(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】機能性織編物
(51)【国際特許分類】
D06M 15/27 20060101AFI20240105BHJP
D06M 14/14 20060101ALI20240105BHJP
D06M 101/32 20060101ALN20240105BHJP
【FI】
D06M15/27
D06M14/14
D06M101:32
(21)【出願番号】P 2019202416
(22)【出願日】2019-11-07
【審査請求日】2022-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】592197315
【氏名又は名称】ユニチカトレーディング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000119472
【氏名又は名称】一丸ファルコス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391003912
【氏名又は名称】コンビ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】樋口 眞矢
(72)【発明者】
【氏名】高月 珠里
(72)【発明者】
【氏名】吉田 耕二
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-300770(JP,A)
【文献】特開2017-101006(JP,A)
【文献】国際公開第2018/155660(WO,A1)
【文献】特開2005-194663(JP,A)
【文献】国際公開第2004/025016(WO,A1)
【文献】特開2004-084154(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00 - 15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維にて構成された織編物において、織編物の少なくとも一方の表面に露出する繊維表面に、下記一般式(1)に示すビニル系化合物が重合したビニル系ポリマーからなる被膜が付着されてなり、かつ被膜中に乳酸菌を含有することを特徴とする機能性織編物。
【化1】
[一般式(1)中、R
1及びR
2は同一又は異なる水素原子又はメチル基を示し、R
3は炭素数2~5のアルキレン基を示し、nは10以上の整数を示す。]
【請求項2】
乳酸菌が、
エンテロコッカス属の乳酸菌の死菌体である、請求項1記載の機能性織編物。
【請求項3】
織編物を構成する繊維に熱可塑性樹脂からなる繊維を含む、請求項1又は2に記載の機能性織編物。
【請求項4】
熱可塑性樹脂からなる繊維が、ポリエステル系フィラメントである、請求項3に記載の機能性織編物。
【請求項5】
上記一般式(1)に示すビニル系化合物が重合したビニル系ポリマーからなる被膜の付着量が0.5~12質量%である、請求項1~4のいずれかに記載の機能性織編物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の機能性織編物の製造方法であって、織物又は編物の少なくとも一方の表面を、上記一般式(1)に示すビニル系化合物、重合開始剤及び乳酸菌を含有する処理液に浸漬させ、ラジカル重合反応を行う、機能性織編物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一方の表面に、乳酸菌を含有するビニル系ポリマーからなる被膜が付着されてなる機能性織編物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人間の肌においては、肌表面にあるわずか0.02mmの角質層がうるおいを蓄え、乾燥と外部刺激から肌を守るバリア機能を有している。このバリア機能が低下すると、敏感肌や乾燥肌となり、肌トラブルの原因となる。皮膚のバリア機能を正常に保つためには、肌のpHを弱酸性に保つことが重要である。
衣服は人間の肌と密着することから、衣服も弱酸性のpHを保つ機能を有していると肌トラブルを防ぐことが可能である。
このような観点から、弱酸性のpHを保つ機能を有する布帛が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1に記載されたpH緩衝性布帛は、繊維布帛の表面に、特定の粒子径を有する無機化合物がバインダーを介して固定化されているものであり、湿潤時にpH5~7を示すものである。
