(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】筋弛緩監視装置及びキャリブレーション処理方法
(51)【国際特許分類】
A61N 1/34 20060101AFI20240105BHJP
A61B 5/395 20210101ALI20240105BHJP
【FI】
A61N1/34
A61B5/395
(21)【出願番号】P 2019198590
(22)【出願日】2019-10-31
【審査請求日】2022-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519390335
【氏名又は名称】高木 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉原 弘
(72)【発明者】
【氏名】北村 繁吉
(72)【発明者】
【氏名】永瀬 和哉
(72)【発明者】
【氏名】岩田 俊治
(72)【発明者】
【氏名】高木 俊一
【審査官】鈴木 敏史
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-530528(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0204155(US,A1)
【文献】特開2016-137085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/34
A61B 5/395
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の筋の最大刺激を超える最大上刺激の刺激電流値を取得するキャリブレーション処理部を備える筋弛緩監視装置であって、
前記キャリブレーション処理部は、
機器設定上の刺激電流の最大となる値よりも低く設定される初期刺激電流値を開始時の刺激電流値とし、
前記初期刺激電流値の電気刺激による前記筋の刺激反応に基づく電気信号の振幅のピーク値と、前記初期刺激電流値と異なる刺激電流値の電気刺激による前記筋の刺激反応に基づく電気信号の振幅のピーク値との比較結果に基づいて、電流値可変処理として、所定の刺激タイミングで所定のステップ電流値分を増加させる第1の電流値可変処理又は前記刺激タイミングで前記ステップ電流値分を減少させる第2の電流値可変処理の何れかの処理を決定し、
決定された前記電流値可変処理で前記ステップ電流値分だけ刺激電流値を可変させる前の刺激電流値となる第1の刺激電流値の電気刺激による前記筋の刺激反応に基づく電気信号の振幅のピーク値を第1のピーク値として検出し、
決定された前記電流値可変処理に基づき、前記第1の刺激電流値の刺激タイミングの次の刺激タイミングで、前記第1の刺激電流値から前記ステップ電流値分だけ可変した第2の刺激電流値の電気刺激による前記筋の刺激反応に基づく電気信号の振幅のピーク値を第2のピーク値として検出し、
前記第1のピーク値と、前記第2のピーク値との比較結果に基づいて前記被検者の最大刺激の刺激電流値を検出して、前記被検者の前記最大刺激の刺激電流値に
電流値を加算した刺激電流値を、前記被検者の最大上刺激の刺激電流値として取得する、
筋弛緩監視装置。
【請求項2】
前記初期刺激電流値は、10mA~60mA未満の値である、
請求項1に記載の筋弛緩監視装置。
【請求項3】
前記初期刺激電流値は、前記被検者に関する情報に基づいて設定される、
請求項1又は2に記載の筋弛緩監視装置。
【請求項4】
前記ステップ電流値は、前記初期刺激電流値に基づいて設定される、
請求項1~
3の何れか1項に記載の筋弛緩監視装置。
【請求項5】
前記刺激タイミングは、2~4Hzの範囲で設定される、
請求項1~
4の何れか1項に記載の筋弛緩監視装置。
【請求項6】
前記キャリブレーション処理部は、
前記ステップ電流値を増加させる前の刺激電流値となる前記第1の刺激電流値に基づく前記第1のピーク値と、前記第1の電流値可変処理に基づいて前記第1の刺激電流値から前記ステップ電流値分だけ増加させた前記第2の刺激電流値に基づく前記第2のピーク値を比較する電流値減少・比較処理を実行した際に、
前記第1のピーク値と前記第2のピーク値が同等であると判断したときは、前記第1の刺激電流値を前記最大刺激の刺激電流値として検出する、
請求項
1~
5の何れか1項に記載の筋弛緩監視装置。
【請求項7】
前記キャリブレーション処理部は、
前記ステップ電流値を減少させる前の刺激電流値となる前記第1の刺激電流値に基づく前記第1のピーク値と、前記第2の電流値可変処理に基づいて前記第1の刺激電流値から前記ステップ電流値分だけ減少させた前記第2の刺激電流値に基づく前記第2のピーク値を比較する電流値減少・比較処理を実行した際に、
前記第2のピーク値が前記第1のピーク値よりも減少したと判断したときは、前記第1の刺激電流値を前記最大刺激の刺激電流値として検出する、
請求項
1~
6の何れか1項に記載の筋弛緩監視装置。
【請求項8】
前記キャリブレーション処理部は、
前記被検者の神経に電気刺激を与えたときに誘発される筋肉の筋繊維の活動電位に基づいて前記被検者の筋弛緩状態を監視する電位感知型筋弛緩モニタに具備される構成である、
請求項1~
7の何れか1項に記載の筋弛緩監視装置。
【請求項9】
被検者の筋の最大刺激を超える最大上刺激の刺激電流値を取得するキャリブレーション処理方法であって、
機器設定上の刺激電流の最大となる値よりも低く設定される初期刺激電流値を開始時の刺激電流値とし、
前記初期刺激電流値の電気刺激による前記筋の刺激反応に基づく電気信号の振幅のピーク値と、前記初期刺激電流値と異なる刺激電流値の電気刺激による前記筋の刺激反応に基づく電気信号の振幅のピーク値との比較結果に基づいて、電流値可変処理として、所定の刺激タイミングで所定のステップ電流値分を増加させる第1の電流値可変処理又は前記刺激タイミングで前記ステップ電流値分を減少させる第2の電流値可変処理の何れかの処理を決定する処理と、
決定された前記電流値可変処理で前記ステップ電流値分だけ刺激電流値を可変させる前の刺激電流値となる第1の刺激電流値の電気刺激による前記筋の刺激反応に基づく電気信号の振幅のピーク値を第1のピーク値として検出する処理と、
決定された前記電流値可変処理に基づき、前記第1の刺激電流値の刺激タイミングの次の刺激タイミングで、前記第1の刺激電流値から前記ステップ電流値分だけ可変した第2の刺激電流値の電気刺激による前記筋の刺激反応に基づく電気信号の振幅のピーク値を第2のピーク値として検出する処理と、
