(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】撹拌機及び溶湯処理装置
(51)【国際特許分類】
C22B 21/06 20060101AFI20240105BHJP
C22B 26/22 20060101ALI20240105BHJP
C22B 9/05 20060101ALI20240105BHJP
B01F 33/40 20220101ALI20240105BHJP
【FI】
C22B21/06
C22B26/22
C22B9/05
B01F33/40
(21)【出願番号】P 2020046068
(22)【出願日】2020-03-17
【審査請求日】2023-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】591058792
【氏名又は名称】日本金属化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】大間知 聡一郎
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 英之
(72)【発明者】
【氏名】片山 菜々子
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/019107(WO,A1)
【文献】特開2018-178205(JP,A)
【文献】特開2012-035205(JP,A)
【文献】特開2017-024058(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 9/05
B01F 33/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動軸に取り付けられ、溶融金属を撹拌すると共に処理ガスを供給する撹拌機において、
基端側が前記回転駆動軸を支持する駆動機構に取り付けられると共に前記処理ガスが供給される筒状の筐体と、
前記筐体内部に挿入され、前記回転駆動軸に基端側が結合された回転軸と、
前記筐体内の先端側に設けられ、前記回転軸の先端側に取り付けられた回転羽根と、
前記筐体を昇降させて、前記回転羽根を前記筐体の先端側から露出する位置と、先端側に格納する位置との間を移動させる昇降機構を備えている撹拌機。
【請求項2】
前記筐体の外側面に形成された開口部を備えている請求項1に記載の撹拌機。
【請求項3】
溶融金属を撹拌すると共に、処理ガスを供給することで不要ガスを除去する溶湯処理装置において、
前記溶融金属を収容する処理槽と、
前記処理ガスを供給するガス供給機構と、
前記処理槽に挿脱可能に設けられた撹拌機を備え、
前記撹拌機は、基端側が回転駆動軸を支持する駆動機構に取り付けられると共に前記処理ガスが供給される筒状の筐体と、
前記筐体内部に挿入され、前記回転駆動軸に基端側が結合された回転軸と、
前記筐体内の先端側に設けられ、前記回転軸の先端側に取り付けられた回転羽根と、
前記筐体を昇降させて、前記回転羽根を前記筐体の先端側から露出する位置と、先端側に格納する位置との間を移動させる昇降機構を備えている溶湯処理装置。
【請求項4】
回転駆動軸に取り付けられ、水又は水溶液を撹拌すると共に処理ガスを供給する撹拌機において、
基端側が前記回転駆動軸を支持する駆動機構に取り付けられると共に前記処理ガスが供給される筒状の筐体と、
前記筐体内部に挿入され、前記回転駆動軸に基端側が結合された回転軸と、
前記筐体内の先端側に設けられ、前記回転軸の先端側に取り付けられた回転羽根と、
前記筐体を昇降させて、前記回転羽根を前記筐体の先端側から露出する位置と、先端側に格納する位置との間を移動させる昇降機構を備えている撹拌機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状物質、例えば、溶融状態のアルミニウム合金やマグネシウム合金等の金属や、各種水溶液等を撹拌する際に用いられる撹拌機及び溶湯処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金やマグネシウム合金を用いた製品は、製品寿命が尽きれば回収され、溶解炉等で溶融されて、他の製品に再利用されることがある。
【0003】
