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特許7412692抗菌性多孔質膜およびそれを用いた抗菌コーティング材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】抗菌性多孔質膜およびそれを用いた抗菌コーティング材
(51)【国際特許分類】
   A01N 37/08 20060101AFI20240105BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20240105BHJP
   A01N 61/00 20060101ALI20240105BHJP
   A01N 25/34 20060101ALI20240105BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20240105BHJP
   B01J 20/10 20060101ALI20240105BHJP
   B01J 20/18 20060101ALI20240105BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
A01N37/08
A01P3/00
A01N61/00 B
A01N25/34 Z
B32B9/00 A
B01J20/10 A
B01J20/18 A
B01J20/28 A
A01N25/34 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022528487
(86)(22)【出願日】2021-04-23
(86)【国際出願番号】 JP2021016405
(87)【国際公開番号】W WO2021246086
(87)【国際公開日】2021-12-09
【審査請求日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】P 2020098915
(32)【優先日】2020-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】715005239
【氏名又は名称】株式会社エナジーフロント
(73)【特許権者】
【識別番号】518239972
【氏名又は名称】品川ゼネラル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】509105857
【氏名又は名称】学校法人就実学園
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】上田 剛慈
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宗
(72)【発明者】
【氏名】関 政泰
(72)【発明者】
【氏名】塩田 澄子
(72)【発明者】
【氏名】山田 陽一
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/051013(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/119638(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108948993(CN,A)
【文献】特開昭60-237008(JP,A)
【文献】特開平03-134033(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N,A01P
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アロフェンと、
前記アロフェンに吸着されたアビエタン系ジテルペノイド化合物と、
を含み、
前記アビエタン系ジテルペノイド化合物は、アビエチン酸、デヒドロアビエチン酸及び
ネオアビエチン酸を含む、抗菌性多孔質膜。
【請求項2】
前記アロフェンに吸着された無機塩及び/又は金属イオンをさらに含む、請求項に記載の抗菌性多孔質膜。
【請求項3】
前記無機塩及び/又は金属イオンは、抗菌性を有する、請求項に記載の抗菌性多孔質膜。
【請求項4】
前記金属イオンは、プラチナイオン、銀イオン及び銅イオンのうち少なくとも一つを含む、請求項2又は3に記載の抗菌性多孔質膜。
【請求項5】
前記アビエタン系ジテルペノイド化合物は、保持物質を介することなく前記アロフェンに直接吸着される、請求項1乃至の何れか一項に記載の抗菌性多孔質膜。
【請求項6】
基材と、
前記基材上にコーティングされた請求項1乃至の何れか一項に記載の抗菌性多孔質膜と、
を含む抗菌コーティング材。
【請求項7】
前記基材が不織布であることを特徴とする請求項に記載の抗菌コーティング材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療や介護の現場や日常生活で用いられる用具や衣類や建材等に適用可能な抗菌性を有する多孔質膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療や介護の現場では殺菌・抗菌が重要な課題になっている。このため、医療や介護の現場で使用される備品には、加熱殺菌、アルコール系消毒薬、ヨード系消毒薬、次亜塩素酸系消毒薬、フェノール系消毒薬、及び界面活性剤系消毒薬による消毒、銀イオン系抗菌処理、紫外線照射、光触媒加工等が適用されている。これらの方法は使用環境や対象物質によって使い分けられている。
【0003】
人体や家具等に対しては、アルコールの噴霧や消毒薬を含む布による清拭のように、一時的にその表面に殺菌性能・抗菌性能を付与する方法が採用されることがある。手術用具やシーツ等は、専用のオートクレーブや殺菌ガス処理装置により滅菌処理される。
