IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立造船株式会社の特許一覧

特許7412621溶液処理方法および溶液処理装置、並びに、これらに用いられる関係式の生成方法
<>
  • 特許-溶液処理方法および溶液処理装置、並びに、これらに用いられる関係式の生成方法 図1
  • 特許-溶液処理方法および溶液処理装置、並びに、これらに用いられる関係式の生成方法 図2
  • 特許-溶液処理方法および溶液処理装置、並びに、これらに用いられる関係式の生成方法 図3
  • 特許-溶液処理方法および溶液処理装置、並びに、これらに用いられる関係式の生成方法 図4
  • 特許-溶液処理方法および溶液処理装置、並びに、これらに用いられる関係式の生成方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】溶液処理方法および溶液処理装置、並びに、これらに用いられる関係式の生成方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/34 20230101AFI20240104BHJP
【FI】
C02F3/34 101A
C02F3/34 Z
C02F3/34 101B
C02F3/34 101C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023033177
(22)【出願日】2023-03-03
【審査請求日】2023-03-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】松下 知広
(72)【発明者】
【氏名】田邊 佑輔
【審査官】松元 麻紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-109139(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0125833(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニア性窒素を含有している処理原液を、亜硝酸化反応槽内で亜硝酸化反応によって処理して、pHを所望の値の範囲に維持しながら亜硝酸化処理溶液を得る、溶液処理工程と、
上記亜硝酸化反応槽内に流入させる前の、上記処理原液の電気伝導率を測定して値αを得る、第1の測定工程と、
上記亜硝酸化処理溶液の電気伝導率を測定して値βを得る、第2の測定工程と、
上記値βと上記値αとの差であるΔECを算出する、第1の算出工程と、
上記亜硝酸化処理溶液の亜硝酸性窒素の濃度である値Aと上記亜硝酸化処理溶液のアンモニア性窒素の濃度である値Bとの比であるA/Bの目標値を関係式に代入して得られたΔECを制御値εとして、上記第1の算出工程から得られたΔECが制御値εよりも小さければ、上記亜硝酸化反応槽内の亜硝酸化処理溶液に溶解する酸素量を増やしてΔECを制御値εに近づけ、上記第1の算出工程から得られたΔECが制御値εよりも大きければ、上記亜硝酸化反応槽内の亜硝酸化処理溶液に溶解する酸素量を減らしてΔECを制御値εに近づける制御を行う、第2の曝気制御工程と、を有し、
上記関係式は、(i)上記亜硝酸化処理溶液の電気伝導率である値βと、上記亜硝酸化反応槽内に流入させる前の、上記処理原液の電気伝導率である値αとの差であるΔECと、(ii)上記亜硝酸化処理溶液の亜硝酸性窒素の濃度である値Aと、上記亜硝酸化処理溶液のアンモニア性窒素の濃度である値Bとの比であるA/Bとの関係を示すものである、溶液処理方法。
【請求項2】
上記亜硝酸化処理溶液をアナモックス反応によって処理するアナモックス処理工程を有する、請求項1に記載の溶液処理方法。
【請求項3】
上記亜硝酸化反応槽内の亜硝酸化処理溶液に溶解する酸素量を、上記ΔECが上記値αよりも大きな任意の制御値γとなるよう、上記亜硝酸化反応槽内の亜硝酸化処理溶液に溶解する酸素量を、ΔECの値が制御値γよりも小さければ、増やしてΔECを制御値γに近づけ、ΔECの値が制御値γよりも大きければ、減らしてΔECを制御値γに近づける制御を行う、第3の曝気制御工程と、
上記亜硝酸化処理溶液の亜硝酸性窒素の濃度を測定して値Aを得る、第3の測定工程と、
上記亜硝酸化処理溶液のアンモニア性窒素の濃度を測定して値Bを得る、第4の測定工程と、
上記値Aを上記値Bで除した値Rを算出する、第2の算出工程と、
上記第1の測定工程から上記第2の算出工程までの手順を、上記制御値γの値を変更して複数回繰り返す、反復工程と、
上記反復工程により得られた複数組の上記制御値γおよび上記値Rから、上記ΔECと、上記値Aと上記値Bの比であるA/Bとの関係を示す新たな関係式を生成する、関係式更新工程と、
を有する、請求項1または2に記載の溶液処理方法。
【請求項4】
アンモニア性窒素を含有している処理原液を亜硝酸化反応によって処理して、亜硝酸化処理溶液を得る、亜硝酸化反応槽と、
上記亜硝酸化処理溶液のpHを所望の値の範囲に維持する、pH調整部と、
上記亜硝酸化反応槽内に流入させる前の、上記処理原液の電気伝導率を測定して値αを得る、第1の測定部と、
上記亜硝酸化処理溶液の電気伝導率を測定して値βを得る、第2の測定部と、
上記値βと上記値αとの差であるΔECを算出する、第1の算出部と、
上記亜硝酸化処理溶液の亜硝酸性窒素の濃度である値Aと上記亜硝酸化処理溶液のアンモニア性窒素の濃度である値Bとの比であるA/Bの目標値を関係式に代入して得られたΔECを制御値εとして、上記第1の算出部から得られたΔECが制御値εよりも小さければ、上記亜硝酸化反応槽内の亜硝酸化処理溶液に溶解する酸素量を増やしてΔECを制御値εに近づけ、上記第1の算出部から得られたΔECが制御値εよりも大きければ、上記亜硝酸化反応槽内の亜硝酸化処理溶液に溶解する酸素量を減らしてΔECを制御値εに近づける制御を行う、第1の曝気制御部と、を備え、
上記関係式は、(i)上記亜硝酸化処理溶液の電気伝導率である値βと、上記亜硝酸化反応槽内に流入させる前の、上記処理原液の電気伝導率である値αとの差であるΔECと、(ii)上記亜硝酸化処理溶液の亜硝酸性窒素の濃度である値Aと、上記亜硝酸化処理溶液のアンモニア性窒素の濃度である値Bとの比であるA/Bとの関係を示すものである、溶液処理装置。
【請求項5】
上記亜硝酸化処理溶液をアナモックス反応によって処理するアナモックス処理槽を備える、請求項4に記載の溶液処理装置。
【請求項6】
上記亜硝酸化反応槽内の亜硝酸化処理溶液に溶解する酸素量を、上記ΔECが上記値αよりも大きな任意の制御値γとなるよう、上記亜硝酸化反応槽内の亜硝酸化処理溶液に溶解する酸素量を、ΔECの値が制御値γよりも小さければ、増やしてΔECを制御値γに近づけ、ΔECの値が制御値γよりも大きければ、減らしてΔECを制御値γに近づける制御を行う、第2の曝気制御部と、
上記亜硝酸化処理溶液の亜硝酸性窒素の濃度を測定して値Aを得る、第3の測定部と、
上記亜硝酸化処理溶液のアンモニア性窒素の濃度を測定して値Bを得る、第4の測定部と、
上記値Aを上記値Bで除した値Rを算出する、第2の算出部と、
上記制御値γの値を変更しながら得られた複数組の上記制御値γおよび上記値Rから、上記ΔECと、上記値Aと上記値Bの比であるA/Bとの関係を示す新たな関係式を生成する、関係式更新部と、
を備える、請求項4または5に記載の溶液処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液処理方法および溶液処理装置、並びに、これらに用いられる関係式の生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な溶液(例えば、排水、下水、し尿、浄化槽汚泥、下水汚泥)に含まれている成分(例えば、アンモニア)は、環境汚染の原因になるため、当該成分を溶液から除去する必要がある。当該成分を除去する技術としては、例えば、微生物を用いる技術が開発されている(例えば、特許文献1、2を参照)。
【0003】
特許文献1には、被処理液中に含まれるアンモニア性窒素(NH-N)の一部を亜硝酸化槽内に収容されたアンモニア酸化細菌の作用により亜硝酸性窒素(NO-N)に硝化して、アンモニア性窒素と亜硝酸性窒素とを含む亜硝酸化処理液を得る部分亜硝酸化処理において、部分亜硝酸化処理水の溶存酸素濃度を一定の値に制御することに着目した、窒素成分を安定して除去できる水処理装置および水処理方法が開示されている。
