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特許7412827樹脂粒子組成物、検査キット、及び樹脂粒子組成物の製造方法
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  • 特許-樹脂粒子組成物、検査キット、及び樹脂粒子組成物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】樹脂粒子組成物、検査キット、及び樹脂粒子組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/18 20060101AFI20240105BHJP
   C08F 2/22 20060101ALI20240105BHJP
   B01J 13/14 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
C08F2/18
C08F2/22
B01J13/14
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023127972
(22)【出願日】2023-08-04
【審査請求日】2023-08-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000105877
【氏名又は名称】サイデン化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金台 修一
(72)【発明者】
【氏名】木島 健二
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/110638(WO,A1)
【文献】特表2019-506418(JP,A)
【文献】特開2017-080651(JP,A)
【文献】特開2020-163320(JP,A)
【文献】特開平11-197494(JP,A)
【文献】RANGAPPA D.,Preparatopn of aqueousdispersible styrene-maleic amide encapsulated CoAl2O4 nanocyrstals using supercritical water flow type apparatus,Materials Research Innovations,2012年,Vol.16,No.1,p.30-37
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F、B01J3、13、19
A61K9、C08J3
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標識物質を内包する樹脂粒子を含む樹脂粒子組成物であって、
前記標識物質と重合性単量体を亜臨界水で混合することで混合物を生成する工程と、
前記混合物と乳化剤を混合及び冷却することで単量体粒子分散液を生成する工程と、
前記単量体粒子分散液と架橋性単量体との重合反応を行い、前記樹脂粒子を生成する工程と、を含む方法によって製造され、
前記重合性単量体は、芳香族系単量体、炭素数1~18のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート類及びシクロアルキル(メタ)アクリレート類の少なくともいずれか、及び官能基を有するアルキル(メタ)アクリレートの少なくともいずれかを含み、
前記樹脂粒子は、全重合性単量体100質量%に対して、40~95質量%の前記芳香族系単量体及び/又は前記炭素数1~18のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート類及び前記シクロアルキル(メタ)アクリレート類の少なくともいずれか、0~10質量%の前記官能基を有するアルキル(メタ)アクリレート、及び5~60質量%の前記架橋性単量体を構成単位として含み、
前記標識物質が、蛍光色素と凝集誘起発光性色素の少なくともいずれかを含み、
前記芳香族系単量体は、スチレン、メチルスチレン、クロロスチレン、メトキシスチレン、α-メチルスチレン、P-ニトロスチレン、エチルビニルベンゼン、ビニルナフタレン、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、フェニルエチルアクリレート、フェニルエチルメタクリレート、フェニルプロピルアクリレート、フェニルプロピルメタクリレート、フェニルノニルアクリレート、フェニルノニルメタクリレートからなる群から選択された1種以上であり、
前記官能基は、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、及びアミド基の少なくともいずれかを含む、
樹脂粒子組成物。
【請求項2】
前記樹脂粒子は、全重合性単量体100質量%に対して、前記標識物質0.1~15質量%を含む、
請求項1に記載の樹脂粒子組成物。
【請求項3】
前記樹脂粒子の平均粒子径は、50~500nmである、
ここで、前記平均粒子径は動的光散乱法によって測定される、
請求項1に記載の樹脂粒子組成物。
【請求項4】
前記架橋性単量体は、アリルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ブタンジオールジアクリレート、ブタンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、へキサンジオールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート及びジビニルベンゼンからなる群から選択された1種以上である、
請求項1に記載の樹脂粒子組成物。
【請求項5】
前記乳化剤は、曇点を有するノニオン系乳化剤である、
請求項1に記載の樹脂粒子組成物。
【請求項6】
