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特許7412565金属部材、金属樹脂複合体、及び金属部材の製造方法
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  • 特許-金属部材、金属樹脂複合体、及び金属部材の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】金属部材、金属樹脂複合体、及び金属部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23F 1/20 20060101AFI20240104BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20240104BHJP
   B29C 65/70 20060101ALI20240104BHJP
   B32B 3/30 20060101ALI20240104BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20240104BHJP
   B32B 27/06 20060101ALI20240104BHJP
【FI】
C23F1/20
B29C45/14
B29C65/70
B32B3/30
B32B15/08 P
B32B27/06
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022538048
(86)(22)【出願日】2021-07-21
(86)【国際出願番号】 JP2021027416
(87)【国際公開番号】W WO2022019339
(87)【国際公開日】2022-01-27
【審査請求日】2022-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2020125708
(32)【優先日】2020-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島▲崎▼ 絢也
(72)【発明者】
【氏名】住田 大樹
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-018547(JP,A)
【文献】特許第7225269(JP,B2)
【文献】特開2019-077038(JP,A)
【文献】国際公開第2015/087722(WO,A1)
【文献】特開2018-144475(JP,A)
【文献】特開2014-136366(JP,A)
【文献】国際公開第2009/031632(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/061520(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F1/20
B29C45/14
B29C65/70
B32B3/30
B32B15/08
B32B27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に樹枝状層が形成された領域を有し、
前記領域の算術平均粗さRaは、0.2μm以上2.5μm以下であり、
材質がアルミニウム合金である、金属部材。
【請求項2】
表面に樹枝状層が形成された領域を有し、
前記領域のCIE1976(L)色空間におけるL値は、65以上であり、
前記領域の算術平均粗さRaは、0.2μm以上であり、
材質がアルミニウム合金である、金属部材。
【請求項3】
表面に樹枝状層が形成された領域を有し、
前記領域の算術平均粗さRaは、0.2μm以上20.0μmであり、
前記領域において、X線光電子分光法(XPS)で測定された表面における金属酸化物の存在割合は、金属酸化物、金属水酸化物、及び水の合計に対して80面積%以上であり、
材質がアルミニウム合金である、金属部材。
【請求項4】
表面に樹枝状層が形成された領域を有し、
前記領域の算術平均粗さRaは、0.2μm以上20.0μm以下であり、
前記領域の十点平均粗さRzjisは、2.0μm以上2.57μm以下であり、
材質がアルミニウム合金である、金属部材。
【請求項5】
前記領域の算術平均粗さRaは、0.3μm以上である、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の金属部材。
【請求項6】
前記領域は表面が粗化されており、前記領域において、前記金属部材の表面が粗化されていない状態と前記金属部材の表面が粗化されている状態とのCIE1976(L)色空間におけるL値の差の絶対値は、6.0以下である、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の金属部材。
【請求項7】
前記領域において、X線光電子分光法(XPS)で測定された前記金属部材の表面における金属酸化物の存在割合は、金属酸化物、金属水酸化物、及び水の合計に対して80面積%以上である、請求項1、請求項2、請求項4、請求項5及び請求項6のいずれか1項に記載の金属部材。
【請求項8】
前記領域において、前記金属部材の表面をフーリエ変換赤外分光分析し、3400cm-1に観測される吸収ピークの吸光度をAとし、3800cm-1の吸光度と2500cm-1の吸光度とを結んだ直線の3400cm-1における吸光度をAとしたときに、吸光度差(A-A)が0.03以下である、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の金属部材。
【請求項9】
前記金属部材のSiの含有量は、前記金属部材の総量に対して、6質量%未満である、請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の金属部材。
【請求項10】
前記領域の算術平均粗さRaは、5.0μm以下である、請求項2~請求項4のいずれか1項に記載の金属部材。
【請求項11】
前記領域の算術平均粗さRaは、2.5μm以下である、請求項2~請求項4のいずれか1項に記載の金属部材。
【請求項12】
前記樹枝状層の主幹の平均本数密度は、5本/μm以上70本/μm以下である、請求項1~請求項11のいずれか1項に記載の金属部材。
【請求項13】
請求項1~請求項12のいずれか1項に記載の金属部材と、
前記領域において、前記金属部材の表面の少なくとも一部に前記樹枝状層を介して接合された樹脂部材とを備える、金属樹脂複合体。
【請求項14】
表面に樹枝状層が形成された領域を有し、前記領域の算術平均粗さRaは、0.20μm以上であり、材質がアルミニウム合金である、金属部材を製造する方法であって、
金属部材の表面の少なくとも一部を、酸化性酸性水溶液でエッチングして、樹枝状層を形成する樹枝状層形成工程と、
前記金属部材の表面のうち前記樹枝状層が形成される領域の表面を粗化して、前記領域の表面の算術平均粗さRaを20.0μm以下、又は前記領域の表面のCIE1976(L )色空間におけるL値を65以上にする粗化工程と、
を含み、
前記酸化性酸性水溶液は、25℃における標準電極電位Eが-0.2超え0.8以下である金属カチオンを含
前記粗化工程、及び前記樹枝状層形成工程は、この順で実行される、金属部材の製造方法。
【請求項15】
前記酸化性酸性水溶液は、酸化第二銅を含む、請求項14に記載の金属部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材、金属樹脂複合体、及び金属部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気分野及び自動車分野を中心に、接着剤を使用することなく金属部材と樹脂部材とを一体化させる技術(以下、「金属樹脂一体化技術」という)の開発が活発化している。
【0003】
特許文献1は、複合体を開示している。特許文献1に開示の複合体は、金属部材と、樹脂部材とからなる。金属部材の表面は、陽極酸化法で形成された孔の開口部で覆われている。開口部の孔は、電子顕微鏡観察による測定で数平均内径10~80nmである。樹脂部材は、射出成形によって金属部材に固着している。樹脂部材の樹脂分組成は、ポリフェニレンスルフィド70~99質量%及びポリオレフィン系樹脂1~30質量%を含む。
【0004】
特許文献1:特開2007-50630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示の複合体は、金属部材と、樹脂部材との接合強度が十分でないおそれがあった。
【0006】
金属樹脂一体化技術では、樹脂部材は、金属部材の表面のうち粗化された粗化面の一部に接合される場合がある。この場合、金属部材の粗化面のうち、樹脂部材が接合されない領域(以下、「露出領域」という。)は、露出する。金属部材の材質が持つ独特の金属光沢等は、粗化によって失われてしまうおそれがある。そのため、特に、工業デザイン等の分野においては、露出領域において、粗化に起因する外観変化が抑制された技術が求められている。
【0007】
本開示は、上記事情に鑑み、粗化に起因する外観変化が抑制され、かつ接着剤等を用いなくても樹脂部材との十分な接合強度を確保することができる金属部材、金属樹脂複合体、及び金属部材の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> 表面に樹枝状層が形成された領域を有し、
前記領域の算術平均粗さRaは、20.0μm以下である、金属部材。
<2> 表面に樹枝状層が形成された領域を有し、
前記領域のCIE1976(L)色空間におけるL値は、65以上である、金属部材。
<3> 前記領域の算術平均粗さRaは、0.3μm以上である、前記<1>又は<2>に記載の金属部材。
<4> 前記領域は表面が粗化されており、前記領域において、前記金属部材の表面が粗化されていない状態と前記金属部材の表面が粗化されている状態とのCIE1976(L)色空間におけるL値の差の絶対値は、6.0以下である、前記<1>~<3>のいずれか1つに記載の金属部材。
<5> 前記領域において、X線光電子分光法(XPS)で測定された前記金属部材の表面における金属酸化物の存在割合は、金属酸化物、金属水酸化物、及び水の合計に対して80面積%以上である、前記<1>~<4>のいずれか1つに記載の金属部材。
