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特許7412685尿路臓器腔内に注入可能な尿路上皮癌の予防または治療のための医薬組成物
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  • 特許-尿路臓器腔内に注入可能な尿路上皮癌の予防または治療のための医薬組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】尿路臓器腔内に注入可能な尿路上皮癌の予防または治療のための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7004 20060101AFI20240105BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20240105BHJP
   A61K 31/7008 20060101ALI20240105BHJP
   A61K 31/7012 20060101ALI20240105BHJP
   A61K 31/047 20060101ALI20240105BHJP
   A61P 13/02 20060101ALI20240105BHJP
   A61P 13/10 20060101ALI20240105BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20240105BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240105BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240105BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240105BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240105BHJP
   A61K 47/54 20170101ALI20240105BHJP
【FI】
A61K31/7004
A61K31/704
A61K31/7008
A61K31/7012
A61K31/047
A61P13/02
A61P13/10
A61P13/12
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K9/08
A61K47/54
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021508118
(86)(22)【出願日】2020-01-16
(86)【国際出願番号】 JP2020001334
(87)【国際公開番号】W WO2020195037
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2019058477
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304028346
【氏名又は名称】国立大学法人 香川大学
(73)【特許権者】
【識別番号】722010585
【氏名又は名称】セトラスホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100197169
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 潤二
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【弁理士】
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100206689
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】田岡 利宜也
(72)【発明者】
【氏名】筧 善行
(72)【発明者】
【氏名】杉元 幹史
(72)【発明者】
【氏名】張 霞
(72)【発明者】
【氏名】松岡 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】何森 健
(72)【発明者】
【氏名】吉原 明秀
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/152293(WO,A1)
【文献】CHEN, Jia et al.,SIRT1 promotes GLUT1 expression and bladder cancer progression via regulation of glucose uptake,Human Cell,2019年03月13日,Vol.32,p.193-201
【文献】伊藤明宏,膀胱内注入療法:BCGと抗がん剤、どちらがいいの?,泌尿器Care&Cure Uro-Lo,日本,メディカ出版,2016年,Vol.21, No.3,p.372-374
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/7004
