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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】発光きのこおよび発光菌糸体の栽培方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 18/69 20180101AFI20240105BHJP
   A01G 18/00 20180101ALI20240105BHJP
【FI】
A01G18/69
A01G18/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019153252
(22)【出願日】2019-08-23
(65)【公開番号】P2021029172
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】亀井 一郎
(72)【発明者】
【氏名】石井 栄津子
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-27634(JP,A)
【文献】特開平8-280247(JP,A)
【文献】寺嶋芳江、根太仁、広井勝,Luminescent intensity of cultured mycelia of eight basidiomycetous fungi from Japan,日本きのこ学会誌,24巻4号,日本,2018年09月22日,p.176-181
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 18/00 - 18/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)培地にエナシラッシタケ菌株の種菌を接種し、培養して菌糸体を生育させる工程、 (ii)工程(i)において生育した菌糸体を、含水率60~70%に調整された、固体培地である広葉樹木粉と米糠とを含む混合培地に接種する工程、
(iii)接種した菌糸体を20~30℃、実質的に暗黒の条件下で30~70日培養する工程、
(iv)培養したエナシラッシタケ菌株を、照度100~3000Lxの光で24時間光照射条件下に移行し、光照射下で、
(a)散水処理する、
(b)散水処理し菌かき処理する、
(c)散水処理しピートモス覆土処理する、及び
(d)散水処理し菌かき処理しピートモス覆土処理する、
からなる群より選択される、子実体発生処理を行う工程、
(v)工程(iv)において子実体発生処理を行ったエナシラッシタケ菌株に、光照射下で、2~4日に1回の噴射散水により水分を補給しながら、エナシラッシタケ菌株を20~30℃にて20~50日培養する、子実体形成工程、
を含む、エナシラッシタケの栽培方法。
【請求項2】
(i)培地にエナシラッシタケ菌株の種菌を接種し、培養して菌糸体を生育させる工程、 (ii)工程(i)において生育した菌糸体を、液体培地に接種する工程、
(iii)接種した菌糸体を20~30℃、実質的に暗黒の条件下で30~70日培養する工程、
(iv)培養したエナシラッシタケ菌株を、照度100~3000Lxの光で24時間光照射条件下に移行し、光照射下で20~30℃にて、20~50日培養する子実体形成工程、
を含む、エナシラッシタケの栽培方法。
【請求項3】
(i)培地にエナシラッシタケ菌株の種菌を接種し、培養して菌糸体を生育させる工程、 (ii)工程(i)において生育した菌糸体を原木基材に接種する工程、
(iii)原木基材に接種した菌糸体を20~30℃、実質的に暗黒の条件下で30~70日原木栽培する工程、
(iv)栽培したエナシラッシタケ菌株を、照度100~3000Lxの光で24時間光照射条件下に移行し、光照射下で散水処理する、子実体発生処理を行う工程、
(v)工程(iv)において子実体発生処理を行ったエナシラッシタケ菌株に、光照射下で、2~4日に1回の噴射散水により水分を補給しながら、エナシラッシタケ菌株を20~30℃にて20~50日原木栽培する、子実体形成工程、
を含む、エナシラッシタケの栽培方法。
【請求項4】
工程(i)において、配列番号2に記載の配列を有するInternal transcribed spacer 1(ITS-1)と96~100%の塩基配列同一性を有するITS-1配列を有し、配列番号4に記載の配列を有するInternal transcribed spacer 2(ITS-2)の配列と96~100%の塩基配列同一性を有するITS-2配列を有するエナシラッシタケ菌株を種菌として使用するか、又は
工程(i)において、配列番号6に記載の配列を有するInternal transcribed spacer 1(ITS-1)と96~100%の塩基配列同一性を有するITS-1配列を有し、配列番号8に記載の配列を有するInternal transcribed spacer 2(ITS-2)の配列と96~100%の塩基配列同一性を有するITS-2配列を有するエナシラッシタケ菌株を種菌として使用する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
固体培地である広葉樹木粉と米糠とを含む混合培地、もしくは液体培地と、当該培地から発生した子実体であって、520~530nmに発光ピーク波長を有する、人工栽培エナシラッシタケの子実体とを含む、培地と人工栽培エナシラッシタケの子実体のセット
【請求項6】
配列番号2に記載の配列を有するInternal transcribed spacer 1(ITS-1)と96~100%の塩基配列同一性を有するITS-1配列を有し、配列番号4に記載の配列を有するInternal transcribed spacer 2(ITS-2)の配列と96~100%の塩基配列同一性を有するITS-2配列を有するか、又は、
配列番号6に記載の配列を有するInternal transcribed spacer 1(ITS-1)と96~100%の塩基配列同一性を有するITS-1配列を有し、配列番号8に記載の配列を有するInternal transcribed spacer 2(ITS-2)の配列と96~100%の塩基配列同一性を有するITS-2配列を有する、請求項5に記載の培地と人工栽培エナシラッシタケの子実体のセット
【請求項7】
(i)前培養されたエナシラッシタケ菌株の種菌が接種されている、含水率60~70%に調整された、固体培地である広葉樹木粉と米糠とを含む混合培地、及び
