(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】混紡糸および繊維構造物
(51)【国際特許分類】
D02G 3/04 20060101AFI20240105BHJP
D01F 8/14 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
D02G3/04
D01F8/14 B
(21)【出願番号】P 2019182738
(22)【出願日】2019-10-03
【審査請求日】2022-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】515047873
【氏名又は名称】加茂繊維株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129104
【氏名又は名称】舩曵 崇章
(72)【発明者】
【氏名】角野 充俊
(72)【発明者】
【氏名】田中 和彦
(72)【発明者】
【氏名】角野 寛明
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-020141(JP,A)
【文献】特開平10-219520(JP,A)
【文献】特開平10-204727(JP,A)
【文献】特開2006-022451(JP,A)
【文献】米国特許第05690922(US,A)
【文献】特開2002-327344(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 1/00 - 3/48
D02J 1/00 - 13/00
D01F 8/00 - 8/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛珪石の微粉末を含有する黒鉛珪石含有短繊維と、
四価金属のリン酸塩、二価金属の水酸化物および光触媒を含有する熱可塑性ポリマーからなる消臭短繊維と、
からなり、
前記消臭短繊維が、
芯部と鞘部からなる芯鞘型複合構造であり、
前記芯部は、融点が150℃以上の熱可塑性ポリマーからなり、
前記鞘部は、ポリブチレンテレフタレートからなり、
前記鞘部に、四価金属のリン酸塩、二価金属の水酸化物および光触媒ならびに酸化防止剤が含有されてなる、
混紡糸。
【請求項2】
黒鉛珪石含有短繊維が、
芯部と鞘部からなる芯鞘型複合構造であり、前記芯部中にのみ黒鉛珪石の微粉末を含有しており、黒鉛珪石の含有量は、黒鉛珪石含有繊維の0.5~5重量%である、
請求項1に記載の混紡糸。
【請求項3】
黒鉛珪石含有短繊維が10~30重量%含まれており、
消臭短繊維が10~90重量%含まれている、
請求項1又は2に記載の混紡糸。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の混紡糸を少なくとも一部に含む繊維構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混紡糸およびこの混紡糸を用いた繊維構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
黒鉛珪石の微粉末を含有する繊維は、例えば、特許文献1などに記載されている。特許文献1には、「黒鉛珪石の微粉末を0.2~25重量%有する繊維であって、 前記黒鉛珪石は、平均粒径が70~80μmの黒鉛珪石粒子1gを上下電極に挟んで350gの加重を付与した状態における抵抗値が9×1010Ω以下である、繊維。」が開示されており、これによって、「蓄熱保温性能に優れた繊維を安定的に得ることができる。」とある。黒鉛珪石含有繊維を用いた肌着や被服は、遠赤外線効果などにより、薄くても暖かいという優れた特徴を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017‐020141号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述したように、黒鉛珪石含有繊維を用いた肌着や被服には、蓄熱性に優れ、薄くても暖かいという優れた特徴がある。しかしながら、黒鉛珪石自体は多孔質で吸着性を有するものの、黒鉛珪石含有繊維の消臭性は不十分であった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するものであり、蓄熱性に優れ、薄くても暖かいという黒鉛珪石含有繊維の優れた特徴を維持しつつ、十分な消臭性を有する混紡糸を提供することを目的とする。また、この混紡糸を用いた繊維構造物を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、黒鉛珪石の微粉末を含有する黒鉛珪石含有短繊維と、四価金属のリン酸塩、二価金属の水酸化物および光触媒を含有する熱可塑性ポリマーからなる消臭短繊維と、からなる混紡糸とした。
【0007】
