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特許7412549生物学的試料が肝組織由来であるか否かを判別する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】生物学的試料が肝組織由来であるか否かを判別する方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6881 20180101AFI20240104BHJP
   C12Q 1/6837 20180101ALI20240104BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20240104BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20240104BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20240104BHJP
【FI】
C12Q1/6881 Z ZNA
C12Q1/6837 Z
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6869 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022521197
(86)(22)【出願日】2020-09-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-12
(86)【国際出願番号】 KR2020013290
(87)【国際公開番号】W WO2021071164
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-05-24
(31)【優先権主張番号】10-2019-0124549
(32)【優先日】2019-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522140161
【氏名又は名称】レピジン カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヤン ジョン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ダ ウォン
(72)【発明者】
【氏名】ハ,ジョン シル
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/178496(WO,A1)
【文献】特開2015-006163(JP,A)
【文献】国際公開第2015/129646(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/045322(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0143198(US,A1)
【文献】Min-Ae SONG et al.,“Elucidating the Landscape of Aberrant DNA Methylation in Hepatocellular Carcinoma”,PLoS ONE,2013年02月20日,Vol. 8, No. 2,p.e55761,DOI: 10.1371/journal.pone.0055761
【文献】Koshi HASHIMOTO et al.,“Epigenetic Switching andNeonatal Nutritional Environment”,Advances in Experimental Medicine and Biology,2018年,p.19-25,DOI: 10.1007/978-981-10-5526-3_3
【文献】Tatsuya EHARA et al.,“Role of DNA Methylationin the Regulation of Lipogenic Glycerol-3-Phosphate Acyltransferase 1 GeneExpression in the Mouse Neonatal Liver”,Diabetes,2012年09月13日,Vol. 61, No. 10,p.2442-2450,DOI: 10.2337/db11-1834
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
C12N
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)対象体(subject)から分離された生物学的試料でDNAを分離する段階;および
(b)前記分離されたDNAで配列番号1または配列番号2で表示される配列メチル化レベルを測定する段階;
を含む生物学的試料が肝組織起源であるか否かを判別する方法。
