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  • 特許-粘着剤組成物、及び粘着シート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】粘着剤組成物、及び粘着シート
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/06 20060101AFI20240105BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20240105BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20240105BHJP
   C09J 101/02 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
C09J133/06
C09J11/08
C09J7/38
C09J101/02
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019089039
(22)【出願日】2019-05-09
(65)【公開番号】P2020183503
(43)【公開日】2020-11-12
【審査請求日】2022-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大高 翔
(72)【発明者】
【氏名】上村 和恵
(72)【発明者】
【氏名】小野木 晋一
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-076075(JP,A)
【文献】特開2013-167672(JP,A)
【文献】国際公開第2013/172429(WO,A1)
【文献】特開2018-044097(JP,A)
【文献】特表2017-533289(JP,A)
【文献】特許第7036492(JP,B2)
【文献】高性能アクリル系粘着剤 アロンタック,日本,東亞合成株式会社 ポリマー・オリゴマー事業部 オリマー部,2010年01月05日,https://www.toagosei.co.jp/products/polymer/catalog/pdf/acryl2_07ctlg.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着性樹脂(A1)を含む有機溶剤型粘着剤(A)と、疎水化セルロースナノファイバー(B)とを含有し、
疎水化セルロースナノファイバー(B)が有機溶剤型粘着剤(A)に均一に分散し、
粘着性樹脂(A1)が、アクリル系樹脂を含み、
疎水化セルロースナノファイバー(B)の有機溶剤分散液を調製したときに、当該有機溶剤分散液に含まれる疎水化セルロースナノファイバー(B)の水に対する接触角が50°以上であり、
前記接触角は、前記有機溶剤分散液を支持体上に塗付乾燥することにより、厚さが3μmの膜を形成し、23℃50%R.H.環境下にて24時間静置した後、当該膜の表面に2mlの純水を滴下し、着滴から1秒後の静的接触角を測定することによって得られる、粘着剤組成物。
【請求項2】
有機溶剤型粘着剤(A)、疎水化セルロースナノファイバー(B)を含む有機溶剤分散液とを含有する、請求項1に記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
疎水化セルロースナノファイバー(B)の含有量が、粘着性樹脂(A1)の全量100質量部に対して、0.1~30質量部である、請求項1又は2に記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
前記アクリル系樹脂が、アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位(a1)及び官能基含有モノマーに由来する構成単位(a2)を有する共重合体である、請求項1~3のいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
【請求項5】
粘着性樹脂(A1)の含有量が、前記粘着剤組成物の有効成分の全量に対して、50~99.95質量%である、請求項1~のいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
【請求項6】
界面活性剤の含有量が、粘着性樹脂(A1)の全量100質量部に対して、0.001質量部未満である、請求項1~のいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
【請求項7】
ゲル分率が10質量%以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の粘着剤組成物から形成された粘着剤層を有する、粘着シート。
【請求項9】
前記粘着シートをステンレス板に貼付し、JIS Z0237:2000に基づき、180°引き剥がし法により、引張速度(剥離速度)300mm/分にて、ステンレス板から剥離する際の粘着力が10N/25mm以上である、請求項に記載の粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤組成物、及び当該粘着剤組成物から形成された粘着剤層を有する粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
粘着シートは、OA機器、家電製品、自動車等の各産業分野において、部品の固定用途や仮固定用途に用いられているが、それ以外にも、各種情報を表示するためのラベル用途、マスキング用途等、多岐にわたり使用されている。
これらの粘着シートには、用途に応じて各種特性が求められるが、粘着力と保持力が求められる場合が多い。良好な粘着力及び保持力を有する粘着シートとするため、当該粘着シートが有する粘着剤層は、粘着性樹脂と架橋剤とを含有する粘着剤組成物から形成される場合が多い。
【0003】
その一方で、粘着シートの製造工程に着目した場合、架橋剤を含む粘着剤組成物を用いる際は、当該粘着剤組成物を塗布、乾燥させて形成した粘着剤層は、エージング工程を経る必要がある。また、当該粘着剤組成物は、ポットライフ(可使時間)にも留意する必要がある。
そのため、生産性の観点から、エージング工程が不要であり、ポットライフ(可使時間)を考慮する必要がない、非架橋型の粘着剤組成物や、ポットライフが長く、架橋剤含有量が少ない粘着剤組成物も求められている。
例えば、特許文献1には、(メタ)アクリレートモノマー、極性基含有モノマー、及び単独重合体のガラス転移温度が20℃以上のモノマーに由来の構成単位を所定の含有割合で有するアクリル系共重合体を主剤とする粘着剤組成物が開示されている。
特許文献1には、当該粘着剤組成物は、架橋剤を使用していないが、室温下及び高温下で好適な接着力及び保持力を有する粘着テープを実現できる旨の記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-116935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の実施例に具体的に開示された粘着テープの粘着力は、最大値で16N/25mmと低い。また、保持力の測定条件についても荷重が100gと小さく、荷重1kg程度の条件下での保持力についての検討は行われていない。
つまり、特許文献1に記載の粘着テープは、粘着力及び保持力の向上という点において、依然として改良の余地がある。
【0006】
本発明は、優れた粘着力及び保持力を有する粘着シートを、生産性を向上させて製造することができる、粘着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、疎水化(親油化)されたセルロースナノファイバーを用いることにより、上記課題を解決し得ることを見い出した。
【0008】
すなわち、本発明は、下記[1]~[11]に関する。
[1]粘着性樹脂(A1)を含む有機溶剤型粘着剤(A)と、疎水化セルロースナノファイバー(B)とを含有する、粘着剤組成物。
[2]有機溶剤型粘着剤(A)に、疎水化セルロースナノファイバー(B)を含む有機溶剤分散液を配合してなる、上記[1]に記載の粘着剤組成物。
[3]疎水化セルロースナノファイバー(B)の含有量が、粘着性樹脂(A1)の全量100質量部に対して、0.1~30質量部である、上記[1]又は[2]に記載の粘着剤組成物。
[4]粘着性樹脂(A1)が、アクリル系樹脂を含む、上記[1]~[3]のいずれか一つに記載の粘着剤組成物。
