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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】電磁機器
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/00 20060101AFI20240105BHJP
【FI】
H02K1/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018071006
(22)【出願日】2018-04-02
(65)【公開番号】P2019186984
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-03-18
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 義隆
(72)【発明者】
【氏名】浦田 信也
(72)【発明者】
【氏名】中井 英雄
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 博光
(72)【発明者】
【氏名】蟹江 隆久
(72)【発明者】
【氏名】黒川 顕史
【合議体】
【審判長】柿崎 拓
【審判官】関口 哲生
【審判官】伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-219904(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K1/00-1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁鋼板を積層して構成されるコアと、前記電磁鋼板を積層方向に押さえる固定部材と、を備え、
前記固定部材は、前記電磁鋼板の圧延方向と前記コアを通る磁束との角度が45°以下の領域より他の領域において前記積層方向に加える圧力が小さい状態で前記電磁鋼板を押さえることを特徴とする電磁機器。
【請求項2】
請求項1に記載の電磁機器であって、
前記固定部材は、前記コアを通る磁束が平均磁束密度より低い領域より他の領域において前記積層方向に加える圧力が小さい状態で前記電磁鋼板を押さえることを特徴とする電磁機器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電磁機器であって、
前記電磁鋼板は、前記電磁鋼板の圧延方向と前記コアを通る磁束との角度が45°以下の領域において他の領域より厚いことを特徴とする電磁機器。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の電磁機器であって、
前記電磁鋼板の圧延方向と前記コアを通る磁束との角度が45°以下の領域において前記電磁鋼板の間に圧力調整用部材を配置し、他の領域において配置しないことを特徴とする電磁機器。
【請求項5】
請求項3に記載の電磁機器であって、
前記積層方向に沿って前記電磁鋼板の圧延方向を変更しつつ積層する転積を行う場合、前記電磁鋼板の前記転積を行う面を平面とすることを特徴とする電磁機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層された電磁鋼板からなるコアを有する電磁機器に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機等の電磁機器において固定子の鉄心や回転子の鉄心の素材となる電磁鋼板において生ずる鉄損を低減することが望まれる。
【0003】
回転子や固定子の鉄心は、打ち抜き等で所定の形状に加工した電磁鋼板を積層して接着やかしめなどの方法で固着して作られている。このとき、電磁鋼板からなる固定子や回転子に圧縮応力が加わると電動機の効率が低下することが知られている。電磁鋼板に圧縮応力が加わると電動機の特性が劣化する原因は、主に、鉄心材料である電磁鋼板の鉄損特性の応力依存性にあると考えられる。すなわち、電磁鋼板の磁路方向に沿って圧縮応力を加えると鉄損が増大して透磁率が低下すること知られており、加えられた圧縮応力により鉄心材料である電磁鋼板の鉄損が増加し、所望の磁束密度を得るために大きな巻線電流が必要となって、電動機の損失が増加するものと考えられる。
【0004】
そこで、電磁鋼板を積層した固定子を焼き嵌め又は圧入によりケースに固定した電動機において、固定子をSi含有量が3.5mass%以上とし、外径がケースの内径より大きい電磁鋼板と、外径がケースの内径より小さい電磁鋼板とを交互に又は数枚おきに積層した構成とすることにより電磁鋼板の面内方向に沿った圧縮応力による影響を低減する技術が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-029458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、電磁鋼板の面内方向に沿った応力を考慮した電磁機器の構成については検討されているが、電磁鋼板の面法線方向の応力を考慮した構成は検討されていない。すなわち、電磁鋼板の面法線方向の応力を加えた場合の電磁機器の鉄損による効率の低下を抑制する技術は確立されていない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの態様は、電磁鋼板を積層して構成されるコアと、前記電磁鋼板を積層方向に押さえる固定部材と、を備え、前記固定部材は、前記電磁鋼板の圧延方向と前記コアを通る磁束との角度が45°以下の領域より他の領域において前記積層方向に加える圧力が小さい状態で前記電磁鋼板を押さえることを特徴とする電磁機器である。
