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特許7412625極低温液化ガスの荷役方法、極低温液化ガスの荷役設備および極低温液化ガスの荷役設備における温度確認方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】極低温液化ガスの荷役方法、極低温液化ガスの荷役設備および極低温液化ガスの荷役設備における温度確認方法
(51)【国際特許分類】
   F17C 6/00 20060101AFI20240104BHJP
   F17C 13/00 20060101ALI20240104BHJP
【FI】
F17C6/00
F17C13/00 302F
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023099097
(22)【出願日】2023-06-16
【審査請求日】2023-06-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000158312
【氏名又は名称】岩谷産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(72)【発明者】
【氏名】新井 祐介
(72)【発明者】
【氏名】横山 清英
【審査官】佐藤 正宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-065975(JP,A)
【文献】特開2020-147332(JP,A)
【文献】特開2016-070377(JP,A)
【文献】実開昭63-045299(JP,U)
【文献】登録実用新案第3069391(JP,U)
【文献】実開平02-081998(JP,U)
【文献】特開2003-014197(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 1/00-13/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
極低温液化ガスを収容するタンクから移送設備を介して極低温液化ガスを移送する極低温液化ガスの荷役方法において、
前記移送設備が有するメインラインを冷却する冷却工程を含み、
前記冷却工程は、
前記タンクから液体である極低温液化ガスを取り出し、前記メインラインに流通させる第1ステップと、
前記第1ステップの後、前記タンクから液体である極低温液化ガスを取り出し、前記メインラインに流通させて、前記メインラインをさらに冷却する第2ステップと、を含み、
前記第1ステップにおいて流通される液体である極低温液化ガスは、前記メインラインから分岐し、前記メインラインに対して1/4以下の径である枝管からガスとして排出され、
前記第2ステップにおいて流通される液体である極低温液化ガスは、前記枝管から排出されず、前記メインラインと前記枝管との分岐部よりも下流まで流通される、
極低温液化ガスの荷役方法。
【請求項2】
前記第1ステップにおいて、前記枝管に設けられる弁の開閉が繰り返され、
前記枝管から排出される前記ガスの量に応じて、前記タンクから前記メインライン内に極低温液化ガスが呼び込まれる、
請求項1に記載の極低温液化ガスの荷役方法。
【請求項3】
前記第1ステップと同時または前記第1ステップの後に、温度確認ステップを含み、
前記温度確認ステップにおいて前記メインラインの温度が所定温度以下であることが確認された場合に前記第2ステップが開始される、
請求項1または2に記載の極低温液化ガスの荷役方法。
【請求項4】
前記極低温液化ガスは液化水素であり、前記所定温度は空気の液化点温度以下である、
請求項3に記載の極低温液化ガスの荷役方法。
【請求項5】
前記温度確認ステップは、前記枝管の温度を確認することによって行われる、
請求項3に記載の極低温液化ガスの荷役方法。
【請求項6】
前記温度確認ステップは、
前記枝管における真空断熱構造を有さない部分の温度を確認することによって行われる、
請求項5に記載の極低温液化ガスの荷役方法。
【請求項7】
極低温液化ガスを収容するタンクと、
前記タンクに接続する第1端を有する第1配管と、
前記第1配管よりも鉛直方向における下方において前記タンクに接続する第2端を有する第2配管と、
前記第1配管の前記第1端と逆側の端部である第3端と、前記第2配管の前記第2端と逆側の端部である第4端と、に接続する第3配管と、
前記第3配管の中途から分岐し、前記第3配管よりも小径である第4配管と、