【請求項2】
前記生物学的試料は、対象体から分離された組織、組織断片、細胞、細胞断片、血液、血漿、体液、便および尿からなる群より選択されるものである、請求項1に記載の生物学的試料が肝組織起源であるか否かを判別する方法。
【請求項3】
前記(b)段階は、PCR、メチル化特異的PCR(methylation specific PCR)、リアルタイムメチル化特異的PCR(real time methylation specific PCR)、MethyLight PCR、MehtyLight digital PCR、EpiTYPER、メチル化DNA特異的結合蛋白質を利用したPCR、定量PCR、DNAチップ、分子ビーコン(molecular beacon)、MS-HRM(Methylation-sensitive high resolution melting)、非対称PCR(asymmetric PCR)、非対称PCR MS-HRMA(asymmetric PCR Methylation-sensitive high resolution melting analysis)、リコンビナーゼ-ポリメラーゼ増幅法(Recombinase Polymerase Amplification)、LAMP法(Loop-Mediated Isothermal Amplification)、Eclipse probe、次世代シークエンシング解析パネル(NGS panel)、パイロシークエンシングおよびバイサルファイトシークエンシングからなる群より選択される方法で行われるものである、請求項1に記載の生物学的試料が肝組織起源であるか否かを判別する方法。
【請求項4】
(a)対象体から分離された生物学的試料でDNAを分離する段階;および
(b)前記分離されたDNAで配列番号1または配列番号2で表示される配列メチル化レベルを測定する段階;
を含む生物学的試料で肝組織由来DNAを検出する方法。
【請求項5】
配列番号1または配列番号2で表示される配列のメチル化レベルを測定することができる試薬を含む、生物学的試料が肝組織起源であるか否かの判別用組成物。
【請求項6】
前記メチル化レベルを測定することができる試薬は、配列番号1または配列番号2で表示される配列結合するプライマー、プローブまたはアンチセンス核酸である、請求項5に記載の生物学的試料が肝組織起源であるか否かの判別用組成物。
【請求項7】
生物学的試料が肝組織起源であるか否かを判別するための、配列番号1または配列番号2で表示される配列のメチル化レベルを測定することができる試薬を含む組成物の使用。
【請求項8】
前記試薬は、配列番号1または配列番号2で表示される配列に結合するプライマー、プローブまたはアンチセンス核酸である、請求項7に記載の生物学的試料が肝組織起源であるか否かを判別するための前記組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、起源を知らない生物学的試料が肝組織由来であるか否かを判別する方法およびこれを行うための肝組織特異的DNAメチル化マーカーを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
人間の身体にある細胞は、同一の遺伝子情報を有しているが、各細胞の機能と形態は非常に多様である。これは、各細胞ごとに特定の遺伝子が発現し、そのために、細胞分化過程が相異して最終的に細胞表現型の差異を示すためである。このような特定の遺伝子の発現には、DNAメチル化、ヒストン変形、組織特異的転写因子などの多様な要因が関与する。特にDNAメチル化、具体的にCpG部位のメチル化は、細胞特異的遺伝子発現の必須要素であって、細胞または組織ごとに固有のDNAメチル化特徴を有していると知られている。したがって、DNAメチル化の特徴を利用すれば細胞または組織が由来した起源を容易に確認することができる。
【0003】
細胞または組織の起源を確認することは、疾病の早期診断を可能にし、診断の正確度を高めることができる。例えば、生体を循環する血液中には循環細胞遊離DNA(cell free DNA、cfDNA)が存在し、この中には腫瘍細胞から流れ出た循環腫瘍DNA(circulating tumor DNA、ctDNA)があり得る。液体生検でctDNAの存在を検出するとしても、癌を正確に診断するためには、当該ctDNAが起源した組織を追加的に確認する過程が必要であり、このような過程で癌の診断は遅れるようになる。しかし、当該ctDNAを検出しながら起源した組織を共に確認することができれば癌の早期診断が可能となり、生物学的試料の起源を明らかにする方法は、癌だけでなく、他の疾病の早期診断にますます必要になってきている。
【0004】