アルミニウム合金、マグネシウム合金は化学的に活性な金属であるため、溶解炉等において大気に曝されると容易に酸化して多量の酸化物及び酸化物に付着した介在物(以下、「ドロス」という)を形成する。ドロスにはAl2O3,MgO,Al2MgO4,SiO2,珪酸塩、Al・Si・O,FeO,Fe2O3などの酸化物の他に、炭化物(Al4C3、Al4O4C、黒鉛炭素)、ボライド(AlB2、AlB12、TiB2、VB2)、Al3Ti、Al3Zr、CaSO4、AlN及び各種のハロゲン化物がある。ドロスが懸濁によってアルミニウム溶湯中に混入すると、最終的に非金属介在物となって展伸材、鍛造品、ダイカスト品などの製品の品質低下を招く。このため溶解炉、保持炉、トリベ等の各段階において溶湯からドロスを分離除去する必要がある。
【0004】
溶解炉の回転傾度を変えることによりドロスを溶湯から分離排出し、効率よく回収する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。このように溶解工程でドロスを効率よく回収することができるが、Al溶湯中には水素等の不純物ガス成分が含まれているので、さらに再溶解時に脱ガス処理する必要がある。
【0005】
一方、脱ガス処理方法として、処理槽内の溶湯にアルゴン、窒素、塩素等の処理ガスを吹込みガスバブリングする技術が知られている。例えば、ガスバブリング中の溶湯にフラックスを投入する方法(例えば、特許文献2参照。)、あるいはガスバブリング中の溶湯を回転羽根により撹拌する方法(例えば、特許文献3,4,5参照。)が知られている。さらに、溶湯にフラックスを投入し、撹拌機で撹拌し、溶湯中に混在する酸化物を改質してドロスを溶湯から容易に分離させる溶湯の処理方法が知られている(例えば、特許文献6参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-227567号公報(4頁~5頁)
【文献】特開昭63-183136号公報(1頁~4頁、
図1、
図2)
【文献】特開平10-306330号公報(3頁~4頁、
図5、
図6)
【文献】特開昭62-297422号公報(1頁、
図1)
【文献】特開2004-143483号公報(
図1、
図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した撹拌機及び溶湯処理装置は、次のような問題があった。すなわち、アルミニウム溶湯、ドロス及びフラックスの撹拌効率を高めるため、回転羽根を溶湯の表面近くに配置すると、バブルが混ざるだけで、バブルの径が十分に小さくならなかった。このため、バブルの単位体積当たりの表面積が小さくなり、しかも、溶湯中における滞留時間が短くなることから、十分に反応しないうちに短時間で大気中に拡散していた。このため、処理ガスの供給量は、例えば、0.3MPaで1分当たり20L程度であり、一般的な処理時間において100L程度の処理ガスを供給する必要があった。このため、処理ガスの使用量が多く、処理コストが高くなる原因になっていた。
【0008】
なお、金属溶湯の撹拌に限らず、水溶液についても同様の課題が生じる場合がある。
【0009】
一方、径の小さいバブルを発生させるため、回転羽根を溶湯の深い位置で回転させ、しかも筐体内で回転させる構造とすると、上述した撹拌効率が低下するという問題があった。
【0010】
そこで、本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、径の小さいバブルを発生させることで、溶湯や水溶液中に滞留させることによりガスの使用量を節減すると共に、前工程における撹拌効率についても低下させることがない撹拌機及びこの撹拌機を用いた溶湯処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本実施形態に係る撹拌機は、回転駆動軸に取り付けられ、溶融金属を撹拌すると共に処理ガスを供給する撹拌機において、基端側が前記回転駆動軸を支持する駆動機構に取り付けられると共に前記処理ガスが供給される筒状の筐体と、前記筐体内部に挿入され、前記回転駆動軸に基端側が結合された回転軸と、前記筐体内の先端側に設けられ、前記回転軸の先端側に取り付けられた回転羽根と、前記筐体を昇降させて、前記回転羽根を前記筐体の先端側から露出する位置と、先端側に格納する位置との間を移動させる昇降機構を備えている。
【0012】