【0003】
しかしながら、特許文献1記載のpH緩衝性布帛は、無機化合物を用い、かつバインダーを介して固定化されているものであるため、耐洗濯性に劣るものであり、pH緩衝性能の耐久性に劣るものであった。
【0004】
また、特許文献2には、繊維表面に乳酸菌がバインダーで定着された繊維製品が記載されている。特許文献2に記載された繊維製品は、汗、汚れ等が付着した時に、それを餌とする腐敗菌や病原菌が増殖するのを抑制し、それらの菌が分泌する有害物質やそれに起因する悪臭を長期に亘って防止することができるものである。この繊維製品はpH緩衝性能を有することは記載されていないが、乳酸菌の活動によるpHの低下により、腐敗菌の育成や増殖を抑えることができることが記載されている。
しかしながら、この繊維製品においても、乳酸菌をシリコン系やウレタン系のバインダーで定着させたものであるため、洗濯を繰り返すと繊維製品から乳酸菌が脱落しやすく、耐洗濯性に劣るものであった。
【0005】
一方、近年、特に高齢化が進む社会情勢において、介護医療分野では、安全、衛生面から作業衣のクリーン化について多くの検討がなされており、作業衣の素材には、工業洗濯耐久性に優れた各種の機能を有していることが要望されている。
【0006】
各種の機能としては、制電性や吸水拡散性が要望されている。また、工業洗濯を繰り返すことにより、使用する洗剤によって、作業衣がアルカリ性や酸性に偏ることから、pH調整機能も要望されている。
しかしながら、制電性、吸水性拡散性、pH調整機能の全てにおいて工業洗濯に耐えうる優れた性能を有する繊維製品は未だ提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2002-69838号公報
【文献】特開2002-161481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような問題点を解決するものであり、制電性、吸水拡散性、pH調整機能の全てにおいて工業洗濯に耐えうる優れた性能を有する織編物を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、織物又は編物の少なくとも一方の表面に、下記一般式(1)に示すビニル系化合物と乳酸菌を存在させて、ラジカル重合反応をさせることで、繊維表面に、乳酸菌を含有する下記一般式(1)に示すビニル系化合物が重合したビニル系ポリマーからなる被膜を付着させることにより、工業洗濯耐久性に優れた制電性、吸水拡散性、pH調整機能を有する織編物となることを見出し、本発明に到達したものである。
【0010】
すなわち、本発明は、以下を要旨とするものである。
(イ)繊維にて構成された織編物において、織編物の少なくとも一方の表面に露出する繊維表面に、下記一般式(1)に示すビニル系化合物が重合したビニル系ポリマーからなる被膜が付着されてなり、かつ被膜中に乳酸菌を含有することを特徴とする機能性織編物。
【化1】
[一般式(1)中、R
1及びR
2は同一又は異なる水素原子又はメチル基を示し、R
3は炭素数2~5のアルキレン基を示し、nは10以上の整数を示す。]
(ロ)乳酸菌が、
エンテロコッカス属の乳酸菌の死菌体である、(イ)記載の機能性織編物。
(ハ)織編物を構成する繊維に熱可塑性樹脂からなる繊維を含む、(イ)又は(ロ)に記載の機能性織編物。
(ニ)熱可塑性樹脂からなる繊維が、ポリエステル系フィラメントである、(ハ)に記載の機能性織編物。
(ホ)上記一般式(1)に示すビニル系化合物が重合したビニル系ポリマーからなる被膜の付着量が0.5~12質量%である、(イ)~(ニ)のいずれかに記載の機能性織編物。
(ヘ)(イ)~(ホ)いずれかに記載の機能性織編物の製造方法であって、織物又は編物の少なくとも一方の表面を、上記一般式(1)に示すビニル系化合物、重合開始剤及び乳酸菌を含有する処理液に浸漬させ、ラジカル重合反応を行う、機能性織編物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の機能性織編物は、制電性、吸水拡散性、pH調整機能を有しており、かつ、これらの性能は、工業洗濯に耐えうる優れた耐久性を有している。このため、本発明の機能性織編物は、工業洗濯を行う必要がある各種の作業衣用途に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の機能性織編物について詳述する。
本発明の機能性織編物(以下、織編物と略することがある)は、繊維にて構成されているものであり、繊維としては、天然繊維、再生繊維、合成繊維のいずれであってもよい。