【0008】
ここで、前記固定部材は、前記コアを通る磁束が平均磁束密度より低い領域より他の領域において前記積層方向に加える圧力が小さい状態で前記電磁鋼板を押さえることが好適である。
【0009】
また、前記電磁鋼板は、前記電磁鋼板の圧延方向と前記コアを通る磁束との角度が45°以下の領域において他の領域より厚いことが好適である。
【0010】
また、前記電磁鋼板の圧延方向と前記コアを通る磁束との角度が45°以下の領域において前記電磁鋼板の間に圧力調整用部材を配置し、他の領域において配置しないことが好適である。
【0011】
また、前記積層方向に沿って前記電磁鋼板の圧延方向を変更しつつ積層する転積を行う場合、前記転積を行う面間において前記電磁鋼板の厚さを変えずに平面とすることが好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電磁鋼板の面法線方向に沿った応力を考慮して、電磁機器の効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】電磁鋼板に印加される面法線方向の圧力と鉄損との関係を示す図である。
図2】電磁鋼板の圧延方向と磁束が通る方向との角度を説明するための図である。
図3】本発明の実施の形態におけるリアクトルを構成する電磁鋼板の積層方法を説明する図である。
図4】本発明の実施の形態におけるリアクトルを構成する電磁鋼板の積層方法を説明する図である。
図5】本発明の実施の形態における固定子を構成する電磁鋼板の積層方法を説明する図である。
図6】本発明の実施の形態における回転子を構成する電磁鋼板の積層方法を説明する図である。
図7】本発明の実施の形態におけるリアクトルを構成する電磁鋼板の積層方法を説明する図である。
図8】本発明の実施の形態における固定子を構成する電磁鋼板の積層方法を説明する図である。
図9】本発明の実施の形態における電磁鋼板の積層方法を説明する図である。
図10】本発明の実施の形態における電磁鋼板の積層方法を説明する図である。
図11】本発明の実施の形態における電磁鋼板の積層方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
モータや発電機等における固定子や回転子やリアクトル等の電磁機器は、電磁鋼板を多層に重ね合わせたコアと、固定や占有率向上のために積層方向からコアを押さえつける固定部材とから構成される。
【0015】
なお、本実施の形態では、電磁鋼板は、特に限定されるものではなく、例えば無方向性電磁鋼板とすることができる。
【0016】
図1は、電磁鋼板に印加される面法線方向の圧力と鉄損との関係を示す図である。ここで、パラメータとした角度θは、図2に示すように、電磁鋼板の圧延方向に対して磁束が通る方向がなす角度を示す。また、電磁鋼板の面法線方向とは、図2に示すように、電磁鋼板の板面(X軸及びY軸を含む面)に対して垂直な方向(Z軸方向)を意味する。
【0017】
図1に示すように、電磁鋼板では、鋼板内の法線方向の応力σが0.25MPaまで増加したとしても角度θが45°以下において鉄損の増加が小さい、又は鉄損を減少させることができることがわかった。
【0018】
そこで、電磁機器における固定部材は、コアを構成する電磁鋼板の圧延方向とコアを通る磁束との角度θが45°以下の領域より他の領域において電磁鋼板の積層方向に加える圧力が小さい状態で電磁鋼板を押さえることが好適である。より好ましくは、コアを構成する電磁鋼板の圧延方向とコアを通る磁束との角度θが45°以下の領域を固定部材で押さえ、他の領域では電磁鋼板を押さえないような構成とすることが好適である。
【0019】
以下、具体例について説明する。図3及び図4は、途中に間隙Xを有する中空の略矩形状の電磁鋼板10を積層して構成されるリアクトルのコアの例を示す。図3及び図4では、板状の電磁鋼板10をZ方向に積層して、Z方向からみた図を示している。図3及び図4の例では、電磁鋼板10の圧延方向とコアを通る磁束との角度θが45°以下の領域(図中の破線で示した領域)を固定部材12で押さえ、その他の領域では電磁鋼板10を押さえないような構成とすることが好適である。
【0020】
図5は、ティース部分を有する電磁鋼板14を積層して構成される固定子のコアの例を示す。図5では、板状の電磁鋼板14をZ方向に積層して、Z方向からみた図を示している。図5の例では、電磁鋼板14の圧延方向とコアを通る磁束との角度θが45°以下の領域(図中の破線で示した領域)を固定部材16で押さえ、その他の領域では電磁鋼板14を押さえないような構成とすることが好適である。
【0021】
図6は、円形の電磁鋼板18を積層して構成される回転子のコアの例を示す。図6では、板状の電磁鋼板18をZ方向に積層して、Z方向からみた図を示している。図6の例では、電磁鋼板18の圧延方向とコアを通る磁束との角度θが45°以下の領域(図中の破線で示した領域)を固定部材20で押さえ、その他の領域では電磁鋼板18を押さえないような構成とすることが好適である。