<6> 前記金属部材は、アルミニウムを含み、
前記領域において、前記金属部材の表面をフーリエ変換赤外分光分析し、3400cm-1に観測される吸収ピークの吸光度をAとし、3800cm-1の吸光度と2500cm-1の吸光度とを結んだ直線の3400cm-1における吸光度をAとしたときに、吸光度差(A-A)が0.03以下である、前記<1>~<5>のいずれか1つに記載の金属部材。
<7> 前記金属部材は、アルミニウムを含み、
前記金属部材のSiの含有量は、前記金属部材の総量に対して、6質量%未満である、前記<1>~<6>のいずれか1つに記載の金属部材。
<8> 前記領域の算術平均粗さRaは、5.0μm以下である、前記<1>~<7>のいずれか1つに記載の金属部材。
<9> 前記領域の算術平均粗さRaは、2.5μm以下である、前記<1>~<8>のいずれか1つに記載の金属部材。
<10> 前記樹枝状層の主幹の平均本数密度は、5本/μm以上70本/μm以下である、前記<1>~<9>のいずれか1つに記載の金属部材。
<11> 前記<1>~<10>のいずれか1つに記載の金属部材と、
前記領域において、前記金属部材の表面の少なくとも一部に前記樹枝状層を介して接合された樹脂部材とを備える、金属樹脂複合体。
<12> 金属部材の表面の少なくとも一部を、酸化性酸性水溶液でエッチングして、樹枝状層を形成する樹枝状層形成工程を含み、
前記酸化性酸性水溶液は、25℃における標準電極電位Eが-0.2超え0.8以下である金属カチオンを含む、金属部材の製造方法。
<13> 前記金属部材の表面のうち前記樹枝状層が形成される領域の表面を粗化して、前記領域の表面の算術平均粗さRaを20.0μm以下、又は前記領域の表面のCIE1976(L)色空間におけるL値を65以上にする粗化工程を含み、
前記粗化工程、及び前記樹枝状層形成工程は、この順で実行される、前記<12>に記載の金属部材の製造方法。
<14> 前記酸化性酸性水溶液は、酸化第二銅を含む、前記<12>又は<13>に記載の金属部材の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、粗化に起因する外観変化が抑制され、かつ接着剤等を用いなくても樹脂部材との十分な接合強度を確保することができる金属部材、金属樹脂複合体、及び金属部材の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の第1実施形態に係る金属部材の断面図である。
図2】本開示の第1実施形態に係る金属部材の断面図である。
図3】吸光度差(A-A)を説明するためのフーリエ変換赤外分光分析のスペクトルチャートである。
図4】本開示の第1実施形態に係る金属樹脂複合体の斜視図である。
図5】実施例1の金属部材の断面を撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)写真(撮影倍率:10万倍)である。
図6】表面粗さの測定方法を説明するための金属部材の上面図である。
図7】実施例1の金属樹脂複合体の断面を撮影したSEM写真(撮影倍率:5万倍)である。
図8】実施例1、参考例1、及び参考例2の吸光度差(A-A)を測定するためのフーリエ変換赤外分光分析のスペクトルチャートである。
図9】実施例13の金属部材の断面を撮影したSEM写真(撮影倍率:10万倍)である。
図10】実施例14の金属部材の断面を撮影したSEM写真(撮影倍率:10万倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本開示に係る金属部材、金属樹脂複合体、及び金属部材の製造方法の実施形態について説明する。図中、同一又は相当部分については同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0012】
(1)第1実施形態
図1図3を参照して、本開示の第1実施形態に係る金属部材1について説明する。図1は、本開示の第1実施形態に係る金属部材1の断面図である。詳しくは、図1は、接合用領域R1における樹枝状層11の断面を示す。
【0013】
金属部材1は、金属樹脂複合体100の部品として好適に用いられる。金属樹脂複合体100は、金属部材1と樹脂部材2との一体化物である。樹脂部材2は、接着剤、ボルト、リベットなどを用いずに金属部材1に固定されている。金属樹脂複合体100の詳細については、図4を参照して後述する。
【0014】
第1実施形態では、金属部材1は、図1に示すように、表面S1に樹枝状層11が形成された領域R1(以下、「接合用領域R1」という。)を有する。接合用領域R1の算術平均粗さRaは、20.0μm以下である。
【0015】
樹枝状層11は、複数の幹からなり、幹の間がナノオーダーの間隙を有する層である。幹は更に分かれた枝を有してもよい。以下、接合用領域R1の表面S1から林立している幹を「主幹」といい、主幹から分かれた枝を「主枝」といい、主枝から分かれた枝を「側枝」という。樹枝状層11の詳細については、図1を参照して後述する。
【0016】
第1実施形態では、金属部材1は、接合用領域R1を有する。そのため、樹脂部材2が金属部材1に接合される際、樹脂部材2の溶融物は、樹枝状層11の凹部内に効果的に侵入する。これにより、金属部材1と樹脂部材2との間には、物理的な抵抗力(アンカー効果)が効果的に発現する。つまり、樹枝状層11は、従来では困難であった金属部材1と樹脂部材2とを強固に接合させることができる。接合用領域R1の算術平均粗さRaは、20.0μm以下で、粗化に起因する外観変化は、抑制されている。その結果、金属部材1は、粗化に起因する外観変化が抑制され、かつ接着剤等を用いなくても樹脂部材2との十分な接合強度を確保することができる。
【0017】
金属部材1の巨視的な形状は、特に限定されず、金属樹脂複合体100等の用途に応じて適宜調整され得る。金属部材1の巨視的な形状としては、例えば、平板状、円板状、曲板状、棒状、筒状、塊状等が挙げられる。金属部材1の表面S1の巨視的な形状としては、特に限定されず、例えば、平面状、曲面状等が挙げられる。
【0018】
金属部材1の材質としては、例えば、アルミニウム、マグネシウム、銅、ステンレス、チタン、鉄、青銅、マンガン、クロム、スズ、ジルコニア、鉛、ニッケル、これらの合金等が挙げられる。金属部材1の材質としては、加工性、及び耐食性等に優れる観点から、アルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。
【0019】
以下、JIS H4000で規定の合金番号を「合金番号」という。
【0020】
アルミニウム及びアルミニウム合金としては、例えば、純Al(合金番号:1000系)、Al-Cu系合金(合金番号:2000系)、Al-Mn系合金(合金番号:3000系)、Al-Si系合金(合金番号:4000系)、Al-Mg系合金(合金番号:5000系)、Al-Mg-Si系合金(合金番号:6000系)、Al-Zn系合金(合金番号:7000系)等が挙げられる。純Alとしては、例えば、1050、1100、1200等が挙げられる。Al-Cu系合金としては、2011、2014、2017、2024等が挙げられる。Al-Mn系合金としては、3003、3004等が挙げられる。Al-Si系合金としては、4032等が挙げられる。Al-Mg系合金としては、例えば、5005、5052、5083等が挙げられる。Al-Mg-Si系合金としては、例えば、6061、6063等が挙げられる。Al-Zn系合金としては、7075等が挙げられる。
【0021】
以下、アルミニウムを含む金属部材1を「アルミニウム系金属部材1」という場合がある。
【0022】
アルミニウム系金属部材1は、金属部材1のSiの含有量が、金属部材1の総量に対して、6質量%未満であることが好ましい。アルミニウム系金属部材1としては、1050、1100、2014、2024、3003、5052、6063、又は7075が好ましい。
【0023】
(1.1)接合用領域R1
次に、図1図3を参照して、本開示の第1実施形態に係る接合用領域R1について説明する。図2は、本開示の第1実施形態に係る金属部材1の断面図である。詳しくは、図2は、接合用領域R1における樹枝状層11及び凹凸構造12の断面を示す。
【0024】
接合用領域R1は、金属部材1の表面S1の少なくとも一部であればよく、例えば、金属樹脂複合体100の用途等に応じて適宜調整され得る。具体的に、接合用領域R1は、金属部材1の表面S1の全面であってもよいし、金属部材1の表面S1が複数の主面を有する場合、複数の主面のうち一部の主面の全面又は一部であってもよい。
【0025】
第1実施形態では、接合用領域R1の算術平均粗さ(Ra)の上限は、粗化に起因する外観変化が抑制する観点から、20.0μm以下であり、好ましくは10.0μm以下、より好ましくは8.0μm以下、さらに好ましくは6.0μm以下、特に好ましくは5.0μm以下、一段と好ましくは2.5μm以下である。
【0026】
接合用領域R1の算術平均粗さ(Ra)の下限は、好ましくは0.2μm以上、より好ましくは0.3μm以上である。算術平均粗さ(Ra)の下限が0.2μm以上であると、樹脂部材2が金属部材1に接合される際、十分な接合強度が得られる。
【0027】
接合用領域R1の算術平均粗さ(Ra)の下限が上記範囲内であることは、接合用領域R1における金属部材1の表面S1に、図2に示すようなマイクロオーダーの凹凸構造12が形成されていることを示す。樹枝状層11は、凹凸構造12の表面S12に形成されている。凹凸構造12の表面S12は、金属部材1の表面S1の少なくとも一部を構成している。この場合、接合用領域R1における金属部材1の表面S1は、ダブル粗面となる。ダブル粗面は、ナノオーダーの樹枝状層11と、マイクロオーダーの凹凸構造12とからなる。
【0028】
算術平均粗さ(Ra)の下限が上記範囲内であれば、樹脂部材2が金属部材1の接合用領域R1に接合される場合、金属部材1と樹脂部材2との間には、凹凸構造12に起因して、物理的な抵抗力(アンカー効果)がより効果的に発現する。そのため、金属部材1と樹脂部材2との接合強度はより向上する。算術平均粗さ(Ra)の下限が上記範囲内であれば、金属樹脂複合体100がインサート成形で製造される際、金型の温度を算術平均粗さ(Ra)の下限が上記範囲外である場合よりも大幅に低くしても、金属樹脂複合体100は製造され得る。この結果、金属樹脂複合体100が金型から取り出された後、環境温度までに冷却される過程で発生する金属樹脂複合体100の反り量及び変形量は、抑制される。