【0004】
衣類は、シーツ同様にオートクレーブや殺菌ガス処理装置によって滅菌処理が可能であるが、一般家庭や介護施設では漂白剤を用いた洗濯での殺菌が主流となっている。また、竹から作った繊維など天然素材の中には抗菌性を有する素材があり、このような天然素材は抗菌性の備品に利用されることがある。
【0005】
清拭や洗濯等に適さない対象には、素材自体に抗菌性能を持たせる工夫がなされている。例えば医療装具や消防用耐熱服など、洗濯頻度が低く形状が複雑な用具では、特許文献1および特許文献2に示される抗菌作用のある物質をバインダーで布に結合する方法が用いられている。同様に手すりやドアノブ等に対しては、銀を練りこんだプラスチックを材料として使用したり、抗菌剤を添加したフィルムを基材上にラミネートすることが行われている。
【0006】
このように病院等では殺菌剤や抗菌剤が多様な方法で頻繁に用いられるようになってきている。しかしながら、この環境下で薬剤耐性を獲得した菌(例えばメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA))が発生し、病院内での院内感染の原因として問題になることがある。近年では、市中感染型のMRSAも広がり、対策が求められている。MRSAのような耐薬品性を獲得した菌に対しては、従来の殺菌薬や抗菌薬が有効に機能しない。
【0007】
薬剤耐性を持つ黄色ブドウ球菌等への対策として、様々な天然由来の物質の有効性が示されている。例えば特許文献3および特許文献4に示されるアビエタン系ジテルペノイド化合物がある。これらはバイオフィルム(固体の表面に微生物や細胞外多糖など菌の生産物が集まった構造体であり、菌に都合の良い生息条件を獲得して仲間を増やす)の形成を阻害する効果を持ち、薬剤耐性の有無によらず抗菌効果を発揮する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2014-055394号公報
【文献】再表2014/102980号公報
【文献】国際公開第2010/119638号
【文献】国際公開第2016/051013号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように様々な殺菌手段または抗菌手段が知られており、多様な菌に対応するために様々な薬剤が検討されているが、これら殺菌性能または抗菌性能を有する無機物質または有機分子を、所望の固体表面、特に布などの柔軟な素材やドアノブなどの立体構造物の表面に容易かつ安定的に保持する方法は限られている。上述したバイオフィルムは水分が多い場所で形成されるため、水回りの器具、人の手が触れるドアノブ、衣類や履物等の汗をかく部位など様々な対象に対して、バイオフィルムの形成を阻害する抗菌分子を表面に安定的に付着する方法が求められている。
【0010】
殺菌性能または抗菌性能を有する多様な有機分子を安定的に固定することは一般的に難しい。特許文献1に示される方法ではポリヘキサメチレンビグアニド塩酸塩などを染色および/または仕上げ工程でバインダー樹脂を用いて糸や布に添加することが例示されている。しかし、バインダーを用いる方法は有機分子がバインダー中に埋もれてしまい効果を失い易い。バインダーを用いることなく、布にシランカップリング処理をして有機分子を付着させたり、抗菌性能を有する分子構造を持つポリマーを合成して布にコーティングしたりする方法は技術的には可能である。しかしながら、有機分子の分子構造や該有機分子を付着させる基材の種類に応じて適切な付着方法を見出さなければならず、量産においてもコストがかかる。
【0011】
同様に特許文献2に示される方法では、銀担持無機多孔質物質や亜鉛担持無機多孔質物質などの無機系抗菌材をバインダー樹脂で布に付着させている。この場合も、バインダーを厚くすると抗菌物質の固定性は増すが、抗菌物質がバインダーに埋まりやすくなる。抗菌性能はどれだけ抗菌物質が表面に露出しているかに依存するため、抗菌物質がバインダーに埋まってしまうと、抗菌剤の抗菌性能は下がる。
【0012】
以上の背景から、本発明では多様な殺菌性能や抗菌性能などを有する無機物質または有機分子を、所望の固体表面に簡単に固定できる汎用性のある多孔質膜およびそれを施した布や立体構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一実施形態によると、多孔質粒子と、前記多孔質粒子に吸着されたアビエタン系ジテルペノイド化合物と、を含む多孔質膜が提供される。
【0014】
前記アビエタン系ジテルペノイド化合物は、アビエチン酸、デヒドロアビエチン酸及びネオアビエチン酸を含んでもよい。
【0015】
前記多孔質粒子は、アロフェンまたはゼオライトであってもよい。
【0016】
多孔質膜は、前記多孔質粒子に吸着された無機塩及び/又は金属イオンをさらに含んでもよい。
【0017】
前記無機塩及び/又は金属イオンは、抗菌性を有してもよい。
【0018】
前記金属イオンは、プラチナイオン、銀イオン及び銅イオンのうち少なくとも一つを含んでもよい。
【0019】
前記アビエタン系ジテルペノイド化合物は、保持物質を介することなく、前記多孔質粒子に直接吸着されてもよい。
【0020】
本発明の一実施形態によると、布地である基材と、前記基材上に設けられた上記の何れかの多孔質膜と、を含む抗菌布が提供される。
【0021】
前記基材は、不織布であってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一実施形態によれば、多様な殺菌性能や抗菌性能などを有する無機物質または有機分子を、所望の固体表面に簡単に固定できる汎用性のある多孔質膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態に係る多孔質膜を示した図である。