【0004】
特許文献2では、上記部分亜硝酸化処理において、上記被処理液に添加するアルカリの添加量を制御することに着目した、窒素含有被処理液の水処理方法および水処理装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5984137号公報
【文献】特許第6720100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術では、亜硝酸化処理溶液中の亜硝酸性窒素の濃度とアンモニア性窒素の濃度の比(NO-N/NH-N比)を適切な値に制御する技術において、改善の余地があった。
【0007】
本発明の一態様は、亜硝酸化処理溶液中の亜硝酸性窒素の濃度とアンモニア性窒素の濃度の比を適切な値に制御するための関係式の生成方法、並びに、当該関係式を用いた溶液処理方法および溶液処理装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決するために、(i)亜硝酸化処理溶液の電気伝導率の値と処理原液の電気伝導率の値との差と、亜硝酸化処理溶液中の亜硝酸性窒素の濃度とアンモニア性窒素の濃度の比とが、関係式を生成し得ること、および、(ii)所望する亜硝酸化処理溶液中の亜硝酸性窒素の濃度とアンモニア性窒素の濃度の比を関係式に代入することによって、この濃度の比に対応する、亜硝酸化処理溶液の電気伝導率の値と処理原液の電気伝導率の値との差が得られ、この電気伝導度の差に基づいて亜硝酸化反応槽内の亜硝酸化処理溶液に溶解する酸素量を制御すれば、亜硝酸化処理溶液中の亜硝酸性窒素の濃度とアンモニア性窒素の濃度の比を所望の値へ近づけ得ること、を見出し、本発明を完成させるに至った。本発明の一態様は、以下を含む。
【0009】
<1>
アンモニア性窒素を含有している処理原液を、亜硝酸化反応槽内で亜硝酸化反応によって処理して、pHを所望の値の範囲に維持しながら亜硝酸化処理溶液を得る、溶液処理工程と、
上記亜硝酸化反応槽内に流入させる前の、上記処理原液の電気伝導率を測定して値αを得る、第1の測定工程と、
上記亜硝酸化処理溶液の電気伝導率を測定して値βを得る、第2の測定工程と、
上記値βと上記値αとの差であるΔECを算出する、第1の算出工程と、
上記亜硝酸化処理溶液の亜硝酸性窒素の濃度である値Aと上記亜硝酸化処理溶液のアンモニア性窒素の濃度である値Bとの比であるA/Bの目標値を関係式に代入して得られたΔECを制御値εとして、上記亜硝酸化反応槽内の亜硝酸化処理溶液に溶解する酸素量を、上記制御値εと上記第1の算出工程から得られたΔECとのズレに基づいて制御する、第2の曝気制御工程と、を有し、
上記関係式は、(i)上記亜硝酸化処理溶液の電気伝導率である値βと、上記亜硝酸化反応槽内に流入させる前の、上記処理原液の電気伝導率である値αとの差であるΔECと、(ii)上記亜硝酸化処理溶液の亜硝酸性窒素の濃度である値Aと、上記亜硝酸化処理溶液のアンモニア性窒素の濃度である値Bとの比であるA/Bとの関係を示すものである、溶液処理方法。
【0010】
上記構成によれば、ΔECとA/Bとの関係式に、所望するA/Bの値(例えば、1.32)を代入することによって、ΔECの制御値εを算出することができる。そして、この制御値εと、現状のαとβの測定結果から得られたΔECの値とのズレに基づいて、亜硝酸化反応槽内の亜硝酸化処理溶液に溶解する酸素量を制御することによって、亜硝酸化反応槽内の亜硝酸化処理溶液におけるΔECの値を制御値εへ近づけることができる。この制御によって、所望するA/Bの値を有する亜硝酸化処理溶液を得ることができる。なお、亜硝酸化反応槽内の亜硝酸化処理溶液に溶解する酸素量を増やせば、好気的に反応が進む亜硝酸化反応が促進され、アンモニア性窒素の濃度が減少し、かつ亜硝酸性窒素の濃度が増加すると同時に、pH調整剤がより多く加えられることで、ΔECの値は増加の方向へ進む。一方、亜硝酸化反応槽内の亜硝酸化処理溶液に溶解する酸素量を減らせば、好気的に反応が進む亜硝酸化反応が抑制され、アンモニア性窒素の濃度が増加し、かつ、亜硝酸性窒素の濃度が減少すると同時に、pH調整剤の量が減少し、処理原液が流入することで亜硝酸化反応槽内の亜硝酸化処理溶液の塩濃度が希釈されることから、ΔECの値は減少の方向へ進む。
【0011】
<2>
上記亜硝酸化処理溶液をアナモックス反応によって処理するアナモックス処理工程を有する、<1>に記載の溶液処理方法。
【0012】
上記構成によれば、上記亜硝酸化処理溶液をアナモックス反応に適したA/Bの値(例えば、1.32)にすることによって、アナモックス反応にて、アンモニア性窒素と亜硝酸性窒素とを過不足なく反応させることができる。
【0013】
<3>
上記亜硝酸化反応槽内の亜硝酸化処理溶液に溶解する酸素量を、上記ΔECが上記値αよりも大きな任意の制御値γとなるように制御する、第3の曝気制御工程と、
上記亜硝酸化処理溶液の亜硝酸性窒素の濃度を測定して値Aを得る、第3の測定工程と、
上記亜硝酸化処理溶液のアンモニア性窒素の濃度を測定して値Bを得る、第4の測定工程と、
上記値Aを上記値Bで除した値Rを算出する、第2の算出工程と、
上記第1の測定工程から上記第2の算出工程までの手順を、上記制御値γの値を変更して複数回繰り返す、反復工程と、
上記反復工程により得られた複数組の上記制御値γおよび上記値Rから、上記ΔECと、上記値Aと上記値Bの比であるA/Bとの関係を示す新たな関係式を生成する、関係式更新工程と、
を有する、<1>または<2>に記載の溶液処理方法。
【0014】
上記構成によれば、亜硝酸化処理工程の最中に、随時、関係式を新たな関係式に更新することができる。これによって、溶液処理方法の諸条件(例えば、処理原液の組成、亜硝酸化反応槽の水温、および、pH設定値など)が変化したとしても、新たに取得した関係式を用いて上記の制御値εを再設定することで、亜硝酸化反応槽内の亜硝酸化処理溶液におけるA/Bの値を所望の値へ近づけることができる。
【0015】
<4>
アンモニア性窒素を含有している処理原液を亜硝酸化反応によって処理して、亜硝酸化処理溶液を得る、亜硝酸化反応槽と、
上記亜硝酸化処理溶液のpHを所望の値の範囲に維持する、pH調整部と、
上記亜硝酸化反応槽内に流入させる前の、上記処理原液の電気伝導率を測定して値αを得る、第1の測定部と、
上記亜硝酸化処理溶液の電気伝導率を測定して値βを得る、第2の測定部と、
上記値βと上記値αとの差であるΔECを算出する、第1の算出部と、
上記亜硝酸化処理溶液の亜硝酸性窒素の濃度である値Aと上記亜硝酸化処理溶液のアンモニア性窒素の濃度である値Bとの比であるA/Bの目標値を関係式に代入して得られたΔECを制御値εとして、上記亜硝酸化反応槽内の亜硝酸化処理溶液に溶解する酸素量を、上記制御値εと上記第1の算出部から得られたΔECとのズレに基づいて制御する、第1の曝気制御部と、を備え、
上記関係式は、(i)上記亜硝酸化処理溶液の電気伝導率である値βと、上記亜硝酸化反応槽内に流入させる前の、上記処理原液の電気伝導率である値αとの差であるΔECと、(ii)上記亜硝酸化処理溶液の亜硝酸性窒素の濃度である値Aと、上記亜硝酸化処理溶液のアンモニア性窒素の濃度である値Bとの比であるA/Bとの関係を示すものである、溶液処理装置。
【0016】
上記構成によれば、ΔECとA/Bとの関係式に、所望するA/Bの値(例えば、1.32)を代入することによって、ΔECの制御値εを算出することができる。そして、この制御値εと、現状のαとβの測定結果から得られたΔECの値とのズレに基づいて、亜硝酸化反応槽内の亜硝酸化処理溶液に溶解する酸素量を制御することによって、亜硝酸化反応槽内の亜硝酸化処理溶液におけるΔECの値を制御値εへ近づけることができる。この制御によって、所望するA/Bの値を有する亜硝酸化処理溶液を得ることができる。なお、亜硝酸化反応槽内の亜硝酸化処理溶液に溶解する酸素量を増やせば、好気的に反応が進む亜硝酸化反応が促進され、アンモニア性窒素の濃度が減少し、かつ亜硝酸性窒素の濃度が増加すると同時に、pH調整剤がより多く加えられることで、ΔECの値は増加の方向へ進む。一方、亜硝酸化反応槽内の亜硝酸化処理溶液に溶解する酸素量を減らせば、好気的に反応が進む亜硝酸化反応が抑制され、アンモニア性窒素の濃度が増加し、かつ、亜硝酸性窒素の濃度が減少すると同時に、pH調整剤の量が減少し、処理原液が流入することで亜硝酸化反応槽内の亜硝酸化処理溶液の塩濃度が希釈されることから、ΔECの値は減少の方向へ進む。
