(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】波動歯車装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20240105BHJP
【FI】
F16H1/32 B
(21)【出願番号】P 2019222917
(22)【出願日】2019-12-10
【審査請求日】2022-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】516272490
【氏名又は名称】SKG株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100175019
【氏名又は名称】白井 健朗
(74)【代理人】
【識別番号】100195648
【氏名又は名称】小林 悠太
(74)【代理人】
【識別番号】100104329
【氏名又は名称】原田 卓治
(72)【発明者】
【氏名】今川 豊
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-180799(JP,A)
【文献】特開2005-054981(JP,A)
【文献】実開平05-079089(JP,U)
【文献】特開昭60-084440(JP,A)
【文献】特開2018-044610(JP,A)
【文献】実公昭47-014502(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に沿って形成されたインナギアを有するインターナルギア部と、
回転入力に応じて軸線を中心として回転するカム部を有する波動発生部と、
前記インナギアよりも少ない歯数で外周面に沿って形成され、内周側が前記波動発生部に嵌め込まれたリング状のアウタギア、及び、前記軸線に沿う方向において前記アウタギアと隣り合う隣接部を有するフレックスギア部と、
前記軸線を中心とした径方向において前記隣接部と対向する対向部を有し、前記フレックスギア部と共に前記インターナルギア部に対して回転する出力軸部と、
前記対向部に固定され、前記隣接部に向かって延び、前記フレックスギア部の動力を前記出力軸部に伝達する伝達部と、を備え、
前記カム部は、前記軸線を中心とした円周方向において等間隔で位置するN(Nは、2以上の整数)個の極部を有し、前記アウタギアをN箇所で前記インナギアと噛み合わせ、
前記隣接部には、前記伝達部が挿入されるとともに、前記円周方向における前記フレックスギア部と前記出力軸部との相対的な変位を許容する被挿入部が設けられ、
前記伝達部及び前記被挿入部の対は
、
8個以上あり、前記円周方向に配列され
、
前記カム部が前記軸線を中心として回転している際に、前記伝達部が前記被挿入部の前記円周方向における一端に位置する第1の対、及び、前記伝達部が前記被挿入部の前記円周方向における他端に位置する第2の対を含む、
波動歯車装置。
【請求項2】
内周面に沿って形成されたインナギアを有するインターナルギア部と、
回転入力に応じて軸線を中心として回転するカム部を有する波動発生部と、
前記インナギアよりも少ない歯数で外周面に沿って形成され、内周側が前記波動発生部に嵌め込まれたリング状のアウタギア、及び、前記軸線に沿う方向において前記アウタギアと隣り合う隣接部を有するフレックスギア部と、
前記軸線を中心とした径方向において前記隣接部と対向する対向部を有し、前記フレックスギア部と共に前記インターナルギア部に対して回転する出力軸部と、
前記隣接部に固定され、前記対向部に向かって延び、前記フレックスギア部の動力を前記出力軸部に伝達する伝達部と、を備え、
前記カム部は、前記軸線を中心とした円周方向において等間隔で位置するN(Nは、2以上の整数)個の極部を有し、前記アウタギアをN箇所で前記インナギアと噛み合わせ、
前記対向部には、前記伝達部が挿入されるとともに、前記円周方向における前記フレックスギア部と前記出力軸部との相対的な変位を許容する被挿入部が設けられ、
前記伝達部及び前記被挿入部の対は
、
8個以上あり、前記円周方向に配列され
、
前記カム部が前記軸線を中心として回転している際に、前記伝達部が前記被挿入部の前記円周方向における一端に位置する第1の対、及び、前記伝達部が前記被挿入部の前記円周方向における他端に位置する第2の対を含む、
波動歯車装置。
【請求項3】
前記第1の対と前記第2の対がそれぞれ4個以上あるという条件と、前記伝達部及び前記被挿入部の対が4×N個以上あるという条件との少なくともいずれかを満たす、
請求項1又は2に記載の波動歯車装置。
【請求項4】
前記対向部は、前記隣接部の内周側と外周側のいずれか一方のみに位置する、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の波動歯車装置。
【請求項5】
前記伝達部及び前記被挿入部の対は、前記円周方向において等間隔で配列されている、
請求項1
乃至4のいずれか1項に記載の波動歯車装置。
【請求項6】
前記被挿入部は、前記径方向における前記フレックスギア部と前記出力軸部との相対的な変位も許容する、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の波動歯車装置。
【請求項7】
前記出力軸部を前記インターナルギア部に対して回転可能に支持する支持部をさらに備え、
前記隣接部及び前記対向部は、前記支持部と前記カム部との間に位置する、
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の波動歯車装置。
【請求項8】
前記伝達部は、柱状のピンからなり、
前記被挿入部は、前記円周方向における口径が前記ピンの外径よりも長い長孔からなる、
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の波動歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波動歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、関節を介してアームが動作するロボットにおいては、任意のアームに内蔵されたモータの回転を減速機により減速し、減速した出力で当該アームと連結されたアームを回転駆動することが行われている。この種の減速機として、波動歯車装置を用いたものが知られている。
【0003】
特許文献1には、円環状のサーキュラスプライン(剛性内歯歯車)と、この内周側に位置する薄肉カップ状のフレクスプライン(可撓性外歯歯車)と、この内周側に嵌められた楕円形のカムを有するウェーブジェネレータ(波動発生器)と、を備えた波動歯車装置が開示されている。フレクスプラインは、ウェーブジェネレータのカムにより楕円形に撓められ、サーキュラスプラインと部分的に噛み合わされている。そして、モータ等の回転入力に応じてウェーブジェネレータのカムが回転すると、両歯車の噛み合い位置が円周方向に移動して、両歯車の歯数差に応じた相対回転運動が両歯車の間に発生する。特許文献1に係る波動歯車装置は、フレクスプラインから減速回転出力を得る構成となっており、具体的には、フレクスプラインの底を形成するダイヤフラムに出力軸が取り付けられる構造を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