前記蛍光色素は、メロシアニン、ペリレン、アクリジン、アントラセン、ルシフェリン、ピラニン、スチルベン、ローダミン、クマリン、4-(ジシアノメチレン)-2-メチル-6-(4-ジメチルアミノスチリル)-4H-ピラン(DCM)、ピロメテン、フルオレセイン、ウンベリフェロン、それらの誘導体の群から選択された1種以上を含み、
前記凝集誘起発光性色素は、シロール環含有化合物及び誘導体、炭化水素芳香族系化合物及び誘導体、ヘテロ芳香族系化合物及び誘導体、ローダミン系化合物及び誘導体の群から選択された1種以上を含む、
請求項1からのいずれか一項に記載の樹脂粒子組成物。
【請求項7】
検体中の標的物質と結合する請求項1に記載の樹脂粒子組成物を備える、
検査キット。
【請求項8】
標識物質を内包する樹脂粒子を含む樹脂粒子組成物の製造方法であって、
前記標識物質及び重合性単量体を亜臨界水で混合することで混合物を生成する工程と、
前記混合物と乳化剤を混合及び冷却することで単量体粒子分散液を生成する工程と、
前記単量体粒子分散液と架橋性単量体との重合反応を行い、前記樹脂粒子を生成する工程と、を含み、
前記重合性単量体は、芳香族系単量体、炭素数1~18のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート類及びシクロアルキル(メタ)アクリレート類の少なくともいずれか、及び官能基を有するアルキル(メタ)アクリレートの少なくともいずれかを含み、
前記樹脂粒子は、全重合性単量体100質量%に対して、40~95質量%の前記芳香族系単量体及び/又は炭素数1~18のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート類及びシクロアルキル(メタ)アクリレート類の少なくともいずれか、0~10質量%の前記官能基を有するアルキル(メタ)アクリレート、及び5~60質量%の前記架橋性単量体を構成単位として含み、
前記標識物質が、蛍光色素と凝集誘起発光性色素の少なくともいずれかを含み、
前記芳香族系単量体は、スチレン、メチルスチレン、クロロスチレン、メトキシスチレン、α-メチルスチレン、P-ニトロスチレン、エチルビニルベンゼン、ビニルナフタレン、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、フェニルエチルアクリレート、フェニルエチルメタクリレート、フェニルプロピルアクリレート、フェニルプロピルメタクリレート、フェニルノニルアクリレート、フェニルノニルメタクリレートからなる群から選択された1種以上であり、
前記官能基は、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、及びアミド基の少なくともいずれかを含む、
樹脂粒子組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂粒子組成物、検査キット、及び樹脂粒子組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
標識物質を含有する樹脂粒子組成物は、例えば、生物・医学診断分野等の臨床検査において蛍光標識として有用であることが認められている。また、標識物質の種類に応じて、標識物質を高分子のホスト材料又は溶剤へ分子レベルで均一分散させた希薄状態又は高濃度状態で利用することが行われている。例えば、特許文献1は、蛍光色素の存在下でポリマー粒子を造粒し、ポリマーの粒子化過程で蛍光色素をポリマー粒子に取り込ませる方法を開示している。特許文献2は、蛍光色素を含む液体中でポリマー粒子を膨潤させることで、蛍光色素をポリマー粒子中に取り込ませる浸潤法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6978081号公報
【文献】特許第6769728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、高圧ホモジナイザー等の高シェアの分散装置を使用してモノマー油滴を微小化している際に分散液が高温になり、溶解していた蛍光色素が析出するため、ポリマー粒子が内包できる蛍光色素の量に制限を受けるといった課題がある。特許文献2では、液体中で膨潤しやすいポリマー粒子を使用して作製された蛍光色素内包粒子が溶剤で溶解してしまうため、蛍光強度が低いといった課題がある。このように、特許文献1及び特許文献2では、耐溶剤性に優れ、高蛍光強度を有する樹脂粒子組成物を実現できていない。
【0005】
そこで、本発明は、耐溶剤性に優れ、高蛍光強度を有する樹脂粒子組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目的を達成するために、本発明の樹脂粒子組成物は、標識物質を内包する樹脂粒子を含む樹脂粒子組成物であって、前記標識物質と重合性単量体を亜臨界水で混合することで混合物を生成する工程と、前記混合物と乳化剤を混合及び冷却することで単量体粒子分散液を生成する工程と、前記単量体粒子分散液と架橋性単量体との重合反応を行い、前記樹脂粒子を生成する工程と、を含む方法によって製造され、前記重合性単量体は、芳香族系単量体、炭素数1~18のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート類及びシクロアルキル(メタ)アクリレート類の少なくともいずれか、及び官能基を有するアルキル(メタ)アクリレートの少なくともいずれかを含み、前記樹脂粒子は、全重合性単量体100質量%に対して、40~95質量%の前記芳香族系単量体及び/又は前記炭素数1~18のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート類及び前記シクロアルキル(メタ)アクリレート類の少なくともいずれか、0~10質量%の前記官能基を有するアルキル(メタ)アクリレート、及び5~60質量%の前記架橋性単量体を構成単位として含み、前記標識物質が、蛍光色素と凝集誘起発光性色素の少なくともいずれかを含み、前記芳香族系単量体は、スチレン、メチルスチレン、クロロスチレン、メトキシスチレン、α-メチルスチレン、P-ニトロスチレン、エチルビニルベンゼン、ビニルナフタレン、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、フェニルエチルアクリレート、フェニルエチルメタクリレート、フェニルプロピルアクリレート、フェニルプロピルメタクリレート、フェニルノニルアクリレート、フェニルノニルメタクリレートからなる群から選択された1種以上であり、前記官能基は、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、及びアミド基の少なくともいずれかを含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耐溶剤性に優れ、高蛍光強度を有する樹脂粒子組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】超臨界水供給装置を用いた単量体粒子分散液の製造工程を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴は任意に組み合わされてもよい。
【0010】
(樹脂粒子組成物)
一実施形態に係る樹脂粒子組成物は標識物質を内包する樹脂粒子を含む。一実施形態に係る樹脂粒子組成物は、標識物質と重合性単量体を亜臨界水で混合することで混合物を生成する工程と、混合物と乳化剤を混合及び冷却することで単量体粒子分散液を生成する工程と、単量体粒子分散液と架橋性単量体との重合反応を行い、樹脂粒子を生成する工程と、を含む方法によって製造される。
【0011】
(樹脂粒子)
一実施形態に係る重合性単量体は、芳香族系単量体、(メタ)アクリル系単量体、及び官能基を有する単量体の少なくともいずれかを含む。一実施形態に係る樹脂粒子は、全重合性単量体100質量%に対して、40~95質量%の芳香族系単量体及び/又は(メタ)アクリル系単量体、0~10質量%の官能基を有する単量体、及び5~60質量%の架橋性単量体を構成単位として含む。ここで、「全重合性単量体100質量%」は、樹脂粒子を構成する全重合性単量体の質量%を表し、重合性単量体と架橋性単量体の合計の質量%を表すものとする。また、「40~95質量%の芳香族系単量体及び/又は(メタ)アクリル系単量体」は、3種類の形態(40~95質量%の芳香族系単量体、40~95質量%の(メタ)アクリル系単量体、及び40~95質量%の芳香族系単量体及び(メタ)アクリル系単量体の混合物)を含むことを表す。
【0012】
一実施形態に係る樹脂粒子の平均粒子径は、50~500nmである。ここで、平均粒子径は、動的光散乱法によって測定される。
【0013】
本発明の樹脂粒子の製造方法で使用することができる、重合性単量体(モノマー)、乳化剤及び重合開始剤等について説明する。なお、本明細書における「(メタ)アクリル」という用語は、「アクリル」および「メタクリル」の双方を意味し、また、「(メタ)アクリレート」という用語は、「アクリレート」および「メタクリレート」の双方を意味する。
【0014】
以下、樹脂粒子の製造に用いることができる重合性単量体を一例として挙げるが、これらの単量体に限定されるものではない。また、下記単量体は単独、または、2種類以上混合されて使われ得る。
【0015】
芳香族系単量体としては、標識物質を溶解するものであれば特に限定するものではなく、例えば、スチレン、メチルスチレン、クロロスチレン、メトキシスチレン、α-メチルスチレン、P-ニトロスチレン、エチルビニルベンゼン、ビニルナフタレン、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、フェニルエチルアクリレート、フェニルエチルメタクリレート、フェニルプロピルアクリレート、フェニルプロピルメタクリレート、フェニルノニルアクリレート、フェニルノニルメタクリレートからなる群から選択された1種以上が挙げられる。
【0016】
一実施形態に係る芳香族系単量体の含有量は、全重合性単量体100質量%に対して、好ましくは40質量%以上、より好ましくは40~95質量%である。
【0017】
(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、i-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-アミル(メタ)アクリレート、i-アミル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の、炭素数1~18のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート類;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、p-t-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート等の、シクロアルキル(メタ)アクリレート類;等が挙げられる。
【0018】
一実施形態に係る(メタ)アクリル系単量体の含有量は、全重合性単量体100質量%に対して、好ましくは40質量%以上、より好ましくは40~95質量%である。
【0019】
架橋性単量体としては、アリルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ブタンジオールジアクリレート、ブタンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、へキサンジオールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート及びジビニルベンゼンからなる群から選択された1種以上を使用できる。架橋性単量体としては、特には、芳香族系のジビニルベンゼンが好ましい。
【0020】