【0029】
算術平均粗さ(Ra)の測定方法は、JIS B 0601に準拠した実施例に記載の方法と同様である。ナノオーダーの樹枝状層11は、算術平均粗さ(Ra)の測定にほぼ影響しない。
【0030】
接合用領域R1の十点平均粗さ(Rzjis)の上限は、好ましくは50μm以下、より好ましくは35μm以下、更に好ましくは25μm以下、特に好ましくは15μm以下である。接合用領域R1の十点平均粗さ(Rzjis)の下限は、好ましくは2μm以上、より好ましくは5μm以上である。十点平均粗さ(Rzjis)の測定方法は、JIS B 0601に準拠した実施例に記載の方法と同様である。ナノオーダーの樹枝状層11は、十点平均粗さ(Rzjis)の測定にほぼ影響しない。
【0031】
十点平均粗さ(Rzjis)の上限が35μm以下であれば、金属部材1がアルミニウム系金属部材1である場合、接合用領域R1のL値は70以上になりやすい。十点平均粗さ(Rzjis)の上限が25μm以下であれば、金属部材1がアルミニウム系金属部材1である場合、接合用領域R1のL値は75以上になりやすい。十点平均粗さ(Rzjis)の上限が15μm以下であれば、金属部材1がアルミニウム系金属部材1である場合、接合用領域R1のL値は80以上になりやすい。L値については、後述する。
【0032】
十点平均粗さ(Rzjis)の下限が2μm以上であれば、接合強度は、24MPa以上になりやすい。十点平均粗さ(Rzjis)の下限が5μm以上であれば、接合強度は、25MPa以上になりやすい。接合強度の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。この段落において、接合強度とは、実施例1と同じ材質の樹脂部材2が金属部材1の接合用領域R1に接合された際の金属部材1と樹脂部材2との接合強度を示す。
【0033】
接合用領域R1の粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)(以下、「平均長さ(RSm)」という。)の上限は、好ましくは400μm未満、より好ましくは350μm以下、更に好ましくは330μm以下、特に好ましくは250μm以下、さらにより好ましくは230μm以下である。平均長さ(RSm)の下限は、好ましくは10μm超、より好ましくは50μm以上、更に好ましくは70μm以上である。平均長さ(RSm)の測定方法は、JIS B 0601に準拠した実施例に記載の方法と同様である。ナノオーダーの樹枝状層は、平均長さ(RSm)の測定にほぼ影響しない。
【0034】
以下、接合用領域R1の算術平均粗さ(Ra)、十点平均粗さ(Rzjis)、及び平均長さ(RSm)をまとめて「表面粗さ」という場合がある。
【0035】
第1実施形態では、接合用領域R1のCIE1976(L)色空間におけるL値の下限は、好ましくは65以上、より好ましくは70以上、更に好ましくは75以上、特に好ましくは80以上、一段と好ましくは85以上である。L値の下限は、高ければ高いほど好ましい。L値は、明度を示す。L値が高いほど、粗化前の金属光沢に近いことを示す。一般的に、金属部材1の平坦面のL値は、金属部材1の材質がアルミニウム系金属部材1である場合は、90程度(以下、「未処理L値」と記載する。)である。L値の下限が上記範囲内であれば、接合用領域R1のL値と、未処理L値との差は、最大で25程度となる。そのため、接合用領域R1の表面粗さは、平坦面に対して目立ちにくい。そのため、金属部材1のL値が高いほど、表面粗さに起因する外観変化がより生じにくいことを示す。L値の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。なお、実施例に記載の方法で測定されるL値の測定値には微量の誤差が生じ得る。L値の測定値の微量の誤差は、例えば、±4程度である。
【0036】
接合用領域R1は表面が粗化されている場合、接合用領域R1において、金属部材1の表面S1が粗化されていない状態と金属部材1の表面S1が粗化されている状態とのCIE1976(L)色空間におけるL値の差の絶対値は、好ましくは6.0以下、より好ましくは5.0以下、更に好ましくは3.0以下である。L値の差の絶対値が上記範囲内であれば、金属部材1の表面S1が粗化されていない状態の金属光沢と、金属部材1の表面S1が粗化されている状態の金属光沢とは、同等もしくは同等に近い。すなわち、金属部材1の表面S1が粗化されていない状態と金属部材1の表面S1が粗化されている状態との間で、外観変化が少ないことを意味する。
【0037】
本開示において、金属部材1の表面S1が粗化されていない状態とは、第1状態と、第2状態とを含む。第1状態とは、接合用領域R1において、樹枝状層11及び凹凸構造12が粗化によって形成される前の状態を示す。つまり、第1状態では、L値の差の絶対値は、金属部材1の接合用領域R1の所定部位において、粗化前後によるL値の差の絶対値を示す。第2状態とは、接合用領域R1が金属部材1の表面S1の一部に形成されている場合に、金属部材1の表面S1のうち接合用領域R1ではない領域を示す。つまり、第2状態では、L値の差の絶対値は、接合用領域R1内のL値と、接合用領域R1外のL値との差の絶対値を示す。
【0038】
アルミニウム系金属部材1では、接合用領域R1において、金属部材1の表面S1をフーリエ変換赤外分光分析による、吸光度差(A-A)の上限は、好ましくは0.030以下、より好ましくは0.020以下である。吸光度差(A-A)の下限は、より好ましくは0.005以上、さらに好ましくは0.010以上である。
【0039】
図3は、吸光度差(A-A)を説明するためのフーリエ変換赤外分光分析のスペクトルチャートである。図3中、Aは、3400cm-1に観測される吸収ピークの吸光度を示す。Aは、3800cm-1の吸光度と2500cm-1の吸光度とを結んだ直線の3400cm-1における吸光度を示す。(A-A)は、3400cm-1におけるAとAとの吸光度差を示す。フーリエ変換赤外分光分析には、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)が用いられる。フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)の測定においては、高感度反射法(RAS法)を採用し、赤外光の入射角は85°である。
【0040】
フーリエ変換赤外分光分析で観測される、3400cm-1にピークトップを持つブロードな吸収ピークは、アルミニウム水酸化物、又はアルミニウム水和酸化物に起因するピークと推定される。吸光度差(A-A)は金属部材1の表面S1の水酸基の保有程度を示す指標である。
【0041】
金属部材1の表面S1の水酸基量と接合強度との関係については、未だ不明確な点が多い。本発明者らは、この関係について、以下のように考えている。すなわち、金属部材1の表面S1上により多くの水酸基がある場合、環境中の水分は、金属部材1の表面S1に吸着しやすくなる。そのため、金属部材1の表面S1には、水分子層を形成し易くなる。特に、高湿度環境下では、金属部材1の表面S1は、水分子層がより形成されやすい。その結果、金属部材1と樹脂部材2との間の接合強度は、低下するおそれがあると考えている。
従って、吸光度差(A-A)が0.030以下であることは、接合用領域R1の水酸基の保有量が比較的少ないことを示す。つまり、水分子層は、接合用領域R1における金属部材1の表面S1に形成されにくい。その結果、金属部材1は、樹脂部材2が接合用領域R1に接合され、得られる金属樹脂複合体100が高湿度環境下に曝された場合であっても、より長期に亘って十分な接合強度を維持することができる。
【0042】
接合用領域R1において、X線光電子分光法(XPS)で測定された金属部材1の表面S1における金属酸化物の存在割合の下限は、金属酸化物、金属水酸化物、及び水の合計に対して、好ましくは80面積%以上、より好ましくは85面積%以上、さらに好ましくは90面積%以上である。つまり、接合用領域R1の表面S1は、金属酸化物が主成分であることが好ましい。接合用領域R1における金属酸化物の存在割合の下限が上記範囲内であれば、水分子層は、接合用領域R1における金属部材1の表面S1により形成されにくい。水分子層は、環境中の水分の吸収によって形成される。その結果、金属部材1は、樹脂部材2が接合用領域R1の表面S1に接合され、得られる金属樹脂複合体100が高湿度環境下に曝された場合であっても、より長期に亘って十分な接合強度を維持することができる。
【0043】
接合用領域R1において、金属酸化物の存在割合は、X線光電子分光法(XPS)によって測定された結合エネルギーの分布のうち、O2-のエネルギーピーク(面積%)から得られる。XPSは、アルゴンスパッタ処理等によって接合用領域R1の表面S1の油分を除去した後、接合用領域R1の直径数mmの測定範囲で測定される。得られる物質の存在割合は、この測定範囲の平均を示す。金属部材1がアルミニウム系金属部材1である場合、金属酸化物はAlを示し、金属水酸化物はAl(OH)を示し、O2-のエネルギーピークはAlのエネルギーピークを示す。
【0044】
接合用領域R1の比表面積の上限は、好ましくは1.00m/g以下、より好ましくは0.50m/g以下である。接合用領域R1の比表面積の下限は、好ましくは0.01m/g以上、より好ましくは0.05m/gである。接合用領域R1の比表面積が上記範囲内であれば、樹脂部材2が金属部材1に接合される際、樹脂部材2の溶融物の金属部材1への樹脂部材2の侵入量はより大きい。その結果、金属部材1は、樹脂部材2との接合強度を向上させることができる。接合用領域R1の比表面積の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0045】
(1.2)樹枝状層
次に、図1図3を参照して、本開示の第1実施形態に係る樹枝状層11について説明する。
【0046】
