(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】トンネル切羽状態評価システム、及びトンネル切羽状態評価方法
(51)【国際特許分類】
E21D 9/00 20060101AFI20240104BHJP
G06T 7/70 20170101ALI20240104BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20240104BHJP
G03B 35/00 20210101ALI20240104BHJP
【FI】
E21D9/00 Z
E21D9/00 C
G06T7/70 Z
G06T7/00 610C
G03B35/00
(21)【出願番号】P 2023087630
(22)【出願日】2023-05-29
(62)【分割の表示】P 2019167990の分割
【原出願日】2019-09-17
【審査請求日】2023-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 亮介
(72)【発明者】
【氏名】多寳 徹
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-072704(JP,A)
【文献】特開2018-163063(JP,A)
【文献】特開2019-023392(JP,A)
【文献】特開2018-017640(JP,A)
【文献】特開2017-057708(JP,A)
【文献】特開平11-081855(JP,A)
【文献】特開平03-051495(JP,A)
【文献】特開平07-043262(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/00
G06T 7/70
G06T 7/00
G03B 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル切羽の状態を
評価するシステムにおいて、
トンネル内を移動することができる移動体と、
前記移動体に搭載される2以上の画像取得手段と、
前記移動体に搭載される3以上の反射体と、
トンネル切羽を分割した小領域によって構成されるトンネル切羽の3次元モデルに基づいて、該小領域ごとに3次元空間における面傾斜角度を算出する面傾斜度算出手段と、
前記面傾斜角度に基づいて前記小領域ごとに色情報を設定することで、トンネル切羽の法線画像を作成する法線画像作成手段と、
フィルター処理により前記法線画像を2値化又はグレースケール化することによって、亀裂を抽出するとともに亀裂の間隔を求める亀裂間隔算出手段と、
前記亀裂間隔算出手段によって求められた亀裂間隔と、あらかじめ設定された亀裂間隔閾値と、を照らし合わせることによってトンネル切羽の亀裂評価点を設定する亀裂評価点設定手段と、を備え、
前記画像取得手段は、前記移動体との相対的位置、及び相対的姿勢があらかじめ把握され、
トンネル内に設置された測量機器が前記反射体を視準することによって、前記画像取得手段のトンネル内における位置と姿勢が得られるとともに、前記3次元モデルにはトンネル内における3次元座標が付与され、
前記法線画像作成手段は、前記面傾斜角度の傾斜角度と傾斜方位に応じた前記色情報を設定する、
ことを特徴とするトンネル切羽状態
評価システム。
【請求項2】
前記法線画像作成手段は、直交するR軸とG軸とB軸からなる3次元の「色空間」を設定するとともに、該色空間を構成する6つの頂点からなる「色相環」を設定し、該色相環の中心からいずれかの該頂点に向かう基準ベクトルを定め、
また前記法線画像作成手段は、前記傾斜方位に応じた「方位係数」を前記基準ベクトルの大きさに乗じて「回転長」を求めるとともに、該回転長の線分を前記色相環の中心周りに前記傾斜角度だけ回転して該色相環における極座標を求め、
さらに前記法線画像作成手段は、前記極座標を前記色空間に配置することによってRGB値を得るとともに、前記小領域に当該RGB値を付与する、
ことを特徴とする請求項1記載のトンネル切羽状態
評価システム。
【請求項3】
前記法線画像作成手段は、前記傾斜角度に基づいて色相Hを求めるとともに、前記傾斜方位に応じた彩度Sを求め、当該色相Hと当該彩度Sとあらかじめ設定された明度VからなるHSV値を換算することによってRGB値を算出し、前記小領域に当該RGB値を付与する、
ことを特徴とする請求項1記載のトンネル切羽状態
評価システム。
【請求項4】
発破削孔時の情報に基づいて、トンネル切羽の岩盤強度を推定するとともに座標が付与されたトンネル切羽の岩盤強度分布図を作成する岩盤強度分布図作成手段と、
前記亀裂間隔算出手段によって抽出された亀裂に基づいて、座標が付与されたトンネル切羽の亀裂分布図を作成する亀裂分布図作成手段と、をさらに備え、
前記岩盤強度分布図、及び前記亀裂分布図は、重畳表示することができる、
ことを特徴とする請求項1記載のトンネル切羽状態
評価システム。
【請求項5】
前記岩盤強度分布図に基づいて、トンネル切羽の岩盤強度評価点を設定する岩盤強度評価点設定手段と、
前記亀裂評価点、及び前記岩盤強度評価点を含む要素に基づいて、トンネル切羽の総合評価点を設定する総合評価点設定手段と、をさらに備えた、
ことを特徴とする請求項4記載のトンネル切羽状態
評価システム。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれに記載の前記トンネル切羽状態
評価システムを用いて、トンネル切羽の状態を
評価する方法であり、
トンネル内に設置された測量機器が前記反射体を視準することによって、前記画像取得手段のトンネル内における位置と姿勢を取得する工程と、
トンネル内における位置と姿勢が把握された2以上の画像取得手段によって、トンネル切羽の画像を取得する観測工程と、
前記観測工程で取得した前記画像に基づいて、トンネル切羽を分割した小領域によって構成されるトンネル切羽の3次元モデルを作成する切羽モデル作成工程と、
前記法線画像作成手段によって、トンネル切羽の法線画像を作成する画像作成工程と、
フィルター処理により前記法線画像を2値化又はグレースケール化することによって、亀裂を抽出するとともに亀裂の間隔を求める亀裂間隔算出工程と、
前記亀裂間隔算出工程で求められた亀裂間隔と、あらかじめ設定された亀裂間隔閾値と、を照らし合わせることによってトンネル切羽の亀裂評価点を設定する工程と、を備え、
前記切羽モデル作成工程で作成される前記3次元モデルには、トンネル内における3次元座標が付与され、
前記画像作成工程では、前記面傾斜角度の傾斜角度と傾斜方位に応じた前記色情報を設定する、
ことを特徴とするトンネル切羽状態
評価方法。
【請求項7】
前記観測工程では、トンネル切羽付近に設置された常設の照明を消灯するとともに、前記移動計測体に搭載された照明機器でトンネル切羽に投光した状態で、前記画像取得手段によってトンネル切羽の前記画像を取得する、
ことを特徴とする請求項6記載のトンネル切羽状態
評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、掘削中のトンネル切羽の状態を表示する技術であり、より具体的には、トンネル切羽の3次元モデルに基づいて得られる色情報を用いてトンネル切羽の状態を表示する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
我が国の国土は、およそ2/3が山地であるといわれており、そのため道路や線路など(以下、「道路等」という。)は必ずといっていいほど山地部を通過する区間がある。この山地部で道路等を構築するには、斜面の一部を掘削する切土工法か、地山の内部をくり抜くトンネル工法のいずれかを採用するのが一般的である。トンネル工法は、切土工法に比べて施工単価(道路等延長当たりの工事費)が高くなる傾向にあるものの、切土工法よりも掘削土量(つまり排土量)が少なくなる傾向にあるうえ、道路等の線形計画の自由度が高い(例えば、ショートカットできる)といった特長があり、これまでに建設された国内のトンネルは10,000を超えるといわれている。
【0003】
山岳トンネルの施工方法としては、昭和50年代までは鋼アーチ支保工に木矢板を組み合わせて地山を支保する「矢板工法」が主流であったが、現在では地山強度を積極的に活かすNATM(New Austrian Tunnelling Method)が主流となっている。NATMは、地山が有する強度(アーチ効果)に期待する設計思想が主な特徴であり、そのため従来の矢板工法に比べトンネル支保工の規模を小さくすることができ、しかも施工速度を上げることができることから施工コストを減縮することができる。
【0004】
またNATMは、本格的に実施されて以来、飛躍的に掘削技術が進歩しており、種々の補助工法が開発されることによって様々な地山に対応することができるようになり、さらに掘削機械(特に、自由断面掘削機)の進歩によって発破掘削のほか機械掘削も選択できるようになった。この機械掘削は、掘削断面積や線形にもよるものの一般的には比較的低い強度(例えば、一軸圧縮強度が49N/mm2以下)の地山に対して採用されることが多く、一方、対象地山に岩盤が存在する場合はやはり発破掘削が採用されることが多い。
【0005】
ここでNATMによる掘削手順について簡単に説明する。はじめに、トンネル切羽の掘削を行う。発破掘削の場合は、ドリルジャンボによって削孔して火薬(ダイナマイト)を装填し、作業員と機械が退避したうえで発破する。一方、機械掘削の場合は、自由断面掘削機によってトンネル切羽を切削していく。1回(1サイクル)の掘削進行長(1スパン長)は地山の強度に応じて設定される支保パターンによって異なるが、一般的には1.0m~2.0mのスパン長で掘削が行われる。1スパン長の掘削を行うと、不安化した地山部分(浮石など)を落とす「こそく」を行いながらダンプトラック(あるいはレール工法)によってズリを搬出(ズリ出し)する。そしてズリ出し後に、必要に応じて1次コンクリート吹付けを行ったうえで必要に応じて(支保パターンによって)鋼製支保工を建て込み、2次コンクリート吹付けを行った後にロックボルトの打設を行う。なお、1次コンクリート吹付けと2次コンクリート吹付けは、掘進したスパン長分、すなわち素掘り部分のトンネル内周面(側壁から天端にかけた周面)に対して行われる。
【0006】
NATMにおいてトンネル切羽を安定させることは、安全施工の意味からも極めて重要であり、地山強度や湧水、あるいはトンネル切羽の挙動等によっては、トンネル切羽に対して補助工法が行われる。例えば、トンネル切羽を安定させるためのコンクリート吹付け(鏡吹付け)やロックボルト(鏡ボルト)の打設、水抜きボーリング、あるいは先受け工としてのフォアポーリングや長尺フォアパイリングなどが行われる。このうちトンネル切羽のコンクリート吹付けは、段取りや作業が比較的容易であり、トンネル切羽の縦断方向(掘進方向)の緩みを抑えることができるうえ、トンネル切羽の肌落ちを防止することができ、しかも膨張性地山の場合は空気や水分から隔離することができることから、実践的かつ効果的な補助工法といえる。
【0007】
またNATMは、計測工(A計測やB計測)を併用するいわゆる情報化施工であり、計測結果に応じて掘削パターンを変更し、あるいは補助工法を採用する。計測工としては、周辺地山の挙動を計測する内空変位や天端沈下、打設したロックボルトの軸力を計測するロックボルト軸力計測、そして切羽観察などが挙げられる。この切羽観察は、文字どおりトンネル切羽を観察する計測工であり、地山が最も露出したトンネル切羽から得られる情報は有効かつ多量であることを考えれば、今後の掘削を進めていくうえで極めて重要な計測工のひとつである
【0008】
従来、切羽観察は人の目視によって行われ、その結果を野帳などにスケッチすることで記録していた。つまり切羽観察の有益さ(有効な情報の多さ)は、観察者の経験や知識に大きく依存していたわけである。ところが建設業界では、しばらく慢性的な人手不足の問題を抱えており、優れた観察者を確保することは今後ますます難しくなることが予想される。また、トンネル切羽の写真は撮影するものの、照明が十分でない(あるいは照明の条件が統一されていない)状況における写真は鮮明でない又は色調が統一されていないことが多く、そのため観察者が判定したトンネル切羽の亀裂や風化の程度、湧水状況などを第三者が検証し確認することができない、つまりトレーサビリティを確保することができないという問題も指摘することができる。
【0009】
そこで、観察者の経験や知識にできるだけ依存することなく、客観的にトンネル切羽を評価することができる様々な技術がこれまで提案されてきた。例えば特許文献1では、発破孔データと発破した後の評価点との関係を遺伝的プログラミングによって解析し、この解析によって得られた予測式を用いて発破孔データから評価点を算出する切羽面評価システムを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1は、遺伝的プログラミングを利用することから、数多くの発破孔データと評価点の組み合わせを蓄積することによって高い精度の予測式を得られることができ、その結果、適切に掘削パターンや補助工法を検討することができるといった効果を期待することができる。その一方で、発破した後の評価点はやはり観察者のいわば主観に基づくものであり、優れた観察者を確保する困難さや判定結果に対するトレーサビリティ確保といった問題を完全に解決するという点においては、若干の改善点がみられる。
