(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】量子画像伝送システム
(51)【国際特許分類】
H04B 10/70 20130101AFI20240105BHJP
H04L 9/12 20060101ALI20240105BHJP
H04B 10/85 20130101ALI20240105BHJP
G02F 1/35 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
H04B10/70
H04L9/12
H04B10/85
G02F1/35
(21)【出願番号】P 2020012762
(22)【出願日】2020-01-29
【審査請求日】2023-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(72)【発明者】
【氏名】井上 修一郎
【審査官】後澤 瑞征
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-184700(JP,A)
【文献】特開2011-061833(JP,A)
【文献】特開平11-234265(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108650081(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/70
H04L 9/12
H04B 10/85
G02F 1/35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光量子もつれによって互いに関係づけられる光子対を出射する偏光量子もつれ光源と、
前記偏光量子もつれ光源から出射された1対の光子対のうち一方の光子の偏光状態を、互いに異なる偏光基底で偏光状態を観測可能な少なくとも2種類の観測系のうちのいずれかの観測系によって観測する送信側観測部と、
前記1対の光子対のうち他方の光子の空間状態を、所定の変調パターンと画像情報とに基づいて変化させる空間変調部と、
前記空間変調部が変化させた前記他方の光子の偏光状態及び変調パターンに対応した光子検出回数を測定する受信側観測部と、
前記送信側観測部が前記一方の光子の偏光基底・光子検出時刻・偏光状態の測定結果の一部と、前記受信側観測部が観測した前記他方の光子の偏光状態とに基づいて、光子の送受信の盗聴安全性を判定する判定部と、
前記所定の変調パターンを示す情報と、前記所定の変調パターンに対応して前記受信側観測部が観測した前記他方の光子の個数とに基づいて、前記画像情報を復号する復号部と、
を備える量子画像伝送システム。
【請求項2】
前記空間変調部は、格子状に配列されたマイクロミラーを前記所定の変調パターンに基づいて駆動することにより、前記マイクロミラーに入射する前記他方の光子の空間状態を変化させる
請求項1に記載の量子画像伝送システム。
【請求項3】
前記空間変調部は、格子状に配列された光変調素子の変調状態を前記所定の変調パターンに基づいて変化させることにより、前記光変調素子に入射する前記他方の光子の空間状態を変化させる
請求項1に記載の量子画像伝送システム。
【請求項4】
送信側装置が、前記偏光量子もつれ光源と、前記送信側観測部と、前記空間変調部とを備え、
受信側装置が、前記受信側観測部と、前記判定部と、前記復号部とを備える
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の量子画像伝送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子画像伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、画像の秘匿伝送においては、まず、送信者と受信者との間で暗号鍵を共有し、次に、共有された暗号鍵を用いて画像を伝送していた。