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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】レーダ装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/02 20060101AFI20240105BHJP
【FI】
G01S7/02 214
G01S7/02 216
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019168374
(22)【出願日】2019-09-17
(65)【公開番号】P2021047040
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安達 正一郎
【審査官】山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-157679(JP,A)
【文献】特開2017-220801(JP,A)
【文献】特開2006-211127(JP,A)
【文献】特開2015-230285(JP,A)
【文献】特開2008-256449(JP,A)
【文献】特開2009-162613(JP,A)
【文献】特開平08-201506(JP,A)
【文献】特開平05-209955(JP,A)
【文献】特開平06-196921(JP,A)
【文献】特公平06-100647(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2004/0196172(US,A1)
【文献】米国特許第05600326(US,A)
【文献】米国特許第04959653(US,A)
【文献】特開2006-019834(JP,A)
【文献】特開2013-187730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42
G01S13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレイアンテナと、
前記アレイアンテナの開口面を分割した4つの分割開口面それぞれに対応するサブアレイで受信される受信信号を加算して和信号を算出し、前記4つの分割開口面のうちの2つの分割開口面の前記サブアレイで受信される受信信号を、重み係数を使用することにより重み付け加算して第1の加算信号を算出し、前記4つの分割開口面のうち前記2つの分割開口面を除く2つの分割開口面の前記サブアレイで受信される前記受信信号を重み付け加算して第2の加算信号を算出し、前記第1の加算信号の算出に使用された前記受信信号を、前記第1の加算信号の算出に使用された前記重み係数と異なる重み係数を使用することにより重み付け加算して第3の加算信号を算出し、前記第2の加算信号の算出に使用された前記受信信号を、前記第2の加算信号の算出に使用された前記重み係数と異なる重み係数を使用することにより重み付け加算して第4の加算信号を算出し、前記第1の加算信号と前記第2の加算信号との差である第1の差信号を算出し、前記第3の加算信号と前記第4の加算信号との差である第2の差信号を算出する信号形成部と、
前記第1の差信号および前記第2の差信号よりも前記和信号が大きい場合、前記和信号に基づいて前記アレイアンテナの指向方向における物体を検出し、前記第1の差信号および前記第2の差信号のいずれか又は両方よりも前記和信号が小さい場合、前記物体を検出しない検出部と、
を備えるレーダ装置。
【請求項2】
前記信号形成部は、前記第1の差信号および前記第2の差信号を、前記アレイアンテナによる受信ごとに同時に算出する、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記サブアレイそれぞれは、複数のアンテナ素子と、前記アンテナ素子ごとに設けられた移相器と、前記移相器それぞれの出力を加算合成することにより前記受信信号を生成するアナログ回路とを備える、
請求項1又は請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記重み係数は、前記アレイアンテナのサイドローブの任意の角度において、前記第1の差信号および前記第2の差信号のいずれかの振幅が、前記和信号の振幅より大きくなる値を有する、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
