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特許7412922絶縁材の耐電圧特性評価方法及び耐電圧特性測定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】絶縁材の耐電圧特性評価方法及び耐電圧特性測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/16 20060101AFI20240105BHJP
   G01R 31/12 20200101ALI20240105BHJP
【FI】
G01R31/16
G01R31/12 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019152783
(22)【出願日】2019-08-23
(65)【公開番号】P2021032684
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-08-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(74)【代理人】
【識別番号】100133307
【弁理士】
【氏名又は名称】西本 博之
(72)【発明者】
【氏名】和田 光祐
(72)【発明者】
【氏名】金子 政秀
(72)【発明者】
【氏名】野々垣 良三
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第206193171(CN,U)
【文献】特開平09-178800(JP,A)
【文献】実開昭62-071575(JP,U)
【文献】特開2002-156367(JP,A)
【文献】特開2009-244040(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0074174(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第109031079(CN,A)
【文献】中国実用新案第206649117(CN,U)
【文献】実開昭49-059581(JP,U)
【文献】特開平08-262099(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/12-31/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁材の耐電圧特性評価方法であって、
前記絶縁材を一対の電極で挟んで局所的に押圧し、
前記電極間に前記絶縁材の厚みの薄い部分を形成し、
前記一対の電極のうち、少なくとも一方の前記電極と前記絶縁材との間に異物を配置し、
前記一対の電極によって前記異物及び前記絶縁材を挟むことによって、前記異物と他方の前記電極との間に前記厚みの薄い部分を形成し、
前記電極間に電圧をかけて前記絶縁材の耐電圧特性を評価する、絶縁材の耐電圧特性評価方法。
【請求項2】
前記厚みの薄い部分の厚みを変えながら前記電極間に電圧を印加して前記絶縁材の耐電圧特性を評価する請求項1記載の耐電圧特性評価方法。
【請求項3】
前記電極間に印加する電圧を変えながら前記絶縁材の耐電圧特性を評価する請求項1記載の耐電圧特性評価方法。
【請求項4】
前記厚みの薄い部分の厚み及び前記電極間に印加する電圧の双方を変えながら前記絶縁材の耐電圧特性を評価する請求項1記載の耐電圧特性評価方法。
【請求項5】
絶縁材の耐電圧特性を評価するための耐電圧特性測定装置であって、
上下方向に対向して配置された一対の電極と、
前記一対の電極を対向方向に移動させ、前記絶縁材を挟んだ状態で前記一対の電極間の距離を調整可能な電極間距離調整部と、
前記一対の電極間に電圧を印加する電圧印加部と、
前記絶縁材の絶縁破壊の有無を評価するための指標値を測定する指標値測定部と、
前記一対の電極のうち、少なくとも一方の前記電極を保持する昇降部と、
前記昇降部を昇降可能に支持する柱部と、を備え、
前記電極間距離調整部は、
前記昇降部に固定されると共に、上下方向に延在する軸部と、
前記軸部を上下方向に移動可能に支持すると共に、前記軸部の上下方向の移動量を調整可能な基本構造部と、を備えた耐電圧特性測定装置。