一実施形態に係る架橋性単量体の含有量は、全重合性単量体100質量%に対して、好ましくは5~60質量%、5~50質量%、又は5~40質量%であり、より好ましくは5~30質量%である。樹脂粒子が上記所定の質量%の架橋性単量体を含有する場合、樹脂粒子の耐溶剤性をさらに高めることができ、溶剤中での樹脂粒子の膨潤を抑制できる。耐溶剤性とは、樹脂粒子外部への標識物質の溶出しにくさのことを表す。
【0021】
官能基を有する単量体としては、(メタ)アクリル酸、アクリル酸二量体、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸を反応させたモノマー等の、カルボキシ基含有重合性単量体;ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-(3-)ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート等の、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;2-アミノエチル(メタ)アクリレート、2-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2-アミノプロピル(メタ)アクリレート、2-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の、アミノアルキル(メタ)アクリレート類;(メタ)アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0022】
一実施形態に係る官能基を有する単量体は、全重合性単量体100質量%に対して、好ましくは0~10質量%である。ここで、官能基を有する単量体は、樹脂粒子を後述の抗原検査用発光粒子及び抗体検査用発光粒子として使用する場合、樹脂粒子と抗体及び抗原などの標的物質とを結合させるために使用され得る。そのため、本発明の樹脂粒子を抗原検査用発光粒子及び抗体検査用発光粒子として使用しない場合、官能基を有する単量体は樹脂粒子を製造するための必須成分でなくても良い。
【0023】
一実施形態に係る官能基は、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、及びアミド基の少なくともいずれかを含む。
【0024】
(標識物質)
一実施形態に係る標識物質の含有量は、全重合性単量体100質量%に対して、好ましくは0.1~15質量%、より好ましくは0.5~10質量%を含む。
【0025】
一実施形態に係る標識物質は、蛍光色素と凝集誘起発光性色素(以下、AIE色素とも呼ぶ)の少なくともいずれかを含む。
【0026】
蛍光色素とは、蛍光を発する色素である。蛍光色素が光を吸収すると、色素中の電子が励起され、それが基底状態に戻る際に余分なエネルギーを電磁波として放出する。この電磁波が蛍光であり、蛍光の波長は吸収した光(励起光)の波長よりも常に長い。励起光の波長と蛍光の波長との差はストークスシフトと呼ばれ、これが大きいほど蛍光は励起光と識別しやすく、検出が容易な色素となる。
【0027】
蛍光色素としては、メロシアニン、ペリレン、アクリジン、アントラセン、ルシフェリン、ピラニン、スチルベン、ローダミン、クマリン、4-(ジシアノメチレン)-2-メチル-6-(4-ジメチルアミノスチリル)-4H-ピラン(DCM)、ピロメテン、フルオレセイン、ウンベリフェロン等の蛍光特性を持つ化合物及び誘導体が挙げられ、上記群から選択された1種以上を使用できる。
【0028】
AIE色素とは、凝集誘起発光性色素(AIE=Aggregation-Induced Emission)で希薄溶液状態では発光せず、固体・凝集状態で強発光する蛍光色素で、一般的な蛍光色素と反対の挙動を示す。即ち、AIE色素は、通常の蛍光色素では濃度消光等で困難であった高濃度化と高輝度化が可能となる色素である。
【0029】
AIE色素としては、1,1-ジメチル-2,3,4,5-テトラフェニルシロール、1,1,2,3,4,5-ヘキサフェニルシロール、1,1-ジメチル-2,5-ジアニシル-3,4-ジフェニルシロール、1,1-ジアリル-2,3,4,5-テトラフェニルシロール等のシロール環含有化合物及び誘導体、テトラフェニルエチレン等の炭化水素芳香族系化合物及び誘導体、ヘテロ芳香族系化合物及び誘導体、ローダミン系化合物及び誘導体等が挙げられ、上記群から選択された1種以上を使用できる。特に、AIE色素は、樹脂粒子に容易に取り込まれ得ることなどの観点から、シロール環含有化合物が好ましい。
【0030】
(重合開始剤)
重合開始剤としては、特に限定されるものでなく、従来公知のものをいずれも使用できる。例えば、下記に挙げるような、一般的にラジカル重合に使用される重合開始剤を適宜に用いることができる。
【0031】
重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩類;2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2'-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2-フェニルアゾ-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル等の油溶性アゾ化合物類;2,2'-アゾビス{2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2'-アゾビス{2-メチル-N-[2-(1-ヒドロキシエチル)]プロピオンアミド}、2,2'-アゾビス{2-メチル-N-[2-(1-ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2'-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