図2】アロフェンの単位粒子の構造を示す図である。
図3】AD法を用いて基材上に設けられた、アロフェンを含む多孔質膜を示した図である。
図4】密着層を用いた多孔質膜を示した図である。
図5】CV法により測定されたアロフェン膜と不織布のバイオフィルムの形成阻害量とそれらの指数関数の近似曲線を示した図である。
図6】WST法により測定されたアロフェン膜と不織布のバイオフィルムの形成阻害量とそれらの指数関数の近似曲線を示した図である。
図7】アロフェン膜と不織布のバイオフィルムの形成阻害活性とそれらの指数関数の近似曲線を示した図である。
図8】アロフェン膜と不織布のバイオフィルムの形成阻害活性とそれらの指数関数の近似曲線を示した図である。
図9】アロフェン膜と不織布のバイオフィルムの形成阻害活性とそれらの指数関数の近似曲線を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の一実施形態では、高い吸着能を有する多孔質物質に殺菌性能または抗菌性能を有する多様な無機物質または有機分子を固定する。この多孔質物質を基材上にコーティングすることにより、抗菌性の多孔質膜が形成される。
【0025】
微粒子状の多孔質物質としては多様な物質を用いることが可能である。多孔質物質は、一般的に親水性分子も疎水性分子も吸着するため担持手段として汎用性が高い。球状の微細構造を持ち、膜として密着性が良く、多様な分子の保持が可能な素材としては、例えば、孔径が比較的大きなアロフェンが挙げられる。また、アロフェンは、分子の他、多様なイオンや原子の保持も可能である。アロフェンについては、後述する。尚、本発明の一実施形態において用いられる多孔質物質は、アロフェンに限定されるわけではなく、ゼオライト、チタニア、カーボン、シリカ、ガラスなどの様々な多孔質素材を使用することができる。
【0026】
殺菌性能または抗菌性能を有する無機物質または有機分子を含む溶液を上記多孔質物質にコーティングして該無機物質または有機分子を付着させ、その後に溶媒を蒸発させれば、多孔質物質の細孔内に無機物質または有機分子を担持することができる。殺菌性能または抗菌性能を示す有機分子には大きな疎水基と末端に親水基とを有するものがある。このため、有機分子を含む溶液を作製する場合、溶媒としては該有機分子を溶解可能な水または有機溶媒を使用する。
【0027】
殺菌性能または抗菌性能を有する無機物質または有機分子が担持された多孔質物質は、バインダーを用いることなく、運動量を持った微粒子状の多孔質物質を対象基材に接触させることにより基材表面上にコーティングすることができる。
【0028】
上記方法により汎用性のある抗菌性の多孔質膜が作成される。該抗菌性の多孔質膜を布に付与することで抗菌布としたり、ドアノブなどの立体構造物にコーティングすることにより抗菌ドアノブとしたりすることが可能となる。
【0029】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係る多孔質膜について詳細に説明する。
【0030】
図1は、本発明の一実施形態に係る多孔質膜を示している。図1に示すように、多孔質膜2は、基材1の表面に多孔質粒子を堆積させて形成される。本実施形態において、基材1は、金属、木材、及びプラスチックなどの固い固体のほか、布、ゴムシート、スポンジ、及びアルミ箔など変形可能な固体であってもよい。
【0031】
多孔質膜2を構成する多孔質粒子としては、既知の様々な物質を使用可能である。例えば、活性炭、ゼオライト、チタニア、アロフェン、メソポーラスシリカ、メソポーラスアルミナ、多孔質ガラス、ポーラス金属、金属錯体ポーラス材料などを多孔質粒子として用いることができる。本実施形態では、多孔質粒子としてアロフェンを用いる場合を一例として説明する。
【0032】
アロフェンは、軽石や火山灰など火山噴出物に由来する土壌に多く賦存する低結晶性アルミニウムケイ酸塩および非晶質アルミニウムケイ酸塩である。アロフェンはケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、酸素(O)および水素(H)(水酸基(OH))からなる。図2は、アロフェンの単位粒子3の構造を示す図である。アロフェンの単位粒子3は、内部に中空7を有し、Al(OH)ギブサイトに類似した八面体シート5を外殻とし、内殻にSiO四面体シート6を有する、直径3.5nm~5nmの中空球状の粒子であり、より詳細には、比表面積(~900m/g)を有し、1層のギブサイト八面体シートを球壁とし、SiO四面体がその内側に結合した構造を有し、球壁に0.3nm~0.5nmの細孔4が多く存在する。このような構造のため、アロフェンは大きな表面積を持ち、且つ表面に水酸基を持つことから、水、イオン、有機物質、各種ガス成分等を吸着できる。アロフェンは、天然の粘土準鉱物であるが、人工的に作ることも可能である。
【0033】
多孔質膜2に殺菌性や抗菌性を有するイオン、原子、または分子が担持されることにより多孔質膜2は抗菌皮膜として機能する。殺菌性物質や抗菌性物質は、多孔質膜2の膜形成前の多孔質粒子の段階で固着させてもよく、膜形成後に固着させてもよい。アロフェンは、殺菌性や抗菌性を有するイオン、原子、または分子をカプセルやゲル等の保持物質を介在することなく直接吸着することができるため、機能分子が直接吸着された多孔質膜2を構成することができる。ただし、吸着分子の種類によっては細孔だけでなく粒子表面に吸着し、後述するバインダーを用いない堆積による成膜が困難になることがある。
【0034】