【請求項6】
前記一対の電極のうち、少なくとも一方の前記電極に設けられると共に、他方の前記電極に向けて配置された尖端部を更に備えている、請求項5記載の耐電圧特性測定装置。
【請求項7】
前記電圧印加部は、前記一対の電極間に印加する電圧を変化させることができる、請求項5記載の耐電圧特性測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁材の耐電圧特性評価方法及び耐電圧特性測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁材の一般的な耐電圧特性試験が知られている(JIS C2110)。また、特許文献1には、絶縁材を挟み込む二つの電極と、この電極を押えるばねとを有し、この二つの電極間に電圧を印加することで耐電圧特性性を試験する方法及び試験装置が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-9789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、アルミダイカスト製の機器に絶縁材を装着した際、機器等にバリが残っていたり、装着箇所に異物が存在したりすると、そのバリや異物等(以下、「バリ等」と称する)による押圧が絶縁材の狭い範囲に集中して干渉し、絶縁材の耐電圧特性に影響を与える可能性がある。しかしながら、従来の試験方法や試験装置では、バリ等が絶縁材に干渉した場合の耐電圧特性を測定し、また評価することができなかった。
【0005】
本発明は、以上の課題を解決することを目的としており、バリ等による押圧が絶縁材の狭い範囲に集中して干渉した状況を想定しての耐電圧特性を評価し得る絶縁材の耐電圧特性評価方法及び耐電圧特性測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、絶縁材の耐電圧特性評価方法であって、絶縁材を一対の電極で挟んで局所的に押圧し、その電極間に絶縁材の厚みの薄い部分を形成し、その電極間に電圧を印加して絶縁材の耐電圧特性を評価する耐電圧特性評価方法である。局所的に押圧するとは、押圧力が、絶縁材の狭い範囲に集中することを意味する。
【0007】
本発明によれば、絶縁材を一対の電極で挟んで局所的に押圧し、一対の電極間に絶縁材の厚みの薄い部分を形成することで、バリ等から干渉を受けている部分を疑似的に作ることができる。更に、一対の電極間に電圧を印加することにより、この厚みの薄い部分での絶縁破壊の有無を確認することができる。その結果、本発明によれば、バリ等が絶縁材に局所的に干渉した状況を想定しての耐電圧特性を評価できる。
【0008】
また、一対の電極のうち、少なくとも一方の電極は尖端部を有し、尖端部を絶縁材に突き刺すことによって、尖端部と他方の電極との間に厚みの薄い部分を形成してもよい。尖端部を絶縁材に突き刺すことによって絶縁材に意図的に傷を付けて厚みの薄い部分を形成でき、その状態での耐電圧特性を評価できる。
【0009】
また、一対の電極のうち、少なくとも一方の電極と絶縁材との間に異物を配置し、一対の電極によって異物及び絶縁材を挟むことによって、異物と他方の電極との間に厚みの薄い部分を形成してもよい。電極そのものではなく、異物によって絶縁材を局所的に押圧することによって絶縁材の厚みの薄い部分を形成でき、その状態での耐電圧特性を評価できる。
【0010】
また、絶縁材の厚みの薄い部分の厚みを変えながら電極間に電圧を印加して絶縁材の耐電圧特性を評価してもよい。例えば、尖端部の突き刺し深さを変えたり、異物の大きさを変えたりすることでて厚みの薄い部分の厚みを変えることができる。そして、厚みの薄い部分の厚みを変えながら適宜に電圧を印加することにより、絶縁破壊が生じる厚みを評価することができる。
【0011】
また、電極間に印加する電圧を変えながら絶縁材の耐電圧特性を評価してもよい。電極間に印加する電圧を変えることで、絶縁破壊が生じる電圧を評価することができる。
【0012】
また、絶縁材の厚みの薄い部分の厚み及び電極間に印加する電圧の双方を変えながら絶縁材の耐電圧特性を評価してもよい。厚みの薄い部分の厚み及び電極間に印加する電圧の双方を変えながら絶縁材の耐電圧特性を評価することで、厚みの薄い部分の厚み及び電極間に印加する電圧と絶縁破壊との因果関係を評価することができる。
