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  • 特許-鉛蓄電池用セパレーター 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】鉛蓄電池用セパレーター
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/437 20210101AFI20240105BHJP
   H01M 10/12 20060101ALI20240105BHJP
   H01M 50/44 20210101ALI20240105BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20240105BHJP
   H01M 50/494 20210101ALI20240105BHJP
【FI】
H01M50/437
H01M10/12 K
H01M50/44
H01M50/489
H01M50/494
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019182590
(22)【出願日】2019-10-03
(65)【公開番号】P2021061093
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】322003570
【氏名又は名称】エンテックアジア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100160314
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 公芳
(74)【代理人】
【識別番号】100134038
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 薫央
(74)【代理人】
【識別番号】100150968
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 悠有子
(72)【発明者】
【氏名】杉山 昌司
(72)【発明者】
【氏名】和田 正泰
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-294352(JP,A)
【文献】特開平04-106869(JP,A)
【文献】特開平07-201310(JP,A)
【文献】特開2009-245901(JP,A)
【文献】特開2003-242953(JP,A)
【文献】国際公開第2015/080150(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0180534(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0177730(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/437
H01M 10/12
H01M 50/44
H01M 50/489
H01M 50/494
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維から構成される密閉式鉛蓄電池用セパレーターであって、前記セパレーター内のガラス繊維の平均繊維径が2μm以下であって、前記セパレーター内のガラス繊維のアスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)が130~205の範囲内にあり、かつ前記セパレーターの引張強度が0.20N/mm以上であり、前記セパレーターの破断時の伸び率が2.0%以上、9.0%未満の範囲内にある密閉式鉛蓄電池用セパレーター。
【請求項2】
前記セパレーターの構成材料としてガラス繊維のみが使用されている請求項1に記載の密閉式鉛蓄電池用セパレーター。
【請求項3】
前記セパレーターの液吸収率が85%以上である、請求項1または2に記載の密閉式鉛蓄電池用セパレーター。
【請求項4】
ガラス繊維から構成される密閉式鉛蓄電池用セパレーターであって、前記セパレーター内のガラス繊維の平均繊維径が2μm以下であって、前記セパレーター内のガラス繊維のアスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)が130~205の範囲内にあり、かつ前記セパレーターの引張強度が0.20N/mm以上であり、前記セパレーターの破断時の伸び率が2.0%以上、9.0%未満の範囲内にある密閉式鉛蓄電池用セパレーターを用いた密閉式鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密閉式鉛蓄電池用のセパレーターに関する。更に詳しくは、電池特性として重要視される電池容量と長寿命化の改善及び良好な電池組み立て性を加味したことを目的としたもので、材料として使用されるガラス繊維のセパレーター内におけるアスペクト比(ガラス平均繊維長/ガラス平均繊維径)、セパレーターの基本物性(引張強度、伸び率)、液吸収率の範囲を規定したセパレーター材料選択の最適化に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、密閉式鉛蓄電池において、電池特性で重要な項目である電池容量、電池寿命の改善についてセパレーター材料としての検討が多くなされてきている。
