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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】顕微分光測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/27 20060101AFI20240105BHJP
   G01N 21/65 20060101ALI20240105BHJP
   G02B 21/00 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
G01N21/27 E
G01N21/65
G02B21/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020072765
(22)【出願日】2020-04-15
(65)【公開番号】P2021169948
(43)【公開日】2021-10-28
【審査請求日】2023-03-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000232689
【氏名又は名称】日本分光株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【弁理士】
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(74)【代理人】
【識別番号】100188260
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 愼二
(72)【発明者】
【氏名】▲会▼澤 見斗
(72)【発明者】
【氏名】副島 武夫
(72)【発明者】
【氏名】森井 克典
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-180538(JP,A)
【文献】特開2016-180732(JP,A)
【文献】特開2004-264690(JP,A)
【文献】特開2010-102984(JP,A)
【文献】特開2008-198797(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0025919(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/958
G02B 21/00 - G02B 21/36
G01J 1/00 - G01J 11/00
G01B 1/00 - G01B 21/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光を測定試料に照射する光源と、該測定試料を載置する可動ステージと、励起光を前記測定試料の所定位置に照射するとともに該測定試料からの反射光または透過光を集光する集光レンズと、集光した光を検出する分光器と、前記可動ステージを制御する制御手段と、を含み、前記測定試料の観察画像を取得するとともに分光測定を行う顕微分光測定装置であって、
前記可動ステージは、測定試料を回転させる回転ステージ部と、該回転ステージ部の下方に位置し測定試料をX方向ないしY方向に移動させる位置合わせ可動ステージ部と、該回転ステージ部の上方に位置し測定時に測定試料を設置する試料設置ホルダーと、で構成され、
前記制御手段は、可動ステージ上における光軸の位置を該可動ステージ上の目印として利用されるマーカー試料の移動前座標ポイントとし、前記回転ステージ部を回転させたときのマーカー試料の移動後の位置を移動後座標ポイントとし、マーカー試料の移動前後における回転ステージ部の回転による角度をマーカー移動角度とし、測定試料の測定前に該移動前座標ポイントと移動後座標ポイントとマーカー移動角度を用いて前記回転ステージ部の回転中心を回転中心位置データとして算出し、
前記制御手段は、前記観察画像を用いた画像認識により測定試料のフェレ径を算出し、該フェレ径の水平方向におけるX方向フェレ径および垂直方向におけるY方向フェレ径を利用して該X方向フェレ径またはY方向フェレ径に対する測定試料の傾きをフェレ径角度θとして算出し、その後に前記回転ステージ部を前記フェレ径角度θで回転させ、