【0012】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち観察者の経験や知識に依存することなく客観的にトンネル切羽を評価し得る技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明は、トンネル切羽の3次元モデルに基づいて法線画像を作成し、この法線画像の色情報を用いてトンネル切羽状態を表現する、という点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われた発明である。
【0014】
本願発明のトンネル切羽状態表示システムは、移動体と、移動体に搭載される2以上の画像取得手段、移動体に搭載される3以上の反射体、面傾斜度算出手段、法線画像作成手段、亀裂間隔算出手段、亀裂評価点設定手段を備えたものである。このうち面傾斜度算出手段は、小領域(トンネル切羽を分割した領域)によって構成されるトンネル切羽の3次元モデルに基づいて、小領域ごとに3次元空間における面傾斜角度を算出する手段である。また法線画像作成手段は、面傾斜角度に基づいて小領域ごとに色情報を設定することによって、トンネル切羽の法線画像を作成する手段である。亀裂間隔算出手段は、法線画像をフィルター処理することによって亀裂を抽出するとともに、その亀裂間隔を求める手段である。亀裂評価点設定手段は、亀裂間隔算出手段によって求められた亀裂間隔と、あらかじめ設定された亀裂間隔閾値を照らし合わせることによって、トンネル切羽の亀裂評価点を設定する手段である。画像取得手段は、移動体との相対的位置と相対的姿勢があらかじめ把握される。またトンネル内に設置された測量機器が反射体を視準することによって、画像取得手段のトンネル内における位置と姿勢が得られるとともに、3次元モデルにはトンネル内における3次元座標が付与される。法線画像作成手段は、面傾斜角度の傾斜角度と傾斜方位に応じた色情報を設定する。
【0015】
本願発明のトンネル切羽状態表示システムは、直交するR軸とG軸とB軸からなる3次元の「色空間」を設定するとともに、色空間を構成する6つの頂点からなる「色相環」を設定することもできる。この場合、色相環の中心からいずれかの頂点に向かう基準ベクトルを定める。また法線画像作成手段は、傾斜方位に応じた「方位係数」を基準ベクトルの大きさに乗じて「回転長」を求めるとともに、回転長の線分を色相環の中心周りに傾斜角度だけ回転して色相環における極座標を求める。そして法線画像作成手段が、極座標を色空間に配置することによってRGB値を得るとともに、小領域にRGB値を付与する。
【0016】
本願発明のトンネル切羽状態表示システムは、傾斜角度に基づいて色相Hを求めるとともに、傾斜方位に応じた彩度Sを求め、その色相Hと彩度Sとあらかじめ設定された明度VからなるHSV値を換算することによってRGB値を算出し、小領域にそのRGB値を付与するものとすることもできる。
【0017】
本願発明のトンネル切羽状態表示システムは、岩盤強度分布図作成手段と亀裂分布図作成手段をさらに備えたものとすることもできる。この岩盤強度分布図作成手段は、発破削孔時の情報に基づいてトンネル切羽の岩盤強度を推定するとともに、座標が付与されたトンネル切羽の岩盤強度分布図を作成する手段である。また亀裂分布図作成手段は、亀裂間隔算出手段によって抽出された亀裂に基づいて、座標が付与されたトンネル切羽の亀裂分布図を作成する手段である。この場合、岩盤強度分布図と亀裂分布図を重畳表示することができる。
【0018】
本願発明のトンネル切羽状態表示システムは、岩盤強度評価点設定手段と岩盤風化度評価点設定手段をさらに備えたものとすることもできる。この岩盤強度評価点設定手段は、岩盤強度分布図に基づいてトンネル切羽の岩盤強度評価点を設定する手段であり、総合評価点設定手段は、亀裂評価点と岩盤強度評価点を含む要素に基づいてトンネル切羽の総合評価点を設定する手段である。
【0019】
本願発明のトンネル切羽状態表示方法は、本願発明のトンネル切羽状態表示システムを用いて、トンネル切羽の状態を表示する方法であり、姿勢取得工程と、観測工程、切羽モデル作成工程、画像作成工程を備えた方法である。このうち姿勢取得工程では、トンネル内に設置された測量機器が反射体を視準することによって画像取得手段のトンネル内における位置と姿勢を取得し、観測工程では、2以上の画像取得手段によってトンネル切羽の画像を取得する。また切羽モデル作成工程では、観測工程で取得した画像に基づいてトンネル切羽を分割した小領域によって構成されるトンネル切羽の3次元モデルを作成し、画像作成工程では、本願発明のトンネル切羽状態表示システムによって、トンネル切羽の法線画像を作成する。なお切羽モデル作成工程で作成される3次元モデルには、トンネル内における3次元座標が付与される。また画像作成工程では、面傾斜角度の傾斜角度と傾斜方位に応じた色情報を設定する。
【0020】
本願発明のトンネル切羽状態表示方法は、トンネル切羽付近に設置された常設の照明を消灯するとともに、移動計測体に搭載された照明機器でトンネル切羽に投光した状態で、画像取得手段によってトンネル切羽の画像を取得する方法とすることもできる。
【0021】
移動計測体は、トンネル内を移動することができる移動体と、2以上の画像取得手段、スペクトルカメラ、温度分布センサ、3以上の反射体を備えたものである。なお、2以上の画像取得手段と、スペクトルカメラ、温度分布センサ、3以上の反射体は、移動体に搭載される。そして本願発明の移動計測体は、トンネル切羽前で停止した状態で、画像取得手段によってトンネル切羽の画像を取得することができるとともに、スペクトルカメラによってトンネル切羽のスペクトルデータを取得することができ、温度分布センサによってトンネル切羽の温度分布を取得することができ、測量機器で反射体を視準することによって移動体の位置及び姿勢を取得することができるものである。
【発明の効果】
【0022】
本願発明のトンネル切羽状態表示システム、トンネル切羽状態表示方法、及び移動計測体には、次のような効果がある。