本願発明者は、蓄熱性に優れ、薄くても暖かいという黒鉛珪石含有繊維の優れた特徴を活かしつつ、消臭性を付与するために鋭意研究開発を重ねた。すると、黒鉛珪石含有短繊維と、四価金属のリン酸塩、二価金属の水酸化物および光触媒を含有する熱可塑性ポリマーからなる消臭短繊維と、からなる混紡糸によって上記課題が解決されることを見いだしたのである。
また、上記混紡糸を用いた衣類等は、上記消臭短繊維からなる混紡糸を用いたものよりも、蒸れ感が低減される。このように蒸れ感が低減される詳細な理由は不明であるが、黒鉛珪石から放出される遠赤外線によって発汗状態に変化が生じるからではないかと推察される。
以上のように、黒鉛珪石含有短繊維と消臭短繊維を混紡した混紡糸は、消臭性と蓄熱性を兼ね備えており、かつ蒸れ感が少ないという顕著な作用効果を奏する。
【0008】
また、黒鉛珪石含有短繊維が、芯部と鞘部からなる芯鞘型複合構造であり、前記芯部中にのみ黒鉛珪石の微粉末を含有しており、黒鉛珪石の含有量は、黒鉛珪石含有繊維の0.5~5重量%である、混紡糸とすることができる。
【0009】
この混紡糸は、蓄熱性に優れ、薄くても暖かいという黒鉛珪石含有繊維の優れた特徴を長期間維持しつつ、十分な消臭性を有する。
黒鉛珪石自体は多孔質で吸着性を有する。しかし、黒鉛珪石に不純物が吸着してしまうと、遠赤外線効果が低下するおそれがあった。そこで、黒鉛珪石含有短繊維を芯部と鞘部からなる芯鞘型複合構造とし、芯部中にのみ黒鉛珪石の微粉末を含有させた。これによって、黒鉛珪石が不純物を吸着しにくい構造を実現したのである。なお、芯部中にのみ黒鉛珪石の微粉末を含有させても、蓄熱性に優れ、薄くても暖かいという黒鉛珪石含有繊維の優れた特徴は確保される。
また、黒鉛珪石の含有量は、黒鉛珪石含有繊維の0.5~5重量%とすることが好ましく、0.5~4重量%含有することがより好ましい。
【0010】
また、黒鉛珪石含有短繊維が10~30重量%含まれており、消臭短繊維が10~90重量%含まれている、混紡糸とすることもできる。
【0011】
この混紡糸は、黒鉛珪石含有繊維の優れた特徴と十分な消臭性を高い次元で実現することができる。黒鉛珪石含有短繊維が15~30重量%含まれており、消臭短繊維が30~85重量%含まれている、混紡糸とすることが好ましい。
【0012】
消臭短繊維が、芯部と鞘部からなる芯鞘型複合構造であり、前記芯部は、融点が150℃以上の熱可塑性ポリマーからなり、前記鞘部は、ポリブチレンテレフタレートからなり、前記鞘部に、四価金属のリン酸塩、二価金属の水酸化物および光触媒ならびに酸化防止剤が含有されてなる、混紡糸とすることもできる。
【0013】
この混紡糸も、黒鉛珪石含有繊維の優れた特徴と十分な消臭性を高い次元で実現することができる。また、四価金属のリン酸塩、二価金属の水酸化物および光触媒ならびに酸化防止剤が鞘部に含有されているため、四価金属のリン酸塩、二価金属の水酸化物および光触媒の使用量が少ない場合であっても大きな消臭効果を得ることができる。
【0014】
これらの混紡糸を少なくとも一部に含む繊維構造物は、蓄熱性に優れ、薄くても暖かいという黒鉛珪石含有繊維の優れた特徴を維持しつつ、十分な消臭性を有するのである。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、蓄熱性に優れ薄くても暖かいという黒鉛珪石含有繊維の優れた特徴を維持しつつ、十分な消臭性を有する混紡糸を提供することができる。また、この混紡糸を用いた繊維構造物を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、混紡糸を例示説明する。混紡糸は、黒鉛珪石含有短繊維と消臭短繊維からなる。
なお、以下の実施形態や実施例はあくまで本発明を例示説明するものであって、本発明は、以下の具体的な実施形態や実施例に限定されるものではない。最初に、黒鉛珪石含有短繊維について例示説明する。
【0018】
[黒鉛珪石含有短繊維]
黒鉛珪石含有短繊維は、黒鉛珪石の微粉末を含有する短繊維である。黒鉛珪石含有短繊維は、黒鉛珪石含有繊維を短繊維化して得られる。黒鉛珪石含有繊維は、例えば、特開2017‐020141号公報に開示されている。
【0019】
1.黒鉛珪石
黒鉛珪石は、数億年に亘り海底に堆積した珪藻類が地表に隆起したものであると考えられている。黒鉛珪石は、SiO2 を主成分とし、黒鉛結晶(通常は約5%)を含んでいる。その他にも、アルミニウム、カリウム、チタンおよび二酸化鉄およびマグネシウムなどを、黒鉛珪石は含んでいる。黒鉛珪石はブラックシリカと称される場合がある。
【0020】
2.黒鉛珪石の微粉末化
黒鉛珪石を微粉末化する。このとき、平均粒径(d50:累積50%粒径)が3μm以下になるように黒鉛珪石を微粉末化することが好ましい。
【0021】
3.繊維化(長繊維化)
上記黒鉛珪石の微粉末を所定量含有する黒鉛珪石含有繊維(長繊維)を製造する。
【0022】