前記第1のピーク値と、前記第2のピーク値との比較結果に基づいて前記被検者の最大刺激の刺激電流値を検出して、前記被検者の前記最大刺激の刺激電流値に
電流値を加算した刺激電流値を、前記被検者の最大上刺激の刺激電流値として取得する処理と、
を含む
キャリブレーション処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、患者などの被検者の筋弛緩状態又は覚醒状態を識別するための筋弛緩監視装置及びキャリブレーション処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、手術時に投与される筋弛緩薬による被検者の筋弛緩状態を監視する技術が開示されている。下記特許文献1に開示される麻酔モニタリングシステムでは、例えばTOF(Train-Of-Four)法のような所定の刺激モードが設定され、被検者の身体の一部である観察部位(筋)とつながる末梢神経に所定電流値の電気刺激を与えたときに誘発される観察部位の筋収縮力に基づいて被検者の筋弛緩状態を定量的に監視する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のシステムを使用する際、手術中の被検者の筋弛緩状態を正確に把握するため、被検者に行う電気刺激は、これ以上電流量を増加させても筋反応が増加しない最大上刺激(観察部位の筋繊維を全て収縮させる最大刺激を超える刺激であり、例えば最大刺激の10%~20%増の刺激)に設定する必要がある。そのため、前記システムでは、筋弛緩薬を投与する前にキャリブレーション処理が行われ、被検者に応じた最大上刺激となる刺激電流値が検出される。
【0005】
キャリブレーション処理では、機器設定上の刺激電流の最大値となる最大刺激電流値(例えば60mA)から所定周期(例えば1Hz)毎に電流値を所定値(例えば2mA)ずつ下げながら刺激を与えて最大上刺激となる刺激電流値を探索する。しかしながら、被検者の最大上刺激は30mA~60mAの範囲であることが多く、例えば最大上刺激の刺激電流値が30mAの被検者の場合、キャリブレーション処理に時間を要してしまうという問題がある。
【0006】
また、従来技術では、最大刺激電流値からキャリブレーション処理が開始されるため、特に被検者が小児又は新生児の場合、成人と比べて電気刺激による身体的ダメージが大きく過剰な負担がかかってしまうという問題がある。
【0007】
以上のように、従来技術では、被検者の最大上刺激を短時間で検出する点、最大上刺激を検出する際の被検者に過剰な負担がかかる点について改善の余地がある。
【0008】
本発明は、上述した従来の問題点を鑑みてなされたものであって、被検者への負担を軽減しつつ、被検者に応じた最大上刺激となる刺激電流値を短時間で検出することができる筋弛緩監視装置及びキャリブレーション処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る筋弛緩監視装置は、被検者の筋の最大刺激を超える最大上刺激の刺激電流値を取得するキャリブレーション処理部を備える筋弛緩監視装置であって、前記キャリブレーション処理部は、機器設定上の刺激電流の最大となる値よりも低く設定される初期刺激電流値を開始時の刺激電流値とし、前記初期刺激電流値の電気刺激による前記筋の刺激反応に基づく電気信号の振幅のピーク値と、前記初期刺激電流値と異なる刺激電流値の電気刺激による前記筋の刺激反応に基づく電気信号の振幅のピーク値との比較結果に基づいて、電流値可変処理として、所定の刺激タイミングで所定のステップ電流値分を増加させる第1の電流値可変処理又は前記刺激タイミングで前記ステップ電流値分を減少させる第2の電流値可変処理の何れかの処理を決定し、決定された前記電流値可変処理で前記ステップ電流値分だけ刺激電流値を可変させる前の刺激電流値となる第1の刺激電流値の電気刺激による前記筋の刺激反応に基づく電気信号の振幅のピーク値を第1のピーク値として検出し、決定された前記電流値可変処理に基づき、前記第1の刺激電流値の刺激タイミングの次の刺激タイミングで、前記第1の刺激電流値から前記ステップ電流値分だけ可変した第2の刺激電流値の電気刺激による前記筋の刺激反応に基づく電気信号の振幅のピーク値を第2のピーク値として検出し、前記第1のピーク値と、前記第2のピーク値との比較結果に基づいて前記被検者の最大刺激の刺激電流値を検出して、前記被検者の前記最大刺激の刺激電流値に電流値を加算した刺激電流値を、前記被検者の最大上刺激の刺激電流値として取得する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、被検者への負担を軽減しつつ、被検者に応じた最大上刺激となる刺激電流値を短時間で検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る筋弛緩監視装置の構成を示す図である。
【
図2】キャリブレーション処理部で実行されるキャリブレーション処理を概念的に示した図である。
【
図3】筋弛緩監視装置の一連の処理動作に関するフローチャートである。
【
図4】キャリブレーション処理時の処理動作に関するフローチャートである。
【
図5】キャリブレーション処理における電流値増加・比較処理に関するフローチャートである。
【
図6】キャリブレーション処理における電流値減少・比較処理に関するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。この実施の形態によって本発明が限定されるものではなく、この形態に基づいて当業者などにより考え得る実施可能な他の形態、実施例及び運用技術などは全て本発明の範疇に含まれるものとする。
【0013】
[装置構成]
まず、
図1を参照しながら、本発明の実施形態に係る筋弛緩監視装置1の構成について説明する。
筋弛緩監視装置1は、生体情報モニタ100(例えば、ベッドサイドモニタ、トランスポートモニタ、医用テレメータ)と有線又は無線通信可能に接続される。生体情報モニタ100には、筋弛緩監視装置1で検出された刺激反応値に応じた表示内容が表示される。
【0014】
筋弛緩監視装置1は、刺激電極部10と、検出電極部20とが接続される。筋弛緩監視装置1は、被検者の観察部位の神経に対し、刺激電極部10を介して所定電流値の電気刺激を与える。筋弛緩監視装置1は、検出電極部20を介して電気刺激による観察部位の刺激反応(筋反応)に基づく電気信号を取得する。
【0015】