(ii)エナシラッシタケを人工栽培するための使用説明書
を含む、エナシラッシタケの子実体の人工栽培キットであって、
使用説明書が、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法を記載したものである、前記キット。
【請求項8】
(i)前培養されたエナシラッシタケ菌株の種菌が接種されている液体培地、及び
(ii)エナシラッシタケを人工栽培するための使用説明書
を含む、エナシラッシタケの子実体の人工栽培キットであって、
使用説明書が、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法を記載したものである、前記キット。
【請求項9】
(i)接種されている前培養されたエナシラッシタケ菌株の種菌が、
配列番号2に記載の配列を有するInternal transcribed spacer 1(ITS-1)と96~100%の塩基配列同一性を有するITS-1配列を有し、配列番号4に記載の配列を有するInternal transcribed spacer 2(ITS-2)の配列と96~100%の塩基配列同一性を有するITS-2配列を有するかエナシラッシタケである、又は、
配列番号6に記載の配列を有するInternal transcribed spacer 1(ITS-1)と96~100%の塩基配列同一性を有するITS-1配列を有し、配列番号8に記載の配列を有するInternal transcribed spacer 2(ITS-2)の配列と96~100%の塩基配列同一性を有するITS-2配列を有するエナシラッシタケである、
請求項7又は8に記載のキット。
【請求項10】
キットがさらに、
(iii)前記の混合培地を実質的に暗黒の条件下で培養することを可能とする遮光手段又は遮光用部材を有し、
(iv)子実体を発生させるための
(a)散水処理するための手段又は部材、
(b)菌かき処理するための手段又は部材、並びに/或いは
(c)ピートモス、及び、ピートモス覆土処理するための手段又は部材を有し、
(v)照度100~3000Lxの光で24時間光照射することを可能とする光照射手段又は光照射部材を有する、
請求項7に記載のキット。
【請求項11】
キットがさらに、
(iii)前記の液体培地を実質的に暗黒の条件下で培養することを可能とする遮光手段又は遮光用部材を有し、
(iv)照度100~3000Lxの光で24時間光照射することを可能とする光照射手段又は光照射部材を有する、
請求項8に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光きのこおよび発光菌糸体の栽培方法及び栽培キットに関する。
【背景技術】
【0002】
発光きのこは世界に100種ほど知られ、日本ではツキヨタケ、ヤコウタケ、シイノトモシビタケなど10種ほどが知られている。その中で、エナシラッシタケ(Favolaschia peziziformis)は、宮崎市青島、沖縄、八丈島、南大東島のビロウ林のみに自生し、5月~7月の雨季に子実体を発生する人気の発光きのこである(図1)。深夜に真っ暗な環境で青島のビロウ林を観察すると、さながら小銀河のような美しい光景が広がり、観光資源としての価値が非常に高い。しかしながら、生育場所は青島神社の境内にあり、青島亜熱帯性植物群落として特別天然記念物指定を受けていることから、特に夜間の一般人の立ち入りは出来ず、その姿を公開することが不可能であった。
【0003】
他の発光きのこの栽培の報告例もあるが、発光が観察できる期間が数日と大変短く、その発光部位(傘)も限定されていた。例えば特許文献1-3及び非特許文献1はヤコウタケを記載しているが、ヤコウタケの寿命は子実体1つあたり約3日である。これらのことから、発光きのこの観賞用、教育用、観光用への利用が限られているのが現状である。
【0004】
発光きのこの発光メカニズムは十分に解明されておらず、その原因の一つが栽培方法の未確立、発光部位が子実体(きのこ)の一部に限定されていることから、研究開発に使用する発光材料が微量であることにあり、発光きのこ、菌糸の大量培養が望まれていた。この点、エナシラッシタケは菌糸も強く発光する。しかしながらエナシラッシタケの人工的な栽培法は確立されておらず、安定的に又は大量に培養したり採取することは困難であった。
【0005】
一方で、きのこの発光メカニズムはほとんど解明されていなかったが、ノーベル賞を受賞した下村脩氏は、発光きのこの反応には酵素が関わっていない可能性があると報告している(非特許文献2)。さらに、近年Kotlobayらがルシフェラーゼとルシフェリン生合成酵素の遺伝子を決定し、きのこの発光機構が各分野に応用される可能性も高まった(非特許文献3)。寺嶋らは、エナシラッシタケの培養菌糸体が発光きのこの中で最も強く光ると報告している(非特許文献4)。このように、最近になって発光きのこ研究分野において徐々に新しい発見が見出されてきた。しかしながら、これまでエナシラッシタケの子実体形成に成功したという報告はなく、液体培養にて菌糸が発光しているという報告もない。
【0006】
非特許文献4及び5は既知の発光きのこの発光ピーク波長を記載している。
【0007】
本明細書においては、特許、特許出願、論文、総説、および製造業者のマニュアル等の文書が引用されることがある。これらの文書の開示は、本発明の特許性に関連するとはみなされないが、その全体を参照により本明細書に組み入れることとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平8-280247
【文献】特開2002-065057号公報
【文献】特開2005-027634号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Niitsu H, Hanyuda N. Fruit-body production of a luminous mushroom, Mycena chlorophos. Mycoscience 41, 559-564, 2000.
【文献】Shimomura O, Satoh S, Kishi Y. Structure and non-enzymatic light emission of two luciferin precursors isolated from the luminous mushroom Panellus stipticus. Biolumin. Chemilu-min., 8, 201-205. 1993.