暗号鍵の共有に用いられる技術として、例えば、量子もつれ光子対を利用した量子鍵配送システムが開示されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来技術においては、暗号鍵の共有と、画像伝送との二段階の手順によって画像伝送を行っていたため、画像伝送に手間と時間とを要するという問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題を解決すべくなされたもので、その目的は、安全性を備えた画像伝送の手間と時間とを低減することができる量子画像伝送システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態は、偏光量子もつれによって互いに関係づけられる光子対を出射する偏光量子もつれ光源と、前記偏光量子もつれ光源から出射された1対の光子対のうち一方の光子の偏光状態を、互いに異なる偏光基底で観測可能な少なくとも2種類の観測系のうちのいずれかの観測系によって観測する送信側観測部と、前記1対の光子対のうち他方の光子の空間状態を、所定の変調パターンと画像情報とに基づいて変化させる空間変調部と、前記空間変調部が変化させた前記他方の光子の偏光状態及び変調パターンに対応した光子検出回数を測定する受信側観測部と、前記送信側観測部が前記一方の光子の偏光基底・光子検出時刻・偏光状態の測定結果の一部と、前記受信側観測部が観測した前記他方の光子の偏光状態とに基づいて、光子の送受信の盗聴安全性を判定する判定部と、前記所定の変調パターンを示す情報と、前記所定の変調パターンに対応して前記受信側観測部が観測した前記他方の光子の個数とに基づいて、前記画像情報を復号する復号部と、を備える量子画像伝送システムである。
【0007】
また、本発明の一実施形態は、上述の量子画像伝送システムにおいて、前記空間変調部は、格子状に配列されたマイクロミラーを前記所定の変調パターンに基づいて駆動することにより、前記マイクロミラーに入射する前記他方の光子の空間状態を変化させる。
【0008】
また、本発明の一実施形態は、上述の量子画像伝送システムにおいて、前記空間変調部は、格子状に配列された光変調素子の変調状態を前記所定の変調パターンに基づいて変化させることにより、前記光変調素子に入射する前記他方の光子の空間状態を変化させる。
【0009】
また、本発明の一実施形態は、上述の量子画像伝送システムにおいて、送信側装置が、前記偏光量子もつれ光源と、前記送信側観測部と、前記空間変調部とを備え、受信側装置が、前記受信側観測部と、前記判定部と、前記復号部とを備える。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、安全性を備えた画像伝送の手間と時間とを低減することができる量子画像伝送システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態の量子画像伝送システム1の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図を参照して量子画像伝送システム1の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態の量子画像伝送システム1の構成の一例を示す図である。
【0013】
量子画像伝送システム1は、送信側装置10と、受信側装置20とを備える。送信側装置10と受信側装置20との間は、例えば、光ファイバ30などの光路によって接続されている。この一例では、送信側装置10は、受信側装置20に対して画像情報を量子もつれ光子対の一方の光子の空間状態に符号化して送信する。
【0014】
送信側装置10は、偏光量子もつれ光源11と、ダイクロイックミラー12と、送信側観測部13と、光学系(反射鏡)14と、空間変調部15とを備える。
偏光量子もつれ光源11は、例えば、レーザ111と、光学系112と、非線形光学結晶113と、光学系114とを備える。レーザ111は、レーザ光を出射する。光学系112は、レーザ111から出射されたレーザ光を非線形光学結晶113に入射させる。非線形光学結晶113は、例えば、擬似位相整合非線形光学結晶(QPM-NC:Quasi-Phase Matching Nonlinear Optical Crystal)であり、自然パラメトリック下方変換(SPDC:Spontaneous Parametric Down Conversion)によって、レーザ111が出力したレーザ光から量子もつれ光子対を生成する。光学系114は、レーザ光を取り除き、非線形光学結晶113から出力された量子もつれ光子対だけを偏光量子もつれ光源11の外部に出射する。
なお、以下の説明において量子もつれ光子対のことを、単に「光子対P」ともいう。この光子対Pの受信側装置20に伝送される光子の波長は、光ファイバ30による伝送路において減衰されにくい波長であることが好ましく、例えば、1550nm(ナノメートル)である。
【0015】