【0013】
また、本発明は、絶縁材の耐電圧特性を評価するための耐電圧特性測定装置であって、一対の電極と、一対の電極を対向方向に移動させ、絶縁材を挟んだ状態で一対の電極間の距離を調整可能な電極間距離調整部と、一対の電極間に電圧を印加する電圧印加部と、絶縁材の絶縁破壊の有無を評価するための指標値を測定する指標値測定部と、を備えている。
【0014】
本発明では、絶縁材を挟んだ状態で一対の電極間の距離を電極間距離調整部によって調整することで絶縁材を局所的に押圧して厚みの薄い部分を形成できる。更に、電圧印加部によって一対の電極間に電圧を印加することにより、この厚みの薄い部分での絶縁破壊の有無を確認することができる。その結果、本発明によれば、バリ等が絶縁材に局所的に干渉した状況を想定しての耐電圧特性を評価できる。
【0015】
また、一対の電極のうち、少なくとも一方の電極に設けられると共に、他方の電極に向けて配置された尖端部を更に備えていてもよい。電極間距離調整部によって一対の電極間の距離を調整することにより、尖端部を絶縁材に突き刺して尖端部と他方の電極との間に厚みの薄い部分を形成できる。その結果、絶縁材に意図的に傷を付けて厚みの薄い部分を形成した状態での耐電圧特性を評価できる。
【0016】
また、電圧印加部は、一対の電極間に印加する電圧を変化させることができてもよい。電極間に印加する電圧を変えることで、絶縁破壊が生じる電圧を評価することができる。
【0017】
また、一対の電極は上下方向に対向して配置されており、一対の電極のうち、少なくとも一方の電極を保持する昇降部と、昇降部を昇降可能に支持する柱部と、を備え、電極間距離調整部は、昇降部に固定されると共に、上下方向に延在する軸部と、軸部を上下方向に移動可能に支持すると共に、軸部の上下方向の移動量を調整可能な基本構造部と、を備えていてもよい。基本構造部によって軸部の上下方向の移動量を調整することにより、昇降部を昇降させて一対の電極間の距離を簡単に調整することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、バリ等が絶縁材に局所的に干渉した状況を想定しての耐電圧特性を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る耐電圧特性測定装置の側面図である。
図2】実施形態に係る耐電圧特性測定装置に設置された絶縁材と電極との関係を模式的に示す拡大図である。
図3】電極の側面を示す拡大図である。
図4】電極の変形例を示し、(a)図は第1の変形例を示す側面図であり、(b)図は第2の変形例を示す側面図であり、(c)図は第3の変形例を示す側面図であり、(d)図は第4の変形例を示す側面図である。
図5】電極の変形例を示し、(a)図は第5の変形例を示す側面図であり、(b)図は(a)図のb-b線に沿った断面図である。
図6】他の実施形態に係る耐電圧特性測定装置の側面図である。
図7】他の実施形態に係る耐電圧特性測定装置に設置された絶縁材と電極との関係を模式的に示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る耐電圧特性測定装置及び耐電圧特性評価方法の実施形態について詳細に説明する。
【0021】
まず、図1及び図2を参照して、実施形態に係る耐電圧特性測定装置1について説明する。耐電圧特性測定装置1は、電気的な絶縁材の絶縁破壊の有無を評価するための指標値を測定する装置であり、耐電圧特性測定装置1で測定された指標値に基づいて、絶縁材の耐電圧特性を評価することができる。ここで、この指標値とは、例えば、電圧値、電流値、または抵抗値などであり、それらの複合値であっても良い。また、耐電圧特性とは、耐電圧(絶縁耐力ともいう)に関係する性質を広く含む。従って、耐電圧のみならず、耐電圧と絶縁材の厚みとの相関関係や絶縁抵抗なども含まれる。
【0022】
耐電圧特性測定装置1は、対向して配置された一対の電極3、4と、一対の電極3,4の少なくとも一方の電極(例えば、電極3)を、電極3、4同士の対向方向Dに移動させる昇降部10と、昇降部10を移動させて一対の電極3、4間を所定距離で保持するマイクロメーター6と、を備えている。一対の電極3、4同士の間には、測定対象となる絶縁シートW(絶縁材の一例)が配置されている。マイクロメーター6は、電極間距離調整部の一例である。
