(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】組換え発生が最小限に抑えられた遺伝子治療用ベクター、ベクターを含む組換えレトロウイルス、及び組換えレトロウイルスを含む、癌を予防又は治療するための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 15/867 20060101AFI20240105BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240105BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240105BHJP
C12N 15/52 20060101ALI20240105BHJP
C12N 15/68 20060101ALI20240105BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240105BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240105BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20240105BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240105BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
C12N15/867 Z ZNA
C12N5/10
C12N15/12
C12N15/52 Z
C12N15/68 Z
A61P35/00
A61K35/76
A61K35/12
A61P35/02
A61K48/00
(21)【出願番号】P 2023518119
(86)(22)【出願日】2021-09-17
(86)【国際出願番号】 KR2021012776
(87)【国際公開番号】W WO2022060155
(87)【国際公開日】2022-03-24
【審査請求日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】10-2020-0120797
(32)【優先日】2020-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0118834
(32)【優先日】2021-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523098120
【氏名又は名称】アーティキュア インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム ヨン-ス
(72)【発明者】
【氏名】カン ムンギョン
(72)【発明者】
【氏名】キム スジン
【審査官】馬場 亮人
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2018-0060520(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/867
C12N 5/10
C12N 15/12
C12N 15/52
C12N 15/68
A61P 35/00
A61K 35/76
A61K 35/12
A61P 35/02
A61K 48/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Gag-Pol遺伝子、sEF1α(短鎖伸長因子1α)プロモータ又はMCMV(マウスサイトメガロウイルス)プロモータ及び第1の治療用遺伝子を含有する第1の組換え発現ベクターと、ウイルスのEnv遺伝子、MCMVプロモータ及び第2の治療用遺伝子を含有する第2の組換え発現ベクターと、を含む、組換え発生が最小限に抑えられた複製型レトロウイルスベクターであって、
前記MCMVプロモータが、
それぞれ、配列番号4、5、6、及び7
のいずれかで表される塩基配列
からなる切断型MCMVプロモータであ
り、
前記sEF1αプロモータが、配列番号18で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドである、組換え発生が最小限に抑えられた複製型レトロウイルスベクター。
【請求項2】
前記Gag-Pol遺伝子が、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)又は両種指向性マウス白血病ウイルス(MuLV)のGag-Pol遺伝子である、請求項1に記載の組換え発生が最小限に抑えられた複製型レトロウイルスベクター。
【請求項3】
前記ウイルスEnv遺伝子が、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、両種指向性マウス白血病ウイルス(MuLV)、異種マウス白血病ウイルス(異種MuLV)、ネコ内因性レトロウイルス(RD114)、水疱性口内炎ウイルス(VSV)及び麻疹ウイルス(MV)Env遺伝子からなる群に由来するいずれかである、請求項1に記載の組換え発生が最小限に抑えられた複製型レトロウイルスベクター。
【請求項4】
前記GaLV Env遺伝子が、配列番号19で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドである、請求項
3に記載の組換え発生が最小限に抑えられた複製型レトロウイルスベクター。
【請求項5】
前記MuLV Env遺伝子が、配列番号20で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドである、請求項
3に記載の組換え発生が最小限に抑えられた複製型レトロウイルスベクター。
【請求項6】
前記第1の治療用遺伝子又は前記第2の治療用遺伝子が、自殺遺伝子、サイトカイン遺伝子、及び癌抗原遺伝子からなる群から選択されるいずれかである、請求項1に記載の組換え発生が最小限に抑えられた複製型レトロウイルスベクター。
【請求項7】
前記自殺遺伝子がチミジンキナーゼ(TK)遺伝子又は酵母シトシンデアミナーゼ(yCD)遺伝子である、請求項
6に記載の組換え発生が最小限に抑えられた複製型レトロウイルスベクター。
【請求項8】
前記チミジンキナーゼ遺伝子が、配列番号21で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドである、請求項
7に記載の組換え発生が最小限に抑えられた複製型レトロウイルスベクター。
【請求項9】
前記酵母シトシンデアミナーゼ(yCD)遺伝子が、配列番号22で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドである、請求項
7に記載の組換え発生が最小限に抑えられた複製型レトロウイルスベクター。
【請求項10】
前記サイトカイン遺伝子が、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)である、請求項
6に記載の組換え発生が最小限に抑えられた複製型レトロウイルスベクター。
【請求項11】
前記顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)がヒトコドンで最適化されている、請求項
10に記載の組換え発生が最小限に抑えられた複製型レトロウイルスベクター。
【請求項12】
前記顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)が、配列番号65で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドである、請求項
11に記載の組換え発生が最小限に抑えられた複製型レトロウイルスベクター。
【請求項13】
前記癌抗原遺伝子が、ヒトCD19(Cluster of Differentiation 19:分化抗原群19)、CEA(Carcinoembryonic Antigen:癌胎児抗原)、又はHER2(human epidermal growth factor receptor 2:ヒト上皮増殖因子受容体2)である、請求項
6に記載の組換え発生が最小限に抑えられた複製型レトロウイルスベクター。
【請求項14】
前記ヒトCD19遺伝子が、配列番号43で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドである、請求項
13に記載の組換え発生が最小限に抑えられた複製型レトロウイルスベクター。
【請求項15】
前記ヒトCD19遺伝子が、細胞質ドメインのアミノ酸が除去された短縮型ヒトCD19(hCD19)遺伝子である、請求項
13に記載の組換え発生が最小限に抑えられた複製型レトロウイルスベクター。
【請求項16】
前記短縮型ヒトCD19遺伝子が、配列番号53で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドである、請求項
13に記載の組換え発生が最小限に抑えられた複製型レトロウイルスベクター。
【請求項17】
前記チミジンキナーゼ又は酵母シトシンデアミナーゼ遺伝子が前駆体薬物を活性化する、請求項
8又は
9に記載の組換え発生が最小限に抑えられた複製型レトロウイルスベクター。
【請求項18】
前記前駆体薬物が、ガンシクロビル(GCV)及び5-フルオロシトシン(5-FC)からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項
17に記載の組換え発生が最小限に抑えられた複製型レトロウイルスベクター。
【請求項19】
請求項1~
16のいずれか一項に記載のベクターを含む組換えレトロウイルス。
【請求項20】
請求項
19に記載の組換えレトロウイルスでトランスフェクト又は形質導入された細胞。
【請求項21】
前記細胞が、NS/O骨髄腫細胞、ヒト293T細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、HeLa細胞、CapT細胞(ヒト羊水由来細胞)、COS細胞、イヌD17細胞、マウスNIH/3T3細胞、レトロウイルスパッケージング細胞、ヒト間葉系幹細胞、及びネコPG4細胞からなる群から選択される、請求項
20に記載の組換えレトロウイルスでトランスフェクト又は形質導入された細胞。
【請求項22】
請求項
19に記載の組換えレトロウイルスを有効成分として含む、癌を予防又は治療するための医薬組成物。
【請求項23】
請求項
20に記載の組換えレトロウイルスでトランスフェクト又は形質導入された前記細胞を含む、癌を予防又は治療するための医薬組成物。
【請求項24】
前記癌が、粘液細胞癌腫、円形細胞癌腫、局所進行腫瘍、転移性癌、ユーイング肉腫、癌転移、リンパ転移、扁平上皮癌腫、食道扁平上皮癌腫、口腔癌腫、多発性骨髄腫、急性リンパ性白血病、急性非リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、ヘアリー細胞白血病、流出リンパ腫(セリアックリンパ腫)、胸腺リンパ腫肺癌、小細胞肺癌腫、皮膚T細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、副腎皮質癌、ACTH産生腫瘍、非小細胞肺癌、乳癌、小細胞癌腫、乳管癌腫、胃癌、結腸癌、結腸直腸癌、結腸直腸新生物に関連するポリープ、膵臓癌、肝臓癌、膀胱癌、原発性表在膀胱腫瘍、膀胱の浸潤性転移性細胞膀胱癌腫、筋肉浸潤性膀胱癌、前立腺癌、結腸直腸癌、腎臓癌、肝臓癌、食道癌、卵巣癌腫、子宮頸癌、子宮内膜癌、絨毛癌、卵巣癌、原発性腹膜上皮新生物、子宮頸癌腫、膣癌、外陰癌、子宮癌、濾胞性固形腫瘍、精巣癌、陰茎癌、腎細胞癌腫、脳癌、頭頸部癌、神経芽細胞腫、脳幹神経膠腫、神経膠腫、中枢神経系における転移性腫瘍細胞浸潤、骨腫、骨肉腫、悪性黒色腫、ヒト皮膚角化細胞の腫瘍進行、扁平上皮癌腫、甲状腺癌、網膜芽細胞腫、神経芽細胞腫、中皮腫、ウィルムス腫瘍、胆のう癌、絨毛性腫瘍、血管周皮腫、及びカポジ肉腫からなる群から選択される、請求項
22又は
23に記載の癌を予防又は治療するための医薬組成物。
【請求項25】
請求項
19に記載の組換えレトロウイルスを含む、癌を治療するための遺伝子送達組成物。
【請求項26】
以下の工程を含む、組換え発生が最小限に抑えられた複製型レトロウイルスベクターを調製するための方法
:
1)MuLV(マウス白血病ウイルス)のGag-Pol遺伝子、sEF1αプロモータ又はMCMVプロモータ、及び第1の治療用遺伝子を含む第1の組換え発現ベクターを調製する工程と、
2)ウイルスのEnv遺伝子、MCMVプロモータ、及び第2の治療用遺伝子を含む第2の組換え発現ベクターを調製する工程
;
前記MCMVプロモータ
は、配列番
号4、5、6及び7
のいずれかで表される塩基配列
からなる切断型MCMVプロモータであり、
前記sEF1αプロモータは、配列番号18で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドである。
【請求項27】
前記ウイルスのEnv遺伝子が、配列番号19又は20で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドである、請求項