A61K 31/704
A61K 31/7008
A61K 31/7012
A61K 31/047
A61K 45/00
A61K 9/08
A61K 47/54
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
D-アロースを有効成分として含有し、D-アロースの糖取り込み亢進を利用する、尿路臓器腔内癌細胞への直接暴露によるD-アロースの筋層非浸潤性尿路上皮癌細胞への選択的取り込みと筋層非浸潤性尿路上皮癌細胞のミトコンドリアでの酸素呼吸を増やし筋層非浸潤性尿路上皮癌細胞の生存及び/又は増殖を抑制するための尿路臓器腔内注入療法用溶液。
【請求項2】
前記尿路臓器の癌が、腎盂癌、尿管癌、膀胱癌、または尿道癌である、請求項1に記載の溶液
【請求項3】
D-アロースが、D-アロースおよび/またはその誘導体および/またはその混合物であり、
前記誘導体は、D-アロースのカルボニル基がアルコール基となった糖アルコール、D-アロースのアルコール基が酸化したウロン酸、D-アロースのアルコール基がNH 基で置換されたアミノ糖から選ばれるD-アロース誘導体である、請求項1または2に記載の溶液。
【請求項4】
尿路臓器腔内が上部尿路内、および膀胱内である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の溶液。
【請求項5】
D-アロースの有効量を含有する、請求項1ないしのいずれか1項に記載の溶液。
【請求項6】
尿路臓器腔内注入により尿路臓器腔に注入される、請求項またはに記載の溶液。
【請求項7】
D-アロースが医薬として許容し得る希釈剤または担体と一緒に含有する、請求項1ないしのいずれか1項に記載の溶液。
【請求項8】
1種以上の抗増殖薬と一緒に含有する、請求項1ないしのいずれか1項に記載の溶液。
【請求項9】
D-アロースが尿路臓器の癌細胞への取り込みを増大させるための薬物に会合しており、
前記薬物が、放射性同位体、酵素、プロドラッグ活性化酵素、放射線増感剤、iRNA、アルキル化剤、プリンアンタゴニスト、ピリミジンアンタゴニスト、植物アルカロイド、インターカレート抗生物質、代謝拮抗物質、アロマターゼ阻害剤、有糸分裂阻害剤、増殖因子阻害剤、細胞周期阻害剤、またはトポイソメラーゼ阻害剤である、請求項1ないしのいずれか1項に記載の溶液。
【請求項10】
D-アロースと前記薬物が、直接的にまたはリンカーを介して共有結合により会合している、請求項に記載の溶液。
【請求項11】
前記抗増殖薬の少なくとも1種が、アントラサイクリンである、請求項に記載の溶液。
【請求項12】
前記アントラサイクリンが、ドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、アクラルビシン、イダルビシン、ピラルビシン、アナマイシン、メトキシモルホリノドキソルビシン、シアノモルホリニルドキソルビシン、バルルビシン(N-トリフルオロアセチルアドリアマイシン-14-吉草酸塩)及びミトキサントロンからなる群から選択される、請求項11に記載の溶液。
【請求項13】
前記アントラサイクリンが、バルルビシン、ドキソルビシン及びエピルビシンからなる群から選択される、請求項11に記載の溶液。
【請求項14】
前記アントラサイクリンが、エピルビシンである、請求項11に記載の溶液。
【請求項15】
尿路臓器の癌の予防または治療のための医薬組成物である、請求項1ないし14のいずれか1項に記載の溶液。
【請求項16】
尿路臓器の癌の予防または治療が必要な患者に、医薬組成物を尿路臓器腔内へ注入し、これにより該患者における尿路臓器の癌を予防または治療することを指示する添付文書と共に、請求項15に記載の医薬組成物である溶液を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、D-アロースの有効量を含有する、尿路臓器腔内注入により尿路上皮癌の予防または治療のための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
腎臓で産生された尿は腎盂に排泄され、尿管を経由して膀胱に運ばれる。そして膀胱に一定量の尿がたまると尿意を生じ、膀胱の筋肉が収縮することで体外に排出される。尿路上皮癌とは、この尿の通路となる腎盂、尿管、および膀胱に発生する癌である。その約7割は筋層非浸潤性と考えられており、その治療にあたっては、経尿道的手術に加えて尿路臓器腔内へのBCG(Bacillus Calmette-Guerin)、あるいは抗癌剤の注入療法が標準治療として検討される。しかし、既存薬剤を用いた注入療法後の5年再発率は31-78%と高く、再発症例に対して追加される注入療法後の5年再発率も40-55%と約半数は再発し尿路臓器の摘除が検討されることとなる(非特許文献1)。尿路臓器の摘除にあたっては、患側の腎尿管全摘による腎の機能低下、あるいは膀胱全摘による尿の腹壁排泄口造設など、患者のQOL(Quality of life)の低下が避けられない。そのため、更なる再発予防効果、そして尿路臓器の温存を目的とする新規薬剤を用いた注入療法の登場が強く望まれる。
