(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】RFタグ
(51)【国際特許分類】
G06K 19/077 20060101AFI20240105BHJP
H01Q 1/42 20060101ALI20240105BHJP
H01Q 1/40 20060101ALI20240105BHJP
H01Q 7/00 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
G06K19/077 248
G06K19/077 272
G06K19/077 144
H01Q1/42
H01Q1/40
H01Q7/00
(21)【出願番号】P 2022562079
(86)(22)【出願日】2022-04-28
(86)【国際出願番号】 JP2022019276
【審査請求日】2022-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】591020445
【氏名又は名称】立山科学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】本田 憲市
(72)【発明者】
【氏名】比嘉 匠
(72)【発明者】
【氏名】仲俣 裕喜
【審査官】小林 紀和
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-517407(JP,A)
【文献】特開2018-073267(JP,A)
【文献】国際公開第2016/170752(WO,A1)
【文献】特許第7024149(JP,B1)
【文献】特開平9-181520(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06K 19/077
H01Q 1/42
H01Q 1/40
H01Q 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波によりデータを送受信可能なRFタグであって、
誘電体により形成された板状基材と、
前記板状基材の一以上の面に形成されたループ状の導電パターンと、
前記導電パターンの第1端と第2端との間に設けられており、前記データが記憶されており、前記データを電波により送受信する回路を有する半導体デバイスと、
前記板状基材の上面における前記導電パターンの上方において、
前記導電パターンとの間に空隙がない状態で前記導電パターンの少なくとも一部を覆い、前記板状基材の誘電率よりも高い第1誘電率の第1カバー部材と、
を有し、
外部誘電体が前記RFタグに近づくことによって共振周波数が低い側にシフトしつつゲインが上昇し、かつ、前記外部誘電体が前記RFタグに接触している場合の共振周波数が、前記外部誘電体が前記RFタグに接触していない状態の共振周波数に比べて低くなるとともに、前記外部誘電体が前記RFタグに接触している場合のゲインが、前記外部誘電体が前記RFタグに接触していない状態でのゲインよりも大きい特性を有し、前記導電パターンの前記板状基材の下面における面積は前記板状基材の上面における面積以上であり、
前記第1カバー部材は、前記導電パターンにおける、前記RFタグの中心位置に対して、前記板状基材の上面の前記導電パターンと前記板状基材の下面の前記導電パターンとの接続位置から遠い領域の少なくとも一部を覆う、RFタグ。
【請求項2】
前記第1カバー部材は、前記板状基材の上面の前記導電パターンのうち50%以上の領域を覆う、
請求項1に記載のRFタグ。
【請求項3】
前記第1カバー部材は、前記板状基材の側面及び下面における前記導電パターンをさらに覆う、
請求項
1又は2に記載のRFタグ。
【請求項4】
前記上面の導電パターンの少なくとも一部の領域及び半導体デバイスと前記第1カバー部材との間に、前記第1誘電率よりも低い第2誘電率の中間層をさらに有する、
請求項
1又は2に記載のRFタグ。
【請求項5】
前記上面の導電パターンの少なくとも一部の領域及び前記半導体デバイスと前記第1カバー部材との間に空隙を有する、
請求項
1又は2に記載のRFタグ。
【請求項6】
前記第1カバー部材を覆う、前記第1誘電率よりも高い第3誘電率の第2カバー部材をさらに有する、
請求項
1又は2に記載のRFタグ。
【請求項7】
前記第2カバー部材においては、前記第3誘電率の複数の板状部材が積み重ねられている、
請求項6に記載のRFタグ。
【請求項8】
前記第1カバー部材においては、前記第1誘電率の複数の板状部材が積み重ねられている、
請求項