26に記載の組換え発生が最小限に抑えられた複製型レトロウイルスベクターを調製するための方法。
【請求項28】
前記第1の治療用遺伝子が、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、酵母シトシンデアミナーゼ(yCD)遺伝子、及びヒトCD19遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項
26に記載の組換え発生が最小限に抑えられた複製型レトロウイルスベクターを調製するための方法。
【請求項29】
前記第2の治療用遺伝子が、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、酵母シトシンデアミナーゼ(yCD)遺伝子、及びヒトCD19遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項
26に記載の組換え発生が最小限に抑えられた複製型レトロウイルスベクターを調製するための方法。
【請求項30】
前記チミジンキナーゼ遺伝子が、配列番号21で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドである、請求項
28又は
29に記載の組換え発生が最小限に抑えられた複製型レトロウイルスベクターを調製するための方法。
【請求項31】
前記酵母シトシンデアミナーゼ(yCD)遺伝子が、配列番号22で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドである、請求項
28又は
29に記載の組換え発生が最小限に抑えられた複製型レトロウイルスベクターを調製するための方法。
【請求項32】
前記ヒトCD19遺伝子が、配列番号43で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドである、請求項
28又は
29に記載の組換え発生が最小限に抑えられた複製型レトロウイルスベクターを調製するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、効率的な癌治療のための治療用遺伝子としてチミジンキナーゼ(HSV-TK)、酵母シトシンデアミナーゼ(yCD)、ヒトCD19遺伝子又は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)を含み、治療用遺伝子の高い発現率を維持しながら組換えを最小限に抑える最小限のMCMVプロモータを含む、組換え発生が最小限に抑えられた複製型レトロウイルスベクターに関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子治療は、患者の細胞又は組織において疾患を引き起こす異常遺伝子を置換することによって、又は疾患の治療に有用な遺伝子を挿入することによって、疾患を治療するための技術を指す。遺伝子治療の開発の初期において、遺伝子治療の主な概念は、外来DNAを標的細胞の染色体に挿入して特定の遺伝子を発現させることであった。しかしながら、近年では、アンチセンスオリゴジオキシヌクレオチド、siRNA等を用いて特定の疾患に関連する遺伝子の発現を抑制するアンチセンス療法もその範疇に含まれる。
【0003】
このような遺伝子治療は、これまでの治療法とは全く異なる概念のアプローチであり、分子レベルで同定することによって疾患の根本的原因を治療することができる。更に、遺伝子治療は塩基配列特異的な作用であるため、主要な疾患に関連する遺伝子を除去することにより、他の治療法で問題となる不要な副作用を最小限に抑えることができる。遺伝子を標的化するそのような方法は、発現レベルを制御するための遺伝子の塩基配列のみが知られている場合、治療剤の製造においていかなる最適化も必要とせず、そのため、製造プロセスは抗体又は化合物治療剤と比較して非常に単純である。更に、疾患の原因となる遺伝子が既知であれば、他の治療薬が標的とし難い標的を標的とすることができ、したがって、次世代の治療薬として十分な可能性を有する。この点、既存の医療技術では治療が困難な不治疾患、癌、AIDS、遺伝病、神経系疾患に遺伝子治療を適用することで治療可能性を高めた研究結果がいくつかあり、実際の臨床試験も行われている(YOUNG et al,2006)。
【0004】
遺伝子治療は、遺伝子キャリア及び治療用遺伝子からなる。生体内に遺伝子を送達するためのツールである遺伝子キャリアは、ウイルスキャリアと非ウイルスキャリアとに大きく分けることができる。ウイルスキャリアは、ウイルスが自身を複製できないようにウイルスの大部分のウイルス遺伝子又はいくつかの必須遺伝子を排除し、代わりに治療用遺伝子をその中に挿入することによって製造される(Lotze MT et al.,Cancer Gene Therapy,9:692-699,2002)。ウイルスキャリアは遺伝子を高効率で送達することができるが、ウイルスの種類によっては、大量製造の困難さ、免疫応答の誘導、毒性、又は複製可能なウイルスの出現等の問題がある。遺伝子治療の開発において現在使用されている主なウイルスキャリアには、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、単純ヘルペスウイルス、及びポックスウイルスが含まれる。一方、非ウイルス性担体は、免疫反応を誘導せず、毒性が低く、大量製造が容易であるが、遺伝子送達効率及び一過性発現が低い。
【0005】
臨床現場で最も広く使用されているウイルスキャリアの一つであるレトロウイルスベクターは、1990年に米国国立衛生研究所によって行われた遺伝子治療の最初の臨床試験で使用され、治療用遺伝子を安定に挿入するための最も有用なベクターと考えられている。
【0006】
自己複製が制限された複製不可能なレトロウイルスベクターに比較的大きな遺伝子を挿入することができ、ベクターの力価は約106~107pfu/mlであるため、標的細胞への感染に大きな問題はない。更に、パッケージング細胞株が開発されているため、レトロウイルスベクターの製造方法が容易である。更に、レトロウイルスベクターは、治療用遺伝子をレトロウイルスプラスミドに挿入し、パッケージング細胞をレトロウイルスプラスミドで感染させて組換えウイルスを産生させ、標的細胞を組換えウイルスで感染させることによってスケールアップすることができる。しかしながら、染色体への挿入プロセスにおいて、遺伝子挿入に起因して変異が生じ得る。
【0007】
複製可能なレトロウイルスベクターはゲノム安定性の点で非常に議論の余地があり、遺伝子治療用の自己複製ウイルスベクターとして開発された場合、導入できる遺伝子のサイズが約1.3kbに制限されているため、様々な治療用遺伝子を導入することは困難である(J.of virology,Vol.75,6989-6998,2001)。
【0008】
抗癌遺伝子治療に用いられる治療用遺伝子としては、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ、シトシンデアミナーゼ等のプロドラッグ投与により癌細胞の自殺を誘導する遺伝子、インターロイキン12、GM-CSF等の免疫応答を促進し得るサイトカイン遺伝子、CEA又はHer-2等の腫瘍特異的抗原遺伝子が広く用いられている(Gottesman MM,Cancer Gene Therapy,10:501-508,2003)。自殺遺伝子は、癌細胞に送達された後に癌を死滅させ、サイトカイン遺伝子又は腫瘍特異的抗原遺伝子は、癌に対する免疫応答を活性化することによって癌細胞を攻撃する。
【0009】
近年、悪性腫瘍に対して選択的に抗腫瘍効果を示す酵素/プロドラッグの合成技術に関する研究が盛んに行われている。実際、自殺遺伝子を癌組織で発現させ、その前駆体を生体に全身投与すると、正常細胞には毒性が現れず、治療用遺伝子が発現している腫瘍細胞でのみ前駆体が毒性物質に変換され、腫瘍細胞を破壊する。
【0010】
最も広く使用されている自殺遺伝子の1つは、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV-TK)である。それは、細胞に無害なガンシクロビル(GCV)と呼ばれるプロドラッグを酵素反応によって細胞傷害性物質に変換することによって、自殺遺伝子を有する細胞並びにギャップ結合を介して隣接細胞のアポトーシスを誘導するバイスタンダー効果を有する。自殺遺伝子についての第3相までの臨床試験を実施して、有効性及び安定性を証明した(human gene therapy,4:725-731,1993;molecular therapy,1:195-203,2000)。
【0011】
別の自殺遺伝子は、酵母シトシンデアミナーゼ(yCD)であり、これは5-フルオロシトシン(5-FC)を強力な抗癌剤である5-フルオロウラシル(5-FU)に脱アミノ化する。5-FUは、5-フルオロウリジン三リン酸(5-FUTP)及び5-フルオロデオキシウリジン一リン酸(5-FdUMP)に代謝される。リボ核酸と融合した5-FUTPは、リボソームリボ核酸及び担体リボ核酸の合成を妨害し、5-FdUMPは、チミジンシンターゼを不可逆的に阻害することによってDNA合成を阻害する。更に、yCDは、yCDが送達されていない周囲の細胞を死滅させるバイスタンダー効果を有する。したがって、TK又はyCDを発現する腫瘍細胞では、それらはGCV及び5-FC等のプロドラッグを毒性代謝産物に変換することによって癌細胞を選択的に死滅させる。
【0012】
近年、癌治療のための免疫療法剤が多く研究されており、CAR-T等の癌細胞に特異的に発現する抗原を標的とする受容体をウイルスベクターにロードし、送達する免疫療法の方法が開発され、臨床応用されている。この免疫療法の方法は、体内の免疫細胞の特性を使用して副作用を可能な限り軽減することができ、患者の身体が癌細胞と戦うように免疫応答を強化することができる。癌細胞に特異的に発現する抗原遺伝子の例としては、CD19(分化抗原群19)、CEA(癌胎児抗原)、又はHER2(ヒト上皮増殖因子受容体2)が挙げられる。癌抗原遺伝子であるCD19は、主に血液悪性腫瘍において特異的に発現し、合計556のアミノ酸から構成される95kDaサイズの膜貫通糖タンパク質である。それは、細胞質C末端、細胞外N末端、及び膜貫通ドメインからなる。このうち、細胞外N末端は、シグナル伝達ペプチドとしてのCARとの結合に役割を果たす。細胞質C末端のY391、Y482、及びY513チロシン残基は、それぞれVavPLC(ホスホリパーゼC)及びPI3K(ホスホイノシチド3-キナーゼ)/Lyn等の細胞内シグナル伝達機構に関与し、大きな影響を及ぼす。
【0013】
GM-CSF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)は、顆粒球の増殖及び産生とともに白血球増殖因子として機能するサイトカインであり、感染と戦うマクロファージ数を急速に増加させることにより免疫応答を増加させる。
【0014】
2種類以上の治療用遺伝子を同時に遺伝子治療に適用する技術は、治療効率の点で優れており、特定の遺伝子治療に抵抗性を示す場合に特に有用である。ここで、近年、TK及びCDの投与による治療に抵抗性を示す癌が報告されているため、癌組織においてTK及びCDを同時に発現させることができる遺伝子治療用ベクター系は大きな利点を有する。しかし、HSV-TK及びCDの両方をRRV(複製型レトロウイルスベクター)に導入すると、ゲノムサイズは約10kb以上になり、単一のレトロウイルスベクターに挿入することは事実上不可能になる。更に、遺伝子治療用の複製型レトロウイルスベクターには、元のレトロウイルスのゲノムRNAに加えて外来遺伝子が導入されるため、ゲノムRNAのサイズが大きくなり、非相同配列が付加され、遺伝子組換えにより治療用遺伝子が失われやすく、ベクターの構築が困難となる。
【0015】
この問題を解決するために、本発明者らは、複製中のレトロウイルスに含まれるgag-pol-envゲノムのサイズを小さくし、ウイルスの安定性を維持した。また、gag-pol及びenv遺伝子を、1つのゲノムからなるgag-pol-envベクターとは別のベクターに含めることにより、二重複製型レトロウイルスベクターを構築して、他の治療用遺伝子の導入を可能にした。
【0016】
マウスサイトメガロウイルス(MCMV)IE遺伝子のプロモータは、特定の細胞においてHCMV IE遺伝子のプロモータよりも数倍から数十倍高い発現を誘導し(Lafemina R et al,J Gen Virol.,69,355-374(1988)、様々な細胞において均一に安定した発現を誘導することが知られている(Aiba-Masago S et al.,Am J Pathol.154,735-743(1999))。特に、MCMV主要前初期プロモータ(MIEP)領域から上流領域を除去すると、霊長類及びマウス細胞で非常に強い発現が誘導されることが報告されている(Kim and Risser,J.Virol.67,239-248(1993);and Kim,Biochem.Biophys.Res.Comm.,203,1152-1159(1994))。また、韓国特許第10-0423022号明細書は、プロモータは、ヒト及びマウスの真核細胞における遺伝子発現を強く安定的に誘導するため、MCMVプロモータを動物の発現ベクターとして用いることができることを開示している。