銀イオン、銅イオン、プラチナイオンなどの抗菌性を有する金属イオンを少なくとも一種含む水溶性の塩や、親水性が高い界面活性剤を多孔質膜2に担持させる場合、成膜前の多孔質粒子または堆積した多孔質膜2を水溶液に浸漬する。疎水性物質を担持させる場合は、アセトンやエタノールやエチルエーテルなどの疎水性物質が可溶な有機溶媒を用いて疎水性物質を含む溶液を作製し、該溶液に成膜前の多孔質粒子または堆積した多孔質膜2を浸漬する。沸点が低くガス化が可能な物質を多孔質膜2に担持させる場合、気化した物質を含むガスを成膜前の多孔質粒子または堆積した多孔質膜2に吸着させる。
【0035】
バインダーを用いることなく基材1上に多孔質膜2を形成する方法としては、様々な方法が知られている。例えば、多孔質の高分子膜を作るには相分離を利用して作ることができる。ポーラス金属の作製は、溶融金属にガスを吹き込む方法などがある。また、多孔質シリカはゾル-ゲル法などで作ることができる。
【0036】
しかし、これらの方法は特殊な条件を必要とすることが多く、素材を変質・破壊させてしまう恐れがある。そこで素材を傷めることなく多孔質粒子をその性質を失うことなく堆積して、多孔質膜を形成することが望まれる。
【0037】
微粒子を堆積する方法としてエアロゾルデポジション法(Aerosol Deposition Method:AD法)が知られている。エアロゾルとは、空気や不活性ガスと微粒子との混合体である。AD法は、このエアロゾルをノズルから基材に向けて噴射して基材に衝突させ、基材上に微粒子を含む膜を直接成膜する方法である。AD法によって多孔質膜2を形成する場合は、常温で実行でき、素材を傷めず、原料となる多孔質粒子の性質を損なうことなく、且つバインダーを用いることなく成膜を実行することができる。
【0038】
本発明者らの検討によれば、アロフェンはスパッタ等の手段ではその粒子構造が破壊されてしまうが、AD法を用いると、その粒子構造を破壊せずに基材1上に堆積させることが可能である。図3は、AD法を用いて基材1上に設けられた、アロフェンを含む多孔質膜2を示した図である。
【0039】
多孔質膜2に担持される殺菌性能または抗菌性能を有する物質には様々なものがある。例えば、MRSA対策として有効なバイオフィルム形成阻害物質としては、銀イオンのほか、アビエチン酸などのアビエタン系ジテルペノイド化合物、ヒノキチオールなどの単環式モノテルペン、ショ糖脂肪酸エステルなどの効果が確かめられている。バイオフィルム形成阻害能を持つこれら有機化合物の多くは、骨格となる大きな疎水基の末端に親水基を有する構造を有し、前述の多孔質物質に担持されやすい。
【0040】
特に、アビエタン系ジテルペノイド化合物は、MRSAのバイオフィルム形成阻害物質として好適である。アビエタン系ジテルペノイド化合物としては、以下に示すアビエチン酸の他、ネオアビエチン酸、およびデヒドロアビエチン酸などがバイオフィルム形成阻害物質としての効果が見込まれる。
【化1】
【0041】
尚、多孔質膜2を作製するにあたり、1種類の多孔質粒子だけではなく、複数の異なる種類の多孔質粒子を用いて堆積膜を形成してもよい。また、多孔質粒子に担持される殺菌性能又は抗菌性能を有する物質は1種類だけではなく、複数の異なる殺菌性能又は抗菌性能を有する物質が担持されてもよい。例えば、上記のMRSA対策として有効なバイオフィルム形成阻害物質の他、ヨモギエキス、銀イオン、銅イオン、プラチナイオンなどの抗菌性を有する金属イオンや、これらの金属イオンを含む、抗菌性を有する無機塩、他の病原性細菌のバイオフィルム形成阻害物質、病原性ウイルスに対する抗ウイルス薬として有効な分子化合物などが多孔質粒子に担持されてもよい。
【0042】
AD法によって多孔質膜2を成膜する場合、基材と粒子の化学的性質の組み合わせによっては密着性が劣る場合がある。その場合、バインダーを用いずに密着性を上げる方法としては、異なる種類の粒子からエアロゾルを形成して使用する方法や、多孔質膜2を形成する前に、基材1に密着層9を設けることが有効である。
【0043】
図4は、本発明の一実施形態に係る多孔質膜2と基材1との間に密着層9が開示されている場合を示している。密着層9の材料としては、使用する基材1の材質と、多孔質膜2に含まれる多孔質粒子の化学的性質とに応じて選択されるが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリアミド樹脂等が用いられてもよい。密着層9は、インクジェット法、塗布法、AD法などにより基材1上に形成することができるが、密着層9の形成方法は、これらの方法に限定されるわけではない。密着層9を介して多孔質膜2を基材1上に設けることで、密着層9によるアンカー効果によって基材1と多孔質膜2との密着強度が向上する。ここで、密着層9は、従来用いられるバインダーとは異なり、多孔質膜2を構成する多孔質粒子に担持される物質を覆わない。そのため、殺菌性能又は抗菌性能を有する物質の機能を損なうことなく、基材1と多孔質膜2との密着強度を向上させることができる。
【0044】
本発明の一実施形態に係る殺菌性または抗菌性の多孔質膜2は様々な場に適用可能である。例えば、水回りなどバイオフィルムが形成されやすい場所、人の手が触れるドアノブや電気スイッチやキーボードや手すり、衣類や脇パッドなど汗に触れるもの、便座や乗用車等の座面、浄水やエアコンなどのフィルターなどにも適用することができる。
【0045】
また、基材が布である場合、布の上に殺菌性または抗菌性の多孔質膜を形成して抗菌布とすれば、衣類や建材、包装素材など多様な応用が可能となる。
【実施例
【0046】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