]及びその塩類、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]及びその塩類、2,2'-アゾビス[2-(3,4,5,6-テトラヒドロピリミジン-2-イル)プロパン]及びその塩類、2,2'-アゾビス{2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル]プロパン}及びその塩類、2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)及びその塩類、2,2'-アゾビス(2-メチルプロピンアミジン)及びその塩類、2,2'-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]及びその塩類等の水溶性アゾ化合物;過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物類等が挙げられる。
【0032】
(乳化剤)
一実施形態に係る乳化剤は、曇点を有するノニオン系乳化剤を含む。
【0033】
ノニオン系乳化剤の曇点とは、ノニオン系乳化剤の存在下、無機又は有機粒子が水性媒体中に分散した系において、昇温過程で前記分散系に白濁が生じる温度を意味する。曇点は、ノニオン系乳化剤の濃度、電解質の影響などを受けることから各反応条件において測定できる。ノニオン系乳化剤の曇点は、例えば、1~99℃、好ましくは20~95℃、さらに好ましくは50~90℃である。また、ノニオン系乳化剤の親水性-親油性バランス(HLB)は、広い範囲で選択でき、例えば、1~20、好ましくは5~18、さらに好ましくは8~16程度である。
【0034】
ノニオン系乳化剤としては、上記条件を満たすものであれば特に限定するものではない。例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル[ポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王製、エマルゲン109P、曇点83℃、HLB13.6)、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル(第一工業製薬製、ノイゲンSD-80、曇点80℃、HLB14.3)、ポリオキシアルキレン分岐デシルエーテル(第一工業製薬製、ノイゲンXL-100、曇点79℃、HLB14.7)、ポリオキシエチレントリデシルエーテル(第一工業製薬製、ノイゲンTDS-80、曇点60℃、HLB13.3)、ポリオキシアルキレントリデシルエーテル(第一工業製薬製、ノイゲンTDX-50、曇点37℃、HLB9.0)、ポリオキシエチレンオレイルエーテル(花王(株)製、エマルゲン409PV、曇点55℃、HLB12.0)などのポリオキシエチレンC6-20アルキルエーテル]、[ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル(第一工業製薬製、ノイゲンEA-137、曇点65℃、HLB13.0)]、[アリル基などのエチレン性不飽和基(重合性不飽和合)を少なくとも1つ有するポリオキシエチレンC6-20アルキレンアルケニルエーテル(花王製、ラテムルPD-420、曇点83℃、HLB12.6)、(花王製、ラテムルPD-430、曇点95℃、HLB14.4)]などが含まれる。また、これらのノニオン系乳化剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0035】
<用途>
一実施形態に係る検査キットは、検体中の標的物質と結合する樹脂粒子組成物を備える。なお、検査キットの樹脂粒子組成物として上記で説明した本発明の樹脂粒子組成物を使用できるため、樹脂粒子組成物の詳細な説明については省略する。
【0036】
本発明の樹脂粒子組成物の用途としては、有機EL用発光色素、太陽電池用波長変換色素、バイオイメージング等が挙げられるが、特に抗体を樹脂粒子組成物の表面へ修飾させることで、後述する抗原検査用のイムノクロマト法による標識発光粒子として有用である。具体的には、抗体を有する樹脂粒子組成物は、新型コロナウィルス感染の迅速簡便な検査キットとしての抗原検査用発光粒子として好適に用いることが可能である。さらに、抗原を有する樹脂粒子組成物は、抗体検査用発光粒子としても好適に用いることが可能である。現状では、抗原検査用発光粒子として金コロイド系粒子を使用しているが、発光感度が低いことから、ウィルス数の少ない感染初期での検出感度が極めて低いといった問題がある。つまり、ウィルス感染の疑いのある患者は、病院でPCR検査を受けている。また、昨今ではウィルスの突然変異のサイクルが極めて速くなっており、爆発的なウィルス感染拡大により医療機関及び患者への負担が大きくなっている。このような背景を踏まえて、薬局やドラッグストア等で容易に入手できる高感度の抗原検査キットの市場ニーズが高まっており、本発明はこのようなニーズを満足させる蛍光感度を有した樹脂粒子組成物を提供することが可能である。
【0037】
(抗原検査)
抗原検査とは、セルロースなどの繊維で作られた流路に検体と検出試薬の混合液を染み込ませ、検体中の標的物質(抗原や抗体など)と検出試薬が反応したことを示す着色ラインの出現を観察することで標的物質の有無を検出する方法で、抗原を簡便かつ迅速に検出するために抗原検査キットが広く用いられている。抗原検査は、体の細胞がウィルス感染したときに産生される抗原を検出するための検査であり、検体は咽頭ぬぐい液を用いる。この咽頭ぬぐい液を検査キットにセットすると、およそ15分程度で結果が判明する。
【0038】