【0017】
<5>
上記亜硝酸化処理溶液をアナモックス反応によって処理するアナモックス処理槽を備える、<4>に記載の溶液処理装置。
【0018】
上記構成によれば、上記亜硝酸化処理溶液をアナモックス反応に適したA/Bの値(例えば、1.32)にすることによって、アナモックス反応にて、アンモニア性窒素と亜硝酸性窒素とを過不足なく反応させることができる。
【0019】
<6>
上記亜硝酸化反応槽内の亜硝酸化処理溶液に溶解する酸素量を、上記ΔECが上記値αよりも大きな任意の制御値γとなるように制御する、第2の曝気制御部と、
上記亜硝酸化処理溶液の亜硝酸性窒素の濃度を測定して値Aを得る、第3の測定部と、
上記亜硝酸化処理溶液のアンモニア性窒素の濃度を測定して値Bを得る、第4の測定部と、
上記値Aを上記値Bで除した値Rを算出する、第2の算出部と、
上記制御値γの値を変更しながら得られた複数組の上記制御値γおよび上記値Rから、上記ΔECと、上記値Aと上記値Bの比であるA/Bとの関係を示す新たな関係式を生成する、関係式更新部と、
を備える、<4>または<5>に記載の溶液処理装置。
【0020】
上記構成によれば、亜硝酸化処理工程の最中に、随時、関係式を新たな関係式に更新することができる。これによって、溶液処理方法の諸条件(例えば、処理原液の組成、亜硝酸化反応槽の水温、および、pH設定値など)が変化したとしても、新たに取得した関係式を用いて上記の制御値εを再設定することで、亜硝酸化反応槽内の亜硝酸化処理溶液におけるA/Bの値を所望の値へ近づけることができる。
【0021】
<7>
アンモニア性窒素を含有している処理原液を、亜硝酸化反応槽内で亜硝酸化反応によって処理して、pHを所望の値の範囲に維持しながら亜硝酸化処理溶液を得る、溶液処理工程と、
上記亜硝酸化反応槽内に流入させる前の、上記処理原液の電気伝導率を測定して値αを得る、第1の測定工程と、
上記亜硝酸化処理溶液の電気伝導率を測定して値βを得る、第2の測定工程と、
上記値βと上記値αとの差であるΔECを算出する、第1の算出工程と、
上記亜硝酸化反応槽内の亜硝酸化処理溶液に溶解する酸素量を、上記ΔECが上記値αよりも大きな任意の制御値γとなるように制御する、第1の曝気制御工程と、
上記亜硝酸化処理溶液の亜硝酸性窒素の濃度を測定して値Aを得る、第3の測定工程と、
上記亜硝酸化処理溶液のアンモニア性窒素の濃度を測定して値Bを得る、第4の測定工程と、
上記値Aを上記値Bで除した値Rを算出する、第2の算出工程と、
上記第1の測定工程から上記第2の算出工程までの手順を、上記制御値γの値を変更して複数回繰り返す、反復工程と、
上記反復工程により得られた複数組の上記制御値γおよび上記値Rから、上記ΔECと、上記値Aと上記値Bの比であるA/Bとの関係を示す関係式を生成する、関係式生成工程と、
を有する、関係式の生成方法。
【0022】
上記構成によれば、亜硝酸化処理溶液において所望する亜硝酸性窒素の濃度とアンモニア性窒素の濃度との比を関係式に代入することにより、これに対応するΔECの制御値を得ることができる。
【0023】
例えば、亜硝酸化反応槽内にpH調整剤を投入して、亜硝酸化反応槽内のpHを所望の値の範囲に調節・維持すると、pHが一定に保たれることで、亜硝酸化反応槽内での亜硝酸化反応に関わるアンモニア酸化細菌がpHの変動によって受ける影響を最小限にすることができる。これにより、アンモニア性窒素が亜硝酸性窒素へ硝化される量と、投入されるpH調整剤の量との間に、信頼性の高い相関関係が得られる。このとき値βは、添加されたpH調整剤の量に応じて値αよりも高くなるが、この上昇幅であるΔECもまた、pH調整剤の量との間に高い相関関係がある。この結果として、アンモニア性窒素が亜硝酸性窒素へ硝化される量と、ΔECとの間に、高い相関性が得られることになる。したがって、ΔECの制御値γを段階的に変化させ、都度、これに対応する値Aを値Bで除した値Rを取得する工程を繰り返すことで得られた複数組のデータを用いて、信頼性の高い関係式を得ることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の一態様は、亜硝酸化処理溶液中の亜硝酸性窒素の濃度とアンモニア性窒素の濃度の比(NO-N/NH-N比)を、後段の処理にとって適切な値に制御するための関係式の生成方法、並びに、当該関係式を用いた溶液処理方法および溶液処理装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態に係る関係式の生成方法の構成の概略を示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る溶液処理方法の構成の概略を示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係る溶液処理装置の構成の概略を示す図である。
図4】本発明の一実施形態に係る関係式を生成する過程の、各測定値および算出値のデータおよび関係を示す図である。
図5】本発明の一実施形態に係る関係式を生成する過程の、各測定値および算出値のデータおよび関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の一実施形態について説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態及び実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態及び実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。本明細書中、数値範囲に関して「X~Y」と記載した場合、当該記載は「X以上Y以下」を意図する。
【0027】
〔1.本発明の原理〕
従来技術では、溶存酸素濃度に基づいて溶液の処理を行う。一方、本発明の一実施形態では、電気伝導率(より具体的に、電気伝導率の上昇値であるΔEC)に基づいて溶液の処理を行う。
【0028】
水酸化ナトリウムを加えた場合の亜硝酸化反応は、「NH +1/2O+2NaOH→NO +3HO+2Na」という化学反応式によって示すことができる。例えば、特許文献1に記載の技術では、処理される溶液中の溶存酸素濃度(上記化学反応式の左辺の「1/2O」)を一定に保つために、溶液への曝気量を調節する。
【0029】
溶存酸素濃度を測定するセンサーが実際に測定している酸素量は、溶液中に溶解している酸素量であって、当該酸素量は、溶液中に真に溶解した酸素量から、アンモニア酸化細菌によって消費された酸素量(上記化学反応式の左辺の「1/2O」)を差し引いた、酸素量となる。
【0030】
このとき、溶存酸素を測定するセンサーの指示値が一定であっても、アンモニア酸化細菌によって消費された酸素量、および、これに伴い生成する亜硝酸性窒素の量は、常に一定になるとは限らない。
【0031】
例えば、上記センサー指示値が一定であっても、反応槽内の菌が増殖して菌体の総量が多くなると、酸素消費量が増加し、これに伴い亜硝酸性窒素の生成量が増加する場合がある。
【0032】
例えば、上記センサー指示値が一定であっても、処理される溶液の温度が低下すると、反応槽内の菌の活性が低下するため、酸素消費量が低下し、これに伴い亜硝酸性窒素の生成量が減少する場合がある。
【0033】
以上のように、溶存酸素濃度を測定するセンサーの指示値には、不確定要素が多く含まれる。それ故、当該溶存酸素濃度を測定するセンサーの指示値に基づいて溶液の処理を行う従来技術は、溶液の処理工程を精度高く制御することが困難である。
【0034】
上述したように、水酸化ナトリウムを加えた場合の亜硝酸化反応は、「NH +1/2O+2NaOH→NO +3HO+2Na」という化学反応式によって示すことができる。
【0035】
