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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】注湯ラドル
(51)【国際特許分類】
   B22D 17/30 20060101AFI20240105BHJP
   B22D 41/05 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
B22D17/30 B
B22D41/05
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020085644
(22)【出願日】2020-05-15
(65)【公開番号】P2021178351
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2022-12-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ▲1▼設置開始日 令和2年4月9日 ▲2▼設置場所 トヨタ自動車式会社 田原工場 内(愛知県田原市緑が浜3号1番
(73)【特許権者】
【識別番号】517056310
【氏名又は名称】株式会社Edge Creators
(74)【代理人】
【識別番号】100099047
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】坂本 匡志
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】実開平06-029761(JP,U)
【文献】登録実用新案第3108547(JP,U)
【文献】実開平05-039747(JP,U)
【文献】特開2015-100836(JP,A)
【文献】特開平11-123523(JP,A)
【文献】特開平04-158972(JP,A)
【文献】特開2011-125920(JP,A)
【文献】特開2012-066263(JP,A)
【文献】特開2011-194431(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 1/00-47/022
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶湯を貯留するための周壁によって包囲された有底の貯留部と、前記貯留部の上方であってかつ前方に突出して形成された注湯部と、を有し、回動軸回りに回動して傾けることで前記貯留部内に貯留された溶湯を前記注湯部を経由して前記注湯部の先端の注湯口からダイカストマシンのスリーブの受湯口内に注湯する注湯ラドルにおいて、
前記注湯部には前記回動軸の軸方向に対して交差する方向が面方向となるように配置された第1の壁面及び第2の壁面によって上方が開放された通路が構成されており、前記通路は前記第1の壁面及び前記第2の壁面の下端部分が接合されてV字谷状をなし、
前記周壁の内周面から前記第1の壁面及び前記第2の壁面の内周面へと面が接続されていく途中位置に配置される導入面を備え、
前記スリーブの前方向側に配置される前記第1の壁面は、前記第1の壁面へつながる前記導入面の平面視での接線の延長方向が前記第2の壁面方向を指向していることを特徴とする注湯ラドル。
【請求項2】
前記注湯部は前記注湯口に向かって徐々に狭窄させられていることを特徴とする請求項1に記載の注湯ラドル。
【請求項3】
平面視での前記第1の壁面及び前記第2の壁面は前記注湯口に沿っていずれも内側に凸となるカーブ形状を有し、前記第1の壁面のカーブの曲率は前記第2の壁面のカーブの曲率よりも大きく形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の注湯ラドル。
【請求項4】
前記回動軸と直交する前記貯留部の中心線に対して前記注湯部は前記第1の壁面側にオフセットして配置されていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の注湯ラドル。
【請求項5】
前記注湯部の前記注湯口は前記第1の壁面よりも前記第2の壁面の方が前方にせり出して構成されていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の注湯ラドル。
【請求項6】
前記導入面は前記第1の壁面と連続的な曲面で接続されていることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の注湯ラドル。
【請求項7】