天然繊維としては、例えば、綿、麻等のセルロース繊維、羊毛、アンゴラ、カシミヤ、モヘア、アルパカ、絹等の動物繊維が挙げられる。再生繊維としては、例えば、ビスコースレーヨン、キュプラ、リヨセル、モダール、ポリノジック等のセルロース繊維が挙げられる。合成繊維としては、例えば、アセテート等の半合成繊維や、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、アクリル系繊維、ポリウレタン系繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリ乳酸から得られる繊維等のポリエステル系繊維が挙げられる。
【0013】
中でも本発明の織編物を構成する繊維としては、ポリエステル系繊維を用いることが好ましく、ポリエステル系繊維としては、ポリエチレンテレフタレートを主体とする繊維が挙げられ、具体的には、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンテレフタレートの酸成分又はグリコール成分の一部に共重合成分を用いた、共重合ポリエステル系繊維が挙げられる。
【0014】
本発明の織編物を構成する繊維の単繊維繊度については、ハリコシ感や風合いを考慮すると、0.1~10.0dtexであることが好ましく、中でも0.3~8.0dtex、さらには、0.5~6.0dtexであることが好ましい。
【0015】
また、繊維の総繊度については、風合いや強度を考慮すると、30~350dtexであることが好ましく、中でも50~250dtex、さらには、70~180dtexであることが好ましい。
【0016】
繊維の断面形状については、特に制限されず、円形断面又は異形断面のいずれであってもよい。また、合成繊維においては、付与すべき特性等に応じて、二酸化チタン、二酸化ケイ素、顔料等が含まれていてもよい。
【0017】
本発明の織編物は、構成繊維としてポリエステル系繊維を用いることが好ましいが、ポリエステル系繊維以外の他の繊維が構成繊維として含まれていてもよい。このような他の繊維としては、上記したような天然繊維、再生繊維、合成繊維を用いることができる。
中でも本発明の織編物の構成繊維として、ポリエステル系繊維を50質量%以上含有することが好ましく、中でも70質量%以上、さらには80質量%以上含有することが好ましい。
【0018】
本発明の織編物が織物である場合、その組織については、特に制限されないが、例えば、平、綾、朱子及びこれらの変化組織等が挙げられる。織密度については、当該織物の用途等に応じて適宜設定すればよいが、経糸密度は30~250本/2.54cmであることが好ましく、中でも50~200本/2.54cm、さらには、60~150本/2.54cmであることが好ましい。また、緯糸密度は30~250本/2.54cmであることが好ましく、中でも50~200本/2.54cm、さらには、55~150本/2.54cmであることが好ましい。
【0019】
また、本発明の織編物が編物である場合、その組織については、特に限定されず、経編物又は緯編物のいずれであってもよい。経編物としては、例えば、デンビー編、コード編、アトラス編等が挙げられ、具体的にはトリコットハーフ、トリコットサテン等が挙げられる。また、緯編物としては、例えば、平編、ゴム編、パール編、スムース編等が挙げられ、具体的には、天竺、鹿の子、スムース等が挙げられる。編密度については、当該編物の用途等に応じて適宜設定すればよいが、40~100コース/2.54cmであることが好ましく、中でも50~80コース/2.54cmであることが好ましく、且つ30~80ウェール/2.54cmであることが好ましく、中でも40~ 60ウェール/2.54cmであることが好ましい。
【0020】
本発明の機能性織編物は、構成繊維の表面に、下記一般式(1)に示すビニル系化合物が重合したビニル系ポリマーからなる被膜が付着している。このように、特定構造のビニル系ポリマーで織編物を構成する繊維の表面が被覆されていることによって、工業洗濯にも耐えうる、優れた制電性と吸水拡散性を有する織編物となる。
【化2】
[一般式(1)中、R
1及びR
2は同一又は異なる水素原子又はメチル基を示し、R
3は炭素数2~5のアルキレン基を示し、nは10以上の整数を示す。]
【0021】
一般式(1)において、R1及びR2は同一又は異なる水素原子又はメチル基である。R1及びR2として、好ましくはメチル基が挙げられる。
【0022】