【0017】
しかし、MCMVプロモータ中の反復塩基配列に起因して、MCMV塩基配列の一部がウイルス複製中に失われるか、又はMCMVプロモータから始まる他の位置のウイルスベクター塩基配列が一緒に失われ、組換えウイルスが生じ、これは治療用遺伝子を連続的に発現するレトロウイルスベクターの産生及び感染において大きな問題である。
【0018】
したがって、本発明者らは、組換えを生じない遺伝子治療用ウイルスベクターを開発する一方で、MCMVプロモータの反復塩基配列に基づいてプロモータを短縮することにより、HSV-TK、hopt-yCD、hCD19又はGM-CSF遺伝子を含む4つのバリアントを治療用遺伝子として構築し、切断型MCMVプロモータを導入し、ウイルス感染中に組換えが生じないため治療用遺伝子の欠損がない複製型レトロウイルスベクターを開発した。本発明者らは、ベクターにおいてウイルスの組換えが起こらず、ベクターが優れた治療用遺伝子発現及び薬物感受性を有することを確認することにより、本発明を完成させた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、チミジンキナーゼ、シトシンデアミナーゼ、ヒトCD19遺伝子又は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子を治療用遺伝子として含む、組換え発生が最小限に抑えられた複製型レトロウイルスベクター、及び癌を治療するためのMCMVプロモータを提供することである。
【0020】
本発明の別の目的は、レトロウイルスベクターを含む組換えレトロウイルス、及び組換えレトロウイルスに感染した宿主細胞を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するために、本発明は、MuLVのGag-Pol遺伝子、sEF1αプロモータ又はMCMVプロモータ、及び第1の治療用遺伝子を含有する第1の組換え発現ベクターと、ウイルスのEnv遺伝子、MCMVプロモータ及び第2の治療用遺伝子を含有する第2の組換え発現ベクターと、を含む、組換え発生が最小限に抑えられた複製型組換えレトロウイルスベクターを提供する。
【0022】
本発明はまた、ベクターを含む組換えレトロウイルスを提供する。
【0023】
本発明はまた、組換えレトロウイルスでトランスフェクトされた宿主細胞を提供する。
【0024】
本発明はまた、組換えレトロウイルスを有効成分として含む、癌を予防又は治療するための医薬組成物を提供する。
【0025】
本発明はまた、組換えレトロウイルスを含む、癌を治療するための遺伝子送達組成物を提供する。
【0026】
更に、本発明は、組換え発生が最小限に抑えられた複製型レトロウイルスベクターを調製するための方法であって、以下の工程
1)MuLVのGag-Pol遺伝子、sEF1αプロモータ又はMCMVプロモータ、及び第1の治療用遺伝子を含む第1の組換え発現ベクターを調製する工程と、
2)ウイルスのEnv遺伝子、MCMVプロモータ、第2の治療用遺伝子を含む第2の組換え発現ベクターを調製する工程と、
を含む。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、組換え発生が最小限に抑えられた遺伝子治療用ベクターに関する。本発明では、ウイルス複製中に治療用遺伝子を連続的に発現するレトロウイルスベクターウイルスの産生及び感染において大きな問題となる組換えの発生を最小限に抑えるために、MCMVプロモータをリピート配列に基づいて切断することによって切断型MCMVプロモータを作製し、切断型MCMVプロモータを導入してベクターを作製した。切断型MCMVプロモータが組み込まれたベクターは、複数回インキュベートしても組換えを起こさず、治療用タンパク質の連続発現を示し、ベクターを含むウイルスをトランスフェクトした細胞では、プロドラッグを投与すると効果的に細胞死が起こることが確認された。したがって、本発明の組換え発生が最小限に抑えられたベクターは、癌の治療に有利に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】複製型レトロウイルスベクターの感染性及び組換え型を確認するために設計されたGaLV env-pMCMV-yCD/gag-pol-pMCMV-HSV1-TKベクターの概略図である。
【
図2】GaLV env-pMCMV-yCD/gag-pol-pMCMV-HSV1-TKベクターの感染性及び組換え型を確認するための実験手順を示す概略図である。
【
図3】GaLV env-pMCMV-yCD/gag-pol-pMCMV-HSV1-TKベクターの組換え型を確認するために行われるポリメラーゼ連鎖反応で使用されるプライマーの位置を示す概略図である。
【
図4】spRRVe-yCD:envベクターにおいて組換えが起こったかどうかを確認するために行われたポリメラーゼ連鎖反応の結果を示す図であり、ウイルス増殖及び感染が進行したが、ウイルス感染後の増幅プロセス中に組換えが起こったことを確認する。
【
図5】GaLV env、MCMVプロモータ、yCD、及び3’塩基配列において生じた組換えのタイプを確認する図である。
【
図6】MCMVプロモータ塩基配列内の4つの反復塩基配列(1.AACAGGAAA、2.GGGACTTTCCAATGGGTTTTGCCCAGTACA、3.TGGGTTTTTCC、4.GTACTTTCCCA)を示す図である。
【
図7】切断型MCMVプロモータがGaLV Envに導入されるspRRVe-TK、spRRVe-F1-TK、spRRVe-F2-TK、spRRVe-F3-TK及びspRRVe-F4-TKベクターの構造を示す図である。
【
図8】切断型MCMVプロモータがMuLV Envに導入されるsRRVe-TK、sRRVe-F1-TK、sRRVe-F2-TK、sRRVe-F3-TK及びsRRVe-F4-TKベクターの構造を示す図である。
【
図9】sRRVgp-sEF1a-hopt-yCD、spRRVe-TK、spRRVe-F1-TK、spRRVe-F2-TK、spRRVe-F3-TK及びspRRVe-F4-TKベクターにおける組換えを確認するためのプライマーの位置、及び組換えの有無を示す図である。
【
図10】チミジンキナーゼ(TK)タンパク質が、spRRVe-TK、spRRVe-F1-TK、spRRVe-F2-TK、spRRVe-F3-TK及びspRRVe-F4-TKベクターにおいて連続的に発現されることを確認する図である。
【
図11】spRRVe-F4-TKベクターの組換えがspRRVe-F4-TK/sRRVgp-sEF1a-hopt-yCDベクターにおいて起こらず、酵母シトシンデアミナーゼタンパク質がその中で連続的に発現されることを確認する図である。
【
図12】ベクターをプロドラッグGCV及び5-FCで処理した場合に、sRRVgp-sEF1a-hopt-yCD、spRRVe-TK、spRRVe-F1-TK、spRRVe-F2-TK、spRRVe-F3-TK及びspRRVe-F4-TKベクターで発現されるチミジンキナーゼ及び酵母シトシンデアミナーゼによって細胞死が誘導されることを確認する図である。
【
図13】sRRVgp-sEF1a-hopt-yCD、sRRVe-TK、sRRVe-F1-TK、sRRVe-F2-TK、sRRVe-F3-TK及びsRRVe-F4-TKベクターにおける組換えを確認するためのプライマーの位置、及び組換えの有無を示す図である。
【
図14】sRRVgp-F4-hopt-yCD及びsRRVe-F4-TKベクターにおける組換えを確認するためのプライマーの位置及び組換えの有無を示す図である。
【
図15】チミジンキナーゼ(TK)タンパク質がsRRVe-TK、sRRVe-F1-TK、sRRVe-F2-TK、sRRVe-F3-TK及びsRRVe-F4-TKベクターで連続的に発現されることを確認する図である。
【
図16】ベクターをプロドラッグGCVで処理した場合に、sRRVgp-sEF1a-hopt-yCD、sRRVe-TK、sRRVe-F1-TK、sRRVe-F2-TK、sRRVe-F3-TK及びsRRVe-F4-TKベクターで発現されるチミジンキナーゼによって細胞死が誘導されることを確認する図である。
【
図17】sRRVgp-sEF1a-hopt-yCD及びsRRVe-F4-TKベクターを含むウイルスでトランスフェクトした細胞における細胞死に従って定量的に細胞生存率を示す図である。
【
図18】組換えがsRRVe-F4-TK/sRRVgp-F4-hCD19ベクターにおいて起こるかどうかを確認するためのプライマーの増幅位置を示す図である。
【
図19】継代3からのsRRVgp-F4-hCD19ベクターにおいて組換えが生じたことをPCRによって確認する図である。
【
図20】sRRVe-F4-hCD19/sRRVgp-F4-hopt-yCDベクターにおいて組換えが起こるかどうかを確認するためのプライマーの増幅位置を示す図である。
【
図21】sRRVe-F4-hCD19ベクターにおいて組換えが起こらなかったことをPCRによって確認する図である。
【
図22】sRRVe-F4-TK及びsRRVgp-F4-hCD19tベクターの概略図である。
【
図23】TKを導入したsRRVe-F4-TKベクターとhCD19tを導入したsRRVgp-F4-hCD19tベクターで組換えが生じなかったことをPCRによって確認する図である。
【
図24】sRRVgp-F4-hopt-yCD及びsRRVe-F4-hCD19tベクターの概略図である。
【
図25】hopt-yCDを導入したsRRVgp-F4-hopt-yCDベクター及びhCD19tを導入したsRRVe-F4-hCD19tベクターで組換えが生じなかったことをPCRで確認した図である。
【
図26】sRRVgp-F4-mGM-CSF及びsRRVe-F4-hCD19tベクターの概略図である。
【
図27】mGM-CSFが導入されたsRRVgp-F4-mGM-CSFベクター及びhCD19tが導入されたsRRVe-F4-hCD19tベクターにおいて組換えが生じなかったことをPCRによって確認する図である。
【
図28】sRRVgp-F4-hGM-CSF及びsRRVe-F4-hCD19ベクターの概略図である。
【
図29】sRRVgp-F4-hGM-CSFベクターの複製が構造不安定性のために完全には起こらなかったことをPCRによって確認する図である。
【
図30】sRRVgp-F4-hopt-GM-CSF及びsRRVe-F4-hCD19ベクターの概略図である。
【
図31】sRRVgp-F4-hopt-GM-CSF及びsRRVe-F4-hCD19tベクターの概略図である。
【
図32】hopt-GM-CSFが導入されたsRRVgp-F4-hopt-GM-CSFベクター及びウイルス複製中にhCD19が導入されたsRRVe-F4-hCD19ベクターにおいて組換えが起こらなかったことをPCRによって確認する図である。
【
図33】hopt-GM-CSFが導入されたsRRVgp-F4-hopt-GM-CSFベクター及びウイルス複製中にhCD19tが導入されたsRRVe-F4-hCD19tベクターにおいて組換えが起こらなかったことをPCRによって確認する図である。
【発明の詳細な説明】
【0029】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0030】
本発明は、MuLV(マウス白血病ウイルス)のGag-Pol遺伝子、sEF1αプロモータ又はMCMVプロモータ、及び第1の治療用遺伝子を含む第1の組換え発現ベクターと、ウイルスのEnv遺伝子、MCMVプロモータ及び第2の治療用遺伝子を含有する第2の組換え発現ベクターと、を含む、組換え発生が最小限に抑えられた複製型レトロウイルスベクターを提供する。
【0031】
MCMVプロモータは、配列番号3で表される塩基配列を有する646bpのポリヌクレオチドである。
【0032】
MCMVプロモータは、マウスサイトメガロウイルスのプロモータであり、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)IE遺伝子のプロモータよりも特定の細胞で数倍から数十倍高い発現を誘導し(Lafemina R et al,J Gen Virol.,69,355-374(1988))、様々な細胞で均一に安定した発現を誘導することが知られている(Aiba-Masago S et al.,Am J Pathol.154,735-743(1999))。特に、主要前初期プロモータ(MIEP)部位の上流領域が除去されたMCMVプロモータは、霊長類及びマウス細胞において非常に強い発現を誘導することが報告されている(Kim及びRisser,J.Virol.67,239-248(1993);並びにKim,Biochem.Biophys.Res.Comm.,203,1152-1159(1994)。
【0033】