[5]前記アクリル系樹脂が、アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位(a1)及び官能基含有モノマーに由来する構成単位(a2)を有する共重合体である、上記[4]に記載の粘着剤組成物。
[6]粘着性樹脂(A1)の含有量が、前記粘着剤組成物の有効成分の全量に対して、50~99.95質量%である、上記[1]~[5]のいずれか一つに記載の粘着剤組成物。
[7]界面活性剤の含有量が、粘着性樹脂(A1)の全量100質量部に対して、0.001質量部未満である、上記[1]~[6]のいずれか一つに記載の粘着剤組成物。
[8]ゲル分率が10質量%以下である、上記[1]~[7]のいずれか一つに記載の粘着剤組成物。
[9]上記[1]~[8]のいずれか一つに記載の粘着剤組成物から形成された粘着剤層を有する、粘着シート。
[10]粘着力が10N/25mm以上である、上記[9]に記載の粘着シート。
【発明の効果】
【0009】
本発明の粘着剤組成物を用いることで、優れた粘着力及び保持力を有する粘着シートを、生産性を向上させて製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の粘着シートの構成の一例を示す、粘着シートの断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、「有効成分」とは、粘着剤組成物に含まれる成分のうち、希釈溶剤である有機溶剤を除いた成分を指す。粘着剤組成物が少量の水を含む場合、「有効成分」は有機溶剤及び水を除いた成分を指す。
また、質量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定される標準ポリスチレン換算の値であり、具体的には実施例に記載の方法に基づいて測定した値である。
【0012】
本発明において、例えば、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」と「メタクリル酸」の双方を示し、他の類似用語も同様である。
また、好ましい数値範囲(例えば、含有量等の範囲)について、段階的に記載された下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、「好ましくは10以上、より好ましくは30以上、また、好ましくは90以下、より好ましくは60以下」という記載から、「好ましい下限値(10)」と「より好ましい上限値(60)」とを組み合わせて、「10以上、60以下」、換言すれば「10~60」とすることもできる。
【0013】
〔粘着剤組成物〕
本発明の粘着剤組成物は、粘着性樹脂(A1)を含む有機溶剤型粘着剤(A)と、疎水化セルロースナノファイバー(B)とを含有する。
ここで、疎水化セルロースナノファイバー(以下、疎水化CNFと称する)とは、表面に疎水基が導入されたセルロースナノファイバー(以下、CNFと称する)、及び、表面処理剤によって疎水化表面処理されたCNFを意味する。また、CNFとは、植物繊維等の天然セルロースをナノレベルまで細かくほぐすことによって製造される素材である。詳細は後述する。
本発明の粘着剤組成物は、疎水化CNF(B)を含有することで、形成される粘着剤層の凝集力を高めて保持力を向上させ、かつ高い粘着力を維持できる粘着剤層を形成することができる。
その理由としては、形成される粘着剤層中にて、疎水化CNF(B)が三次元網目構造を形成することで、凝集力を高めることができ、それにより高い保持力を発現させ、かつ粘着力を高く維持できるものと推測される。
そのため、本発明の粘着剤組成物は、架橋剤の含有量が少ない粘着剤組成物としたり、架橋剤を含有しない非架橋型の粘着剤組成物としたりすることができる。
【0014】
非架橋型の粘着剤組成物は、上述のとおり、エージング工程が不要であり、ポットライフ(可使時間)を考慮する必要がないため、粘着シートを製造する上での生産性の向上という点で利点がある。また、非架橋型の粘着剤組成物は、反応性の高い成分や、重金属等の触媒の添加が不要であるため、安全性の面でも優れている。また、架橋剤の含有量が少ない粘着剤組成物も、架橋剤の含有量が多い粘着剤組成物に比べると、ポットライフは長くなるため、生産性向上には有利であり、反応性の高い成分や触媒の使用量を減らすこともできる。
また、非架橋型の粘着剤組成物や架橋剤の含有量が少ない粘着剤組成物から形成した粘着剤層は、架橋剤の含有量が多い粘着剤組成物に比べて、ゲル分率が低く、有機溶剤に溶けやすいため、剥離後に被着体に残渣物が付着している場合は、有機溶剤を被着体に塗布することで、残渣物を容易に除去することができる。また、ゲル分率が低いことにより、溶解してリサイクルすることが容易である。
【0015】
本発明の一態様の粘着剤組成物から形成した粘着剤層のゲル分率としては、好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下、更に好ましくは8%以下、より更に好ましくは6%以下である。
なお、本明細書において、粘着剤組成物から形成した粘着剤層の形成方法、及び当該粘着剤層のゲル分率は、後述の実施例に記載の方法により形成及び測定された値を意味する。
【0016】
また、本発明の一態様の粘着剤組成物において、架橋剤の含有量は、高い生産性向上や高い安全性を求める場合は、粘着性樹脂(A1)の全量100質量部に対して、好ましくは0.001質量部未満、より好ましくは0.0001質量部未満、更に好ましくは0.00001質量部未満、より更に好ましくは0質量部、つまり架橋剤を含有しないことがより更に好ましい。
架橋剤を利用して樹脂成分を架橋できるようにしながらも、その使用量を減少させたい場合、架橋剤の含有量は、粘着性樹脂(A1)の全量100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、更に好ましくは0.5質量部以上であり、また、好ましくは5質量部未満、より好ましくは2.5質量部未満、更に好ましくは2質量部未満である。
【0017】
また、本発明の一態様の粘着剤組成物は、疎水化CNF(B)が、粘着性樹脂(A1)及び有機溶剤型粘着剤(A)に均一に分散しやすいため、疎水化処理されていないCNFを用いる場合に比べて、粘着剤組成物の品質安定性に有利で、かつ、より多くのCNFを粘着剤に均一に分散させ得る。この結果、架橋剤の使用量の低減にも有利である。更に、疎水化CNF(B)が、粘着性樹脂(A1)及び有機溶剤型粘着剤(A)に均一に分散しやすいので、CNFを多く含んでいても組成物全体に透明性を付与することができ、組成物の用途を拡大することができる。
【0018】
なお、本発明の一態様の粘着剤組成物は、有機溶剤型粘着剤(A)として、後述の一般的な粘着剤用添加剤を含有してもよい。
ただし、本発明の一態様の粘着剤組成物において、粘着性樹脂(A1)及び疎水化CNF(B)の合計含有量は、前記粘着剤組成物の有効成分の全量(100質量%)に対して、好ましくは60質量%以上、より好ましくは65質量%以上、更に好ましくは70質量%以上であり、また、好ましくは100質量%以下である。
以下、本発明の粘着剤組成物に含まれる各成分について詳述する。
【0019】
<有機溶剤型粘着剤(A)>
本発明の粘着剤組成物は、粘着性樹脂(A1)を含む有機溶剤型粘着剤(A)を含有する。
有機溶剤型粘着剤(A)は、粘着性樹脂(A1)及び有機溶剤を含む粘着剤であって、エマルション型粘着剤とは区別される。
本発明の粘着剤組成物は、有機溶剤型粘着剤(A)を含むため、耐水性に優れた粘着剤層を形成することができる。
また、有機溶剤型粘着剤(A)に疎水化CNF(B)を配合した粘着剤組成物から形成される粘着剤層は、自由エネルギーの観点から、疎水化CNF(B)同士が近接し易く、疎水化CNF(B)による三次元網目構造のネットワークが形成され易くなる。その結果、形成される粘着剤層は、凝集力が高く、粘着力を高く維持しつつ高い保持力を発現し易くなる。
【0020】
なお、本発明の一態様の粘着剤組成物は、エマルション型粘着剤(つまり、水分散型粘着剤組成物)は実質的に含有しないことが好ましい。
エマルション型粘着剤に疎水化CNFを配合してなる粘着剤組成物から形成された粘着剤層では、エマルション型粘着剤に含まれる粘着性樹脂で構成された分散質と、分散媒である水との界面に、高弾性体である疎水化CNFが吸着すると、被着体との界面での粘着力が低下を招き易い。また、凝集力も低下し、保持力も劣る傾向にある。
【0021】
上記の理由から、本発明の一態様の粘着剤組成物は、エマルション型粘着剤は実質的に含有しないことが好ましいため、エマルション型粘着剤を調製する際に必要となる界面活性剤の含有量も少ないほど好ましい。