1又は2に記載のRFタグ。
【請求項9】
前記第1カバー部材が前記板状基材の前記上面を覆う面積は、前記板状基材の前記上面の面積の50%以上である、
請求項
1又は2に記載のRFタグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RFタグに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、導体に取り付けられた状態で使用されることが想定されたRFタグが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたRFタグは、導電層とアンテナとの間に誘電体が設けられており、導電層に生じる面内伝播波を誘電体がアンテナと電磁的に結合することで、アンテナのゲインを増強させている。従来のRFタグの導電層は、括れ部から離れるほど幅広となる一対のテーパ部を有する多数の2軸対象構造により構成されており、十分に大きなアンテナのゲインを確保するためには、広い面積の導電層が必要になり、RFタグが大きくなるという問題があった。
【0005】
RFタグを小型化するために導電層の面積を小さくすると、RFタグのゲインが小さくなってしまうとともに、外部の誘電体が近づくことにより共振周波数が大きく変動してしまうという問題があった。そこで、RFタグを小型化にしつつ、共振周波数の変動を抑制することが求められていた。
【0006】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、RFタグの共振周波数の変動を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のRFタグは、電波によりデータを送受信可能なRFタグであって、誘電体により形成された板状基材と、前記板状基材の一以上の面に形成されたループ状の導電パターンと、前記導電パターンの第1端と第2端との間に設けられており、前記データが記憶されており、前記データを電波により送受信する回路を有する半導体デバイスと、前記板状基材の上面における前記導電パターンの上方において、前記導電パターンの少なくとも一部を覆い、前記板状基材の誘電率よりも高い第1誘電率の第1カバー部材と、を有し、外部誘電体が前記RFタグに近づくことによって共振周波数が低い側にシフトしつつゲインが上昇し、かつ、前記外部誘電体が前記RFタグに接触している場合の共振周波数が、前記外部誘電体が前記RFタグに接触していない状態の共振周波数に比べて低くなるとともに、前記外部誘電体が前記RFタグに接触している場合のゲインが、前記外部誘電体が前記RFタグに接触していない状態でのゲインよりも大きい特性を有し、前記導電パターンの前記板状基材の下面における面積は前記板状基材の上面における面積以上である。
【0008】
前記第1カバー部材は、前記板状基材の上面の前記導電パターンのうち50%以上の領域を覆ってもよい。前記第1カバー部材は、前記導電パターンにおける、前記RFタグの中心位置に対して、前記板状基材の上面の前記導電パターンと前記板状基材の下面の前記導電パターンとの接続位置から遠い領域の少なくとも一部を覆ってもよい。前記第1カバー部材は、前記板状基材の側面及び下面における前記導電パターンをさらに覆ってもよい。
【0009】
前記RFタグは、前記上面の導電パターンの少なくとも一部の領域及び半導体デバイスと前記第1カバー部材との間に、前記第1誘電率よりも低い第2誘電率の中間層をさらに有してもよい。
【0010】
前記RFタグは、前記上面の導電パターンの少なくとも一部の領域及び前記半導体デバイスと前記第1カバー部材との間に空隙を有してもよい。
【0011】
前記RFタグは、前記第1カバー部材を覆う、前記第1誘電率よりも高い第3誘電率の第2カバー部材をさらに有してもよい。前記第2カバー部材においては、前記第3誘電率の複数の板状部材が積み重ねられていてもよい。
【0012】
前記第1カバー部材においては、前記第1誘電率の複数の板状部材が積み重ねられていてもよい。
【0013】
前記第1カバー部材が前記板状基材の前記上面を覆う面積は、前記板状基材の前記上面の面積の50%以上であってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、RFタグの共振周波数の変動を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】RFタグ1の概要を説明するための図である。
【
図3】RFタグ1の一例であるRFタグ1aの断面図を示す図である。