偏光量子もつれ光源11は、確率的に光子対Pを発生する。この光子対Pは、偏光量子もつれによって互いに関係づけられている。光子対Pの一方をシグナル光子ともいい、他方をアイドラ光子ともいう。
【0016】
すなわち、偏光量子もつれ光源11は、偏光量子もつれによって互いに関係づけられる光子対Pを出射する。
【0017】
光子対Pの一方の光子の波長と他方の光子の波長とが互いに異なっている場合には、ダイクロイックミラー12によって光子対Pを分離させることができる。
ダイクロイックミラー12は、特定の波長を有する光を反射させ、それ以外の波長を有する光を透過させる。ダイクロイックミラー12は、この波長に応じて光を反射させ又は透過させる特性によって、光子対Pをシグナル光子とアイドラ光子とに分離する。
なお、分離された光子のいずれをシグナル光子といい、いずれをアイドラ光子というのかは、説明の便宜による。この一例では、ダイクロイックミラー12は、アイドラ光子を送信側観測部13に出射し、シグナル光子を光学系(反射鏡)14に出射する。この一例においては、アイドラ光子を「一方の光子」ともいい、シグナル光子を「他方の光子」ともいう。
また、光子対Pのうち、一方の光子の波長と他方の光子の波長とが一致している場合など、ダイクロイックミラー12による光子対Pの分離が困難である場合には、送信側装置10は、ダイクロイックミラー12に代えて、ハーフミラー(不図示)を備えていてもよい。
【0018】
送信側観測部13は、アイドラ光子の偏光状態を異なる2つの偏光基底で観測する。ここでいう偏光基底には、例えば、0°基底(H偏光、V偏光)や、45°基底(D(+)偏光、D(-)偏光)などがある。
具体的には、送信側観測部13は、互いに異なる偏光基底で偏光状態を観測可能な、少なくとも2種類の観測系(この一例では、観測系131及び観測系132)と、ハーフミラー133とを備える。ハーフミラー133は、ダイクロイックミラー12から入射するアイドラ光子を、各観測系のいずれかにランダムに導光する。
【0019】
観測系131は、偏光ビームスプリッタ1311と、単一光子検出器1312と、単一光子検出器1313とを備える。偏光ビームスプリッタ1311は、ハーフミラー133から入射するアイドラ光子を、単一光子検出器1312と単一光子検出器1313とのいずれかの検出器にランダムに導光する。
観測系132は、偏光ビームスプリッタ1321と、単一光子検出器1322と、単一光子検出器1323と、波長板1324とを備える。波長板1324は、ハーフミラー133から入射するアイドラ光子の偏光を変更する。一例として、波長板1324とは、λ/2板であり、ハーフミラー133から入射するアイドラ光子の偏光を45°変更する。偏光ビームスプリッタ1321は、波長板1324から出射されるアイドラ光子を、単一光子検出器1322と単一光子検出器1323とのいずれかの検出器にランダムに導光する。
【0020】
送信側観測部13は、上述した4種類の単一光子検出器のうちいずれの単一光子検出器によってアイドラ光子が検出されたのかを示す検出結果に基づいて、アイドラ光子を検出した偏光基底を決定する。
【0021】
すなわち、送信側観測部13は、偏光量子もつれ光源11から出射された1対の光子対Pのうち一方の光子の偏光状態を、互いに異なる偏光基底で偏光状態を観測可能な少なくとも2種類の観測系(例えば、観測系131、観測系132)のうちのいずれかの観測系によって観測する。
なお、上述した観測系の種類や偏光状態の種類は、一例であって、例示したものに限られない。
【0022】
光学系(反射鏡)14は、ダイクロイックミラー12が出射するシグナル光子を空間変調部15に入射させる。
【0023】
空間変調部15は、画像提示部151と、変調部光学系152と、マイクロミラーデバイス153とを備える。
画像提示部151は、例えば、複数の画素を備える透過型の液晶表示面を備えており、送信側装置10に入力される画像情報IMGに基づく画像を提示する。画像提示部151をシグナル光子が透過すると、提示された画像によってシグナル光子の空間状態が変化する。
変調部光学系152は、画像提示部151から出射されるシグナル光子をマイクロミラーデバイス153に導光する。
【0024】
マイクロミラーデバイス153は、多数の可動式のマイクロミラーをCMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)プロセスにより作成した集積回路上に格子状に配列したMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)デバイスである。