一般式(1)において、R3は炭素数2~5のアルキレン基である。R3として、好ましくは炭素数2又は3のアルキレン基(即ち、メチレン基又はプロピレン基)、さらに好ましくは炭素数2アルキレン基(即ち、メチレン基)が挙げられる。R3のアルキレン基は、炭素数が3~5の場合には、直鎖状又は分岐状のいずれであってもよい。
【0023】
一般式(1)において、nは10以上の整数であり、中でも12~30の整数であることが好ましい。このように、本発明において、アルキレンオキサイドの付加モル数が大きいビニル系化合物が重合したビニル系ポリマーを使用することによって、上記したような耐洗濯性に優れた制電性と吸水拡散性を得ることができる。
【0024】
一般式(1)に示すビニル系化合物として、中でも好ましいものはnが14~23のメチル基を持つポリエチレンジメタクリレートである。
また、一般式(1)に示すビニル系化合物は、重量平均分子量が600~1000であるものが好ましい。
【0025】
さらに、本発明の織編物は、前記した被膜中に乳酸菌を含むものである。本発明の織編物は、特定のビニル系ポリマー中に乳酸菌が含まれることによって、織編物にpH調整機能を発現させることができる。
本発明で用いる乳酸菌としては、エンテロコッカス属(Enterococcus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、ラクトバシルス属(Lactobacillus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、及び、ラクトコッカス属(Lactococcus)に属する乳酸菌を用いることができるが、中でもエンテロコッカス属の乳酸菌であることが好ましい。
【0026】
そして、エンテロコッカス属の乳酸菌としては、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコツカス・フェシウム(Enterococcus faecium)等が挙げられる。ビフィドバクテリウム属に属する細菌としては、例えば、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・プレーべ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)等が挙げられる。ラクトバシルス属に属する細菌としては、ラクトバシルス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバシルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバシルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)等が挙げられる。また、ストレプトコッカス属に属する細菌としては、例えば、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)等が挙げられる。ラクトコッカス属に属する細菌としては、例えば、ラクトコッカス・クレモリス(Lactococcus cremoris)、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)等が挙げられる。
【0027】
本発明で用いる乳酸菌の好ましい態様は、乳酸球菌であり、中でも、エンテロコッカス属に属する菌である。最も好ましくは、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)である。
【0028】
エンテロコッカス・フェカリスとしては、例えば、エンテロコッカス・フェカリス・E
C-12株、ATCC 19433、ATCC 14508、ATCC 23655、I
FO 16803、IFO 16804等の菌株またはその変異株が例示できる。有効成
分として用いられる細菌としては、このうち、前記EC-12株が最も好ましい。
なおここで「変異株」とは、特定の菌株に対し、当業者に周知の方法により当業者がそ
の性質に変化を及ぼさない範囲で変異させたもの、あるいは、それと同等であると当業者
が確認できるものを包含する意味である。
【0029】
さらには、乳酸球菌の加熱処理死菌体であることが好ましく、エンテロコッカス・フェカリスの加熱処理死菌体であることが好ましく、エンテロコッカス・フェカリス EC-12の死菌体であることが最も好ましい。
このようなエンテロコッカス・フェカリス Enterococcus faecalis EC-12(受託番号FERM BP-10284)の死菌体としては、一丸ファルコス社製の製品名「ラ・フローラEC-12」を用いることができる。