【文献】Kotlobay et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 115, 12728-12732. 2018
【文献】Terashima Y, Neda H and Hiroi M. Luminescent intensity of cultured mycelia of eight basidiomycetous fungi from Japan. Mushroom Science and Biotechnology, Vol. 24 (4) 176-181, 2017
【文献】Teranishi K. Localization of the bioluminescence system in the pileus of Mycena chlorophos. Luminescence, Vol. 31(2) 594-599, 2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、エナシラッシタケの栽培方法及びキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、エナシラッシタケが宮崎に特有のきのこであり、菌糸が最も強く発光するという特性に着目し、展示による観光への利用、発光メカニズムの解明、およびその応用研究を目的に、子実体形成試験および液体培養試験を鋭意行った。
【0012】
その結果、驚くべきことに、エナシラッシタケ子実体から菌糸の分離・拡大培養を行い、菌床培地・寒天培地もしくは液体培養上で培養し、一定期間培養を行うことで、発光菌糸および発光子実体を生産する技術を確立することに成功し、これを一実施形態として包含する本発明を完成させた。本発明者らの知る限り、エナシラッシタケの人工栽培に成功した例はない。
【0013】
さらに、エナシラッシタケ(Favolaschia peziziformis)のInternal transcribed spacer 1(以下、ITS-1と記載することがある)及びInternal transcribed spacer 2(以下、ITS-2と記載することがある)はこれまで決定されていなかったが、本発明者らはこれを決定した。
【0014】
本発明は、以下の実施形態を包含する:
[1] (i)培地にエナシラッシタケ菌株の種菌を接種し、培養して菌糸体を生育させる工程、
(ii)工程(i)において生育した菌糸体を、含水率60~70%に調整された、固体培地である広葉樹木粉と米糠とを含む混合培地に接種する工程、
(iii)接種した菌糸体を20~30℃、実質的に暗黒の条件下で30~70日培養する工程、
(iv)培養したエナシラッシタケ菌株を、照度100~3000Lxの光で24時間光照射条件下に移行し、光照射下で、
(a)散水処理する、
(b)散水処理し菌かき処理する、
(c)散水処理しピートモス覆土処理する、及び
(d)散水処理し菌かき処理しピートモス覆土処理する、
からなる群より選択される、子実体発生処理を行う工程、
(v)工程(iv)において子実体発生処理を行ったエナシラッシタケ菌株に、光照射下で、2~4日に1回の噴射散水により水分を補給しながら、エナシラッシタケ菌株を20~30℃にて20~50日培養する、子実体形成工程、
を含む、エナシラッシタケの栽培方法。
[2] (i)培地にエナシラッシタケ菌株の種菌を接種し、培養して菌糸体を生育させる工程、
(ii)工程(i)において生育した菌糸体を、液体培地に接種する工程、
(iii)接種した菌糸体を20~30℃、実質的に暗黒の条件下で30~70日培養する工程、
(iv)培養したエナシラッシタケ菌株を、照度100~3000Lxの光で24時間光照射条件下に移行し、光照射下で20~30℃にて、20~50日培養する子実体形成工程、
を含む、エナシラッシタケの栽培方法。
[3] (i)培地にエナシラッシタケ菌株の種菌を接種し、培養して菌糸体を生育させる工程、
(ii)工程(i)において生育した菌糸体を原木基材に接種する工程、
(iii)原木基材に接種した菌糸体を20~30℃、実質的に暗黒の条件下で30~70日原木栽培する工程、
(iv)栽培したエナシラッシタケ菌株を、照度100~3000Lxの光で24時間光照射条件下に移行し、光照射下で散水処理する、子実体発生処理を行う工程、
(v)工程(iv)において子実体発生処理を行ったエナシラッシタケ菌株に、光照射下で、2~4日に1回の噴射散水により水分を補給しながら、エナシラッシタケ菌株を20~30℃にて20~50日原木栽培する、子実体形成工程、
を含む、エナシラッシタケの栽培方法。
[4] 工程(i)において、配列番号2に記載の配列を有するInternal transcribed spacer 1(ITS-1)と96~100%の塩基配列同一性を有するITS-1配列を有し、配列番号4に記載の配列を有するInternal transcribed spacer 2(ITS-2)の配列と96~100%の塩基配列同一性を有するITS-2配列を有するエナシラッシタケ菌株を種菌として使用するか、又は
工程(i)において、配列番号6に記載の配列を有するInternal transcribed spacer 1(ITS-1)と96~100%の塩基配列同一性を有するITS-1配列を有し、配列番号8に記載の配列を有するInternal transcribed spacer 2(ITS-2)の配列と96~100%の塩基配列同一性を有するITS-2配列を有するエナシラッシタケ菌株を種菌として使用する、実施形態1~3のいずれかに記載の方法。