本実施形態に係る筋弛緩監視装置1は、被検者の観察部位となる筋とつながる末梢神経に所定電流値の電気刺激を与えたときに誘発される観察部位の筋繊維の活動電位に基づいて被検者の筋弛緩状態を定量的に検出する、所謂、電位感知型筋弛緩モニタ(electromyography:EMG)である。
【0016】
刺激電極部10は、被検者の観察部位である筋とつながる抹消神経上の皮膚表面に着脱可能な一対の刺激電極10a、10bからなり、観察部位の筋の抹消神経に対し、設定された所定電流値の電気刺激を行う。刺激電極部10は、例えば、刺激電極10aの極性がプラスの場合、刺激電極10bの極性はマイナスとなる。刺激電極部10は、例えば観察部位が拇指内転筋の場合、刺激電極10a、10bは、共に拇指内転筋とつながる尺骨神経上の皮膚表面に所定間隔を空けて取り付けられる。刺激電極部10は、筋弛緩監視装置1に対して着脱可能であり、故障などが生じた際には交換が可能である。
【0017】
検出電極部20は、被検者の観察部位の皮膚表面に着脱可能な一対の検出電極20a、20bからなり、刺激電極部10からの電気刺激による観察部位の筋の活動電位を刺激反応として検出し、この刺激反応に応じて電気信号を筋弛緩監視装置1に出力する。検出電極部20は、例えば、検出電極20aの極性がプラスの場合、検出電極20bの極性はマイナスとなる。検出電極部20は、例えば観察部位が拇指内転筋の場合、プラス極性の検出電極20aは固定部位となる例えば拇指の屈筋腱上の皮膚表面に取り付けられ、マイナス極性の検出電極20bは拇指内転筋の動きが検出可能なように拇指内転筋上の皮膚表面に取り付けられる。検出電極部20は、筋弛緩監視装置1に対して着脱可能であり、故障などが生じた際には交換が可能である。
【0018】
続いて、筋弛緩監視装置1の構成について説明する。筋弛緩監視装置1は、入出力部2と、キャリブレーション処理部3と、刺激モード設定部4と、刺激発生部5と、反応検出部6と、操作部7と、制御部8と、記憶部9と、を備える。
【0019】
入出力部2は、検出電極部20で検出された観察部位の筋の活動電位に応じた電気信号が入力されると、この信号をキャリブレーション処理部3又は反応検出部6に出力する。また、入出力部2は、刺激モードに応じて観察部位の神経が電気刺激された際の筋の刺激反応値を反応検出部6から入力すると、この刺激反応値を生体情報モニタ100に出力する。これにより、生体情報モニタ100の画面上には、入力された刺激反応値が表示される。
【0020】
キャリブレーション処理部3は、作動モードとしてキャリブレーションモードが選択されると、被検者に所定の刺激電流値の電気刺激を行って被検者毎の最大刺激に応じた刺激電流値を検出すると共に、検出された刺激電流値に基づいて被検者の最大上刺激に応じた刺激電流値を取得する、キャリブレーション処理を行う。詳述すると、キャリブレーション処理部3は、キャリブレーション処理として、処理開始時の電流値(初期値)となる初期刺激電流値から刺激タイミング毎に所定のステップ電流値分だけ刺激電流値を可変し、電気刺激を受けた観察部位となる筋の刺激反応に基づく電気信号(活動電位)の振幅のピーク値(1周期間における最大変位量(極大値とその極大値検出タイミング以降の極小値の差)の絶対値)を検出する。また、キャリブレーション処理部3は、キャリブレーション処理として、検出したステップ電流値の可変前後における各ピーク値の比較結果(電流値可変前後のピーク値の挙動)に基づいて被検者の最大刺激の刺激電流値を検出し、検出された刺激電流値にステップ電流値分を加算した電流値を、被検者の最大上刺激の刺激電流値として取得する。取得された最大上刺激の刺激電流値は、記憶部9に記憶される。
【0021】
キャリブレーション処理部3によりキャリブレーション処理が実行されると、制御部8は、刺激発生部5及び反応検出部6を制御し、設定された刺激電流値による電気刺激処理、刺激電流値の電気刺激による筋の刺激反応に基づく振幅のピーク値(以下、単に「刺激電流値に基づく振幅のピーク値」と略する)の検出処理などが行われる。
【0022】
キャリブレーション処理における「初期刺激電流値」は、医療従事者など、筋弛緩監視装置1の使用者により任意の電流値が設定され、より詳細には被検者に関する情報に基づいて設定される。被検者に関する情報は、例えば筋弛緩監視装置1、筋弛緩監視装置1に接続された生体情報モニタ100、又はその他の医療機器に入力された被検者の入床情報、医療機器にて測定・記録された被検者の情報、或いは医療従事者が被検者を目視で確認した際に判断した情報に含まれる年齢、性別、体重、被検者の生体情報、疾病情報、被検者の履歴情報(往診履歴や手術履歴など)、イベント情報などの少なくとも1つの情報(以下、これら情報を「被検者情報」と称する)を基に設定してよい。被検者情報に基づいて「初期刺激電流値」を設定する例として、被検者が成人であると判断された場合は、成人における最大上刺激の刺激電流値の平均値(平均刺激電流値)である約30mA付近を基準に設定し、機器設定上の刺激電流の最大となる値(以下、この電流値を「最大刺激電流値」と称し、例えば60mAに設定される)よりも低い電流値とする。また、被検者が小児又は新生児であると判断された場合、身体的ダメージを軽減するため初期刺激電流値を約10mA付近を基準に設定してもよい。上記のように本実施形態において、初期刺激電流値は被検者情報に応じて、例えば10mA~40mAの範囲で任意に設定してよい。また、例えば、小児であっても体重が20kg以上ある場合は、初期刺激電流値を約30mAとしてもよい。
【0023】
本実施形態に係る筋弛緩監視装置1において、キャリブレーション処理時に使用する「初期刺激電流値」を被検者情報に応じて機器設定上の刺激電流の最大となる値よりも低く設定することで、被検者が成人であれば、従来のキャリブレーション処理のように機器設定上の最大刺激電流値から最大上刺激の刺激電流値を探索するよりも処理時間を短縮することが可能となる。また、被検者が小児又は新生児であれば、被検者に応じて初期刺激電流値が設定されるため、少なくとも刺激電流の最大となる値(例えば60mA)から検出するよりも身体的ダメージが軽減されると共に、短時間で最大上刺激の刺激電流値を検出することが可能となる。
【0024】