黒鉛珪石含有繊維を構成するポリマー、すなわち黒鉛珪石の微粉末を練り込むポリマーは、特に制限されない。紡糸時の曵糸性や糸物性を考慮すると、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン6、ナイロン66等が好ましい。また繊維断面が芯部と鞘部からなる芯鞘型の繊維とする場合には、例えば、上記ポリマーから2種類を選び、いずれかを芯部のポリマーとし、他方を鞘部のポリマーとすることができる。
【0023】
このとき、黒鉛珪石の微粉末は、芯部のポリマーと鞘部のポリマーのどちらに添加してもよい。芯部のポリマーと鞘部のポリマーの双方に添加することもできる。また、黒鉛珪石の微粉末を芯部のポリマーにのみ添加して、その周りを鞘部のポリマーで覆った、いわゆる芯鞘型の繊維とすることが好ましい。
【0024】
芯鞘型の繊維とする場合には、鞘部と芯部の比率(重量比率)としては、4:1~1:4の範囲が好ましく、3:1~1:3の範囲がより好ましく、2:1~1:1の範囲が最も好ましい。また、芯部は繊維中に一芯である必要はなく、2以上の多芯であってもよい。さらに、芯部の一部が繊維表面に露出していてもよいし、芯部が鞘部に覆われていてもよい。
【0025】
黒鉛珪石の微粉末を熱可塑性重合体に添加する方法は特に制限されない。均一分散させるという面からは、二軸押出機を用いてマスターチップ化する方法が好ましい。
黒鉛珪石の微粉末の添加時期も特に制限されない。重合初期に反応系に添加し、直接紡糸することができる。また、黒鉛珪石の微粉末を溶融状態にある重合体に混練する、いわゆる後添加方式とすることもできる。さらに、黒鉛珪石の微粉末を高濃度に含有させたマスターチップを用いる、いわゆるマスターバッチ方式とすることもできる。
【0026】
黒鉛珪石の微粉末の添加量は、好ましくは黒鉛珪石含有繊維(黒鉛珪石含有短繊維)の0.5~8.0重量%であり、より好ましくは黒鉛珪石含有繊維の0.5~5.0重量%、さらに好ましくは黒鉛珪石含有繊維の0.5~4.0重量%である。
【0027】
黒鉛珪石含有繊維として繊維化するには、上記材料を用いて、通常の繊維製造工程をそのまま用いることが可能である。繊維の太さとしては、0.5~15デシテックス(dtex)の範囲が好ましい。
【0028】
黒鉛珪石含有繊維の断面形状は特に制限されない。丸断面のほか、例えば、三~六角断面等の多角断面、T字型断面、U字型断面とすることができる。
【0029】
なお、黒鉛珪石含有繊維として、通常の繊維の表面に、黒鉛珪石の微粉末を含有する樹脂コーティング層が形成されているものも用いることもできる。ただし、摩擦耐久性などを考慮すると、黒鉛珪石の微粉末が繊維ポリマー中に練り混まれている黒鉛珪石含有繊維を用いることが好ましい。
【0030】
4.短繊維化
得られた黒鉛珪石含有繊維を短繊維化して黒鉛珪石含有短繊維とする。黒鉛珪石含有繊維は、従来公知の方法で短繊維化することができる。黒鉛珪石含有短繊維の繊維長は、好ましくは25~150mmであり、より好ましくは35~100mm、最も好ましくは、40~60mmである。捲縮数は、例えば3.3dtexの場合、12~15個/inch、捲縮率は概ね10%とすることが好ましい。
【0031】
次に、消臭短繊維について例示説明する。
[消臭短繊維]
消臭短繊維は、消臭繊維を短繊維化して得られる。消臭繊維は、四価金属のリン酸塩、二価金属の水酸化物および光触媒を含有する熱可塑性ポリマーからなる。このような消臭繊維は、例えば、特開2004‐169218号公報、特開平10‐37023号公報、特開平10‐219520号公報などに開示されている。また、このような消臭繊維は、例えば、株式会社クラレ製「シャインアップ」(登録商標)として販売されている。
なお、四価金属のリン酸塩および二価金属の水酸化物で構成される組成物を単に「吸着剤」と称する場合がある。また、この吸着剤と光触媒を合わせて「消臭剤」と称する場合がある。
【0032】
1.四価金属のリン酸塩
リン酸塩を形成する四価金属には周期表4族元素、たとえば、4A族元素(チタン、ジルコニウム、ハフニウム、トリウム等)、4B族元素(ゲルマニウム、錫、鉛等)が含まれる。これらの金属のうち、周期表4A族元素に属する金属、たとえばチタン、ジルコニウム、ハフニウムや、4B族元素、たとえば錫が好ましく、とくに、チタンおよびジルコニウムが好ましい。
【0033】
リン酸塩を構成するリン酸には種々のリン酸、たとえばオルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸等が含まれる。リン酸はオルトリン酸、メタリン酸またはピロリン酸である場合が多い。また、リン酸塩にはオルトリン酸水素塩等のリン酸水素塩も含まれる。なお、本明細書において、とくに言及しないかぎりリン酸とはオルトリン酸を意味する。
【0034】
これらの四価金属リン酸塩は、通常、水不溶性または水難溶性である。さらに、四価金属リン酸塩は結晶質塩であってもよいが、好ましくは非晶質塩である。これらの四価金属リン酸塩は単独または2種以上を組み合わせて使用できる。
【0035】
2.水酸化物を形成する二価金属