平面視での前記注湯部への前記導入面におけるカーブ形状の接線と前記第2の壁面とが交差してなす前記注湯口側の角度は鈍角となることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の注湯ラドル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はダイカストマシンのスリーブに注湯するために使用する注湯ラドル等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からダイカストマシンのスリーブに注湯するために注湯ラドルが用いられている。注湯ラドルは、溶湯保温炉から合金からなる高温の溶湯を汲んでスリーブ内に注ぐ(つまり注湯する)ために使用される一種のバケツである。スリーブ内に注湯された溶湯はプランジャによって加圧されて押し出されスリーブ前方の金型内に充填され、その後金型を離型することで所定の形状のダイカスト製品を得る。このようなダイカストマシンや注湯ラドルの先行技術として特許文献1と特許文献2を挙げる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-125920号公報
【文献】特開2015-100836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スリーブ内に注湯する際には、例えば特許文献2の図7図8に示すようにスリーブ上部に開口した受湯口近傍に注湯ラドルの注湯口を配置し、注湯ラドルを傾けて注湯口から溶湯を落下させるようにする。しかし、溶湯を汲んでからスリーブ内に注ぐ一連の注湯ラドルの動きは自動制御されており、溶湯は正確にいつも同じようにスリーブ内に落下することとなる。つまり、落下する溶湯はスリーブ内周のある一点に集中し、その部分のみが常に熱い溶湯にさらされることとなる。その結果、繰り返し使用することによってスリーブが劣化してしまい、劣化部分を修繕しなければならず、あるいはあまりなんども修繕すると最後にはスリーブを交換しなければならなくなる。
そのため注湯ラドルで溶湯を注湯する際にスリーブが溶湯によって劣化しにくくなる技術が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、手段1として、溶湯を貯留するための周壁によって包囲された有底の貯留部と、前記貯留部の上方であってかつ前方に突出して形成された注湯部と、を有し、回動軸回りに回動して傾けることで前記貯留部内に貯留された溶湯を前記注湯部を経由して前記注湯部の先端の注湯口からダイカストマシンのスリーブの受湯口内に注湯する注湯ラドルにおいて、前記注湯部には前記回動軸の軸方向に対して交差する方向が面方向となるように配置された第1の壁面及び第2の壁面によって上方が開放された通路が構成されており、前記通路は前記第1の壁面及び前記第2の壁面の下端部分が接合されてV字谷状をなし、前記スリーブの前方向側に配置される前記第1の壁面は、前記第1の壁面へつながる導入部分の面の接線の延長方向が前記第2の壁面方向を指向しているようにした。
これによって、注湯ラドルを傾けてスリーブの受湯口内に注湯する際に、貯留部から流下する溶湯のうち、第1の壁面へつながる導入部分の面に沿って流れる溶湯の主要な流れを導入部分の面カーブに案内させて通路を横切ってカーブ延長線方向となる第2の壁面方向に流すようにすることができる。つまり、貯留部から流れ落ちる溶湯の多くは第1の壁面に沿っては流れないこととなる(まったく流れないというわけではなく、かえって勢いが弱い流下初期段階ではV字形状に沿って流れる)。一方、第2の壁面へつながる導入部分の面はそのような形状ではない(第2の壁面に沿った方向を指向する)ため第2の壁面に沿って流れることなる。第2の壁面に沿った方向は注湯口である。溶湯の主要な流れは第2の壁面方向に集中することとなり、その際の圧力で第2の壁面方向に集まった溶湯は第2の壁面の高さ方向に広がり注湯口から帯状に落下することとなる。
このように帯状に溶湯が広がることで、高温の溶湯の圧力が一点ではなく線状に分散されてスリーブ内周面に衝突することとなるため、スリーブへのダメージが抑制されることとなり、劣化によって修繕が必要な場合であってもその修繕の回数を少なくでき、修繕するタイミングも遅くすることができる。またスリーブを交換する必要がある場合であればその交換時期も遅くすることができる。
【0006】
「V字谷状」において第1の壁面と第2の壁面の角度は限定されるものではないが、溶湯が溢れ出ないために狭角に構成されることがよい。