まず、特許文献1に係る波動歯車装置は、その構造上、フレクスプラインが破損しやすいという問題がある。これは次の理由による。ここで、回転するフレクスプラインから出力軸への力の伝達点として、出力軸の回転軸線(以下、軸線と言う。)を中心とした円周方向に配列された複数の仮想点を考える。回転するフレクスプラインから各仮想点に加わる力のベクトルは、フレクスプラインが可撓性を有することや、カムが楕円状であること等により、均一に円周方向に向く訳ではなく、地点によって位相にずれが生じる。特許文献1に係るフレクスプラインは、円筒部分の一端を閉塞するダイヤフラムに出力軸が固定されているため、いわば円筒部分の全周で出力軸に回転力を伝達する構造になっており、上述のように位相ずれを起こした力のベクトルを多分に含んだ状態となる。そうすると、フレクスプラインの円筒部分に、回転軸線を中心として出力軸を回転させるためのトルクに寄与しない無用な応力が生じ、無用なねじれの力が加わる。このように無用なねじれの力が加わることに加えて、フレクスプラインは、その円筒部分が非常に薄肉(例えば、肉厚が0.1mm程度)で形成されているため、破損しやすいという問題がある。
【0006】
また、特許文献1に係るフレクスプラインは、円筒部分の一端を閉塞するダイヤフラムに出力軸を固定するという構造上、円筒部分の高さ(軸線に沿う長さ)分だけ、出力軸の位置が入力側の回転体(例えばウェーブジェネレータのカム)から遠ざかってしまう。このため、波動歯車装置が軸線に沿う方向に大きくなり易いという問題もある。
【0007】
本発明は、破損しにくく、装置の大型化を抑制することができる波動歯車装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る波動歯車装置は、
内周面に沿って形成されたインナギアを有するインターナルギア部と、
回転入力に応じて軸線を中心として回転するカム部を有する波動発生部と、
前記インナギアよりも少ない歯数で外周面に沿って形成され、内周側が前記波動発生部に嵌め込まれたリング状のアウタギア、及び、前記軸線に沿う方向において前記アウタギアと隣り合う隣接部を有するフレックスギア部と、
前記軸線を中心とした径方向において前記隣接部と対向する対向部を有し、前記フレックスギア部と共に前記インターナルギア部に対して回転する出力軸部と、
前記対向部に固定され、前記隣接部に向かって延び、前記フレックスギア部の動力を前記出力軸部に伝達する伝達部と、を備え、
前記カム部は、前記軸線を中心とした円周方向において等間隔で位置するN(Nは、2以上の整数)個の極部を有し、前記アウタギアをN箇所で前記インナギアと噛み合わせ、
前記隣接部には、前記伝達部が挿入されるとともに、前記円周方向における前記フレックスギア部と前記出力軸部との相対的な変位を許容する被挿入部が設けられ、
前記伝達部及び前記被挿入部の対は、
8個以上あり、前記円周方向に配列され、
前記カム部が前記軸線を中心として回転している際に、前記伝達部が前記被挿入部の前記円周方向における一端に位置する第1の対、及び、前記伝達部が前記被挿入部の前記円周方向における他端に位置する第2の対を含む。
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の第2の観点に係る波動歯車装置は、
内周面に沿って形成されたインナギアを有するインターナルギア部と、
回転入力に応じて軸線を中心として回転するカム部を有する波動発生部と、
前記インナギアよりも少ない歯数で外周面に沿って形成され、内周側が前記波動発生部に嵌め込まれたリング状のアウタギア、及び、前記軸線に沿う方向において前記アウタギアと隣り合う隣接部を有するフレックスギア部と、
前記軸線を中心とした径方向において前記隣接部と対向する対向部を有し、前記フレックスギア部と共に前記インターナルギア部に対して回転する出力軸部と、
前記隣接部に固定され、前記対向部に向かって延び、前記フレックスギア部の動力を前記出力軸部に伝達する伝達部と、を備え、
前記カム部は、前記軸線を中心とした円周方向において等間隔で位置するN(Nは、2以上の整数)個の極部を有し、前記アウタギアをN箇所で前記インナギアと噛み合わせ、
前記対向部には、前記伝達部が挿入されるとともに、前記円周方向における前記フレックスギア部と前記出力軸部との相対的な変位を許容する被挿入部が設けられ、
前記伝達部及び前記被挿入部の対は、
8個以上あり、前記円周方向に配列され、
前記カム部が前記軸線を中心として回転している際に、前記伝達部が前記被挿入部の前記円周方向における一端に位置する第1の対、及び、前記伝達部が前記被挿入部の前記円周方向における他端に位置する第2の対を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、破損しにくく、装置の大型化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る波動歯車装置が組み込まれるロボットの外観図である。
【
図2】同上実施形態に係る波動歯車装置の主要構成の概略断面を含む構成図である。
【
図3】(a)は、同上実施形態に係る波動歯車装置の主要構成を軸線方向から見た図であって、カム部の極数が2である場合を示す図であり、(b)は、
図3(a)のフレックスギア部の外周面の一部を示す図である。
【
図4】同上実施形態に係る波動歯車装置が備える伝達部の配置及び機能を説明するための図である。
【
図5】(a)~(d)は、同上実施形態に係る波動歯車装置の減速動作を説明するための原理図である。
【
図6】カム部とフレックスギア部を軸線方向から見た図であって、(a)は、カム部の極数が3である場合を示し、(b)は、カム部の極数が4である場合を示す図である。
【
図7】カム部とフレックスギア部を軸線方向から見た図であって、(a)は、カム部の極数が5である場合を示し、(b)は、カム部の極数が6である場合を示す図である。
【
図8】カム部とフレックスギア部を軸線方向から見た図であって、(a)は、カム部の極数が7である場合を示し、(b)は、カム部の極数が8である場合を示す図である。
【
図9】(a)は、同上実施形態に係る波動歯車装置の主要構成の概略断面図であり、(b)は、従来例に係る波動歯車装置の主要構成の概略断面図である。
【
図10】同上実施形態に係る波動歯車装置における一部構成を変形した変形例1を示す図である。
【
図11】(a)は、同上実施形態に係る波動歯車装置における一部構成を変形した変形例2を示す図であり、(b)は、同上実施形態に係る波動歯車装置における一部構成を変形した変形例3を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0013】
本実施形態に係る波動歯車装置100は、