抗原検査は、PCR検査と比べて非常に簡便でコストも抑えられるという特徴がある。ただし、PCR検査と異なり、検出する対象を増幅することができないので、発症早期のウィルス量の少ない時に検査を行うと、正しく検出できない可能性があり、現状では症状が出てから2日目~9日目での検査結果は正確であると言われており、この期間に陰性と出れば新型コロナウィルスの感染は否定できると考えられている。抗原検査が有用であることは間違いないが、感度の問題から現状では新型コロナウィルスの抗原検査は、スクリーニング検査として考えられている。スクリーニング検査とは、感染性の可能性がある人を特定することを目的として実施され、それによって感染対策を講じることができるものである。
【0039】
(イムノクロマト法)
イムノクロマト法は、(1)判定までに要する時間が短く迅速な検査が可能であり、(2)検体を滴下するだけで測定でき操作が簡便であり、(3)特別な検出装置を必要とせず判定が容易である。これらの特徴を利用して、イムノクロマト法は、新型コロナウィルス検査、インフルエンザ検査、妊娠検査、医療系の他に、食品検査と環境検査等にも用いられており、新たなPOCT(Point Of Care Testing)の手法として幅広く利用されている。これにより、イムノクロマト法は、病院内での緊急検査及び手術中の検査、更には病院外での自宅でも検査を可能とし、とりわけ新型コロナなどの新型ウィルスに対して非常にニーズが高い検査手法である。
【0040】
イムノクロマト法について更に詳細に説明する。抗原を含む検体を試薬デバイスの検体滴下部に滴下すると、検体はコンジュゲートパッドへ浸透し、毛細管現象でパッドから標識抗体を溶解しながらメンブレンフィルターへ流れていく。コンジュゲートパッドは、例えば、ガラス繊維製やポリエステル製、レーヨン製のものが使用されており、標識抗体を乾燥した状態で保持する。検体中の抗原は標識抗体と結合して免疫複合体を形成する。毛細管現象でメンブレンフィルターを移動する"標識抗体-抗原"の免疫複合体は、さらに膜上にライン状に固定された捕捉抗体と結合して"標識抗体-抗原-捕捉抗体"の複合体を形成し、膜上に堰き止められるようにトラップされる。このトラップにより捕捉抗体ライン上では標識抗体由来の発光微粒子が濃縮されたような状態となり、目視でも呈色の判定が可能となる。
【0041】
<樹脂粒子組成物の製造方法>
一実施形態に係る樹脂粒子組成物の製造方法は、(i)標識物質及び重合性単量体を亜臨界水で混合することで混合物を生成する工程と、(ii)混合物と乳化剤を混合及び冷却することで単量体粒子分散液を生成する工程と、(iii)単量体粒子分散液と架橋性単量体との重合反応を行い、樹脂粒子を生成する工程と、を含む。
【0042】
以下、単量体粒子分散液のことを「油滴」あるいは「微小粒子」などとも呼ぶ。
【0043】
ここで、一般的に、標識物質を溶解した油滴(単量体粒子分散液)を微小粒子として分散するためには、高圧ホモジナイザーや超音波ホモジナイザー等を用いた微小粒子化技術が知られているが、これら既存の微小粒子化技術では、撹拌分散時に物理的な大きな力(例えば、せん断力、キャビテーションによる破壊力)が必要となる。この撹拌時に、標識物質の油滴外部への析出が多くなることが確認されている。発明者は、標識物質の油滴外部への析出を抑制することを目的として、亜臨界水乳化技術を用いることを見出した。以下、既存の微小粒子化技術の概要を説明する。
【0044】
(既存の微小粒子化技術)
(1)回転撹拌型乳化:撹拌用治具(撹拌翼、タービンなど)を組み合わせた汎用的な機械撹拌技術を応用した乳化装置として、プロペラミキサー、ホモミキサー、ディスパーなどがある。回転撹拌型の構造部を持ち、一般的なエマルション製造に用いられる。バッチ式で攪拌撹拌時間により、ミクロンサイズの油滴粒子を調整可能である。
(2)超音波ホモジナイザー乳化:超音波により発生するキャビテーションを利用してエマルション化を促進する方法である。バッチ式で処理時間により、サブミクロンサイズの油滴粒子を調整可能である。
(3)高圧ホモジナイザー乳化:高圧ポンプで細い流路に通液する方法や、液同士を対向衝突する方法で液体にせん断力を与える方法である。この方法の乳化力は高いため、液滴の微細化に適している。連続フロー式でパス回数を繰り返すことでサブミクロンサイズの油滴粒子を調整可能であるが、繰り返し操作が煩雑である。
【0045】
以下、図1を参照しつつ亜臨界水乳化技術を用いた樹脂粒子組成物の製造方法について説明する。
【0046】
図1は、超臨界水供給装置を用いた単量体粒子分散液の製造工程を説明する図である。図1の超臨界水乳化装置(AKICO社製)の、亜臨界水~超臨界水の供給ができる超臨界水供給装置「SFW-E40S」を亜臨界水乳化処理に使用する。この装置は、2つの原料の流入路と、流入した液が合流する混合器とからなる「混合部」と、混合部に続いて配置した水を超臨界状態或いは亜臨界状態の熱水にするための「超臨界・亜臨界工程部」と、「超臨界・亜臨界工程部」から出た液と乳化剤とを混合する「混合部」と、乳化剤が混合された亜臨界状態の液を150℃/秒程度の速度で急速に冷却することで粒子径がナノサイズの乳化物を得る「冷却部」とを有する。
【0047】
ここで、樹脂粒子組成物の製造方法(i)の工程は、最も上流に位置する混合部から亜臨界工程部までの工程に相当する。上記製造方法(ii)の工程は、亜臨界工程部の下流に位置する混合部から冷却部までの工程に相当する。なお、上記製造方法(iii)の工程は、一般的な重合方法に基づくため、詳細な説明を省略する。
【0048】
本発明では、超臨界・亜臨界工程部から出た液に、曇点を有するノニオン系乳化剤を添加する。本発明の目的は、よりマイルドな条件で標識物質が溶解する重合性単量体を含有する液状原料から、水に微細に乳化してなる重合性単量体の分散液を得ることを目的としているため、超臨界・亜臨界工程部における条件を、水温が臨界温度の手前の250℃~370℃、25MPaの亜臨界水になる高温・高圧とした。このため、超臨界・亜臨界工程部を図1に示したように、以下、「亜臨界工程部」と呼ぶ。ここで、亜臨界水乳化について補足説明する。
【0049】
(亜臨界水乳化の説明)