(1)従来に比して高い精度でトンネル切羽の状態を評価することができる。その結果、最適な支保パターンや補助工法を選択することができ、施工品質が確保され、しかも工費を低減し工期を短縮することができる。
(2)観察者のいわば主観に基づくことなく、客観的にトンネル切羽の状態を評価することができるため、観察労力を抑えることができるうえ、評価に対するトレーサビリティを確保することができる。
(3)また、観察者の経験や知識に依存しないため、優れた観察者を確保する困難さを回避することができる。
(4)従来の切羽観察と大差ない作業労力や作業時間で、上記効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】トンネル切羽の状態を本願発明の移動計測体によって観測している状況を模式的に示すモデル図。
【
図2】(a)は本願発明の移動計測体を示す側面図、(b)は本願発明の移動計測体を示す正面図。
【
図3】本願発明のトンネル切羽状態表示システムの主な構成を示すブロック図。
【
図4】トンネル切羽状態表示システムを構成する空間演算手段の主な処理の流れを示すフロー図。
【
図5】切羽3Dモデルの作成から亀裂分布図を表示するまでの一連の処理の流れを示すフロー図。
【
図6】(a)は赤の値を示すR軸と緑の値を示すG軸と青の値を示すB軸からなる3次元空間を模式的に示すモデル図、(b)は色情報を求めるための色相環を模式的に示すモデル図。
【
図7】岩盤強度評価点と岩盤風化評価点、湧水状態評価点を設定し、さらに総合評価点を設定するまでの一連の処理の流れを示すフロー図。
【
図8】本願発明のトンネル切羽状態表示方法の主な工程を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本願発明のトンネル切羽状態表示システム、トンネル切羽状態表示方法、及び移動計測体の実施の例を図に基づいて説明する。
【0025】
1.全体概要
図1は、トンネル切羽の状態を本願発明の移動計測体200によって観測している状況を模式的に示すモデル図である。
図2に示すようにこの移動計測体200は、移動体210と画像取得手段220、スペクトルカメラ230、温度分布センサ240、反射体250、照明機器260を含んで構成することができる。
【0026】
移動計測体200を構成する移動体210は、種々の計測器を搭載してトンネル内を移動することができるいわばベースマシンであり、
図2に示すようにタイヤ式の普通自動車などを利用することもできるし、あるいはクローラ式のものを利用することもできる。画像取得手段220は、デジタルカメラやスチールカメラ、デジタルビデオカメラなどトンネル切羽の画像を取得することができるものである。なお、後述するようにトンネル切羽の3次元モデル(以下単に「切羽3Dモデル」という。)を作成するため、すなわちステレオペア画像を得るため2以上の画像取得手段220が設けられる。例えば
図2では、移動体210の後方に第1画像取得手段221、移動体210の前方右側に第2画像取得手段222、移動体210の前方左側に第3画像取得手段223の3つの画像取得手段220が設けられている。
【0027】
スペクトルカメラ230は、トンネル切羽のスペクトルデータを取得することができるものであり、温度分布センサ240は、熱赤外線画像を取得するサーモグラフィなどトンネル切羽の温度分布を取得することができるものである。また反射体250は、例えばトータルステーションといった測量機器による標的となるものであり、従来用いられている測量用プリズム(ミラーやターゲットとも呼ばれる)などを利用することができる。なお、後述するように移動体210の位置と姿勢を取得することができるよう、反射体250は同一直線上に並ばない3以上の個所に配置される。例えば
図2では、移動体210の後方に第1反射体251、移動体210の前方右側に第2反射体252、移動体210の前方左側に第3反射体253の3つの反射体250が配置されている。
【0028】
照明機器260は、トンネル切羽に光を当てることができるものであり、従来用いられている種々の照明器具を利用することができる。画像取得手段220とスペクトルカメラ230、温度分布センサ240、反射体250、照明機器260は、移動体210に固定され、この移動体210との相対的な位置(つまり移動体210のうちどこに設置されているか)はあらかじめ把握されている。さらに画像取得手段220とスペクトルカメラ230、温度分布センサ240に関しては、移動体210との相対的な姿勢(つまり移動体210の向きに対してどの方向を向いているか)もあらかじめ把握されている。これら画像取得手段220とスペクトルカメラ230、温度分布センサ240、反射体250、照明機器260は、
図2に示すように、移動体210の上部に固定された架台FRに設置するとよい。
【0029】
トンネル切羽手前で停止した移動計測体200は、
図1に示すようにトンネル切羽を照明機器260で照らしたうえで、画像取得手段220によってトンネル切羽の画像(ステレオペア画像)を取得し、スペクトルカメラ230によってトンネル切羽のスペクトルデータを取得し、温度分布センサ240によってトンネル切羽の温度分布を取得する。このとき、トンネル内に設置されている測量機器TS(例えばトータルステーション)で反射体250を視準することによって、移動体210のトンネル内における位置(以下、単に「坑内位置」という。)と姿勢が計測され、さらに画像取得手段220の坑内位置と姿勢、スペクトルカメラ230の坑内位置と姿勢、温度分布センサ240の坑内位置と姿勢が得られる。
【0030】
本願発明のトンネル切羽状態表示システムは、画像取得手段220によって取得されたトンネル切羽のステレオペア画像に基づいて切羽3Dモデルを作成し、この切羽3Dモデルからトンネル切羽の「法線画像」を作成する。さらにこの法線画像に基づいて、トンネル切羽の亀裂や亀裂間隔を求め、亀裂評価点を算出し、亀裂分布図を作成することもできる。ここで画像取得手段220の坑内位置と姿勢が得られていることから、亀裂分布図は座標が付与されたものとすることができ、座標が与えられたトンネル切羽写真や他のトンネル切羽画像(岩盤風化区分図や湧水分布図など)と重畳表示することができるわけである。
【0031】