図1に示すように、産業用のロボット200に組み込まれる。ロボット200は、例えば垂直多関節ロボットからなり、基台201の上に設置されたロボット本体部210と、ロボット本体部210を駆動制御するコントローラ220と、を備える。ロボット本体部210は、第1アーム211と、第1アーム211と波動歯車装置100を介して連結された第2アーム212と、
図2に示すモータ213と、を備える。モータ213は、サーボモータ等からなり、コントローラ220の制御により動作する。コントローラ220は、第1アーム211に内蔵されたモータ213及び波動歯車装置100を介して第2アーム部212を回転駆動することで、第1アーム211に対する第2アーム212の位置決め制御、角度制御及び回転速度制御を行う。
【0014】
波動歯車装置100は、
図2に示すように、波動発生部10と、フレックスギア部20と、インターナルギア部30と、出力軸部40と、支持部50と、伝達部Tと、を備える。
【0015】
なお、
図2では、見易さを考慮して一部構成の断面を示すハッチングを省略するとともに、第1アーム211及び第2アーム212を仮想線で示した。また、以下では、波動歯車装置100の構成を説明する際に、
図2における右側を入力側(図示Si)と呼び、左側を出力側(図示So)と呼ぶことがある。後述の
図9においても同様である。
【0016】
波動発生部10は、円筒軸部11と、円筒軸部11と一体に形成されたカム部12と、ウェーブベアリング13と、を備える。
【0017】
円筒軸部11は、入力側の端部がベアリングB1に回転可能に支持され、出力側の端部がベアリングB2に回転可能に支持されている。ベアリングB1は、第1アーム211に対して不動な不動部211aに設けられている。ベアリングB2は、出力軸部40の内周面に設けられている。ベアリングB1,B2は、例えばボールベアリングから構成されている。これにより、円筒軸部11は、第1アーム211に対して軸線AX周りに回転可能に支持されている。円筒軸部11には、モータ213の回転動力が公知の伝達機構を介して伝達される。この伝達機構は、ギア機構、タイミングベルトとプーリーを利用したベルト機構などであればよい。
【0018】
カム部12は、円筒軸部11の外周面から外径方向に突出して設けられている。カム部12は、軸線AXに沿う方向(以下、「軸線方向」とも言う。)においてベアリングB1と隣り合う位置に設けられている。カム部12は、軸線AXを中心とした円周方向において等間隔で位置するN(Nは、2以上の整数)個の極部を有している。以下では、カム部12が有する極部の数を極数と呼ぶ。例えば、極数がN=2の場合のカム部12は、
図3(a)に示すように、軸線方向から見て楕円状をなす。
【0019】
ウェーブベアリング13は、
図2及び
図3(a)に示すように、カム部12の外周面に固定された内輪13iと、フレキシブルな外輪13oと、内輪13i及び外輪13oの間に転動可能な状態で挿入されている複数のボール13bと、を有する。なお、内輪13iは、カム部12の外周面を含む部分から構成されていてもよい。
【0020】
フレックスギア部20は、特殊鋼等の金属材によりフレキシブル性を有し、例えば、軸線方向に沿う円筒状に形成されている。フレックスギア部20は、アウタギア21と、アウタギア21と一体に形成された隣接部22と、を有する。
【0021】
アウタギア21は、外周面に沿って形成された所定の歯数tの歯21aを有してリング状に形成され、内周側が波動発生部10の外輪13oに嵌め込まれている。アウタギア21における複数の歯21aは、一定のピッチで円周方向に沿って配列されている。アウタギア21の歯数tは、後述のインナギア31の歯数Tiよりも少ない歯数に設定されている。例えば、カム部12の極数がNの場合、歯数tと歯数Tiの関係は、「Ti=t+N」が成り立つように設定される。例えば、N=2の場合には、「Ti=t+2」の関係が成り立つ。
【0022】
隣接部22は、アウタギア21と軸線方向において隣り合い、アウタギア21よりも出力側に迫り出す部分である。隣接部22には、
図3(a)、(b)に示すように、伝達部Tが挿入される被挿入部Hが設けられている。フレックスギア部20の動力は、被挿入部Hに挿入された伝達部Tを介して、出力軸部40へ伝達される。被挿入部Hは、伝達部Tと同数設けられ、軸線AXを中心とした円周方向に沿って複数設けられている。伝達部T及び被挿入部Hについては、後に詳述する。
【0023】
なお、
図3(a)、(b)では、フレックスギア部20の隣接部22を部分的に示した。また、
図3(b)は、フレックスギア部20の外周面の一部を、
図3(a)に示す0°の方向から見た図である。
【0024】
また、隣接部22の形状は任意であり、全周がリング状にアウタギア21よりも迫り出していてもよいし、被挿入部Hが設けられる部分毎にアウタギア21よりも出力側に迫り出していてもよい。また、図示しないが、フレックスギア部20の内周面における、アウタギア21に形成された複数の歯21aのうち隣り合うもの同士の間に対応する位置に、外周側に向かって凹む部分を設け、フレックスギア部20を良好に撓みやすくしてもよい。
【0025】
インターナルギア部30は、金属材により剛性を有して形成され、第1アーム211の内側に固定される部分であり、カム部12に撓められたフレックスギア部20のアウタギア21と部分的に噛み合うインナギア31を有する。
【0026】
インナギア31は、内周面に沿って形成された所定の歯数Ti(Ti>t)の歯31aを有してリング状に形成されている。インナギア31における複数の歯31aは、一定のピッチで円周方向に沿って配列されている。
【0027】
出力軸部40は、フレックスギア部20と共にインターナルギア部30に対して回転する。出力軸部40は、インターナルギア部30に対して軸線AX周りに回転可能に支持部50によって支持されている。出力軸部40は、例えば、金属材により剛性を有してリング状に形成されている。出力軸部40は、フレックスギア部20の隣接部22と軸線AXを中心とした径方向(以下、単に「径方向」とも言う。)において対向する対向部41と、対向部41よりも出力側に位置し、支持部50に支持される部分である被支持部42と、を有する。対向部41には、伝達部Tを出力軸部40に固定するための固定孔41aが形成されている。
図2に示すように、出力軸部40の対向部41は、フレックスギア部20の隣接部22の内周側に位置する。
【0028】
支持部50は、例えばクロスローラーベアリングからなり、外輪51がインターナルギア部30に固定され、内輪52が出力軸部40の被支持部42に固定されている。これにより、支持部50は、出力軸部40を、インターナルギア部30に対して軸線AX周りに回転可能に支持する。
【0029】
この実施形態では、出力軸部40は、支持部50の内輪52を介して、波動歯車装置100の負荷である第2アーム212に接続される。これにより、出力軸部40の回転に伴って、第2アーム212は、軸線AX周りに回転する。なお、支持部50による出力軸部40の支持態様は任意であり、例えば、支持部50の内輪52の内周面が出力軸部40に固定される態様などであってもよい。また、出力軸部40と負荷(本例では、第2アーム212)の接続手法も任意であり、例えば、出力軸部40に固定された円盤状のプレート部に負荷を接続する態様などであってもよい。