サブアレイDBF方式を用いるレーダ装置では、干渉波に対処するために、サブアレイアンテナの他に補助アンテナを備え、補助アンテナで得られる信号を用いたサイドローブブランキング(Side Lobe Blanking:SLB)処理が行われる場合がある。補助アンテナを用いる場合、レーダ装置の構成が複雑になったり、製造コストが増加したりしてしまうことがあった。また、サブアレイDBF方式を用いるレーダ装置では、クラッタなどの不要波を抑圧する目的で、各サブアレイの信号を合成するデジタル信号処理においてサイドローブを低減するウェイトが適用されている。このようなウェイトには、テイラー分布などの指向性に対応するウェイトがある。しかし、このようなウェイトを適用しても、サイドローブ方向から到来する信号を完全に除去することはできず、クラッタの影響を受けてしまう場合があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】吉田、「改訂 レーダ技術」、DBF(Digital Beam Forming)、電子情報通信学会、pp.289-291、1996年
【文献】吉田、「改訂 レーダ技術」、パルス圧縮レーダ、電子情報通信学会、pp.275-280、1996年
【文献】吉田、「改訂 レーダ技術」、CFAR(定誤警報受信)処理、電子情報通信学会、pp.87-89、1996年
【文献】吉田、「改訂 レーダ技術」、テイラー分布、電子情報通信学会、pp.134-135、1996年
【文献】吉田、「改訂 レーダ技術」、モノパルス方式、電子情報通信学会、pp.260-264、1996年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、補助アンテナを用いずに、サイドローブ方向から到来する干渉波およびクラッタ反射などの不要波による影響を抑圧できるレーダ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態のレーダ装置は、アレイアンテナと、信号形成部と、検出部と、を持つ。信号形成部は、アレイアンテナの開口面を分割した4つの分割開口面それぞれに対応するサブアレイで受信される受信信号を加算して和信号を算出する。信号形成部は、4つの分割開口面のうちの2つの分割開口面のサブアレイで受信される受信信号を、重み係数を使用することにより重み付け加算して第1の加算信号を算出し、4つの分割開口面のうち2つの分割開口面を除く2つの分割開口面のサブアレイで受信される受信信号を重み付け加算して第2の加算信号を算出する。信号形成部は、第1の加算信号の算出に使用された受信信号を、第1の加算信号の算出に使用された重み係数と異なる重み係数を使用することにより重み付け加算して第3の加算信号を算出し、第2の加算信号の算出に使用された受信信号を、第2の加算信号の算出に使用された重み係数と異なる重み係数を使用することにより重み付け加算して第4の加算信号を算出する。信号形成部は、第1の加算信号と第2の加算信号との差である第1の差信号を算出し、第3の加算信号と第4の加算信号との差である第2の差信号を算出する。検出部は、第1の差信号および第2の差信号よりも和信号が大きい場合、和信号に基づいてアレイアンテナの指向方向における物体を検出し、第1の差信号および第2の差信号のいずれか又は両方よりも和信号が小さい場合、物体を検出しない
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本実施形態によるレーダ装置の構成例を示す図。
図2】本実施形態におけるサブアレイアンテナの構成例を示す図。
図3】本実施形態におけるA/D変換ユニットの構成例を示す図。
図4】本実施形態における信号処理部の構成例を示す図である。
図5】本実施形態におけるビーム信号形成部が形成する各ビーム信号の概要を示す図。
図6】本実施形態におけるビーム信号形成部が算出するΣビーム信号(和信号)とΔELビーム信号(差信号)との一例を示す図。
図7】本実施形態におけるビーム信号形成部が算出するΣビーム信号(和信号)とSLB用ΔELビーム信号との一例を示す図。