【0023】
本実施形態に係る一対の電極3、4は、対向方向Dの一例である上下方向(例えば、鉛直方向)に配置されている。そして、下方の電極4は定位置に固定されており、上方の電極3は上下方向に移動可能である。ここで、対向方向Dとは、一対の電極3、4が相対的に接近、離間する方向を意味している。従って、一対の電極3、4は、上下方向に限定されず、横方向(例えば、水平方向)あるいは上下方向や横方向から傾いた斜め方向に配置されていてもよい。また、本実施形態では、上方の電極3が移動可能である態様を例に説明するが、下方の電極4が移動可能であっても良く、また、電極3と電極4との両方が対向方向Dに移動可能であっても良い。
【0024】
下方の電極(以下、「固定電極」と称する)4は平板状である。固定電極4は、複数の脚柱部8の先端に固定され、脚柱部8はベースプレート7から立設されている。固定電極4を支持する脚柱部8あるいはベースプレート7は電気的な絶縁性を有する。固定電極4の両方の表面のうち、脚柱部8とは反対側となる表面に測定対象となる絶縁シートWが載置される。
【0025】
絶縁シートWの形状や厚み等は適宜に選択できるが、本実施形態に係る絶縁シートWの厚みは、例えば、0.1mm以上であってもよい。また、絶縁シートWの厚みは5mm以下であってもよく、更に1mm以下の薄い絶縁シートWであってもよい。また、絶縁シートWは、柔軟性がある絶縁シートでもよい。柔軟性のある絶縁シートとしては、樹脂シートが挙げられる。樹脂シートは、熱硬化性樹脂から構成される樹脂シート、熱可塑性樹脂から構成される樹脂シートのいずれでもよい。また、樹脂シートにはフィラーが充填されていてもよい。フィラーとしては、無機粒子などが挙げられ、無機粒子としては、例えば、炭化物、窒化物、酸化物、水酸化物、炭素系材料などが挙げられる。樹脂シートの一例として窒化ホウ素を含む放熱シートが挙げられる。
【0026】
絶縁シートWには、複数の孔Waが形成されている。絶縁シートWに当接する固定電極4には、絶縁シートWの複数の孔Waに対応した複数の雌ネジ4aが形成されている。固定電極4の雌ネジ4aには、下方から金属製(導電性)のボルト9が螺合し、固定電極4から突き出たボルト9の軸部が絶縁シートWの孔Waに通されて絶縁シートWを位置決めする。
【0027】
上方の電極(以下、「可動電極」と称する)3は、昇降部10によって保持されている。可動電極3(図3参照)は、滑り止め加工が施された円柱状の摘み部31と、摘み部31の一方の端部から突出した針部32と、摘み部31の他方の端部から突出した接続軸部33とを備えている。針部32の先端は、鋭角状に尖った尖端部32aである。接続軸部33には雄ネジが設けられている。
【0028】
可動電極3は、絶縁シートWを局所的に押圧できる形状であれば良い。局所的に押圧するとは、押圧力が、絶縁シートWの狭い範囲に集中することを意味し、つまり、絶縁シートWの全面ではなく、一部分のみに当接して押圧することを意味する。例えば、5mm程度の範囲で当接して押圧することを意味し、2mm以下であっても良く、0.5mm以下であっても良く、0.1mm以下であっても良い。
【0029】
可動電極3は、様々な形態を使用することができる。例えば、図4の(a)図に示されるように、第1の変形例として、円柱状の胴体部34の先端が拡径し、その先端に円錐状の尖端部32bを設けた可動電極3Aであってもよい。また、図4の(b)図に示されるように、第2の変形例として、円柱状の胴体部34の先端が拡径し、胴体部34の先端に凸曲面32cが設けられた可動電極3Bであってもよい。また、図4の(c)図に示されるように、第3の変形例として、円柱状の胴体部34の先端が拡径し、その先端の円周に沿って複数の尖端部32dが設けられた可動電極3Cであってもよい。また、図4の(d)図に示されるように、第4の変形例として、円柱状の胴体部34の先端が拡径し、その先端がテーパ状に縮径し、更に複数の複数の尖端部32eが設けられた可動電極3Dであってもよい。
【0030】