【0030】
図2に示すように、軸線方向における支持部50とカム部12との間に、フレックスギア部20の隣接部22及び出力軸部40の対向部41が位置する。出力軸部40に固定された伝達部Tがフレックスギア部20によって軸線AXを中心とした円周方向(以下、単に「円周方向」とも言う。)に押されることで、出力軸部40は、フレックスギア部20と共に回転する。
【0031】
伝達部Tは、フレックスギア部20の動力を出力軸部40に伝達するものであり、出力軸部40の対向部41に固定されている。伝達部Tは、例えば、円柱状のピンによって構成され、対向部41の固定孔41aに挿入されるとともに、螺合、嵌合、固着、溶着等の公知の固定手法で固定されている。伝達部Tは、軸線AXを中心とした径方向に沿うとともに、フレックスギア部20の隣接部22に向かって延びており、隣接部22に設けられた被挿入部Hに挿入される。
【0032】
被挿入部Hは、
図3(a)、(b)に示すように、伝達部Tが挿入されるとともに、円周方向(図示C)における口径が伝達部Tを構成するピンの外径(直径)よりも長い長孔からなる。これにより、被挿入部Hは、円周方向におけるフレックスギア部20と伝達部Tとの相対的な変位(つまり、円周方向におけるフレックスギア部20と出力軸部40との相対的な変位)を許容する。また、被挿入部Hとしての長孔は、軸線AXを中心とした径方向において隣接部22を貫通する貫通孔である。したがって、被挿入部Hは、径方向におけるフレックスギア部20と伝達部Tとの相対的な変位(つまり、径方向におけるフレックスギア部20と出力軸部40との相対的な変位)も許容する。被挿入部Hの円周方向の長さは、伝達部T及び被挿入部Hの対として、後述の第1の対及び第2の対が出現可能に設定すればよい。また、被挿入部Hの軸線方向の幅は、伝達部Tを構成するピンの外径よりも若干大きく、被挿入部H内での伝達部Tの円周方向及び径方向の移動を妨げない大きさであればよい。
図4に示すように、伝達部T及び被挿入部Hの対は、円周方向に沿って複数設けられ、且つ、円周方向において等間隔で配列されている。
【0033】
(減速動作について)
次に、以上の構成からなる波動歯車装置100の減速動作について、
図1~
図3を参照しつつ、主に
図5(a)~(d)に従って説明する。カム部12の極数Nは、2以上の整数であれば目的に応じて任意であるが、まず、カム部12が、N=2で楕円形状をなす場合について説明する。
【0034】
ロボット200のコントローラ220の制御によりモータ213が動作すると、モータ213の回転動力が図示しない伝達機構を介して波動発生部10のカム部12に伝達され、カム部12は、軸線AX周りに比較的高速で回転する。
【0035】
ここで、説明の理解を容易にするため、回転開始前のカム部12は、
図5(a)に示すように、その楕円形状の長軸が0°及び180°を通る軸に一致した初期位置Csにあるものとする。なお、図示の角度は、軸線AXを中心とした角度であり、12時の方向を0°として、時計方向に角度が増加するものとする。また、カム部12は、時計方向に回転するものとする。
【0036】
図5(a)に示すように、初期位置Csにあるカム部12は、2つの極部に対応した、0°及び180°の2箇所の噛合位置Eでフレックスギア部20(具体的には、
図5では符号を省略したアウタギア21)をインターナルギア部30(具体的には、
図5では符号を省略したインナギア31)に噛み合わせる。この状態において、インターナルギア部30の固定点Xoを0°の位置に設定し、フレックスギア部20における基準点Xfも0°の位置にあるものとする。
【0037】
図5(b)は、カム部12が初期位置Csから90°回転し、その長軸方向が90°及び270°を通る軸に一致する位置C1にある状態を示している。
カム部12が初期位置Csから位置C1に変位すると、フレックスギア部20及びインターナルギア部30の噛合位置Eが90°及び270°の位置に移動する。この際、アウタギア21の歯数はt、インナギア31の歯数はTi=t+2であり、歯数の差は、Ti-t=2であるため、フレックスギア部20の基準点Xfは、固定点Xoに対して、歯数の差「2」の1/4(=90°/360°)である1/2歯分だけ反時計方向に回転する。この反時計方向の回転角度をθ1とすると、θ1={(360°/Ti)×2}/4で表される。
【0038】
図5(c)は、カム部12が初期位置Csから180°回転し、その長軸方向が180°及び0°を通る軸に一致する位置C2にある状態を示している。
カム部12が初期位置Csから位置C2に変位すると、フレックスギア部20及びインターナルギア部30の噛合位置Eが180°及び0°の位置に移動する。この際、フレックスギア部20の基準点Xfは、固定点Xoに対して、歯数の差「2」の1/2(=180°/360°)である1歯分だけ反時計方向に回転する。この反時計方向の回転角度をθ2とすると、θ2={(360°/Ti)×2}/2で表される。
【0039】
図5(d)は、カム部12が初期位置Csから360°回転し、その長軸方向が0°及び180°を通る軸に一致する位置C3にある状態を示している。
カム部12が初期位置Csから位置C3に変位すると(つまり、360°回転すると)、フレックスギア部20及びインターナルギア部30の噛合位置Eは、0°及び180°の位置に復帰する。この際、フレックスギア部20の基準点Xfは、固定点Xoに対して、歯数の差「2」の分だけ反時計方向に回転する。この反時計方向の回転角度をθ3とすると、θ3=(360°/Ti)×2で表される。
【0040】
以上のように、カム部12を回転させると、フレックスギア部20が弾性変形し、インターナルギア部30との噛合位置Eが順次移動していく。そして、カム部12が時計方向に1回転すると、フレックスギア部20は、歯数2(=Ti-t)だけ反時計方向に移動する。これにより、複数の伝達部Tを介して、フレックスギア部20とともに回転移動する出力軸部40は、カム部12の回転速度に対して、減速比i=(Ti-t)/tで減速される。つまり、波動歯車装置100によれば、出力軸部40に接続される負荷(本例では、第2アーム212)を、上記の減速比iで減速した出力で、高精度で回転制御することができる。なお、減速比iは任意であるが、例えば、1/30~1/320程度で設定されている。
【0041】
以上では、極数NがN=2の場合について説明したが、N≧3の場合についても考え方は同様であるため、ここで纏めて説明する。極数がN≧3の場合、軸線方向から見たカム部12の形状は、正N角形状をなすとともに、例えば、各極部、及び、隣り合う極部の間が外周方向に緩やかに膨らむ曲面状を有する。
図6~
図8に、極数Nが3~8の場合を示す。なお、図示しないが、N≧9の場合についても同様に実現することができる。
【0042】