しかしながら、4つの位置のMCMVプロモータ中の反復塩基配列のために、MCMVプロモータから始まる他の部位のウイルスベクター塩基配列が失われるか、又は塩基配列の一部がプロモータ内で失われ、組換えが生じ、治療用遺伝子が失われ、治療用遺伝子を連続的に発現するレトロウイルスベクターウイルスの産生及び感染において大きな問題を引き起こす。
【0034】
したがって、組換えの発生を最小限に抑えるために、MCMVプロモータは、切断型MCMVプロモータであることを特徴とする。
【0035】
切断型MCMVプロモータは、配列番号4、5、6及び7で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドからなる群から選択される任意の1つであり得、好ましくは配列番号5、6及び7で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドからなる群から選択される任意の1つであり得、より好ましくは配列番号6又は7で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドであり得、最も好ましくは配列番号7で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドであり得る。
【0036】
本発明の特定の実施形態では、MCMVプロモータ全長配列、GaLV env及び酵母シトシンデアミナーゼタンパク質をコードする遺伝子を含むベクター(spRRVe-yCD)、並びにMCMVプロモータ全長配列、gag-pol遺伝子及びチミジンキナーゼ(TK)タンパク質をコードする遺伝子を含むベクター(sRRVgp-TK)において、MCMVプロモータ中の反復塩基配列に起因して遺伝子組換えが起こることが確認された(
図1~6)。
【0037】
sEF1α(短鎖伸長因子1α)プロモータは、配列番号18で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドである。
【0038】
ウイルスEnv遺伝子は、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、両種指向性MuLV、異種MuLV、ネコ内因性レトロウイルス(RD114)、水疱性口内炎ウイルス(VSV)及び麻疹ウイルス(MV)Env遺伝子からなる群に由来するいずれか1つである。ポリヌクレオチドは、上記の特徴を有するバリアントを含み得る。
【0039】
GaLV Env遺伝子は、配列番号19で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドである。
【0040】
MuLV Env遺伝子は、配列番号20で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドである。
【0041】
第1の治療用遺伝子又は第2の治療用遺伝子は、プロドラッグの投与により癌細胞の自殺を誘発する自殺遺伝子、免疫応答を促進するインターロイキン-12又はGM-CSF等のサイトカイン遺伝子、CD19、CEA、HER2等の腫瘍特異的癌抗原遺伝子からなる群から選択されるいずれか1つであり得る。
【0042】
自殺遺伝子は、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子又は酵母シトシンデアミナーゼ(yCD)遺伝子であり得る。
【0043】
第1治療用遺伝子及び第2治療用遺伝子は、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、酵母シトシンデアミナーゼ(yCD)遺伝子及びヒトCD19遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0044】
チミジンキナーゼ遺伝子は、配列番号21で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドである。ポリヌクレオチドは、チミジンキナーゼタンパク質のアミノ酸配列をコードするポリ塩基配列だけでなく、ポリヌクレオチドと実質的に同一の塩基配列を有するポリヌクレオチド及びその断片を含むことができる。実質的に同一の塩基配列を有するポリヌクレオチドは、本発明のポリヌクレオチドと80%以上、具体的には90%以上、より具体的には95%以上の相同性を有することができる。上述の通り、本発明のポリヌクレオチドは、それと同等の活性を有するタンパク質をコードする限り、1つ以上の塩基配列が置換、欠失、又は挿入されたバリアントを含むことができる。
【0045】
酵母シトシンデアミナーゼ(yCD)遺伝子は、配列番号22で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドである。
【0046】
シトシンデアミナーゼ遺伝子は、ヒトコドンで最適化された遺伝子であり得る。
【0047】
本明細書で使用される「ヒトコドンで最適化」という用語は、DNAが宿主細胞内で転写され、タンパク質に翻訳される場合、アミノ酸を指定するコドンの間に宿主に応じて好ましいコドンがあり、それらがヒトコドンで置換されて、核酸によってコードされるアミノ酸又はタンパク質の発現効率を高めることを意味する。
【0048】
チミジンキナーゼ遺伝子又は酵母シトシンデアミナーゼ遺伝子は、前駆体薬物を活性化する。前駆体薬物は、ガンシクロビル(GCV)及び5-フルオロシトシン(5-FC)からなる群から選択される少なくとも1つである。本発明の一実施形態では、チミジンキナーゼ遺伝子はガンシクロビルを活性化することができ、酵母シトシンデアミナーゼ遺伝子は5-フルオロシトシンを活性化することができる。
【0049】
顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)は、ヒトコドンで最適化されたものであり得る。
【0050】
本明細書で使用される「ヒトコドンで最適化」という用語は、DNAが宿主細胞内で転写され、タンパク質に翻訳される場合、アミノ酸を指定するコドンの間に宿主に応じて好ましいコドンがあり、それらがヒトコドンで置換されて、核酸によってコードされるアミノ酸又はタンパク質の発現効率を高めることを意味する。
【0051】
ヒトCD19(分化抗原群19)遺伝子は、細胞質ドメインのアミノ酸が除去される短縮型ヒトCD19遺伝子であり得、細胞質ドメインの233個のアミノ酸が除去され得る。
【0052】
ヒトCD19遺伝子は、配列番号43又は53で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドである。
【0053】
gag遺伝子は、レトロウイルスコアを構成する4種類のタンパク質をコードするポリヌクレオチドであり得る。一方、pol遺伝子はレトロウイルス逆転写酵素をコードするポリヌクレオチドであり、env遺伝子はレトロウイルスエンベロープ糖タンパク質をコードするポリヌクレオチドである。
【0054】
MuLV-Gag遺伝子は、マウス白血病ウイルスのGag遺伝子であり、配列番号23で表される塩基配列から構成されるポリヌクレオチドであり得る。MuLV-Pol遺伝子は、マウス白血病ウイルスのPol遺伝子であり、配列番号24で表される塩基配列から構成されるポリヌクレオチドであり得る。MuLV Gag-Pol遺伝子は、配列番号23及び24で表される塩基配列が融合した塩基配列から構成されるポリヌクレオチドであり得る。
【0055】
本明細書で使用される「複製可能」という用語は、特定の遺伝子を含むウイルスゲノムが動物細胞又は特定の遺伝子を含むウイルスベクターで形質導入又は感染された細胞において、ウイルスベクターがそれ自体を複製することができることを意味する。
【0056】
本明細書で使用される場合、「複製型レトロウイルスベクター」とは、非溶菌性ウイルスを産生するベクターであり、核膜の亀裂を通って核内に入るため、分裂中の細胞、すなわち癌細胞に特異的に感染することができ、したがって挿入された遺伝子が他の正常細胞で発現することを防ぐことができる。したがって、ベクターは、癌細胞に遺伝子を安全に送達することができ、ウイルスを複製することができるため、遺伝子送達効率を高めることができる。
【0057】
本発明の具体的な実施形態において、470bp、337bp、237bp、及び160bpのサイズをそれぞれ有する4つの切断型MCMVプロモータを、組換えを最小限に抑えるためにMCMVプロモータ中の反復塩基配列を除去することによって調製した(表2)。更に、切断型MCMVプロモータを導入した、GaLV env系ベクター(spRRVe-TK、spRRVe-F1-TK、spRRVe-F2-TK、spRRVe-F3-TK及びspRRVe-F4-TK)及びMuLV系ベクター(sRRVe-TK、sRRVe-F1-TK、sRRVe-F2-TK、sRRVe-F3-TK及びsRRVe-F4-TK)を構築し、チミジンキナーゼタンパク質を発現するベクターとともに導入したベクターとしてgag-pol-sEF1α-hopt-yCD発現酵母シトシンデアミナーゼタンパク質から構成されるsRRVe-sEF1α-hopt-yCDベクターを構築し(
図7、8)、続いて組換えの発生を確認した。その結果、sRRVe-sEF1α-hopt-yCDベクターでは組換えが起こらず(
図9参照)、MCMVプロモータ内の反復配列の大部分が除去されたspRVe-F4-TKベクターでは組換えがほとんど起こらないことが確認された(
図10、
図11及び
図13)。更に、sRRVgp-F4-hopt-yCDと、sRRVe-sEF1α-hopt-yCDベクターのsEF1αをMCMVのF4短縮型プロモータで置換したベクターとの組み合わせであっても組換えが生じないことが確認された(
図14参照)。また、ヒトCD19遺伝子を治療用遺伝子として導入したsRRVgp-F4-hopt-yCD/sRRVe-F4-hCD19ベクターにおいて組換えが生じないことが確認された(
図20及び
図21参照)。また、ヒトCD19遺伝子の細胞質ドメインの短縮型アミノ酸を有するhCD19tを治療用遺伝子として導入したsRRVe-F4-hCD19tベクターにおいても組換えが生じないことが確認された(
図23及び
図25参照)。また、マウスGM-CSFを治療用遺伝子として導入したsRRVgp-F4-mGM-CSFベクターでも組換えが生じないことが確認された(
図27参照)。また、コドン最適化ヒトGM-CSFを治療用遺伝子として導入したsRRVgp-F4-hopt-GM-CSFベクターでは組換えが生じないことが確認された(
図32及び
図33参照)。
【0058】
したがって、本発明のベクターにおける組換えの発生が最小限に抑えられるため、治療用遺伝子を欠損なく安定に発現させるために有用に用いることができる。
【0059】
本発明はまた、ベクターを含む組換えレトロウイルスを提供する。一方、MuLVのGag-Pol遺伝子、sEF1αプロモータ又はMCMVプロモータ、及び第1治療用遺伝子を含む第1組換え発現ベクターと、ウイルスのEnv遺伝子、MCMVプロモータ及び第2の治療用遺伝子を含有する第2の組換え発現ベクターと、は、それぞれ又は一緒に組換えレトロウイルスに含まれ得る。
【0060】
本発明の具体的な実施形態において、470bp、337bp、237bp、及び160bpのサイズをそれぞれ有する4つの切断型MCMVプロモータを、組換えを最小限に抑えるためにMCMVプロモータ中の反復塩基配列を除去することによって調製した(表2)。更に、切断型MCMVプロモータを導入した、GaLV env系ベクター(spRRVe-TK、spRRVe-F1-TK、spRRVe-F2-TK、spRRVe-F3-TK及びspRRVe-F4-TK)及びMuLV系ベクター(sRRVe-TK、sRRVe-F1-TK、sRRVe-F2-TK、sRRVe-F3-TK及びsRRVe-F4-TK)を構築し、チミジンキナーゼタンパク質を発現するベクターとともに導入したベクターとしてgag-pol-sEF1α-hopt-yCD発現酵母シトシンデアミナーゼタンパク質から構成されるsRRVe-sEF1α-hopt-yCDベクターを構築し(
図7、8)、続いて組換えの発生を確認した。その結果、sRRVe-sEF1α-hopt-yCDベクターでは組換えが起こらず(
図9参照)、MCMVプロモータ内の反復配列の大部分が除去されたspRVe-F4-TKベクターでは組換えがほとんど起こらないことが確認された(
図10、
図11及び
図13)。更に、sRRVgp-F4-hopt-yCDと、sRRVe-sEF1α-hopt-yCDベクターのsEF1αをMCMVのF4短縮型プロモータで置換したベクターとの組み合わせであっても組換えが生じないことが確認された(
図14参照)。また、ヒトCD19遺伝子を治療用遺伝子として導入したsRRVgp-F4-hopt-yCD/sRRVe-F4-hCD19ベクターにおいて組換えが生じないことが確認された(
図20及び
図21参照)。また、ヒトCD19遺伝子の細胞質ドメインの短縮型アミノ酸を有するhCD19tを治療用遺伝子として導入したsRRVe-F4-hCD19tベクターにおいても組換えが生じないことが確認された(
図23及び
図25参照)。また、マウスGM-CSFを治療用遺伝子として導入したsRRVgp-F4-mGM-CSFベクターでも組換えが生じないことが確認された(