[5] 実施形態1~4のいずれかに記載の方法により人工栽培された、520~530nmに発光ピーク波長を有する、人工栽培エナシラッシタケ。
[6] 配列番号2に記載の配列を有するInternal transcribed spacer 1(ITS-1)と96~100%の塩基配列同一性を有するITS-1配列を有し、配列番号4に記載の配列を有するInternal transcribed spacer 2(ITS-2)の配列と96~100%の塩基配列同一性を有するITS-2配列を有するか、又は、
配列番号6に記載の配列を有するInternal transcribed spacer 1(ITS-1)と96~100%の塩基配列同一性を有するITS-1配列を有し、配列番号8に記載の配列を有するInternal transcribed spacer 2(ITS-2)の配列と96~100%の塩基配列同一性を有するITS-2配列を有する、実施形態5に記載の人工栽培エナシラッシタケ。
[7] (i)前培養されたエナシラッシタケ菌株の種菌が接種されている、含水率60~70%に調整された、固体培地である広葉樹木粉と米糠とを含む混合培地、及び
(ii)エナシラッシタケを人工栽培するための使用説明書
を含む、エナシラッシタケの人工栽培キット。
[8] (i)前培養されたエナシラッシタケ菌株の種菌が接種されている液体培地、及び
(ii)エナシラッシタケを人工栽培するための使用説明書
を含む、エナシラッシタケの人工栽培キット。
[9] 使用説明書が、実施形態1~4のいずれかに記載の方法を記載したものである、実施形態7又は8に記載のキット。
[10] (i)接種されている前培養されたエナシラッシタケ菌株の種菌が、
配列番号2に記載の配列を有するInternal transcribed spacer 1(ITS-1)と96~100%の塩基配列同一性を有するITS-1配列を有し、配列番号4に記載の配列を有するInternal transcribed spacer 2(ITS-2)の配列と96~100%の塩基配列同一性を有するITS-2配列を有するかエナシラッシタケである、又は、
配列番号6に記載の配列を有するInternal transcribed spacer 1(ITS-1)と96~100%の塩基配列同一性を有するITS-1配列を有し、配列番号8に記載の配列を有するInternal transcribed spacer 2(ITS-2)の配列と96~100%の塩基配列同一性を有するITS-2配列を有するエナシラッシタケである、
実施形態7~9のいずれかに記載のキット。
[11] キットがさらに、
(iii)前記の混合培地を実質的に暗黒の条件下で培養することを可能とする遮光手段又は遮光用部材を有し、
(iv)子実体を発生させるための
(a)散水処理するための手段又は部材、
(b)菌かき処理するための手段又は部材、並びに/或いは
(c)ピートモス、及び、ピートモス覆土処理するための手段又は部材を有し、
(v)照度100~3000Lxの光で24時間光照射することを可能とする光照射手段又は光照射部材を有する、
実施形態7に記載のキット。
[12] キットがさらに、
(iii)前記の液体培地を実質的に暗黒の条件下で培養することを可能とする遮光手段又は遮光用部材を有し、
(iv)照度100~3000Lxの光で24時間光照射することを可能とする光照射手段又は光照射部材を有する、
実施形態8に記載のキット。
【発明の効果】
【0015】
本発明の効果として、エナシラッシタケを人工的に栽培することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】野生のエナシラッシタケの写真である(青島にて)。左が明所、右が暗所である。
図2】人工栽培したエナシラッシタケの写真である。左が明所、右が暗所である。Aは広葉樹木粉培地でのエナシラッシタケである。Bはエナシラッシタケ子実体(管孔)である。
図3】人工栽培エナシラッシタケの発光スペクトルを示す図である。
図4】エナシラッシタケ菌株の違いを示す写真。AはStrain 1、BはStrain 3、CはStrain 8、DはStrain 9である。培養34日後にピートモスにて覆土後、20-41日で子実体が発生した。
図5】rDNA-ITS領域におけるエナシラッシタケの系統樹を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
ある実施形態において、本発明は、エナシラッシタケの栽培方法を提供する。この栽培方法は、以下の工程を含みうる:
(i)培地にエナシラッシタケ菌株の種菌を接種し、培養して菌糸体を生育させる工程、
(ii)工程(i)において生育した菌糸体を、固体培地に接種する工程、
(iii)接種した菌糸体を20~30℃、実質的に暗黒の条件下で培養する工程、例えば30~70日培養する工程、
(iv)培養したエナシラッシタケ菌株を、照度100~3000Lxの光で24時間光照射条件下に移行し、光照射下で、
(a)散水処理する、
(b)散水処理し菌かき処理する、
(c)散水処理しピートモス覆土処理する、及び
(d)散水処理し菌かき処理しピートモス覆土処理する、
からなる群より選択される、子実体発生処理を行う工程、
(v)工程(iv)において子実体発生処理を行ったエナシラッシタケ菌株に、光照射下で、2~4日に1回の噴射散水により水分を補給しながら、エナシラッシタケ菌株を培養する、子実体形成工程、例えばエナシラッシタケ菌株を20~30℃にて20~50日培養する子実体形成工程。
【0018】