「導入部分の面」は徐々に第1の壁面となっていく注湯ラドルの内周部分である。導入部分の面は例えば貯留部の周壁の内面の一部が注湯部寄りにおいて第1の壁面に接続される面である。その場合、貯留部の周壁から第1の壁面につながるある形状として導入部分の面が一見して周囲の面と必ずしも明瞭に区別できるわけではない。但し、明瞭な屈曲部を形成する等で区別できるような形状で構成してもよい。また、例えば貯留部と注湯部の間に貯留部にも注湯部にも該当しない流出路に導入部分があってもよい。
「導入部分の面の延長方向」において、面は外に凸な曲面でも平面でもよく、面の延長方向が第2の壁面方向を指向していればよい。曲面であればカーブの延長方向となり、平面であれば面に沿った直線方向となる。
【0007】
また、手段2として、前記注湯部は前記注湯口に向かって徐々に狭窄させられているようにした。
注湯部を初めから狭く構成すると第1の壁面と第2の壁面の内面カーブが導入部分から急激に曲率が大きくなってしまうこととなり、溶湯が一気に集中して注湯部に進入し途中で溢れてしまう可能性があるが、このように同幅ではなく徐々に狭くなっていくように構成することによって、注湯する際の溶湯が注湯部の途中で溢れてしまうことがなくなり、また、カーブが緩やかになるため溶湯を誘導しやすくなる。
また、手段3として、前記第1の壁面及び前記第2の壁面は前記注湯口に沿っていずれも内側に凸となるカーブ形状を有し、前記第1の壁面のカーブの曲率は前記第2の壁面のカーブの曲率よりも大きく形成されるようにした。
第1の壁面は、導入部分の面の接線の延長方向が第2の壁面方向を指向することから、第1の壁面のカーブの曲率が小さいと注湯部の通路の幅も狭くなってしまう。そのため、第1の壁面のカーブの曲率を第2の壁面のカーブの曲率よりも大きく形成することでその延長方向に対して第1の壁面を大きく曲げることができ、注湯部の通路の幅を十分確保することができる。
【0008】
また、手段4として、前記回動軸と直交する前記貯留部の正中線に対して前記注湯部は前記第1の壁面側にオフセットして配置されているようにした。
つまり、ダイカストマシンのスリーブの受湯口方向に注湯口が向くようになる。これによって溶湯が受湯口内に注湯されやすく、また注湯後の溶湯もスリーブ前方に流れやすきなる。
また、手段5として、前記注湯部の前記注湯口は前記第1の壁面よりも前記第2の壁面の方が前方にせり出して構成されているようにした。
スリーブの受湯口に対する注湯ラドルのポジションや上記のように注湯部がオフセットする場合等から第2の壁面側の通路が長い方が溶湯を導きやすいからである。
また、手段6として、前記導入部分の面は前記第1の壁面と連続的な曲面で接続されているようにした。
「連続的な曲面」とは、途中に段差や屈曲した部分がなく同一曲率ではなくとも滑らかに逓減・逓増するようなカーブで構成された曲面である。連続的な曲面であると注湯の際に溶湯がラドル内で泡立ったり跳ねたりしにくくなりスムーズな注湯作業に貢献するためである。
また、手段7として、前記注湯部への前記導入部分の面におけるカーブ形状の指向する方向と前記第2の壁面とが交差してなす前記注湯口側の角度は鈍角となるようにした。
つまり、第1の壁面から通路を横切って第2の壁面方向に流れていく溶湯が第2の壁面に対して正面から当たらず斜め方向から注湯口方向に向かって当たることとなるため、第2の壁面に沿って流れる溶湯よ合流しやすく、通路内で溶湯が跳ねたり溢れたりしにくくなり、溶湯がきれいな帯状に広がることに貢献する。
上述した手段1~手段7の各発明は、任意に組み合わせることができる。手段1~手段7の各発明の任意の構成要素を抽出し、他の構成要素と組み合わせてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の注湯ラドルによれば、注湯の際に帯状に溶湯が広がることで、高温の溶湯の圧力が一点ではなく線状に分散されてスリーブ内周面に衝突することとなるため、スリーブへのダメージが抑制されることとなり、劣化によって修繕が必要な場合であってもその修繕の回数を少なくでき、修繕するタイミングも遅くすることができる。またスリーブを交換する必要がある場合であればその交換時期も遅くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態の注湯ラドルの斜視図。
図2】同じ実施形態の注湯ラドルの平面図。
図3】同じ実施形態の注湯ラドルの(a)は側面図、(b)は図2のA-A線での断面図。
図4】同じ実施形態の注湯ラドルの正面図。
図5】(a)は図4のB-B線での断面図、(b)は図4のC-C線での断面図、(c)は図4のD-D線での断面図。
図6】同じ実施形態の注湯ラドルの使用方法を説明する説明図。