本発明の一態様の粘着剤組成物において、界面活性剤の含有量は、粘着性樹脂(A1)の全量100質量部に対して、好ましくは0.001質量部未満、より好ましくは0.0001質量部未満、更に好ましくは0.00001質量部未満、より更に好ましくは0質量部、つまり界面活性剤を含有しないことがより更に好ましい。
【0022】
本発明の一態様の粘着剤組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、有機溶剤型粘着剤(A)として、粘着性樹脂(A1)及び有機溶剤と共に、更に粘着剤用添加剤を含有してもよい。
【0023】
[粘着性樹脂(A1)]
本発明の一態様で用いる粘着性樹脂(A1)としては、当該樹脂単独で粘着性を有し、質量平均分子量(Mw)が1万以上の重合体であればよい。
本発明の一態様で用いる粘着性樹脂(A1)の質量平均分子量(Mw)としては、粘着力の向上の観点から、好ましくは1万以上、より好ましくは2万以上、更に好ましくは3万以上であり、また、好ましくは200万以下、より好ましくは150万以下、更に好ましくは100万以下である。
【0024】
本発明の一態様の粘着剤組成物において、凝集力を高めて保持力を向上させ、かつ高い粘着力を維持できる粘着剤層を形成し得る粘着剤組成物とする観点から、粘着性樹脂(A1)の含有量は、当該粘着剤組成物の有効成分の全量(100質量%)に対して、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上であり、また、好ましくは99.95質量%以下、より好ましくは99.90質量%以下、更に好ましくは99.50質量%以下、より更に好ましくは99.00質量%以下である。
【0025】
本発明の一態様で用いる粘着性樹脂(A1)としては、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリイソブチレン系樹脂等のゴム系樹脂、ポリエステル系樹脂、オレフィン系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリビニルエーテル系樹脂等が挙げられる。
これらの粘着性樹脂(A1)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、これらの粘着性樹脂(A1)が、2種以上の構成単位を有する共重合体である場合、当該共重合体の形態は、特に限定されず、ブロック共重合体、ランダム共重合体、及びグラフト共重合体のいずれであってもよい。
【0026】
これらの中でも、疎水化CNF(B)が三次元網目構造を形成するのを容易にし、凝集力を高めて保持力を向上させ、かつ高い粘着力を維持できる粘着剤層を形成し得る粘着剤組成物とする観点から、本発明の一態様で用いる粘着性樹脂(A1)としては、アクリル系樹脂を含むことが好ましい。
【0027】
上記観点から、粘着性樹脂(A1)中のアクリル系樹脂の含有割合としては、粘着剤組成物に含まれる粘着性樹脂の全量(100質量%)に対して、通常50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上であり、また、好ましくは100質量%以下である。
【0028】
(アクリル系樹脂)
本発明の一態様で用いる粘着性樹脂(A1)として好適なアクリル系樹脂としては、例えば、直鎖又は分岐鎖のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含む重合体、環状構造を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含む重合体等が挙げられる。
【0029】
アクリル系樹脂の質量平均分子量(Mw)としては、凝集力を高めて保持力を向上させ、かつ高い粘着力を維持できる粘着剤層を形成し得る粘着剤組成物とする観点から、好ましくは10万以上、より好ましくは20万以上、更に好ましくは25万以上、より更に好ましくは30万以上であり、また、好ましくは150万以下、より好ましくは120万以下、更に好ましくは100万以下、より更に好ましくは90万以下である。
【0030】
疎水化CNF(B)が三次元網目構造を形成し易くし、凝集力を高めて保持力を向上させ、かつ高い粘着力を維持できる粘着剤層を形成し得る粘着剤組成物とする観点から、本発明の一態様で用いるアクリル系樹脂としては、アルキル(メタ)アクリレート(a1’)(以下、「モノマー(a1’)」ともいう)に由来する構成単位(a1)及び官能基含有モノマー(a2’)(以下、「モノマー(a2’)」ともいう)に由来する構成単位(a2)を有するアクリル系共重合体が好ましい。
【0031】
モノマー(a1’)が有するアルキル基の炭素数としては、凝集力を高めて保持力を向上させ、かつ高い粘着力を維持できる粘着剤層を形成し得る粘着剤組成物とする観点から、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、更に好ましくは4以上であり、また好ましくは24以下、より好ましくは12以下、更に好ましくは8以下、より更に好ましくは6以下である。
なお、モノマー(a1’)が有するアルキル基は、直鎖アルキル基であってもよく、分岐鎖アルキル基であってもよい。
【0032】
モノマー(a1’)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらのモノマー(a1’)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
凝集力を高めて保持力を向上させ、かつ高い粘着力を維持できる粘着剤層を形成し得る粘着剤組成物とする観点から、構成単位(a1)の含有量は、前記アクリル系共重合体の全構成単位(100質量%)に対して、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上であり、また、好ましくは99.9質量%以下、より好ましくは99.0質量%以下、更に好ましくは97.0質量%以下、より更に好ましくは95.0質量%以下である。
【0034】
また、本発明の一態様において、前記アルキル系共重合体が有する構成単位(a1)は、上述のモノマー(a1’)が有するのと同様の炭素数のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位(a11)を含むことが好ましい。
また、本発明の一態様において、粘着力が高く維持され及び保持力をより向上させた粘着剤層を形成し得る粘着剤組成物とする観点から、構成単位(a1)中の構成単位(a11)の含有量は、前記アクリル系共重合体の構成単位(a1)の全量(100質量%)に対して、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上であり、また、好ましくは100質量%以下である。
【0035】
モノマー(a2’)が有する官能基としては、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、エポキシ基等が挙げられる。
つまり、モノマー(a2’)としては、例えば、ヒドロキシ基含有モノマー、カルボキシ基含有モノマー、アミノ基含有モノマー、エポキシ基含有モノマー等が挙げられる。
これらのモノマー(a2’)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、凝集力を高めて保持力を向上させ、かつ高い粘着力を維持できる粘着剤層を形成し得る粘着剤組成物とする観点から、モノマー(a2’)としては、ヒドロキシ基含有モノマー及びカルボキシ基含有モノマーが好ましい。
【0036】
ヒドロキシ基含有モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;ビニルアルコール、アリルアルコール等の不飽和アルコール類等が挙げられる。
【0037】
カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸;フマル酸、イタコン酸、マレイン酸、シトラコン酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸及びその無水物、2-(アクリロイルオキシ)エチルサクシネート、2-カルボキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0038】