工程(i)では、接種するための種菌として、胞子分離された菌糸体を使用しうる。また、胞子分離された菌糸体は、ポテトデキストロース寒天培地で20~30℃にて前培養(予備培養)してもよい。種菌は、天然に自生するエナシラッシタケ菌株を採取し入手することができる。エナシラッシタケは宮崎市青島、沖縄、八丈島、南大東島のビロウ林などに自生することが知られている。或いは本出願人又は本出願人より許諾を受けた者から、本発明の方法により得られた子実体を入手し、これを使用し得る。
【0019】
工程(ii)の固体培地は、ある実施形態では、広葉樹木粉と米糠とを含む混合培地とすることができる。これは、含水率を60~70%に調整し得る。また、混合培地は、ポリプロピレン(PP)培養ポットに小分けにして詰め、滅菌しうる。滅菌条件は例えば121℃、30分のオートクレーブ滅菌とし得る。固体培地としては、他にはビロウ(Livistona chinensis)、フェニックス(Phoenix canariensis、フェニックスパームヤシ或いはカナリーヤシともいう)、針葉樹等に基づく固体培地、ピートモス、堆肥、麦芽培地、酵母エキス培地等を使用し得るがこれに限らない。固体培地での栽培を本明細書において菌床栽培ということがある。
【0020】
ある実施形態において、工程(iii)の培養温度は、20~30℃、例えば22~28℃、24~26℃、例えば25℃とし得る。この培養は、実質的に暗黒の条件下で行う。ある実施形態では、培養を、相対湿度40~80%、例えば55~70%にて行うことができる。ある実施形態では培養を30~70日、例えば34~66日行うことができる。
【0021】
工程(iv)では子実体発生処理を行う。子実体を発生させるためには、照度100~3000Lxの光で24時間光照射を行う。光は例えば照度100~3000Lx、500~2500Lx、1000~2600Lx、1500~2500Lx、例えば2000Lxとし得る。また、子実体発生には、少なくとも散水処理を行う。さらに、任意で、菌かき処理及び/又はピートモス覆土処理をさらに行ってもよい。散水処理のほかに、菌かき処理及び/又はピートモス覆土処理を行うことにより、子実体発生までの期間を調節することができる。
【0022】
工程(v)では、子実体発生処理を行ったエナシラッシタケ菌株に水分を補給する。水分補給としては、噴射散水を約2~4日に1回、例えば3日に1回行うことができる。工程(v)は24時間光照射下で行う。ある実施形態では、工程(v)の培養を20~50日、例えば20~45日、例えば20~41日行うことができる。
【0023】
別の実施形態では、エナシラッシタケを液体培地で培養しうる。この培養方法は、以下の工程を含みうる:
(i)培地にエナシラッシタケ菌株の種菌を接種し、培養して菌糸体を生育させる工程、
(ii)工程(i)において生育した菌糸体を、液体培地に接種する工程、
(iii)接種した菌糸体を、実質的に暗黒の条件下で培養する工程、例えば20~30℃にて30~70日培養する工程、
(iv)培養したエナシラッシタケ菌株を、照度100~3000Lxの光で24時間光照射条件下に移行し、光照射下で培養する子実体形成工程、例えば光照射下で20~30℃にて、20~50日培養する子実体形成工程。
【0024】
工程(ii)の液体培地はポテトデキストロース寒天培地の液体培地とすることができる。培養温度や光照射の照度は、固体培地の場合と同様とし得る。工程(iii)の培養は30~70日、例えば34~66日行うことができる。工程(iv)の培養は24時間光照射下で行う。工程(iv)の培養は20~50日、例えば20~45日、例えば20~41日行うことができる。液体培地としては、他にはペプトンやエキス類を用いる培地、例えば酵母エキスを含有する液体培地や麦芽エキスを含有する液体培地等を使用し得るがこれに限らない。
【0025】
別の実施形態では、エナシラッシタケを原木栽培で人工栽培しうる。この栽培方法は、以下の工程を含みうる:
(i)培地にエナシラッシタケ菌株の種菌を接種し、培養して菌糸体を生育させる工程、
(ii)工程(i)において生育した菌糸体を、原木基材に接種する工程、
(iii)原木基材に接種した菌糸体を20~30℃、実質的に暗黒の条件下で30~70日原木栽培する工程、
(iv)栽培したエナシラッシタケ菌株を、照度100~3000Lxの光で24時間光照射条件下に移行し、光照射下で散水処理する、子実体発生処理を行う工程、
(v)工程(iv)において子実体発生処理を行ったエナシラッシタケ菌株に、光照射下で、2~4日に1回の噴射散水により水分を補給しながら、エナシラッシタケ菌株を20~30℃にて20~50日原木栽培する、子実体形成工程。
【0026】
工程(ii)の原木基材としては広葉樹、針葉樹、ビロウの葉、枝又は花、フェニックスパームヤシ等を使用し得るがこれに限らない。
【0027】
ある実施形態において、本発明の培養方法により得られたエナシラッシタケは、配列番号2に記載の配列を有するInternal transcribed spacer 1(ITS-1)と96~100%の塩基配列同一性を有するITS-1配列を有しうる。さらに/或いは、本発明の培養方法により得られたエナシラッシタケは、配列番号4に記載の配列を有するInternal transcribed spacer 2(ITS-2)の配列と96~100%の塩基配列同一性を有するITS-2配列を有し得る。
【0028】
