(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】モータ用ステータのモールド型の製造方法及びモータ用ステータのモールド型
(51)【国際特許分類】
H02K 15/12 20060101AFI20240105BHJP
B29C 33/38 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
H02K15/12 E
B29C33/38
(21)【出願番号】P 2019202234
(22)【出願日】2019-11-07
【審査請求日】2022-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003115
【氏名又は名称】東洋電機製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】藤原 謙二
(72)【発明者】
【氏名】岡本 吉弘
(72)【発明者】
【氏名】大場 宏明
(72)【発明者】
【氏名】岩本 友也
(72)【発明者】
【氏名】岡本 協司
【審査官】津久井 道夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-023387(JP,A)
【文献】特開2017-209876(JP,A)
【文献】特開2018-133983(JP,A)
【文献】実開昭60-055249(JP,U)
【文献】特開2002-084699(JP,A)
【文献】特開2014-227596(JP,A)
【文献】特開2004-064895(JP,A)
【文献】特開2018-046710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/12
B29C 33/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の環状の電磁鋼板を積層して形成されたコアと、このコアの内周部に所定間隔で形成された複数のスロットに巻回されたコイルと、コアが内嵌される筒状のフレームとを備えるモータ用ステータに対して、少なくともコアとコイルとの間の隙間に絶縁性樹脂を注入して硬化させるモールド成形を行う際に用いられるモータ用ステータのモールド型の製造方法であって、
モールド型は、長尺で円筒状
であり、且つ長さがフレームの長さよりも長い胴部と、この胴部の長手方向一端から外方に延在する鍔部とを備え、中空部を有し、胴部が上向きとなるように鍔部が水平に配置され、胴部がモータ用ステータのコアに内挿されると共に、フレームの長手方向一端が鍔部上に載置され、モールド型とモータ用ステータとの間には、フレームの長手方向の上端部及び下端部の夫々に絶縁性樹脂が充填されるキャビティが形成されるものにおいて、
モールド型の胴部の外周面をショットピーニングした後、無電解めっきすることを特徴とするモータ用ステータのモールド型の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のモータ用ステータのモールド型の製造方法によって製造され、前記胴部のショットピーニングされた外周面に無電界めっきによるめっき層が形成されていることを特徴とするモータ用ステータのモールド型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数枚の環状の電磁鋼板を積層して形成されたコアと、このコアの内周部に所定間隔で形成された複数のスロットに巻回されたコイルとを備えるモータ用ステータに対して、少なくともコアとコイルとの間の隙間に絶縁性樹脂を注入して硬化させるモールド成形を行う際に用いられるモータ用ステータのモールド型の製造方法と、この製造方法によって製造されるモータ用ステータのモールド型とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータ用ステータをモールド成形する際に、長尺の胴部と、この胴部の長手方向一端から外方に延在する鍔部とを備えるモールド型が用いられることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
モータ用ステータのモールド成形時には、モータ用ステータのコアを筒状のフレームに内嵌させた状態で、コアにモールド型の胴部を内挿してフレームの長手方向一端を鍔部に重合させる。次いで、モールド型とフレームとの間に形成されるキャビティ内に溶融した絶縁性樹脂を注入して充填し、充填した絶縁性樹脂を加熱して硬化させる。絶縁性樹脂の硬化後、モールド型から抜き取って、モールド成形されたモータ用ステータを得る。
【0004】
然し、コアを形成する各電磁鋼板の内径のサイズには公差に起因するばらつきがあるため、コアの内周部の径方向のサイズは、モータ用ステータの長手方向に亘って均等であることは稀である。また、絶縁性樹脂は、コアのスロット内等を介してモータ用ステータの長手方向の一端から他端まで注入されるため、キャビティやスロット内等で硬化した絶縁性樹脂の内周面の一部はモールド型の胴部の外周面に密接する。
【0005】