【
図4】RFタグ1の他の例であるRFタグ1bの断面図を示す図である。
【
図5】RFタグ1の他の例であるRFタグ1cの断面図を示す図である。
【
図6】RFタグ1aに板状の第2カバー部材16を重ねた実施例であるRFタグ1dの構成と周波数特性を示す図である。
【
図7】他の実施例であるRFタグ1eの構成と周波数特性を示す図である。
【
図8】さらに他の実施例であるRFタグ1fの構成と周波数特性を示す図である。
【
図9】他の実施例であるRFタグ1g及びRFタグ1hの構成と周波数特性を示す図である。
【
図10】他の実施例であるRFタグ1j及びRFタグ1kの構成と周波数特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[RFタグ1の概要]
図1は、RFタグ1の概要を説明するための図である。RFタグ1は、電波によりデータを送受信可能なデバイスである。RFタグ1は、導体2に取り付けられた状態で、リーダライタ3から送信された電波W1を受信することにより発生した電力により動作する。RFタグ1は、内蔵する半導体デバイスに記憶されたデータが重畳された電波W2を放射する。
【0017】
導体2は、電流を流すことができる物体であり、例えば金属である。導体2は金属に限定されるものではなく、電流を流すことができる物質を含む木又は樹脂であってもよい。さらに、導体2におけるRFタグ1の取り付け方向の厚みは任意であり、電流を流すことができる金属箔であってもよい。
【0018】
RFタグ1と導体2とは静電容量的に結合しているため、RFタグ1が発生した電波W2は、導体2を介しても放射される。その結果、RFタグ1が放射した電波W2を受信しにくい位置にリーダライタ3が存在していても、リーダライタ3は導体2を介して電波W2を受信することで、RFタグ1に記憶されたデータを取得することができる。
【0019】
RFタグ1は、本体と、本体の少なくとも一部を覆うように設けられたカバー部材とを有する。カバー部材の誘電率は、本体に含まれている板状基材の誘電率よりも高い。RFタグ1がこのようなカバー部材を有することで、外部からRFタグ1に誘電体が近づいた場合にRFタグ1の共振周波数の変動量を抑制することができる。なお、本明細書における「誘電率」は、複数の材料が混合された状態で測定された誘電率、材料が空隙を含む状態で測定された誘電率(すなわち見かけ上の誘電率)も含まれる。
【0020】
図2は、RFタグ1の本体の構成を示す図である。RFタグ1の本体は、RFタグ1におけるカバー部材を除く部分である。
図2(a)はRFタグ1の斜視図である。
図2(b)はRFタグ1の上面図である。
図2(c)はRFタグ1の下面図である。RFタグ1の本体は、板状基材11と、導電パターン12と、半導体デバイス13と、を有する。
図2に示す導電パターン12の形状は一例であり、後述するようにRFタグ1の導電パターン12の形状は任意である。
【0021】
図2には示していないが、導電パターン12及び半導体デバイス13は、シート状の誘電体部材(例えばフレキシブル基板)に設けられた状態で、シート状の誘電体部材と一体になって板状基材11に固定されていてもよい。この場合、シート状の誘電体部材が板状基材11に接しており、導電パターン12及び半導体デバイス13が板状基材11に接していなくてもよく、シート状の誘電体部材と板状基材11との間に、導電パターン12及び半導体デバイス13が設けられるように構成されていてもよい。
【0022】
導電パターン12は、板状基材11の一以上の面にループ状に形成されている。導電パターン12は、上面導電パターン12aと、下面導電パターン12bと、接続導電パターン12cと、を有する。導電パターン12は、
図2に示すようにRFタグ1の上面において上面導電パターン12aによりループが形成されていてもよいが、RFタグ1の上面と接続面にわたる導電パターンによりループが形成されていてもよく、RFタグ1の上面、接続面及び下面にわたる導電パターンによりループが形成されていてもよい。導電パターン12により形成されるループは、導電パターン12に囲まれた領域の50%以上が一つの面(例えば上面)に形成されていてもよい。
【0023】
板状基材11は、誘電体により形成されている。
図2に示す例では板状基材11の上面及び下面が長方形であるが、板状基材11の上面及び下面の形状は長方形以外の多角形、長円形又は楕円形であってもよい。
【0024】