「ステップ電流値」は、キャリブレーション処理速度を向上させると共に、最大上刺激の刺激電流値を容易に取得可能とするため、初期刺激電流値を基準に設定される。例えば、初期刺激電流値が「30mA」に設定された場合、ステップ電流値は、例えば初期刺激電流値の10%増となる「3mA」に設定してよい。ステップ電流値は、従来のキャリブレーション処理時の可変電流値よりも大きく設定することで、キャリブレーション処理速度を向上させることができる。また、キャリブレーション処理では、検出された最大刺激の刺激電流値にステップ電流値分を増加(上乗せ)させるだけで、煩雑な処理を必要とせず、最大上刺激の刺激電流値を容易に取得することができる。
【0025】
「刺激タイミング」は、例えば1秒間に2~4回(2~4Hz)に設定される。この刺激タイミングは、従来のキャリブレーション処理よりも処理時間が短縮され、且つ正確な最大刺激となる刺激電流値から最大上刺激の刺激電流値が取得可能なタイミングとなるように設定される。
【0026】
図2は、キャリブレーション処理部3で実行されるキャリブレーション処理を概念的に示した図である。
図2に示すキャリブレーション処理は、初期刺激電流値は「30mA」、ステップ電流値は「3mA」、刺激タイミングは「2Hz」、最大上刺激の刺激電流値の上限値は「60mA」、下限値は「3mA」に設定された例である。また、
図2の左右方向は時間軸であり、キャリブレーション処理の開始時刻から刺激タイミング毎の時間が示されている。
【0027】
キャリブレーション処理では、刺激タイミング毎にステップ電流値を可変させて可変前後の刺激電流値に基づく振幅のピーク値を比較する「電流値可変・比較処理」が実行される。電流値可変・比較処理には、電流値可変処理として刺激タイミング毎にステップ電流値ずつ増加させる第1の電流値可変処理を行いつつ、ステップ電流値の増加前後の刺激電流値に基づく振幅のピーク値を比較する「電流値増加・比較処理」と、電流値可変処理として刺激タイミング毎にステップ電流値ずつ減少させる第2の電流値可変処理を行いつつ、ステップ電流値の減少前後における刺激電流値に基づく振幅のピーク値を比較する「電流値減少・比較処理」の2つの処理形態が含まれている。
【0028】
電流値可変・比較処理の処理形態は、キャリブレーション処理が開始された後、
図2における3回目の刺激タイミング(処理開始から1秒後のタイミング)の前に決定される。電流値可変・比較処理の処理形態が決定されると、それ以降、決定された処理形態に従って刺激電流値の可変処理及び可変前後のピーク値の比較処理が刺激タイミング毎に逐次行われる。
【0029】
図2において、「電流値増加・比較処理」が選択されると、3回目の刺激タイミング以降は、被検者の最大刺激が検出されるまで、図中右上に向かう電流値増加・比較処理が刺激タイミング毎に行われる。また、「電流値減少・比較処理」が選択されると、3回目の刺激タイミング以降は、被検者の最大刺激が検出されるまで、図中右下に向かう電流値減少・比較処理が刺激タイミング毎に行われる。
【0030】
図2に示すように、電流値可変・比較処理として「電流値増加・比較処理」が選択された場合、キャリブレーション処理部3は、3回目の刺激タイミングで初期刺激電流値「30mA」からステップ電流値分だけ増加させた刺激電流値「33mA」に基づく振幅のピーク値を検出する。次に、キャリブレーション処理部3は、ステップ電流値分だけ増加させた刺激電流値「33mA」に基づく振幅のピーク値と、ステップ電流値分だけ増加させる前の刺激電流値に基づく振幅のピーク値(すなわち、初期刺激電流値「30mA」に基づく振幅のピーク値)を比較する。
【0031】
キャリブレーション処理部3は、ステップ電流値分だけ増加させた刺激電流値「33mA」に基づく振幅のピーク値が、ステップ電流値分だけ増加させる前の刺激電流値「30mA」に基づく振幅のピーク値よりも増加していると判断すると、ピーク値はまだ飽和していないため、次の刺激タイミングにおいて、刺激電流値をステップ電流値分だけ増加させた「36mA」とし、この刺激電流値に基づく振幅のピーク値を検出する。
以降、キャリブレーション処理部3は、被検者の最大刺激が検出されるまで、刺激タイミング毎に逐次ステップ電流値ずつ増加させ、ステップ電流値の増加前後の刺激電流値に基づく振幅のピーク値を比較し、ピーク値の飽和が確認されるまで電流値増加・比較処理を行う。また、刺激電流値が57mAに達したときに、ピーク値が飽和しない場合は、最大刺激電流値となる「60mA」を被検者の最大上刺激の刺激電流値として設定する。
【0032】
また、キャリブレーション処理部3は、ステップ電流値分だけ増加させた刺激電流値「33mA」に基づく振幅のピーク値と、ステップ電流値分だけ増加させる前の刺激電流値「30mA」に基づく振幅のピーク値が同等であると判断すると、ピーク値が飽和していると判断する。これにより、キャリブレーション処理部3は、被検者の最大刺激の刺激電流値を、ステップ電流値分だけ増加させる前の刺激電流値「30mA」として検出し、この刺激電流値「30mA」にステップ電流値を加算した「33mA」を、被検者の最大上刺激の刺激電流値として取得する。
【0033】
電流値可変・比較処理として「電流値減少・比較処理」が選択された場合、キャリブレーション処理部3は、3回目の刺激タイミングで刺激電流値「27mA」からステップ電流値分だけ減少させた刺激電流値「24mA」に基づく振幅のピーク値を検出する。次に、キャリブレーション処理部3は、ステップ電流値分だけ減少させる前の刺激電流値「27mA」に基づく振幅のピーク値と、ステップ電流値分だけ減少させた刺激電流値「24mA」に基づく振幅のピーク値を比較する。
【0034】
キャリブレーション処理部3は、ステップ電流値分だけ減少させた刺激電流値「24mA」に基づく振幅のピーク値が、ステップ電流値分だけ減少させる前の刺激電流値「27mA」に基づく振幅のピーク値より減少していると判断すると、被検者の最大刺激の刺激電流値を、ステップ電流値分だけ減少させる前の刺激電流値「27mA」として検出する。そして、キャリブレーション処理部3は、この刺激電流値「27mA」にステップ電流値を加算した「30mA」を、被検者の最大上刺激の刺激電流値として取得する。
【0035】
また、キャリブレーション処理部3は、ステップ電流値分だけ減少させた刺激電流値「24mA」に基づく振幅のピーク値と、ステップ電流値分だけ減少させる前の刺激電流値「27mA」に基づく振幅のピーク値が同等であると判断すると、ピーク値が飽和していると判断する。そのため、キャリブレーション処理部3は、次の刺激タイミングにおいて、刺激電流値をステップ電流値分だけ減少させた「21mA」とし、この刺激電流値に基づく振幅のピーク値を検出する。