処理される溶液に添加されたNaOHは、亜硝酸化反応によって生じるHの中和に用いられる。それ故に、「NaOHの添加量」と「NaOHの消費量」とは、略同じであると考え得る。
【0036】
例えば、反応槽内の菌体の総量、および、処理される溶液の温度が変化した場合であっても、亜硝酸化反応を示す化学反応式自体に変化は無いので、一定量のアンモニア性窒素を亜硝酸化するためには、一定量の水酸化ナトリウムが必要となる。
【0037】
本発明の一実施形態では、処理される溶液の量に対する、NaOHの添加量の比率(=濃度)を、電気伝導率の上昇値であるΔECによって、間接的に測定する。電気伝導率を測定するセンサーの指示値には、含まれる不確定要素が非常に少ない。それ故、当該指示値に基づいて溶液の処理を行う本発明の一実施形態は、溶液の処理工程を精度高く制御することができる。
【0038】
更に、本発明の一実施形態は、溶存酸素濃度に基づいて溶液の処理を行う従来技術と比較すると、処理される溶液の水温、処理される溶液中の菌体量、および、処理される溶液の流量などが変動した場合であっても、安定して、当該溶液中の亜硝酸性窒素の濃度とアンモニア性窒素の濃度の比(NO-N/NH-N比)を所望の値にすることができる。
【0039】
〔2.関係式の生成方法〕
図1を参照しながら、本発明の一実施形態に係る溶液処理方法について説明する。
【0040】
本発明の一実施形態に係る関係式の生成方法は、アンモニア性窒素を含有している処理原液を、亜硝酸化反応槽内で亜硝酸化反応によって処理して、pHを所望の値の範囲に維持しながら亜硝酸化処理溶液を得る、溶液処理工程S1と、上記亜硝酸化反応槽内に流入させる前の、上記処理原液の電気伝導率を測定して値αを得る、第1の測定工程S2と、上記亜硝酸化処理溶液の電気伝導率を測定して値βを得る、第2の測定工程S3と、上記値βと上記値αとの差であるΔECを算出する、第1の算出工程S4と、上記亜硝酸化反応槽内の亜硝酸化処理溶液に溶解する酸素量を、上記ΔECが上記値αよりも大きな任意の制御値γとなるように制御する、第1の曝気制御工程S5と、上記亜硝酸化処理溶液の亜硝酸性窒素の濃度を測定して値Aを得る、第3の測定工程S6と、上記亜硝酸化処理溶液のアンモニア性窒素の濃度を測定して値Bを得る、第4の測定工程S7と、上記値Aを上記値Bで除した値Rを算出する、第2の算出工程S8と、上記第1の測定工程S2から上記第2の算出工程S8までの手順を、上記制御値γの値を変更して複数回繰り返す、反復工程S10と、上記反復工程S10により得られた複数組の上記制御値γおよび上記値Rから、上記ΔECと、上記値Aと上記値Bの比であるA/Bとの関係を示す関係式を生成する、関係式生成工程S11と、を有する。
【0041】
本明細書において、用語「亜硝酸化反応」とは、酸素条件下で、アンモニア性窒素と酸素とを、亜硝酸性窒素へと変換する反応を意図する。亜硝酸化反応は、「NH +1/2O→NO +HO+2H」という化学反応式によって示すことができる。さらに中和を考慮すると、水酸化ナトリウムを加えた場合の亜硝酸化反応は、「NH +1/2O+2NaOH→NO +3HO+2Na」という化学反応式によって示すことができる。
【0042】
中和剤(pH調整剤)を亜硝酸化処理溶液へ加えると、亜硝酸化処理溶液の電気伝導率が上昇する。本発明者は、中和剤の添加量と電気伝導率の上昇値との間には相関関係があることを見出した。本願発明では、電気伝導率の上昇値に着目するという独自の観点に基づいて、亜硝酸化反応の進行度合い、換言すれば、亜硝酸化処理溶液中の亜硝酸性窒素の濃度とアンモニア性窒素の濃度の比を予測している。
【0043】
上記溶液処理工程S1にて行う亜硝酸化反応は、担体に担持されたアンモニア酸化細菌の反応を利用するものであってよい。アンモニア酸化細菌としては、Nitrosomonas属が代表例であるが、これ以外にもNitrosococcus属、Nitrosospira属などが知られている。
【0044】
上記溶液処理工程S1では、亜硝酸化反応槽内の溶液のpHを所望の値の範囲に維持しながら、亜硝酸化処理溶液を得る。上記溶液処理工程S1にて、pHを所望の値の範囲に維持する方法は、亜硝酸化反応槽内の溶液のpHに応じて、当該溶液へのpH調整剤の投入および停止を制御する方法であってよい。pH調整剤の投入および停止を制御する方法としては、例えば、pH調整剤の投入に用いられるポンプの動作を制御する方法であってよい。
【0045】
維持されるpHの範囲は、7.0~9.0であることが好ましく、7.5~8.5であることがより好ましい。pHの範囲が上記範囲に維持されることで、亜硝酸化反応槽内での亜硝酸化反応に関わるアンモニア酸化細菌がpHの変動によって受ける影響を最小限にすることができ、また、中性よりも若干高めのpHとすることで、亜硝酸酸化細菌が亜硝酸性窒素から硝酸性窒素を生成する反応を抑制することができる。これにより、亜硝酸化反応に最適な反応条件を保ち、亜硝酸化反応を効率的に進めることができるとともに、アンモニア性窒素が亜硝酸性窒素へ硝化される量と、投入されるpH調整剤の量との間に、信頼性の高い相関関係が得られる。
【0046】
投入するpH調整剤は、塩基性のpH調整剤であってよい。塩基性のpH調整剤としては、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)、水酸化カリウム(苛性カリ)、炭酸水素ナトリウム(重曹)、炭酸水素カリウム(重炭酸カリ)などであってよい。塩基性のpH調整剤を適宜投入することにより、亜硝酸化反応槽内での亜硝酸化反応によって発生する水素イオンを相殺して、亜硝酸化処理溶液のpHの低下を抑制し、当該pHを所望の値に維持することができる。
【0047】
図1に示すように、溶液処理工程S1を行いながら、第1の測定工程S2、第2の測定工程S3、第1の算出工程S4、第1の曝気制御工程S5を行うことができる。第1の曝気制御工程S5の制御により、ΔECの値が任意に設定した制御値γに到達した時点で、第3の測定工程S6、第4の測定工程S7、第2の算出工程S8を行うことができる。
【0048】
上記第1の測定工程S2、および、第2の測定工程S3における電気伝導率の測定は、電気伝導率計を用いた測定であってよい。当該電気伝導率計としては、限定されず、市販の電気伝導率計を用いることができる。
【0049】
上記第1の測定工程S2で測定する、亜硝酸化反応槽内に流入させる前の、上記処理原液の電気伝導率(値α)は、例えば、亜硝酸化反応槽へ導入する前の処理原液を貯留するための処理原液槽内で測定されてもよく、上記処理原液槽と亜硝酸化反応槽とを繋ぐ流路内で測定されてもよい。上記処理原液槽と亜硝酸化反応槽とを繋ぐ流路内で処理原液の電気伝導率が測定される場合は、亜硝酸化反応槽への流入直前の流路内の処理原液の電気伝導率を測定してもよい。
【0050】
上記第2の測定工程S3で測定する、亜硝酸化処理溶液の電気伝導率(値β)は、例えば、亜硝酸化反応槽内で測定されてもよく、亜硝酸化反応槽から亜硝酸化処理溶液を排出するための流路内で測定されてもよい。亜硝酸化反応槽から亜硝酸化処理溶液を排出するための流路内で亜硝酸化処理溶液の電気伝導率が測定される場合は、亜硝酸化反応槽からの排出直後の流路内の亜硝酸化処理溶液の電気伝導率を測定してもよい。
【0051】
上記pH調整剤(例えば、塩基性のpH調整剤)の添加により、亜硝酸化処理溶液の電気伝導率の値βは処理原液の電気伝導率の値αよりも大きくなる。そのため、上記第1の算出工程S4では、式「ΔEC=β-α」によって、値βと上記値αとの差であるΔECを算出することができる。
【0052】
上記第1の曝気制御工程S5では、亜硝酸化反応槽内の亜硝酸化処理溶液に溶解する酸素量を、上記ΔECが上記値αよりも大きな任意の制御値γとなるように制御する。当該曝気制御工程S5は、例えば、微細気泡ブロワをON/OFF制御することによって行うことができる。
【0053】
上記第3の測定工程S6における、亜硝酸化処理溶液の亜硝酸性窒素の濃度の測定は、比色分析法、イオンクロマトグラフ法などの測定方法によって行うことができる。また、亜硝酸濃度センサーを用いた測定であってもよい。当該測定機器としては、限定されず、市販の測定機器を用いることができる。
【0054】