上面導電パターン12aは、板状基材11の上面に形成されたループ状の導電性のパターンである。上面導電パターン12aが形成するループの内側においては板状基材11が露出している。上面導電パターン12aにより形成されるループの一部には、導電性のパターンが形成されていない領域があり、当該領域に半導体デバイス13が設けられている。
【0025】
下面導電パターン12bは、板状基材11の下面に形成された導電性のパターンである。下面導電パターン12bは、例えば長方形状である。下面導電パターン12bの面積は上面導電パターン12aの面積以上であり、板状基材11の下面の面積よりも小さい。
【0026】
接続導電パターン12cは、上面導電パターン12aと下面導電パターン12bとを接続する導電性のパターンである。接続導電パターン12cは、上面導電パターン12aの一部の領域を起点として、板状基材11の側面を経由して下面導電パターン12bの一部の領域を終点とするように構成されている。
図2に示す例において、接続導電パターン12cは、上面導電パターン12aの一端と、半導体デバイス13と、上面導電パターン12aの他端と、を通り、板状基材11の長手方向に平行な直線上の位置で上面導電パターン12aと接続されている。
【0027】
半導体デバイス13は、リーダライタ3に送信するデータを記憶するメモリを有する。半導体デバイス13は、導電パターン12における第1端と第2端との間に設けられている。
図2に示す例において、半導体デバイス13は、上面導電パターン12aの一端と他端との間に設けられている。具体的には、半導体デバイス13は、上面導電パターン12aにおける板状基材11の長手方向に延びる領域における一端と他端との間に設けられている。
【0028】
また、半導体デバイス13は、メモリに記憶しているデータを電波により送受信する回路を有する。半導体デバイス13は、共振周波数を調整するための複数のキャパシタを内蔵していてもよく、この場合、上面導電パターン12aの一端と他端との間に接続する一以上のキャパシタを切り替えることで、上面導電パターン12aの一端と他端との間のキャパシタンスを調整することにより、共振周波数を調整することができる。半導体デバイス13は、例えば、受信した電波の強度が最大になるようにキャパシタンスを調整する。
【0029】
RFタグ1のインダクタンスをL、キャパシタンスをCとすると、共振周波数fは1/(2π√(LC))により表される。半導体デバイス13のキャパシタンスを調整することにより共振周波数をできるだけ大きく変化させるには、半導体デバイス13が設けられていない状態でのRFタグ1のキャパシタンスをできるだけ小さくすることが望ましい。したがって、RFタグ1のインダクタンスを大きくするべく、導電パターン12におけるループが下面導電パターン12bと重なる面積が、板状基材11の上面の面積の50%以上であることが望ましい。
【0030】
ところで、RFタグ1がリーダライタ3と通信可能な電波の周波数帯域は所定の範囲内に定められているので、RFタグ1の周囲の状況によってRFタグ1の共振周波数が変動することは好ましくない。そこで、RFタグ1には、板状基材11の誘電率よりも大きな誘電率のカバー部材が設けられている。板状基材11の誘電率は、例えば板状基材11を構成する板状誘電体の誘電率である。
【0031】
図3は、RFタグ1の一例であるRFタグ1aの断面図を示す図である。
図3に示す断面図は、
図2(b)のA-A線における断面図である。
図3に示すように、RFタグ1aは第1カバー部材14をさらに有する。第1カバー部材14は、RFタグ1aの上面における導電パターン12の上方において、導電パターン12の少なくとも一部を覆うように設けられている。第1カバー部材14の厚みは、例えば100μm以上である。
【0032】
第1カバー部材14は、例えば、板状基材11の上面の全ての領域を覆うが、板状基材11の上面の導電パターン12の50%以上の領域を覆っていてもよい。第1カバー部材14は、板状基材11の上面の全ての領域は覆っておらず、導電パターン12が形成するループの少なくとも一部の領域を覆っていてもよい。導電パターン12が形成するループの少なくとも一部の領域を覆うとは、導電パターン12における、導電パターン12により囲まれた領域に接する領域の少なくとも一部を覆うということである。第1カバー部材14は、導電パターン12及び半導体デバイス13により囲まれた領域と、導電パターン12における当該領域に接する領域とを覆っていてもよい。
【0033】
第1カバー部材14が板状基材11の上面を覆う面積は、板状基材11の上面の面積の50%以上であることが望ましい。また、