【0030】
本発明の織編物において、繊維表面に前記の乳酸菌を含有する下記一般式(1)に示すビニル系化合物が重合したビニル系ポリマーからなる被膜を付着させるには、後述する本発明の製造方法を採用することが好ましい。つまり、繊維にて構成された織編物の表面に、一般式(1)に示すビニル系化合物、重合開始剤、乳酸菌を存在させ、重合反応させることにより、繊維表面に乳酸菌を含有するビニル系ポリマーからなる被膜を付着させる。このような方法で製造することにより、本発明の織編物においては、繊維の表面に前記ビニル系ポリマーが化学的に結合している態様が含まれていると想定され、この化学的な結合の中に乳酸菌が組み込まれていると想定される。このため、本発明の織編物は、特定のビニル系ポリマーが化学的に結合した付着態様により、優れた耐洗濯性を有する制電性と吸水拡散性が発現し、かつ、ビニル系ポリマーからの乳酸菌の脱落も抑えられ、優れた耐洗濯性を有するpH調整機能も発現するものである。
【0031】
本発明の織編物におけるビニル系ポリマーからなる被膜の付着量については、0.5~12質量%であることが好ましく、中でも1~10質量%であることが好ましい。
ここで、ビニル系ポリマーの付着量は、ビニル系ポリマー付着前の織物または編物100質量%に対して付着しているビニル系ポリマーの割合であり、下記式に従って求められる値である。
ビニル系ポリマーの付着量(質量%)={(W1-W0)/W0}×100
W0:機能性織編物の製造に使用した織物または編物の単位面積当たりの質量
W1:得られた機能性織編物の単位面積当たりの質量
【0032】
また、本発明の織編物において、織編物を構成する繊維の表面には、必要に応じて、前記ビニル系ポリマー以外の樹脂や架橋剤が付着していてもよい。このような樹脂や架橋剤としては、例えば、メラミン系樹脂、グリオキサール系樹脂、エポキシ系樹脂等の反応性官能基を有する樹脂、イミン系架橋剤等の架橋剤が挙げられる。
【0033】
次に、本発明の機能性織編物が有する特性値について述べる。本発明の織編物は、制電性、吸水拡散性、pH調整機能に優れるものであり、これらの特性について以下に説明する。
まず、本発明の織編物は、工業洗濯耐久性に優れた制電性を有している。具体的には、以下の方法で行う工業洗濯後に測定する摩擦帯電圧が2000V以下であり、中でも1000V以下であることが好ましく、さらには、800V以下であることが好ましく、100~600Vであることが最も好ましい。
【0034】
織編物の摩擦帯電圧が2000Vを超えると、衣服等の製品にした場合に、衣服のまとわりつきが発生したり、「バチッ」という音と共に放電して痛みを感じる等、不快感を与える原因となる。また、石油化学工場やガソリンスタンド等で静電気を帯びたまま作業をすると引火や爆発の危険性があり、精密機器を扱う工場等では静電気による機器の破損やクリーンルームの汚染が発生する可能性がある。
【0035】
工業洗濯の方法は以下のとおりである。
JIS L 1096:2010に規定のF-2法(中温ワッシャ法)において、洗濯・乾燥操作(1サイクル)を「温度60℃、時間300分の条件で1回洗濯した後、湯洗を温度40℃、時間50分と温度40℃、時間100分の条件で2回行った後に、タンブル乾燥機にて温度60℃、30分の条件で乾燥する」条件に変更し、当該洗濯・乾燥操作を合計5サイクル行う。なお、洗濯に使用する洗剤は不動化学社製「シャレタせっけんピュアー100」を1g/L使用する。
【0036】
上記の工業洗濯を行った織物又は編物の摩擦帯電圧を測定するにあたっては、JIS L 1094:2014の「織物及び編物の帯電性試験方法」に規定されているB法(摩擦帯電圧測定法)に準拠し、20℃、40%RH環境下での前記工業洗濯後の織物の摩擦帯電圧を測定する。
【0037】
次に、本発明の織編物は、工業洗濯耐久性に優れた吸水拡散性を有している。具体的には、上記の摩擦帯電圧を測定する際と同様の工業洗濯を行い、洗濯後に測定する吸水拡散面積が400mm2以上であり、中でも600mm2以上であることが好ましい。吸水拡散面積が400mm2未満であると、衣服等の製品にした場合に、運動や作業等で発生する汗等の水分蒸発時間が長くなり、体へのまとわりつきによる不快感を与えるものとなる。なお、吸水拡散面積の上限としては、1500mm2であることが好ましい。
【0038】