また本願発明のトンネル切羽状態表示システムは、スペクトルカメラ230によって取得されたトンネル切羽のスペクトルデータに基づいて岩盤風化区分図を作成し、この岩盤風化区分図から岩盤風化評価点を設定することもできるし、温度分布センサ240によって取得されたトンネル切羽の温度分布に基づいて湧水分布図を作成し、この湧水分布図から湧水状態評価点を設定することもできる。ここでスペクトルカメラ230と温度分布センサ240の坑内位置と姿勢が得られていることから、岩盤風化区分図と湧水分布図は座標が付与されたものとすることができ、座標が与えられたトンネル切羽写真や他のトンネル切羽画像(亀裂分布図など)と重畳表示することができるわけである。
【0032】
さらに本願発明のトンネル切羽状態表示システムは、1サイクル前の発破のための削孔時の情報(以下、「発破削孔時データ」という。)に基づいて岩盤強度分布図を作成し、この岩盤強度分布図から岩盤強度評価点を設定することもできる。ここで発破削孔時データとしては、削孔位置と削孔速度が挙げられ、そのほかロッドのフィード圧、打撃圧、回転圧などを含めることもできる。そして、亀裂評価点と岩盤強度評価点、岩盤風化評価点、湧水状態評価点が得られると、これらの評価点に基づいてトンネル切羽の総合評価点を設定することもできる。
【0033】
2.トンネル切羽状態表示システム
本願発明のトンネル切羽状態表示システムの例を、図に基づいて説明する。なお、本願発明のトンネル切羽状態表示方法は、本願発明のトンネル切羽状態表示システムを用いた方法であり、したがってまずはトンネル切羽状態表示システムについて説明し、その後にトンネル切羽状態表示方法について説明することとする。
【0034】
図3は、本願発明のトンネル切羽状態表示システム100の主な構成を示すブロック図である。この図に示すように本願発明のトンネル切羽状態表示システム100は、面傾斜度算出手段101と法線画像作成手段102を含んで構成され、さらに亀裂間隔算出手段103や亀裂評価点設定手段104、亀裂分布図作成手段105、岩盤強度分布図作成手段106、岩盤強度評価点設定手段107、岩盤風化区分図作成手段108、岩盤風化度評価点設定手段109、湧水分布図作成手段110、湧水状態評価点設定手段111、総合評価点設定手段112、空間演算手段113、3Dモデル作成手段114、ディスプレイといった表示手段115、移動計測体200を含んで構成することもできる。
【0035】
トンネル切羽状態表示システム100を構成する主な要素のうち面傾斜度算出手段101と法線画像作成手段102、亀裂間隔算出手段103、亀裂評価点設定手段104、亀裂分布図作成手段105、岩盤強度分布図作成手段106、岩盤強度評価点設定手段107、岩盤風化区分図作成手段108、岩盤風化度評価点設定手段109、湧水分布図作成手段110、湧水状態評価点設定手段111、総合評価点設定手段112、空間演算手段113、3Dモデル作成手段114は、専用のものとして製造することもできるし、汎用的なコンピュータ装置を利用することもできる。このコンピュータ装置は、CPU等のプロセッサ、ROMやRAMといったメモリ、マウスやキーボード等の入力手段やディスプレイ(表示手段115)を具備するもので、パーソナルコンピュータ(PC)や、iPad(登録商標)といったタブレット型PC、スマートフォンを含む携帯端末などによって構成することができる。コンピュータ装置を利用する場合、そのコンピュータ装置は移動計測体200内に置くこともできるし、特にタブレット型PCや携帯端末を利用する場合は作業者が携行することもできるし、あるいは管理事務所など移動計測体200とは異なる場所に設置することもできる。なお管理事務所などにコンピュータ装置を設置するときは、画像取得手段220が取得した画像データや、スペクトルカメラ230が取得したスペクトルデータ、温度分布センサ240が取得した温度分布データ、ドリルジャンボによる発破削孔時データを、コンピュータ装置が送受信できるように無線通信(あるいは有線通信)手段を設けるとよい。
【0036】
(空間演算)
図4は、トンネル切羽状態表示システム100を構成する空間演算手段113の主な処理の流れを示すフロー図である。なおこのフロー図では、中央の列に実施する行為を示し、左列にはその行為に必要なものを、右列にはその行為から生ずるものを示している。既述したとおりトンネル切羽手前で停止した移動計測体200は、
図1に示すようにトンネル内に設置されている測量機器TSによって視準され、それぞれ反射体250の座標が取得される。そして反射体250の座標から、移動計測体200の坑内位置と姿勢が算出される(
図4のStep11)。このとき、3以上の反射体250が同一直線上とならないように配置されていることから、これら反射体250の座標から3次元平面が決定され、この3次元平面に基づいて移動計測体200(つまり移動体210)の姿勢(ピッチ、ロール、ヨー)を算出することができるわけである。また、反射体250の移動体210との相対的な位置(つまり移動体210のうちどこに反射体250を設置されているか)はあらかじめ把握されていることから、移動計測体200(つまり移動体210)全体の坑内位置が決定され、すなわちトンネル内における移動計測体200の平面位置を特定することができる。
【0037】
移動計測体200の坑内位置と姿勢が算出されると、画像取得手段220の坑内位置と姿勢が算出され(
図4のStep12)、スペクトルカメラ230の坑内位置と姿勢が算出され(
図4のStep13)、温度分布センサ240の坑内位置と姿勢が算出される(
図4のStep14)。既述したとおり画像取得手段220とスペクトルカメラ230、温度分布センサ240は、それぞれ移動体210との相対的な位置(つまり移動体210のうちどこに設置されているか)と、移動体210との相対的な姿勢(つまり移動体210の向きに対してどの方向を向いているか)があらかじめ把握されていることから、移動体210の坑内位置と姿勢が定まると画像取得手段220とスペクトルカメラ230、温度分布センサ240の坑内位置と姿勢を算出することができるわけである。
【0038】
(法制画像の作成)
図5は、切羽3Dモデルの作成から亀裂分布図を表示するまでの一連の処理の流れを示すフロー図である。なおこのフロー図も、
図4と同様、中央の列に実施する行為を示し、左列にはその行為に必要なものを、右列にはその行為から生ずるものを示している。画像取得手段220によって2以上のトンネル切羽画像(ステレオペア画像)が取得され、空間演算手段113によって画像取得手段220の坑内位置と姿勢が算出されると、3Dモデル作成手段114が切羽3Dモデルを作成する(