上記測定は、亜硝酸化反応槽内の亜硝酸化処理溶液の一部を亜硝酸化反応槽から取り出して測定サンプルとし、当該測定サンプルの亜硝酸性窒素の濃度を測定するものであってよい。また、亜硝酸濃度センサーは、亜硝酸化反応槽内に設置されるもの、あるいは亜硝酸化反応槽から亜硝酸化処理溶液を排出するための流路内に設置されるものであってもよい。本願発明では、亜硝酸濃度センサーは必須構成ではないため、発明の構成を簡略化するという観点からは、上記測定は、亜硝酸化反応槽内の亜硝酸化処理溶液の一部を亜硝酸化反応槽から取り出して測定サンプルとし、当該測定サンプルの亜硝酸性窒素の濃度を測定するものであることが好ましい。
【0055】
上記第4の測定工程S7における、亜硝酸化処理溶液のアンモニア性窒素の濃度の測定は、比色分析法、イオン電極法などの測定方法によって行うことができる。また、アンモニア濃度センサーを用いた測定であってもよい。当該測定機器としては、限定されず、市販の測定機器を用いることができる。
【0056】
上記測定は、亜硝酸化反応槽内の亜硝酸化処理溶液の一部を亜硝酸化反応槽から取り出して測定サンプルとし、当該測定サンプルのアンモニア性窒素の濃度を測定するものであってよい。また、アンモニア濃度センサーは、亜硝酸化反応槽内に設置されるもの、あるいは亜硝酸化反応槽から亜硝酸化処理溶液を排出するための流路内に設置されるものであってもよい。本願発明では、アンモニア濃度センサーは必須構成ではないため、発明の構成を簡略化するという観点からは、上記測定は、亜硝酸化反応槽内の亜硝酸化処理溶液の一部を亜硝酸化反応槽から取り出して測定サンプルとし、当該測定サンプルのアンモニア性窒素の濃度を測定するものであることが好ましい。
【0057】
上記第2の算出工程S8は、ΔECが制御値γ付近で安定した時点で、上記第3の測定工程S6で得られる亜硝酸化処理溶液の亜硝酸性窒素の濃度の値Aおよび上記第4の測定工程S7で得られる亜硝酸化処理溶液のアンモニア性窒素の濃度の値Bより、亜硝酸化反応槽内の亜硝酸化処理溶液の亜硝酸性窒素濃度とアンモニア性窒素濃度の比(NO-N/NH-N比)である値Rを算出する工程である。
【0058】
反復工程S10は、上記第1の測定工程S2から上記第2の算出工程S8までのn回目の手順が終了し、(R,γ)からなる一組のデータが取得できた時点で、γとは異なる値γn+1を新たに設定し、再度上記第1の測定工程S2から上記第2の算出工程S8までのn+1回目の手順を繰り返す工程である。
【0059】
上記反復工程S10により取得するデータの組数としては限定されず、例えば、3組以上、5組以上、10組以上、30組以上、50組以上であり得る。なお、データの数の上限は、限定されず、100組であってもよい。
【0060】
ただし、関係式生成工程S11に供する複数組のデータが集まったデータセット((R,γ),(R,γ),・・・(R,γ))は、亜硝酸化反応槽の水温、処理原液のアンモニア性窒素濃度、有機物濃度、アルカリ度、pHが変動しない、あるいは変動が少ない条件下で得られたものであることが望ましい。仮に処理原液の成分が、特定の時期を境に大きく異なる場合は、その前後でデータセットを分割し、それぞれ別個のデータセットとして関係式生成工程S11に供することが望ましい。
【0061】
上記関係式生成工程S11は、上記制御値γ、および、上記値Rから、上記ΔECと上記A/B(NO-N/NH-N比)との関係を示す関係式を生成する工程である。
【0062】
関係式としては、限定されず、A/Bの値を代入することによって、ΔECの制御値εを得ることができる関係式であればよい。
【0063】
例えば、上述したデータセット((R,γ),(R,γ),・・・(R,γ))を用いて、目的変数をΔEC、説明変数をA/Bとする単回帰分析を行い、当該回帰分析によって得られた回帰式「ΔEC=k×A/B+t」を、上述した関係式としてもよい。上記回帰式に、A/Bの所望の値の例として1.32を代入すると、「ε=k×1.32+t」となり、制御値εが得られる。
【0064】
単回帰分析は、例えばMicrosoft社の表計算ソフトExcelにおいて、関数「CORREL」を用いて実施することができる。あるいは、グラフを作成して単回帰分析を実施することも可能で、この場合は、データのばらつき具合を視覚的に捉えることができる。いずれの方法においても、回帰式「ΔEC=k×A/B+t」とは別に「R」で示される決定係数の値が重要となり、この値が1に近いほど得られた回帰式の精度が高く、0に近づくほど精度は低くなる。目安として、Rが0.5を下回る場合には相関性が低いと判断し、改めてデータセットを選別し直す、あるいは収集し直すことが望ましい。
【0065】
上記アンモニア性窒素を含有している処理原液としては、限定されず、例えば、汚水、排水、および下水を挙げることができる。当該処理原液が含有するアンモニア性窒素の濃度は、限定されず、例えば、200mg/L以上、1000mg/L以上、2000mg/L以上、3000mg/L以上、4000mg/L以上、または、5000mg/L以上であり得る。当該溶液が含有するアンモニア性窒素の濃度の上限値は、限定されず、例えば、10000mg/L、または、5000mg/Lであり得る。
【0066】
〔3.溶液処理方法〕
図1および図2を参照しながら、本発明の一実施形態に係る溶液処理方法について説明する。ただし、上記〔2.関係式の生成方法〕にて既に説明した構成については、ここではその説明を省略する。
【0067】
<溶液処理の各工程>
本発明の一実施形態に係る溶液処理方法は、アンモニア性窒素を含有している処理原液を、亜硝酸化反応槽内で亜硝酸化反応によって処理して、pHを所望の値の範囲に維持しながら亜硝酸化処理溶液を得る、溶液処理工程S1と、上記亜硝酸化反応槽内に流入させる前の、上記処理原液の電気伝導率を測定して値αを得る、第1の測定工程S2と、上記亜硝酸化処理溶液の電気伝導率を測定して値βを得る、第2の測定工程S3と、上記値βと上記値αとの差であるΔECを算出する、第1の算出工程S4と、上記亜硝酸化処理溶液の亜硝酸性窒素の濃度である値Aと上記亜硝酸化処理溶液のアンモニア性窒素の濃度である値Bとの比であるA/Bの目標値(所望する値)を関係式に代入して得られたΔECを制御値εとして、上記亜硝酸化反応槽内の亜硝酸化処理溶液に溶解する酸素量を、上記制御値εと上記第1の算出工程から得られたΔECとのズレに基づいて制御する、第2の曝気制御工程S12と、を有する。
【0068】
上記関係式は、(i)上記亜硝酸化処理溶液の電気伝導率である値βと、上記亜硝酸化反応槽内に流入させる前の、上記処理原液の電気伝導率である値αとの差であるΔECと、(ii)上記亜硝酸化処理溶液の亜硝酸性窒素の濃度である値Aと、上記亜硝酸化処理溶液のアンモニア性窒素の濃度である値Bとの比であるA/Bとの関係を示すものである。
【0069】
本発明の一実施形態に係る溶液処理方法では、予め作成された関係式を用いてもよいし、溶液を処理する過程で生成された新たな関係式を用いてもよい。予め作成された関係式を用いる場合には、所望するA/Bの値(例えば1.32)を関係式へ代入して算出したΔECの値を制御値εとして、第2の曝気制御工程S12を行えばよい。一方、新たな関係式を用いる場合(換言すれば、新たな関係式を作成する場合)には、溶液処理工程S1を行いながら、第1の測定工程S2、第2の測定工程S3、第1の算出工程S4、第1の曝気制御工程S5、第3の測定工程S6、第4の測定工程S7、第2の算出工程S8、反復工程S10を経て、新たな関係式の作成(関係式生成工程S11)を行えばよい。換言すれば、上述した〔2.関係式の生成方法〕にしたがって、新たな関係式を作成し、所望するA/Bの値(例えば1.32)を新たな関係式へ代入して算出したΔECの値を制御値εとして、第2の曝気制御工程S12を行えばよい。
【0070】
上記第1の曝気制御工程S5および第2の曝気制御工程S12では、曝気ブロワを用いて、風量の大・小、または、粗大気泡・微細気泡の切り替えによって、亜硝酸化反応槽内の亜硝酸化処理溶液に溶解する酸素量を制御してよい。曝気ブロワが複数台ある場合は、稼働する台数の多・少によって、亜硝酸化反応槽内の亜硝酸化処理溶液に溶解する酸素量を制御してもよい。さらに、上記の複数の方法を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