また、本実施形態及び上記の変形例1、3、4では、尖端部32b、32d、32eは点状に尖った形状であったが、例えば、図5の(a)図及び(b)図に示されるように、第5の変形例として、刃物のような線状の尖端部32fを備えた可動電極3Eであってもよい。
【0031】
図1に示されるように、昇降部10は、ベースプレート7から立設された複数のガイド柱11(柱部)と、ガイド柱11に沿って昇降可能な昇降プレート5と、昇降プレート5と一緒に昇降する支持プレート12と、を備えている。昇降プレート5の昇降領域(可動領域)よりも上方には、ガイド柱11に固定された固定プレート14が配置されている。固定プレート14と昇降プレート5とは、昇降プレート5の引き上げを支援する弾性体15、例えばコイルバネによって接続されている。
【0032】
可動電極3は、針部32の尖端部32aが下方を向き、接続軸部33が上方を向くように配置され、接続軸部33は、支持プレート12に螺合して固定されている。支持プレート12は、電気的な絶縁性を有するロッド部材13を介して昇降プレート5に固定されている。昇降プレート5は、軸受け部51を介してガイド柱11に対して昇降可能に取り付けられている。
【0033】
マイクロメーター6は、固定プレート14に固定されたマイクロメーターヘッド6a(基本構造部)と、固定プレート14を貫通して上下方向に延在するスピンドル6b(軸部)と、を備えている。スピンドル6bの下端部は昇降プレート5に固定され、上部はマイクロメーターヘッド6a内に収容されている。マイクロメーターヘッド6aは、ネジ機構によってスピンドル6bを上下方向に移動可能に支持すると共に、マイクロメーターヘッド6aを回転することでスピンドル6bの上下方向の移動量を調整可能である。
【0034】
耐電圧特性測定装置1は、電圧印加測定部20を備えている。電圧印加測定部20は、固定電極4及び可動電極3間(一対の電極3、4間)に電圧を印加する電圧印加機能と、絶縁材の絶縁破壊の有無を評価するための指標値を測定する指標値測定機能とを備えている。この指標値とは、例えば、一対の電極3、4間の電圧値や抵抗値、一対の電極3、4間を流れる電流値等である。この指標値を確認することで、一対の電極3、4間での通電状態の有無が確認される。通電状態は絶縁破壊が生じている状態を意味している。絶縁破壊が生じる限界までの電圧は「耐電圧」である。また、一対の電極3、4間の抵抗値を測定することにより、電気的に接続されていないはずの一対の電極3、4間の抵抗値(絶縁抵抗)を評価することができる。
【0035】
耐電圧特性を評価するために、絶縁シートWには高電圧を印加する必要があり、したがって電圧印加測定部20の検査回路は高電圧出力回路である。電圧印加測定部20としては、市販の耐電圧試験装置や絶縁抵抗検査装置等を適宜に利用することができる。
【0036】
電圧印加測定部20の高電圧出力回路は、絶縁シートWと固定電極4とを接続するボルト9に通電可能に接続されており、また、可動電極3が固定された支持プレート12に取り付けられた金属製(通電可能)のボルト12aに通電可能に接続されている。
【0037】
次に、本実施形態に係る耐電圧特性評価方法を説明する。まず、耐電圧特性測定装置1の可動電極3と固定電極4との間(一対の電極3、4間)に絶縁シートWを設置する(絶縁材設置工程)。本実施形態においては、絶縁シートWを固定電極4上に載置し、ボルト9を螺合して固定する。次に、一対の電極3、4間に所定の電圧を印加し、可動電極3が絶縁シートWに干渉していない状態で絶縁破壊が生じていないことを確認する(初期確認工程)。
【0038】
次に、耐電圧特性評価工程を実施する。耐電圧特性評価工程として、例えば、以下の三つの評価方法を実施することができる。各方法について詳しく説明する。
【0039】
第1の評価方法では、可動電極3を段階的に下降させて絶縁シートWに可動電極3の尖端部32aを突き刺す。可動電極3の尖端部32aから固定電極4までの距離は、絶縁シートWの厚みの薄い部分(以下、「薄厚部」と称する)d(図2参照)であり、段階が進むほど、薄厚部dの厚みは薄くなる。各段階において、それぞれ一定の高電圧を印加し、通電状態を確認して絶縁破壊の有無を確認する。絶縁破壊が生じた場合には、その段階での薄厚部dの厚みを、絶縁破壊が生じる限界の厚みとして評価する。なお、一定の電圧を印加した状態で薄厚部dを連続的に変化させて絶縁破壊が生じる限界の厚み(耐電圧特性の一例)を評価してもよい。