図7】同じ実施形態の注湯ラドルからダイカストマシンのスリーブ内に溶湯を帯状に落下させている状態の説明図。
図8】同じ実施形態において(a)は傾動初期、(b)は傾動中期以降における注湯ラドルから落下する溶湯の状態を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態である注湯ラドル1について図面に基づいて説明する。
注湯ラドル1はダイカスト用の溶湯よりも融点の高い合金からなる一体成形された鋳造製品である。図1に示すように、注湯ラドル1は貯留部2と注湯部3を備えている。まず注湯ラドル1の概要を説明する。尚、以下では貯留部2に対する注湯部3側を前方として説明する。
貯留部2は左右方向に対して前後方向が長い横断面楕円体形状の外径として表れるるつぼ形状の外観とされている。図1図2図5(a)~(c)等に示すように、貯留部2において底部領域2aは前後に長い下に凸な半球体形状とされ、底部領域2aの全周から上方に向かって周壁2bが外方に若干傾斜して立ち上がるように構成されている。貯留部2の上方は塞がれておらず溶湯を汲むための開口部2cを形成している。貯留部2の前方寄りは上方ほど前方に張り出すように構成されて注湯部3に連接されている。
【0012】
貯留部2の前方上部寄りは前方に向かって徐々に引き延ばされたように突出して構成されており、その突出された前方部分が注湯部3とされている。注湯部3の内面は第1の壁面4と第2の壁面5からなる通路6とされている。図1図4に示すように、通路6は第1の壁面4と第2の壁面5の下端が斜めに接合されたV字谷状をなしている。第1の壁面4と第2の壁面5のなす角度は狭角(本実施の形態では約65度)に構成されている。通路6内の横断面方向はV字谷状をなすため底部が不連続に屈曲して構成されているが、図2図3(b)に示すように通路6は長手方向においては貯留部2の内面(つまり周壁2b内周面)から段差がないように滑らかに湾曲面として接合されている。通路6の前端は注湯口7とされている。
注湯部3の外面の左右位置にはそれぞれ横断面L字状のブラケット部8が注湯部3と一体的に形成されている。ブラケット部8には円筒状の軸受け部9がブラケット部8と一体的に形成されている。軸受け部9の筒中心を通る軸心方向Rは左右の軸受け部9で一致しており、注湯ラドル1はこの軸受け部9に固定される図示しない回動軸によって軸受け部9回りに揺動可能に軸支されることとなる。軸心位置は注湯部3のちょうど第1の壁面4の先端上部位置と一致する。
貯留部2の上部寄り後方には湯切り用の切り欠き10が形成されている。貯留部2内に溜められた溶湯はこの切れ欠き10によって湯切りされるため、開口部2c上端より一段下がった切り欠き10の棚位置が分界線位置となる。
【0013】
次に、注湯部3付近の形状についてより詳しく説明する。
図2図3(a)に示すように、注湯部3は軸心方向Rと直交する貯留部2の中心線Oに対して通路6が第1の壁面4側となる図上右方向にわずかに向くように中心線Oからオフセットさせられている。通路6でみると、通路6中央線である第1の壁面4と第2の壁面5の下端が接合されたV字の底の長手方向が図2では中心線Oから角度αだけ右方向を指向している(本実施の形態では角度αは約5度)。通路6先端の注湯口7は第1の壁面4よりも第2の壁面5側がより前方に進出させられている。また、注湯部3がオフセットしていることもあって、注湯口7の端部は軸心方向Rと平行ではなく第1の壁面4側を向いて傾いて配置される。また、図3に示すように第1の壁面4よりも第2の壁面5側がわずかに背(垂直方向の高さ)が高くなるように構成されている。また、通路6幅は貯留部2側では周壁2b内周面と滑らかに接続されることから注湯口よりも周壁2b側が幅広とされる。
【0014】
次に貯留部2の周壁2bから第1の壁面4及び第2の壁面5へとつながる導入面11A、11Bの面形状について説明する。本実施の形態では導入面11A、11Bは貯留部2の前方上部寄りの徐々に貯留部2に向かっていく左右の内周面部分である。具体的には図3(a)と図3(a)の破線で示す領域周辺の内周面が導入面11A、11Bとなる。尚、導入面11A、11Bは厳密に区画できるものではなく、図3(a)の破線で包囲した領域は導入面11A、11Bのおおよその位置を示すものである。図2図5(a)~(c)等に示すように、導入面11A、11Bは基本的に周壁2bの内周面の一部であって滑らかな曲面として第1の壁面4又は第2の壁面5に接続されている。また、通路6のV字形状の底につながる貯留部2前方部分を導入面11Cとする。導入面11Cは通路6に近づくにつれて中央が緩やかにV字状に窪んで通路6のV字形状の底に滑らかに接続されている。導入面11Aと導入面11Bはそれぞれ導入面11Cと相互に滑らかに接続されており接続領域の境界は明瞭ではない。