水酸化物を形成する二価金属には、たとえば銅等の周期表1B族元素、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等の周期表2A族元素、亜鉛、カドミウム等の周期表2B族元素、クロム、モリブデン等の周期表6A族元素、マンガン等の周期表7A族元素、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム等の周期表8族元素などが挙げられる。これらの二価金属の水酸化物は単独で使用してもよく、2種以上混合して使用してもよい。
【0036】
好ましい二価金属には遷移金属、たとえば銅等の周期表1B族元素、亜鉛などの周期表2B族元素、マンガン等の周期表7A族元素、鉄、コバルト、ニッケル等の周期表8族元素が含まれる。好ましくは銅、亜鉛、鉄、コバルト、ニッケルである。
【0037】
これら二価金属の水酸化物は、通常、弱酸性~弱アルカリ性領域(pH4~10)で水不溶性または水難溶性である。また二価金属の水酸化物は結晶質であってもよいが、非晶質である場合が多い。
【0038】
3.光触媒
消臭剤を構成する光触媒は、紫外線等の光線の照射により活性ラジカルを生成させ、多くの有害物、悪臭物を酸化分解し、光酸化触媒として機能するものである。このような光触媒を用いると、単なる吸着作用ではなく、触媒的な分解を利用して消臭できるため、消臭または脱臭効果が長期間に亘り持続できる。さらに、この光触媒は有害物、悪臭物を分解するだけでなく、殺菌作用、抗菌作用等も有している。
【0039】
光触媒としては、無機、有機を問わず、種々の光半導体が使用できる。光触媒としては、例えば、CdS、ZnS等の硫化物半導体、TiO2 、ZnO、SnO2 、WO3 等の酸化物半導体が好ましく、特に酸化物半導体、たとえばTiO2 、ZnO等が好ましい。前述の光触媒を構成する光半導体の結晶構造はとくに制限されない。たとえばTiO2 はアナターゼ型、ブルカイト型、ルチル型、アモルファス型等のいずれであってもよい。特に好ましいTiO2 としてアナターゼ型を挙げることができる。
【0040】
光触媒はゾル状、ゲル状または粉粒状で使用することができる。光触媒を粉粒状で使用する場合、光触媒の平均粒子径は、光活性および脱臭効率を損なわない範囲で選択でき、たとえば0.05~5μm、好ましくは0.05~1μmである。
【0041】
光触媒の使用量は、触媒活性を損なわない広い範囲から選択でき、たとえば消臭繊維全体に対して0.1~25重量%、好ましくは0.3~20重量%、さらに好ましくは0.5~15重量%の範囲であり、一般に0.5~10重量%の範囲である場合が多い。
【0042】
4.吸着剤、消臭剤
四価金属のリン酸塩と二価金属の水酸化物との割合は、触媒活性、臭気成分に対する吸着能や脱臭能を損なわない範囲で選択でき、たとえば金属原子比換算で、金属原子比(二価金属/四価金属)=0.1~10、好ましくは0.2~7、さらに好ましくは0.2~5の範囲である。複数のリン酸塩および/または水酸化物を組み合わせて用いる場合には、それぞれの金属の総和量に基づく金属原子比が上述の範囲内であればよい。また、四価金属のリン酸塩と二価金属の水酸化物とで構成された組成物は、混合ゲル等のように共沈などにより複合化した状態でもよい。とくに四価金属のリン酸塩と二価金属の水酸化物とを組み合わせて構成された消臭剤と、前述の光触媒とを混合または共沈などにより複合化して用いると、高い触媒活性を示し、長期間に亘り効率よく臭気成分などの種々の化合物を除去することができる。
【0043】
四価金属のリン酸塩と二価金属の水酸化物の合計使用量は、繊維の構造に応じて適宜選択でき、たとえば繊維全体に対して0.1~25重量%、好ましくは0.5~20重量%、さらには1~10重量%の範囲が好ましい。
光触媒の量は、四価金属のリン酸塩と二価金属の水酸化物との合計量100重量部に対して1~1000重量部、好ましくは10~750重量部、さらには20~500重量部の範囲が好ましい。
【0044】
四価金属のリン酸塩および二価金属の水酸化物は、比表面積を増加させ吸着容量を高める上で有用な二酸化ケイ素と組み合わせてもよい。
【0045】
消臭剤は非晶質、とくに共沈により生成する共沈物質であることが好ましい。共沈により生成する非晶性消臭剤は、通常、10~1000m2 /g、好ましくは30~1000m2 /g、さらに好ましくは50~1000m2 /gのBET比表面積を有している。そのため、このような消臭剤を含有する繊維は高い消臭性を有する消臭性繊維として機能するとともに、抗菌性能をも合わせ持つのである。
【0046】
消臭剤は慣用の種々の方法により得ることができる。たとえば四価金属リン酸塩、二価金属の水酸化物および光触媒を、必要に応じてさらに他の消臭剤(二酸化ケイ素等)とともに混合することにより、消臭剤を簡便に得ることができる。前記混合に際しては粉砕等により得られたそれぞれの粉粒状成分を混合してもよい。消臭剤を得る方法は、例えば、前述した特開2004‐169218号公報、特開平10‐37023号公報、特開平10‐219520号公報に記載されている。