セパレーターとして電池容量に大きく影響する項目としては、部材であるセパレーターと電池の電極との密着性をいかに向上させるかが重要となる。すなわち、セパレーターに保持された電解液を極板側へいかに素早く供給するかが重要であり、極板とセパレーターの界面での電解液の移動し易さが電池寿命改善のキーポイントとなる。
この時、電池の電極間に介在するセパレーターに求められる特性は、電解液を多く吸収し、セパレーター自体をいかに膨潤させるかということになる。
また同時に電池の充放電反応が繰り返されることでセパレーター自体の基本物性(引張強度、伸び率)も電池寿命そのものに大きな影響を与える。
【0003】
セパレーター材料として実際に主に検討されている構成は、(1)ガラス繊維のみから形成するセパレーター、(2)ガラス繊維と有機繊維から形成するセパレーター、(3)ガラス繊維及び有機繊維に更に無機粉体を加えて形成するセパレーターの大きく分けて3パターンである。
過去にセパレーター材料として、液吸収率が最も高くなる構成としてガラス繊維のみから形成し、平均繊維径2μm以下、平均繊維長2mm以下のガラス繊維を主体とすることでセパレーターの液吸収率を維持したまま、相反する特性であるガス透過性を改善するという提案がなされている(特許文献1参照)。
また、同様にガラス繊維のみから形成するセパレーターであって、シートの引張り伸び率を9~15%程度、密度を0.11~0.14g/cmの範囲とすることで、液吸収率の向上と高放電率の向上をもたらすという提案がなされている(特許文献2参照)。
【0004】
ガラス繊維と有機繊維からなるセパレーターに関しては、従来多くの特許が出されているが、ガラス繊維単体で構成されるセパレーターよりも有機繊維を加えることで、熱融着により、有機繊維がガラス繊維と接合しシート強度が増すことが知られている。ただし、有機繊維そのものは、親水性が劣るためセパレーターの液吸収率の低下を引き起こす。
それを補うため、繊維径の大きな有機繊維(一般的に、平均繊維径10μm以上の繊維)を使用し、セパレーターの孔径を局部的に大きくする事で、液吸収率を確保し易くする対策が取られているが、一方で、電池寿命に関して、デンドライトショート発生のリスクが高くなるという別の欠点を持っている。
【0005】
電池の長寿命化を図るため、有機繊維を使用した密閉式鉛蓄電池用セパレーターの孔径を小さくし、且つデンドライトショートを防止する目的で親水性の無機粉体(シリカ粉体)を配合したものも提案(特許文献3参照)されているが、やはりシートの密度が高くなり、結果として液吸収率が低下することで電池容量も低下するため、容量の小さな長寿命型電池にしか用途展開できないという欠点がある。
また、親水性の高いパルプなどのセルロース繊維を使用した場合、含水性の低下は抑えられる可能性はあるものの、セパレーターを電池に組んだ後に、電解液である硫酸液への耐性に乏しいため、パルプなどのセルロース繊維が溶け出して、電池反応に悪影響を引き起こす原因となる。また親水性の高いシリカ粉体を混入させた場合、セパレーターの細孔内にシリカ粉体そのものが詰まり、液吸収率を低下させる結果となってしまう。したがって、依然として従来のセパレーター設計には課題が残ったままである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平2-66850号公報
【文献】特開平7-201310号公報
【文献】特開2003-100276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、実施例において、電池寿命に関わるセパレーターの基本物性である引張強度が低下する傾向を示している。また、セパレーターの保液性に相当する液吸収率、吸液性の改善を謳っていながら、吸液速度の改善、ガス透過性の改善はなされているものの、液吸収率そのものの改善がなされていない。また、ガラス繊維の平均繊維径、平均繊維長の明確な範囲は特に指定されていないが、本文中の記載として繊維長0.2mmから2.0mmの範囲が好ましい旨が記載されていることから、ガラス繊維のアスペクト比は、200~1000とアスペクト比が大きすぎるものも含まれている。アスペクト比が大きすぎると、セパレーターの破断時の伸びが非常に大きくなり、セパレーターを鉛蓄電池に組み入れる際の組み立て工程において、セパレーターを引き出す時にセパレーターが伸び、そのため、セパレーターの幅及び厚さの寸法が変化することによって、電池電極の寸法よりも狭くなり、組み立て工程での電池短絡を引き起こす不具合が発生する。
【0008】
また、特許文献2では、セパレーターの破断時の伸び率が9%~15%であって、且つセパレーターの密度が0.11~0.14g/cmと比較的低密度の密閉式鉛蓄電池用セパレーターであれば、セパレーター中の保液量が増大する旨が記載されているが、繊維長は、3~10mmと非常に長いものであることを特徴としている。