従って、コアにモールド型の胴部を内挿したり、モールド成形後にモータ用ステータをモールド型から抜き取ったりする際に、モールド型の胴部の外周面が、コアの内周部又は硬化した絶縁性樹脂の内周部の少なくとも一方の一部と擦れて、モールド型の胴部に摩損が生じる。このため、現状、モータ用ステータのモールド型は、繰返しの使用に十分耐えるものにはなっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の点に鑑み、モータ用ステータのモールド成形での繰返しの使用に十分耐え得るモータ用ステータのモールド型の製造方法と、この製造方法によって製造されるモータ用ステータのモールド型を提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のモータ用ステータのモールド型の製造方法は、複数枚の環状の電磁鋼板を積層して形成されたコアと、このコアの内周部に所定間隔で形成された複数のスロットに巻回されたコイルと、コアが内嵌される筒状のフレームとを備えるモータ用ステータに対して、少なくともコアとコイルとの間の隙間に絶縁性樹脂を注入して硬化させるモールド成形を行う際に用いられるモータ用ステータのモールド型の製造方法であって、モールド型は、長尺で円筒状であり、且つ長さがフレームの長さよりも長い胴部と、この胴部の長手方向一端から外方に延在する鍔部とを備え、中空部を有し、胴部が上向きとなるように鍔部が水平に配置され、胴部がモータ用ステータのコアに内挿されると共に、フレームの長手方向一端が鍔部上に載置され、モールド型とモータ用ステータとの間には、フレームの長手方向の上端部及び下端部の夫々に絶縁性樹脂が充填されるキャビティが形成されるものにおいて、モールド型の胴部の外周面をショットピーニングした後、無電解めっきすることを特徴とする。
【0009】
また、本発明のモータ用ステータのモールド型は、モータ用ステータのモールド型の上記製造方法によって製造され、上記胴部のショットピーニングされた外周面に無電界めっきによるめっき層が形成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明のモータ用ステータのモールド型の製造方法及びモータ用ステータのモールド型によれば、モールド型の胴部の外周部がショットピーニングによって加工硬化すると共に、耐摩擦性が向上する。また、ショットピーニングの際の圧縮応力がモールド型の胴部の外周部に残留するため、モールド型の胴部の外周部の疲労強度が高くなる。更に、モールド型の胴部の外周面は微細な凹凸が形成されたものになるため、モールド型の胴部のショットピーニングされた外周面に無電界めっきによって形成されるめっき層の密着性が向上し、めっき層の剥離等の不具合が生じ難くなる。そして、めっき層は、硬質であると共に、耐蝕性を有する。従って、コアにモールド型の胴部を内挿したり、モールド成形後にモータ用ステータをモールド型から抜き取ったりする際に、モールド型の胴部のショットピーニングされた外周面に形成されためっき層が、コアの内周部又は硬化した絶縁性樹脂の内周部の少なくとも一方の一部と擦れても、モールド型の胴部の摩損が抑制される。このため、モータ用ステータのモールド型は、モールド成形で繰返しの使用に十分耐え得るものになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のモータ用ステータのモールド型の一実施形態の斜視図。
【
図2】(a)(b)は、夫々、モールド成形時の状態の概略断面図、モータ用ステータをモールド型から抜き取る際の概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1を参照して、本実施形態のモータ用ステータのモールド型1を説明する。モールド型1は、中空な金型であり、長尺で円筒状の胴部11と、胴部11の長手方向一端から外方に延在する鍔部12とを備えている。モールド型1の中空部1aには、モールド成形後に空気等の冷媒が流通され、冷媒によってモータ用ステータをモールド型1と共に冷却できるようになっている。
【0013】
モールド型1の胴部11及び鍔部12は共に金属製であり、例えば、アルミニウムのダイカストによって一体に成形することができる。また、胴部11では、
図1中の点線円内に要部断面を示すように、外周面11aがショットピーニングされている。ショットピーニングは、多数の金属製等の球体を高速で金属製品の表面に衝突させる金属加工法である。上記球体の衝突時に金属製品の被衝突部には、塑性変形による凹部が形成され、金属製品の表面は微細な凹凸が形成されたものになる。一方、凹部での塑性変形は、被衝突部以外の部分や凹部よりも表面部の内側に位置する部分により拘束されて、被衝突部には圧縮残留応力が発生する。この結果、ショットピーニング後の金属製品の被衝突部は、塑性変形に伴う金属組織の変化によって硬化すると共に、耐摩擦性が高くなる。また、圧縮応力の残留によって疲労強度が高くなる。従って、モールド型1の胴部11の外周部11bは、従来品と比較して耐摩擦性及び疲労強度が高くなっている。
【0014】