図8】本実施形態におけるビーム信号形成部が算出するΣビーム信号(和信号)と2つのSLB用ΔELビーム信号との一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態のレーダ装置を、図面を参照して説明する。図1は、本実施形態によるレーダ装置100の構成例を示す図である。レーダ装置100は、不図示の送信アンテナから観測空間に向けて送信された信号が物体(目標)で反射した反射波を受信し、物体の位置を検出する。送信アンテナから送信される信号には、所定の符号系列を用いた符号変調や、所定の周波数範囲で周波数を一定に変化させる線形周波数変調などが施される。
【0008】
レーダ装置100は、フェーズドアレイアンテナ1と、信号変換部2と、クロック発生器3と、走査制御器4と、信号処理部5とを備える。フェーズドアレイアンテナ1は、複数のサブアレイアンテナ11を備える。レーダ装置100では、信号処理部5が、フェーズドアレイアンテナ1で受信した信号から得られるデジタルIQ信号に基づいて複数のSLB判定用の信号を算出し、算出したSLB判定用の信号を用いてSLB処理を行う。フェーズドアレイアンテナ1で受信した信号から複数のSLB判定用の信号を得ることにより、レーダ装置100は、補助アンテナを用いずともSLB処理を行うことができる。
【0009】
各サブアレイアンテナ11は、観測空間に指向方向を向けた受信により得られる受信RF信号を、信号変換部2へ供給する。クロック発生器3は、信号変換部2及び走査制御器4へ基準クロック信号を供給する。信号変換部2及び走査制御器4は、基準クロック信号に同期して動作する。走査制御器4は、フェーズドアレイアンテナ1の指向方向を観測方向に向けるための位相制御信号をフェーズドアレイアンテナ1へ供給する。
【0010】
信号変換部2は、クロック発生器3から供給される基準クロック信号に同期して、各サブアレイアンテナ11から供給される受信RF信号をデジタルIQ信号に変換する。信号変換部2は、フェーズドアレイアンテナ1が備えるサブアレイアンテナ11それぞれに対応するA/D(Analog/Digital)変換ユニット21と、P/S(Parallel/Serial)変換回路22とを備える。A/D変換ユニット21は、受信RF信号を直接サンプリングしてダウンコンバートし、ダウンコンバートした信号に対する直交検波によりデジタルIQ信号を得る。A/D変換ユニット21は、デジタルIQ信号をP/S変換回路22へ供給する。P/S変換回路22は、各A/D変換ユニット21から供給されるデジタルIQ信号をシリアル信号に変換し、シリアル信号を信号処理部5へ伝送する。
【0011】
信号処理部5は、シリアル信号として伝送される各デジタルIQ信号を用いて、観測空間に向けたフェーズドアレイアンテナ1のサイドローブ方向から到来する干渉波およびクラッタ反射波などの不要波による影響を抑える処理を行う。また、信号処理部5は、不要波の影響を抑えつつ、各デジタルIQ信号に含まれる反射波の成分に基づいて観測空間における物体の位置を検出する。信号処理部5は、例えば、汎用コンピュータを用いて構成されてもよい。
【0012】
図2は、本実施形態におけるサブアレイアンテナ11の構成例を示す図である。フェーズドアレイアンテナ1が備える複数のサブアレイアンテナ11は、同じ構成を有する。サブアレイアンテナ11は、複数のアンテナ素子101と、アンテナ素子101ごとに設けられた増幅器102及び移相器103と、合成回路104と、増幅器105と、アナログフィルタ106とを備える。アンテナ素子101で受信された受信信号は、増幅器102に供給される。増幅器102は、受信信号を増幅して移相器103へ供給する。移相器103は、走査制御器4から供給される位相制御信号が示す移相量で、受信信号の位相を変化させる。位相制御信号が示す移相量は、フェーズドアレイアンテナ1の指向方向に応じて定められる。移相器103は、位相を変化させた受信信号を合成回路104へ供給する。
【0013】
合成回路104は、各移相器103から供給される受信信号を加算合成するアナログ回路であり、合成により得られた合成信号を増幅器105へ供給する。合成回路104における加算合成では、各受信信号に対して異なる重み付けを行わずに加算を行う。または、各受信信号に対して一様の重み係数を用いた重み付け加算を行ってもよい。増幅器105は、合成信号を増幅してアナログフィルタ106へ供給する。アナログフィルタ106は、観測空間に向けて送信された信号の周波数近傍の所定の周波数帯域の信号を透過して、受信RF信号として信号変換部2へ供給する。なお、アナログフィルタ106として、ハイパスフィルタやバンドパスフィルタを用いてもよい。
【0014】