前記制御手段は、前記回転中心位置データを利用して前記回転ステージ部の回転後における測定試料位置が当該顕微分光測定装置の測定視野範囲に入るよう位置合わせ可動ステージ部を移動させ、その後に前記観察画像を利用した画像マッチング処理により回転ステージ部の同心度のズレを位置補正し、
さらに前記制御手段は、前記位置補正後の測定試料におけるフェレ径に基づいて測定範囲を定めることを特徴とする顕微分光測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の顕微分光測定装置であって、
当該顕微分光測定装置は、測定試料に対してマッピング測定を行うことが可能であり、
前記制御手段は、前記位置補正後の測定試料位置におけるフェレ径に基づいてマッピング測定における最小測定範囲を定めることを特徴とする顕微分光測定装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の顕微分光測定装置であって、
前記位置合わせ可動ステージ部は、X方向ないしY方向に加えてさらに深さ方向に測定試料を移動させるXYZ可動ステージ部であることを特徴とする顕微分光測定装置。
【請求項4】
測定試料のマッピング測定において顕微分光測定装置で測定する範囲を定める測定範囲の設定方法であって、
前記測定試料が載置される可動ステージは回転ステージ部を備え、前記可動ステージ上における光軸の位置を該可動ステージ上の目印として利用されるマーカー試料の移動前座標ポイントとし、前記回転ステージ部を回転させたときのマーカー試料の移動後の位置を移動後座標ポイントとし、マーカー試料の移動前後における回転ステージ部の回転による角度をマーカー移動角度とし、測定試料の測定前に前記移動前座標ポイントと移動後座標ポイントとマーカー移動角度を用いて前記回転ステージ部の回転中心を回転中心位置データとして算出する工程と、
観察画像を用いた画像認識により測定試料のフェレ径を算出し、該フェレ径の水平方向におけるX方向フェレ径および垂直方向におけるY方向フェレ径を利用して該X方向フェレ径またはY方向フェレ径に対する測定試料の傾きをフェレ径角度θとして算出し、その後に前記回転ステージ部を前記フェレ径角度θで回転させる工程と、
前記回転中心位置データを利用して前記回転ステージ部の回転後における測定試料位置が当該顕微分光測定装置の測定視野範囲に入るよう位置合わせ可動ステージ部を移動させ、その後に前記観察画像を利用した画像マッチング処理により回転ステージ部の同心度のズレを位置補正する工程と、
前記位置補正後の測定試料におけるフェレ径に基づいて測定範囲を定める工程と、を含むことを特徴とする測定範囲の設定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分光測定装置、特に顕微分光測定装置における測定試料の位置合わせ技術および測定時間短縮の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から試料の特性を得るための手段として分光測定が知られている。この分光測定では、対象となる試料に赤外光や励起光を照射し、透過または反射した所定の光を測定することで試料の構造解析や定量分析を行うことができる。
【0003】
ところで、基本的な分光測定は測定対象となる範囲の特性を正確に得るために試料をステージ上に固定して行うものである。一方で、例えば偏光測定を行う場合には試料へ照射する光の偏光面を固定し該試料を回転させる必要がある。また、アパーチャーを利用した分光測定では試料を回転させて(またはアパーチャーを回転させて)該試料を適切な位置、すなわち測定対象となる試料(または試料における一定の範囲)をアパーチャーの視野範囲に調整する必要がある。さらに一般的なマッピング測定においては、試料の位置(または試料において測定対象となる範囲の位置)をマッピング測定の動作に合わせて適宜移動させる必要がある。
【0004】
このように試料を回転(または移動)させる分光測定を行う場合は、分光測定装置に回転ステージ(または可動ステージ)を設けることが多い。しかし、回転ステージの中心位置と測定時の光軸の位置は必ずしも一致していないことから、例えば偏光測定においては試料を回転させるたびに(1回の測定ごとに)該試料の位置合わせを行う必要がある。
【0005】