【0040】
第2の評価方法では、絶縁シートWに可動電極3の尖端部32aを突き刺し、更に、薄厚部dの厚みが基準となる所定の深さとなるまで、可動電極3を下降させる。この状態で、薄厚部dの厚みは変えず、印加する電圧の大きさを段階的に変えていく。各段階において、通電状態を確認して絶縁破壊の有無を確認する。絶縁破壊が生じた場合には、その段階での電圧を耐電圧(耐電圧特性の一例)として評価する。なお、印加する電圧を連続的に変化させて耐電圧を評価するようにしてもよい。
【0041】
第3の評価方法は、第1の評価方法と第2の評価方法とを複合させた方法である。具体的には、薄厚部dを段階的に変更し、更に、各段階において、複数の異なる電圧を印加し、通電状態を確認して絶縁破壊の有無を確認する。この第3の評価方法によれば、絶縁破壊を生じさせる薄厚部dの厚みと一対の電極3、4間に印加する電圧との相関関係(耐電圧特性の一例)を評価することができる。
【0042】
次に、図6及び図7を参照し、第2の実施形態に係る耐電圧特性測定装置1A及び耐電圧特性評価方法について説明する。なお、第2の実施形態に係る耐電圧特性測定装置1Aは、第1の実施形態に係る耐電圧特性測定装置1と同様の要素や構造を備えている。従って、以下の説明では、相違点を中心に説明し、共通する要素や構造については、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0043】
可動電極30は、例えば支持プレート12に一体、または間接的に固定されている。可動電極30は支持プレート12に通電可能である。可動電極30は、少なくとも10cm以上の広い面で絶縁シートWに当接可能な当接面30aを備えている。本実施形態に係る耐電圧特性測定装置1Aを用いて薄厚部dを形成する場合、まずは可動電極30と絶縁シートWとの間に導電性を有する異物Fを配置する。そして、可動電極30と固定電極4とによって異物F及び絶縁シートWを挟み、その結果として異物Fと固定電極4との間に薄厚部dを形成する。
【0044】
第2の実施形態に係る耐電圧特性測定装置1Aを用いて耐電圧特性評価方法を実施する場合、段階的に異なる形状や大きさの異物Fを挟みながら、一定の電圧を印加して通電状態を確認することで、上述の第1の評価方法と同様の耐電圧特性評価方法を実施できる。また、一定の大きさの異物Fを挟んだ状態で、印加する電圧の大きさを変えながら通電状態を確認することで、上述の第2の評価方法と同様の耐電圧特性評価方法を実施できる。また、段階的に異なる形状や大きさの異物Fを挟みながら、また、各段階において印加する電圧の大きさを変えながら通電状態を確認することで上述の第3の評価方法と同様の耐電圧特性評価方法を実施できる。なお、上記の各段階は連続的な実施でも良い。
【0045】
次に、上述の耐電圧特性測定装置1、1A及び耐電圧特性評価方法の作用、効果について説明する。例えば、実機に絶縁シートW(絶縁材)を装着して使用する際、装着箇所に金属異物の混入があったり、製造時のバリ等が残っていたりすると、絶縁シートWの絶縁性に影響を与え、時に、絶縁不良を生じさせる可能性がある。しかしながら、絶縁不良を避けるために絶縁材の厚みを厚くするとコンパクト化に不利に働くため、安易に絶縁材を厚くして絶縁性を担保することは好ましくない。
【0046】
これに対し、耐電圧特性測定装置1、1Aを使用した耐電圧特性評価方法によれば、絶縁シートWを可動電極3、30及び固定電極4で挟んで局所的に押圧し、可動電極3、30と固定電極4との間に絶縁シートWの薄厚部dを形成することで、バリ等から干渉を受けている部分を疑似的に作ることができる。更に、可動電極3、30と固定電極4との間に電圧を印加することにより、この薄厚部dでの絶縁破壊の有無を確認することができる。つまり、この耐電圧特性評価方法によれば、バリ等が絶縁シートWに局所的に干渉した状況を想定しての耐電圧特性を評価できる。その結果、絶縁シートWを実機に装着することなく、バリや異物の影響を受けた状態での絶縁シートWの耐電圧特性を定量的に評価できるようになる。
【0047】
