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特許7412765SiC半導体素子の製造方法及びSiC半導体素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】SiC半導体素子の製造方法及びSiC半導体素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/316 20060101AFI20240105BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20240105BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
H01L21/316 S
H01L29/78 301F
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020098244
(22)【出願日】2020-06-05
(65)【公開番号】P2021192397
(43)【公開日】2021-12-16
【審査請求日】2023-03-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム委託事業、「超スマート社会実現のカギを握る革新的半導体技術を基盤としたエネルギーイノベーションの創出に関する国立大学法人京都大学による研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木本 恒暢
(72)【発明者】
【氏名】小林 拓真
(72)【発明者】
【氏名】立木 馨大
【審査官】長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-058658(JP,A)
【文献】国際公開第2011/074237(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/005397(WO,A1)
【文献】特開2020-027894(JP,A)
【文献】特開2014-099495(JP,A)
【文献】KAWAHARA, Koutarou et al.,Deep levels generated by thermal oxidation in p-type 4H-SiC,Journal of Applied Physics,2013年01月17日,Vol. 113,pp. 033705-1 - 033705-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/316
H01L 21/336
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC基板の表面を、1200℃以上の温度で、Hガスでエッチングするステップ(A)と、
前記SiC基板上に、該SiC基板を酸化させない条件で、SiO膜を形成するステップ(B)と、
前記SiO膜が形成された前記SiC基板を、1350℃以上の温度で、Nガス雰囲気中で熱処理するステップ(C)と
を含む、SiC半導体素子の製造方法。
【請求項2】
前記ステップ(B)は、
前記SiC基板上に、Si薄膜をCVD法により堆積するステップ(B1)と、
前記Si薄膜を、前記SiC基板を酸化させない温度で熱酸化してSiO膜を形成すステップ(B2)と
を含む、請求項1に記載のSiC半導体素子の製造方法。
【請求項3】
前記ステップ(A)は、Si過剰雰囲気下において実行され、
前記ステップ(B)は、前記SiC基板上に、CVD法によりSiO膜を形成するステップ(B3)からなる、請求項1に記載のSiC半導体素子の製造方法。
【請求項4】
前記ステップ(A)において、前記SiC基板の表面に、1~3層のSi層が形成される、請求項3に記載のSiC半導体素子の製造方法。
【請求項5】
前記ステップ(B2)は、750~850℃の温度範囲で実行される、請求項2に記載のSiC半導体素子の製造方法。
【請求項6】
前記ステップ(A)の前に、前記SiC基板を犠牲酸化した後、前記SiC基板の表面に形成された酸化膜をエッチング除去するステップをさらに含む、請求項1に記載のSiC半導体素子の製造方法。
【請求項7】
前記ステップ(C)の熱処理後において、前記SiC基板と前記SiO膜との界面、及び、前記SiO膜中に、密度が2×1019cm-3以上の窒素原子が存在している、請求項1~6の何れか1項に記載のSiC半導体素子の製造方法。
【請求項8】
前記ステップ(C)の熱処理後において、伝導帯端より0.3eV低いエネルギー近傍における前記SiC基板と前記SiO膜との界面欠陥密度が、3×1010cm-2eV-1以下である、請求項1~6の何れか1項に記載のSiC半導体素子の製造方法。
【請求項9】