図5のStep21)。より詳しくは、従来用いられているステレオ写真技術によってトンネル切羽上にある複数点の3次元座標を求めるとともに、これら点群座標から切羽3Dモデルを作成する。切羽3Dモデルは、トンネル切羽を複数に分割したいわゆるメッシュ(以下、「小領域」という。)にそれぞれ3次元座標が付与されたものであり、例えばランダムデータ(点群座標)で形成される不整三角網によって高さを求めるTIN(Triangulated Irregular Network)による手法、最も近いレーザー計測点4を採用する最近隣法(Nearest Neighbor)による手法のほか、逆距離加重法(IWD)、Kriging法、平均法など種々の手法を採用することができる。なお切羽3Dモデルは、トンネル切羽と略平行(平行含む)な鉛直面(以下、「切羽基準面」という。)を構成する2軸(例えば、X軸とY軸)と、この切羽基準面に対して垂直な軸(例えば、Z軸)からなる3次元座標軸で設定するとよい。
【0039】
切羽3Dモデルを作成すると、面傾斜度算出手段101が小領域ごとに面傾斜角度を算出する(
図5のStep22)。この面傾斜度は、小領域の姿勢を示す値であり、水平面(あるいは切羽基準面)に対する角度(以下、「俯角」という。)と、小領域と水平面との交差直線の方向又はその直交方向(以下、「方位」という。)からなる値である。なお面傾斜度を算出するにあたっては、着目した小領域の周囲にある8個の小領域の3次元座標を用いて計算するなど、従来用いられている種々の手法によって求めることができる。
【0040】
小領域ごとに面傾斜角度を算出すると、法線画像作成手段102がトンネル切羽の法線画像を作成する(
図5のStep23)。この法線画像は、法線マップと呼ばれることもあるもので、対象となる物の空間情報(座標や姿勢)に応じた色情報が付与された画像である。そしてトンネル切羽状態表示システム100の面傾斜度算出手段101は、小領域の面傾斜角度(俯角と方位)に応じた色情報を付与することによってトンネル切羽の法線画像を作成する。以下、トンネル切羽の法線画像を作成する手順について詳しく説明する。
【0041】
まず
図6(a)に示すように、赤の値を示すR軸と、緑の値を示すG軸と、青の値を示すB軸からなる3次元空間(以下、「色空間」という。)を設定する。この色空間に配置される点は3次元座標で表すことができ、その座標値がそのまま色情報(つまりRGB)とされる。例えば、
図6(a)の場合、原点であるRGB(0,0,0)は「黒」で表示され、RGB(255,0,0)は「赤」、RGB(0,255,0)は「緑」、RGB(0,0,255)は「青」、RGB(255,255,255)は「白」でそれぞれ表示される。
【0042】
次に、
図6(a)に示す立方体のうち6つの頂点、すなわち頂点PT11(255,0,0)と、頂点PT21(0,255,0)、頂点PT31(0,0,255)、頂点PT41(255,255,0)、頂点PT51(0,255,255)、頂点PT61(255,0,255)に着目し、
図6(b)に示すような平面上の正六角形、すなわち頂点PT11に対応する頂点PT12と、頂点PT41に対応する頂点PT42、頂点PT21に対応する頂点PT22、頂点PT51に対応する頂点PT52、頂点PT31に対応する頂点PT32、頂点PT61に対応する頂点PT62の6つの頂点からなるとともに、
図6(a)に示す立方体の中心点を中心Oとする正六角形を考える。なお便宜上ここでは、
図6(b)に示す正六角形のことを「色相環」ということとする。
【0043】
色相環を設定すると、小領域の面傾斜角度に応じてその小領域を色相環に配置(プロット)する。具体的には、中心Oから頂点PT12に向かう基準ベクトルを定め、さらに小領域の方位に応じた係数(以下、「方位係数」という。)を設定するとともに、基準ベクトルの大きさ(長さ)に方位係数を乗じた長さ(以下、「回転長」という。)を設定する。なお方位係数は、基準とする所定の角度(例えば、180°や360°など)に対する方位の割合として求めることができる。そして、この回転長(つまり半径)を中心O周りに基準ベクトルの方向から小領域の俯角だけ回転させた点(つまり回転長と俯角から得られる極座標)を、色相環における当該小領域の配置(座標)とする。
【0044】
色相環における小領域の配置(座標)が得られると、その座標に基づいて
図6(a)に示す色空間における座標値(RGB)を求める。例えば
図6(b)の場合、色相環に配置された点p及び中心Oを通る直線と、頂点PT12-頂点PT42(線分)との交点aを求めるとともに、頂点PT12-頂点PT42(線分)における点aの内分比と同一となるように、
図6(a)の頂点PT11-頂点PT41(線分)の内分点bを求め、さらに中心O-交点a(線分)における点pの内分比と同一となるように、
図6(a)に示す立方体の中心点-交点b(線分)の内分点を求め、この内分点を色空間における当該小領域の座標値(RGB)とする。
【0045】
上記したように色相環における座標値から色空間における座標値に変換する手法に代えて、色相H(Hue)と、彩度S(Saturation)、明度V(Value of Brightness) からなるHSVモデルに基づいて、RGB値を求める手法を採用することもできる。具体的には、
図6(b)に示すように小領域の俯角を基準ベクトル(つまりR軸)からの回転角として色相Hを求めるとともに、方位係数に応じた彩度Sを求め、あらかじめ設定された明度VによってHSVを定める。そして、従来用いられている換算式によって、そのHSV値からRGBを算出するわけである。
【0046】
このように、小領域ごとに面傾斜角度(俯角と方位)が求められ、面傾斜角度に応じた色情報が付与されることで、トンネル切羽の法線画像が作成される。また、所定の基準点(例えば、画像取得手段220)からの距離(つまり切羽基準面に対する凹凸)を小領域ごとに求め、その距離に応じた色情報(例えば、グレースケール)を付与した距離画像を作成することもできる。
【0047】
トンネル切羽の法線画像を作成すると、亀裂間隔算出手段103がトンネル切羽の亀裂を抽出し(
図5のStep24)、亀裂の配置に基づいて亀裂間隔を算出する(
図5のStep25)。トンネル切羽の亀裂を抽出するにあたっては、トンネル切羽の法線画像に対してフィルター(ソーベルフィルタなど)処理を行うとよい。例えば、フィルター処理によって法線画像を2値化し、白い画素が
ある程度(閾値以上)集合した範囲を亀裂として抽出する。あるいは、フィルター処理によって法線画像をグレースケール化し、所定値以上の部分が集合した範囲や、グレースケールの勾配(微分値)が閾値以上となる範囲を亀裂として抽出することもできる。そして、亀裂を抽出することができると、亀裂と亀裂との距離を亀裂間隔として算出する。なお、亀裂と亀裂の間にある小領域に対して、これら亀裂からなる亀裂間隔を付与することとし、小領域ごとに亀裂間隔を求めることもできる。