<デヒドロアビエチン酸含有アロフェン膜の抗菌活性持続試験>
[実施例1]
表面をポリエチレンフィルムでコートした不織布基材にアロフェン原料微粒子を噴射してアロフェン膜をAD法で形成した。まず、整粒したアロフェン粉末を流量2.4L/minの窒素ガス及びドライエアでエアロゾル化し、開口幅7.0mm×0.4mm、30mm×0.2mm、10mm×0.1mmのノズルを通して、60Pa~120Paの真空雰囲気のチャンバ内に置いた不織布基材に噴射してアロフェン膜を形成し、アロフェン膜-不織布複合体を作製した。ノズルは基材に対して40mm/s~2.5mm/sのスピードで変位させながら往復させ、成膜時間4分~7分、成膜面積は75×75mmとした。
【0048】
成膜されたアロフェン膜(1cm×1cm)にデヒドロアビエチン酸溶液(溶媒:アセトン)を満遍なく滴下して一晩乾燥させた(終濃度25μg/cm)。以上の方法によってデヒドロアビエチン酸を担持させたアロフェン膜を複数作製した。
【0049】
作製したデヒドロアビエチン酸を担持させたアロフェン膜を洗浄した。洗浄した回数は、それぞれ0回、4回、8回、12回とした。洗浄は、デヒドロアビエチン酸を担持させたアロフェン膜を基材ごと0.5mLの精製水に30分間浸漬させ、1回洗浄するごとに、デヒドロアビエチン酸を担持させたアロフェン膜を引き上げ、新たな精製水に同様に浸漬させることにより行った。
【0050】
次に、1%グルコースを添加したブレインハートインフュージョン(BHI)培地にS.aureus N315株を加え、このBHI培地に洗浄回数0回、4回、8回、12回のデヒドロアビエチン酸を担持させたアロフェン膜を基材ごと漬け、ステンレス製の丸座金で基材を押さえつけ、37℃で24時間静置した。
【0051】
この後、それぞれにおけるアロフェン膜のバイオフィルムの形成量を測定した。具体的には、洗浄回数がそれぞれ異なるアロフェン膜の表面に形成されたバイオフィルムの量をCV法及びWST法で測定し、各アロフェン膜のバイオフィルムの形成量を算出した。CV法及びWST法については後述する。
【0052】
[比較例1]
比較例として、不織布(1cm×1cm)にデヒドロアビエチン酸溶液(溶媒:アセトン)を満遍なく滴下し、一晩、乾燥させた(終濃度25μg/cm)。デヒドロアビエチン酸を担持させた不織布を複数準備し、アロフェン膜と同様にそれぞれ0回、4回、8回、12回洗浄した。この後、1%グルコースを添加したBHI培地にS.aureus N315株を加え、デヒドロアビエチン酸を担持させた不織布をそれぞれ漬け、ステンレス製の丸座金で押さえつけ、37℃で24時間静置した。この後、実施例1のアロフェン膜と同様に不織布のバイオフィルムの形成量をCV法及びWST法によって測定した。
【0053】
図5及び図6にデヒドロアビエチン酸を担持させたアロフェン膜(実施例1)のバイオフィルムの形成阻害量とアロフェン膜を形成せずにデヒドロアビエチン酸を担持させた不織布(比較例1)のバイオフィルムの形成阻害量を示した。図5は、CV法により測定されたアロフェン膜と不織布のバイオフィルムの形成阻害量とそれらの指数関数の近似曲線を示し、図6は、WST法により測定されたアロフェン膜と不織布のバイオフィルムの形成阻害量とそれらの指数関数の近似曲線を示している。尚、図5及び図6において、「AD」とはAD法により形成し、デヒドロアビエチン酸を担持させたアロフェン膜を指している。以下、CV法及びWST法の手順について詳細に説明する。
【0054】
CV法について説明する。まず、実施例1のデヒドロアビエチン酸を担持させたアロフェン膜及び比較例1のデヒドロアビエチン酸を担持させた不織布をそれぞれ多量の精製水が入った容器に漬けて洗浄する工程を2回繰り返した。次に、実施例1のデヒドロアビエチン酸を担持させたアロフェン膜及び比較例1のデヒドロアビエチン酸を担持させた不織布をそれぞれ0.1質量%のクリスタルバイオレット(CV)水溶液0.5mlに15分間浸漬させた。その後、実施例1のデヒドロアビエチン酸を担持させたアロフェン膜及び比較例1のデヒドロアビエチン酸を担持させた不織布をそれぞれ多量の精製水が入った容器に漬けて洗浄する工程を5回繰り返した。この後、実施例1のデヒドロアビエチン酸を担持させたアロフェン膜及び比較例1のデヒドロアビエチン酸を担持させた不織布をそれぞれ数時間乾燥させた。乾燥した実施例1のデヒドロアビエチン酸を担持させたアロフェン膜及び比較例1のデヒドロアビエチン酸を担持させた不織布をそれぞれ30体積%の酢酸溶液に漬け、実施例1のデヒドロアビエチン酸を担持させたアロフェン膜及び比較例1のデヒドロアビエチン酸を担持させた不織布に形成されたバイオフィルムを染色したCVを溶出させた。この酢酸溶液の570nmの吸光度を測定することにより該酢酸溶液中に溶出したCV量を定量した。
【0055】
WST法について説明する。まず、実施例1のデヒドロアビエチン酸を担持させたアロフェン膜及び比較例1のデヒドロアビエチン酸を担持させた不織布をそれぞれ多量の精製水が入った容器に漬けて洗浄する工程を7回繰り返した。次に、実施例1のデヒドロアビエチン酸を担持させたアロフェン膜及び比較例1のデヒドロアビエチン酸を担持させた不織布をそれぞれWST混合液(DOJINDO社製、M439)25μLとBHI培地475μLとの混合液に漬け、37℃で1時間静置した。その後、WST混合液及びBHI培地500μLの混合液を50μL採取して、採取した混合液の450nmの吸光度を測定することにより、実施例1のデヒドロアビエチン酸を担持させたアロフェン膜及び比較例1のデヒドロアビエチン酸を担持させた不織布におけるバイオフィルムの形成量を定量した。
【0056】