凝集力を高めて保持力を向上させ、かつ高い粘着力を維持できる粘着剤層を形成し得る粘着剤組成物とする観点から、構成単位(a2)の含有量は、前記アクリル系共重合体の全構成単位(100質量%)に対して、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、更に好ましくは3.0質量%以上、より更に好ましくは5.0質量%以上であり、また、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、更に好ましくは30質量%以下、より更に好ましくは20質量%以下である。
【0039】
前記アクリル系共重合体は、更にモノマー(a1’)及び(a2’)以外の他のモノマー(a3’)に由来の構成単位(a3)を有していてもよい。
ただし、前記アクリル系共重合体において、構成単位(a1)及び(a2)の含有量は、当該アクリル系共重合体の全構成単位(100質量%)に対して、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは95質量%以上であり、また、好ましくは100質量%以下である。
【0040】
モノマー(a3’)としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン類;塩化ビニル、ビニリデンクロリド等のハロゲン化オレフィン類;ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のジエン系モノマー類;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、イミド(メタ)アクリレート等の環状構造を有する(メタ)アクリレート;スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリロイルモルホリン、N-ビニルピロリドン等が挙げられる。
【0041】
[粘着剤用添加剤]
本発明の一態様の粘着剤組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、有機溶剤型粘着剤(A)として、更に粘着付与剤や粘着剤用添加剤を含有してもよい。
粘着付与剤は、粘着性樹脂(A1)と混合することが可能であり、粘着性樹脂(A1)の粘着性能をより向上させる機能を持つ、分子量100~10,000のオリゴマー領域の化合物である。
粘着付与剤としては、例えば、ロジン系樹脂、水素化ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、水素化テルペン系樹脂、スチレン系樹脂、石油ナフサの熱分解で生成するペンテン、イソプレン、ピペリン、1,3-ペンタジエン等のC5留分を共重合して得られるC5系石油樹脂、石油ナフサの熱分解で生成するインデン、ビニルトルエン等のC9留分を共重合して得られるC9系石油樹脂、及びこれらの石油樹脂を水素化した水素化石油樹脂等が挙げられる。
粘着剤用添加剤としては、例えば、酸化防止剤、軟化剤(可塑剤)、防錆剤、顔料、染料、反応遅延剤、反応促進剤(触媒)、紫外線吸収剤、防カビ剤、殺カビ剤、抗菌剤、殺菌剤、帯電防止剤等が挙げられる。
なお、これらの粘着付与剤や粘着剤用添加剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
本発明の一態様の粘着剤組成物が、粘着付与剤を含有する場合、必要な粘着性を適切に確保する観点からその含有量は、粘着性樹脂(A1)100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは7質量部以上、更に好ましくは8質量部以上、より更に好ましくは10質量部以上であり、また、好ましくは70質量部以下、より好ましくは60質量部以下、更に好ましくは50質量部以下、より更に好ましくは40質量部以下である。
粘着剤用添加剤を含有する場合、それぞれの粘着剤用添加剤の含有量は、添加剤の種類応じて適宜選択されるが、粘着性樹脂(A1)100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、また、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下である。
【0043】
[第1の有機溶剤]
本発明の一態様で用いる有機溶剤型粘着剤(A)は、粘着性樹脂(A1)と共に、有機溶剤を含有する。粘着性樹脂(A1)と共に用いる有機溶剤を第1の有機溶剤という場合がある。
第1の有機溶剤としては、使用する粘着性樹脂(A1)との溶解性を考慮して適宜選択されるが、例えば、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、n-ブタノール、t-ブタノール、s-ブタノール、アセトン、アセチルアセトン、シクロヘキサノン、n-ヘキサン、シクロヘキサン等が挙げられる。
なお、これらの有機溶剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用した混合溶剤としてもよい。
【0044】
本発明の一態様で用いる有機溶剤型粘着剤(A)の有効成分濃度としては、得られる粘着剤組成物の取扱性を良好とし、優れた塗布性を付与する観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、また、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは45質量%以下である。
【0045】
<疎水化セルロースナノファイバー(B)>
本発明の粘着剤組成物は、疎水化CNF(B)を含有する。
上述のとおり、疎水化CNF(B)は、表面に疎水基が導入されたCNF、及び、疎水化剤によって疎水化表面処理されたCNFを意味する。疎水化CNF(B)を含有することで、架橋剤の使用量が少なくても又は架橋剤を添加せずとも、形成される粘着剤層の凝集力を高めて保持力を向上させ、かつ高い粘着力を維持できる粘着剤層を形成することができる。
【0046】
CNFは本来親水性であるが、疎水基が導入されるか疎水化剤で表面処理されることにより疎水化(親油化)され、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチル、MEK、IPA、シクロヘキサノン、アセトン、エタノール等の有機溶媒、及び、これらの溶媒に相溶するその他の有機溶媒に均一分散するようになる。このため、疎水化していないCNFの場合は、有機溶剤に混合しても相分離、もしくは凝集し白濁化してしまうのに対して、疎水化CNFの場合は有機溶剤に混合しても白濁せず均一に分散する。
【0047】
疎水化CNF(B)を用いた粘着剤組成物は、高温での保持力を大きくすることができる。これは、以下の理由によるものと推測される。粘着剤組成物の温度が高くなると、粘着性樹脂が凝集破壊を起こし被着物から脱落するまでの時間を短くする方向に作用する(つまり、保持力を低下させるように作用する)。一方、CNFは温度依存性が低く、200℃程度まで温度が上昇しても形態上の変化がほとんど生じない。また、CNFが疎水化処理されているため、CNFを有機溶媒型粘着剤(A)中に、均一に分散させることができる。こうして、疎水化CNF(B)の存在により、高温でも粘着剤組成物全体にわたって凝集力が維持される結果、粘着性樹脂(A1)が軟化しても粘着剤組成物の保持力低下を抑制し、結果的に高温でも粘着剤組成物の保持力を下がりにくくすることができるものと推測される。
【0048】
CNFを疎水化(親油化)するための疎水化処理は従来公知の様々な手法を使用することできる。代表的なものとしては、以下の手法が挙げられる。
(1)エステル化(アシル化)(アルキルエステル化、複合エステル化、β-ケトエステル化など)、アルキル化、トシル化、エポキシ化、アリール化等の反応を行うことによって、CNFの水酸基の一部又は全部を疎水性基に置換する。これらのうち、エステル化が好ましく、エステル化された疎水化CNFは、セルロースの水酸基の一部又は全部が、酢酸、無水酢酸、プロピオン酸、酪酸等のカルボン酸、もしくはそのハロゲン化物(特に塩化物)によりアシル化されている。
(2)TEMPO等のN-オキシル化合物を用いた酸化処理によってCNFにカルボキシアニオンを修飾する。更に、有機アンモニウム、有機ホスホニウムのようなオニウム構造を有する有機オニウム化合物を加えて反応させることにより、CNFを疎水化する。