【0003】
筋層非浸潤性尿路上皮癌に対する注入療法において、最も頻用される薬剤はBCGである。そのBCGは、1904年にAlbert Calmette及びCamille Guerinに譲渡されたウシ型結核菌(Mycobacterium bovis)に由来する。この株は、最初は極めて強毒性であったが、その後、230代超に亘って胆汁加馬鈴薯培地で継代培養されることにより、ワクチンとして使用できる弱毒性を獲得した。しかし、BCG注入療法においては、未だに膀胱の刺激症状等の有害事象の発現頻度が高く,完遂できない症例も多いことが問題となっており、より忍容性の高い薬剤が求められている。
【0004】
本邦における2018年度の癌統計予測によると、腎・尿路、および膀胱における癌罹患数の予測値は、男女合わせて52,400人で、本邦で6番目に多い発癌臓器である。元来、尿路上皮癌の発症年齢は73歳との報告もあり、高齢化の進む本邦において、その罹患数は増加傾向にある。加えて、尿路上皮癌の再発率は高く、その治癒、あるいは再発予防を目的とする注入療法の機会は非常に多い。そのため、使用する薬剤の抗腫瘍効果の向上、あるいは忍容性の改善が見込める本発明溶液は、社会に大きなインパクトを与えることができる。
【0005】
一方、医学分野における希少糖の応用研究の成果の中に、D-アロースを有効成分とする生体内抗酸化剤(特許文献1)の発明がある。これは、D-アロースを肝臓癌または皮膚癌の患者に投与して、D-アロースの生体内抗酸化作用で肝臓癌または皮膚癌を治療する組成物として用いるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5330976号公報
【文献】特許第3975274号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】膀胱癌診療ガイドライン2015年度版
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の通り、現在、筋層非浸潤性尿路上皮癌に対する注入療法において、最も頻用される薬剤はBCGである。しかし、筋層非浸潤性尿路上皮癌に対するBCGを用いた注入療法を行ってもなお治癒に至らない症例が少なからず存在するほか、仮に治癒に至った症例であっても、そのうちの40-55%の症例で再発することが知られている。このように、BCGを用いた注入療法は、十分な抗腫瘍効果を有していないほか、実臨床において高頻度に生じる有害事象によって完遂率は低いことが問題となっている。
【0009】
筋層非浸潤性尿路上皮癌に対する尿路臓器腔内への注入療法おいて、新規薬剤の登場が切望されている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、希少糖の一種であるD-アロースのヒト尿路上皮癌細胞に対する強い抗腫瘍効果を見出した。そこで、本発明者らは、D-アロースを含む溶液で、 尿路上皮癌に対する高い抗腫瘍効果が期待される新規薬剤の提供を目指した。本発明は、D-アロースの尿路上皮癌細胞に対する強い抗腫瘍効果に加え、正常細胞に傷害を与える恐れが少ないなどの高い安全性、そしてD-アロースを含む溶液を尿路臓器腔内へ経尿道的に直接注入できる臓器特異的メリットを背景に、尿路上皮癌に対する新規治療戦略の構築を目的としてD-アロースを含む医薬組成物を提供する。
【0011】
本発明は、以下の(1)ないし(15)の尿路臓器腔内注入療法溶液を要旨とする。
(1)D-アロースを有効成分として含有し、D-アロースの糖取り込み亢進を利用する、尿路臓器腔内癌細胞への直接暴露によるD-アロースの筋層非浸潤性尿路上皮癌細胞への選択的取り込みと筋層非浸潤性尿路上皮癌細胞のミトコンドリアでの酸素呼吸を増やし筋層非浸潤性尿路上皮癌細胞の生存及び/又は増殖を抑制するための尿路臓器腔内注入療法溶液 。
(2)前記尿路臓器の癌が、腎盂癌、尿管癌、膀胱癌、または尿道癌である、上記(1)に記載の溶液。
)D-アロースが、D-アロースおよび/またはその誘導体および/またはその混合物であり、
前記誘導体は、D-アロースのカルボニル基がアルコール基となった糖アルコール、D-アロースのアルコール基が酸化したウロン酸、D-アロースのアルコール基がNH2基で置換されたアミノ糖から選ばれるD-アロース誘導体である、上記(1)または(2)に記載の溶液。
(4)尿路臓器腔内が上部尿路内、および膀胱内である、請求項1ないし3のいずれかに記載の溶液。
)D-アロースの有効量を含有する、上記(1)ないし()のいずれかに記載の溶液。
)尿路臓器腔内注入により尿路臓器腔に注入される、上記()または()に記載の溶液。
)D-アロースが医薬として許容し得る希釈剤または担体と一緒に含有する、上記(1)ないし()のいずれかに記載の溶液。
)1種以上の抗増殖薬と一緒に含有する、上記(1)ないし()のいずれかに記載の溶液。
)D-アロースが尿路臓器の癌細胞への取り込みを増大させるための薬物に会合しており、