を備え、
前記第1配管の前記第1端と前記第3端との間には、前記第1配管の連通状態と閉止状態とを切換可能である第1開閉機構が備えられ、
前記第2配管の前記第2端と前記第4端との間には、前記第2配管の連通状態と閉止状態とを切換可能である第2開閉機構が備えられ、
前記第3配管における、前記第1配管との接続部および前記第2配管との接続部より下流には、前記第3配管の連通状態と閉止状態とを切換可能である第3開閉機構が備えられ、
前記第4配管には、前記第4配管の連通状態と閉止状態とを切換可能である第4開閉機構が備えられ、
前記第4配管は、前記第3配管における前記第3開閉機構よりも上流において、前記第3配管から分岐しており、
前記第1配管、前記第2配管、前記第3配管は、真空断熱二重管で構成され、
前記第4配管の少なくとも一部は真空断熱構造を有さない、
極低温液化ガスの荷役設備。
【請求項8】
前記極低温液化ガスが、液化水素または液化ヘリウムである、
請求項7に記載の極低温液化ガスの荷役設備。
【請求項9】
前記第4配管の径は、前記第3配管の径に対して、1/4以下である
請求項7に記載の極低温液化ガスの荷役設備。
【請求項10】
請求項7から請求項9のいずれか1項に記載の極低温液化ガスの荷役設備において、
前記第4配管における真空断熱構造を有さない部分における配管温度を測定する、
または
前記第4配管における真空断熱構造を有さない部分を視認することによって温度を確認する、
極低温液化ガス荷役設備における温度確認方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、極低温液化ガスの荷役方法、極低温液化ガスの荷役設備および極低温液化ガスの荷役設備における温度確認方法に関する。
【背景技術】
【0002】
極低温液化ガスの一種である液化水素の荷役のための方法および設備が知られている。この種の技術が例えば特許文献1に記載されている。
【0003】
特許文献1には、液化水素のローディングまたはアンローディングに先立って、液化水素移送系統を予冷するための設備および方法が開示されている。特許文献1は、船陸間の移送設備における陸側設備であるローディングアームの末端部において、アーム末端の閉止フランジとアウトボードアームとの間に、2箇所の開閉弁を設けることを開示している。特許文献1の設備によれば、液化水素を流通させることによってローディングアームの予冷を実施する際、ローディングアームの末端部に充填された窒素ガスと液化水素とが、開閉弁を介して接することがない。このため、液化水素に冷却された窒素が開閉弁の内部で凍結し、開閉弁が固着することが防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許6418680号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された設備においてローディングアームの予冷を実施する際には、ローディングアームの配管最末端の区画に窒素ガスが充填され、隣接する区画には水素ガスが充填され、水素ガスが充填された区画に隣接する区画に液化水素が充填される。ただし、特許文献1には、液化水素を配管内に導入し、充填を行う具体的な方法については開示されていない。
【0006】
液化水素の移送に先立って移送設備の配管の予冷を行うとき、予冷開始時の配管の温度は常温付近であることが多い。このような配管に極低温流体である液化水素を流通させると、急激な温度変化に起因する熱収縮等によって配管に損傷が生じるおそれがある。一方で、荷役作業の効率向上やエネルギー低減の観点から、予冷に要する時間を短縮し、また、予冷のために使用する液化水素の量を低減することが望まれる。
【0007】
このような現状に鑑み、本開示の目的の一つは、極低温液化ガスの荷役において、荷役設備の冷却工程のために消費される極低温液化ガスの量を低減するとともに、設備への負荷を抑制し、効率よく安定的に冷却を実施可能である極低温液化ガスの荷役方法を提供することである。また、本開示の目的の一つは、極低温液化ガスの荷役において、荷役設備の冷却工程のために消費される極低温液化ガスの量を低減するとともに、設備への負荷を抑制し、効率よく安定的に冷却を実施可能である極低温液化ガスの荷役設備を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に従う極低温液化ガスの荷役方法は、極低温液化ガスを収容するタンクから移送設備を介して極低温液化ガスを移送する極低温液化ガスの荷役方法において、前記移送設備が有する配管を冷却する冷却工程を含む。前記冷却工程は、前記タンクから液体である極低温液化ガスを取り出し、前記配管に流通させる第1ステップと、前記第1ステップの後、前記タンクから液体である極低温液化ガスを取り出し、前記配管に流通させる第2ステップと、を含む。前記第1ステップにおいて流通される液体である極低温液化ガスは、前記配管のうち、メインラインから分岐し、前記メインラインよりも小径である枝管からガスとして排出される。前記第2ステップにおいて流通される極低温液化ガスは、前記枝管から排出されない。