各マイクロミラーは、例えば、一辺が数十μm(マイクロメートル)の正方形の鏡面を有しており、各鏡面の裏側に設けられている電極を駆動することにより、当該鏡面をねじれ軸周りに+12度又は-12度傾けることができる。各マイクロミラーは、鏡面が+12度傾いている場合、オン状態であり、鏡面が-12度傾いている場合、オフ状態である。
【0025】
マイクロミラーデバイス153は、変調部光学系152を挟んで画像提示部151と共役の位置に配置されている。マイクロミラーデバイス153は、画像提示部151の液晶表示面の画素に対応する(例えば、共役の)位置に、マイクロミラーをそれぞれ備えている。マイクロミラーデバイス153は、画像提示部151に提示される画像を構成する画素のうち、受信側装置20に送信すべき位置の画素を選択可能である。
空間変調部15は、マイクロミラーデバイス153が備えるそれぞれのマイクロミラーを所定の変調パターンに基づいて駆動する。この結果、空間変調部15は、入射するシグナル光子の空間状態を変化させる。
【0026】
すなわち、空間変調部15は、1対の光子対Pのうち他方の光子の空間状態を、所定の変調パターンと画像情報IMGとに基づいて変化させる。上述の一例では、空間変調部15は、格子状に配列されたマイクロミラーを所定の変調パターンに基づいて駆動することにより、マイクロミラーに入射する光子(例えば、シグナル光子)の空間状態を変化させる。
【0027】
なお、空間変調部15の画像提示部151及びマイクロミラーデバイス153は、制御部(不図示)によって制御される。この制御部は、LSI(Large Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)等の回路部(circuitry)を含むハードウェアにより実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働により実現されてもよい。
【0028】
また、上述の一例では、空間変調部15の画像提示部151が、入射面に入射したシグナル光子が入射面とは反対側の面に透過する透過型である場合について説明したが、これに限られない。例えば、画像提示部151は、入射面に入射したシグナル光子が入射面と同一側の面から出射する反射型であってもよい。
【0029】
また、空間変調部15が、画像提示部151、変調部光学系152、及びマイクロミラーデバイス153によってシグナル光子の空間状態を変化させるとして説明したが、これに限られない。空間変調部15は、画像提示部151、変調部光学系152、及びマイクロミラーデバイス153に代えて、格子状に配列された光変調素子、例えば、SLM(Spatial Light Modulator;空間光変調器)(不図示)を備えていてもよい。この場合、空間変調部15は、SLMに供給される画像情報IMGと所定の変調パターンとに基づいて、シグナル光子の空間状態を変化させる。
すなわち、空間変調部15は、格子状に配列された光変調素子の変調状態を光変調素子に供給される画像情報IMGと所定の変調パターンに基づいて変化させることにより、光変調素子に入射する他方の光子の空間状態を変化させてもよい。
つまり、マイクロミラーデバイス153とは、空間変調部15が備える構成の一例である。
【0030】
空間変調部15から出射されたシグナル光子は、光ファイバ30に導光され、受信側装置20に入射する。
また、送信側装置10は、送信側観測部13によるアイドラ光子の偏光状態の観測結果と、マイクロミラーデバイス153による変調パターンとを、受信側装置20に出力する。ここで、アイドラ光子の偏光状態の観測結果には、アイドラ光子を測定した偏光基底を示す情報と、アイドラ光子の観測時刻と、アイドラ光子の偏光測定結果の一部とを示す情報が含まれる。
【0031】
受信側装置20は、受信側観測部21と、光学系(反射鏡)22と、信号処理部23とを備える。
光学系(反射鏡)22は、上述した光学系(反射鏡)14に対応する光学系である。光学系(反射鏡)22は、空間変調部15から光ファイバ30を介して入射するシグナル光子を受信側観測部21に入射させる。
【0032】
受信側観測部21は、上述した送信側観測部13に対応する構成を有しており、シグナル光子の偏光状態を観測する。ここでいう偏光状態には、上述した送信側観測部13の場合と同様に、例えば、0°基底の偏光(H偏光、V偏光)や、45°基底の偏光(D(+)偏光、D(-)偏光)などがある。