(3)シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、シリコーン油、フッ素油、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂及びこれらで処理された無機粉末から選択された1種又は2種以上を疎水化剤として使用し、CNFを表面処理する。これらのうち、シラン系カップリング剤が好ましい。シラン系カップリング剤は、繊維表面のヒドロキシル基との間で脱水縮合反応して強固な共有結合を形成することによりCNFが疎水化される。
(4)金属やセラミック原料を、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング等の物理蒸着法(PVD法)、化学蒸着法(CVD法)、無電解メッキや電解メッキ等のメッキ法等によって表面被覆させ、物理修飾することでCNFを疎水化する。
【0049】
これらの中でも、上記(2)の手法が特に好ましい。上記(2)の方法を用いた場合、有機オニウム化合物が持つアルキル鎖の長さ等を変更することによって疎水化の度合いを調整することも可能である。
【0050】
なお、CNFが疎水化されているか否か、あるいは、疎水化の度合いは、各種方法により測定できる。例えば、測定対象のCNFを含む有機溶媒を適当な支持体に塗布乾燥してCNF膜を形成し、このCNF膜に蒸留水を滴下して接触角を測定することで、CNFの疎水化の度合いを測定することができる。また、CNFをトルエン等の有機溶媒に所定濃度で分散させ、一定時間後のCNFの沈降の度合いを調べたりする等の方法によっても、CNFの疎水化の度合いを測定することができる。
CNFの疎水化の度合いを、水に対する接触角を測定することで確認する場合、具体的には実施例に記載の方法により測定できる。
水に対する接触角が、40°以上、150°以下であれば、CNFが疎水化されていると判断できる。
疎水化CNFの水に対する接触角は、好ましくは45°以上、より好ましくは50°以上であり、また、好ましくは120°以下、より好ましくは100°以下、更に好ましくは80°以下、より更に好ましくは60°以下である。
【0051】
なお、本発明の粘着剤組成物は、粘着性樹脂(A1)を含む有機溶剤型粘着剤(A)に、疎水化CNF(B)を配合してなるものであるが、生産性の観点から、有機溶剤型粘着剤(A)に、疎水化CNF(B)を含む有機溶剤分散液を配合してなるものであることが好ましい。
前記有機溶剤分散液中の疎水化CNF(B)の含有量は、当該有機溶剤分散液の全量(100質量%)に対して、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上、より更に好ましくは3質量%以上であり、また、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、より更に好ましくは8質量%以下である。
前記有機溶剤分散液中の疎水化CNF(B)の含有量が0.1質量%以上であれば、有機溶剤型粘着剤(A)の、粘着剤組成物への添加量が多くなりすぎないため、有機溶剤の含有量が過剰量にならず、塗工に適した粘度に調整しやすい。また、疎水化CNF(B)の含有量が30質量%以下であれば、疎水化CNF(B)を含む有機溶剤分散液を容易に調製することができる。
【0052】
疎水化CNF(B)と共に用いられる有機溶剤(第2の有機溶剤)としては、有機溶剤型粘着剤(A)に用いられる上述した第1の有機溶剤と同様のものを使用することができる。特に、相溶性の観点から、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチル、MEK、IPAを用いることが好ましい。第1の有機溶媒と第2の有機溶媒は、互いに異なる種類のものでもよいし、同じ種類のものでもよい。
【0053】
上記第2の有機溶剤に疎水化CNF(B)を添加する方法は、これに制限されるものではないが、例えば、パルプ等のセルロース系原料が水性分散媒中に分散している分散液を調製し、後述するように、セルロース系原料の変性処理、変性されたセルロース系原料の疎水化処理、疎水化されたセルロース系原料の解繊等を経て、疎水化CNF(B)を生成するまでのいずれかの段階、及び、疎水化CNF(B)を生成した後の段階のうち少なくとも一方の段階で、水性分散媒を第2の有機溶剤に溶媒置換する方法を用いることができる。
溶媒置換の方法は、これに限られるものではないが、例えば、有機溶剤を水性分散液に添加し混合した後、固形分を濾別し、得られた固形分を新たな有機溶剤に添加し、必要に応じて濾別と有機溶剤への添加を繰り返す方法を用いることができる。なお、使用する有機溶剤として、水性分散液に添加する段階から、目的とする有機溶剤を用いてもよい。また、水性分散液に添加する段階では親水性の有機溶剤を使用し、濾別後に目的とする有機溶剤に近い性質の有機溶剤を使用し、最終的に目的とする有機溶剤を用いるように、段階的に有機溶剤の種類を変更してもよい。
【0054】
疎水化CNF(B)の含有量は、粘着性樹脂(A1)100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1.0質量部以上、より更に好ましくは3.0質量部以上であり、また、好ましくは30質量部以下、より好ましくは25質量部以下、更に好ましくは20質量部以下、より更に好ましくは15質量部以下である。また、疎水化CNF(B)の含有量は、粘着性樹脂(A1)100質量部に対して、好ましくは0.1~30質量部、より好ましくは0.5~25質量部、更に好ましくは1.0~20質量部、より更に好ましくは3.0~15質量部である。
疎水化CNF(B)の含有量が0.1質量部以上であれば、形成される粘着剤層内にて、疎水化CNF(B)の三次元網目構造を形成し易く、凝集力を高め、80℃程度の高温においても優れた粘着力及び保持力を有する粘着剤層を形成することができる。
一方、疎水化CNF(B)の含有量が30質量部以下であれば、高弾性体であるCNFを添加しても、得られる粘着剤組成物の粘着性を良好に維持し易い。そのため、例えば、当該粘着剤組成物から形成した粘着剤層の一方の表面に基材を設けた場合、粘着剤層と基材との密着性を良好とすることができる。
【0055】
また、本発明の一態様の粘着剤組成物において、疎水化CNF(B)の含有量は、当該粘着剤組成物の有効成分の全量(100質量%)に対して、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.10質量%以上、更に好ましくは0.50質量%以上であり、また、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
疎水化CNF(B)の含有量が0.05質量%以上であれば、三次元網目構造を形成し易いため、凝集力が高まって保持力が向上し、かつ高い粘着力を維持できる粘着剤層を形成し得る粘着剤組成物とすることができる。また、疎水化CNF(B)の含有量が30質量%以下であれば、疎水化CNFの絡み合いによる、高粘度化が生じ難いため、得られる粘着剤組成物から形成される塗布面は、均一な平坦面とし易くなる。なお、粘着剤組成物のヘーズの値は、疎水化CNF(B)の含有量が増えても低い値に保たれるため、疎水化CNF(B)の含有量が上述の範囲であれば、粘着剤組成物の透明性が確保される。
【0056】
疎水化CNF(B)を得るためのCNFの原料としては、例えば、木材由来のクラフトパルプ又はサルファイトパルプ;クラフトパルプ又はサルファイトパルプを高圧ホモジナイザーやミル等で粉砕した粉末セルロース;粉末セルロースを酸加水分解などの化学処理により精製した微結晶セルロース粉末;コウゾ、雁皮、三椏等の靭皮繊維パルプ;コットンパルプ、ケナフ、麻、イネ、バカス、竹等の植物由来のセルロース系原料;等のセルロース系原料が挙げられる。
【0057】
なお、これらの原料中に、リグニンが多く残留してしまうと、当該原料の酸化反応を阻害する恐れがあるため、これらの原料に対して、リグニンの除去を施した、セルロース系原料が好ましい。
また、上述のセルロース系原料を高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などの分散装置、湿式の高圧または超高圧ホモジナイザー等で微細化したものを使用することもできる。
【0058】
なお、上述したCNFを疎水化するための処理は、セルロース系原料を解繊する時もしくは解繊する前に行ってもよいし、解繊後に行ってもよい。
【0059】
上述のセルロース系原料は、解繊してナノファイバー化することで、セルロースナノファイバーとすることができる。
具体的な方法としては、セルロース系原料が水等の分散媒に分散している分散液を調製した後、セルロース系原料にせん断力を印加することで、CNFを含む分散液とすることができる。