同様に、アパーチャーを利用した測定においても試料を回転させた後には必ず試料の位置合わせ、すなわちアパーチャーの視野範囲に試料が入るように微調整をする必要がある。一方でアパーチャーを利用した測定では試料を回転させずに該アパーチャーを回転させて視野範囲を調整することも考えられるが、アパーチャーを回転させると再度アパーチャーを回転させたときのリファレンスを測定する必要が生じてしまう。
【0006】
そこで特許文献1には、測定顕微鏡による観察画像を利用して該試料の所定位置(2点)のX方向またはY方向のなす角度を試料の傾きとして定期的に算出し、その傾きを表示部に表示させることで、該試料の傾きを手動で容易に補正することができる技術が開示されている。
【0007】
また特許文献2には、観察画像に対してマスクをかけることで容易に測定対象(測定部分)を特定し、対物レンズを変更したときに発生する試料の位置ずれを速やかに補正することができる顕微鏡の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第6419471号公報
【文献】特開2007-272117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のとおり、特許文献1ないし特許文献2の技術を利用すれば容易に試料の位置合わせを行うことが出来る。しかしながら、特許文献1はあくまでも算出された傾きの表示を見ながら測定者が手動で位置補正を行うものであり、また、特許文献2は顕微鏡において対物レンズを変更した時、すなわち対物レンズの倍率変更の際に生じた明らかな位置の誤差を補正するものであり、分光測定において精度の良い位置合わせを行うためにはまだまだ改良の余地がある。
【0010】
本発明は上記従来技術の課題に鑑みて行われたものであって、その目的は試料を回転させる分光測定において、従来よりも試料の位置合わせ精度を向上させるとともに正確な測定範囲を定めることができる分光測定装置を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る顕微分光測定装置は、
励起光を測定試料に照射する光源と、該測定試料を載置する可動ステージと、励起光を前記測定試料の所定位置に照射するとともに該測定試料からの反射光または透過光を集光する集光レンズと、集光した光を検出する分光器と、前記可動ステージを制御する制御手段と、を含み、前記測定試料の観察画像を取得するとともに分光測定を行う顕微分光測定装置であって、
前記可動ステージは、測定試料を回転させる回転ステージ部と、該回転ステージ部の下方に位置し測定試料をX方向ないしY方向に移動させる位置合わせ可動ステージ部と、該回転ステージ部の上方に位置し測定時に測定試料を設置する試料設置ホルダーと、で構成され、
前記制御手段は、可動ステージ上における光軸の位置を該可動ステージ上の目印として利用されるマーカー試料の移動前座標ポイントとし、前記回転ステージ部を回転させたときのマーカー試料の移動後の位置を移動後座標ポイントとし、マーカー試料の移動前後における回転ステージ部の回転による角度をマーカー移動角度とし、測定試料の測定前に該移動前座標ポイントと移動後座標ポイントとマーカー移動角度を用いて前記回転ステージ部の回転中心を回転中心位置データとして算出し、
前記制御手段は、前記観察画像を用いた画像認識により測定試料のフェレ径を算出し、該フェレ径の水平方向におけるX方向フェレ径および垂直方向におけるY方向フェレ径を利用して該X方向フェレ径またはY方向フェレ径に対する測定試料の傾きをフェレ径角度θとして算出し、その後に前記回転ステージ部を前記フェレ径角度θで回転させ、
前記制御手段は、前記回転中心位置データを利用して前記回転ステージ部の回転後における測定試料位置が当該顕微分光測定装置の測定視野範囲に入るよう位置合わせ可動ステージ部を移動させ、その後に前記観察画像を利用した画像マッチング処理により回転ステージ部の同心度のズレを位置補正し、
さらに前記制御手段は、前記位置補正後の測定試料におけるフェレ径に基づいて測定範囲を定めることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る顕微分光測定装置は、
当該顕微分光測定装置は、測定試料に対してマッピング測定を行うことが可能であり、
前記制御手段は、前記位置補正後の測定試料位置におけるフェレ径に基づいてマッピング測定の最小測定範囲を定めることを特徴とする。
【0013】