亜硝酸化反応槽内の亜硝酸化処理溶液に溶解する酸素量を増やせば、好気的に反応が進む亜硝酸化反応が促進され、アンモニア性窒素の濃度が減少し、かつ、亜硝酸性窒素の濃度が増加すると同時に、pH調整剤がより多く加えられることで、ΔECの値は増加の方向へ進む。一方、亜硝酸化反応槽内の亜硝酸化処理溶液に溶解する酸素量を減らせば、好気的に反応が進む亜硝酸化反応が抑制され、アンモニア性窒素の濃度が増加し、かつ、亜硝酸性窒素の濃度が減少すると同時に、pH調整剤の量が減少し、処理原液が流入することで亜硝酸化反応槽内の溶液が希釈されることから、ΔECの値は減少の方向へ進む。これを繰り返すことでΔECは徐々に制御値εに近づき、同時に、A/Bを、所望の値に近づけることができる。
【0072】
上記A/Bの設定値は、溶液処理工程S1の前後の処理工程の条件に応じて、任意に設定されてよい。当該設定値は、例えば、1.00≦A/B≦1.50であってよく、1.32であってよい。A/Bの設定値が1.32であれば、後述するアナモックス処理工程S13に最適なNO-N/NH-N比を有する亜硝酸化処理溶液を得ることができる。
【0073】
本発明の一実施形態に係る溶液処理方法は、さらに上記亜硝酸化処理溶液をアナモックス反応によって処理するアナモックス処理工程S13を有してもよい。
【0074】
アナモックス反応では、アナモックス菌によって、アンモニア性窒素と亜硝酸性窒素とが、窒素ガス(N)へと変換される。アナモックス細菌は、アナモックス反応を示す独立栄養細菌の一群(例えば、Canditaus.Brocadia、Canditaus.Kueneia)であり得る。
【0075】
アナモックス反応は、「NH +1.32NO +0.066HCO +0.13H→1.02N+0.26NO +0.066CH0.50.15+2.03HO」の反応式にて表すことができる。それ故に、亜硝酸化処理溶液のNO-N/NH-N比を1.32に制御すれば、アナモックス反応にて、アンモニア性窒素と亜硝酸性窒素とを過不足なく反応させることができる。
【0076】
<関係式更新工程>
本発明の一実施形態に係る溶液処理方法は、〔3.溶液処理方法〕の運転方法から、必要に応じて、〔2.関係式の生成方法〕の運転方法に切り替えてもよい。つまり、本発明の一実施形態に係る溶液処理方法は、任意の段階で、関係式を、新たな関係式に更新してもよい。
【0077】
本発明の一実施形態に係る溶液処理方法は、関係式更新工程S14を有すれば、溶液処理方法の各種設定(例えば、処理原液の組成、亜硝酸化反応槽のpH設定値など)が変化したとしても、亜硝酸化反応槽内の亜硝酸化処理溶液におけるA/Bの値を所望の値へ近づけることができる。
【0078】
上記関係式更新工程S14は、基本的に、〔2.関係式の生成方法〕にて説明した構成(具体的に、関係式生成工程S11)と同じである。
【0079】
本発明の一実施形態に係る溶液処理方法は、上記溶液処理工程S1の前に、例えば、BOD酸化工程を有していてもよい。
【0080】
本発明の一実施形態に係る溶液処理方法は、上記アナモックス処理工程S13の後に、アナモックス処理液の一部を、亜硝酸化反応槽へ導入する前の処理原液を貯留するための処理原液槽へ返送する工程を有していてもよい。また、本発明の一実施形態に係る溶液処理方法は、上記アナモックス処理工程S13の後に、アナモックス処理液の一部を、任意の流路へ返送する工程を有していてもよい。ただし、アナモックス処理液を上記処理原液槽と亜硝酸化反応槽との間の流路へ返送する場合、電気伝導率計による値αの測定位置は、処理原液にアナモックス処理液が合流した後の位置となる。また、本発明の一実施形態に係る溶液処理方法は、上記アナモックス処理工程S13の後に、アナモックス処理液の一部を、上記別の反応(例えば、BOD酸化)を行う反応槽へ送る工程を有していてもよい。
【0081】
〔4.溶液処理装置〕
図3を参照しながら、本発明の一実施形態に係る溶液処理装置について説明する。本発明の一実施形態に係る溶液処理装置は、本発明の一実施形態に係る溶液処理方法を実施するために用いられ得る。なお、上記〔2.関係式の生成方法〕、〔3.溶液処理方法〕にて既に説明した構成については、ここでは、その説明を省略する。
【0082】
<溶液処理装置>
本発明の一実施形態に係る溶液処理装置1は、アンモニア性窒素を含有している処理原液を亜硝酸化反応によって処理して、亜硝酸化処理溶液を得る、亜硝酸化反応槽4と、上記亜硝酸化処理溶液のpHを所望の値の範囲に維持する、pH調整部7と、上記亜硝酸化反応槽4内に流入させる前の、上記処理原液の電気伝導率を測定して値αを得る、第1の測定部9と、上記亜硝酸化処理溶液の電気伝導率を測定して値βを得る、第2の測定部10と、上記値βと上記値αとの差であるΔECを算出する、第1の算出部11と、上記亜硝酸化処理溶液の亜硝酸性窒素の濃度である値Aと上記亜硝酸化処理溶液のアンモニア性窒素の濃度である値Bとの比であるA/Bの目標値(所望する値)を関係式に代入して得られたΔECを制御値εとして、上記亜硝酸化反応槽4内の亜硝酸化処理溶液に溶解する酸素量を、上記制御値εと上記第1の算出部11から得られたΔECとのズレに基づいて制御する、第1の曝気制御部12と、を備えるものである。
【0083】
上記関係式は、(i)上記亜硝酸化処理溶液の電気伝導率である値βと、上記亜硝酸化反応槽4内に流入させる前の、上記処理原液の電気伝導率である値αとの差であるΔECと、(ii)上記亜硝酸化処理溶液の亜硝酸性窒素の濃度である値Aと、上記亜硝酸化処理溶液のアンモニア性窒素の濃度である値Bとの比であるA/Bとの関係を示すものである。
【0084】
溶液処理装置1は、処理原液槽2から送液されるアンモニア性窒素を含有している処理原液を亜硝酸化反応によって処理して、亜硝酸化処理溶液を得る、亜硝酸化反応槽4を備えている。
【0085】
亜硝酸化反応槽4は、処理原液槽2から処理原液ポンプ3などによって送液される、アンモニア性窒素を含有している処理原液を亜硝酸化反応によって処理して、亜硝酸化処理溶液を得る、亜硝酸化反応工程を行うための槽である。
【0086】
上記亜硝酸化反応槽4は、上記亜硝酸化処理溶液のpHを所望の値の範囲に維持する、pH調整部7を備えている。pH調整部7は、pHメーター6を備えていてもよい。当該pHメーター6としては、市販のpHメーターを用いることができる。
【0087】
pH調整部7は、pHメーター6で測定された亜硝酸化反応槽4内の亜硝酸化処理溶液のpHに応じてpH調整剤投入ポンプ8の駆動を制御することによって、pH調節流路に備えられているpH調整剤を亜硝酸化反応槽4内へ投入する、または、pH調節流路に備えられているpH調整剤の亜硝酸化反応槽4内への投入を停止する、構成であってもよい。
【0088】
亜硝酸化反応槽4は、槽内の亜硝酸化処理溶液を攪拌するための粗大気泡ブロワ5を備えていてもよい。当該粗大気泡ブロワ5は、主に、亜硝酸化反応槽4内の亜硝酸化処理溶液の撹拌と担体の流動とに用いられ得る。
【0089】
pH調整部7の設定によって維持されるpHの範囲は、7.0~9.0であることが好ましく、7.5~8.5であることがより好ましい。投入されるpH調整剤は、上述した〔2.関係式の生成方法〕にて説明したpH調整剤であってもよい。
【0090】
上記第1の測定部9を構成する電気伝導率計は、処理原液槽2に設置され、処理原液槽2内の処理原液の電気伝導率(値α)を測定するものであってもよい。また、上記第1の測定部9を構成する電気伝導率計は、処理原液槽2と亜硝酸化反応槽4とを繋ぐ流路に設置され、亜硝酸化反応槽4へ流入する流路内で処理原液の電気伝導率(値α)を測定するものであってもよい。
【0091】
上記第2の測定部10を構成する電気伝導率計は、亜硝酸化反応槽4に設置され、亜硝酸化反応槽4内の亜硝酸化処理溶液の電気伝導率(値β)を測定するものであってもよい。また、上記第2の測定部10を構成する電気伝導率計は、亜硝酸化反応槽4から亜硝酸化処理溶液を排出するための流路に設置され、亜硝酸化反応槽4から亜硝酸化処理溶液を排出するための流路内で亜硝酸化処理溶液の電気伝導率(値β)を測定するものであってもよい。
【0092】
上記第1の算出部11は、上記第2の測定部10で測定された値βと上記第1の測定部9で測定された値αとの差である、ΔECを算出する。