フレックスギア部20のアウタギア21は、N個の極部を有するカム部12にウェーブベアリング13を介して撓められ、N箇所でインターナルギア部30のインナギア31と噛み合う。カム部12の極数がNの場合、アウタギア21の歯数t(以下、フレックスギア部20の歯数tとも言う。)とインナギア31の歯数Ti(以下、インターナルギア部30の歯数Tiとも言う。)の関係は、「Ti=t+N」が成り立つように設定される。
そして、例えば、カム部12が時計方向に360°回転すると、フレックスギア部20がN歯分、反時計方向に移動する。つまり、カム部12の極数がNの場合、カム部12が(360°/N)の角度を回転すると、1歯分、インターナルギア部30に対してフレックスギア部20が移動する。カム部12の極数がNの場合、フレックスギア部20に固定された出力軸部40は、カム部12の回転速度に対して、減速比i=(Ti-t)/t=N/tで減速される。
【0043】
以上のように、波動歯車装置100は、カム部12の極数NをN=2に設定した場合であっても、N≧3に設定した場合であっても、モータ213からの回転入力に応じて波動発生部10のカム部12が回転すると、フレックスギア部20及びインターナルギア部30の両歯車の噛合位置Eが円周方向に移動していくとともに、両歯車の歯数差に応じて、フレックスギア部20がインターナルギア部30に対してカム部12とは逆方向に回転する。
【0044】
(伝達部T及び被挿入部Hについて)
ここからは、伝達部T及び被挿入部Hについて説明する。
図4は、カム部12の極数NがN=4(つまり、
図6(b)に示す形状)の場合に好適な、伝達部T及び被挿入部Hの配置例を示している。
【0045】
なお、
図4において、軸線方向から見たフレックスギア部20及び出力軸部40の図の外周側に示した図は、極数がN=4のカム部12がモータ213の動作に応じて軸線AXを中心に回転している際における、図示0°~90°の範囲で、フレックスギア部20を外周側から見た際の伝達部T及び被挿入部Hの相対変位を示す図(以下、相対変位図と言う。)である。
図4の相対変位図を見ると、伝達部Tが設けられた各位置において、被挿入部Hに対する伝達部Tの位置が一様では無いことが分かる。これは、前述の課題で述べたような位相ずれが生じることによる。本実施形態に係る波動歯車装置100は、以下に述べる伝達部T及び被挿入部Hの作用により、前記の位相ずれに起因して出力軸部40の回転に寄与しない無用な応力が生じることを低減し、良好な伝達効率で出力軸部40を回転させる。
【0046】
図4に示す例では、出力軸部40の対向部41には、円周方向において等間隔で配列された16個の伝達部Tが固定されている。また、フレックスギア部20の隣接部22には、16個の伝達部Tの各々が挿入される、16個の被挿入部Hが設けられる。つまり、伝達部T及び被挿入部Hの対は、360°/16(=22.5°)毎に円周方向に配列されている。
【0047】
図4の相対変位図に示すように、ある伝達部Tが0°方向に位置するとともに、当該伝達部Tに対応する被挿入部Hの円周方向における中央に位置している状態では、45°方向に位置する伝達部、及び、90°方向に位置する伝達部Tは、各々に対応する被挿入部Hの円周方向における中央に位置する。0°、45°、90°の各方向に位置する伝達部Tは、当該伝達部Tが挿入される被挿入部Hと円周方向で接していないため、出力軸部40の回転に寄与しない。
【0048】
一方で、ある伝達部Tが0°方向に位置するとともに、当該伝達部Tに対応する被挿入部Hの円周方向における中央に位置している状態では、22.5°方向に位置する伝達部Tは、挿入される被挿入部Hの一端(図中における時計方向の端)に位置する。また、当該状態では、67.5°方向に位置する伝達部Tは、挿入される被挿入部Hの円周方向における他端(図中における反時計方向の端)に位置する。22.5°方向に位置する伝達部Tは、カム部12が時計方向に回転している場合に反時計方向に移動するフレックスギア部20の被挿入部Hと、円周方向で当接するため、出力軸部40の回転に寄与する。67.5°方向に位置する伝達部Tは、カム部12が反時計方向に回転している場合に時計方向に移動するフレックスギア部20の被挿入部Hと、円周方向で当接するため、出力軸部40の回転に寄与する。
【0049】
なお、90°~180°、180°~270°、270°~360°の各範囲での伝達部T及び被挿入部Hの挙動は、45°~90°の範囲での伝達部T及び被挿入部Hと同様である。つまり、軸線AXに対する中心角が22.5°となる位置毎に、出力軸部40の回転に寄与する伝達部T(つまり、フレックスギア部20から円周方向に向く力を受ける伝達部T)と、回転に寄与しない伝達部Tとが交互に出現する。また、
図4の相対変位図は、静的に示したが、出力軸部40が22.5°だけ回転する過程において、出力軸部40の回転に寄与していなかった伝達部Tは、フレックスギア部20と円周方向で当接して出力軸部40の回転に寄与する伝達部Tへと、被挿入部Hに対して変位していく。逆に、フレックスギア部20と円周方向で当接して出力軸部40の回転に寄与していた伝達部Tは、出力軸部40の回転に寄与しない伝達部Tへと、被挿入部Hに対して変位していく。
【0050】
以上のように、カム部12の極数がN=4で、伝達部T及び被挿入部Hの対が16(4×N)個ある場合について纏める。
カム部12の極数がN=4の場合、カム部12が(360°/4)の角度だけ回転すると、1歯分、インターナルギア部30に対してフレックスギア部20が移動する。このように、インターナルギア部30に対してフレックスギア部20を1歯分移動させるためのカム部12の回転角度である90°の範囲内においては、90°/4=22.5°毎に、出力軸部40の回転に寄与する伝達部Tと、回転に寄与しない伝達部Tとが交互に出現する。当該90°の範囲内における伝達部Tと被挿入部Hの対は、伝達部Tが被挿入部Hの円周方向における一端に位置する対(以下、「第1の対」と言う。)と、伝達部Tが被挿入部Hの円周方向における他端に位置する対(以下、「第2の対」と言う。)と、を含む。第1の対は、
図4の相対変位図で、22.5°方向に位置する伝達部T及び被挿入部Hの対に相当する。また、第2の対は、
図4の相対変位図で、67.5°方向に位置する伝達部T及び被挿入部Hの対に相当する。これを、360°の範囲内で考えれば、16個ある伝達部Tと被挿入部Hの対は、円周方向で等間隔に配列された4個の第1の対と、円周方向で等間隔に配列された4個の第2の対とを含む。
【0051】
上記の考え方は、N=4の場合に限られず、一般化することができる。したがって、カム部12の極数がN(2以上の整数)で、伝達部T及び被挿入部Hの対が(4×N)個ある場合について説明する。伝達部T及び被挿入部Hの対は、円周方向において等間隔に配列される。