【0009】
本開示に従う極低温液化ガスの荷役設備は、極低温液化ガスを収容するタンクと、前記タンクに接続する第1端を有する第1配管と、前記第1配管よりも鉛直方向における下方において前記タンクに接続する第2端を有する第2配管と、前記第1配管の前記第1端と逆側の端部である第3端と、前記第2配管の前記第2端と逆側の端部である第4端と、に接続する第3配管と、前記第3配管の中途から分岐し、前記第3配管よりも小径である第4配管と、を備える。前記第1配管の前記第1端と前記第3端との間には、前記第1配管の連通状態と閉止状態とを切換可能である第1開閉機構が備えられる。前記第2配管の前記第2端と前記第4端との間には、前記第2配管の連通状態と閉止状態とを切換可能である第2開閉機構が備えられる。前記第3配管における、前記第1配管との接続部および前記第2配管との接続部より下流には、前記第3配管の連通状態と閉止状態とを切換可能である第3開閉機構が備えられる。前記第4配管には、前記第4配管の連通状態と閉止状態とを切換可能である第4開閉機構が備えられる。前記第4配管は、前記第3配管における前記第3開閉機構よりも上流において、前記第3配管から分岐している。前記第1配管、前記第2配管、前記第3配管は、真空断熱二重管で構成される。前記第4配管の少なくとも一部は真空断熱構造を有さない。
【0010】
本開示にかかる極低温液化ガスの荷役設備における温度確認方法は、前記極低温液化ガスの荷役設備において、
前記第4配管における真空断熱構造を有さない部分における配管温度を測定する、
または
前記第4配管における真空断熱構造を有さない部分を視認することによって温度を確認する、温度確認方法である。
【発明の効果】
【0011】
荷役設備の冷却工程において消費される極低温液化ガスの量を低減するとともに、設備への負荷を抑制し、効率よく安定的に冷却を実施可能である極低温液化ガスの荷役方法が提供される。本開示によれば、荷役設備の冷却工程において消費する極低温液化ガス量を低減するとともに、設備への負荷を抑制し、効率よく安定的に冷却を実施可能である極低温液化ガスの荷役設備、当該荷役設備における温度確認方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本開示にかかる実施の形態である荷役設備の模式図である。
図2図2は、本開示にかかる実施の形態である荷役方法の概要を示すフローチャートである。
図3図3は、本開示にかかる極低温液化ガスの荷役方法における冷却工程を実施した場合の実績データを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[実施の形態の概要]
初めに、本開示にかかる荷役方法および荷役設備の概要を列挙して説明する。
本開示に従う極低温液化ガスの荷役方法は、極低温液化ガスを収容するタンクから移送設備を介して極低温液化ガスを移送する極低温液化ガスの荷役方法において、前記移送設備が有する配管を冷却する冷却工程を含む。前記冷却工程は、前記タンクから液体である極低温液化ガスを取り出し、前記配管に流通させる第1ステップと、前記第1ステップの後、前記タンクから液体である極低温液化ガスを取り出し、前記配管に流通させる第2ステップと、を含む。前記第1ステップにおいて流通される液体である極低温液化ガスは、前記配管のうち、メインラインから分岐し、前記メインラインよりも小径である枝管からガスとして排出される。前記第2ステップにおいて流通される極低温液化ガスは、前記枝管から排出されない。
【0014】
従来、低温流体の移送に先立って、移送設備の配管を予め冷却することが知られている。液化天然ガス(LNG)の荷役においては、船や陸に据え付けられたLNGタンクから発生する低温の蒸発ガス(BOG)を配管に流通させ、BOGの冷熱によって配管を冷却することが知られている。しかしながら、液化水素の荷役においては、液化水素のBOGを利用して配管の冷却を行うことが難しいことが明らかになった。そこで、液化水素の荷役において、液体である液化水素を用いて配管の冷却を行う方法が検討された。しかしながら、大口径の配管に極低温の液化水素を流通させると、急激な部分冷却が生じやすく、適切に冷却を行うことが困難であることが判明した。この状況を踏まえてさらに検討が重ねられた。