図27参照)。また、コドン最適化ヒトGM-CSFを治療用遺伝子として導入したsRRVgp-F4-hopt-GM-CSFベクターでは組換えが生じないことが確認された(
図32及び
図33参照)。
【0061】
したがって、本発明のベクターにおける組換えの発生が最小限に抑えられるため、治療用遺伝子を欠損なく安定に発現させるために有用に用いることができる。
【0062】
本発明はまた、組換えレトロウイルスでトランスフェクトされた宿主細胞を提供する。
【0063】
宿主細胞は、NS/O骨髄腫細胞、ヒト293T細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、HeLa細胞、CapT細胞(ヒト羊水由来細胞)、COS細胞、イヌD17細胞、マウスNIH/3T3細胞、レトロウイルスパッケージング細胞、ヒト間葉系幹細胞、又はネコPG4細胞であり得る。
【0064】
トランスフェクションは、組換えレトロウイルスベクタープラスミドで形質導入された細胞で産生された組換えウイルスを上記細胞に感染させることによって行われる。
【0065】
トランスフェクションは、当該分野で公知の方法に従って行うことができる。例えば、リポフェクタミン法、マイクロインジェクション法、リン酸カルシウム沈殿法、エレクトロポレーション法、リポソーム媒介性トランスフェクション法、DEAE-デキストラン処理法及び遺伝子ボンバードメント法からなる群より選択される1つ又は複数の方法により行うことができる。本発明の一態様において、トランスフェクションはリポフェクタミン法により行うことができる。
【0066】
トランスフェクト細胞は、動物細胞の培養に通常用いられる培地を用いて培養することができる。例えば、培地は、イーグルMEM、a-MEM、イスコフMEM、培地199、CMRL1066、RPMI1640、F12、F10、DMEM、DMEM及びF12の混合培地、Way-mouth’s MB752/1、McCoy’s 5A及びMCDBシリーズ培地からなる群から選択される少なくとも1つであり得る。本発明の一実施形態では、培地はDMEMであり得る。
【0067】
本発明はまた、組換えレトロウイルスを有効成分として含む、癌を予防又は治療するための医薬組成物を提供する。
【0068】
一方、MuLV(マウス白血病ウイルス)のGag-Pol遺伝子、sEF1αプロモータ及び酵母シトシンデアミナーゼ(yCD)遺伝子を含む第1の組換え発現ベクター;及びウイルスのEnv遺伝子、MCMVプロモータ及びチミジンキナーゼ遺伝子を含む第2の組換え発現ベクターは、それぞれ又は一緒に組換えレトロウイルスに含まれ得る。
【0069】
レトロウイルスは、任意の分裂細胞を標的とすることができ、具体的には、細胞は癌細胞であり得る。癌細胞は、粘液細胞癌腫、円形細胞癌腫、局所進行腫瘍、転移性癌、ユーイング肉腫、癌転移、リンパ転移、扁平上皮癌腫、食道扁平上皮癌腫、口腔癌腫、多発性骨髄腫、急性リンパ性白血病、急性非リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、ヘアリー細胞白血病、流出リンパ腫(セリアックリンパ腫)、胸腺リンパ腫肺癌、小細胞肺癌腫、皮膚T細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、副腎皮質癌、ACTH産生腫瘍、非小細胞肺癌、乳癌、小細胞癌腫、乳管癌腫、胃癌、結腸癌、結腸直腸癌、結腸直腸新生物に関連するポリープ、膵臓癌、肝臓癌、膀胱癌、原発性表在膀胱腫瘍、膀胱の浸潤性転移性細胞膀胱癌腫、筋肉浸潤性膀胱癌、前立腺癌、結腸直腸癌、腎臓癌、肝臓癌、食道癌、卵巣癌腫、子宮頸癌、子宮内膜癌、絨毛癌、卵巣癌、原発性腹膜上皮新生物、子宮頸癌腫、膣癌、外陰癌、子宮癌、濾胞性固形腫瘍、精巣癌、陰茎癌、腎細胞癌腫、脳癌、頭頸部癌、神経芽細胞腫、脳幹神経膠腫、神経膠腫、中枢神経系における転移性腫瘍細胞浸潤、骨腫、骨肉腫、悪性黒色腫、ヒト皮膚角化細胞の腫瘍進行、扁平上皮癌腫、甲状腺癌、網膜芽細胞腫、神経芽細胞腫、中皮腫、ウィルムス腫瘍、胆のう癌、絨毛性腫瘍、血管周皮腫、又はカポジ肉腫等の癌に由来する細胞を含み得る。
【0070】
本発明の具体的な実施形態では、GaLV env系ベクター(spRRVe-TK、spRRVe-F1-TK、spRRVe-F2-TK、spRRVe-F3-TK、及びspRRVe-F4-TK)及びMuLV系ベクター(sRRVe-TK、sRRVe-F1-TK、sRRVe-F2-TK、sRRVe-F3-TK、及びsRRVe-F4-TK)において、治療用遺伝子として使用されるチミジンキナーゼ及び酵母シトシンデアミナーゼが安定に発現し、治療用遺伝子がプロドラッグGCV及び5-FCに作用することによって、細胞を死滅させることが確認された。
【0071】
したがって、本発明のベクターを含む組換えレトロウイルスは、癌の予防又は治療に有効に利用することができる。
【0072】
本発明の医薬組成物は、非経口製剤として製剤化することができる。非経口投与用の製剤は、滅菌水溶液、水不溶性賦形剤、懸濁液及びエマルジョン等の注射剤を含み得る。
【0073】
プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、及びオレイン酸エチル等の注射可能なエステルは、水不溶性賦形剤及び懸濁液として使用することができる。
【0074】
非経口投与は、皮膚外用、腹腔内注射、直腸注射、皮下注射、静脈内注射、筋肉内注射、及び胸部内注射からなる群から選択される方法によって行うことができる。
【0075】
本発明の組成物は、薬学的有効量で投与することができる。有効量は、疾患の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する患者の感受性、投与時間、投与経路、治療期間、同時に使用されている薬物等に応じて決定され得る。本発明の組成物は、単独で、又は他の治療剤と組み合わせて投与することができる。併用投与では、投与は連続的又は同時であり得る。
【0076】
組成物の有効用量は、組換えウイルスの場合では、体重1kg当たり1011~1013個のウイルス粒子(108~1010IU)/kg、細胞の場合では、103~106細胞/kgであり、単回投与として実行される。
【0077】
本発明の医薬組成物は、組換え発生が最小限に抑えられた複製型レトロウイルスベクターを、組成物の総重量に対して、有効成分として、10重量%~95重量%含有することができる。更に、本発明の医薬組成物は、上記の有効成分に加えて、同一又は同様の機能を発揮する少なくとも1種の有効成分を更に含むことができる。
【0078】
本発明はまた、組換えレトロウイルスを含む、癌を治療するための遺伝子送達組成物を提供する。
【0079】
一方、MuLV(マウス白血病ウイルス)のGag-Pol遺伝子、sEF1αプロモータ又はMCMVプロモータ、及び第1治療用遺伝子を含む第1組換え発現ベクターと、ウイルスのEnv遺伝子、MCMVプロモータ及び第2の治療用遺伝子を含有する第2の組換え発現ベクターと、は、それぞれ又は一緒に組換えレトロウイルスに含まれ得る。
【0080】
癌には、上記のように癌が含まれ得る。
【0081】
本明細書で使用される「遺伝子送達組成物」という用語は、遺伝子を標的細胞に移入することができる組成物を指す。
【0082】
本発明の具体的な実施形態では、GaLV env系ベクター(spRRVe-TK、spRRVe-F1-TK、spRRVe-F2-TK、spRRVe-F3-TK、及びspRRVe-F4-TK)及びMuLV系ベクター(sRRVe-TK、sRRVe-F1-TK、sRRVe-F2-TK、sRRVe-F3-TK、及びsRRVe-F4-TK)において、治療用遺伝子として使用されるチミジンキナーゼ及び酵母シトシンデアミナーゼが安定に発現し、治療用遺伝子がプロドラッグGCV及び5-FCに作用することによって、細胞を死滅させることが確認された。
【0083】
したがって、本発明によるベクターを含む組換えレトロウイルスは、癌治療のための遺伝子の送達に有効に利用することができる。
【0084】
更に、本発明は、組換え発生が最小限に抑えられた複製型レトロウイルスベクターを調製するための方法であって、以下の工程
1)MuLV(マウス白血病ウイルス)のGag-Pol遺伝子、sEF1αプロモータ又はMCMVプロモータ、及び第1の治療用遺伝子を含む第1の組換え発現ベクターを調製する工程と、
2)ウイルスのEnv遺伝子と、MCMVプロモータと、第2の治療用遺伝子とを含む第2の組換え発現ベクターを調製する工程と、
を含む。
【0085】
ベクターは、上述した特徴を有する。例えば、MCMVプロモータは、配列番号3、4、5、6及び7で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドからなる群から選択され、sEF1αプロモータは、配列番号18で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドであり、ウイルスのEnv遺伝子は、配列番号19又は20で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドである。
【0086】
更に、第1治療用遺伝子及び第2治療用遺伝子は、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、酵母シトシンデアミナーゼ(yCD)遺伝子及びヒトCD19遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0087】
チミジンキナーゼ遺伝子は配列番号21で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドであり、酵母シトシンデアミナーゼ(yCD)遺伝子は配列番号22で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドであり、ヒトCD19遺伝子は配列番号43で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドである。
【0088】
チミジンキナーゼ遺伝子は前駆体薬物ガンシクロビルを活性化することができ、シトシンデアミナーゼ遺伝子は前駆体薬物5-フルオロシトシンを活性化することができる。
【0089】
本発明の具体的な実施形態において、470bp、337bp、237bp、及び160bpのサイズをそれぞれ有する4つの切断型MCMVプロモータを、組換えを最小限に抑えるためにMCMVプロモータ中の反復塩基配列を除去することによって調製した(表2)。更に、切断型MCMVプロモータを導入した、GaLV env系ベクター(spRRVe-TK、spRRVe-F1-TK、spRRVe-F2-TK、spRRVe-F3-TK及びspRRVe-F4-TK)及びMuLV系ベクター(sRRVe-TK、sRRVe-F1-TK、sRRVe-F2-TK、sRRVe-F3-TK及びsRRVe-F4-TK)を構築し、チミジンキナーゼタンパク質を発現するベクターとともに導入したベクターとしてgag-pol-sEF1α-hopt-yCD発現酵母シトシンデアミナーゼタンパク質から構成されるsRRVe-sEF1α-hopt-yCDベクターを構築し(
図7、8)、続いて組換えの発生を確認した。その結果、sRRVe-sEF1α-hopt-yCDベクターでは組換えが起こらず(
図9参照)、MCMVプロモータ内の反復配列の大部分が除去されたspRVe-F4-TKベクターでは組換えがほとんど起こらないことが確認された(
図10、
図11及び
図13)。sRRVgp-F4-hopt-yCDと、sRRVe-sEF1α-hopt-yCDベクターのsEF1αをMCMVのF4短縮型プロモータで置換したベクターとの組み合わせであっても組換えが生じないことも確認された(
図14参照)。また、ヒトCD19遺伝子を治療用遺伝子として導入したsRRVgp-F4-hopt-yCD/sRRVe-F4-hCD19ベクターにおいて組換えが生じないことが確認された(
図20及び
図21参照)。また、ヒトCD19遺伝子の細胞質ドメインの短縮型アミノ酸を有するhCD19tを治療用遺伝子として導入したsRRVe-F4-hCD19tベクターにおいても組換えが生じないことが確認された(
図23及び
図25参照)。また、マウスGM-CSFを治療用遺伝子として導入したsRRVgp-F4-mGM-CSFベクターでも組換えが生じないことが確認された(
図27参照)。また、コドン最適化ヒトGM-CSFを治療用遺伝子として導入したsRRVgp-F4-hopt-GM-CSFベクターでは組換えが生じないことが確認された(
図32及び
図33参照)。
【0090】
したがって、本発明の製造方法により調製されたベクターにおける組換えの発生が最小限に抑えられるため、治療用遺伝子を欠損なく安定に発現させるために有用に使用され得る。
【実施例】
【0091】
以下、本発明を実施例に従って詳細に説明する。
【0092】
しかし、以下の実施例は本発明を説明するためのものであり、本発明の内容がこれらに限定されるものではない。
【0093】
<実施例1>複製型レトロウイルスベクターの構築
<1-1>ウイルスベクターの作製