図3に示すように、第1カバー部材14は、板状基材11の側面及び下面における導電パターン12の少なくとも一部の領域をさらに覆ってもよい。
【0034】
上述のとおり、第1カバー部材14の誘電率(以下、「第1誘電率」という)は、板状基材11の誘電率よりも高い。第1誘電率は例えば2以上10以下である。第1カバー部材14の材料としては、ガラス、アクリル樹脂、アクリルニトリル樹脂、アセタール樹脂、セルロース樹脂、アニリン樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、エチレン樹脂、エポキシ樹脂、ビニル樹脂、ビニリデン樹脂、カゼイン樹脂、天然・合成ゴム、ポリブチラール樹脂、ユリア(尿素)樹脂、ビニルホルマール樹脂、フッ素樹脂、フラン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、メラミン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリウレタン樹脂・ゴム、シリコン樹脂・ゴム、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ジアレルフタレート樹脂、スチレン樹脂、スチロール樹脂、セルロイド、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリメチルペンテン樹脂などがあげられる。
【0035】
第1カバー部材14は、これらの複数の材料のいずれか1つの材料により構成されていてもよく、2つ以上の材料により構成されていてもよい。また、第1カバー部材14は、ガラス又はセラミックスなどの高誘電体材料の粉末を含有する樹脂であってもよい。詳細については、実験データを参照しながら後述するが、RFタグ1aがこのような第1カバー部材14を有することで、RFタグ1aが第1カバー部材14を有していない場合に比べて、外部から誘導体がRFタグ1に近づいた場合にRFタグ1aのリアクタンスが変化する量が小さくなるので、共振周波数の変動量が小さくなる。
【0036】
なお、
図3に示す第1カバー部材14は、板状基材11の上面、側面及び下面のそれぞれの位置における厚みが同等であるが、下面側における厚みが上面における厚みよりも小さくてもよい。また、板状基材11の上面側の第1カバー部材14の材料と板状基材11の側面又は下面側の第1カバー部材14の材料とが異なっていてもよい。
【0037】
また、第1カバー部材14と上面導電パターン12aとの間、又は第1カバー部材14と半導体デバイス13との間に空隙(例えば凹部)が形成されていてもよい。このような空隙が形成されていることで、RFタグ1が折り曲げられた場合に上面導電パターン12a又は半導体デバイス13に加わるストレスを軽減することができる。
【0038】
また、第1カバー部材14においては、第1誘電率の複数の板状部材が積み重ねられていてもよい。板状部材は、例えば板状基材11よりも薄い部材である。第1カバー部材14がこのように構成されている場合、積み重ねる板状部材の枚数を変えることにより、第1カバー部材14に起因するRFタグ1aのリアクタンスを容易に変化させることができるので、RFタグ1の特性を調整しやすくなる。
【0039】
図4は、RFタグ1の他の例であるRFタグ1bの断面図を示す図である。RFタグ1bは、上面導電パターン12aの少なくとも一部及び半導体デバイス13と第1カバー部材14との間に、第1誘電率よりも低い第2誘電率の中間層15をさらに有するという点でRFタグ1aと異なり、他の点で同じである。中間層15は、例えば固体であるが、気体であってもよい。また、RFタグ1bは、中間層15の代わりに、又は中間層15とともに、上面導電パターン12aの少なくとも一部及び半導体デバイス13と第1カバー部材14との間に、空隙を有していてもよい。
【0040】
なお、
図4に示す構造において、中間層15の誘電率が板状基材11の誘電率よりも高く、中間層15の誘電率が第1カバー部材14の誘電率よりも高くてもよい。この場合、中間層15が、板状基材11の上面における導電パターンの上方において、導電パターン12が形成するループの少なくとも一部を覆い、板状基材11の誘電率よりも高い第1カバー部材として機能する。
【0041】
図5は、RFタグ1の他の例であるRFタグ1cの断面図を示す図である。RFタグ1cは、第1カバー部材14を覆う、第1誘電率よりも高い第3誘電率の第2カバー部材16をさらに有する。第2カバー部材16においては、第3誘電率の複数の板状部材が積み重ねられていてもよい。