前記ステップ(C)の熱処理後の前記SiC基板側に存在する点欠陥において、伝導帯端より1.0eV低いエネルギーにおける点欠陥密度、及び価電子帯端より0.7eV高いエネルギーにおける点欠陥密度が、それぞれ、5×1011cm-3以下である、請求項1~6の何れか1項に記載のSiC半導体素子の製造方法。
【請求項10】
前記SiC基板は、表面にSiCエピタキシャル層が形成されたSiC基板を含む、請求項1に記載のSiC半導体素子の製造方法。
【請求項11】
SiC基板上にSiO膜からなるゲート絶縁膜を有するSiC半導体素子であって、
前記SiC基板側に存在する点欠陥であって、伝導帯端より1.0eV低いエネルギーにおける点欠陥密度、及び価電子帯端より0.7eV高いエネルギーにおける点欠陥密度が、それぞれ、5×1011cm-3以下である、SiC半導体素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiC(炭化珪素)半導体素子の製造方法、及びSiC半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
SiC基板を用いたMOS型トランジスタ(SiC MOSFET)において、SiC基板の表面に熱酸化でSiO膜(ゲート酸化膜)を形成した場合、SiO膜とSiC基板との界面における欠陥密度が非常に高いという問題がある。界面欠陥密度が高いと、SiC MOSFETのチャネル移動度等の特性が十分に得られない。
【0003】
界面欠陥密度を低減する方法として、特許文献1には、SiC基板の表面に直接、熱酸化によりSiO膜を形成する代わりに、SiC基板の表面にSi薄膜を堆積し、その後、Si薄膜を酸化してSiO膜を形成する方法が開示されている。
【0004】
また、界面欠陥密度を低減する他の方法として、非特許文献1には、SiC基板の表面に熱酸化によりSiO膜を形成した後、NO(一酸化窒素)ガス雰囲気中で熱処理を行い、SiO膜とSiC基板との界面を窒化する方法(界面窒化)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-067757号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】G.Y. Chung et al., IEEE Electron Device Lett., vol.22, 176(2001)
【文献】K. Kawahara et al., Appl. Phys. Express, vol. 6, 051301 (2013)
【文献】F. Devynck et al., Phys. Rev. B, vol. 84, 235320 (2011)
【文献】K. Kawahara et al., J. Appl. Phys. vol. 113, 033705 (2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の先行技術文献に開示された方法によって、SiO膜とSiC基板との界面における欠陥密度は大幅に低減できるが、依然として界面欠陥密度が多く、SiC MOSFETの特性を大きく制限している。また、NO熱処理によりSiO膜とSiC基板との界面を窒化する方法は、界面窒化だけでなく、酸化も進行するため、「窒化」と「酸化」の競合過程となり、最適化が難しい。加えて、NOガスは、猛毒であるため、大量生産で使用するには不向きである。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたもので、その主な目的は、SiO膜とSiC基板との界面における欠陥密度を大幅に低減できるSiC半導体素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るSiC半導体素子の製造方法は、SiC基板の表面を、1200℃以上の温度で、Hガスでエッチングするステップと、SiC基板上に、該SiC基板を酸化させない条件で、SiO膜を形成するステップと、SiO膜が形成されたSiC基板を、1350℃以上の温度で、Nガス雰囲気中で熱処理するステップとを含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、SiO膜とSiC基板との界面における欠陥密度を大幅に低減できるSiC半導体素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(A)~(D)は、本発明の一実施形態におけるSiC半導体素子の製造方法を示した図である。
図2】SiO膜とSiC基板との界面における欠陥密度を示したグラフである。
図3】SiC基板側に存在する欠陥の種類を示したグラフである。
図4】SiC基板側に存在する欠陥の種類を示したグラフである。
図5】SiO膜/SiC基板のC-V特性を示したグラフである。
図6】SiO膜のI-V特性を示したグラフである。
図7】SiO膜とSiC基板との界面近傍における窒素原子密度を示したグラフである。
図8】界面欠陥密度のHガスエッチング温度依存性を示したグラフである。