以降、キャリブレーション処理部3は、被検者の最大刺激が検出されるまで、刺激タイミング毎に逐次ステップ電流値分だけ減少させ、ステップ電流値の減少前後の刺激電流値に基づく振幅のピーク値を比較し、ピーク値の減少が確認されるまで電流値減少・比較処理を行う。
【0036】
上述したキャリブレーション処理において、電流値可変・比較処理の処理形態を決定する際に、2回目の刺激タイミングで初期刺激電流値「30mA」をステップ電流値「3mA」分だけ減少させた刺激電流値「27mA」に基づく振幅のピーク値を検出する処理が実行される。これは、刺激電流値をステップ電流値分だけ増加させた「33mA」とするよりも被検者に対するダメージが少なくて済み、キャリブレーション処理を安全に実行するためである。また、検出された振幅のピーク値の比較処理において、「同等」の判断は、ピーク値の変動が所定範囲内(例えば1%以内)に収まっているときに判断され、「減少」及び「増加」の判断は、ピーク値の変動が所定範囲を超えて変動したときに判断される。つまり、「同等」と判断されたときは、比較対象となる2つの振幅のピーク値が飽和していることを意味する。
【0037】
刺激モード設定部4は、予め設定された複数の刺激モードのうち、被検者の筋弛緩の進行度に応じて刺激モードを適宜切り替える処理を行う。刺激モードとしては、例えば「単一刺激モード」、「TOFモード(4連刺激)」、「DBSモード(ダブル・バースト刺激)」、「TETモード(テタヌス刺激)」、「PTCモード(ポスト・テタニック・カウント刺激)」などがある。刺激モード設定部4は、制御部8からの指示に従って筋弛緩の進行度に応じた適切な刺激モードが設定される。
【0038】
刺激発生部5は、所定電流値の刺激パターンを発生させるための電気回路で構成される。刺激発生部5は、被検者の観察部位の筋とつながる末梢神経に対し、刺激電極部10を介して所定の電気刺激(キャリブレーション処理部3で設定された刺激電流値の電気刺激又は刺激モード設定部4で設定された刺激モードに応じた電気刺激)を行う。
【0039】
反応検出部6は、入出力部2を介して観察部位の筋の刺激反応に基づく電気信号を入力すると、この電気信号に基づく刺激反応値を取得する。反応検出部6は、例えば作動モードとして筋弛緩監視モードが選択され、刺激モードとしてTOFモードが設定されると、刺激反応として観察部位の筋の活動電位に応じた電気信号における振幅のピーク値の比(第1刺激と第4刺激の比)を「TOF比」として取得したり、所定時間内に出現する信号数を「TOFカウント」として取得したりする。反応検出部6は、取得した刺激反応値を、入出力部2を介して生体情報モニタ100に出力する。
【0040】
また、反応検出部6は、作動モードとしてキャリブレーションモードが選択されると、刺激発生部5の所定電流値の電気刺激に基づく振幅のピーク値を検出し、このピーク値をキャリブレーション処理部3に出力する。
【0041】
操作部7は、筋弛緩監視装置1の筐体上に取り付けられ、筋弛緩監視装置1に対する各種入力を行うためのインターフェースである。操作部7は、作動モードとして、例えばキャリブレーション処理を実行するキャリブレーションモード又は刺激モードによる筋弛緩監視処理を実行する際に選択される筋弛緩監視モードを選択するに操作されると、その操作信号が制御部8に出力される。
【0042】
制御部8は、CPU(Central Processing Unit)、ROM,RAMなどの各種プロセッサからなる。制御部8は、操作部7から入力される各種操作信号に基づいて所定の処理プログラムを起動させながら筋弛緩監視装置1を構成する各部を統括制御して所定の処理を実行する。制御部8は、例えば操作部7が操作され、作動モードとしてキャリブレーションモードが選択されると、キャリブレーション処理部3、刺激発生部5及び反応検出部6を適宜制御してキャリブレーション処理を実行する。
【0043】
記憶部9は、各種データを記憶する補助記憶装置であり、例えば各刺激モードの動作プログラムのような、筋弛緩監視装置1の駆動に必要な各種データを記憶する。また、記憶部9は、キャリブレーションモードで取得された被検者の最大上刺激の刺激電流値が制御部8により書き込まれ、筋弛緩監視モードの際に使用される。
【0044】
[処理動作]
次に、
図3~
図6を参照しながら、上述した筋弛緩監視装置1の処理動作について説明する。
図3は、筋弛緩監視装置1の一連の処理動作に関するフローチャートであり、
図4は、キャリブレーション処理時の処理動作に関するフローチャートであり、
図5は、キャリブレーション処理における電流値増加・比較処理に関するフローチャートであり、
図6は、キャリブレーション処理における電流値減少・比較処理に関するフローチャートである。
なお、以下に説明する各動作については、例示的な順序でステップの要素を提示しており、提示した特定の順序に限定されない。よって、
図3~
図6に示す各フローチャートについて、処理結果に矛盾が生じない限り、順序を入れ替えることが可能である。
【0045】
<装置全体の処理>
図3に示すように、ユーザは、筋弛緩監視装置1を作動させるため、筋弛緩監視装置1の電源を投入し(ST1)、操作部7を操作して作動モードを選択する(ST2)。
【0046】
ST2において、作動モードとして「筋弛緩監視モード」が選択決定されると(ST3)、筋弛緩監視装置1は、筋弛緩監視モードに従った処理を行って被検者の筋弛緩状態を監視する「筋弛緩監視処理」を実行する(ST4)。
【0047】
ST4の筋弛緩監視処理において、筋弛緩監視装置1は、被検者に対する筋弛緩薬の投与による筋弛緩の進行度を刺激モードによる電気刺激の刺激反応値に基づいて監視する。筋弛緩状態の監視に際し、制御部8は、刺激モード設定部4を制御して筋弛緩の進行度に応じた適切な刺激モードを選択させる。また、制御部8は、選択された刺激モードに従って、刺激発生部5を制御し、観察部位の筋とつながる末梢神経に対して電気刺激を行う。そして、制御部8は、反応検出部6を制御し、TOF比、TOFカウントなどの刺激モードに応じた電気刺激に基づく刺激反応を取得させ、これら刺激反応に応じた刺激反応値を、入出力部2を介して生体情報モニタ100に出力させる。
【0048】
その後、制御部8は、筋弛緩監視処理が終了したか否かの判断を行い(ST5)、筋弛緩監視処理が終了したと判断すると(ST5-Yes)、処理を終了して再度ST2に戻る。
一方、筋弛緩監視処理が終了していないと判断すると(ST5-No)、再度ST4に戻り、筋弛緩監視処理を継続する。
【0049】
