(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】後鰓類生物の餌生物を特定する方法
(51)【国際特許分類】
A23K 50/80 20160101AFI20240105BHJP
A23K 10/20 20160101ALI20240105BHJP
【FI】
A23K50/80
A23K10/20
(21)【出願番号】P 2019227293
(22)【出願日】2019-12-17
【審査請求日】2022-12-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1) 発行日 平成31年2月7日 刊行物 2018年度 北里大学海洋生命科学部 応用生物化学講座 卒業論文発表会・審査会、要旨集 <資 料>2018年度 応用生物化学講座 卒業論文発表会・審査会 要旨集 (2) 発行日 平成31年2月8日 集会名 2018年度 北里大学海洋生命科学部 応用生物化学講座 卒業論文発表会・審査会 <資 料>2018年度 応用生物化学講座 卒業論文発表会・審査会 発表資料
(73)【特許権者】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】高田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】幸塚 久典
(72)【発明者】
【氏名】伊勢 優史
(72)【発明者】
【氏名】福岡 雅史
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-095501(JP,A)
【文献】特開平09-067317(JP,A)
【文献】ウミウシの餌,2016年04月30日,インターネット<URL:https://aquarium.co.jp/diary/2016/04/24276>
【文献】倉持卓司ら,相模湾から採集されたイバラウミウシ属,神奈川自然誌資料,2009年03月,vol.30,p.37-40
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 50/80
A23K 10/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
後鰓類生物の餌生物を特定する方法であって、
前記後鰓類生物
の組織をアルコールに浸漬して抽出した二次代謝産物のクロマトグラフィー分析により得られた第1のクロマトグラムと、前記餌生物の候補生物
の組織をアルコールに浸漬して抽出した二次代謝産物のクロマトグラフィー分析により得られた第2のクロマトグラムとを比較し、前記第1のクロマトグラム及び前記第2のクロマトグラムの一致度を評価する工程と、
前記一致度が所定値以上であった場合に前記候補生物が前記餌生物であると判定する工程と、
を含
み、
前記第1のクロマトグラム及び前記第2のクロマトグラムは、同一の方法及び条件のクロマトグラフィー分析により得られたものであり、
前記一致度が所定値以上であるとは、
前記第1のクロマトグラム及び前記第2のクロマトグラムを比較した場合に、1つ以上の化学成分が共通していることであるか、
シグナル強度の大きな順に第1番目から第10番目の成分のうち1つ以上の成分の保持時間及び分子量が同一であることであるか、
前記第1のクロマトグラム及び前記第2のクロマトグラムのそれぞれから化合物情報を抽出し、二次代謝産物に含まれる化合物の種類の類似性をクラスター解析により評価した場合に、両者が類似していると評価されることであるか、又は、
後鰓類生物の二次代謝産物の化学成分のうちの5%以上が餌生物の候補生物の二次代謝産物の化学成分に含まれていることである、方法。
【請求項2】
前記候補生物を前記後鰓類生物に与えて、摂食するか否かを判定する工程を更に含み、
前記後鰓類生物が前記候補生物を摂食した場合に、前記候補生物が前記後鰓類生物の餌生物であると判定する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記クロマトグラフフィー分析が、液体クロマトグラフィー(LC)又は液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)により行われる、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記二次代謝産物が、ペプチド、ポリケチド、テルペノイド、脂質又はアルカロイドを含む、請求項1
~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記後鰓類生物がウミウシである、請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記候補生物が、カイメン、ホヤ、コケムシ又はヒドロ虫である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