図9】界面欠陥密度のNガス熱処理温度依存性を示したグラフである。
図10】SiO/SiC界面近傍における窒素原子密度を示したグラフである。
図11】(A)~(C)は、本発明の他の実施形態におけるSiC半導体素子の製造方法を示した図である。
図12】界面欠陥密度のHガスエッチング温度依存性を示したグラフである。
図13】界面欠陥密度のNガス熱処理温度依存性を示したグラフである。
図14】SiO/SiC界面近傍における窒素原子密度を示したグラフである。
図15】Si過剰雰囲気下での高温Hエッチングの効果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態を説明する前に、本発明を想到するに至った経緯を説明する。
【0013】
SiC基板を用いて半導体素子を製造する際、半導体素子の製造工程を開始する前、あるいは製造工程の途中に、通常、SiC基板の表面を犠牲酸化した後、SiC基板の表面に形成された酸化膜をフッ酸などの薬液により除去する工程が実施される。これにより、意図せず表面に付着した不純物や、最表面近傍のSiC結晶のダメージ(化学組成のずれなど)を除去でき、半導体素子の特性の安定化や、歩留まり向上を図ることができる。
【0014】
確かに、犠牲酸化後に、酸化膜を除去することによって、SiC基板の表面に付着した不純物や、最表面近傍のSiC結晶のダメージ等を除去することには効果的であるが、SiC基板の表面に多くの欠陥が残存している可能性がある。実際、SiC結晶を酸化すると、SiCの表面近傍に高密度の点欠陥が生成することが知られている(非特許文献2)。また、SiC結晶を酸化すると、酸化膜とSiCの界面に過剰なC原子に起因する界面欠陥が生成されるという理論計算の報告もある(非特許文献3)。このように、SiC結晶を少しでも酸化すると、多量の界面欠陥とSiC側の点欠陥が生成することは避けられないと考えられる。
【0015】
本願発明者等は、それを検証するために、SiC基板の表面にSiO膜を形成する前の前処理として、犠牲酸化後に、酸化膜を除去したSiC基板の表面を、高温Hガスでエッチングすることを検討した。加えて、NO熱処理による界面窒化処理で、SiO膜とSiC基板との界面に酸化膜ができるのを防止するために、界面窒化処理をN熱処理で行うことを検討した。
【0016】
(検証試料の作製)
高温Hガスエッチングの前処理効果、及びN熱処理による界面窒化処理の効果を検証するために、図1(A)~(D)に示した方法により、SiC基板の表面にSiO膜を形成した試料を作製した。
【0017】
図1(A)に示すように、前処理工程として、SiC基板1の表面を、高温Hガスでエッチングした。Hガスのエッチングは、H流量:1000sccm、温度:1300℃、圧力:0.1MPa、時間:3分の条件で行った。
【0018】
なお、SiC基板1としては、SiC基板1上にSiCエピタキシャル層(不図示)を形成したものを用いた。ここで、SiC基板1は、n型4H-SiC(0001)基板を用い、SiCエピタキシャル成長層のドナー濃度を5×1015cm-3とした。また、前処理工程の前に、SiCエピタキシャル層の表面を犠牲酸化した後、酸化膜を除去した。
【0019】
次に、図1(B)に示すように、SiC基板1上に、Si薄膜2をCVD法により堆積した。Si薄膜2の堆積は、SiH流量:50sccm、H流量:50sccm、温度:630℃、圧力:173Pa、時間:90秒の条件で行った。これにより、SiC基板1上に、厚さ約18nmのSi薄膜2を形成した。
【0020】
次に、図1(C)に示すように、Si薄膜2を熱酸化してSiO膜3を形成した。Si薄膜2を熱酸化は、O流量:2000sccm、温度:750℃、時間:24時間 の条件で行った。なお、この条件は、SiC基板1が酸化されない条件で、750~850℃の温度範囲が好ましい。850℃を超えるとSiC基板1が酸化されるおそれがあり好ましくない。
【0021】
次に、図1(D)に示すように、SiO膜3が形成されたSiC基板1を、Nガス雰囲気中で熱処理した。熱処理の条件は、N流量:500sccm、温度:1600℃、圧力:1気圧、時間:1分で行った。
【0022】
なお、比較のために、図1(A)に示した高温Hガスのエッチングによる前処理を行わず、図1(D)に示した界面窒化処理を、NOガスによる熱処理で行って、SiC基板上にSiO膜を形成した試料を作製した。
【0023】
(界面欠陥密度の解析)
図1(A)~(D)に示した方法で形成したSiO膜3に対して、MOSキャパシタを作製し、High-Low CV法を用いて、SiO膜3とSiC基板1との界面における欠陥密度を求めた。
【0024】
図2は、その結果を示したグラフで、横軸は、伝導帯端(E)からのエネルギー(E)で、縦軸は界面欠陥密度を示す。Aで示したグラフが、前処理として高温Hガスによるエッチングを施し、界面窒化処理としてNガスによる熱処理を施した場合、Bで示したグラフが、前処理として高温Hガスによるエッチングを施さず、界面窒化処理としてNOガスによる熱処理を施した場合を示す。