樹枝状層11の平均厚みT11(図1参照)の上限は、好ましくは1000nm未満、より好ましくは900nm以下、さらに好ましくは800nm以下、特に好ましくは700nm以下である。樹枝状層11の平均厚みT11の下限は、好ましくは20nm以上、より好ましくは30nm以上、さらに好ましくは50nm以上、特に好ましくは100nm以上である。樹枝状層11の平均厚みT11の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0047】
樹枝状層11の平均厚みT11が上記範囲内であれば、接合用領域R1の少なくとも一部に樹脂部材2が接合された際、金属部材1は、樹脂部材2との十分な接合強度をより長期に亘って維持することができる。更に、接合用領域R1の表面特性の変質の発生は抑制され得る。すなわち、可使時間(ポットライフ)は、より一層延長することができる。そのため、例えば、金属樹脂複合体100を、射出成形の一種であるインサート成形で製造する際、所定数の金属部材1を一括して製造しておき、可使時間内に順次使用すればよい。換言すると、金属樹脂複合体100を製造するたびに、その直前に金属部材1は製造されなくてもよい。
【0048】
樹枝状層11の主幹の平均本数密度の上限は、好ましくは70本/μm以下、より好ましくは40本/μm以下、さらに好ましくは35本/μm以下、特に好ましくは30本/μm以下である。樹枝状層11の主幹の平均本数密度の下限は、好ましくは5本/μm以上、より好ましくは7本/μm以上、更に好ましくは10本/μm以上である。樹枝状層11の主幹の平均本数密度は、実施例に記載の方法と同様である。
【0049】
樹枝状層11の主幹の平均本数密度が上記範囲内であれば、接合用領域R1の少なくとも一部に樹脂部材2が接合された際、金属部材1は、樹脂部材2との間でより強い接合強度を発現することができる。
【0050】
(2)金属樹脂複合体
次に、図1図4を参照して、本開示の第1実施形態に係る金属樹脂複合体100について説明する。図4は、本開示の第1実施形態に係る金属樹脂複合体100の斜視図である。
【0051】
金属樹脂複合体100は、図4に示すように、金属部材1と、樹脂部材2とを備える。樹脂部材2は、接合用領域R1において、金属部材1の表面S1の一部(以下、「接合領域R1A」という。)に樹枝状層11を介して接合されている。
【0052】
以下、金属樹脂複合体100において、接合用領域R1のうち接合領域R1Aではない領域R1Bを「露出領域R1B」という。
【0053】
なお、第1実施形態では、接合用領域R1は、露出領域R1Bを有するが、本発明はこれに限定されず、接合用領域R1は、露出領域R1Bを有していなくてもよい。
【0054】
金属樹脂複合体100における金属部材1の露出領域R1Bは、接合用領域R1の一部である。そのため、露出領域R1Bにおける外観変化は抑制されている。これにより、金属樹脂複合体100は、デザインの自由度に優れる。金属樹脂複合体100において、接着剤、ボルト、リベットなどを用いずに、樹脂部材2は、樹枝状層11を介して金属部材1に接合されている。そのため、金属樹脂複合体100は、従来よりも部品点数が少なく、より軽量で、複雑な形状にも対応できる。
【0055】
金属樹脂複合体100において、金属部材1の接合領域R1Aは、表面微細組織(モルホロジー)を含む全ての点において、樹脂部材2が接合される前の金属部材1の接合用領域R1と実質同一である。すなわち、金属部材1の接合領域R1Aの微細組織は、樹脂部材2が接合される前後で大きく変化しない。
【0056】
(2.1)樹脂部材
樹脂部材2は樹脂組成物からなる。樹脂組成物は、熱可塑性樹脂及び熱可塑性樹脂の少なくとも一方を含む。
【0057】
以下、熱可塑性樹脂及び熱可塑性樹脂の少なくとも一方を「樹脂」という。
【0058】
熱可塑性樹脂は、特に限定されず、金属樹脂複合体100の用途等に応じて、適宜調整され得る。熱可塑性樹脂は、特に限定されない。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリメタクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂等のポリメタクリル系樹脂、ポリアクリル酸メチル樹脂等のポリアクリル系樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアルコール-ポリ塩化ビニル共重合体樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、無水マレイン酸-スチレン共重合体樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂等の芳香族ポリエーテルケトン、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、スチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、アイオノマー、アミノポリアクリルアミド樹脂、イソブチレン無水マレイン酸コポリマー、アクリロニトリル-タジエン-スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル-塩素化ポリエチレン-スチレン共重合体(ACS)、アクリロニトリル-エチレンプロピレンゴム-スチレン共重合体(AES)、アクリロニトリルスチレン共重合樹脂(AS)、アクリロニトリル-スチレン-アクリルゴム共重合樹脂(ASA)、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS)、エチレン-塩化ビニルコポリマー、エチレン-酢酸ビニルコポリマー、エチレン-酢酸ビニル-塩化ビニルグラフトポリマー、エチレン-ビニルアルコールコポリマー、塩素化ポリ塩化ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、カルボキシビニルポリマー、ケトン樹脂、非晶性コポリエステル樹脂、ノルボルネン樹脂、フッ素プラスチック、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、フッ素化エチレンポリプロピレン樹脂、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリクロロフルオロエチレン樹脂、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニル樹脂、ポリアリレート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリパラメチルスチレン樹脂、ポリアリルアミン樹脂、ポリビニルエーテル樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂やポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂等のポリアリーレン系樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、オリゴエステルアクリレート、キシレン樹脂、マレイン酸樹脂、ポリヒドロキシブチレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリグルタミン酸樹脂、ポリカプロラクトン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、スチレン-アクリロニトリル共重合体樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は一種単独で使用してもよいし、二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0059】
熱可塑性樹脂としては、金属部材1と樹脂部材2との高い接合強度をより一層安定的に得ることができるという観点から、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、及びポリアリーレン系樹脂から選択される一種または二種以上の熱可塑性樹脂が好適に用いられる。
【0060】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、ベンゾオキサジン樹脂等が挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は一種単独で使用してもよいし、二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0061】
樹脂組成物は、充填材を含有することが好ましい。これにより、金属部材1と樹脂部材2との線膨張係数差の調整することができるとともに、樹脂部材2の機械的強度を向上させることができる。
【0062】
充填材は、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、炭素粒子、粘土、タルク、シリカ、ミネラル、及びセルロース繊維からなる選択される1種または2種以上であることが好ましい。中でも、充填剤は、ガラス繊維、炭素繊維、タルク、及びミネラルから選択される1種または2種以上である。充填剤の形状は、特に限定されず、繊維状、粒子状、板状等が挙げられる。
【0063】
樹脂組成物が充填材を含む場合、充填材の含有量の上限は、樹脂100質量部に対して、好ましくは100質量部以下、より好ましくは90質量部以下、特に好ましくは80質量部以下である。充填材の含有量の下限は、樹脂100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上、特に好ましくは10質量部以上である。
【0064】
樹脂組成物は、配合剤を含有することが好ましい。これにより、樹脂部材2に所望の機能を付与することができる。配合剤としては、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、顔料、耐候剤、難燃剤、可塑剤、分散剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0065】
樹脂組成物が配合剤を含有する場合、配合剤の含有量の上限は、樹脂100質量部に対して、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。配合剤の含有量の下限は、樹脂100質量部に対して、好ましくは0.0001質量部以上、より好ましくは0.001質量部以上である。