カイメン(Phorbas sp.)又はその抽出物を含む、
ハケジタウミウシ(Geitodoris sp.)の飼料。
【請求項8】
カイメン(Hymeniacidon synapium)又はその抽出物を含む、マダラウミウシ(Dendrodoris fumata)の飼料。
【請求項9】
ハケジタウミウシ(Geitodoris sp.)に、請求項
7に記載の飼料を給餌する工程を含む、
ハケジタウミウシ(Geitodoris sp.)の飼育方法。
【請求項10】
マダラウミウシ(Dendrodoris fumata)に、請求項8に記載の飼料を給餌する工程を含む、マダラウミウシ(Dendrodoris fumata)の飼育方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、後鰓類生物の餌生物を特定する方法に関する。より詳細には、本発明は、後鰓類生物の餌生物を特定する方法、後鰓類生物の飼料及び後鰓類生物の飼育方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウミウシに代表される後鰓類生物の中には、色彩が美しいもの、容姿が可愛らしいもの等、観賞生物になり得るものが存在する。しかしながら、後鰓類生物は偏食傾向が強く、特定の種の後鰓類生物は特定の種の餌生物しか摂食しないと考えられているものの、後鰓類生物の餌はほとんど特定されていない。このため、水族館等の施設においてもウミウシの長期飼育は実現できていないのが現状である(例えば、非特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】林 牧子、深町 昌司、「裸鰓目ウミウシ幼生の飼育の試み」、公益財団法人 水産無脊椎動物研究所発行、うみうし通信、No.84, 4-5, 2014.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、後鰓類生物の餌生物を特定する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]後鰓類生物の餌生物を特定する方法であって、前記後鰓類生物から抽出した二次代謝産物のクロマトグラフィー分析により得られた第1のクロマトグラムと、前記餌生物の候補生物から抽出した二次代謝産物のクロマトグラフィー分析により得られた第2のクロマトグラムとを比較し、前記第1のクロマトグラム及び前記第2のクロマトグラムの一致度を評価する工程と、前記一致度が所定値以上であった場合に前記候補生物が前記餌生物であると判定する工程と、を含む、方法。
[2]前記クロマトグラフフィー分析が、液体クロマトグラフィー(LC)又は液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)により行われる、[1]に記載の方法。
[3]前記二次代謝産物が、ペプチド、ポリケチド、テルペノイド、脂質又はアルカロイドを含む、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]前記後鰓類生物がウミウシである、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]前記候補生物が、カイメン、ホヤ、コケムシ又はヒドロ虫である、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]後鰓類生物の餌生物又はその抽出物を含む、前記後鰓類生物の飼料。
[7]前記後鰓類生物が、ハケジタウミウシ(Geitodoris sp.)であり、前記餌生物がカイメン(Phorbas sp.)である、[6]に記載の飼料。
[8]前記後鰓類生物が、マダラウミウシ(Dendrodoris fumata)であり、前記餌生物がカイメン(Hymeniacidon synapium)である、[6]に記載の飼料。
[9]後鰓類生物に、[6]に記載の飼料を給餌する工程を含む、前記後鰓類生物の飼育方法。
[10]前記後鰓類生物が、ハケジタウミウシ(Geitodoris sp.)であり、前記餌生物がカイメン(Phorbas sp.)である、[9]に記載の飼育方法。
[11]前記後鰓類生物が、マダラウミウシ(Dendrodoris fumata)であり、前記餌生物がカイメン(Hymeniacidon synapium)である、[9]に記載の飼育方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、後鰓類生物の餌生物を特定する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実験例2において、ハケジタウミウシ(Geitodoris sp.)の二次代謝産物のLC-MS解析のクロマトグラムと、カイメン(Phorbas sp.)の二次代謝産物のLC-MS解析のクロマトグラムを並べて示した図である。