【0025】
図2に示すように、前処理としてHガスエッチングを施した試料(グラフA)は、広いエネルギー範囲で、界面欠陥準位密度(以下、単に「界面欠陥密度」という)が、3×1010cm-2eV-1以下で、前処理としてHガスエッチングを施さなかった試料(グラフB)に比べて、界面欠陥密度が大幅に低減されていた。
【0026】
特に、伝導帯端(E)より0.3eV低いエネルギー近傍において、界面欠陥密度は、3×1010cm-2eV-1以下であった。このエネルギー領域は、nチャネルMOSFETのオン(通電)時におけるフェルミ準位に近いため、このエネルギー範囲の欠陥密度が低いことは、SiC MOSFETにおけるチャネル抵抗を大幅に低減することができることを意味する。
【0027】
このような解析結果から、表面を犠牲酸化した後に、酸化膜を除去したSiC基板1の表面には、多くの欠陥が残存しており、この欠陥を効率よく除去するために、高温Hガスを用いて、SiC基板1の表面をエッチングすることが効果的であることが判明した。
【0028】
(SiC基板側の欠陥解析)
図1(A)~(D)に示した方法で形成したSiO膜3に対して、MOSキャパシタを作製し、SiC基板側の欠陥を解析した。具体的には、DLTS(Deep Level Transient Spectroscopy)法を用いて、SiC基板側に存在する欠陥の種類を解析した。
【0029】
図3は、その結果を示したグラフで、横軸は温度、縦軸はDLTS信号を示す。ここで、Cで示したグラフは、前処理として高温Hガスによるエッチングを施し、界面窒化処理としてNガスによる熱処理を施した場合を示す。また、Dで示したグラフは、前処理として高温Hガスによるエッチングを施さず、界面窒化処理としてNOガスによる熱処理を施した場合を示す。
【0030】
図3に示すように、Nガスによる熱処理を施した試料(グラフC)では、矢印Zで示したピークのみが観察された。一方、NOガスによる熱処理を施した試料(グラフD)では、矢印Zで示したピークの他に、矢印N1、N2、N3で示した3つのピークが観察された。ここで、矢印Zで示したピークは、SiCの結晶成長時に導入されたSiC基板1に内在する結晶欠陥(炭素空孔)によるものであることが知られている。一方、矢印N1、N2、N3で示したピークは、SiC基板1の熱酸化によりSiC表面近傍に発生する欠陥と一致する(非特許文献2)。
【0031】
このような結果から、界面窒化処理を、NOガスによる熱処理で行った場合、界面窒化処理中に、SiC基板1の表面がわずかに酸化されることが判明した。一方、界面窒化処理を、Nガスによる熱処理で行った場合、SiC基板1の表面が酸化されないことが判明した。
【0032】
また、このような結果は、たとえ高温HガスエッチングによりSiC表面を清浄化、高品質化しても、この後の工程でわずかでもSiCを酸化させると、十分低い界面欠陥密度を得ることができないことを示唆している。
【0033】
例えば、上記では、NOガスによる界面窒化処理を施した試料について述べたが、高温Hガスによるエッチングを施した後、Si薄膜2を堆積し、高温(950℃)の酸化によりSiO膜3を形成した後に、高温(1600℃)でNガスによる窒化処理を施した試料でも、同様のDLTSピークN1、N2、N3が観測された。これは、950℃の酸化処理の際、SiC基板1の表面が酸化されていることを意味する。
【0034】
すなわち、高温Hガスエッチングを施してSiC基板表面近傍の欠陥を除去したとしても、Si薄膜2を酸化してSiO膜3を形成する際、高温(950℃)で酸化を行うと、SiC基板1の表面もわずかに酸化されるため、この後に、高温(1600℃)でNガスによる窒化処理を施しても、十分に低い界面欠陥密度を得ることができない。
【0035】
なお、検証に用いた試料は、n型SiC基板を用いて作製したものであるが、p型SiC基板を用いて、図1(A)~(D)に示した方法と同じ方法で作製した試料についても、DLTS法を用いて、SiC基板側に存在する欠陥の種類を解析した。
【0036】
図4は、その結果を示したグラフで、Cで示したグラフは、前処理としてHガスエッチングを施し、界面窒化処理としてNガスによる熱処理を施した場合を示す。また、Dで示したグラフは、前処理としてHガスエッチングを施さず、界面窒化処理としてNOガスによる熱処理を施した場合を示す。
【0037】
図4に示すように、Nガスによる熱処理を施した試料(グラフC)では、SiC結晶中の点欠陥に起因するピークは観察されなかったが、NOガスによる熱処理を施した試料(グラフD)では、矢印P1で示したピークが観察された。ここで、P1で示したピークは、SiC基板1の熱酸化によりSiC表面近傍に発生する欠陥によるものであることが知られている(非特許文献4)。
【0038】