工業洗濯を行った織物又は編物の吸水拡散面積を測定するにあたっては、工業洗濯後の織物又は編物から、縦20cm×横20cmの試験片を作成する。試験片にJIS L-1907:2010 の「7.1吸水速度法」の「7.1.1滴下法」に規定されている操作を行って、水を40μL滴下する。水を滴下してから60秒後に試験片で水が拡散している領域の面積を測定し、これを吸水拡散面積として求める。
【0039】
さらに、本発明の織編物は、工業洗濯耐久性に優れたpH調整機能を有している。具体的には、上記の摩擦帯電圧を測定する際と同様の工業洗濯を行い、洗濯後に測定する織物又は編物のpHが4.5~8.0であり、中でもpH5.0~7.0であることが好ましい。つまり、本発明の織編物は工業洗濯を繰り返した後においても、肌に優しい弱酸性のpHを有するものである。
なお、工業洗濯後の織物又は編物のpHは、堀場製作所社製コンパクトPHメータ「LAQUAtwinPH」を用いて測定する。
【0040】
そして、本発明の織編物は、工業洗濯後であってもpH調整機能を有しており、繰り返し工業洗濯を行った後であっても、汗、汚れ等が付着した際の腐敗菌や病原菌の増殖を抑制し、肌に優しい弱酸性のpHを保つことが可能である。本発明の織編物が有するpH調整機能について説明する。
<pH調整機能>
前記工業洗濯後の織物又は編物から、縦5cm×横5cmの試験片を作成し、試験片に、下記の酸性とアルカリ性のpH呈色用指示液を用いた場合に、酸性、アルカリ性ともに下記に示す呈色反応を示すことにより、pH調整機能の有無を評価する。
(酸性の呈色反応)
JIS L0848 汗堅牢度に使用の人工酸汗液にコンゴーレッド5gを加え呈色液を作製後、酢酸を用い、pH3.0に調整した呈色用指示液を試験片表面に40μL滴下し、10分後、試験片表面の色が紫からピンクへ変色する。
(アルカリ性の呈色反応)
JIS L0848 汗堅牢度に使用の人工アルカリ汗液にBTB(ブロムチモールブルー)0.1gを加え呈色液を作製後、NaOH(苛性ソーダ)を用い、pH8に調整した呈色用指示液を試験片表面に40μL滴下し、10分後、試験片表面の色が青から黄へ変色する。
【0041】
次に、本発明の織編物の製造方法について説明する。
織物又は編物の少なくとも一方の表面を、上記一般式(1)に示すビニル系化合物、重合開始剤及び乳酸菌を含有する処理液に浸漬させ、ラジカル重合反応を行うものである。
織物又は編物としては、上記一般式(1)に示すビニル系化合物と接触させる前に、公知の精練処理や染色処理等の加工に供したものを用いてもよい。
【0042】
前記処理液としては、前記一般式(1)に示すビニル系化合物を分散又は溶解させた水溶液が挙げられる。前記処理液における前記一般式(1)に示すビニル系化合物の濃度については、付着させるビニル系ポリマーの量、ラジカル重合の条件等に応じて適宜設定すればよいが、5~100g/Lであることが好ましく、中でも8~90g/Lであることが好ましい。
【0043】
また、前記処理液には、前記一般式(1)に示すビニル系化合物のラジカル重合を促進させるために、重合開始剤が含まれている。重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過酸化カリウム、過酸化水素、ベンゾイルパーオキシド、アゾビスイソブチロニトリル、t-ブチルパーオキシド等が挙げられる。これらの重合開始剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。前記処理液における重合開始剤の濃度については、特に制限されず、使用する重合開始剤の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.2~5g/L、好ましくは0.3~4g/Lが挙げられる。
【0044】
さらに、前記処理液には、pH調整機能を付与する目的で、乳酸菌が含まれている。乳酸菌の種類としては、前記したものを使用することができる。そして、前記処理液における乳酸菌の含有量としては、0.05~0.1g/Lであることが好ましい。
【0045】
織物又は編物に前記処理液を含浸させる量については、織物又は編物100質量部当たり、前記処理液を1~20質量部用いることが好ましく、中でも好ましくは3~10質量部、さらに好ましくは5~7質量部用いる。
【0046】
そして、織物又は編物に前記処理液を含浸させた後に、前記一般式(1)に示すビニル系化合物をラジカル重合させるが、ラジカル重合の手段としては、特に限定されないが、例えば、湿熱処理、吸尽処理、電子線処理、紫外線処理、マイクロ波処理等を行えばよい。ラジカル重合の条件については、上記の方法に応じて適宜選定すればよいが、例えば、湿熱処理の場合であれば、80~180℃のスチームの存在下で1~30分間処理することが好ましい。