本発明者らは、DNAメチル化データに基づいて起源を知らない組織および細胞の起源を明らかにする方法を研究した結果、肝組織特異的にメチル化レベルが高いマーカーを確認して本発明を完成した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、起源が不明な生物学的試料が肝組織に由来したか否かを判別する方法および前記方法を行うための組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の一様相は、下記段階を含む生物学的試料が肝組織起源であるか否かを判別する方法を提供する:
(a)対象体(subject)の分離された生物学的試料でDNAを分離する段階;および
(b)前記分離されたDNAで配列番号1および配列番号2で表示される配列のCpG部位のメチル化レベルを測定する段階。
【0007】
本発明の一具体例において、前記対象体は、ヒトであり得、前記生物学的試料は、前記対象体で分離された組織、組織断片、細胞、細胞断片、血液、血漿、体液、便および尿などを含むが、これに制限されるのではない。前記組織、組織断片、細胞および細胞断片などは、対象体で採取された血液、血漿、体液、尿などで分離されたものであり得る。また、前記DNAは、組織、細胞などで分離したDNAであり得、血液、血漿、体液などに浮遊する細胞遊離DNA(cell free DNA、cfDNA)または腫瘍細胞で流れ出た循環腫瘍DNA(circulating tumor DNA、ctDNA)であり得る。
【0008】
本明細書に使用された用語「メチル化(methylation)」は、DNAを構成する塩基にメチル基(-CH)が付着することを意味し、好ましくは特定のDNAの特定のCpG部位のシトシンで起こるメチル化を意味する。用語「メチル化レベル」は、特定のDNA塩基配列内に存在するCpG部位のメチル化状態を定量的に評価したことを意味し、メチル化状態は、DNA塩基配列内の一つ以上のCpG部位で5-メチル-シトシンの存在または不存在を意味する。
【0009】
本明細書に使用された用語「CpG部位」は、シトシン(cytosine、C)とグアニン(guanine、G)がリン酸基(phosphate)で連結された配列をいい、プロモーター領域、蛋白質コーディング領域(open reading frame、ORF)およびターミネーター領域などを含むDNA配列内に存在することができる。CpG部位のメチル化は、遺伝体の安定性維持、遺伝子の発現調節などに関与すると知られている。
【0010】
本発明者らは、肝組織特異的メチル化マーカーを発掘するために努力した結果、正常肝組織、肝癌組織サンプルではメチル化レベルが高く、血液を含むその他組織ではメチル化レベルが低いcg12137206(配列番号1)、cg03792768(配列番号2)マーカーを発掘した。前記2個のマーカーのターゲットメチル化部位は、それぞれ配列番号1および配列番号2で表示される配列で61番目のヌクレオチドに位置するCpG部位である。しかし、前記ターゲットメチル化部位以外に他のCpG部位でもメチル化が起こり得るため、本発明では前記ターゲットCpG部位を含んで配列番号1および2で表示される配列に存在するCpG部位全体のメチル化レベルを測定することができる。
【0011】
本発明の一具体例において、前記(b)は、PCR、メチル化特異的PCR(methylation specific PCR)、リアルタイムメチル化特異的PCR(real time methylation specific PCR)、MethyLight PCR、MehtyLight digital PCR、EpiTYPER、メチル化DNA特異的結合蛋白質を利用したPCR、定量PCR、DNAチップ、分子ビーコン(molecular beacon)、MS-HRM(Methylation-sensitive high resolution melting)、非対称PCR(asymmetric PCR)、非対称PCR MS-HRMA(asymmetric PCR Methylation-sensitive high resolution melting analysis)、リコンビナーゼ-ポリメラーゼ増幅法(Recombinase Polymerase Amplification)、LAMP法(Loop-Mediated Isothermal Amplification)、Eclipse probe、次世代シークエンシング解析パネル(NGS panel)、パイロシークエンシングおよびバイサルファイトシークエンシングからなる群より選択される方法で行われ得る。
【0012】
例えば、前記メチル化レベルは、マイクロアレイにより識別され得、前記マイクロアレイは、固相表面に固定化されたプローブを利用することができる。前記プローブは、前記CpG部位を含む10~100個の連続ヌクレオチド配列に相補的な配列を含むことができる。
【0013】