セルロース系原料の解繊時に、上述した疎水化処理を行う場合は、例えばセルロース系原料が水系分散媒に分散している分散液を、疎水化処理を行いながら同時にセルロース系原料にせん断力を印加することで、疎水化CNFの分散液を得ることができる。
セルロース系原料の解繊前に、上述した疎水化処理を行う場合は、例えばセルロース系原料の水系分散液を用いてセルロース系原料を疎水化処理することにより、疎水化されたセルロース系原料の分散液を得た後に、疎水化されたセルロース系原料にせん断力を印加して、疎水化CNFの分散液を得ることができる。
セルロース系原料の解繊後に、上述した疎水化処理を行う場合は、セルロース系原料の解繊後に、疎水化剤を添加して解繊されたセルロースを疎水化し、疎水化後のセルロースを再解繊させることで、疎水化CNFの分散液を得ることができる。
【0060】
疎水化CNF有機溶剤分散液の製造手順としては次のものが挙げられる。例えば、TEMPO酸化CNF等の変性処理が行われたCNFを含む水性分散液を準備し、水性分散媒から有機溶剤へと溶媒置換し、上述した各種の手法によって疎水化処理を行った後、更に、再解繊処理を行うことによって疎水化CNF(B)が有機溶媒に分散した分散液を得ることができる。
なお、溶媒置換は疎水化処理前、疎水化処理中及び疎水化処理後のいずれの段階で行っても良いし、セルロース系原料の解繊前、解繊中、解繊後のいずれの段階で行っても良い。
【0061】
セルロース系原料にせん断力を印加する方法としては、水等の分散媒にセルロース系原料を添加した後、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式等の装置を用いてせん断力を印加する方法が好ましい。
この際、分散液にかかる圧力としては、好ましくは50MPa以上、より好ましくは100MPa以上、更に好ましくは140MPa以上である。
このような高圧下で、セルロース系原料に強力なせん断力を印加する観点から、高圧式の装置を用いてせん断力を印加することが好ましく、湿式の高圧又は超高圧ホモジナイザーを用いることがより好ましい。
【0062】
なお、疎水化CNF(B)を含む有機溶剤分散液は、疎水性CNF(B)を第2の有機溶媒に添加し、撹拌することで容易に調製することができる。
【0063】
<粘着剤組成物の調製方法>
本発明の粘着剤組成物の調製方法としては、特に制限はないが、粘着性樹脂(A1)及び有機溶剤を含む有機溶剤型粘着剤(A)に、疎水化CNF(B)を含む有機溶剤分散液を配合して調製することが好ましい。
なお、必要に応じて用いられる上述の粘着剤用添加剤は、有機溶剤型粘着剤(A)に、粘着性樹脂(A1)と共に予め添加していてもよく、疎水化CNF(B)を含む有機溶剤分散液と共に配合してもよい。
上記有機溶剤分散液を配合後、溶液中に疎水化CNF(B)が均一に分散するように、十分に撹拌することが好ましい。
【0064】
<粘着剤組成物の有効成分濃度、及び、有機溶剤の含有量>
本発明の一態様の粘着剤組成物の有効成分濃度としては、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上、特に好ましくは20質量%以上であり、また、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。
本発明の一態様の粘着剤組成物において、有機溶剤型粘着剤(A)調製用の有機溶剤及び疎水化CNFの有機溶剤分散調製用の有機溶剤の合計含有量としては、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、また、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下、更に好ましくは80質量%以下である。
本発明の一態様の粘着剤組成物において、1質量%以下の水が含まれていてもよい。粘着剤組成物が水を含む場合の有効成分濃度は、当該粘着組成物における、粘着剤組成物から有機溶剤及び水を除いた成分の濃度で表される。この場合の有効成分濃度の好ましい数値範囲は上述した数値範囲と同様である。
なお、有効成分濃度、有機溶剤型粘着剤(A)調製用有機溶剤、疎水化CNFの有機溶剤分散調製用の有機溶剤、及び場合によって含まれる水の合計含有量が上記の範囲になるように調製された粘着剤組成物は、液相分離が生じ難くなるため、均一な粘着剤層を形成し得る。
【0065】
〔粘着シートの構成〕
本発明の粘着シートは、上述の本発明の粘着剤組成物から形成された粘着剤層を有するものであればよい。
図1は、本発明の粘着シートの構成の一例を示す、粘着シートの断面図である。
本発明の一態様の粘着シートとしては、例えば、図1(a)に示すように、基材11の少なくとも一方の表面上に、粘着剤層12を有する基材付き粘着シート1aが挙げられる。
なお、基材付き粘着シート1aの構成においては、図1(b)に示すように、粘着剤層12上に、更に剥離材13を積層した基材付き粘着シート1bとしてもよい。
【0066】
また、本発明の一態様の粘着シートとしては、図1(c)に示すように、基材11の両面に、それぞれ粘着剤層12a、12bを有する基材付き両面粘着シート1cのような構成としてもよい。
なお、図1(c)に示す両面粘着シート1cは、粘着剤層12a、12b上に、それぞれ剥離材を積層した構成としてもよい。
【0067】
また、本発明の一態様の粘着シートとしては、図1(d)のように、基材を用いずに、2枚の剥離材13a、13bに粘着剤層12が挟持された構成を有する基材無し粘着シート1dとしてもよい。
この基材無し粘着シート1dの剥離材13a、13bは、同じ種類の素材であってもよく、互いに異なる種類の素材であってもよいが、剥離材13aと剥離材13bとの剥離力が異なるように調整された素材であることが好ましい。
なお、基材無し粘着シートとしては、両面に剥離処理が施された剥離材の一方の面上に粘着剤層を設けたものをロール状に巻いた構成を有する粘着シートも挙げられる。
【0068】
本発明の一態様の粘着シートが有する粘着剤層の厚さとしては、粘着シートの用途に応じて適宜設定されるが、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、更に好ましくは5μm以上であり、また、好ましくは100μm以下、より好ましくは70μm以下、更に好ましくは50μm以下である。
【0069】
<基材>
本発明の一態様の粘着シートが有する基材としては、当該粘着シートの用途に応じて適宜選択され、例えば、上質紙、アート紙、コート紙、グラシン紙等の紙基材;これらの紙基材にポリエチレン等の熱可塑性樹脂をラミネートしたラミネート紙;アルミニウム箔や銅箔や鉄箔等の金属箔;不織布等の多孔質材料:ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂やポリエチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル樹脂、アセテート樹脂、ABS樹脂、ポリスチレン樹脂、塩化ビニル樹脂等の1種以上の樹脂を含む樹脂フィルム又はシート;等が挙げられる。
【0070】
なお、本発明の一態様で用いる基材は、単層フィルム又はシートであってもよく、2層以上の積層体である複層フィルム又はシートであってもよい。
また、樹脂フィルム又はシートは、未延伸でもよいし、縦又は横等の一軸方向あるいは二軸方向に延伸されていてもよい。
更に、樹脂フィルム又はシートは、上述の樹脂のほかに、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、着色剤等が含有されていてもよい。
【0071】
基材が樹脂フィルム又はシートである場合、基材と粘着剤層との密着性を向上させる観点から、必要に応じて、基材の表面に対し酸化法や凹凸化法等の表面処理を施すことが好ましい。
酸化法としては、例えば、コロナ放電処理法、プラズマ処理法、クロム酸酸化(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理等が挙げられる。
また、凹凸化法としては、例えば、サンドブラスト法、溶剤処理法等が挙げられる。
これらの表面処理は、基材の種類に応じて適宜選定されるが、粘着剤層との密着性の向上効果や操作性の観点から、コロナ放電処理法が好ましい。また、基材の表面に、プライマー処理を施してもよい。
【0072】
更に、基材の種類によっては、粘着剤層が積層する側の基材の表面に、目止め層を設けてもよい。この目止め層は、粘着性組成物の基材への浸透防止の他に、基材と粘着剤層との密着性を更に向上させるために、もしくは、基材が紙類であって柔軟すぎる場合には、剛性を付与するために設けられる。