【0015】
本開示にかかる荷役方法は、液体である極低温液化ガスを用いて、配管の冷却を2ステップで行う。なかでも、第1ステップとして、極低温液化ガスを収容するタンクから取り出した液化ガスを配管に流通させ、この液化ガスを、メインラインから分岐し、メインラインよりも小径である枝管からガスとして排出する。この構成によれば、メインラインよりも小径である枝管からガスを排出するため、メインラインに流通する極低温液化ガスの量を制御することが容易になる。このため、メインラインの温度制御が容易になり、配管の急激な冷却を回避できる。また、液体である極低温液化ガスを配管に流通させる場合、液体が直接触れる配管下部と液体が触れない配管上部との温度差(配管天地温度差)が過大になることがあったが、本開示にかかる荷役方法によれば、配管天地温度差が過大になることも防止しつつ、冷却を進めることができる。
【0016】
前記荷役方法は、前記第1ステップと同時または前記第1ステップの後に、温度確認ステップを含み、前記温度確認ステップにおいて、前記配管の温度が所定温度以下であることが確認された場合に前記第2ステップが開始されてよい。この構成によれば、より効率的に配管の冷却を行うことが可能で、冷却のために消費する液化水素の量を低減し、冷却に要する時間を短縮する効果が大きい。これらにより、より効率的に液化水素の荷役を実施できる。
【0017】
前記荷役方法において、前記極低温液化ガスは液化水素であり、前記所定温度は空気の液化点温度以下であってよい。本開示にかかる荷役方法は、特に液化水素の荷役において有効である。また、空気の液化点温度以下の温度を指標として第1ステップから第2ステップへの移行を行うことによって、より効率的に配管の冷却を行うことができる。
【0018】
前記荷役方法において、前記温度確認ステップは、前記枝管の温度を確認することによって行われてよい。枝管の温度は、メインラインの温度よりも容易に測定できる。枝管の温度からメインラインの温度を推測することによれば、よりシンプルな設備構成によって極低温液化ガスの荷役を行うことが可能となる。
【0019】
前記荷役方法において、前記温度確認ステップは、前記枝管における真空断熱構造を有さない部分の温度を確認することによって行われてよい。極低温液化ガスの移送設備における配管は、その大部分が真空断熱配管で構成される。これに対して、枝管は、真空断熱構造を有さない部分を有してもよい。真空断熱構造を有さない部分は、真空断熱配管よりも配管の温度の確認が容易である。枝管の真空断熱構造部分以外の部分の温度を確認することによって、より容易かつ迅速に温度確認が可能で、シンプルな設備構成によって極低温液化ガスの荷役を行うことが可能となる。
【0020】
本開示に従う極低温液化ガスの荷役設備は、極低温液化ガスを収容するタンクと、前記タンクに接続する第1端を有する第1配管と、前記第1配管よりも鉛直方向における下方において前記タンクに接続する第2端を有する第2配管と、前記第1配管の前記第1端と逆側の端部である第3端と、前記第2配管の前記第2端と逆側の端部である第4端と、に接続する第3配管と、前記第3配管の中途から分岐し、前記第3配管よりも小径である第4配管と、を備える。前記第1配管の前記第1端と前記第3端との間には、前記第1配管の連通状態と閉止状態とを切換可能である第1開閉機構が備えられる。前記第2配管の前記第2端と前記第4端との間には、前記第2配管の連通状態と閉止状態とを切換可能である第2開閉機構が備えられる。前記第3配管における、前記第1配管との接続部および前記第2配管との接続部より下流には、前記第3配管の連通状態と閉止状態とを切換可能である第3開閉機構が備えられる。前記第4配管には、前記第4配管の連通状態と閉止状態とを切換可能である第4開閉機構が備えられる。前記第4配管は、前記第3配管における前記第3開閉機構よりも上流において、前記第3配管から分岐している。前記第1配管、前記第2配管、前記第3配管は、真空断熱二重管で構成される。前記第4配管の少なくとも一部は真空断熱構造を有さない。
【0021】
本開示にかかる荷役設備によれば、前述した荷役方法を実施できる。また、既存の設備構成の組み合わせによって荷役設備を構成することが可能で、特別な設備を必要とすることなく、合理的なコストで信頼性の高い荷役設備を構成できる。