この場合も、上記と同様にセパレーターの伸びが大きいことによる、セパレーターの加工時の変形が大きくなり、電池電極との寸法との不一致が起こり、製造時の不具合が多く発生することになる。また、セパ―レーターの密度が0.11~0.14g/cmの低密度であることから、セパレーターの保液量は増大するが、逆に保液量が増大することにより、吸収した液量の重さによりセパレーターそのものの自重も増大するため、セパレーターの強度が自重に耐えきれなくなり、崩落(形状を維持できなくなる)するという不具合も発生する。
【0009】
そして、特許文献3では、有機繊維の含有量を考慮して親水性を損なわないようにセパレーターに親水性の無機粉体(シリカ粉体)を配合したものが提案されているが、この場合は、セパレーターの密度が高くなり、結果として電解液を保持できる体積が小さくなり、セパレーターの液吸収率が低下し、電池容量も低下することになる。
このように、従来の密閉式鉛蓄電池用セパレーターは、電池の長寿命に直結するセパレーターの基本物性、電池容量の改善に直結するセパレーターの液吸収率に関しての検討は実施されてはいるが、これは鉛蓄電池としての特性を向上させるための目的のみにすぎず、電池組み立て工程における不具合を解決するための検討までは行われていない。
セパレーター材料に使用されるガラス繊維に関して、平均繊維径と平均繊維長の明確な範囲(アスペクト比の範囲)とセパレーターの伸び率との関係を考慮することによって、セパレーターの特性に大きな影響を与えることができる。この関係について考慮が不十分である従来特許において、密閉式鉛蓄電池用セパレーターの最適な材料の選定条件を確立する上で、依然として改善が必要とされる。
【0010】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、電池容量と電池寿命の改善および良好な電池の組み立て性能を加味しつつ、セパレーター内のガラス繊維のアスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)、セパレーターの引張強度、伸び率についての最適な条件を見出すことによって、密閉式鉛蓄電池用セパレーターの基本物性、液吸収性を同時に最適化できたセパレーターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するべく鋭意検討の結果、セパレーター内のガラス繊維のアスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)、セパレーターの引張強度、伸び率についての最適な条件を見出すことができた。そして、セパレーターの基本物性と液吸収性、及びセパレーターを密閉鉛蓄電池に組み立てる際のセパレーターの寸法安定性が同時に最適となる密閉式鉛蓄電池用セパレーターを提供することができた。
【0012】
すなわち、本発明の密閉式鉛蓄電池用セパレーターでは、セパレーターが電池に組み込まれた後、電解液に溶出する成分を極力少なくし、電池反応への悪影響を防ぐために、セパレーター材料としてガラス繊維のみを使用することが望ましい。
【0013】
本発明の密閉式鉛蓄電池用セパレーターは、平均繊維径2.0μm以下であって、セパレーター内におけるアスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)が130~205の範囲内となるガラス繊維を用い、かつセパレーターの引張強度が0.20N/mm以上であり、かつその破断時の伸び率が2.0%以上、9.0%未満の範囲内にあるセパレーターにあることが望ましく、好ましくは、破断時の伸び率が2.5%以上、7.5%以下の範囲内にあるセパレーターである。
密閉式鉛蓄電池用セパレーターにおいて、アスペクト比が130未満になるということは、セパレーターの平均繊維長が相対的に短くなることになり、液吸収率が85%を下回り、電解液量が律速反応となる密閉式鉛蓄電池において、電池の寿命、容量特性が著しく低下することとなる。
一方で、アスペクト比が205を超えるということは、セパレーターの平均繊維長が相対的に長くなることになり、セパレーターが低密度になり、且つ、セパレーターの破断時の伸び率の値も大きくなる。そのため、液吸収量が増大することにより、吸収した液量の重さによりセパレーターそのものの自重も増大するため、セパレーターの強度が自重に耐えきれなくなり、崩落もしくは形状を維持できなくなる。
また、密閉式鉛蓄電池用セパレーターの引張強度が0.20N/mmを下回ると、電池の組み立て性能、充放電反応時の基本物性が低下し、電池寿命が低下する。
【0014】
そして、密閉式鉛蓄電池用セパレーターの伸び率に関して、AGMセパレーターは、主として出荷時にロール形状にて出荷され、電池組み立て時に、ロールからセパレーターが引張り出されて使用される。セパレーターと電池電極との組み立て時において、セパレーターは電池電極をU字型に包み込む様に使用されるのが一般的であり、セパレーターの破断時の伸び率が2.0%未満である場合、セパレーターをU字型に折り曲げ加工を行う際にセパレーター表面に割れが生じ、製品不良となって出荷できなくなってしまう。