【0066】
(2.2)金属樹脂複合体の用途
金属樹脂複合体100は、上述したように、露出領域R1Bの外観変化が抑制され、金属部材1と樹脂部材2との接合強度は十分であるので、様々な用途に展開され得る。
【0067】
金属樹脂複合体100の用途としては、例えば、車両用構造部品、車両搭載用品、電子機器の筐体、家電機器の筐体、建築部材、構造用部品、機械部品、種々の自動車用部品、電子機器用部品、家具、台所用品等の家財向け用途、医療機器、建築資材の部品、その他の構造用部品、外装用部品等が挙げられる。
【0068】
(3)金属部材の製造方法
次に、本開示の第1実施形態に係る金属部材1の製造方法について説明する。
【0069】
金属部材1の製造方法は、第1準備工程と、樹枝状層形成工程とを含む。第1準備工程及び樹枝状層形成工程は、この順で実行される。
【0070】
金属部材1の製造方法は、第1準備工程及び樹枝状層形成工程の他に、前処理工程、置換工程、粗化工程、及び後処理工程の少なくとも1つを更に含むことが好ましい。金属部材1の製造方法が前処理工程、置換工程、粗化工程、及び後処理工程を更に含む場合、第1準備工程、前処理工程、置換工程、粗化工程、後処理工程、及び樹枝状層形成工程は、この順で実行される。
以下、金属部材1の製造方法が、第1準備工程及び樹枝状層形成工程の他に、前処理工程、置換工程、粗化工程、及び後処理工程を更に含む場合について、説明する。
【0071】
(3.1)第1準備工程
第1準備工程では、金属基材を準備する。金属基材の巨視的な形状、金属基材の表面の巨視的な形状、金属基材の材質の各々は、金属部材1と略同一である。
【0072】
金属基材を準備する方法は、特に限定されず、例えば、金属素材を加工する方法等が挙げられる。金属素材の材質は、金属部材1の材質と略同一である。金属素材の加工方法は、特に限定されず、例えば、塑性加工、除肉加工などが挙げられる。塑性加工としては、例えば、金属素材の切断、金属素材のプレス等が挙げられる。除肉加工としては、例えば、金属素材の打ち抜き加工、金属素材の切削、金属素材の研磨、金属素材の放電加工等が挙げられる。
【0073】
(3.2)前処理工程
前処理工程では、金属基材の表面に存在する被膜を除去する。被膜は、酸化物、水酸化物等からなる。被膜を除去する方法としては、例えば、アルカリ性水溶液による処理、機械研磨、化学研磨処理、脱脂処理、超音波洗浄処理等が挙げられる。アルカリ性水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等が挙げられる。
【0074】
(3.3)置換工程
置換工程では、金属基材に亜鉛イオン含有アルカリ水溶液を浸漬させる。これにより、金属基材の表面には、亜鉛含有被膜が形成される。
【0075】
亜鉛イオン含有アルカリ水溶液は、水酸化アルカリ(MOH又はM(OH))及び亜鉛イオン(Zn2+)を含有する。水酸化アルカリ(MOH又はM(OH))のMは、アルカリ金属、又はアルカリ土類金属である。
【0076】
以下、水酸化アルカリ(MOH又はM(OH))を、単に「水酸化アルカリ(MOH)」と記載する。
【0077】
水酸化アルカリ(MOH)の含有量は、亜鉛イオン(Zn2+)に対する水酸化アルカリ(MOH)の重量比(MOH/Zn2+)で、好ましくは1以上100以下である。置換処理は、例えば、国際公開第2013/47365号に開示された処理方法であってもよい。
【0078】
(3.4)粗化工程
第1実施形態において、粗化工程では、金属基材の表面のうち樹枝状層11が形成される領域の表面を粗化して、樹枝状層11が形成される領域の表面の算術平均粗さRaを20.0μm以下にする。樹枝状層11が形成される領域の表面を粗化して、算術平均粗さRaを0.3μm以上とすれば、金属基材の表面に凹凸構造12(図2参照)が形成される。これにより、樹脂部材2が金属部材1に接合される際、金属部材1と樹脂部材2との接合強度は、向上する。
【0079】
金属部材1の表面S1を粗化する方法は、特に限定されず、例えば、薬液処理、機械的切削処理等が挙げられる。機械研磨処理としては、例えば、サンドブラスト処理、ローレット加工、レーザー加工等が挙げられる。エッチング処理としては、例えば、アルカリ系エッチング剤を用いる処理、酸系エッチング剤を用いる処理等が挙げられる。これらの方法は単独で、または適宜組み合わせて用いることができる。これらの中でも、酸系エッチング剤による処理が好ましい。
【0080】
酸系エッチング剤は、第二鉄イオンと第二銅イオンの少なくとも一方と、酸を含むことが好ましい。これにより、金属基材の表面に置換工程で形成された亜鉛含有被膜を溶離させると共に、ミクロンオーダーの凹凸構造12(図2参照)を形成させることができる。酸系エッチング剤を用いる処理方法としては、例えば国際公開第2015/8847号、特開2001-348684号公報、国際公開第2008/81933号等に開示された処理方法を採用することができる。
【0081】
酸系エッチング剤の温度の上限は、好ましくは60℃以下、より好ましくは50℃以下である。酸系エッチング剤の温度の下限は、好ましくは常温以上、好ましくは30℃以上である。
【0082】
酸系エッチング剤の処理時間は、接合用領域R1の所望の算術平均粗さRa等に応じて、適宜調整される。酸系エッチング剤の処理時間を調整することにより、金属基材の表面に形成する表面粗さを調整することができる。酸系エッチング剤の処理時間の上限は、好ましくは600秒以内、より好ましくは500秒以内、さらに好ましくは150秒以内、特に好ましくは10秒以内である。
【0083】
酸系エッチング剤の処理時間が500秒であれば、接合用領域R1のL値は70以上になりやすい。酸系エッチング剤の処理時間が150秒であれば、接合用領域R1のL値は80以上になりやすい。酸系エッチング剤の処理時間が100秒であれば、接合用領域R1のL値は85以上になりやすい。
【0084】
(3.5)後処理工程
後処理工程では、金属基材の表面を洗浄する。洗浄方法としては、例えば、水洗、超音波洗浄等が挙げられる。
【0085】
(3.6)樹枝状層形成工程
樹枝状層形成工程では、金属基材の表面の少なくとも一部を、酸化性酸性水溶液でエッチングする。これにより、金属基材の表面に樹枝状層11が形成される。つまり、金属部材1が得られる。
【0086】
酸化性酸性水溶液は、25℃における標準電極電位Eが-0.2超え0.8以下、好ましくは0超え0.5以下の金属カチオンを含む。酸化性酸性水溶液は、25℃における標準電極電位Eが-0.2以下の金属カチオンを含まないことが好ましい。
【0087】
25℃における標準電極電位Eが-0.2超え0.8以下である金属カチオンとしては、Pb2+、Sn2+、Ag、Hg2+、Cu2+等が挙げられる。金属の希少性の視点、金属塩の安全性及び毒性の視点からCu2+が好ましい。Cu2+を発生させる化合物としては、水酸化銅、酸化第二銅、塩化第二銅、臭化第二銅、硫酸銅、硝酸銅等が挙げられる。無機化合物の安全性、毒性の視点、樹枝状層の付与効率の視点からは酸化第二銅が好ましく用いられる。
【0088】
酸化性酸性水溶液としては、例えば、第1水溶液、第2水溶液等が挙げられる。第1水溶液は、硝酸又は硝酸と、塩酸、弗酸、及び硫酸のいずれかを混合した酸を含む。第2水溶液は、過酢酸、又は過ギ酸を含む。酸化性酸性水溶液は、硝酸、及び酸化第二銅を含むことが好ましい。酸化第二銅は、金属カチオン発生化合物である。
【0089】
酸化性酸性水溶液中の硝酸濃度の上限は、好ましくは40質量%以下、より好ましくは38質量%以下、さらに好ましくは35質量%以下である。酸化性酸性水溶液中の硝酸濃度の下限は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上である。硝酸濃度の上限が40質量%以下であれば、金属部材1の表面S1は十分に粗化され得る。硝酸濃度の下限が10質量%以上であれば、銅イオンは酸化性酸性水溶液中に十分に溶解する。
【0090】
酸化性酸性水溶液中の銅イオン(第二銅イオン)濃度の上限は、好ましくは15質量%以下、より好ましくは12質量%以下、さらに好ましくは8質量%以下である。酸化性酸性水溶液中の銅イオン(第二銅イオン)濃度の下限は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは2質量%以上である。銅イオン濃度が15質量%以下であれば、酸化第二銅が酸化性酸性水溶液中に十分に溶解し、金属部材1の表面S1上に赤い銅残渣が発生しにくい。銅イオン濃度が1質量%以上であれば、金属基材の表面を効率良く粗化することができる。
酸化性酸性水溶液中の銅イオン(第二銅イオン)濃度を調整することで、樹枝状層11の主幹の平均本数密度を調整することができる。
【0091】
金属カチオンを含む酸化性酸性水溶液と接触する際の温度の上限は、好ましくは60℃以下、より好ましくは50℃以下である。温度の下限は、好ましくは常温以上、好ましくは30℃以上である。金属カチオンを含む酸化性酸性水溶液と接触する際の温度が上記範囲内であれば、発熱反応を制御しつつ経済的なスピードで超粗化処理を完結させることができる。処理時間の上限は、好ましくは15分以内、より好ましくは10分以内である。処理時間の下限は、好ましくは1分以上、より好ましくは2分以上である。
【0092】
(4)金属樹脂複合体の製造方法
次に、本開示の第1実施形態に係る金属樹脂複合体100の製造方法について説明する。
【0093】
金属樹脂複合体100の製造方法は、第2準備工程、第3準備工程、及び射出工程を含む。第2準備工程及び第3準備工程の各々は、射出工程の前に実行される。第2準備工程及び第3準備工程の各々の実行順は、特に限定されない。
【0094】
(4.1)第2準備工程
第2準備工程では、樹脂組成物を準備する。
【0095】
樹脂組成物を準備する方法としては、樹脂、必要に応じて充填材及び配合剤を混合装置により混合する方法等が挙げられる。混合装置としては、例えば、バンバリーミキサー、単軸押出機、二軸押出機、高速二軸押出機等が挙げられる。
【0096】
(4.2)第3準備工程
第3準備工程では、金属部材1を準備する。金属部材1を準備する方法は、金属部材1の製造方法で説明した方法と同様である。