【0022】
本開示にかかる荷役設備において、前記極低温液化ガスは、液化水素または液化ヘリウムであってよい。本開示にかかる荷役設備は、液化水素または液化ヘリウムを収容し、移送する設備として好適である。
【0023】
本開示にかかる荷役設備において、前記第4配管の径は、前記第3配管の径に対して、1/4以下であってよい。第4配管の径をこの範囲とすることによって、メインラインである第3配管に流通する液化水素の量をより確実に制御できる。
【0024】
本開示にかかる温度確認方法は、前記極低温液化ガスの荷役設備において、前記第4配管における真空断熱構造を有さない部分における配管温度を測定する、または、前記第4配管における真空断熱構造を有さない部分を視認することによって温度を確認する、極低温液化ガス荷役設備における温度確認方法である。この温度方法によれば、迅速かつ簡単に配管温度を確認できる。また、第4配管の温度と第3配管の温度の相関を予め確認しておけば、第4配管の温度を測定することで第3配管の温度を推測し、液化水素の荷役をより迅速かつ容易に行うことができる。
【0025】
[実施の形態の具体例]
次に、本開示にかかる極低温液化ガスの荷役方法および荷役設備の具体的な実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照符号を付し、その説明は繰り返さない。なお、本明細書において「極低温」とは、100K(-173℃)以下の温度範囲を意味する。また、本明細書では、極低温液化ガスの移送元側を「上流側」、極低温液化ガスの移送先側を「下流側」と称する。以下の例ではタンクに近い側を「上流側」、船に近い側を「下流側」と称するが、実際の運用において流体の流通方向はこれに制限されない。
【0026】
本開示にかかる極低温液化ガスの荷役方法および荷役設備で取り扱われる液化ガスは、液化水素、液化ヘリウム、液化重水素を含む。本開示にかかる荷役方法および荷役設備は、液化水素の荷役において好適である。
【0027】
図1は、本開示にかかる荷役設備の模式図である。図1を参照して、荷役設備1は、極低温液化ガスとしての液化水素L0を収容するタンク10と、移送設備30と、を含む荷役ターミナルである。移送設備30は、タンク10に収容される液化水素L0を外部設備の一例である船20に移送するための設備である。外部設備は船に限定されず、タンクローリ等の車両であってもよく、別の固定設備であってもよい。移送設備30は、ローディングアームを含んで構成されうる。
【0028】
移送設備30は、タンク10に接続する第1配管31と、第1配管31よりも鉛直方向における下方においてタンク10に接続する第2配管32と、を含む。第1配管31の第1端P1は、タンク10内の液化水素L0の液面よりも上に接続される。第1配管31は、液化水素L0が蒸発した気体である水素ガスを流通させるためのラインである。第2配管32の第2端P2は、タンク10内の液化水素L0の液面よりも下に接続される。第2配管32は、液体である液化水素ガスを流通させるためのラインである。
【0029】
移送設備30はまた、第3配管としてのメインライン33と、メインライン33から分岐する第4配管としての枝管34と、を含む。第1配管31における第1端P1と逆側の端部である第3端P3は、メインライン33に接続している。また、第2配管32における第2端P2と逆側の端部である第4端P4も、メインライン33に接続している。メインライン33は、大口径の配管であってよい。大口径の配管とは、典型的には、口径が4インチ(内径約100mm)以上である配管である。メインライン33が大口径の配管である場合に、本開示にかかる設備や方法が特に好適である。メインライン33の口径の上限は、本開示にかかる効果を有する限り特に制限されないが、例えば32インチ(内径約800mm)である。枝管34は、メインライン33よりも小径である。枝管34は例えば、メインライン33の径に対して概ね1/4以下の径であってよい。枝管34の径の下限は特に制限されないが、例えば、1/8インチ(内径約6.5mm)以上の配管を用いることができる。具体的には例えば、メインライン33として口径16インチ(内径約400mm)、枝管34として口径1インチ(内径約27mm)の配管を用いて、設備を構成できる。
【0030】