一方、電池使用時の充放電反応において、電解液の吸収、リリースが繰り返されるため、セパレーターの膨張・収縮を伴う。室温条件で測定されたシートの伸び率が9.0%以上になる場合、セパレーターを引張り出す際の力により、セパレーターが伸ばされ、セパレーターの幅方向並びに厚さ方向の寸法が変化する。電池の電極の側面短絡防止のために設定された極板間隔とその寸法が変化することで、早期の電池短絡の原因になる。
【0015】
このように本発明の密閉式鉛蓄電池用のセパレーターにおいて、材料として使用されるガラス繊維のセパレーター内におけるアスペクト比の範囲と、セパレーターの引張強度、伸び率の範囲について最適な範囲とすることで、電池の長寿命化、容量改善に最適なセパレーターを提供することを可能にする。
なお、セパレーターにおけるガラス繊維のアスペクト比の調整(繊維長調整)は、抄紙工程による離解条件を調整することによって容易に調整することが可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の密閉式鉛蓄電池用セパレーターは、セパレーターに使用されるガラス繊維のセパレーター内におけるアスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)、セパレーターの引張強度、伸び率について最適な範囲とすることによって、密閉式鉛蓄電池用セパレーターの基本物性、液吸収性を同時に最適化したセパレーターを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】セパレーターの伸びが著しく大きくなる場合における電地組み立て時または電池反応時の不具合状況を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の密閉式鉛蓄電池用セパレーターに使用されるガラス繊維のセパレーター内におけるアスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)の範囲は130~205が好ましい。
密閉式鉛蓄電池用セパレーターにおいてセパレーター内におけるガラス繊維のアスペクト比が130未満になると液吸収率が85%を下回り、電池の寿命、容量特性が著しく低下することとなる。
一方で、アスペクト比が205を超えると、セパレーターの破断時の伸び率が非常に大きくなり、セパレーターを鉛蓄電池に組み入れる際の組み立て工程において、セパレーターを引き出す時にセパレーターが伸び、そのため、セパレーターの幅及び厚さの寸法が変化する。また電池反応時においてもセパレーターが膨張、収縮を繰り返すことにより、セパレーターの幅及び厚さの寸法が変化し、電池電極の寸法よりも狭くなる。そのため、組み立て工程での不具合、また電池反応での電池短絡を引き起こす不具合が発生する。
【0019】
本発明の密閉式鉛蓄電池用セパレーターの引張強度は0.20N/mm以上が好ましい。
密閉式鉛蓄電池用セパレーターの引張強度が0.20N/mmを下回ると、電池の組み立て性能、充放電反応時の基本物性が低下し、電池寿命が低下する。
【0020】
本発明の密閉式鉛蓄電池用セパレーターの伸び率の範囲が2.0%以上、9.0%未満の範囲内にあることが好ましく、2.5%以上、7.5%以下の範囲内にあることがより好ましい。
AGMセパレーターは、主として出荷時にロール形状にて出荷される。この時、伸び率が2.0%未満となるとセパレーター表面に割れが生じ、製品不良となり出荷できなくなってしまう。
一方で、電池使用時の充放電反応で、電解液の吸収、リリースが繰り返されるため、セパレーターの膨張・収縮を伴う。室温条件で測定された伸び率9.0%以上のセパレーターは、電池反応に伴い下方向に延び、セパレーターの幅が細くなるため、極板との幅からずれが生じる。
【実施例
【0021】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
[セパレーターシートの作製]
実施例1~6、および比較例1~5のセパレーターシート(いずれも、手抄き品)を、次の手順で作製した。
各種ガラス繊維(Cガラス)15gをミキサー(ナショナル製 National Cooking Mixer MX-915C)の容器に入れ、水を1000mlになるまで加えた。この時、容器内のpHを3.0に調整した。ミキサーに連動したスライダックの値を70~150Vに設定し、30秒~20分離解を行った。離解後、pH3.0の水を入れたタッピ装置(手抄きシート作製装置)にミキサー容器内のガラス繊維を含んだ水を全て投入し、攪拌棒で混ぜた後に脱水し、湿式抄紙シートを作製した。その後、乾燥機で乾燥して(乾燥条件:120℃、1時間)、セパレーターシート(厚さ:1mm)を作製した。
【0022】
作製したセパレーターシート内におけるガラス繊維(セパレーターシートになった後)について、以下の方法によって、平均繊維径、平均繊維長を測定した。
結果は、表1に示した。
[平均繊維径(μm)]