極数がNのカム部12が(360°/N)の角度だけ回転すると、1歯分、インターナルギア部30に対してフレックスギア部20が移動する。このように、インターナルギア部30に対してフレックスギア部20を1歯分移動させるためのカム部12の回転角度である(360°/N)の範囲内においては、{360°/(4×N)}毎に、出力軸部40の回転に寄与する伝達部Tと、回転に寄与しない伝達部Tとが交互に出現する。当該(360°/N)の範囲内における伝達部Tと被挿入部Hの対は、伝達部Tが被挿入部Hの円周方向における一端に位置する第1の対と、伝達部Tが被挿入部Hの円周方向における他端に位置する第2の対と、を含む。これを、360°の範囲内で考えれば、(4×N)個ある伝達部Tと被挿入部Hの対は、円周方向で等間隔に配列されたN個の第1の対と、円周方向で等間隔に配列されたN個の第2の対とを含む。
【0052】
以上のように、波動歯車装置100に伝達部T及び被挿入部Hの対を(4×N)個設ければ、{360°/(4×N)}毎に、出力軸部40の回転に寄与する伝達部Tと、回転に寄与しない伝達部Tとが交互に出現する。これにより、円周方向における伝達部T及び被挿入部Hの相対変位を、いわばカム方式により吸収できる。したがって、波動歯車装置100によれば、出力軸部40を軸線AX周りに回転させるためのトルクに寄与しない無用な応力がフレックスギア部20及び出力軸部40の各々に生じることを低減し、無用なねじれの力がフレックスギア部20に加わることを低減することができる。
【0053】
また、カム部12に撓められたフレックスギア部20が、インターナルギア部30に対して回転移動する際には、フレックスギア部20及びインターナルギア部30の両歯車が噛み合いつつ移動するため、径方向の脈動を伴う。しかしながら、本実施形態に係る被挿入部Hは、径方向におけるフレックスギア部20と伝達部Tとの相対的な変位も許容するため、径方向における伝達部T及び被挿入部Hの相対変位も吸収することができる。これによっても、前述した無用な応力を低減することができる。
【0054】
また、無用な応力を低減するだけでなく、伝達部T及び被挿入部Hの対は、伝達部Tが被挿入部Hの円周方向における一端に位置する第1の対と、伝達部Tが被挿入部Hの円周方向における他端に位置する第2の対と、を含む。これにより、フレックスギア部20から出力軸部40に円周方向の力を効率良く伝達することができる。
【0055】
結果として、本実施形態の波動歯車装置100によれば、フレックスギア部20と出力軸部40の連結によるメカロスを大幅に低減することができ、良好な伝達効率を実現することができる。また、フレックスギア部20が破損することを抑制することができる。
【0056】
また、フレックスギア部20から出力軸部40へ力を伝達する出力点(つまり、伝達部Tが設けられた位置)を円周方向に均等分散できるため、フレックスギア部20とインターナルギア部30の噛合箇所Eの1箇所あたりの負荷が軽減され、結果として高トルクで出力軸部40を回転させることができる。
【0057】
なお、伝達部T及び被挿入部Hの対の個数は、(4×N)個に限られない。Nの数によっては、伝達部T及び被挿入部Hの対の個数を任意に変更可能である。
例えば、カム部12の極数NがN=8(つまり、
図8(b)に示す形状)の場合、伝達部T及び被挿入部Hの対を(4×N)=32個とすると、インターナルギア部30に対してフレックスギア部20を1歯分移動させるためのカム部12の回転角度である(360°/N)=45°の範囲内においては、{360°/(4×N)}=11.25°毎に、出力軸部40の回転に寄与する伝達部Tと、回転に寄与しない伝達部Tとが交互に出現する。これを、360°の範囲内で考えれば、32個ある伝達部Tと被挿入部Hの対は、円周方向で等間隔に配列された8個の第1の対と、円周方向で等間隔に配列された8個の第2の対とを含む。
しかしながら、第1の対と第2の対は、それぞれ、4個ずつあれば、出力軸部40を安定して回転させるに充分であると考えられるため、伝達部T及び被挿入部Hの対を(2×N)=16個としてもよい。また、N=8の場合だけでなく、伝達部T及び被挿入部Hの対を(2×N)に設定し、且つ、第1の対と第2の対をそれぞれN個ずつ設けることで、全ての伝達部Tが出力軸部40の回転に寄与する構成も可能であると考えられる。さらに、Nの数によらず、伝達部T及び被挿入部Hの対の個数を設定してもよい。例えば、伝達部T及び被挿入部Hの対を円周方向に等間隔で16個配列するとともに、第1の対の第2の対のそれぞれを少なくとも4個以上設ければ、Nの数によらず、出力軸部40を安定して回転させることができる。こうすれば、伝達部Tを固定した出力軸部40を、カム部12の極数Nによらず、共用することができるため、製造の効率化を図ることもできる。
【0058】
以上のように、伝達部T及び被挿入部Hの対の個数を、(2×N)個に設定したり、Nの数によらない固定値(例えば、16個)に設定した波動歯車装置100によっても、前述と同様な作用により、無用な応力を低減し、良好な伝達効率を実現することができる。
【0059】
なお、「第1の対」における「伝達部Tが被挿入部Hの円周方向における一端に位置する」とは、伝達部Tが、被挿入部Hの円周方向における一端と当接又は近接している態様であればよく、フレックスギア部20が伝達部Tに向かって移動した場合に、直ちに、被挿入部Hの一端によって伝達部Tを円周方向に押すことができる態様であればよい。同様に、「第2の対」における「伝達部Tが被挿入部Hの円周方向における他端に位置する」とは、伝達部Tが、被挿入部Hの円周方向における他端と当接又は近接している態様であればよく、フレックスギア部20が伝達部Tに向かって移動した場合に、直ちに、被挿入部Hの他端によって伝達部Tを円周方向に押すことができる態様であればよい。
【0060】
また、「複数の伝達部T及び被挿入部Hの対が円周方向において等間隔で配列される」とは、円周方向において等間隔で配列された複数の伝達部Tが、それぞれに対応する複数の被挿入部Hに挿入されている状態であればよい。
【0061】
また、第1の対と第2の対とを創出できる限りにおいては、複数の伝達部T及び被挿入部Hの対は、円周方向において等間隔で配列されていなくともよい。この場合、出力軸部40を安定して回転させる観点から、出力軸部40及びこれに固定された複数の伝達部Tの全体の重心を軸線AXと一致させ、軸線AX周りの慣性モーメントの最小化を図ることが好ましい。
【0062】
ここからは、本実施形態に係る波動歯車装置100が有する更なる利点を、
図9(a)と
図9(b)を比較して説明する。
図9(a)は、
図2から本実施形態に係る波動歯車装置100を抜き出した図であり、
図9(b)は、前述の特許文献に開示されたような従来例に係る波動歯車装置100pを示す図である。
【0063】
従来例に係る波動歯車装置100pにおいては、本実施形態に係る波動歯車装置100の各構成に対応する構成について、符号末尾に「p」を付加して図示した。従来例と本実施形態の主な対応関係を説明すると、ウェーブジェネレータ10pは波動発生部10に対応し、フレクスプライン20pはフレックスギア部20に対応し、サーキュラスプライン30pはインターナルギア部30に対応する。
【0064】