【0047】
そして、ラジカル重合を行った後に、必要に応じて、洗浄処理及び乾燥処理を行うことが好ましい。洗浄処理としては、高速液流処理を行うことが好ましい。本発明における高速液流処理とは、高速で噴射されている洗浄液に織物又は編物を晒す洗浄処理である。
好適な高速液流処理として、高速で噴射されている洗浄液に織編物を通過させることに
よって液流洗浄する処理が挙げられる。以下、高速液流処理について説明する。
【0048】
高速液流処理は、通過している織編物に対して一方向から洗浄液を噴射してもよいが、液流染色等に使用されているフィラメントノズルやスパンノズル等を使用して、通過している織編物に対して全方向から洗浄液を噴射することが好ましい。
【0049】
高速液流処理において、高速で噴射されている洗浄液に対して、織編物を通過させる速度については、特に制限されないが、例えば、50~600m/分、好ましくは100~500m/分、さらに好ましくは200~400m/分が挙げられる。
【0050】
織編物に対する高速液流処理は、織編物の端部同士を繋いだロープ状にして、噴射され
ている洗浄液に織編物が繰り返し通過するように、ロープ状の織編物を循環させることに
よって行うことが望ましい。
【0051】
高速液流処理において、洗浄液の温度については、特に制限されないが、例えば、40
~100℃、好ましくは50~90℃、さらに好ましくは60~80℃が挙げられる。
【0052】
高速液流処理を行った後に、乾燥処理を行う際には、クリップ式テンター乾燥機やネットドライヤー式乾燥機等を用いて、温度100~150℃で、1~10分乾燥を行うことが好ましい。
【実施例】
【0053】
以下、実施例によって本発明を詳しく説明する。以下の実施例及び比較例における測定及び評価は下記の方法に従って行った。
【0054】
(1)ビニル系ポリマーからなる被膜の付着量
各織物について、以下の式に従って、表面処理剤の付着量(%)を求めた。
被膜の付着量(%)={(W1-W0)/W0}×100
W0:重合反応処理前の織物の単位面積当たりの質量
W1:得られた織物の単位面積当たりの質量
【0055】
(2)工業洗濯の手法
JIS L 1096:2010に規定のF-2法(中温ワッシャ法)に準じ、温度60℃、時間300分の条件で1回洗濯した後、湯洗を温度40℃、時間50分と温度40℃、時間100分の条件で2回行った後に、タンブル乾燥機にて温度60℃、30分の条件で乾燥した。これらの操作を1サイクルとして、合計5サイクル行った。
なお、洗濯に使用する洗剤は不動化学社製「シャレタせっけんピュアー100」を1g/L使用した。
【0056】
(3)制電性の評価
得られた織物の摩擦帯電圧を前記した測定方法に従って、20℃、40%RH環境下で測定した(洗濯前)。その後、(2)に示す工業洗濯の手法に従って工業洗濯を行い、前記した摩擦帯電圧の測定方法に従って、20℃、40%RH環境下で測定した(工業洗濯後)。
【0057】
(4)吸水拡散性の評価
得られた織物の吸水拡散面積を前記した測定方法に従って測定した(洗濯前)。その後、(2)に示す工業洗濯の手法に従って工業洗濯を行い、前記した吸水拡散面積の測定方法に従って測定した(工業洗濯後)。
【0058】
(5)織物のpH
得られた織物のpHを堀場製作所社製コンパクトPHメータ「LAQUAtwinPH」を用いて測定した(洗濯前)。その後、(2)に示す工業洗濯の手法に従って工業洗濯を行い、洗濯前と同様に、織物のpHを堀場製作所社製コンパクトPHメータ「LAQUAtwinPH」を用いて測定した。
(6)pH調整機能の評価
得られた織物と(2)に示す工業洗濯後の織物について、前記したpH調整機能の評価方法に従って、酸性とアルカリ性の呈色反応を評価した。呈色反応を示すものを○、呈色反応を示さないものを×とした。
【0059】
実施例1
経糸として、ポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント(167dtex/144f)を用い、緯糸としてポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント(334dtex/144f)を用いて、綾織物(経糸密度:102本/2.54cm、緯糸密度:68本/2.54cm、目付:170g/cm2)を製織した。この綾織物に対して通常の方法で精練し、テンター(市金工業社製)にて190℃で30秒間プレセットを行った。次いで、液流染色機(「サーキュラーMF」、日阪製作所製)を用いて、下記染色処方で、温度130℃、時間30分の条件で染色し、目付210g/m2の白色の綾織物を得た。