メインライン33は、直接にまたは別の配管を介して、液化水素の移送先である外部設備に接続するラインである。一方、枝管34は排出系統である。枝管34の末端は開放されていてもよいし、各種の水素ガス利用設備に接続していてもよい。水素ガス利用設備としては例えば、燃料電池、発電設備等が挙げられる。また、枝管34は別の目的を備える配管を兼ねるものであってもよい。例えば、枝管34は、本開示にかかる荷役方法においては排気ラインとして使用されるが、タンク10から小型の収容設備に液化水素を移送する場合等には、液化水素移送用配管として用いられうるものであってよい。
【0031】
タンク10、第1配管31、第2配管32、メインライン33は高断熱構造である真空断熱構造Sを有する。具体的に、タンク10は真空断熱構造のタンクである。また、第1配管31、第2配管32、メインライン33は真空断熱二重管で構成される。枝管34は、メインライン33からの分岐部から少なくとも一部が真空断熱二重管で構成されることが好ましい。枝管34は、真空断熱二重管で構成される部分と、真空断熱構造を有さず、単管で構成される部分とを有することが好ましい。枝管34が真空断熱構造を有さない部分を有することによって、後述する温度確認が容易にできる。
【0032】
第1配管31には、第1配管31の連通状態(ライン開)と閉止状態(ライン閉)とを切換可能である第1開閉機構としての弁41が備えられる。第2配管32には、第2配管32の連通状態(ライン開)と閉止状態(ライン閉)とを切換可能である第2開閉機構としての弁42が備えられる。メインライン33には、メインライン33の連通状態(ライン開)と閉止状態(ライン閉)とを切換可能である第3開閉機構としての弁43が備えられる。メインライン33にはまた、メインライン33の配管表面の温度を測定する温度計51が備えられる。温度計51は、配管上部の温度を測定する温度計51aと、配管下部の温度を測定する温度計51bとを含む。弁41,42,43は、真空断熱二重管のカバー内に設けられることが好ましい。枝管34は、メインライン33の弁43よりも上流から分岐している。枝管34には、枝管34の連通状態(ライン開)と閉止状態(ライン閉)とを切換可能である第4開閉機構としての弁44が備えられる。弁44は、弁42,43よりも容量の小さいバルブである。弁44は、枝管34における真空断熱構造を有さない部分に設けられても、真空断熱構造を有する部分に設けられてもよい。
【0033】
枝管34における真空断熱構造を有さない部分の鉛直下方にはトレー71が備えられる。枝管34に液化水素を流通させると、枝管34に流通する液化水素によって枝管34の外周表面が冷却され、配管表面において空気の液化が生じることがある。この場合、トレー71で液化空気を受けることによって、作業者や周囲設備に対する安全性を向上できる。
【0034】
図1は本開示にかかる構成を主として示すものであり、移送設備を簡略化して示している。移送設備30は、図示していない構成を多数含む。例えば、枝管34は1箇所ではなく、メインラインの複数個所から複数の枝管が分岐してもよい。メインラインを複数の弁によって区画し、各区画に枝管を設けることによって、区画ごとに配管の冷却を実施できる。また、枝管34の出口付近には、枝管34から排出される気体を加温するための加温機構が設けられてよい。
【0035】
次に、本開示にかかる荷役方法について説明する。本開示にかかる荷役方法を実施する設備は特に制限されないが、例えば上述した荷役設備1において好適に実施される。本開示にかかる荷役方法は、極低温液化ガスである液化水素L0を収容するタンク10から、移送設備30を介して液化水素L0を移送する荷役方法において実施される冷却方法に特徴を有する。本開示にかかる荷役方法は、移送設備30が有する配管、特にメインライン33を冷却する冷却工程を含む。この冷却工程は典型的に、液化水素のローディングやアンローディングに先立つ予冷工程として実施される。
【0036】
図2は、本開示にかかる荷役方法の概要を示すフローチャートである。図2は、上述した荷役設備1において荷役を行う場合を説明し、図2における弁41~44は、図1に示された弁41~44に対応する。
【0037】
図2を参照して、本開示にかかる荷役方法に含まれる冷却工程は、第1冷却ステップS1と、第1冷却ステップS1に次いで実施される第2冷却ステップS2とを含む。
【0038】
冷却工程が開始される(S0)。冷却工程が開始される時、移送設備30の配管は冷却されていない状態(常温域)であってよい。また、第1冷却ステップS1の前に予備冷却ステップないしガス置換ステップが実施されてもよい。例えば、予備冷却ステップとして、タンク10から第1配管31を通じて水素ガスが取り出され、配管内に充填された状態であってもよい。