本発明の一具体例において、前記方法は、(c)前記(b)段階以降に、前記メチル化レベルを正常対照群のメチル化レベルと比較する段階;を追加的に含むことができる。例えば生物学的試料のメチル化レベルを正常対照群のメチル化レベルと比較してメチル化レベルが高い場合、前記生物学的試料が肝組織に由来したものと判別することができ、メチル化レベルが低いか類似する場合、前記生物学的試料は肝を除いたその他組織に由来したものと判別することができる。
【0014】
本発明の他の様相は、下記段階を含む生物学的試料で肝組織由来DNAを検出する方法を提供する:
(a)対象体の分離された生物学的試料でDNAを分離する段階;および
(b)前記分離されたDNAで配列番号1および配列番号2で表示される配列のCpG部位のメチル化レベルを測定する段階。
【0015】
前記方法は、生物学的試料が肝組織起源であるか否かを判別する方法と同一の配列のメチル化レベルを測定する技術を使用するため、二つの方法の間に重複する内容は明細書の過度な記載を避けるために省略する。
【0016】
本発明において、前記肝組織由来DNA検出方法は、既存の肝癌診断方法と併用して使用することができる。
【0017】
本発明のまた他の様相は、配列番号1および配列番号2で表示される配列のメチル化レベルを測定することができる試薬を含む生物学的試料が肝組織起源であるか否かの判別用組成物を提供する。
【0018】
本発明の一具体例において、前記CpG部位は、配列番号1および配列番号2で表示される配列で61番目のヌクレオチドに位置するCpG部位を含む1個~複数個になり得る。
【0019】
本発明の一具体例において、前記メチル化レベルを測定することができる試薬は、配列番号1および配列番号2で表示される配列のCpG部位に結合するプライマー、プローブまたはアンチセンス核酸であり得、前記プライマー、プローブまたはアンチセンス核酸は、ハイブリダイゼーションアレイ要素(hybridizable array element)で利用され得、基体(substrate)上に固定化され得る。
【0020】
また、前記配列番号1または2で表示される配列は、ゲノムDNAであり得、スルホン酸(bisulfite)が処理されて非メチル化されたシトシンがウラシルに変換された配列であり得る。
【0021】
前記基体は、適切な堅固性または半堅固性支持体であり、例えば、膜、フィルター、チップ、スライド、ウエハー、ファイバー、磁気性ビーズまたは非磁気性ビーズ、ゲル、チュービング、プレート、高分子、微小粒子および毛細管を含むことができる。前記ハイブリダイゼーションアレイ要素は、化学的結合方法、UVのような共有結合方法またはリンカー(例:エチレングリコールオリゴマーおよびジアミン)を通じて基体上に固定され得る。
【0022】
本発明の一具体例において、生物学的試料から分離されたDNA(試料DNA)は、ハイブリダイゼーションアレイに適用されてアレイ要素とハイブリダイゼーションされ得、ハイブリダイゼーション条件は多様に変更され得、ハイブリダイゼーション程度の検出および分析は、当業界に知られている技術により多様に実施され得る。また、前記試料DNAおよび/またはプライマー、プローブまたはアンチセンス核酸は、ハイブリダイゼーションの有無を確認するようにする信号を提供するために標識(labeling)になることができ、オリゴヌクレオチドに連結され得る。
【0023】
前記標識は、蛍光団(例えば、フルオレセイン(fluorescein)、フィコエリトリン(phycoerythrin)、ローダミン 、リサミン(lissamine)、Cy3およびCy5(Pharmacia)、発色団、化学発光団、磁気粒子、放射性同位元素(P32およびS35)、酵素(アルカリンフォスファターゼまたはホースラディッシュペルオキシダーゼ)、補因子、酵素に対する基質、重金属(例えば、金)、抗体、ストレプトアビジン、ビオチン、ジゴキシゲニン(digoxigenin)とキレート基のような特定の結合パートナーを有するヘプテンを含むことができるが、これに限定されるのではない。
【0024】
本発明において、前記プライマー、プローブまたはアンチセンス核酸と試料DNAとのハイブリダイゼーションは、反応温度、ハイブリダイゼーションおよび洗浄時間、緩衝液成分およびこれらのpHおよびイオン強さ、ヌクレオチドの長さ、ヌクレオチド配列、GC配列の量などの多様な因子に依存する。前記ハイブリダイゼーションのための詳細な条件は、Joseph Sambrook, et al., MolecularCloning, A LaboratoryManual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.(2001);およびM.L.M. Anderson, NucleicAcid Hybridization, Springer-Verlag New York Inc. N.Y.(1999)を参照することができる。
【0025】