別の実施形態において、本発明の培養方法により得られたエナシラッシタケは、配列番号6に記載の配列を有するInternal transcribed spacer 1(ITS-1)と96~100%の塩基配列同一性を有するITS-1配列を有しうる。さらに/或いは、本発明の培養方法により得られたエナシラッシタケは、配列番号8に記載の配列を有するInternal transcribed spacer 2(ITS-2)の配列と96~100%の塩基配列同一性を有するITS-2配列を有し得る。
【0029】
人工栽培された本発明のエナシラッシタケは、約520~530nmに発光ピーク波長を有し得る。人工栽培された本発明のエナシラッシタケは、混合培地や液体培地などの人工培地上又は人工培地中に生育するものであるため、自然界に存在する野生のエナシラッシタケ、例えば樹木に自生するエナシラッシタケとは物として明確に区別されるものである。
【0030】
ある実施形態において、本発明はエナシラッシタケの人工栽培キットを提供する。ある実施形態において、エナシラッシタケの人工栽培キットは、
(i)前培養されたエナシラッシタケ菌株の種菌が接種されている、含水率60~70%に調整された、固体培地である広葉樹木粉と米糠とを含む混合培地、及び
(ii)エナシラッシタケを人工栽培するための使用説明書を含む。
【0031】
このキットはさらに、
(iii)前記の混合培地を実質的に暗黒の条件下で培養することを可能とする遮光手段又は遮光用部材を有し、
(iv)子実体を発生させるための
(a)散水処理するための手段又は部材、
(b)菌かき処理するための手段又は部材、並びに/或いは
(c)ピートモス、及び、ピートモス覆土処理するための手段又は部材を有し、
(v)照度100~3000Lxの光で24時間光照射することを可能とする光照射手段又は光照射部材を有してもよい。
【0032】
別の実施形態においてエナシラッシタケの人工栽培キットは、
(i)前培養されたエナシラッシタケ菌株の種菌が接種されている液体培地、及び
(ii)エナシラッシタケを人工栽培するための使用説明書を含む。
【0033】
このキットはさらに、
(iii)前記の混合培地を実質的に暗黒の条件下で培養することを可能とする遮光手段又は遮光用部材を有し、
(iv)照度100~3000Lxの光で24時間光照射することを可能とする光照射手段又は光照射部材を有してもよい。
【0034】
ある実施形態において、キットに含まれる使用説明書は、本明細書に開示されるエナシラッシタケ栽培方法を記載したものである。ある実施形態において、使用説明書は、その全内容がエナシラッシタケ栽培キットに物理的に含まれてもよい。別の実施形態では、使用説明書は、その全内容がエナシラッシタケ栽培キットに物理的に含まれるわけではなく、エナシラッシタケ栽培方法の詳細な内容を取得するための情報が、エナシラッシタケ栽培キットに含まれる。すなわち使用説明書は、必ずしもその全内容が栽培キットに物理的に付帯するものである必要はなく、エナシラッシタケ栽培の詳細な情報を取得することのできるウェブアドレスやURL情報等のみが、栽培キットに付帯する簡便な説明書において提供されてもよい。そしてウェブアドレス又はURL先に、本発明のエナシラッシタケ栽培方法の詳細を記載した情報が提供されてもよい。このような場合も、実体的にはエナシラッシタケ栽培方法の利用者(例えば実施者)は、最終的に栽培に必要な情報を取得しうる。そのため、本明細書では便宜上、「エナシラッシタケの栽培キットが使用説明書を含む」、「使用説明書がエナシラッシタケ栽培キットに含まれる」といった表現は、キットがエナシラッシタケ栽培の詳細な情報を記載した使用説明書を含む態様のみならず、キットがエナシラッシタケ栽培の詳細な情報を取得することのできるウェブアドレスやURL情報等のみ記載した簡便な説明書又は資料を含む態様も包含するものとする。
【0035】
本発明により、特定の温度・湿度・光環境を維持することで菌糸および子実体の形成および発光を誘導し、数週間から数か月程度の長い期間、菌糸および子実体の発光を観察することが出来る。
【0036】
本発明によりエナシラッシタケを、場所や時間に制約されることなく、人工的に栽培することができる。これは観賞用、観察用、観光用、観光資源として、展示用、教育用、研究開発用、販売用、販促用、ギフト用、寄贈用等様々な目的に利用することができる。また、本発明によりエナシラッシタケの栽培キットが提供される。これは観賞用キット、教育用栽培キット、趣向的観察キット等様々な目的に利用することができる。また、本発明により、自然環境を破壊することなく、或いは自然界の生態系を乱すことなく、人工的にエナシラッシタケを大量に採取し又は取得することができる。
【0037】
ヤコウタケという発光性きのこの子実体栽培方法は確立されており(特許文献1-3)、観察用の栽培キットが販売されている例があるが、発光を観察できる期間が数日と短いのに対して、本発明に係るエナシラッシタケは約1~2か月程度の長期間にわたり発光が観察可能である。また、人工的な培地により栽培が可能である。
【実施例
【0038】
本発明を以下の実施例により、さらに詳述する。これらの実施例は、単なる例証に過ぎず、いかなる意味においても本発明を限定するものと解釈されてはならない。
【0039】
[実施例1]
実験方法
エナシラッシタケ菌株:宮崎県宮崎市青島より採取し、胞子分離した菌糸体4菌株(Strain 1、3、8、9)を以下の試験に供した。
【0040】
前培養として、前記の菌糸体を、PDA培地(ポテトデキストロース寒天培地、Potato Dextrose Agar medium)(Difco Lab., Detroit)に接種し、25℃の恒温室内で培養した。
【0041】