前記薬物が、放射性同位体、酵素、プロドラッグ活性化酵素、放射線増感剤、iRNA、アルキル化剤、プリンアンタゴニスト、ピリミジンアンタゴニスト、植物アルカロイド、インターカレート抗生物質、代謝拮抗物質、アロマターゼ阻害剤、有糸分裂阻害剤、増殖因子阻害剤、細胞周期阻害剤、またはトポイソメラーゼ阻害剤である、上記(1)ないし()のいずれかに記載の溶液。
10)D-アロースと前記薬物が、直接的にまたはリンカーを介して共有結合により会合している、上記()に記載の溶液。
11)前記抗増殖薬の少なくとも1種が、アントラサイクリンである、上記()に記載の溶液。
12)前記アントラサイクリンが、ドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、アクラルビシン、イダルビシン、ピラルビシン、アナマイシン、メトキシモルホリノドキソルビシン、シアノモルホリニルドキソルビシン、バルルビシン(N-トリフルオロアセチルアドリアマイシン-14-吉草酸塩)及びミトキサントロンからなる群から選択される、上記(11)に記載の溶液。
13)前記アントラサイクリンが、バルルビシン、ドキソルビシン及びエピルビシンからなる群から選択される、上記(11)に記載の溶液。
14)前記アントラサイクリンが、エピルビシンである、上記(11)に記載の溶液。
15)尿路臓器の癌の予防または治療のための医薬組成物である、上記(1)ないし(14)のいずれかに記載の溶液。
【0012】
また、本発明は、以下の(16)のキットを要旨とする。
16)尿路臓器の癌の予防または治療が必要な患者に、医薬組成物を尿路臓器腔内へ注入し、これにより該患者における尿路臓器の癌を予防または治療することを指示する添付文書と共に、上記(15)に記載の医薬組成物である溶液を含む、キット。
【発明の効果】
【0013】
癌細胞は、無限増殖能、転移能などの性質を保持するため、多量のエネルギーを必要としている。細胞のエネルギーはATPであるが、それを賄うため癌細胞は糖代謝、脂質代謝、アミノ酸代謝等エネルギー産生に関与する代謝経路を亢進させている。例えば、癌細胞への糖取り込み亢進は、一般的であり、臨床においてPET診断の技術的基本となっている。一方、従来膀胱癌の治療に使用されている抗癌剤(マイトマイシンC、アドリアマイシン等)は活発に増殖する癌細胞に選択性を示すが、その作用機序はタンパク質合成や核酸合成の阻害であることから、ある程度正常細胞に対しても作用し、副作用を引き起こす。
これに対して、本発明の尿路上皮癌の予防または治療目的に対して用いるD-アロースを含有する医薬品は正常細胞への傷害が少ない。さらに、本発明のD-アロースを含有する溶液を用いた尿路臓器腔内への注入療法は、癌細胞への直接暴露により治療範囲を尿路臓器腔内に限定することで全身の有害事象は少ないことが予測され、長期的かつ持続的な治療を提供することで尿路上皮癌に対する治療効果を高め、最終的に患者QOL(クオリティ オブ ライフ)の向上に繋がる。
より具体的には、本発明により、尿路上皮癌細胞に対する選択性が高く、正常細胞に傷害を与える恐れがない、尿路上皮癌の新規予防または治療戦略を構築するためのD-アロースの使用を提供することができる。また、副作用の問題がなく、長期的かつ持続的な使用が可能である、尿路臓器腔内注入により尿路臓器に投与される、尿路臓器癌の予防または治療のための医薬組成物を提供することができる。D-アロースを含む溶液を経尿道的に尿路臓器腔内に直接注入し尿路上皮癌細胞へ暴露させるもので、高い抗腫瘍効果と安全性が期待できる新規治療法となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】尿路上皮癌細胞株(RT112)の生存アッセイの結果を示す。
図2】尿路上皮癌細胞株(253J)の生存アッセイの結果を示す。
図3】尿路上皮癌細胞株(J82)の生存アッセイの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明において目指す「尿路臓器腔内注入療法」は、腎盂尿管、あるいは膀胱の内腔へのD-アロースを含む溶液を用いた注入療法を意味する。そして、尿路上皮癌の局在に応じて、「腎盂尿管内注入療法」、および「膀胱内注入療法」を使い分ける。その実施にあたってはカテーテルを介する。更に「膀胱内(腎盂尿管内)溶液」、「膀胱内(腎盂尿管内)作用物質」、「膀胱内(腎盂尿管内)療法」及び「膀胱内(腎盂尿管内)化合物」は、膀胱(腎盂尿管)へ投与することができる治療を意味する。例えば1つの実施態様において、膀胱内(腎盂尿管内)作用物質は、D-アロースおよび医薬として許容し得る希釈剤または担体と一緒の医薬品である。別の実施態様において、膀胱内(腎盂尿管内)作用物質は、D-アロース、1種以上の他の抗増殖薬および医薬として許容し得る希釈剤または担体と一緒の医薬品である。1つの実施態様において、膀胱内(腎盂尿管内)療法は、経口及び膀胱内作用物質の組合せである。本発明は、経口及び膀胱内(腎盂尿管内)作用物質の組合せに限定されることは意図されていない。例えば1つの実施態様において、膀胱内(腎盂尿管内)療法は、膀胱内(腎盂尿管内)作用物質である。別の実施態様において、膀胱内(腎盂尿管内)療法は、膀胱内作用物質の組合せ、例えばD-アロースおよび1種以上の他の抗増殖薬の組合せである。