図5に示す第2カバー部材16は、板状基材11の上面側及び側面側を覆うように設けられているが、第2カバー部材16が板状基材11の上面側の50%以上の領域のみを覆うように構成されていてもよい。RFタグ1cは、第1カバー部材14と第2カバー部材16との間に空隙を有していてもよい。
【0042】
図5に示す構造において、中間層15の誘電率が板状基材11の誘電率よりも高く、中間層15の誘電率が第1カバー部材14の誘電率よりも高くてもよい。さらに、第2カバー部材16の誘電率が中間層15の誘電率よりも高くてもよい。
【0043】
[周波数特性の比較]
以下、複数種類のRFタグ1の周波数特性を参照しながら、RFタグ1による効果を説明する。
図6は、RFタグ1aに板状の第2カバー部材16を重ねた実施例であるRFタグ1dの構成と周波数特性を示す図である。
【0044】
図6(a)に示すRFタグ1dの板状基材11は誘電率が1.7であり、第1カバー部材14は、誘電率が3.9の誘電体である。第1カバー部材14は、厚みが2mmのガラスフィラーを含むPPS(ポリフェニレンフェニレンサルファイド)樹脂である。第2カバー部材16は、誘電率が7.1で厚みが1mmのガラス板により構成されている。第2カバー部材16を構成するガラス板の枚数を変えながら、ガラス板の枚数がそれぞれ異なるRFタグ1dの周波数特性を測定した。
【0045】
図6(b)は、RFタグ1dの周波数特性を示す図である。
図6(b)における横軸は周波数であり、縦軸はRFタグ1dがリーダライタ3との間で通信が可能な距離である。
図6(b)においては、RFタグ1dが第2カバー部材16を有していない場合、及び第2カバー部材16が有するガラス板が1枚、2枚、3枚、4枚、5枚である場合の周波数特性が示されている。
【0046】
本願の発明者等は、
図6(b)に示すように、第2カバー部材16が有するガラス板の枚数が増加することにより、共振周波数が低い側にシフトしつつゲインが上昇することを見出した。そして、ガラス板の枚数が増加するにつれて、共振周波数が低い側にシフトする幅が小さくなり、ガラス板の枚数が4枚から5枚に増加したことによる共振周波数の変化は微小であることを発見した。
【0047】
本願の発明者等は、この原理を利用することで、RFタグ1dが、板状基材11よりも誘電率が高いカバー部材を有することで、外部から誘電体が近づいた場合の共振周波数の変動量が、RFタグ1dがカバー部材を有しない場合に、外部から誘電体が近づいた場合の共振周波数の変動量よりも小さくできることを見出した。
【0048】
具体的には、
図6(b)に示す例において、RFタグ1dが第2カバー部材16を有しない場合(誘電体なし)の共振周波数は約930MHzであり、外部から誘電体が近づいた場合(「ガラス板5枚」に相当)の共振周波数は約910MHzなので、共振周波数が約20MHz変動する。これに対して、通信帯域を910~920MHzに設定し、RFタグ1dが2枚又は3枚のガラス板が積層された第2カバー部材16を有する場合、外部からの誘電体が近づいた場合の共振周波数の変動量が0~10MHzに抑えられる。しかも、外部誘電体がRFタグ1に近づくことによりゲインが上昇して通信性能が向上するということも確認できた。
【0049】
すなわち、RFタグ1は、外部誘電体がRFタグ1に近づくことによって共振周波数が低い側にシフトしつつゲインが上昇し、かつ、外部誘電体がRFタグ1に接触している場合の共振周波数が、外部誘電体が接触していない状態の共振周波数に比べて低くなるとともに、外部誘電体がRFタグ1に接触している場合のゲインが、外部誘電体がRFタグ1に接触していない状態でのゲインよりも大きい特性を有する。
【0050】
図6(a)に示すRFタグ1dは、第1カバー部材14及び第2カバー部材16の両方を有しているが、上記の原理を考慮すれば、RFタグ1が、RFタグ1の本体の少なくとも一部を覆うカバー部材を有することで、共振周波数の変動量を小さくすることができるということを理解できよう。
【0051】
図7は、他の実施例であるRFタグ1eの構成と周波数特性を示す図である。
図7(a)に示すRFタグ1eの平面図が示すように、RFタグ1eは、導電パターン12の形状がRFタグ1dと異なる。RFタグ1eの導電パターン12は、板状基材11の上面だけではループが形成されておらず、上面、側面及び下面の全体でループが形成されている。すなわち、上面導電パターン12a-1及び上面導電パターン12a-2のそれぞれが、側面を経由して下面の下面導電パターン12bと接続されていることでループが形成されている。