本実施形態に係る溶湯処理装置は、溶融金属を撹拌すると共に、処理ガスを供給することで不要ガスを除去する溶湯処理装置において、前記溶融金属を収容する処理槽と、前記処理ガスを供給するガス供給機構と、前記処理槽に挿脱可能に設けられた撹拌機を備え、前記撹拌機は、基端側が回転駆動軸を支持する駆動機構に取り付けられると共に前記処理ガスが供給される筒状の筐体と、前記筐体内部に挿入され、前記回転駆動軸に基端側が結合された回転軸と、前記筐体内の先端側に設けられ、前記回転軸の先端側に取り付けられた回転羽根と、前記筐体を昇降させて、前記回転羽根を前記筐体の先端側から露出する位置と、先端側に格納する位置との間を移動させる昇降機構を備えている。
【0013】
本実施形態に係る撹拌機は、回転駆動軸に取り付けられ、水又は水溶液を撹拌すると共に処理ガスを供給する撹拌機において、基端側が前記回転駆動軸を支持する駆動機構に取り付けられると共に前記処理ガスが供給される筒状の筐体と、前記筐体内部に挿入され、前記回転駆動軸に基端側が結合された回転軸と、前記筐体内の先端側に設けられ、前記回転軸の先端側に取り付けられた回転羽根と、前記筐体を昇降させて、前記回転羽根を前記筐体の先端側から露出する位置と、先端側に格納する位置との間を移動させる昇降機構を備えている。
【発明の効果】
【0014】
径の小さいバブルを発生させることで、溶湯や水溶液中に長く滞留させることによりガスの使用量を節減すると共に、前工程における撹拌効率を低下させないことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る撹拌機が組み込まれた脱ガス処理装置を示す説明図。
【
図2】同脱ガス処理装置に組み込まれた回転羽根を示す斜視図。
【
図3】同脱ガス処理装置による脱ガス処理工程を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の一実施の形態に係る撹拌装置40が組み込まれた脱ガス処理装置(溶湯処理装置)10を示す図である。
図1に示すように、脱ガス処理装置10は、処理槽20と、この処理槽20の近傍に配置されたガス供給/回転駆動機構30と、ガス供給/回転駆動機構30に着脱自在に吊り下げられた撹拌装置40と、処理槽20の近傍に配置されたフラックス投入装置100及びドロス除去装置110を備えている。
【0017】
処理槽20は、耐火性材料で形成されており、1バッチ当り最大1500kgまでのアルミニウム溶湯を脱ガスできる処理能力を備えている。
【0018】
フラックス投入装置100は、処理槽20内のアルミニウム溶湯PにフラックスFを投入する機能を有している。フラックス投入装置100は、フラックスFとしてのアルミニウム除滓剤を収容した複数のホッパ及びシュータ等を有し、所定成分のアルミニウム除滓剤を所定の配合比に配合して所定量だけ処理槽20内に投入する機能を備えている。なお、フラックスFは、後述する処理ガスGにフラックスガスとして混合してガス供給/回転駆動機構30から供給しても良い。
【0019】
ドロス除去装置110は、掻き寄せ治具及び吸引排出装置から構成されている。掻き寄せ治具は、板状のカーボン、耐火材、セラミック部材からなり、その表面はドロスが付着しないように特殊加工されている。吸引排出装置は耐熱性材料からなるラッパ状の吸引口を有し、吸引ポンプを介して回収ポットに連通している。
【0020】
処理槽20には、溶解炉200が隣接して配置されており、溶解炉200から処理槽20内に非酸化性雰囲気下でアルミニウム溶湯が注湯されるようになっている。溶解炉はドロス分離除去機能を備えており、溶解炉において多くのドロスが溶湯から分離され、除去されるようになっている。
【0021】
ガス供給/回転駆動機構30は、架台31と、この架台31上に鉛直方向に延設され、鉛直方向の軸に沿って揺動するポスト32と、このポスト32に沿って配置された無端ベルト33と、この無端ベルト33に取り付けられたスライダ34と、無端ベルト33を駆動する駆動モータ35とを備えている。架台31内には、ガスシリンダ66を駆動する圧搾空気を供給するシリンダ駆動ガス供給部36、及び、処理ガスGを供給するガス供給部37が配置されている。シリンダ駆動ガス供給部36には後述するエア供給ライン46の一端側、ガス供給部37には後述するガス供給ライン47の一端側が接続されている。
【0022】
スライダ34には、水平方向にアーム39が取り付けられ、その先端には撹拌装置40が設けられている。したがって、アーム39はポスト32によって旋回・昇降動作が可能となっている。
【0023】