【0097】
(4.3)射出工程
射出工程では、射出成形によって、金属部材1の接合用領域R1の接合領域R1Aに樹脂部材2を形成する。これにより、樹脂部材2は、樹枝状層11を介して金属部材1に接合される。つまり、金属樹脂複合体100が得られる。
【0098】
射出成形には、射出成形機が用いられる。射出成形機は、金型と、射出装置と、型締装置とを備える。金型は、可動側金型と、固定側金型とを備える。固定側金型は射出成形機に固定されている。可動側金型は、固定側金型に対して可動可能である。射出装置は、樹脂組成物の溶融物(以下、「樹脂溶融物」という。)を、所定の射出圧力で、金型のスプルーに流し込む。型締装置は、樹脂溶融物の充填圧力で可動側金型が開かないように、可動側金型を高圧で締め付ける。
【0099】
まず、可動側金型を開いて、金属部材1を固定側金型上に設置し、可動側金型を閉じて、型締を行う。つまり、金属部材1は、金型内に収容される。これにより、金属部材1と金型との間に樹脂部材用空間が形成される。樹脂部材用空間は、樹脂部材2を形成する空間を示す。
次いで、射出成形機は、樹脂部材用空間内に、樹脂溶融物を高圧で充填する。樹脂溶融物は、樹脂溶融物を示す。次いで、金型内の樹脂溶融物を冷却固化させる。これにより、樹枝状層11を介して接合領域R1Aに接合された樹脂部材2が形成される。つまり、金属樹脂複合体100が得られる。
【0100】
射出工程では、射出成形にあわせて、射出発泡成形、及び高速ヒートサイクル成形(RHCM,ヒート&クール成形)の少なくとも一方を併用してもよい。高速ヒートサイクル成形では、金型を急速に加熱冷却する。射出発泡成形の方法として、第1方法、第2方法、第3方法等が挙げられる。第1方法では、化学発泡剤を樹脂組成物に添加する。第2方法では、射出成形機のシリンダー部に直接、窒素ガスや炭酸ガスを注入する。第3方法では、窒素ガス又は炭酸ガスを超臨界状態で射出成形機のシリンダー部に注入する。これらのいずれの方法でも、金型の制御方法として、カウンタープレッシャーを使用したり、樹脂部材2の形状によってはコアバックを利用することができる。
【0101】
高速ヒートサイクル成形は、急速加熱冷却装置を金型に接続することにより、実施される。加熱方法として、蒸気式、加圧熱水式、熱水式、熱油式、電気ヒータ式、電磁誘導加熱式等が挙げられる。冷却方法としては、冷水式、冷油式等が挙げられる。
【0102】
高速ヒートサイクル成形法の条件としては、例えば、金型を100℃以上250℃以下の温度に加熱し、樹脂溶融物の射出が完了した後、金型を冷却することが望ましい。金型の温度は、熱可塑性樹脂の種類に応じて適宜調整され得る。熱可塑性樹脂が結晶性樹脂で融点が200℃未満である場合、金型の温度は、100℃以上150℃以下であることが好ましい。熱可塑性樹脂が結晶性樹脂で融点が200℃以上であれば、金型の温度は、140℃以上250℃以下であることが好ましい。熱可塑性樹脂が非晶性樹脂である場合、金型を加熱する温度は、100℃以上180℃以下であることが好ましい。金型の温度は、金型のキャビティ付近に挿入されたセンサによって検知される温度を示す
【0103】
(5)第2実施形態
本開示の第2実施形態に係る金属部材1について説明する。
【0104】
第2実施形態では、金属部材1は、接合用領域R1を有する。接合用領域R1の領域のCIE1976(L*a*b*)色空間におけるL値は、65以上である。
【0105】
第2実施形態では、金属部材1は、接合用領域R1を有する。そのため、樹脂部材2が金属部材1に接合される際、樹脂部材2の溶融物は、樹枝状層11の凹部内に効果的に侵入する。これにより、金属部材1と樹脂部材2との間には、物理的な抵抗力(アンカー効果)が効果的に発現する。つまり、樹枝状層11は、従来では困難であった金属部材1と樹脂部材2とを強固に接合させることができる。接合用領域R1のL値は、65以上で、接合用領域R1の表面粗さは、平坦面に対して目立ちにくい。つまり、粗化に起因する外観変化は、抑制されている。その結果、金属部材1は、粗化に起因する外観変化が抑制され、かつ接着剤等を用いなくても樹脂部材2との十分な接合強度を確保することができる。
【0106】
第2実施形態に係る金属部材1の巨視的な形状、表面S1の巨視的な形状、及び材質の各々は、第1実施形態で例示したものと同様である。
【0107】
(5.1)接合用領域R1
次に、本開示の第2実施形態に係る接合用領域R1について説明する。
【0108】
第2実施形態に係る接合用領域R1は、第1実施形態と同様に、金属部材1の表面S1の少なくとも一部であればよい。
【0109】
第2実施形態では、接合用領域R1のCIE1976(L)色空間におけるL値の下限は、65以上、好ましくは70以上、より好ましくは75以上、更に好ましくは80以上、特に好ましくは85以上である。L値の下限は、高ければ高いほど好ましい。L値の下限が上記範囲内であれば、粗化に起因する外観変化は、抑制されている。L値の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0110】
第2実施形態では、接合用領域R1の算術平均粗さ(Ra)の上限は、粗化に起因する外観変化が抑制する観点から、好ましくは20.0μm以下であり、より好ましくは10.0μm以下、さらに好ましくは8.0μm以下、特に好ましくは6.0μm以下、一段と好ましくは5.0μm以下、より一層好ましくは2.5μm以下である。
【0111】
第2実施形態に係る接合用領域R1の算術平均粗さ(Ra)の下限、十点平均粗さ(Rzjis)、平均長さ(RSm)、L値の差の絶対値、吸光度差(A-A)、及び金属酸化物の存在割合の各々は、第1実施形態で例示したものと同様である。
【0112】
(5.2)樹枝状層
次に、本開示の第2実施形態に係る樹枝状層11について説明する。
【0113】
第2実施形態に係る樹枝状層11の平均厚みT11、及び樹枝状層11の主幹の平均本数密度の各々は、第1実施形態で例示したものと同様である。
【0114】
(6)金属部材の製造方法
次に、本開示の第2実施形態に係る金属部材1の製造方法について説明する。
【0115】
第2実施形態に係る金属部材1の製造方法は、粗化工程が、第1実施形態に係る金属部材1の製造方法と異なる。
【0116】
第2実施形態に係る金属部材1の製造方法は、第1準備工程、前処理工程、置換工程、粗化工程、後処理工程、及び樹枝状層形成工程、を更に含む。
【0117】
第2実施形態に係る第1準備工程、前処理工程、置換工程、後処理工程、及び樹枝状層形成工程の各々は、第1実施形態で例示した工程と同様である。
【0118】
第2実施形態において、粗化工程では、金属基材の表面のうち樹枝状層11が形成される領域の表面を粗化して、樹枝状層11が形成される領域の表面のL値を65以上にする。
【0119】
第2実施形態に係る金属部材1の表面S1を粗化する方法は、第1実施形態で例示した方法と同様である。
【実施例
【0120】
以下、本発明に係る実施形態を、実施例を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0121】
[1]実施例1
[1.1]金属部材の製造
下記のようにして、金属部材を製造した。
【0122】
[1.1.1]第1準備工程
金属素材として、アルミニウム合金板(厚み:2.0mm、合金番号:5052)を準備した。金属素材を切断し、直方体状の金属基材(長さ:45mm、幅:18mm)を得た。
【0123】
[1.1.2]前処理工程
得られた金属基材を、下記成分の脱脂剤(60℃)が充填された第1槽に浸漬して超音波洗浄を5分間行った後、イオン交換水で水洗した。
【0124】
<脱脂剤の成分>
・アルミニウムクリーナー: 5質量%
・水 :95質量%
アルミニウムクリーナーは、製品名「アルミニウムクリーナー NE-6」(メルテックス株式会社製)である。
【0125】
[1.1.3]置換工程
次いで、金属基材を下記成分のアルカリ系エッチング剤(30℃)が充填された第2槽に2分間浸漬させた後、イオン交換水で水洗した。
【0126】
<アルカリ系エッチング剤の成分>
・水酸化ナトリウム:19.0質量%
・酸化亜鉛 : 3.2質量%
・水 :77.8質量%
【0127】
[1.1.4]粗化工程
次いで、金属基材の表面の全面を下記成分の第1酸系エッチング水溶液(30℃)が充填された第3槽に20秒間浸漬し、搖動させた。次いで、金属基材をイオン交換水で水洗した。
【0128】
<第1酸系エッチング水溶液の成分>
・塩化第二鉄: 3.9質量%
・塩化第二銅: 0.2質量%
・硫酸 : 4.1質量%
・水 :91.8質量%
【0129】
[1.1.5]後処理工程
次いで、金属基材をイオン交換水が充填された第4槽に浸漬して超音波洗浄を3分間行った後、下記成分の硝酸水溶液(40℃)が充填された第5槽に2分間浸漬させた。これにより、主として、金属基材の表面に析出した銅は、剥離した。
【0130】
<硝酸水溶液の成分>
・硝酸:30質量%
・水 :70質量%
【0131】
[1.1.6]樹枝状層形成工程
次いで、金属基材の表面の全面を、下記成分の第2酸系エッチング水溶液(40℃)が充填された第3槽に5分間浸漬し、搖動させた。Cu2+の標準電極電位Eは、+0.337(Vvs. SHE)であった。次いで、金属基材をイオン交換水で水洗し、80℃で15分間乾燥して、金属部材を得た。
【0132】
<第2酸系エッチング水溶液の成分>
・酸化第二銅: 6.3質量%(Cu2+として5.0質量%)
・硝酸 :30.0質量%
・水 :63.7質量%
【0133】
[1.2]金属部材の測定等
得られた金属部材の接合用領域について、下記の測定方法等により樹枝状層の有無等の測定等を行った。樹枝状層の存在の有無、算術平均粗さ(Ra)、十点平均粗さ(Rzjis)、平均長さ(RSm)、L値、及び外観変化の評価の測定結果等を表1に示す。
【0134】
[1.2.1]樹枝状層の存在の有無の確認方法
金属部材の断面構造を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、樹枝状層の存在の有無を確認した。
【0135】
図5は、実施例1の金属部材の接合用領域の断面を撮影したSEM写真(撮影倍率:10万倍)である。図5中、符号E1は、樹枝状層を示す。実施例1では、図5に示すように、金属部材の接合用領域の表面に形成された樹枝状層を確認した。