【0039】
第1冷却ステップS1の開始時、タンク10からのガス取り出しラインである第1配管31の弁41およびメインライン33の弁43は全閉とする。タンク10からの液体である液化水素ガス取り出しラインである第2配管32の弁42は全開とする(S10)。このようにして、タンクから、液体である液化水素を取り出し、移送設備の配管に流通させる。次いで、枝管34に設けられる弁44の全開と全閉を繰り返す(S20)。配管内に供給された液化水素は、枝管34を通じてガスG1として排出される。また、枝管34から排出されるガスG1の量に応じて、液化水素がタンク10から配管内に呼び込まれる。ここで、枝管34はメインライン33に対して小径であり、弁44からの排気量も少量となる。このため、メインライン33内に流入する液化水素の量を容易に調整できる。このことによって、メインライン33が大口径であっても、メインライン33の冷却スピードが過大にならず、また、メインライン33の配管の天地温度差が過大になることを抑制できる。なお、図2に示したフローチャートでは、弁42を全開としているが、第1冷却ステップS1の途中で弁42の開度を変更してもよい。例えば、第1冷却ステップS1の開始時から中盤までは弁42を一部開とし、一定程度冷却が進んだことを確認した後に、弁42を全開としてもよい。第1冷却ステップS1の途中で弁42の開度を変更することによって、より精密に冷却スピードを制御できる。また、図2に示したフローチャートでは弁44の全開と全閉を繰り返しているが、弁44の一部開と閉を繰り返してもよい。
【0040】
弁44の全開と全閉を1回または複数回行うごとに、弁42,43間の温度を確認する(S30)。温度確認の具体的な形態は特に制限されないが、典型的には、メインライン33の配管温度を確認する。温度の確認には温度計51を利用してもよく、枝管34の温度からメインライン33の温度を推測してもよい。弁42,43間の温度が-220℃以上である場合(S30でNO)は、S20を繰り返す。弁42,43間の温度が-220℃未満である場合(S30でYES)は、枝管34の弁44を全閉とする(S40)。メインライン33よりも小径の配管である枝管34に設けられた弁44を開閉することによって、冷却スピードが過大になることを抑制しつつ、冷却を行える。また、大口径の配管であるメインライン33における配管天地での温度差が過大になることを抑制しつつ、冷却を行える。
【0041】
なお、図2に示す例では、S30において弁42,43間の温度が-220℃未満であることが確認されるが、この温度は-220℃に限定されず、設備の構成や配管の径等に応じて所定の温度を設定できる。所定の温度としては、空気の液化点温度(約-190℃)以下とすることが好ましい。第1冷却ステップS1においてメインライン33の温度が空気の液化点温度以下になるまで冷却を進めることによって、続く第2冷却ステップS2において冷却スピードが過大となることを防止できる。
【0042】
次いで、第2冷却ステップS2に進む。第2冷却ステップS2よりも前に枝管34に設けられた弁44は閉とされており(S40)、第2冷却ステップS2では、枝管34から液化水素ガスは排出されない。第2冷却ステップS2では、メインライン33の弁43が調整開とされる(S50)。なお、調整開とは、必要に応じて全閉から全開までの範囲で弁の開度を調整した状態とすることをいう。これによって、メインライン33における弁43よりも下流まで液化水素が供給され、また、メインライン33は引き続き冷却される。このとき、メインライン33はすでに-220℃未満まで冷却されているため、弁43の調整により液化水素の流量が多くなっても冷却スピードが過大になることがない。
【0043】
弁43を調整開とした後、弁42,43間の温度を確認する(S60)。温度確認の具体的な形態は特に制限されないが、典型的には、メインライン33の配管温度を確認する。温度の確認には温度計51を利用できる。弁42,43間の温度が液化水素の温度以上である場合(S60でNO)は、弁43の開度を増し(S65)、液化水素の流通量を多くする。弁42,43間の温度が液化水素の温度近傍である場合(S60でYES)、冷却が終了される(S70)。液化水素の温度は約-253℃(20K)である。
【0044】