次に固体培地として、広葉樹木粉(宮崎県林業技術センター、宮崎)と米糠とを含む混合培地(広葉樹木粉:米糠=3 : 1)を使用した。この混合培地を、含水率65%に調整後、PP(ポリプロピレン)培養ポットに100gずつ詰め、121℃、30分のオートクレーブにて滅菌した。その後、前培養したエナシラッシタケ菌株の菌糸体を接種した。比較対照としてヤコウタケの菌糸体を同時に培養した。
【0042】
培養条件として、25℃暗黒下にてインキュベーター内で34日および59日間培養した。
【0043】
子実体発生試験は以下の手順で行った。培養したエナシラッシタケ菌株を、24時間光照射(200lx)下の恒温室にて移動させ、4種類の子実体発生処理(散水、菌かき、ピートモス覆土、処理なし)を行った後、3日に1回の噴射散水により水分を補給した。子実体の発光スペクトルは、高感度分光測光装置(PMA-12, HAMAMATSU Photonics)を用いて測定した。
【0044】
液体培地としては、PDB培地(Difco Lab., Detroit)を調整後、100ml容三角フラスコに10mlずつ分注し、121℃、15分のオートクレーブにて滅菌した。その後、前培養したエナシラッシタケ菌株を接種した。これを25℃暗黒下にてインキュベーター内で30日間培養した。その後、固体培地と同様に24時間光照射(200lx)下の恒温室にて移動させた。
【0045】
結果および考察
暗黒下での培養59日後に4種類の子実体発生処理(散水、菌かき+散水、菌かき+ピートモス覆土+散水、処理無し)を行った結果、処理無し以外の3種の操作(散水、菌かき+散水、菌かき+ピートモス覆土+散水)を行ったStrain 1以外の3菌株(Strain 3、8、9)にて、子実体発生処理から29日目に一斉に子実体が発生した(図2)。写真のように子実体の特徴である管孔が確認でき、その部分の発光強度も強いことが確認できた。子実体発生に関して菌株の違いも認められ、Strain 1は発生処理後、60日経過しても子実体を形成しなかった。これらの結果より、子実体発生処理の条件として最低限散水処理を行う必要があることが判明した。ただし、暗黒下での培養34日後に同様の子実体形成処理を行うと、菌かき+ピートモス覆土+散水の処理では3菌株で子実体がすべて発生したが、菌かき+散水や散水のみだと菌株によっては子実体が形成されないものがあり、発生までの期間もばらつきがみらえた。結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
次に、表2に、エナシラッシタケ(実施例)とヤコウタケ(比較例)の子実体形成試験の結果を示した。ヤコウタケと比較して、エナシラッシタケの培養期間(34~66日)や子実体形成までの期間(20~41日)は、ヤコウタケの培養期間(40日)、子実体形成までの期間(24日)とほぼ同様の期間であった。しかしながら、ヤコウタケの培発光期間が1~3日であったのに対して、エナシラッシタケの培発光期間は、驚くべきことに、30~60日と著しく長く、子実体の発生個数も18~38個と多かった。
【0048】
【表2】
【0049】
また、人工栽培したエナシラッシタケの発光ピーク波長は、520-530nmであった(図3)。この値は、他の発光きのこと比較してほぼ同様の値である。表3に種々の発光きのこの発光ピーク波長を示す。
【0050】
【表3】
【0051】
さらに、菌株によっても子実体形成までの期間や子実体個数に違いが見られた(表4)。Strain 1では、菌糸体は発光するが、子実体の形成が見られなかった。Strain3、8、9では、子実体の発生が確認でき、その中で最も子実体形成個数が多かったのが、Strain 9(48個)であった(表4)。一方で、液体培養試験においては、培養30日後光照射下に移動させると24時間後より発光が確認でき、その発光は30日以上続くことも判明した。
【0052】
【表4】
【0053】
これらの結果より、エナシラッシタケは他の発光きのこと比較して、驚くべきことに子実体の発光期間が著しく長く、多くの子実体を人工的に発生させることが可能であることが判明した。さらに異なるエナシラッシタケ菌株で子実体形成試験を行ったところ、最も子実体形成までの期間が短く子実体個数も多かった菌株は、Strain 8、9であったことから、Strain8、9が子実体形成に対して優良株であることが確認できた。固形培地だけではなく、液体培養においても長期間の発光が確認できた。液体培養でも菌糸が光り、その光る菌糸体が大量に得られることは、従来の他の発光きのこにない、本願発明のエナシラッシタケの有利な効果と言える。
【0054】
エナシラッシタケの菌糸成長
種々の培地での菌糸成長を検討すべく、以下の培地を調整した。
麦芽培地:麦芽エキス2 g、グルコース20 g、ペプトン1 g、寒天20 g、蒸留水、1 L(pH 6.0)
酵母エキス培地:酵母エキス3g、グルコース30g、ペプトン3g、寒天20g、蒸留水、1 L(pH 6.0)
PDA培地:ポテトデキストロース寒天培地、Potato Dextrose Agar medium、Difco Lab., Detroit.(前掲)
上記3種類の培地を調整後、121℃、15分のオートクレーブにて滅菌した。その後、滅菌シャーレに3mlずつ分注し、前培養したエナシラッシタケ菌株を接種した。これを25℃暗黒下にてインキュベーター内で1週間培養した。2日毎に菌糸測定した結果を下記の表に示した。その結果、驚くべきことに、麦芽培地や酵母エキス培地のほうが、PDA培地よりも菌糸成長が良いことが判明した。
【0055】
【表5】