前記ハイブリダイゼーション反応以降に、ハイブリダイゼーション反応を通じて出るハイブリダイゼーションシグナルを検出することができる。例えば、前記プローブが酵素により標識された場合、前記酵素の基質をハイブリダイゼーション反応の結果物と反応させてハイブリダイゼーションされたか否かを確認することができる。
【0026】
前記酵素および基質は、ペルオキシダーゼ(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼ)とクロロナフトール、アミノエチルカーバゾール、ジアミノベンジジン、D-ルシフェリン、ルシゲニン(ビス-N-メチルアクリジニウムニトレート)、レゾルフィンベンジルエーテル、ルミノール、アンプレックスレッド試薬(10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジン)、HYR(p-phenylenediamine-HClおよびpyrocatechol)、TMB(tetramethylbenzidine)、ABTS(2,2’-Azine-di[3-ethylbenzthiazoline sulfonate])、o-フェニレンジアミン(OPD)およびナフトール/ピロニン;アルカリンフォスファターゼとブロモクロロインドリルホスフェート(BCIP)、ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)、ナフトール-AS-B1-ホスフェート(naphthol-AS-B1-phosphate)およびECF基質;グルコースオキシダーゼとt-NBT(nitroblue tetrazolium)およびm-PMS(phenzaine methosulfate)を使用することができる。
【0027】
本発明では、DNAメチル化に基づいて肝組織特異的マーカーを発掘した。具体的に血液内の多様な細胞タイプ、多くの臓器サンプルのメチル化分析を行って肝組織を除いた他の臓器ではメチル化が低く、肝組織特異的にメチル化が高いマーカーを選別し、機械学習技法で選別したマーカーの効率を確認した。選別されたマーカーは、独立的コーホートである正常肝組織から肝癌まで至る全てのサンプルでメチル化レベルが高く、血液を含んで他の組織ではメチル化が低く、2つのマーカーだけでも99%以上の正確度に肝特異性を有することを検証した。当該マーカーの遺伝子発現も肝特異的に高い傾向性を確認した。肝特異的メチル化マーカーを通じて組織の起源を確認できる主要マーカーとして活用され得ることを糾明し、向後の肝関連疾患のモニタリングおよび早期検出の正確度を向上させることができる指標として活用しようとする。
【発明の効果】
【0028】
本発明の生物学的試料が肝組織由来であるか否かを判別する方法およびこれを行うための組成物は、肝組織特異的DNAメチル化マーカーを利用し、前記肝組織特異的マーカーは、肝組織を除いた他の組織ではメチル化レベルが低く、正常肝組織および肝癌組織ではメチル化レベルが高いため、生物学的試料が肝組織に由来したか否かを優れた正確度で判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の肝組織特異的マーカーの発掘過程を概略的に示す。
図2】発掘した肝組織特異的マーカーの変数重要度プロット(variable importance plot、VarImp Plot)を示す。
図3】発掘した肝組織特異的マーカーの数による性能を確認した結果を示す。
図4】Aは最終選別したcg12137206、cg03792768マーカーのメチル化レベルを正常肝組織(Liver N)および肝癌組織(Liver T)で確 認した結果、Bは肝癌サンプルの正常肝組織(LIHC_N)と肝癌組織(LIHC_T)、肝を除いたその他正常組織(Pan_N)および癌組織(Pan_T)で確認した結果を示す。
図5】cg12137206マーカーのメチル化レベルを多様な正常組織(A)と癌組織(B)で確認した結果を示す。
図6】cg03792768マーカーのメチル化レベルを多様な正常組織(A)と癌組織(B)で確認した結果を示す。
図7】cg12137206およびcg03792768マーカーのメチル化レベルを主要な正常組織と癌組織で確認した結果を示す:膀胱(bladder、BL)、乳房(breast、BR)、子宮頚部(cervis、CE)、大腸(colon、CO)、食道(esophagus、ES)、膠芽腫(glioblastoma、GB)、頭部および頚部(head and neck、HN)、腎臓(kidney、KI)、肝(liver、LI)、肺(lung、LU)、膵臓(pancreas、PA)、傍神経節腫(paraganglioma、PC)、前立腺(prostate、PR)、直腸(rectum、RE)、肉腫(sarcoma、SA)、皮膚(skin、SK)、胃(stomach、ST)、胸腺(thymus、TH)、子宮(uterine、UC)および血液(blood、B)。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、一つ以上の具体例を実施例を通じてより詳細に説明する。しかし、これら実施例は、一つ以上の具体例を例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれら実施例に限定されるのではない。