【0022】
さらに、磁束密度が低い部分を固定領域とすることでより鉄損を抑制することができる。すなわち、コアを通る磁束が平均磁束密度より低い領域における積層方向に加えられる圧力よりその他の領域において積層方向に加えられる圧力が小さい状態で電磁鋼板を押さえることが好適である。鉄損は磁束密度の2乗に比例するので、コアを通る磁束密度が低い領域に圧力が加わり、磁束密度が高い領域の圧力が弱くなるように押さえることで鉄損をより効果的に抑制することができる。
【0023】
以下、具体例について説明する。図7は、途中に間隙Xを有する中空の略矩形状の電磁鋼板22を積層して構成されるリアクトルのコアの例を示す。図7では、板状の電磁鋼板22をZ方向に積層して、Z方向からみた図を示している。図7のようなU字型のリアクトルのコアでは、磁束はコアの内周側に集中するので、コアの角部では磁束密度がコア内の平均磁束密度よりも低くなる。そこで、電磁鋼板22の圧延方向とコアを通る磁束との角度θが45°以下の領域であって、さらに磁束密度でコア内の平均時速密度よりも低い領域(図中の破線で示した領域)を固定部材24で押さえ、その他の領域では電磁鋼板22を押さえないような構成とすることが好適である。
【0024】
図8は、ティース部分を有する電磁鋼板26を積層して構成される固定子のコアの例を示す。図8では、板状の電磁鋼板26をZ方向に積層して、Z方向からみた図を示している。図8のようなティース部分を有する固定子のコアでは、磁束はティースがある部分の外周領域において磁束密度がコア内の平均磁束密度よりも低くなる。そこで、電磁鋼板26の圧延方向とコアを通る磁束との角度θが45°以下の領域であって、さらに磁束密度でコア内の平均時速密度よりも低い領域(図中の破線で示した領域)を固定部材28で押さえ、その他の領域では電磁鋼板26を押さえないような構成とすることが好適である。
【0025】
また、図9は、中空の略矩形状の電磁鋼板30を積層して構成されるリアクトルのコアの別例を示す。図9(a)では、板状の電磁鋼板30をZ方向に積層して、Z方向からみた図を示している。また、図9(b)では、図9(a)のラインA-Aに沿った断面図を示している。本例では、電磁鋼板30の圧延方向とコアを通る磁束との角度θが45°以下の領域において電磁鋼板30の厚さを他の領域における電磁鋼板30の厚さより厚くしている。これにより、コアを構成する電磁鋼板30の圧延方向とコアを通る磁束との角度θが45°以下の領域において他の領域より固定部材32によって電磁鋼板30の積層方向に加える圧力を高くすることができる。
【0026】
また、図10の断面図に示すように、電磁鋼板30の厚さは均一にし、電磁鋼板30の圧延方向とコアを通る磁束との角度θが45°以下の領域において電磁鋼板30の間に圧力調整用部材34を挟み込み、他の領域には圧力調整用部材34を配置しないようにしてもよい。これにより、コアを構成する電磁鋼板30の圧延方向とコアを通る磁束との角度θが45°以下の領域において他の領域より固定部材32によって電磁鋼板30の積層方向に加える圧力を高くすることができる。
【0027】
なお、積層方向に沿って電磁鋼板30の圧延方向を変更しつつ積層する転積を行う場合、転積に併せて電磁鋼板30の圧延方向とコアを通る磁束との角度θが45°以下の領域において電磁鋼板30の厚さが他の領域における電磁鋼板30の厚さより厚くなるようにずらしていくことが好適である。このとき、図11の断面図に示すように、転積を行う面間において電磁鋼板30の厚さを変えずに平面とすることが好適である。
【0028】
例えば、圧延方向を揃えた100枚の電磁鋼板30をまず積層してブロックAとする。さらに、別の100枚の電磁鋼板30を同様に積層してブロックBとする。さらには、同様にブロックC及びDを作成する。そして、ブロックAに対して、例えば、圧延方向が90°回転するようにブロックBを回して積み、さらに90°回転するようにブロックCを回して積み、さらに90°回転するようにブロックDを積む。このような構成とすることで、圧延方向が異なる電磁鋼板30が同じコアに含まれることになる。このとき、同じブロック内では、電磁鋼板30の圧延方向と磁束の通る方向とが45°以下の領域により圧力が加わるように積層方向に圧力を掛けることが好適である。一方、転積面では、異なるブロック同士において圧延方向が異なるので、同じ場所に応力を掛けることは好適でない。そこで、転積を行う面間において電磁鋼板30の厚さを変えずに平面とすることが好適である。これにより、転積面では、面全体に応力が加わり、この部分における鉄損を抑制することができる。
【0029】
以上のように、本実施の形態によれば、電磁鋼板の面法線方向に沿った応力を考慮して電磁鋼板を積層したコアにおける鉄損を低減し、電磁機器の効率を向上させることができる。
【符号の説明】
【0030】
10,14,18,22,26,30 電磁鋼板、12,16,20,24,28,32 固定部材、34 圧力調整用部材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11