目止め層は、例えは、スチレンーブタジエン共重合体、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂等を主成分として、必要に応じ、クレー、シリカ、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化亜鉛等のフィラーを含む組成物から形成することができる。
【0073】
基材の厚さは、粘着シートの用途に応じて適宜選択されるが、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上、更に好ましくは20μm以上であり、また、好ましくは250μm以下、より好ましくは200μm以下、更に好ましくは150μm以下である。
【0074】
〔剥離材〕
本発明の一態様の粘着シートが有する剥離材としては、両面剥離処理をされた剥離シートや、片面剥離処理された剥離シート等が用いられ、剥離材用の基材上に剥離剤を塗布したもの等が挙げられる。
【0075】
剥離材用基材としては、例えば、上質紙、グラシン紙、クラフト紙等の紙類;ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂等のポリエステル樹脂フィルム、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂等のオレフィン樹脂フィルム等のプラスチックフィルム;等が挙げられる。
【0076】
剥離剤としては、例えば、シリコーン系樹脂;オレフィン系樹脂;イソプレン系樹脂、ブタジエン系樹脂等のゴム系エラストマー;長鎖アルキル系樹脂;アルキド系樹脂;フッ素系樹脂等が挙げられる。
【0077】
剥離材の厚さは、特に制限ないが、好ましくは10μm以上、より好ましくは25μm以上、更に好ましくは35μm以上であり、また、好ましくは200μm以下、より好ましくは170μm以下、更に好ましくは100μm以下、より更に好ましくは80μm以下である。
【0078】
〔粘着シートの製造方法〕
本発明の粘着シートの製造方法としては、特に制限はなく、基材又は剥離材上に、本発明の粘着剤組成物を塗布して塗膜を形成し、当該塗膜を乾燥させて、粘着剤層を形成する工程を有する製造方法が挙げられる。
【0079】
なお、本発明の粘着剤組成物は、疎水性CNF(B)を含有しているため、架橋剤を含有しないか架橋剤の含有量が少なくても、凝集力が高い粘着剤層を形成することができる。
そのため、粘着剤層の形成材料として用いる粘着剤組成物が、非架橋型である場合、粘着剤層を形成後に、エージング工程を経る必要がない。
【0080】
基材又は剥離材上への粘着剤組成物の塗布方法としては、例えば、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ロールナイフコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法等が挙げられる。
【0081】
具体的な製造方法として、図1(a)のような基材付き粘着シート1aの製造方法としては、例えば、基材11の一方の面に、粘着性組成物を直接塗布し、乾燥して粘着剤層12を形成して製造する方法が挙げられる。
また、図1(b)のような基材付き粘着シート1bの製造方法としては、例えば、剥離材13の剥離処理面上に、粘着性組成物を直接塗布し、乾燥して粘着剤層12を形成した後、表出している粘着剤層12の表面と基材11とを貼り合わせて製造する方法や、基材11上に粘着性組成物を直接塗布し、乾燥して粘着剤層12を形成した後、表出している粘着剤層12の表面に剥離材13の剥離処理面を貼り合わせて製造する方法等が挙げられる。
更に、図1(c)のような基材付き両面粘着シート1cの製造方法としては、例えば、基材の両面のそれぞれに、粘着性組成物を直接塗布し、乾燥して粘着剤層12a、12bを形成させて製造する方法や、2枚の剥離材を用意し、それぞれの剥離材の剥離処理面上に、粘着性組成物を直接塗布し、乾燥して粘着剤層を形成させた後、2つの剥離材上に形成した粘着剤層12a、12bを基材11の両面に貼り合わせて製造する方法等が挙げられる。
そして、図1(d)のような基材無し粘着シート1dの製造方法としては、例えば、一つの剥離材13aの剥離処理面に粘着性組成物を直接塗布し、乾燥して粘着剤層12を形成させた後、表出している粘着剤層12の表面に、別の剥離材13bを貼り合わせて製造する方法等が挙げられる。
【0082】
〔粘着シートの物性、用途〕
本発明の一態様の粘着シートのステンレス板に対する粘着力としては、好ましくは10N/25mm以上、より好ましくは12.5N/25mm以上、更に好ましくは15N/25mm以上、より更に好ましくは17N/25mm以上、より更に好ましくは18N/25mm以上である。
なお、本明細書において、粘着シートのステンレス板に対する粘着力は、JIS Z0237:2000に準拠して測定した値であって、より具体的には、実施例に記載の方法に基づいて測定した値である。
【0083】
本発明の一態様の粘着シートについて、後述の実施例に記載の条件で測定した、1kgの荷重をかけた際に被着体であるステンレス板から完全に剥がれ落ちるまでの経過時間(保持力)としては、40℃において、好ましくは30,000秒以上、より好ましくは35,000秒以上、更に好ましくは40,000以上であり、80℃において、好ましくは1,000秒以上、より好ましくは1,500秒以上、更に好ましくは2,000秒以上である。
また、高温環境下でも十分な保持力を確保する観点から、疎水化CNFを含む粘着剤組成物の、40℃における保持力RT(秒)は、疎水化CNFが添加されていない粘着剤組成物におけるRTに対して、好ましくは1.2倍以上、より好ましくは1.4倍以上、更に好ましくは1.6倍以上であり、疎水化CNFを含む粘着剤組成物の、80℃における保持力RT(秒)は、疎水化CNFが添加されていない粘着剤組成物におけるRTに対して、好ましくは1.2倍以上、より好ましくは1.5倍以上、更に好ましくは2.0倍以上である。
【0084】
本発明の一態様の粘着シートは、上述したように、疎水化CNF(B)が粘着性樹脂に分散しやすいため、透明性を向上させやすい。このため、本発明の一態様の粘着シートは、光透過性が求められる用途に適しており、例えば、粘着シートを被着体の正確な位置に貼付する必要がある場合に、粘着シートを通して被着体の位置を確認しながら貼付することができる。本発明の一態様の粘着シートは、光学用途にも用いることができる。粘着シートに良好な透明性を付与するために、粘着シートの粘着剤層をPET基材に貼付した後のヘーズの値が、好ましくは25%以下、より好ましくは20%以下、更に好ましくは10%以下、より更に好ましくは5%以下である。ヘーズの測定は、ヘーズメーター(日本電色工業株式会社製、製品名「NDH 5000」)によりJIS K7136 2000に従って測定した値を採用することができる。
粘着シートのヘーズは、具体的には実施例に記載の方法により測定できる。
【0085】
本発明の粘着シートは、優れた粘着力及び保持力を有する。
そのため、本発明の粘着シートは、各種部品の固定用途又は仮固定用途だけでなく、各種情報を表示するためのラベル用途、マスキング用途等、多岐にわたり使用することができる。
より具体的には、看板用のマスキングテープ、壁紙、皮膚貼付用テープ、医療部材、玩具用テープ等の用途に好適である。
【実施例
【0086】
本発明について、以下の実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の製造例及び実施例における物性値は、以下の方法により測定した値である。
【0087】
<質量平均分子量(Mw)>
ゲル浸透クロマトグラフ装置(東ソー株式会社製、製品名「HLC-8020」)を用いて、下記の条件下で測定し、標準ポリスチレン換算にて測定した値を用いた。
(測定条件)
・カラム:「TSK guard column HXL-L」「TSK gel G2500HXL」「TSK gel G2000HXL」「TSK gel G1000HXL」(いずれも東ソー株式会社製)を順次連結したもの
・カラム温度:40℃
・展開溶媒:テトラヒドロフラン
・流速:1.0mL/min
【0088】
実施例1~3、比較例1
表1に示す種類及び配合量にて、粘着性樹脂及び有機溶剤を含む有機溶剤型粘着剤を調製した後、表1に示す疎水化セルロースナノファイバー及び有機溶剤を含む有機溶剤分散液を上記粘着剤に添加し、均一になるまで十分に撹拌して、粘着剤組成物をそれぞれ調製した。