撹拌装置40は、アーム39に吊り下げられた回転駆動部50と、昇降機構60と、撹拌部70とを備えている。
【0024】
回転駆動部50は、回転駆動モータ51と、回転駆動モータ51にカップリング52を介して取り付けられた回転駆動軸53と、この回転駆動軸53を回転自在に支持する軸受部54を備えている。回転駆動軸53は鉛直方向に延設されている。また、軸受部54は後述する支柱64に取り付けられている。回転駆動軸53の先端には、後述する撹拌部70の回転軸72が着脱自在に取り付けられている。
【0025】
昇降機構60は、回転駆動モータ51下部を支持する上架台61と、この上架台61の下方に設けられた中架台62と、さらに中架台62の下方に下架台63とを備えている。
上架台61と中架台62との間には、支柱64が配置されており、一定間隔を保持している。また、中架台62と下架台63の間には、上述した回転駆動軸53を気密に囲い込む蛇腹65が配置されており、所定範囲内で
図1中上下方向の間隔が調整可能となっている。
【0026】
中架台62には、ガスシリンダ66の下端が取り付けられている。ガスシリンダ66のピストン67は中架台62を貫通して、その先端が下架台63に取り付けられている。ガスシリンダ66の動作により、中架台62と下架台63との間隔が調整される。中架台62と下架台63との間は、蛇腹65で気密に閉塞されている。ガスシリンダ66には、エア供給ライン46の他端側が接続されており、ガスシリンダ66に圧搾空気を供給することで、ピストン67を下方に突出させて、下架台63を中架台62に対して相対的に下方に移動させる。
【0027】
蛇腹65の上部には、蛇腹65の内部に連通するガス注入口62aが形成されている。ガス注入口62aには、ガス供給ライン47の他端側が接続され、前述したガス供給部37から処理ガスGが供給される。処理ガスGは、例えば、アルゴンガスや窒素ガス等の非酸化性ガスである。上述したようにフラックスガスを混合してもよい。蛇腹65内部を通じて、後述する筐体71内に処理ガスGが供給される。なお、処理ガスGが供給されることで、アルミニウム溶湯Pから受けた熱を冷却し、各部品の温度上昇を防ぐ効果がある。
【0028】
撹拌部70は、下架台63の下面に気密に取り付けられている円筒状の筐体71と、筐体71内部に挿入され、回転駆動軸53に基端側が結合された回転軸72を備えている。筐体71内には、回転軸72の先端側に取り付けられた回転羽根73が配置されている。筐体71の回転羽根73の位置より基端側には、複数の長円状の開口部74が形成されている。開口部74の大きさや数は溶湯の種類によって適宜変更してもよい。撹拌部70はアルミニウム溶湯Pに浸漬されるため、耐熱性を有するセラミックス材やカーボン材で形成されている。
【0029】
筐体71と回転軸72との間には十分な空間が設けられており、この空間を通じて、回転羽根73の周辺に処理ガスGが供給される。
【0030】
図2に示すように、回転羽根73は、3つの羽根73aを軸方向に並設させている。各羽根73aは回転軸72の軸方向に離間し、間隙Sが形成されている。各羽根73aの外周面は筐体71の内壁に近接して形成されており、その寸法は例えば3mm~10mm程度に設定されている。各羽根73aの螺旋面73bは右下がりに形成されている。
【0031】
また、回転羽根73はアルミニウム溶湯Pの熱によって溶解されないようにするため、セラミックス材で形成することが望ましい。セラミックス材は単体で複雑な形状を形成することが難しいため、上述したように羽根73aを軸方向に並設することで、金属材製の羽根のように複雑な羽根形状を仮想的に実現し、マイクロバブル化、撹拌力及び送出力等の特性を確保する。この他、羽根73aの配置や形状、個数、間隔、螺旋面73bの配置等によって、回転羽根73の特性を調整することができる。
【0032】
次に、
図3~
図5を参照しながら本実施形態に係る脱ガス処理装置10による脱ガス処理方法を説明する。なお、
図4,5中Rは回転方向を示している。撹拌装置40において、ガスシリンダ66を作動させて、中架台62と下架台63とを近接させる。これにより、回転羽根73は筐体71の開口端71aから下方へ突出する。溶解炉200でアルミニウムを溶解した後に、アルミニウム溶湯PをドロスDとともに溶解炉から処理槽20に移す(工程S1)。次いで、処理槽20内に所定成分のフラックスFを投入し、撹拌装置40を下降させ、回転羽根73を処理槽20内のアルミニウム溶湯Pの湯面直下に浸漬させる。そして、回転羽根73を例えば400rpmで回転させてアルミニウム溶湯P、ドロスD及びフラックスFを数分間撹拌する。これによりドロスDが改質され、アルミニウム溶湯Pから分離した状態になる(工程S2)。
