100×10-6/K(好ましくは40×10-6/K~90×10-6/K、より好ましくは41×10-6/K~83×10-6/K)の範囲の線膨張係数で且つ0.2GPa~0.5GPa(好ましくは0.2GPa~0.4GPa)の範囲のヤング率を持つものを用いることで、テレスコープ現象の発生を効果的に抑制することができることが判った。
【0031】
以上本発明の実施形態及び実施例について説明したが、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施例1~4では、ウェブ2としてポリイミドフィルムの一方の面に粘着剤層が形成された粘着テープを用いる場合を例に説明したが、この粘着剤層はウェブ2の線膨張係数に寄与しないため、プラスチックフィルム単体をウェブ2として用いることができる。また、プラスチックフィルムとしてはポリイミドフィルムに限定されず、厚み方向の線膨張係数が長手方向の線膨張係数の60倍~150倍の範囲であるものをウェブ2として用いることができる。
【符号の説明】
【0032】
RB…ロール体、1…巻芯,コア、2…ウェブ。
図1
図2
図3