gag、pol及びenv遺伝子が単一のゲノムに合成される従来のRRVベクターに1.3kbより大きい外来遺伝子を挿入すると、ゲノムサイズが大きくなり、ベクター構造が不安定になるため、インタクトな形態のウイルスベクターを増殖させることができない。したがって、gag-pol遺伝子及びenv遺伝子がそれぞれ独立したベクターで発現されるように2つのベクターを構築した。このとき、envを、哺乳動物の感染に対して優しいMuLV(マウス白血病ウイルス)のenv遺伝子、又は霊長類の感染に対して優しいGaLV(テナガザル白血病ウイルス)のenv遺伝子で置換した。治療用遺伝子として、gag-polベクターにHSV-TK(単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ)遺伝子を、GaLV-envベクターにyCD(酵母シトシンデアミナーゼ)遺伝子をそれぞれクローニングし、マウスサイトメガロウイルス(MCMV)プロモータを遺伝子発現制御用プロモータとしてベクターを構築した。
【0094】
具体的には、以下のようにしてウイルスベクターを構築した。
【0095】
1.spRRVe-yCD envベクター(配列番号25):(
図1)
予め構築したspRRVeMCMV-MCS(GaLVEnv-MCMV-MCS-3’-LTR)ベクターのMCS(マルチクローニングサイト)に存在するPmeIを切断し、CIAPで処理して、短縮型ベクターの両端を平滑末端の形態で調製した。yCDを挿入したpcDNA-yCDベクターをXhoI-HindIIIで消化してyCD遺伝子を回収した後、T4DNAポリメラーゼで処理してベクターの両端を平滑末端に形態に調製した。次に、T4DNAリガーゼを用いてspRRVeMCMV(PmeI、CIAP)ベクターとyCD(XhoI-HindIII、T4DNAポリメラーゼ)とを連結して、spRRVe-yCDを作製した。
【0096】
2.sRRVgp-TK:gag-polベクター(配列番号26):(
図1)
プロモータ及び導入遺伝子を含まないsRRVgp(レトロウイルスgag-polを含むベクター)ベクターを構築した。次いで、gag-polと3’-LTRとの間のEcoRI部位にMCMV-TKを導入した。sRRVgp-TKは、1つのクローニングプロセスで完了することができなかったので、最初にMCMVをクローニングし、次いで、TKをMCMV下で導入して、最終生成物であるsRRVgp-TKを完成させた。方法は以下の通りである。
【0097】
sRRVgpのgag-pol及び3’-LTR間のEcoRI部位にMCMVをクローニングするために、MCMVプロモータをPCRによって増幅した。
MCMV-F-EcoRI:5’-cgGAATTCAACAGGAAAGTCCCATTGGA-3’(配列番号47)
MCMV-R-PmeI-EcoRI:5’-cgGAATTCGTTTAAACCTGCGTTCTACGGTGGTCAGA-3’(配列番号48)増幅したMCMVプロモータ産物をEcoRIで消化し、EcoRI及びCIAPで処理することによってsRRVgpベクターを回収した後、T4DNAリガーゼで連結してsRRVgpMCMVを完成させた。次いで、sRRVgpMCMVベクターのPmeIサイトにTK遺伝子をクローニングするために、PCRでTK遺伝子を増幅してPmeIを含めた。
TK-F-PmeI:5’-cgGTTTAAACATGGCTTCGTACCCCTGCCATC-3’(配列番号49)
TK-R-PmeI:5’-CGGTTTAAACTCAGTTAGCCTCCCCCATCTCC-3’(配列番号50)PmeI及びCIAPで処理することにより、sRRVgpMCMVを回収し、TK遺伝子をPmeIで消化し回収した後、T4DNAリガーゼと連結して最終産物sRRVgp-TKを構築した。
【0098】
<1-2>ウイルス産生
MCMVプロモータの制御下で治療用遺伝子が発現する複製型レトロウイルスベクターの感染性及び組換え型を確認するため、実施例<1-1>で構築したベクターを用いて、
図2の模式図に示す手順でウイルスを作製した。
【0099】
具体的には、実施例<1-1>で作製したベクターを293T細胞に一過性に形質導入することによりウイルスを作製し、脳腫瘍細胞株U87MGに2E7gc(ゲノムコピー)のウイルスで感染させた。最初の感染の3日後、培養上清を採取し、新しいU87MGに再感染させ、感染したU87MG細胞株を回収し、ゲノムDNAを単離した。
【0100】
<1-3>spRRVe-yCD:envベクターの組換えの確認
遺伝子治療用複製型レトロウイルスベクターは、導入された外来遺伝子によりゲノムRNAのサイズが大きくなり、非相同配列が付加されるため、組換えを起こす可能性が高い。したがって、遺伝子治療のための効率的かつ安定な複製型レトロウイルスベクターを構築するためには、発生段階における組換えの存在及び程度を確認することが非常に重要である。実施例<1-2>で作製したウイルスから抽出したゲノムDNAを用いて、ウイルスの増殖及び感染が進んでいるか、及びウイルス感染後の増幅プロセスで組換えが起こったかを確認するために、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行った。
【0101】
具体的には、envベクターを特異的に増幅可能な下記表1に記載のプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応を行った。
図3に示すように、spRRVe-yCD:envベクターについて、GaLV env及び3’末端を増幅するプライマーを標的部位として使用してゲノムDNA PCRを実施して、遺伝子が予想されるサイズに増幅されたかどうかを確認した。PCR反応管に100ngのゲノムDNA、1X反応バッファー、0.25mMのdNTP、0.2pmolフォワードプライマー、0.2pmolリバースプライマー、及び0.2単位のTaqポリメラーゼを加え、滅菌蒸留水を加えて最終容量を20μlとした。次いで、下記表1に示す条件でPCRを行った後、増幅したDNAを1%アガロースゲルにロードしてPCR増幅産物を確認し、それによって、ウイルスの感染性及び組換えの有無を確認した。
【表1】
【0102】
その結果、
図4に示すように、spRRVe-yCD:envベクターのポリメラーゼ連鎖反応を行った結果、初感染3日目及び1~3継代目にPCR産物が検出され、ウイルスの増殖及び感染が進行していることが確認された。しかし、第2継代から予想される2,337bpの増幅産物よりも少ないPCR産物が多数検出されたことから、ウイルス感染後の増幅過程で組換えが起こったことが確認された。具体的には、第1継代までは単一のPCRバンドしか観察できなかったが、第2継代及び第3継代では、いくつかのPCRバンドが増幅されていることが確認された。
【0103】
<1-4>spRRVe-yCD:envベクターの組換え型の分析
レトロウイルスは逆転写のプロセスを介して合成されるので、このプロセス中のゲノム配列の不安定性は、様々なタイプの組換えを生じ得る。したがって、実施例<1-3>のspRRVe-yCD:envベクターのゲノムDNAを用いたPCR反応後に、p2及びp3ステージの組換えバンド(
図4の赤色のボックスで示されるバンド)のPCR産物を回収し、遺伝子解析用pGEM-Tベクターにクローニングし、クローンを精製し、遺伝子の塩基配列を解析して組換え型を解析した。
【0104】
結果として、
図5に示されるように、GaLV env、MCMVプロモータ、yCD及び3’-LTR配列内で組換えが起こったクローンが、回収されたPCR産物において確認された。特に、
図6に示すMCMVプロモータ内の4つの反復塩基配列(1.AACAGGAAA、2.GGGACTTTCCAATGGGTTTTGCCCAGTACA、3.TGGGTTTTTCC、4.GTACTTTCCCA)によって引き起こされる、MCMVプロモータ又はプロモータ内の塩基配列の一部から始まる他の部位でのウイルスベクター塩基配列の喪失に起因して組換えが起こったことが確認された。したがって、MCMVプロモータ配列を切除してMCMVの反復配列を最小化して、組換えを防止し、治療用遺伝子の発現を促進することによって、サイズの異なる4種類のプロモータを設計した。
【0105】
<実施例2>組換え発生が最小限に抑えられた複製型レトロウイルスベクターの構築
<2-1>組換え発生が最小限に抑えられたベクター構築のための短縮型MCMVプロモータの調製
MCMVプロモータ内の反復配列によって引き起こされる複製型レトロウイルスベクターの組換えを克服するために、切断型MCMVプロモータを、MCMVプロモータ内の反復配列を除去することによって構築した。
【0106】
具体的には、最初に使用したMCMVプロモータを反復配列に基づいて約646bp切断することによって、4種類の切断型MCMVプロモータを調製した(表2)。次いで、MCMV F1(470bp)、F2(337bp)、F3(237bp)、及びF4(160bp)を、この実験室で予め構築されたsRRVe-TK及びspRRVe-TKの646bp MCMVプロモータ部位に導入した。切断型MCMVプロモータは、以下の表3に記載の制限酵素部位を含む増幅プライマーを用いたPCRによって得た。
【表2】
【表3】
【0107】
<2-2>組換え発生が最小限に抑えられた複製型レトロウイルスベクター(spRRVe(GaLV)-TK/sRRVgp-sEF1a-hopt-yCD)の構築
PmeI-BamHIで消化した切断型MCMVプロモータをspRRVe(GaLV)-TKのプロモータ部位にクローニングして、spRRVe-TK(配列番号27)、spRRVe-F1-TK(配列番号28)、spRRVe-F2-TK(配列番号29)、spRRVe-F3-TK(配列番号30)、及びspRRVe-F4-TK(配列番号31)ベクターを完成させた(
図7)。次いで、構築したスプリットデュアルRRVベクターの有効性及び組換えの発生の有無を確認するために、sEF1aプロモータによって調節されるhopt-yCDを発現するgag-polベクター(sRRVgp-sEF1a-hopt-yCD、配列番号32)の組み合わせでウイルスを合成し、次いでU87MG細胞に感染させて組換えが発生したかどうかを判定した。
【0108】
<2-3>組換え発生が最小限に抑えられた複製型レトロウイルスベクター(sRRVe(MuLV)-TK/sRRVgp-sEF1a-hopt-yCD)の構築
PmeI-NotIで消化した切断型MCMVプロモータをsRRVe(MuLV)-TKのプロモータ部位にクローニングして、sRRVe-TK(配列番号33)、sRRVe-F1-TK(配列番号34)、sRRVe-F2-TK(配列番号35)、sRRVe-F3-TK(配列番号36)、及びsRRVe-F4-TK(配列番号37)ベクターを完成させた(
図8)。次いで、構築したスプリットデュアルRRVベクターの有効性及び組換えの発生の有無を確認するために、sEF1aプロモータによって調節されるhopt-yCDを発現するgag-polベクター(sRRVgp-sEF1a-hopt-yCD)の組み合わせでウイルスを合成し、次いでU87MG細胞に感染させて組換えが発生したかどうかを判定した。
【0109】
<実施例3>組換え発生が最小限に抑えられた複製型レトロウイルスベクターの組換え型(spRRVe(GaLV)-TK/sRRVgp-sEF1a-hopt-yCD)の確認
実施例<2-2>で構築したベクターの組換え型を、実施例<1-3>と同様の様式で確認した。
【0110】
具体的には、構築したGaLV env系ベクター(spRRVe-TK、spRRVe-F1-TK、spRRVe-F2-TK、spRRVe-F3-TK、及びspRRVe-F4-TK)をsRRVgp-sEF1a-hopt-yCDベクターと組み合わせて293T細胞にウイルスを合成し、実施例<1-3>と同様にして組換え型を解析した。表4に示すGaLV1932F及びMFGSacIRプライマーをenvベクター特異的増幅に使用し、pol7130F及びMFGSacIRプライマーをgag-polベクター特異的増幅に使用した。
【0111】
その結果、
図9に示すように、ゲノムDNA PCR解析の結果、sRRVgp-sEF1a-hopt-yCDベクター5セット全てで組換えは生じなかった。一方、spRRVe-TKではp1から、spRRVe-F1-TK及びspRRVe-F2-TKではp4から、spRRVe-F3-TKではp5から組換えが起こり始め、spRRVe-F4-TKではp10まで組換えは生じなかった。しかしながら、p6~p10のPCR産物中の増幅バンドに加えて、遺伝子配列決定によって下の小さなバンドが確認され、これは、gag-polベクターの完全なhopt-yCDが相互に組み換えられ、envベクターのTK部位に挿入されたことを示す。
【表4】
【0112】
<実施例4>組換え発生が最小限に抑えられた複製型レトロウイルスベクターを含むウイルスでトランスフェクトした細胞におけるチミジンキナーゼ(TK)及び酵母シトシンデアミナーゼ(yCD)タンパク質の発現レベル(spRRVe(GaLV)-TK/sRRVgp-sEF1a-hopt-yCD)
その後、組換え試験工程で得られたU87MG細胞におけるチミジンキナーゼ(HSV1-TK)及び酵母シトシンデアミナーゼ(yCD)のタンパク質発現レベルを、ウエスタンブロッティングによって確認した。