【0033】
次いで、撹拌装置40において、ガスシリンダ66を作動させて、中架台62と下架台63とを離間させる。これにより、回転羽根73は筐体71の開口端71aから内部に格納される。また、撹拌装置40をさらに下降させる。撹拌部70の筐体71の開口端71a側を処理槽20の底部近傍に位置させて、回転羽根73を例えば1000rpmで回転させる。この回転羽根73の作用によって、
図5に示すように、筐体71の開口端71aから下方へ送られると共に、開口部74近傍のアルミニウム溶湯Pは、筐体71内に引き込まれて循環する。
【0034】
また、シリンダ駆動ガス供給部36から供給された処理ガスGは、回転羽根73の回転による作用により負圧となった筐体71内に入り、比較的径の大きいバブルとなって回転羽根73と筐体71内の間隙に入り込む。このとき、バブルは間隙Sに出入りすることで、圧縮と膨張を繰り返す。この過程でバブルは破砕され、小径のバブル、バブルとなる。このように、回転羽根73によるせん断作用によってマイクロバブル(径が数μm~50μm)化する。これにより、アルミニウム溶湯P内に処理ガスGが供給・拡散される(ガスバブリング)と、アルミニウム溶湯P中に混在するドロスDと水素等の不純物ガス成分が湯面に浮上する(工程S3)。このときの撹拌力はガスバブリング反応を阻害しない程度の弱いものとする。ガスバブリングを数分間続けた後に、ガス吹込みを停止し、脱ガス処理を終了させる。
【0035】
次いで、ドロス除去装置110を下降させ、その下部を湯面に浸漬させ、ドロスDを処理槽20内の特定箇所に集合させる(工程S4)。集めたドロスDを吸引排出装置により処理槽20から吸引排出し、回収ポットに回収する(工程S5)。
【0036】
上述したように、本実施形態に係る撹拌装置40及び脱ガス処理装置10によれば、回転羽根73と筐体71の隙間で処理ガスGを圧縮・膨張・せん断することで、マイクロバブルを発生させることができる。このため、金属溶湯中における処理ガスの表面積を大きくし、固溶している水素ガスに反応させやすくすると共に、長時間、溶湯中に滞留させることで、水素ガスへの反応時間を延ばし、十分に水素ガスを除去することができる。また、回転羽根73を収容する筐体71の側面には、回転羽根73の回転に伴う負圧に応じた量の溶湯を吸引するための開口部74が形成されているため、溶湯表面に渦が形成されることを防止でき、大気を巻き込んで酸化物が生成されることを防止することができる。すなわち、マイクロバブル化された処理ガスを放出させると共に、溶湯の過剰な撹拌を抑制し、処理ガスの分散を促進することができる。したがって、脱ガスを十分に行うことができ、高品質のアルミニウム合金を得ることができる。
【0037】
なお、上述した金属としてアルミニウム合金を例示したが、マグネシウム合金等、他の金属の溶湯にも適用できる。また、金属溶湯の他、水や水溶液等においても、径が数μm~50μm程度のマイクロバブルを用いることで液中への処理ガスの反応効率を高めることができると共に、反応時間を延ばすことができ、処理ガス量を節約することができる。
【0038】
この他、回転軸72の回転方向や回転速度、開口部74の位置・数・大きさ・形状は、上述したものに限られず、撹拌対象やガスの物性に応じて、適宜変更しても良い。
【0039】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0040】
10…脱ガス処理装置(溶湯処理装置)、20…処理槽、30…回転駆動機構、31…架台、32…ポスト、33…無端ベルト、34…スライダ、35…駆動モータ、36…シリンダ駆動ガス供給部、37…ガス供給部、39…アーム、40…撹拌装置、46…エア供給ライン、47…ガス供給ライン、50…回転駆動部、51…回転駆動モータ、52…カップリング、53…回転駆動軸、54…軸受部、60…昇降機構、61…上架台、62…中架台、63…下架台、64…支柱、65…蛇腹、66…ガスシリンダ、67…ピストン、70…撹拌部、71…筐体、71a…開口端、72…回転軸、73…回転羽根、73a…羽根、73b…螺旋面、74…開口部、100…フラックス投入装置、110…ドロス除去装置、200…溶解炉。