具体的には、受信側観測部21は、互いに異なる偏光基底で偏光状態を観測可能な、少なくとも2種類の観測系(この一例では、観測系211と、観測系212)と、ハーフミラー213とを備える。
【0033】
ハーフミラー213は、光学系(反射鏡)22から入射するシグナル光子を、各観測系のいずれかにランダムに導光する。
【0034】
観測系211は、上述した観測系131に対応する観測系である。観測系211は、偏光ビームスプリッタ2111と、単一光子検出器2112と、単一光子検出器2113とを備える。偏光ビームスプリッタ2111は、ハーフミラー213から入射するシグナル光子を、単一光子検出器2112と単一光子検出器2113とのいずれかの検出器にランダムに導光する。
観測系212は、上述した観測系132に対応する観測系である。観測系212は、偏光ビームスプリッタ2121と、単一光子検出器2122と、単一光子検出器2123と、波長板2124とを備える。波長板2124は、上述した波長板1324に対応する波長板である。波長板2124は、ハーフミラー213から入射するシグナル光子の偏光を変更する。一例として、波長板2124とは、λ/2板であり、ハーフミラー213から入射するシグナル光子の偏光を45°変更する。偏光ビームスプリッタ2121は、波長板2124から出射されるシグナル光子を、単一光子検出器2122と単一光子検出器2123とのいずれかの検出器にランダムに導光する。
【0035】
受信側観測部21は、上述した4種類の単一光子検出器(例えば、単一光子検出器2112、単一光子検出器2113、単一光子検出器2122、及び単一光子検出器2123)のうちいずれの単一光子検出器によってシグナル光子が検出されたのかを示す検出結果に基づいて、シグナル光子の偏光状態を観測する。
【0036】
すなわち、受信側観測部21は、空間変調部15が変化させた他方の光子の偏光状態を、送信側観測部13の観測系の種類(観測系131、観測系132)に応じた観測系(観測系211、観測系212)のうちのいずれかの観測系によって観測する。
【0037】
信号処理部23は、LSI(Large Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)等の回路部(circuitry)を含むハードウェアにより実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働により実現されてもよい。信号処理部23は、その機能部として、判定部231と、復号部232とを備える。
【0038】
判定部231は、受信側観測部21によるシグナル光子の偏光状態の観測結果を取得する。このシグナル光子の偏光状態の観測結果には、一例として、シグナル光子の偏光状態が、H偏光、V偏光、D(+)偏光又はD(-)偏光のいずれであるのかを示す情報と、シグナル光子の観測時刻とを示す情報が含まれる。
また、判定部231は、送信側観測部13が出力するアイドラ光子の偏光状態の観測結果を取得する。上述したように、このアイドラ光子の偏光状態の観測結果には、アイドラ光子を測定した偏光基底を示す情報と、アイドラ光子の観測時刻と、アイドラ光子の偏光測定結果の一部を示す情報が含まれる。
【0039】
一般に、送信側装置10と受信側装置20との間の通信経路において、第三者(盗聴者)がシグナル光子の状態を観察した場合(つまり、盗聴が発生した場合)、シグナル光子の偏光状態が確定する。
【0040】
判定部231は、送信側観測部13が一方の光子の偏光状態を観測した観測系の種類を示す情報及び観測時刻と、受信側観測部21が観測した他方の光子の偏光状態とに基づいて、光子の送受信の盗聴安全性を判定する。
なお、送信側観測部13は、アイドラ光子の偏光基底・アイドラ光子の光子検出時刻・アイドラ光子の偏光状態の測定結果のうちの一部を、受信側観測部21に出力する。なお、以下の説明において、アイドラ光子の偏光基底・アイドラ光子の光子検出時刻・アイドラ光子の偏光状態の測定結果のうちの一部のことを、アイドラ光子の偏光基底・光子検出時刻・偏光状態の測定結果の一部とも記載する。判定部231は、送信側観測部13が出力するアイドラ光子の偏光基底・光子検出時刻・偏光状態の測定結果のうちの一部と、受信側観測部21が観測したシグナル光子の偏光状態の観測とを比較する。
【0041】