【
図2】実験例3において、マダラウミウシ(Dendrodoris fumata)の二次代謝産物のLC-MS解析のクロマトグラムと、カイメン(Hymeniacidon synapium)の二次代謝産物のLC-MS解析のクロマトグラムを並べて示した図である。
【
図3】実験例4において、ハケジタウミウシ(Geitodoris sp.)をカイメン(Phorbas sp.)と共に飼育している様子を撮影した写真である。
【
図4】実験例5において、マダラウミウシ(Dendrodoris fumata)をカイメン(Hymeniacidon synapium)と共に飼育している様子を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[後鰓類生物の餌生物を特定する方法]
1実施形態において、本発明は、後鰓類生物の餌生物を特定する方法であって、前記後鰓類生物から抽出した二次代謝産物のクロマトグラフィー分析により得られた第1のクロマトグラムと、前記餌生物の候補生物から抽出した二次代謝産物のクロマトグラフィー分析により得られた第2のクロマトグラムとを比較し、前記第1のクロマトグラム及び前記第2のクロマトグラムの一致度を評価する工程と、前記一致度が所定値以上であった場合に前記候補生物が前記餌生物であると判定する工程とを含む方法を提供する。
【0009】
後鰓類生物としては、研究上有用な生物、観賞生物になり得る生物等が挙げられ、より具体的にはウミウシが挙げられる。また、餌生物の候補生物としては、カイメン、ホヤ、コケムシ、ヒドロ虫等が挙げられる。
【0010】
実施例において後述するように、発明者らは、後鰓類生物の体内に餌生物由来の二次代謝産物が蓄積されること、後鰓類生物及びその餌生物の二次代謝産物の成分組成が良好に一致することを見出し、本発明を完成させた。本実施形態の方法により、後鰓類生物の餌生物を特定することができる。
【0011】
二次代謝産物とは、生物の細胞成長、発生、生殖には直接的には関与していない有機化合物である。より具体的な二次代謝産物としては、ペプチド、テルペノイド、ポリケチド、脂質、アルカロイド等が挙げられる。
【0012】
本実施形態の方法においては、まず、餌生物を特定する対象となる後鰓類生物、及び、餌生物の候補生物から、それぞれ二次代謝産物を抽出する。二次代謝産物の抽出方法は特に限定されず、例えば、後鰓類生物又は候補生物の組織をアルコールに浸漬して抽出する方法等が挙げられる。アルコールとしては、エタノール、メタノール、イソプロパノール、これらの組み合わせ等が挙げられる。
【0013】
続いて、後鰓類生物から抽出した二次代謝産物をクロマトグラフィー分析し、第1のクロマトグラムを得る。クロマトグラフフィー分析としては、液体クロマトグラフィー(LC)、液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0014】
また、餌生物の候補生物から抽出した二次代謝産物をクロマトグラフィー分析し、第2のクロマトグラムを得る。クロマトグラフフィー分析としては、上述したものと同様の分析方法が挙げられる。後鰓類生物から抽出した二次代謝産物、及び、餌生物の候補生物から抽出した二次代謝産物の双方を、同一の方法及び条件でクロマトグラフィー分析することが好ましい。
【0015】
続いて、第1のクロマトグラムと第2のクロマトグラムとを比較し、第1のクロマトグラム及び第2のクロマトグラムの一致度を評価する。クロマトグラムの一致度の評価は目視により行ってもよいし、クロマトグラムの評価で一般的に用いられるクラスター解析等により行ってもよい。
【0016】
例えば、第1のクロマトグラム及び第2のクロマトグラムを目視で比較した場合に、クロマトグラムのピークが類似していれば、クロマトグラムの一致度が所定値以上であると判断することができる。
【0017】
あるいは、第1のクロマトグラム及び第2のクロマトグラムを比較した場合に、1つ以上、好ましくは2つ以上、より好ましくは3つ以上の化学成分が共通していれば、クロマトグラムの一致度が所定値以上であると判断することができる。
【0018】
あるいは、第1のクロマトグラム及び第2のクロマトグラムをLC-MSで取得して比較した場合に、1つ以上、好ましくは2つ以上、より好ましくは3つ以上の主要成分の保持時間と分子量が同一である場合に、クロマトグラムの一致度が所定値以上であると判断することができる。ここで、主要成分とは、シグナル強度の大きな順に第1番目から第10番目程度の成分であってよい。