また、厚みが1mm以下の薄い絶縁シートWの場合には、バリ等による問題、例えば、絶縁シートWが損傷して通電する等の問題が生じやすい。本実施形態の評価方法や評価装置によれば、薄い絶縁シートWも評価できる。また、絶縁シートWに柔軟性がある場合には、絶縁シートWが損傷して通電したり、絶縁シートWの厚みが変形により局所的に小さくなったりして絶縁性が低下する問題が生じやすい。本実施形態の評価方法や評価装置によれば、柔軟性がある絶縁シートWを評価できる。
【0048】
また、上述の第1の実施形態に係る耐電圧特性測定装置1では、可動電極3の尖端部32aを絶縁シートWに突き刺すことによって薄厚部dを形成している。つまり、絶縁シートWに意図的に傷を付けて薄厚部dを形成でき、その状態での耐電圧特性を評価できる。特に、耐電圧特性測定装置1では、可動電極3の尖端部32aを絶縁シートWに突き刺す深さを適宜に調整し易いので、耐電圧特性の定量的な評価を行い易い。
【0049】
また、上述の第2の実施形態に係る耐電圧特性測定装置1Aでは、可動電極30と固定電極4とによって異物F及び絶縁シートWを挟むことによって、異物Fと固定電極4との間に薄厚部dを形成している。つまり、異物Fによって絶縁シートWを局所的に押圧することによって薄厚部dを形成でき、その状態での耐電圧特性を評価できる。特に、耐電圧特性測定装置1Aでは、異物Fを用いて薄厚部dを形成しているので、実際に発生し得る異物の形状や寸法等を特定できるのであればに、その異物による耐電圧特性への影響を適切に評価し易くなる。
【0050】
また、上記の第1の評価方法によれば、尖端部32aの突き刺し深さを変えたり、異物Fの大きさを変えたりすることでて薄厚部dの厚みを変えることができる。そして、薄厚部dの厚みを変えながら適宜に電圧を印加することにより、絶縁破壊が生じる厚みを評価することができる。
【0051】
また、上記の第2の評価方法によれば、可動電極3、30と固定電極4との間に印加する電圧を変えながら絶縁材の耐電圧特性を評価している。その結果、可動電極3、30と固定電極4との間に印加する電圧を変えながら絶縁破壊が生じる電圧を評価することができる。
【0052】
また、上記の第3の評価方法によれば、薄厚部dの厚み及び可動電極3、30と固定電極4との間に印加する電圧の双方を変えながら絶縁シートWの耐電圧特性を評価することで、薄厚部d及び印加する電圧と絶縁破壊との因果関係を評価することができる。
【0053】
また、上述の各実施形態に係る耐電圧特性測定装置1、1Aでは、マイクロメーター6のマイクロメーターヘッド6a(基本構造部)を操作してスピンドル6bの上下方向の移動量を調整可能である。そして、スピンドル6bの上下方向の移動量を調整することにより、昇降プレート5を昇降させて可動電極3、30と固定電極4との間の距離を簡単に調整することができる。その結果、薄厚部dの厚みを容易に調整できる。
【0054】
以上、各実施形態に基づいて、耐電圧特性測定装置及び耐電圧評価方法を説明したが、本発明は、これらの実施形態のみには限定されない。例えば、この耐電圧特性評価方法は、上記の各実施形態に係る耐電圧特性測定装置1、1A以外の装置を用いて実施することも可能である。また、各実施形態に係る耐電圧特性測定装置1、1Aは、電圧印加機能と指標値測定機能との両方を備えた電圧印加測定部20を備えているが、この電圧印加機能と指標値測定機能とは別の独立した装置によって実施させることもできる。
【実施例
【0055】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。本実施例では、上述の第1の実施形態に係る耐電圧特性測定装置に対応する装置を使用して耐電圧特性評価方法を実施した。絶縁材としては、0.2mmの厚みの絶縁シート(窒化ホウ素60体積%を含むシリコーン樹脂組成物から構成される絶縁シート)を使用した。
【0056】
(第1の評価方法)
まず、第1の評価方法について説明する。具体的には、可動電極が絶縁シートに干渉する前の状態を初期状態とし、この状態で、DC1.2kVの電圧を60秒間印加した。同じ条件で5回(n1~n5)ほど電圧を印加し、通電が確認されない場合をOK,通電が確認されて絶縁破壊と評価された場合をNGとして評価した。初期状態では、n1~n5まで全てOKであった。