【0047】
5.消臭繊維
消臭繊維を構成する熱可塑性ポリマーとして、例えば、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステルを挙げることができる。また前記ポリアミド、前記ポリエステルが第3成分を含有していてもよい。
【0048】
また、消臭繊維は、単一の熱可塑性ポリマーからなる単一繊維のみならず、複数の熱可塑性ポリマーからなる複合繊維であってもよい。複合形態もとくに限定されるものではなく、通常の芯鞘型、多芯芯鞘型、貼合わせ型、多層貼合わせ型、海島型、ランダム複合型、中空芯鞘型等を挙げることができる。また、アルカリ処理等によって、1成分を除去して異形断面繊維、あるいは極細繊維としてもよい。さらに、中空繊維であっても中実繊維であってもよく、その繊維断面形態にとくに限定はない。
【0049】
前記短一繊維または複合繊維に光触媒と吸着剤とからなる消臭剤を含有させる方法としては、熱可塑性ポリマーの重合時または重合直後に消臭剤を添加含有させる方法、熱可塑性ポリマー中に消臭剤を添加してマスターバッチを作製しておき、それを使用する方法、熱可塑性ポリマーが紡糸されるまでの任意の段階(たとえば、ポリマーのペレットの作製段階、溶融紡糸段階など)で消臭剤を添加させる方法などがある。
【0050】
また、消臭剤は微粒子状態のものとして添加するが、粒子をそのままポリマー中に添加すると粒子の凝集により繊維化が困難となる場合や、繊維化ができたとしても強度の低いものしか得られない場合があるので、適当な分散媒に分散させたスラリー状態でポリマー中に添加することが好ましい。
【0051】
消臭剤を熱可塑性ポリマーからなる紡糸原料中に添加して紡糸するに際し、その分散状態は、繊維の断面形態により各種考えられる。たとえば、繊維が単一繊維である場合、該断面に消臭剤が均一に分散されている状態、単一中空繊維である場合には、繊維表面から中空部に向かい消臭剤の濃度に勾配がある状態、または均一に分散されている状態である。
繊維が複合繊維である場合、その複合形態により消臭剤の分散状態は異なる。たとえば、芯鞘型複合繊維の場合には芯部または鞘部の一方のみに消臭剤を含有させるか、芯部と鞘部とで消臭剤の濃度を異ならしめる分散状態がある。また海島型複合繊維の場合には海部または島部の一方のみに消臭剤を含有させるか、海部と島部とで消臭剤の濃度を異ならしめる分散状態がある。サイドバイサイド型または多層貼合わせ型(2種類のポリマーからなる場合)の場合には一方の成分のみに消臭剤を含有させるか、一方の成分と他方の成分とで消臭剤の濃度を異ならしめる分散状態がある。
【0052】
繊維全体に含有させる消臭剤の量が低くても大きい消臭効果を求める場合には、鞘部にのみ消臭剤を含有させた芯鞘型複合繊維が好適である。以下、このような芯鞘型複合繊維について、詳述する。
【0053】
芯鞘型複合繊維においては、その鞘部にのみ消臭剤を含有させることが好ましい。少ない消臭剤量で大きな消臭効果を奏することができるからである。この点に関し、単一繊維の場合、消臭剤の使用量は1~25重量%の範囲が好ましいが、芯鞘型複合繊維の場合、単一繊維と同じ程度の消臭効果を奏するためには、消臭剤の使用量は鞘部の割合にもよるが、繊維全体に対して0.01~10重量%、好ましくは0.1~7.5重量%、さらに好ましくは0.25~5重量%の範囲にまで低減できる。
また、芯鞘型複合繊維の鞘部と芯部との複合割合は、芯部/鞘部=5/95~95/5(重量部)、好ましくは10/90~90/10、さらに好ましくは30/70~70/30である。この時、芯鞘型複合繊維を構成するポリマーの種類はとくに限定されず、芯部のポリマーと鞘部のポリマーは同じ種類であっても異なった種類であってもよい。
【0054】
鞘部のポリマー(A)として、ポリエステルを用いることができる。例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリ乳酸、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステルが使用され、好ましくはポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸であり、特にポリブチレンテレフタレートが好ましい。PBTは、テレフタル酸単位を主体とするジカルボン酸単位及び1,4‐ブタンジオール単位を主体とするジオール単位から主としてなり、その代表例としてはテレフタル酸単位と1,4‐ブタンジオール単位のみからなるポリブチレンテレフタレート(以下「PBT」ということがある)を挙げることができる。
PBTのガラス転移点温度(Tg)は、65℃以下であることが好ましく、40~60℃であることがより好ましく、45~55℃であることが最も好ましい。また、ポリブチレンテレフタレートは、有機スルホン酸化合物を含有していてもよい。
【0055】
前述したように、この鞘部のポリマー(A)に、消臭剤を含有させることが好ましい。