図5を参照すると、近似曲線の傾きは、アロフェン膜(AD)で-0.008であり、不織布で-0.028であった。また、図6を参照すると、近似曲線の傾きは、アロフェン膜(AD)で-0.11であり、不織布で-0.152であった。したがって、いずれによる測定でも、不織布よりもデヒドロアビエチン酸を担持させたアロフェン膜のほうが、洗浄を繰り返した後でもバイオフィルムの形成阻害効果が高く、アロフェン膜はデヒドロアビエチン酸の保持能力が高いということが示された。
【0057】
<デヒドロアビエチン酸溶出試験>
デヒドロアビエチン酸を担持させたアロフェン膜の溶媒に対するデヒドロアビエチン酸の溶出実験を行った。
【0058】
[AD法によるアロフェン膜の作製]
まず、デヒドロアビエチン酸を担持させたアロフェン膜を準備した。アロフェン膜は、上述した実施例1と同様に、表面をポリエチレンフィルムでコートした不織布基材にアロフェン原料微粒子を噴射してAD法で作製した。まず、整粒したアロフェン粉末を流量1.2~4.8L/minの窒素ガス及びドライエアでエアロゾル化し、開口幅7.0mm×0.4mm、30mm×0.2mm、10mm×0.1mm、10mm×0.6mmのノズルを通して、60Pa~120Paの真空雰囲気のチャンバ内に置いた不織布基材に噴射してアロフェン膜を形成し、アロフェン膜-不織布複合体を作製した。ノズルは基材に対して40mm/s~2.5mm/sのスピードで変位させながら往復させ、成膜時間4分~7分、成膜面積は75×75mmとした。
【0059】
成膜されたアロフェン膜(1cm×1cm)にデヒドロアビエチン酸溶液(溶媒:アセトン)を満遍なく滴下して一晩乾燥させた(終濃度25μg/cm)。以上の方法によってデヒドロアビエチン酸を担持させたアロフェン膜を複数作製した。
【0060】
[実施例2]
上述のAD方法により作製された、デヒドロアビエチン酸を担持させたアロフェン膜を精製水を用いて洗浄した。洗浄した回数は、それぞれ0回、4回、8回、12回とした。洗浄は、デヒドロアビエチン酸を担持させたアロフェン膜を基材ごと0.75mLの精製水に浸漬させて30分間静置した。1回洗浄するごとに、デヒドロアビエチン酸を担持させたアロフェン膜を引き上げ、新たな精製水に同様に浸漬させることにより行った。
【0061】
次に、1%グルコースを添加したブレインハートインフュージョン(BHI)培地を準備し、このBHI培地にS.aureus N315株を加え、洗浄回数0回、4回、8回、12回のデヒドロアビエチン酸を担持させたアロフェン膜を基材ごと漬け、ステンレス製の丸座金で基材を押さえつけ、37℃で24時間静置した。
【0062】
それぞれのアロフェン膜におけるバイオフィルムの形成量を測定した。具体的には、洗浄回数がそれぞれ異なるアロフェン膜の表面に形成されたバイオフィルムの量をCV法によって測定し、各アロフェン膜におけるバイオフィルムの形成阻害活性を算出した。この結果を図7に示す。
【0063】
[比較例2]
不織布(1cm×1cm)にデヒドロアビエチン酸溶液(溶媒:アセトン)を満遍なく滴下し、一晩、乾燥させた(終濃度25μg/cm)。このようなデヒドロアビエチン酸を担持させた不織布を複数準備し、実施例2と同様に、精製水によって0回、4回、8回、12回洗浄した。この後、1%グルコースを添加したBHI培地にS.aureus N315株を加え、デヒドロアビエチン酸を担持させた不織布をそれぞれ漬け、ステンレス製の丸座金で押さえつけ、37℃で24時間静置した。この後、実施例2のアロフェン膜と同様に不織布のバイオフィルムの形成阻害活性を測定した。この結果を図7に示す。
【0064】
[実施例3]
上述のAD方法により作製された、デヒドロアビエチン酸を担持させたアロフェン膜を70%エタノール(v/v)を用いて洗浄した。洗浄した回数は、それぞれ0回、2回、4回、6回、8回とした。洗浄は、デヒドロアビエチン酸を担持させたアロフェン膜を基分間静置した。1回洗浄するごとに、デヒドロアビエチン酸を担持させたアロフェン膜を引き上げ、新たなエタノールに同様に浸漬させることにより行った。
【0065】
次に、1%グルコースを添加したBHI培地にS.aureus N315株を加え、洗浄回数0回、2回、4回、6回、8回のデヒドロアビエチン酸を担持させたアロフェン膜を基材ごと漬け、ステンレス製の丸座金で基材を押さえつけ、37℃で24時間静置した。
【0066】
それぞれのアロフェン膜のバイオフィルムの形成量を測定した。具体的には、洗浄回数がそれぞれ異なるアロフェン膜の表面に形成されたバイオフィルムの量をCV法によって測定し、各アロフェン膜におけるバイオフィルムの形成阻害活性を算出した。この結果を図8に示す。
【0067】
[比較例3]
不織布(1cm×1cm)にデヒドロアビエチン酸溶液(溶媒:アセトン)を満遍なく滴下し、一晩、乾燥させた(終濃度25μg/cm)。このようなデヒドロアビエチン酸を担持させた不織布を複数準備し、実施例3と同様に、70%エタノール(v/v)によって0回、2回、4回、6回、8回洗浄した。この後、1%グルコースを添加したBHI培地にS.aureus N315株を加え、デヒドロアビエチン酸を担持させた不織布をそれぞれ漬け、ステンレス製の丸座金で押さえつけ、37℃で24時間静置した。この後、実施例3のアロフェン膜と同様に不織布のバイオフィルムの形成阻害活性を測定した。この結果を図8に示す。
【0068】
[実施例4]
上述のAD方法により作製された、デヒドロアビエチン酸を担持させたアロフェン膜をアセトンを用いて洗浄した。洗浄した回数は、それぞれ0回、2回、4回、6回とした。洗浄は、デヒドロアビエチン酸を担持させたアロフェン膜を基材ごと0.75mLのアセトンに浸漬させて30分間静置した。1回洗浄するごとに、デヒドロアビエチン酸を担持させたアロフェン膜を引き上げ、新たなアセトンに同様に浸漬させることにより行った。