【0113】
具体的には、
図2に示されるように、ヒト脳腫瘍細胞株U87MGを0.1MOIのレトロウイルスベクターの組み合わせに感染させ、3日後にウイルス含有細胞培養上清を採取し、新しい脳腫瘍細胞株U87MGに順次感染させた。最初の感染の3日後、p1(継代1)~p10細胞を採取し、100μlのT-PER組織抽出剤(PIERCE、78510)+1xプロテイナーゼ阻害剤に再懸濁した。その後、3回の凍結融解によって細胞を破壊し、13,000rpmで10分間遠心分離して細胞質上清を回収した。BCAを用いてタンパク質量を定量した後、20μgの細胞溶解物を採取し、SDS試料ローディング色素と1%まで混合した。100℃のヒートブロック中で5分間反応させた後、反応混合物を氷に移し、2分間反応させた。次いで、反応物を10%(TK)又は13.5%(yCD)SDS-PAGEゲルにロードし、続いて電気泳動した。電気泳動終了後、タンパク質をNC(ニトロセルロース)膜に90Vで2時間転写した後、ブロッキング溶液(1XTBS-T中5%スキムミルク)に入れ、続いて室温で1時間反応させた。次いで、一次抗体(抗ウサギTK:Santa Cruze sc-28038、1:500希釈、抗ヒツジyCD:Thermo Fisher Scientific PA1-85365、1:500、抗マウスb-アクチン:SigmaA2228、1:1000)を含む1%スキムミルク/1XTBS-Tに膜を加え、続いて4℃の冷蔵庫で一晩反応させた。その後、室温で10分間、1xTBS-Tで4回洗浄した後、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート二次抗体と室温で1時間反応させた。次いで、膜を1xTBS-Tで室温にて10分間4回洗浄し、ECL(増強された化学発光、Bio-radカタログ番号170-5062)溶液中で反応させた後、化学発光イメージングシステム(ChemiDoc,Biorad CA)で分析した。
【0114】
その結果、
図10及び
図11に示されるように、ゲノムDNA PCRの結果と一致して、プロモータサイズの縮小に伴ってチミジンキナーゼ(TK)タンパク質の発現が安定的に継続し、gag-polベクター(sRRVgp-sEF1a-hopt-yCD)中の酵母シトシンジアミナーゼ(yCD)タンパク質も連続的に発現していることが確認された。
【0115】
<実施例5>チミジンキナーゼ及び酵母シトシンデアミナーゼのプロドラッグ投与による細胞死の確認
実施例<2-2>で作製したspRRVe(GaLV)-TK/sRRVgp-sEF1a-hopt-yCDウイルスのガンシクロビル(GCV)及び5-フルオロシトシン(5-FC)に対する薬剤感受性を確認した。
【0116】
具体的には、PLUS試薬(Invitrogen)及びリポフェクタミン(Invitrogen)を使用して、293T細胞株にspRRVe-TK/sRRVgp-sEF1a-hopt-yCDウイルスを同時トランスフェクトした。2日後、ウイルスの上清を回収し、前日に1.5×105細胞/ウェルの密度で6ウェルプレートに継代したU-87MG細胞に8μg/mlの濃度のウイルス及びポリブランを8時間感染させた。感染の5日後(感染後5d)、細胞上清を採取し、前日(p1)に1.5×105細胞/ウェルの密度で6ウェルプレートで継代したU-87MG細胞に再感染させ、次いで同様にしてp4まで連続感染させた。感染の各段階の細胞をトリプシン-EDTAで処理して単一細胞とし、12ウェルプレートで1.5×105細胞/ウェルの密度で継代し、継代翌日からそれぞれ30μg/mlのGCV及び1mMの5-FCを5日間又は8日間処理して細胞死を確認した。
【0117】
その結果、
図12に示すように、プロドラッグである、30μg/mlのガンシクロビル(GCV)及び1mMの5-フルオロシトシン(5-FC)でウイルス感染細胞を処理すると、細胞が死滅することが確認された。
【0118】
<実施例6>切断型MCMVプロモータを含むMuLV env系ベクターの組換え型の確認
spRVe-sEF1a-TK/sRRVgp-sEF1a-hopt-yCDの組み合わせの組換え発生の解析試験では、gag-polベクターにおいて組換えが良好に起こらないことが確認されたが、gag-polベクターの完全なhopt-yCDが相互に組み換えられ、envベクターのTK部位に挿入されていることが確認された。これは、gag-polベクターに用いられるプロモータ及びenvベクターに用いられるプロモータが同じであれば、プロモータ間の相同組換えによって引き起こされる現象であり、治療用遺伝子の発現には影響しない。一方、sRRVgp-sEF1a-hopt-yCD/spRRVe-F4-TKの組み合わせの場合、プロモータ間で非相同組換えが起こり、有効な治療用遺伝子の発現に影響を及ぼす。このような組換えの発生を最小限にするため、sRRVgp-sEF1a-hopt-yCDのsEF1a部位にF4プロモータを導入することによってsRRVgp-F4-hopt-yCDを構築し、実施例<1-3>と同様にしてsRRVgp-F4-hopt-yCD/sRRV3 sRRVe-F4-TKベクターの組換え型を確認した。
【0119】
具体的には、sRRVgp-sEF1a-TKベクターをEcoRIで処理してsEF1a-TKを作製し、他の治療用遺伝子をクローニングするための制限酵素認識配列を含む下記の表5に示すMCMV(F4)-EcoRI-F及びMCMV-NotI-MluI-EcoRI-Rプライマーを用いて、spRVe-TKを鋳型としてPCRを行ってMCMVF4をクローニングした。その後、sRRVgp-sEF1a-TK及びMCMV F4 PCR産物をEcoRIで消化し、クローニングしてsRRVgp-MCMV F4ベクターを構築した。次いで、hopet-yCDを用いて、表5に示すhopet-yCD-NotI-F及びhopet-yCD-NotI-Rプライマーを構築し、sRRVgp-sEF1a-hopt-yCDベクターを鋳型としてPCRを行った。
【表5】
【0120】
その後、NotI-MluIで処理してsRRVgp-MCMV F4ベクター及びhopt-yCD PCR産物を回収し、クローニングしてsRRVgp-F4-hopt-yCDベクターを完成させた。構築したMuLV env系sRRVe-F4-TKベクターをsRRVgp-F4-hopt-yCDベクターと組み合わせて用いて293T細胞にウイルスを合成し、実施例<1-3>と同様に組換え型解析試験を行った。表4に示すAm1801F及びMFGSacIRプライマーをenvベクター特異的増幅に使用し、pol7130F及びMFGSacIRプライマーをgag-polベクター特異的増幅に使用した。
【0121】
その結果、
図13に示すように、ゲノムDNA PCR解析の結果、gag-polベクター5セット全てにおいて組換えは生じなかった。一方、sRRVe-TKベクターでは、p2から小さいサイズが失われた組換えが起こり始めることが確認された。また、sRRVe-F1-TK及びsRRVe-F2-TKではp7から、sRRVe-F3-TKではp8から組換えが起こり始めたことが確認された。一方、sRRVe-F4-TK/sRRVgp-F4-hopt-yCDベクターの組み合わせでは、sRRVe-F4-TKではp10まで組換えは起こらず、p15まで連続感染しても組換えは起こらなかった(
図14)。
【0122】
すなわち、MuLV env系RRVベクターでは、MCMVプロモータのサイズが小さくなるにつれて組換え頻度が低下し、MCMVプロモータの反復配列の大部分が除去されたsRRVe-F4-TKベクターでは組換えは生じなかった。したがって、切断型MCMVプロモータを含む複製型レトロウイルスベクターは組換えを受けず、したがって治療用遺伝子を標的細胞に損失なく送達できることが確認された。
【0123】
<実施例7>組換え発生が最小限に抑えられた複製型レトロウイルスベクターを含むウイルスでトランスフェクトした細胞におけるチミジンキナーゼ(TK)の発現レベル(sRRVe(MuLV)-TK/sRRVgp-sEF1a-hopt-yCD)
次いで、sRRVe-F4-TK後の組換え試験工程で得られたU87MG細胞におけるTKタンパク質の発現レベルを、上記実施例4に記載したのと同様の方法及び条件でウエスタンブロッティングにより確認した。gag-polベクターにおいて組換えが起こらず、TKタンパク質の発現レベルのみが確認されたことから、yCDタンパク質が安定に発現していることが確認された。
【0124】
その結果、
図15に示されるように、ゲノムDNA PCRの結果と一致して、プロモータサイズの縮小に伴ってチミジンキナーゼ(TK)タンパク質の発現が安定的に継続することが確認された。
【0125】
<実施例8>チミジンキナーゼ(TK)及び酵母シトシンデアミナーゼのプロドラッグ投与による細胞死の確認
実施例6で作製したsRRVe(MuLV)-TK/sRRVgp-F4-hopt-yCDベクターを含むウイルスのガンシクロビル(GCV)及び5-フルオロシトシン(5-FC)に対する薬剤感受性を確認した。
【0126】
具体的には、PLUS試薬(Invitrogen)及びリポフェクタミン(Invitrogen)を使用して、spRRVe-F4-hopt-yCD/sRRVgp-TK、spRRVe-F4-hopt-yCD/sRRVgp-F1-TK、spRRVe-F4-hopt-yCD/sRRVgp-F2-TK、spRRVe-F4-hopt-yCD/sRRVgp-F3-TK及びspRRVe-F4-hopt-yCD/sRRVgp-F4-TKを含むウイルスを293T細胞株に同時トランスフェクトした。2日後、ウイルスの上清を回収し、前日に1.5×105細胞/ウェルの密度で6ウェルプレートに継代したU-87MG細胞に8μg/mlの濃度のウイルス及びポリブランを8時間感染させた。感染の5日後(感染後5d)、細胞上清を採取し、前日(p1)に1.5×105細胞/ウェルの密度で6ウェルプレートで継代したU-87MG細胞に再感染させ、次いで同様にしてp4まで連続感染させた。感染の各段階の細胞をトリプシン-EDTAで処理して単一細胞とし、12ウェルプレートで1.5×105細胞/ウェルの密度で継代し、継代翌日からそれぞれ30μg/mlのGCV及び1mMの5-FCを5日間又は8日間処理して細胞死を確認した。
【0127】
その結果、
図16に示すように、プロドラッグである30μg/mlの(GCV)及び1mMの5-フルオロシトシン(5-FC)でウイルス感染細胞を光学顕微鏡下で処理すると、細胞が死滅したことが確認された。U87MGにsRRVe-F4-TK/sRRVgp-F4-hopt-yCDウイルスの2E7ゲノムコピーを7日間感染させた後、30μg/mlのGCV及び1mMの5-FCを処理して細胞死を定量的に評価した。結果として、GCVを処理した場合、細胞生存率は感染後4日までに約80%低下し、感染後10日間生存した細胞は約10%しかなく、GCVが90%を超える細胞を死滅させたことを示唆した。5-FCを処理した場合、細胞生存率は感染の2日後に約40%低下し、感染の8日後に生存した細胞は約40%しかなく、5-FCが細胞の60%超を死滅させたことを示唆した(
図17)。
【0128】
<実施例9>癌抗原遺伝子であるヒトCD19を導入した、組換え発生が最小限に抑えられた自己複製型レトロウイルスベクターの構築
<9-1>sRRVgp-F4-hCD19/sRRVe-F4-TKベクターの構築及び組換え発生の確認
近年、癌を治療するための免疫療法薬が多く研究されており、実際には、CAR-T等の癌細胞に特異的に発現する抗原を標的とする受容体をウイルスベクターにロードし、送達する免疫療法の方法が開発され、臨床現場で応用されている。これらの免疫療法の方法は、体内の免疫細胞の特性を使用して副作用を可能な限り軽減することができ、患者の身体が癌細胞と戦うように免疫応答を強化することができる。中でも、能動免疫療法は、癌細胞が有する腫瘍特異的抗原を癌患者に投与することにより、免疫系を能動的に活性化させて癌細胞を攻撃するものである。したがって、自己複製するレトロウイルスベクターにヒトCD19遺伝子を導入し、組換えを最小限にした癌の遺伝子治療用ベクターとして用いた。
【0129】
具体的には、hCD19バリアント2をsRRVgp-F4-hopt-yCDのhopt-yCD部位にクローニングするために、制限酵素部位を含むNotI-hCD19-MluI遺伝子を合成した。その後、hCD19及びsRRVgp-F4-hopt-yCDをそれぞれNotI及びMluIで消化し、回収した後、クローニングしてsRRVgp-F4-hCD19ベクター(配列番号44)を構築した。
図18に示すように、sRRVe-F4-TK(配列番号37)及びsRRVgp-F4-hCD19の組み合わせでウイルスを合成し、ウイルスベクターの力価を定量した。脳腫瘍細胞株U87-MGに0.1MOIのウイルスを感染させた後、細胞を13回継代し、各継代工程で感染細胞株からゲノムDNAを精製した。その後、表6に示すプライマーを用いてゲノムDNAでPCRを行って、組換えの種類を解析した。
【0130】
その結果、
図19に示されるように、hCD19が導入されたベクターのp3から組換えPCRバンドが増幅されることが確認された。