【0056】
芯部のポリマー(B)としては、融点が150℃以上の結晶性熱可塑性ポリマーが好ましく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミドなどを挙げることができる。また、鞘部のポリマー(A)と複合された際に界面剥離を生じにくくするためには、ポリエステルを使用することが好ましい。
【0057】
ポリエステルとしては、特に制限されないが、ガラス転移点温度が、70~90℃であることが好ましく、75~85℃であることがより好ましい。また、融点が、250~270℃であることが好ましい。一方、ポリアミドとしてはナイロン6、ナイロン66、ナイロン12を主成分とするポリアミドを用いることができる。このとき、少量の第3成分を含んでもよい。
特に好ましいポリマーの組み合わせは、たとえば鞘部のポリマー(A)としてガラス転移点温度が65℃以下のポリブチレンテレフタレート、芯部のポリマー(B)として融点が150℃以上のポリエチレンテレフタレートを挙げることができる。
【0058】
上記鞘部のポリマー(A)と上記芯部のポリマー(B)とからなる複合繊維を溶融紡糸するにおいて、鞘部のポリマー(A)の加熱に起因する自己架橋によるゲルの発生を抑制させるために、酸化防止剤を含有させるとともに、機能性を付与すべく消臭剤を含有させることが好ましい。
鞘部のポリマー(A)中に含有させる酸化防止剤はヒドロキシ第三ブチルフェニル系化合物であって、ヒドロキシ基がブチル基に対してオルト位に位置している化合物(以下、フェノール系化合物と称する)が好ましく、鞘部のポリマー(A)に対して0.08重量%以上添加することが好ましい。該フェノール系化合物は一般に酸化防止剤として使用されている。フェノール系化合物、とくに窒素原子を含む化合物は、鞘部のポリマー(A)のゲル化を抑制する点で際立った効果を発揮する。
一般に無機微粒子が添加されていると鞘部のポリマー(A)の熱分解が促進されたり、ゲル化が促進されたりする場合があるが、フェノール系化合物にはこれらを抑制する効果がある。フェノール系化合物(酸化防止剤)の添加量の上限値にはとくに制限はないが、5重量%以下であることが好ましく、とくに0.1~3重量%の範囲であることが好ましい。
【0059】
消臭繊維の太さはとくに制限されるものではなく、繊維の長さ方向の形態も制限されるものではない。すなわち、繊維の長さ方向に程同じ直径を有する繊維であってもよく、太細を有するシックアンドシン繊維であってもよく、それ以外の繊維であってもよい。
【0060】
6.消臭短繊維
得られた消臭繊維を短繊維化して消臭短繊維とする。消臭繊維は、従来公知の方法で短繊維化することができる。消臭短繊維の繊維長は、好ましくは25~150mmであり、より好ましくは35~100mm、最も好ましくは、40~60mmである。捲縮数は、例えば3.3dtexの場合、12~15個/inch、捲縮率は概ね10%とすることが好ましい。
【0061】
[混紡糸]
上記黒鉛珪石含有短繊維と上記消臭短繊維を混紡して混紡糸を得る。混紡方法は特に制限されない。例えば、黒鉛珪石含有短繊維と消臭短繊維をカード(梳綿機)に通して所定の割合で混紡することで混紡糸を得ることができる。混紡の際、黒鉛珪石含有短繊維を10~30重量%、消臭短繊維を10~90重量%とすることが、黒鉛珪石含有繊維の優れた特徴と十分な消臭性を高い次元で実現することができて好ましい。
【0062】
[繊維構造物]
上記混紡糸は、種々の繊維構造物(繊維製品)に利用することができる。例えば、織布、編布、不織布等の布帛;パイル織物、パイル編物等のパイル布帛;これらのものから形成された衣類やその他の身体着用品;インテリア製品類;寝具類;食品用包装材などを挙げることができる。具体的には下着、セーター、ジャケット、パジャマ、浴衣、白衣、スラックス、靴下、手袋、ストッキング、エプロン、マスク、タオル、ハンカチ、サポーター、ヘッドバンド、帽子、靴のインソール、芯地等の衣類や身体着用品;各種カーペット、カーテン、壁紙、障子紙、襖、繊維製ブラインド、人工観葉植物、椅子等の布張用生地、テーブルクロス、電気製品カバー、畳、布団の中詰材(詰綿等)、布団の側地、シーツ、毛布、布団カバー、枕、枕カバー、ベッドカバー、ベッドの中詰材、マット、衛生材料、便座カバー、ワイピングクロス、空気清浄機やエアーコンディショナー等のフィルターなどを挙げることができる。
優れた消臭殺菌作用と蓄熱性を長期に亘り持続することができる本発明の混紡糸および繊維構造物は、特に介護分野において好適に用いられる。
【実施例】
【0063】
次に、実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。実施例中の比率および%は、重量に関するものである。
【0064】
[実施例1]