ST2において、作動モードして「キャリブレーションモード」が選択決定されると(ST6)、筋弛緩監視装置1は、キャリブレーションモードに従った処理を行って被検者の最大上刺激の刺激電流値を取得する「キャリブレーション処理」を実行する(ST7)。なお、ST7における「キャリブレーション処理」については、
図4を参照しながら後段にて詳述する。
【0050】
その後、制御部8は、キャリブレーション処理により被検者の最大上刺激の刺激電流値を取得したことを確認すると(ST8)、再度ST2に戻る。通常、キャリブレーション処理後は、ユーザにより作動モードとして筋弛緩監視モードが選択され、被検者に対する筋弛緩監視処理へと移行する。
【0051】
<キャリブレーション処理>
次に、
図4を参照しながらキャリブレーションモードにおけるキャリブレーション処理の一連の動作について説明する。
【0052】
図4に示すように、キャリブレーション処理が開始されると、キャリブレーション処理部3は、初期刺激電流値の電気刺激を行い(ST71)、初期刺激電流値に基づく振幅のピーク値を検出する(ST72)。ST71における初期刺激電流値の電気刺激がキャリブレーション処理開始のトリガとなる。次に、キャリブレーション処理部3は、次の刺激タイミングで初期刺激電流値からステップ電流値分だけ減少させた刺激電流値の電気刺激を行い(ST73)、そのときの振幅のピーク値を検出する(ST74)。
【0053】
続いて、キャリブレーション処理部3は、ステップ電流値分だけ減少させる前の刺激電流値に基づく振幅のピーク値(すなわち、ST72で取得された振幅のピーク値)と、ステップ電流値分だけ減少させた刺激電流値に基づく振幅のピーク値(すなわち、ST74で取得された振幅のピーク値)を比較し、ステップ電流値分の減少によりピーク値が減少したか否かの判断を行う(ST75)。
【0054】
ST75において、キャリブレーション処理部3は、電流値可変前の刺激電流値に基づく振幅のピーク値よりも、電流値可変後の刺激電流値に基づく振幅のピーク値が減少したと判断すると(ST75-Yes)、以降の処理として、「電流値増加・比較処理」を実行する(ST76)。なお、ST76における「電流値増加・比較処理」については、
図5を参照しながら後段にて詳述する。
【0055】
一方、ST75において、電流値可変前の刺激電流値に基づく振幅のピーク値と、電流値可変後の刺激電流値に基づく振幅のピーク値が同等若しくは電流値可変後の振幅のピーク値が増加したと判断すると(ST75-No)、以降の処理として、「電流値減少・比較処理」を実行する(ST77)。なお、ST77における「電流値減少・比較処理」については、
図6を参照しながら後段にて詳述する。
【0056】
そして、ST76又はST77において被検者の最大上刺激となる刺激電流値が取得されると、
図3のST8へと進む。
【0057】
<電流値増加・比較処理>
次に、
図5を参照しながら、キャリブレーション処理における電流値増加・比較処理について説明する。電流値増加・比較処理では、初期刺激電流値を初期値とし、刺激タイミング毎にステップ電流値分だけ増加させながら電流値増加前後の電気刺激に基づく振幅のピーク値の挙動に基づいて被検者の最大上刺激の刺激電流値が取得される。
【0058】
電流値増加・比較処理において、キャリブレーション処理部3は、初期刺激電流値からステップ電流値分だけ増加させた刺激電流値の電気刺激を所定の刺激タイミングで行う(ST761)。次に、キャリブレーション処理部3は、ST761で電気刺激を行った刺激電流値に基づく振幅のピーク値を検出し(ST762)、ステップ電流値分だけ増加させる前の刺激電流値に基づく振幅のピーク値(すなわち、
図4のST72で取得された振幅のピーク値)と、ステップ電流値分だけ増加させた刺激電流値に基づく振幅のピーク値(すなわち、ST762で取得された振幅のピーク値)を比較し、ステップ電流値分の増加によりピーク値が増加したか否かの判断を行う(ST763)。
【0059】
ST763において、キャリブレーション処理部3は、ステップ電流値分だけ増加させた刺激電流値に基づく振幅のピーク値が、ステップ電流値分だけ増加させる前の刺激電流値に基づく振幅のピーク値よりも増加していると判断すると(ST763-Yes)、ピーク値はまだ飽和していないため、次の刺激タイミングにおいて、直前の刺激電流値からさらにステップ電流値分だけ増加させた刺激電流値で電気刺激を行い(ST764)、この刺激電流値に基づく振幅のピーク値を検出する(ST765)。そして、キャリブレーション処理部3は、ステップ電流値分だけ増加させる前の刺激電流値に基づく振幅のピーク値と、ステップ電流値分だけ増加させた刺激電流値に基づく振幅のピーク値を比較し、各ピーク値が増加したか否かの判断を行う(ST766)。
【0060】
一方、ST763において、キャリブレーション処理部3は、ステップ電流値分だけ増加させた刺激電流値に基づく振幅のピーク値と、ステップ電流値分だけ増加させる前の刺激電流値に基づく振幅のピーク値が同等であると判断すると(ST763-No)、ピーク値が飽和しているため、ステップ電流値分だけ増加させる前の刺激電流値を、被検者の最大刺激の刺激電流値として検出する(ST767)。そして、キャリブレーション処理部3は、この最大刺激の刺激電流値にステップ電流値分を加算した刺激電流値を、被検者の最大上刺激の刺激電流値として取得し(ST768)、処理を終了する。
【0061】
ST766において、キャリブレーション処理部3は、ステップ電流値分だけ増加させた刺激電流値に基づく振幅のピーク値が、ステップ電流値分だけ増加させる前の刺激電流値に基づく振幅のピーク値よりも増加していると判断すると(ST766-Yes)、ピーク値はまだ飽和していないため、再度ST764に戻り、次の刺激タイミングで、直前の刺激電流値に対してさらにステップ電流値分だけ増加させた刺激電流値による電気刺激を行う。
なお、ST764~ST766の処理は、被検者の最大刺激となる刺激電流値が検出されるまで繰り返し行われる。
【0062】
一方、ST766において、キャリブレーション処理部3は、ステップ電流値分だけ増加させた刺激電流値に基づく振幅のピーク値と、ステップ電流値分だけ増加させる前の刺激電流値に基づく振幅のピーク値が同等であると判断すると(ST766-No)、ST767、ST768の処理を順次行い、被検者の最大上刺激となる刺激電流値を取得する。
【0063】
<電流値減少・比較処理>
次に、