次に、本開示にかかる温度確認方法について説明する。本開示にかかる温度確認方法を実施する設備は特に制限されないが、例えば上述した荷役設備1において好適に実施される。本開示にかかる温度確認方法は、真空断熱構造を有するメインラインの温度を、枝管の温度を確認することによって推測する方法である。上述のとおり、荷役設備1において、メインライン33は真空断熱構造Sを有するのに対して、枝管34の少なくとも一部は真空断熱構造Sを有さず単管で構成される。この部分の温度は、より汎用的な温度測定方法によって測定できる。あらかじめ枝管34における単管部分の温度と冷却対象であるメインライン33の温度との相関を確認しておくことによって、枝管温度からメインラインの温度を推定できる。
【0045】
枝管34における温度の測定は、温度計を用いて温度を測定してもよく、その他の方法でもよい。例えば、枝管34の単管が空気液化点よりも低温まで冷却された場合、配管出口や配管表面に液体空気が発生する。液化空気の発生を視認することによって、温度を確認することも好ましい。
【0046】
(実施例)
図3は、図1に模式的に示す移送設備30において本開示にかかる極低温液化ガスの荷役方法における冷却工程を実施した場合の実績データを示す。図3は、冷却工程のうち第1冷却ステップにあたる部分を示している。図3中、弁42および弁43の弁開度(%)の経時推移がそれぞれ示される。また、メインライン33の配管上下それぞれに配置された温度計51a、51bの温度(℃)の経時推移がそれぞれ示される。さらに、温度計51a、51bの温度変化速度(クールダウンレート、℃/h)の経時推移がそれぞれ示される(右軸)。クールダウンレートは、-50℃/h以上50℃/h以下の範囲が適正範囲とされた。
【0047】
図3を参照して、0分から300分まで、弁42の開度を10%に維持しながら弁44の開閉を繰り返した。300分に弁42の開度を100%とした。300分から900分まで、弁42の開度を100%に維持しながら弁44の開閉を繰り返した。弁43は、0分から900分まで全閉に維持した。
【0048】
配管温度は冷却開始時(0分)には約10℃であった。冷却開始後900分において、-200℃以下まで冷却された。この間のクールダウンレートはほぼ適正範囲内であった。より詳しく説明すると、配管上部の温度(温度計51a)のクールダウンレートは、0分から900分までの間、ごくわずかな逸脱を除いて適正範囲内に維持された。クールダウンレートの最低値は-59.4℃/h(103分時)であった。配管下部の温度(温度計51b)のクールダウンレートは、0分から300分までの間、大部分が適正範囲内に維持された。大口径の配管から液化水素の抜き出しを実施した場合にはこの段階でのクールダウンレートの制御が困難であったのに対して大幅な改善が見られた。また、300分から900分までの間、ごくわずかな逸脱を除いてクールダウンレートは適正範囲内に維持された。クールダウンレートの最低値は-109.8℃/h(204分時)であった。
【0049】
配管温度の天地差は、配管上部の温度(温度計51a)と配管下部の温度(温度計51b)との差分である。0分から900分まで、配管温度天地差は70℃以内に抑えられ、管理値内に維持できた。900分において、弁43を100%開とした。弁43を開とし、メインラインに液化水素を流通させることによって、メインラインのさらなる冷却を行った。
【0050】
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと解されるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0051】
1 荷役設備、10 タンク、20 船、30 移送設備、31 第1配管、32 第2配管、33 メインライン、34 枝管、41、42、43、44 弁、51 温度計、71 トレー。
【要約】
【課題】液化水素の荷役において、荷役設備の冷却工程のために消費される液化水素の量を低減するとともに、設備への負荷を抑制し、効率よく安定的に冷却を実施可能である液化水素の荷役方法を提供すること。
【解決手段】本開示に従う極低温液化ガスの荷役方法は、移送設備が有する配管を冷却する冷却工程を含む。前記冷却工程は、前記タンクから液体である極低温液化ガスを取り出し、前記配管に流通させる第1ステップと、前記第1ステップの後、前記タンクから液体である極低温液化ガスを取り出し、前記配管に流通させる第2ステップと、を含む。前記第1ステップにおいて流通される液体である極低温液化ガスは、前記配管のうち、メインラインから分岐し、前記メインラインよりも小径である枝管からガスとして排出される。
前記第2ステップにおいて流通される極低温液化ガスは、前記枝管から排出されない。
【選択図】図1
図1
図2
図3