【0019】
あるいは、クロマトグラフィー解析をLC-MS等により行い、第1のクロマトグラム及び第2のクロマトグラムのそれぞれから、化合物情報を抽出し、二次代謝産物に含まれる化合物の種類の類似性をクラスター解析により評価し、クロマトグラムの一致度を評価してもよい。
【0020】
本実施形態の方法において、クロマトグラムの一致度が所定値以上であるとは、例えば、後鰓類生物の二次代謝産物の化学成分のうちの、例えば5%以上、例えば10%以上、例えば15%以上、例えば20%以上、例えば30%以上、例えば40%以上が、餌生物の候補生物の二次代謝産物の化学成分に含まれていることであってよい。
【0021】
第1のクロマトグラム及び第2のクロマトグラムの一致度が所定値以上であると評価された場合、候補生物が、対象の後鰓類生物の餌生物であると判定することができる。
【0022】
本実施形態の方法は、特定された候補生物を後鰓類生物に与えて、摂食するか否かを判定する工程を更に備えていてもよい。後鰓類生物が餌生物の候補生物を実際に摂食した場合、当該候補生物が後鰓類生物の餌生物であることを更に確実に証明することができる。
【0023】
本実施形態の方法において、餌生物の候補生物から抽出した二次代謝産物のクロマトグラフィー分析は、毎回実施しなくてもよい。例えば、予め、餌生物の候補生物から抽出した二次代謝産物のクロマトグラムのデータベースを作成しておくこともできる。そして、後鰓類生物から抽出した二次代謝産物をクロマトグラフィー分析して得た第1のクロマトグラムを、データベースに蓄積された第2のクロマトグラムと照合し、所定値以上の一致度を示す候補生物を餌生物として特定してもよい。
【0024】
ここで、上記データベースは、クロマトグラムのデータベースに限られず、例えば、二次代謝産物のクロマトグラムから特定した、化合物の種類及び量の情報を含むデータベースであってもよい。
【0025】
本実施形態の方法により、餌生物が特定された場合、当該餌生物自体を試料として用いることもできるし、餌生物の代謝産物情報を基にして新たな餌料を開発することもできる。後鰓類生物の長期飼育は困難であるとされているが、開発した餌料を用いることで、ウミウシをはじめとした色鮮やかな後鰓類生物を新たな鑑賞生物として飼育することが可能になる。本明細書において、長期飼育とは、例えば3ヶ月以上、例えば6ヶ月以上、例えば1年以上の飼育を意味する。
【0026】
[後鰓類生物の飼料]
1実施形態において、本発明は、後鰓類生物の餌生物又はその抽出物を含む、前記後鰓類生物の飼料を提供する。本実施形態の飼料により、従来長期飼育することが困難であった後鰓類生物を長期飼育することが可能になる。後鰓類生物の餌生物は上述した方法により特定されたものであることが好ましい。
【0027】
例えば、後鰓類生物がハケジタウミウシ(Geitodoris sp.)であり、飼料が、カイメン(Phorbas sp.)又はカイメン(Phorbas sp.)の抽出物であってもよい。この組み合わせは、後述する実施例において特定された、後鰓類生物及び餌生物の組み合わせの一つである。カイメン(Phorbas sp.)は、生体であってもよく、冷蔵保存されたものであってもよく、冷凍保存されたものであってもよく、乾燥粉末等の形態に加工されたものであってもよい。
【0028】
あるいは、後鰓類生物が、マダラウミウシ(Dendrodoris fumata)であり、飼料が、カイメン(Hymeniacidon synapium)又はカイメン(Hymeniacidon synapium)の抽出物であってもよい。この組み合わせは、後述する実施例において特定された、後鰓類生物及び餌生物の組み合わせの一つである。カイメン(Hymeniacidon synapium)は、生体であってもよく、冷蔵保存されたものであってもよく、冷凍保存されたものであってもよく、乾燥粉末等の形態に加工されたものであってもよい。
【0029】
[後鰓類生物の飼育方法]
1実施形態において、本発明は、後鰓類生物に、上述した飼料を給餌する工程を含む、前記後鰓類生物の飼育方法を提供する。本実施形態の飼育方法により、従来困難であった後鰓類生物の長期飼育を実現することができる。
【0030】
例えば、後鰓類生物が、ハケジタウミウシ(Geitodoris sp.)であり、前記餌生物がカイメン(Phorbas sp.)であってもよい。あるいは、後鰓類生物が、マダラウミウシ(Dendrodoris fumata)であり、前記餌生物がカイメン(Hymeniacidon synapium)であってもよい。上述したように、これらの組み合わせは、後述する実施例において特定された、後鰓類生物及び餌生物の組み合わせである。
【実施例】
【0031】