また、本発明にかかる顕微分光測定装置は、
前記位置合わせ可動ステージ部は、X方向ないしY方向に加えてさらに深さ方向に測定試料を移動させるXYZ可動ステージ部であることを特徴とする。
【0014】
そして、本発明に係る測定範囲の設定方法は、
測定試料のマッピング測定において顕微分光測定装置で測定する範囲を定める測定範囲の設定方法であって、
前記測定試料が載置される可動ステージは回転ステージ部を備え、前記可動ステージ上における光軸の位置を該可動ステージ上の目印として利用されるマーカー試料の移動前座標ポイントとし、前記回転ステージ部を回転させたときのマーカー試料の移動後の位置を移動後座標ポイントとし、マーカー試料の移動前後における回転ステージ部の回転による角度をマーカー移動角度とし、測定試料の測定前に前記移動前座標ポイントと移動後座標ポイントとマーカー移動角度を用いて前記回転ステージ部の回転中心を回転中心位置データとして算出する工程と、
観察画像を用いた画像認識により測定試料のフェレ径を算出し、該フェレ径の水平方向におけるX方向フェレ径および垂直方向におけるY方向フェレ径を利用して該X方向フェレ径またはY方向フェレ径に対する測定試料の傾きをフェレ径角度θとして算出し、その後に前記回転ステージ部を前記フェレ径角度θで回転させる工程と、
前記回転中心位置データを利用して前記回転ステージ部の回転後における測定試料位置が当該顕微分光測定装置の測定視野範囲に入るよう位置合わせ可動ステージ部を移動させ、その後に前記観察画像を利用した画像マッチング処理により回転ステージ部の同心度のズレを位置補正する工程と、
前記位置補正後の測定試料におけるフェレ径に基づいて測定範囲を定める工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、制御手段により回転ステージ部の中心位置を回転中心位置データとして算出し、さらに測定試料のフェレ径角度θ(測定試料におけるX方向フェレ径またはY方向フェレ径に対する測定試料の傾き)を算出し、その後に回転ステージ部を前記フェレ径角度θで回転させ、その後に測定試料が測定視野範囲に入るよう回転中心位置データに基づいて位置合わせ可動ステージ部を移動させるとともに画像マッチング処理により回転ステージ部の同心度のズレを位置補正する。そして制御手段により位置補正後の測定試料におけるフェレ径に基づいて該測定試料の測定範囲を定めることで、従来よりも測定試料の位置合わせ精度を向上させることができ、且つ、正確な測定範囲の設定が可能な顕微分光測定装置を提供できる効果を奏する。
【0016】
例えばマッピング測定では測定試料が斜めに配置されていると測定範囲が広くなり測定時間が長くなってしまうが、本発明によれば測定試料における最小測定範囲を定めることができるため、大幅に測定時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る顕微分光測定装置の概略構成図を示す。
図2】本発明の実施形態に係る顕微分光測定装置にアパーチャーを設けた場合の概略構成図を示す。
図3】本実施形態に係る顕微分光測定装置における測定視野範囲の概略説明図を示す。
図4】本実施形態における自動位置合わせ機能の全体概略イメージ図を示す。
図5】本実施形態に係る顕微分光測定装置が備える回転ステージ部の回転中心を算出する流れのフローチャートを示す。
図6】本実施形態に係る顕微分光測定装置が備える回転ステージ部の回転中心を算出する流れをあらわした画像図を示す。
図7】本実施形態に係る顕微分光測定装置における自動位置合わせ機能のフローチャートを示す。
図8】本実施形態に係る顕微分光測定装置における自動位置合わせ機能の流れをあらわした画像図を示す。
図9】従来のマッピング測定における測定範囲の概略イメージ図を示す。
図10】本実施形態に係る顕微分光測定装置における測定範囲の設定機能のフローチャートを示す。
図11】本実施形態に係る顕微分光測定装置における測定範囲の設定機能の概略イメージ図を示す。
図12】本実施形態に係る顕微分光測定装置における測定範囲の削減イメージを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の顕微分光測定装置について図面を用いて説明するが、本発明の趣旨を超えない限り何ら以下の例に限定されるものではない。
【0019】