【0056】
[実施例2]
次に、エナシラッシタケStrain 8、9のITS領域の塩基配列を決定した。具体的には、エナシラッシタケStrain 8及びStrain 9のDNAをISOPLANT(株式会社ニッポンジーン)を用いて抽出し、保存領域の配列に基づくプライマー(配列番号9及び10)を使用してPCRを行い、DNAシークエンス解析(Applied Biosystems 3500xL ジェネティックアナライザ、和研薬株式会社)を用いてITS領域の塩基配列を決定した。
【0057】
その結果、エナシラッシタケStrain 8のrDNA-ITS領域は619bpであった(配列番号1)。そのうち、ITS1、5.8S領域、ITS2の配列は以下のとおりであった。

ITS1 (配列番号2)
TTATTGAATAACGCTAGGCATTGATGCTGGCCTTCGGGCATGTGCTCATGTCTTCATTATTTATCTTCTCTTGTGCACATTTTGTAGTCAACGCATTGGAAACCTATGCGTGCTTTCATTAGTGCGGTTTGGGAGCTGCAGCAATGCTTCTCCTGTTCCTCTGCGCACTCTTCATTGGGTTGCGTTCTGGGAGTTGTTAACCCTTCTCCTGATGCGTTGACTATGTTTTCATATACCCTGTATAAAGTCATAGAATGTCTATTAAGTCGATTGCGCTTGTCGTAGTCCTTAAACCAATACAACT

5.8S領域 (配列番号3)
TTCAGCAACGGATCTCTTGGCTCTCCTATCGATGAAGAACGCAGCGAAATGCGATAAGTAATGTGAATTGCAGAATTCAGTGAATCATCGAATCTTTGAACGCACCTTGCGCCCTTTGGTATTCCGAAGGGCATGCCTGTTTGAGTGTCATTAAATTATCAACCT

ITS2 (配列番号4)
TTCGCTTGCACTTTGCGGCTTGAGTTAGGCTTGGATGTGAGGGCTTGCTGGCTTCCTTCAGTGGATGGTCTGCTCCCTTTAAAAGCATTAGTGGGATCTCTTGTGGACCGTCACTTGGTGTGATAATTATCTACGCCGTTTGACTTTGAA
【0058】
また、エナシラッシタケStrain 9のrDNA-ITS領域は618bpであった(配列番号5)。そのうち、ITS1、5.8S領域、ITS2の配列は以下のとおりであった。

ITS1 (配列番号6)
TTATTGAATAACGCTAGGCATTGATGCTGGCCTTCGGGCATGTGCTCATGTCTTCATTATTTATCTTCTCTTGTGCACATTTTGTAGTCAACGCATTGGAAACCTATGCGTGCTTTCATTAGTGCGGTTTGGGAGCTGCAGCAATGCTTCTCCTGTTCCTCTGCGCACTCTTCATTGGGTTGCGTTCTGGGAGTTGTTAACCCTTCTCCTGATGCGTTGACTATGTTTTCATATACCCTGTATAAAGTCATAGAATGTCTATTAAGTCGATTGCGCTTGTCGTAGTCCTTAAACCAATACAACT

5.8S領域 (配列番号7)
TTCAGCAACGGATCTCTTGGCTCTCCTATCGATGAAGAACGCAGCGAAATGCGATAAGTAATGTGAATTGCAGAATTCAGTGAATCATCGAATCTTTGAACGCACCTTGCGCCCTTTGGTATTCCGAAGGGCATGCCTGTTTGAGTGTCATTAAATTATCAACCT

ITS2 (配列番号8)
TTCGCTTGCACTTTGCGGCTTGAGTTAGGCTTGGATGTGAGGGCTTGCTGGCTTCCTTCAGTGGATGGTCTGCTCCCTTTAAAAGCATTAGTGGGATCTCTTGTGGACCGTCACTTGGTGTGATAATTATCTACGCCGTTTGACTTTGA
【0059】
系統樹解析
次に、得られたITS領域の配列に基づいて系統樹を作成した。分子系統樹の作成には、MEGA10ソフトウェアを使用して、ClastalWにて多重アライメントを行った。
【0060】
結果を図5に示す。分子系統学的解析の結果、エナシラッシタケ(Favolaschia peziziformis)と他の発光性のきのこであるヤコウタケ(Mycena chlorophos)やスズメタケ(Dictyopanus gloeocystidiatus)とは明瞭に異なることが示された。
【0061】
本発明により、場所や時間に制約されることなくエナシラッシタケを人工的に栽培することが可能になった。この栽培方法により、1か月以上長期間にわたり発光が続くことも判明し、さらに、エナシラッシタケの液体培養によって発光菌糸体も多量に培養することも可能になった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明により、エナシラッシタケを人工的に栽培することができる。エナシラッシタケの特性を応用して、観賞用、教育用、観光用、研究開発用、医療用など各方面で、エナシラッシタケの発光子実体や発光菌糸体が利用されうる。
本明細書において言及された文献はいずれも、参照によりその全内容を本明細書に組み入れる。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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