【0052】
RFタグ1eの板状基材11は、誘電率が1.8の材料により形成されている。第1カバー部材14は、厚み0.3mmで誘電率が2.8の工業用塩化ビニルにより構成されている。第1カバー部材14の断面形状は、
図6(a)に示したRFタグ1dの断面形状と同等であり、第2カバー部材16は、誘電率が7.1で厚みが1mmのガラス板により構成されている。
【0053】
図7(b)が示すように、RFタグ1eの周波数特性の傾向は、
図6(b)に示したRFタグ1dの周波数特性の傾向と同等であった。すなわち、ガラス板の枚数が増えるにつれて共振周波数が低い側にシフトするとともに、通信距離が長くなった。この結果から、導電パターン12の形状によらず、板状基材11の誘電率よりも高い誘電体が導電パターン12を覆うように設けられていることで、共振周波数の変動を抑制できるという効果が生じることを確認できた。なお、RFタグ1eが有する半導体デバイス13は、受信した電波の強度が最大になるようにキャパシタンスを調整する機能を有しているため、比較的広い周波数範囲において、通信距離が最大値付近になっている。後述するRFタグ1f~RFタグ1kについても同様である。
【0054】
図8は、さらに他の実施例であるRFタグ1fの構成と周波数特性を示す図である。
図8(a)の平面図が示すように、RFタグ1fは、導電パターン12の形状がRFタグ1eに類似しているが、ループ径(すなわち導電パターン12に囲まれた領域の大きさ)と上面導電パターン12a-1の面積がRFタグ1eよりも大きい。また、板状基材11の誘電率は1.1である。その他の点では、RFタグ1fはRFタグ1eと同等である。
【0055】
図8(b)に示すように、RFタグ1fの周波数特性の傾向は、
図6(b)に示したRFタグ1dの周波数特性の傾向と同等であった。RFタグ1fが有する半導体デバイス13も、受信した電波の強度が最大になるようにキャパシタンスを調整する機能を有しているため、比較的広い周波数範囲において通信距離が最大値付近になっている。しかしながら、第2カバー部材16が有するガラス板の枚数が増加するにつれて、共振周波数幅の変動量と通信距離の増加量がRFタグ1d及びRFタグ1eよりも大きいという点で異なる。これは、板状基材11の上面に形成された下面導電パターン12bの面積に対する上面導電パターン12a-1の面積の比が大きいことに起因すると考えられる。
【0056】
このことから、通信可能距離を大きくするためには、下面導電パターン12bの面積に対する上面導電パターン12aの面積が大きいことが望ましいと考えられる。具体的には、下面導電パターン12bの面積に対する上面導電パターン12aの面積が50%以上であることが望ましく、下面導電パターン12bの面積に対する上面導電パターン12aの面積が80%以上であることがさらに望ましい。
【0057】
一方、
図8(b)に示すRFタグ1fは、
図6(b)に示したRFタグ1dに比べて、誘電体の厚みの変化に伴う共振周波数の変動幅が大きい。このことから、共振周波数の変動幅が大き過ぎると、製造時の歩留まりが低下する可能性があるので、下面導電パターン12bの面積に対する上面導電パターン12aの面積が80%以下であることが望ましいという場合もある。下面導電パターン12bの面積に対する上面導電パターン12aの面積の比は、RFタグ1の要求仕様によって決定すればよいが、通信可能距離と歩留まりを適切な範囲にするために、下面導電パターン12bの面積に対する上面導電パターン12aの面積の比は、例えば50%以上80%以下であることが望ましい。
【0058】
図9は、他の実施例であるRFタグ1g及びRFタグ1hの構成と周波数特性を示す図である。
図9(a)に示すRFタグ1gの平面図、及び
図9(b)に示すRFタグ1hの平面図が示すように、RFタグ1g及びRFタグ1hは、導電パターン12の形状が
図2(b)に示したRFタグ1と同じであるが、第1カバー部材14の大きさ及び位置が異なっている。
【0059】
RFタグ1gにおいては、上面の導電パターン12aが下面の導電パターン12bと接続されている側(左側)に第1カバー部材14が設けられており、RFタグ1hにおいては、上面の導電パターン12aが下面の導電パターン12bと接続されている側と反対側(右側)に第1カバー部材14が設けられている。
【0060】
図9(c)は、第1カバー部材14(誘電体)が設けられていないRFタグ1の本体、RFタグ1g、及びRFタグ1hの周波数特性を示す図である。