【0031】
実施例1:肝組織特異的メチル化マーカーの発掘
癌遺伝体地図(The Cancer Genome Atlas;以下、TCGAと記載する)から多様な癌腫および正常組織に対するDNAメチル化データをダウンロードした。TCGAでダウンロードしたデータから肝癌組織サンプル(n=379)でメチル化されたCpGサイトを選別し、この中で他の組織の癌腫サンプル(n=7、260)では非メチル化されたCpGサイトを追加的に選別した。この時、基準は50%以上のサンプルでメチル化された場合はメチル化、90%以上のサンプルで非メチル化された場合は非メチル化に分類した。
【0032】
その後、前記追加選別されたCpGサイトから肝癌を除いた癌腫サンプル(pan-tumor)の90%で非メチル化されたCpGサイト、肝を除いた正常組織(pan-normal)の90%で非メチル化されたCpGサイトを追加的に選別した。
【0033】
図1に本発明の肝組織特異的マーカーの発掘過程を概略的に示した。
【0034】
実施例2:肝組織特異的メチル化マーカーの性能検証
ランダムフォレスト方法で前記実施例1で発掘した肝組織特異的マーカーの変数重要度プロット(variable importance plot、VarImp Plot)を作成し、これを図2に示した。図2で、X軸のMeanDecreaseAccuracyは、肝組織/その他組織の区分において各マーカーが正確度の改善に寄与する程度、Y軸のMeanDecreaseGiniは、肝組織/その他組織の区分において各マーカーが不純度の改善に寄与する程度を示す。つまり、値が大きいほどそのマーカーが肝組織とその他組織を明確に区分できることを意味する。
【0035】
次に、実施例1で使用した癌組織のメチル化データを無作為に訓練データと検証データに区分して肝組織特異的マーカーをテストした。その結果、下表1に記載されたとおり、発掘したマーカーが肝組織とその他組織を高い効率と正確度で区分することを確認することができた。肝組織特異的マーカーの性能は、正確度(accuracy)0.9988、敏感度(sensitivity)0.9884、特異度(specificity)0.9994、曲線下面積(area under the curve、AUC)0.9999と示された。
【0036】
【表1】
【0037】
また、マーカーの数による性能を確認するためにマーカーの数を異にして5回ずつテストし、平均値を確認した。その結果、表2および図3に示したように2個以上のマーカーを使用した場合、性能が0.999に収束することが分かった。
【0038】
【表2】
【0039】
また、変数重要度プロットで重要度が高いと出た2個のマーカー(cg12137206、cg03792768)の性能を追加的に検証した。その結果、下表3に記載されたとおり、前記マーカーが肝組織とその他組織を明確に区分することを確認することができた。正確度0.9982、敏感度0.9647、特異度1、曲線下面積(AUC)0.9939と示された。
【0040】
【表3】
【0041】
前記結果を根拠にcg12137206、cg03792768マーカーを肝組織特異的マーカーとして最終選別した。下表4および5にcg12137206、cg03792768マーカーの情報および配列を記載した。
【0042】
【表4】
【0043】
【表5】
【0044】
-前記表で[CG]は、各プローブのターゲットメチル化部位を意味する。
【0045】
実施例3:最終選別した肝組織特異的マーカーの検証
最終選別したcg12137206、cg03792768マーカーの肝組織、他の組織でのメチル化レベルを確認した。その結果、図4のAに示すように正常肝組織(Liver N)と肝癌組織(Liver T)の全てにおいて2個のマーカーが高いレベルでメチル化されることが分かり、図4のBに示すように2個のマーカー共にその他癌組織およびその他正常組織ではメチル化レベルが低いことが分かった。
【0046】
図5図7に肝組織とその他組織で確認したcg12137206、cg03792768マーカーのメチル化レベルを示し、表6~8には前記マーカーの交差検証結果を記載した。
【0047】
【表6】
【0048】
【表7】
【0049】
【表8】
【0050】
以上の結果を通じて、cg12137206、cg03792768マーカーは、肝組織ではメチル化レベルが高く、その他組織ではメチル化レベルが低いことが分かり、したがって前記2個のマーカーは、肝組織特異的マーカーとして使用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
0007412549000001.app