図3は、本実施形態におけるA/D変換ユニット21の構成例を示す図である。信号変換部2が備える複数のA/D変換ユニット21は、同じ構成を有する。A/D変換ユニットは、PLL回路211と、A/D変換器212と、直交検波器213とを備える。PLL回路211は、クロック発生器3から供給される基準クロック信号を用いて、受信RF信号のサンプリングに用いられるA/D変換クロック信号を生成し、A/D変換器212へ供給する。また、PLL回路211は、基準クロック信号を用いて、直交検波器213において直交検波に用いられる動作クロック信号を生成し、直交検波器213に供給する。A/D変換クロック信号と動作クロック信号とは同期しており、A/D変換器212と直交検波器213とは同期して動作する。
【0015】
A/D変換器212は、受信RF信号を直接サンプリングしてデジタル信号に変換するデジタルダウンコンバートを行う。A/D変換器212は、デジタルダウンコンバートにより得られたデジタル信号を直交検波器213へ供給する。直交検波器213は、供給されるデジタル信号に対して直交検波を行い、同相成分と直交成分とを含むデジタルIQ信号を得る。直交検波器213は、デジタルIQ信号をP/S変換回路22へ供給する。なお、直交検波器213は、FPGA(Field Programmable Gate Array)などの汎用デバイスを用いて構成してもよい。
【0016】
図4は、本実施形態における信号処理部5の構成例を示す図である。信号処理部5は、通信I/F(インタフェース)51と、ビーム信号形成部52と、パルス圧縮部53と、ノイズスレッショルド処理部54と、CFAR(Constant False Alarm Ratio)処理部55と、SLB処理部56と、測距部57と、測角部58とを備える。信号処理部5として汎用コンピュータが用いられる場合、ハードディスクやSSD(Solid State Drive)などの記憶装置に記憶されたプログラムをCPU(Central Processing Unit)が実行することにより、CPUがビーム信号形成部52、パルス圧縮部53、ノイズスレッショルド処理部54、CFAR処理部55、SLB処理部56、測距部57及び測角部58として動作する。
【0017】
通信I/F51は、信号変換部2からシリアル信号として伝送されるデジタルIQ信号を受信し、デジタルIQ信号をバッファする。ビーム信号形成部52は、送信アンテナから観測空間に向けて信号が送信される間隔で、通信I/F51にバッファされるデジタルIQ信号を用いて複数のビーム信号を形成する。ビーム信号形成部52が形成するビーム信号には、Σビーム信号と、ΔELビーム信号と、ΔAZビーム信号と、SLB用ΔEL1ビーム信号と、SLB用ΔEL2ビーム信号とが含まれる。ビーム信号形成部52は、形成した各ビーム信号をパルス圧縮部53へ供給する。
【0018】
図5は、本実施形態におけるビーム信号形成部52が形成する各ビーム信号の概要を示す図である。図5に示す例では、フェーズドアレイアンテナ1の開口面を4つに分割した分割開口面それぞれに含まれるサブアレイアンテナ11を、サブアレイA~Dとしている。ビーム信号形成部52は、サブアレイA~Dごとに含まれるサブアレイアンテナ11のデジタルIQ信号を加算合成し、各サブアレイA~Dの合成信号を算出する。ビーム信号形成部52は、各サブアレイA~Dの合成信号を加算してΣビーム信号(和信号)を算出する。
【0019】
また、ビーム信号形成部52は、サブアレイA~Dごとに含まれるサブアレイアンテナ11のデジタルIQ信号にウェイト(重み係数)を乗じて加算合成し、各サブアレイA~Dの重み付け合成信号を算出する。ウェイトは少なくとも3つ予め定められており、そのうち1つは各サブアレイアンテナ11のデジタルIQ信号に対して一様のウェイトである。一様のウェイトは、例えば「1」である。他のウェイトとして、例えば、テイラー分布の指向性に対応するウェイトや、ベイリス分布やチェビシェフ分布の指向性に対応するウェイトを用いてもよい。また、フェーズドアレイアンテナ1のメインローブにおいて、重み付け加算により得られる信号の振幅(利得)が、Σビーム信号の振幅(利得)より小さくなる他の重み係数を用いてもよい。
【0020】