復号部232は、送信側装置10が送信するマイクロミラーデバイス153による変調パターンを示す情報を取得する。復号部232は、取得した所定の変調パターンを示す情報と、当該所定の変調パターンに対応して受信側観測部21が観測した他方の光子(つまり、シグナル光子)の個数とに基づいて、画像情報IMGを復号する。
ここで、復号部232は、判定部231が光子の送受信の盗聴安全性が確保されていると判定した場合に、画像情報IMGを復号してもよい。
【0042】
なお、上述したように、送信側装置10が、偏光量子もつれ光源11と、送信側観測部13と、空間変調部15とを備え、受信側装置20が、受信側観測部21と、判定部231と、復号部232とを備える。
【0043】
また、上述した各単一光子検出器は、アバランシェフォトダイオード(APD:Avalanche Photodiode)又は超伝導ナノワイヤ単一光子検出器(SNSPD:Superconducting Nanowire Single Photon Detector)などによって構成されていてもよい。
また、上述した各単一光子検出器は、超伝導転移端センサ(TES:Transition Edge Sensor)によって構成されていてもよい。超伝導転移端センサによって構成された単一光子検出器を備える量子画像伝送システム1によれば、RGB3色の波長の量子もつれ光源を用いれば、カラー画像を伝送することも可能である。
【0044】
以上説明したように、本実施形態の量子画像伝送システム1によれば、受信側装置20において、1つのシグナル光子の偏光状態と、マイクロミラーデバイス153の空間変調パターンに対応した光子検出回数とを測定する。このように構成された量子画像伝送システム1によれば、(偏光量子もつれによって安全性を備えた鍵配送を行い、シグナル光子の空間変調状態によって安全な画像伝送を行うことができる。
【0045】
ここで、従来技術によると、画像情報を暗号化して送受信する場合、暗号鍵の共有と画像伝送との二段階を経る必要があった。
本実施形態の量子画像伝送システム1によれば、従来技術のように暗号鍵の共有が不要になる。本実施形態の量子画像伝送システム1によれば、従来技術のように暗号鍵の共有と画像伝送との二段階を経ることなく、安全性が確保された画像伝送を行うことができる。すなわち、本実施形態の量子画像伝送システム1によれば、安全性が確保された画像伝送を行う際の手間と時間とを低減することができる。
【0046】
なお、上述の説明においては、量子画像伝送システム1が画像情報を伝送するものであるとして説明したが、これに限られない。量子画像伝送システム1は、画像情報に代えて、又は画像情報に加えて、鍵情報を伝送してもよい。この場合、送信側装置10と受信側装置20は、伝達された偏光基底の情報に基づいて鍵生成を行う鍵生成部(不図示)を備えていてもよい。受信側装置20の鍵生成部は送信側装置と同じ偏光基底で偏光測定した結果から鍵を生成する。受信側装置20は送信側装置10と同じ偏光基底で光子を検出した時刻を送信側装置10に対して伝達する。送信側装置10の鍵生成部は、伝達された光子検出時刻の情報に基づいて鍵生成を行う。
【0047】
以上、本発明の実施形態について、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。上述した各実施形態に記載の構成を組み合わせてもよい。
【0048】
なお、上記の実施形態における各装置が備える各部は、専用のハードウェアにより実現されるものであってもよく、また、メモリおよびマイクロプロセッサにより実現させるものであってもよい。
【0049】
なお、各装置が備える各部は、メモリおよびCPU(中央演算装置)により構成され、各装置が備える各部の機能を実現するためのプログラムをメモリにロードして実行することによりその機能を実現させるものであってもよい。
【0050】
また、各装置が備える各部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、制御部が備える各部による処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
【0051】
また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【符号の説明】
【0052】
1…量子画像伝送システム、10…送信側装置、11…偏光量子もつれ光源、13…送信側観測部、15…空間変調部、20…受信側装置、21…受信側観測部、23…信号処理部、30…光ファイバ