【0136】
[1.2.2]表面粗さの測定方法
下記の測定条件で、異なる6点の測定場所の表面粗さを測定し、6つの測定値の平均値を接合用領域の算術平均粗さ(Ra)、十点平均粗さ(Rzjis)、平均長さ(Rsm)とした。
【0137】
図6は、表面粗さの測定方法を説明するための金属部材1の上面図である。測定場所は、図6に示すように、金属部材1の接合用領域R1の表面S1の6直線部B1~B6である。6直線部B1~B6は、任意の3直線部B1~B3と、この3直線部B1~B3と直交する3直線部B4~B6とからなる。詳しくは、直線部B1は、金属部材1の接合用領域R1の表面S1の中心部Aを通る。直線部B1~B3は、互いに平行である。直線部B4は、金属部材1の接合用領域R1の表面S1の中心部Aを通る。直線部B4と、直線部B1とは、中心部Aにおいて直交する。直線部B4~B6は、互いに平行である。隣接する直線部の間隔D1~D4は、2mm以上5mm以下であった。
【0138】
<表面粗さの測定条件>
・測定装置 :表面粗さ測定装置「サーフコム1400D(東京精密社製)」
・方式 :触針式
・触針先端半径:5μm
・基準長さ :0.8mm
・評価長さ :4mm
・測定速度 :0.06mm/秒
【0139】
[1.2.3]接合用領域のL値の測定方法
日本電色工業(株)製分光式色差計「SE2000」を用いて、金属部材の接合用領域の表面のL値を測定した。
【0140】
[1.2.4]接合用領域の外観変化の評価
金属部材の接合用領域の外観を目視で観察した。接合用領域の外観に基づいて、下記基準で、接合用領域の外観変化を評価した。外観評価の許容可能な評価は、評価基準A、B又はCである。
【0141】
<評価基準>
A:粗化に起因する外観変化(光沢の変化)は、全く見られなかった。
B:粗化に起因する外観変化(光沢の変化)は、若干見られたが、許容できる範囲であった。
C:粗化に起因する外観変化(光沢の変化)は、見られたが、許容できる範囲であった。
D:粗化に起因する外観変化(光沢の変化)は、目立っていた。
【0142】
[1.2.5]樹枝状層の平均厚みの測定方法
金属部材の断面構造をSEM写真で観察し、樹枝状層の平均厚みを算出した。金属部材上の任意の10点について、SEM写真を撮影した。次いで、各SEM写真につき任意の2スポットについて1μm長さにおける平均厚みを計測した。他の9点についても同様な計測を行った。得られた合計20点の測定値の平均値を、樹枝状層の平均厚みとした。
【0143】
実施例1では、金属部材の樹枝状層の厚みは、490nmであった。
【0144】
[1.2.6]樹枝状層の主幹の平均本数密度の測定方法
金属部材の表面のSEM写真から一定のエリアを選択し、金属部材の表面から林立する「主幹の数」をカウントした。カウントした「主幹の数」を金属部材の表面の単位長さ当たりに換算して、樹枝状層の主幹の平均本数密度を測定した。一つのSEM写真測定において合計で10ヶ所測定した平均値を、樹枝状層の主幹の平均本数密度とした。
【0145】
図5に示すように、樹枝状層の複数の主幹の各々は、金属部材の接合用領域の表面から林立している。実施例1では、樹枝状層の主幹の平均本数密度は、28本/μmであった。
【0146】
[1.2.7]接合用領域の比表面積の測定方法
金属部材を真空加熱脱気(100℃)した後、「BELSORP-max」(マイクロトラックベル株式会社製)を使用し、液体窒素温度下(77K)における窒素ガス吸着法にて吸着等温線を測定し、BET法によって接合用領域の比表面積を求めた。
【0147】
実施例1では、金属部材の接合用領域の比表面積は、0.21m/gであった。
【0148】
[1.2.8]接合用領域の吸光度差(A-A)の測定
金属部材の接合用領域の表面のFT-IRスペクトルを株式会社島津製作所製のフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)と高感度反射測定装置「RAS-8000」を組み合わせた装置を用いて、赤外光の入射角を85°の条件で測定した。測定したフーリエ変換赤外分光分析のスペクトルチャートを図8に示す。図8中、符号F1は、実施例1のスペクトルチャートを示す。符号F2は、後述する参考例1のスペクトルチャートを示す。符号F3は、参考例2のスペクトルチャートを示す。詳しくは、参考例2は、特開2018-144475号公報の明細書に記載の実施例1と同様にして作製した金属部材(以下、「公知金属部材」という。)のスペクトルチャートを示す。公知金属部材の表面は、温水に浸漬されることで粗化処理が施されている。そのため、公知金属部材の表面には、アルミニウム水酸化物を含む被膜が形成されている。
【0149】
参考例2のスペクトルチャートは、図8に示すように、3400cm-1にピークトップを持つブロードな吸収ピークを有する。参考例2では、3400cm-1に観測される吸収ピークの吸光度をA、3800cm-1の吸光度と2500cm-1の吸光度とを結んだ直線の3400cm-1における仮想吸光度をAとした場合、吸光度差(A-A)値は、0.03超であった。
実施例1では、図8に示すように、吸光度差(A-A)値は約0であった。
【0150】
[1.3]金属樹脂複合体の製造
下記のようにして、金属部材複合体を製造した。
【0151】
[1.3.1]第2準備工程
樹脂組成物として、「短繊維ガラス強化ポリプロピレン V7100」(株式会社プライムポリマー製、成分:ポリプロピレン80質量%とガラス繊維20質量%、ポリプロピレンの物性:MFR(230℃、2.16kg荷重):18g/10分)を準備した。
【0152】
[1.3.2]第3準備工程
金属部材として、上述した[1.1.6]樹枝状層形成工程における乾燥させた直後の金属部材を用いた。
【0153】
[1.3.3]射出成形工程
【0154】
金属部材を、横型射出成形機(「J55AD」、日本製鋼所製)に装着された小型ダンベル金属インサート金型内に直ちに設置した。次いで、その金型内に樹脂組成物を、下記の成形条件にて射出成形して金属部材の接合領域に樹脂部材を形成した。これにより、金属樹脂複合体を得た。
【0155】
<成形条件>
・シリンダー温度:230℃
・金型の温度 :80℃
・一次射出圧 :93MPa
・保圧 :80MPa
・射出速度 :25mm/秒
【0156】
[1.4]金属樹脂複合体の各種測定
得られた金属樹脂複合体について、下記の測定方法等により引張せん断強度等の測定等を行った。引張せん断強度の測定結果を表1に示す。引張せん断強度の許容範囲は、23Mpa以上である。
【0157】
[1.4.1]引張せん断強度の測定
金属樹脂複合体について、引っ張り試験機「モデル1323(アイコーエンジニヤリング社製)」を使用し、引張試験機に専用の治具を取り付け、下記測定条件にて、x方向(図4参照)に引っ張って測定をおこなった。破断荷重(N)を接合領域の面積で除することにより接合強度(MPa)を得た。接合領域R1Aにおいて、第1長さLa(図4参照)を5mmとし、第2長さLb(図4参照)を10mmとした。
【0158】
<引張せん断強度の測定条件>
・温度 :室温(23℃)
・チャック間距離:60mm
・引張速度 :10mm/分
【0159】
実施例1では、引張せん断強度は26.05(MPa)であった。標準偏差σは0.2MPaであった(N=5)。破壊面の形態は母材破壊のみが認められた。
【0160】
[1.4.2]接合領域の断面の観察等
金属部材の接合領域における金属樹脂複合体の断面構造をSEM写真で観察した。更に、上述した[1.2.2]樹枝状層の平均厚みの測定方法と同様にして、金属樹脂複合体の樹枝状層の平均厚みを測定した。
【0161】
図7は、実施例1の金属樹脂複合体の断面を撮影したSEM写真(撮影倍率:5万倍)である。詳しくは、図7は、金属部材の接合用領域における金属樹脂複合体の断面のSEM写真を示す。図7に示すように、ナノオーダーの樹枝状層は、ミクロンオーダーの凹凸形状に追随するように、金属部材の表面を覆っていることを確認した。金属樹脂複合体の樹枝状層の平均厚みは、500nmであった。これらから、金属樹脂複合体において、金属部材の接合領域は、樹脂部材が接合される前の金属部材の接合用領域と実質同一であることが確認できた。
【0162】
[2]実施例2~6
実施例2~6では、[1.1.4]粗化工程における浸漬時間を表1に示す時間に変更した点の他は、実施例1と同様にして、金属部材、及び金属樹脂複合体を得た。得られた金属部材の樹枝状層の有無、算術平均粗さ(Ra)、十点平均粗さ(Rzjis)、平均長さ(Rsm)、L値、及び外観変化評価の評価結果等を表1に示す。更に得られた金属樹脂複合体の引張せん断強度の測定結果を表1に示す。
【0163】
[3]実施例7~12
実施例7~12では、[1.1.4]粗化工程における浸漬時間を表1に示す時間に変更した点、[1.3.1]第2準備工程における樹脂組成物をポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂「ジュラネックス(登録商標)930HL」(ポリプラスチック株式会社製)に変更した点の他は、実施例1と同様にして、金属部材、及び金属樹脂複合体を得た。得られた金属部材の樹枝状層の有無、算術平均粗さ(Ra)、十点平均粗さ(Rzjis)、平均長さ(Rsm)、L値、及び外観変化評価の評価結果等を表1に示す。更に得られた金属樹脂複合体の引張せん断強度の測定結果を表1に示す。
【0164】
[4]比較例1
[4.1]金属部材の製造
下記のようにして、金属部材を製造した。
【0165】
[4.1.1]第1準備工程
実施例1の[1.1.1]第1準備工程と同様にして、金属基材を得た。
【0166】
[4.1.2]前処理工程
実施例1の[1.1.2]前処理工程と同様にして、金属基材の表面に存在する被膜を除去した。
【0167】
[4.1.3]置換工程
実施例1の[1.1.3]置換工程を実行しなかった。
【0168】
[4.1.4]粗化工程
第1酸系エッチング水溶液を下記の第3酸系エッチング水溶液に変更した点、浸漬時間を表1に示す時間に変更した点の他は、実施例1の[1.1.4]粗化工程と同様にして、金属基材を粗化した。
【0169】
<第3酸系エッチング水溶液の成分>