図6を参照しながら、キャリブレーション処理における電流値減少・比較処理について説明する。電流値減少・比較処理では、初期刺激電流値からステップ電流値分だけ減少させた刺激電流値を初期値とし、刺激タイミング毎にステップ電流値分だけ減少させながら電流値減少前後の電気刺激に基づく振幅のピーク値の挙動に基づいて被検者の最大上刺激の刺激電流値が取得される。
【0064】
電流値減少・比較処理において、キャリブレーション処理部3は、
図4のST73で電気刺激を行った刺激電流値からステップ電流値分だけ減少させた刺激電流値の電気刺激を所定の刺激タイミングで行う(ST771)。次に、キャリブレーション処理部3は、ST771で電気刺激を行った刺激電流値に基づく振幅のピーク値を検出する(ST772)。そして、キャリブレーション処理部3は、ステップ電流値分だけ減少させる前の刺激電流値に基づく振幅のピーク値(すなわち、
図4のST73で取得された振幅のピーク値)と、ステップ電流値分だけ減少させた刺激電流値に基づく振幅のピーク値(すなわち、ST772で取得された振幅のピーク値)を比較し、ステップ電流値分の減少によりピーク値が同等か否かの判断を行う(ST773)。
【0065】
ST773において、キャリブレーション処理部3は、ステップ電流値分だけ減少させた刺激電流値に基づく振幅のピーク値と、ステップ電流値分だけ減少させる前の刺激電流値に基づく振幅のピーク値が同等であると判断すると(ST773-Yes)、ピーク値はまだ飽和していると判断する。そのため、キャリブレーション処理部3は、次の刺激タイミングにおいて、直前の刺激電流値からさらにステップ電流値分だけ減少させた刺激電流値で電気刺激を行い(ST774)、この刺激電流値に基づく振幅のピーク値を検出する(ST775)。そして、キャリブレーション処理部3は、ステップ電流値分だけ減少させる前の刺激電流値に基づく振幅のピーク値と、ステップ電流値分だけ減少させた刺激電流値に基づく振幅のピーク値を比較し、各ピーク値が同等か否かの判断を行う(ST776)。
【0066】
一方、ST773において、キャリブレーション処理部3は、ステップ電流値分だけ減少させた刺激電流値に基づく振幅のピーク値が、ステップ電流値分だけ減少させる前の刺激電流値に基づく振幅のピーク値よりも減少していると判断すると(ST773-No)、ステップ電流値分だけ減少させる前の刺激電流値を、被検者の最大刺激の刺激電流値として検出する(ST777)。そして、キャリブレーション処理部3は、この最大刺激の刺激電流値にステップ電流値を加算した刺激電流値を、被検者の最大上刺激の刺激電流値として取得し(ST778)、処理を終了する。
【0067】
ST776において、キャリブレーション処理部3は、ステップ電流値分だけ減少させた刺激電流値に基づく振幅のピーク値と、ステップ電流値分だけ減少させる前の刺激電流値に基づく振幅のピーク値が同等であると判断すると(ST776-Yes)、ピーク値はまだ飽和しているため、再度ST774に戻り、次の刺激タイミングで、直前の刺激電流値に対してステップ電流値分だけ減少させた刺激電流値による電気刺激を行う。
なお、ST774~ST776の処理は、被検者の最大刺激となる刺激電流値が検出されるまで繰り返し行われる。
【0068】
一方、ST776において、キャリブレーション処理部3は、ステップ電流値分だけ減少させた刺激電流値に基づく振幅のピーク値が、ステップ電流値分だけ減少させる前の刺激電流値に基づく振幅のピーク値よりも減少していると判断すると(ST776-No)、ST777、ST778の処理を順次行い、被検者の最大上刺激となる刺激電流値を取得する。
【0069】
[作用効果]
以上説明したように、本実施形態に係る筋弛緩監視装置1は、被検者の観察部位となる筋における最大刺激を超える最大上刺激の刺激電流値を取得するキャリブレーション処理部3を備え、キャリブレーション処理部3は、刺激電流の最大となる値よりも低く設定される初期刺激電流値を開始時の刺激電流値とし、電流値可変処理として、所定の刺激タイミングで所定のステップ電流値分を増加させる第1の電流値可変処理又は刺激タイミングでステップ電流値分を減少させる第2の電流値可変処理の何れかの処理を決定し、決定された電流値可変処理でステップ電流値分だけ刺激電流値を可変させる前の刺激電流値となる第1の刺激電流値の電気刺激による筋の刺激反応に基づく電気信号の振幅のピーク値を第1のピーク値として検出し、決定された電流値可変処理に基づき、第1の刺激電流値の刺激タイミングの次の刺激タイミングで、第1の刺激電流値からステップ電流値分だけ可変した第2の刺激電流値の電気刺激による筋の刺激反応に基づく電気信号の振幅のピーク値を第2のピーク値として検出し、第1のピーク値と、第2のピーク値との比較結果に基づいて被検者の最大刺激の刺激電流値を検出して、被検者の最大刺激の刺激電流値にステップ電流値を加算した刺激電流値を、被検者の最大上刺激の刺激電流値として取得する。
【0070】
本装置では、キャリブレーション処理を開始する際の初期刺激電流値が、刺激電流の最大となる値(機器設定上の最大刺激電流値)よりも低い電流値が設定されているため、被検者の負担を軽減しつつ、最大上刺激の刺激電流値を短時間で取得することが可能となる。
【0071】
また、本実施形態に係る筋弛緩監視装置1において、初期刺激電流値は、10mA~60mA未満とし、被検者に関する情報(被検者情報)に基づいて設定される。
【0072】
これにより、被検者が成人であれば、従来のキャリブレーション処理のように刺激電流値の最大となる最大刺激電流値から最大上刺激の刺激電流値を探索するよりも処理時間を短縮することが可能となる。また、被検者が小児又は新生児であれば、刺激電流値の最大となる最大刺激電流値から検出するよりも身体的ダメージが軽減されると共に、短時間で最大上刺激の刺激電流値を検出することが可能となる。
【0073】
また、本実施形態に係る筋弛緩監視装置1において、キャリブレーション処理部は、初期刺激電流値の電気刺激による筋の刺激反応に基づく電気信号の振幅のピーク値と、初期刺激電流値よりもステップ電流値分だけ減少させた刺激電流値の電気刺激による筋の刺激反応に基づく電気信号の振幅のピーク値との比較結果に基づいて、第1の電流値可変処理と、第2の電流値可変処理の何れかを決定する。
【0074】
これにより、刺激タイミング時において、ステップ電流値ずつ増加させる電流値増加・比較処理と、ステップ電流値ずつ減少させる電流値減少・比較処理を被検者毎に適切に設定することができるため、キャリブレーション処理における被検者の最大上刺激の刺激電流値を短時間に取得することができる。