黒鉛珪石の微粉末(平均粒子径0.6μm)を10重量%添加したポリエステルを芯成分とし、ポリエステルを鞘成分とした芯鞘型複合構造の黒鉛珪石含有繊維(鞘/芯の比率=2/1、83dtex/24fの延伸系)を得た。これを合糸して40万デニールの繊維トウにし、押込捲縮機を用いて捲縮をかけて51mmにカットし、単糸繊度3デニールの黒鉛珪石含有短繊維(捲縮数12.0個/インチ)を得た。
【0065】
一方、消臭繊維は以下の手順で得た。まず、以下の方法により消臭剤[Cu(II)‐Ti(IV)‐SiO2 ‐TiO2 ]を調整した。硫酸銅の結晶(CuSO4 ・5H2 O、和光純薬製試薬特級)43.9gを蒸留水1リットルに溶解し、得られた水溶液に硫酸チタン溶液(約30重量%濃度、和光純薬製試薬)60gを添加した。この混合液はCu(II)0.175モル、Ti(IV)イオン0.075モル含んでいる。前記混合液のpHは約1であった。室温下で混合液を撹拌しながら15重量%のリン酸溶液約110gを滴下したところ、白色沈殿物が生成した。沈殿物が生成した混合液をそのまま一昼夜撹拌した。上記沈殿物を含有する液(A液)とケイ酸ナトリウムを含む水溶液(B液)471gとを別々のビーカー中で撹拌しながら、蒸留水500mlを入れた容器中へ平行して滴下したところ、Cu(II)‐Ti(IV)‐SiO2 を含む青白色の混合沈殿物が生成した。A液とB液との混合時のpHは常に約7となるようにA液とB液の滴下量を調整した。なお、B液はケイ酸ナトリウム(和光純薬製試薬)を蒸留水で30重量%に希釈し(SiO2 としては0.86モル含有)、15重量%の水酸化ナトリウム水溶液30mlを添加することにより調整した。
【0066】
A液とB液の混合液を室温下、さらに2時間撹拌した後、青白色混合沈殿物を吸引ろ過し、加温した脱イオン水で十分洗浄した後、40℃で乾燥した。乾燥物を乳鉢で120μm以下に粉砕し、Cu(II)‐Ti(IV)‐SiO2 を含む青白色の粉末を得た。該粉末80重量部に対して酸化チタン粉末(石原産業(株)製、MC‐90)20重量部を混合し、ジェットミルで粉砕し消臭剤を調整した。
【0067】
次に、鞘部用のポリマー(A成分)として二軸押出機にて上記消臭剤5質量%添加したポリブチレンテレフタレート(PBT)用い、芯部用ポリマーとして極限粘度0.70(フェノール/テトラクロロエタン等重量混合溶液にて30℃で測定)のポリエチレンテレフタレートを用い、紡糸温度290℃、巻取速度1000m/分、芯:鞘=50:50(重量比)の複合比率、ノズル孔径0.25φ‐24ホールで紡糸し、その後ローラプレート方式により延伸を行い、丸断面の75デニール/24フィラメントの消臭繊維を得た。
【0068】
得られた消臭繊維を合糸して40万デニールの繊維トウにして、押込捲縮機を用いて捲縮をかけて51mmにカットし、単糸繊度3デニールの消臭短繊維(捲縮数12.0個/インチ)を得た。
上記黒鉛珪石含有短繊維と上記消臭短繊維をカード(梳綿機)に通して15:85の割合で混紡し、20番手の混紡糸を得た。得られた混紡糸を用いて天竺編物を作成した。
【0069】
得られた天笠編物について消臭性を下記基準で評価した。
[消臭性評価]
1.検知管による消臭性評価
得られた天笠編物を10×10cmの大きさに切り出し概ね3gの測定用試料とした。この測定用試料をサンプリングバッグ(容量5L)に入れ、所定濃度に調整したアンモニアガスを注入してアンモニア濃度が40ppm(初期濃度)の状態で封止した。その後、封止状態で2時間後および24時間後のアンモニアガス濃度を、ガス検知管を用いて測定し、24時間後のアンモニアガス濃度の減少率を下記基準で評価した。
◎:減少率90%以上
○:減少率70%以上
×:減少率50%以下
【0070】
2.パネラーによる消臭性評価(判定)
得られた天笠編物を10×10cmの大きさに切り出し概ね3gの測定用試料とした。この測定用試料を三角フラスコに入れ、アンモニアガスを注入して100ppmとして封止した。24時間経過後、10人のパネラーで臭気の強弱を下記1~5の基準で評価した。
0:無臭
1:やっと検知できるにおい
2:何のにおいであるかわかる程度の弱いにおい
3:らくに感知できるにおい
4:強いにおい
5:強烈なにおい
そして、10人のパネラーの評価をもとに、下記基準で臭気性を判定した
◎:9名以上が、試験後の臭気が強度2相当と同等又はそれより弱いと判定
○:7~8名が、試験後の臭気が強度2相当と同等又はそれより弱いと判定
△:5~6名が、試験後の臭気が強度2相当と同等又はそれより弱いと判定
×:6名以上が、試験後の臭気が強度3以上と判定
【0071】
また、得られた天笠編物について蓄熱性を下記基準で評価した。
[蓄熱性評価]
1.人工太陽による評価
上記天笠編物から概ね3cm角の試料C(
図1参照)を二枚切り出し、得られた二枚の試料を重ね合わせてその間に熱電対15を配置して試料台(発泡スチロール製)に載置し、図示しない作業ホルダで固定した後、人工太陽光(使用ランプ12:セリック(株)製 人工太陽照明灯XC‐500EFSS9)を照射して15分後の試料温度を測定した。照射距離Lは35cm、室温は20±2℃とした。
【0072】