【0016】
本発明は、D-アロースを含有してなる尿路上皮癌治療用組成物であり、有効量のD-アロースまたは薬理的に許容される塩または/および水和物の製剤を含む。
本発明で用いるD-アロースは、自然界に大量に存在するD-グルコースに比べて圧倒的に存在量が少ない希少糖である。糖の基本単位である単糖(炭素数が6つの単糖:ヘキソース)は全部で34種類あり、アルドースが16種類、ケトースが8種類、糖アルコールが10種類ある)のうち、自然界に大量に存在するD-グルコースに代表される「天然型単糖」に対して、自然界に微量にしか存在しない単糖(アルドース、ケトース)およびその誘導体(糖アルコール)を「希少糖」と定義している。現在、大量に生産することができる希少糖は、D-プシコース(英語名:D-アルロース(D-allulose))とD-アロースである。D-アロースは、六炭糖のアルドースに分類されるアロースのD体である。
【0017】
D-アロースを得る方法としては、L-ラムノース・イソメラーゼを用いてD-アルロース(D-プシコース)から合成する方法や、D-アルロース含有溶液にD-キシロース・イソメラーゼを作用させて得る方法があり、また、高純度D-アロースの製造に関しては、D-アロースの結晶化法による分別法(特許文献2)などがある。本発明におけるD-アロースは、それだけに限られず、化学的な処理方法により異性化されたものなど、何れの方法によって得られたものでもよい。D-アロースの原料となるD-アルロースは、現在のところ、フラクトースを酵素(エピメラーゼ)処理して得られる製法が一般的であるが、それだけに限られず、該酵素を生産する微生物を利用した製法により得られたものでも良いし、天然物から抽出されたもの、もしくは天然物中に含まれるものをそのまま用いても良いし、化学的な処理方法により異性化されたものでも良い。また、酵素を利用してD-アルロースを精製する方法は公知である。
【0018】
D-アロースの誘導体について説明する。ある出発化合物から分子の構造を化学反応により変換した化合物を出発化合物の誘導体と呼称する。D-アロースを含む六炭糖の誘導体には、糖アルコール(単糖類を還元すると、アルデヒド基およびケトン基はアルコール基となり、炭素原子と同数の多価アルコールとなる)や、ウロン酸(単糖類のアルコール基が酸化したもので、天然ではD-グルクロン酸、ガラクチュロン酸、マンヌロン酸が知られている)、アミノ糖(糖分子のOH基がNH基で置換されたもの、グルコサミン、コンドロサミン、配糖体などがある)などが一般的であるが、それらに限定されるものではない。D-アロースの誘導体が、D-アロースのカルボニル基がアルコール基となった糖アルコール、D-アロースのアルコール基が酸化したウロン酸、D-アロースのアルコール基がNH基で置換されたアミノ糖から選ばれるD-アロース誘導体である。
【0019】
本発明のD-アロースおよび/またはその誘導体および/またはその混合物を配合した治療用組成物において、D-アロースおよび/またはその誘導体および/またはその混合物は、組成物中に有効量含有される。「有効量」とは、その意図された目的(例えば、組織や被験体における望ましい生物学的もしくは医学的応答)を満たすに十分な任意の量をいう。
【0020】
本発明のD-アロースあるいはその薬理的に許容される塩、または/および水和物の製剤について説明する。D-アロースおよび/またはその誘導体および/またはその混合物のみで用いるほか、安定剤、保存剤等の適当な添加剤を配合し、液剤として製剤することができる。本発明の医薬組成物としては、有効成分を医学的に許容される担体、滑沢剤等の添加物を含有する、例えば水または各種の輸液用製剤に溶解させた液剤が、公知の製剤技術により製造できる。
【0021】
前記抗増殖薬の少なくとも1種が、アントラサイクリンである。 前記アントラサイクリンが、ドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、アクラルビシン、イダルビシン、ピラルビシン、アナマイシン、メトキシモルホリノドキソルビシン、シアノモルホリニルドキソルビシン、バルルビシン(N-トリフルオロアセチルアドリアマイシン-14-吉草酸塩)及びミトキサントロンからなる群から選択される。また、前記アントラサイクリンが、バルルビシン、ドキソルビシン及びエピルビシンからなる群から選択される。また、前記アントラサイクリンが、エピルビシンである。
【0022】