図1に本発明の実施形態に係る顕微分光測定装置の概略構成図を示す。本実施形態に係る顕微分光測定装置は、測定試料の観察画像を取得するとともに分光測定を行う(または同等の機能を有する)顕微分光測定装置である。
【0020】
同図に示す顕微分光測定装置10は、励起光を測定試料20に照射する光源12と、該励起光を測定試料20方向へ導光するビームスプリッター14と、励起光を測定試料20の所定位置に照射するとともに該測定試料20からの反射光を集光する集光レンズ機能を有する対物レンズ16と、測定試料20が載置される可動ステージ18と、集光した測定試料20からの反射光(ラマン散乱光)の中から測定に不要な特定の光を除去するフィルタ22と、該フィルタ22を通過したラマン散乱光を検出する分光器24と、該分光器24に接続された制御手段としてのコンピュータ30と、から構成されている。また、図示を省略しているが、コンピュータ30は可動ステージ18や他の機器にも接続されている。
【0021】
ここで、本実施形態に係る顕微分光測定装置10は、例えば偏光測定やマッピング測定に利用することができる。つまり、顕微分光測定装置10が備える可動ステージ18は測定中において測定試料20を回転ないし移動させることができるものである。
【0022】
可動ステージ18は、測定時に測定試料20を回転させる回転ステージ部18aと、該回転ステージ部18aの下方に位置し測定試料20をX方向ないしY方向に移動させる位置合わせ可動ステージ部18bと、該回転ステージ部18aの上方に位置し測定時に測定試料20を設置するための試料設置ホルダー18cと、で構成されている。この可動ステージ18は、コンピュータ30からの制御指令により測定に応じた回転動作や移動動作等を行うことができる。
【0023】
位置合わせ可動ステージ部18bは、例えばX方向ないしY方向に加えてさらに深さ方向に測定試料20を移動させるXYZ可動ステージ部で構成することも出来る。また、本実施形態におけるコンピュータ30は例えば市販のパーソナルコンピュータであっても良いし、あるいは当該顕微分光測定装置10の専用機(専用コンピュータ)等を利用することも出来る。
【0024】
はじめにラマン光を利用した分光測定のおおまかな流れについて説明する。光源12から放射された励起光は、ビームスプリッター14によって測定試料20方向へ反射され、対物レンズ16を経由して測定試料20の所定位置へ照射される。この励起光が測定試料20に照射されることで、該励起光とは特性の異なる光(ラマン散乱光)が測定試料20から散乱する。
【0025】
そして、これらの反射光(ラマン散乱光)は対物レンズ16によって取り込まれ(対物レンズ16は集光レンズとしての役割も果たしている)、その後、ビームスプリッター14を通過したラマン散乱光はフィルタ22を介して分光器24へと進む。本実施形態におけるフィルタ22には、例えばノッチフィルタやエッジフィルタのようなリジェクションフィルタを利用することが出来る。
【0026】
分光器24によって検出されたラマン散乱光はコンピュータ30に取り込まれ、スペクトルデータとして各種分光測定に応じた目的に合わせて所定の解析が行われる。本実施形態における分光測定は概略以上のような流れで行われる。
【0027】
本実施形態では、回転ステージ部18aを回転させて試料設置ホルダー18cに設置されている測定試料20を回転させることができる。また、位置合わせ可動ステージ部18bにより測定試料20をX方向ないしY方向に移動させることができる。そのため本実施形態に係る顕微分光測定装置は、上述のとおり例えば偏光測定やマッピング測定等に利用することができる。
【0028】
また、例えば図2に示すように本実施形態に係る顕微分光測定装置10にはアパーチャー40を設けることも出来る。顕微分光測定装置10は、回転ステージ部18aを利用して測定試料20を回転させることで該測定試料20をアパーチャー40の視野範囲に調整することができる。アパーチャーを利用した分光測定をすることでより精度の良い測定結果を得ることができる。
【0029】
ここで、測定試料を回転させる測定では当然ながら測定試料の位置と分光測定における光軸の位置とが一致している必要がある。ところが、例えば図3(a)に示すように分光測定における光軸の位置(測定試料の位置)とステージの回転中心の位置は必ずしも一致しておらず、その結果、回転角度αで測定試料を回転させると該測定試料は分光測定装置の測定視野範囲から外れてしまうこととなる(図3(b)を参照)。