一様のウェイトが用いられる場合、ビーム信号形成部52は、サブアレイA及びサブアレイBの重み付け合成信号の和から、サブアレイC及びサブアレイDの重み付け合成信号の和を減算してΔAZビーム信号(差信号)を算出する。すなわち、ビーム信号形成部52は、フェーズドアレイアンテナ1の開口面を縦方向に分割した右側及び左側の分割開口面間で重み付け合成信号の差を算出する。また、ビーム信号形成部52は、サブアレイA及びサブアレイCの重み付け合成信号の和から、サブアレイB及びサブアレイDの重み付け合成信号の和を減算してΔELビーム信号(差信号)を算出する。すなわち、ビーム信号形成部52は、フェーズドアレイアンテナ1の開口面を横方向に分割した上側及び下側の開口分割面間で重み付け合成信号の差を算出する。
【0021】
なお、ウェイト用いた演算を行わずに、ビーム信号形成部52は、サブアレイA及びサブアレイBの合成信号の和から、サブアレイC及びサブアレイDの合成信号の和を減算してΔAZビーム信号を算出してもよい。また、ビーム信号形成部52は、サブアレイA及びサブアレイCの合成信号の和から、サブアレイB及びサブアレイDの合成信号の和を減算してΔELビーム信号を算出してもよい。
【0022】
一様のウェイト以外のウェイトが用いられる場合、ビーム信号形成部52は、サブアレイA及びサブアレイBの重み付け合成信号の和から、サブアレイC及びサブアレイDの重み付け合成信号の和を減算してSLB用ΔAZビーム信号を算出する。また、ビーム信号形成部52は、サブアレイA及びサブアレイCの重み付け合成信号の和から、サブアレイB及びサブアレイDの重み付け合成信号の和を減算してSLB用ΔELビーム信号を算出する。すなわち、ビーム信号形成部52は、フェーズドアレイアンテナ1の開口面を横方向に分割した上側及び下側の開口分割面間で重み付け合成信号の差を算出する。SLB用ΔAZビーム信号及びSLB用ΔELビーム信号が、SLB判定用の信号として用いられる。
【0023】
以上のように、ビーム信号形成部52は、ΔAZビーム信号、ΔELビーム信号を算出するとともに、SLB用ΔAZビーム信号とSLB用ΔELビーム信号とをウェイトごとに同時に算出する。ビーム信号形成部52は、送信アンテナからの送信間隔ごとに、すなわちフェーズドアレイアンテナ1による受信ごとに、複数のビーム信号を同時に形成する。
【0024】
ここで、ビーム信号形成部52が行う重み付け加算合成を説明する。説明を簡単にするため、各分割開口面に含まれるサブアレイアンテナ11の数を「5」として、サブアレイA~Dそれぞれに含まれるサブアレイアンテナ11のデジタルIQ信号を式(1-1)~(1-4)のように表す。
A=[a1,a2,a3,a4,a5] …(1-1)
B=[b1,b2,b3,b4,b5] …(1-2)
C=[c1,c2,c3,c4,c5] …(1-3)
D=[d1,d2,d3,d4,d5] …(1-4)
【0025】
また、ウェイトW=[w1,w2,w3,w4,w5]で表すと、重み付け合成信号は、式(2-1)~(2-4)のように表される。
A×W=Σai×wi,(i=1,2,…,5) …(2-1)
B×W=Σbi×wi,(i=1,2,…,5) …(2-2)
C×W=Σci×wi,(i=1,2,…,5) …(2-3)
D×W=Σdi×wi,(i=1,2,…,5) …(2-4)
【0026】
ΔELビーム信号及びSLB用ΔELビーム信号は、式(3)で表される。
ΔEL=((A×W)+(C×W))+((B×W)+(D×W)) …(3)
【0027】
ここで、ビーム信号形成部52が算出する各ビーム信号の一例を図6から図8に示す。図6から図8において、横軸はフェーズドアレイアンテナ1の指向方向に対する角度差を示し、縦軸は信号の振幅を規格化した場合の振幅又は利得を示す。以下、Σビーム信号のサイドローブの角度範囲を「サイドローブ範囲」という。図6は、本実施形態におけるビーム信号形成部52が算出するΣビーム信号(和信号)とΔELビーム信号(差信号)との一例を示す図である。なお、図6に示す例では、ΔELビームを算出する際に用いる一様のウェイトとして「1」が用いられている。本実施形態のレーダ装置100は、フェーズドアレイアンテナ1で受信した信号がサイドローブ範囲に含まれる信号であるか否かを判定し、SLB処理を行う。
【0028】