【0075】
また、本実施形態に係る筋弛緩監視装置1において、ステップ電流値は、初期刺激電流値に基づいて設定される。
【0076】
これにより、キャリブレーション処理の際に、被検者の最大刺激の刺激電流値を取得した際に、単純にステップ電流値分を増加させた刺激電流値を被検者の最大上刺激の刺激電流値として取得することができる。
【0077】
また、本実施形態に係る筋弛緩監視装置1は、刺激タイミングが2~4Hzの範囲で設定されている。
【0078】
これにより、従来のキャリブレーション処理と比べて刺激タイミングの間隔が短くなるため、より短時間に被検者の最大上刺激の刺激電流値を取得することができる。
【0079】
また、本実施形態に係る筋弛緩監視装置1において、キャリブレーション処理部3は、ステップ電流値を増加させる前の刺激電流値となる第1の刺激電流値に基づく第1のピーク値と、第1の電流値可変処理に基づいて第1の刺激電流値からステップ電流値分だけ増加させた第2の刺激電流値に基づく第2のピーク値を比較する電流値減少・比較処理を実行した際に、第1のピーク値と第2のピーク値が同等であると判断したときは、第1の刺激電流値を最大刺激の刺激電流値として検出する。また、キャリブレーション処理部3は、ステップ電流値を減少させる前の刺激電流値となる第1の刺激電流値に基づく第1のピーク値と、第2の電流値可変処理に基づいて第1の刺激電流値からステップ電流値分だけ減少させた第2の刺激電流値に基づく第2のピーク値を比較する電流値減少・比較処理を実行した際に、第2のピーク値が第1のピーク値よりも減少したと判断したときは、第1の刺激電流値を最大刺激の刺激電流値として検出する。
【0080】
これにより、ピーク値が飽和した状態の刺激電流値が把握可能となるため、適切な刺激電流値を、被検者の最大刺激の刺激電流値として検出することができる。
【0081】
また、本実施形態に係る筋弛緩監視装置1は、キャリブレーション処理部3は、神経に電気刺激を与えたときに誘発される筋の筋繊維の活動電位に基づいて被検者の筋弛緩状態を監視する電位感知型筋弛緩モニタに具備される構成である。
【0082】
筋弛緩監視装置1として電位感知型筋弛緩モニタを用いた場合であっても、キャリブレーション処理を開始する際の初期刺激電流値が刺激電流の最大となる値よりも低く設定されているため、被検者の負担を軽減しつつ、最大上刺激の刺激電流値を短時間で取得することが可能となる。
【0083】
また、本実施形態に係るキャリブレーション処理方法は、電流値可変処理として、所定の刺激タイミングで所定のステップ電流値分を増加させる第1の電流値可変処理又は刺激タイミングでステップ電流値分を減少させる第2の電流値可変処理の何れかの処理を決定する処理と、刺激電流の最大となる値よりも低く設定される初期刺激電流値を開始時の刺激電流値とし、決定された電流値可変処理でステップ電流値分だけ刺激電流値を可変させる前の刺激電流値となる第1の刺激電流値の電気刺激による筋の刺激反応に基づく電気信号の振幅のピーク値を第1のピーク値として検出する処理と、決定された電流値可変処理に基づき、第1の刺激電流値の刺激タイミングの次の刺激タイミングで、第1の刺激電流値からステップ電流値分だけ可変した第2の刺激電流値の電気刺激による筋の刺激反応に基づく電気信号の振幅のピーク値を第2のピーク値として検出する処理と、第1のピーク値と、第2のピーク値との比較結果に基づいて被検者の最大刺激の刺激電流値を検出して、被検者の最大刺激の刺激電流値にステップ電流値分を増加させた刺激電流値を、被検者の最大上刺激の刺激電流値として取得する処理と、を含む。
【0084】
この方法では、初期刺激電流値が刺激電流の最大となる値よりも低く設定されているため、被検者の負担を軽減しつつ、最大上刺激の刺激電流値を短時間で取得することが可能となる。
【0085】
なお、上述した本実施形態において、筋弛緩監視装置1として被検者の筋電位に基づいて手術中の筋弛緩状態又は覚醒状態を監視する電位感知型筋弛緩モニタを使用した実施形態について説明したが、被検者の最大上刺激の刺激電流値を取得するキャリブレーション処理が実施される筋弛緩モニタであれば、特に限定されない。筋弛緩監視装置1の他の形態としては、例えば加速度トランスデューサを使用する加速度感知型筋弛緩モニタ(acceleromyography:AMG)のような、観察部位となる筋の筋収縮状態を逐次観測して被検者の筋弛緩状態が客観的に監視可能な装置としてよい。
【0086】
また、上述した本実施形態において、筋弛緩監視装置1の入出力部2、キャリブレーション処理部3、刺激モード設定部4、刺激発生部5、反応検出部6、操作部7、制御部8及び記憶部9は、それぞれ筋弛緩監視装置1に備えられるものとしたが、これに限定されず、上記それぞれの構成又は一部の構成を、筋弛緩監視装置1に接続される生体情報モニタ100、その他の医療機器などに備えてもよい。
【0087】
また、上述した本実施形態において、初期刺激電流の設定方法として、被検者情報に基づいて医療従事者などの本装置の使用者が設定する構成で説明したが、例えば被検者情報に基づいて被検者に適切な初期刺激電流値を自動で設定する構成としてよい。
【0088】
また、上述した本実施形態において、初期刺激電流値は予め設定された機器設定上の最大となる刺激電流値(例えば60mA)よりも低い電流値とするものとしたが、初期刺激電流値は機器設定上の最大となる電流値に限らず、使用者や機器側で任意に設定された刺激電流値の範囲において最大となる刺激電流値よりも低い電流値としてもよい。
【0089】
また、上述した本実施形態において、筋弛緩監視装置1の入出力部2は、筋弛緩監視装置1で取得した刺激反応値を接続先となる生体情報モニタ100の画面上に表示する形態で説明したが、これに限定されない。刺激反応値の表示先としては、筋弛緩監視装置1に刺激反応値を表示することが可能な表示部を備えた構成としてよい。さらに、刺激反応値の表示先を、筋弛緩監視装置1とは別体の表示機器(例えば、有機又は無機ELディスプレイ、液晶ディスプレイのような表示機器、スマートフォン又はタブレット端末のような携帯端末など)としてもよい。
【符号の説明】
【0090】
1 筋弛緩監視装置
2 入出力部
3 キャリブレーション処理部
4 刺激モード設定部
5 刺激発生部
6 反応検出部
7 操作部
8 制御部
9 記憶部
10 刺激電極部(10a、10b 刺激電極)
20 検出電極部(20a、20b 検出電極)
100 生体情報モニタ