更に、モールド型1では、胴部11のショットピーニングされた外周面11aが無電界めっきされている。無電界めっきは、被めっき物をめっき液に浸漬し、めっき液に含まれる還元剤の酸化により放出される電子によって被めっき物の表面に皮膜を析出させるめっき法である。析出する皮膜であるめっき層11cは硬質であると共に、耐蝕性を有する。また、モールド型1の胴部11のショットピーニングされた外周面11aは微細な凹凸が形成されたものであるため、めっき層11cの密着性が向上し、めっき層11cの剥離等の不具合が生じ難くなっている。尚、めっき層11cを形成する主成分としてはニッケルが好ましく例示される。
【0015】
このようなモータ用ステータのモールド型1は、胴部11の外周面11aをショットピーニングした後、無電界めっきして製造される。無電界めっきとしては、無電解ニッケルめっき等が例示される。
【0016】
次に、
図2(a)(b)を参照して、
図1に示すモールド型1を用いたモータ用ステータ2のモールド成形を説明する。モータ用ステータ2では、コア21が、筒状のフレーム22に焼嵌め等により内嵌され、コイル23は、コア21の内周部に所定間隔で形成された複数のスロット21aに巻回されている。モールド成形に際し、モールド型1は、胴部11が上向きとなるように鍔部12を水平に配置され、モータ用ステータ2のコア21にモールド型1の胴部11を内挿してフレーム22の長手方向一端をモールド型1の鍔部12上に載置する(
図2(a))。モールド型1の胴部11の長さはフレーム22の長さよりも長く、モールド型1とモータ用ステータ2との間には、絶縁性樹脂3を充填するキャビティ4a,4bが、フレーム22の長手方向の上端部及び下端部の夫々に形成される。
【0017】
そして、モータ用ステータ2のコイル23に交流電源(図示省略)から交流電流を通電してコイル23を発熱させ、その熱をコア21及びフレーム22と共にモールド型1に伝導させる等して予熱した後、モールド成形を行う。モールド成形時には、溶融した絶縁性樹脂3をフレーム22の長手方向の上端部に位置するキャビティ4aから注入して、絶縁性樹脂3をキャビティ4aに充填すると共に、スロット21a内のコア21とコイル23との間の隙間、コイル23を形成する導体間の隙間等を介して、フレーム22の長手方向の下端部に位置するキャビティ4bにも充填する。この後、予熱と同様にして、モータ用ステータ2をモールド型1と共に加熱し、絶縁性樹脂3を硬化させる。
【0018】
絶縁性樹脂3の硬化後、モールド型1の中空部1aに空気等の冷媒を流通させ、また、必要に応じてフレーム22の外周面にも空気等の冷媒を吹き付ける等して、モータ用ステータ2をモールド型1と共に冷却する。次いで、モールド成形されたモータ用ステータ2を上方に引き上げて、モールド型1から抜き取る(
図2(b))。
【0019】
ところで、上記の如く、モータ用ステータ2のコア21を形成する各電磁鋼板の内径のサイズには公差に起因するばらつきがあり、コア21の内周部の径方向のサイズは、モータ用ステータ2の長手方向に亘って均等であることは稀である。また、絶縁性樹脂3は、キャビティ4a及びコア21のスロット21a内等を介してキャビティ4bにも充填されるため、硬化した絶縁性樹脂3の内周部の一部は、
図1に示す、モールド型1の胴部11のショットピーニングされた外周面11aに形成されためっき層11cの外周面11dに密接する。
【0020】
然し、本実施形態のモールド型1では、上記の如く、胴部11の外周部11bはショットピーニングによって加工硬化していると共に、耐摩擦性が向上している。また、ショットピーニングの際の圧縮応力が胴部11の外周部11bに残留するため、胴部11の外周部11bの疲労強度が高くなっている。更に、モールド型1の胴部11の外周面11aには微細な凹凸が形成され、ショットピーニング後の胴部11の外周面11aに無電界めっきによって形成されるめっき層11cの密着性が向上し、めっき層11cの剥離等の不具合が生じ難くなっている。そして、めっき層11cは、硬質であると共に、耐蝕性を有する。従って、コア21にモールド型1の胴部11を内挿したり、モールド成形後にモータ用ステータ2をモールド型1から抜き取ったりする際に、モールド型1の胴部11のショットピーニングされた外周面11aに形成されためっき層11cが、コア21の内周部又は硬化した絶縁性樹脂3の内周部の少なくとも一方の一部と擦れても、モールド型1の胴部11の摩損が抑制される。このため、モータ用ステータ2のモールド型1は、モールド成形での繰返しの使用に十分耐え得るものになる。モールド型1の繰返しの使用が可能になることによって、モータ用ステータの製造コストの低減が図られる。
【0021】
以上、本発明を一実施形態に関して説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。モールド成形されたモータ用ステータ2は、モールド型1を引き下げてモールド型1から抜き取るようにしてもよい。また、モールド型1は、少なくとも胴部11及び鍔部12を備えていればよく、細部は適宜変更が可能である。更に、モールド型1を形成する金属はアルミニウムに限定されることはなく、同様に、無電界めっきによるめっき層11cの主成分もニッケルに限定されることはない。
【符号の説明】
【0022】
1…モールド型、11…胴部、11a…外周面、11c…めっき層、12…鍔部、2…モータ用ステータ、21…コア、21a…スロット、23…コイル、3…絶縁性樹脂。