水は臨界点近傍で比誘電率が大きく低下することが知られている。例えば、200℃付近ではメタノールと、300℃付近ではアセトンと、臨界点近傍では酢酸エチル等の有機溶剤と同程度までに水の比誘電率が低下することが知られており、多くのオイルと相溶し溶解可能となる。特には、多くの有機物オイルを対象にする為に、水の臨界点以下の亜臨界領域で、以下の3工程(溶解・析出・乳化安定化過程)を連続フロー方式で行い、微小乳化液を短時間で調整するのが微小乳化技術である。攪拌することなく、連続フロー方式(1パス)により短時間(具体的には秒単位)でオイルをナノサイズの微粒子に乳化する技術が微小乳化技術である。このように、ナノサイズの微粒子を短時間に生成できるため、油滴外部への標識物質の析出・脱落が生じることがない。本発明は、従来技術では実現し得ない均一で微小なモノマー油滴を作製することができる。
(1)溶解工程⇒油成分を亜臨界水で一度溶解し、均一分散化
(2)析出工程⇒急冷により、一度溶解した油成分を析出化
(3)乳化工程⇒乳化剤により、析出微粒子の安定化(合一抑止)
上記(1)~(3)の工程により、ボトムアップ方式でナノサイズの微小油滴粒子が得られる。
【0050】
<単量体粒子分散液の製造>
表1は、製造例1~11の単量体粒子分散液の原料配合と評価結果を示す。表1の平均油滴径(nm)と多分散度指数(p.d.)は、大塚電子製粒子径測定装置FPAR-1000で測定された値である。蛍光色素等(AIE色素を含む)の析出評価では、単量体粒子分散液にUVライトを当て、蛍光色素等の析出を確認した。表1は、蛍光色素等の析出の欄の「なし」、「少ない」、及び「やや多い」の順に蛍光色素等の析出量が多くなることを示す。製造例11の単量体粒子分散液は、蛍光色素等を含有していないため、蛍光色素の析出評価の対象外とした(「-」で表示)。なお、重合性単量体は、表1の主成分の単量体と官能基を有する単量体を含む。蛍光色素量(対単量体)は、単量体粒子分散液の製造で使用する重合性単量体100質量%に対する蛍光色素等の配合量(wt%)を表す。表2は、実施例1~5及び比較例1~8の樹脂粒子組成物の原料配合と試験結果を示す。
【0051】
【表1】
(略語の説明等)
HPS:ヘキサフェニルシロール
ST:スチレン
MMA:メチルメタクリレート
mAAc:メタクリル酸
AM:アクリルアミド
2HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
主成分の単量体の質量部:官能基を有する単量体の質量部=90:10(製造例1~11で共通)
ホモディスパー(プライミクス社製:MARKII Model2.5、撹拌条件:回転数5000rpm)
超音波ホモジナイザー(三井電機精機社製:UX-600型、撹拌条件:周波数20KHz)
高圧ホモジナイザー(SMT社製:LAB2000、撹拌条件:圧力200MPaで5サイクル)
【0052】
【表2】
(略語の説明)
DVB:ジビニルベンゼン
TMP:トリメチロールプロパントリメタクリレート
AIBN:2,2'-アゾビス(イソブチロニトリル)
KPS:過硫酸カリウム
HPS:ヘキサフェニルシロール
架橋性単量体の量(wt%)を重量部へ変換する計算式:重量部=100X/(1-X)、ここでXはwt%を示す
【0053】
<製造例1:単量体粒子分散液の調製>
表1に基づき液状原料として、イオン交換水、標識物質溶解重合性単量体液(アントラセン:スチレン:メタクリル酸(=10部:90部:10部))、乳化剤希釈液(ノイゲンXL-100(商品名、第一工業製薬社製、ポリオキシアルキレン分岐デシルエーテル、曇点=79℃、HLB14.7)の22.5%希釈水溶液)を用意した。
【0054】
図1の超臨界水乳化装置の流入路から、液状原料として、イオン交換水を29.5ml/分、標識物質溶解重合性単量体液(アントラセン、スチレン、及びメタクリル酸の混合液)を4.3ml/分となる速度でそれぞれ流入させ、亜臨界工程部において、水が300℃の亜臨界水になる高温・高圧の条件で、標識物質溶解重合性単量体をイオン交換水に溶解させた。続いて、亜臨界工程部から出た液に、乳化剤希釈液(曇点を有するノニオン系乳化剤溶液)を単量体粒子が形成され始める初期段階で5.2ml/分の速度で添加し、冷却部で冷却することで、標識物質溶解重合性単量体濃度10%、平均粒子径が150nmの単量体微小粒子からなる単量体粒子分散液を得た。
【0055】
得られた単量体粒子の粒度分布は、シャープな正規分布を示すものであり、均一な微小粒子からなる分散液であることが確認できた。得られた単量体粒子の平均粒子径及び粒度分布は、動的光散乱法によって求めた。動的光散乱法による平均粒子径(直径、D50)の測定は、単量体粒子分散液を水で適当な濃度に希釈した後、FPAR-1000(商品名、大塚電子社製)を用いて、25℃で行った。また、得られた単量体粒子分散液にUVランプを照射して、標識物質の溶解状態を観察したところ、標識物質の析出は認められなかった。これにより、標識物質が単量体粒子に内包されていることを確認した。
【0056】
<製造例2~製造例11:単量体粒子分散液の調製>
製造例2~製造例5の単量体粒子分散液は、表1と製造例1と同様の製造方法に基づいて調製されるので、詳細な説明を省略する。一方、製造例6~製造例11の単量体粒子分散液は、表1の原料配合に基づき、製造例1~製造例5とは異なる油滴作製装置(ホモディスパー、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー)を用いて調製された。
【0057】
<実施例1:樹脂粒子組成物の調製>
撹拌機、温度計、還流コンデンサー付の300mlの4つ口丸底フラスコに製造例1で得られた平均粒子径150nmのアントラセン含有の単量体粒子分散液100g、架橋性単量体としてDVBを全重合性単量体100質量%に対して10wt%(重量換算で1.1g)、重合開始剤としてAIBN0.5gを添加して、25℃、大気圧下で170rpmの回転数で60分窒素置換しながら撹拌させた後、イオン交換水を120.9g添加し、内温75℃で6時間撹拌し、重合処理後、冷却することで濃度5%、平均粒子径160nmのアントラセン含有の樹脂粒子組成物を得た。