【0057】
次に、可動電極を絶縁シートに突き刺し、薄厚部の厚みを0.19mmにし、上記同様にDC1.2kVの電圧を60秒間印加した。同じ条件で5回(n1~n5)ほど電圧を印加し、通電が確認されない場合をOK,通電が確認されて絶縁破壊と評価された場合をNGとして評価した。初期状態では、n1~n5まで全てOKであった。
【0058】
同様に、薄厚部の厚みが段階的に小さくなるように変え、それぞれ同じ条件で5回(n1~n5)ほど電圧を印加し、絶縁破壊の有無を評価した。具体的には、薄厚部の厚みが段階的に0.01mmずつ小さくなるようにし、各段階において、それぞれ同じ条件で5回(n1~n5)ほど電圧を印加し、絶縁破壊の有無を評価した(表1参照)。その結果、薄厚部の厚みが0.01mmの場合に、絶縁破壊が生じることが確認された。
【0059】
なお、表1には示されていないが、バリ等に対する耐性が低い絶縁シート(アルミナを70体積%含むシリコーン樹脂組成物から構成される絶縁シート)について、第1の評価方法を実施したところ、0.06mmで絶縁破壊が生じた。つまり、窒化ホウ素60体積%を含むシリコーン樹脂組成物から構成される絶縁シートよりも、バリ等に対する耐性が低い絶縁シートの方が、薄厚部の厚みが大きい状態で絶縁破壊が生じたことになる。その結果、上記第1の評価方法でバリ等に対する耐性が適正に評価できていることが確認された。
【0060】
【表1】
【0061】
(第2の評価方法)
次に第2の評価方法について説明する。薄厚部の厚みを0.07mmとし、この状態で、印加する電圧を0kVから絶縁破壊が生じるまで昇圧した。この場合、9.5kVで通電が測定され、絶縁破壊が生じることが確認された(表2参照)。なお、この評価において、第1の評価方法で用いた絶縁シートと同様の絶縁シート(窒化ホウ素60体積%を含むシリコーン樹脂組成物から構成される絶縁シート)を用いた。
【0062】
また、表2には示されていないが、バリ等に対する耐性が低い絶縁シート(アルミナを70体積%含むシリコーン樹脂組成物から構成される絶縁シート)についても第2の評価方法を実施した。バリ等に対する耐性が低い絶縁シートでは、薄厚部の厚みを0.07mmとし、この状態で、印加する電圧を0kVから絶縁破壊が生じるまで昇圧した場合、9.5kVより低い電圧で通電が測定され、絶縁破壊が生じることが確認された。
【0063】
【表2】
【0064】
(第3の評価方法)
次に第3の評価方法について説明する。上述の第1の評価方法と同様に、初期状態から薄厚部の厚みが段階的に0.01mmずつ小さくなるように調整し、更に、各段階において、印加する電圧を0kVから絶縁破壊が生じるまで昇圧した(表3参照)。
【0065】
【表3】
【0066】
この第3の評価方法では、所望の耐電圧特性を有する電圧を10kVとして評価したところ、少なくとも薄厚部の厚みが0.08mmになるまでは、所望の耐電圧特性を有することが確認された。更に、薄厚部の厚みが0.07mmの場合は、絶縁破壊が生じる電圧は9.5kVであり、薄厚部の厚みが0.06mmの場合は、絶縁破壊が生じる電圧は7.1kVであり、薄厚部の厚みが0.05mmの場合は、絶縁破壊が生じる電圧は6.9kVであり、薄厚部の厚みが0.04mmの場合は、絶縁破壊が生じる電圧は6.3kVであり、薄厚部の厚みが0.03mmの場合は、絶縁破壊が生じる電圧は5.5kVであり、薄厚部の厚みが0.02mmの場合は、絶縁破壊が生じる電圧は5.6kVであり、薄厚部の厚みが0.01mmの場合は、絶縁破壊が生じる電圧は2.8kVであった。つまり、第3の評価方法により、薄厚部の厚み及び印加する電圧と絶縁破壊との相関関係を評価することができた。
【符号の説明】
【0067】
1、1A…耐電圧特性測定装置、3…可動電極、32a…尖端部、4…固定電極、6…マイクロメーター(電極間距離調整部)、6a…マイクロメーターヘッド(基本構造部)、6b…スピンドル(軸部)、10…昇降部、11…ガイド部(柱部)、20…電圧印加測定部(電圧印加部、指標値測定部)、d…薄厚部、F…異物、D…対向方向、W…絶縁シート(絶縁材)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7