【0015】
導入面11A、11B、11Cはそれぞれ異なったカーブで構成され、注湯部3と貯留部2とを連結する領域は一様ではない。例えば図3(b)に示すように貯留部2の周壁2b内周面から通路6にかけて底部領域2aから注湯口に向かう垂直方向の導入面11C付近の側面形状は概ね滑らかなで緩やかな内に凸となるカーブで構成されている。垂直方向については導入面11A、11Bも同様に滑らかである。
一方、図2図5(a)(b)に示すように、垂直方向と直交する水平な周方向においては導入面11A、11B、11Cの形状は同じではなくそれぞれ異なった特性の面形状とされていることがわかる。
導入部分の面としての導入面11AはP位置で一旦大きく内側に屈曲させられて内に凹となる形状となり第1の壁面4に接続されている。つまり、導入面11A側では変曲点となるP位置で角度が大きく変えられていることとなる。そして、P位置から先は概ね緩やかな内に凸となるカーブ(あるいは図5(b)のような平面)で第1の壁面4に滑らかなで緩やかな内に凸となるカーブで接続されている。
一方、導入面11BはP位置のような大きくカーブ形状が大きく変化する変曲点はなくほぼまっすぐ(わずかに内に凸となるように)に第2の壁面5へと滑らかにつながっている。そのため、図2に示すように、平面視において導入面11Aに接する線分である接線T1は第2の壁面5方向に向かい注湯口方向へは向かわず、導入面11B側の接線T2は通路6内において概ね第2の壁面5に沿って注湯口方向に向かうこととなる。
本実施の形態では接線T1と第2の壁面5とのなす角度βは鈍角(本実施の形態では約140度)とされている。上記のように通路6のなす第1の壁面4と第2の壁面5の角度は約65度であるが、図2図5(a)~(c)に示すように導入面11Cとの境界付近ではそれ以上の角度で緩やかに接続されている。
【0016】
次に、このように構成される注湯ラドル1を使用してダイカストマシンのスリーブ21の受湯口22内に注湯する際の溶湯の流れについて説明する。尚、注湯ラドル1は図示しない公知の自動注油装置に使用され、自動制御で溶湯保温炉から溶湯を汲み上げ、移動させてスリーブ21内への注湯を繰り返すが、注湯ラドル1の汲み上げ~移動についての説明は省略する。以下では注湯ラドル1がスリーブ21近傍に配置されて注湯ラドル1を傾けて受湯口22内に注湯するアクションに特化して説明する。注湯ラドル1を揺動するための回動軸も図示を省略する。
本実施の形態で使用されるスリーブ21は、溶湯よりも融点の高い合金からなる円筒形状の中空体である。受湯口22は本実施の形態では正方形形状の開口部とされスリーブ21後方の上面に形成されている。スリーブ21前方には図示しない金型が配置され、後方にはプランジャー23が配設されている。スリーブ21内に注湯後所定のタイミングでプランジャー23が進出してスリーブ21内の溶湯を金型内に充填する。
【0017】
図6に示すように、本実施の形態では注湯ラドル1は注湯位置としてスリーブ21の受湯口22の斜め後方に配置される。具体的にはスリーブ21の軸心方向Lに対して中心線Oが45度の角度となるような平面視での位置関係となる。但し、注湯部3において通路6は角度αだけスリーブ21前方方向に傾斜しているため、流れ出る溶湯は中心線Oの延長線が到達する位置よりも若干前方に達することとなる。
さて、注湯ラドル1を回動軸を中心に注湯口が下がるように傾動させていくと、次のように溶湯はスリーブ21内に流れ落ちる。以下、図8(a)(b)における説明では溶湯Mとする。
(1)傾動初期においては流下速度も流下量も少なく、導入面11Aや導入面11Bを通過せず貯留部2から流れてくる溶湯Mは図8(a)のように導入面11Cから通路6のV字形状の底に沿って流下することとなる。この段階では溶湯Mは帯状に広がらずにスリーブ21内に落下する。
(2)傾動中期以降においては傾きが増して流下速度も流下量も多くなるため溶湯に勢いがついてくる。そのため、溶湯Mは導入面11Aや導入面11Bを通過して通路6に達するようになる。
導入面11Aに沿って流れる溶湯Mは勢いが増すにつれて徐々に図8(b)のように導入面11Aのカーブに案内されて通路6を斜めに横切ってカーブ延長線方向となる第2の壁面5方向に流れていくこととなり、ある段階でまったく第1の壁面4に沿って流れることがなくなってしまう。一方、導入面11Bに沿って流れる溶湯Mはほぼ第2の壁面5に沿って流れる。導入面11Cを流下する溶湯Mも導入面11A方向からの溶湯Mに押されて一緒に第2の壁面5方向に流れていく。そのため、溶湯Mは第2の壁面5方向に集中することとなるが、その際に溶湯Mは第2の壁面5の幅方向(上下方向)に広がることとなり、図7の破線に示すように溶湯Mは第2の壁面5の幅方向に帯状に広がってスリーブ21内に落下することとなる。