図7は、本実施形態におけるビーム信号形成部52が算出するΣビーム信号(和信号)とSLB用ΔELビーム信号との一例を示す図である。図7に示す例では、SLB用ΔELビーム信号を算出する際に用いるウェイトとして、テイラー分布の指向性に対応するウェイトが用いられている。図7に示すように、サイドローブ範囲のほとんどにおいて、SLB用ΔELビーム信号の振幅がΣビーム信号の振幅より大きくなっている。すなわち、SLB用ΔELビーム信号の振幅とΣビーム信号の振幅とを比較することにより、受信した信号がサイドローブ範囲における信号であるか否かの判定ができる。しかし、SLB用ΔELビーム信号の振幅がほぼゼロになるヌル点近傍では、SLB用ΔELビーム信号の振幅とΣビーム信号の振幅との大小関係が入れ替わるため、サイドローブ範囲の判定が正しく行えない。
【0029】
図8は、本実施形態におけるビーム信号形成部52が算出するΣビーム信号(和信号)と2つのSLB用ΔELビーム信号との一例を示す図である。図8に示す例では、SLB用ΔELビーム信号を算出する際に用いるウェイトとして、2つのウェイトが用いられている。1つ目のウェイトは、テイラー分布の指向性に対応するウェイトである。2つ目のウェイトは、サブアレイA~Dに含まれるサブアレイアンテナ11から予め定めた2つのサブアレイアンテナ11を選択し、選択したサブアレイアンテナ11のデジタルIQ信号を加算合成するウェイトである。例えば、ウェイトW=[w1,w2,w3,w4,w5]の要素のうち任意の2つの値を「1」とし、他の値を「0」とする。このようにして算出される2つのSLB用ΔELビーム信号のヌル点は、サイドローブ範囲において異なる角度に表れる。このような2つのSLB用ΔELビーム信号の振幅とΣビーム信号の振幅とを比較することにより、サイドローブ範囲の判定を正しく行うことができる。
【0030】
なお、図8に示したウェイトの組み合わせは、一例であり、他の組み合わせを用いてもよい。他の組み合わせを選択する際に満たすべき条件は、以下の条件である。1つ目の条件は、フェーズドアレイアンテナ1のメインローブにおいて、各SLB用ΔELビーム信号の振幅(又は利得)がΣビーム信号の振幅(又は利得)より小さい値を有することである。2つ目の条件は、サイドローブ範囲においていずれかのSLB用ΔELビーム信号の振幅がΣビーム信号の振幅より大きい値を有することである。3つ目の条件は、SLB用ΔELビーム信号それぞれのヌル点がサイドローブ範囲において一致しないことである。
【0031】
上記の条件を満たすウェイトとして、ベイリス分布又はチェビシェフ分布の指向性に対応するウェイトと、サブアレイA~Dに含まれるサブアレイアンテナ11のうちn個のサブアレイアンテナ11のデジタルIQ信号を加算合成(n合成)するウェイトとを組み合わせて用いてもよい。「n」は、サブアレイA~Dに含まれるサブアレイアンテナ11の数より小さい値であって、Σビーム信号のサイドローブにおいて重み付け合成信号の振幅がΣビーム信号の振幅よりも大きくなる値である。このような「n」は、レーダ装置100を用いた実測値や、シミュレーションの結果に基づいて定めてもよい。また、上記の条件を満たす場合には、テイラー分布の指向性に対応するウェイトと、ベイリス分布又はチェビシェフ分布の指向性に対応するウェイトとを組み合わせてもよい。
【0032】
本実施形態では、ビーム信号形成部52は、図8に示したテイラー分布の指向性に対応するウェイトを用いた重み付け合成信号の差を、SLB用ΔEL1ビーム信号としてSLB処理部56へ供給し、n合成のウェイトを用いた重み付け合成信号の差をSLB用ΔEL2ビーム信号としてSLB処理部56へ供給する。すなわち、ビーム信号形成部52が、Σビーム信号、ΔELビーム信号、ΔAZビーム信号、SLB用ΔEL1ビーム信号及びSLB用ΔEL2ビーム信号をパルス圧縮部53へ供給する場合について説明する。
【0033】
図4に戻り、信号処理部5の構成の説明を続ける。パルス圧縮部53は、ビーム信号形成部52により形成されたΣビーム信号、ΔELビーム信号、ΔAZビーム信号、SLB用ΔEL1ビーム信号及びSLB用ΔEL2ビーム信号を受け付ける。以下、SLB用ΔEL1ビーム信号及びSLB用ΔEL2ビーム信号を、「2つのSLB用ΔELビーム信号」という。パルス圧縮部53は、送信された信号に対して用いられた符号変調又は線形周波数変調に対応した相関値の算出(パルス圧縮処理)を、受け付けた各ビーム信号に対して行う。パルス圧縮部53は、パルス圧縮処理が施されたΣビーム信号をノイズスレッショルド処理部54へ供給する。パルス圧縮部53は、パルス圧縮処理が施された2つのSLB用ΔELビーム信号をSLB処理部56へ供給する。パルス圧縮部53は、パルス圧縮処理が施されたΔELビーム信号及びΔAZビーム信号を測角部58へ供給する。
【0034】