【0069】
次に、1%グルコースを添加したBHI培地にS.aureus N315株を加え、洗浄回数0回、2回、4回、6回のデヒドロアビエチン酸を担持させたアロフェン膜を基材ごと漬け、ステンレス製の丸座金で基材を押さえつけ、37℃で24時間静置した。
【0070】
それぞれのアロフェン膜におけるバイオフィルムの形成量を測定した。具体的には、洗浄回数がそれぞれ異なるアロフェン膜の表面に形成されたバイオフィルムの量をCV法によって測定し、各アロフェン膜におけるバイオフィルムの形成阻害活性を算出した。この結果を図9に示す。
【0071】
[比較例4]
不織布(1cm×1cm)にデヒドロアビエチン酸溶液(溶媒:アセトン)を満遍なく滴下し、一晩、乾燥させた(終濃度25μg/cm)。このようなデヒドロアビエチン酸を担持させた不織布を複数準備し、実施例4と同様に、アセトンによって0回、2回、4回、6回洗浄した。この後、1%グルコースを添加したBHI培地にS.aureus N315株を加え、デヒドロアビエチン酸を担持させた不織布をそれぞれ漬け、ステンレス製の丸座金で押さえつけ、37℃で24時間静置した。この後、実施例4のアロフェン膜と同様に不織布のバイオフィルムの形成阻害活性を測定した。この結果を図9に示す。
【0072】
図7は、デヒドロアビエチン酸を担持させたアロフェン膜(実施例2)のバイオフィルムの形成阻害活性とアロフェン膜を形成せずにデヒドロアビエチン酸を担持させた不織布(比較例2)のバイオフィルムの形成阻害活性を示した散布図とそれらの指数関数の近似曲線である。図7においては、横軸に洗浄回数を示し、縦軸にバイオフィルム形成阻害活性を示している。図7において、バイオフィルム形成阻害活性は、洗浄回数が0回の試料(実施例2の場合、洗浄回数0回のデヒドロアビエチン酸を担持させたアロフェン膜、比較例2の場合、洗浄回数0回のデヒドロアビエチン酸を担持させた不織布)のバイオフィルム形成阻害活性を100としたときの百分率(%)で示している。図7を参照すると、近似曲線の傾きは、アロフェン膜で-0.006であり、不織布で-0.011であった。アロフェン膜および不織布ともに、精製水による洗浄を経るごとにバイオフィルム形成阻害活性が減少したが、不織布のバイオフィルム形成阻害活性よりもアロフェン膜のバイオフィルム形成阻害活性のほうが高く保たれており、バイオフィルム形成阻害効果が長く維持された。これにより、アロフェン膜に担持されたデヒドロアビエチン酸の水への溶出量は、不織布に担持されたデヒドロアビエチン酸の水への溶出量よりも少ないことが分かる。
【0073】
図8は、デヒドロアビエチン酸を担持させたアロフェン膜(実施例3)のバイオフィルムの形成阻害活性とアロフェン膜を形成せずにデヒドロアビエチン酸を担持させた不織布(比較例3)のバイオフィルムの形成阻害活性を示した散布図とそれらの指数関数の近似曲線である。図8においては、横軸に洗浄回数を示し、縦軸にバイオフィルム形成阻害活性を示している。図8において、バイオフィルム形成阻害活性は、洗浄回数が0回の試料(実施例3の場合、洗浄回数0回のデヒドロアビエチン酸を担持させたアロフェン膜、比較例3の場合、洗浄回数0回のデヒドロアビエチン酸を担持させた不織布)のバイオフィルム形成阻害活性を100としたときの百分率(%)で示している。図8を参照すると、近似曲線の傾きは、アロフェン膜で-0.04であり、不織布で-0.048であった。アロフェン膜および不織布ともに、70%エタノールによる洗浄を経るごとにバイオフィルム形成阻害活性が減少した。不織布のバイオフィルム形成阻害活性よりもアロフェン膜のバイオフィルム形成阻害活性のほうがやや高く保たれたものの、顕著な効果の差は出なかった。これにより、アロフェン膜に担持されたデヒドロアビエチン酸のエタノールへの溶出量と、不織布に担持されたデヒドロアビエチン酸のエタノールへの溶出量とは略同等であることが分かる。
【0074】
図9は、デヒドロアビエチン酸を担持させたアロフェン膜(実施例4)のバイオフィルムの形成阻害活性とアロフェン膜を形成せずにデヒドロアビエチン酸を担持させた不織布(比較例4)のバイオフィルムの形成阻害活性を示した散布図とそれらの指数関数の近似曲線である。図9においては、横軸に洗浄回数を示し、縦軸にバイオフィルム形成阻害活性を示している。図9において、バイオフィルム形成阻害活性は、洗浄回数が0回の試料(実施例4の場合、洗浄回数0回のデヒドロアビエチン酸を担持させたアロフェン膜、比較例4の場合、洗浄回数0回のデヒドロアビエチン酸を担持させた不織布)のバイオフィルム形成阻害活性を100としたときの百分率(%)で示している。図9を参照すると、近似曲線の傾きは、アロフェン膜で-0.1であり、不織布で-0.312であった。アロフェン膜および不織布ともに、アセトンによる洗浄を経るごとにバイオフィルム形成阻害活性が減少したが、不織布のバイオフィルム形成阻害活性よりもアロフェン膜のバイオフィルム形成阻害活性のほうが高く保たれており、バイオフィルム形成阻害効果が長く維持された。これにより、アロフェン膜に担持されたデヒドロアビエチン酸のアセトンへの溶出量は、不織布に担持されたデヒドロアビエチン酸のアセトンへの溶出量よりも少ないことが分かる。
【0075】
図7図9に示したデヒドロアビエチン酸を担持させたアロフェン膜および不織布のバイオフィルムの形成阻害活性を示した散布図とそれらの指数関数の近似曲線の傾きを参照すると、アロフェン膜または不織布に担持されたデヒドロアビエチン酸の各溶媒への溶出量は、アセトン>エタノール(70%)>水であった。また、アロフェン膜に担持されたデヒドロアビエチン酸の水(親水性溶媒)およびアセトン(親油性溶媒)に対する溶出量は、不織布に担持されたデヒドロアビエチン酸の水およびアセトンに対する溶出量よりも顕著に少ないことが認められた。したがって、アロフェン膜はデヒドロアビエチン酸の保持能力が高く、特に水(親水性溶媒)およびアセトン(親油性溶媒)に対するデヒドロアビエチン酸の保持能力が高く、バイオフィルム形成阻害活性をより長く維持することができることが示された。