このような結果から、p型SiC基板を用いた場合でも、界面窒化処理を、NOガスによる熱処理で行った場合、SiC基板1の表面が酸化されるが、Nガスによる熱処理で行った場合、SiC基板1の表面が酸化されないことが分かる。
【0039】
表1は、矢印N1~N3、P1で示した欠陥の種類OX-N1、OX-N2、OX-N3、OX-P1のエネルギー位置、及び欠陥密度を示したものである。ここで、Ecは伝導帯端のエネルギー準位、Evは価電子帯端のエネルギー準位である。なお、エネルギー位置は、DLTS測定で求まるキャリア放出の時定数の温度依存性の解析により求めた。また、欠陥密度は、DLTS測定で見られるピーク強度から求めた。
【0040】
【表1】
【0041】
表1から、前処理としてH熱処理を施し、界面窒化処理としてNガスによる熱処理を施した場合、SiC基板側に存在する点欠陥は、下記の理由により、伝導帯端より1.0eV低いエネルギーにおける点欠陥密度が、5×1011cm-3以下と推定される。また、価電子帯端より0.7eV高いエネルギーにおける点欠陥密度が、5×1011cm-3以下と推定される。
【0042】
すなわち、図3図4に示すように、前処理としてH熱処理を施し、界面窒化処理としてNガスによる熱処理を施した試料では、これらの点欠陥に相当するDLTSピークが観測されない。他の試料で観測された欠陥の性質を用いて数値計算によりDLTSピークをシミュレーションしたところ、点欠陥密度が少なくとも5×1011cm-3以上であれば、この測定条件で有意なDLTSピークとして観測されることが判明した。したがって、酸化されていない試料におけるSiC基板側に存在する点欠陥密度は5×1011cm-3以下と推定される。
【0043】
(SiO膜の特性評価)
図1(A)~(D)に示した方法で形成したSiO膜3について、高温Hガスによるエッチング効果、及びN熱処理による界面窒化処理の効果を確認するために、以下に示す方法により、SiO膜の特性等を評価した。
【0044】
(A)電圧ストレスによるC-V特性シフトの評価
図1(A)~(D)に示した方法で形成したSiO膜3に対して、MOSキャパシタを作製し、電圧ストレスによる特性シフトを評価した。具体的には、MOSキャパシタに10Vの電圧を300秒印加した後、正電圧から負電圧にバイアスを掃引し、次に、―10Vの電圧を300秒印加した後、負電圧から正電圧にバイアスを掃引してC-V特性のシフトを測定した。
【0045】
図5は、その結果を示したグラフで、横軸は電圧、縦軸は容量を示す。図5に示すように、SiO膜に高電界(3.3MV/cm)を印加しても、C―V特性のシフトは全く観察されなかった。この結果は、SiO膜中のトラップが非常に少ないことを示唆する。
【0046】
(B)SiO膜の絶縁特性評価
図1(A)~(D)に示した方法で形成したSiO膜3に対して、MOSキャパシタを作製し、SiO膜3の絶縁特性を評価した。具体的には、MOSキャパシタに正電圧を印加し、I-V特性を測定した。
【0047】
図6は、その結果を示したグラフで、横軸は電界(V/tox;toxはSiO膜3の膜厚)、縦軸は電流密度を示す。図に示すように、SiO膜3は、10MVcm-1の電界で絶縁破壊され、良好な絶縁特性を示した。また、6~9MVcm-1の範囲で、Fowler-Nordheimトンネル電流が観察された。これは、SiO膜中の欠陥が少ないことを示唆する。
【0048】
(C)SiO/SiC界面の窒素原子密度
ガスによる界面窒化処理の効果を検証するために、SIMS(二次イオン質量分析法)を用いて、SiO膜3とSiC基板1との界面における窒素原子密度を測定した。
【0049】
図7は、その結果を示したグラフで、横軸は、膜厚方向の位置を示し、ゼロがSiO膜3とSiC基板1との界面、プラス側がSiC基板内の位置、マイナス側がSiO膜内の位置を示す。また、縦軸は、窒素原子密度を示す。
【0050】
図7に示すように、SiO膜3とSiC基板1との界面に、密度が約2×1021cm-3の窒素原子が存在していた。さらに、SiO膜中にも、約1×1021cm-3の密度の窒素原子が分布していた。
【0051】
このような結果から、Nガスによる熱処理によって、SiO膜とSiC基板との界面、及びSiO膜中に、十分な密度の窒素原子が導入されていることが分かる。これにより、SiO膜とSiC基板との界面における欠陥密度が十分に低減されていると考えられる。
【0052】
以上の結果から、表面を犠牲酸化した後に、酸化膜を除去したSiC基板1の表面を、高温Hガスでエッチングすることによって、SiC基板1の表面近傍に残存した欠陥を大幅に低減することができる。また、SiC基板1の表面に、SiC基板1を酸化させない条件で、SiO膜3を形成した後、SiC基板1を、Nガス雰囲気中で熱処理することによって、SiC基板1の表面が酸化されるのを防止することができる。これにより、SiO膜とSiC基板との界面における欠陥密度が大幅に低減され、高品質で、安定した特性を有するSiO膜を得ることができる。
【0053】
(界面欠陥密度のHガスエッチング温度依存性)