【0030】
そこで本実施形態に係る顕微分光測定装置10は、光軸の位置と回転中心の位置がズレていること(一致していないこと)が原因で、すなわち回転動作により測定試料が測定視野範囲から外れてしまった場合においても容易な位置合わせを可能とすべく、特徴的な自動位置合わせ機能を有している。以下、本発明の特徴的な機能である自動位置合わせについて詳しく説明する。
【0031】
自動位置合わせ機能
はじめに、自動位置合わせ機能の全体概略イメージについて説明する。図4(a)に示すように回転中心と測定試料の位置がズレてしまっている場合、測定視野範囲に位置する測定試料を回転角度αで回転させると測定試料が測定視野範囲から外れてしまうこととなる(図4(b))。
【0032】
この時、例えば回転ステージ部の回転中心をあらかじめ算出しておき、その算出された回転中心を利用して測定試料が測定視野範囲に入るように自動で位置合わせを行う(図4(c))。この位置合わせによって図4(c)に示すように測定試料を測定視野範囲に入れることができる。
【0033】
しかしながら、実際にステージ(本実施形態では図1の回転ステージ部18a)を回転させると回転動作による同芯度の位置ズレが生じてしまうこととなる。この場合、例えば高倍率観察時には同一場所の測定が困難である。そこで本発明に係る自動位置合わせ機能では、さらに測定試料の画像マッチング処理により位置ズレの補正を行うことで位置合わせ精度の向上を実現している(図4(d))。
【0034】
ここで、顕微分光測定装置が備える回転ステージ部の回転中心の算出について詳しく説明する。図5には、本実施形態における回転ステージ部の回転中心を算出する流れのフローチャートを示す。この回転中心の算出は、測定試料の分光測定前に行うものとする。また、図5に示すフローチャートとともに図6に示す回転中心を算出する流れをあらわす画像も参照しながら回転ステージ部18aの回転中心を算出する流れについて説明する。
【0035】
図5に示すように、まず校正試料(マーカー試料と呼ぶ)を試料設置ホルダー18cにセットする(S1)。このマーカー試料は、可動ステージ上18の目印として利用される。そして、図6(1)に示すようにマーカー試料を分光測定における光軸の位置である校正原点へ位置移動し(図5のS2)、マーカーA点のステージ座標をコンピュータ30に登録する(図5のS3)。このマーカーA点を移動前座標ポイントAと呼ぶ。
【0036】
次に、図6(2)に示すように回転ステージ部18aを回転角度α(マーカー移動角度αとも呼ぶ)で回転させると(図5のS4)、マーカー試料はマーカーB点へ位置移動する(図5のS5)。この回転ステージ部18aにおけるステージ座標をマーカーB点としてコンピュータ30に登録する(図5のS6)。このマーカーB点(図6(3)のB点)を移動後座標ポイントBとする。
【0037】
そして、図6(4)に示すように移動前座標ポイントA、移動後座標ポイントB、およびマーカー移動角度αを利用して回転ステージ部18aの回転中心をコンピュータ30により算出する(図5のS7)。この算出された回転ステージ部18aの回転中心を回転中心位置データとする。
【0038】
このように本実施形態では分光測定時に測定試料20を回転させることで測定視野範囲から外れてしまった際には、算出された回転中心位置データによりコンピュータ30はあらかじめ回転後の測定試料20の位置を認識出来ているので、測定試料20の位置が測定視野範囲に入るように自動で調整することが出来る。
【0039】
次に、回転中心位置データを利用した自動位置合わせ機能について具体的に説明する。図7には、本実施形態に係る顕微分光測定装置における自動位置合わせ機能のフローチャートを示す。また、図7に示すフローチャートとともに図8に示す本実施形態における自動位置合わせ機能の流れをあらわす画像も参照しながら本発明の自動位置合わせ機能について説明する。
【0040】
まず、図7に示すようにあらかじめ算出した回転ステージ部18aの回転中心(回転中心位置データ)をコンピュータ30に登録する(S8)。そして、測定試料20を試料設置ホルダー18c(図1を参照)にセットし(S9)、試料設置ホルダー18cに設置された測定試料20を測定して可動ステージ18上(回転ステージ部18a上)におけるステージ座標および観察画像を取得する(S10)。