<染色処方>
・蛍光染料 1%o.m.f
・酢酸(48%) 0.2cc/l
・水 残部
なお、蛍光染料は、「Hakkol STR」(昭和化学工業社製)を使用した。
【0060】
次に、処方1に示す組成の分散液を用いて処方2に示す組成の水溶液を作成し、得られた綾織物を水溶液中に浸漬させた後、マングルで70質量%の絞り率で絞り、乾燥することなく、Jボックススチーマー(京都機械株社製)にて103℃の飽和蒸気処理を5分間行い、ビニル系化合物のラジカル重合を行った。
<処方1>
ラ・フローラEC-12(一丸ファルコス社製):1g/L
キサンタンガム(東京化成工業社製):20g/L
水:残部
<処方2>
処方1の分散液:30g/L
NKエステル14G(新中村化学工業社製、上記一般式(1)にて示すビニル系化合物、n=14、分子量736):30g/L
重合開始剤(過硫酸アンモニウム):0.5g/L
水:残部
【0061】
ラジカル重合終了後の綾織物に高速液流処理を行った。高速液流処理は、具体的には、液流染色機(「サーキュラーMF」、日阪製作所製)を用いて、洗浄液の噴射角度(織物の進行方向に対する洗浄水の噴射角度)が40°であるフィラメントノズル(ノズル径90mm、洗浄液を噴射する隙間4mm)を装着し、洗浄水として水を使用して、ノズル圧0.2Mpa、洗浄液の噴射時の流量1200l/分、布速300m/分、浴比1:10、温度60℃で5分間の条件で、織物(長さ(50m/反×6反=300m)をエンドレスのロープ状にして循環させることにより行った。
次いで、ドラム乾燥機にて120℃、2分間の条件で乾燥を行い、テンターにて170℃、1分間のセット(乾熱処理)を行い、実施例1の織物を得た。
【0062】
実施例2
表経糸として、ポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント(167dtex/48f)を用い、裏経糸としてポリエチレンテレフタレートからなる短繊維と綿短繊維の混紡紡績糸(質量比:ポリエステル短繊維/綿短繊維=65/35 混紡16番手単糸)を用い、緯糸としてポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント(334dtex/96f)を用いて、二重織綾織物(経糸密度:126本/2.54cm、緯糸密度:57本/2.54cm、目付:190g/cm2)を製織した。この綾織物に対して通常の方法で精練し、テンター(市金工業社製)にて190℃で30秒間プレセットを行った。次いで、液流染色機(「サーキュラーMF」、日阪製作所製)を用いて、実施例1と同様の染色処方で、温度130℃、時間30分の条件で染色し、目付230g/m2の白色の綾織物を得た。
次に、実施例1と同様の方法でビニル系化合物のラジカル重合、高速液流処理、乾燥処理を行い、実施例2の織物を得た。
【0063】
比較例1
実施例1の処方2の水溶液を、処方1の分散液を含有しない下記処方3の組成に変えた以外は、実施例1と同様に行い、比較例1の織物を得た。
<処方3>
NKエステル14G(新中村化学工業社製、上記一般式(1)にて示すビニル系化合物、n=14、分子量736):30g/L
重合開始剤(過硫酸アンモニウム):0.5g/L
水:残部
【0064】
比較例2
実施例1の処方2の水溶液を、下記処方4の組成(処方1の分散液を含有しない)に変更し、実施例1と同様の綾織物を水溶液中に浸漬させた後、マングルで70質量%の絞り率で絞り、次いで、ドラム乾燥機にて120℃、2分間の条件で乾燥を行い、テンターにて170℃、1分間のセット(乾熱処理)を行い、比較例2の織物を得た。
<処方4>
ラ・フローラEC-12(一丸ファルコス社製):1g/L
キサンタンガム(東京化成工業社製):20g/L
NKバインダーA12(新中村化学工業):20g/L
水:残部
【0065】
実施例1~2、比較例1~2の評価結果を表1にまとめて示す。
【0066】
【0067】
表1から明らかなように、実施例1、2の織編物においては、工業洗濯後においても、制電性、吸水拡散性に優れていた。さらに、工業洗濯後の織物のpHが特定の範囲のものであり、かつpH調整機能にも優れているものであった。
一方、比較例1の織物は、乳酸菌を含有しないものであったため、工業洗濯後の織物はpH調整機能を有していないものであった。
比較例2の織物は、特定のビニル系化合物が重合したビニル系ポリマーからなる被膜が付着したものではなかったため、制電性、吸水拡散性、pH調整機能のいずれにも劣るものであった。