図8は、SiC基板1の表面を高温Hガスでエッチングする際の温度を、1100℃、1200℃、1300℃で、それぞれ行ったときの界面欠陥密度を測定した結果を示したグラフである。なお、測定は、上述したHigh-Low CV法を用いて行った。また、図中のBで示した破線のグラフは、高温Hガスでエッチングしなかった場合を示す。
【0054】
図8に示すように、1200℃以上の温度で、界面欠陥密度が大幅に低減されることが分かる。一方、1100℃の温度では、Hガスのエッチングによる効果はほとんど見られなかった。これは、1100℃の温度では、SiC基板がほとんどエッチングされなかったためと考えられる。なお、1400℃以上の温度では、Siの融点を超えるため、SiC基板表面の化学組成を正常値に維持することが困難になる。従って、界面欠陥密度の低減効果を得るためには、Hガスのエッチングは、1200℃~1300℃の温度範囲で行うことが好ましい。
【0055】
(界面欠陥密度のNガス熱処理温度依存性)
図9は、SiC基板1の表面にSiO膜3を形成した後、SiC基板1を、Nガス雰囲気中で熱処理(界面窒化処理)する際の温度を、1350℃、1400℃、1600℃で、それぞれ行ったときの界面欠陥密度を測定した結果を示したグラフである。なお、測定は、上述したHigh-Low CV法を用いて行った。また、図中のBで示した破線のグラフは、高温Hガスでエッチングしなかった場合(界面窒化処理をNOガスで実施)を示す。
【0056】
図9に示すように、1350℃以上の温度で、界面欠陥密度が大幅に低減されることが分かる。一方、1350℃より低い温度では、Nガス熱処理による効果はほとんど見られなかった。これは、1350℃より低い温度では、SiO膜3とSiC基板1との界面に、十分な密度の窒素原子が導入されなかったためと考えられる。なお、1700℃以上の温度では、SiO膜表面の熱分解が始まるため、SiO膜の膜質を維持することが困難になる。従って、界面欠陥密度の低減効果を得るためには、Nガス雰囲気中での熱処理(界面窒化処理)は、1350℃~1600℃の温度範囲で行うことが好ましい。
【0057】
図10は、Nガス雰囲気中で熱処理(界面窒化処理)する際の温度を、1350℃、1600℃で、それぞれ行ったときのSiO/SiC界面における窒素原子密度を測定した結果を示したグラフである。なお、測定は、上述したSIMS(二次イオン質量分析法)を用いて行った。
【0058】
図10に示すように、界面窒化処理を1350℃以上の温度で行った場合、SiC基板とSiO膜との界面、及び、SiO膜中に、密度が2×1019cm-3以上の窒素原子が存在している。
【0059】
以上、説明したように、本実施形態におけるSiC半導体素子の製造方法は、SiC基板1の表面を、1200℃以上の温度で、Hガスでエッチングするステップと、SiC基板1上に、Si薄膜2をCVD法により堆積するステップと、Si薄膜2を、SiC基板1を酸化させない温度で熱酸化してSiO膜3を形成すステップと、SiO膜3が形成されたSiC基板1を、1350℃以上の温度で、Nガス雰囲気中で熱処理するステップとを含む。これにより、SiO膜3とSiC基板1との界面における欠陥密度を大幅に低減することができ、高品質で、安定した特性を有するSiO膜3を得ることができる。
【0060】
(他の実施形態)
上記の実施形態において、SiO膜3は、SiC基板1上にSi薄膜2を堆積した後、Si薄膜2を、SiC基板1を酸化させない温度で熱酸化することにより形成した。これにより、SiC基板1の表面は酸化されない。また、SiO膜3を形成した後、界面窒化処理を、高温のNガス雰囲気中での熱処理により行うことによって、SiC基板1の表面が酸化されていない状態を維持することができる。
【0061】
すなわち、SiC基板1の表面を、高温Hガスでエッチングした後、SiC基板1上に、SiC基板1を酸化させない条件で、SiO膜3を形成すれば、その後、SiO膜3が形成されたSiC基板1を、高温のNガス雰囲気中で熱処理することによって、SiO膜3とSiC基板1との界面における欠陥密度を大幅に低減することができる。
【0062】
図11(A)~(C)は、SiC基板上に、SiC基板を酸化させない条件で、SiO膜を形成する他の方法を示した図である。
【0063】
図11(A)に示すように、前処理工程として、SiC基板1の表面を、高温Hガスでエッチングする。Hガスのエッチングは、例えば、H流量:1000sccm、温度:1300℃、圧力:0.1MPa、時間:3分の条件で行うことができる。
【0064】
なお、SiC基板1としては、SiC基板1上にSiCエピタキシャル層(不図示)を形成したものを用いることができる。また、前処理工程の前に、SiCエピタキシャル層の表面を犠牲酸化した後、酸化膜を除去することが好ましい。なお、後述する理由により、Hガスのエッチングは、Si過剰雰囲気下において行うことが好ましい。例えば、Hガスに、0.01~0.1sccm程度の流量のSiHガスを添加すればよい。