次に実験例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【0032】
[実験例1]
三浦半島(神奈川県三浦市)及び菅島(三重県鳥羽市)における磯採集で、後鰓類生物を含む、60種類の海洋生物を採集し、実験に用いた。
【0033】
それぞれの生物試料から二次代謝産物をエタノールで抽出し、前処理を行った。続いて、C18カラムを用いたLC-MS分析を行い、二次代謝産物プロファイルのデータベースを構築した。続いて、得られたLC-MSデータから化合物情報を抽出し、その類似性を調べるためにクラスター解析を行った。
【0034】
後鰓類生物の個体ごとの二次代謝産物をクラスター解析した結果、同種のウミウシは類似した二次代謝産物を示し、更に種間では二次代謝産物が大きく異なることが明らかとなった。これらの結果は、ウミウシは偏食傾向が強いということを二次代謝産物の観点からも支持している。
【0035】
[実験例2]
後鰓類生物から抽出した二次代謝産物のLC-MS解析のクロマトグラムと、餌生物の候補生物から抽出した二次代謝産物のLC-MS解析のクロマトグラムとを比較し、一致度を評価した。
【0036】
図1は、ハケジタウミウシ(Geitodoris sp.)の二次代謝産物のLC-MS解析のクロマトグラムと、カイメン(Phorbas sp.)の二次代謝産物のLC-MS解析のクロマトグラムを並べて示した図である。
【0037】
その結果、
図1に示すように、両者はよく一致することが明らかとなった。この結果は、ハケジタウミウシ(Geitodoris sp.)の餌生物がカイメン(Phorbas sp.)であることを示す。
【0038】
[実験例3]
後鰓類生物から抽出した二次代謝産物のLC-MS解析のクロマトグラムと、餌生物の候補生物から抽出した二次代謝産物のLC-MS解析のクロマトグラムとを比較し、一致度を評価した。
【0039】
図2は、マダラウミウシ(Dendrodoris fumata)の二次代謝産物のLC-MS解析のクロマトグラムと、カイメン(Hymeniacidon synapium)の二次代謝産物のLC-MS解析のクロマトグラムを並べて示した図である。
【0040】
その結果、
図2に示すように、両者はよく一致することが明らかとなった。この結果は、マダラウミウシ(Dendrodoris fumata)の餌生物がカイメン(Hymeniacidon synapium)であることを示す。
【0041】
[実験例4]
実験例2において、ハケジタウミウシ(Geitodoris sp.)の餌生物がカイメン(Phorbas sp.)であることが特定された。そこで、ハケジタウミウシ(Geitodoris sp.)とカイメン(Phorbas sp.)とを同一水槽内で飼育し、観察した。
【0042】
図3は、ハケジタウミウシ(Geitodoris sp.)をカイメン(Phorbas sp.)と共に飼育している様子を撮影した写真である。その結果、
図3に示すように、ハケジタウミウシ(Geitodoris sp.)がカイメン(Phorbas sp.)を摂食する様子が観察された。
【0043】
更に、ハケジタウミウシ(Geitodoris sp.)をカイメン(Phorbas sp.)以外のカイメンと共に飼育しても摂食する様子は認められなかった。この結果は、ハケジタウミウシ(Geitodoris sp.)の餌生物がカイメン(Phorbas sp.)であることを示す。
【0044】
[実験例5]
実験例3において、マダラウミウシ(Dendrodoris fumata)の餌生物がカイメン(Hymeniacidon synapium)であることが特定された。そこで、マダラウミウシ(Dendrodoris fumata)とカイメン(Hymeniacidon synapium)とを同一水槽内で飼育し、観察した。
【0045】
図4は、マダラウミウシ(Dendrodoris fumata)をカイメン(Hymeniacidon synapium)と共に飼育している様子を撮影した写真である。その結果、
図4に示すように、マダラウミウシ(Dendrodoris fumata)がカイメン(Hymeniacidon synapium)を摂食する様子が観察された。
【0046】
更に、マダラウミウシ(Dendrodoris fumata)をカイメン(Hymeniacidon synapium)以外のカイメンと共に飼育しても摂食する様子は認められなかった。この結果は、マダラウミウシ(Dendrodoris fumata)の餌生物がカイメン(Hymeniacidon synapium)であることを示す。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明により、後鰓類生物の餌生物を特定する技術を提供することができる。