【0058】
重合して得られた樹脂粒子組成物の平均粒子径(D50)及び粒度分布の測定は、製造例と同様に動的光散乱法によって求めた。また得られた樹脂粒子組成物にUVランプを照射して、標識物質の溶解状態を観察したところ、標識物質の析出は認められなかった。更に電子顕微鏡を用いて、得られた微小な樹脂粒子組成物を観察したところ、樹脂粒子組成物以外に凝集物等は観察されず、標識物質が樹脂粒子に内包されていることを確認した。
【0059】
<実施例2~5、比較例1~8:樹脂粒子組成物の調製>
実施例2~5と比較例1~8の樹脂粒子組成物は、表2の原料配合と実施例1と同様の製造方法に基づいて製造されるため、詳細な説明を省略する。
【0060】
<試験方法>
実施例1~5及び比較例1~8の樹脂粒子組成物を用いて、以下の試験例1~試験例3の試験を行うことで、性能評価を行った。なお、比較例7~8の樹脂粒子組成物については以下の標識物質の吸収工程を行った後に、試験例1~試験例3の試験を行った。
【0061】
(標識物質の吸収工程の説明)
本工程の目的は、比較例7~8の樹脂粒子組成物に対し標識物質を吸収させた場合に蛍光強度が向上するかを確認するためである。テトラヒドロフラン(以下、THFとも呼ぶ)に標識物質(以下、HPS:ヘキサフェニルシロール)を溶解させ、1g/L濃度のHPSが溶解したTHF分散液を作製する。作製した樹脂粒子分散液の樹脂粒子分に対してHPSが1wt%になる量のTHF分散液を混合して5分撹拌することで樹脂粒子組成物にHPSを吸収させる。その後、得られた分散液を超遠心分離にかけることにより樹脂粒子を沈降させ、上澄み液を除去後、純水を加えて粒子を再分散させて樹脂粒子分散液を得た。
【0062】
(試験例1 樹脂粒子外の蛍光色素等の存在確認)
樹脂粒子分散液を採取し、60℃で1時間乾燥させた後、日本電子製の走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて樹脂粒子外に蛍光色素等(AIE色素を含む)が存在するかを確認した。
(評価基準)
なし:樹脂粒子外に蛍光色素等は確認されなかった。
ほぼなし:樹脂粒子外に蛍光色素等がほとんど確認されなかった。
少ない:樹脂粒子外に蛍光色素等がわずかに確認された。
やや多い:樹脂粒子外に少数の蛍光色素等が確認された。
多い:樹脂粒子外に多くの蛍光色素等が確認された。
【0063】
(試験例2 蛍光強度(水洗浄後)の確認)
得られた樹脂粒子分散液を超遠心分離にかけることにより樹脂粒子を沈降させ、上澄み液を除去後、純水を加えて樹脂粒子を再分散させる。この操作を3回繰り返し、4回目に沈降させた樹脂粒子を純水で希釈して1mg/mLの分散液を作製し、この分散液をキーエンス製蛍光顕微鏡BZ-X800を用いて撮影し、蛍光強度を確認した。
(評価基準)
◎:非常に強い ○:強い △:やや強い ×:弱い
【0064】
(試験例3 蛍光強度(THF分散液)の確認)
得られた樹脂粒子分散液を超遠心分離にかけることにより樹脂粒子を沈降させ、上澄み液を除去後、純水を加えて樹脂粒子を再分散させる。この操作を3回繰り返し、4回目に沈降させた樹脂粒子をTHFで希釈して10mg/mLの分散液を作製し、この分散液をキーエンス製蛍光顕微鏡BZ-X800を用いて撮影し、蛍光強度を確認した。
(評価基準)
◎:非常に強い ○:強い △:やや強い ×:弱い
【0065】
<試験結果>
表2は、実施例1~5と比較例1~8の試験結果を示す。実施例1~5は、比較例1~8に比べて、試験例1~3において優れた特性(耐溶剤性及び高蛍光強度)を示した。特に、実施例1~5は、溶剤(THF)中において優れた蛍光強度を有していた。一方で、比較例1~5(架橋性単量体非含有の場合)は、樹脂粒子外へ蛍光色素等が脱落することと、蛍光強度の低下を示した。また、比較例6(架橋性単量体含有の場合)は、樹脂粒子の耐溶剤性が若干向上することを示したが、実用上十分な蛍光強度を示さなかった。比較例7~8(後工程で標識物質を吸収させた場合)は、樹脂粒子表面に付着した蛍光色素等が容易に脱落することと、蛍光強度の低下を示した。以上の試験結果によれば、本発明の亜臨界水乳化技術を用いて製造された単量体粒子分散液と架橋性単量体とを用いて樹脂粒子を製造することが耐溶剤性向上に寄与しているものと推察される。これにより、樹脂粒子に内包された標識物質の漏出を防ぐことができ、高蛍光強度を実現することが可能であるものと推察される。
【0066】
以上の通り、本発明の樹脂粒子組成物は、耐溶剤性に優れ、高蛍光強度を有するといった顕著な効果を有する。
【0067】
なお、本発明に係る単量体粒子分散液と樹脂粒子の具体的な構造及び特性を直接特定することは当業者にとって困難であることは理解されるべきであり、それらの詳細情報については未だ明らかになっていないことにも留意されたい。加えて、本願発明に係る単量体粒子分散液と樹脂粒子の具体的な構造及び特性を特定することは、過度な実験及び特殊な測定装置の準備などによる著しく過大な経済的支出を当業者に要求する観点で、現実的ではないことにも留意されたい。
【0068】
発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
【要約】
【課題】本発明は、耐溶剤性に優れ、高蛍光強度を有する樹脂粒子組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】
標識物質を内包する樹脂粒子を含む樹脂粒子組成物であって、前記標識物質と重合性単量体を亜臨界水で混合することで混合物を生成する工程と、前記混合物と乳化剤を混合及び冷却することで単量体粒子分散液を生成する工程と、前記単量体粒子分散液と架橋性単量体との重合反応を行い、前記樹脂粒子を生成する工程と、を含む方法によって製造される。

【選択図】図1
図1