【0048】
トンネル切羽の亀裂を抽出し、亀裂間隔を算出すると、亀裂評価点設定手段104が亀裂評価点を設定する(
図5のStep26)。具体的には、あらかじめ亀裂間隔を複数のレンジで分割設定するとともにそれぞれのレンジに対して得点を付与しておき、亀裂間隔算出手段103によって求められた亀裂間隔に基づいて小領域ごとに亀裂間隔のレンジを設定してその得点を与える。そしてすべての小領域(あるいは一部の小領域)の得点に基づいて統計値(平均値や、中央値、最頻値など)を算出し、これをトンネル切羽の亀裂評価点として設定する。
【0049】
またトンネル切羽の亀裂を抽出すると、亀裂分布図作成手段105が亀裂分布図を作成する(
図5のStep27)。亀裂間隔算出手段103によって抽出された亀裂は、切羽3Dモデルに基づくものであるから座標が付与されており、すなわち亀裂分布図は座標が付与されたものである。そのため亀裂分布図は、座標が与えられたトンネル切羽の写真(例えば、オルソフォト)や、岩盤風化区分図、湧水分布図といった他の切羽画像と重畳表示することができる(
図5のStep28)。
【0050】
(総合評価点の設定)
図7は、岩盤強度評価点と岩盤風化評価点、湧水状態評価点を設定し、さらに総合評価点を設定するまでの一連の処理の流れを示すフロー図である。なおこのフロー図も、
図4や
図5と同様、中央の列に実施する行為を示し、左列にはその行為に必要なものを、右列にはその行為から生ずるものを示している。この図に示すように発破削孔時データが得られると、岩盤強度分布図作成手段106が岩盤強度分布図を作成する(
図7のStep31)。発破削孔時データには削孔位置が含まれていることから、削孔位置ごとに岩盤強度を示すことによって岩盤強度分布図を作成することができる。なお削孔位置ごとの岩盤強度は、削孔速度に基づいて、あるいは削孔速度とロッドのフィード圧や打撃圧、回転圧などに基づいて設定することができる。岩盤強度分布図を作成すると、岩盤強度評価点設定手段107が岩盤強度評価点を設定する(
図7のStep32)。具体的には、あらかじめ岩盤強度を複数のレンジで分割設定するとともにそれぞれのレンジに対して得点を付与しておき、得られた岩盤強度に基づいて小領域ごとに岩盤強度のレンジを設定してその得点を与える。そしてすべての削孔位置(あるいは一部の削孔位置)における得点に基づいて統計値(平均値や、中央値、最頻値など)を算出し、これをトンネル切羽の岩盤強度評価点として設定する。
【0051】
スペクトルカメラ230によってトンネル切羽のスペクトルデータが得られると、岩盤風化区分図作成手段108が岩盤風化区分図を作成する(
図7のStep41)。空間演算手段113によってスペクトルカメラ230の坑内位置と姿勢が得られていることから、取得したスペクトルデータをトンネル切羽の位置と対応させることができ、すなわち座標が付与された岩盤風化区分図を作成することができるわけである。岩盤風化区分図を作成するにあたっては、取得されたスペクトルデータに応じて岩盤の風化の程度(以下、「岩盤風化度」という。)を設定する必要がある。これには、岩盤風化度とスペクトルデータとの関係を示す岩盤風化度テーブルを利用するとよい。この岩盤風化度テーブルは、岩盤風化度が既知である岩盤に対して取得したスペクトルデータの実績値に基づくもので、複数段階の岩盤風化度とそれぞれ対応するスペクトルデータとの関係を表したものである。なお岩盤風化度テーブルは、砂岩や花崗岩など岩盤の種類ごとに用意しておくとよい。岩盤風化区分図を作成すると、岩盤風化度評価点設定手段109が岩盤風化度評価点を設定する(
図7のStep42)。具体的には、あらかじめ各段階の岩盤風化度に対して得点を付与しておき、得られた岩盤風化度に基づいて小領域ごとにその得点を与える。そしてすべての小領域(あるいは一部の小領域)における得点に基づいて統計値(平均値や、中央値、最頻値など)を算出し、これをトンネル切羽の岩盤風化度評価点として設定する。
【0052】
温度分布センサ240によってトンネル切羽の温度分布が得られると、湧水分布図作成手段110が湧水分布図を作成する(
図7のStep51)。空間演算手段113によって温度分布センサ240の坑内位置と姿勢が得られていることから、取得した温度分布をトンネル切羽の位置と対応させることができ、すなわち座標が付与された湧水分布図を作成することができるわけである。湧水分布図を作成するにあたっては、温度分布センサ240によって取得された温度データに応じて湧水の程度(以下、「湧水レベル」という。)を設定する必要がある。これには、あらかじめ段階的に設定された湧水レベルと温度分布センサ240による温度データとの関係を示す湧水レベルテーブルを利用するとよい。この湧水レベルテーブルは、湧水レベルが既知である岩盤に対して取得した温度データの実績値に基づくもので、複数段階の湧水レベルとそれぞれ対応する温度データとの関係を表したものである。湧水分布図を作成すると、湧水状態評価点設定手段111が湧水状態評価点設定する(
図7のStep52)。具体的には、あらかじめ各湧水レベルに対して得点を付与しておき、得られた湧水レベルに基づいて小領域ごとにその得点を与える。そしてすべての小領域(あるいは一部の小領域)における得点に基づいて統計値(平均値や、中央値、最頻値など)を算出し、これをトンネル切羽の湧水状態評価点として設定する。
【0053】
亀裂評価点と岩盤強度評価点、岩盤風化評価点、湧水状態評価点が設定されると、総合評価点設定手段112が当該トンネル切羽の総合評価点を設定する(
図7のStep60)。具体的には、亀裂評価点と岩盤強度評価点、岩盤風化評価点、湧水状態評価点からなる合計値、あるいは重みづけを行ったうえでの合計値、平均値、加重平均値といった統計値を求め、これをトンネル切羽の総合評価点として設定する。
【0054】
3.トンネル切羽状態表示方法
続いて、本願発明のトンネル切羽状態表示方法について
図8を参照しながら説明する。なお、本願発明のトンネル切羽状態表示方法は、ここまで説明したトンネル切羽状態表示システム100を用いた方法であり、したがってトンネル切羽状態表示システム100で説明した内容と重複する説明は避け、本願発明のトンネル切羽状態表示方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「2.トンネル切羽状態表示システム」で説明したものと同様である。