そして、基材である、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの一方の表面上に、調製した粘着剤組成物を塗布して塗膜を形成し、当該塗膜を100℃で2分間加熱乾燥し、厚さ25μmの粘着剤層を形成した。
次いで、形成した粘着剤層の表出している表面上に、剥離材である、軽剥離フィルム(リンテック株式会社製、製品名「SP-PET381031」、厚さ:38μm)の剥離処理面を積層して、基材、粘着剤層、及び剥離材をこの順で積層してなる、基材付き粘着シートを作製した。
【0089】
また、上記基材を、剥離材である重剥離フィルム(リンテック株式会社製、製品名「SP-PET382150」、厚さ:38μm)に変更して、重剥離フィルムの剥離処理面上に、上記と同じ方法で厚さ25μmの粘着剤層を形成した後、更に軽剥離フィルムを積層して、重剥離フィルム、粘着剤層、及び軽剥離フィルムをこの順で積層してなる、基材無し粘着シートも作製した。
【0090】
なお、粘着剤組成物の調製に使用した、各成分の詳細は以下のとおりである。
<粘着性樹脂>
・アクリル系樹脂(1):n-ブチルアクリレート(BA)及びアクリル酸(AAc)から構成された原料モノマーを共重合してなるアクリル系共重合体(BA/AAc=90/10(質量比))、Mw=70万。
【0091】
<疎水化セルロースナノファイバー有機溶剤分散液>
・CNF(1):日本製紙株式会社製、濃度1.3%、直径(太さ)の平均=3.8nm、長さの平均=0.7μm、平均アスペクト比=184である、化学修飾されたセルロースナノファイバー(カルボキシル基量1.4mmol/g)100gと、イオン交換水100gとを500mlビーカーに秤量し、更に塩酸を添加し、pH2.5に調整した後、十分に水洗することで、酸型のカルボキシル化TEMPO酸化CNFを得た。この酸型カルボキシル化TEMPO酸化CNFにアセトンを200g加えて30分間撹拌し、ろ過によって回収した。このアセトンの添加と撹拌及びろ過の操作を3回繰り返すことで、溶媒がアセトンによって置換されたアセトン分散CNFを得た。このアセトン分散CNFにトルエンを200g加えて30分間撹拌し、ろ過によって回収した。このトルエンの添加と撹拌及びろ過の操作を3回繰り返すことで、溶媒がトルエンで置換されたトルエン分散CNFを得た。スラリー中のCNFの質量割合は7.0wt%であった。得られたトルエン分散CNFに、疎水化剤(JEFFAMINE(登録商標)M-2005(HUNTSMAN社製、分子量2000))を添加し、分散体における固形分濃度を7.5質量%に調整した。疎水化剤の添加量はカルボキシル基量に対して1当量となる量であった。この分散体を超高圧ホモジナイザー(150MPa)で解繊し、疎水化剤を結合させたCNFのトルエン分散液を製造した。
【0092】
<CNFの疎水化の度合い>
測定対象のCNFを含むCNF分散液(ここでは、疎水化CNFトルエン分散液)を、アプリケーターを用いてPETシート上に塗付し、120℃で2分乾燥することにより、厚さが3μmのCNF膜を形成した。
23℃50%R.H.環境下にて24時間静置した後、当該CNF膜の表面に2mlの純水を滴下し、着滴から1秒後の静的接触角を、全自動接触角計(協和界面科学株式会社製、製品名「DM-701」)を用いて測定することにより、水に対する静的接触角を測定した。
その結果、本分散液に含まれるCNFの接触角は51.9°であり、疎水化されていることが確認された。
なお、比較のため、市販のTEMPO酸化CNF水分散液(製品名「セレンピアTC-01A」、日本製紙株式会社製。直径(太さ)の平均=3.8nm、長さの平均=0.7μm、平均アスペクト比=184である、化学修飾されたセルロースナノファイバー(カルボキシ基量1.4mmol/g)を1質量%含む水分散液)を用いて、同様の測定を行ったところ、接触角は35.2°であった。
【0093】
実施例及び比較例で作製した粘着シートについて、以下の方法に基づき、各種物性値を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0094】
<粘着剤層のヘーズ>
実施例及び比較例で作製した基材無し粘着シートを、2枚のPETフィルム(東洋紡株式会社製 製品名「コスモシャイン A4100」 厚さ50μm)で、PETフィルムの易接着面を内側にして挟み、ヘーズメーター(日本電色工業株式会社製「NDH 5000」)を用いて、JIS K7136 2000に従って、ヘーズの値を測定した。測定に当たっては、上記PETフィルム2枚のみの場合の測定値を用いて0点補正を行った。
【0095】
<粘着剤層のゲル分率>
実施例及び比較例で作製した基材無し粘着シートを縦80mm×横80mmの大きさに切断した後、軽剥離フィルム及び重剥離フィルムを除去し、粘着剤層のみを取り出した。そして、当該粘着剤層を、予め質量を測定したポリエステル製メッシュ(メッシュサイズ200)に包み込み、試験サンプルを作製した。当該試験サンプルを温度23℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置した後、当該試験サンプルの質量を精密天秤にて秤量し、測定値から、ポリエステル製メッシュの質量を除き、浸漬前の粘着剤層のみの質量を算出した。この測定した粘着剤層の質量をMとした。
次に、試験サンプルを、室温下(23℃)で酢酸エチルに168時間浸漬させた。
浸漬後、試験サンプルを取り出し、当該試験サンプルを、80℃のオーブン中にて12時間乾燥させた後、温度23℃、相対湿度50%の環境下で、24時間静置した。乾燥後の試験サンプルの質量を精密天秤にて秤量し、測定値から、ポリエステル製メッシュの質量を除き、浸漬及び乾燥後の粘着剤層のみの質量を算出した。この測定した粘着剤層の質量をMとした。
浸漬前の粘着剤層の質量Mの値、及び、浸漬後の粘着剤層の質量Mの値から、下記式により粘着剤層のゲル分率を算出した。
・ゲル分率(質量%)=(M/M)×100
【0096】
<粘着力>
実施例及び比較例で作製した基材付き粘着シートを縦300mm×横25mmの大きさに切断したものを試験片とした。23℃、50%RH(相対湿度)の環境下で、当該試験片の軽剥離フィルムを除去し、表出した粘着剤層の表面を、ステンレス板(SUS304 360番研磨)に貼付し、同環境下で24時間静置した。
静置後、JIS Z0237:2000に基づき、180°引き剥がし法により、引張速度(剥離速度)300mm/分にて、ステンレス板から試験片を剥離する際の粘着力を測定した。
【0097】
<保持力>
実施例及び比較例で作製した基材付き粘着シートを縦25mm×横100mmの大きさに裁断したものを試験片とした。23℃、50%RH(相対湿度)の環境下で、当該試験片の軽剥離フィルムを除去し、表出した粘着剤層の表面を、被着体であるステンレス板(SUS304、360番研磨)に、貼付面が縦25mm×横25mmとなるように貼付した。この貼付に際しては、重さ2kgのローラーを用い、5往復させて、被着体に圧着した。
貼付してから20分間静置した後、温度40℃の恒温層内に移し、1kgの重しを粘着シートに垂直方向に荷重がかかるよう取り付けて、粘着シートがずれ落ちて被着体から完全に剥がれ落ちるまでの経過時間RT(秒)を測定した。
また、貼付してから20分間静置した後、温度80℃の恒温層内に移し、上述したのと同様の手順で被着体が完全に剥がれ落ちるまでの経過時間RT(秒)を測定した。
これらの経過時間が長いほど、保持力に優れた粘着シートであるといえる。なお、表1の保持力の欄において、「cf」とあるのは、粘着シートが凝集破壊して被着体から剥がれ落ちたことを意味している。
【0098】
【表1】
【0099】
実施例1~3で作製した粘着シートは、良好な粘着力を有しており、しかも、40℃及び80℃いずれにおいても比較例1に比べて高い保持力を示した。また、疎水化CNFの含有量が増すにつれて、特に高温における保持力が相対的に大きくなる傾向を示した。
更に、実施例1~3で作製した粘着シートは、いずれもヘーズの値が小さく、疎水化CNFが粘着剤中に良好に分散していることを示していた。また、これらの粘着シートを通して、粘着シートの向こう側の文字を視認することができた。
更にまた、実施例1~3で作製した粘着シートは、いずれもゲル分率が小さく、粘着樹脂を架橋剤によって架橋させた粘着剤とは異なり、有機溶剤に溶けやすい成分の量が非常に多いにもかかわらず、良好な粘着力と保持力を付与することができた。
【符号の説明】
【0100】
1a、1b、1c、1d 粘着シート
11 基材
12、12a、12b 粘着剤層
13、13a、13b 剥離材
図1