図9(b)に示すように、従来例に係るフレクスプライン20pは、その円筒部分の出力側の端部を閉塞するダイヤフラムに出力軸40pが固定部材Tpにより固定されているため、円筒部分の高さに応じた長さLpだけ、出力軸40pの位置が入力側の回転体(例えばウェーブジェネレータ10pのカム)から遠ざかってしまう。
【0065】
一方、
図9(a)に示すように、本実施形態に係る波動歯車装置100では、フレックスギア部20の隣接部22から伝達部Tを介して出力軸部40に力を伝達する構造となっているとともに、フレックスギア部20の隣接部22及び出力軸部40の対向部41は、支持部50とカム部12との間に位置する。これにより、カム部12からフレックスギア部20の出力点(つまり、フレックスギア部20から出力軸部40へ力を伝達する伝達部Tの位置)までを長さLとすることができ、結果的に、各構成を軸線方向にコンパクトにして、波動歯車装置100を小型に構成することができる。
【0066】
また、本実施形態に係る波動歯車装置100では、フレックスギア部20が無底筒状(軸線方向から見てリング状)であり、従来例に係るフレクスプライン20pのように出力側の端部がダイヤフラムで閉塞されていないため、フレックスギア部20の肉厚をある程度確保しつつも、フレックスギア部20の可撓性を保つことができる。したがって、フレックスギア部20の座屈に対する耐性を良好とすることができ、破損しにくい。なお、フレックスギア部20の肉厚は限定されるものではないが、例えば、0.5mm~1mm程度に設定することが可能である。また、フレックスギア部20は、無底筒状であり、従来例に係るフレクスプライン20pのように有底筒状のものと比べ、加工し易い。
【0067】
また、従来例においては、構造上、フレクスプライン20pの円筒部分が軸線方向にある程度の長さが必要であり、出力軸40pを支持する支持部50pがフレクスプライン20pとサーキュラスプライン30pの噛合位置から遠ざかる。このような従来例の構造では、フレクスプライン20pとサーキュラスプライン30pの両者に、軸線AXに対して斜めの方向の応力が加わり易く、互いの歯車が摩耗し易い。
一方、本実施形態に係る波動歯車装置100では、支持部50とカム部12との間に、フレックスギア部20の隣接部22及び出力軸部40の対向部41が位置しているため、互いに噛み合うフレックスギア部20及びインターナルギア部30に、軸線AXに対して斜めの方向の応力が加わりにくい。結果として、フレックスギア部20及びインターナルギア部30における一方の歯山と他方の歯底を軸線方向に沿って接触させることができ、互いの歯車の摩耗を抑制することができる。
【0068】
また、本実施形態に係る波動歯車装置100では、カム部12だけでなく、フレックスギア部20及び出力軸部40も、軸線方向から見てリング状をなす中空状であるため、配線等を通す空間を内部に確保することができる。なお、本実施形態に係る波動歯車装置100によれば、原理上バックラッシをなくすことができることや、ロストモーションを極小にできることは勿論である。
【0069】
また、本実施形態に係る波動歯車装置100によれば、カム部12の極数がN=2だけでなく、N≧3のバリエーションを提供することができることから、以下の利点も有する。まず、従来例に係る波動歯車装置100pのように、ウェーブジェネレータ10pのカムが楕円状に設定されている場合を考える(従来例の符号は
図9(b)に準拠)。サーキュラスプライン30pの歯数をTi、ピッチ円直径をDとし、フレクスプライン20pの歯数をt、ピッチ円直径をdとすれば、減速比iは、「i=(Ti-t)/t=2/t」あるいは、「i=(D-d)/d」と考えることができる。そうすると、減速比iの値を小さくする(より減速した回転出力を得る)には、歯数tを増やしたり、サーキュラスプライン30pの直径Dに対するフレクスプライン20pの直径dの割合を大きくする必要がある。一方、減速比iの値を大きくする(回転出力の減速度合いを抑える)には、歯数tを減らしたり、サーキュラスプライン30pの直径Dに対するフレクスプライン20pの直径dの割合を小さくする必要がある。このように、従来例のように楕円状のカムにだけ頼ると、装置の大きさや条件に様々な制約が生じ、あらゆる減速比の実現が困難である。
【0070】
一方で、カム部12の極数がN≧3のバリエーションによれば、仮に、インターナルギア部30の歯数Tiとフレックスギア部20の歯数tとの少なくともいずれかを一定に保ったとしても、減速比i=N/tから分かるように、極数を増やすだけで減速比の値を大きくする(回転出力の減速度合いを抑える)ことができ、極数を減らすだけで減速比の値を小さくする(より減速した回転出力を得る)ことができる。極数のバリエーションに加えて、さらに、歯数Tiや歯数tの設定や、フレックスギア部20やインターナルギア部30の口径を変更することで、ほぼ無数のバリエーションの減速比を実現することができる。
【0071】
なお、本発明は以上の実施形態及び図面によって限定されるものではない。本発明の要旨を変更しない範囲で、適宜、変更(構成要素の削除も含む)を加えることが可能である。以下に、波動歯車装置100の一部構成を変形した変形例を述べる。
【0072】
(変形例1)
図10に示す変形例1のように、出力軸部40をフレックスギア部20の外周側に位置させてもよい。この場合、出力軸部40の対向部41は、フレックスギア部20の隣接部22の外周側に位置する。そして、対向部41に固定された伝達部Tは、軸線AXに向かって延び、隣接部22に設けられた被挿入部Hに挿入される。なお、
図10において、軸線方向から見たフレックスギア部20及び出力軸部40の図の外周側に示した図は、極数がN=4のカム部12がモータ213の動作に応じて軸線AXを中心に回転している際における、図示0°~90°の範囲で、フレックスギア部20を内周側から見た際の伝達部T及び被挿入部Hの相対変位を示す図である。変形例1においても、伝達部T及び被挿入部Hの対の個数や機能は、前述の実施形態と同様に設定することができる。
【0073】
(変形例2、3)
図11(a)、(b)に示すように、フレックスギア部20に伝達部Tを固定し、出力軸部40に被挿入部Hを設けてもよい。こうした場合、
図11(a)に示す変形例2のように、出力軸部40をフレックスギア部20の内周側に位置させてもよいし、
図11(b)に示す変形例3のように、出力軸部40をフレックスギア部20の外周側に位置させてもよい。
変形例2、3に係る伝達部Tは、フレックスギア部20の隣接部22に固定されている。この伝達部Tは、軸線AXを中心とした径方向に沿うとともに、出力軸部40の対向部41に向かって延びており、対向部41に設けられた被挿入部Hに挿入される。
変形例2、3に係る被挿入部Hは、伝達部Tが挿入されるとともに、円周方向における口径が伝達部Tを構成するピンの外径(直径)よりも長い長孔からなる。これにより、被挿入部Hは、円周方向における出力軸部40と伝達部Tとの相対的な変位(つまり、円周方向における出力軸部40とフレックスギア部20との相対的な変位)を許容する。また、被挿入部Hは、径方向における出力軸部40と伝達部Tとの相対的な変位(つまり、径方向における出力軸部40とフレックスギア部20との相対的な変位)を許容することができれば、