ノイズスレッショルド処理部54は、パルス圧縮部53から供給されるΣビーム信号に含まれるフェーズドアレイアンテナ1におけるノイズなどを除去する。ノイズの除去は、受信ごとに計測される雑音信号の振幅に基づいてしきい値が設定され、しきい値以下の信号を除去することにより行われる。ノイズスレッショルド処理部54は、ノイズが除去されたΣビーム信号をCFAR処理部55へ供給する。CFAR処理部55は、供給されたΣビーム信号に対するCFAR処理により、Σビーム信号に物体で反射した反射波の成分の有無、すなわち物体の有無を判定する。CFAR処理部55は、物体があると判定した場合、Σビーム信号をSLB処理部56へ供給する。CFAR処理部55は、物体がないと判定した場合、Σビーム信号を出力せずに棄却する。
【0035】
SLB処理部56は、CFAR処理部55から供給されるΣビーム信号と、パルス圧縮部53から供給される2つのSLB用ΔELビーム信号とを受け付ける。SLB処理部56は、Σビーム信号の振幅と、2つのSLB用ΔELビーム信号の振幅それぞれとを比較する。Σビーム信号の振幅が2つのSLB用ΔELビーム信号の振幅それぞれより大きい場合、SLB処理部56は、Σビーム信号をΣビーム信号のメインローブ方向から到来した信号と判定し、Σビーム信号を測距部57及び測角部58へ供給する。一方、Σビーム信号の振幅が2つのSLB用ΔELビーム信号の振幅のいずれか又は両方より小さい場合、SLB処理部56は、Σビーム信号をΣビーム信号のサイドローブ方向から到来した信号と判定し、Σビーム信号を棄却する。このように、SLB処理部56は、Σビーム信号を棄却するか否かを判定してΣビーム信号を棄却する処理(SLB処理)に、2つのSLB用ΔELビーム信号を判定時のしきい値として用いる。
【0036】
測距部57は、SLB処理部56から供給されるΣビーム信号と、送信アンテナから送信された信号とに基づいて、物体までの距離を算出する。測距部57は、算出した距離を外部の装置へ出力したり、信号処理部5に備えられるメモリなどの記憶部へ距離を記憶させたりする。測角部58は、測角方式としてモノパルス方式を用いて、SLB処理部56から供給されるΣビーム信号と、パルス圧縮部53から供給されるΔELビーム信号及びΔAZビーム信号とに基づいて、反射波の到来方向を特定する。測角部58は、到来方向として、方位角(AZ測角値)と仰角(EL測角値)とを特定する。測角部58は、特定した方位角及び仰角を外部の装置へ出力したり、信号処理部5に備えられるメモリなどの記憶部へ方位角及び仰角を記憶させたりする。
【0037】
レーダ装置100において、ビーム信号形成部52が、フェーズドアレイアンテナ1で受信された信号から、SLB処理に用いるSLB判定用の信号を算出することにより、補助アンテナを用いずにサイドローブ方向から到来する不要波を棄却して、不要波の影響を抑圧できる。また、レーダ装置100は、補助アンテナを必要としないので、構成を複雑にせずに、また製造コストの増加を抑制できる。
【0038】
また、レーダ装置100において、ビーム信号形成部52が複数のSLB用ΔELビーム信号を算出し、SLB処理部56が複数のSLB用ΔELビーム信号をSLB処理に用いることにより、到来方向がサイドローブ範囲に含まれるか否かの判定を精度よく行うことができる。また、レーダ装置100は、複数のSLB用ΔELビーム信号を用いてSLB処理を行うことにより、シークラッタやグランドクラッタなどの不要波の影響を抑えた物体の検知を行うことができる。
【0039】
また、レーダ装置100のサブアレイアンテナ11では、重み付けを用いない一様の加算合成によりアナログの受信RF信号を生成する。フェーズドアレイアンテナ1に備えられる多数のサブアレイアンテナ11を簡易な構成とすることにより、レーダ装置100の製造コストを抑え、メンテナンス性を向上させることができる。
【0040】
また、レーダ装置100において、測角に用いるΔELビーム信号を算出する際にウェイトを用いることにより、ビーム信号形成部52における演算処理を複雑にせずに、複数のSLB用ΔELビーム信号を算出することができる。
【0041】
また、レーダ装置100において、信号処理部5として汎用コンピュータを用いる場合には、信号処理部5が有する機能をソフトウェアで実装すればよく、複数のSLB用ΔELビーム信号の算出に用いるウェイトをレーダ装置100の運用時の状況に応じて容易に変更することができる。また、ソフトウェアで実装することにより、同時に算出するSLB用ΔELビーム信号の数を容易に変更できる。また、信号処理部5として専用の回路又は装置を用いる必要がないため、レーダ装置100の製造コストを抑えることができる。