【0041】
次に、回転ステージ部18aを回転角度αで回転させる(S11)。そして、S10で取得した観察画像による画像マッチング用の画像(テンプレート画像と呼ぶ)について、あらかじめコンピュータ30により回転角度αで移動した場合に画像マッチング処理が実行できるように所定の設定を行い(S12)、その後に測定試料20の自動位置合わせを実行する(S13)。
【0042】
具体的には図8(a)に示すように測定試料20のテンプレート画像をあらかじめ設定しておき、その後に例えば図8(b)のように測定試料20(回転ステージ部18a)を0度の状態から90度回転させて測定試料20の位置合わせを実行する。この位置合わせは、回転中心位置データと回転角度αを利用して測定試料20の位置が測定視野範囲に入るよう位置合わせ可動ステージ部18bを移動させて行う(S14)。
【0043】
この時、回転ステージ部18aの回転により、実際には図8(b)拡大図のように同芯度の位置ズレ(回転動作の偏芯による位置ズレ)が生じてしまう。そこで本実施形態における自動位置合わせでは、テンプレート画像を利用した画像マッチングによる位置補正を行うことで(S15)、同芯度の位置ズレを補正している。
【0044】
具体的には図8(c)に示すようにテンプレート画像を回転角度α(図8では90度)で回転させる。そして図8(d)に示すように回転させたテンプレート画像を利用して画像マッチング処理を行うことで位置ズレの補正を行うことが出来る。このように回転中心の算出(回転中心位置データ)による自動位置合わせを行った後に、さらに画像マッチング処理による位置補正を行うことで従来よりも精度の良い位置合わせと分光測定を実現することが出来る(S16)。
【0045】
このように本発明では、マーカー試料の移動前座標ポイントA(光軸の位置)、移動後座標ポイントB、およびマーカー試料の移動前後の回転角度αにより回転ステージ部18aの回転中心位置データを算出し該回転中心位置データを利用して回転ステージ部18aの回転後における測定試料20の位置合わせを行い、その後に測定試料20の観察画像を利用した画像マッチング処理により回転ステージ部18aの同心度のズレを補正することで、分光測定時に測定試料20の位置合わせを自動で行えるとともに従来よりも精度の良い位置合わせを行うことが出来る。
【0046】
さらに本発明に係る自動位置合わせ機能を利用すれば、偏光測定において従来必要であった位置合わせ用のXYステージが不要となるため試料室がコンパクトになるとともに、位置合わせ用のXYステージを利用した手動による位置合わせでは実現不可能であった連続測定(あらかじめ定められた回転角度と回転回数に応じて連続で測定試料を回転動作させて偏光測定を行うこと)も行うことが出来る。
測定範囲の設定
【0047】
マッピング測定を行う場合には、例えば図9に示すように測定試料のフェレ径を算出し、このフェレ径範囲(矩形範囲)を測定試料の測定範囲として自動指定している。このように従来のマッピング測定では、不必要な範囲までマッピング測定をする必要があった。
【0048】
そこで、本実施形態に係る顕微分光測定装置をマッピング測定に利用することで上記の問題を解消して正確な測定範囲を設定できるとともにマッピング測定時間を大幅に短縮することができる。以下、本発明に係る測定範囲の設定について詳しく説明する。
【0049】
図10には、本実施形態に係る顕微分光測定装置における測定範囲の設定機能のフローチャートを示す。また、図10に示すフローチャートとともに図11に示す測定範囲の設定機能の流れをあらわす概略イメージも参照しながら本発明に係る測定範囲の設定について説明する。
【0050】
まず、図10に示すようにあらかじめ算出した回転ステージ部18aの回転中心(図5のフローチャートで説明した回転中心位置データ)をコンピュータ30に登録する(S108)。そして、測定試料20を試料設置ホルダー18c(図1を参照)にセットし(S109)、試料設置ホルダー18cに設置された測定試料20を測定して可動ステージ18上(回転ステージ部18a上)におけるステージ座標および観察画像を取得する(S110)。
【0051】