図11(a)、(b)に示す有底孔であってもよいし、図示しない貫通孔であってもよい。変形例2、3においても、伝達部T及び被挿入部Hの対の個数や機能は、前述の実施形態と同様に設定することができる。
【0074】
(他の変形例)
以上では、波動歯車装置100が垂直多関節ロボットからなるロボット200に組み込まれる例を示したが、これに限られない。波動歯車装置100は、水平多関節ロボット、デルタ型ロボットなど種々のロボットに組み込むことが可能である。また、波動歯車装置100が組み込まれる装置はロボットに限定されず任意であり、回転入力に対して所望の減速比で減速した回転出力を得る目的で使用されるものであればよい。波動歯車装置100は、例えば、ロボット以外の精密機械、ホビー用品、家電、車載部品等に組み込まれるものであってもよい。
【0075】
また、フレックスギア部20の歯数tと、インターナルギア部30の歯数Tiは、Ti>tであれば任意である。ただし、カム部12の極数がNの場合、歯数tと歯数Tiの関係を「Ti=t+N」と設定することが好ましい。
【0076】
以上では、1つの伝達部Tが1つのピンで構成される例を示したが、1つの伝達部Tが軸線方向に並ぶ複数のピンで構成されていてもよい。こうした場合、伝達部Tに対応する被挿入部Hを、伝達部Tを構成する複数のピンが挿入可能な大きさに設ければよい。被挿入部Hは、円周方向及び径方向におけるフレックスギア部20と出力軸部40との相対的な変位を許容することができればよい。
【0077】
また、波動歯車装置100を構成する部材の材料は、任意であり、金属に限られず、エンジニアリングプラスチック、樹脂、セラミック等、目的に応じて適宜選択することができる。
【0078】
(1)以上に説明した波動歯車装置100は、フレックスギア部22の動力を出力軸部40に伝達する伝達部Tを備える。上記実施形態や変形例1において、伝達部Tは、出力軸部40の対向部41に固定され、フレックスギア部20の隣接部22に向かって延びている。隣接部22には、伝達部Tが挿入されるとともに、円周方向におけるフレックスギア部20と出力軸部40との相対的な変位を許容する被挿入部Hが設けられている。
(2)また、
図11(a)、(b)に示した変形例2、3に係る波動歯車装置100において、伝達部Tは、フレックスギア部20の隣接部22に固定され、出力軸部40の対向部41に向かって延びている。対向部41には、伝達部Tが挿入されるとともに、円周方向におけるフレックスギア部20と出力軸部40との相対的な変位を許容する被挿入部Hが設けられている。
上記(1)、(2)に記載のいずれの構成においても、伝達部T及び被挿入部Hの対は、複数あり、円周方向に配列されている。また、カム部12は、円周方向において等間隔で位置するN(Nは、2以上の整数)個の極部を有し、アウタギア21をN箇所でインナギア31と噛み合わせる。なお、アウタギア21の歯数tは、インナギア31の歯数TiよりもN個少ない(t=Ti-N)ことが好ましい。
【0079】
上記(1)、(2)の構成によれば、前述の通り、主にフレックスギア部20に加わる無用な応力を抑制することができるため、波動歯車装置100が破損しにくい。また、フレックスギア部20から出力軸部40に力を伝達する部分を、アウタギア21と隣り合う隣接部22としたため、主に軸線方向に波動歯車装置100が大型化することを抑制することができる。また、極数のNを任意に設定すれば、種々の減速比を簡易な構成で実現することができる。
【0080】
(3)また、複数の伝達部T及び被挿入部Hの対は、前記円周方向において等間隔で配列されていてもよい。この構成によれば、フレックスギア部20から出力軸部40へ力を伝達する出力点を円周方向に均等分散できるため、高トルクで出力軸部40を回転させることができる。
【0081】
(4)また、複数の伝達部T及び被挿入部Hの対は、カム部12が軸線AXを中心として回転している際に、伝達部Tが被挿入部Hの円周方向における一端に位置する第1の対、及び、伝達部Tが被挿入部Hの円周方向における他端に位置する第2の対を含んでいてもよい。この構成によれば、前述の通り、フレックスギア部20から出力軸部40に円周方向の力を効率良く伝達することができる。
【0082】
(5)好ましくは、伝達部T及び被挿入部Hの対は、2×N個以上あればよい。なお、伝達部T及び被挿入部Hの対は、4×N以上あってもよいし、極数Nに関わらない固定数(例えば、16個)あってもよい。
【0083】
(6)また、被挿入部Hは、径方向におけるフレックスギア部20と出力軸部40との相対的な変位も許容する。この構成によれば、径方向におけるフレックスギア部20と出力軸部40の相対変位も吸収することができるため、前述した無用な応力をより良好に低減することができる。
【0084】
(7)波動歯車装置100は、出力軸部40をインターナルギア部30に対して回転可能に支持する支持部50をさらに備え、隣接部22及び対向部41は、支持部50とカム部12との間に位置する。この構成によれば、前述の通り、カム部12からフレックスギア部20の出力点(つまり、フレックスギア部20から出力軸部40へ力を伝達する伝達部Tの位置)までの軸線方向の長さを抑えることができ、各構成を軸線方向にコンパクトにして、波動歯車装置100を小型に構成することができる。このように出力点までの長さを抑えることができれば、フレックスギア部20及びインターナルギア部30における一方の歯山と他方の歯底を軸線方向に沿って接触させることができ、互いの歯車の摩耗を抑制することもできる。なお、支持部50は、クロスローラーベアリングに限られず、ボールベアリングや出力軸部40を摺動させて回転可能に支持する軸受などであってもよい。
【0085】
(8)好ましくは、伝達部Tは、柱状のピンからなり、被挿入部Hは、円周方向における口径がピンの外径よりも長い長孔からなる。
【0086】
(9)
図4や
図11(a)に示すように、出力軸部40の対向部41がフレックスギア部20の隣接部22の内周側に位置する構成とすれば、波動歯車装置100が径方向に大型化することを抑制することができる。
【0087】
(10)
図10や
図11(b)に示すように、出力軸部40の対向部41がフレックスギア部20の隣接部22の外周側に位置する構成とすれば、波動歯車装置100の軸線AX周りに、配線等を通す空間を内部に確保することができる。
【0088】
以上の説明では、本発明の理解を容易にするために、公知の技術的事項の説明を適宜省略した。
【符号の説明】
【0089】
100…波動歯車装置
10…波動発生部
11…円筒軸部、12…カム部、13…ウェーブベアリング
20…フレックスギア部
21…アウタギア、22…隣接部、H…被挿入部
30…インターナルギア部
31…インナギア
40…出力軸部
41…対向部、42…被支持部
50…支持部
T…伝達部
200…ロボット、201…基台
210…ロボット本体部
211…第1アーム、212…第2アーム、213…モータ
220…コントローラ