(3)傾動末期以降においては溶湯Mの流下量が少なくなることから、溶湯Mの落下する勢いは衰え、導入面11Aや導入面11Bを通過しなくなってくる。そのため、溶湯Mは再び(1)のように導入面11CからV字形状の底に沿って流下することとなる。
【0018】
以上のように構成することで実施の形態の注湯ラドル1は次のような効果を奏する。
(1)スリーブ21内に落下する溶湯Mは幅広の帯状なので落下領域が分散されてスリーブ21の劣化が抑制されることとなり、劣化によって修繕が必要な場合であってもその修繕の回数を少なくでき、修繕するタイミングも遅くすることができる。またスリーブ21を交換する必要がある場合であればその交換時期も遅くすることができる。
(2)注湯部3がスリーブ21の前方向に傾いているので溶湯Mをより前方に溶湯を導くことができる。
(3)従来の一般的な注湯ラドルは横断面形状U字である。このような従来のU字形状の注湯ラドルでは、勢いよく注湯すると通路内で両側から押し寄せる溶湯の波が中央寄りでぶつかって合成されて大きな波が立ってしまうこととなっていた。大きな波は溶湯がこぼれる原因となる。そのため、大きな波が経たないように制限しながら注湯しなければならなかった。一方、実施の形態の注湯ラドル1は注湯部3の通路6の横断面形状がV字形状であり、かつ溶湯Mは第2の壁面5方向に集中することとなる。そのため勢いよく注湯しても従来のU字形状の注湯ラドルのように大きな波が立ってしまうことがなく、その結果実施の形態の注湯ラドル1は従来のU字形状の注湯ラドルに比べてより早くスリーブ21内に注湯することができることとなる。
【0019】
上記実施の形態は本発明の原理およびその概念を例示するための具体的な実施の形態として記載したにすぎない。つまり、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明は、例えば次のように変更した態様で具体化することも可能である。
・上記では注湯部3も貯留部2も上方が開放されていたが、例えば貯留部上方が包囲されているような形状であってもよい。
・導入面11A、11Bは貯留部2の一部ではなく、貯留部2と注湯部3の途中の流出路に形成させるようにし、その流出路に導入面11A、11Bを有するようにしてもよい。つまり、導入部分は必ずしも貯留部の一部ではない。例えば、貯留部2から鶴首状に長く延びる部分の先端に注湯部3を設けた場合には溶湯を溶湯保温炉から汲み上げた状態では注湯口よりも高い位置になるため貯留部2の一部とは言えないからである。
・軸受け部9の位置や取り付け形状は上記は一例である。
・注湯部3はスリーブ21方向に傾けて配置されていたが、必ずしも傾かなくともよい。また、通路6内面を構成する第1の壁面4と第2の壁面5が直線形状であったが、例えばこの面を徐々に湾曲させるようにして(つまり、第1の壁面4を外に凸、第2の壁面5を外に凹となるように)スリーブ21方向に指向するように構成してもよい。
【0020】
本願発明は上述した実施の形態に記載の構成には限定されない。上述した各実施の形態や変形例の構成要素は任意に選択して組み合わせて構成するとよい。また各実施の形態や変形例の任意の構成要素と、発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素または発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素を具体化した構成要素とは任意に組み合わせて構成するとよい。これらについても本願の補正または分割出願等において権利取得する意思を有する。
また、意匠出願への変更出願により、全体意匠または部分意匠について権利取得する意思を有する。図面は本装置の全体を実線で描画しているが、全体意匠のみならず当該装置の一部の部分に対して請求する部分意匠も包含した図面である。例えば当該装置の一部の部材を部分意匠とすることはもちろんのこと、部材と関係なく当該装置の一部の部分を部分意匠として包含した図面である。当該装置の一部の部分としては、装置の一部の部材としてもよいし、その部材の部分としてもよい。
【符号の説明】
【0021】
1…注湯ラドル、2…貯留部、3…注湯部、4…第1の壁面、5…第2の壁面、6…通路、11A…導入部分の面である導入面、
21…スリーブ、22…受湯口、55…冷却手段の一部をなす冷却管。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8