【表6】
【0131】
<9-2>sRRVgp-F4-hopt-yCD/sRRVe-F4-hCD19ベクターの構築及び組換え発生の確認
実施例<9-1>に示すように、sRRVgp-F4-hCD19/sRRVe-F4-TKベクターの組み合わせでは、ウイルス複製中にhCD19が挿入されたsRRVgp-F4-hCD19ベクターにおいて組換えが起こることが確認された。その後、sRRVgp-F4-hopt-yCD gag-polベクターにより、選択されたウイルス複製中に組換えが起こらないことを確認し、sRRVe-F4-TKベクターのTK遺伝子をhCD19で置換したsRRVe-F4-hCD19ベクターを構築した。
【0132】
具体的には、hCD19バリアント2を用いてsRRVe-F4-TKのTK部位にhCD19をクローニングするために、制限酵素部位を含むNotI-hCD19-MluI遺伝子を合成した。その後、hCD19及びsRRVgp-F4-TKをNotI及びMluIで消化し、回収した後、クローニングしてsRRVe-F4-hCD19ベクター(配列番号45)を構築した。
図20に示すように、sRRVe-F4-hCD19(配列番号45)及びsRRVgp-F4-hopt-yCD(配列番号46)の組み合わせでウイルスを合成し、ウイルスベクターの力価を定量した。表6に示すプライマーを用いて、ウイルスを0.1MOI採取して組換え型解析実験を行った。
【0133】
図21に示されるように、PCRを、envベクターの複製及びゲノム安定性を確認することができるプライマーを使用して行った。その結果、AmEnv961F/MFGSacIR増幅産物のサイズは3,460bpであり、AmEnv1801F/MFGSacIR増幅産物のサイズは3,030bpであった。更に、gag-polベクターの複製及びゲノム安定性を確認できるpol7130R/MFGSacIRプライマーを用いた増幅産物のサイズは2,092bpであった。したがって、hCD19を導入したsRRVe-F4-hCD19ベクター及びsRRVgp-F4-hopt-yCDベクターの組み合わせでは、ウイルス複製中に組換えが起こらないことが確認された。
【0134】
<実施例10>癌抗原遺伝子であるヒトCD19t(短縮型ヒトCD19、hCD19t)を導入した、組換え発生が最小限に抑えられた自己複製型レトロウイルスベクターの構築
<10-1>sRRVgp-F4-hCD19tベクターの構築及び組換え発生の確認
CD19のN末端/CAR-T機構に加えて、CD19のC末端によって起こり得る細胞内シグナル伝達を抑制するために、細胞質ドメインの233アミノ酸を除去し、323アミノ酸からなる短縮型CD19(CD19t)を、自己複製するレトロウイルスベクターに導入して、組換えを最小限に抑えた癌遺伝子治療用ベクターとして使用した。CD19tは、19アミノ酸のみを有する細胞外N末端、膜貫通ドメイン、及び細胞質C末端からなる。
【0135】
sRRVgp-F4-hCD19tベクターを以下のように構築した。hCD19tを確保するために、以下の表7に示すプライマーを用いて、hCD19バリアント2を鋳型として使用してhCD19tを増幅した。
【表7】
【0136】
クローニングを容易にするために、NotIを5’側に、MluIを3’側に挿入することによってプライマーを調製した。次いで、hCD19tをsRRVgp-F4-hopt-yCDベクターのhopt-yCD部位にクローニングするために、ベクターをNotI-MluIで消化し、増幅したhCD19tをNotI-MluIで消化し、回収し、ベクターに導入して、sRRVgp-F4-hCD19tベクター(配列番号54)を構築した(
図22)。その後、sRRVe-F4-TK(配列番号37)及びsRRVgp-F4-hCD19tの組み合わせでウイルスを合成し、ウイルスベクターの力価を定量した。表6に示すプライマーを用いて、ウイルスを0.1MOI採取して組換え型解析実験を行った。その結果、
図23に示すように、AmEnv961F/MFGSacIRプライマーによるsRRVe-F4-TKベクターの増幅産物2,946bp、及びpol7130R/MFGSacIRプライマーによるsRRVgp-F4-hCD19tベクターの増幅産物2,591bpは、ウイルス複製及び再感染中の12継代まで連続的に増幅されることが確認された。これらの結果は、ウイルス複製及び再感染が12継代まで継続したことを示している。以上の結果は、TKを導入したsRRVe-F4-TKベクター及びhCD19tを導入したsRRVe-F4-hCD19tベクターの両方が、ウイルス複製中に優れたゲノム安定性を示したことが示唆する。
【0137】
<10-2>sRRVe-F4-hCD19tベクターの構築及び組換え発生の確認
sRRVe-F4-hCD19tベクターを以下のように構築した。hCD19tを確保するために、以下の表8に示すプライマーを用いて、hCD19バリアント2を鋳型として使用してhCD19tを増幅した。
【表8】
【0138】
クローニングを容易にするために、NotIを5’側に、SalIを3’側に挿入することによってプライマーを調製した。次いで、sRRVe-F4-hCD19ベクターのhCD19部位にhCD19tをクローニングするために、ベクターをNotI-SalIで消化し、増幅したhCD19tをNotI-SalIで消化し、回収し、ベクターに導入して、sRRVe-F4-hCD19tベクター(配列番号56)を構築した(
図24)。その後、sRRVgp-F4-hopt-yCD(配列番号46)及びsRRVe-F4-hCD19tの組み合わせでウイルスを合成し、ウイルスベクターの力価を定量した。表6に示すプライマーを用いて、ウイルスを0.1MOI採取して組換え型解析実験を行った。その結果、
図25に示すように、AmEnv961F/MFGSacIRプライマーによるsRRVe-F4-hCD19tベクターの増幅産物2,760bp、及びpol7130R/MFGSacIRプライマーによるsRRVgp-F4-hopt-yCDベクターの増幅産物2,089bpが、12継代まで連続的に増幅されたことが確認された。これらの結果は、ウイルス複製及び再感染が12継代まで継続したことを示している。以上の結果は、hopt-yCDを導入したsRRVgp-F4-hopt-yCDベクター及びhCD19tを導入したsRRVe-F4-hCD19tベクターの両方が、ウイルス複製中に優れたゲノム安定性を示したことが示唆する。
【0139】
<実施例11>顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)を導入した組換え発生が最小限に抑えられた自己複製型レトロウイルスベクターの構築
<11-1>sRRVgp-F4-mGM-CSFベクターの構築及び組換え発生の確認
マウスGM-CSF及びヒトGM-CSFを以下のように自己複製型レトロウイルスベクターに導入して、治療用遺伝子及び短縮型hCD19をロードした自己複製型レトロウイルスベクターを癌患者に適用した場合の患者の免疫増強を促進した。
【0140】
まず、sRRVgp-F4-mGM-CSFベクターを構築した。マウスGM-CSF(mGM-CSF)を確保するために、構築したspRRVe-mGM-CSF(配列番号57)を鋳型として使用して、以下の表9に示すプライマーを用いてmGM-CSFを増幅した。
【表9】
【0141】
この時に、クローニングを容易にするために、NotIを5’側に、MluIを3’側に挿入することによってプライマーを調製した。次いで、sRRVe-F4-hopt-yCDベクターのhopt-yCD部位にmGM-CSFをクローニングするために、ベクターをNotI-MluIで消化し、増幅したmGM-CSFをNotI-MluIで消化し、回収し、ベクターに導入してsRRVgp-F4-mGM-CSFベクター(配列番号60)を構築した(
図26)。その後、sRRVgp-F4-mGM-CSF及びsRRVe-F4-hCD19tの組み合わせ(配列番号56)でウイルスを合成し、ウイルスベクターの力価を定量した。表6に示すプライマーを用いて、ウイルスを0.1MOI採取して組換え型解析実験を行った。その結果、
図27に示すように、AmEnv961F/MFGSacIRプライマーによるsRRVe-F4-hCD19tベクターの増幅産物2,760bp、及びpol7130R/MFGSacIRプライマーによるsRRVgp-F4-mGM-CSFベクターの増幅産物2,041bpが、ウイルス複製及び再感染中に12継代まで連続的に増幅されることが確認された。上記の結果は、hCD19tを導入したsRRVe-F4-hCD19tベクター、及びmGM-CSFを導入したsRRVgp-F4-mGM-CSFベクターの両方は、ウイルス複製中に優れたゲノム安定性を示したことを示唆する。
【0142】
<11-2>sRRVgp-F4-hGM-CSFベクターの構築及び組換え発生の確認
sRRVgp-F4-hGM-CSFベクターを以下のように構築した。hGM-CSFを確保するために、構築したspRRVe-hGM-CSF(配列番号61)を鋳型として、以下の表10に示すプライマーを用いてhGM-CSFを増幅した。
【表10】
【0143】
クローニングを容易にするために、NotIを5’側に、MluIを3’側に挿入することによってプライマーを調製した。次いで、hGM-CSFをsRRVe-F4-hopt-yCDベクターのhopt-yCD部位にクローニングするために、ベクターをNotI-MluIで消化し、増幅したhGM-CSFをNotI-MluIで消化し、回収し、クローニングしてsRRVgp-F4-hGM-CSFベクター(配列番号64)を構築した(
図28)。その後、sRRVgp-F4-hGM-CSF及びsRRVe-F4-hCD19tの組み合わせ(配列番号56)でウイルスを合成し、ウイルスベクターの力価を定量した。表6に示すプライマーを用いて、ウイルスを0.1MOI採取して組換え型解析実験を行った。その結果、
図29に示すように、AmEnv961F/MFGSacIRプライマーによるsRRVe-F4-hCD19ベクターの3,460bpの増幅産物は継代6まで増幅を続けたが、pol7130R/MFGSacIRプライマーによるsRRVgp-F4-hGM-CSFの増幅産物は初感染から継代6までの2種類の増幅産物として観察された。したがって、初期感染からのゲノム構造の不安定性により、完全に複製が起こらなかったことが確認された。
【0144】
<11-3>hGM-CSFのヒトコドン最適化塩基配列の確保
実施例<11-2>における組換え変異により、完全に複製が起こらないという問題を解決するために、hGM-CSF塩基配列をヒトコドン最適化塩基配列に変換した。
【0145】
ヒトコドン塩基配列の確保及び合成は、Cosmogentech Co.,Ltd.,Koreaに依頼して行った。この際、自己複製するレトロウイルスベクターへのクローニングを容易にするため、5’側にNotI、3’側にMluIを挿入して配列を合成した(配列番号65)。
【0146】
<11-4>sRRVgp-F4-hopt-GM-CSFベクターの構築及び組換え発生の確認
実施例<11-3>で合成したhopt-GM-CSFを、NotI及びMluIで消化したsRRVe-F4-hopt-yCDベクターのhopt-yCD部位にクローニングすることにより、sRRVgp-F4-hopt-GM-CSFベクター(配列番号66)を構築した(
図30)。その後、sRRVgp-F4-hopt-GM-CSF及びsRRVe-F4-hCD19(配列番号45)の組み合わせ(
図30)、又はsRRVgp-F4-hopt-GM-CSF及びsRRVe-F4-hCD19t(配列番号56)の組み合わせ(
図31)でウイルスを合成し、ウイルスベクターの力価を定量した。表6に示すプライマーを用いて、ウイルスを0.1MOI採取して組換え型解析実験を行った。
【0147】
その結果、
図32に示すように、AmEnv961F/MFGSacIRプライマーによるsRRVe-F4-hCD19ベクターの増幅産物3,460bp、及びpol7130R/MFGSacIRプライマーによるsRRVgp-F4-hopt-GM-CSFベクターの増幅産物2,047bpが、ウイルス複製及び再感染中に12継代まで連続的に増幅されることが確認された。上記の結果は、hCD19を導入したsRRVe-F4-hCD19ベクター、及びhopt-GM-CSFを導入したsRRVgp-F4-hopt-GM-CSFベクターの両方は、ウイルス複製中に優れたゲノム安定性を示したことを示唆する。
【0148】
更に、
図33に示すように、AmEnv961F/MFGSacIRプライマーによるsRRVe-F4-hCD19tベクターの増幅産物2,760bp、及びpol7130R/MFGSacIRプライマーによるsRRVgp-F4-hopt-GM-CSFベクターの増幅産物2,047bpが、ウイルス複製及び再感染中に12継代まで連続的に増幅されることが確認された。上記の結果は、hCD19tを導入したsRRVe-F4-hCD19tベクター、及びhopt-GM-CSFを導入したsRRVgp-F4-hopt-GM-CSFベクターの両方は、ウイルス複製中に優れたゲノム安定性を示したことを示唆する。
【配列表】