【0093】
上記第1の曝気制御部12は、所望するA/Bの値(例えば1.32)を関係式へ代入して得られるΔECの制御値εに基づいて、上記亜硝酸化反応槽4内の亜硝酸化処理溶液に溶解する酸素量を制御する。当該関係式については、〔2.関係式の生成方法〕で説明したので、ここでは、その説明を省略する。
【0094】
所望するA/Bの値(例えば1.32)は、予め溶液処理装置1の任意の構成(例えば、第1の曝気制御部12)に記憶されていてもよい。この場合、上記構成(例えば、第1の曝気制御部12)は、所望するA/Bの値(例えば1.32)を記憶するための記憶装置(例えばメモリ)を備え得る。
【0095】
所望するA/Bの値(例えば1.32)は、外部から溶液処理装置1の任意の構成(例えば、第1の曝気制御部12)に入力されてもよい。この場合、上記構成(例えば、第1の曝気制御部12)は、所望するA/Bの値(例えば1.32)を当該構成に入力するための入力装置(例えばキーボード)と、所望するA/Bの値(例えば1.32)を記憶するための記憶装置(例えばメモリ)と、を備え得る。
【0096】
上記第1の曝気制御部12が制御する曝気装置は、限定されず、例えば、微細気泡を発生させる散気装置を備えた、微細気泡ブロワ13であってもよい。微細気泡ブロワ13から吐出される微細気泡は、亜硝酸化反応槽4内の亜硝酸化処理溶液との接触面積が大きいことから、多くの酸素を液中に溶解させることができる。微細気泡ブロワ13の動作を制御することによって、亜硝酸化反応槽4内の環境を、容易に好気的環境または嫌気的環境へ変更することができる。
【0097】
上記溶液処理装置1は、亜硝酸化反応槽4の下流に、上記亜硝酸化処理溶液をアナモックス反応によって処理してアナモックス処理液を得る、アナモックス処理槽18をさらに備えていてもよい。
【0098】
上記溶液処理装置1は、上記亜硝酸化反応槽4内の亜硝酸化処理溶液に溶解する酸素量を、上記ΔECが上記値αよりも大きな任意の制御値γとなるように制御する、第2の曝気制御部12’と、上記亜硝酸化処理溶液の亜硝酸性窒素の濃度を測定して値Aを得る、第3の測定部14と、上記亜硝酸化処理溶液のアンモニア性窒素の濃度を測定して値Bを得る、第4の測定部15と、上記値Aを上記値Bで除した値Rを算出する、第2の算出部16と、上記制御値γの値を変更しながら得られた複数組の上記制御値γおよび上記値Rから、上記ΔECと、上記値Aと上記値Bの比であるA/Bとの関係を示す新たな関係式を生成する、関係式更新部17’と、を備えるものであってもよい。
【0099】
上記溶液処理装置1において、第1の曝気制御部12と第2の曝気制御部12’とは同じ構成であり得、関係式生成部17と関係式更新部17’とは同じ構成であり得る。
【0100】
上記第3の測定部14は、亜硝酸化処理溶液の一部を亜硝酸化反応槽4から取り出して測定サンプルとし、比色分析法、イオンクロマトグラフ法などによって、亜硝酸性窒素の濃度の測定を行う構成であってよい。また、上記第3の測定部14は、亜硝酸化反応槽4に浸漬する亜硝酸濃度センサーを備えた構成であってもよい。
【0101】
上記第4の測定部15は、亜硝酸化処理溶液の一部を亜硝酸化反応槽4から取り出して測定サンプルとし、比色分析法、イオン電極法などによって、アンモニア性窒素の濃度の測定を行う構成であってよい。また、上記第4の測定部15は、亜硝酸化反応槽4に浸漬するアンモニア濃度センサーを備えた構成であってもよい。
【0102】
上記溶液処理装置1は、亜硝酸化反応槽4の前に、例えば、BOD酸化反応などによる有機物除去、および/または、凝集沈殿などによる固液分離の処理を行う槽を備えていてもよい。
【0103】
上記溶液処理装置1は、アナモックス処理槽18から流出するアナモックス処理液の一部を、処理原液槽2へ返送する流路を備えていてもよい。また、上記溶液処理装置1は、アナモックス処理槽18から流出するアナモックス処理液の一部を、処理原液槽2と亜硝酸化反応槽4との間の流路へ返送する流路を備えていてもよい。ただし、アナモックス処理液を上記処理原液槽2と亜硝酸化反応槽4との間の流路へ返送する場合、電気伝導率計による値αの測定位置は、処理原液にアナモックス処理液が合流した後の位置となる。また、上記溶液処理装置1は、アナモックス処理槽18から流出するアナモックス処理液の一部を、上記別の反応(例えば、BOD酸化)を行う反応槽へ送る流路を備えていてもよい。
【0104】
本実施の形態の溶液処理装置1において、pH調整部7、第1の算出部11、第1の曝気制御部12、第2の曝気制御部12’、第2の算出部16、関係式生成部17、および、関係式更新部17’の具体的な構成は、限定されない。pH調整部7、第1の算出部11、第1の曝気制御部12、第2の曝気制御部12’、第2の算出部16、関係式生成部17、および、関係式更新部17’の各々は、例えば、制御ブロックとしてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0105】
この場合、pH調整部7、第1の算出部11、第1の曝気制御部12、第2の曝気制御部12’、第2の算出部16、関係式生成部17、および、関係式更新部17’の具体的な構成は、限定されない。pH調整部7、第1の算出部11、第1の曝気制御部12、第2の曝気制御部12’、第2の算出部16、関係式生成部17、および、関係式更新部17’の各々は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備え得る。この制御装置と記憶装置とにより上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現され得る。
【0106】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0107】
また、pH調整部7、第1の算出部11、第1の曝気制御部12、第2の曝気制御部12’、第2の算出部16、関係式生成部17、および、関係式更新部17’の具体的な構成は、限定されない。pH調整部7、第1の算出部11、第1の曝気制御部12、第2の曝気制御部12’、第2の算出部16、関係式生成部17、および、関係式更新部17’の各々の機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0108】
本発明の一実施形態に係る溶液処理装置および溶液処理方法は、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の目標3「すべての人に健康と福祉を」、目標6「すべての人に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する」、目標11「住み続けられるまちづくりを」等の達成にも貢献することができる。
【実施例
【0109】
<1.溶液処理装置の設計>
図3に基づいて、本実施例に係る溶液処理装置を設計した。より具体的に、本実施例に係る溶液処理装置を以下のように設計した。
【0110】
(1)処理原液の調製方法
水道水に以下の薬品を溶解して処理原液を調製した;
・(NHSO:アンモニア性窒素として800mgN/L、
・KHCO:無機炭素として200mgC/L、
・KHPO :リンとして5mgP/L、
・以下の微量元素、
FeSO・7HO :5μg/L、
ZnSO・7HO :0.2μg/L、
CoCl・6HO :0.1μg/L、
MnCl・4HO :0.5μg/L、
CuSO・5HO :0.1μg/L、
NaMoO・2HO:0.1μg/L、
NiCl・6HO :0.1μg/L。
【0111】
(2)亜硝酸化反応槽4
・処理原液の亜硝酸化反応槽4への供給量:30L/日、
・亜硝酸化反応槽4の容量:20L、
・亜硝酸化反応槽4の内部にアンモニア酸化細菌を保持した繊維担体ファビオス(登録商標)を6L添加。
【0112】
(3)亜硝酸化反応槽4の各制御
(3-1)pH制御
pH電極を、pHメーター6およびpH調整部7が一体となったpHコントローラーに接続し、さらにpH調整剤投入ポンプ8の電源を上記pHコントローラーに接続した。これにより、亜硝酸化反応槽4内の亜硝酸化処理溶液のpHが8.0となるよう、ON/OFF制御により、当該亜硝酸化処理溶液へ水酸化ナトリウムを添加した。