次に観察画像による画像認識で、測定試料20のフェレ径を算出し、図11(a)、(b)に示すように該フェレ径の水平方向におけるX方向フェレ径および垂直方向におけるY方向フェレ径を利用して該X方向フェレ径またはY方向フェレ径に対する測定試料の傾きをフェレ径角度θとして算出する(S111)。
【0052】
なお、本明細書における画像認識とは、顕微分光測定装置10により取得された観察画像から対象範囲(測定試料20)の特徴をつかみ、該測定試料20(および測定試料20の所定範囲)を識別できる技術、およびこれに類似する技術のことを意味する。
【0053】
そして、図11(c)のように回転ステージ部18aを前記フェレ径角度θ(ここではY方向フェレ径に対する測定試料20の傾き)で回転させる(S112)。この時、回転後における測定試料20の座標位置を計算し、測定試料20が測定視野範囲に入るように位置合わせ可動ステージ部18bを移動させる(S113)。そして、S110で取得した観察画像を利用した画像マッチング処理により回転ステージ部18aの同心度のズレを位置補正する(S114)。
【0054】
その後、フェレ径角度θで回転させた後の測定試料におけるフェレ径から測定範囲の自動設定を行う(S115)。具体的には図11(d)に示すように回転後のフェレ径を測定範囲として設定することで、マッピング測定において適正な測定範囲を定めることができる(S116)。
【0055】
例えば図12に示すように測定試料が斜めに配置されている場合、従来の方法で測定範囲を設定すると192点のマッピング測定が必要になるが(図12(a))、本実施形態に係る測定範囲の設定を利用すれば、76点のマッピング測定で良いことになる(図12(b))。この図12に示す例によれば、マッピング測定に必要な測定点数をおよそ60%削減することができ(76点/192点=39.6%)、その結果、従来よりもマッピング測定時間を大幅に短縮することができる。
【0056】
また、上記説明した各工程を順番に実施することで精度の良い位置合わせおよび適切な測定範囲の設定を実現することが出来る。すなわち、まず、測定試料が載置される可動ステージ上における光軸の位置を該可動ステージ上の目印として利用されるマーカー試料の移動前座標ポイントとし、前記回転ステージ部を回転させたときのマーカー試料の移動後の位置を移動後座標ポイントとし、マーカー試料の移動前後における回転ステージ部の回転による角度をマーカー移動角度とし、測定試料の測定前に前記移動前座標ポイントと移動後座標ポイントとマーカー移動角度を用いて前記回転ステージ部の回転中心を回転中心位置データとして算出する。
【0057】
次に、観察画像を用いた画像認識により測定試料のフェレ径を算出し、該フェレ径の水平方向におけるX方向フェレ径および垂直方向におけるY方向フェレ径を利用して該X方向フェレ径またはY方向フェレ径に対する測定試料の傾きをフェレ径角度θとして算出し、その後に前記回転ステージ部を前記フェレ径角度θで回転させる。そして、前記回転中心位置データを利用して前記回転ステージ部の回転後における測定試料位置が当該顕微分光測定装置の測定視野範囲に入るよう位置合わせ可動ステージ部を移動させ、その後に前記観察画像を利用した画像マッチング処理により回転ステージ部の同心度のズレを位置補正する。
【0058】
この位置補正後の測定試料におけるフェレ径に基づいて測定範囲を定めることで、精度の良い位置合わせおよび正確な測定範囲の設定を実現することが出来る。その結果、例えばマッピング測定においては最小測定範囲を定めることができるため、大幅に測定時間を短縮することができる。
【0059】
また、本実施形態ではラマン光を利用した分光測定について説明したが、例えば赤外光、紫外光、可視光等を利用した他の分光測定においても本発明と同様の効果を得ることが出来る。そして、本実施形態では反射による分光測定について説明したが、例えば透過による分光測定においても同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0060】
10 顕微分光測定装置
12 光源
14 ビームスプリッター
16 対物レンズ
18 可動ステージ
18a 回転ステージ部
18b 位置合わせ可動ステージ部
18c 試料設置ホルダー
20 測定試料
22 フィルタ
24 分光器
30 コンピュータ(制御手段)
40 アパーチャー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12