【0055】
図8は、本願発明のトンネル切羽状態表示方法の主な工程を示すフロー図である。1サイクル分の発破掘削(あるいは機械掘削)を行い、浮石などを落としながらダンプトラック(あるいはレール工法)によってズリを搬出した(Step101)タイミングで、すなわち従来の目視による切羽観察を行うタイミングで、移動計測体200が切羽近傍まで接近する(Step102)。移動計測体200が停止すると、
図1に示すように測量機器TSによって、移動計測体200(移動体210)に搭載された反射体250の座標を計測する(Step103)。ここで計測された結果(つまり反射体250の座標)は、無線通信(あるいは有線通信)手段などを利用して空間演算手段113に送信される。
【0056】
画像取得手段220によってトンネル切羽の画像を取得する(Step105)が、その前に照明の切り替えを行うとよい(Step104)。具体的には、トンネル切羽付近に常設された照明(水銀灯や蛍光灯など)を消灯し、移動計測体200に搭載された照明機器260でトンネル切羽を照らす。施工用の照明(常設された照明)は比較的照度が安定し難い傾向にあるが、一方の照明機器260によると概ね照度が安定するため、毎トンネル切羽で同様の条件で画像を取得することができるわけである。
【0057】
照明の切り替えを行うと観測工程(Step105~Step107)を行う。具体的には、画像取得手段220によってトンネル切羽の画像を取得し(Step105)、スペクトルカメラ230によってトンネル切羽のスペクトルデータを取得し(Step106)、温度分布センサ240によってトンネル切羽の温度分布を取得する(Step107)。なお、トンネル切羽の画像を取得する工程(Step105)と、トンネル切羽のスペクトルデータを取得する工程(Step106)、トンネル切羽の温度分布を取得する工程(Step107)を行う順は適宜選択でき、また測量機器TSによる座標取得工程(Step103)と観測工程を行う順も適宜選択でき、さらに座標取得工程と観測工程を並行して行うこともできる。ここで取得されたトンネル切羽の画像は3Dモデル作成手段114に、トンネル切羽のスペクトルデータは岩盤風化区分図作成手段108に、トンネル切羽の温度分布は湧水分布図作成手段110に、それぞれ無線通信(あるいは有線通信)手段などを利用して送信される。
【0058】
観測工程によってトンネル切羽の画像とスペクトルデータ、温度分布が得られると、各種の画像を作成する(Step201)。具体的には、岩盤強度分布図作成手段106が発破削孔時データに基づいて岩盤強度分布図を作成し、岩盤風化区分図作成手段108がトンネル切羽のスペクトルデータに基づいて岩盤風化区分図を作成し、湧水分布図作成手段110がトンネル切羽の温度分布に基づいて湧水分布図を作成する。また、3Dモデル作成手段114がトンネル切羽の画像(ステレオペア画像)に基づいて切羽3Dモデルを作成し、面傾斜度算出手段101が切羽3Dモデルに基づいて面傾斜度を算出し、法線画像作成手段102が面傾斜度に基づいて法線画像を作成するとともに亀裂間隔算出手段103が亀裂を抽出したうえで、亀裂分布図作成手段105が亀裂分布図を作成する。なお亀裂分布図と岩盤強度分布図、岩盤風化区分図、湧水分布図はそれぞれ座標が付与されていることから、これらの画像を相互に重畳表示することができ、あるいは座標が与えられたトンネル切羽の写真と重畳表示することもできる(Step202)。
【0059】
亀裂分布図と岩盤強度分布図、岩盤風化区分図、湧水分布図を作成すると、トンネル切羽の各種評価点を設定する(Step203)。具体的には、亀裂評価点設定手段104が亀裂間隔に基づいてトンネル切羽の亀裂評価点を設定し、岩盤強度評価点設定手段107が岩盤強度分布図に基づいてトンネル切羽の岩盤強度評価点を設定し、岩盤風化度評価点設定手段109が岩盤風化区分図に基づいてトンネル切羽の岩盤風化度評価点を設定し、湧水状態評価点設定手段111が湧水分布図に基づいてトンネル切羽の湧水状態評価点を設定する。そして総合評価点設定手段112が、岩盤強度評価点と亀裂評価点、岩盤風化度評価点、湧水状態評価点に基づいてトンネル切羽の総合評価点を設定する(Step204)。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本願発明のトンネル切羽状態表示システム、トンネル切羽状態表示方法、及び移動計測体は、道路トンネルや鉄道トンネルのほか、人道トンネルなど様々なトンネル掘削に利用することができる。本願発明によれば、トンネル切羽を安定した状態で掘削することによって高い品質のトンネルを完成させることができ、しかも早々にトンネルを共用することができるとともに、作業者の安全を確保したうえで施工することができることを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明である。
【符号の説明】
【0061】
100 トンネル切羽状態表示システム
101 (トンネル切羽状態表示システムの)面傾斜度算出手段
102 (トンネル切羽状態表示システムの)法線画像作成手段
103 (トンネル切羽状態表示システムの)亀裂間隔算出手段
104 (トンネル切羽状態表示システムの)亀裂評価点設定手段
105 (トンネル切羽状態表示システムの)亀裂分布図作成手段
106 (トンネル切羽状態表示システムの)岩盤強度分布図作成手段
107 (トンネル切羽状態表示システムの)岩盤強度評価点設定手段
108 (トンネル切羽状態表示システムの)岩盤風化区分図作成手段
109 (トンネル切羽状態表示システムの)岩盤風化度評価点設定手段
110 (トンネル切羽状態表示システムの)湧水分布図作成手段
111 (トンネル切羽状態表示システムの)湧水状態評価点設定手段
112 (トンネル切羽状態表示システムの)総合評価点設定手段
113 (トンネル切羽状態表示システムの)空間演算手段
114 (トンネル切羽状態表示システムの)3Dモデル作成手段
115 (トンネル切羽状態表示システムの)表示手段
200 (トンネル切羽状態表示システムの)移動計測体
210 (移動計測体の)移動体
220 (移動計測体の)画像取得手段
230 (移動計測体の)スペクトルカメラ
240 (移動計測体の)温度分布センサ
250 (移動計測体の)反射体
260 (移動計測体の)照明機器
TS (トンネル切羽状態表示システムの)測量機器