【0113】
(3-2)曝気制御
亜硝酸化反応槽4に、気泡吐出部が複数個の直径3mmの孔で構成される粗大気泡ブロワ5と、気泡吐出部にエアストーンを取り付けた微細気泡ブロワ13と、をそれぞれ設置した。粗大気泡ブロワ5は、常時運転し、微細気泡ブロワ13は、次の要領でON/OFF制御とした。まず微細気泡ブロワ13の電源を、第1の算出部11と第1の曝気制御部12とが一体となった、2ch指示調節計(神港テクノス社製WCL-13A、以下、単に「調節計」と表記)に接続し、センサーからの入力結果に基づく指示値を、上記調節計で任意に設定できる制御値と比較して、微細気泡ブロワ13がON/OFFするようにした。第1の測定部9に相当する、処理原液槽2に設置した電気伝導率計と、第2の測定部10に相当する、亜硝酸化反応槽4に設置した電気伝導率計(ともに東亜DKK製CM-31P)で測定したαおよびβを上記調節計に取り込んで、βからαを差し引いたΔECを算出し、当該ΔECを指示値とした。調節計で任意に設定した制御値γに対し、指示値ΔECが小さい場合は微細気泡ブロワ13をON、指示値ΔECが大きい場合は微細気泡ブロワ13をOFFとして、指示値ΔECが制御値γ付近で安定するよう制御した。
【0114】
(3-3)温度制御
温度制御は本発明にとって必須ではないが、アンモニア酸化細菌の活性を安定させるため、亜硝酸化反応槽4内にヒーターを浸漬し、亜硝酸化反応槽4内の溶液の温度を常時30℃に維持した。
【0115】
(3-4)各窒素濃度測定方法と関係式の生成方法
第3の測定部14、第4の測定部15、第2の算出部16、関係式生成部17に相当する操作は、手分析とコンピュータを用いた計算により、以下の手順で実施した。
【0116】
上記の制御値γによる曝気制御運転において、指示値ΔECが制御値γ付近で安定した時点で、亜硝酸化反応槽4内から溶液を採取し、JIS K0102 43.1.1が定める比色法により、亜硝酸性窒素濃度Aを、JIS K0102 42.4が定めるイオン電極法により、アンモニア性窒素濃度Bを測定した。値Aを値Bで除した比率Rを算出し、そのときの制御値γとペアにして記録するまでの操作を、γの値を段階的に変更して複数回実施した。これらの操作により得られた、(A/B,ΔEC)を表す複数組のデータ(R,γ)を用いて、Microsoft社の表計算ソフトExcelにより、ΔECを目的変数、A/Bを説明変数とする単回帰分析を実施し、関係式「ΔEC=k×A/B+t」の定数kおよびt、並びに、決定係数Rを算出した。
【0117】
<2.溶液の処理、およびその結果>
本実施例に係る溶液処理装置を用い、アンモニア性窒素を含有している処理原液を、亜硝酸化反応槽内で、pHを8.0に維持し、かつ制御値γを段階的に変えていく曝気制御をしながら、亜硝酸化反応によって処理して、亜硝酸化処理溶液を得る、溶液処理を実施した。
【0118】
上記ΔECが制御値γ付近で安定した状態で、亜硝酸化処理溶液1Lあたりに添加した水酸化ナトリウムの量を、水酸化ナトリウム添加率(mgNaOH/L)として算出した。
【0119】
また、処理原液のNH-N濃度についても、前述の方法(JIS K0102 42.4 イオン電極法)により測定し、処理原液のNH-N濃度と亜硝酸化処理溶液のNH-N濃度の差(亜硝酸化処理前後のNH-N濃度の差)であるΔNH-Nを算出した。
【0120】
図4の401は、本発明の制御方法を実施する以前に、微細気泡ブロワのON/OFFをタイマーで制御し、タイマーの時間設定を種々変更して都度測定された、亜硝酸化処理前後のΔNH-Nと、上記水酸化ナトリウム添加率との関係を示している。また、図4の402は、水酸化ナトリウム添加率と、上記の処理を実施中に途中から計測を開始した、上記ΔECの値と、の関係を示している。
【0121】
中和を考慮した亜硝酸化反応式は、「NH +1/2O+2NaOH→NO+3HO+2Na」で表される。したがって、1gのアンモニア性窒素NH-Nが亜硝酸性窒素NO-Nに酸化されると、中和に必要なNaOH量は5.7gであるので、水酸化ナトリウム添加率(y)と亜硝酸化処理前後のΔNH-N(x)との関係の理論式は、「y=5.7x」となる。図4の401のグラフ中に示すように、水酸化ナトリウム添加率と亜硝酸化処理前後のΔNH-Nとの間には、切片を0として得られた回帰直線「y=4.4x」において、決定係数はR=0.75となり、相関性が観察された。各直線の傾きから、アンモニア性窒素の亜硝酸化に必要な、水酸化ナトリウム量の実測値は、理論量より少ない結果となったが、これは、処理原液に炭素源として加えたKHCOに、pH低下を抑制する緩衝作用があることが影響している。
【0122】
図4の402に示されるように、水酸化ナトリウム添加率とΔECとの間にも、直線性が観察された。本発明者は、上記の結果から、ΔNH-NとΔECの間に相関があるとの結論を得て、本発明の着想を得た。
【0123】
次に、本発明の一形態である、ΔECの任意の値γを制御値とする曝気制御を取り入れて、処理を実施した。ここでは、亜硝酸化処理溶液の亜硝酸性窒素の濃度(NO-N濃度)および、亜硝酸化処理溶液のアンモニア性窒素の濃度(NH-N濃度)を測定し、それぞれ値A、値Bとした。NO-N濃度の測定は、JIS K0102 43.1.1が定める比色法により実施した。
【0124】
図5に、ΔECの制御値γと亜硝酸化処理溶液のNH-N濃度(値B)との関係(図5の501)、ΔECの制御値γと亜硝酸化処理溶液のNO-N濃度(値A)との関係(図5の502)、および、ΔECの制御値γに対する、亜硝酸化処理溶液のNO-N/NH-N比(A/B)の関係(図5の503)をそれぞれ示した。
【0125】
図5で得られた結果から、ΔECの制御値γに対し、亜硝酸化処理溶液のNH-Nの濃度は負の相関、NO-N濃度は正の相関がみられた。その結果、NO-N/NH-N比(A/B)に対し、ΔECの制御値γは正の相関があることがわかった。XYの軸を入れ替えて示した図5の503からは、回帰直線「ΔEC(S/m)=0.07×A/B+0.07」が得られ、決定係数はR=0.74であった。
【0126】
図5の503から得た回帰式に、A/Bの所望の値として、アナモックス反応に適したNO-N/NH-N比である1.32を代入すると、ΔEC=0.16が得られる。すなわち、本条件における亜硝酸化処理工程では、関係式から得たΔECの値0.16を、制御値εとして固定し、その上で曝気制御を実施すれば、NO-N/NH-N比が1.32付近となった亜硝酸化処理溶液が、安定的に得られることになる。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明は、溶液(例えば、排水、下水、し尿、浄化槽汚泥、下水汚泥)の処理に利用することができる。
【符号の説明】
【0128】
S1 溶液処理工程
S2 第1の測定工程
S3 第2の測定工程
S4 第1の算出工程
S5 第1の曝気制御工程
S6 第3の測定工程
S7 第4の測定工程
S8 第2の算出工程
S9 pH調整工程
S10 反復工程
S11 関係式生成工程
S12 第2の曝気制御工程
S13 アナモックス処理工程
S14 関係式更新工程
1 溶液処理装置
2 処理原液槽
3 処理原液ポンプ
4 亜硝酸化反応槽
5 粗大気泡ブロワ
6 pHメーター
7 pH調整部
8 pH調整剤投入ポンプ
9 第1の測定部
10 第2の測定部
11 第1の算出部
12 第1の曝気制御部
12’ 第2の曝気制御部
13 微細気泡ブロワ
14 第3の測定部
15 第4の測定部
16 第2の算出部
17 関係式生成部
17’ 関係式更新部
18 アナモックス処理槽
【要約】
【課題】亜硝酸化処理溶液中の亜硝酸性窒素の濃度とアンモニア性窒素の濃度の比を適切な値に制御するための関係式の生成方法、並びに、当該関係式を用いた溶液処理方法及び溶液処理装置を実現する。
【解決手段】亜硝酸化処理溶液の電気伝導率の値βと処理原液の電気伝導率の値αとの差であるΔECと、亜硝酸化処理溶液の亜硝酸性窒素の濃度の値Aとアンモニア性窒素の濃度の値Bとの比であるA/Bと、の関係を示す関係式を用いる。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5