本発明の溶液形態の医薬品の好ましい態様によれば、本発明の尿路上皮癌治療剤が、溶媒に分散されて分散液(溶液)の形態とされてなるのが好ましい。これにより、本発明の溶液を、注入療法により、患者の尿路臓器腔内注入により腎盂尿管内、あるいは膀胱内に効率的に投与する治療剤として用いることができる。分散液(溶液)の液性は限定されず、pH3~10の広範囲にわたって高い分散性を実現可能である。なお、体内投与における安全性の観点から、分散液は、pH5~9であるのが好ましく、より好ましくは5~8、特に中性の液性を有するのが好ましい。また、本発明の好ましい態様によれば、溶媒は水系溶媒であるのが好ましく、さらに好ましくはpH緩衝液または生理食塩水である。水系溶媒の好ましい塩濃度は2M以下であり、体内投与における安全性の観点から200mM以下がより好ましい。本発明の溶液剤の形態の治療剤は分散体に対して、10mM以上含有されることが好ましい。尿路臓器腔内に一定の期間の持続還流、あるいは貯留することによって腎盂尿管、あるいは膀胱表面の広い範囲に接触し多発性の尿路上皮癌に対する治療が可能で、手術等の治療によって除去しきれない尿路上皮癌細胞に対しても作用し、再発防止の効果を期待できる。尿路臓器腔内の癌細胞に取り込まれなかった溶液剤は、排尿とともに対外へ除去することができる。
【0023】
水溶性あるいは水膨潤性高分子としては、ゼラチン、セルロース誘導体、アクリル酸誘導体、ポビドン、マクロゴール、ポリアミノ酸誘導体、または多糖体類が好ましく、ゼラチン類では精製ゼラチンが好ましく、セルロース誘導体では、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2208、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2906、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースナトリウム、アクリル酸誘導体として、アミノアクリルメタアクリレートコポリマー、メタアクリル酸コポリマー、ポリアミノ酸誘導体としては、ポリリジン、ポリグルタミン酸が好ましい。多糖体としては、ヒアルロン酸、デキストラン、またはデキストリンが特に好ましい。水溶性あるいは水膨潤性高分子の添加量は、D-アロース、その誘導体、あるいはその薬理的に許容される塩の性質、量、並びに水溶性あるいは水膨潤性高分子の性質、分子量、適用部位によって異なるが、おおむね製剤全量に対し、0.01%~10%の範囲で使用可能である。
【0024】
pH調整剤には、人体に無害な酸あるいはアルカリが用いられ、界面活性剤には、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、両性界面活性剤が用いられる。また、浸透圧調整剤には、塩化ナトリウム、ブドウ糖等が、防腐剤にはパラベン類が、保存剤にはアスコルビン酸や亜硫酸塩類が例示される。これらの使用量は、特に限定はないが、その作用がそれぞれ発揮できる範囲で用いることができる。また、必要に応じ塩酸プロカイン等の局所麻酔剤、ベンジルアルコール等の無痛化剤、キレート剤、緩衝剤、あるいは水溶性有機溶剤等を加えてもよい。
【0025】
本発明の「薬物」、「抗癌剤」は、治療のために癌または前癌状態の組織に投与されるもので、例えば、放射性同位体(例えば、ヨウ素-131、ルテチウム-177、レニウム-188、イットリウム-90)、毒素(例えば、ジフテリア、シュードモナス、リシン、ゲロニン)、酵素、プロドラッグを活性化する酵素、放射線増感剤、干渉RNA、スーパー抗原、抗血管新生剤、アルキル化剤、プリンアンタゴニスト、ピリミジンアンタゴニスト、植物アルカロイド、インターカレート抗生物質、アロマターゼ阻害剤、代謝拮抗物質、有糸分裂阻害剤、増殖因子阻害剤、細胞周期阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤、生物学的応答改変因子、抗ホルモンおよび抗アンドロゲン等が挙げられる。
【0026】
薬物は、D-アロースに会合(例えば、結合、相互作用)させて用いる。会合は、共有結合的であってもよいし、非共有結合的であってもよい。D-アロースと薬物の会合は、尿路上皮癌細胞への取り込みの前またはその間に解離しない十分な強さが必要であり、当業者に公知の任意の化学的、生化学的、酵素的カップリングを使用し得る。
【0027】
D-アロースと薬物の会合が非共有結合的である場合には、疎水性相互作用、静電的相互作用、双極子相互作用、ファンデルワールス相互作用、および水素結合が挙げられ、D-アロースと薬物の会合が共有結合的である場合には、直接的またはリンカーを介して間接的に結合される。このような共有結合は、アミド、エステル、炭素-炭素、ジスルフィド、カルバメート、エーテル、チオエーテル、尿素、アミン、もしくはカーボネート結合を介して達成される。
【0028】
医薬成分として用いるために必要なD-アロースの安全性の検証については、希少糖は微量ながらも自然界に存在する単糖であるので、安全であると予想できる。変異原性、生分解度試験および3種類の急性毒性試験(経口急性毒性試験、皮膚一次刺激試験、眼一次刺激試験)が最も基本的な安全性試験として定められており、発明者らは、D-アロースの基本的な部分の安全性試験を指定機関に依頼して実施し、その結果、その安全性において問題がないことが確認されている。
【0029】
本発明の治療用組成物の対象は、ヒトを含む動物(ヒト、ウシ、ブタ、イヌ、ネコ等の哺乳類、ニワトリ等の鳥類等)である。また、本発明の治療用組成物が標的とする癌細胞は尿路上皮癌細胞であり、細胞株としては、尿路上皮癌細胞株(RT112、253J、J82)が挙げられる。