・塩化第二鉄: 3.9質量%
・硫酸 : 4.1質量%
・水 :92.0質量%
【0170】
[4.1.5]後処理工程
実施例1の[1.1.5]後処理工程と同様にして、金属基材の表面を洗浄した。これにより、金属部材を得た。
【0171】
[4.1.6]樹枝状層形成工程
実施例1の[4.1.6]樹枝状層形成工程を実行しなかった。
【0172】
[4.2]金属部材の測定等
得られた金属部材の接合用領域について、下記の測定方法等により測定等を行った。得られた金属部材の樹枝状層の有無、算術平均粗さ(Ra)、十点平均粗さ(Rzjis)、平均長さ(Rsm)、L値、及び外観変化評価の評価結果等を表1に示す。
【0173】
[4.3]金属樹脂複合体
比較例1の金属部材を用いた他は、実施例1と同様にして、金属樹脂複合体を得た。得られた金属樹脂複合体の引張せん断強度の測定結果を表1に示す。
【0174】
[5]比較例2
比較例2では、[4.1.4]粗化工程における浸漬時間を表1に示す時間に変更した点の他は、比較例1と同様にして、金属部材、及び金属樹脂複合体を得た。得られた金属部材の樹枝状層の有無、算術平均粗さ(Ra)、十点平均粗さ(Rzjis)、平均長さ(Rsm)、L値、及び外観変化評価の評価結果等を表1に示す。更に得られた金属樹脂複合体の引張せん断強度の測定結果を表1に示す。
【0175】
[6]比較例3
比較例3では、[4.1.4]粗化工程における第3酸系エッチング水溶液を下記の第4酸系エッチング水溶液に変更した点、[4.1.4]粗化工程における浸漬時間を表1に示す時間に変更した点の他は、比較例1と同様にして、金属部材、及び金属樹脂複合体を得た。得られた金属部材の樹枝状層の有無、算術平均粗さ(Ra)、十点平均粗さ(Rzjis)、平均長さ(Rsm)、L値、及び外観変化評価の評価結果等を表1に示す。更に得られた金属樹脂複合体の引張せん断強度の測定結果を表1に示す。
【0176】
<第4酸系エッチング水溶液>
・塩化第二鉄: 3.9質量%
・水 :96.1質量%
【0177】
[7]参考例1
参考例1では、実施例1の[1.1.1]第1準備工程、及び[1.1.2]前処理工程のみを行い、金属部材を得た。得られた金属部材の樹枝状層の有無、算術平均粗さ(Ra)、十点平均粗さ(Rzjis)、及び平均長さ(Rsm)の評価結果等を表1に示す。
【0178】
金属部材の接合用領域の表面のFT-IRスペクトルを実施例1と同様にして、測定した。
参考例1では、図8に示すように、吸光度差(A-A)値は約0であった。
【0179】
[8]実施例13
実施例13では、[1.1.6]樹枝状層形成工程における第2酸系エッチング水溶液の成分を下記の成分に変更した他は、実施例1と同様にして、金属部材を得た。得られた金属部材を用いて実施例1と同様にして、金属樹脂複合体を得る。
【0180】
<第2酸系エッチング水溶液の成分>
・硫酸銅 : 0.26質量%(Cu2+として0.1質量%)
・硝酸 : 30.0質量%
・水 : 69.7質量%
【0181】
金属部材の樹枝状層の有無、算術平均粗さ(Ra)、十点平均粗さ(Rzjis)、及び平均長さ(Rsm)は、実施例1と同様であり、算術平均粗さ(Ra)は5.0μm以下である。L値、及びL値の差は、実施例1と同様であり、L値は75以上である。外観変化評価は、A又はBである。金属樹脂複合体の引張せん断強度は、23MPa以上である。
【0182】
金属部材の樹枝状層の主幹の平均本数密度を、実施例1と同様にして、測定した。図9は、実施例13の金属部材の断面を撮影したSEM写真(撮影倍率:10万倍)である。図9中、符号E2は、樹枝状層を示す。
図9に示すように、樹枝状層の複数の主幹の各々は、金属部材の接合用領域の表面から林立している。実施例13では、樹枝状層の主幹の平均本数密度は、8本/μmであった。
【0183】
[9]実施例14
実施例14では、[1.1.6]樹枝状層形成工程における第2酸系エッチング水溶液の成分を下記の成分に変更した他は、実施例1と同様にして、金属部材を得た。得られた金属部材を用いて実施例1と同様にして、金属樹脂複合体を得る。
【0184】
<第2酸系エッチング水溶液の成分>
・硫酸銅 : 12.55質量%(Cu2+として5.0質量%)
・硝酸 : 30.0質量%
・水 : 57.5質量%
【0185】
金属部材の樹枝状層の有無、算術平均粗さ(Ra)、十点平均粗さ(Rzjis)、及び平均長さ(Rsm)は、実施例1と同様であり、算術平均粗さ(Ra)は5.0μm以下である。L値、及びL値の差は、実施例1と同様であり、L値は75以上である。外観変化評価は、A又はBである。金属樹脂複合体の引張せん断強度は、23MPa以上である。
【0186】
金属部材の樹枝状層の主幹の平均本数密度を、実施例1と同様にして、測定した。図10は、実施例14の金属部材の断面を撮影したSEM写真(撮影倍率:10万倍)である。図10中、符号E3は、樹枝状層を示す。
図10に示すように、樹枝状層の複数の主幹の各々は、金属部材の接合用領域の表面から林立している。実施例14では、樹枝状層の主幹の平均本数密度は、47本/μmであった。
【0187】
【表1】
【0188】
なお、表1中、「L値の差」とは、金属部材1の表面S1が粗化されていない状態のL値と、各実施例で測定されたL値との差の絶対値を示す。実施例1~12、及び比較例1~3において、金属部材1の表面S1が粗化されていない状態のL値として、実施例1のL値を用いた。実施例2では、粗化工程における浸漬時間が20秒と短い。そのため、実施例1の接合用領域のL値と、粗化工程が実行されていない接合用領域のL値とは、同等と評価できるためである。
外観変化評価の許容可能な評価は、「A」、「B」、又は「C」である。引張せん断強度の許容可能な範囲は、「23MPa以上」である。
【0189】
表1中、粗化工程の酸性エッチング液の項目において、「-」は、粗化工程が実行されなかったことを示す。表1中、樹枝状層形成工程の項目において、「-」は、樹枝状層形成工程が実行されなかったことを示す。表1中、樹枝状層の有無の項目において、「〇」は、接合用領域における金属部材の表面に樹枝状層が形成されていることを示し、「×」は、接合用領域における金属部材の表面に樹枝状層が形成されていないことを示す。表1中、樹脂部材の材質の項目において、「PP」は、「短繊維ガラス強化ポリプロピレン V7100」(株式会社プライムポリマー製)を示し、「PBT」は、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂「ジュラネックス(登録商標)930HL」(ポリプラスチック株式会社製)を示す。
【0190】
表1中、参考例1のL値、L値の差、及び外観変化評価の各々の項目において、「-」は、金属部材の表面に残された油脂による乱反射により、L値が正しく反映されないため、L値が測定できなかったことを示す。
表1中、参考例1の引張せん断強度の項目において、「-」は、引張せん断強度の測定を行わなかったことを示す。
【0191】
実施例1~実施例12の金属部材は、表面に樹枝状層が形成された接合用領域を有し、接合用領域の算術平均粗さRaは、20.0μm以下であった。そのため、接合用領域の外観変化の評価は、「A」、「B]、又は「C」であり、許容範囲内であった。さらに、引張せん断強度は23Mpa以上であり、許容範囲内であった。つまり、実施例1~実施例12の金属部材は、粗化に起因する外観変化が抑制され、かつ接着剤等を用いなくても樹脂部材との十分な接合強度を確保することができることがわかった。
【0192】
実施例1~実施例12の金属部材は、表面に樹枝状層が形成された接合用領域を有し、接合用領域のL値は、65以上であった。そのため、接合用領域の外観変化の評価は、「A」、「B]、又は「C」であり、許容範囲内であった。さらに、引張せん断強度は23Mpa以上であり、許容範囲内であった。つまり、実施例1~実施例12の金属部材は、粗化に起因する外観変化が抑制され、かつ接着剤等を用いなくても樹脂部材との十分な接合強度を確保することができることがわかった。
【0193】
比較例1~3の金属部材は、接合用領域の算術平均粗さRaは、20.0μm以下であったが、接合用領域の表面に樹枝状層が形成されていなかった。接合用領域の外観変化の評価は、「A」又は「C」であり、許容範囲内であったが、引張せん断強度は23Mpa未満であり、許容範囲外であった。つまり、比較例1~3の金属部材は、接着剤等を用いないと樹脂部材との接合強度が十分ではないことがわかった。
【0194】
比較例1~3の金属部材は、接合用領域のL値は、65以上であったが、接合用領域の表面に樹枝状層が形成されていなかった。詳しくは、接合用領域の外観変化の評価は、「A」又は「C」であり、許容範囲内であったが、引張せん断強度は23Mpa未満であり、許容範囲内ではなかった。つまり、比較例1~3の金属部材は、接着剤等を用いないと樹脂部材との接合強度が十分ではないことがわかった。
【0195】
実施例1の金属部材では、図8に示すように、実施例1の吸光度差(A-A)値は、参考例1と同様に約0であった。これにより、実施例1の金属部材の表面には、アルミニウム水酸化物を含む皮膜が形成されていないことがわかった。
【0196】
実施例1では、第2酸系エッチング水溶液の成分として酸化第二銅(Cu2+として5.0質量%)が用いられ、金属部材の樹枝状層の主幹の平均本数密度は、28本/μmであった。実施例13では、第2酸系エッチング水溶液の成分として硫酸銅(Cu2+として0.1質量%)が用いられ、金属部材の樹枝状層の主幹の平均本数密度は、8本/μmであった。実施例14では、第2酸系エッチング水溶液の成分として硫酸銅(Cu2+として5.0質量%)が用いられ、金属部材の樹枝状層の主幹の平均本数密度は、47本/μmであった。
実施例1と、実施例13と、実施例14との対比から、金属部材の樹枝状層の主幹の平均本数密度は、第2酸系エッチング水溶液のCu2+の濃度に依存することがわかった。詳しくは、第2酸系エッチング水溶液のCu2+の濃度を薄くするに従い、金属部材の樹枝状層の主幹の平均本数密度が低くなることがわかった。
【0197】
2020年7月22日に出願された日本国特許出願2020-125708の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10