【0065】
次に、図11(B)に示すように、SiC基板1上に、プラズマCVD法によりSiO膜4を堆積する。SiO膜4の堆積は、TEOS(テトラエトキシシラン)流量: 0.3sccm、O流量:450sccm、温度:400 ℃、圧力:43Pa、高周波電力:100W、時間:30分等の、SiC基板1が酸化されない条件で行えばよい。
【0066】
なお、SiO膜4の堆積は、熱CVD法を用いて行ってもよい。この場合、SiO膜4の堆積は、SiH流量:5sccm、NO流量:300sccm、N流量:3000sccm、温度:720 ℃、圧力:15kPa、時間:4分等の、SiC基板1が酸化されない条件で行えばよい。
【0067】
ところで、このような条件でSiO膜4を堆積した場合でも、反応ガスにOガスやNOガスが含まれているため、堆積の初期に、SiC基板1の表面がわずかに酸化される場合がある。しかしながら、このような場合でも、図11(A)に示したHガスのエッチングを、Si過剰雰囲気下において行うことによって、SiC基板1の表面に、1~3層程度の極薄Si層が形成されているため、この極薄Si層が酸化されるに止まり、SiC基板1の表面は酸化されない。
【0068】
次に、図11(C)に示すように、SiO膜4が形成されたSiC基板1を、Nガス雰囲気中で熱処理する。熱処理の条件は、例えば、N流量:500sccm、温度:1600℃、圧力:1気圧、時間1分等の条件で行えばよい。
【0069】
(界面欠陥密度のHガスエッチング温度依存性)
図12は、図11(A)~(C)に示した方法でSiO膜4を形成したときの、SiO膜4とSiC基板1との界面における界面欠陥密度のHガスエッチング温度依存性を示したグラフである。なお、測定は、上述したHigh-Low CV法を用いて行った。また、図中のBで示した破線のグラフは、高温Hガスでエッチングしなかった場合(界面窒化処理をNOガスで実施)を示す。
【0070】
図12に示すように、1200℃以上の温度で、界面欠陥密度が大幅に低減されることが分かる。一方、1100℃の温度では、Hガスのエッチングによる効果はほとんど見られない。これは、1100℃の温度では、SiC基板がほとんどエッチングされないためと考えられる。なお、1400℃以上の温度では、Siの融点を超えるため、SiC基板表面の化学組成を正常値に維持することが困難になる。従って、界面欠陥密度の低減効果を得るためには、Hガスのエッチングは、1200℃~1300℃の温度範囲で行うことが好ましい。
【0071】
(界面欠陥密度のNガス熱処理温度依存性)
図13は、SiC基板1の表面にSiO膜4を形成した後、SiC基板1を、Nガス雰囲気中で熱処理(界面窒化処理)する際の温度を、1300℃、1400℃、1450℃、1600℃で、それぞれ行ったときの界面欠陥密度を測定した結果を示したグラフである。なお、測定は、上述したHigh-Low CV法を用いて行った。また、図中のBで示した破線のグラフは、高温Hガスでエッチングを施さなかった場合(界面窒化処理をNOガスで実施)を示す。
【0072】
図13に示すように、1400℃以上の温度で、界面欠陥密度が大幅に低減されることが分かる。一方、1300℃の温度では、Nガス熱処理による効果はほとんど見られなかった。これは、1300℃の温度では、SiO膜3とSiC基板1との界面に、十分な密度の窒素原子が導入されなかったためと考えられる。なお、1700℃以上の温度では、SiO膜表面の熱分解が始まるため、SiO膜の膜質を維持することが困難になる。従って、界面欠陥密度の低減効果を得るためには、Nガス雰囲気中での熱処理(界面窒化処理)は、1350℃~1600℃の温度範囲で行うことが好ましい。
【0073】
(SiO/SiC界面の窒素原子密度)
図14は、SiO膜4とSiC基板1との界面における窒素原子密度を測定した結果を示したグラフである。測定は、上述したSIMS(二次イオン質量分析法)を用いて行った。横軸は、膜厚方向の位置を示し、ゼロがSiO膜4とSiC基板1との界面、プラス側がSiC基板内の位置、マイナス側がSiO膜内の位置を示す。また、縦軸は、窒素原子密度を示す。図中のGで示したグラフは、前処理として、1300℃でHガスエッチングを施し、界面窒化処理として、1600℃でNガスによる熱処理を施した場合を示す。また、Hで示したグラフは、前処理としてHガスエッチングを施さず、界面窒化処理としてNOガスによる熱処理を施した場合を示す。
【0074】
図14に示すように、高温Hガスでエッチングした場合、SiO膜4とSiC基板1との界面に、密度が約2×1021cm-3の窒素原子が存在していた。さらに、SiO膜中にも、約1×1020cm-3以上の密度の窒素原子が分布していた。なお、図14には示していないが、図10に示したのと同様に、1350℃でNガスによる熱処理を施した場合でも、SiO膜中に、約2×1019cm-3以上の密度の窒素原子が分布しているのが確認できた。