図9(c)に示すように、RFタグ1hの方が、第1カバー部材14を設けることによる共振周波数の変化量が大きい。したがって、外部誘電体がRFタグ1hに近づいたり接触したりした場合の共振周波数の変動量は、外部誘電体がRFタグ1gに近づいたり接触したりした場合の共振周波数の変動量よりも小さいと考えられる。
【0061】
この結果は、上面の導電パターン12aと下面の導電パターン12bとの接続位置の付近では上面と下面との電位差が小さいのに対して、接続位置から離れるにつれて電位差が大きくなり、第1カバー部材14によるリアクタンスの変化の影響を受けやすいからであると考えられる。このことから、第1カバー部材14がRFタグ1の中心位置に対して上面の導電パターン12aと下面の導電パターン12bとの接続位置よりも遠い領域に設けられていることで、RFタグ1の共振周波数を低くすることができ、外部誘導体の影響を受けにくくなるということがわかる。第1カバー部材14が接続位置よりも遠い領域を覆うように、第1カバー部材14は、板状基材11の上面の導電パターン12のうち50%以上の領域を覆うように構成されていてもよい。
【0062】
図10は、他の実施例であるRFタグ1j及びRFタグ1kの構成と周波数特性を示す図である。
図10(a)に示すRFタグ1jにおいては、導電パターン12が形成するループ状の領域に第1カバー部材14が設けられている。
図10(b)に示すRFタグ1kにおいては、導電パターン12が形成するループ状の領域を含まず、上面の導電パターン12aと下面の導電パターン12bとの接続位置から最も領域に第1カバー部材が設けられている。
【0063】
図10(c)の周波数特性が示すように、RFタグ1kにおいては、第1カバー部材14が導電パターン12a-1の一部の領域しか覆っていないにもかかわらず、共振周波数が低い側に大きくシフトしている。このことから、第1カバー部材14が上面の導電パターン12aの少なくとも一部を覆っていることにより、RFタグ1が外部誘電体の影響を受けにくくなるということを確認できた。
【0064】
[RFタグ1による効果]
以上説明した通り、RFタグ1は、板状基材11の一以上の面に形成されたループ状の導電パターン12と、導電パターン12の第1端と第2端との間に設けられた半導体デバイスと、板状基材11の上面における導電パターン12の上方において、導電パターン12が形成するループの少なくとも一部を覆い、板状基材11の誘電率よりも高い誘電率の第1カバー部材14と、を有する。RFタグ1が、板状基材11の誘電率よりも高い誘電率の第1カバー部材14を有することで、RFタグ1が第1カバー部材14を有していない場合に比べて共振周波数が低くなり、外部から誘電体が近づいてきた状態での共振周波数に近くなる。その結果、RFタグ1は、外部から誘導体が近づいたり誘電体がRFタグ1に接触したりしても、共振周波数が変動しづらくなる。
【0065】
さらに、RFタグ1が、板状基材11の誘電率よりも高い誘電率の第1カバー部材14を有することで、共振周波数が低くなりつつゲインが大きくなるので、RFタグ1を小型化してもゲインの低下を抑制することができる。また、第1カバー部材14の材料又は厚みを調整することで、共振周波数を容易に調整することができるので、RFタグ1に求められる共振周波数に合わせた設計をしやすいという効果も生じる。
【0066】
以上、実施の形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0067】
1 RFタグ
2 導体
3 リーダライタ
11 板状基材
12 導電パターン
12a 上面導電パターン
12b 下面導電パターン
12c 接続導電パターン
13 半導体デバイス
14 第1カバー部材
15 中間層
16 第2カバー部材
【要約】
RFタグ1は、電波によりデータを送受信可能なRFタグであって、誘電体により形成された板状基材11と、板状基材11の一以上の面に形成されたループ状の導電パターン12と、導電パターン12の第1端と第2端との間に設けられており、上記のデータが記憶されており、当該データを電波により送受信する回路を有する半導体デバイス13と、板状基材11の上面における導電パターン12の上方において、導電パターン12の少なくとも一部を覆い、板状基材11の誘電率よりも高い第1誘電率の第1カバー部材14と、を有し、外部誘電体がRFタグ1に近づくことによって共振周波数が低い側にシフトしつつゲインが上昇する特性を有し、導電パターン12の板状基材11の下面における面積は板状基材11の上面における面積以上である。