セパレーターシート(300mm×200mm)上において、9ヵ所(上段:3ヵ所、中段:3ヵ所、下段:3ヵ所)からそれぞれ約5mm×5mm角のサンプルを採取した。これらのサンプルを走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮影し(2000倍)、それをプリントアウトした後、電子顕微鏡写真の対角線に線を引き、この線と重なる繊維の繊維径をスケールで測定した(30~40本/枚×9ヵ所=約350本/サンプル)。
[平均繊維長(μm)]
Cottonscope社製Diamscope測定機(解析ソフトVer.2.84)を用いて測定した。
【0023】
作製したセパレーターシートについて、以下の方法によって、引張強度、伸び率、液吸収率を測定した。
結果は、表1に示した。
[引張強度(N/mm)]
セパレーターシートを250mm×10mmの寸法に切断し、オートグラフ(島津製作所製)を用いて、クロスヘッドスピード25mm/min、チャック間距離100mmの条件で、引張強度(破断強度、N/mm)を測定した。
[伸び率(%)]
引張強度測定における破断時の伸び率(%)を測定した。
[液吸収率(%)]
セパレーターシートを250mm×10mmの寸法に切断し、シャーレに水(24℃)を十分に溜め、その中に切断したシートを60分間浸し、その後水中よりシートを引き上げて5分間保持した後、水に浸す前のサンプル重量Aとこの水に浸した後のサンプル重量Bの差(B-A)を測定し、「[(B-A)/A]×100」を液吸収率(%)とした。
【0024】
【表1】
【0025】
<実施例1~6>
実施例1~6のセパレーターシートは、ガラス繊維のアスペクト比が130~205、引張強度が0.41~1.07N/mm、伸び率が2.3~8.5%からなり、単一のガラス繊維又は複合繊維(平均繊維径が異なる2種以上のガラス繊維を混合したもの)で構成されるセパレーターシートである。
密閉式鉛蓄電池用セパレーターに求められる基本物性(引張強度:0.20N/mm以上、伸び率:2.0%以上、9.0%未満)を十分に保ちながら、液吸収率が85%以上を示した。
実施例1~6のセパレーターシートは、いずれも最適な基本物性(引張強度、伸び率)、液吸収性を示すものであることが分かった。
【0026】
<比較例1>
比較例1のセパレーターシートは、ガラス繊維のアスペクト比が117、引張強度が0.24N/mm、伸び率が0.4%からなり、単一のガラス繊維で構成されるセパレーターシートである。
密閉式鉛蓄電池用セパレーターに求められる引張強度0.20N/mm以上であるが、伸び率が2.0%を下回っている。また、ガラス繊維のアスペクト比においても130を下回っているので、液吸収率も85%を下回るものであった。
【0027】
<比較例2>
比較例2のセパレーターシートは、ガラス繊維のアスペクト比が121、引張強度が0.12N/mm、伸び率が0.8%からなり、単一のガラス繊維で構成されるセパレーターシートである。
密閉式鉛蓄電池用セパレーターに求められる引張強度0.20N/mmを下回っており、伸び率も2.0%を下回っている。ガラス繊維のアスペクト比は130を下回っており、液吸収率も85%を下回るものであった。
【0028】
<比較例3>
比較例3のセパレーターシートは、ガラス繊維のアスペクト比が127、引張強度が0.26N/mm、伸び率が2.7%からなり、単一のガラス繊維で構成されるセパレーターシートである。
密閉式鉛蓄電池用セパレーターに求められる引張強度0.20N/mm以上であり、伸び率も2.0%以上、9.0%未満の範囲内であるが、ガラス繊維のアスペクト比は130を下回っていて、液吸収率は85%を下回るものであった。
【0029】
<比較例4>
比較例4のセパレーターシートは、ガラス繊維のアスペクト比が255、引張強度が0.46N/mm、伸び率が11.2%からなり、単一のガラス繊維で構成されるセパレーターシートである。
密閉式鉛蓄電池用セパレーターに求められる引張強度0.20N/mm以上であり、液吸収率は85%以上であるが、ガラス繊維のアスペクト比が205を上回っているので、伸び率は9.0%を上回ってしまった。
【0030】
<比較例5>
比較例5のセパレーターシートは、ガラス繊維のアスペクト比が112、引張強度が0.51N/mm、伸び率が1.8%からなり、複合繊維(平均繊維径が異なる2種以上のガラス繊維を混合したもの)で構成されるセパレーターシートである。
密閉式鉛蓄電池用セパレーターに求められる引張強度0.20N/mm以上であるが、伸び率は2.0%を下回っており、ガラス繊維のアスペクト比も130を下回っている。液吸収率もまた85%を下回るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の密閉式鉛蓄電池用セパレーターは、セパレーターに使用されるガラス繊維のセパレーター内におけるアスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)、セパレーターの引張強度、および伸び率を特定の範囲内とすることによって、密閉式鉛蓄電池用セパレーターに必要な基本的な物性と液吸収性を、同時に保持できる最適なセパレーターを提供することができた。
【符号の説明】
【0032】
1 電極
2 セパレーター
図1