蓄熱保温性能の評価は、ポリエステル天笠編物を用いた概ね3cm角の対照試料R(
図1参照)を対照として、各実施例および比較例の手袋から作成した試料Cがどの程度高い温度を示すか温度差(ΔT℃)を測定し、下記基準で評価した。なお、試料(
図1中のCとR)の位置を入れ替えて4回測定し、そのデータを平均した値を試験結果とした。
◎:温度差5℃以上
○:温度差2℃以上
△:温度差1℃以上~2℃未満
×:温度差1℃未満
2.パネラーによる評価
織物についてパネラー10名で実施し、下記の基準で評価した。
◎:9名以上が蓄熱性に優れていると判定
○:7~8名が蓄熱性に優れていると判定
△:5~6名が蓄熱性に優れていると判定
×:6名以上が蓄熱性に劣っていると判定
【0073】
評価結果を表1に示す。
【0074】
【0075】
評価の結果、得られた天竺編物は、消臭性および蓄熱性ともに大変優れていた。また、長時間の着用でも蒸れにくいとの評価であった。
【0076】
[実施例2]
実施例1の黒鉛珪石含有短繊維において、鞘/芯の比率を、2/1から1/1に変更した。それ以外は、実施例1と同様の材料および条件で、混紡糸および天笠編物を得た。なお、鞘/芯の比率を、2/1から1/1に変更することによって、繊維中の黒鉛珪石含有割合が3.3重量%から5.0重量%に増加している。
得られた天竺編物は、消臭性および蓄熱性ともに大変優れていた。また、長時間の着用でも蒸れにくいとの評価であった。
【0077】
[実施例3]
実施例2の黒鉛珪石含有短繊維において、黒鉛珪石含有割合(芯成分中)を10重量%から5重量%に変更した。さらに、その他の繊維としてアクリル短繊維(繊維長51mm)を用いた。黒鉛珪石含有短繊維を30重量%、消臭短繊維を30重量%、アクリル短繊維を40重量%の割合で混紡して混紡糸を得た。上記以外は、実施例2と同様の材料および条件で、天笠編物を得た。
得られた天竺編物は、消臭性に優れ、蓄熱性が大変優れていた。また、長時間の着用でも蒸れにくいとの評価であった。
【0078】
[実施例4]
実施例1の黒鉛珪石含有短繊維において、芯成分を、ポリエチレンテレフタレートからナイロン6に変更した。また、その他の繊維としてアクリル短繊維(繊維長51mm)を用いた。黒鉛珪石含有短繊維を15重量%、消臭短繊維を30重量%、アクリル短繊維を55重量%の割合で混紡して混紡糸を得た。それ以外は、実施例1と同様の材料および条件で、天笠編物を得た。
得られた天竺編物は、消臭性に優れ、蓄熱性が大変優れていた。また、長時間の着用でも蒸れにくいとの評価であった。
【0079】
[実施例5]
実施例2の黒鉛珪石含有短繊維において、黒鉛珪石含有割合(芯成分中)を10重量%から2重量%に変更した。上記以外は、実施例2と同様の材料および条件で、天笠編物を得た。
得られた天竺編物は、消臭性および蓄熱性ともに大変優れていた。また、長時間の着用でも蒸れにくいとの評価であった。
【0080】
[比較例1]
実施例2の黒鉛珪石含有短繊維において、黒鉛珪石含有割合(芯成分中)を10重量%から50重量%に変更した。この比較例1では繊維化工程で断線が多発した。そのため、サンプル評価を中止した。
[比較例2]
実施例2の黒鉛珪石含有短繊維において、黒鉛珪石含有割合(芯成分中)を10重量%から0.5重量%に変更した。それ以外は、実施例2と同様の材料および条件で、混紡糸および天笠編物を得た。
得られた天竺編物は、消臭性に大変優れていたものの、蓄熱性が劣っていた。
[比較例3]
実施例1において、消臭短繊維のかわりにアクリル短繊維(繊維長51mm)を用いて混紡糸および天笠編物を得た。
得られた天竺編物は、蓄熱性に大変優れていたものの、消臭性が大きく劣っていた。しかし、長時間の着用でも蒸れにくいとの評価であった。
【0081】
[比較例4]
消臭短繊維70重量%とアクリル短繊維(繊維長51mm)30重量%を用いて混紡糸および天笠編物を得た。
得られた天竺編物は、消臭性に大変優れていたものの、蓄熱性が大きく劣っていた。
【0082】
以上、特定の実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、当該技術分野における熟練者等により、本出願の願書に添付された特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変更及び修正が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の混紡糸は消臭性および蓄熱性に優れており、前述したように、種々の繊維構造物(繊維製品)に利用することができる。優れた消臭殺菌作用と蓄熱性を長期に亘り(半永久的に)持続することができる本発明の混紡糸および繊維構造物は、特に介護分野で好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0084】
1 蓄熱性の評価装置
11 試料台
12 ランプ
15 熱電対
C 各実施例および各比較例
R 対照(ポリエステル天笠編物を使用)