【0042】
また、レーダ装置100において、A/D変換ユニット21において受信RF信号を直接サンプリングしてデジタル信号へ変換することにより、受信RF信号をベースバンドの信号に変換する周波数変換器が不要となり、デジタルIQ信号へのノイズなどの不要な信号の混入を抑えることができる。また、周波数変換器が不要となることにより、レーダ装置100の製造コストを抑えることができる。
【0043】
なお、本実施形態では、ビーム信号形成部52が2つのSLB用ΔELビーム信号を算出し、SLB処理部56が2つのSLB用ΔELビーム信号をサイドローブ範囲の判定に用いる動作を説明したが、これに限定されない。例えば、ビーム信号形成部52が3つ以上のSLB用ΔELビーム信号を算出し、SLB処理部56が3つ以上のSLB用ΔELビーム信号をサイドローブ範囲の判定に用いてもよい。この場合、SLB処理部56は、Σビーム信号の振幅がすべてのSLB用ΔELビーム信号の振幅より大きい場合、メインローブ方向から到来した反射波の信号が含まれると判定する。一方、SLB処理部56は、Σビーム信号の振幅が少なくとも一つのSLB用ΔELビーム信号の振幅より小さい場合、サイドローブ方向から到来した反射波の信号が含まれると判定し、Σビーム信号を棄却する。
【0044】
また、本実施形態では、2つのSLB用ΔELビーム信号を用いて仰角(Elevation)方向におけるサイドローブ範囲の判定を行う動作を説明したが、SLB処理部56は、2つのSLB用ΔAZビーム信号を用いて方位角(Azimuth)方向におけるサイドローブ範囲について判定してSLB処理を行ってもよい。
【0045】
また、本実施形態では、SLB処理部56をCFAR処理部55と測距部57との間に設ける構成について説明したが、SLB処理部56は、パルス圧縮部53とノイズスレッショルド処理部54との間、又は、ノイズスレッショルド処理部54とCFAR処理部55との間に設けてもよい。
【0046】
また、フェーズドアレイアンテナ1の指向方向の変更は、走査制御器4による移相器103の制御だけでなく、フェーズドアレイアンテナ1を回転又は移動させる機械装置を用いて行ってもよい。
【0047】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、フェーズドアレイアンテナ1の開口面を分割した分割開口面それぞれに対応するサブアレイA~Dで受信されるデジタルIQ信号(受信信号)を加算してΣビーム信号(和信号)を算出し、分割開口面ごとのサブアレイA~DのデジタルIQ信号を重み付け加算した重み付け合成信号を異なるウェイト(重み係数)ごとに算出し、分割開口面ごとにデジタルIQ信号を重み付け加算した重み付け合成信号間の差としてSLB用ΔELビーム信号を異なるウェイトごとに算出するビーム信号形成部52(信号形成部)と、異なるウェイトごとに算出されたSLB用ΔELビーム信号それぞれよりΣビーム信号が大きい場合、Σビーム信号に基づいてフェーズドアレイアンテナ1の指向方向における物体を検出するCFAR処理部55、測距部57及び測角部58(検出部)とを持つことにより、補助アンテナを備えずとも反射波の到来方向がサイドローブ範囲にふくまれるか否かを判定でき、サイドローブ方向から到来する干渉波やクラッタ反射波などの不要波による影響を抑圧できる。
【0048】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0049】
1…フェーズドアレイアンテナ(アレイアンテナ)、2…信号変換部、3…クロック発生器、4…走査制御器、5…信号処理部、11…サブアレイアンテナ、21…A/D変換ユニット、22…P/S変換回路、52…ビーム信号形成部(信号形成部)、53…パルス圧縮部、54…ノイズスレッショルド処理部、55…CFAR処理部(検出部)、56…SLB処理部、57…測距部(検出部)、58…測角部(検出部)、100…レーダ装置、101…アンテナ素子、102…増幅器、103…移相器、104…合成回路、105…増幅器、106…アナログフィルタ、211…PLL回路、212…A/D変換器、213…直交検波器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8