【実施例
【0030】
次に、実施例によって本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0031】
(実施例)
[ヒト尿路上皮癌細胞株を対象とした希少糖の抗腫瘍効果の解析]
3種類のヒト尿路上皮癌細胞株(RT112、253J、J82)を使用して希少糖の抗腫瘍効果を解析した。希少糖として、L-アルロース、D-アルロース、D-アロース、L-フラクトース、D-マンノース、L-ソルボース、D-タガトース、D-ガラクトース、D-ソルボースおよびL-タガトースの10種類を用い、希少糖でない単糖として、D-グルコースとD-フラクトースを用いた。
【0032】
[使用培地]
培地には、D-グルコースを1000mg/l含む最小必須培地(MEM)を用い、各単糖、あるいは各希少糖が10mM、25mM、50mM含まれるように調整したMEM〔図中、(10)、(25)、(50)で示す。〕で希少糖の抗腫瘍効果を評価した。尚、コントロールではMEMに糖を添加しなかった。
【0033】
[実験手順]
MEMで、各々5.0×10cells/mlの細胞懸濁液を作製し、96wellプレートに0.1ml/wellずつ分配したのち、24時間培養した。その後に培養液を除去し、MEMに10mM、25mM、50mMの各単糖、あるいは各希少糖を含む培養液を0.1ml/wellずつ添加し24時間培養した(#1~#13)。
#1:MEM溶液単独(図中、Control)
#2:D-グルコース溶液(図中、D-Glucose)
#3:L-アルロース溶液(図中、L-Allulose)
#4:D-アルロース溶液(図中、D-Allulose)
#5:D-フラクトース溶液(図中、D-Fructose)
#6:D-アロース溶液(図中、D-Allose)
#7:L-フラクトース溶液(図中、L-Fructose)
#8:D-マンノース溶液(図中、D-Mannose)
#9:L-ソルボース溶液(図中、L-Sorbose)
#10:D-タガトース溶液(図中、D-Tagatose)
#11:D-ガラクトース溶液(図中、D-Galactose)
#12:D-ソルボース溶液(図中、D-Sorbose)
#13:L-タガトース溶液(図中、L-Tagatose)
【0034】
[細胞生存アッセイ(MTTアッセイ)]
MTTアッセイは、生存を測定する検査法の一つで、テトラゾリウム塩であるMTTの還元に伴う不溶性ホルマザン色素(青色)の呈色反応を利用している。MTTの還元は,ミトコンドリアの還元酵素であるsuccinate-tetrazolium
reductaseによって起こる。生細胞ではこの酵素活性が高く、呈色が認められるが,アポトーシスを含め細胞死が起こると呈色がなくなる。この呈色をマイクロプレートリーダーで測定することによって細胞の生存率を測定する。
【0035】
[細胞生存アッセイの結果]
希少糖との共培養によるヒト尿路上皮癌細胞の生存率の変化を図1から図3に示す。すなわち、図1に尿路上皮癌細胞株(RT112)の生存アッセイの結果を、図2に尿路上皮癌細胞株(253J)の生存アッセイの結果を、図3に尿路上皮癌細胞株(J82)の生存アッセイの結果を示す。図1から図3に示すように、すべての細胞株において、D-アロースは10mM、25mM、50mMのすべての濃度で、生存率をコントロールと比較して有意に低下させ(p<0.05)、解析した糖のなかで最も強い抗腫瘍効果を発揮した。
【0036】
[考察]
癌細胞ではミトコンドリアでのATP産生が抑制されている。癌細胞では酸素を使わないでブドウ糖(グルコース)からATPを産生する「解糖」という代謝系が亢進している。解糖は細胞質で行われる。癌細胞がミトコンドリアでの酸素呼吸を抑制する理由が幾つかある。
一つは、細胞構成成分を合成する材料として多量のブドウ糖が必要になっているためである。細胞が分裂して数を増やすためには核酸や細胞膜やタンパク質などの細胞構成成分を新たに作る必要がある。細胞は、解糖系やその経路から派生する様々な細胞内代謝経路によってブドウ糖から核酸や脂質やアミノ酸を作ることができる。ミトコンドリアで酸素を使ってブドウ糖を全てATP産生に使うと細胞を作る材料が無くなる。
また、ミトコンドリアでの酸素呼吸は活性酸素の産生を増やす。活性酸素は細胞にダメージを与え、増殖や転移を抑制し、細胞死を引き起こす原因になる。癌細胞は活性酸素の産生を増やさないように、ミトコンドリアでの酸素の利用を抑制していると考えられている。癌細胞にとっては、ミトコンドリアでの酸素を使った代謝を抑えておく方が生存や増殖に都合が良い。
癌細胞の場合、癌細胞のミトコンドリアの活性を高めると、増殖や転移が抑制され、細胞死が引き起こされることが分かっている。それは、ブドウ糖が完全に分解されると細胞を増やすための材料が足りなくなり、酸素呼吸の亢進は活性酸素の産生を増やし、活性酸素によるダメージで癌細胞が自滅するからである。つまり、細胞のミトコンドリアを活性化する治療法は、正常細胞の働きを高めながら、癌細胞だけを死滅できる。D-アロースについては、10mMからすべてのヒト尿路上皮癌細胞の生存率が低下しており、抗腫瘍効果を発揮したことが窺われる。