【0075】
一方、NOガスで界面を窒化した場合でも、SiO膜4とSiC基板1との界面に、密度が約2×1021cm-3の窒素原子が存在していたが、SiO膜中には、ほとんど窒素原子は分布していなかった。
【0076】
(Si過剰雰囲気下での高温Hエッチング)
上述したように、SiC基板1上に、SiC基板1が酸化されない条件でSiO膜4を堆積した場合でも、反応ガスにOガスやNOガスが含まれているため、堆積の初期に、SiC基板1の表面がわずかに酸化される場合がある。しかしながら、このような場合でも、前処理として行う高温Hガスによるエッチングを、Si過剰雰囲気下で行うことによって、SiC基板1の表面に、1~3層程度の極薄Si層が形成されているため、この極薄Si層が酸化されるに止まり、SiC基板1の表面は酸化されない。
【0077】
図15は、高温Hガスによるエッチングを、Si過剰雰囲気下で行った場合と、Si過剰雰囲気下で行わなかった場合とで、SiO膜4とSiC基板1との界面の欠陥密度の違いを測定した結果を示したグラフである。Jで示したグラフは、Si過剰雰囲気下で行った場合を示し、Kで示したグラフは、Si過剰雰囲気下で行わなかった場合を示すす。
【0078】
ここで、高温Hガスによるエッチングは、H流量:1000sccm、温度:1300℃、圧力:0.1MPa、時間:3分の条件で行った。また、高温Hガスによるエッチングを、Si過剰雰囲気下で行う場合、流量:0.05sccmのSiHガスを添加した。Nガス雰囲気中での熱処理は、N流量:500sccm、温度:1450℃、圧力:1気圧、時間1分の条件で行った。
【0079】
図15に示すように、高温Hガスによるエッチングを、Si過剰雰囲気下で行った場合(グラフJ)、界面欠陥密度は3×1010cm-2eV-1以下に大幅に低減されていた。一方、高温Hガスによるエッチングを、Si過剰雰囲気下で行わなかった場合、この後、最適と考えられる条件でSiO膜を堆積し、高温N処理を施しても、界面欠陥密度は十分に低減されず、高品質界面は得られなかった。これは、SiC基板表面に極薄Si薄膜が形成されていないために、SiO膜を堆積する初期段階で、SiC基板の表面が酸化されたためと考えられる。
【0080】
高温HガスによるエッチングをSi過剰雰囲気下で行った試料について、DLTS法を用いて、SiC基板側に存在する欠陥の種類を解析した結果、SiC結晶の酸化により発生する欠陥(図3及び図4に示した矢印N1~N3、P1の欠陥)は観察されなかった。一方、 高温HガスによるエッチングをSi過剰雰囲気下で行わなかった試料については、SiC基板側に、SiC結晶の酸化により発生する欠陥が観察された。これは、SiC基板1上に、SiC基板1が酸化されないと考えられる条件でSiO膜4を堆積しても、SiC基板1の表面が酸化されていることを意味する。
【0081】
以上、説明したように、本実施形態におけるSiC半導体素子の製造方法は、SiC基板1の表面を、Si過剰雰囲気下において、1200℃以上の温度で、Hガスでエッチングするステップと、SiC基板1上に、CVD法によりSiO膜4を形成するステップと、SiO膜4が形成されたSiC基板1を、1350℃以上の温度で、Nガス雰囲気中で熱処理するステップとを含む。これにより、SiO膜4とSiC基板1との界面における欠陥密度を大幅に低減することができ、高品質で、安定した特性を有するSiO膜3を得ることができる。
【0082】
(SiC半導体素子)
本実施形態の製造方法により形成したSiO膜をゲート絶縁膜として、SiC半導体素子(SiC MOSFET)を構成することができる。このようなSiC半導体素子において、SiC基板とSiO膜との界面、及び、SiO膜中に、密度が2×1019cm-3以上の窒素原子が存在している。
【0083】
また、伝導帯端より0.3eV低いエネルギー近傍におけるSiC基板とSiO膜との界面欠陥密度が、3×1010cm-2eV-1以下である。
【0084】
また、SiC基板側に存在する点欠陥において、伝導帯端より1.0eV低いエネルギーにおける点欠陥密度、及び価電子帯端より0.7eV高いエネルギーにおける点欠陥密度が、それぞれ、5×1011cm-3以下である。
【0085】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、もちろん、種々の改変が可能である。例えば、上記実施形態では、SiC基板の表面にSiCエピタキシャル層を形成し、SiCエピタキシャル層上に、SiO膜を形成したが、SiC基板上に直接SiO膜を形成してもよい。
【0086】
また、上記実施形態では、表面を犠牲酸化した後に、酸化膜を除去したSiC基板を用いたが、犠牲酸化を施さなかったSiC基板にも、本発明の製造方法を適用することができる。
【符号の説明】
【0087】
1 SiC基板
2 Si薄膜
3、4 SiO
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15