【0076】
<デヒドロアビエチン酸含有ゼオライト膜の抗菌活性試験>
以上に述べた実施例1~4では、バイオフィルム形成阻害物質としてデヒドロアビエチン酸を担持したアロフェン粒子を含むアロフェン膜のバイオフィルムの形成阻害活性について述べた。しかしながら、バイオフィルム形成阻害物質を担持することができる多孔質素材はアロフェンに限定されるわけではない。以下では、ゼオライトを担持物質として使用した場合のバイオフィルム形成阻害物質の抗菌活性持続試験について述べる。
【0077】
[実施例5]
デヒドロアビエチン酸を担持させたゼオライト膜を準備した。ゼオライト膜は、ゼオライト4A、溶剤、およびワニスを含むペースト(品川ゼネラル株式会社製)を、スクリーン印刷にて基板上に塗布し(厚さ10μm)、焼成(焼成温度350℃~600℃)することにより成膜した。
【0078】
成膜されたゼオライト膜(1cm×1cm)にデヒドロアビエチン酸溶液(溶媒:アセトン)を満遍なく滴下して一晩乾燥させ(終濃度250μg/cm)、デヒドロアビエチン酸を担持させたゼオライト膜を3つ作製した。作製したデヒドロアビエチン酸を担持させたゼオライト膜を1%グルコースを添加したBHI培地にS.aureus N315株を加え、基材ごと漬け、ステンレス製の丸座金で基材を押さえつけ、37℃で24時間静置した。
【0079】
この後、ゼオライト膜のバイオフィルムの形成量を測定した。具体的には、ゼオライト膜の表面に形成されたバイオフィルムの量をCV法によって測定し、ゼオライト膜におけるバイオフィルムの形成量を算出した。
【0080】
[実施例6]
実施例5と同様に成膜されたゼオライト膜にデヒドロアビエチン酸溶液(溶媒:アセトン)を満遍なく滴下して一晩乾燥させ(終濃度25μg/cm)、デヒドロアビエチン酸を担持させたゼオライト膜を3つ作製した。作製したデヒドロアビエチン酸を担持させたゼオライト膜を1%グルコースを添加したBHI培地にS.aureus N315株を加え、基材ごと漬け、ステンレス製の丸座金で基材を押さえつけ、37℃で24時間静置した。この後、実施例5と同様にゼオライト膜のバイオフィルムの形成量を測定した。
【0081】
[実施例7]
実施例5と同様に成膜されたゼオライト膜にデヒドロアビエチン酸溶液(溶媒:アセトン)を満遍なく滴下して一晩乾燥させ(終濃度2.5μg/cm)、デヒドロアビエチン酸を担持させたゼオライト膜を3つ作製した。作製したデヒドロアビエチン酸を担持させたゼオライト膜を1%グルコースを添加したBHI培地にS.aureus N315株を加え、基材ごと漬け、ステンレス製の丸座金で基材を押さえつけ、37℃で24時間静置した。この後、実施例5と同様にゼオライト膜のバイオフィルムの形成量を測定した。
【0082】
[参考例1]
参考例1として、実施例5と同様に成膜されたゼオライト膜を3つ準備し、該ゼオライト膜を1%グルコースを添加したBHI培地にS.aureus N315株を加え、基材ごと漬け、ステンレス製の丸座金で基材を押さえつけ、37℃で24時間静置した。この後、実施例5と同様にゼオライト膜のバイオフィルムの形成量を測定した。
【0083】
実施例5~実施例7および参考例1の結果を以下の表1に示す。表1において、実施例5~7のバイオフィルムの形成量は、参考例1のバイオフィルム形成量を100とした百分率(%)で示した。尚、表1に示した実施例5~実施例7および参考例1のバイオフィルム形成量は、各実施例および参考例1においてそれぞれ用いた3つのゼオライト膜におけるバイオフィルム形成量の平均である。
【表1】
【0084】
表1から明らかなように、実施例5~7において、担持されたデヒドロアビエチン酸の濃度が高いほど、ゼオライト膜におけるバイオフィルム形成量が少ないことが示された。したがって、ゼオライトは、アロフェンと同様に、デヒドロアビエチン酸、即ちバイオフィルム形成阻害物質の保持能力を有することが示された。よって、ゼオライトを含むゼオライト膜は、担持されるバイオフィルム形成阻害物質の濃度に応じて、バイオフィルム形成阻害物質を担持したアロフェン膜と同様のバイオフィルム形成阻害効果を奏するものと理解される。
【0085】
また、実施例5~実施例7および参考例1のゼオライト膜を1%グルコースを添加したBHI培地にS.aureus N315株を加えて基材ごと漬け、37℃で24時間静置した後の、各BHI培地を観察したところ、参考例1のBHI培地は、全体的に白濁しており、バイオフィルムが全体的に形成されていることが観察された。一方、実施例5~実施例7のBHI培地は、参考例1のBHI培地に比べて白濁が少なく、特に、担持したデヒドロアビエチン酸の濃度が最も高い、実施例5のBHI培地は透明度が高く、殺菌効果が高かったことが示された。
【0086】
以上、本発明の実施形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱することなく改造、変形及び変更を行うことができることは理解すべきである。
【符号の説明】
【0087】
1 基材
2 多孔質膜
3 アロフェンの単位粒子
4 細孔
5 Al(OH)ギブサイトに類似した八面体シート
6 SiO四面体シート
7 中空
9 密着層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9