[本発明のまとめ]
本発明は、以下の(1)ないし(21)の尿路臓器腔内注入用溶液に関する。
(1)D-アロースを含有する、尿路臓器腔内注入用溶液。
(2)D-アロースが、D-アロースおよび/またはその誘導体および/またはその混合物である、上記(1)に記載の溶液。
(3)前記D-アロースの誘導体が、D-アロースのカルボニル基がアルコール基となった糖アルコール、D-アロースのアルコール基が酸化したウロン酸、D-アロースのアルコール基がNH 基で置換されたアミノ糖から選ばれるD-アロース誘導体である、上記(2)に記載の溶液。
(4)尿路臓器腔内が上部尿路内、および膀胱内である、上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の溶液。
(5)尿路臓器腔内注入療法用である、上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の溶液。
(6)D-アロースの尿路臓器の癌細胞への糖取り込み亢進を利用する、上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の溶液。
(7)D-アロースの有効量を含有する、上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の溶液。
(8)尿路臓器腔内注入により尿路臓器腔に注入される、上記(5)ないし(7)のいずれかに記載の溶液。
(9)D-アロースが医薬として許容し得る希釈剤または担体と一緒に含有する、上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の溶液。
(10)1種以上の抗増殖薬と一緒に含有する、上記(1)ないし(9)のいずれかに記載の溶液。
(11)D-アロースが尿路臓器の癌細胞への取り込みを増大させるための薬物に会合している、上記(1)ないし(10)のいずれかに記載の溶液。
(12)前記薬物が抗癌剤を含む、上記(11)に記載の溶液。
(13)D-アロースと前記薬物が、直接的にまたはリンカーを介して共有結合により会合している、上記(11)または(12)に記載の溶液。
(14)前記薬物が、放射性同位体、酵素、プロドラッグ活性化酵素、放射線増感剤、iRNA、アルキル化剤、プリンアンタゴニスト、ピリミジンアンタゴニスト、植物アルカロイド、インターカレート抗生物質、代謝拮抗物質、アロマターゼ阻害剤、有糸分裂阻害剤、増殖因子阻害剤、細胞周期阻害剤、またはトポイソメラーゼ阻害剤である、上記(11)ないし(13)のいずれかに記載の溶液。
(15)前記抗増殖薬の少なくとも1種が、アントラサイクリンである、上記(10)に記載の溶液。
(16)前記アントラサイクリンが、ドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、アクラルビシン、イダルビシン、ピラルビシン、アナマイシン、メトキシモルホリノドキソルビシン、シアノモルホリニルドキソルビシン、バルルビシン(N-トリフルオロアセチルアドリアマイシン-14-吉草酸塩)及びミトキサントロンからなる群から選択される、上記(15)に記載の溶液。
(17)前記アントラサイクリンが、バルルビシン、ドキソルビシン及びエピルビシンからなる群から選択される、上記(15)に記載の溶液。
(18)前記アントラサイクリンが、エピルビシンである、上記(15)に記載の溶液。
(19)前記尿路臓器の癌が、筋層非浸潤性尿路上皮癌である、上記(6)ないし(18)のいずれかに記載の溶液。
(20)前記尿路臓器の癌が、腎盂癌、尿管癌、膀胱癌、または尿道癌である、上記(6)ないし(19)のいずれかに記載の溶液。
(21)尿路臓器の癌の予防または治療のための医薬組成物である、上記(1)ないし(20)のいずれかに記載の溶液。
また、本発明は、以下の(22)のキットに関する。
(22)尿路臓器の癌の予防または治療が必要な患者に、医薬組成物を尿路臓器腔内へ注入し、これにより該患者における尿路臓器の癌を予防または治療することを指示する添付文書と共に、上記(21)に記載の医薬組成物である溶液を含む、キット。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の研究成果は、D-アロースの尿路上皮癌細胞に対する抗腫瘍効果を複数のヒト尿路上皮癌細胞株を用いたin-vitro実験で初めて証明したもので、D-アロースが将来尿路上皮癌治療のKey Drugとなる可能性を示唆する成果である。一方、尿路臓器腔内への注入療法は、薬剤を癌細胞に直接暴露できる臓器特異的なメリットを有しているほか、既存薬剤を用いた注入療法は未だ満足できる治療アウトカムを得ていない。加えて、治療対象とする筋層非浸潤性尿路上皮癌患者は非常に多いことより、D-アロースを用いた腎盂尿管注入療法、あるいは膀胱注入療法は、抗腫瘍効果を有するD-アロースを尿路上皮癌細胞に直接暴露させるとの画期的なアイデアを元に提案される新規治療法であることも含めて、社会的に大きなインパクトと近い将来の臨床応用が強く期待される新規治療法である。


図1
図2
図3